説明

パルボウイルスの除去方法及び精製方法

【課題】 血液等の試料から、パルボウイルスを効率良く簡便に除去し又は精製することができる、パルボウイルスの除去方法及び精製方法を提供すること。
【解決手段】 血液中の成分を含む液体試料を、固相化シバクロンブルーと接触させる工程を含む、上記試料からのパルボウイルスの除去方法を提供した。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、パルボウイルスの除去方法及び精製方法に関する。
【0002】
【従来の技術】パルボウイルスとりわけヒトパルボウイルスB19は、直径20から25nmの小さなエンベローブを持たない正二十面体の蔗糖勾配遠心法では1.20〜1.22g/mlの比重を示す、ゲノムサイズ5.6Kbpの一本鎖DNAをもつウイルスである。このウイルスの感染で最も良く知られているのが伝染性紅斑である。これには主に5〜6歳の小児が罹患するが、成人での感染は典型的な臨床像を示さないと言われている。しかし、近年、慢性溶血性貧血患者が感染すると再生不良性貧血を引き起こしたり、妊婦が感染すると胎児水腫を引き起こすなどの報告がされ、更に、先天性および後天性免疫不全症候群あるいは免疫抑制剤投与患者では重症化することがあると報告され、注目された。
【0003】血液製剤の安全性確保のため、以前は問題視されなかったこのウイルスも除去の必要性に迫られるようになった。因みに、血液製剤、殊にアルブミン製剤、第VIII因子製剤、第IX因子製剤中のヒトパルボウイルスB19のDNAをPCR法で増幅し、調べたところ20%の割合で検出されたという報告もある。一般にエンベロープを持たないウイルスは、有機溶媒や熱に安定であると言われている。パルボウイルスはエンベロープを持たないウイルスである。そのため血漿製剤の製造工程で実施されているコーン分画や不活性化熱処理に対して抵抗性を示し、感染性を保持したまま血漿製剤中に混入する可能性がある。
【0004】一方、パルボウイルスに対するワクチンや医薬品を開発するためには、血液中に含まれるパルボウイルスを効率良く精製する必要がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、血液中には、多種多様な成分が含まれ、アルブミンや血液凝固因子等のように、常法であるゲルろ過クロマトグラフィーやイオン交換クロマトグラフィーではパルボウイルスと明瞭に分離することが困難な成分も含まれる。このため、血液等から常法によりパルボウイルスを除去し又は精製することは容易ではない。
【0006】従って、本発明の目的は、血液等の試料から、パルボウイルスを効率良く簡便に除去し又は精製することができる、パルボウイルスの除去方法及び精製方法を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】本願発明者は、鋭意研究の結果、パルボウイルスがシバクロンブルー(Cibacron Blue)と結合せず、一方、血液中の重要成分であるアルブミンや血液凝固因子等はシバクロンブルーに結合することを見出し、これを利用して血液試料からのパルボウイルスの除去及び精製が可能であることに想到し、本発明を完成した。
【0008】すなわち、本発明は、血液中の成分を含む液体試料を、固相化シバクロンブルーと接触させる工程を含む、上記試料からのパルボウイルスの除去方法を提供する。また、本発明は、血液中の成分を含む液体試料を、固相化シバクロンブルーと接触させる工程と、接触後の液からパルボウイルスを精製する工程とを含む、パルボウイルスの精製方法を提供する。
【0009】
【発明の実施の形態】本発明の除去方法及び精製方法に供される試料は、血液中の成分を含む液体試料であり、代表的な例として、全血、血漿、血清及び各種血液製剤を挙げることができる。なお、血液製剤が液状でない場合には、緩衝液等に溶解又は懸濁して液状試料として本発明の方法に供する。また、全血、血漿、血清等の液状試料も、必要に応じ、適宜希釈して本発明の方法に供してもよい。
【0010】本発明の除去方法及び精製方法は、いずれのパルボウイルスの除去又は精製に有効であり、特にヒトパルボウイルス、とりわけ、ヒトパルボウイルスB19、ヒトパルボウイルスRA−1又はアデノ髄半ウイルス等の除去又は精製に有効であるがこれらに限定されるものではない。
【0011】本発明の除去方法及び精製方法では、試料を、固相化シバクロンブルーと接触させる。シバクロンブルーを固相化する担体としては、架橋アガロース(例えばPharmacia Biotech社製Sepharose等)又は架橋セルロース(例えばMillipore社製Cellufine等)を好ましい例として挙げることができる。シバクロンブルーを固相化したクロマトグラフィー用担体自体は周知であり、市販もされている(Pharmacia Biotech社製Blue Sepharose、Brown社製Blue Cellulose、チッソ社製BlueCellufine等)。本発明では、これらの市販のシバクロンブルー固相化担体を好ましく用いることができる。シバクロンブルー固相化担体は、カラムに充填し、このカラムに試料を通すことが便利で好ましい。シバクロンブルー固相化担体を平衡化する緩衝液としては、pHが約7.0〜9.0程度、さらに好ましくは約8.0で、NaCl濃度が約0.1 M〜0.2 M程度、さらに好ましくは約0.15 M程度の緩衝液が好ましい。
【0012】本願発明者は、パルボウイルスがシバクロンブルーに結合しないことを見出し、一方、血液中の重要な成分であるアルブミンや血液凝固因子(血液凝固因子VIIIやIV等)はシバクロンブルーに結合するので、上記試料をシバクロンブルーと接触させることにより、従来の精製方法では効率良く分離することが困難であったパルボウイルスとアルブミンや血液凝固因子とを簡便に効率的に分離することが可能であることに想到した。なお、血液成分には、例えばグロブリンのようにシバクロンブルーと結合せずにパルボウイルスと同様に素通りする成分もあるが、少なくとも血液中の重要成分であるアルブミン及び血液凝固因子等はシバクロンブルーに吸着されるので、アルブミン製剤や血液凝固因子製剤を製造するための第1段階として本発明のパルボウイルスの除去方法を行うことにより、これらの血液製剤中へのパルボウイルスの混入を防止することができる。また、製造されたアルブミン製剤や血液凝固因子製剤等の血液製剤を本発明の除去方法に供することにより、血液製剤からパルボウイルスを除去することができる。なお、固相化シバクロンブルーに吸着されたアルブミンや血液凝固因子等は、所定の塩濃度の食塩水等を通過させることにより溶出して回収することができる。例えば、アブルミンは、約0.2 MのNaCl溶液で、血液凝固因子は約1MのNaCl溶液で溶出することができる。溶出されたアルブミンや血液凝固因子は、それぞれアルブミン製剤、血液凝固因子製剤として利用可能である。なお、シバクロンブルーに吸着されない、例えばグロブリンのような血液成分も回収したい場合には、シバクロンブルー固相化担体を素通りした画分をさらに精製することによりパルボウイルスと血液成分とを分離することができ、分離された血液成分を回収することにより、パルボウイルスを除去することができる。この分離方法については後述するパルボウイルスの精製方法の説明の部分に記載する。以上のようにして、上記試料からパルボウイルスを除去することができ、パルボウイルスを除去した試料は、上記のように回収して利用することができる。
【0013】本発明のパルボウイルスの精製方法では、上記のように固相化シバクロンブルーと接触させた試料の素通り画分からパルボウイルスを精製する。固相化シバクロンブルーとの接触により、素通り画分には、パルボウイルスと容易に分離することができないアルブミンや血液凝固因子が既に除去されているので、素通り画分からのパルボウイルスの精製は、陰イオン交換クロマトグラフィーや陽イオン交換クロマトグラフィーのようなイオン交換クロマトグラフィーやゲルろ過クロマトグラフィーのような公知の精製方法により行うことができる。
【0014】本願発明者は、陰イオン交換クロマトグラフィーにより、特に高純度にパルボウイルスを精製することができることを見出した。従って、固相化シバクロンブルーと接触させた後の素通り画分は陰イオン交換クロマトグラフィーにかけることが好ましい。陰イオン交換クロマトグラフィーとしては、ジエチルアミノ基、第四級アミノエチル基又は第四級アンモニウム基を有する担体が好ましく、担体としては、架橋アガロースゲル(例えばPharmacia Biotech社製Sepharose)や架橋デキストラン(例えばPharmacia Biotech社製Sephadex)が好ましい。上記の陰イオン交換基が結合したこれらの担体は、陰イオン交換カラムクロマトグラフィー用担体としてPharmacia Biotech社等から市販されているので、このような市販の陰イオン交換カラムクロマトグラフィー用担体を好ましく用いることができる。陰イオン交換担体を平衡化する緩衝液としては、pHが約7.0〜9.0程度、さらに好ましくは約8.0で、NaCl濃度が約0.1 M〜0.2 M程度、さらに好ましくは約0.15M程度の緩衝液が好ましい。
【0015】陰イオン交換担体からの溶出は、塩濃度又は酸濃度の直線勾配で行うことができる。例えば、食塩の場合、溶出操作は、0.1 M〜1.5 Mの直線勾配で行うことができ、パルボウイルスは、約0.25 Mの画分中に回収される。
【0016】パルボウイルスをさらに高純度に精製したい場合には、陰イオン交換カラムクロマトグラフィーから得られたパルボウイルス含有画分をさらにゲルろ過クロマトグラフィーにかけることが好ましい。ゲルろ過用担体としては、公知のいずれのものを用いてもよく、好ましい例として、架橋アガロースゲル(例えばPharmacia Biotech社製Sepharose等)、架橋アリルデキストラン(例えばPharmacia Biotech社製Sephacryl等)、ポリメタクリレート等を挙げることができる。これらのうち、架橋アガロースゲルが分離特性の点で特に好ましい。ゲルろ過クロマトグラフィー自体は、周知の方法により行うことができる。
【0017】なお、精製されるパルボウイルスの抗原性及びウイルス活性に悪影響を与えない限り、透析や塩析等の他の精製方法やさらなるクロマトグラフィー等を追加してもよい。もっとも、このような追加的な操作は特に必要ではなく、固相化シバクロンブルーと接触後の素通り画分を上記陰イオンクロマトグラフィーにかける時も素通り画分をそのまま、すなわち、透析、塩析、緩衝液置換等の操作を行うことなく陰イオンクロマトグラフィーにかけることが好ましい。
【0018】本発明のパルボウイルスの精製方法によれば、パルボウイルスの抗原性及びウイルス活性を維持したままパルボウイルスを精製することができ、ワクチンや医薬の製造、開発に有用である。
【0019】
【実施例】以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0020】実施例1ヒトパルボウイルスB19 陽性血漿(ウイルス感染価106TCID50/ml) を、シバクロンブルーをセファロース担体( 粒径100nm)に担持したブルーセファロースCL-6B(Amersham Pharmacia Biotech 社製) に通した。この際カラムは緩衝液(0.15MNaClを含む10mM Tris-HCl,pH8.0)で平衡化しておいた。ウイルスは素通り画分り回収できた。
【0021】次いで、同じ緩衝液で平衡化したDEAE- セファロースCL-6B (Amersham Pharmacia Biotech社製、粒径100nm)に通した。ウイルスは、吸着された。素通り画分中にウイルスは見いだされなかった。
【0022】実施例2ウイルスが吸着されたDEAE- セファロースCL-6B (Pharmacia Biotech社製)カラムを実施例1で用いた緩衝液で洗浄後、食塩水濃度を0.15から1.0Mのリニアグラジエントで溶出した。ウイルス画分を濃縮後TSK-ゲルG6000PWXL (東ソー社製)を使用し、濾過した。本濾過によりヒトパルボウイルスB19 が単一ピークとして溶出され、ウイルス感染価も確認された。
【0023】実施例3(ウイルス感染価の確認)
100 μl の培地にパルボウイルスに感受性を高めた細胞株KU812Ep6(KU812)は理化学研究所細胞銀行より購入、EPO 中でクローニングしたもの)1x104cell/mlを48ウエルプレートに接種した後、実施例2で精製されたヒトパルボウイルスB19 液100 μlを接種した。2時間インキュベートした後、300 μl の培地を添加し、37℃、5%CO2下で培養を開始した。3日後、1mlの培地を添加し、7日目に培養を中止し、感染を間接蛍光抗体法により測定した。細胞をスライドグラスに点着し、メチルアルコールで固定した。それにヒトパルボウイルスB19 の構成蛋白に対するモノクローナル抗体(Chemicon International Inc.製) を反応させ、洗浄後、蛍光色素標識抗マウス抗体(TAGO Inc.製) を反応させた。蛍光色素に染色されたヒトパルボウイルスB19 感染細胞を蛍光顕微鏡で観察した。感染価はReedとMuenchの方法(Am.J.Hyg.,27,493-497(1983))に従い求めた。その結果、感染価は106〜109の範囲であった。
【0024】
【発明の効果】以上のように、本発明によれば、血液又は血液由来試料からパルボウイルスを簡便に効率良く除去できる。これにより、血液製剤の原料や血液製剤からパルボウイルスを簡便に効率良く除去することが可能になった。また、本発明によれば、パルボウイルスの抗原性及びウイルス活性を維持したままパルボウイルスを精製することが可能になった。従って、本発明は、パルボウイルスに対するワクチンや医薬の製造、開発に大いに寄与する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 血液中の成分を含む液体試料を、固相化シバクロンブルーと接触させる工程を含む、上記試料からのパルボウイルスの除去方法。
【請求項2】 前記試料は、アルブミン及び/又は血液凝固因子を含む請求項2記載の方法。
【請求項3】 前記試料は、全血、血漿、血清又は血液製剤である請求項1記載の方法。
【請求項4】 前記パルボウイルスがヒトパルボウイルスである請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】 前記ヒトパルボウイルスが、ヒトパルボウイルスB19、ヒトパルボウイルスRA−1又はアデノ髄半ウイルスである請求項4記載の方法。
【請求項6】 シバクロンブルーを固相化する担体が架橋アガロース又は架橋セルロースである請求項1ないし5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】 試料を、固相化シバクロンブルーと接触させた後の液を、さらなる分離操作に付す請求項1ないし6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】 前記分離操作は、イオン交換クロマトグラフィー又はゲルろ過クロマトグラフィーである請求項7記載の方法。
【請求項9】 前記イオン交換クロマトグラフィーは、陰イオン交換クロマトグラフィーである請求項8記載の方法。
【請求項10】 血液中の成分を含む液体試料を、固相化シバクロンブルーと接触させる工程と、接触後の液からパルボウイルスを精製する工程とを含む、パルボウイルスの精製方法。
【請求項11】 前記接触後の液からパルボウイルスを精製する工程は、イオン交換クロマトグラフィー及び/又はゲルろ過クロマトグラフィーにより行われる請求項10記載の方法。
【請求項12】 前記イオン交換クロマトグラフィーは、陰イオン交換クロマトグラフィーである請求項11記載の方法。
【請求項13】 前記陰イオン交換クロマトグラフィーに用いられる陰イオン交換担体が、ジエチルアミノ基、第四級アミノエチル基又は第四級アンモニウム基を有する架橋アガロースゲル又は架橋デキストランである請求項12記載の方法。
【請求項14】 前記陰イオン交換クロマトグラフィーの後、パルボウイルス含有画分をゲルろ過クロマトグラフィーにかける工程をさらに含む請求項12又は13記載の方法。
【請求項15】 シバクロンブルーを固相化する担体が架橋アガロース又は架橋セルロースである請求項10ないし14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】 前記試料は、全血、血漿、血清又は血液製剤である請求項10ないし15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】 前記パルボウイルスがヒトパルボウイルスである請求項10ないし16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】 前記ヒトパルボウイスルがヒトパルボウイルスB19、ヒトパルボウイルスRA−1又はアデノ髄半ウイルスである請求項17記載の方法。

【公開番号】特開2002−104978(P2002−104978A)
【公開日】平成14年4月10日(2002.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−289701(P2000−289701)
【出願日】平成12年9月25日(2000.9.25)
【出願人】(000237204)富士レビオ株式会社 (11)
【Fターム(参考)】