説明

パンクシーリング剤収容容器

【課題】低温環境下での耐衝撃性およびパンクシーリング剤の長期保存安定性に優れたパンクシーリング剤収容容器を提供する。
【解決手段】壁面に積層構造を有する容器本体2を備え、前記壁面は少なくとも内層2iと中層2mと外層2oとを含み、前記内層2iおよび前記外層2oはポリプロピレンとエチレン−プロピレン共重合体との共重合体を含み、前記中層2mはエチレン−ビニルアルコール共重合体を含むパンクシーリング剤収容容器である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパンクシーリング剤収容容器に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤ(以下、単に「タイヤ」という。)にパンクが発生した際に、バルブ等からタイヤ内に注入されパンク発生箇所を内側からシールするパンクシーリング剤が開発されている。一般に、パンクシーリング剤は液状であり、パンクシーリング剤を圧力でタイヤに導入するポンプアップ装置に結合可能な収容容器に充填されて用いられることが多い。
【0003】
パンクシーリング剤収容容器には、種々の性能が要求される。まず、ポンプアップ装置の圧力に耐えられる耐圧性が要求される。
また、高温にさらされる車内に保管されたり、パンク修理時に日光で熱くなった路面上に置かれることがあるため、高温で容器が軟化して、外力により変形したり、ポンプアップ装置からの圧力により破損することがないよう、高温下の耐圧性と耐衝撃性が求められる。一方、氷点下数十度にもなる極寒地では、パンクシーリング剤収容容器が硬くなり落下した場合に破損し易いため、低温下の耐衝撃性も求められる。
さらに、パンクシーリング剤が酸化劣化しないように、酸素非透過性ないし空気非透過性が要求される。パンクシーリング剤の耐用年数は、従来4〜5年であるが、自動車の一般的な耐用年数(約10年)と同程度かそれ以上であることが望ましい。
【0004】
上記のような性能が要求されるパンクシーリング剤収容容器の製造には、加工が容易な樹脂が用いられている。例えば、樹脂を3層の積層体に成形した収容容器であって、内層および外層をポリエチレンで成形し、中層をエチレン・ビニルアルコール共重合体で成形したものが開示されている(例えば、特許文献1参照)。このパンクシーリング剤の収容容器によれば、ガスバリア性を発揮しパンクシーリング剤の品質を長期間維持できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−26217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載のパンクシーリング剤収容容器は、−40℃の環境下では、例えば、地上20cmの高さから落下した場合に破損する場合があり、パンクシーリング剤が漏れ出すことがあった。このように、低温環境下での耐衝撃性と、パンクシーリング剤の長期保存安定性とを備えたパンクシーリング剤収容容器は、未だ実現されていないのが実情である。
【0007】
したがって、本発明の課題は、低温環境下での耐衝撃性およびパンクシーリング剤の長期保存安定性に優れたパンクシーリング剤収容容器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための具体的手段は、以下のとおりである。
<1> 壁面に積層構造を有する容器本体を備え、前記壁面は少なくとも内層と中層と外層とを含み、前記内層および前記外層はポリプロピレンとエチレン−プロピレン共重合体との共重合体を含み、前記中層はエチレン−ビニルアルコール共重合体を含むパンクシーリング剤収容容器。
<2> 前記中層に含まれるエチレン−ビニルアルコール共重合体の引張弾性率が2000MPa以上である<1>に記載のパンクシーリング剤収容容器。
<3> 前記中層に含まれるエチレン−ビニルアルコール共重合体のガラス転移温度が55℃以上である<1>または<2>に記載のパンクシーリング剤収容容器。
【0009】
<4> 前記内層および前記外層に含まれるポリプロピレンとエチレン−プロピレン共重合体との共重合体は、結晶性ポリプロピレン構造部位と非晶性エチレン−プロピレン共重合構造部位とを含み、前記非晶性エチレン−プロピレン共重合構造部位を分散相とした海島構造を有する樹脂である<1>〜<3>のいずれか1つに記載のパンクシーリング剤収容容器。
<5> 前記樹脂は、結晶性ポリプロピレンと非晶性エチレン−プロピレン共重合体とのブロック共重合体である<4>に記載のパンクシーリング剤収容容器。
<6> 前記非晶性エチレン−プロピレン共重合体のガラス転移温度がマイナス40℃以下である<5>に記載のパンクシーリング剤収容容器。
<7> 前記ブロック共重合体中の結晶性ポリプロピレンの結晶化度が55%以上90%以下である<5>または<6>に記載のパンクシーリング剤収容容器。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、低温環境下での耐衝撃性およびパンクシーリング剤の長期保存安定性に優れたパンクシーリング剤収容容器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のパンクシーリング剤収容容器の一実施例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<パンクシーリング剤収容容器>
本発明のパンクシーリング剤収容容器は、壁面に積層構造を有する容器本体を備え、前記壁面は少なくとも内層と中層と外層とを含み、前記内層および前記外層はポリプロピレンとエチレン−プロピレン共重合体との共重合体(「PP/EPR」とも称する。)を含み、前記中層はエチレン−ビニルアルコール共重合体(「EVOH」とも称する。)を含む。
パンクシーリング剤収容容器を上記構成とすることで、低温環境下での耐衝撃性およびパンクシーリング剤の長期保存安定性に優れた容器とすることができる。
【0013】
本発明のパンクシーリング剤収容容器は、壁面で囲まれた内側にパンクシーリング剤を収容する容器本体を備える。前記容器本体は、例えば、円筒形状や四角筒形状のボトル形状に構成することができる。前記壁面は、積層構造を有し、少なくとも内層と中層と外層とを含む。
前記内層は、最内層でもよく、前記内層よりも内側に1層または複数層の他の層が有ってもよい。また、前記外層は、最外層でもよく、前記外層よりも外側に1層または複数層の他の層が有ってもよい。
前記中層は、前記内層と前記外層との間に有ればよく、前記中層と前記内層の間に1層または複数層の他の層が有ってもよく、前記中層と前記外層の間に1層または複数層の他の層が有ってもよい。
【0014】
パンクシーリング剤収容容器は、高温環境下から低温環境下の広い温度範囲において、圧力に対応可能な、強固な性質であると共に、容器の落下等の外力を吸収し得る耐衝撃性を併せ持つことが要求される。
本発明のパンクシーリング剤収容容器は、容器本体の壁面が内層、中層および外層の少なくとも3層を有することで、機械的強度に優れ、耐圧性を発揮できる。また、内層および外層がPP/EPRを含むことにより、低温環境下での耐衝撃性に優れる。
さらに、本発明のパンクシーリング剤収容容器は、中層がガスバリア性を有するEVOHを含むことにより、酸素ないし空気を遮断してパンクシーリング剤の酸化劣化を防ぐことが可能となり、パンクシーリング剤の長期保存安定性に優れる。
【0015】
本発明のパンクシーリング剤収容容器は、例えば、図1に示すような構成とすることができる。
図1に示されるパンクシーリング剤収容容器1は、ボトル状の容器本体2と、ガス導入部3と、栓バルブ4と、出口バルブ5とを有している。ガス導入部3は、栓バルブ4で閉止でき、栓バルブ4には、圧力源となるエアコンプレッサに接続するホースの一端が接続される。出口バルブ5には、タイヤバルブに接続するホースの一端が接続される。
容器本体2は、壁面が内層2iと中層2mと外層2oとを有する。図1に示されるパンクシーリング剤収容容器1において、内層2iは、容器本体2にパンクシーリング剤が収容されたときパンクシーリング剤と接触する最内層であり、外層2oは、外気と接する最外層である。また、中層2mは、内層2i及び外層2oと接している。
【0016】
(内層および外層)
本発明のパンクシーリング剤収容容器において、容器本体の壁面が有する内層および外層は、ポリプロピレンとエチレン−プロピレン共重合体との共重合体(PP/EPR)を含む。
本発明において、内層と外層とは、同じPP/EPRを含んでいてもよく、異なるPP/EPRを含んでいてもよく、生産性の観点からは同じ樹脂を含むことが好ましい。
【0017】
従来からパンクシーリング剤収容容器の材料として用いられてきたポリプロピレンは、融点(「Tm」とも称する。)が160℃前後であるので、高温下の耐圧性に優れる。しかし、ガラス転移温度(「Tg」とも称する。)が10℃前後であることから、低温下の柔軟性が低いため、低温下の耐衝撃性は、特に−20℃以下において低い。
本発明のパンクシーリング剤収容容器は、内層および外層にPP/EPRを含むことにより、ポリプロピレンの有する高温下の耐圧性を発揮しつつ、エチレン−プロピレン共重合体の有する柔軟性により、低温下の耐衝撃性を向上させると考えられる。
【0018】
本発明において、内層および外層に含まれるPP/EPRとしては、ポリプロピレンと(PP)とエチレン−プロピレン共重合体(EPR)の共重合比率は特に制限されない。PPとEPRは、常法により合成可能であり、また、市販品として入手可能である。
【0019】
本発明において、内層および外層に含まれるPP/EPRは、結晶性ポリプロピレン構造部位と非晶性エチレン−プロピレン共重合構造部位とを含む樹脂であることが好ましい。
本発明において、「結晶性ポリプロピレン構造部位」とは、結晶質のポリプロピレンの繰り返し単位の部位を表し、「結晶性ポリプロピレン構造部位」を有する化合物は、結晶性ポリプロピレンであってもよいし、当該部位、および、他の繰り返し単位からなる部位を同一分子内に含む共重合体であってもよい。
また、「非晶性エチレン−プロピレン共重合構造部位」とは、非晶質であり、かつ、エチレンの繰り返し単位とプロピレンの繰り返し単位とを有する部位を表す。「非晶性エチレン−プロピレン共重合構造部位」を有する化合物は、非晶性エチレン−プロピレン共重合体であってもよいし、当該部位、および、他の繰り返し単位からなる部位を同一分子内に含む共重合体であってもよい。
【0020】
結晶性ポリプロピレン構造部位は、前述のポリプロピレンの有する耐圧性を発現し得る部位である。他方、非晶性エチレン−プロピレン共重合構造部位は、エチレン−プロピレン共重合体がEPRゴム(エチレンプロピレンゴム)と称されるように、ゴム弾性を有する部位であり、柔軟性に優れる。したがって、非晶性エチレン−プロピレン共重合構造部位は、落下等に起因する外力を分散または吸収して耐衝撃性を発現し得る部位である。
内層および外層に含まれるPP/EPRが、結晶性ポリプロピレン構造部位と、非晶性エチレン−プロピレン共重合構造部位とを含むことにより、パンクシーリング収容容器が、高温環境下および低温環境下の広い温度範囲において、耐圧性および耐衝撃性をより良好に発現し得る。
【0021】
本発明において、内層および外層に含まれるPP/EPRは、結晶性ポリプロピレン構造部位を海部(連続相)とし、非晶性エチレン−プロピレン共重合構造部位を島部(分散相)とした海島構造を有することが好ましい。
一般に、海島構造を有する樹脂は、島部を構成する部位と、海部を構成する部位とが、両者の性質上なじみ難い場合、海部と島部との界面(海島界面)でクラックが発生し易い。このような樹脂は、耐衝撃性を十分に発現できないことがある。
これに対し、結晶性ポリプロピレン構造部位を海部、非晶性エチレン−プロピレン共重合構造部位を島部とするPP/EPRは、海部と島部が共にプロピレン由来の構造を有していることにより、島部を構成する部位と海部を構成する部位とがなじみ易く、海島界面でのクラックを生じにくい。したがって、内層および外層に含まれるPP/EPRが、結晶性ポリプロピレン構造部位を海部とし、非晶性エチレン−プロピレン共重合構造部位を島部とした海島構造を有する場合に、耐衝撃性がより向上し得る。
【0022】
本発明において、内層および外層に含まれるPP/EPRが海島構造を有する場合、内層および外層は、さらに、酸素非透過性をも発現し得ると考えられる。結晶性ポリプロピレンは、分子が規則正しく配列した結晶構造を有するため、酸素非透過性に優れ、酸素を透過し難い。したがって、酸素を透過し難い結晶性ポリプロピレン構造部位を連続相である海部とすることで、PP/EPRが酸素非透過性をも発現し得ると考えられる。
【0023】
なお、樹脂が海島構造を有することは、例えば、日立製作所社製の透過型電子顕微鏡(TEM;Transmission Electron Microscope)(型式;H−8100)、及び、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製の動的粘弾性測定装置(DMA;Dynamic Mechanical Analysis)(型式;Thermo Plus 2)により確認することができる。具体的には、次のようにして確認すればよい。
樹脂の海島構造の直接的観察としては、パンクシーリング剤収容容器から切り出した観察用サンプルを四酸化ルテニウムで染色した後、クライオウルトラミクロトームにより約100mm厚の超薄切片を作製し、その後にカーボン蒸着を施し、TEMで観察する。これにより、ゴム相が黒く、樹脂相が白く観察されるため、白い樹脂相を海部とし、黒いゴム相が島部として分散している様子を観察することができる。
【0024】
また、樹脂が海島構造を有する場合、樹脂の動的粘弾性にその特徴が顕著に表れることが知られている。そのため、動的粘弾性の特徴値の1つである動的損失正接(tanδ)を、DMA測定で確認することで、樹脂が海島構造を有することを確認することもできると考えられる。具体的には、次のようにして確認することが考えられる。
樹脂が海島構造を有する場合は、海部と島部と相ごとに異なるガラス転移温度Tgを有し(Tgが2つある)、樹脂が海島構造を有しない場合は、Tgは1つと考えられる。
測定対象の樹脂を加熱しながらDMA測定によりtanδを測定し、tanδを縦軸にとり、温度を横軸にとって測定値をプロットして、tanδ−温度曲線を得る。tanδ−温度曲線のピークの数は、樹脂のTgの数に相当する。したがって、tanδ−温度曲線のピークが1つの場合は、樹脂が海島構造を有しておらず、tanδ−温度曲線のピークが2つの場合は、樹脂が海島構造を有していると確認し得る。
【0025】
次に、樹脂が有するポリプロピレンの相(「PP相」とも称する。)が、海部を形成していることは、PP相の結晶化度(樹脂の結晶性ポリプロピレンの比率)から判断すればよい。結晶性ポリプロピレンは、PP相でのみ形成されると考えられる。したがって、結晶性ポリプロピレンの比率が樹脂全体の50%以上であるとき、樹脂中のPP相の比率は、エチレン−プロピレン共重合の相の比率以上であることを意味する。すなわち、結晶化度が50%以上である場合に、PP相が海部(連続相)を形成しているといえる。
上記結晶化度は、示差走査型熱量分析(DSC)装置〔理学電機社製、Thermo Plus2〕を用い、ペレット状の樹脂を、−60℃から220℃まで10℃/分で昇温することにより測定される値である。
【0026】
本発明において、内層および外層に含まれるPP/EPRは、結晶質のポリプロピレンの繰り返し単位と、非晶性エチレン−プロピレン共重合体の繰り返し単位との、少なくとも2つの繰り返し単位を同一分子内に有する共重合体であってよい。
以下、結晶質ポリプロピレンの繰り返し単位と、非晶性エチレン−プロピレン共重合体の繰り返し単位との、少なくとも2つの繰り返し単位を同一分子内に有する共重合体を、「特定共重合体」とも称する。
【0027】
−特定共重合体−
内層および外層に含まれるPP/EPRが、結晶質のポリプロピレンの繰り返し単位と、非晶性エチレン−プロピレン共重合体の繰り返し単位との、少なくとも2つの繰り返し単位を同一分子内に有する共重合体(特定共重合体)である場合には、特定共重合体は、本発明の効果を損なわない限度において、更に、他の繰り返し単位を同一分子内に含んでいてもよい。
他の繰り返し単位としては、機能性官能基(例えば、パンクシーリング剤を紫外線から守るための紫外線吸収機能を有するフェニルエステル基等)を有する繰り返し単位が挙げられる。また、他の繰り返し単位として、非晶性エチレン−プロピレン共重合体以外のプロピレン系共重合体(プロピレン由来の繰り返し単位を含む共重合体をいう。結晶性、非晶性を問わない)の繰り返し単位を含んでいてもよい。
【0028】
特定共重合体は、例えば、結晶性ポリプロピレンと、非晶性エチレン−プロピレン共重合体とを共重合することにより得ることができる。
結晶性ポリプロピレンと、非晶性エチレン−プロピレン共重合体とを共重合する際の共重合の形態は、ブロック共重合であることが好ましい。ブロック共重合とすることで、非晶性エチレン−プロピレン共重合体の繰り返し単位、すなわち、非晶性エチレン−プロピレン共重合構造部位を、特定共重合体分子中に、ブロック状に存在させ易く、島部とし易い。また、海島構造の共重合成分を、共有結合によるブロック共重合体という1つの分子鎖で固定することができるために、加工成形(例えば、ブロー成形)において、溶融状態の特定共重合体が延伸等の作用を受けた際にも、海島構造を損ない難い。
【0029】
特定共重合体中の結晶質のポリプロピレンの繰り返し単位、すなわち、結晶性ポリプロピレン構造部位の割合は、特定共重合体中のポリプロピレンの結晶化度に依存すると考えられる。すなわち、特定共重合体中のポリプロピレンの結晶化度が大きいほど、特定重合体中の結晶性ポリプロピレン構造部位の割合が大きい。
特定重合体(特にブロック共重合した特定重合体)中のポリプロピレンは、結晶化度が、55%〜90%であることが好ましい。特定重合体中のポリプロピレンの結晶化度の上限は80%であることが好ましく、下限は60%であることが好ましい。より好ましくは60%〜80%である。
【0030】
特定重合体中のポリプロピレンの結晶化度が55%以上であることで、酸素非透過性および耐圧性を発現し得る結晶性ポリプロピレン構造部位を連続相とし易いため、パンクシーリング剤収容容器の酸素非透過性と耐圧性をより向上し得る。その結果、収容容器を、ポンプアップ装置による圧力に耐える容器にすると共に、収容容器内に収容されるパンクシーリング剤の酸化劣化をより抑制することができ、パンクシーリング剤の保存安定性の観点からも好ましい。
一方、特定重合体中のポリプロピレンの結晶化度が90%以下であることで、特定重合体中の非晶性エチレン−プロピレン共重合構造部位の割合を確保し、したがって、非晶性エチレン−プロピレン共重合構造部位によるゴム弾性を発現し易く、パンクシーリング剤収容容器に柔軟性を持たせ易い。その結果、収容容器の落下等による外力に対して耐衝撃性を発現し易い。
特定重合体中の非晶性エチレン−プロピレン共重合構造部位の割合は、10%以上であることが好ましく、10〜40%がより好ましい。
【0031】
特定重合体中のポリプロピレンの結晶化度は、樹脂の海島構造の確認と同様に、示差走査型熱量分析(DSC)装置〔理学電機社製、Thermo Plus2〕を用い、ペレット状の重合体を、−60℃から220℃まで10℃/分で昇温することにより測定される値である。
【0032】
特定共重合体は、既述のように、結晶性ポリプロピレンと、非晶性エチレン−プロピレン共重合体とを共重合(好ましくはブロック共重合)することで得ることができる。
【0033】
−結晶性ポリプロピレン−
結晶性ポリプロピレンは、耐圧性の観点から、融点(Tm)が160℃〜180℃であることが好ましい。融点を上記範囲とすることで、実使用の環境温度の条件として想定し得る上限である60〜80℃付近まで材料の強度特性の低下を抑制することができ、その結果、パンクシーリング剤収容容器の耐圧性を向上させることができる。
【0034】
−非晶性エチレン−プロピレン共重合体−
非晶性エチレン−プロピレン共重合体は、柔軟性および耐衝撃性の観点から、ガラス転移温度(Tg)が、−40℃以下であることが好ましい。
特に、ガラス転移温度(Tg)が、−40℃以下であることで、極寒地での低温環境下で、パンクシーリング剤収容容器に柔軟性を持たせることができる。その結果、低温環境下でもより耐衝撃性に優れたパンクシーリング剤収容容器とすることができる。
非晶性エチレン−プロピレン共重合体のガラス転移温度(Tg)の下限は、−70℃であることが好ましく、より好ましくは−60℃である。非晶性エチレン−プロピレン共重合体のガラス転移温度(Tg)が、−70℃以上であることで、特定共重合体および特定樹脂組成物中の非晶性エチレン−プロピレン共重合構造部位が柔らかくなりすぎることを抑制し、パンクシーリング剤収容容器としての耐圧性が低下することを抑制することができる。
【0035】
なお、非晶性エチレン−プロピレン共重合体は、エチレン由来の共重合単位およびプロピレン由来の共重合単位以外の共重合単位を含んでいてもよいが、エチレン由来の共重合単位およびプロピレン由来の共重合単位以外の共重合単位の割合は、非晶性エチレン−プロピレン共重合体中、10モル%以下であることが好ましい。
【0036】
結晶性ポリプロピレン、非晶性エチレン−プロピレン共重合体、特定重合体および樹脂のガラス転移温度(Tg)および融点(Tm)は、各々ペレット状にしたものについて、特定重合体中のポリプロピレンの結晶化度測定に用いられる既述のDSC測定装置を用いて測定される。DSC測定における温度範囲は、−60℃〜220℃とする。
【0037】
(中層)
本発明のパンクシーリング剤収容容器において、容器本体の壁面が有する中層はエチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)を含む。発明のパンクシーリング剤収容容器は、容器本体の壁面が有する中層にガスバリア性を有するEVOHを含むことにより、酸素ないし空気を遮断してパンクシーリング剤の酸化劣化を防ぐことが可能となり、パンクシーリング剤の長期保存安定性に優れる。
【0038】
EVOHは、一般に、吸湿によりガスバリア性が低下する傾向がある。本発明においては、EVOHを含む層が中層であることにより、EVOHが内容物や外気から吸湿し難く、EVOHのガスバリア性が低下し難い。したがって、本発明のパンクシーリング剤収容容器は、ガスバリア性が低下し難い。
【0039】
本発明において、中層が含むEVOHのエチレンとビニルアルコールの共重合比率は特に制限されないが、ガスバリア性、ガラス転移温度(Tg)及び引張弾性率の観点から、エチレンの共重合比率が25〜45モル%であることが好ましい。
エチレン−ビニルアルコール共重合体は、常法により合成可能であり、また、市販品として入手可能である。
【0040】
本発明において、中層が含むEVOHとしては、ガラス転移温度(Tg)が55℃以上であることが好ましい。EVOHのTgが55℃以上であると、高温下(例えば50℃)のパンクシーリング剤収容容器の耐圧性が良好である。EVOHのTgは、より好ましくは60℃以上である。
EVOHのTgは、エチレンの共重合比率により制御することができ、エチレンの共重合比率を35モル%以下とすることで、EVOHのTgを55℃以上にすることができる。
【0041】
なお、エチレン−ビニルアルコール共重合体のガラス転移温度(Tg)は、ペレット状にしたものについて、既述のDSC測定装置を用いて測定される。DSC測定における温度範囲は、−60℃〜220℃とする。
【0042】
本発明において、中層が含むEVOHとしては、耐圧性の観点から、引張弾性率が2000MPa以上であることが好ましい。本発明において内層および外層が含むPP/EPRの引張弾性率が900〜1200MPa程度であるから、中層が含むEVOHの引張弾性率が2000MPa以上であると、パンクシーリング剤収容容器の耐圧性をより向上させることができる。EVOHの引張弾性率は、より好ましくは2500MPa以上である。
EVOHの引張弾性率は、エチレンの共重合比率により制御することができると考えられており、エチレンの共重合比率を45モル%以下とすることで、EVOHの引張弾性率を2000MPa以上にすることができる。
なお、EVOHの引張弾性率は、ISO527に記載の方法により測定された値である。
【0043】
本発明において中層は、耐圧性および耐衝撃性を増す観点から、フィラーを含んでいてもよい。フィラーとしては、例えば、シリカ、カーボンブラック、タルク等が挙げられる。
本発明において中層は、層の均一性およびガスバリア性の観点からは、エチレン−ビニルアルコール共重合体のみを含むことが好ましい。
【0044】
(リサイクル材層)
本発明のパンクシーリング剤収容容器は、容器本体の壁面が少なくとも内層と中層と外層とを有するが、その他の層を有していてもよい。その他の層としては、例えば、リサイクル材を用いた層(「リサイクル材層」と称する。)が挙げられる。
【0045】
リサイクル材層に用いる樹脂としては、例えば、使用済み若しくは耐用年数超過のパンクシーリング剤収容容器に由来する樹脂が挙げられ、このような樹脂はパンクシーリング剤収容容器のリサイクルの観点で好適である。
【0046】
本発明において、容器本体の壁面がリサイクル材層を有する場合、リサイクル材層は内層と外層との間に設けられる。リサイクル層は、内容物であるパンクシーリング剤がリサイクル樹脂からの影響を受け難い観点から、中層と外層の間に設けられることが好ましい。
【0047】
(加工成形)
本発明のパンクシーリング剤収容容器の容器本体を加工成形する方法は、特に制限されず、圧縮成形や、吹込成形(ブロー成形)、射出成形、及びこれらの組合せにより、各層の材料となる樹脂を加工成形すればよい。例えば、多層押出機を用いて内層、中層、外層からなる3層のパリソンを成形し、これをブロー成形機でブロー成形する、多層ブロー成形により容易に製造できる。
【0048】
本発明のパンクシーリング剤収容容器は、耐圧性、耐衝撃性、パンクシーリング剤の長期保存安定性および生産性の観点から、容器本体の壁厚が1mm〜5mm程度であることが好ましく、2〜3mm程度がより好ましい。ここで「壁厚」とは、容器本体を構成する全層を合わせた厚みである。
【0049】
本発明のパンクシーリング剤収容容器は、容器本体の中層の厚さが20μm〜300μmであることが好ましい。中層の厚さが20μm以上であると、ガスバリア性の点で有利である。一方、中層の厚さが300μm以下であると、生産性の点で有利である。中層の厚さは、30μm〜250μmがより好ましく、40μm〜200μmが更に好ましい。
【0050】
本発明において、容器本体の内層および外層の厚さは、それぞれ300μm〜2000μm程度とすることができ、耐圧性、耐衝撃性および生産性の観点から、内層と厚さと外層の厚さとは同程度にすることが好ましい。
【0051】
本発明のパンクシーリング剤収容容器が容器本体にリサイクル材層を有する場合、各層の厚さの比は、内層:リサイクル材層:外層=5〜40:30〜70:5〜40とすることが好ましい。上記の比率で各層を構成した場合、パンクシーリング剤収容容器の性能とリサイクル性とのバランスがよい。
【0052】
<パンク修理キット>
本発明のパンクシーリング剤収容容器は、二体型、一体型、セミ一体型等、種々のパンク修理キットに用いることができる。
二体型パンク修理キットとは、パンクシーリング剤収容容器と、パンクシーリング剤を圧力でタイヤ内に導入するポンプアップ装置とが別個独立して分離しているキットであり、パンク修理時にパンクシーリング剤収容容器とポンプアップ装置とを各々別個に使用するものである。
一体型パンク修理キットとは、パンクシーリング剤収容容器とポンプアップ装置とが予め結合されたキットであり、一般に、パンクシーリング剤収容容器およびポンプアップ装置はケースで覆われている。
セミ一体型パンク修理キットとは、パンクシーリング剤収容容器とポンプアップ装置とが分離しているものの、ポンプアップ装置とパンクシーリング剤収容容器とを結合する経路が予め備わっており、使用時に、ポンプアップ装置とパンクシーリング剤収容容器とをホース等で結合して用いるものである。タイヤ修理時は、一般に、パンクシーリング剤収容容器をキットに押し込む等して容器を開栓すると共に、キットに固定して用いる。
【0053】
本発明のパンクシーリング剤収容容器は、柔軟性があり耐衝撃性に優れるため、上記のパンク修理キットの中でも、一般にパンクシーリング剤収容容器がケースで覆われていない二体型パンク修理キットおよびセミ一体型パンク修理キットに好適である。また、本発明のパンクシーリング剤収容容器は、高い耐圧性を有し、高温での耐圧性にも優れていることから、これらの特性が要求されるセミ一体型パンク修理キットに好適である。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0055】
<樹脂の用意>
(内層および外層の樹脂)
〔ポリプロピレンとエチレン−プロピレン共重合体との共重合体〕
パンクシーリング剤収容容器の容器本体の、内層および外層の成形用の樹脂として、結晶性ポリプロピレンと非晶性エチレン−プロピレン共重合体とのブロック共重合体1を用意した。
【0056】
−ブロック共重合体1の作製−
・結晶性ポリプロピレン1(Tg=11℃)
・非晶性エチレン−プロピレン共重合体1(Tg=−57℃)
上記結晶性ポリプロピレン1と、非晶性エチレン−プロピレン共重合体1とを、反応させ、共重合し、ブロック共重合体1を作製した。
なお、共重合は、チーグラー・ナッタ系触媒による配位アニオン重合により行なった。
【0057】
ブロック共重合体1の原料である結晶性ポリプロピレン1および非晶性エチレン−プロピレン共重合体1のガラス転移温度(Tg)は、DMA測定により求めた。
ブロック共重合体1について、海島構造の有無をDMA測定により確認したところ、非晶性エチレン−プロピレン共重合体(EPR)由来の島部と結晶性ポリプロピレン(PP)由来の海部とからなる海島構造を有していることがわかった。
ブロック共重合体1をペレット状にしたものを用い、結晶性ポリプロピレンの結晶化度をDSC装置により測定したところ、82%であった。
【0058】
〔低密度ポリエチレン〕
比較例のパンクシーリング剤収容容器の容器本体の、内層および外層の成形用の樹脂として、低密度ポリエチレンを用意した。
【0059】
(中層の樹脂)
パンクシーリング剤収容容器の容器本体の、中層の成形用の樹脂として、エチレン−ビニルアルコール共重合体1〜3〔EVOH(1)〜(3)〕を用意した。なお、ガラス転移温度(Tg)は、DMA測定により求めた。
【0060】
〔EVOH(1)〕
エチレン共重合比率=44モル%、Tg=53℃、引張弾性率=2300MPa
〔EVOH(2)〕
エチレン共重合比率=32モル%、Tg=57℃、引張弾性率=2700MPa
〔EVOH(3)〕
エチレン共重合比率=27モル%、Tg=62℃、引張弾性率=3000MPa
【0061】
<樹脂のブロー成形>
〔実施例1〜3〕
ブロック共重合体1と、エチレン−ビニルアルコール共重合体1〜3のいずれかを用いて多層ブロー成形することにより、パンクシーリング剤を最大360mL収容可能な、壁厚が平均2mmの円筒状の容器本体を製造した。各層の厚さは、内層/中層/外層=平均1000μm/平均100μm/平均900μmであった。
上記で得た各容器本体に、ガス導入部、栓バルブ、及び出口バルブを取り付け、実施例1〜3のパンクシーリング剤収容容器とした。
【0062】
〔比較例1〕
ブロック共重合体1を用いて単層ブロー成形することにより、パンクシーリング剤を最大360mL収容可能な、壁厚が平均2mmの円筒状の容器本体を製造した。
上記で得た容器本体に、ガス導入部、栓バルブ、及び出口バルブを取り付け、比較例1のパンクシーリング剤収容容器とした。
【0063】
〔比較例2〕
前記低密度ポリエチレン(LDPE)と、エチレン−ビニルアルコール共重合体3を用いて多層ブロー成形することにより、パンクシーリング剤を最大360mL収容可能な、壁厚が平均2mmの円筒状の容器本体を製造した。各層の厚さは、内層/中層/外層=平均1000μm/平均100μm/平均900μmであった。
上記で得た容器本体に、ガス導入部、栓バルブ、及び出口バルブを取り付け、比較例2のパンクシーリング剤収容容器とした。
【0064】
<評価>
以下のとおりにパンクシーリング剤Pを調製し、下記の耐衝撃性と長期保存安定性の評価に用いた。
−パンクシーリング剤Pの調製方法−
SBRラテックス40質量部と水5質量部との混合液Aと、プロピレングリコール45質量部とロジン系樹脂10質量部との混合液Bとを、それぞれ用意した。混合液Aと混合液Bと混合し、36時間静置し、次いで、200メッシュのフィルターを使用して濾過を行い、パンクシーリング剤Pとした。
【0065】
(パンクシーリング剤収容容器の耐衝撃性(低温落下衝撃性))
−40℃の温度条件下において、パンクシーリング剤Pを350mL収容したパンクシーリング剤収容容器を、地上15cm、地上30cm、地上45cm、地上60cm、地上75cm、及び地上90cmから、コンクリートの地面に自由落下させた。パンクシーリング剤収容容器が欠損しない最大の高さを測定した。評価結果を表1に示す。
【0066】
パンクシーリング剤収容容器が欠損しない最大の高さは、30cm以上が好ましく、45cm以上であることが特に好ましい。
「地上45cm」は、タイヤの補修のために、パンクシーリング剤収容容器とタイヤバルブとをホースで接続する接続作業等で、作業者が地面に膝をついたときに、パンクシーリング剤収容容器を持ち上げ得る最大の高さと考えられる。上記の好ましい高さは、かかる観点を考慮して決定した。
【0067】
(パンクシーリング剤の長期保存安定性)
パンクシーリング剤Pを350mL収容したパンクシーリング剤収容容器を、開口部をアルミニウム製のシールにより封止した上で90℃のオーブンに保管し、パンクシーリング剤Pが凝固するまでに要する日数を測定した。
長期保存安定性は、比較例1の収容容器を用いた際の、パンクシーリング剤Pが凝固するのに要した日数を100としたときの指数として評価した。評価結果を表1に示す。
【0068】
(パンクシーリング剤収容容器の高温耐圧性)
80℃環境下で、空のパンクシーリング剤収容容器に水(水温80℃)を注入し、収容容器が破断するまで水圧を加圧し、破断時の水圧を測定した。
高温耐圧性は、比較例1の収容容器を用いた際の水圧を100としたときの指数として評価した。評価結果を表1に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
表1に明らかなように、本発明のパンクシーリング剤収容容器は、比較例に比し、耐衝撃性(低温落下衝撃性)、長期保存安定性、及び高温耐圧性に優れる。
【符号の説明】
【0071】
1 パンクシーリング剤収容容器
2 容器本体
2i 内層
2m 中層
2o 外層
3 ガス導入部
4 栓バルブ
5 出口バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁面に積層構造を有する容器本体を備え、前記壁面は少なくとも内層と中層と外層とを含み、前記内層および前記外層はポリプロピレンとエチレン−プロピレン共重合体との共重合体を含み、前記中層はエチレン−ビニルアルコール共重合体を含むパンクシーリング剤収容容器。
【請求項2】
前記中層に含まれるエチレン−ビニルアルコール共重合体の引張弾性率が2000MPa以上である請求項1に記載のパンクシーリング剤収容容器。
【請求項3】
前記中層に含まれるエチレン−ビニルアルコール共重合体のガラス転移温度が55℃以上である請求項1または請求項2に記載のパンクシーリング剤収容容器。

【図1】
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【公開番号】特開2012−81985(P2012−81985A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−230039(P2010−230039)
【出願日】平成22年10月12日(2010.10.12)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】