説明

パーフルオロ(ポリ)エーテル中で四酸化二窒素を用いる生吸収性材料セルロースの調製方法

沸点50〜110℃を有するパーフルオロエーテルまたはパーフルオロポリエーテルから成る群の溶媒を四酸化二窒素による酸化に用いる方法で、主としてヘルスケア用途に用いられる酸化天然または再生セルロースから形成される生吸収性材料を調製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は特にヘルスケアー用途を意図する酸化天然または再生セルロースからの生吸収性材料の調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化セルロースは天然または再生セルロース(例えば、ビスコース)の酸化から得られるセルロースの酸化および分解生成物である。酸化セルロースは生適合性、生吸収性および生分解性材料である。酸性形態では殺菌効果を有する。この材料は一般的な吸収性材料としてヘルスケアーに用いられている。
【0003】
セルロースは多くの方法で酸化することができる。例えば、セルロースを極性酸媒体中で酸化窒素で、非極性有機媒体中で遊離のニトロキシル基を用いて−いわゆるTEMPO酸化、85%リン酸中に溶解に固体状の亜硝酸ナトリウムで処理すること、過ヨウ素酸、昇温およびアルカリpHで次亜塩素酸ナトリウム溶液、ジ亜ブロム酸溶液、クロム酸、亜塩素酸、過酸化水素、ガス状酸素、ガス状酸化窒素などによって処理することによる酸化が可能である。種々の酸化剤は異なる反応機構を有し、技術的または薬効上異なる生成物をもたらす。
【0004】
最初の工業的スケールのセルロース酸化技術はガス状四酸化二窒素による酸化に基づく(米国特許2,232,990号)。また、テトラクロロメタン中で四酸化二窒素溶液による酸化も考慮されたが、その時点では実現されなかった。すなわち、有機溶媒中での四酸化二窒素を用いるセルロース酸化技術の開発が始まった。
【0005】
有機溶媒中での酸化を述べる最初の特許(米国特許2,448,892号)は、テトラクロロメタンの他に以下の適当な溶媒:エチレンジクロリド、プロピレンジクロリド、ヘキサクロロエタン、テトラクロロエタン、クロロベンゼンなどを記載する。米国特許3,364,200号はクロロフルオロ炭素(1,1,2−トリクロロ−1,2,2−トリフルオロエタンまたはトリクロロフルオロメタン)中で四酸化二窒素溶液を用いる酸化技術を開示する。この技術の優位性は反応の制御がより正確であり、酸化の均一性が高くなる。
【0006】
米国特許4,347,057号には、生吸収性外科トレッドの調製を記載する。綿のトレッドを10〜30分間酸化混合物中に浸漬し、次いで取り出して昇温下および加圧下に15〜90分間反応させる。テトラクロロメタン、トリクロロフルオロメタン、1,1,2−トリクロロ−1,2,2−トリフルオロエタンおよび1,2−ジクロロ−1,1,2,2−テトラフルオロエタン(これらはクロロフルオロカーボンの1つでもある)をここでは溶媒として用いる。
【0007】
昇圧および昇温下に酸素、不活性ガスおよび四酸化二窒素の混合物を用いるテトラクロロメタン中でのポリサッカライドの酸化方法は米国特許5,541,316号に開示されている。
【0008】
上記方法の一般的な欠点は環境的には不適合な溶媒として塩素化または塩素フッ素化炭化水素を用いることである。
【0009】
従って、塩素フッ素化炭素の代替としてオゾン破壊物質ではないパーフルオロ化炭化水素(米国特許5,180,398号)−パーフルオロ炭素中での酸化方法が特許された。ヨーロッパ特許1,400,624号には、溶媒のニッティングオイル(knitting oil)を除去するための脱脂効果を用いるパーフルオロ炭素中でのセルロース酸化方法を開示する。米国特許5,914,003号にはハイドロフルオロエーテル中でのセルロース酸化方法を開示する。
【0010】
他の有機溶媒の多くが四酸化二窒素溶液中での酸化に好適かどうかテストされた。シクロヘキサン、ペンタンおよび他のアルカン類でよい結果が得られた。ハロゲンまたは酸素を含む極性溶媒は不利な結果が出た。エーテル(エチルエーテル、ブチルエーテル、アミルエーテルおよび1,4−ジオキサン)は酸化が全く起こらない最も悪い溶媒だとわかった。溶媒と四酸化二窒素との相互作用およびセルロースとの溶媒相互作用と考えられている。不活性溶媒の双極子モーメントが高ければ高いほど、モノマーが酸化的に作用するので、モノマー(四酸化二窒素)の量が少なくセルロースの酸化の程度が低くなる。安全のための理由から、強い酸化剤(例えば、四酸化二窒素)と可燃性溶媒(例えば、炭化水素およびエーテル)との酸化混合物は非常に危険で、本質的にこの技術に不適格である。
【0011】
これらの知識からセルロースはエーテル系溶媒、例えばジフェニルエーテルまたはメチルt−ブチルエーテル中では二酸化窒素ダイマーの溶媒分子との結合およびセルロース中の反応中心の溶媒和により酸化されないという事実が得られる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
セルロースおよびポリサッカライドの酸化のために好適な溶媒を選択することはそれらの使用および安全に関して大きく制限されるものであるということは明らかである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は有機媒体中で四酸化二窒素によって天然または再生セルロースを酸化し、次いで洗浄かつ乾燥することによる、重合度3〜100を有しかつカルボキシル基5〜24重量%を有する生吸収性セルロース材料の調製方法であって、前記有機媒体として、式I
−(O−R−(O−R−O−R
(式中、R、R、RおよびRは直鎖または分岐鎖パーフルオロアルキルまたはパーフルオロアリールの群からのモノマーを表し、m,n≧0である。)
で表される少なくとも一つのパーフルオロエーテルおよび/または少なくとも一つのパーフルオロポリエーテルを溶媒の沸点50〜110℃で用い、前記パーフルオロポリエーテルがホモポリマーまたは前記2以上のモノマーの共重合体であってよくかつパーフルオロポリエーテル主鎖が直鎖または分岐鎖であってよい、ことを特徴とする生吸収性セルロース材料の調製方法を提供し、上記欠点を解消する。
【0014】
セルロース供給材料は純粋な天然物(綿、リンター、木材セルロース、微生物セルロース−例えば生物工学的方法によって調製されたもの、例えばアセトバクターキシリニウム)、再生セルロース(常套のビスコース方法によって調製されたビスコースまたはレーヨン、N−メチルモルホリンN−オキシド(NMMO)から再生されたライオセル(lyocell)、再生セルロースまたは微結晶部分分解セルロース)であってよい。セルロースの物理的形状はいかなるものであってもよく、例えば布(織布、編物、不織布、ナノ織布)、ウール、リンター、ステープル(staple)、ナノファイバーおよびナノ構造物、パウダー、タンポン、紙、板、スポンジ、フィルムなどであってよい。この技術はオリゴサッカライドおよび他のポリサッカライド(例えば、デンプン、フラクタン(fructans))の酸化に用いられる。
【0015】
有機溶媒として、沸点50〜110℃を有するパーフルオロ(ポリ)エーテルのいくつかの市販の混合物が用いられ、それらは魅力的な価格を有するが、それらの機能は保持している。
【0016】
極性酸性媒体中の酸化方法と比べて、本発明の方法は老化や分解をしにくい、物理的および適応特性が高い、例えば組織に対する付着性、吸収能、所望の可撓性および乾燥および湿潤強さ、止血時間および吸収時間がよい生成物が得られる。微結晶および再生セルロースはそれらがゲル状物質を形成して溶解するので、極性媒体中で酸化するのは非常に難しい。しかしながら、本発明の方法を用いればこれらの生成物を有用な特性を有して調製することができる。
【0017】
パーフルオロ(ポリ)エーテル溶媒は非毒性で不燃性であり、塩素化または塩素フッ素化炭化水素と比べて環境に適合した有機溶媒である。セルロース酸化におけるこれらの溶媒の使用は生成物の高い均一性を保持しつつ、天然のセルロース材料の酸化を可能にするので、再生セルロースにのみ限定する必要はなくなる。
【0018】
パーフルオロ(ポリ)エーテル溶媒の使用の別の利点は、酸化が上記他の溶媒、すなわち、ハイドロフルオロエーテル溶媒よりも実質的に早く進行することである。沸点61℃を有する式C−O−CHおよび沸点76℃を有するC−O−Cの分離(segregated)ハイドロフルオロエーテルの実験はこれらの溶媒中でのセルロースの酸化が進行するが、本発明下におけるパーフルオロ(ポリ)エーテル中でのものよりもよくなく(表1参照)、分離ハイドロフルオロエーテルの高い極性が原因であると思われる。分離ハイドロフルオロエーテルでの実験はセルロース酸化のための四酸化二窒素溶媒としてパーフルオロ(ポリ)エーテルの特異性が確認される。
【実施例】
【0019】
実施例1
天然のウールメリヤス生地の酸化
酸化容器中5%の水含量で綿のメリヤス生地20gに沸点90℃で式CF−[(O−CF(CF)−CF−(O−CF]−O−CFのパーフルオロ(ポリ)エーテル90容量%および液状Nの10容量%からなる酸化溶液200mlを添加した。酸化が実験室温度25℃で16時間進行した。酸化が終了後、酸化混合物を取り出し、メリヤス生地を10分間排水した。次いで70%エタノール200mlを加えて、生地を2時間抽出した。70%エタノールで洗浄を3回行い、生成物を96%エタノールで洗浄後、99.8%イソプロパノールで最後に洗浄した。生地を自由大気中で乾燥した。水含量9.8重量%、乾燥物中COOH18.8重量%(カドキセン(cadoxen)溶液中粘度)DP16.7、1%溶液のpHは4であり、浸漬率(immersion rate)は3秒であり、吸収能はサンプル5gにつき水33.3gを有する生成物22.30gを得た。サンプルを接着および確認テストにかけた。メリヤス生地は大変柔らかい構造を示し、初期原材料と同様であった。
【0020】
実施例2
異なる溶媒中における酸化の比較
酸化容器中に水含量を5%を有する綿糸メリヤス生地20gのサンプルに有機溶媒90容量%および液状Nの10容量%からなる酸化混合物200mlをかけた。酸化が実験室温度25℃で16時間進行した。酸化終了後、酸化混合物を取り出し、サンプルを10分間排水した。70%エタノール200mlを各サンプルに添加し、サンプルを2時間抽出した。70%エタノールでの洗浄を3回行い、製造物を96%エタノールで洗浄した後、最終99.8%イソプロパノールで洗浄した。サンプルを自由大気下8時間乾燥した。実験結果を表1に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
実施例3
コットンウールおよび再生セルロースステープルの酸化
酸化容器中にコットンウールまたは再生セルロースステープル10gのサンプルに沸点90℃を有するパーフルオロポリエーテル90容量%および液状Nの10容量%の酸化混合物200mlをかけた。酸化は実験室温度25℃、16時間進行した。酸化終了後、酸化混合物を取り出し、サンプルを10分間排水した。70%エタノール200mlを各サンプルに加えて、サンプルを2時間抽出した。70%エタノールでの洗浄をトータルで3回行い、99.8%イソプロパノールで最後に洗浄した。サンプルを自由大気中で16時間乾燥させた。実験結果を表2に示す。
【0023】
【表2】


全ての生成物は柔らかい繊維状構造を有し、例えば歯科用タンポンとして使用可能である。
【0024】
実施例4
微結晶セルロースの酸化
重合度(DP)145を有する微結晶セルロース20gを沸点90℃を有するパーフルオロポリエーテル90容量%および液状N10容量%を含む酸化混合物200mlを含む酸化容器に中に定常撹拌下に添加した。酸化が実験室温度25℃で16時間続行した。酸化終了後、酸化混合物を濾別し、酸化生成物を70%エタノール200ml中に2時間吊し、エタノールを濾別し、洗浄を繰り返した。70%エタノールでの洗浄をトータルで3回行い、生成物を96%エタノールで洗浄後、最終99.8%イソプロパノールで洗浄した。生成物を自由大気中で16時間乾燥した。最終生成物はCOOH含量16.6重量%、DP27.6(カドキセン溶液中粘度測定)を有する白色粉末であった。
【0025】
実施例5
重量/セルロース重量の比の影響
20g重量の天然綿のメリヤス生地(DP=2525)のサンプルに、沸点90℃を有するパーフルオロポリエーテル中N10容量%の酸化混合物の異なる容量をかけた。酸化が20℃23時間続行した。酸化終了後、サンプルを実施例1における水性および無水アルコールで洗浄した。実験条件と結果を表3に示す。
【0026】
【表3】

【0027】
実施例6
特性評価
酸性媒体中の方法と比べて、および公知の溶媒によって調製された酸化テキスタイル再生セルロースと比べて、本発明下で種々の溶媒中で実施例2および3のような方法によって調製された種々の天然セルロース材料の化学的、物理的および用途特性の値を表4に要約する。酸化生成物の基本的化学特性の評価はv米国ファルマコペイア(Pharmacopoeia:USP25−酸化セルロース)中に記載の方法によって行う。さらに、重合数(DP)はカドキセン溶液中粘度経を用い、pH電極を用いてサンプルの1%水性抽出物のpH値で評価する。物理的特性(重量、吸収能および浸漬率)は生成物酸化および最終方法によって決定し、これらの特性は材料の用途の可能性に影響を与える。酸化セルロースの皮膚への湿潤付着性の評価、種々の条件下での安定性評価および止血効果および生化学的吸収性の評価を用いて、材料の適用特性を評価する。
【0028】
サンプルNo.1:実施例2で、沸点70℃を有する溶媒パーフルオロポリエーテルによる酸化テキスタイル天然セルロース
サンプルNo.2:実施例2で、沸点84℃を有する溶媒パーフルオロポリエーテルによる酸化テキスタイル天然セルロース
サンプルNo.3:実施例2で、沸点90℃を有する溶媒パーフルオロポリエーテルによる酸化テキスタイル天然セルロース
サンプルNo.4:酸性極性媒体中での酸化によって製造された酸化テキスタイル天然セルロース
サンプルNo.5:公知の溶媒方法によって調製された酸化テキスタイル再生セルロース
サンプルNo.6:実施例3で、沸点90℃を有する溶媒パーフルオロポリエーテルによる酸化綿ウール
【0029】
【表4】

【0030】
これらの実験では、同じ最初の材料を有機溶媒中で同様のカルボン酸基含量のレベルに酸化できが、比較できる化学特性と同様の材料分解度を達成できることをしめす。
【0031】
面重量はサンプルNo.6では、その非テキスタイル性から測定できない。
【0032】
全てのサンプルは、十分な皮膚付着性を示し、湿潤材料は可撓性を有し、皮膚に付着してその表面に再生する傾向がある。テキスタイル酸化セルロースサンプルが血液と接触した場合、瞬時のゲル化、急速凝集および効果的止血がパーフルオロポリエーテル中での酸化によるサンプルでは、おこる。全てのサンプルは、生体組織に良好な吸収性および迅速な治癒を示し、生体の可能や逆反応はおこらない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機媒体中で四酸化二窒素によって天然または再生セルロースを酸化し、次いで洗浄かつ乾燥することによる、重合度3〜100を有しかつカルボキシル基5〜24重量%を有する生吸収性セルロース材料の調製方法であって、前記有機媒体として、式I
−(O−R−(O−R−O−R
(式中、R、R、RおよびRは直鎖または分岐鎖パーフルオロアルキルまたはパーフルオロアリールの群からのモノマーを表し、m,n≧0である。)
で表される少なくとも一つのパーフルオロエーテルおよび/または少なくとも一つのパーフルオロポリエーテルを溶媒の沸点50〜110℃で用い、前記パーフルオロポリエーテルがホモポリマーまたは前記2以上のモノマーの共重合体であってよくかつパーフルオロポリエーテル主鎖が直鎖または分岐鎖であってよい、ことを特徴とする生吸収性セルロース材料の調製方法。

【公表番号】特表2009−529590(P2009−529590A)
【公表日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−558626(P2008−558626)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【国際出願番号】PCT/CZ2007/000013
【国際公開番号】WO2007/104267
【国際公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(508274426)
【氏名又は名称原語表記】Synthesia, a.s.
【Fターム(参考)】