説明

パンタグラフ式ジャッキ

【課題】製造効率が良く、かつ、品質の良いパンタグラフ式ジャッキを提供すること。
【解決手段】パンタグラフ式ジャッキでは、ネジ部材18のネジ部18bに、そのネジ山の一部を潰すことにより回転止め部18fを形成したので、ネジ部材18の回転し過ぎを防止できる。また、回転止め部18fはネジ山の一部を潰すことにより形成されているので、ネジ山より高くなることはなく、回転止め部18fを形成した後に、ネジ部材18を操作側連結軸16に通すことが可能となり、アッパアーム11,12とロアアーム13,14とを起立させることなく回転止め部18fを形成することができ、製造工程を簡略化できる。さらに操作側連結軸16等にネジ部材18の径より大きな直径の孔を形成する必要がなくなり、ガタつきにくくなるので、品質の点でも向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等に使用されるパンタグラフ式ジャッキに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のパンタグラフ式ジャッキには、連結された2組のロアアームとアッパアームとを起立させるネジ部材をかしめることにより、そのネジ山より高く突出させて、ネジ部材の回転止め部や抜け止め部としたものがある(例えば、特許文献1〜3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−282199号公報
【特許文献2】特開2001−316084号公報
【特許文献3】特開2000−302383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記背景技術のように、ネジ部材をかしめる等してそのネジ山より高く突出させて回転止め部等を形成するためには、ネジ部材を回転させてアッパアームとロアアームとを起立(上昇)させた後に、ネジ部材をかしめる必要があり、ネジ部材を回転させてアッパアームとロアアームとを起立(上昇)させる時間のかかる工程が必要であると共に、また、ネジ部材をかしめる際、どうしてもアッパアームが邪魔する等、製造効率が悪い、という課題があった。
【0005】
また、ネジ山より高く突出させた回転止め部等を形成した後、操作側の連結軸に通す場合には、操作側の連結軸に、ネジ部材の径より大きな直径の孔を形成しなければならず、後からその隙間を埋めたり、その隙間によりガタつき易い等、品質の点でも課題があった。
【0006】
そこで、本発明は、製造効率が良く、かつ、品質の良いパンタグラフ式ジャッキを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明のパンタグラフ式ジャッキは、車両等を下方から受ける車両受台と、前記車両受台に上端部が回動自在に支持された一対のアッパアームと、前記一対のアッパアームの下端部それぞれに上端部が2つの連結部を介し回動自在に連結された一対のロアアームと、前記一対のロアアームの下端部のそれぞれを回動自在に支持する台座と、前記一対のアッパアームと前記一対のロアアームとを回動自在に連結する2つの前記連結軸に対し、ハンドル部が設けられネジ山が形成されてない基部側では回転自在に配設される一方、ネジ山が形成されたネジ部では螺合して、その回転により前記一対のアッパアームと前記一対のロアアームとを屈伸させて前記車両荷台を昇降させるネジ部材と、を有するパンタグラフ式ジャッキであって、前記ネジ部材の前記ネジ部に、そのネジ山の一部を潰すことにより回転止め部を形成したことを特徴とするパンタグラフ式ジャッキである。
ここで、前記パンタグラフ式ジャッキにおいて、前記一対のアッパアームのうち、少なくとも前記ネジ部材のハンドル側のアッパアーム下端部には、前記ネジ部材の基部側表面の一部を覗く開口部が形成されており、前記開口部から前記ネジ部材の基部側表面の一部をかしめることにより、前記連結軸からの抜けを防止するための抜け止め部を形成したことを特徴とするパンタグラフ式ジャッキとしても良い。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ネジ部材のネジ部に、そのネジ山の一部を潰すことにより回転止め部を形成したので、回転止め部によりネジ部材の回転し過ぎを防止できると共に、回転止め部は、ネジ山の一部を潰すことにより形成されているので、ネジ山より高くなることはなくなり、ネジ部材のネジ部に回転止め部を形成した後に、ネジ部材を操作側の連結軸に通すことが可能となり、アッパアームとロアアームとを起立させることなく回転止め部を形成することができ、製造工程を簡略化することができると共に、操作側の連結軸にネジ部材の径より大きな直径の孔を形成する必要がなくなり、品質の点でも向上する。
また、一対のアッパアームの下端部には、ネジ部材の基部側表面の一部を覗く開口部を形成し、一対のアッパアームと一対のロアアームとを起立させることなく収縮させた状態で、開口部からネジ部材の基部側表面の一部をかしめることにより、連結軸からの抜け止め部を形成した場合には、アッパアームとロアアームとを起立させることなく抜け止め部を形成することができるので、この点でも、製造工程を簡略化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施形態のパンタグラフ式ジャッキが最も収縮した状態の正面図である。
【図2】本実施形態のパンタグラフ式ジャッキが最も伸長した状態の正面図である。
【図3】本実施形態のネジ部材の断面を示す断面図である。
【図4】本実施形態のネジ部材の回転止め部が作動側連結軸にあたり、アッパアームとロアアームの伸長が限界に達した状態を示す部分詳細断面図である。
【図5】(a),(b)、それぞれ、図3における、抜け止め部および回転止め部のA−A線断面図、B−B線断面図である。
【図6】回転止め部の拡大図である。
【図7】本実施形態のパンタグラフ式ジャッキが最も収縮した状態の上面図である。
【図8】図7に示す操作側連結軸16近傍の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係るパンタグラフ式ジャッキの一実施形態を添付図面を参照しながら詳細に説明する。
【0011】
図1は、本実施形態のパンタグラフ式ジャッキが最も収縮した状態の正面図、図2は、本実施形態のパンタグラフ式ジャッキが最も伸長した状態の正面図である。
【0012】
図1および図2において、本実施形態のパンタグラフ式ジャッキ1は、車両等を下方から受ける車両受台10と、車両受台10に上端部11a,12aが回動自在に支持された一対のアッパアーム11,12と、一対のアッパアーム11,12の下端部11b,12bにそれぞれ上端部13b,14bが2つの連結軸16,17を介し回動自在に連結された一対のロアアーム13,14と、一対のロアアーム13,14の下端部13a,14aのそれぞれを回動自在に支持する台座15と、一対のアッパアーム11,12と一対のロアアーム13,14とを回動自在に連結する2つの連結軸16,17間に挿通されるネジ部材18と、を有する。なお、2つの連結軸16,17のうち、ネジ部材18のハンドル部18aに近い側を、操作側連結軸16と呼び、ネジ部材18のハンドル部18aに遠い側、すなわちネジ部材18先端に近い側を、作動側連結軸17と呼ぶ。
【0013】
図3は、本実施形態1のネジ部材18の一例を示している
【0014】
図3に示す本実施形態1のネジ部材18において、18bはネジ山18b1が形成されたネジ部である。ここで、ハンドル部18aが設けられ、ネジ部18bが形成されてないネジ部材18の基部側は、ハンドル部18aと操作側連結軸16との間に、スラストベアリング18c、ワッシャ18d1〜18d3等が設けられており、操作側連結軸16に回転自在に支持されている。
【0015】
図3に示す本実施形態1において、操作側連結軸16に対しワッシャ18d1〜18d3の反対側のネジ部材18には、ネジ部材18の表面をかしめることにより、抜け止め部18eが形成されている。なお、この抜け止め部18eの形成の仕方については、後述する。
【0016】
また、ネジ部材18のネジ部18bには、そのネジ山18b1の一部を潰すことにより回転止め部18fが形成されている。
【0017】
これにより、本実施形態のパンタグラフ式ジャッキ1では、ネジ部材18を回転させて、一対のアッパアーム11,12とロアアーム13,14とを起立、すなわち伸長させて車両荷台10を上昇させていくと、図4に示すように、回転止め部18fが作動側連結軸17に当たることにより、回転が止まり、ネジ部材18の回転し過ぎを防止する。なお、この図4に示す状態は、図2に示すパンタグラフ式ジャッキ1が最も伸長した状態と同じである。
【0018】
また、ネジ部材18をその反対方向に回転させれば、一対のアッパアーム11,12とロアアーム13,14とは水平状態になるように倒れて、車両受台10は下降していき、最終的には、図1に示すパンタグラフ式ジャッキ1が最も収縮した状態になる。
【0019】
図5(a),(b)は、それぞれ、図3における、抜け止め部18eおよび回転止め部18fのA−A線断面図、B−B線断面図である。
【0020】
図5(a),(b)とを比較すると明らかだが、図5(a)に示す回転止め部18fは、ネジ部18bのネジ山18b1をかしめて潰しているものの、図6に示すように潰したネジ山部分がネジ溝18b2部分に移動するように形成し、ネジ山18b1の高さより高く形成していない。
【0021】
これにより、あらかじめネジ部18bに回転止め部18fを形成しておいても、スラストベアリング18cや、ワッシャ18d1〜18d3、操作側連結軸16には、従来と同じ程度のネジ山18b1が通る程度の透孔を設けておけば十分である。その結果、回転止め部18fを設けても、操作側連結軸16に、ネジ部材18bのネジ山18b1の径より大きな直径の透孔を形成する必要はなくなり、後からネジ部材18bと透孔との間の隙間を埋めたり、その隙間によりガタつくことを防止することができ、品質の点で向上する。また、ネジ部18bのネジ山18b1をかしめて潰することにより、回転止め部18fを形成しているので、ネジ部の終端で回転を止めるより、回転止め部分の強度が増している。
【0022】
これに対し、図5(b)に示す抜け止め部18eはネジ部材18の表面周囲をかしめ、ネジ部18bの一部18e1,18e2を高く形成している。これにより、操作側連結軸16からの抜け止めを図っている。
【0023】
ここで、抜け止め部18eおよび回転止め部18fは、図5(a),(b)に示すように、ネジ部材18の表面周囲に、ネジ部材18の中心軸に対し同じ角度で、かつ、90度間隔で4箇所設けられている。なお、図5(a),(b)等では、ネジ部材18表面周囲それぞれに形成された4つの抜け止め部18eおよび回転止め部18fは、共に、ネジ部材18の中心軸に対し同じ角度、すなわち図5では、鉛直軸に対し45度、135度、225度、315度の位置に形成されているが、異なる角度、すなわち無方位に形成されていてもよい。また、抜け止め部18eおよび回転止め部18fは、それぞれ、ネジ部材18の表面周囲に、4か所でなく、2か所でも、3か所でも、さらには、5か所以上設けるようにしても勿論良く、要は、回転止め部18fの高さが、ネジ山18b1の高さより高くならないように形成すれば良い。
【0024】
図6は、本実施形態の回転止め部18fの拡大図である。
【0025】
図6に示すように。回転止め部18fは、ネジ部18bのネジ山18b1を潰して形成することにより、ネジ山18b1部分の金属がネジ溝18b2のほうへ移動して、回転止め部18fでは、ネジ溝18b2が細く、乃至はなくなることにより、操作側連結軸16の挿通孔に設けられたメスネジ部にあたり、回転止めの機能を果たしている。
【0026】
図7は、本施形態のパンタグラフ式ジャッキが最も収縮した状態を上から見た上面図、図8は、その操作側連結軸16近傍の拡大図である。
【0027】
図7および図8から明らかように、、一対のアッパアーム11,12のうちハンドル部18a側、すなわち図7上右側のアッパアームの12の下端部12bには、上方からネジ部材18の基部側表面の一部を覗く開口部12cが形成されている。
【0028】
そのため、本実施形態では、一対のアッパアーム11,12と、一対のロアアーム13,14とを起立(伸長)させることなく、収縮させた状態で、開口部12cからネジ部材18の基部側表面の一部をかしめることにより、操作側連結軸16からの抜け止め部18eを形成している。これにより、アッパアーム11,12とロアアーム13,14とを起立させることなく抜け止め部18eを形成することができるので、この点でも、製造工程を簡略化することができる。
【0029】
なお、本実施形態では、図7に示すように、図7上左側のアッパアームの11の下端部11bにも、アッパアームの12の下端部12bと同様に、開口部11cを形成している。これにより、一対のアッパアーム11,12が、左右同一形状となり、同一形状のアッパアームを左右で共用することができるので、一対のアッパアーム11,12の製造型やパターンを減らすことができると共に、開口部11c,12cの数が増えることにより軽量化も図ることができる。また、図7や図8に示すように、一対のロアアーム13,14の下端部13a,14aにも、同様な開口部を形成して、左右同一形状とし、同一形状のロアアームを左右で共用すると共に、軽量化を図るようにしてもよい。ただし、本発明では、一対のアッパアーム11,12のうちハンドル部18a側、すなわち図7上右側のアッパアームの12の下端部12bにのみ、開口部12cが形成されていれば、十分である。
【0030】
従って、本実施形態のパンタグラフ式ジャッキ1では、ネジ部材18のネジ部18bに、そのネジ山18b1の一部を潰すことにより回転止め部18fを形成したので、回転止め部18fによりネジ部材18の回転し過ぎを防止できると共に、回転止め部18fは、ネジ山18b1の一部を潰すことにより形成されているので、ネジ山18b1より高くなることはなくなり、ネジ部材18のネジ部18bに回転止め部18fを形成した後に、ネジ部材18を操作側連結軸16に通すことが可能となり、アッパアーム11,12とロアアーム13,14とを起立させることなく回転止め部18fを形成することができ、製造工程を簡略化することができる。
【0031】
また、本実施形態のパンタグラフ式ジャッキ1では、回転止め部18fは、ネジ山18b1の一部を潰すことにより形成し、ネジ山18b1より高くなることはなくなるので、ネジ部材18に回転止め部18fを形成した後に、操作側連結軸16やスラストベアリング18c等の透孔に通す場合でも、操作側連結軸16やスラストベアリング18c等にネジ部材18の径より大きな直径の孔を形成する必要がなくなり、ガタつき等も防止できるので、品質の点でも向上する。
【0032】
さらに、本実施形態のパンタグラフ式ジャッキ1では、ハンドル部18aとなるアッパアーム12の下端部には、ネジ部材18の基部側表面の一部を覗く開口部12cが形成されており、一対のアッパアーム11,12と一対のロアアーム13,14とを起立させることなく、ほぼ水平に倒した状態で、開口部12cからネジ部材18の基部側表面の一部をかしめることにより、操作側連結軸16からの抜け止めを行う抜け止め部18eを形成したので、アッパアーム11,12とロアアーム13,14とを起立(上昇)させることなく抜け止め部18eを形成することができ、この点でも、製造工程を簡略化することができる。
【符号の説明】
【0033】
1 パンタグラフ式ジャッキ
10 車両受台
11,12 アッパアーム
12c 開口部
13,14 ロアアーム
15 台座
16,17 連結軸(操作側連結軸、作動側連結軸)
18 ネジ部材
18a ハンドル部
18b ネジ部
18b1 ネジ山
18b2 ネジ溝
18e 抜け止め部
18f 回転止め部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両等を下方から受ける車両受台と、
前記車両受台に上端部が回動自在に支持された一対のアッパアームと、
前記一対のアッパアームの下端部それぞれに上端部が2つの連結軸を介し回動自在に連結された一対のロアアームと、
前記一対のロアアームの下端部のそれぞれを回動自在に支持する台座と、
前記一対のアッパアームと前記一対のロアアームとを回動自在に連結する2つの前記連結軸に対し、ハンドル部が設けられネジ山が形成されてない基部側では回転自在に配設される一方、ネジ山が形成されたネジ部では螺合して、その回転により前記一対のアッパアームと前記一対のロアアームとを屈伸させて前記車両荷台を昇降させるネジ部材と、
を有するパンタグラフ式ジャッキであって、
前記ネジ部材の前記ネジ部に、そのネジ山の一部を潰すことにより回転止め部を形成したことを特徴とするパンタグラフ式ジャッキ。
【請求項2】
請求項1記載のパンタグラフ式ジャッキにおいて、
前記一対のアッパアームのうち、少なくとも前記ネジ部材のハンドル側のアッパアーム下端部には、前記ネジ部材の基部側表面の一部を覗く開口部が形成されており、
前記開口部から前記ネジ部材の基部側表面の一部をかしめることにより、前記連結軸からの抜けを防止するための抜け止め部を形成したことを特徴とするパンタグラフ式ジャッキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−116474(P2011−116474A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−273416(P2009−273416)
【出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【出願人】(390003447)川▲崎▼工業株式会社 (13)