説明

ヒトの脳を刺激する装置および方法

脳(3B)で発生される誘発性または自発性の生理学的信号を検出する検出器(10)、可変信号パラメータの最適設定値を決定するための基準を用いて検出された生理学的信号を比較する検出器(10)に接続されている制御装置(12)、電気刺激信号(EES)をヒト(2)に印加する第1の信号発生器(8)、および/または感覚刺激信号(SSS)をヒト(2)の感覚器官(3A)に印加する少なくとも1つの第2の信号発生器(9)、を備え、刺激信号(ESS、SSS)の信号パラメータはこの信号パラメータの決定された最適設定値に調整される、ヒト(2)の脳(3B)を刺激する装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感覚器官の損傷領域、またはその他の感覚などの情報を処理する脳内領域を回復するために、特にヒトの眼などの感覚器官を介してヒトの脳を刺激する装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの眼、耳、触覚など、ヒトの感覚器官は、機能が損なわれたり完全に機能しなくなったりすることがある。あるいは、知覚情報であるか否かを問わず、情報を処理する脳構造は、損傷を受けて、機能が損なわれることがある。特に、ヒトの眼や耳は、事故や疾病などの外的影響によって損傷を受け、それぞれの感覚器官を損傷することがある。
【0003】
図1a、bは、脳の視覚系における種々の種類の障害と、対応するヒトの視野欠損VFDの種類の例を示す。たとえば、一方の眼の視神経の障害は、図1bに示されるように、この眼に単眼盲を生じる。対照的に、視神経交差の背後の視覚伝導路における領域は、両眼失明をもたらす。眼の網膜の損傷によって生じる視覚障害には、黄斑変性症および緑内障など、様々なものがある。
【0004】
先行技術において、網膜細胞を刺激すると眼内閃光が生じうることが知られている。米国特許第5,944,747号明細書には、より深い中間の網膜細胞が、網膜神経節細胞および近接した被覆面の軸索で、優先的に刺激を受けるように、刺激電極を網膜組織の近傍に定置し、長期の刺激信号を電極に印加して、より深い中間の網膜細胞の電気刺激によって、網膜組織に眼内閃光を発生させる方法が記載されている。
【0005】
また、眼内閃光が出現するように脳を直接的に刺激することができる。ゴーテ(Gothe)らによる論文(ゴーテ(Gothe),J.,ブラント(Brandt),S.A.,イルバチャー(Irlbacher),K.,ロエリヒト(Roericht),S.,ザーベル(Sabel),B.A.,およびメイヤー(Meyer),B.−U.(2002).経頭蓋磁気刺激により実証される盲目被験者における視覚野興奮性の変化(Changes in visual cortex excitability in blind subjects as demonstrated by transcranial magnetic stimulation).脳(Brain)125:479−490)には、このような手法が記載されている。
【0006】
さらに、米国特許第5,522,864号明細書には眼球治療用の装置および方法が記載されており、ここでは、眼の障害を治療するために、直流電流源の第1の電極がヒトの眼瞼と電気的に直接接触させて置かれ、電流源の第2の電極がヒトの皮膚部位と電気的に直接接触させて置かれて、所定期間5〜1、000μAmpの振幅の直流電流が両電極間に流れるようにしている。
【0007】
したがって、ヒトの眼または脳に接続された電極を介して様々な周波数の電気信号をヒトに印加することによる電気刺激は、先行技術において公知である。しかし、従来の電気刺激法では、電気刺激は、眼などの感覚器官に、感覚刺激信号による刺激を加えずに行なわれている。さらに、これら従来の電気刺激法では、電気刺激信号の信号パラメータの調整が手作業で行なわれる。したがって、種々のオペレータが種々のパラメータ選択基準を使用するので、電気刺激信号の印加は煩雑であるとともに様々である。さらに、従来の電気刺激法における、感覚器官の従来の電気刺激は、実際の感覚機能と無関係である。この従来の電気刺激では、機能的な感覚パラメータに、何ら有意義な関係もない広範囲の電気刺激からなる人為的刺激をヒトの脳に与えることになる。
【0008】
先行技術の電気刺激法において、感覚器官を刺激する電気刺激信号の刺激パラメータの調整は、個人、すなわち、各ヒトが同じ電気刺激信号に対して異なる反応をすることを考慮せずに、オペレータによって手作業で行なわれる。従来の電気刺激法において、オペレータは、電気刺激信号によって生じる眼の治療部位で眼内閃光が見えるか否かを示す被治療者の主観フィードバックに反応しなければならない。患者が与える情報に対応して、オペレータは電気刺激信号のパラメータを調整して患者が最適な反応を示す設定値を探すことになる。たとえば、オペレータは、パルス電気刺激信号の周波数を変化させ、最大量の眼内閃光が電気刺激信号によって生じたとき、そのことを合図するよう被治療者に求めることになる。当然ながら、採用される刺激信号の周波数の手動調整は、ある程度の時間を要することになり、被治療者の主観評価および治療を適用する者に強く依存することになる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の目的は、選択可能でかつ自動制御可能な客観的基準に従って、最適な刺激信号をヒトの感覚器官またはヒトの脳に自動的に印加する方法および装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的は、主請求項1の特徴を有する装置によって実現される。
本発明は、脳で発生される誘発性または自発性の生理学的信号を検出する検出器、可変信号パラメータの最適設定値を決定するための基準を用いて検出された生理学的信号を比較する検出器に接続されている制御装置、電気刺激信号をヒトに印加する第1の信号発生器、および/または感覚刺激信号をヒトの感覚器官に印加する少なくとも1つの第2の信号発生器、を備え、刺激信号の信号パラメータはこの信号パラメータの決定された最適設定値に調整されるヒトの脳を刺激する装置を提供する。
【0011】
本発明による装置の一実施形態において、検出される生理学的信号は、機能的磁気共鳴画像法によって測定される、脳波(EEG)信号、脳磁波信号、またはBOLD信号である。
【0012】
本発明による装置の一実施形態において、誘発性生理学的信号は、信号発生器によって発生される少なくとも1つの刺激信号に対する応答であり、刺激信号の信号パラメータは変化させられる。
【0013】
本発明による装置の一実施形態において、検出器はEEG(脳波)検出器である。
本発明による装置の一実施形態において、信号パラメータは刺激信号の周波数fである。
【0014】
本発明による装置の一実施形態において、基準は生理学的信号の最大振幅であり、可変周波数fの最適設定値は、たとえば、EEG信号の共振周波数(f)によって形成される。共振周波数fは、最大可能応答、たとえば、最大可能EEG振幅を生成する周波数である。
【0015】
本発明による装置の一実施形態において、共振周波数fは、ヒトの感覚器官に印加される感覚刺激信号SSSの周波数fを変化させ、その後、所定の基準に達する特定周波数を選択することによって決定される。
【0016】
本発明による装置の一実施形態において、感覚刺激信号SSSは、光(視覚)刺激信号、聴覚刺激信号、または皮膚表面の触覚を励起する機械的刺激信号(振動)である。
本発明による装置の一実施形態において、共振周波数fは、所定周波数範囲内で自動的にヒトに印加される電気刺激信号ESSの周波数fを変化せせることによって決定される。
【0017】
本発明による装置の一実施形態において、刺激信号は正弦波信号である。
本発明による装置の一実施形態において、刺激信号は矩形信号である。
本発明による装置の一実施形態において、刺激信号の周波数fは、脳波(EEG)信号の共振周波数fを決定するために0〜100Hzの周波数範囲で自動的に変化させられる。
【0018】
本発明による装置の一実施形態において、刺激信号の信号パラメータの決定された最適設定値は記憶装置に格納される。
本発明による装置の一実施形態において、制御装置は、電気刺激信号ESSおよび感覚刺激信号SSSが所定の位相関係を備えるように、信号発生器を制御するために制御線を介して信号発生器に接続される。
【0019】
本発明による装置の一実施形態において、電気刺激信号ESSは電極を介してヒトに印加され、少なくとも1つの電極はヒトの感覚器官の近くに固定されるか、あるいは頭蓋に直接固定される。
【0020】
本発明による装置のさらなる実施形態において、電気刺激信号ESSは、磁気刺激コイルを介してヒトに印加され、少なくとも1つの刺激コイルはヒトの感覚器官の近くに固定されるか、あるいはヒトの頭蓋に直接に固定される。
【0021】
本発明による装置の一実施形態において、感覚器官はヒトの眼によって形成される。
本発明による装置の他の実施形態において、感覚器官はヒトの耳によって形成される。
本発明による装置の一実施形態において、感覚器官はヒトの触覚器官によって形成される。
【0022】
本発明による装置の一実施形態において、光感覚刺激信号は電球から発せられるパルス閃光によって形成される。
本発明による装置の他の実施形態において、光感覚刺激信号は発光ダイオードから発せられる光信号によって形成される。
【0023】
本発明による装置のさらに他の実施形態において、光感覚刺激信号はディスプレイモニタに表示される所定の刺激パターンによって形成される。
本発明による装置の一実施形態において、光感覚刺激信号は眼または脳の視野の損傷領域に印加される。
【0024】
本発明は、請求項25に記載の方法をさらに提供する。
本発明は、脳によって発生される生理学的信号を検出するステップと、検出された生理学的信号を予め選択された基準と比較して可変信号パラメータの最適設定値を決定するステップと、電気刺激信号および/または少なくとも1つのさらなる感覚刺激信号を感覚器官に印加するステップと、を備えるヒトの脳を刺激する方法であって、刺激信号の信号パラメータはこの信号パラメータの決定された最適設定値に調整される方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】(a),(b)は、種々の種類の障害に対する種々の種類の視野欠損を示す図である。
【図2】本発明による刺激装置の実施形態を示す図である。
【図3】本発明による方法の可能な実施形態を説明するフローチャートを示す図である。
【図4】本発明による方法の可能な実施形態を説明するさらなるフローチャートを示す図である。
【図5】ヒトの視野欠損VFDの例を示す図である。
【図6】(a),(b)は、ヒトの視覚障害領域を決定する例を示す図である。
【図7a】本発明による装置の実施形態で採用される視野欠損図を示す図である。
【図7b】本発明による装置の実施形態で採用される、視野欠損図に対応する信号パターンを示す図である。
【図8】(a)は視野欠損図VFCを示し、(b)〜(d)は本発明による装置によって感覚器官に印加される刺激信号の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明による装置および方法の以下の実施形態を、添付図を参照して説明する。
図2から分かるように、本発明の実施形態による刺激装置1は、ヒト2の感覚器官3Aを刺激するために提供され、図2に示す実施形態において、刺激を受けた感覚器官3Aはヒト2の眼によって形成され、各感覚器官3Aはヒト2の脳3Bを刺激する。
【0027】
図2に示す実施形態において、少なくとも1つの第1の電極4は、眼3Aの近くまたは周囲に固定され、第2の電極5は基準電極として、ヒト2の頭蓋に固定される。両電極4、5は、信号線6、7によって電気刺激信号ESSを発生する刺激信号発生器8に接続される。図2に光信号によって示される実施形態において形成される感覚刺激信号SSSを発生するために、さらなる感覚刺激信号発生器9が提供される。
【0028】
誘発性または自発性の生理学的信号を検出する信号検出器10が提供される。信号検出器10は、たとえば、ヒト2の頭蓋に取り付けられる、1つまたは複数の電極によって脳波信号EEGを検出するEEG検出器10によって形成される。EEG信号は、信号線11を介して制御装置12に出力される。制御装置12は、検出された脳波信号をオペレータが入力装置13を介して入力する基準と比較する。制御装置12は、制御線14を介して感覚刺激信号発生器9を制御し、制御線15を介して電気刺激信号発生器8を制御する。第1のステップにおいて、2つの信号発生器8、9の一方、または両信号発生器8、9は、刺激信号をヒト2に印加し、刺激信号の周波数fなど、それぞれの刺激信号の信号パラメータは、所定の周波数範囲Δf内で自動的に変化させられる。制御装置12は、EEG信号検出器10によって発生された測定脳波信号を監視し、検出された脳波信号EEGを選択された基準と比較して、可変信号パラメータの最適設定値を決定する。
【0029】
他の実施形態において、検出器10は、機能的磁気共鳴画像法によって測定される脳磁波信号またはBOLD信号など、脳3Bの他の生理学的信号を検出する。
可能な実施形態において、選択される基準は、印加される刺激信号の特定周波数によって生じる生理学的信号、たとえば、脳波信号EEGの最大振幅である。この実施形態において、可変周波数fの最適設定値は、検出される生理学的信号の共振周波数fによって形成される。共振周波数fにおいて、生理学的信号は最大振幅Amaxを備える。
【0030】
一実施形態において、共振周波数fは、感覚刺激信号発生器9からヒト2の感覚器官3Aに印加される感覚刺激信号SSSの周波数fを変化させることによって決定される。
他の実施形態において、共振周波数fは、所定の周波数範囲Δf内で、刺激信号発生器8から発生される電気刺激信号ESSの周波数fを変化させることによって決定される。典型的に、ヒト2の頭部に印加される電気刺激信号ESSは、0〜100Hzの範囲にあり、好ましくは約10Hzであり、電流が0〜5.0mAmpで、好ましくは0.5mAmpである。印加される電気刺激信号ESSの信号は、矩形パルス、または正弦波パルスによって形成することができる。信号パルスは、単一パルス、または多くの繰返しパルスからなるパルス列のいずれかとして印加される。さらに、パルスの形状は変化することがあり、たとえば、高振幅の正値性の後に低振幅であるが、長時間の負値性が続くことがある。好ましくは、両方の和がゼロに等しい。
【0031】
図2に示される実施形態において、電気刺激信号ESSは、電極4、5を介してヒト2の頭蓋に印加される。1つまたは複数の電極4が眼球に近い領域に固定され、中性基準電極5は頭蓋または他の身体部位の皮膚に取り付けられる。
【0032】
本発明による装置の一実施形態において、電極4、5は、ヒト2の頭蓋に直接取り付けられる。
本発明による装置1の他の実施形態において、電気刺激信号ESSは、保持装置によって適所に保持される磁気刺激コイル(経頭蓋磁気刺激)によってヒト2に印加される。
【0033】
ヒト2の感覚器官3Aを刺激している間に、EEG信号検出器10は、ヒト2の脳波信号を検出し、1つまたは複数の記録電極から情報を収集することができる。
可能な実施形態において、EEG電極はヒトの頭蓋に固定され、脳波信号は好ましくは誘発電位として測定される。電気刺激信号ESS、あるいは電気刺激信号および感覚刺激信号の両方によって形成される場合の印加刺激信号の周波数fは、所定の周波数範囲Δf内で変化させられ、脳波信号の最大振幅Amaxを生成する周波数fの最適設定値を決定する。この最適な周波数は、共振周波数fを形成し、共振周波数fは、刺激装置1の記憶装置16におけるEEGパラメータとして、制御装置12によって格納される。個々のヒト2は、所与の時点においてそれぞれ独自の共振周波数fを有する。
【0034】
第1の動作モードにおいて、本発明による刺激装置1は、ヒト2のそれぞれの共振周波数fを決定する測定手順に切り替えられる。制御装置12は、図2に示されるように、オペレータによってモード制御スイッチ17を用いて、この動作モードに切り替えられる。刺激装置1は、ヒト2の共振周波数fが検出されて記憶装置16に格納されるときに共振周波数fをディスプレイに表示する。
【0035】
個々のヒト2の共振周波数fが検出されると、刺激装置1は、一実施形態において、自動的に他の動作モードに切り替わり、電気刺激信号ESS、および少なくとも1つのさらなる感覚刺激信号SSSはいずれも、信号パラメータの決定された最適設定値、すなわち、記憶装置16に格納されたヒト2の共振周波数fに調整される周波数fを用いて感覚器官3Aに印加される。
【0036】
他の実施形態において、共振周波数fが決定されると、オペレータは刺激装置1を他の動作モードに切り替える。
一実施形態において、刺激装置1はまず、ヒト2の自発性EEGを記録し、実際のアルファ脳波の活動を解析し、その後、自発性EEG記録に基づいて刺激電極4を用いて所望周波数を刺激する。たとえば、ヒト2が11.0Hzの自発性EEGアルファ活動を有していても、予め選択された周波数目標が10.2Hzである場合、刺激電極は10.2Hzに設定され、ついには自発性EEGも10.2Hzに近い値を示すことになる。
【0037】
本発明による刺激装置1の一実施形態において、刺激装置1は、ヒト2に印加される感覚刺激信号SSSと電気刺激信号ESSとの間の位相関係を制御する位相制御装置を備える。
【0038】
一実施形態において、感覚刺激信号SSSおよび電気刺激信号ESSはヒト2に同時に印加され、すなわち、2つの信号間の位相差Δφはゼロである。
可能な実施形態において、電気刺激信号ESSは、10Hzの共振周波数fを備え、10Hzの視覚刺激信号と同期してヒト2に印加される。
【0039】
他の実施形態において、2つの刺激信号の間に所定の位相差Δφがある。たとえば、電気パルス列が、特定周波数で10秒の間、電極4、5を介してヒト2に印加され、その後、同じ周波数fで次の10秒の間、視覚パルスがヒト2の感覚器官3Aに印加される。
【0040】
さらに他の実施形態において、周波数fが一定に保たれている間に電気刺激電極4の電流の強さが変化させられる。
一実施形態において、電気刺激信号ESSおよび感覚刺激信号SSSは、所定の周波数fで交互に印加される。
【0041】
一実施形態において、脳波EEG信号は頭蓋に定置された塩化銀電極または金電極を用いて測定され、EEG信号記録は、単一電極または複数電極を用いて行なうことができる。
【0042】
感覚刺激信号SSSを発生する信号発生器9は、一実施形態において、パルス化された光によって形成されて電球による閃光を発する。
他の実施形態において、感覚刺激信号発生器9は、発光ダイオードLEDによって形成される視覚刺激信号SSSを発生する。
【0043】
本発明による刺激装置1のさらなる実施形態において、視覚刺激信号を発生する感覚刺激信号発生器9は、所定の視覚信号パターンを表示するディスプレイによって形成される。このような刺激パターンは、視知覚を生成するのに有用な任意のパターンによって形成することができる。可能なパターンは、ヒト2に対して表示される移動らせんである。視覚刺激は、いかなる種類の刺激であってもよく、たとえば、移動パターン、または三角形や正方形などの簡単な定常幾何学パターンであってもよい。
【0044】
図3は、本発明による方法の可能な実施形態のフローチャートを示す。
開始ステップS0の後、制御装置12は、入力装置によって事前に設定される可変信号パラメータの最適設定値を決定するように動作する。選択された基準は、共振周波数であってもよく、脳波周波数、たとえば、あるアルファ波周波数などの他の生理学的パラメータであってもよい。オペレータがステップS1において基準を入力すると、刺激装置1は、一実施形態において、可変信号パラメータの最適設定値を決定する第1の動作モードに切り替わる。他の実施形態において、刺激装置1は、基準の入力を待たずに、予め選択された基準を使用してその動作を自動的に開始する。
【0045】
ステップS2において、刺激信号は、たとえば、所定の周波数範囲Δfにおいて刺激信号の周波数fを変化させることによって、可変信号パラメータを用いてヒト2に印加される。刺激信号は、電気刺激信号ESS、または感覚刺激信号SSS、あるいは同時にこれらの両信号によって形成することができる。
【0046】
刺激信号は、周波数または電流の強さ、あるいはこれら2つの組合せによって変化させることができる。
ステップ3において、検出器10は生理学的信号、たとえば、EEG信号を測定し、制御装置12は、選択された基準に従って発生される生理学的信号を解析することによって可変信号パラメータの最適設定値を決定する。
【0047】
制御装置12が、信号パラメータの最適設定値、たとえば、ヒト2の共振周波数fを検出すると、この信号パラメータは、直ちにステップS4において記憶装置16に格納され、刺激装置1は、感覚器官3Aの損傷領域を回復するために別の動作モードに自動的に切り替わる。この動作モードにおいて、刺激装置1は、信号パラメータの最適設定値、すなわち、記憶装置16に格納された設定値を用いて、電気刺激信号ESSおよび感覚刺激信号SSSを印加する。両信号ESS、SSSは、所定の位相関係でヒト2に印加される。
【0048】
電気刺激信号ESSおよび感覚刺激信号SSSの印加の継続期間は、たとえば、数分などの所定期間に相当する。
図4から分かるように、本発明による装置1の一実施形態において、まず、電気パルス信号が、たとえば、0〜100Hzの所定周波数範囲で印加される。
【0049】
さらなるステップにおいて、生理学的信号のアルファ波振幅が、EEG検出器10によって測定される。オペレータは、所定の基準として測定された生理学的信号の最大振幅を入力し、図4の例において、最大振幅の点は10.8Hzの周波数で測定される。この信号パラメータ、すなわち、10.8Hzの周波数は、図2に示されるように、本発明による刺激装置1の記憶装置16に格納される。図4の例において、オペレータは、ヒト2に印加される刺激信号を選択する。所与の例において、第1の感覚刺激信号SSSとして視覚刺激信号が選択され、第2の刺激信号として電気刺激信号ESSが選択されて電極を介してヒト2に印加される。さらなるステップにおいて、脳3Bの電気刺激は電極4、5を介してヒト2に印加される電気刺激信号ESSによって行なわれる。オペレータによる入力としての所定の位相関係において、感覚器官3Aの視覚刺激は、この時点におけるヒトの共振周波数fである10.8Hzの周波数で行なわれる。
【0050】
電気刺激信号ESSおよび視覚刺激信号SSSは互いに結合される。両信号は、所定の位相関係を有し、10.8Hzの同じ周波数でヒト2に印加される。この信号パラメータは、オペレータが入力装置13を介して入力する所定の客観的な基準に従って生理学的EEG信号を評価することによって検出される。
【0051】
図5は、黒色で示される盲目領域を備えるヒト2の眼の視野欠損図VFCの例を示す。このような視野欠損図を決定するために、刺激信号がモニタによってヒト2に提示され、患者は図5の中央に示される十字を凝視する必要がある。刺激信号はモニタ上で無作為の位置に提示され、患者2は、キーまたは応答ボタンを押すことによって、各刺激に応答する。患者が反応しないとき、この位置もメモリに格納され、患者の実行を記録する後続の視野欠損図において、この位置は、図5に示されるように、視野欠損図VFCに黒色の正方形で表わされる。患者が正しく反応すると、白色の正方形がそれぞれの領域に合致する。視野欠損図VPCは、視覚領域対盲目領域を示す。
【0052】
多くの場合、患者は視覚領域と盲目領域のみならず、部分的に損傷を受けた残存視覚領域も備える。すなわち、患者はこの領域に印加される刺激信号に応答することもあり、応答しないこともある。
【0053】
図6は、このような残存視覚領域が決定されるプロセスを示す。様々な時刻T1〜TXにおいて、独立した視野欠損図が生成され、続いて、図6bに示されるような重畳された視野欠損図VFCが生成される。このパラメトリック試験は、患者2が視覚刺激に対して不確かに応答する領域を表わし、これは図6bに灰色領域として示される。
【0054】
本発明による刺激装置1の好ましい実施形態において、視覚刺激信号SSSは、損傷部位、すなわち、残存視覚領域(図6bにおける灰色領域)と盲目領域(図6bにおける黒色領域)のみに印加される。
【0055】
図7aは、患者2のパラメトリック視野欠損図VFCを示す。図7bは、刺激信号SSSが図7aの視野欠損図を有する患者2に提示される領域を示す。図7bにおける白色領域は最大刺激の領域を示し、灰色は中間刺激を示し、黒色領域は無刺激の領域を示す。図7a、7bから分かるように、図7aの盲目領域は、図7bに示されるように、最大刺激を受ける。
【0056】
好ましい実施形態において、視野欠損図VFCによって示される視界の欠損が大きくなると、この視界に対する視覚刺激の量が大きくなる。
一実施形態において、視覚刺激の量は、感覚刺激信号SSSの周波数fを増すことによって増加される。
【0057】
他の実施形態において、視覚刺激の量は、感覚刺激信号SSSの振幅を増すことによって増加される。
刺激装置1の好ましい実施形態において、制御装置12は、各ヒト2の視野欠損図VFCを格納する視野欠損図メモリ17に接続される。
【0058】
ヒト2の視野欠損図VFCは、一実施形態において、データ記憶媒体からインタフェース経由でメモリ17にロードされる。
他の実施形態において、モニタまたはディスプレイによって形成される刺激信号発生器9は、ヒト2の視野欠損図VFCを作成するための視野測定法を実施するために提供される。
【0059】
この実施形態において、刺激装置1は、第1の運用段階で使用されて、ヒト2の視野欠損図VFCを作成する。その後、第2の運用段階において、ヒト2の共振周波数fが決定され、第3段階において、ヒト2の感覚器官3Aが刺激信号によって刺激されて、刺激の量、すなわち、振幅または周波数が記憶装置16に格納されたヒト2の視野欠損図VFCに応じて調整される。したがって、刺激装置1のこの実施形態において、刺激信号SSS、ESSの第1の信号パラメータ、たとえば、刺激信号の周波数fは、最適設定値、すなわち、ヒト2の共振周波数fに調整され、刺激信号SSS、ESSのもう1つの信号パラメータ、たとえば、振幅はVFC図メモリ17に格納されたヒト2の視野欠損図VFCに応じて調整される。
【0060】
回復刺激信号は、数秒から1時間といった長期間与えることができる。
図8b〜dは、図8aに示されるような視野欠損図VFCを有するヒト2の眼3Aに対する印加刺激信号の例を示す。視野欠損図VFCは、種々の視野を示す眼の種々の領域を示す。たとえば、損傷を受けていない領域は100%(白色)の能力を示し、完全な盲目領域は0%(黒色)の能力を示す。視野欠損図VFCにおける灰色領域は、一部の残存ニューロンの残存視覚が存在していることを示す。脳の部分的に損傷領域であるこれらの残存領域における細胞は、非同期的に発火する(図8b)。図8cに示されるような電気刺激の間、残存ニューロンは同時に繰返し活性化され、誘発電位は眼内閃光を発生する。これらの領域の反復刺激によって、残存視覚は著しく強化されうる。このことは、損傷部位における細胞が同期的に発火しない場合の図8bで見られる。電気刺激信号ESSを印加することによって、細胞は互いに同期して発火する。電気刺激信号ESSおよび感覚刺激信号SSSが図8dに示されるように互いに結合されると、より多くの細胞が発火して脳内により強力な回復効果をもたらすものと考えられる。
【0061】
本発明による刺激装置1のある実施形態において、装置は、刺激信号SSSを、電球などの光信号発生器から発生される光感覚刺激信号として送出する。
本発明による刺激装置1の他の実施形態において、ヒト2の聴覚器官3A、すなわち、ヒト2の耳を刺激する装置1が提供される。この実施形態において、感覚刺激信号発生器9によって提供される刺激信号SSSは、種々の周波数(音の高さ)または音の強さ(デシベル単位)で体系的に送出されるパルス音またはクリック音などの聴覚刺激である。これらの刺激信号は、不規則に、あるいは、一定の順序で、たとえば、周波数が次第に高くなるように提供することができる。刺激装置1は、可能な実施形態において、聴覚回復刺激信号のパラメータを決定するための基準に基づいて聴覚障害を識別する。たとえば、xデシベルの音が、周波数範囲0〜100Hzでヒト2に与えられる。患者が、所与の音の強さにおいて、たとえば、20〜40Hzの周波数に応答しなければ、感覚刺激信号SSSおよび電気刺激信号ESSが同時にこの周波数fで、あるいは、所定の位相差で患者2に印加される。
【0062】
刺激装置1のさらなる実施形態において、装置1は、体性感覚器官、すなわち、ヒト2の接触感覚の刺激に使用される。この実施形態において、感覚刺激信号発生器9は、ヒト2の皮膚表面に置かれた振動装置によって形成される。振動周波数は、体系的に変化させられて皮膚への圧力が変えられる。振動装置の周波数fは、不規則に、あるいは、一定の順序、たとえば、振動周波数を増加することによって変化させられる。このようにして、刺激装置1は、体性感覚障害を識別する。たとえば、振動信号は、0〜100Hzの周波数範囲Δfで提供することができて、その後、障害周波数に対応する周波数を有する刺激信号SSSが選択される。
【0063】
可能な実施形態において、耳や触覚の障害は、検出器10で検出された生理学的信号を制御装置12が評価することによって自動的に検出される。
可能な実施形態において、各感覚器官3Aの障害の図を格納するメモリが提供され、各感覚器官3Aはヒト2の耳や皮膚領域によって形成することができる。聴覚障害や感触障害の周波数を示す患者の耳の聴覚図や、患者の皮膚本体部の体性感覚図が、メモリに格納される。
【0064】
感覚結合の有無にかかわらず、電気刺激によって誘発される脳波(EEG)の同期性は、神経系が損なわれる場合のすべての障害に影響する可能性があるため、本発明は、感覚障害(失明、難聴、体性感覚低下)の処置に対してだけでなく、他の障害に対しても有用である。これらの障害は、脳卒中および頭部損傷、昏睡、ならびに意識消失;アルツハイマー病後の無視、認識機能障害、および認知症;正常な老化における認識機能障害;パーキンソン病、片麻痺などが誘発する運動障害;失語症などの言語障害;記憶障害;注意力および集中力の欠如、多発性硬化症、ハンチントン病、失読症などの読書障害、近視、緑内障、黄斑変性症、斜視、弱視、子供の網膜色素変性症発達障害を含む光学系および網膜に影響を与える視力障害;末梢神経障害を含む。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト(2)の脳(3B)を刺激する装置(1)であって、
(a)前記脳(3B)により発生される誘発性または自発性の生理学的信号を検出する検出器(10)と、
(b)前記検出器(10)に接続されている制御装置であって、検出された前記生理学的信号を基準と比較して可変信号パラメータの最適設定値を決定する前記制御装置と、
(c)電気刺激信号(EES)を前記ヒト(2)に印加する第1の信号発生器(8)、および/または感覚刺激信号(SSS)を前記ヒトの感覚器官(3A)に印加する少なくとも1つの第2の信号発生器(9)と
を備え、前記刺激信号(EES,SSS)の信号パラメータは、該信号パラメータの決定された前記最適設定値に調整される、前記ヒトの脳を刺激する装置。
【請求項2】
前記検出された生理学的信号は、機能的磁気共鳴画像法によって測定される、脳波(EEG)信号、脳磁波信号、またはBOLD信号である、請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記誘発性生理学的信号は、信号発生器(8,9)によって発生される少なくとも1つの刺激信号に対する応答であり、前記刺激信号の信号パラメータは変更される、請求項1記載の装置。
【請求項4】
前記生理学的信号検出器(10)はEEG検出器である、請求項1記載の装置。
【請求項5】
前記信号パラメータは前記刺激信号の周波数(f)である、請求項1記載の装置。
【請求項6】
前記基準は前記生理学的信号の最大振幅であり、可変周波数(f)の最適設定値は、生理学的信号の共振周波数(f)によって形成される、請求項5記載の装置。
【請求項7】
前記共振周波数fは、前記ヒト(2)の感覚器官(3A)に印加される感覚刺激信号(SSS)の周波数(f)を変化させることにより決定される、請求項6記載の装置。
【請求項8】
前記感覚刺激信号(SSS)は、光刺激信号、聴覚刺激信号、または振動刺激信号である、請求項7記載の装置。
【請求項9】
前記共振周波数fは、前記ヒト(2)に印加される電気刺激信号(ESS)の周波数(f)を変化せせることによって決定される、請求項6記載の装置。
【請求項10】
前記刺激信号は正弦波信号である、請求項1記載の装置。
【請求項11】
前記刺激信号は矩形信号である、請求項1記載の装置。
【請求項12】
前記生理学的信号の共振周波数fを決定するために前記刺激信号の周波数(f)を0〜100Hzの周波数範囲Δfにおいて変化させる、請求項6記載の装置。
【請求項13】
前記刺激信号の信号パラメータの決定された最適設定値は、記憶装置(16)に格納される、請求項1記載の装置。
【請求項14】
前記制御装置(12)は、前記電気刺激信号(ESS)および前記感覚刺激信号(SSS)が所定の位相関係(Δφ)を備えるように、制御線を介して前記信号発生器(8,9)に接続されて該信号発生器(8,9)を制御する、請求項1記載の装置。
【請求項15】
前記電気刺激信号(ESS)は電極(4,5)を介して前記ヒト(2)に印加され、少なくとも1つの電極(4)は前記ヒト(2)の感覚器官(3A)の近くに固定される、請求項1記載の装置。
【請求項16】
前記電気刺激信号(ESS)は、磁気刺激コイルを介して前記ヒト(2)に印加され、少なくとも1つの刺激コイルは前記ヒト(2)の感覚器官(3A)の近くに固定される、請求項1記載の装置。
【請求項17】
前記感覚器官(3A)は前記ヒト(2)の眼によって形成される、請求項1記載の装置。
【請求項18】
前記感覚器官(3A)は前記ヒト(2)の耳によって形成される、請求項1記載の装置。
【請求項19】
前記感覚器官(3A)は前記ヒト(2)の触覚器官によって形成される、請求項1記載の装置。
【請求項20】
前記光感覚刺激信号は電球から発せられるパルス閃光によって形成される、請求項8記載の装置。
【請求項21】
前記光感覚刺激信号は発光ダイオード(LED)デバイスから発せられる、請求項8記載の装置。
【請求項22】
前記光感覚刺激信号はディスプレイモニタ上に表示される所定の刺激パターンによって形成される、請求項8記載の装置。
【請求項23】
前記光感覚刺激信号は眼の損傷領域に印加される、請求項8記載の装置。
【請求項24】
それぞれの感覚刺激信号(SSS)に対する前記感覚器官(3A)の領域の感度を示す感度チャートを格納するメモリ(17)が提供される、請求項1記載の装置。
【請求項25】
ヒト(2)の脳(3B)を刺激する方法であって、
前記脳(3B)によって発生される生理学的信号を検出するステップと、
検出された前記生理学的信号を予め選択された基準と比較して可変信号パラメータの最適設定値を決定するステップと、
電気刺激信号(ESS)および/または少なくとも1つのさらなる感覚刺激信号(SSS)を感覚器官(3A)に印加するステップであって、前記刺激信号(ESS,SSS)の信号パラメータは、該信号パラメータの決定された最適設定値に調整される、前記印加するステップと
を備える、前記ヒトの脳を刺激する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7a】
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【図7b】
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【図8】
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【公表番号】特表2010−512866(P2010−512866A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−541782(P2009−541782)
【出願日】平成18年12月22日(2006.12.22)
【国際出願番号】PCT/EP2006/070198
【国際公開番号】WO2008/077440
【国際公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願人】(509175908)エーベーエス テヒノロギーズ ゲーエムベーハー (1)
【氏名又は名称原語表記】EBS TECHNOLOGIES GMBH
【Fターム(参考)】