パンタグラフ式ジャッキのアームおよびパンタグラフ式ジャッキ
【課題】歯部間の倒れ防止部を省略しても、歯部が倒れることを防止することができる、パンタグラフ式ジャッキを提供すること。
【解決手段】車両受台と台座との間に軸受孔131a,132aを介し回動可能で菱形に組み付けた下部のロアアーム13には、底面部133の両端部がほぼ直角に折り曲げられ形成された両側面部131,132と、両側面部131,132それぞれから外側に向けて折り曲げられ形成されたフランジ部と、フランジ部の先端に形成され、対向する反対側のアームと噛み合う歯部131d,132dとを有し、歯部131d,132dにおける歯幅の中心131d1,132d1が歯部131d,132d側の軸受孔131a,132aの軸方向中心131a1,132a1より外側に位置するように歯幅を確保する。
【解決手段】車両受台と台座との間に軸受孔131a,132aを介し回動可能で菱形に組み付けた下部のロアアーム13には、底面部133の両端部がほぼ直角に折り曲げられ形成された両側面部131,132と、両側面部131,132それぞれから外側に向けて折り曲げられ形成されたフランジ部と、フランジ部の先端に形成され、対向する反対側のアームと噛み合う歯部131d,132dとを有し、歯部131d,132dにおける歯幅の中心131d1,132d1が歯部131d,132d側の軸受孔131a,132aの軸方向中心131a1,132a1より外側に位置するように歯幅を確保する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等のジャッキアップに使用されるパンタグラフ式ジャッキのアームおよびパンタグラフ式ジャッキに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パンタグラフ式ジャッキは、例えば、車両受台と、台座と、左右の連結軸により、上部および下部の一対のアームを菱形状に組み、ハンドル部が設けられたネジ部材を左右の連結軸に通して構成されており、ネジ部材を回転させることにより、車両受台を昇降させている(例えば、特許文献1〜3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−13360号公報
【特許文献2】特開2008−13359号公報
【特許文献3】特開平09−240995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、昨今、車両重量全体の軽量化が求められており、車両の装備品であるパンタグラフ式ジャッキ自体の重量もなるべく軽量化が求められ、薄い鋼材を使用して軽量化を図りつつも各種補強を行っている。
【0005】
しかし、特許文献1〜3に記載のパンタグラフ式ジャッキでは、各アームの両側面部の先端部を内側に向けて折り曲げてフランジ部および歯部を形成し、歯幅の中心が軸受孔の軸方向中心より内側になっていたため、車両をジャッキアップする際に歯部に負荷がかかると、各アームの両側面部は内側に倒れようとする。そのため、薄い鋼材を使用したアームの場合、各アームの歯部間に歯部の倒れ防止のための倒れ防止部を設けているが、倒れ防止部を設ける作業の分だけ製造コストがかかると共に、倒れ防止部の分だけ重量が増し、ジャッキ全体が重くなる、という問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、歯部間の倒れ防止部を省略しても、歯部が倒れることを防止することができる、パンタグラフ式ジャッキを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明のパンタグラフ式ジャッキのアームは、車両受台と台座と左右の連結軸に対しそれぞれ軸受孔を介し菱形に組まれ、左右の連結軸に通したネジ部材の回転により屈伸して車両受台を台座に対し昇降させるパンタグラフ式ジャッキのアームであって、長尺状の底面部と、前記底面部の両端部がほぼ直角に折り曲げられ形成された両側面部と、前記両側面部それぞれから外側に向けて折り曲げられ形成されたフランジ部と、前記フランジ部の先端に形成され、対向する反対側のアームと噛み合う歯部とを有し、前記歯部における歯幅の中心が当該歯部側の軸受孔の軸方向中心より外側に位置するように前記歯幅を確保することを特徴とする。
ここで、前記歯部側の軸受孔は、パンチ加工により下孔を形成した後、前記両側面部の内側から外側に向けてバーリング加工により外側に突出させ、かつ、外側から内側に向けての潰し加工により当該歯部側の軸受孔の軸方向中心を内側にオフセットさせるようにすると良い。
また、前記歯部側の軸受孔は、パンチ加工により下孔を形成した後、両側面部の外側から内側に向けてバーリング加工により内側に突出させるようにしても良い。勿論この場合に、さらに潰し加工を行っても良い。
また、前記歯部には、前記軸受孔側に突出し、前記軸受孔の反対側には突出しないビードを設けるようにすると良い。
また、本発明のパンタグラフ式ジャッキは、以上のようなパンタグラフ式ジャッキのアームを、上部一対のアームとして、または下部の一対のアームとして、あるいは上部一対のアームおよび下部の一対のアームとして使用したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、アーム両側面のフランジ部はそれぞれ外側に向けて折り曲げられており、歯部における歯幅の中心が当該歯部側の軸受孔の軸方向中心より外側に位置するように歯幅を確保したため、車両をジャッキアップする際に歯部に負荷がかかると、歯部は外側に倒れようとする。そのため、歯部間の倒れ防止部を省略でき、その作業の分だけ製造コストを低減できると共に、アームおよびジャッキ全体の軽量化を図ることができる。なお、両側面部の歯部は車両受台または台座の両側面部により外側から押えられているので、外側に倒れようとしても問題はない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施形態1のパンタグラフ式ジャッキが最も収縮した状態の正面図である。
【図2】実施形態1のパンタグラフ式ジャッキが最も伸長した状態の正面図である。
【図3】実施形態1のパンタグラフ式ジャッキが最も収縮した状態の平面図である。
【図4】実施形態1のパンタグラフ式ジャッキが最も収縮した状態におけるA−A線断面図である。
【図5】左側のロアアームを正面から見た正面図である。
【図6】左側のロアアームを上方から見た上面図である。
【図7】図4における左側のロアアームのB−B線端面図である。
【図8】実施形態2の左側のロアアームの特徴を示す図である。
【図9】実施形態3の左側のロアアームの特徴を示す図である。
【図10】他のアームの特徴を示す図である。
【図11】さらに他のアームの特徴を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係るパンタグラフ式ジャッキの一実施形態を、添付図面を参照して説明する。
【0011】
実施形態1.
実施形態1のパンタグラフ式ジャッキは、下側の左右一対のロアアームのみ両側面部を外側に折り曲げ、上側のアッパアームは、従来のように両側面部を内側に折り曲げたことを特徴とする。
【0012】
図1は、実施形態1のパンタグラフ式ジャッキが最も収縮した状態の正面図、図2は、このパンタグラフ式ジャッキが最も伸長した状態の正面図、図3は、このパンタグラフ式ジャッキが最も収縮した状態の平面図、図4は、図3のA−A線断面図である。図1〜図4に示すように、実施形態1のパンタグラフ式ジャッキは、車両等を受ける車両受台10と、上端部11a,12aそれぞれに形成された軸受孔にそれぞれ連結ピン19,20が通され車両受台10に上端部11a,12aが回動自在に支持された一対のアッパアーム11,12と、アッパアーム11,12の下端部11b,12bそれぞれに上端部13b,14bが2つの連結軸(メタルともいう。)16,17を介し回動自在に連結された一対のロアアーム13,14と、ロアアーム13,14の下端部13a,14aそれぞれに形成された軸受孔にそれぞれ連結ピン21,22が通され、ロアアーム13,14それぞれを回動自在に支持する台座15と、アッパアーム11,12とロアアーム13,14とを回動自在に連結する2つの連結軸16,17間に挿通されるネジ部材18とを有する。なお、ネジ部材18には、ハンドル部18aが設けられている。
【0013】
このパンタグラフ式ジャッキでは、ネジ部材18を回転させて、アッパアーム11,12とロアアーム13,14とを起立させていくと、車両荷台10も上昇し、図2に示すパンタグラフ式ジャッキが最も伸長した状態になる。その一方、ネジ部材18をその反対方向に回転させると、アッパアーム11,12とロアアーム13,14とは水平状態に倒れていき、車両受台10は下降し、最終的には、図1に示す状態になる。
【0014】
次に、本実施形態1の特徴部分であるロアアーム13,14の構造について詳細に説明する。ただし、ロアアーム13,14は、その形成方法や構造の特徴は共通なので、代表して、図上左側のロアアーム13を一例として説明する。
【0015】
図5〜図7は、それぞれ、ロアアーム13を正面から見た正面図、上方から見た平面図、B−B線端面図である。図5〜図7に示すように、ロアアーム13は、元々は一枚の金属の平板をカットし、軸受孔を開設し、最後に曲げ加工して形成されたもので、両側面部131,132と、底面部133とを有し、両側面部131,132間のアーム倒れ止め部を省略したことを特徴とする。底面部133には、図6に示すように、ロアアーム13の部材を一枚の金属板からカットする際の位置決め用のパイロット孔133a,133bと、重量削減用の開口部133c〜133eが形成されている。なお、これらの孔133a〜133eを設けることは任意である。
【0016】
両側面部131,132の連結軸16側、すなわち図上左側には、連結軸16と連結する軸受孔131b,132bが形成されている一方、両側面部131,132の台座15側、すなわち図上右側には、それぞれ、台座15と連結する連結ピン21が通される軸受孔131a,132aが形成されている。ここで、軸受孔131a,132aは、パンチ加工により下孔を形成した後、図7に示すように、両側面部131,132の内側から外側に向けてバーリング加工により外側に突出させることにより形成する。そして、両側面部131,132の上部には、それぞれ、図6および図7に示すように、両側面部131,132の外側に折り曲げたフランジ部131c,132cを設ける。このため、両側面部131,132におけるフランジ部131c,132cの折り曲げ方向と、軸受孔131a,132aにおけるバーリングの方向が同一方向になるので、加工し易いという利点がある。
【0017】
また、フランジ部131c,132cの台座15側には、図6に示すように、それぞれ、右側のロアアーム14のY歯部またはX歯部に噛み合うX歯部131d,Y歯部132dを設けている。そのため、ロアアーム13,14に同一のロアアームを使用して、台座15に連結しても、ロアアーム13のX歯部131dがロアアーム14のY歯部に噛み合い、かつ、ロアアーム13のY歯部132dがロアアーム14のX歯部に噛み合うことになる。
【0018】
そして、本実施形態1では、図7に示すように、軸受孔131a,132aは両側面部131,132の内側から外側に向けてバーリング加工により外側に突出させるものの、歯部131d,132dにおける歯幅の中心131d1,132d1は、軸受孔131a,132aの軸方向中心131a1,132a1より外側に位置するように歯部131d,132dの歯幅を確保している。そのため、ジャッキアップの際、歯部131d,132dに大きな力が加わると、両側面部131,132は外側に倒れようとする。しかし、台座15が歯部131d,132dを外側から押さえているので、歯部131d,132dの外側への倒れを防止する。そのため、従来は、両側面部を内側に折り曲げてフランジ部および歯部を形成し、歯幅の中心が軸受孔の軸方向中心より内側になっていたため、歯部が内側に倒れないように歯部間に倒れ防止部を設けていたが、本実施形態1では、歯部131d,132dが内側ではなく外側に倒れようとするので、歯部131d,132d間の倒れ防止部を省略できる。その結果、倒れ防止部の加工作業が不要になるので、加工作業が容易になり、製造コストを低減できると共に、アームおよびジャッキ全体の軽量化を図ることができる。ただし、歯部131d,132d間等に倒れ防止部を残すようにしても良い。
【0019】
また、歯部131d,132dそれぞれの凸部分と凸部分との間の凹部分には、図5〜図7に示すように、それぞれ、軸受孔131a,132a側に突出し、軸受孔131a,132aの反対側には突出しない補強用のビード(リブまたは凹状部ともいう。)131e,132eを複数設ける。なお、ビード131e,132eの凹みの断面形状は、湾曲形状であろうと、V溝形状であろうとその形状は問わず、後述するように周長および断面積を稼ぐように凹んで軸受孔131a,132a側に突出していれば良い。また、後述するようにビード131e,132eは付加的なものであり、省略しても勿論良い。
【0020】
そのため、車両を車両受台10に載せ、ジャッキアップする際、歯部131d,132dに最も大きな負荷が加わるが、歯部131d,132dにはビード131e,132eが設けられ、歯部131d,132dの剛性が向上しているため、ビード131e,132eを設けない場合よりも大きな負荷に耐えることができ、座屈や内側に倒れることを防止する。その結果、この点でも歯部131d,132d間の倒れ防止部を省略することが可能となる。これは、一般に部材の曲げ剛性は、部材の断面係数または断面二次モーメントに比例し、引張または圧縮剛性は、部材の断面積に比例する。さらに、ねじり剛性は、その部材断面の周長と板厚の3乗に比例する。そのため、歯部131d,132dの場合、図7に示すように、その周長(h1+h2)や板厚が大きい程、断面積が大きくなり、その断面係数や断面二次モーメントが大きくなるので、歯部131d,132dの曲げ剛性や、引張または圧縮剛性、さらにはねじり剛性が向上する。そのため、従来は、平板の鋼材からアームの折り曲げ前の状態のブランクをカットする際に、歯部に相当する部分はその寸法より大きくカットしておき、その寸法より大きい部分(余幅部分)を潰す増厚加工を行って歯部の板厚を増大させ、歯部の剛性を増大させていた。ところで、最近は、ジャッキの軽量化のため、板厚の薄い鋼材、特に板厚の薄い高張力鋼板の使用が求められている。しかし、板厚が薄くなるに従い、ブランクのときに余幅部分を潰す増厚加工を行うと増厚部分にシワが発生したり、曲げ等が発生して、設計した通りの形状の歯部が形成されず、歯部同士が正確に噛み合わない状態が生じていた。そこで、本発明では、平板の鋼材から余幅部分を設けてブランクをカットし、そのブランクの余幅部分における歯部の凹部分にビード131e,132eを設けることにより歯部131d,132dの長さh1を長くして、増厚せずに歯部131d,132dの剛性を確保するようにしたものである。
【0021】
ここで、歯部131d,132dの凸部分と凸部分との間の凹部分となる位置にビード131e,132eを設け、その凸部分となる位置に設けない理由は、ビード131e,132eを設けたブランクに対しさらにプレス加工により歯部131d,132dを設ける際に、ビード131e,132eを設けた部分は補強されているので、正確な歯部131d,132dを成形することが困難となるからである。そのため、実施形態1では、歯部131d,132dの凸部分にビードを設けず凹部分にのみ設けるので、正確な歯部131d,132dを容易に成形することが可能となる。また、ブランクにおける余幅部分は、ビードを設ける歯部131d,132dの凹部分にのみ設けるようにすると、凹部分と凸部分の歯幅を揃えることができる。ただし、歯部131d,132dの凸部分にビードを設けても正確な歯部131d,132dを成形可能な場合は、ブランクにおける歯部131d,132dの凹部分と凸部分に余幅部分を確保し、凹部分だけでなく凸部分にもビードを設け、凹部分のビードと凸部分のビードとが連続するようにしても勿論よい。
【0022】
なお、本発明では、歯部を増厚加工するか否かは任意であり、増厚することを否定するものではない。例えば、ブランクにおける歯部131d,132dの凹部分と凸部分に余幅部分を確保し、その歯部の凹部分にビードを設け、凸部分にビードを設けないと、歯部の凸部分の余幅部分がそのまま残り、凹部分と凸部分の歯幅が揃わなくなる。そのため、歯部の凹部分にビードを設けたブランクの段階で、またはその後ブランクを折り曲げてフランジ部131c,132cや歯部131d,132d等を形成した段階で、歯部131d,132dの凸部分の余幅部分のみ増厚加工するようにしても良い。このようにすると、歯部131d,132dの凹部分と凸部分の歯幅を揃えることができる。また、後者の場合は、歯部131d,132d完成後の増厚加工であり、凹部分に既にビードがあるので、薄い鋼材を使用し、凸部分の余幅部分に対し増厚加工を行っても歯部131d,132dの形状にそれほど悪影響を与えることはなく、凸部分の余幅部分に対し増厚加工を行わない場合よりもさらに強度を向上させることができる。
【0023】
特に、このビード131e,132eは、それぞれ、軸受孔131a,132a側、すなわち図7では下方に突出し、軸受孔131aの反対側、すなわち図7では上方に突出しない。そのため、ロアアーム14のY歯部141cおよびX歯部142cとそれぞれ噛み合う場合にも、凸(山)部同士が噛み合うことはなく、凹(窪み)部同士が噛み合うので、凸(山)部同士の噛み合いにより歯同士が横滑りすることもなくなる。その結果、車両を車両受台10に載せ、ジャッキアップする際、X歯部131dおよびY歯部132dに大きな負荷が加わっても、ビード131e,132eにより補強しつつも噛み合い部分における横滑りが発生せず、安定した状態で車両をジャッキアップすることが可能となる。
【0024】
また、本実施形態1では、図6に示すように、フランジ部131c,132cの平坦部にも同様なビード131f,132fを設けている。このビード131f,132fの一端、すなわち図6上右端はそれぞれ軸受孔131a,132aの上部にまで達している一方、他端、すなわち図上左端は底面部133のパイロット孔133bまで及んでいる。そのため、ビード131f,132fにより、ジャッキアップ時最も圧縮力や曲げ応力等の負荷のかかる軸受孔131a,132a付近の平坦なフランジ部131c,132cや、強度が落ちているパイロット孔133b周辺の底面部133を効果的に補強することができる。また、軸受孔131a,132aの左右両側にビード131e,132eとビード131f,132fとが位置するので、この点でも効果的な補強が可能となる。
【0025】
実施形態2.
次に実施形態2のパンタグラフ式ジャッキについて説明する。なお、実施形態1のパンタグラフ式ジャッキとは、ロアアームの軸受孔の形成方法が異なるだけであるので、実施形態2の軸受孔の形成方法について説明する。
【0026】
図8(a)〜(d)は、それぞれ、実施形態2の左側のロアアーム13における軸受孔131aの形成方法を示す図、軸受孔131a,132a部分の端面図である。まず、図8(a)に示すように、平板な金属板の状態におけるロアアーム13の側面部131に相当する部分にパンチ加工等により下孔131a3を形成する。次に、図8(b)に示すように、その下孔131a3を両側面131,132の内側から外側のE方向へ周知の穴広げ冶具(図示せず)等を挿入してバーリング加工して、下孔131a3の直径を拡大すると共に、図上左側の外側に突出する円筒部131a4を形成する。ここまでは、実施形態1のパンタグラフ式ジャッキのロアアーム13と同様である。次に、図8(c)に示すように、円筒部131a4を、E方向とは逆方向であるF方向、すなわち両側面131,132の外側から内側に向かう方向へプレス(加圧)したり、叩く等の潰し加工を行い、外側(図上右側)に押し出すことにより、外側突出部131a1と、内側突出部131a2とを形成している。
【0027】
その結果、すなわち軸受孔131a周囲の強度が向上し、ロアアーム13自体の厚さを薄くして軽量化することができると共に、図8(d)に示すように、軸受孔131a’,132a’の軸方向中心131a1’,132a1’が潰し加工により両側面131,132の内側にさらにオフセットするので、実施形態1の場合よりも、両側面部131,132が外側にさらに倒れ易くなり、両側面部131,132が内側に倒れることをより確実に防止することができる。
【0028】
実施形態3.
次に実施形態3のパンタグラフ式ジャッキについて説明する。なお、実施形態1,2のパンタグラフ式ジャッキとは、ロアアームの軸受孔の形成方法が異なるだけであるので、実施形態3の軸受孔の形成方法について説明する。
【0029】
図9は、実施形態3の左側のロアアーム13における軸受孔131aの軸方向端面図である。図9に示すように、このパンタグラフ式ジャッキの軸受孔131a”,132a”は、パンチ加工により下孔を形成した後、実施形態1,2の軸受孔とは異なり、フランジ部131c,132cの折り曲げ方向とは反対方向、すなわち両側面部131,132の外側から内側に向けて穴広げ冶具を挿入してバーリング加工する。
【0030】
その結果、軸受孔131a”,132a”の軸方向中心131a1”,132a1”が両側面部131,132間に位置するので、実施形態1,2の場合よりも、歯部131d,132dにおける歯幅の中心131d1,132d1と、軸受孔131a”,132a”の軸方向中心131a1”,132a1”とが水平方向にさらに大きくずれることになる。その結果、両側面部131,132が実施形態1,2の場合よりも外側に倒れ易くなり、両側面部131,132が内側に倒れることをより確実に防止することができる。なお、この図9に示す場合でも、軸受孔131a”,132a”の外側から内側に向けて穴広げ冶具を挿入してバーリング加工後、内側から外側への潰し加工により軸受孔131a”,132a”周囲の強度をさらに向上させるようにしても勿論よい。このようにしても、軸受孔131a”,132a”の軸方向中心131a1”,132a1”は、両側面部131,132間に位置しているので、実施形態1,2の場合よりも両側面部131,132が内側に倒れる難くすることができる。
【0031】
なお、上記実施形態1〜3の説明では、アームの両側面部の上端部を外側に向け折り曲げてフランジ部を形成し、そのフランジ部先端にビードが形成された歯部を設けるように説明したが、本発明では、アームの両側面部の上端部を外側に向け折り曲げたフランジ部を形成することが第1の特徴であり、歯部にビードを設けることは付加的な特徴であるので、上記実施形態1〜3においてアームの両側面部の上端部を外側に向け折り曲げてフランジ部を形成するものの、歯部にビードを形成しないようにしても良い。また、図10に示すように、ビード131f,132fをフランジ部先端131c,132cの歯部131d,132dだけでなく、フランジ部131c,132c全体に設けるようにしても良いし、歯部131d,132dのアームの剛性をさらに増大させるため、図11に示すロアアーム13”’のように歯部131d,132dの立ち上がり部分にもビード131g,132gを設けてh1だけでなくh2の長さも長くするようにしても勿論良い。また、上記実施形態1〜3の説明では、下側のロアアーム13,14のみ両側面部の上端部を外側に向けて折り曲げてフランジ部を形成し、そのフランジ部先端にビードが形成された歯部を設けるように説明したが、本発明では、これに限らず、上側のアッパアーム11,12のみを同様に構成するようにしても良いし、上側のアッパアーム11,12および下側のロアアーム13,14双方を同様に構成するようにしても良い。特に、上側のアッパアーム11,12は、ジャッキを折り畳んだ際、下側のロアアーム13,14の中に納まるので、アーム幅が狭く、倒れ防止部の成形が困難であるため、上側のアッパアーム11,12に本発明の構造を採用することは有効である。
【符号の説明】
【0032】
10…車両受台、11,12…アッパアーム、13,13’,13”,13”’,14…ロアアーム、15…台座、16,17…連結軸、18…ネジ部材、19,20,21,22…連結ピン、131,132…両側面部、131a,132a,131a’,132a’,131a”,132a”,131b,132b…軸受孔、131c,132c…フランジ部、131d…X歯部、132d…Y歯部、131e,132e,131f,132f,131g,132g…ビード、133…底面部
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等のジャッキアップに使用されるパンタグラフ式ジャッキのアームおよびパンタグラフ式ジャッキに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パンタグラフ式ジャッキは、例えば、車両受台と、台座と、左右の連結軸により、上部および下部の一対のアームを菱形状に組み、ハンドル部が設けられたネジ部材を左右の連結軸に通して構成されており、ネジ部材を回転させることにより、車両受台を昇降させている(例えば、特許文献1〜3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−13360号公報
【特許文献2】特開2008−13359号公報
【特許文献3】特開平09−240995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、昨今、車両重量全体の軽量化が求められており、車両の装備品であるパンタグラフ式ジャッキ自体の重量もなるべく軽量化が求められ、薄い鋼材を使用して軽量化を図りつつも各種補強を行っている。
【0005】
しかし、特許文献1〜3に記載のパンタグラフ式ジャッキでは、各アームの両側面部の先端部を内側に向けて折り曲げてフランジ部および歯部を形成し、歯幅の中心が軸受孔の軸方向中心より内側になっていたため、車両をジャッキアップする際に歯部に負荷がかかると、各アームの両側面部は内側に倒れようとする。そのため、薄い鋼材を使用したアームの場合、各アームの歯部間に歯部の倒れ防止のための倒れ防止部を設けているが、倒れ防止部を設ける作業の分だけ製造コストがかかると共に、倒れ防止部の分だけ重量が増し、ジャッキ全体が重くなる、という問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、歯部間の倒れ防止部を省略しても、歯部が倒れることを防止することができる、パンタグラフ式ジャッキを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明のパンタグラフ式ジャッキのアームは、車両受台と台座と左右の連結軸に対しそれぞれ軸受孔を介し菱形に組まれ、左右の連結軸に通したネジ部材の回転により屈伸して車両受台を台座に対し昇降させるパンタグラフ式ジャッキのアームであって、長尺状の底面部と、前記底面部の両端部がほぼ直角に折り曲げられ形成された両側面部と、前記両側面部それぞれから外側に向けて折り曲げられ形成されたフランジ部と、前記フランジ部の先端に形成され、対向する反対側のアームと噛み合う歯部とを有し、前記歯部における歯幅の中心が当該歯部側の軸受孔の軸方向中心より外側に位置するように前記歯幅を確保することを特徴とする。
ここで、前記歯部側の軸受孔は、パンチ加工により下孔を形成した後、前記両側面部の内側から外側に向けてバーリング加工により外側に突出させ、かつ、外側から内側に向けての潰し加工により当該歯部側の軸受孔の軸方向中心を内側にオフセットさせるようにすると良い。
また、前記歯部側の軸受孔は、パンチ加工により下孔を形成した後、両側面部の外側から内側に向けてバーリング加工により内側に突出させるようにしても良い。勿論この場合に、さらに潰し加工を行っても良い。
また、前記歯部には、前記軸受孔側に突出し、前記軸受孔の反対側には突出しないビードを設けるようにすると良い。
また、本発明のパンタグラフ式ジャッキは、以上のようなパンタグラフ式ジャッキのアームを、上部一対のアームとして、または下部の一対のアームとして、あるいは上部一対のアームおよび下部の一対のアームとして使用したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、アーム両側面のフランジ部はそれぞれ外側に向けて折り曲げられており、歯部における歯幅の中心が当該歯部側の軸受孔の軸方向中心より外側に位置するように歯幅を確保したため、車両をジャッキアップする際に歯部に負荷がかかると、歯部は外側に倒れようとする。そのため、歯部間の倒れ防止部を省略でき、その作業の分だけ製造コストを低減できると共に、アームおよびジャッキ全体の軽量化を図ることができる。なお、両側面部の歯部は車両受台または台座の両側面部により外側から押えられているので、外側に倒れようとしても問題はない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施形態1のパンタグラフ式ジャッキが最も収縮した状態の正面図である。
【図2】実施形態1のパンタグラフ式ジャッキが最も伸長した状態の正面図である。
【図3】実施形態1のパンタグラフ式ジャッキが最も収縮した状態の平面図である。
【図4】実施形態1のパンタグラフ式ジャッキが最も収縮した状態におけるA−A線断面図である。
【図5】左側のロアアームを正面から見た正面図である。
【図6】左側のロアアームを上方から見た上面図である。
【図7】図4における左側のロアアームのB−B線端面図である。
【図8】実施形態2の左側のロアアームの特徴を示す図である。
【図9】実施形態3の左側のロアアームの特徴を示す図である。
【図10】他のアームの特徴を示す図である。
【図11】さらに他のアームの特徴を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係るパンタグラフ式ジャッキの一実施形態を、添付図面を参照して説明する。
【0011】
実施形態1.
実施形態1のパンタグラフ式ジャッキは、下側の左右一対のロアアームのみ両側面部を外側に折り曲げ、上側のアッパアームは、従来のように両側面部を内側に折り曲げたことを特徴とする。
【0012】
図1は、実施形態1のパンタグラフ式ジャッキが最も収縮した状態の正面図、図2は、このパンタグラフ式ジャッキが最も伸長した状態の正面図、図3は、このパンタグラフ式ジャッキが最も収縮した状態の平面図、図4は、図3のA−A線断面図である。図1〜図4に示すように、実施形態1のパンタグラフ式ジャッキは、車両等を受ける車両受台10と、上端部11a,12aそれぞれに形成された軸受孔にそれぞれ連結ピン19,20が通され車両受台10に上端部11a,12aが回動自在に支持された一対のアッパアーム11,12と、アッパアーム11,12の下端部11b,12bそれぞれに上端部13b,14bが2つの連結軸(メタルともいう。)16,17を介し回動自在に連結された一対のロアアーム13,14と、ロアアーム13,14の下端部13a,14aそれぞれに形成された軸受孔にそれぞれ連結ピン21,22が通され、ロアアーム13,14それぞれを回動自在に支持する台座15と、アッパアーム11,12とロアアーム13,14とを回動自在に連結する2つの連結軸16,17間に挿通されるネジ部材18とを有する。なお、ネジ部材18には、ハンドル部18aが設けられている。
【0013】
このパンタグラフ式ジャッキでは、ネジ部材18を回転させて、アッパアーム11,12とロアアーム13,14とを起立させていくと、車両荷台10も上昇し、図2に示すパンタグラフ式ジャッキが最も伸長した状態になる。その一方、ネジ部材18をその反対方向に回転させると、アッパアーム11,12とロアアーム13,14とは水平状態に倒れていき、車両受台10は下降し、最終的には、図1に示す状態になる。
【0014】
次に、本実施形態1の特徴部分であるロアアーム13,14の構造について詳細に説明する。ただし、ロアアーム13,14は、その形成方法や構造の特徴は共通なので、代表して、図上左側のロアアーム13を一例として説明する。
【0015】
図5〜図7は、それぞれ、ロアアーム13を正面から見た正面図、上方から見た平面図、B−B線端面図である。図5〜図7に示すように、ロアアーム13は、元々は一枚の金属の平板をカットし、軸受孔を開設し、最後に曲げ加工して形成されたもので、両側面部131,132と、底面部133とを有し、両側面部131,132間のアーム倒れ止め部を省略したことを特徴とする。底面部133には、図6に示すように、ロアアーム13の部材を一枚の金属板からカットする際の位置決め用のパイロット孔133a,133bと、重量削減用の開口部133c〜133eが形成されている。なお、これらの孔133a〜133eを設けることは任意である。
【0016】
両側面部131,132の連結軸16側、すなわち図上左側には、連結軸16と連結する軸受孔131b,132bが形成されている一方、両側面部131,132の台座15側、すなわち図上右側には、それぞれ、台座15と連結する連結ピン21が通される軸受孔131a,132aが形成されている。ここで、軸受孔131a,132aは、パンチ加工により下孔を形成した後、図7に示すように、両側面部131,132の内側から外側に向けてバーリング加工により外側に突出させることにより形成する。そして、両側面部131,132の上部には、それぞれ、図6および図7に示すように、両側面部131,132の外側に折り曲げたフランジ部131c,132cを設ける。このため、両側面部131,132におけるフランジ部131c,132cの折り曲げ方向と、軸受孔131a,132aにおけるバーリングの方向が同一方向になるので、加工し易いという利点がある。
【0017】
また、フランジ部131c,132cの台座15側には、図6に示すように、それぞれ、右側のロアアーム14のY歯部またはX歯部に噛み合うX歯部131d,Y歯部132dを設けている。そのため、ロアアーム13,14に同一のロアアームを使用して、台座15に連結しても、ロアアーム13のX歯部131dがロアアーム14のY歯部に噛み合い、かつ、ロアアーム13のY歯部132dがロアアーム14のX歯部に噛み合うことになる。
【0018】
そして、本実施形態1では、図7に示すように、軸受孔131a,132aは両側面部131,132の内側から外側に向けてバーリング加工により外側に突出させるものの、歯部131d,132dにおける歯幅の中心131d1,132d1は、軸受孔131a,132aの軸方向中心131a1,132a1より外側に位置するように歯部131d,132dの歯幅を確保している。そのため、ジャッキアップの際、歯部131d,132dに大きな力が加わると、両側面部131,132は外側に倒れようとする。しかし、台座15が歯部131d,132dを外側から押さえているので、歯部131d,132dの外側への倒れを防止する。そのため、従来は、両側面部を内側に折り曲げてフランジ部および歯部を形成し、歯幅の中心が軸受孔の軸方向中心より内側になっていたため、歯部が内側に倒れないように歯部間に倒れ防止部を設けていたが、本実施形態1では、歯部131d,132dが内側ではなく外側に倒れようとするので、歯部131d,132d間の倒れ防止部を省略できる。その結果、倒れ防止部の加工作業が不要になるので、加工作業が容易になり、製造コストを低減できると共に、アームおよびジャッキ全体の軽量化を図ることができる。ただし、歯部131d,132d間等に倒れ防止部を残すようにしても良い。
【0019】
また、歯部131d,132dそれぞれの凸部分と凸部分との間の凹部分には、図5〜図7に示すように、それぞれ、軸受孔131a,132a側に突出し、軸受孔131a,132aの反対側には突出しない補強用のビード(リブまたは凹状部ともいう。)131e,132eを複数設ける。なお、ビード131e,132eの凹みの断面形状は、湾曲形状であろうと、V溝形状であろうとその形状は問わず、後述するように周長および断面積を稼ぐように凹んで軸受孔131a,132a側に突出していれば良い。また、後述するようにビード131e,132eは付加的なものであり、省略しても勿論良い。
【0020】
そのため、車両を車両受台10に載せ、ジャッキアップする際、歯部131d,132dに最も大きな負荷が加わるが、歯部131d,132dにはビード131e,132eが設けられ、歯部131d,132dの剛性が向上しているため、ビード131e,132eを設けない場合よりも大きな負荷に耐えることができ、座屈や内側に倒れることを防止する。その結果、この点でも歯部131d,132d間の倒れ防止部を省略することが可能となる。これは、一般に部材の曲げ剛性は、部材の断面係数または断面二次モーメントに比例し、引張または圧縮剛性は、部材の断面積に比例する。さらに、ねじり剛性は、その部材断面の周長と板厚の3乗に比例する。そのため、歯部131d,132dの場合、図7に示すように、その周長(h1+h2)や板厚が大きい程、断面積が大きくなり、その断面係数や断面二次モーメントが大きくなるので、歯部131d,132dの曲げ剛性や、引張または圧縮剛性、さらにはねじり剛性が向上する。そのため、従来は、平板の鋼材からアームの折り曲げ前の状態のブランクをカットする際に、歯部に相当する部分はその寸法より大きくカットしておき、その寸法より大きい部分(余幅部分)を潰す増厚加工を行って歯部の板厚を増大させ、歯部の剛性を増大させていた。ところで、最近は、ジャッキの軽量化のため、板厚の薄い鋼材、特に板厚の薄い高張力鋼板の使用が求められている。しかし、板厚が薄くなるに従い、ブランクのときに余幅部分を潰す増厚加工を行うと増厚部分にシワが発生したり、曲げ等が発生して、設計した通りの形状の歯部が形成されず、歯部同士が正確に噛み合わない状態が生じていた。そこで、本発明では、平板の鋼材から余幅部分を設けてブランクをカットし、そのブランクの余幅部分における歯部の凹部分にビード131e,132eを設けることにより歯部131d,132dの長さh1を長くして、増厚せずに歯部131d,132dの剛性を確保するようにしたものである。
【0021】
ここで、歯部131d,132dの凸部分と凸部分との間の凹部分となる位置にビード131e,132eを設け、その凸部分となる位置に設けない理由は、ビード131e,132eを設けたブランクに対しさらにプレス加工により歯部131d,132dを設ける際に、ビード131e,132eを設けた部分は補強されているので、正確な歯部131d,132dを成形することが困難となるからである。そのため、実施形態1では、歯部131d,132dの凸部分にビードを設けず凹部分にのみ設けるので、正確な歯部131d,132dを容易に成形することが可能となる。また、ブランクにおける余幅部分は、ビードを設ける歯部131d,132dの凹部分にのみ設けるようにすると、凹部分と凸部分の歯幅を揃えることができる。ただし、歯部131d,132dの凸部分にビードを設けても正確な歯部131d,132dを成形可能な場合は、ブランクにおける歯部131d,132dの凹部分と凸部分に余幅部分を確保し、凹部分だけでなく凸部分にもビードを設け、凹部分のビードと凸部分のビードとが連続するようにしても勿論よい。
【0022】
なお、本発明では、歯部を増厚加工するか否かは任意であり、増厚することを否定するものではない。例えば、ブランクにおける歯部131d,132dの凹部分と凸部分に余幅部分を確保し、その歯部の凹部分にビードを設け、凸部分にビードを設けないと、歯部の凸部分の余幅部分がそのまま残り、凹部分と凸部分の歯幅が揃わなくなる。そのため、歯部の凹部分にビードを設けたブランクの段階で、またはその後ブランクを折り曲げてフランジ部131c,132cや歯部131d,132d等を形成した段階で、歯部131d,132dの凸部分の余幅部分のみ増厚加工するようにしても良い。このようにすると、歯部131d,132dの凹部分と凸部分の歯幅を揃えることができる。また、後者の場合は、歯部131d,132d完成後の増厚加工であり、凹部分に既にビードがあるので、薄い鋼材を使用し、凸部分の余幅部分に対し増厚加工を行っても歯部131d,132dの形状にそれほど悪影響を与えることはなく、凸部分の余幅部分に対し増厚加工を行わない場合よりもさらに強度を向上させることができる。
【0023】
特に、このビード131e,132eは、それぞれ、軸受孔131a,132a側、すなわち図7では下方に突出し、軸受孔131aの反対側、すなわち図7では上方に突出しない。そのため、ロアアーム14のY歯部141cおよびX歯部142cとそれぞれ噛み合う場合にも、凸(山)部同士が噛み合うことはなく、凹(窪み)部同士が噛み合うので、凸(山)部同士の噛み合いにより歯同士が横滑りすることもなくなる。その結果、車両を車両受台10に載せ、ジャッキアップする際、X歯部131dおよびY歯部132dに大きな負荷が加わっても、ビード131e,132eにより補強しつつも噛み合い部分における横滑りが発生せず、安定した状態で車両をジャッキアップすることが可能となる。
【0024】
また、本実施形態1では、図6に示すように、フランジ部131c,132cの平坦部にも同様なビード131f,132fを設けている。このビード131f,132fの一端、すなわち図6上右端はそれぞれ軸受孔131a,132aの上部にまで達している一方、他端、すなわち図上左端は底面部133のパイロット孔133bまで及んでいる。そのため、ビード131f,132fにより、ジャッキアップ時最も圧縮力や曲げ応力等の負荷のかかる軸受孔131a,132a付近の平坦なフランジ部131c,132cや、強度が落ちているパイロット孔133b周辺の底面部133を効果的に補強することができる。また、軸受孔131a,132aの左右両側にビード131e,132eとビード131f,132fとが位置するので、この点でも効果的な補強が可能となる。
【0025】
実施形態2.
次に実施形態2のパンタグラフ式ジャッキについて説明する。なお、実施形態1のパンタグラフ式ジャッキとは、ロアアームの軸受孔の形成方法が異なるだけであるので、実施形態2の軸受孔の形成方法について説明する。
【0026】
図8(a)〜(d)は、それぞれ、実施形態2の左側のロアアーム13における軸受孔131aの形成方法を示す図、軸受孔131a,132a部分の端面図である。まず、図8(a)に示すように、平板な金属板の状態におけるロアアーム13の側面部131に相当する部分にパンチ加工等により下孔131a3を形成する。次に、図8(b)に示すように、その下孔131a3を両側面131,132の内側から外側のE方向へ周知の穴広げ冶具(図示せず)等を挿入してバーリング加工して、下孔131a3の直径を拡大すると共に、図上左側の外側に突出する円筒部131a4を形成する。ここまでは、実施形態1のパンタグラフ式ジャッキのロアアーム13と同様である。次に、図8(c)に示すように、円筒部131a4を、E方向とは逆方向であるF方向、すなわち両側面131,132の外側から内側に向かう方向へプレス(加圧)したり、叩く等の潰し加工を行い、外側(図上右側)に押し出すことにより、外側突出部131a1と、内側突出部131a2とを形成している。
【0027】
その結果、すなわち軸受孔131a周囲の強度が向上し、ロアアーム13自体の厚さを薄くして軽量化することができると共に、図8(d)に示すように、軸受孔131a’,132a’の軸方向中心131a1’,132a1’が潰し加工により両側面131,132の内側にさらにオフセットするので、実施形態1の場合よりも、両側面部131,132が外側にさらに倒れ易くなり、両側面部131,132が内側に倒れることをより確実に防止することができる。
【0028】
実施形態3.
次に実施形態3のパンタグラフ式ジャッキについて説明する。なお、実施形態1,2のパンタグラフ式ジャッキとは、ロアアームの軸受孔の形成方法が異なるだけであるので、実施形態3の軸受孔の形成方法について説明する。
【0029】
図9は、実施形態3の左側のロアアーム13における軸受孔131aの軸方向端面図である。図9に示すように、このパンタグラフ式ジャッキの軸受孔131a”,132a”は、パンチ加工により下孔を形成した後、実施形態1,2の軸受孔とは異なり、フランジ部131c,132cの折り曲げ方向とは反対方向、すなわち両側面部131,132の外側から内側に向けて穴広げ冶具を挿入してバーリング加工する。
【0030】
その結果、軸受孔131a”,132a”の軸方向中心131a1”,132a1”が両側面部131,132間に位置するので、実施形態1,2の場合よりも、歯部131d,132dにおける歯幅の中心131d1,132d1と、軸受孔131a”,132a”の軸方向中心131a1”,132a1”とが水平方向にさらに大きくずれることになる。その結果、両側面部131,132が実施形態1,2の場合よりも外側に倒れ易くなり、両側面部131,132が内側に倒れることをより確実に防止することができる。なお、この図9に示す場合でも、軸受孔131a”,132a”の外側から内側に向けて穴広げ冶具を挿入してバーリング加工後、内側から外側への潰し加工により軸受孔131a”,132a”周囲の強度をさらに向上させるようにしても勿論よい。このようにしても、軸受孔131a”,132a”の軸方向中心131a1”,132a1”は、両側面部131,132間に位置しているので、実施形態1,2の場合よりも両側面部131,132が内側に倒れる難くすることができる。
【0031】
なお、上記実施形態1〜3の説明では、アームの両側面部の上端部を外側に向け折り曲げてフランジ部を形成し、そのフランジ部先端にビードが形成された歯部を設けるように説明したが、本発明では、アームの両側面部の上端部を外側に向け折り曲げたフランジ部を形成することが第1の特徴であり、歯部にビードを設けることは付加的な特徴であるので、上記実施形態1〜3においてアームの両側面部の上端部を外側に向け折り曲げてフランジ部を形成するものの、歯部にビードを形成しないようにしても良い。また、図10に示すように、ビード131f,132fをフランジ部先端131c,132cの歯部131d,132dだけでなく、フランジ部131c,132c全体に設けるようにしても良いし、歯部131d,132dのアームの剛性をさらに増大させるため、図11に示すロアアーム13”’のように歯部131d,132dの立ち上がり部分にもビード131g,132gを設けてh1だけでなくh2の長さも長くするようにしても勿論良い。また、上記実施形態1〜3の説明では、下側のロアアーム13,14のみ両側面部の上端部を外側に向けて折り曲げてフランジ部を形成し、そのフランジ部先端にビードが形成された歯部を設けるように説明したが、本発明では、これに限らず、上側のアッパアーム11,12のみを同様に構成するようにしても良いし、上側のアッパアーム11,12および下側のロアアーム13,14双方を同様に構成するようにしても良い。特に、上側のアッパアーム11,12は、ジャッキを折り畳んだ際、下側のロアアーム13,14の中に納まるので、アーム幅が狭く、倒れ防止部の成形が困難であるため、上側のアッパアーム11,12に本発明の構造を採用することは有効である。
【符号の説明】
【0032】
10…車両受台、11,12…アッパアーム、13,13’,13”,13”’,14…ロアアーム、15…台座、16,17…連結軸、18…ネジ部材、19,20,21,22…連結ピン、131,132…両側面部、131a,132a,131a’,132a’,131a”,132a”,131b,132b…軸受孔、131c,132c…フランジ部、131d…X歯部、132d…Y歯部、131e,132e,131f,132f,131g,132g…ビード、133…底面部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両受台と台座と左右の連結軸に対しそれぞれ軸受孔を介し菱形に組まれ、左右の連結軸に通したネジ部材の回転により屈伸して車両受台を台座に対し昇降させるパンタグラフ式ジャッキのアームであって、
長尺状の底面部と、
前記底面部の両端部がほぼ直角に折り曲げられ形成された両側面部と、
前記両側面部それぞれから外側に向けて折り曲げられ形成されたフランジ部と、
前記フランジ部の先端に形成され、対向する反対側のアームと噛み合う歯部とを有し、
前記歯部における歯幅の中心が当該歯部側の軸受孔の軸方向中心より外側に位置するように前記歯幅を確保する、
ことを特徴とするパンタグラフ式ジャッキのアーム。
【請求項2】
請求項1記載のパンタグラフ式ジャッキのアームにおいて、
前記歯部側の軸受孔は、パンチ加工により下孔を形成した後、前記両側面部の内側から外側に向けてバーリング加工により外側に突出させ、かつ、外側から内側に向けての潰し加工により当該歯部側の軸受孔の軸方向中心を内側にオフセットさせる、
ことを特徴とするパンタグラフ式ジャッキのアーム。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載のパンタグラフ式ジャッキのアームにおいて、
前記歯部側の軸受孔は、パンチ加工により下孔を形成した後、両側面部の外側から内側に向けてバーリング加工により内側に突出させる、
ことを特徴とするパンタグラフ式ジャッキのアーム。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか一の請求項に記載のパンタグラフ式ジャッキのアームにおいて、
前記歯部には、前記軸受孔側に突出し、前記軸受孔の反対側には突出しないビードを設ける、
ことを特徴とするパンタグラフ式ジャッキのアーム。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか一の請求項に記載のパンタグラフ式ジャッキのアームを、上部一対のアームとして、または下部の一対のアームとして、あるいは上部一対のアームおよび下部の一対のアームとして使用したことを特徴とするパンタグラフ式ジャッキ。
【請求項1】
車両受台と台座と左右の連結軸に対しそれぞれ軸受孔を介し菱形に組まれ、左右の連結軸に通したネジ部材の回転により屈伸して車両受台を台座に対し昇降させるパンタグラフ式ジャッキのアームであって、
長尺状の底面部と、
前記底面部の両端部がほぼ直角に折り曲げられ形成された両側面部と、
前記両側面部それぞれから外側に向けて折り曲げられ形成されたフランジ部と、
前記フランジ部の先端に形成され、対向する反対側のアームと噛み合う歯部とを有し、
前記歯部における歯幅の中心が当該歯部側の軸受孔の軸方向中心より外側に位置するように前記歯幅を確保する、
ことを特徴とするパンタグラフ式ジャッキのアーム。
【請求項2】
請求項1記載のパンタグラフ式ジャッキのアームにおいて、
前記歯部側の軸受孔は、パンチ加工により下孔を形成した後、前記両側面部の内側から外側に向けてバーリング加工により外側に突出させ、かつ、外側から内側に向けての潰し加工により当該歯部側の軸受孔の軸方向中心を内側にオフセットさせる、
ことを特徴とするパンタグラフ式ジャッキのアーム。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載のパンタグラフ式ジャッキのアームにおいて、
前記歯部側の軸受孔は、パンチ加工により下孔を形成した後、両側面部の外側から内側に向けてバーリング加工により内側に突出させる、
ことを特徴とするパンタグラフ式ジャッキのアーム。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか一の請求項に記載のパンタグラフ式ジャッキのアームにおいて、
前記歯部には、前記軸受孔側に突出し、前記軸受孔の反対側には突出しないビードを設ける、
ことを特徴とするパンタグラフ式ジャッキのアーム。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか一の請求項に記載のパンタグラフ式ジャッキのアームを、上部一対のアームとして、または下部の一対のアームとして、あるいは上部一対のアームおよび下部の一対のアームとして使用したことを特徴とするパンタグラフ式ジャッキ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−43726(P2013−43726A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181335(P2011−181335)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(390003447)川▲崎▼工業株式会社 (13)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(390003447)川▲崎▼工業株式会社 (13)
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