説明

ヒアルロン酸リン脂質合成物を含む経口関節機能改善と保護剤

【課題】ヒアルロン酸リン脂質合成物を含む経口関節機能改善と保護剤及びヒアルロン酸リン脂質合成物の用途を提供する。
【解決手段】
本発明は、ヒアルロン酸リン脂質合成物(complex)を含む経口剤、及び、関節炎患者の関節炎症状を軽減し、関節滑液の中のヒアルロン酸の濃度を増加し、関節の潤滑能力を向上し、関節の正常機能を維持と改善することができる経口関節機能改善と保護剤を調製するためのヒアルロン酸リン脂質合成物の用途に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒアルロン酸リン脂質合成物(hyaluronic acid phospholipid complex)を含む経口剤、及び、関節炎患者の関節炎症状を軽減し、関節滑液の中のヒアルロン酸の濃度を増加し、関節の潤滑能力を向上し、関節の正常機能を維持と改善することができる経口関節機能改善と保護剤を調製するためのヒアルロン酸リン脂質合成物の用途に関する。
【背景技術】
【0002】
骨関節炎(osteoarthristis:OA)は、臨床上でよく見られる関節疾病のうち一つである。OAは、老人に良く見られるので、“後半生疾病”とも称される。人類の平均寿命が延びているに伴って老人OAの発病率も引き続き上昇し、それは、仕事を従事することをひどく妨害し、五十歳以上の労働能力喪失の原因となる心臓病の次の二番目の良く見られる疾病である。
【0003】
ヒアルロン酸(hyaluronic acid:HA)は、内因性の高分子ムコ多糖(endogenous macromolecular mucopolysaccharide)であり、主に、結締組織、例えば、皮膚、軟骨、関節滑液、角膜などの組織に存在し、その平均相対分子質量Mrは、1×(10〜10)である。ヒアルロン酸は、特有の潤滑性質、粘弾性質などを以て、眼部疾病、関節疾病を治療するなどの分野において顕著な治療効果を有する。また、ヒアルロン酸は、体内において、水を保ち、浸透圧を調製し、傷の癒合を促進し、酸素自由基を取り除くなどの性質も有する。
【0004】
現在、ヒアルロン酸は、眼科、整形外科、皮膚科などの医薬分野及び健康食品と化粧品に幅広く応用されている。しかし、ヒアルロン酸による関節炎の治療は、主に、関節腔内注射の手段を採用する。例えば、ヒアルロン酸ナトリウム(sodium hyaluronate:SH)注射液は、粘弾性補助治療薬物として既に骨関節疾病に応用されており、この注射液は、OAを治療するために病変関節内に直接注入され、滑液と関節組織基質のレオロジーを回復し、関節内環境を安定し、関節の潤滑を向上し、滑膜炎の症状を軽減し、及び、ヒアルロン酸の自己分泌能力を増強するなどの機能を有し、これにより、関節軟骨の破壊を軽減し、臨床症状を軽減し及び機能を改善することができる。SHは、軽度、中度OAに対しての治療効果が良いが、重度、末期OAに対しての治療効果が良くない。同時に、ヒアルロン酸の関節内注射は、専門医が無菌操作を行うことを要し、また、痛みも伴うので、患者の順応性が良くない。また、この種類の物質は、口服して胃腸により吸収される量が少ない。その主な原因は、相対分子質量が大きく、脂溶性が悪く、生物膜である障壁を通過し難く、胃腸に存在する酵素が多糖を分解(degrade)できるなどにある。
【0005】
よって、従来技術では、薬の他に、より便利且つ吸収がより良い関節機能改善と保護剤を依然要する。
【0006】
本発明は、経口可能なヒアルロン酸とリン脂質の合成物を提供することにより、前述した技術課題を解決する。合成物を形成した後、リン脂質は、ヒアルロン酸の親脂性を増加させることができ、また、リン脂質と細胞膜の高親和性を利用してヒアルロン酸分子と細胞膜の結合を促進することにより吸収を促進し、作用時間を延長し、ヒアルロン酸の経口生物学的利用度を向上することもできる。ヒアルロン酸は、消化吸収されることにより、体内ヒアルロン酸の合成のプロ体を増加し、臓器と組織内ヒアルロン酸の不足を補充し、全身の作用を発揮することができ、特に、関節炎患者の関節内ヒアルロン酸の濃度を増加し、滑液の粘度を向上し、関節炎の症状を軽減することができる。前述した理論を元にして、本発明は、ヒアルロン酸リン脂質合成物を経口関節機能改善と保護剤として用いる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ヒアルロン酸リン脂質合成物を含む経口関節機能改善と保護剤を提供することにある。
【0008】
ヒアルロン酸とリン脂質による合成物が形成された後、この合成物は、ヒアルロン酸とリン脂質の性質を同時に有し、リン脂質部分は、ヒアルロン酸に対しての吸収促進作用と緩釈作用を有する。この合成物は、関節炎患者の関節症状を軽減し、関節炎患者の関節滑液内のヒアルロン酸含有量を増加することができ、これにより、滑液の粘度を増加し、関節の機能を改善することができる。
【0009】
なお、本発明に使用される“関節機能の改善と保護”との用語とは、主に、関節の痛み、腫れ、朝のこわばり等の症状を解消し、関節の活動性を向上し、及び、滑膜炎の症状を軽減することができ、また、軟骨細胞を刺激し正常なタンパク質多糖長鎖構造を生成させることができ、更に、関節軟骨を破壊する他の物質を抑制し軟骨細胞の合成と代謝を促進することにより老化、破損の関節軟骨基質を修復することができることと言う。これにより、軟骨細胞が正常な状態と機能を持つように回復させ、また、関節軟骨が光沢と弾性を持つように回復させることにより、関節軟骨の老化を延ばし、疾病の進展を抑制し、骨関節炎の症状を解消することができる。
【0010】
本発明が適用される関節炎は、骨関節炎、リューマチ性関節炎及びその他の各種類の関節機能障害を含む。同時に、本発明の関節機能改善と保護剤は、服用により関節の保健に用いられることもでき、これにより、加齢による関節機能の退化を緩め、関節の潤滑能力を向上し、関節の正常機能を維持し、関節の退行性変化を予防することができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述した目的を達成するために、本発明の一側面によれば、本発明は、活性成分としてのヒアルロン酸リン脂質合成物を含む経口製剤を提供する。
【0012】
本発明の他の側面によれば、本発明は、関節機能を改善と保護するための製品を調製するのにおけるヒアルロン酸リン脂質合成物の応用を提供する。
【0013】
本発明のヒアルロン酸リン脂質合成物の調製プロセスは、ヒアルロン酸またはカルボジイミド活性化ヒアルロン酸を粉末または水溶液の形でリン脂質水分散液と十分に混合し、恒温で攪拌することにより本発明の合成物を得ることである。そのうち、リン脂質水分散液は、脂質体を調製することより得られ、または、リン脂質を機械攪拌、渦動混合及び超音波粉砕で直接水和することにより得られる。
【0014】
本発明のヒアルロン酸リン脂質合成物の調製プロセスにおいて、ヒアルロン酸とリン脂質の比率は、1:0.1〜1:10であり、反応温度は、28〜45℃であり、好ましくは、30〜40℃であり、また、反応時間は、2〜48hであり、好ましくは、4〜12hである。
【0015】
また、本発明のヒアルロン酸リン脂質合成物の調製プロセスにおいて、ヒアルロン酸の溶剤とリン脂質の水分散媒質は、生理食塩水またはリン酸塩緩衝液である。
【0016】
一実施例において、前述した調製方法は、ヒアルロン酸とリン脂質の溶解、リン脂質の膜化、リン脂質膜の水和、ヒアルロン酸とリン脂質分散液の混合、及び、混合溶液を恒温で攪拌することにより本発明の合成物を合成することを含む。
【0017】
一実施例において、リン脂質の分散液の調製は、リン脂質を含有する有機溶液を回転蒸発し膜を生成させた後に分散媒質を加え、そして、機械攪拌、渦動混合及び超音波粉砕の三つの方法のうち一つまたは複数の方法によりそれを均一の分散系に水和させることである。
【0018】
また、他の一実施例において、まず、通常の方法でリン脂質を脂質体に生成させ、そして、ヒアルロン酸を加えて、恒温で攪拌することによりそれらを合成させ、本発明の合成物を得る。
【0019】
一実施例において、ヒアルロン酸は、水溶液または粉末の二つの形でリン脂質の分散液に直接加えられる。
【0020】
他の一実施例において、ヒアルロン酸は、カルボジイミドで活性化された後に、リン脂質の分散液に直接加えられる。
【0021】
本発明のヒアルロン酸は水溶性のポリ陰イオン粘性多糖であり、水容液の中で溶解した後に、分子鎖の間または分子鎖内において一定の疎水区域と親水区域が形成されることができる。リン脂質は両親媒性物質であり、二つの長脂肪酸疎水鎖と一つのリン酸基親水鎖を有する。本発明のヒアルロン酸リン脂質合成物の形成は、赤外線スペクトルと示差走査熱量(DSC)曲線により既に証明されているように、ヒアルロン酸とリン脂質が疎水、静電、水素バンドなどの作用力で合成され合成物を形成することであり、両者による簡単な混合物を形成することでない。測定によれば、本発明のヒアルロン酸リン脂質合成物において、合成されたリン脂質とヒアルロン酸の質量の比は、0.08〜0.5である。
【0022】
本発明に用いられるヒアルロン酸は、動物組織からの抽出、微生物の発酵及び遺伝子工学による調製などにより得られ、且つ、ヒアルロン酸は、ヒアルロン酸及びその生理学上で受入可能な塩を含み、このような塩は、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、亜鉛塩などを含むが、これらに限られない。また、本発明に用いられるヒアルロン酸の相対分子質量は、1万ないし300万であり、好ましくは、100万より小さい(<100万)。
【0023】
本発明に用いられるリン脂質は、次のリン脂質の種類のうち、一つまたは複数による混合物であり、当該リン脂質の種類は、ホスファチド酸類(phosphatidates)、ホスファチジルコリン(phosphatidylcholines)(レシチン(lecithin))類、ホスファチジルエタノールアミン(phosphatidylethanolamine)(ケファリン(cephalin))類、ホスファチジルセリン類(phosphatidylserines)、N−メチルエタノールアミングリセロールフォスフェイト類(N−methylethanolamine glycerol phosphates)、N,N−ジメチルエタノールアミングリセロールフォスフェイト(N, N−dimethylethanolamine glycerol phosphates)、N−アシルエタノールアミングリセロールフォスフェイト(N−acylethanolamine glycerol phosphates)、N−2(ヒドロキシエチル)アラニンホスファチジルグリセリド(N−2(hydroxyethyl) alanine phosphatidyl glycerides)類、ビホスファチジルグリセリド類(biphosphatidyl glycerides)、グリセロールフォスフェイト(glycerol phosphate)、グルコサミングリセロールフォスフェイトグリセリド(glucosamine glycerol phosphate glyceride)、O−アミノ酸リン脂質グリセリド(O−amino acid phospholipid glyceride)、ホスファチジルイノシトール類(phosphatidylinositols)、ホスファチジルイノシトールフォスフェイト(phophatidylinositol phosphate)、ホスファチジルイノシトール二リン酸(phosphatidylinositol diphosphate)、ホスホイノシトール三リン酸(phosphoinositol triphosphate)、ホスファチジルグルコース(phosphatidylglucose)、二グルコースグリセロールホスファチド酸(diglucose glycerol phosphatidate)、スフィンゴ糖脂質(sphingosylglycolipid)、グリセル糖脂質(glyceryglycolipid)、セレブロシド(cerebroside)、ガングリオシド(ganglioside)、モノグリコシルセレブロシド(momoglycosyl cerebroside)、スフィンゴミエリン(sphingomyelin)、合成リン脂質(synthetic phospholipids)(例えば、ジパルミトイルホスファチジルコリン(dipalmitoyl phosphatidylcholine)、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(dipalmitoyl phosphatidylethanolamine)、リゾりん脂質(lysophospholipids)等を含み、好ましくは、ホスファチド酸類(phosphatidates)、ホスファチジルコリン(phosphatidylcholine)(レシチン(lecithin))類、ホスファチジルエタノールアミン(phosphatidylethanolamines)(ケファリン(cephalin))類、ホスファチジルセリン類(phosphatidylserines)、グリセロールリン酸(glycerol phosphate)、ホスファチジルイノシトール類(phophatidylinositiols)、スフィンゴミエリン(sphingomyelin)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(dipalmitoyl phosphatidylcholine)、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(dipalmitoyl phosphatidylethanolamine)、リゾりん脂質(lysophospholipids)を含み、更に好ましくは、ホスファチド酸類(phosphatidates)、ホスファチジルコリン類(phosphatidylcholines)、ホスファチジルエタノールアミン(phosphatidylethanolamines)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(dipalmitoyl phosphatidylcholine)、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン()dipalmitoyl phosphatidylethanolamines)、リゾりん脂質(lysophospholipids)を含み、最も好ましくは、ホスファチジルコリン類(phosphatidylcholines)、ホスファチジルエタノールアミン(phosphatidylethanolamines)、リゾりん脂質(lysophospholipids)を含む。
【0024】
ヒアルロン酸リン脂質合成物を含む本発明の経口剤は、当業者に知られている各種形式であっても良く、例えば、錠剤、カプセル剤、丸剤、薄膜剤(pellicle)、粒剤、散剤などを含む経口固体製剤と、経口溶液剤、懸濁剤、乳剤、ゲル剤、ペースト剤を含む経口液体製剤であっても良い。
【0025】
本発明の経口剤において、1gまたは1mlの製剤には、ヒアルロン酸リン脂質合成物が0.01〜0.5gある。また、実際の需要に応じて、本発明の経口剤の基本組成をもととし、他の栄養補給剤、或いは、コンドロイチン硫酸(chondroitin sulfate)及びアミノグルコース(aminoglucoses)などを含む活性成分を添加しても良い。アミノグルコースは、アミノグルコース塩酸(aminoglucose hydrochloride)及びアミノグルコース硫酸(aminoglucose sulfate)などを含む。
【発明の効果】
【0026】
本発明の経口剤は、直接服用されてもよく、また、生理食塩水、リン酸塩緩衝液、炭酸塩緩衝液に分散されてもよく、更に、食品に加えられてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明をより詳細に説明するために次の実施例を提供する。しかし、本発明の範囲は、次の実施例に決して制限されない。
【実施例1】
【0028】
第一の調製実施例:ヒアルロン酸リン脂質合成物1の調製及びその評価
1.2gのヒアルロン酸ナトリウムを正確に秤量し、攪拌しながら100mlのリン酸塩緩衝液にゆっくり加えて十分溶解させる。そして、3.6gのレシチン(ドイツLipoid社製Lipoid E 80を採用し、そのうち、約80%のホスファチジルコリン(phosphatidylcholine)、約8%のホスファチジルエタノールアミン(phosphatidyl ethanolamine)、及び、少量のスフィンゴミエリン(sphingomyelin)とリゾりん脂質(lysophospholipid)などを含む)を正確に秤量し、無水エタノールで溶解させる。次に、回転蒸発によりエタノールを除去し、瓶壁にリン脂質膜を残させ、そして、真空乾燥によりエタノールを完全に揮発させる。続いて、100mlのリン酸塩緩衝液を加えて機械攪拌によりそれを水和させ、そして、超音波粉砕を10min行うことによりそれを均一にさせた後に、溶解されたヒアルロン酸溶液に入れる。その後、37℃の恒温での機械攪拌を6h行うことによりヒアルロン酸リン脂質合成物1(ヒアルロン酸とリン脂質の質量の比は、1:3である)を得る。
【0029】
合成物に含まれるリン脂質とヒアルロン酸の合成状況の測定は、次のように行われる。即ち、合成物の乳液を調製した後に、真空で凍結乾燥を行うことである。測定する前に、凍結乾燥された合成物(m1;また、割合に基づいて算出されたヒアルロン酸とレシチンの量は、それぞれ、mHAとmPLである)を正確に秤量する。次に、合成物のうちレシチンの割合に基づいて一定量のクロロホルムを加えて10min振揺した後に、減圧しながら吸込フィルタリングを行いクロロホルム不溶性物質を乾燥させ、そして、その量(m2)を正確に秤量する。
【0030】
よって、合成されたリン脂質とヒアルロン酸の質量の比は、[mPL−(m1−m2)]/mHAになる。
【0031】
本実施例において、合成されたリン脂質とアルロン酸の質量の比は、0.4733である。
【0032】
合成物1の形成については、減衰全反射赤外線スペクトル(MB−HATR)と示差走査熱量計(DSC)により、それぞれ、評価を行った。
【0033】
MB−HATRの場合:試料がKBrペレットに広がって密接に付けられる。スペクトルの解像度が8.0cmである。200回の平均値が取られ、また、スキャン範囲が4000〜500cm−1である。その結果は、図1に示される。
【0034】
図1によれば、混合物に比べ、合成物は、一部の隣接したピークの間の相対強度に大きな変化が生じることが分かっている。合成物のうちヒアルロン酸のC=0とC−N(アミドグループ)の吸収ピークが高いレベルにシフトしてしまい、また、ヒアルロン酸解離カルボキシルグループ(dissociated carboxyl group)(Vo−c=o)のIR吸収も多少変化してしまう。合成物のうちリン脂質の極性端におけるリン−酸素(P−O)ボンドの伸縮振動ピーク(VP−OとVP−O−C)もシフトが生じてしまう(VP−Oは高レベルにシフトし、VP−O−Cは低レベルにシフトした)。ヒアルロン酸のアミドグループ(VC−OとVC−N)及び解離カルボキシルグループのスペクトル吸収位置が多少変化し、これにより、両者の作用は、ヒアルロン酸のカルボキシルまたはアミドグループとリン脂質の極性端との間に発生される可能性があり、この作用は、イオンボンドの作用と疏水作用に属することが分かっている。また、合成物のうちヒドロキシルの吸収バンドは、混合物のより広く、且つ、吸収バンドの波数は、混合物のより低いレベルにシフトするので、合成物には新たな水素ボンドが形成される可能性があると示す。
【0035】
DSCの操作条件:Nの流量が50ml/minであり、温度範囲が0〜400℃であり、加熱速度率が5℃/minである。その結果は、図2に示される。
【0036】
図2によれば、合成物のDSC曲線のうち約26℃の吸熱ピークが消失することが分かり、これにより、合成物が形成された後に、ヒアルロン酸とリン脂質との間に相互作用が発生したので、リン脂質には相変化がもう生じないとのことを示す。また、317.79℃の強い吸熱ピークも消失し、これは、多糖としてのヒアルロン酸が脂質膜を安定させるための良好な保護剤であることによる可能性があるが、これにより、リン脂質を保護し、高温下での酸化分解を生じさせないことができる。これに対して、混合物のDSC曲線は、おおよそ、ヒアルロン酸とリン脂質のDSC曲線の重ね合わせである。
【0037】
よって、前述した方法により、ヒアルロン酸とリン脂質は合成物を形成したことを示すことができる。
第二の調製実施例:ヒアルロン酸リン脂質合成物2の調製及びその評価
1.2gのヒアルロン酸ナトリウムと、0.24gの第一の調製実施例のリン脂質と、を、それぞれ、正確に秤量し(ヒアルロン酸とリン脂質の質量の比は、1:0.2である)、その他の調製過程は、合成物1のと同様である。合成物2のうちリン脂質とアルロン酸の合成状況の測定方法は、合成物1のと同様であり、合成されたリン脂質とアルロン酸の質量の比は、0.1886である。合成物2の評価方法は、合成物1のと同様であり、その赤外線スペクトル吸収特徴と熱化学性質の変化は、合成物1のとほぼ同様である。
第三の調製実施例:ヒアルロン酸リン脂質合成物3の調製及びその評価
1.2gのヒアルロン酸ナトリウムと、10.8gの第一の調製実施例のリン脂質と、を、それぞれ、正確に秤量し(ヒアルロン酸とリン脂質の質量の比は、1:9である)、その他の調製過程は、合成物1のと同様である。合成物3のうちリン脂質とヒアルロン酸の合成状況の測定方法は、合成物1のと同様であり、合成されたリン脂質とヒアルロン酸の質量の比は、0.4805である。合成物3の評価方法は、合成物1のと同様であり、その赤外線スペクトル吸収特徴と熱化学性質の変化は、合成物1のとほぼ同様である。
第一の調剤実施例
第一の調製実施例の合成物を用いて次の表1に示す組成で錠剤を作成する。
【表1】


錠剤の調製プロセスにおいて、ヒアルロン酸リン脂質合成物及びコンドロイチン硫酸を一定量のでん粉と解離させ、でん粉スラリーと混合した後に顆粒を作成する。乾燥された顆粒をステアリン酸マグネシウム及び余ったでん粉と混合させ、そして、この混合物を用いて製錠器により製錠する。
第二の調剤実施例
第二の調製実施例の合成物を用いて次の表2に示す組成比で混合させて通常の生産プロセスにより一定粒度の顆粒を作成し、そして、袋に入れて袋入り顆粒剤を作成する。
【表2】


第三の調剤実施例
通常の生産方法で第三の調製実施例の合成物を用いて次の表3に示す比で混合させて経口液を作成する。
【表3】


動物実験
1、方法
30匹ウサギが5組に分けられる。即ち、正常対照組、生理塩水(NS)注射組、ヒアルロン酸(HA)経口投入組、ヒアルロン酸(HA)注射組、及び、ヒアルロン酸リン脂質合成物(HA−PL:第二の調製実施例の合成物)経口投入組の5組に分けられる。
【0038】
パパインでウサギのOAを誘発するモデリング法(papain−induced OA model in rabbit)により、後ろの4組のウサギの右膝関節腔内に0.1mlのパパイン溶液(1mlの生理塩水には、1.8mgのパパインと、50mgの塩酸システインとが含まれ、該溶液は、無菌条件の下で0.22μmのフィルター膜によりフィルタリングされる)をそれぞれ注入する。三日間後、第二回の注射も行われる。
【0039】
モデルを作成してから七日目より、各組の動物に対して薬の投入を行う。そのうち、関節腔内への注射投入の薬に対しては、注射体積が0.3mlであり、使用するヒアルロン酸の濃度が10mg/mlであり、五日間ごとに一回注射し、テスト期間内で合計3回の注射を行う。また、経口投入の薬に対しては、毎日、相応する薬をそれぞれ投入し、ヒアルロン酸で計算すると投入する薬の分量が40mg/kg体重であり、体積が1ml/100g体重であり、また、投入が二週間連続行われる。
【0040】
薬の投入が完了した後に関節滑液を抽出してウサギを殺す。ウサギの関節周囲の毛を剃り関節腔を割って全体に観察し、そして、軟骨を完全無欠に取り出す。希釈アルカリ加水分解とプロテアーゼ加水分解超遠心分離法によりグリコサミノグリカン(glycosaminoglycan:GAG)を抽出する。アズール(azure)A法により軟骨中のGAG総量を測定し、また、HA RIAキットにより関節滑液の中のHA含有量を測定する。
【0041】
各組のサンプルの中のGAG含有量が、全て、1mg(軟骨の湿重量)あたりサンプル量(x(―)±s)に換算され、そして、tテストにより重要度テスト(significance test)を行う。
2、各組のサンプルのGAG含有量
測定結果が表4に示される。NS組のGAG含有量が著しく下がり、これは、OAのときにプロテオグリカン(proteoglycan:PG)が基質から失うことを示す。他の治療組に比べ、その差は、顕著な意義(P<0.05)を有する。HA−PL経口投入組は、HA経口投入組に比べ、顕著な差(P<0.05)を有するが、HA注射組とほぼ同じである。このような結果によれば、ヒアルロン酸リン脂質合成物は、軟骨の退化性変化を軽減し、軟骨中のGAF含有量の減少を有効に抑制することができる。その治療効果は、HA注射組のとほぼ同じであるが、経口投入に対しての患者の順応性は、注射に対してのより良い。
【表4】



備考:NS組に比べ、1)は、P<0.05である。HA経口投入組に比べ、2)は、P<0.05である。
3、各組の動物関節滑液の中のHA含有量
測定結果は、表5に示される。NS組のHA含有量が著しく下がり、他の組に比べ、その差は、顕著な意義(P<0.05)を有し、また、各治療組のHA含有量が正常組に比べ顕著な差を有しない。これは、HAを単独で使用しても、ヒアルロン酸リン脂質合成物を使用しても、ウサギOAモデルの膝関節滑液の中のHA含有量を上げることができる。
【表5】


備考:NS組に比べ、1)は、P<0.05である。
本発明の経口剤が臨床患者における効用
製剤実施例2を例とし、プラシーボ投入を参照対象とし、年齢が52±16歳である19名のOA患者を考察した。そのうち、プラシーボ投入は、9名の患者であり、治療組は、10名の患者である。薬剤の投入量(ヒアルロン酸含有量)が10mg/kg体重/日であり、毎日二回服用させる。服用させた一ヶ月後、関節症状の緩和及び機能改善の状況を評価し、その結果は、表6に示される。
【表6】


以上の実施形態は本発明を説明するために用いられるものであり、本発明を限定するものではない。本発明の趣旨を逸脱しない限り、本発明に対するあらゆる変更は本発明の範囲に属する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】ヒアルロン酸、リン脂質、ヒアルロン酸とリン脂質の混合物及び本発明のヒアルロン酸リン脂質合成物の赤外線スペクトルであり、そのうち、Aはヒアルロン酸であり、Bはレシチンであり、Cは物理研磨混合物(ヒアルロン酸:レシチン=1:3)、Dは本発明の調製実施例1の合成物である。
【図2】ヒアルロン酸(HA)、レシチン(PL)、ヒアルロン酸とリン脂質の混合物及び本発明のヒアルロン酸リン脂質合成物を表示するDSC曲線である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
関節機能を改善と保護するための製品を調製するのに用いられるヒアルロン酸リン脂質合成物の用途。
【請求項2】
前記製品は、経口製剤である、
請求項1に記載の用途。
【請求項3】
前記ヒアルロン酸リン脂質合成物のうち、合成されたリン脂質とヒアルロン酸の質量の比は、0.08〜0.5である、
請求項1または2に記載の用途。
【請求項4】
前記ヒアルロン酸は、ヒアルロン酸又はその生理学上で受入可能な塩であり、且つ、相対分子質量が1万乃至300万であり、好ましくは100万より小さく、
前記リン脂質は、ホスファチド酸類、ホスファチジルコリン類、ホスファチジルエタノールアミン類、ホスファチジルセリン類、N−メチルエタノールアミングリセロールフォスフェイト類、N,N−二メチルエタノールアミングリセロールフォスフェイト、N−アシルエタノールアミングリセロールフォスフェイト、N−2(ヒドロキシエチル)アラニンホスファチジルグリセリド類、ビホスファチジルグリセリド類、グリセロールフォスフェイト、グルコサミングリセロールフォスフェイトグリセリド、O−アミノ酸リン脂質グリセリド、ホスファチジルイノシトール類、ホスファチジルイノシトールフォスフェイト、ホスファチジルイノシトール二リン酸、ホスホイノシトール三リン酸、ホスファチジルグルコース、二グルコースグリセロールホスファチド酸、スフィンゴ糖脂質、グリセル糖脂質、セレブロシド、ガングリオシド、モノグリコシルセレブロシド、スフィンゴミエリン、ジパルミトイルホスファチジルコリンとジパルミトイルホスファチジルエタノールアミンを含む合成リン脂質、及び、リゾりん脂質を含むグループから選択される一つ又は複数である、
請求項1または2に記載の用途。
【請求項5】
活性成分としてのヒアルロン酸リン脂質合成物を含む経口製剤。
【請求項6】
前記ヒアルロン酸リン脂質合成物のうち、合成されたリン脂質とヒアルロン酸の質量の比は、0.08〜0.5である、
請求項5に記載の経口製剤。
【請求項7】
前記ヒアルロン酸は、ヒアルロン酸又はその生理学上で受入可能な塩であり、且つ、相対分子質量が1万乃至300万であり、好ましくは100万より小さく、
前記リン脂質は、ホスファチド酸類、ホスファチジルコリン類、ホスファチジルエタノールアミン類、ホスファチジルセリン類、N−メチルエタノールアミングリセロールフォスフェイト類、N,N−二メチルエタノールアミングリセロールフォスフェイト、N−アシルエタノールアミングリセロールフォスフェイト、N−2(ヒドロキシエチル)アラニンホスファチジルグリセリド類、ビホスファチジルグリセリド類、グリセロールフォスフェイト、グルコサミングリセロールフォスフェイトグリセリド、O−アミノ酸リン脂質グリセリド、ホスファチジルイノシトール類、ホスファチジルイノシトールフォスフェイト、ホスファチジルイノシトール二リン酸、ホスホイノシトール三リン酸、ホスファチジルグルコース、二グルコースグリセロールホスファチド酸、スフィンゴ糖脂質、グリセル糖脂質、セレブロシド、ガングリオシド、モノグリコシルセレブロシド、スフィンゴミエリン、ジパルミトイルホスファチジルコリンとジパルミトイルホスファチジルエタノールアミンを含む合成リン脂質、及び、リゾりん脂質を含むグループから選択される一つ又は複数である、
請求項5に記載の経口製剤。
【請求項8】
栄養補給剤、又は、コンドロイチン硫酸とアミノグルコースを含む他の活性成分を更に含む、
請求項5に記載の経口製剤。
【請求項9】
前記経口製剤は、錠剤、カプセル剤、丸剤、薄膜剤、粒剤、散剤を含む経口固体製剤、又は、経口溶液剤、懸濁剤、乳剤、ゲル剤、ペースト剤を含む経口液体製剤である、
請求項8に記載の経口製剤。
【請求項10】
1g又は1mlの前記経口製剤には、前記ヒアルロン酸リン脂質合成物が0.01〜0.5gある、
請求項5に記載の経口製剤。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−521400(P2009−521400A)
【公表日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−536914(P2008−536914)
【出願日】平成18年10月27日(2006.10.27)
【国際出願番号】PCT/CN2006/002884
【国際公開番号】WO2007/048351
【国際公開日】平成19年5月3日(2007.5.3)
【出願人】(508129920)
【Fターム(参考)】