説明

パーフルオロ多官能ビニルエーテル化合物の製造方法

【課題】含フッ素ポリマーの原料として有用な、パーフルオロ多官能ビニルエーテル化合物を高収率で製造する方法を提供する。
【解決手段】
下記一般式(1)で表される化合物を減圧下、熱分解させる工程を含む一般式(2)で表される化合物の製造方法。


(式中、Rf、Rfはそれぞれ独立にフッ素原子、またはパーフルオロ化された1価の置換基を表す。Rf、Rfはそれぞれ独立にフッ素原子、パーフルオロ化された1価の置換基、またはパーフルオロ化された2価の置換基を表し、RfとRfは結合して環を形成していてもよく、RfとRfは、Rfと結合して環を形成していてもよい。Rfはパーフルオロ化された(n+1)価〜(2n+2)価の連結基を表す。ただし、nは1〜5の整数を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーフルオロ多官能ビニルエーテル化合物の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素ポリマーは撥水・撥油性、耐熱性、耐薬品性、低屈折率性等の多くの優れた性質を有し、コーティング剤(例えば、特許文献1)、シール部材(例えば、特許文献2)、化粧品(例えば、特許文献3)等幅広い分野で使用されている。
【0003】
その中で、パーフルオロビニルエーテル基(−OCF=CF)を有するパーフルオロビニルエーテル化合物はフッ素ポリマー原料として最もよく用いられるモノマーの1つである。パーフルオロビニルエーテル化合物を工業的に製造する方法としては、−OCFCFCOOM基または−OCF(CF)COOM基(式中、Mはアルカリ金属等の金属)を有するカルボン酸塩の加熱による脱炭酸が知られている(例えば、特許文献4)。しかし、一般的に脱炭酸ではカルボン酸塩の乾燥が困難であり、乾燥が不十分であると−OCF=CF基にフッ化水素が付加した−OCHFCF基が副成することが知られている。複数のパーフルオロビニルエーテル基を有する化合物中に−OCHFCF基が存在すると、パーフルオロビニルエーテル基を重合させポリマーを製造する場合、−OCHFCF基は重合性を示さないため、架橋密度が低下してしまい、好ましくない。脱炭酸を用いない他のパーフルオロビニルエーテル化合物の工業的製造法として、−OCClFCClF基の亜鉛による脱塩素化も知られているが(例えば、特許文献5)、副生する塩化亜鉛を別途処理する必要があるため、コストがかさみ経済的に不利であった。
【0004】
これに対し、流通法によりパーフルオロビニルエーテル化合物を製造する方法は連続反応が可能であり、工業的実施に適した最も有用な製造法の1つである。ここでいう流通法とは、−OCF(CF)COF基、あるいは−OCFCFCOF基を有する化合物(原料)を高温に加熱した管状の反応装置内に導入し、気相で熱分解させて、−OCF=CF基に変換するものである。一般に、流通法では反応装置内にガラスビーズなどの粒状の充填剤を詰め、熱伝導率を上げることによって反応を促進する。流通法では、原料と充填剤の接触時間が反応転換率に影響を与える重要な要因の一つであることから、これを制御するために窒素やヘリウムといった不活性ガスを流通させながら常圧で反応を行う。また、不活性ガスの流通は、充填剤を乾燥させ−OCHFCF基の副生を抑制するため、および原料の気化を促進するためにも重要であり、公知の流通法は全て常圧下で行われている。しかし、この方法は−OCF(CF)COF基、あるいは−OCFCFCOF基を1つ有する化合物では、高収率で目的物を与えるが、複数のそれら基を有する化合物から複数の−OCF=CF基を有する化合物、すなわち、パーフルオロ多官能ビニルエーテル化合物を得ようとする場合、生成物の収率が低く、生産性が悪いという問題があった。例えば、FSO(CFOCF(CFOCF(CF)COF)の流通法では、FSO(CFOCF(CFOCF=CFの収率は31.5%と低く、製造に適しているとは言い難い(特許文献6)。また、FCO(CFOCF(CF)COFの流通法では、FC=FCOCF=CFの収率は41%と低く、これも製造に適しているとは言い難い(特許文献7)。
【0005】
ところで、減圧下で流通法を行うことに関して、明細書中に基質が高沸点である場合には減圧下で反応を実施するのが好ましいと記載されているものがある(特許文献8,9、10)。また、実際に減圧下で気相熱分解反応を実施した例は報告されていない。また、酸フルオリドの官能基数と反応圧力に関する記述はなく、パーフルオロ多官能酸ビニルエーテル化合物を減圧下で流通法により製造するという試みはこれまで全くなされていなかった。
【特許文献1】特開2006−38438号公報
【特許文献2】特開2007−146096号公報
【特許文献3】特開2007−269642号公報
【特許文献4】特開2004−18424号公報
【特許文献5】特許3882229号公報
【特許文献6】特開昭64−3140号公報
【特許文献7】特公昭44−20784号公報
【特許文献8】特開2001−139509号公報
【特許文献9】国際公開第02/026682号パンフレット
【特許文献10】国際公開第02/026687号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、流通法によるパーフルオロ多官能ビニルエーテル化合物の熱分解が低収率であり、製造適性に乏しかったという問題を解決するものである。また、本発明はフッ素ポリマー原料として有用なパーフルオロ多官能ビニルエーテル化合物を減圧流通法によって、高収率かつ高純度で製造する方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従来、流通法によるパーフルオロ多官能ビニルエーテル化合物の熱分解が低収率であり、製造適性に乏しかったという問題の原因は、パーフルオロ多官能ビニルエーテル化合物では、反応性の高いパーフルオロビニルエーテル基が複数存在するために、パーフルオロ単官能ビニルエーテル化合物よりもビニル基の重合反応といった副反応による生成物の分解量が多くなるためと推測される。鋭意検討の結果、減圧下で流通法を実施することにより、生成物の分解を抑え、高収率でパーフルオロ多官能ビニルエーテル化合物を製造できれば、工業的に極めて有用な製造方法になると考えられ、本発明に至った。
【0008】
即ち、下記の手段により上記課題が達成された。
[1] 下記一般式(1)で表される化合物を減圧下、熱分解させる工程を含む一般式(2)で表される化合物の製造方法。
【0009】
【化1】

【0010】
【化2】

【0011】
(式中、Rf、Rfはそれぞれ独立にフッ素原子、またはパーフルオロ化された1価の置換基を表す。Rf、Rfはそれぞれ独立にフッ素原子、パーフルオロ化された1価の置換基、またはパーフルオロ化された2価の置換基を表し、RfとRfは結合して環を形成していてもよく、RfとRfは、Rfと結合して環を形成していてもよい。Rfはパーフルオロ化された(n+1)価〜(2n+2)価の連結基を表す。ただし、nは1〜5の整数を表す。)
[2] 前記一般式(1)で表される化合物を絶対圧力100mmHg以下で熱分解させる工程を含む[1]に記載の前記一般式(2)で表される化合物の製造方法。
[3] 前記一般式(1)で表される化合物が下記一般式(3)で表される化合物であり、前記一般式(2)で表される化合物が下記一般式(4)で表される化合物である[1]または[2]に記載の製造方法。
【0012】
【化3】

【0013】
【化4】

【0014】
(式中、Rf、Rfはそれぞれ独立にフッ素原子、またはパーフルオロ化された1価の置換基を表す。Rfはパーフルオロ化された4価連結基を表す。)
[4] 前記一般式(3)で表される化合物が下記式(5)で表される化合物であり、前記一般式(4)で表される化合物が下記式(6)で表される化合物である[3]に記載の製造方法。
【0015】
【化5】

【0016】
【化6】

【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、パーフルオロ多官能ビニルエーテル化合物等のパーフルオロ化合物を高収率で製造することができる。得られたパーフルオロ多官能ビニルエーテル化合物はフッ化水素付加体の含量が極めて少なく、フッ素ポリマーの原料として極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明についてより詳細に説明する。
本明細書におけるパーフルオロ化されたとは、全ての水素原子がフッ素原子に置換されたことをいう。
【0019】
本明細書におけるパーフルオロビニルエーテルとは、−OCF=CFで表される基、および−OCF=CF基中の3つのフッ素原子のうち1〜3つが置換された基を示す。パーフルオロ多官能ビニルエーテル化合物とは、パーフルオロビニルエーテル基を2つ以上有するパーフルオロ化合物を示す。
【0020】
前記一般式(1)〜(4)における置換基および連結基について説明する。
Rf、Rf、Rf、Rf、Rf、Rfはいずれも熱分解反応によって変化しないものが好ましい。熱分解によって変化しない基とは、式−COXで表される基が存在しない基である。ただし、Xはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、または式―OYで表される基(ただし、Yはリチウム原子、ナトリウム原子、カリウム原子、セシウム原子等のアルカリ金属原子を示す。)を示す。
【0021】
Rf、Rf、Rf、Rfのハロゲン化アルキル基、Rf、Rfのハロゲン化アルキレン基中、およびRf、Rfのハロゲン化された連結基中のハロゲンとは、塩素、臭素、ヨウ素を示し、好ましくは塩素、臭素であり、さらに好ましくは塩素である。
【0022】
Rf、Rfはそれぞれ独立にフッ素原子、またはパーフルオロ化された1価置換基である。1価置換基は、直鎖状、分岐状、環状いずれの構造であってもよい。1価置換基は、好ましくは炭素数1〜10であり、より好ましくは炭素数1〜5であり、特に好ましくは炭素数1〜3である。1価置換基としては、アルキル基(例えば、メチル、エチル、n―プロピル、i―プロピル、シクロプロピルなどが挙げられる。)、ハロゲン化アルキル基(例えば、クロロメチル、ジクロロメチル、トリクロロメチル、1−クロロエチル、2−クロロエチルなどが挙げられる)、アルコキシ基(例えば、メトキシ、エトキシ、n―プロポキシ等が挙げられる。)、アシル基(例えば、ホルミル、アセチル、プロピオニルなどが挙げられる。)、アシルオキシ基(例えば、アセトキシ、プロピオニルオキシなどが挙げられる。)、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基などが挙げられる。)、フルオロスルホニル基などが挙げられる。これら1価の置換基はさらに他の置換基によって置換されていてもよい。
【0023】
Rf、Rfの具体例としては、フッ素原子、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロ−n−プロピル基、ヘプタフルオロ−i−プロピル基、クロロジフルオロメチル基、ジクロロフルオロメチル基、トリクロロメチル基、1−クロロテトラフルオロエチル基、2−クロロテトラフルオロエチル基、1,1−ジクロロトリフルオロエチル基、1、2−ジクロロトリフルオロエチル基、2,2−ジクロロトリフルオロエチル基、2,2,2−トリクロロジフルオロエチル基、1,1,2−トリクロロジフルオロエチル基、2,2,1−トリクロロジフルオロエチル基、1,2,2,2−テトラクロロフルオロエチル基、1,1,2,2−テトラクロロフルオロエチル基、ペンタクロロエチル基、1−クロロヘキサフルオロ−n−プロピル基、2−クロロヘキサフルオロ−n−プロピル基、3−クロロヘキサフルオロ−n−プロピル基、1−(クロロジフルオロメチル)テトラフルオロエチル基、1−(トリフルオロメチル)−1−クロロテトラフルオロエチル基、1,1−ジクロロペンタフルオロ−n−プロピル基、1,2−ジクロロペンタフルオロ−n−プロピル基、1,3−ジクロロペンタフルオロ−n−プロピル基、2,3−ジクロロペンタフルオロ−n−プロピル基、2,2−ジクロロペンタフルオロ−n−プロピル基、3,3−ジクロロペンタフルオロ−n−プロピル基、1−(クロロジフルオロメチル)−2−クロロトリフルオロエチル基、1−(ジクロロフルオロメチル)テトラフルオロエチル基、トリフルオロメトキシ基、ペンタフルオロエトキシ基、ヘプタフルオロ−n−プロポキシ基、ヘプタフルオロ−i−プロポキシ基、ペンタフルオロメトキシメチル基、ヘプタフルオロエトキシメチル基、ヘプタフルオロメトキシエチル基、ヘプタフルオロ−1−メトキシエチル基、トリフルオロアセチル基、ペンタフルオロプロピオニル基、ペンタフルオロアセチルメチル基、トリフルオロメトキシカルボニル基、ペンタフルオロエトキシカルボニル基、ペンタフルオロメトキシカルボニルメチル基、トリフルオロアセトキシ基、ペンタフルオロアセトキシメチル基、ペンタフルオロプロピオニルオキシ基、フルオロスルホニル基、フルオロスルホニルジフルオロメチル基、フルオロスルホニルテトラフルオロエチル基、フルオロスルホニルヘキサフルオロ−n−プロピル基等が挙げられるが、好ましくはフッ素原子、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロ−n−プロピル基、ヘプタフルオロ−i−プロピル基、トリフルオロメトキシ基、ペンタフルオロエトキシ基、ヘプタフルオロ−n−プロポキシ基、ヘプタフルオロ−i−プロポキシ基であり、さらに好ましくはフッ素原子、トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基であり、特に好ましくは、フッ素原子である。
【0024】
Rf、Rfは、それぞれ独立にフッ素原子、パーフルオロ化された1価置換基または、パーフルオロ化された2価置換基を表し、Rf、Rf、Rfはそれぞれ連結して環を形成していてもよい。1価置換基は、直鎖状、分岐状、環状いずれの構造であってもよい。1価置換基は、好ましくは炭素数1〜10であり、より好ましくは炭素数1〜5であり、特に好ましくは炭素数1〜3である。1価置換基としては、アルキル基(例えば、メチル、エチル、n―プロピル、i―プロピル、シクロプロピルなどが挙げられる。)、ハロゲン化アルキル基(例えば、クロロメチル、ジクロロメチル、トリクロロメチル、1−クロロエチル、2−クロロエチルなどが挙げられる)、アルコキシ基(例えば、メトキシ、エトキシ、i―プロポキシ等が挙げられる。)、アシル基(例えば、ホルミル、アセチル、プロピオニルなどが挙げられる。)、アシルオキシ基(例えば、アセトキシ、プロピオニルオキシなどが挙げられる。)、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基などが挙げられる。)、フルオロスルホニル基などが挙げられる。これら1価の置換基はさらに他の置換基によって置換されていてもよい。
【0025】
1価のRf、Rfの具体例としては、フッ素原子、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロ−n−プロピル基、ヘプタフルオロ−i−プロピル基、クロロジフルオロメチル基、ジクロロフルオロメチル基、トリクロロメチル基、1−クロロテトラフルオロエチル基、2−クロロテトラフルオロエチル基、1,1−ジクロロトリフルオロエチル基、1、2−ジクロロトリフルオロエチル基、2,2−ジクロロトリフルオロエチル基、2,2,2−トリクロロジフルオロエチル基、1,1,2−トリクロロジフルオロエチル基、2,2,1−トリクロロジフルオロエチル基、1,2,2,2−テトラクロロフルオロエチル基、1,1,2,2−テトラクロロフルオロエチル基、ペンタクロロエチル基、1−クロロヘキサフルオロ−n−プロピル基、2−クロロヘキサフルオロ−n−プロピル基、3−クロロヘキサフルオロ−n−プロピル基、1−(クロロジフルオロメチル)テトラフルオロエチル基、1−(トリフルオロメチル)−1−クロロテトラフルオロエチル基、1,1−ジクロロペンタフルオロ−n−プロピル基、1,2−ジクロロペンタフルオロ−n−プロピル基、1,3−ジクロロペンタフルオ−ロ−n−プロピル基、2,3−ジクロロペンタフルオロ−n−プロピル基、2,2−ジクロロペンタフルオロ−n−プロピル基、3,3−ジクロロペンタフルオロ−n−プロピル基、1−(クロロジフルオロメチル)−2−クロロトリフルオロエチル基、1−(ジクロロフルオロメチル)テトラフルオロエチル基、トリフルオロメトキシ基、ペンタフルオロエトキシ基、ヘプタフルオロ−n−プロポキシ基、ヘプタフルオロ−i−プロポキシ基、ペンタフルオロメトキシメチル基、ヘプタフルオロエトキシメチル基、ヘプタフルオロメトキシエチル基、ヘプタフルオロ−1−メトキシエチル基、トリフルオロアセチル基、ペンタフルオロプロピオニル基、ペンタフルオロアセチルメチル基、トリフルオロメトキシカルボニル基、ペンタフルオロエトキシカルボニル基、ペンタフルオロメトキシカルボニルメチル基、トリフルオロアセトキシ基、ペンタフルオロアセトキシメチル基、ペンタフルオロプロピオニルオキシ基、フルオロスルホニルジフルオロメチル基、フルオロスルホニルテトラフルオロエチル基、フルオロスルホニルヘキサフルオロ−n−プロピル基等が挙げられるが、好ましくはフッ素原子、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロ−n−プロピル基、ヘプタフルオロ−i−プロピル基、トリフルオロメトキシ基、ペンタフルオロエトキシ基、ヘプタフルオロ−n−プロポキシ基、ヘプタフルオロ−i−プロポキシ基であり、さらに好ましくはフッ素原子、トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基であり、特に好ましくは、フッ素原子である。
【0026】
Rf、Rfの2価の置換基は、直鎖状、分岐状、環状いずれの構造であってもよい。2価置換基は、好ましくは炭素数0〜10であり、より好ましくは炭素数0〜5であり、特に好ましくは炭素数1〜3である。2価置換基としては、アルキレン基、ハロゲン化アルキレン基が挙げられる。アルキレン基およびハロゲン化アルキレン基はエーテル結合を含んでいてもよい。以下に2価のRf、Rfの具体例を示すが、これによって本発明が限定されるものではない。
【0027】
【化7】

【0028】
Rfはパーフルオロ化された(n+1)価〜(2n+2)価の連結基を示す。ただし、nは1〜5の整数を表す。nは好ましくは1〜5であり、より好ましくは1〜3であり、さらに好ましくは1または2であり、特に好ましくは1である。該連結基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよく、また、連結基中にエーテル結合を有していてもよい。該連結基は、好ましくは炭素数1〜15であり、より好ましくは炭素数1〜10であり、特に好ましくは炭素数1〜6である。該連結基はハロゲン化されていてもよい。以下にRfの具体例を示すが、これによって本発明が限定されるものではない。
【0029】
【化8】

【0030】
Rfはパーフルオロ化された4価連結基を示す。4価連結基は、直鎖状、分岐状、環状いずれの構造であってもよく、また、連結基中にエーテル結合を有していてもよい。4価連結基は、好ましくは炭素数1〜20であり、より好ましくは炭素数1〜15であり、特に好ましくは炭素数1〜10である。4価連結基はハロゲン化されていてもよい。以下にRfの具体例を示すが、これによって本発明が限定されるものではない。
【0031】
【化9】

【0032】
前記一般式(1)で表される化合物のうち、RfとRfがRfと結合して環を形成した化合物は、前記一般式(3)で表される化合物であることが好ましく、前記式(5)で表される化合物であることがより好ましい。また、前記一般式(2)で表される化合物のうち、RfとRfがRfと結合して環を形成した化合物は、前記一般式(4)で表される化合物であることが好ましく、前記式(6)で表される化合物であることがより好ましい。
【0033】
本発明における熱分解とは、一般式(1)で表される化合物を加熱することにより一般式(2)で表される化合物が形成する反応をいう。本発明における熱分解は減圧下、気相で実施する。熱分解に用いる反応器は、効率的に加熱できる形状のものであれば、とくに限定されないが、例えば、管型反応器を用いることができる。管型反応器を用いる場合、酸フルオリド基を有する化合物(原料)を徐々に気化させるための反応容器(気化室)および反応物を回収するための冷却トラップを備え付けた装置で行うのが好ましい。熱分解の形式はとくに限定されず、どのような形式で行ってもよいが、例えば、原料の全てを一度に気化室に導入する連続式反応、および原料を分割して逐次、気化室に導入する半連続式反応で行うことがでる。本発明では連続式反応で行っている。連続式反応は、加熱した反応管中に気化させた原料を流通させ、生成したパーフルオロ多官能オレフィン化合物を出口ガスとして得て、これを冷却して凝縮し、連続的に回収する方法により実施するのが好ましい。酸フルオリド基を有する化合物の気化速度は、反応器の形状や大きさ、充填剤の種類および化合物の反応性によって適宜変更されるため限定することはできない。本発明の実施例で用いた管型反応器、充填剤、化合物では、気化速度1〜2mmol/hで行うと、良好な収率でパーフルオロ多官能ビニルエーテル化合物を得ることができた。一般的に、適切な気化速度範囲よりも気化速度が遅いと、生成物の分解反応が起こりやすくなり、収率が低下するおそれがあり、気化速度が速いと未反応原料の回収量が多くなりやすくなり、反応転換率が低下するおそれがあり、好ましくない。
【0034】
気相熱分解反応を行う場合には、反応を促進させる目的で、反応管内にガラス、アルカリ金属塩、またはアルカリ土類金属塩から選ばれる1種以上の無機固体存在下に実施するのが好ましい。ガラスとしては、一般的なソーダガラスが挙げられ、特にビーズ状にして流動性を上げたガラスビーズが好ましい。アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩としては、炭酸塩またはフッ化物が好ましい。アルカリ金属塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸セシウム、フッ化カリウム、フッ化ナトリウムなどが挙げられる。アルカリ土類金属塩としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、フッ化カルシウムなどが挙げられる。フッ化水素付加体の生成を抑える目的で、充填剤は、反応管内に詰めて減圧下200℃以上で1時間以上、好ましくは3時間以上乾燥させてから、反応に用いることが好ましい。これによりフッ化水素付加体の生成を抑え、高純度のパーフルオロ多官能ビニルエーテル化合物を得ることができる。
【0035】
気相熱分解反応における反応温度は、化合物の沸点や安定性により適宜変更されるが、100〜500℃が好ましく、150〜300℃がより好ましい。反応温度が高くなりすぎると、生成物の分解反応が起こり、収率が低下するおそれがあり、反応温度が低すぎると原料の回収量が多くなり好ましくない。
【0036】
気相熱分解反応における減圧度は、絶対圧力を示す。絶対圧力の測定方法はとくに限定されず、例えば、水銀気圧計、隔膜真空計、ピラニ真空計、サーミスター真空計などを用いることができる。減圧度100mmHgとは、絶対圧力で100mmHgであることを示す。減圧の方法は特に限定されないが、例えば、油回転真空ポンプ、ターボ分子ポンプ、ダイヤフラムポンプ、アスピレーター等を用いることができる。本発明では、減圧下で熱分解を行うことによって、反応性の高いパーフルオロビニルエーテル基の副反応、すなわち生成物の分解を抑え、高収率でパーフルオロ多官能ビニルエーテル化合物を得ることができる。したがって、減圧度は、生成物の分解を抑えるという観点から、100mmHg以下で行うのが好ましく、50mmHg以下がより好ましい。
【0037】
原料である酸フルオリド基を有する化合物は、減圧下で気相熱分解を行う理由から、100mmHgにおける沸点が350℃以下であるのが好ましい。
【0038】
本発明の気相熱分解反応の基質である一般式(1)で表される化合物および一般式(3)で表される化合物の入手方法は特に限定されず、公知の方法によって製造できる。例えば、一般式(1)で表される化合物のうち、n=1の化合物および後述の化合物(8)は、米国特許3250807号パンフレットに記載されている製造方法にしたがって製造できる。すなわち、2つの−COF基を有する化合物にヘキサフルオロプロピレンオキシド(HFPO)を付加させることにより製造できる(ただし、式中のRfは2価のパーフルオロ化された置換基を示す)。この製造法によれば、3つの−COF基を有する化合物から、n=2である一般式(1)で表される化合物を、4つの−COF基を有する化合物から、n=3である一般式(1)で表される化合物を製造できる。
【0039】
【化10】

【0040】
3つの−COF基有する化合物は、例えば、特開昭61−18071号に記載されている製造方法にしたがって製造できる。すなわち、3つの酸−COCl基を有する化合物を電解フッ素化し、NaFを作用させることによって製造できる(ただし、式中、Rは3価の置換基を示し、Rfはパーフルオロ化されたRを示す)。
【0041】
【化11】

【0042】
4つの−COF基を有する化合物は、例えば、特開平1−226844号に記載されている製造方法にしたがって製造できる。すなわち、2つの−COF基を有する化合物とエポキシ化合物を反応させ、SbFを作用させることによって製造できる(ただし、式中Rfはパーフルオロ化された2価置換基を示す)。
【0043】
【化12】

【0044】
前記一般式(3)で表される化合物および化合物(5)は、例えば、特開2007−13165号公報に記載されている製造方法にしたがって製造できる。すなわち、テトラオールR(OH)と含フッ素β-ケトエステルとの縮合によって得られたスピロ化合物を液相フッ素化し、NaFを作用させることよって製造できる(ただし、Rはパーフルオロ化されてRfとなる4価連結基を示す)。
【0045】
【化13】

【0046】
本発明では、複数の酸フルオリド基を有する化合物を減圧下で熱分解させることにより、生成物の分解を抑え、高収率でパーフルオロ多官能ビニルエーテル化合物を得ることが可能となった。すなわち、パーフルオロビニルエーテル基の副反応を抑えることができる本発明によれば、生成物中のパーフルオロビニルエーテル基の数はとくに限定されず、2つ以上の該基を含むパーフルオロ多官能ビニルエーテル化合物を製造することができる。また、一般式(1)、一般式(2)、一般式(3)および一般式(4)で表される化合物中のRf、Rf、Rf、Rf、Rf、Rfは熱分解を行う温度において安定な基であり、これらの基は熱分解の反応性には大きな影響を与えない。加えて、一般式(1)で表される化合物、一般式(3)で表される化合物は上記の製造方法にしたがって容易に入手することができる。以上から、本発明は、化合物(6)および後述の化合物(9)の製造方法に限定されるものではなく、一般式(1)で表される化合物から、一般式(2)で表される化合物の製造、および一般式(3)で表される化合物から一般式(4)で表される化合物の製造にも適用することができる。
【実施例】
【0047】
以下に本発明を具体的に説明する実施例を挙げるが、本発明はこれらによって限定されるものではない。ここでは、核磁気共鳴法はNMRと、ガスクロマトグラフィ質量分析法はGC−MSと、記す。19F−NMRではフルオロトリクロロメタンを外部標準として用いて測定を行った。
[実施例1]パーフルオロスピロジビニルエーテル(6)の製造
【0048】
【化14】

【0049】
ガラス製カラム反応管(内径14mm、長さ340mm)に炭酸カリウム6gを充填し、反応管の一方の末端に試料注入用の10mLナスフラスコ(気化室)を、他方の末端に冷却トラップを接続し、アルカリトラップを介して真空ポンプと冷却トラップを接続した。装置全体を4mmHgに減圧し、管状炉で反応管を203〜206℃に加熱して6時間充填剤を乾燥させた。気化室にパーフルオロスピロ酸フルオリド(5)(930mg、1.75mmol)を注入し、気化室を油浴で75分かけて35℃から83℃に加熱し、(5)を気化させた。反応物は−78℃に冷却したトラップによって凝縮し、回収した。気化終了後、さらに30分間反応物を回収した。反応中の減圧度は6〜16mmHgであった。冷却トラップにたまった回収物を19F−NMRにより解析すると、化合物(6)が569.7mg(1.42mmol, 収率 81.5モル%)得られた。化合物(6)中の化合物(7)の含率は0.43モル%であった。
化合物(6);19F−NMR[CFCl,CDCl]:δ[ppm]=−70.7(s,8F,―CF―)、−111.3(s,4F,=CF); GC−MS[SEI,70eV]:m/z=400[M]
【0050】
[実施例2]パーフルオロスピロジビニルエーテル(6)の製造
反応中の減圧度を47〜54mmHgに調節し、気化室を油浴で75分かけて40℃から90℃に加熱し、(5)を気化させたこと以外は、実施例1と同様の方法で行った。冷却トラップにたまった回収物を19F−NMRにより解析すると、化合物(6)が504mg(1.26mmol, 収率 72.1モル%)得られた。化合物(6)中の化合物(7)の含率は0.44モル%であった。
【0051】
[実施例3]パーフルオロスピロジビニルエーテル(6)の製造
反応中の減圧度を82〜97mmHgに調節し、気化室を油浴で75分かけて45℃から100℃に加熱し、(5)を気化させたこと以外は、実施例1と同様の方法で行った。冷却トラップにたまった回収物を19F−NMRにより解析すると、化合物(6)が442mg(1.10mmol, 収率 63.2モル%)得られた。化合物(6)中の化合物(7)の含率は0.49モル%であった。
【0052】
[比較例1]パーフルオロスピロジビニルエーテル(6)の製造
ガラス製カラム反応管(内径14mm、長さ340mm)に炭酸カリウム6gを充填し、実施例1と同様の装置を組んだ。装置全体を4mmHgに減圧し、管状炉で反応管を203〜206℃に加熱して6時間充填剤を乾燥させた。窒素ガスを導入し、装置全体を常圧にした後に、気化室にパーフルオロスピロ酸フルオリド(5)(930mg、1.75mmol)を注入した。窒素ガスを10ml/minで(5)に吹き込み、気化室を油浴で75分かけて50℃から150℃に加熱し、(5)を気化させ、窒素気流下、常圧で反応を行った。冷却トラップにたまった回収物を19F−NMRにより解析すると、化合物(6)が174mg(0.435mmol, 収率 24.9モル%)得られた。化合物(6)中の化合物(7)の含率は0.52モル%であった。
[実施例4]パーフルオロジビニルエーテル(9)の製造
【0053】
【化15】

【0054】
ガラス製カラム反応管(内径14mm、長さ340mm)に炭酸カリウム6gを充填し、実施例1と同様の装置を組んだ。装置全体を4mmHgに減圧し、管状炉で反応管を203〜206℃に加熱して4時間充填剤を乾燥させた。気化室にパーフルオロスピロ酸フルオリド(8)(920mg、1.75mmol)を注入し、気化室を油浴で70分かけて35℃から70℃に加熱し、(8)を気化させた。気化終了後、さらに30分間反応物を回収した。反応中の減圧度は5〜14mmHgであった。冷却トラップにたまった回収物を19F−NMRにより解析すると、化合物(9)が566.2mg(1.44mmol, 収率 82.1モル%)得られた。化合物(9)中の化合物(10)の含率は0.39モル%であった。
化合物(9);19F−NMR[CFCl,CDCl]:δ[ppm]=−86.40(m、4F)、−115.05(dd、J=69.6,90.9Hz、2F)、−123.19(dddd、J=5.7,6.3,90.9,119.1Hz,2F)、−126.77(m、4F)、−137.62(dddd、J=6.2,6.3,69.9,118.8Hz、2F)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物を減圧下、熱分解させる工程を含む一般式(2)で表される化合物の製造方法。
【化1】

【化2】

(式中、Rf、Rfはそれぞれ独立にフッ素原子、またはパーフルオロ化された1価の置換基を表す。Rf、Rfはそれぞれ独立にフッ素原子、パーフルオロ化された1価の置換基、またはパーフルオロ化された2価の置換基を表し、RfとRfは結合して環を形成していてもよく、RfとRfは、Rfと結合して環を形成していてもよい。Rfはパーフルオロ化された(n+1)価〜(2n+2)価の連結基を表す。ただし、nは1〜5の整数を表す。)
【請求項2】
前記一般式(1)で表される化合物を絶対圧力100mmHg以下で熱分解させる工程を含む請求項1に記載の前記一般式(2)で表される化合物の製造方法。
【請求項3】
前記一般式(1)で表される化合物が下記一般式(3)で表される化合物であり、前記一般式(2)で表される化合物が下記一般式(4)で表される化合物である請求項1または2に記載の製造方法。
【化3】

【化4】

(式中、Rf、Rfはそれぞれ独立にフッ素原子、またはパーフルオロ化された1価の置換基を表す。Rfはパーフルオロ化された4価連結基を表す。)
【請求項4】
前記一般式(3)で表される化合物が下記式(5)で表される化合物であり、前記一般式(4)で表される化合物が下記式(6)で表される化合物である請求項3に記載の製造方法。
【化5】

【化6】


【公開番号】特開2009−203172(P2009−203172A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−44788(P2008−44788)
【出願日】平成20年2月26日(2008.2.26)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】