説明

パーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物

【課題】事務機器や情報機器等の部品に塗布したときの外観が劣らなく、最終製品の使用者の手や衣服を黒く汚したりしない、すぐれた導電性を示すとともに摩擦係数の低い、非黒色のパーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物を提供する。
【解決手段】パーフルオロポリエーテルおよび樹枝状銀粉から少なくともなるパーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物。樹枝状銀粉の配合量は、上記パーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物に対して5質量%以上60質量%以下であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物に関し、詳しくは高導電性を有する非黒色のグリースコンパウンドに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、事務機器や情報機器などの高性能化・小型化が顕著である。その中で、可動部における部品どうしの回転、摺動などに伴って静電気が発生し、機器内部に静電気がたまりやすいという問題があった。機器内部にたまった静電気は、機器システムに悪影響を及ぼす場合があるので、導電性グリースコンパウンドを可動部の部品などに塗布して静電気を機器外部に逃がすという対策がとられている。
【0003】
このような導電性グリースコンパウンドとしては、導電性付与剤および増ちょう剤として、カーボンブラックを含有したグリースコンパウンドが一般的に用いられている(例えば特公昭63−24038号公報参照)。また、特開2007−2182号公報には、アルミニウムやガリウムをドープして導電性を付与した酸化亜鉛を含有したグリースコンパウンドが記載されている。
【0004】
しかし、導電性付与剤および増ちょう剤としてカーボンブラックを含有したグリースコンパウンドは、部品の回転や摺動により、経時的にカーボンブラック粒子のチェーンストラクチャーが破壊され離油度が安定しなかったりすることがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭63−24038号公報
【特許文献2】特開2007−2182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
また、カーボンブラックを含有したグリースコンパウンドは、摩擦係数が高く、部品に塗布したときにスムーズな摺動を長期間継続できない場合もあった。
【0007】
また、カーボンブラックを含有したグリースコンパウンドは黒色であるため、部品に塗布したときの外観が劣り、最終製品の使用者の手や衣服を黒く汚したりする場合があった。
【0008】
一方、アルミニウムやガリウムをドープして導電性を付与した酸化亜鉛を含有したグリースコンパウンドは、カーボンブラックを含有したグリースコンパウンドと比較して導電性が著しく劣るという問題があった。
【0009】
本発明の目的は、摩擦係数が低い非黒色の導電性グリースコンパウンドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、パーフルオロポリエーテルおよび樹枝状銀粉から少なくともなるパーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物に関する。前記パーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物は、混和ちょう度が200以上380以下であることが好ましく、体積抵抗率が0〜10Ω・cmであることが好ましい。前記パーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物は、携帯電話ヒンジ用導電性グリースコンパウンドとして好適に用いることができる。
【0011】
前記パーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物は、さらにポリテトラフルオロエチレンを含有することが好ましく、ポリテトラフルオロエチレンの含有量は前記パーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物に対して、1質量%以上50質量%以下であることが好ましい。
【0012】
前記樹枝状銀粉の含有量は、前記パーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物に対して、5質量%以上60質量%以下であることが好ましい。また、前記樹枝状銀粉は、粒子径が0.05μm以上10μm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のパーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物は、樹枝状銀粉を含有するので高い導電性を有し、摩擦抵抗が小さいという特徴がある。本発明のパーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物は、静電気除去などを目的とした導電性の摺動部材、駆動部材、軸受等の潤滑剤として有用である。また、非黒色であるので、部品に塗布した際の外観が良好で、使用者の手や衣服に付着しても目立たないという特徴がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】摩擦係数測定装置の一部を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
樹枝状銀粉は、本発明パーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物に導電性を付与するものである。樹枝状銀粉の含有量は、パーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物に対して、5質量%以上60質量%以下であることが好ましい。樹枝状銀粉の含有量が5質量%未満であると十分な導電性が得られず、一方、樹枝状銀粉の含有量が60質量%を超えると不経済であり、本発明のパーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物の摩擦係数が大きくなる場合がある。
【0016】
樹枝状とは、高度に分岐した不規則な樹枝状の突起を銀粉表面に有することを包含する。銀粉表面全体に樹枝状の突起を有することが好ましいが、一部の銀粉表面がフレーク状や塊状を呈し、表面の樹枝状の不規則な突起を部分的に失っていてもよい。
【0017】
前記樹枝状銀粉は導電性や分散性の点から、一般的には、粒子径が0.05μm以上10μm以下であることが好ましく、0.1μm以上5μm以下であることがさらに好ましい。粒子径は、例えばレーザー回折散乱式粒度分布測定法による体積累積中位径(Median径)で表すことができる。また、樹枝状銀粉のタップ充填密度は、一般的に、0.3〜4.0g/cmの範囲であるが、0.4〜3.0g/cmの範囲であることが好ましい。
【0018】
パーフルオロポリエーテルは本発明のパーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物の基油であり、パーフルオロエーテルの種類は特に限定されない。パーフルオロポリエーテルは化学的に極めて安定で、不活性であるため高温でも分解しにくく、塗布した場合にも部品への影響がほとんどないという特徴がある。
【0019】
パーフルオロポリエーテルの動粘度は、40℃において10mm/s以上500mm/s以下であることが好ましい。動粘度が10mm/s未満だと、パーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物の離油度が不十分となる場合があり、また動粘度が500mm/sを超えると得られるコンパウンド組成物のちょう度が下がり、取り扱い作業が悪くなる場合がある。
【0020】
また、パーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物のちょう度をさらに安定させるために、増ちょう剤としてポリテトラフルオロエチレンを使用してもよい。ポリテトラフルオロエチレンの一次粒子径は、電子顕微鏡で測定された値で0.1μm以上1.0μm以下であることが一般的である。ポリテトラフルオロエチレンの配合量は、パーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物に対して、1〜50質量%の範囲であることが好ましい。
【0021】
本発明のパーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物の混和ちょう度は220以上340以下が好ましい。混和ちょう度が220未満であると、部品に塗布することが難しくなり、また、長期使用時に摺動不能となる懸念がある。また、混和ちょう度が340より大きいと、コンパウンド組成物が軟らかくなりすぎ、部品から漏出する懸念がある。
【0022】
本発明のパーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物の体積抵抗率は0〜10Ω・cmであることが好ましく、5〜10Ω・cmであることがさらに好ましい。体積抵抗率(Ω・cm)は、直径2cmの円盤電極で、パーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物の厚さが0.2cmになるように挟み、デジタルマルチメーターで電極間抵抗値(Ω)を25℃で測定して算出することができる。
【0023】
本発明のパーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物は導電性が高く、その導電性が長期間にわたり高水準に維持されるという特徴がある。したがって、本発明のパーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物は、静電気除去などを目的として導電性が必要とされる部位に用いられるグリースコンパウンドとして好適に使用することができる。
【0024】
また、本発明のパーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物では、添加剤として、酸化防止剤、極圧剤、油性剤、防錆剤、腐食防止剤、金属不活性剤、染料、色相安定剤、増粘剤、構造安定剤、紫外線吸収剤等といった種々の添加剤を、使用される用途に応じて使用することもできる。
【0025】
本発明のパーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物は、従来知られている種々の方法で製造することができる。具体的には、例えば、パーフルオロポリエーテルと樹枝状銀粉および/またはポリテトラフルオロエチレンを混合することにより製造することができるほか、予め、パーフルオロポリエーテルとポリテトラフルオロエチレンを混合し、ロールミルを通してミル仕上げをした後、樹枝状銀粉や種々の添加剤を加えて混合・攪拌・脱泡して製造することができる。
【0026】
さらに、上記操作後に必要に応じて濾過、減圧、加圧、過熱、冷却、不活性ガス置換等を単独、あるいは複合して行ってもよい。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。また、表1中の数値はコンパウンド組成物全体を100とした場合の各成分の質量%を表す。
【0028】
[パーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物の体積抵抗率の測定方法]
直径2cmの円盤電極で、パーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物の厚さが0.2cmになるように挟み、デジタルマルチメーターで電極間抵抗値(Ω)を測定し、体積抵抗率(Ω・cm)を算出した。測定は25℃で行った。
【0029】
[摩擦係数の測定方法]
図1に示した装置を用いて、パーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物を約0.1mmの厚さで塗布したSPCC−SB鋼板上に、1/2インチ鋼球を載せ、荷重1.96N、摺動速度30cpm、摺動距離40mm、測定温度25℃の条件で摺動サイクル1000回の往復動試験を行った。ロードセルを通じて記録計にアウトプットされた摩擦力から、摺動サイクル1000回試験後の摩擦係数を算出した。
【0030】
[混和ちょう度]
混和ちょう度は、JIS K2220 7に規定された方法で測定した1/2スケールでの測定結果である。
【0031】
[実施例1〜3]
表1に示すパーフルオロポリエーテル、樹枝状銀粉、および/またはポリテトラフルオロエチレンを攪拌した後、3本ロールミルを用いてミル仕上げした後、脱泡を行い、淡黄灰色パーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物を得た。それぞれ得られた淡黄灰色パーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物の体積抵抗率、摩擦係数、混和ちょう度を評価した。得られた結果を表1に示す。
【0032】
[比較例1]
表1に示すパーフルオロポリエーテル、カーボンブラックとポリテトラフルオロエチレンを攪拌した後、3本ロールミルを用いてミル仕上げした後、脱泡を行い、黒色パーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物を得た。得られた黒色パーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物の体積抵抗率、摩擦係数、混和ちょう度を評価した。得られた結果を表1に示す。
【0033】
[比較例2]
表1に示すパーフルオロポリエーテルとポリテトラフルオロエチレンを攪拌した後、3本ロールミルを用いてミル仕上げした後、脱泡を行い、白色パーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物を得た。得られた白色パーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物の体積抵抗率、摩擦係数、混和ちょう度を評価した。得られた結果を表1に示す。
【0034】
[比較例3]
表1に示すパーフルオロポリエーテル、導電性酸化亜鉛Aおよびポリテトラフルオロエチレンを攪拌した後、3本ロールミルを用いてミル仕上げした後脱泡を行い、白色パーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物を得た。得られた白色パーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物の体積抵抗率、摩擦係数、混和ちょう度を評価した。得られた結果を表1に示す。
【0035】
[比較例4]
表1に示すパーフルオロポリエーテル、導電性酸化亜鉛Bおよびポリテトラフルオロエチレンを攪拌した後、3本ロールミルを用いてミル仕上げした後脱泡を行い、淡緑色パーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物を得た。得られた淡緑色パーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物の体積抵抗率、摩擦係数、混和ちょう度を評価した。得られた結果を表1に示す。
【0036】
[比較例5]
40℃における動粘度が160mm/sであるパーフルオロポリエーテル25質量%と鱗片状銀粉(平均粒径3.6μm、タップ充填密度約4.8g/cm)65質量%およびポリテトラフルオロエチレン10%を攪拌した後、3本ロールミルを用いてミル仕上げした後、脱泡を行い、淡灰色パーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物を得た。得られた淡灰色パーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物の体積抵抗率は4×1013Ω・cm、摩擦係数は0.25であった。
【0037】
【表1】

【0038】
表1において
樹枝状銀粉:全表面が樹枝状を呈する樹枝状銀粉(粒子径約1.2μm、タップ充填密度約0.8g/cm
PFPEオイル:パーフルオロポリエーテル(40℃での動粘度が160mm/s)
PTFE:ポリテトラフルオロエチレン(一次粒子径約0.3μm)
カーボンブラック:ケッチェンブラックEC(ケッチェン・ブラック・インターナショナル(株)製、導電性付与剤、一次粒子径39.5nm)
導電性酸化亜鉛A:ハクスイテック(株)製の23−K(一次粒子径120〜250nm)
導電性酸化亜鉛B:ハクスイテック(株)製のPazet GK−40(一次粒子径20〜40nm)
をそれぞれ示す。
【0039】
[実施例4〜6、比較例6〜7]
表2に示すパーフルオロポリエーテル、銀粉、およびポリテトラフルオロエチレンを攪拌した後、3本ロールミルを用いてミル仕上げした後、脱泡を行い、パーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物を得た。それぞれ得られたパーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物の体積抵抗率、摩擦係数、混和ちょう度を評価した。得られた結果を表2示す。
【0040】
【表2】

【0041】
表2において
銀粉A:表面の一部が塊状を呈する樹枝状銀粉(粒子径約4.0μm、タップ充填密度約1.7g/cm
銀粉B:表面の一部が塊状を呈する樹枝状銀粉(粒子径約1.0μm、タップ充填密度約1.5g/cm
銀粉C:表面の一部が塊状を呈する樹枝状銀粉(粒子径約3.0μm、タップ充填密度約1.4g/cm
銀粉D:フレーク状銀粉(粒子径1.6μm、タップ充填密度約4.6g/cm
銀粉E:表面の一部が塊状を呈する樹枝状銀粉(粒子径約7μm、タップ充填密度約4.2g/cm
PFPEオイル:パーフルオロポリエーテル(40℃での動粘度が160mm/s)
PTFE:ポリテトラフルオロエチレン(一次粒子径約0.2μm)
をそれぞれ示す。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明のパーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物は導電性が高く、その導電性が長期間にわたり高水準に維持されるという特徴があり、また、長期間摩擦抵抗の低い優れた潤滑性を維持するという特徴がある。このことから、本発明のパーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物は、静電気除去などを目的とした導電性部品からなる回転軸受/滑り軸受、ピボットピン、カム、ガイド、ウェイ、ドライブスクリュー、ギヤ、スプライン、チェーン、ベアリングの潤滑剤として好適に使用することができる。具体的な用途としては、例えば、携帯電話の受信感度の向上や、ワンセグ視聴時の画像の乱れを防止する目的で、携帯電話ヒンジ用グリースコンパウンドとして用いることができる。
【符号の説明】
【0043】
1 錘
2 1/2インチ鋼球
3 パーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物
4 SPCC−SB鋼板
5 ロードセル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーフルオロポリエーテルおよび樹枝状銀粉から少なくともなるパーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物。
【請求項2】
さらに、ポリテトラフルオロエチレンを含有する請求項1に記載のパーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物。
【請求項3】
ポリテトラフルオロエチレンの配合量がパーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物に対して1質量%以上50質量%以下であることを特徴とする請求項2項に記載のパーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物。
【請求項4】
樹枝状銀粉の配合量がパーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物に対して5質量%以上60質量%以下であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のパーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物。
【請求項5】
樹枝状銀粉の粒子径が0.05μm以上10μm以下であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載のパーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物。
【請求項6】
パーフルオロエーテルコンパウンド組成物の混和ちょう度が200以上380以下であることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載のパーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物。
【請求項7】
体積抵抗率が0〜10Ω・cmであることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載のパーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物。
【請求項8】
携帯電話ヒンジ用であることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載のパーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2010−121123(P2010−121123A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−242982(P2009−242982)
【出願日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【出願人】(000110077)東レ・ダウコーニング株式会社 (338)
【Fターム(参考)】