説明

ヒアルロン酸含有飲料及びその製造方法

【課題】 飲用に適しており、吸収率に優れており、且つベース飲料の呈味性や色調に悪影響を与えない容器詰ヒアルロン酸含有飲料を提供する。
【解決手段】ヒアルロン酸含有量が0.001〜0.12重量%であり、且つ飲料の粘度が1.1〜3.0mPa・sであることを特徴とする容器ヒアルロン酸含有飲料及びその製造方法に関する。ヒアルロン酸の平均分子量が10〜50万であることが好ましく、またヒアルロン酸は乳酸菌由来であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、呈味性に優れかつ飲み易い容器詰ヒアルロン酸含有飲料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒアルロン酸は、N−アセチル−グルコサミンとD−グルクロン酸とが交互に結合して形成された直鎖状の高分子多糖であり、コラーゲン、フィブロネクチン、プロテオグリカンとともに細胞外マトリックスを構築し、細胞の保持、組織の潤滑性の保持、機械的障害などの外力への抵抗、細菌感染の防止など、多くの機能を有することが知られている(例えば特許文献1)。ヒアルロン酸は関節炎や角結膜上皮障害の治療薬として利用されているが、保湿性に優れていることから化粧品等の保湿成分としても利用されている。また近年では、ヒアルロン酸を飲食品に配合することもある。
【0003】
ヒアルロン酸の摂取方法としては、関節等に直接注入する方法や、皮膚外用剤に含有させて経皮的に摂取する方法や、飲食物に配合して経口的に摂取する方法がある(例えば特許文献2)。簡便性や摂取効率等を考慮すると経口摂取が好ましいとされており、例えばヒアルロン酸と死海の塩類とを配合する飲料(特許文献3)や、ヒアルロン酸と茶成分とを配合する組成物(例えば特許文献4)が知られている。
【0004】
しかしながら、ヒアルロン酸含有溶液は、粘度が極めて高いことからヒアルロン酸を単に溶解しただけでは飲用しにくく、特に幼児や高齢者などの飲用に適していなかった。また、飲料の粘性が高いとヒアルロン酸の吸収性も低下するため、決して商品的価値が高いものとはいえなかった。さらに、高粘度のヒアルロン酸はベースとなる飲料本来の呈味性や色調も変えてしまう問題もあり、特に茶系飲料においてこの問題は顕著であった。また、高粘度ヒアルロン酸は水溶性が低いことから製造工程が必然的に複雑かつ長くなり、そのため低価格でのヒアルロン酸含有飲料を消費者に提供することが困難であった。
【0005】
【特許文献1】特開2000−143527号公報
【特許文献2】特開2001−178406号公報
【特許文献3】特開昭62−224268号公報
【特許文献4】特開2001−333693号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、飲用に適しており、吸収率に優れており、且つベース飲料の呈味性や色調に悪影響を与えない容器詰ヒアルロン酸含有飲料を提供することにある。また本発明におけるヒアルロン酸含有飲料は製造工程を簡素にするものであり、コスト面でも優れた容器詰ヒアルロン酸含有飲料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ヒアルロン酸の特性や飲料に対するヒアルロン酸添加量を調節することにより容器詰ヒアルロン酸含有飲料として最適の粘度を見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
より具体的には本発明は、以下の通りである。
【0009】
1.ヒアルロン酸含有量が0.001〜0.12重量%であり、且つ飲料の粘度が1.1〜3.0mPa・sであることを特徴とする容器詰ヒアルロン酸含有飲料。
2.ヒアルロン酸の平均分子量が10〜50万であることを特徴とする請求項1記載の容器詰ヒアルロン酸含有飲料。
3.ヒアルロン酸が、エンテロコッカス属、ストレプトコッカス属、ラクトバチルス属、ビフィドバクテリウム属のいずれかの乳酸菌由来であることを特徴とする請求項1又は2記載の容器詰ヒアルロン酸含有飲料。
4.ヒアルロン酸を60〜90℃で溶解させる工程を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の容器詰ヒアルロン酸含有飲料の製造方法。
5.130〜140℃で30〜120秒間加熱殺菌することを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の容器詰ヒアルロン酸含有飲料の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、吸収率に優れており、且つベース飲料の呈味性や色調に悪影響を与えない容器詰ヒアルロン酸含有飲料を提供することにある。また本発明におけるヒアルロン酸含有飲料は製造工程を簡素にするものであり、コスト面でも優れた容器詰ヒアルロン酸含有飲料を提供することにある。
本発明によれば、上記組成とすることにより、飲料本来の呈味が維持された容器詰ヒアルロン酸含有飲料を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明の実施の態様について説明する。本明細書において使用する用語の意味は以下の通りである。
【0012】
本発明におけるヒアルロン酸は、一般的にムコ多糖とも呼ばれており、N−アセチル−グルコサミンとD−グルクロン酸とが交互に結合して形成された直鎖状の高分子多糖をいう。本発明におけるヒアルロン酸は、動物諸組織、特に間充組織に広く分布し、ガラス体、へその緒、関節液、ろく膜液、皮膚、鶏の鶏冠などに多く含まれており、これらの諸組織から抽出して得ることもできるが、ヒアルロン酸生成菌を用いて発酵法で得ることもできる。
【0013】
添加するヒアルロン酸含有量は、本発明の飲料の粘度を考慮すると、飲料に対して0.001〜0.12重量%、好ましくは0.002〜0.1重量%、さらに好ましくは0.003〜0.7重量、より好ましくは0.01〜0.7重量%、最も好ましくは0.02〜0.7重量%%であるのがよい。0.001重量%を下回るとヒアルロン酸が過小なために所望の効果を得ることができず、0.12重量%を越えると、ヒアルロン酸由来の粘度が過大なために飲料本来の呈味が失われるためである。
【0014】
本発明において粘度とは、流体の粘性度合いを示す指標であり、本明細書では単位をmPa・sとして示す。飲料の粘度は、JIS Z8803(液体の粘度−測定方法)に記載された方法に即して測定することができる。例えば、粘度計校正用標準液によって予め校正された共軸二重円筒型回転粘度計、単一円筒型回転粘度計、円錐平板型回転粘度計等の粘度計を用いて測定することができる。代表的にはB型粘度計を例示することができる。
【0015】
飲料の粘度は、風味性の観点から、1.1mPa・s〜3.0mPa・s、好ましくは1.1mPa・s〜2.0mPa・s、より好ましくは1.1mPa・s〜1.3mPa・sの範囲とするとよい。3.0mPa・sを越えると、粘度が過大なためにとろみがつき、飲料本来の風味が失われるので好ましくない。
【0016】
本発明における「風味」とは、ヒアルロン酸添加前の飲料が有する喉越し及び舌触り、とろみ等の残留感を基準としたものである。
【0017】
本発明における「呈味」とは、茶飲料、果実飲料等が特有に有する甘味、渋味等の味覚を基準としたものである。
【0018】
本発明におけるヒアルロン酸の平均分子量は、本発明の飲料の製造に供するものであれば特に限定されないが、ヒアルロン酸の平均分子量が10〜50万であると、低粘度の容器詰ヒアルロン酸含有飲料をより容易に製造できることから好ましい。ヒアルロン酸の平均分子量は、LC−MS装置やLC−TOF装置で測定可能である。市販のLC−MS装置やLC−TOF装置としては、例えばアプライドバイオシステム社製の装置を使用することができる。
【0019】
本発明のヒアルロン酸の由来は、本発明の飲料を製造することができれば特に限定されるものではないが、微生物由来、特にエンテロコッカス属、ストレプトコッカス属、ラクトバチルス属、ビフィドバクテリウム属のいずれかの乳酸菌由来であることが安全性や入手容易性の点から好ましい。
【0020】
粘度の調整方法としては、ヒアルロン酸の他、飲料に含まれる増粘多糖類等の粘度要因となる物質量を適宜調整する他、ヒアルロン酸含有飲料を温度130〜145℃、時間30〜120秒、好ましくは30〜90秒、より好ましくは30〜60秒の範囲で加熱するとよい。加熱の方法は、選択した容器の性質に応じて適宜選択することができる。
【0021】
ヒアルロン酸の平均分子量の調整方法としては、発酵法由来のヒアルロン酸と動物由来のヒアルロン酸を10:0〜1:1、好ましくは10:0〜2:1、より好ましくは10:0〜9:1で混合したものを使用することにより調製することができるほか、ヒアルロン酸を加水分解する方法がある。
【0022】
本発明の容器詰ヒアルロン酸含有飲料の製造方法については公知の製造方法により製造することができるが、経済性・呈味性維持の観点から、ヒアルロン酸を温度60〜90℃の水中で20分以内に溶解させる工程を含むことを特徴とする方法により製造することが好ましい。これはヒアルロン酸の溶解時間を短縮することにより、工程時間が短縮され、呈味や生産効率の面で好影響だからである。より詳細には、水中の温度は60〜90℃、より好ましくは70〜90℃、更に好ましくは75〜85℃に調整する。溶解させる時間は20分以内、より好ましくは15分以内、更に好ましくは10分以内、特に好ましくは5分以内に調整する。
【0023】
本発明において飲料としては、緑茶や紅茶やウーロン茶等の茶系飲料、各種穀物茶飲料、珈琲飲料、野菜飲料、果実飲料、炭酸飲料、乳飲料、ニアウォーター、水等が挙げられ特に限定されないが、ヒアルロン酸含有飲料の粘性を調整することにより喉越しや舌触り等の呈味性を改善するという本発明の特徴からすると、低粘度の飲料をベースにするものが好ましい。低粘度の飲料とは緑茶や紅茶やウーロン茶等の茶系飲料、各種穀物茶飲料、ニアウォーターや水等であり、これらを単独若しくは混合しても良い。
【0024】
本発明の容器詰飲料には、処方上添加して良い成分として、酸化防止剤、香料、各種エステル類、有機酸類、有機酸塩類、無機酸類、無機酸塩類、無機塩類、色素類、乳化剤、保存料、調味料、甘味料、酸味料、果汁エキス類、野菜エキス類、花蜜エキス類、pH調整剤、品質安定剤などの添加剤を単独、あるいは併用して配合しても良い。例えば甘味料としては、砂糖、ぶどう糖、果糖、異性化液糖、グリチルリチン、ステビア、アスパラテーム、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、その他のオリゴ糖としてシクロデキストリンが挙げられる。シクロデキストリンとしては、α−、β−、γ−シクロデキストリン及び、分岐α−、β−、γ−シクロデキストリンが使用できる。また、人工甘味剤も使用できる。酸味料としては、天然成分から抽出した果汁類のほか、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、乳酸、フマル酸、リン酸が挙げられる。無機酸類、無機酸塩類としてはリン酸、リン酸二ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウムなどが、有機酸類、有機酸塩類としてはクエン酸、コハク酸、イタコン酸、リンゴ酸、クエン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0025】
容器詰飲料に使用される容器は、一般の飲料と同様にポリエチレンテレフタレートを主成分とする成形容器(いわゆるPETボトル)、金属缶、金属箔や
プラスチックフィルムと複合された紙容器、瓶などの通常の形態で提供することができる。ここでいう容器詰飲料とは希釈せずに飲用できるものをいう。
【0026】
また本発明の容器詰飲料は、例えば、金属缶のように容器に充填後、加熱殺菌できる場合にあっては食品衛生法に定められた殺菌条件で製造される。PETボトル、紙容器のようにレトルト殺菌できないものについては、あらかじめ上記と同等の殺菌条件、例えばプレート式熱交換器などで高温短時間殺菌後、一定の温度迄冷却して容器に充填する等の方法が採用される。また無菌下で、充填された容器に別の成分を配合して充填してもよい。更に、酸性下で加熱殺菌後、無菌下でpHを中性に戻すことや、中性下で加熱殺菌後、無菌下でpHを酸性に戻すなどの操作も可能である。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0028】
ヒアルロン酸を添加する飲料
株式会社伊藤園製の『ホームサイズ緑茶』40gを92℃の蒸留水1600gで5分間抽出し、冷却後7000rpm10分間遠心分離して緑茶抽出液を得た。この緑茶抽出液にビタミンC及び重炭酸ナトリウムを用いてpH6.3に調整し茶飲料を得た。
【0029】
使用するヒアルロン酸
キューピー株式会社製の『ヒアルロン酸HA−LF』 平均分子量:10〜50万 動粘度:20cSt以下 をヒアルロン酸Aとして用いた。また、キューピー株式会社製の『ヒアルロン酸HA−F』 平均分子量:60〜100万 動粘度:20cSt以上 をヒアルロン酸Bとして用いた。
【0030】
実施例1〜17、比較例1〜5
表1に示すヒアルロン酸を得られた茶飲料に添加し、イオン交換水を加え5000gにし、135度、30秒UHT殺菌し、無色透明なPETボトル容器に詰め、粘度の測定、風味及び呈味の官能評価を行った。官能評価はヒアルロン酸を添加しない比較例1を基準とし、風味は○、△、×の3段階評価、呈味は比較例1を0として5段階評価した。
【0031】
表1

【0032】
実施例1〜17は、いずれも比較例2〜5に比べて風味の観点からの官能が勝っていることを示している。また、同量のヒアルロン酸を加えた場合、平均分子量50万以下のヒアルロン酸Aを用いた方が粘度に与える影響が少なく、同じ粘度で比較した場合も、呈味の観点からの官能が勝っていることが示されている。
【0033】
表1で用いた実施例4、8、10、16、17の飲料について、表2に示す条件で加熱殺菌し、表1と同様の評価を行った。なお、加熱なしの場合呈味の劣化は起こらないので、この場合の呈味評価は行っていない。
【0034】
表2

【0035】
表2により加熱時間が長いほど、飲料の粘度低下が起こることが示されている。また、ヒアルロン酸を添加するほど加熱による呈味劣化が抑制され、同程度の粘度に調整した場合、ヒアルロン酸Aを用いた飲料が呈味の評価が優れていることが示されている。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒアルロン酸含有量が0.001〜0.12重量%であり、且つ飲料の粘度が1.1〜3.0mPa・sであることを特徴とする容器詰ヒアルロン酸含有飲料。
【請求項2】
ヒアルロン酸の平均分子量が10〜50万であることを特徴とする請求項1記載の容器詰ヒアルロン酸含有飲料。
【請求項3】
ヒアルロン酸が、エンテロコッカス属、ストレプトコッカス属、ラクトバチルス属、ビフィドバクテリウム属のいずれかの乳酸菌由来であることを特徴とする請求項1又は2記載の容器詰ヒアルロン酸含有飲料。
【請求項4】
ヒアルロン酸を60〜90℃で溶解させる工程を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の容器詰ヒアルロン酸含有飲料の製造方法。
【請求項5】
130〜145℃で30〜120秒間加熱殺菌することを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の容器詰ヒアルロン酸含有飲料の製造方法。

【公開番号】特開2007−274933(P2007−274933A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−103658(P2006−103658)
【出願日】平成18年4月4日(2006.4.4)
【出願人】(591014972)株式会社 伊藤園 (213)
【Fターム(参考)】