パンタグラフ式ジャッキ
【課題】組み立て後に塗装する場合でも、塗装が行き渡り、しかも軽量化も図ることができるパンタグラフ式ジャッキを提供すること。
【解決手段】パンタグラフ式ジャッキ1では、車両受台10と連結される一対のアッパアーム11,12上端部の連結ピン挿通孔、および台座15と連結される一対のロアアーム13,14下端部の連結ピン挿通孔は、下孔形成後、その下孔をバーリング加工してアッパアーム11,12およびロアアーム13,14の内側に突出する円筒部132a4を形成し、その円筒部をアッパアーム11,12およびロアアーム13,14の内側から外側へ押し出すコイニング加工(潰し加工)をすることにより、円筒部132a4の基部をアッパアーム11,12およびロアアーム13,14の外側に突出させて外側突出部132a2を形成した。
【解決手段】パンタグラフ式ジャッキ1では、車両受台10と連結される一対のアッパアーム11,12上端部の連結ピン挿通孔、および台座15と連結される一対のロアアーム13,14下端部の連結ピン挿通孔は、下孔形成後、その下孔をバーリング加工してアッパアーム11,12およびロアアーム13,14の内側に突出する円筒部132a4を形成し、その円筒部をアッパアーム11,12およびロアアーム13,14の内側から外側へ押し出すコイニング加工(潰し加工)をすることにより、円筒部132a4の基部をアッパアーム11,12およびロアアーム13,14の外側に突出させて外側突出部132a2を形成した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等に使用されるパンタグラフ式ジャッキに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パンタグラフ式ジャッキは、車両受台と、台座と、左右の連結軸により、2組のロアアームとアッパアームとを菱形状に組み、ハンドル部が設けられたネジ部材を左右の連結軸に通して構成されており、ネジ部材を回転させることにより、車両受台を昇降させている(例えば、特許文献1〜3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−282199号公報
【特許文献2】特開2001−316084号公報
【特許文献3】特開2000−302383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記背景技術等のものでは、塗装や塗装の仕上がりについては、何ら開示されてなく、パンタグラフ式ジャッキを完全に組み立て後に塗装すると、ロアアームとアッパアームとを連結する連結部分等において十分な隙間がないと、塗装が連結部やその周囲に行き渡らず、塗装仕上げの点で課題があった。
【0005】
特に、完成したパンタグラフ式ジャッキを起立(伸長)させず、上下方向に収縮させた状態では、ロアアームとアッパアームとの間や、車両受台と台座との間に、空間もほとんどないので、この状態で塗装を行った場合には、車両受台と一対のアッパアーム上端部の連結部分や、台座と一対のロアアーム下端部の連結部分に塗装が行き渡らず、塗装仕上げの点で課題が発生する一方、アッパアームとロアアームとを起立(上昇)させた状態で塗装したのでは、その起立させる工程が必要であり、製造効率が悪い、という課題があった。
【0006】
また、昨今、車両重量全体の軽量化が求められており、車両の装備品であるパンタグラフ式ジャッキ自体の重量もなるべく軽量化が求められていた。
【0007】
そこで、本発明は、組み立て後に塗装する場合でも、塗装が行き渡り、しかも軽量化も図ることができるパンタグラフ式ジャッキを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明のパンタグラフ式ジャッキは、車両等を下方から受ける車両受台と、上端部に形成された連結ピン挿通孔に連結ピンが通され前記車両受台に回動自在に支持された一対のアッパアームと、前記一対のアッパアームの下端部それぞれに上端部が2つの連結軸を介し回動自在に連結された一対のロアアームと、前記一対のロアアーム下端部それぞれに形成された連結ピン挿通孔に連結ピンが通され、前記一対のロアアームを回動自在に支持する台座と、前記一対のアッパアームと前記一対のロアアームとを回動自在に連結する2つの前記連結軸に対し、ハンドル部が設けられネジ山が形成されてない基部側では回転自在に配設される一方、ネジ山が形成されたネジ部では螺合して、その回転により前記一対のアッパアームと前記一対のロアアームとを屈伸させて前記車両荷台を昇降させるネジ部材と、を有するパンタグラフ式ジャッキであって、前記一対のアッパアーム上端部および前記一対のロアアーム下端部の連結ピン挿通孔は、下孔形成後、その下孔周囲をバーリング加工して前記アッパアームおよび前記ロアアームの内側に突出する円筒部を形成し、その円筒部を前記アッパアームおよび前記ロアアームの内側から外側へ押し出すコイニング加工することにより、前記円筒部の基部を前記アッパアームおよび前記ロアアームの外側に突出させて形成したことを特徴とするパンタグラフ式ジャッキである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、車両受台と連結される一対のアッパアーム上端部の連結ピン挿通孔、および台座と連結される一対のロアアーム下端部の連結ピン挿通孔は、下孔形成後、その下孔周囲をバーリング加工して前記アッパアームおよび前記ロアアームの内側に突出する円筒部を形成し、その円筒部を前記アッパアームおよび前記ロアアームの内側から外側へ押し出すコイニング加工(潰し加工)することにより、前記円筒部の基部を前記アッパアームおよび前記ロアアームの外側に突出させて形成したので、車両受台と一対のアッパアーム上端部の連結部分、および台座と一対のロアアーム下端部の連結部分に隙間ができ、パンタグラフ式ジャッキの組み立て後に塗装する場合でも、それらの連結部分に塗装が行き渡りやすくなり、外観塗装の面で品質が向上する。
また、バーリング加工後に形成した円筒部をアッパアームおよびロアアームの内側から外側へ押し出すコイニング加工(潰し加工)により円筒部の基部を外側に突出させているので、車両受台と連結される一対のアッパアーム上端部の連結ピン挿通孔、および台座と連結される一対のロアアーム下端部の連結ピン挿通孔は、単にバーリング加工や、連結ピンの挿通孔を形成した場合よりも強度が向上し、その結果、アッパアームおよびロアアームの金属板を薄くすることができるので、パンタグラフ式ジャッキ全体の軽量化も図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態のパンタグラフ式ジャッキが最も収縮した状態の正面図である。
【図2】本実施形態のパンタグラフ式ジャッキが最も伸長した状態の正面図である。
【図3】本実施形態のパンタグラフ式ジャッキが最も収縮した状態の上面図である。
【図4】左側のロアアームを上方から見た上面図である。
【図5】左側のロアアームを下方から見た底面図である。
【図6】左側のロアアームを正面から見た正面図である。
【図7】図4における左側のロアアームのA−A線断面図である。
【図8】左側のロアアームを右方向から見た右側面である。
【図9】(a),(b)それぞれ、図4における左側のロアアームのB−B線端面図、C−C線端面図である。
【図10】(a)〜(c)それぞれ、左側のロアアームにおける連結ピン挿通孔の形成方法を示す図である。
【図11】図9(a)における連結ピン挿通孔周囲のD部分の拡大断面図である。
【図12】図1におけるG−G線断面図である。
【図13】図12におけるH部分の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係るパンタグラフ式ジャッキの一実施形態を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
【0012】
図1は、本実施形態のパンタグラフ式ジャッキが最も収縮した状態の正面図、図2は、本実施形態のパンタグラフ式ジャッキが最も伸長した状態の正面図、図3は、本実施形態のパンタグラフ式ジャッキが最も収縮した状態の上面図である。
【0013】
図1および図2において、本実施形態のパンタグラフ式ジャッキ1は、車両等を下方から受ける車両受台10と、上端部11a,12aそれぞれに形成された連結ピン挿通孔にそれぞれ連結ピン19,20が通され車両受台10に上端部11a,12aが回動自在に支持された一対のアッパアーム11,12と、、一対のアッパアーム11,12の下端部11b,12bにそれぞれ上端部13b,14bが2つの連結軸16,17を介し回動自在に連結された一対のロアアーム13,14と、一対のロアアーム13,14の下端部13a,14aそれぞれに形成された連結ピン挿通孔にそれぞれ連結ピン21,22が通され、一対のロアアーム13,14それぞれを回動自在に支持する台座15と、一対のアッパアーム11,12と一対のロアアーム13,14とを回動自在に連結する2つの連結軸16,17間に挿通されるネジ部材18と、を有する。なお、2つの連結軸16,17のうち、ネジ部材18のハンドル部18aに近い側を、操作側連結軸16と呼び、ネジ部材18のハンドル部18aに遠い側、すなわちネジ部材18のネジ部18b先端に近い側を、作動側連結軸17と呼ぶ。
【0014】
本実施形態のパンタグラフ式ジャッキ1では、ネジ部材18を回転させて、一対のアッパアーム11,12とロアアーム13,14とを起立、すなわち伸長させて車両荷台10を上昇させていくと、図2に示すパンタグラフ式ジャッキ1が最も伸長した状態になる。その一方、ネジ部材18をその反対方向に回転させれば、一対のアッパアーム11,12とロアアーム13,14とは水平状態になるように倒れて、車両受台10は下降していき、最終的には、図1または図3に示す状態になる。
【0015】
次に、本発明の特徴部分である、一対のアッパアーム11,12の上端部11a,12a、および一対のロアアーム13,14の下端部13a,14aそれぞれに形成された連結ピン挿通孔について説明する。ただし、これら一対のアッパアーム11,12の上端部11a,12a、および一対のロアアーム13,14の下端部13a,14aそれぞれに形成された連結ピン挿通孔の形成方法や構造の特徴は、共通なので、代表して、図上左側のロアアーム13の下端部13aに形成された連結ピン挿通孔131a,132aを一例として説明する。
【0016】
図4は、左側のロアアーム13を上方から見た上面図、図5は、左側のロアアーム13を下方から見た底面図、図6は、左側のロアアーム13を正面から見た正面図、図7は、左側のロアアーム13の図4に示すA−A線断面図、図8は、左側のロアアーム13を右方向から見た右側面である。
【0017】
図4〜図8に示すように、左側のロアアーム13は、元々は一枚の金属の平板をカットし、孔開けのためパンチ加工し、バーリング加工やコイニング加工、そして最後に曲げ加工等して形成されたもので、正側面131と、後側面132と、底面133と、アーム倒れ止め部134とを有する。
【0018】
底面133には、図4,図5に示すように、ロアアーム13の部材を一枚の金属板からカットする際のパイロット孔孔133a,133bが形成されている。また、底面133とアーム倒れ止め部134との間の折り曲げ部には、ロアアーム13内側に突出する凹み部135が形成されている。つまり、凹み部135の図5に示すロアアーム13外側は、凹んでいる一方、図4に示すロアアーム13内側は、突出している。
【0019】
一方、ロアアーム13の正側面131には、図6に示すように、ロアアーム13上端部13a側、すなわち図上右側に、台座15との連結の際に連結ピン21が通される、本実施形態の特徴の一つである連結ピン挿通孔131aが設けられる一方、ロアアーム13下端部13b側、すなわち図上左側に、連結軸17が通される連結軸挿通小孔131bが設けられる。また、ロアアーム13上端部13a側には、さらに、後述する後側面132のY歯形132cに噛み合うX歯形131cが設けられている。さらに、正側面131の中央に、ロアアーム13の長手方向に伸び、外側(図上、手前側)に突出する補強用のリブ131dが形成されている。
【0020】
一方、ロアアーム13の後側面132には、図7に示すように、ロアアーム13上端部13a側、すなわち図上右側に、台座15との連結の際に連結ピン21が通される、本実施形態の特徴の一つである連結ピン挿通孔132aが設けられる一方、ロアアーム13下端部13b側、すなわち図上左側に、連結軸17が通される連結軸挿通大孔132bが設けられる。なお、連結軸挿通小孔131bと、連結軸挿通大孔132bとで、孔の直径が異なるのは、連結軸17先端の外径より、連結軸17基部との外径の方が大きいからである。また、ロアアーム13上端部13a側には、さらに、正側面131のX歯形131cに噛み合うY歯形132cが設けられている。さらに、後側面132の中央に、ロアアーム13の長手方向に伸び、外側(図上、後方側)に突出する補強用のリブ132dが形成されている。
【0021】
このように、正側面131に設けたX歯形131cと、後側面132に設けたY歯形132cとを噛み合うようにすることにより、図1や図2等に示すように、一対のロアアーム13,14とに同一のものを使用して、台座15に連結した場合、ロアアーム13,14として同じものを使用しても、お互い対向するように連結することにより、X歯形とY歯形とが噛み合うことになる。これにより、ロアアーム13,14として同じものを使用することが可能となるので、ロアアーム13,14を製造する際の製造型やパターンを減らすことができ、製造コストを削減することができる。
【0022】
アーム倒れ止め部134は、正側面131と、後側面132の倒れを防止するため、図4〜図8に示すように、正側面131と後側面132との間に介在するまで折り曲げて形成されたもので、図8から明らかなように、正側面131に設けたX歯形131cと、後側面132に設けたY歯形132cの歯形に合わせて、図8上、左右上端部の長さが異なっている。
【0023】
図9(a),(b)は、それぞれ、図6における左側のロアアーム13のB−B線端面図、C−C線端面図である。
【0024】
つまり、図9(a)は、図6における左側のロアアーム13のB−B線端面、すなわち連結ピン挿通孔131a,132aをB−B線により切断した端面を示している。また、図9(b)は、図4における左側のロアアーム13のC−C線端面、すなわちロアアーム13の側面131,132に形成されたリブ131d,132dをC−C線により切断した端面を示している。
【0025】
本実施形態では、図9(a),(b)に示すように、リブ131d,132dの下端を、連結ピン挿通孔131a,132aの中心線とほぼ同じ高さにして、図上、リブ131d,132dの高さを連結ピン挿通孔131a,132aより高くすることにより、ロアアーム13の側面131,132全体の強度を向上させている。つまり、連結ピン挿通孔131a,132aのバーリング加工とコイニング加工(潰し加工)とにより、ロアアーム13の側面131,132における連結ピン挿通孔131a,132aの高さ部分の強度は増しているものの、ロアアーム13の側面131,132における底面133から遠い部分の強度は落ちているので、リブ131d,132dの高さを連結ピン挿通孔131a,132aより高くして形成することにより、ロアアーム13の側面131,132を強度を向上させている。なお、これはあくまで一例であり、リブ131d,132dの高さはこれに限定されるものではなく、さらには、リブ131d,132d自体も省略しても、数を増やすようにしても良い。
【0026】
図10(a)〜(c)は、それぞれ、左側のロアアーム13における連結ピン挿通孔132aの形成方法を示す図である。
【0027】
まず、図10(a)に示すように、平板な金属板の状態で、ロアアーム13の正側面132に相当する部分に、パンチ加工等により下孔132a3を形成する。
【0028】
次に、図10(b)に示すように、その下孔132a3をE方向から周知の孔広げ冶具(図示せず)等を挿入してバーリング加工して、下孔132a3の直径を拡大すると共に、内側(図上、右側)に突出する円筒部132a4を形成する。
【0029】
そして、図10(c)に示すように、円筒部132a4を、E方向とは逆方向であるF方向からプレス(加圧)したり、叩く等のコイニング加工(潰し加工)を行い、外側(図上右側)に押し出すことにより、内側突出部132a1と、外側突出部132a2とを形成している。
【0030】
このように、その下孔132a3をE方向に冶具等を挿入してバーリング加工して円筒部132a4を形成後、その円筒部132a4をバーリング加工したE方向とは逆方向のF方向にプレス(加圧)や叩く等のコイニング加工(潰し加工)して押し出すことにより、外側突出部132a2を形成したので、外側面132e2と、外側突出部132a2端面との間に隙間が生じ、図1〜図3に示すように、ロアアーム13を台座15に組み付けた後も、台座15内側面とロアアーム13の外側面132e2との間に隙間が生じることになり、組み立て後に吹き付け塗装しても、その隙間に塗装が行き渡り易くなる。
【0031】
また、下孔132a3をバーリング加工して円筒部132a4を形成後、その円筒部132a4をバーリング加工したE方向とは逆方向のF方向にプレス(加圧)したり、叩く等してコイニング加工(潰し加工)して押し出し、外側突出部132a2を形成しているので、内側突出部132a1と、外側突出部132a2の強度、すなわち連結ピン挿通孔132aの強度が向上しており、ロアアーム13自体の厚さを薄くして軽量化することができる。
【0032】
なお、ロアアーム13と同様に、ロアアーム14や、アッパアーム11,12にも、連結ピン挿通孔を形成すするので、以上と同様のことが、ロアアーム14と台座15との関係でも、さらには、アッパアーム11,12と車両受台10との関係でも成立する。
【0033】
図11は、図9(a)における連結ピン挿通孔132a周囲のD部分の拡大断面図である。
【0034】
図11に示すように、図9(a)における連結ピン挿通孔132aは、ロアアーム13の内側面132e2より内側(図上、左側)に突出する内側突出部132a1と、ロアアーム13の外側面132e2より外側(図上、右側)に突出する外側突出部132a2とを有する。
【0035】
ここで、本実施形態では、図10、図11から明らかなように、下孔132a3をE方向に冶具等を挿入してバーリング加工して円筒部132a4を形成後、その円筒部132a4をバーリング加工したE方向とは逆方向のF方向にコイニング加工(潰し加工)して押し出すことにより、外側突出部132a2を形成したので、ロアアーム132の外側面132e2と外側突出部132a2との間は、角のない、滑らかに傾斜した裾野部132a5となる。そのため、台座15内側面とロアアーム13の外側面132e2との間の隙間が狭くても、より確実に裾野部132a5に塗装が行き渡ることになり、塗装品質が向上する。
【0036】
また、本実施形態では、図11に示すように、内側面132e1に対する内側突出部132a1の突出距離d1を、外側面132e2に対する外側突出部132a2の突出距離d2より大きくしているが、内側面132e1に対する内側突出部132a1の突出距離d1より、外側面132e2に対する外側突出部132a2の突出距離d2の方を大きくして、台座15の内側面との間の隙間をより大きくするようにしても良い。このように、台座15内側面とロアアーム13の外側面132e2との間の隙間をより大きくすれば、より確実にその隙間に塗装が行き渡り易くなる。
【0037】
図12は、図1におけるG−G線断面図、図13は、図12におけるH部分の拡大図である。
【0038】
図12、図13からも明らかなように、ロアアーム13を台座15に組み付けた後も、連結ピン挿通孔132aの外側突出部132a2により、台座15の内側面15a2と、ロアアーム13の外側面132e2との間に、隙間が生じることになり、吹き付け塗装しても、その隙間に塗装が行き渡り易いことがわかる。
【0039】
従って、本実施形態のパンタグラフ式ジャッキ1では、車両受台10と連結される一対のアッパアーム11,12上端部の連結ピン挿通孔、および台座15と連結される一対のロアアーム13,14下端部の連結ピン挿通孔は、下孔形成後、その下孔周囲をバーリング加工してアッパアーム11,12およびロアアーム13,14の内側に突出する円筒部を形成し、その円筒部をアッパアーム11,12およびロアアーム13,14の内側から外側へ押し出すコイニング加工(潰し加工)をすることにより、円筒部の基部をアッパアーム11,12およびロアアーム13,14の外側に突出させて形成したので、車両受台10と一対のアッパアーム11,12上端部の連結部分、および台座15と一対のロアアーム13,14下端部の連結部分に、隙間ができるので、パンタグラフ式ジャッキ1の組み立て後に塗装する場合でも、それらの連結部分に塗装が行き渡りやすくなり、外観の品質が向上する。
【0040】
特に、本実施形態では、アッパアーム11,12およびロアアーム13,14に、下孔形成後、その下孔に冶具等を挿入してバーリング加工して円筒部を形成後、その円筒部をバーリング加工した逆方向にコイニング加工(潰し加工)して押し出すことにより外側突出部を形成したので、アッパアーム11,12およびロアアーム13,14の外側面と外側突出部との間は、角のない、滑らかに傾斜した裾野部132a5等となるので、車両受台10や台座15内側面とアッパアーム11,12およびロアアーム13,14外側面との間の隙間が狭くても、より確実にその隙間の裾野部132a5等に塗装が行き渡ることになり、この点でも塗装品質が向上する。
【0041】
その結果、本実施形態によれば、特に、完成したパンタグラフ式ジャッキ1を起立(伸長)させず、上下方向に収縮させた状態でも、ロアアーム13,14とアッパアーム11,12との間や、車両受台10と台座15との間に、空間がほとんどない状態で塗装を行った場合でも、車両受台10と一対のアッパアーム11,12上端部の連結部分や、台座15と一対のロアアーム13,14下端部の連結部分に十分な隙間が形成されているので、塗装が十分に行き渡ることになり、塗装仕上げの点で外観品質が向上すると共に、アッパアーム11,12とロアアーム13,14とを起立(上昇)させずに塗装が可能となるので、起立させる工程が不要になり、製造効率も向上する。
【0042】
また、アッパアーム11,12およびロアアーム13,14の外側から内側の方向へバーリング加工して円筒部を形成し、その円筒部を逆方向、すなわちアッパアーム11,12およびロアアーム13,14の内側から外側の方向へ押し出すコイニング加工(潰し加工)を行っているので、車両受台10と連結される一対のアッパアーム11,12上端部の連結ピン挿通孔、および台座15と連結される一対のロアアーム13,14下端部の連結ピン挿通孔は、単にバーリング加工した場合や、連結ピンの支持孔を形成する場合よりも強度が向上する。
【0043】
その結果、本実施形態によれば、連結ピン挿通孔の強度が向上するので、アッパアーム11,12およびロアアーム13,14に使用する金属板の板厚を薄いものが使用できることになり、パンタグラフ式ジャッキ1全体の軽量化も図ることができる。
【符号の説明】
【0044】
1 パンタグラフ式ジャッキ
10 車両受台
11,12 アッパアーム
13,14 ロアアーム
15 台座
16,17 連結軸(操作側連結軸、作動側連結軸)
18 ネジ部材
18a ハンドル部
18b ネジ部
19,20,21,22 連結ピン
131a,132a 連結ピン挿通孔
132a4 円筒部
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等に使用されるパンタグラフ式ジャッキに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パンタグラフ式ジャッキは、車両受台と、台座と、左右の連結軸により、2組のロアアームとアッパアームとを菱形状に組み、ハンドル部が設けられたネジ部材を左右の連結軸に通して構成されており、ネジ部材を回転させることにより、車両受台を昇降させている(例えば、特許文献1〜3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−282199号公報
【特許文献2】特開2001−316084号公報
【特許文献3】特開2000−302383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記背景技術等のものでは、塗装や塗装の仕上がりについては、何ら開示されてなく、パンタグラフ式ジャッキを完全に組み立て後に塗装すると、ロアアームとアッパアームとを連結する連結部分等において十分な隙間がないと、塗装が連結部やその周囲に行き渡らず、塗装仕上げの点で課題があった。
【0005】
特に、完成したパンタグラフ式ジャッキを起立(伸長)させず、上下方向に収縮させた状態では、ロアアームとアッパアームとの間や、車両受台と台座との間に、空間もほとんどないので、この状態で塗装を行った場合には、車両受台と一対のアッパアーム上端部の連結部分や、台座と一対のロアアーム下端部の連結部分に塗装が行き渡らず、塗装仕上げの点で課題が発生する一方、アッパアームとロアアームとを起立(上昇)させた状態で塗装したのでは、その起立させる工程が必要であり、製造効率が悪い、という課題があった。
【0006】
また、昨今、車両重量全体の軽量化が求められており、車両の装備品であるパンタグラフ式ジャッキ自体の重量もなるべく軽量化が求められていた。
【0007】
そこで、本発明は、組み立て後に塗装する場合でも、塗装が行き渡り、しかも軽量化も図ることができるパンタグラフ式ジャッキを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明のパンタグラフ式ジャッキは、車両等を下方から受ける車両受台と、上端部に形成された連結ピン挿通孔に連結ピンが通され前記車両受台に回動自在に支持された一対のアッパアームと、前記一対のアッパアームの下端部それぞれに上端部が2つの連結軸を介し回動自在に連結された一対のロアアームと、前記一対のロアアーム下端部それぞれに形成された連結ピン挿通孔に連結ピンが通され、前記一対のロアアームを回動自在に支持する台座と、前記一対のアッパアームと前記一対のロアアームとを回動自在に連結する2つの前記連結軸に対し、ハンドル部が設けられネジ山が形成されてない基部側では回転自在に配設される一方、ネジ山が形成されたネジ部では螺合して、その回転により前記一対のアッパアームと前記一対のロアアームとを屈伸させて前記車両荷台を昇降させるネジ部材と、を有するパンタグラフ式ジャッキであって、前記一対のアッパアーム上端部および前記一対のロアアーム下端部の連結ピン挿通孔は、下孔形成後、その下孔周囲をバーリング加工して前記アッパアームおよび前記ロアアームの内側に突出する円筒部を形成し、その円筒部を前記アッパアームおよび前記ロアアームの内側から外側へ押し出すコイニング加工することにより、前記円筒部の基部を前記アッパアームおよび前記ロアアームの外側に突出させて形成したことを特徴とするパンタグラフ式ジャッキである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、車両受台と連結される一対のアッパアーム上端部の連結ピン挿通孔、および台座と連結される一対のロアアーム下端部の連結ピン挿通孔は、下孔形成後、その下孔周囲をバーリング加工して前記アッパアームおよび前記ロアアームの内側に突出する円筒部を形成し、その円筒部を前記アッパアームおよび前記ロアアームの内側から外側へ押し出すコイニング加工(潰し加工)することにより、前記円筒部の基部を前記アッパアームおよび前記ロアアームの外側に突出させて形成したので、車両受台と一対のアッパアーム上端部の連結部分、および台座と一対のロアアーム下端部の連結部分に隙間ができ、パンタグラフ式ジャッキの組み立て後に塗装する場合でも、それらの連結部分に塗装が行き渡りやすくなり、外観塗装の面で品質が向上する。
また、バーリング加工後に形成した円筒部をアッパアームおよびロアアームの内側から外側へ押し出すコイニング加工(潰し加工)により円筒部の基部を外側に突出させているので、車両受台と連結される一対のアッパアーム上端部の連結ピン挿通孔、および台座と連結される一対のロアアーム下端部の連結ピン挿通孔は、単にバーリング加工や、連結ピンの挿通孔を形成した場合よりも強度が向上し、その結果、アッパアームおよびロアアームの金属板を薄くすることができるので、パンタグラフ式ジャッキ全体の軽量化も図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態のパンタグラフ式ジャッキが最も収縮した状態の正面図である。
【図2】本実施形態のパンタグラフ式ジャッキが最も伸長した状態の正面図である。
【図3】本実施形態のパンタグラフ式ジャッキが最も収縮した状態の上面図である。
【図4】左側のロアアームを上方から見た上面図である。
【図5】左側のロアアームを下方から見た底面図である。
【図6】左側のロアアームを正面から見た正面図である。
【図7】図4における左側のロアアームのA−A線断面図である。
【図8】左側のロアアームを右方向から見た右側面である。
【図9】(a),(b)それぞれ、図4における左側のロアアームのB−B線端面図、C−C線端面図である。
【図10】(a)〜(c)それぞれ、左側のロアアームにおける連結ピン挿通孔の形成方法を示す図である。
【図11】図9(a)における連結ピン挿通孔周囲のD部分の拡大断面図である。
【図12】図1におけるG−G線断面図である。
【図13】図12におけるH部分の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係るパンタグラフ式ジャッキの一実施形態を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
【0012】
図1は、本実施形態のパンタグラフ式ジャッキが最も収縮した状態の正面図、図2は、本実施形態のパンタグラフ式ジャッキが最も伸長した状態の正面図、図3は、本実施形態のパンタグラフ式ジャッキが最も収縮した状態の上面図である。
【0013】
図1および図2において、本実施形態のパンタグラフ式ジャッキ1は、車両等を下方から受ける車両受台10と、上端部11a,12aそれぞれに形成された連結ピン挿通孔にそれぞれ連結ピン19,20が通され車両受台10に上端部11a,12aが回動自在に支持された一対のアッパアーム11,12と、、一対のアッパアーム11,12の下端部11b,12bにそれぞれ上端部13b,14bが2つの連結軸16,17を介し回動自在に連結された一対のロアアーム13,14と、一対のロアアーム13,14の下端部13a,14aそれぞれに形成された連結ピン挿通孔にそれぞれ連結ピン21,22が通され、一対のロアアーム13,14それぞれを回動自在に支持する台座15と、一対のアッパアーム11,12と一対のロアアーム13,14とを回動自在に連結する2つの連結軸16,17間に挿通されるネジ部材18と、を有する。なお、2つの連結軸16,17のうち、ネジ部材18のハンドル部18aに近い側を、操作側連結軸16と呼び、ネジ部材18のハンドル部18aに遠い側、すなわちネジ部材18のネジ部18b先端に近い側を、作動側連結軸17と呼ぶ。
【0014】
本実施形態のパンタグラフ式ジャッキ1では、ネジ部材18を回転させて、一対のアッパアーム11,12とロアアーム13,14とを起立、すなわち伸長させて車両荷台10を上昇させていくと、図2に示すパンタグラフ式ジャッキ1が最も伸長した状態になる。その一方、ネジ部材18をその反対方向に回転させれば、一対のアッパアーム11,12とロアアーム13,14とは水平状態になるように倒れて、車両受台10は下降していき、最終的には、図1または図3に示す状態になる。
【0015】
次に、本発明の特徴部分である、一対のアッパアーム11,12の上端部11a,12a、および一対のロアアーム13,14の下端部13a,14aそれぞれに形成された連結ピン挿通孔について説明する。ただし、これら一対のアッパアーム11,12の上端部11a,12a、および一対のロアアーム13,14の下端部13a,14aそれぞれに形成された連結ピン挿通孔の形成方法や構造の特徴は、共通なので、代表して、図上左側のロアアーム13の下端部13aに形成された連結ピン挿通孔131a,132aを一例として説明する。
【0016】
図4は、左側のロアアーム13を上方から見た上面図、図5は、左側のロアアーム13を下方から見た底面図、図6は、左側のロアアーム13を正面から見た正面図、図7は、左側のロアアーム13の図4に示すA−A線断面図、図8は、左側のロアアーム13を右方向から見た右側面である。
【0017】
図4〜図8に示すように、左側のロアアーム13は、元々は一枚の金属の平板をカットし、孔開けのためパンチ加工し、バーリング加工やコイニング加工、そして最後に曲げ加工等して形成されたもので、正側面131と、後側面132と、底面133と、アーム倒れ止め部134とを有する。
【0018】
底面133には、図4,図5に示すように、ロアアーム13の部材を一枚の金属板からカットする際のパイロット孔孔133a,133bが形成されている。また、底面133とアーム倒れ止め部134との間の折り曲げ部には、ロアアーム13内側に突出する凹み部135が形成されている。つまり、凹み部135の図5に示すロアアーム13外側は、凹んでいる一方、図4に示すロアアーム13内側は、突出している。
【0019】
一方、ロアアーム13の正側面131には、図6に示すように、ロアアーム13上端部13a側、すなわち図上右側に、台座15との連結の際に連結ピン21が通される、本実施形態の特徴の一つである連結ピン挿通孔131aが設けられる一方、ロアアーム13下端部13b側、すなわち図上左側に、連結軸17が通される連結軸挿通小孔131bが設けられる。また、ロアアーム13上端部13a側には、さらに、後述する後側面132のY歯形132cに噛み合うX歯形131cが設けられている。さらに、正側面131の中央に、ロアアーム13の長手方向に伸び、外側(図上、手前側)に突出する補強用のリブ131dが形成されている。
【0020】
一方、ロアアーム13の後側面132には、図7に示すように、ロアアーム13上端部13a側、すなわち図上右側に、台座15との連結の際に連結ピン21が通される、本実施形態の特徴の一つである連結ピン挿通孔132aが設けられる一方、ロアアーム13下端部13b側、すなわち図上左側に、連結軸17が通される連結軸挿通大孔132bが設けられる。なお、連結軸挿通小孔131bと、連結軸挿通大孔132bとで、孔の直径が異なるのは、連結軸17先端の外径より、連結軸17基部との外径の方が大きいからである。また、ロアアーム13上端部13a側には、さらに、正側面131のX歯形131cに噛み合うY歯形132cが設けられている。さらに、後側面132の中央に、ロアアーム13の長手方向に伸び、外側(図上、後方側)に突出する補強用のリブ132dが形成されている。
【0021】
このように、正側面131に設けたX歯形131cと、後側面132に設けたY歯形132cとを噛み合うようにすることにより、図1や図2等に示すように、一対のロアアーム13,14とに同一のものを使用して、台座15に連結した場合、ロアアーム13,14として同じものを使用しても、お互い対向するように連結することにより、X歯形とY歯形とが噛み合うことになる。これにより、ロアアーム13,14として同じものを使用することが可能となるので、ロアアーム13,14を製造する際の製造型やパターンを減らすことができ、製造コストを削減することができる。
【0022】
アーム倒れ止め部134は、正側面131と、後側面132の倒れを防止するため、図4〜図8に示すように、正側面131と後側面132との間に介在するまで折り曲げて形成されたもので、図8から明らかなように、正側面131に設けたX歯形131cと、後側面132に設けたY歯形132cの歯形に合わせて、図8上、左右上端部の長さが異なっている。
【0023】
図9(a),(b)は、それぞれ、図6における左側のロアアーム13のB−B線端面図、C−C線端面図である。
【0024】
つまり、図9(a)は、図6における左側のロアアーム13のB−B線端面、すなわち連結ピン挿通孔131a,132aをB−B線により切断した端面を示している。また、図9(b)は、図4における左側のロアアーム13のC−C線端面、すなわちロアアーム13の側面131,132に形成されたリブ131d,132dをC−C線により切断した端面を示している。
【0025】
本実施形態では、図9(a),(b)に示すように、リブ131d,132dの下端を、連結ピン挿通孔131a,132aの中心線とほぼ同じ高さにして、図上、リブ131d,132dの高さを連結ピン挿通孔131a,132aより高くすることにより、ロアアーム13の側面131,132全体の強度を向上させている。つまり、連結ピン挿通孔131a,132aのバーリング加工とコイニング加工(潰し加工)とにより、ロアアーム13の側面131,132における連結ピン挿通孔131a,132aの高さ部分の強度は増しているものの、ロアアーム13の側面131,132における底面133から遠い部分の強度は落ちているので、リブ131d,132dの高さを連結ピン挿通孔131a,132aより高くして形成することにより、ロアアーム13の側面131,132を強度を向上させている。なお、これはあくまで一例であり、リブ131d,132dの高さはこれに限定されるものではなく、さらには、リブ131d,132d自体も省略しても、数を増やすようにしても良い。
【0026】
図10(a)〜(c)は、それぞれ、左側のロアアーム13における連結ピン挿通孔132aの形成方法を示す図である。
【0027】
まず、図10(a)に示すように、平板な金属板の状態で、ロアアーム13の正側面132に相当する部分に、パンチ加工等により下孔132a3を形成する。
【0028】
次に、図10(b)に示すように、その下孔132a3をE方向から周知の孔広げ冶具(図示せず)等を挿入してバーリング加工して、下孔132a3の直径を拡大すると共に、内側(図上、右側)に突出する円筒部132a4を形成する。
【0029】
そして、図10(c)に示すように、円筒部132a4を、E方向とは逆方向であるF方向からプレス(加圧)したり、叩く等のコイニング加工(潰し加工)を行い、外側(図上右側)に押し出すことにより、内側突出部132a1と、外側突出部132a2とを形成している。
【0030】
このように、その下孔132a3をE方向に冶具等を挿入してバーリング加工して円筒部132a4を形成後、その円筒部132a4をバーリング加工したE方向とは逆方向のF方向にプレス(加圧)や叩く等のコイニング加工(潰し加工)して押し出すことにより、外側突出部132a2を形成したので、外側面132e2と、外側突出部132a2端面との間に隙間が生じ、図1〜図3に示すように、ロアアーム13を台座15に組み付けた後も、台座15内側面とロアアーム13の外側面132e2との間に隙間が生じることになり、組み立て後に吹き付け塗装しても、その隙間に塗装が行き渡り易くなる。
【0031】
また、下孔132a3をバーリング加工して円筒部132a4を形成後、その円筒部132a4をバーリング加工したE方向とは逆方向のF方向にプレス(加圧)したり、叩く等してコイニング加工(潰し加工)して押し出し、外側突出部132a2を形成しているので、内側突出部132a1と、外側突出部132a2の強度、すなわち連結ピン挿通孔132aの強度が向上しており、ロアアーム13自体の厚さを薄くして軽量化することができる。
【0032】
なお、ロアアーム13と同様に、ロアアーム14や、アッパアーム11,12にも、連結ピン挿通孔を形成すするので、以上と同様のことが、ロアアーム14と台座15との関係でも、さらには、アッパアーム11,12と車両受台10との関係でも成立する。
【0033】
図11は、図9(a)における連結ピン挿通孔132a周囲のD部分の拡大断面図である。
【0034】
図11に示すように、図9(a)における連結ピン挿通孔132aは、ロアアーム13の内側面132e2より内側(図上、左側)に突出する内側突出部132a1と、ロアアーム13の外側面132e2より外側(図上、右側)に突出する外側突出部132a2とを有する。
【0035】
ここで、本実施形態では、図10、図11から明らかなように、下孔132a3をE方向に冶具等を挿入してバーリング加工して円筒部132a4を形成後、その円筒部132a4をバーリング加工したE方向とは逆方向のF方向にコイニング加工(潰し加工)して押し出すことにより、外側突出部132a2を形成したので、ロアアーム132の外側面132e2と外側突出部132a2との間は、角のない、滑らかに傾斜した裾野部132a5となる。そのため、台座15内側面とロアアーム13の外側面132e2との間の隙間が狭くても、より確実に裾野部132a5に塗装が行き渡ることになり、塗装品質が向上する。
【0036】
また、本実施形態では、図11に示すように、内側面132e1に対する内側突出部132a1の突出距離d1を、外側面132e2に対する外側突出部132a2の突出距離d2より大きくしているが、内側面132e1に対する内側突出部132a1の突出距離d1より、外側面132e2に対する外側突出部132a2の突出距離d2の方を大きくして、台座15の内側面との間の隙間をより大きくするようにしても良い。このように、台座15内側面とロアアーム13の外側面132e2との間の隙間をより大きくすれば、より確実にその隙間に塗装が行き渡り易くなる。
【0037】
図12は、図1におけるG−G線断面図、図13は、図12におけるH部分の拡大図である。
【0038】
図12、図13からも明らかなように、ロアアーム13を台座15に組み付けた後も、連結ピン挿通孔132aの外側突出部132a2により、台座15の内側面15a2と、ロアアーム13の外側面132e2との間に、隙間が生じることになり、吹き付け塗装しても、その隙間に塗装が行き渡り易いことがわかる。
【0039】
従って、本実施形態のパンタグラフ式ジャッキ1では、車両受台10と連結される一対のアッパアーム11,12上端部の連結ピン挿通孔、および台座15と連結される一対のロアアーム13,14下端部の連結ピン挿通孔は、下孔形成後、その下孔周囲をバーリング加工してアッパアーム11,12およびロアアーム13,14の内側に突出する円筒部を形成し、その円筒部をアッパアーム11,12およびロアアーム13,14の内側から外側へ押し出すコイニング加工(潰し加工)をすることにより、円筒部の基部をアッパアーム11,12およびロアアーム13,14の外側に突出させて形成したので、車両受台10と一対のアッパアーム11,12上端部の連結部分、および台座15と一対のロアアーム13,14下端部の連結部分に、隙間ができるので、パンタグラフ式ジャッキ1の組み立て後に塗装する場合でも、それらの連結部分に塗装が行き渡りやすくなり、外観の品質が向上する。
【0040】
特に、本実施形態では、アッパアーム11,12およびロアアーム13,14に、下孔形成後、その下孔に冶具等を挿入してバーリング加工して円筒部を形成後、その円筒部をバーリング加工した逆方向にコイニング加工(潰し加工)して押し出すことにより外側突出部を形成したので、アッパアーム11,12およびロアアーム13,14の外側面と外側突出部との間は、角のない、滑らかに傾斜した裾野部132a5等となるので、車両受台10や台座15内側面とアッパアーム11,12およびロアアーム13,14外側面との間の隙間が狭くても、より確実にその隙間の裾野部132a5等に塗装が行き渡ることになり、この点でも塗装品質が向上する。
【0041】
その結果、本実施形態によれば、特に、完成したパンタグラフ式ジャッキ1を起立(伸長)させず、上下方向に収縮させた状態でも、ロアアーム13,14とアッパアーム11,12との間や、車両受台10と台座15との間に、空間がほとんどない状態で塗装を行った場合でも、車両受台10と一対のアッパアーム11,12上端部の連結部分や、台座15と一対のロアアーム13,14下端部の連結部分に十分な隙間が形成されているので、塗装が十分に行き渡ることになり、塗装仕上げの点で外観品質が向上すると共に、アッパアーム11,12とロアアーム13,14とを起立(上昇)させずに塗装が可能となるので、起立させる工程が不要になり、製造効率も向上する。
【0042】
また、アッパアーム11,12およびロアアーム13,14の外側から内側の方向へバーリング加工して円筒部を形成し、その円筒部を逆方向、すなわちアッパアーム11,12およびロアアーム13,14の内側から外側の方向へ押し出すコイニング加工(潰し加工)を行っているので、車両受台10と連結される一対のアッパアーム11,12上端部の連結ピン挿通孔、および台座15と連結される一対のロアアーム13,14下端部の連結ピン挿通孔は、単にバーリング加工した場合や、連結ピンの支持孔を形成する場合よりも強度が向上する。
【0043】
その結果、本実施形態によれば、連結ピン挿通孔の強度が向上するので、アッパアーム11,12およびロアアーム13,14に使用する金属板の板厚を薄いものが使用できることになり、パンタグラフ式ジャッキ1全体の軽量化も図ることができる。
【符号の説明】
【0044】
1 パンタグラフ式ジャッキ
10 車両受台
11,12 アッパアーム
13,14 ロアアーム
15 台座
16,17 連結軸(操作側連結軸、作動側連結軸)
18 ネジ部材
18a ハンドル部
18b ネジ部
19,20,21,22 連結ピン
131a,132a 連結ピン挿通孔
132a4 円筒部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両等を下方から受ける車両受台と、
上端部に形成された連結ピン挿通孔に連結ピンが通され前記車両受台に回動自在に支持された一対のアッパアームと、
前記一対のアッパアームの下端部それぞれに上端部が2つの連結軸を介し回動自在に連結された一対のロアアームと、
前記一対のロアアーム下端部それぞれに形成された連結ピン挿通孔に連結ピンが通され、前記一対のロアアームを回動自在に支持する台座と、
前記一対のアッパアームと前記一対のロアアームとを回動自在に連結する2つの前記連結軸に対し、ハンドル部が設けられネジ山が形成されてない基部側では回転自在に配設される一方、ネジ山が形成されたネジ部では螺合して、その回転により前記一対のアッパアームと前記一対のロアアームとを屈伸させて前記車両荷台を昇降させるネジ部材と、
を有するパンタグラフ式ジャッキであって、
前記一対のアッパアーム上端部および前記一対のロアアーム下端部の連結ピン挿通孔は、下孔形成後、その下孔周囲をバーリング加工して前記アッパアームおよび前記ロアアームの内側に突出する円筒部を形成し、その円筒部を前記アッパアームおよび前記ロアアームの内側から外側へ押し出すコイニング加工することにより、前記円筒部の基部を前記アッパアームおよび前記ロアアームの外側に突出させて形成したことを特徴とするパンタグラフ式ジャッキ。
【請求項1】
車両等を下方から受ける車両受台と、
上端部に形成された連結ピン挿通孔に連結ピンが通され前記車両受台に回動自在に支持された一対のアッパアームと、
前記一対のアッパアームの下端部それぞれに上端部が2つの連結軸を介し回動自在に連結された一対のロアアームと、
前記一対のロアアーム下端部それぞれに形成された連結ピン挿通孔に連結ピンが通され、前記一対のロアアームを回動自在に支持する台座と、
前記一対のアッパアームと前記一対のロアアームとを回動自在に連結する2つの前記連結軸に対し、ハンドル部が設けられネジ山が形成されてない基部側では回転自在に配設される一方、ネジ山が形成されたネジ部では螺合して、その回転により前記一対のアッパアームと前記一対のロアアームとを屈伸させて前記車両荷台を昇降させるネジ部材と、
を有するパンタグラフ式ジャッキであって、
前記一対のアッパアーム上端部および前記一対のロアアーム下端部の連結ピン挿通孔は、下孔形成後、その下孔周囲をバーリング加工して前記アッパアームおよび前記ロアアームの内側に突出する円筒部を形成し、その円筒部を前記アッパアームおよび前記ロアアームの内側から外側へ押し出すコイニング加工することにより、前記円筒部の基部を前記アッパアームおよび前記ロアアームの外側に突出させて形成したことを特徴とするパンタグラフ式ジャッキ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−116475(P2011−116475A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−273417(P2009−273417)
【出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【出願人】(390003447)川▲崎▼工業株式会社 (13)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【出願人】(390003447)川▲崎▼工業株式会社 (13)
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