説明

パンクシーリング剤

【課題】 直径が4mm程度の太い釘などによるパンク穴であっても、迅速にシールすることができ、走行中、走行後にもシール効果が持続するパンクシーリング剤を提供する。
【解決手段】 パンクしたタイヤの穴をシールするためのパンクシーリング剤として、天然ゴムラテックス、凍結防止剤、エーテル型非イオン性界面活性剤、樹脂粒子を含有させてパンクシーリング剤を構成する。
上記天然ゴムラテックスは5〜30重量%が好ましく、凍結防止剤の含有量は5〜60質量%が好ましく、エーテル型非イオン性界面活性剤の含有量は0.1〜1重量%が好ましく、樹脂粒子の含有量は0.1〜5重量%であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパンクしたタイヤの穴をシールするためのパンクシーリング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
釘などによりタイヤに軽微なパンクが発生した場合、その応急修理のために、タイヤ内部に注入してパンク穴をシールするためのパンクシーリング剤が提案されている(例えば、特許文献1〜3)。
【0003】
しかしながら、従来のゴムラテックスによるパンクシーリング剤は、主として天然ゴムラテックス、または合成イソプレンゴム(IR)、アクリロニトリルーブタジエンゴム(NBR)などの合成ゴムラテックスを用いたものであるため、次のような問題点を有していた。
【0004】
1)ゴムラテックスを主材とするパンクシーリング剤は迅速なシールができない場合があり、シールするまでに長時間かかった場合、パンク穴から外部に噴出し続けたパンクシーリング剤が、タイヤ周辺部の車体や道路を汚染するという問題があった。
【0005】
2)ゴムラテックスを主材とするパンクシーリング剤はラテックスが高濃度(40%以上)であり、保存中にクリーム化することがある。
【0006】
3)寒冷状態での修理を可能にする目的で凍結防止剤が添加されているが凍結防止剤の添加によりラテックスの安定性が損なわれるため、ラテックスの安定性とシールに必要なゴム固形分を確保するためには、凍結防止剤の添加量を一定範囲内にとどめなければならず、そのため−30℃当たりが使用限界になっていた。
【0007】
4)水溶性ポリマー、樹脂粒子、繊維によりシール効果を発揮するものは、パンク穴のシール効果は早いが、走行終了後、走行停止中にシール効果が低下する場合があり、再度、空気を充填する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3210863号公報
【特許文献2】特許第3802212号公報
【特許文献3】特開2009−138112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記のような従来のパンクシーリング剤の問題を解決し、迅速なシール効果を得ることが出来、走行停止中にもシール効果が持続するパンクシーリング剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、天然ゴムラテックスを低濃度で使用し、凍結防止剤と、エーテル型非イオン性界面活性剤と、樹脂粒子とを含有させてパンクシーリング剤を構成するときは、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するにいたった。
【0011】
すなわち、本発明は、パンクしたタイヤの穴をシールするためのパンクシーリング剤であって、天然ゴムラテックス、凍結防止剤、エーテル型非イオン性界面活性剤、樹脂粒子を含有することを特徴とするパンクシーリング剤である。
【0012】
本発明は天然ゴムラテックスが5〜30重量%であることを特徴とするタイヤのパンクシーリング剤である。
【0013】
本発明はエーテル型非イオン性界面活性剤が0.1〜1重量%であることを特徴とするタイヤのパンクシーリング剤である。
【0014】
本発明は樹脂粒子がEVA(エチレンビニルアセテート)、PVC(ポリ塩化ビニル)または粉末ゴムの粒子であり、含有量は0.1〜5重量%のタイヤのパンクシーリング剤である。
【発明の効果】
【0015】
本発明のパンクシーリング剤によれば、パンク穴が迅速にシールすることが出来る。本発明のパンクシーリング剤は−40℃という低温条件でも使用できるようにすることができ、その結果、使用可能な温度領域を−40℃〜+70℃という広い領域に広げることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のパンクシーリング剤は前記のように、天然ゴムラテックスと、凍結防止剤と、エーテル型非イオン性界面活性剤と、樹脂粒子との4成分を必須成分として含有する。上記天然ゴムラテックスと、樹脂粒子はパンク穴からエア(空気)漏れが生じるのを防止するための閉塞材として働く。エーテル型非イオン性界面活性剤は天然ゴムラテックスが安定な状態にするために働く。
【0017】
この天然ゴムラテックスは5〜30重量%で使用することで通常の40〜60重量%で使用されているものより安定な状態になり易い。これにエーテル型非イオン性界面活性剤を0.1〜1重量%添加することで安定な状態を作ることができる。
【0018】
樹脂粒子は天然ゴムラテックスと使用することで閉塞効果を迅速にする働きがある。通常、他の成分により希釈された天然ゴムラテックスは閉塞材としての効果が低くなるが樹脂粒子を核として作用させることで迅速な閉塞効果を得ることができる。
【0019】
この樹脂粒子はパンク穴を迅速に閉塞するためのものでありパンクシーリング剤に1種またはそれ以上の樹脂粒子を混合してもよい。樹脂粒子としては例えばEVA(エチレン−ビニル共重合)樹脂、ポリエステル樹脂、粉末ゴムである。特にEVA樹脂、粉末ゴムなどが好ましいが、これに限ることなく、例えばポリカーボネート樹脂、メタクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂でもよいし、またポリアミド樹脂ではナイロン6、ナイロン66、ナイロン12なども用い得る。その他、フィラーと呼ばれるケイ素、カーボンブラック、天然繊維、天然ポリマーまたは合成繊維からなる化学繊維等の繊維材料等も用い得る。
【0020】
樹脂粒子はパンクシーリング剤に直接添加されうる。しかしながら、樹脂粒子が大きすぎると供給用のバルブに詰まるおそれがあるので、この樹脂粒子の粒径は0.05〜1mm程度であることが好ましい。
【0021】
本発明においては、閉塞材として天然ゴムラテックスと樹脂粒子を用いるが、これはタイヤ内部に注入されたパンクシーリング剤がパンク穴から流れ出す際に、天然ゴムラテックスの凝固物と樹脂粒子が絡んでパンク穴に留まり、それらが重なり合い絡まることによってパンク穴を強固にシールすることが出来るからである。
【0022】
凍結防止剤は冬季にパンクシーリング剤が凍結して使用できなくなるのを防ぐ目的で添加するものである。この凍結防止剤としてはジエチレングリコールを用いることが好ましいが、その他にモノエチレングリコール、プロピレングリコールなども用いることができる。この凍結防止剤のパンクシーリング剤中の含有率としては、5〜60重量%、特に30〜60重量%が好ましい。
【0023】
凍結防止剤のパンクシーリング剤中の含有量が上記よりも少ない場合は、パンクシーリング剤が冬季に凍結して使用できなくなるおそれがあり、また、凍結防止剤のパンクシーリング剤中の含有量が上記より多い場合は、−40℃より低い温度で使用することができるようになるが、実用上その必要が無く、凍結防止剤をそれ以上に増加する意味がない。なお、この凍結防止剤は上記範囲内で、パンクシーリング剤が使用される地域の気候に応じて、その使用量(パンクシーリング剤の含有量)を調節することが好ましく、例えば、極寒地を対象とする場合は、パンクシーリング剤中50重量%以上の含有量とすることが好ましい。
【0024】
本発明のパンクシーリング剤には、さらに、トリエタノールアミンなどの防錆剤、消泡剤、防腐剤などを添加してもよい。
【0025】
上記のような本発明のパンクシーリング剤によるパンク修理の方法としては、公知の方法を適用することができる。すなわち、パンクしたタイヤのバルブからバルブコアを外し、パンクシーリング剤が充填された容器のホースをバルブ口に接続して、タイヤ内にパンクシーリング剤を注入する。その後、バルブコアを取り付けて空気を充填し、規定の内圧に合わせればよい。
【実施例】
【0026】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はそれらに限定されることはない。なお、以下において、濃度や含有量などを示す%は特にその基準を明記しないかぎり重量%によるものである。
【0027】
本発明の実施例のパンクシーリング剤の組成含有率を表1に示す。表1材料、重量%を示す。各成分の重量%量は固形分としての重量比率量であり、これはパンクシーリング剤の組成を示す以後の表においても同様である。
【0028】
【表1】

【0029】
上記実施例のパンクシーリング剤の調製に当たって使用した天然ゴムラテックスは、pH調整剤としてアンモニアを含みかつ60重量%のゴム成分を有するものである。凍結防止剤としてはジエチレングリコールを用いている。エーテル型非イオン性界面活性剤は花王株式会社製のエマルゲン150(商品名)である。防腐剤はサンノプコ株式会社製のノプコサイドSN−215(商品名)である。EVA粒子はサンヨー化成株式会社製のEVA#40(商品名)である。
【0030】
次に、本発明の実施例と性能を比較するための2つの比較パンクシーリング剤を示す。
比較パンクシーリング剤1
天然ゴムラテックスとプロピレングリコールを主成分とする市販のパンクシーリング剤を比較例1のパンクシーリング剤とした。
【0031】
比較パンクシーリング剤2
水溶性ポリマーとプロピレングリコールと樹脂粒子と繊維を主成分とする市販のパンクシーリング剤を比較例2のパンクシーリング剤とした。
【0032】
上記のように調整した実施例のパンクシーリング剤と比較パンクシーリング剤1〜2について、下記の要領にて、(1)パンク穴シール性〔パンク穴シール性(A)とパンク穴シール性(B)及びパンク穴シール性(C)〕、(2)注入作業性の評価を行った。
【0033】
以下に、パンク穴シール性(A)(B)(C)と注入作業性の試験方法について説明する。
(1)パンク穴シール性:
(1)−1 パンク穴シール性(A)
試験用タイヤとしては自動車用タイヤ195/65R14(断面の幅の呼び:195mm、偏平比の呼び:65、タイヤ構造記号:ラジアル、リム径の呼び:14インチ)を用い、このタイヤに対するパンクシーリング剤のパンク穴シール性をタイヤ走行テスト用のドラムテスターを用いて調べた。
【0034】
このドラムテスターは直径1707.6mmの鉄製のドラムの頂点から時計回り方向に270°の位置にタイヤを押し付けた状態でドラムを回転させ、走行に近い状態を実現できる仕組みになっている。そして、上記ドラムの頂点から時計回りに270°の位置にネジ釘(テストには、このネジ釘として直径4mmのものを用いる)をその先端がドラムの径方向外方向に向くように固定し、その釘にタイヤを押し付けると、そのタイヤの頂点から90°の位置のトレッドにパンク穴ができる。このパンク穴ができたタイヤを頂点から時計回り方向に180°の位置にパンク穴が来るようにタイヤを手で1/4回転し(つまり、そうすることによって、パンク穴が真下にくる)、その後、パンクしたタイヤのバルブからバルブコアを外し、パンクシーリング剤が充填された注入器のホースをバルブ口に接続して、タイヤ内にパンクシーリング剤を450ml注入し、次いで、タイヤに空気を充填すると、パンクシーリング剤はパンク穴に向かって移動し、パンク穴から噴出しながらやがてパンク穴をシールする。そのパンクシーリング剤の噴出時間と噴出量でパンク穴シール性(A)を評価した。その結果を表2に示す。
【0035】
(1)−2 パンクシール性(B)
パンク穴シール性(A)の試験でパンク穴をシールしたタイヤ(つまり、パンクシーリング剤の噴出が止まったタイヤ)に空気を追加充填して、内圧を200kPaに合わせた後、ネジ釘をドラムから外し、該ドラムに上記パンク穴をシールし空気を追加充填したタイヤを押し付けて、負荷4kN、走行速度100km/Hrの条件で200km走行させる。走行停止直後にタイヤ内圧を測定し、かつ、パンク穴部分に石鹸水をかけてエア漏れの有無を調べた。その結果を表2に示す。
【0036】
(1)−3 パンクシール性(C)
パンク穴シール性(B)の試験で走行したタイヤ(つまり、パンクシーリング剤を使用し、負荷4kN、走行速度100km/Hrの条件で200km走行したタイヤ)のパンク穴を頂点(つまり、パンク穴を真上にする)にして1時間静地したときの内圧の減少の有無を調べた。その結果を表2に示す。
【0037】
(2)注入作業性:
−40〜+70℃の環境でパンクシーリング剤のタイヤ内部への注入修理作業を行った。パンクシーリング剤とタイヤは、当該環境下に20時間放置して環境と同じ温度になったものを使用した。その際のパンクシーリング剤の注入量は450mlであり、注入が可能か否かを調べた。その結果を表3に示す。
【0038】
以下に、パンク穴シール性の結果を示す。
表2は試験の釘の直径、試験項目(3つのパンク穴シール性(A)(B)(C))、チェック項目(パンクシーリング剤の噴出時間(秒)と噴出量(ml)、走行直後のタイヤ内圧減少(%)とエア漏れの有無、走行停止1時間後の内圧減少(%)とエア漏れの有無)に対する、本発明実施例、比較例1(パンクシーリング剤1)、比較2(パンクシーリング剤2)のパンク穴シール性の結果を示す。
【0039】
【表2】

【0040】
以下に、注入作業性の結果を示す。
表3は、試験温度に対するパンクシーリング剤の注入作業性の結果を、本発明の実施例、比較1(パンクシーリング剤1)、比較2(パンクシーリング剤2)について示す。
【0041】
【表3】

【0042】
以下に、本発明の実施例と比較パンクシーリング剤2つの性能を比較した考察を示す。
表2のパンク穴シール性の結果に示すように、直径が4mmの釘によって生じたパンク穴に関してパンク穴シール性(A)は、実施例と比較例2のパンクシーリング剤では、噴出時間が短かい、また、噴出量も少なかったが、比較例1のパンクシーリング剤は、実施例のパンクシーリング剤に比べて、噴出時間が長く、また、噴出量も多かった。パンク穴シール性(B)については実施例、比較例1、比較例2で減圧は見られず差はなかった。パンク穴シール性(C)については実施例、比較例1では減圧は見られなかったが、比較例2は走行可能ではあるが減圧が見られた。
【0043】
つまり、実施例のパンクシーリング剤は、直径4mmの釘によって生じたパンク穴に対してはシールすることができ、また、そのパンク穴をシールするにあたって生じるパンクシーリング剤の漏れ(パンクシーリング剤の噴出量)も少なかった。また、実施例のパンクシーリング剤によってシールしたパンク穴は、走行中および走行後のエア漏れがなく、実施例のパンクシーリング剤は、応急修理剤として適していることが確認できた。
【0044】
さらに、実施例のパンクシーリング剤は、表3のパンクシーリング剤の注入作業性の結果に示すように、−40℃〜+70℃という広い温度範囲で使用できることも確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パンクしたタイヤの穴をシールするためのパンクシーリング剤であって、天然ゴムラテックス、凍結防止剤、エーテル型非イオン性界面活性剤、樹脂粒子を含有することを特徴とするタイヤのパンクシーリング剤。
【請求項2】
天然ゴムラテックスが5〜30重量%であることを特徴とする請求項1記載のタイヤのパンクシーリング剤。
【請求項3】
エーテル型非イオン性界面活性剤が0.1〜1重量%であることを特徴とする請求項1記載のタイヤのパンクシーリング剤。
【請求項4】
樹脂粒子がEVA(エチレンビニルアセテート)、PVC(ポリ塩化ビニル)または粉末ゴムの粒子であることを特徴とする請求項1記載のタイヤのパンクシーリング剤。