説明

パン粉付けフライ食品用バッターミックス

【課題】多加水にしても、沈殿や分離が発生することがなく、具材へパン粉をしっかり付着させることができ、フライ時のパン粉の脱落がないため見栄えがよいフライ食品が得られ、しかもフライ後の食品においては中身の具材と衣の結着がよく、かつ食感の極めて良好なフライ食品が得られるバッターミックスを提供すること。
【解決手段】バッターミックスの総質量中において、蛋白含有物質50〜90質量%、油脂10〜50質量%ならびに穀粉類および/または澱粉類20質量%以下を含み、上記蛋白含有物質として、粉末状大豆タンパク含有物質を10〜60質量%、卵白粉を5〜30質量%および乳蛋白含有物質を乳蛋白として0〜10質量%含むことを特徴とするパン粉付けフライ食品用バッターミックス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パン粉付けフライ食品用バッターミックスに関する。詳細には、多加水にしても、沈殿や分離が発生することがなく、具材へパン粉をしっかり付着させることができ、フライ時のパン粉の脱落がないため見栄えがよいフライ食品が得られ、しかもフライ後の食品においては中身の具材と衣の結着がよく、かつ食感の極めて良好なフライ食品が得られるバッターミックスに関する。
【背景技術】
【0002】
豚カツ、エビフライ等のパン粉付けフライ食品は、惣菜・外食産業においては、打粉をした豚肉やエビ等の揚げ種(具材)を、小麦粉や澱粉、水、牛乳等を主原料とするバッター液に浸漬し、更にパン粉を付着させた後、フライして製造されるのが一般的である。パン粉付けフライ食品においてバッター液を用いるのは、主にパン粉と揚げ種の結着性を向上させるためであり、元来バッター層の食感は不要である。従って、結着性を高めるためのバッター層は、薄く、均一に、ヌメリのない状態で形成されることが望ましい。
【0003】
しかし、小麦粉等の穀粉類や澱粉類を使用した通常のバッター液を用いると、実際には、バッター層が厚くなったり不均一になったり、あるいは揚げ種と衣の間にヌメリを生じてしまう場合があり、必ずしも良好な食感のフライ食品を得られるとは言えない。
また、小麦粉等の穀粉類や澱粉類を使用した通常のバッター液においては、パン粉と揚げ種の結着性が必ずしも充分とは言えず、結着性をより一層向上させることも望まれている。
【0004】
一方、バッター液においては、加水量を多くすると歩留りが良くなるという利点があるが、多加水量のバッター液においては、沈殿や分離が発生したり、パン粉と揚げ種の結着性が低下する等の問題がある。なお、バッター液を調製する際の加水量は、通常、バッターミックス100質量部に対して200〜300質量部程度とされている。
【0005】
特許文献1には、パン粉の付着性や結着性、食感の改善を目的として、フライ食品用バッターミックスとして、α化澱粉以外の澱粉と、小麦蛋白、大豆蛋白、乳蛋白および卵蛋白から選ばれた少なくとも1種の蛋白素材と、コラーゲンおよび/またはゼラチンと、寒天と、グルコマンナンとを含む揚物用衣材を用いることが記載されている。しかし、この衣材は、澱粉や穀粉をバッターミックス中に60質量%以上含むものである。
【0006】
特許文献2には、衣のサクサク感と揚げ種(具材)の水分が保持されてジューシーな揚げ物を提供することを目的とする、脱脂大豆粉と卵黄蛋白を少なくとも含有する揚げ物用衣材が記載されている。しかし、この衣材は、唐揚げやフリッター用のバッターであり、パン粉付けフライ食品用バッターではない。また、この衣材は、小麦粉や澱粉を主成分とするものである。
【0007】
特許文献3には、特定の食用油脂、大豆蛋白質、有機酸モノグリセリド及び/又はショ糖脂肪酸エステル、α化度が70%以上の穀粉及び/又は澱粉を特定量で含むバッター用ミックス粉に水を加えたバッターと、水不溶性多糖類と水溶性多糖類を特定量で含むブレダー用ミックス粉とを組み合わせることで、電子レンジや自然解凍などで解凍しても、衣のサクサク感が損なわれない冷凍揚げ物の製造方法が提案されている。しかし、上記バッターは、上述の通りブレダー用ミックス粉と組み合わせて使用されるものであり、パン粉付けフライ食品用ではない。また、上記バッターは、小麦粉や澱粉を主成分とするものである。
【0008】
特許文献4には、揚げ種と衣の間にぬめり感のない優れた食感を有するフライ食品を得るために、バッターミックス中に蛋白物質30〜50質量%および/またはデキストリン1〜40質量%を含有させることが提案されている。しかし、該バッターミックスに対する加水量は通常の範囲内である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−315527号公報
【特許文献2】特開2005−237350号公報
【特許文献3】特開2003−135014号公報
【特許文献4】特開2002−84999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、多加水にしても、沈殿や分離が発生することがなく、具材へパン粉をしっかり付着させることができ、フライ時のパン粉の脱落がないため見栄えがよいフライ食品が得られ、しかもフライ後の食品においては中身の具材と衣の結着がよく、かつ食感の極めて良好なフライ食品が得られるバッターミックスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、バッターミックスの総質量中において、蛋白含有物質50〜90質量%、油脂10〜50質量%ならびに穀粉類および/または澱粉類20質量%以下を含み、上記蛋白含有物質として、粉末状大豆タンパク含有物質を10〜60質量%、卵白粉を5〜30質量%および乳蛋白含有物質を乳蛋白として0〜10質量%含むことを特徴とするパン粉付けフライ食品用バッターミックスを提供することによって、上記目的を達成したものである。
【0012】
また、本発明は、上記パン粉付けフライ食品用バッターミックス100質量部に対して水300〜1000質量部を添加・混合して得られた、パン粉付けフライ食品用バッター液を提供するものである。
また、本発明は、上記パン粉付けフライ食品用バッターミックスまたは上記バッター液を用いて得られた、パン粉付けフライ食品を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、多加水にしても、沈殿や分離が発生することがなく、具材へパン粉をしっかり付着させることができ、フライ時のパン粉の脱落がないため見栄えがよいフライ食品が得られるバッターミックスを提供することができる。しかも、本発明のバッターミックスを用いて得られたパン粉付けフライ食品は、中身の具材と衣の結着がよく、かつ食感が極めて良好である。該フライ食品の食感は、穀粉類および/または澱粉類を主原料として含有するバッターミックスを用いた従来のパン粉付けフライ食品には見られない、独特の歯脆い食感である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のパン粉付け食品用バッターミックス(以下、単に「バッターミックス」ともいう。)は、当該バッターミックスの総質量中において、蛋白含有物質を50〜90質量%含み、好ましくは50〜67質量%含む。蛋白含有物質の量が50質量%未満であるとパン粉の付着及び中身の具材と衣の結着が悪くなり、90質量%を超えると得られるフライ製品の食感が硬くなる。
なお、蛋白含有物質の含有量は、粉末状大豆タンパク含有物質、卵白粉および乳蛋白含有物質ならびに必要に応じて用いられるその他の蛋白含有物質の合計量である。蛋白含有物質の含有量の計算に際し、乳蛋白含有物質については、乳蛋白としての換算値ではなく、乳蛋白含有物質量の値を用いる。
【0015】
本発明のパン粉付け食品用バッターミックスは、上記蛋白含有物質として、粉末状大豆タンパク含有物質を含む。該粉末状大豆タンパク含有物質としては、全脂大豆粉、脱脂大豆粉、濃縮大豆タンパク、分離大豆タンパク、粉末豆乳、抽出大豆タンパク等のいずれも使用できるが、脱脂大豆粉または分離大豆タンパクが好ましい。これらの粉末状大豆タンパクは、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、本発明の効果を確実に得られるようにする観点から、上記粉末状大豆タンパク含有物質は、大豆タンパクを35質量%以上含有するものであることが好ましい。
【0016】
本発明のバッターミックスの総質量中において、上記粉末状大豆タンパク含有物質の量は、10〜60質量%、好ましくは20〜50質量%の範囲である。粉末状大豆タンパクの量が、10質量%未満であるとパン粉の結着性が悪く剥がれてしまう。一方、60質量%を超えるとパン粉は結着するが、得られるフライ食品の食感が硬く風味も悪くなる。
【0017】
本発明のパン粉付け食品用バッターミックスは、上記蛋白含有物質として、さらに卵白粉を含む。本発明のバッターミックスの総質量中において、卵白粉の量は、5〜30質量%、好ましくは10〜25質量%、さらに好ましくは15〜25質量%の範囲である。卵白粉が5質量%未満であるとパン粉の結着性が悪く剥がれてしまう。また、30質量%を超えるとパン粉は結着するが、得られるフライ食品の食感が硬くなる。
なお、卵白粉としては、食品に用いることができるものであれば、特に制限なく用いることができるが、通常は鶏卵から製造されたものを用いる。
【0018】
本発明のパン粉付け食品用バッターミックスは、上記蛋白含有物質として、さらに乳蛋白含有物質を含んでもよい。該乳蛋白含有物質としては、脱脂粉乳、全脂粉乳、調整粉乳、カゼイン、ホエー蛋白等のいずれも使用でき、これらの中でも脱脂粉乳が好ましい。これらの乳蛋白含有物質は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、乳蛋白含有物質としては、液状のものでも構わないが、バッターミックスの取り扱い上、粉末状のものが好ましい。
【0019】
本発明のバッターミックスの総質量中において、上記乳蛋白含有物質の量は、乳蛋白として0〜10質量%であり、好ましくは乳蛋白として0.2〜10質量%の範囲である。乳蛋白含有物質の量が乳蛋白として10質量%を超えると、得られるフライ製品の食感が硬くなる。
本発明のパン粉付け食品用バッターミックスにおいて、乳蛋白含有物質は必ずしも必要な成分ではないが、使用するとパン粉の付着や具材と衣の結着を良好に維持しながら食感の脆さを増す効果が得られる場合がある。斯かる効果を目的として乳蛋白含有物質を用いる場合には、乳蛋白含有物質の量は、本発明のバッターミックスの総質量中、乳蛋白として0.2〜10質量%とすることが好ましい。
【0020】
本発明のパン粉付け食品用バッターミックスは、上記蛋白含有物質として、以上に挙げた粉末状大豆タンパク含有物質、卵白粉および乳蛋白含有物質のほかに、粉末状小麦タンパク等のその他の蛋白含有物質を含んでもよい。本発明の効果が確実に奏されるようにする観点から、本発明のバッターミックスの総質量中において、その他の蛋白含有物質の量は10質量%以下とすることが好ましい。
【0021】
また、本発明のバッターミックスには、油脂が10〜50質量%、好ましくは33〜50質量%の範囲で含有・配合される。油脂の量が10質量%未満であると食感が硬くなる。50質量%を超えるとパン粉の結着が悪く剥がれてしまう。
【0022】
本発明で用いる油脂としては、液状油、半固形油、固形油、粉末油脂のいずれの形態のものも使用可能であるが、バッターミックスの取り扱い上、粉末油脂を主体(好ましくは全油脂中で50質量%以上)とすることが好ましい。なお、油脂の由来については特に制限はなく、食品に用いることができるものであればよい。
【0023】
本発明のパン粉付けフライ食品用バッターミックスには、本発明の効果を抑制しない範囲で、小麦粉等の穀粉類や澱粉類を配合してもよいが、穀粉類と澱粉類を合わせた配合量は、本発明のバッターミックスの総質量中において20質量%以下、好ましくは0〜10質量%の範囲であり、より好ましくは0〜5質量%の範囲である。本発明のバッターミックスには、蛋白原料が多く配合されるため、従来のバッターミックスには必須であった穀粉類や澱粉類を必ずしも配合する必要がない。一方、穀粉類や澱粉類の配合量が20質量%を超えると、具材とパン粉の結着性が悪くなり、食感も硬くなってしまう。
【0024】
上記穀粉としては、小麦粉、コーンフラワー、ライ麦粉、ライ小麦粉、米粉等が挙げられる。上記澱粉類としては、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、米澱粉、タピオカ澱粉、またはこれらの化工品等の各種澱粉が挙げられる。
【0025】
本発明のパン粉付けフライ食品用バッターミックスは、以上説明した原料以外に、増粘剤、乳化剤、グルタミン酸ナトリウム、食塩等の調味料、香辛料、着色料等、従来、バッターミックスに使用されてきた副資材を適宜含んでもよい。
【0026】
本発明のバッターミックスは、水を添加・混合してパン粉付けフライ食品用バッター液として用いることができる。その際には、本発明のバッターミックス100質量部に対して水を300〜1000質量部、好ましくは400〜600質量を添加・混合して、パン粉付けフライ食品用バッター液を製造する。通常のバッターミックスの加水量は、バッターミックス100質量部に対して200〜300質量部程度であるが、本発明のバッターミックスについては、原料配合の特徴から上記の範囲が適切である。この範囲とすることで、パン粉の結着性が良く、食感の良好なフライ食品が得られる。
【0027】
次に、本発明のバッターミックスを用いたフライ食品の製造法について説明する。
上述のようにして本発明のバッターミックスに水を添加・混合してバッター液を得る。揚げ種(具材)に打粉をまぶした後、このバッター液中に浸し、次いでパン粉やクラッカー粉を付着させ、フライする。パン粉やクラッカー粉は、大きさ等に特に制限はなく、通常のものを用いることができる。フライ油には大豆油、ナタネ油、コメ油、トウモロコシ油等の植物油脂あるいはラード、牛脂等の動物油脂を用いることができる。また、フライ前またはフライ後に冷凍してもよい。なお、揚げ種(具材)は、通常、フライ食品に用いられるものであれば特に限定されない。
【実施例】
【0028】
以下、実施例等を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例等によって制限されるものではない。
【0029】
〔実施例1〜3〕
表1の実施例1〜3の配合でバッターミックスを作成し、該バッターミックス100質量部を500質量部の水に溶いてバッター液を作成した。下処理したエビに薄力小麦粉を打粉した後、作成したバッター液に漬け、続けて6mmの生パン粉を付着させエビフライを作成した。このエビフライを冷凍した後、175℃の大豆白絞油で3分油ちょうした。油ちょうしたエビフライについて、5名のパネラーにより、下記の表2の評価基準に従ってパン粉の結着性および食感を評価した。評価の平均点を表1に示す。
なお、実施例1〜3のバッター液には、沈殿および分離は見られなかった。
【0030】
〔比較例1〜3〕
表1の比較例1〜3の配合でバッターミックスを作成し、上記の実施例1〜3と同様に、エビフライを作成し、評価した。評価の平均点を表1に示す。なお、比較例1〜3のバッター液には、沈殿および分離は見られなかった。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
〔実施例4〜6〕
表3の実施例4〜6の配合でバッターミックスを作成し、該バッターミックス100質量部を500質量部の水に溶いてバッター液を作成した。筋切りした豚ロース肉に薄力小麦粉を打粉した後、作成したバッター液に漬け、続けて15mmの生パン粉を付着させトンカツを作成した。このトンカツを冷凍した後、175℃の大豆白絞油で4分油ちょうした。油ちょうしたトンカツについて、実施例1〜3と同様にしてパン粉の結着性および食感を評価した。評価の平均点を表3に示す。
なお、実施例4〜6のバッター液には、沈殿および分離は見られなかった。
【0034】
〔比較例4〜6〕
表3の比較例4〜6の配合でバッターミックスを作成し、上記の実施例4〜6と同様に、トンカツを作成し、評価した。評価の平均点を表3に示す。なお、比較例4〜6のバッター液には、沈殿および分離は見られなかった。
【0035】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッターミックスの総質量中において、
蛋白含有物質50〜90質量%、油脂10〜50質量%ならびに穀粉類および/または澱粉類20質量%以下を含み、
上記蛋白含有物質として、粉末状大豆タンパク含有物質を10〜60質量%、卵白粉を5〜30質量%および乳蛋白含有物質を乳蛋白として0〜10質量%含むことを特徴とするパン粉付けフライ食品用バッターミックス。
【請求項2】
上記穀粉類および上記澱粉類を含まない、請求項1記載のパン粉付けフライ食品用バッターミックス。
【請求項3】
請求項1または2に記載のパン粉付けフライ食品用バッターミックス100質量部に対して水300〜1000質量部を添加・混合して得られた、パン粉付けフライ食品用バッター液。
【請求項4】
請求項1もしくは2に記載のパン粉付けフライ食品用バッターミックスまたは請求項3に記載のバッター液を用いて得られた、パン粉付けフライ食品。