ヒトの膝における変形性関節症、軟骨疾患、欠損症、および傷害の治療法および治療装置
【解決手段】 外傷またはスポーツ障害による変形性関節症、軟骨欠損症の治療において、特定のおよび選択的な電気信号および電磁信号を罹患した関節軟骨に印加するために必要とされる電圧出力および電流出力の測定方法、若しくはヒトの膝関節における軟骨欠損症を治療する他の治療法(例えば、細胞移植、培養骨格、成長因子など)の補助療法として使用される方法、および前記信号を患者の膝に伝達する装置。電場ヒストグラムおよび電流密度ヒストグラムを使用して、動物モデルにおける罹患組織の総組織容量との比較により、ヒトの膝の総組織容量を特定することが可能なヒトの膝の解析モデルが開発された。前記動物モデルで使用される前記電圧出力および電流出力は、ヒトの前記罹患組織の前記総組織容量と前記動物モデルにおける前記罹患組織の前記総組織容量との比率に基づいてスケーリングされ、そのスケーリング結果から得られた電場は、膝に取り付けられた少なくとも2つの電極、若しくは前記膝の周囲に設置された1つのコイルまたはソレノイドを使用して、ヒトの前記罹患組織に印加される。前記電極、コイル、またはソレノイドに印加される前記信号の前記電圧は、前記膝関節の大きさに基づいて変更される。すなわち、効果的な電場を生成するために、より大型の膝関節には、より高い電圧を必要とするものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、2001年2月23日付けで提出されたPCT/US01/05991の米国国内段階特許出願であり、さらに2000年2月23日付け米国仮特許出願番号第60/184,491号の出願日の利益を主張する、米国特許出願番号第10/257,126号の一部継続特許出願である2003年6月9日付けで提出された米国特許出願番号第10/457,167に対して優先権を主張するものである。
【0002】
本発明は、外傷またはスポーツ障害による変形性関節症、軟骨欠損症の治療において、特定のおよび選択的な電気信号および電磁信号を罹患した関節軟骨に印加するために必要とされる電圧出力および電流出力を特定する方法、若しくは、ヒトの膝関節における軟骨欠損症を治療する他の治療法(例えば、細胞移植、培養骨格、成長因子など)の補助としての方法、および前記信号を患者の膝に供給する装置に関するものである。
【背景技術】
【0003】
様々な生体組織および生体細胞内に存在すると考えられている生体電気の相互作用および活動は、もっとも解明が遅れている生理的過程の1つである。しかしながら、特定の組織および細胞の増殖、修復におけるこのような相互作用および活動に関する研究が近年多数行われてきた。特に、電場および電磁場による刺激、さらに骨および軟骨の増殖および修復におけるその効果について多数の研究がなされてきた。研究者等は、そのような研究が様々な医学的問題に対する新治療法の開発に有用である可能性があると確信している。
【0004】
変形性関節疾患としても知られている変形性関節症は、関節軟骨の変性、さらに軟骨下骨の増殖およびリモデリングを特徴とする。一般的症状には、硬直、運動制限、および痛みがある。変形性関節症は、関節炎のもっとも一般的な病型で、年齢と伴に有病率が著しく増加する。変形性関節症を自己報告した高齢患者は、罹患していない高齢者と比べて、2倍の頻度で通院していることが明らかになっている。また、そのような患者は、同年齢層の非罹者と比較して、より多くの日数の間、活動が制限され、寝たきりの状態に陥る。1研究においては、有症患者の大多数は8年間の追跡調査の間に有意に障害を持つようになった(Massardo et al.,Ann Rheum Dis 48:893〜7(1989年))。
【0005】
非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)は、変形性関節症の一次治療法として存続している。NSAIDsの効力が、その鎮痛性、抗炎症性または前記軟骨における変性過程の緩徐化のいずれによるものかであるかは不明である。また、NSAIDsの患者に対する有害性も懸念されている。例えば、胃、消化管、肝臓、および腎臓における、NSAIDsの毒性作用は周知のところである。一方、動物においてアスピリンは、プロテオグリカン合成および正常な軟骨の修復過程を阻害する。ヒトにおける1研究において、インドメタシンが股関節軟骨の崩壊を速める可能性が示唆された。副作用全般は、変形性関節症の影響を最も受けやすい人口である前記高齢者により一般的に見られる。
【0006】
骨粗鬆症として一般的に知られている疾患では、骨の鉱質除去が起こり、骨が異常に希薄になる。骨は有機細胞成分および有機基質成分、さらに無機成分、鉱物成分を有する。前記細胞および基質は、骨を硬質にするリン酸カルシウム(85%)および炭酸カルシウム(10%)の鉱物成分で含浸された膠原線維の枠組みを有する。骨粗鬆症は通常前記高齢者に起こる疾患と考えられているが、特定型の骨粗鬆症は、骨に機能的ストレスを受けていないすべての年齢層の個人にも影響を及ぼす可能性がある。そのような場合、長期に渡る不動期間に患者の皮質骨および海綿骨の著しい減少が生じることもある。高齢患者では、骨折後寝たきりになった際の不使用によって骨量減少が起こることが知られ、それによりついには、既に骨粗鬆症の骨格に2次的な骨折が起こることもある。骨密度が低下すると椎骨の圧潰、股関節、前腕、手関節、足首の骨折、さらに耐え難い痛みが起こる場合もある。そのような疾患には、非外科的な代替療法が必要とされている。
【0007】
パルス電磁場(PEMF)および静電結合(CC)は、1979年に食品医薬品局(Food and Drug Administration)で承認されて以来、治癒不能の骨折および骨折治癒に関連する問題を治療するために広範囲に使用されてきた。この治療形式が試行された当初の理由は、骨に物理的な圧力をかけると僅かな電流が生じ、機械的な緊張と同様に、その電流が、前記物理的圧力を骨形成を促進する信号に変換する仕組みの根底にあるメカニズムであると考えられるという観察結果に基づいていた。癒着不能(の骨折)の治療において成功を収めた直接的電場刺激と同様に、PEMFおよび静電結合を使用した非侵襲的な技術(治療域の皮膚上に電極を配置するもの)もまた効果的であることが認められた。パルス電磁場は、伝導率の高い細胞外液に小誘導電流(ファラデー電流)を生成し、一方、静電結合は前記組織に直接電流を生じさせるものである。それにより、PEMFおよびCC双方とも内因性電流を擬態する。
【0008】
内因性電流は、当初前記骨内の結晶表面に起こる現象に起因すると考えられていたが、主に、陰性の固定荷電を有する有機成分を含有し、いわゆる「流動電位」を生成する電解質を含む骨管内の液体の運動によって生じることが明らかになった。軟骨における電気現象に関する研究は、軟骨を機械的に圧迫することにより、前記軟骨基質中の前記プロテオグリカンおよびコラーゲンにおける陰性の固定荷電の表面上に液体運動および電解質運動が生じる際に、骨において記載したメカニズムと類似した機械−電気変換メカニズムが起こることを実証した。このような流動電位は、明らかに、骨内と同様な目的を軟骨内で果たし、機械的な緊張と同様に、基質成分における軟骨細胞の合成を刺激することが可能なシグナル伝達をもたらす。
【0009】
直流、静電結合およびPEMFsは主に整形外科で癒着不能の骨折治癒に応用されてきた(Brighton et al.,J.Bone Joint Surg.,63:2〜13,1981年、Brighton and Pollack,J.Bone Joint Surg.,67:577〜585,1985年、Bassett et al.,Crit.Rev.Biomed.Eng.,17:451〜529,1989年、Bassett et al.,JAMA 247:623〜628,1982年)。成人における股関節の虚血壊死、および小児におけるレッグパーセス病(Legg−Perthes‘s disease)での臨床効果が報告されてきた(Bassett et al.,Clin.,Orthop.246:172〜176,1989年、Aaron et al.,Clin.,Orthop.249:209〜218,1989年、Harrison et al.,J.Pediatr.Orthop.4:579〜584,1984年)。また、PEMF(Mooney,Spine,15:708〜712,1990年)および静電結合(Goodwin,Brighton et al.,Spine,24:1349〜1356,1999年)が、腰椎部癒着の成功率を有意に高める可能性があることも分かっている。さらに、末梢神経再生の増加およびその機能の増強、および血管形成の促進も報告されている(Bassett Bioessays 6:36〜42,1987年)。ステロイド注射および他の通常の措置に反応しない、持続性回旋筋腱板腱炎患者は、プラセボで治療を受けた患者と比べて有意に有益性を示した(Binder et al.,Lancet 695〜698,1984年)。最後に、Brightonらは、ラットにおいて、適切な静電結合の電場が、腰椎における椎骨骨粗鬆症を予防し、さらに好転させる能力があることを示した(Brighton et al.,J.Orthop.Res.6:676〜684,1988年、Brighton et al.,J.Bone Joint Surg.,71:228〜236,1989年)。
【0010】
より最近では、この分野の研究は刺激が組織および細胞に与える影響に着目してきた。例えば、直流は細胞膜を透過しないこと、および細胞外基質の分化を介して調整が行われることが推測されてきた(Grodzinsky,Crit.Rev.Biomed.Eng.9:133,1983年)。また、直流とは対照的に、PEMFsは、細胞膜を透過することが可能で、且つ、同細胞膜を刺激するか、細胞内器官に直接影響を与えるかのいずれかであることが報告された。PEMFsが細胞外基質および生体内軟骨内骨化に与える効果についての試験では、軟骨分子の合成の増加および骨梁の成熟が認められた(Aaron et al.,J.Bone Miner.Res.4:227〜233,1989年)。さらに最近では、Lorich、Brightonらは、容量結合型の電気信号のシグナル伝達は、電位依存性のカルシウムチャネルを介して行われ、これにより細胞質のカルシウムが増加し、さらに(細胞骨格の)カルモジュリンの活性化を促すことを報告した(Clin.Orthop.Related Res.350:246〜256,1989年)。
【0011】
反応のメカニズムを理解するために、研究の大半は細胞培養の研究を対象としてきた。1研究においては、電場によって、[3H]−チミジンの軟骨細胞のDNAへの取り込みが増加したことが認められ、電気刺激によって生成されたナトリウムイオン(Na+)およびカルシウムイオン(Ca2+)の流入がDNA合成を誘発するという概念を裏付けした(Rodan et al.,Science 199:690〜692,1978年)。複数の研究においては、電気的摂動によるセカンドメッセンジャー、cAMP(環状アデノシン一リン酸)の変化および細胞骨格の再構成が認められた(Ryaby et al.,Trans.BRAGS 6:1986年、Jones et al.,Trans.BRAGS 6:51,1986年、Brighton and Townsend,J.Orthop.Res.6:552〜558,1988年)。他の研究では、グリコサミノグリカン、硫酸化、ヒアルロン酸、リゾチーム活性およびポリペプチド配列への効果が認められた(Norton et al.,J.Orthop.Res.6:685〜689,1988年、Goodman et al.,Proc.Natn.Acad.Sci.USA 85:3928〜3932,1988年)。
【0012】
1996年に本発明者は、環状二軸で0.17%の機械的緊張によって、培養MC3T3−E1骨細胞中のTGF−β1 mRNAが有意に増加することを報告した(Brighton et al.,Biochem.Biophys.Res.Commun.229:449〜453,1996年)。1997年には、重要な追研究がいくつか行われた。1研究においては、同一の環状二軸で0.17%の機械的緊張によって、類似骨細胞中のPDGF−A mRNAが有意に増加したことが報告された(Brighton et al.,Biochem.Biophys.Res.Commun.43:339〜346,1997年)。また、60kHz、20mV/cmの容量結合型電場によって、類似骨細胞中のTGF−β1が有意に増加したことも報告された(Brighton et al.,Biochem.Biophys.Res.Commun.237:225〜229,1997年)。ただし、前記文献では、そのような電場が他の遺伝子に及ぼす影響については報告されていない。
【0013】
「特定のおよび選択的な電気信号および電磁信号の印加による遺伝子制御(Regulation of Genes Via Application of Specific and Selective Electrical and Electromagnetic Signals)」と題する上述の親特許出願では、罹患、または損傷した組織の標的遺伝子を制御することを目的する、特定のおよび選択的な電場を発生させるために使用される前記特定のおよび選択的な電気信号および電磁信号の測定方法を開示した。本発明は、前記必要とされる電圧出力および電流出力を測定する方法、また、変形性関節症、および他の軟骨欠損症、疾患および傷害で苦しむ患者におけるヒトの膝関節に特定のおよび選択的な電気信号および電磁信号を伝達するための前記対応装置を記述することにより、前記親出願で記載された前記技術をさらに発展させるものである。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、ヒトの膝関節における変形性関節症および他の軟骨疾患、欠損症および傷害を、特定のおよび選択的な電気信号および/または電磁信号によって生成された特定のおよび選択的な電場の印加を介して治療することに関するものである。本発明は、治療用に膝に取り付けられた電極またはコイルに印加する信号の電圧および電流の測定方法を含むものである。
【0015】
特に、本発明は、膝の変形性関節症、他の軟骨疾患、欠損症および傷害を含むヒトの罹患組織に、特定のおよび選択的な電場または電磁場を印加することによって、ヒトの罹患組織を治療する方法に関するものである。この方法は、ヒトの罹患組織に対応する動物モデルの罹患組織の治療を提供する電圧出力および電流出力を特定する工程と、前記動物モデルにおける前記罹患組織の解剖学的寸法および総組織容量を特定する工程と、ヒトの前記罹患組織における総組織容量の解剖学的寸法を特定する工程と、ヒトの前記罹患組織の解剖学的寸法および前記総組織容量と前記動物モデルの前記罹患組織の前記総組織容量との比較に基づいた前記動物モデルで使用される前記電圧出力および電流出力をスケーリングする工程と、前記スケーリングされた電圧および電流をヒトの前記罹患組織に印加する工程とを含む。
【0016】
ヒトの膝における解剖学的因子および組織容積の因子を特定するために、膝関節の異なる構成要素がどのように総組織容量へ寄与するかを説明するヒトの膝の解析モデルが開発された。膝に取り付けられた電極間の組織の伝導率、膝の骨、軟骨、髄、筋肉および脂肪に対する電場振幅、膝の骨、軟骨、髄、筋肉および脂肪に対する電流密度の振幅、膝における異なる厚さの関節軟骨に対する電場振幅、異なる大きさの膝に対する電場振幅、膝に皮下脂肪が存在しない状態での電場振幅、膝に皮下脂肪が存在、若しくは存在しない状態での電流密度の振幅、膝に対して長手位置にある少なくとも2つの電極に対する電場振幅および電流密度の振幅、および外部信号発生器から身体へ印加された、少なくとも2つの効果的な駆動信号の変化量が、望ましい治療用の電場を生成するために、膝に印加する電流信号および電気信号を特定する目的で、誘導電場ヒストグラムおよび/または電流密度ヒストグラムから特定された。
【0017】
膝などの解剖学的構造に渡って、特定の周波数で単一値の電圧を印加すると、各組織のコンパートメントにおいて、電場および電流密度の値に幅が生じることが理解されている。これは、生体構造における解剖学的コンパートメントの空間的な複雑さおよび前記コンパートメントの電気特性の違いが原因となって起こる。従って、この分析に基づいたヒストグラムは、前記電場または電流密度が、電場および電流密度の値域の関数としての特定値を有する組織容量の割合を示す。例えば、60kHzで振幅が0.25Vの正弦値の電圧を印加すると、ウサギの膝の大きさの膝において、軟骨/滑膜で、約8mV/cm〜200mV/cmの電場振幅のピーク値の範囲を得る。一方、ヒトの膝では、ほぼ重複する範囲のピーク値を得るためには、60kHzで振幅が5Vの正弦波の電圧が必要とされる。前記治療対象組織における前記電場振幅の値域は、本発明において、重要な「用量」パラメータである。
【0018】
前記解析モデルから得る値域は、刺激電場に対する細胞応答についての詳細研究から得た値を網羅するものでなければならない。従って、最も効果的な電場振幅を特定するために、標的組織から得た細胞の前記電場に対する用量反応を測定するものである。次に、治癒の対象となる前記組織での効果的な電気パラメータを網羅するために、前記ヒストグラムから、最初は、動物モデルに、次にヒトに印加する外部電圧および電流を特定する。本明細書に記載された実施例においては、特定数値を得るために、前記印加信号に対して60kHzの周波数が使用される。従って、全組織コンパートメントの電気抵抗値は、前記60kHzの周波数で特定されたものである。本分野の専門家であれば、別の周波数で同一の解析を行い、新規の周波数で、前記組織の電気抵抗を別の値に調整して、選択したいずれの周波数または一連の周波数で前記電場および電流密度の範囲に対して異なった値を得ることが可能である。
【0019】
本発明は、ヒトの膝関節における罹患組織(変形性関節症など)、欠損および損傷した組織を、特定のおよび選択的な電場または電磁場をヒトの膝関節における罹患組織へ印加することによって治療する方法および装置も含む。本発明の静電結合の1実施形態によれば、そのような装置は、患者の膝関節付近に取り付けるのに適した電極を少なくとも2つ含み、また、前記患者の膝関節の滑膜および関節軟骨内に振幅約8mV/cm〜360mV/cmの電場および約8μA/cm2〜300μA/cm2の電流密度を発生させるために、前記電極へ印加するための電気信号を生成する信号発生器を含む。本発明の誘導結合の1実施形態は、前記電場を発生させるための前記電気信号を受信するように構成および設定されたコイルを含む。前記信号発生器は、ヒトの膝関節の大きさに従って、使用者によって選択された電圧を有する、複数の出力電気信号のうちの1つを提供することが好ましい。膝関節が大きい場合は、より高い電圧を有する信号を受信するものである。
【0020】
本発明について上述した点および他の側面については、以下の発明の詳細な説明で明らかになるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1〜16を参照しながら、本発明を以下に詳細に記載する。前記図面に関する本明細書の記載は、例示的な目的のためのものであり、いかなる点においても、本発明の範囲を制限することを意図しないことは、当業者であれば明らかである。本発明の範囲に関する質問はすべて、本明細書添付の請求項を参照することにより解決されうる。
【0022】
定義
本明細書では、用語「信号」は、装置によって出力される機械的信号、超音波信号、電磁信号および電気信号を含む、様々な信号に言及するために使用される。
【0023】
本明細書では、用語「電場」は、結合型電場、パルス電磁場、直流によって生成された電場、静電結合、または誘導結合のいずれかに関わらず、標的組織内の電場に言及するものである。
【0024】
図面で示された実施形態の説明
本発明者による先行研究は、容量結合型の電場によって、培養下の骨細胞の増殖が有意に増加し(Brighton,Pollack,et al.,J.Orthop.Res.3:331〜340,1985年)、また、ラットの腓骨骨折モデルにおいて、治癒率が有意に上昇した(Brighton,Pollack,et al.,Clin.Orthop.Related Res.285:255〜262,1992年)ことを明らかにした。また、容量結合型の電気刺激中のラットの前記椎体における電場分布が特定された(Carter,Vresilvovic,Pollack,and Brighton,IEEE Trans.Biomed.Eng.36(−3):333〜334,1989年)。骨細胞およびウサギの腓骨研究で認められた電場および電流密度と同等の電場および電流密度をヒトの膝に発生させるために必要とされる電圧出力および電流出力を特定するために、図2および図3で図示された解析モデルが、図1で図示された典型的なヒトの膝関節を代替するために、本発明の記載に従って開発された。
【0025】
図1で示したように、典型的なヒトの膝関節は、大腿骨、脛骨の各骨の末端上にある関節軟骨および線維性被膜よって囲まれた関節液で満たされたコンパートメントを含む。本発明の記載によると、膝関節の変形性関節症は、図1で示しているように、膝関節に対して実際に取り付けられた柔軟性のある電極を通して、特定のおよび選択的な電場を印加することにより治療される。信号発生器は、前記特定のおよび選択的な電場を生成するために、電極に適切な信号を提供する。膝関節の変形性関節症を治療するために必要な前記特定のおよび選択的な電場は、本発明の記載に従って、図2および図3で図示した前記解析モデルを使用して算出されるものである。
【0026】
図2および図3の解析モデルにおいて表記したように、電極1、皮膚2、筋肉3、骨4、軟骨および関節液のコンパートメント5の要素が特定されている。前記解析モデルを作成するにあたって、前記要素のサイズに関して、大腿骨の幅=76.5mm、脛骨の幅=101.5mm、および電極間距離=108mmと仮定した。靱帯の前記電気特性については、特別な記載は含まれていなかった。寧ろ、軟骨および骨以外の空間は、筋肉および髄と同一の電気特性を有するものと仮定された。また、本研究に含まれる前記組織の伝導率は、以下のように特定された。
【0027】
構成要素 複素伝導率
60kHzでの(S/m)
筋肉
繊維組織に対して平行 7.0 x 10−1
繊維組織に対して垂直 2.0 x 10−1
髄 2.0 x 10−1
骨皮質 1.0 x 10−2
軟骨 8.9 x 10−2
皮下脂肪 2.0 x 10−1
60kHzでのアドミタンス/面積(S/cm2)
電極と皮膚の接触面 3.0 x 10−3
以下で説明するように、軟骨および関節液のコンパートメント5は、0.3cm、2.3cm、および4.3cmの3つの寸法で算定された。また、印加電極電位(前記2つの電極間の電位)は、1.0Vとした。
【0028】
ヒトの膝の前記解析モデルに対して、60kHzでのピーク間の電圧が1.0 Vの電圧を印加した場合の概算結果を前記電場および前記電流密度の関数としての様々なパラメータのために以下に示す。
【0029】
図4で示されているように、前記軟骨/関節液のコンパートメント5での前記電場は、同コンパートメントの全容量に対して値が均一ではない。このことは、また、それ以外の全てのコンパートメントにも該当し、前記解析モデルの場合においてでさえも、その幾何学的な複雑さを反映するものである。さらに、図5で示されているように、前記軟骨/関節液のコンパートメント5での前記電流密度も、同コンパートメントの前記容量に対して値が均一ではない。このことは、また、それ以外の全てのコンパートメントにも該当し、前記解析モデルの場合においてでさえも、その幾何学的な複雑さを反映するものである。
【0030】
図6で示されているように、前記軟骨/関節液のコンパートメント5の厚さが厚くなるにつれて、前記軟骨/関節液のコンパートメント5での前記電場は増加し、より均一的になった。
【0031】
図7で示されているように、膝の大きさがウサギの膝のサイズからヒトの膝のサイズに拡大したとき、軟骨/関節液のコンパートメント5での前記電場は減少した。一般的に、膝の直径の大小によって、電場分布全体が変化することが分かった(前記2つの電極間の距離の逆数倍)。すなわち、一定値の印加電圧に対して、前記膝の直径がより大きいほど前記電場はより小さくなるものである。
【0032】
また、皮下脂肪の量は、電場および電流密度にほとんど影響がないことも分かった。皮下脂肪は、筋肉よりも伝導率が低いため、電場(図8)および電流密度(図9)はわずかに減少するが、膝におけるほとんどの場合、顕著ではない。
【0033】
最後に、膝の前記軟骨/関節液のコンパートメント5部分に対して設置された電極1が不適切に配置された場合、その影響は決定的ではないことが分かった。1)間隙の中央(前記軟骨/関節液のコンパートメント5の中間)、2)前記間隙から直径半分下、3)前記間隙から直径分下、4)前記間隙から2直径分下、の4つの配置場所を設定した。前記電場の結果は図10で、前記電流密度の結果は図11で示されている。従って、このモデルにおいては、前記電極の配置は決定的な要因ではないものである。
【0034】
静電結合の使用による骨折治癒に関する刺激についての本発明者の先行研究は、骨細胞研究から動物研究、ヒト研究へと順次に進行した過程で、電場および電流レベルに関して以下の理解を導いた。
【0035】
細胞(in vitro)の結果 20mV/cmの電場で最大効果
200μA/cm2の電流密度
動物(ウサギ)の結果 前記ウサギの膝上に設置する電極を有する前記装
骨折仮骨の治癒に成功 置に対して0.25Vp−pの電圧出力。前記
骨折仮骨中のピークの前記電場の範囲は約8〜2
00mV/cm。前記骨折仮骨中のピークの電
流密度の範囲は、8〜195μA/cm2。
ヒト(癒着不能)の結果 前記皮膚上に設置する電極を有する前記装置に対
癒着不能の治癒に成功 して5Vp−pの電圧出力。ピークの電場の範
囲は約8〜360mV/cm。8〜300μ
A/cm2の電流密度。
【0036】
この結果は、ウサギの腓骨骨折モデルおよびヒトの癒着不能モデルの双方の解剖学的モデルを比較した図12および図13で示されている。動物モデルおよびヒトモデルの間の相対的な組織容量に従って、治療用に外部的に印加される装置の電圧をスケーリングすることにより、細胞レベルで同一の電気刺激の成功状態に達すると見られている。
【0037】
これらの先行比較の結果、本発明者は、仮骨において(図12の仮骨を参照)、および前記骨細胞の生体外研究のために、以下の電場(E)および電流密度の治療効果範囲(Brighton,Pollack et al.,Clin.Orthop.Related Res.,285:255〜262,1992年)が望ましいと判断した。
【0038】
(J) 動物/ヒトの仮骨 骨細胞
E 8mV/cm〜180mV/cm 20mV/cm
J 8μA/cm2〜180μA/cm2 200μA/cm2
【0039】
これらの動物/ヒトにおける電場振幅および電流密度の範囲は、1つの重要な要因を含んでいる。前記要因とはすなわち、これらの最大限界が、幾何学的要因によってより正確な電場の特定が可能である骨細胞の研究から得た結果を含む必要があるということである。これによって、印加された正弦波電圧が正弦波を周期的に循環するとき、ヒト/動物の組織領域に治療上効果的な範囲の電場および電流密度が周期的に循環するものである。
【0040】
生体外(in vitro)軟骨細胞の結果も効果的な電場が20mV/cmで生じ、ある患者において、ヒトの膝関節の周径の測定値は、腓腹中間部分の直径の測定値とほぼ同一であることから、ヒトの脛骨骨折のモデル(図12)で使用されたものと同一のスケール因子5が図2におけるヒト膝関節の解析モデルに適用されるものである。尚、同モデルでは、前記仮骨が前記滑膜および関節軟骨に置き換えられる。
【0041】
従って、あるヒトの膝の周径が15.7インチである場合、その直径は5インチである。この測定値は、変形性関節症患者における、最も一般的な膝の周径の平均測定値であることが分かった。5Vp−pの電圧出力は、前記平均的な膝関節の軟骨/関節液のコンパートメントに上述のE電場および電流密度を発生させるものである。膝関節の直径がより小さい場合(例えば、4.6インチの場合)は、必要とされる電圧出力はより低くなり(4.6Vp−p)、また、膝関節の直径が非常に大きい場合、例えば、7.6インチの場合は、必要とされる電圧出力はより高くなる(7.6Vp−p)。従って、4.6Vp−p〜7.6Vp−pの電圧出力によって、現在までに特定された膝の大きさの全範囲が網羅され、上述したように、膝の前記軟骨/関節液のコンパートメントに望ましい治療用のE電場および電流密度が発生するものである。E値およびJ値の前記分布は、解剖学的な複雑さから生じるため、印加電圧の±10%の偏差は許容される。
【0042】
このようにして、本発明の記載に従って、患者の膝の近似のサイズ(および、故に近似の直径)が特定され、且つ信号が生成され、またその信号は、例えば、膝における変形性関節症の治療用に、8mV/cm〜360mV/cmの範囲の望ましい電場、および8μA/cm2〜300μA/cm2の範囲の電流密度を生成する電極に印加されるものである。信号発生器は、前記オペレーターが、患者の膝の前記大きさに基づいて、適切な出力を選択することができる選択制御装置(図1)を含むことが好ましい。
【0043】
また、本発明の記載に従って、図14で示されたタイプの誘導結合の装置を使用して、罹患したまたは外傷した関節軟骨に適切な電場を生じさせることが可能である。図14でのコイルによって生成される電場を算出するために、N回転のコイルを含み、膝を包んで、膝の中心に配置される、伸縮性の包帯を想定する。電池による電流の電源が前記コイルのリード線に接続されており、それにより、時間変化電流が流れる。この電流によって磁束が発生し、さらにこの磁束によって時間変化電場が発生する。当然のことながら、治療に適したE電場の値を発生させるために、電源装置から、電流の振幅、周波数、デューティサイクルおよび波形を制御することができる。次に、この治療に適した前記E電場の値を実現する数値の組み合わせの算出を行う。
【0044】
ワイヤーの総回転数がNのコイルおよびこのコイルを通じた断面図がそれぞれ、図15および図16で示されている。角θ1および角θ2は、前記磁束が算出されるX軸上の点と+Zおよび−Z方向のコイル終端との間の角である。サイズが任意のとき、前記磁束には以下の方程式が成り立つ。
【0045】
【数1】
【0046】
また、Iは、コイル中の電流、lは、コイルの長さ、およびμ0は、空気(および組織)の透磁率である。前記コイルの中心部では、ソレノイドの磁場は非常に均一的であるため、l1およびl2の値を等しいものとして選択できる。l1はZ軸に沿った負の数であるゆえ、sinθ1は、負の数となり、l1=l2のとき、sinθ2−sinθ1=2sinθ2となる。
【0047】
よって、方程式(1)は、以下のようになる。
【0048】
【数2】
【0049】
電流Iは、正弦波の可変電流であり、以下のことが言える。
【0050】
【数3】
【0051】
ここでI0は、正弦波電流の振幅ωは、周波数(60kHzに設定)の2π倍、およびiは、虚数√―1である。この式は、以下の式と等しい。
【0052】
【数4】
【0053】
ゆえに、方程式(2)は、以下のようになる。
【0054】
【数5】
【0055】
マクスウェルの方程式から、時間変化磁束に伴う電場振幅の式を得る。前記磁束は、脚の長軸と平行であり、よって、膝の軟骨面と垂直であることに注目されたい。しかしながら、電場は、前記軟骨面内に存在し、渦巻き状であり、半径と伴に振幅が変化する。よって、前記膝の幾何学的中心点では、前記電場振幅はゼロになり、半径に比例して振幅が増加する。
前記理論によると、
【0056】
【数6】
【0057】
ここで、|E|は電場振幅、dB/dtは方程式(5)の時間導関数、rは前記膝の幾何学的中心点から任意の半径rまでの距離である。方程式(5)を方程式(6)に代入し、微分を行うと、以下の方程式を得る。
【0058】
【数7】
【0059】
ここで、前記cosωは、電場が前記磁束に対して、90°位相がずれていることを示す。
【0060】
方程式(7)における全パラメータ値を代入すると、以下となり、
【0061】
【数8】
【0062】
次の値を得る。
【0063】
【数9】
【0064】
【数10】
【0065】
ここで、|E|Maxは、前記膝の最大半径、すなわち、6.35x10−2メートルでの振幅である。
【0066】
従って、いかなる周期の磁場の場合でも、膝の中心では、電場はゼロになるが、最大半径では、電場周期は、0〜315mV/cmである。軟骨および関節液部の90%の領域に20mV/cm強の電場を発生させるためには、膝関節の外周部での最大電場は、65mV/cmでなければならない。ゆえに、トランスデューサにおける回転数(N)を3000から(65/315)x3000=620に減少することが可能である。
【0067】
本発明の実施例について上記に詳細に説明してきたが、本発明の新規的な教示および利点から実質的に逸脱することなく様々な追加変更を行うことが可能であることは、当業者であれば明らかである。そのような変更はすべて、付随の特許請求の範囲で定義する本発明の範囲内に含まれることが意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0068】
本発明は、以下の発明の詳細な説明と添付の図面から明らかなものである。以下は図面に関する説明である。
【図1】図1は、変形性関節症、軟骨欠損症の治療用に、あるいは本発明の記載に従って使用される電極を適用されたヒトの膝関節を示す。
【図2】図2は、本発明に従って、変形性関節症の治療に必要とされる電圧および電流を算出するために使用する、図1のヒトの膝関節における解析モデルの正面図を示す。
【図3】図3は、本発明に従って、変形性関節症の治療に必要とされる電圧および電流を算出するために使用する、図1のヒトの膝関節における解析モデルの断面図を示す。
【図4】図4は、各組織に対する電場振幅の関数として総組織容量の割合を示す電場ヒストグラムを示す。
【図5】図5は、各組織に対する電流密度の振幅の関数として総組織容量の割合を示す電流密度ヒストグラムを示す。
【図6】図6は、軟骨/関節液のコンパートメントの間隙幅の3つの値に対する電場振幅の関数として総組織容量の割合を示す電場ヒストグラムを示す。
【図7】図7は、膝のサイズがウサギの膝のサイズからヒトの膝のサイズに拡大したとき、軟骨/関節液のコンパートメントにおける電場が減少したことを示す電場ヒストグラムを示す。
【図8】図8は、皮下脂肪が存在および存在しない状態でのヒトの膝の解析モデルの電場ヒストグラムを示す。
【図9】図9は、皮下脂肪が存在および存在しない状態でのヒトの膝の解析モデルの電流密度ヒストグラムを示す。
【図10】図10は、ヒトの膝の解析モデルにおける軟骨帯に対して長手位置にある4つの電極に対する電場ヒストグラムを示す。
【図11】図11は、ヒトの膝の解析モデルにおける軟骨帯に対して長手位置にある4つの電極に対する電流密度ヒストグラムを示す。
【図12】図12は、効果的な駆動信号に対するウサギの腓骨切断およびヒトの癒着不能の脛骨の解析モデルに関する電場ヒストグラムを示す。
【図13】図13は、効果的な駆動信号に対するウサギの腓骨切断およびヒトの癒着不能の脛骨の解析モデルに関する電流密度ヒストグラムを示す。
【図14】図14は、外傷またはスポーツ障害による変形性関節症、軟骨欠損症の治療のために使用され、若しくは誘導結合を利用した軟骨欠損症の治療において他の治療法(細胞移植、培養骨格、成長因子など)の補助療法として使用されるコイルが適用されたヒトの膝関節を示す。
【図15】図15は、誘導結合の使用時に、関節軟骨に望ましい電場を発生させるためのコイルを作成する上で必要なワイヤーの寸法および回転数を特定するために使用される、ワイヤーの総回転数をNで、半径aおよび長さlのコイルを示す。
【図16】図16は、磁束が算出される軸に沿った膝関節帯に対するコイルを介した断面図を示す。
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、2001年2月23日付けで提出されたPCT/US01/05991の米国国内段階特許出願であり、さらに2000年2月23日付け米国仮特許出願番号第60/184,491号の出願日の利益を主張する、米国特許出願番号第10/257,126号の一部継続特許出願である2003年6月9日付けで提出された米国特許出願番号第10/457,167に対して優先権を主張するものである。
【0002】
本発明は、外傷またはスポーツ障害による変形性関節症、軟骨欠損症の治療において、特定のおよび選択的な電気信号および電磁信号を罹患した関節軟骨に印加するために必要とされる電圧出力および電流出力を特定する方法、若しくは、ヒトの膝関節における軟骨欠損症を治療する他の治療法(例えば、細胞移植、培養骨格、成長因子など)の補助としての方法、および前記信号を患者の膝に供給する装置に関するものである。
【背景技術】
【0003】
様々な生体組織および生体細胞内に存在すると考えられている生体電気の相互作用および活動は、もっとも解明が遅れている生理的過程の1つである。しかしながら、特定の組織および細胞の増殖、修復におけるこのような相互作用および活動に関する研究が近年多数行われてきた。特に、電場および電磁場による刺激、さらに骨および軟骨の増殖および修復におけるその効果について多数の研究がなされてきた。研究者等は、そのような研究が様々な医学的問題に対する新治療法の開発に有用である可能性があると確信している。
【0004】
変形性関節疾患としても知られている変形性関節症は、関節軟骨の変性、さらに軟骨下骨の増殖およびリモデリングを特徴とする。一般的症状には、硬直、運動制限、および痛みがある。変形性関節症は、関節炎のもっとも一般的な病型で、年齢と伴に有病率が著しく増加する。変形性関節症を自己報告した高齢患者は、罹患していない高齢者と比べて、2倍の頻度で通院していることが明らかになっている。また、そのような患者は、同年齢層の非罹者と比較して、より多くの日数の間、活動が制限され、寝たきりの状態に陥る。1研究においては、有症患者の大多数は8年間の追跡調査の間に有意に障害を持つようになった(Massardo et al.,Ann Rheum Dis 48:893〜7(1989年))。
【0005】
非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)は、変形性関節症の一次治療法として存続している。NSAIDsの効力が、その鎮痛性、抗炎症性または前記軟骨における変性過程の緩徐化のいずれによるものかであるかは不明である。また、NSAIDsの患者に対する有害性も懸念されている。例えば、胃、消化管、肝臓、および腎臓における、NSAIDsの毒性作用は周知のところである。一方、動物においてアスピリンは、プロテオグリカン合成および正常な軟骨の修復過程を阻害する。ヒトにおける1研究において、インドメタシンが股関節軟骨の崩壊を速める可能性が示唆された。副作用全般は、変形性関節症の影響を最も受けやすい人口である前記高齢者により一般的に見られる。
【0006】
骨粗鬆症として一般的に知られている疾患では、骨の鉱質除去が起こり、骨が異常に希薄になる。骨は有機細胞成分および有機基質成分、さらに無機成分、鉱物成分を有する。前記細胞および基質は、骨を硬質にするリン酸カルシウム(85%)および炭酸カルシウム(10%)の鉱物成分で含浸された膠原線維の枠組みを有する。骨粗鬆症は通常前記高齢者に起こる疾患と考えられているが、特定型の骨粗鬆症は、骨に機能的ストレスを受けていないすべての年齢層の個人にも影響を及ぼす可能性がある。そのような場合、長期に渡る不動期間に患者の皮質骨および海綿骨の著しい減少が生じることもある。高齢患者では、骨折後寝たきりになった際の不使用によって骨量減少が起こることが知られ、それによりついには、既に骨粗鬆症の骨格に2次的な骨折が起こることもある。骨密度が低下すると椎骨の圧潰、股関節、前腕、手関節、足首の骨折、さらに耐え難い痛みが起こる場合もある。そのような疾患には、非外科的な代替療法が必要とされている。
【0007】
パルス電磁場(PEMF)および静電結合(CC)は、1979年に食品医薬品局(Food and Drug Administration)で承認されて以来、治癒不能の骨折および骨折治癒に関連する問題を治療するために広範囲に使用されてきた。この治療形式が試行された当初の理由は、骨に物理的な圧力をかけると僅かな電流が生じ、機械的な緊張と同様に、その電流が、前記物理的圧力を骨形成を促進する信号に変換する仕組みの根底にあるメカニズムであると考えられるという観察結果に基づいていた。癒着不能(の骨折)の治療において成功を収めた直接的電場刺激と同様に、PEMFおよび静電結合を使用した非侵襲的な技術(治療域の皮膚上に電極を配置するもの)もまた効果的であることが認められた。パルス電磁場は、伝導率の高い細胞外液に小誘導電流(ファラデー電流)を生成し、一方、静電結合は前記組織に直接電流を生じさせるものである。それにより、PEMFおよびCC双方とも内因性電流を擬態する。
【0008】
内因性電流は、当初前記骨内の結晶表面に起こる現象に起因すると考えられていたが、主に、陰性の固定荷電を有する有機成分を含有し、いわゆる「流動電位」を生成する電解質を含む骨管内の液体の運動によって生じることが明らかになった。軟骨における電気現象に関する研究は、軟骨を機械的に圧迫することにより、前記軟骨基質中の前記プロテオグリカンおよびコラーゲンにおける陰性の固定荷電の表面上に液体運動および電解質運動が生じる際に、骨において記載したメカニズムと類似した機械−電気変換メカニズムが起こることを実証した。このような流動電位は、明らかに、骨内と同様な目的を軟骨内で果たし、機械的な緊張と同様に、基質成分における軟骨細胞の合成を刺激することが可能なシグナル伝達をもたらす。
【0009】
直流、静電結合およびPEMFsは主に整形外科で癒着不能の骨折治癒に応用されてきた(Brighton et al.,J.Bone Joint Surg.,63:2〜13,1981年、Brighton and Pollack,J.Bone Joint Surg.,67:577〜585,1985年、Bassett et al.,Crit.Rev.Biomed.Eng.,17:451〜529,1989年、Bassett et al.,JAMA 247:623〜628,1982年)。成人における股関節の虚血壊死、および小児におけるレッグパーセス病(Legg−Perthes‘s disease)での臨床効果が報告されてきた(Bassett et al.,Clin.,Orthop.246:172〜176,1989年、Aaron et al.,Clin.,Orthop.249:209〜218,1989年、Harrison et al.,J.Pediatr.Orthop.4:579〜584,1984年)。また、PEMF(Mooney,Spine,15:708〜712,1990年)および静電結合(Goodwin,Brighton et al.,Spine,24:1349〜1356,1999年)が、腰椎部癒着の成功率を有意に高める可能性があることも分かっている。さらに、末梢神経再生の増加およびその機能の増強、および血管形成の促進も報告されている(Bassett Bioessays 6:36〜42,1987年)。ステロイド注射および他の通常の措置に反応しない、持続性回旋筋腱板腱炎患者は、プラセボで治療を受けた患者と比べて有意に有益性を示した(Binder et al.,Lancet 695〜698,1984年)。最後に、Brightonらは、ラットにおいて、適切な静電結合の電場が、腰椎における椎骨骨粗鬆症を予防し、さらに好転させる能力があることを示した(Brighton et al.,J.Orthop.Res.6:676〜684,1988年、Brighton et al.,J.Bone Joint Surg.,71:228〜236,1989年)。
【0010】
より最近では、この分野の研究は刺激が組織および細胞に与える影響に着目してきた。例えば、直流は細胞膜を透過しないこと、および細胞外基質の分化を介して調整が行われることが推測されてきた(Grodzinsky,Crit.Rev.Biomed.Eng.9:133,1983年)。また、直流とは対照的に、PEMFsは、細胞膜を透過することが可能で、且つ、同細胞膜を刺激するか、細胞内器官に直接影響を与えるかのいずれかであることが報告された。PEMFsが細胞外基質および生体内軟骨内骨化に与える効果についての試験では、軟骨分子の合成の増加および骨梁の成熟が認められた(Aaron et al.,J.Bone Miner.Res.4:227〜233,1989年)。さらに最近では、Lorich、Brightonらは、容量結合型の電気信号のシグナル伝達は、電位依存性のカルシウムチャネルを介して行われ、これにより細胞質のカルシウムが増加し、さらに(細胞骨格の)カルモジュリンの活性化を促すことを報告した(Clin.Orthop.Related Res.350:246〜256,1989年)。
【0011】
反応のメカニズムを理解するために、研究の大半は細胞培養の研究を対象としてきた。1研究においては、電場によって、[3H]−チミジンの軟骨細胞のDNAへの取り込みが増加したことが認められ、電気刺激によって生成されたナトリウムイオン(Na+)およびカルシウムイオン(Ca2+)の流入がDNA合成を誘発するという概念を裏付けした(Rodan et al.,Science 199:690〜692,1978年)。複数の研究においては、電気的摂動によるセカンドメッセンジャー、cAMP(環状アデノシン一リン酸)の変化および細胞骨格の再構成が認められた(Ryaby et al.,Trans.BRAGS 6:1986年、Jones et al.,Trans.BRAGS 6:51,1986年、Brighton and Townsend,J.Orthop.Res.6:552〜558,1988年)。他の研究では、グリコサミノグリカン、硫酸化、ヒアルロン酸、リゾチーム活性およびポリペプチド配列への効果が認められた(Norton et al.,J.Orthop.Res.6:685〜689,1988年、Goodman et al.,Proc.Natn.Acad.Sci.USA 85:3928〜3932,1988年)。
【0012】
1996年に本発明者は、環状二軸で0.17%の機械的緊張によって、培養MC3T3−E1骨細胞中のTGF−β1 mRNAが有意に増加することを報告した(Brighton et al.,Biochem.Biophys.Res.Commun.229:449〜453,1996年)。1997年には、重要な追研究がいくつか行われた。1研究においては、同一の環状二軸で0.17%の機械的緊張によって、類似骨細胞中のPDGF−A mRNAが有意に増加したことが報告された(Brighton et al.,Biochem.Biophys.Res.Commun.43:339〜346,1997年)。また、60kHz、20mV/cmの容量結合型電場によって、類似骨細胞中のTGF−β1が有意に増加したことも報告された(Brighton et al.,Biochem.Biophys.Res.Commun.237:225〜229,1997年)。ただし、前記文献では、そのような電場が他の遺伝子に及ぼす影響については報告されていない。
【0013】
「特定のおよび選択的な電気信号および電磁信号の印加による遺伝子制御(Regulation of Genes Via Application of Specific and Selective Electrical and Electromagnetic Signals)」と題する上述の親特許出願では、罹患、または損傷した組織の標的遺伝子を制御することを目的する、特定のおよび選択的な電場を発生させるために使用される前記特定のおよび選択的な電気信号および電磁信号の測定方法を開示した。本発明は、前記必要とされる電圧出力および電流出力を測定する方法、また、変形性関節症、および他の軟骨欠損症、疾患および傷害で苦しむ患者におけるヒトの膝関節に特定のおよび選択的な電気信号および電磁信号を伝達するための前記対応装置を記述することにより、前記親出願で記載された前記技術をさらに発展させるものである。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、ヒトの膝関節における変形性関節症および他の軟骨疾患、欠損症および傷害を、特定のおよび選択的な電気信号および/または電磁信号によって生成された特定のおよび選択的な電場の印加を介して治療することに関するものである。本発明は、治療用に膝に取り付けられた電極またはコイルに印加する信号の電圧および電流の測定方法を含むものである。
【0015】
特に、本発明は、膝の変形性関節症、他の軟骨疾患、欠損症および傷害を含むヒトの罹患組織に、特定のおよび選択的な電場または電磁場を印加することによって、ヒトの罹患組織を治療する方法に関するものである。この方法は、ヒトの罹患組織に対応する動物モデルの罹患組織の治療を提供する電圧出力および電流出力を特定する工程と、前記動物モデルにおける前記罹患組織の解剖学的寸法および総組織容量を特定する工程と、ヒトの前記罹患組織における総組織容量の解剖学的寸法を特定する工程と、ヒトの前記罹患組織の解剖学的寸法および前記総組織容量と前記動物モデルの前記罹患組織の前記総組織容量との比較に基づいた前記動物モデルで使用される前記電圧出力および電流出力をスケーリングする工程と、前記スケーリングされた電圧および電流をヒトの前記罹患組織に印加する工程とを含む。
【0016】
ヒトの膝における解剖学的因子および組織容積の因子を特定するために、膝関節の異なる構成要素がどのように総組織容量へ寄与するかを説明するヒトの膝の解析モデルが開発された。膝に取り付けられた電極間の組織の伝導率、膝の骨、軟骨、髄、筋肉および脂肪に対する電場振幅、膝の骨、軟骨、髄、筋肉および脂肪に対する電流密度の振幅、膝における異なる厚さの関節軟骨に対する電場振幅、異なる大きさの膝に対する電場振幅、膝に皮下脂肪が存在しない状態での電場振幅、膝に皮下脂肪が存在、若しくは存在しない状態での電流密度の振幅、膝に対して長手位置にある少なくとも2つの電極に対する電場振幅および電流密度の振幅、および外部信号発生器から身体へ印加された、少なくとも2つの効果的な駆動信号の変化量が、望ましい治療用の電場を生成するために、膝に印加する電流信号および電気信号を特定する目的で、誘導電場ヒストグラムおよび/または電流密度ヒストグラムから特定された。
【0017】
膝などの解剖学的構造に渡って、特定の周波数で単一値の電圧を印加すると、各組織のコンパートメントにおいて、電場および電流密度の値に幅が生じることが理解されている。これは、生体構造における解剖学的コンパートメントの空間的な複雑さおよび前記コンパートメントの電気特性の違いが原因となって起こる。従って、この分析に基づいたヒストグラムは、前記電場または電流密度が、電場および電流密度の値域の関数としての特定値を有する組織容量の割合を示す。例えば、60kHzで振幅が0.25Vの正弦値の電圧を印加すると、ウサギの膝の大きさの膝において、軟骨/滑膜で、約8mV/cm〜200mV/cmの電場振幅のピーク値の範囲を得る。一方、ヒトの膝では、ほぼ重複する範囲のピーク値を得るためには、60kHzで振幅が5Vの正弦波の電圧が必要とされる。前記治療対象組織における前記電場振幅の値域は、本発明において、重要な「用量」パラメータである。
【0018】
前記解析モデルから得る値域は、刺激電場に対する細胞応答についての詳細研究から得た値を網羅するものでなければならない。従って、最も効果的な電場振幅を特定するために、標的組織から得た細胞の前記電場に対する用量反応を測定するものである。次に、治癒の対象となる前記組織での効果的な電気パラメータを網羅するために、前記ヒストグラムから、最初は、動物モデルに、次にヒトに印加する外部電圧および電流を特定する。本明細書に記載された実施例においては、特定数値を得るために、前記印加信号に対して60kHzの周波数が使用される。従って、全組織コンパートメントの電気抵抗値は、前記60kHzの周波数で特定されたものである。本分野の専門家であれば、別の周波数で同一の解析を行い、新規の周波数で、前記組織の電気抵抗を別の値に調整して、選択したいずれの周波数または一連の周波数で前記電場および電流密度の範囲に対して異なった値を得ることが可能である。
【0019】
本発明は、ヒトの膝関節における罹患組織(変形性関節症など)、欠損および損傷した組織を、特定のおよび選択的な電場または電磁場をヒトの膝関節における罹患組織へ印加することによって治療する方法および装置も含む。本発明の静電結合の1実施形態によれば、そのような装置は、患者の膝関節付近に取り付けるのに適した電極を少なくとも2つ含み、また、前記患者の膝関節の滑膜および関節軟骨内に振幅約8mV/cm〜360mV/cmの電場および約8μA/cm2〜300μA/cm2の電流密度を発生させるために、前記電極へ印加するための電気信号を生成する信号発生器を含む。本発明の誘導結合の1実施形態は、前記電場を発生させるための前記電気信号を受信するように構成および設定されたコイルを含む。前記信号発生器は、ヒトの膝関節の大きさに従って、使用者によって選択された電圧を有する、複数の出力電気信号のうちの1つを提供することが好ましい。膝関節が大きい場合は、より高い電圧を有する信号を受信するものである。
【0020】
本発明について上述した点および他の側面については、以下の発明の詳細な説明で明らかになるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1〜16を参照しながら、本発明を以下に詳細に記載する。前記図面に関する本明細書の記載は、例示的な目的のためのものであり、いかなる点においても、本発明の範囲を制限することを意図しないことは、当業者であれば明らかである。本発明の範囲に関する質問はすべて、本明細書添付の請求項を参照することにより解決されうる。
【0022】
定義
本明細書では、用語「信号」は、装置によって出力される機械的信号、超音波信号、電磁信号および電気信号を含む、様々な信号に言及するために使用される。
【0023】
本明細書では、用語「電場」は、結合型電場、パルス電磁場、直流によって生成された電場、静電結合、または誘導結合のいずれかに関わらず、標的組織内の電場に言及するものである。
【0024】
図面で示された実施形態の説明
本発明者による先行研究は、容量結合型の電場によって、培養下の骨細胞の増殖が有意に増加し(Brighton,Pollack,et al.,J.Orthop.Res.3:331〜340,1985年)、また、ラットの腓骨骨折モデルにおいて、治癒率が有意に上昇した(Brighton,Pollack,et al.,Clin.Orthop.Related Res.285:255〜262,1992年)ことを明らかにした。また、容量結合型の電気刺激中のラットの前記椎体における電場分布が特定された(Carter,Vresilvovic,Pollack,and Brighton,IEEE Trans.Biomed.Eng.36(−3):333〜334,1989年)。骨細胞およびウサギの腓骨研究で認められた電場および電流密度と同等の電場および電流密度をヒトの膝に発生させるために必要とされる電圧出力および電流出力を特定するために、図2および図3で図示された解析モデルが、図1で図示された典型的なヒトの膝関節を代替するために、本発明の記載に従って開発された。
【0025】
図1で示したように、典型的なヒトの膝関節は、大腿骨、脛骨の各骨の末端上にある関節軟骨および線維性被膜よって囲まれた関節液で満たされたコンパートメントを含む。本発明の記載によると、膝関節の変形性関節症は、図1で示しているように、膝関節に対して実際に取り付けられた柔軟性のある電極を通して、特定のおよび選択的な電場を印加することにより治療される。信号発生器は、前記特定のおよび選択的な電場を生成するために、電極に適切な信号を提供する。膝関節の変形性関節症を治療するために必要な前記特定のおよび選択的な電場は、本発明の記載に従って、図2および図3で図示した前記解析モデルを使用して算出されるものである。
【0026】
図2および図3の解析モデルにおいて表記したように、電極1、皮膚2、筋肉3、骨4、軟骨および関節液のコンパートメント5の要素が特定されている。前記解析モデルを作成するにあたって、前記要素のサイズに関して、大腿骨の幅=76.5mm、脛骨の幅=101.5mm、および電極間距離=108mmと仮定した。靱帯の前記電気特性については、特別な記載は含まれていなかった。寧ろ、軟骨および骨以外の空間は、筋肉および髄と同一の電気特性を有するものと仮定された。また、本研究に含まれる前記組織の伝導率は、以下のように特定された。
【0027】
構成要素 複素伝導率
60kHzでの(S/m)
筋肉
繊維組織に対して平行 7.0 x 10−1
繊維組織に対して垂直 2.0 x 10−1
髄 2.0 x 10−1
骨皮質 1.0 x 10−2
軟骨 8.9 x 10−2
皮下脂肪 2.0 x 10−1
60kHzでのアドミタンス/面積(S/cm2)
電極と皮膚の接触面 3.0 x 10−3
以下で説明するように、軟骨および関節液のコンパートメント5は、0.3cm、2.3cm、および4.3cmの3つの寸法で算定された。また、印加電極電位(前記2つの電極間の電位)は、1.0Vとした。
【0028】
ヒトの膝の前記解析モデルに対して、60kHzでのピーク間の電圧が1.0 Vの電圧を印加した場合の概算結果を前記電場および前記電流密度の関数としての様々なパラメータのために以下に示す。
【0029】
図4で示されているように、前記軟骨/関節液のコンパートメント5での前記電場は、同コンパートメントの全容量に対して値が均一ではない。このことは、また、それ以外の全てのコンパートメントにも該当し、前記解析モデルの場合においてでさえも、その幾何学的な複雑さを反映するものである。さらに、図5で示されているように、前記軟骨/関節液のコンパートメント5での前記電流密度も、同コンパートメントの前記容量に対して値が均一ではない。このことは、また、それ以外の全てのコンパートメントにも該当し、前記解析モデルの場合においてでさえも、その幾何学的な複雑さを反映するものである。
【0030】
図6で示されているように、前記軟骨/関節液のコンパートメント5の厚さが厚くなるにつれて、前記軟骨/関節液のコンパートメント5での前記電場は増加し、より均一的になった。
【0031】
図7で示されているように、膝の大きさがウサギの膝のサイズからヒトの膝のサイズに拡大したとき、軟骨/関節液のコンパートメント5での前記電場は減少した。一般的に、膝の直径の大小によって、電場分布全体が変化することが分かった(前記2つの電極間の距離の逆数倍)。すなわち、一定値の印加電圧に対して、前記膝の直径がより大きいほど前記電場はより小さくなるものである。
【0032】
また、皮下脂肪の量は、電場および電流密度にほとんど影響がないことも分かった。皮下脂肪は、筋肉よりも伝導率が低いため、電場(図8)および電流密度(図9)はわずかに減少するが、膝におけるほとんどの場合、顕著ではない。
【0033】
最後に、膝の前記軟骨/関節液のコンパートメント5部分に対して設置された電極1が不適切に配置された場合、その影響は決定的ではないことが分かった。1)間隙の中央(前記軟骨/関節液のコンパートメント5の中間)、2)前記間隙から直径半分下、3)前記間隙から直径分下、4)前記間隙から2直径分下、の4つの配置場所を設定した。前記電場の結果は図10で、前記電流密度の結果は図11で示されている。従って、このモデルにおいては、前記電極の配置は決定的な要因ではないものである。
【0034】
静電結合の使用による骨折治癒に関する刺激についての本発明者の先行研究は、骨細胞研究から動物研究、ヒト研究へと順次に進行した過程で、電場および電流レベルに関して以下の理解を導いた。
【0035】
細胞(in vitro)の結果 20mV/cmの電場で最大効果
200μA/cm2の電流密度
動物(ウサギ)の結果 前記ウサギの膝上に設置する電極を有する前記装
骨折仮骨の治癒に成功 置に対して0.25Vp−pの電圧出力。前記
骨折仮骨中のピークの前記電場の範囲は約8〜2
00mV/cm。前記骨折仮骨中のピークの電
流密度の範囲は、8〜195μA/cm2。
ヒト(癒着不能)の結果 前記皮膚上に設置する電極を有する前記装置に対
癒着不能の治癒に成功 して5Vp−pの電圧出力。ピークの電場の範
囲は約8〜360mV/cm。8〜300μ
A/cm2の電流密度。
【0036】
この結果は、ウサギの腓骨骨折モデルおよびヒトの癒着不能モデルの双方の解剖学的モデルを比較した図12および図13で示されている。動物モデルおよびヒトモデルの間の相対的な組織容量に従って、治療用に外部的に印加される装置の電圧をスケーリングすることにより、細胞レベルで同一の電気刺激の成功状態に達すると見られている。
【0037】
これらの先行比較の結果、本発明者は、仮骨において(図12の仮骨を参照)、および前記骨細胞の生体外研究のために、以下の電場(E)および電流密度の治療効果範囲(Brighton,Pollack et al.,Clin.Orthop.Related Res.,285:255〜262,1992年)が望ましいと判断した。
【0038】
(J) 動物/ヒトの仮骨 骨細胞
E 8mV/cm〜180mV/cm 20mV/cm
J 8μA/cm2〜180μA/cm2 200μA/cm2
【0039】
これらの動物/ヒトにおける電場振幅および電流密度の範囲は、1つの重要な要因を含んでいる。前記要因とはすなわち、これらの最大限界が、幾何学的要因によってより正確な電場の特定が可能である骨細胞の研究から得た結果を含む必要があるということである。これによって、印加された正弦波電圧が正弦波を周期的に循環するとき、ヒト/動物の組織領域に治療上効果的な範囲の電場および電流密度が周期的に循環するものである。
【0040】
生体外(in vitro)軟骨細胞の結果も効果的な電場が20mV/cmで生じ、ある患者において、ヒトの膝関節の周径の測定値は、腓腹中間部分の直径の測定値とほぼ同一であることから、ヒトの脛骨骨折のモデル(図12)で使用されたものと同一のスケール因子5が図2におけるヒト膝関節の解析モデルに適用されるものである。尚、同モデルでは、前記仮骨が前記滑膜および関節軟骨に置き換えられる。
【0041】
従って、あるヒトの膝の周径が15.7インチである場合、その直径は5インチである。この測定値は、変形性関節症患者における、最も一般的な膝の周径の平均測定値であることが分かった。5Vp−pの電圧出力は、前記平均的な膝関節の軟骨/関節液のコンパートメントに上述のE電場および電流密度を発生させるものである。膝関節の直径がより小さい場合(例えば、4.6インチの場合)は、必要とされる電圧出力はより低くなり(4.6Vp−p)、また、膝関節の直径が非常に大きい場合、例えば、7.6インチの場合は、必要とされる電圧出力はより高くなる(7.6Vp−p)。従って、4.6Vp−p〜7.6Vp−pの電圧出力によって、現在までに特定された膝の大きさの全範囲が網羅され、上述したように、膝の前記軟骨/関節液のコンパートメントに望ましい治療用のE電場および電流密度が発生するものである。E値およびJ値の前記分布は、解剖学的な複雑さから生じるため、印加電圧の±10%の偏差は許容される。
【0042】
このようにして、本発明の記載に従って、患者の膝の近似のサイズ(および、故に近似の直径)が特定され、且つ信号が生成され、またその信号は、例えば、膝における変形性関節症の治療用に、8mV/cm〜360mV/cmの範囲の望ましい電場、および8μA/cm2〜300μA/cm2の範囲の電流密度を生成する電極に印加されるものである。信号発生器は、前記オペレーターが、患者の膝の前記大きさに基づいて、適切な出力を選択することができる選択制御装置(図1)を含むことが好ましい。
【0043】
また、本発明の記載に従って、図14で示されたタイプの誘導結合の装置を使用して、罹患したまたは外傷した関節軟骨に適切な電場を生じさせることが可能である。図14でのコイルによって生成される電場を算出するために、N回転のコイルを含み、膝を包んで、膝の中心に配置される、伸縮性の包帯を想定する。電池による電流の電源が前記コイルのリード線に接続されており、それにより、時間変化電流が流れる。この電流によって磁束が発生し、さらにこの磁束によって時間変化電場が発生する。当然のことながら、治療に適したE電場の値を発生させるために、電源装置から、電流の振幅、周波数、デューティサイクルおよび波形を制御することができる。次に、この治療に適した前記E電場の値を実現する数値の組み合わせの算出を行う。
【0044】
ワイヤーの総回転数がNのコイルおよびこのコイルを通じた断面図がそれぞれ、図15および図16で示されている。角θ1および角θ2は、前記磁束が算出されるX軸上の点と+Zおよび−Z方向のコイル終端との間の角である。サイズが任意のとき、前記磁束には以下の方程式が成り立つ。
【0045】
【数1】
【0046】
また、Iは、コイル中の電流、lは、コイルの長さ、およびμ0は、空気(および組織)の透磁率である。前記コイルの中心部では、ソレノイドの磁場は非常に均一的であるため、l1およびl2の値を等しいものとして選択できる。l1はZ軸に沿った負の数であるゆえ、sinθ1は、負の数となり、l1=l2のとき、sinθ2−sinθ1=2sinθ2となる。
【0047】
よって、方程式(1)は、以下のようになる。
【0048】
【数2】
【0049】
電流Iは、正弦波の可変電流であり、以下のことが言える。
【0050】
【数3】
【0051】
ここでI0は、正弦波電流の振幅ωは、周波数(60kHzに設定)の2π倍、およびiは、虚数√―1である。この式は、以下の式と等しい。
【0052】
【数4】
【0053】
ゆえに、方程式(2)は、以下のようになる。
【0054】
【数5】
【0055】
マクスウェルの方程式から、時間変化磁束に伴う電場振幅の式を得る。前記磁束は、脚の長軸と平行であり、よって、膝の軟骨面と垂直であることに注目されたい。しかしながら、電場は、前記軟骨面内に存在し、渦巻き状であり、半径と伴に振幅が変化する。よって、前記膝の幾何学的中心点では、前記電場振幅はゼロになり、半径に比例して振幅が増加する。
前記理論によると、
【0056】
【数6】
【0057】
ここで、|E|は電場振幅、dB/dtは方程式(5)の時間導関数、rは前記膝の幾何学的中心点から任意の半径rまでの距離である。方程式(5)を方程式(6)に代入し、微分を行うと、以下の方程式を得る。
【0058】
【数7】
【0059】
ここで、前記cosωは、電場が前記磁束に対して、90°位相がずれていることを示す。
【0060】
方程式(7)における全パラメータ値を代入すると、以下となり、
【0061】
【数8】
【0062】
次の値を得る。
【0063】
【数9】
【0064】
【数10】
【0065】
ここで、|E|Maxは、前記膝の最大半径、すなわち、6.35x10−2メートルでの振幅である。
【0066】
従って、いかなる周期の磁場の場合でも、膝の中心では、電場はゼロになるが、最大半径では、電場周期は、0〜315mV/cmである。軟骨および関節液部の90%の領域に20mV/cm強の電場を発生させるためには、膝関節の外周部での最大電場は、65mV/cmでなければならない。ゆえに、トランスデューサにおける回転数(N)を3000から(65/315)x3000=620に減少することが可能である。
【0067】
本発明の実施例について上記に詳細に説明してきたが、本発明の新規的な教示および利点から実質的に逸脱することなく様々な追加変更を行うことが可能であることは、当業者であれば明らかである。そのような変更はすべて、付随の特許請求の範囲で定義する本発明の範囲内に含まれることが意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0068】
本発明は、以下の発明の詳細な説明と添付の図面から明らかなものである。以下は図面に関する説明である。
【図1】図1は、変形性関節症、軟骨欠損症の治療用に、あるいは本発明の記載に従って使用される電極を適用されたヒトの膝関節を示す。
【図2】図2は、本発明に従って、変形性関節症の治療に必要とされる電圧および電流を算出するために使用する、図1のヒトの膝関節における解析モデルの正面図を示す。
【図3】図3は、本発明に従って、変形性関節症の治療に必要とされる電圧および電流を算出するために使用する、図1のヒトの膝関節における解析モデルの断面図を示す。
【図4】図4は、各組織に対する電場振幅の関数として総組織容量の割合を示す電場ヒストグラムを示す。
【図5】図5は、各組織に対する電流密度の振幅の関数として総組織容量の割合を示す電流密度ヒストグラムを示す。
【図6】図6は、軟骨/関節液のコンパートメントの間隙幅の3つの値に対する電場振幅の関数として総組織容量の割合を示す電場ヒストグラムを示す。
【図7】図7は、膝のサイズがウサギの膝のサイズからヒトの膝のサイズに拡大したとき、軟骨/関節液のコンパートメントにおける電場が減少したことを示す電場ヒストグラムを示す。
【図8】図8は、皮下脂肪が存在および存在しない状態でのヒトの膝の解析モデルの電場ヒストグラムを示す。
【図9】図9は、皮下脂肪が存在および存在しない状態でのヒトの膝の解析モデルの電流密度ヒストグラムを示す。
【図10】図10は、ヒトの膝の解析モデルにおける軟骨帯に対して長手位置にある4つの電極に対する電場ヒストグラムを示す。
【図11】図11は、ヒトの膝の解析モデルにおける軟骨帯に対して長手位置にある4つの電極に対する電流密度ヒストグラムを示す。
【図12】図12は、効果的な駆動信号に対するウサギの腓骨切断およびヒトの癒着不能の脛骨の解析モデルに関する電場ヒストグラムを示す。
【図13】図13は、効果的な駆動信号に対するウサギの腓骨切断およびヒトの癒着不能の脛骨の解析モデルに関する電流密度ヒストグラムを示す。
【図14】図14は、外傷またはスポーツ障害による変形性関節症、軟骨欠損症の治療のために使用され、若しくは誘導結合を利用した軟骨欠損症の治療において他の治療法(細胞移植、培養骨格、成長因子など)の補助療法として使用されるコイルが適用されたヒトの膝関節を示す。
【図15】図15は、誘導結合の使用時に、関節軟骨に望ましい電場を発生させるためのコイルを作成する上で必要なワイヤーの寸法および回転数を特定するために使用される、ワイヤーの総回転数をNで、半径aおよび長さlのコイルを示す。
【図16】図16は、磁束が算出される軸に沿った膝関節帯に対するコイルを介した断面図を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定のおよび選択的な電場または電磁場をヒトの罹患組織に印加することによって、前記ヒトの前記罹患組織を治療する方法であって、
a.前記ヒトの前記罹患組織に対応する動物モデルの罹患組織に治療を提供する電圧出力および電流出力を特定する工程と、
b.前記動物モデルの前記罹患組織の総組織容量を特定する工程と、
c.前記ヒトの前記罹患組織の前記総組織容量を特定する工程と、
d.前記ヒトの前記罹患組織のおける解剖学的サイズおよび前記総組織容量と前記動物モデルの前記罹患組織における前記解剖学的サイズおよび前記総組織容量の比較に基づいて、前記動物モデルで使用される前記電圧出力および電流出力をスケーリングする工程と、
e.前記スケーリングされた電圧および電流を前記ヒトの前記罹患組織に印加する工程と
を有する方法。
【請求項2】
請求項1の方法において、前記スケーリングされた電圧および電流を印加する工程は、静電結合の場合、2つの電極を使用して前記スケーリングされた電圧および電流を前記ヒトに印加する工程を有するものである。
【請求項3】
請求項1の方法において、前記スケーリングされた電圧および電流を印加する工程は、誘導結合の場合、ソレノイドまたはコイルを使用して前記スケーリングされた電圧および電流を前記ヒトに印加する工程を有するものである。
【請求項4】
請求項1の方法において、前記ヒトの組織容量を特定する工程は、前記ヒトの膝の解析モデルを使用する工程を有するものである。
【請求項5】
請求項1の方法において、前記ヒトの組織容量を特定する工程は、少なくとも2つの電極間の組織の伝導率を利用して、2若しくはそれ以上の大きさの軟骨および滑液のコンパートメントに対する印加電極電位を特定する工程を有するものである。
【請求項6】
請求項1の方法において、前記ヒトの組織容量を特定する工程は、電場ヒストグラムを使用して、患者の膝の骨、軟骨、髄、筋肉、および脂肪に対する電場振幅の関数としての総組織容量の割合を特定する工程を有するものである。
【請求項7】
請求項1の方法において、前記ヒトの組織容量を特定する工程は、電流密度ヒストグラムを使用して、患者の膝の骨、軟骨、髄、筋肉、および脂肪に対する電流密度の振幅の関数としての前記総組織容量の割合を特定する工程を有するものである。
【請求項8】
請求項1の方法において、前記ヒトの組織容量を特定する工程は、電場ヒストグラムを使用して、前記膝における異なる厚さの関節軟骨に対する前記電場振幅の関数としての前記総組織容量の割合を特定する工程を有するものである。
【請求項9】
請求項1の方法において、前記ヒトの組織容量を特定する工程は、電場ヒストグラムを使用して、異なる大きさの膝に対する前記電場振幅の関数としての前記総組織容量の割合を特定する工程を有するものである。
【請求項10】
請求項1の方法において、前記ヒトの組織容量を特定する工程は、電場ヒストグラムを使用して、患者の膝に皮下脂肪が存在しない状態での前記電場振幅の関数としての前記総組織容量の割合を特定する工程を有するものである。
【請求項11】
請求項1の方法において、前記ヒトの組織容量を特定する工程は、電流密度ヒストグラムを使用して、患者の膝に皮下脂肪が存在、若しくは存在しない状態での電流密度の振幅の関数としての前記総組織容量の割合を特定する工程を有するものである。
【請求項12】
請求項1の方法において、前記ヒトの組織容量を特定する工程は、患者の膝に対して長手位置にある少なくとも2つの前記電極に対する前記電場振幅の関数としての前記総組織容量の割合を電場ヒストグラムを使用して特定する工程を有するものである。
【請求項13】
請求項1の方法において、前記ヒトの組織容量を特定する工程は、電流密度ヒストグラムを使用して、患者の膝に対して長手位置にある少なくとも2つの前記電極に対する前記電流密度の振幅の関数としての前記総組織容量の割合を特定する工程を有するものである。
【請求項14】
請求項1の方法において、前記ヒトの組織容量を特定する工程は、電場ヒストグラムを使用して、外部信号発生器から身体へ印加された、少なくとも2つの効果的な駆動信号の関数としての前記総組織容量の割合を特定する工程を有するものである。
【請求項15】
請求項1の方法において、前記ヒトの組織容量を特定する工程は、電流密度ヒストグラムを使用して、外部信号発生器から前記身体へ印加された、少なくとも2つの効果的な駆動信号の関数としての前記総組織容量の割合を特定する工程を有するものである。
【請求項16】
特定のおよび選択的な電場または電磁場をヒトの膝関節の罹患したまたは損傷した組織に印加することによって、前記ヒトの膝関節の前記罹患組織を治療するための装置であって、
a.(a)静電結合の場合、患者の膝関節付近に適用するのに適した少なくとも2つの電極、および(b)誘導結合の場合、患者の膝関節付近に適用するに適した1つのソレノイドまたは少なくとも1つのコイル、のうちの1つと、
b.患者の膝関節の滑膜および関節軟骨内に約8mV/cm〜360mV/cmの範囲の電場および約8μA/cm2〜300μA/cm2の範囲の電流密度を発生させるために、前記電極、前記ソレノイド、または少なくとも1つのコイルへ印加するための電気信号を生成する信号発生器と
を有する装置。
【請求項17】
特定のおよび選択的な電場または電磁場をヒトの膝関節の罹患組織に印加することによって、外傷またはスポーツ障害による変形性関節症、軟骨欠損症を治療するための装置、若しくは前記ヒトの前記膝関節における軟骨欠損症を治療する他の治療法の補助として使用される装置であって、
a.患者の膝関節付近に適用するのに適した(a)少なくとも2つの電極、および(b)1つのソレノイドまたは少なくとも1つのコイル、のうちの1つと、
b.前記患者の膝関節の滑膜および関節軟骨内に約8mV/cm〜360mV/cmの範囲の電場および約8μA/cm2〜300μA/cm2の範囲の電流密度を発生させるために、前記電極、前記ソレノイド、または少なくとも1つのコイルへ印加するための電気信号を生成する信号発生器と
を有する装置。
【請求項18】
請求項17の装置において、前記信号発生器は、前記ヒトの膝関節のサイズに従って、ユーザーによって選択された電圧を有する複数の出力電気信号のうちの1つを提供するものである。
【請求項19】
請求項18の装置において、周波数60kHzの前記信号発生器における前記複数の出力電気信号のうちの1つは、小さいサイズの膝関節に対して約4.6Vp−p±10%の電圧を有するものである。
【請求項20】
請求項18の装置において、60kHzの前記信号発生器における前記複数の出力電気信号のうちの1つは、平均サイズの膝関節に対して約5.0Vp−p±10%の電圧を有するものである。
【請求項21】
請求項18の装置において、60kHzの前記信号発生器における前記複数の出力電気信号のうちの1つは、大きいサイズの膝関節に対して約5.6Vp−p(±10%の電圧を有するものである。
【請求項22】
請求項18の装置において、60kHzの前記信号発生器における前記複数の出力電気信号の1つは、特大サイズの膝関節に対して約7.6Vp−p±10%の電圧を有するものである。
【請求項23】
特定のおよび選択的な電場または電磁場をヒトの膝関節の罹患組織に印加することによって、外傷またはスポーツ障害による変形性関節症、軟骨欠損症を治療する方法、若しくは前記ヒトの膝関節における軟骨欠損症の他の治療法の補助療法として使用される方法であって、
a.電位を、患者の膝関節付近に取り付けるのに適した(a)少なくとも2つの電極、および(b)1つのソレノイドまたは少なくとも1つのコイル、のうちの1つに印加されたとき、前記患者の膝関節の滑膜および関節軟骨内に、少なくとも約8mV/cm〜360mV/cmの範囲の電場および約8μA/cm2〜300μA/cm2の範囲の電流密度を発生させる電気信号に変換する工程と、
b.前記患者の膝関節の前記滑膜および関節軟骨内に前記電場を発生されるために、前記電気信号を(a)前記少なくとも2つの電極、または(b)前記ソレノイドまたは少なくとも1つのコイルのいずれかに印加する工程と
を有する方法。
【請求項24】
請求項23の方法であって、この方法は、
前記ヒトの膝関節の直径に従った電圧を有する複数の出力電気信号のうちの1つを選択する追加工程を有するものである。
【請求項25】
請求項24の方法において、前記選択する工程は、小さいサイズの膝関節に対して約4.6Vp−p±10%の電圧を有する周波数60kHzの電気信号を選択する工程を有するものである。
【請求項26】
請求項24の方法において、前記選択する工程は、平均サイズの膝関節に対して約5.0Vp−p±10%の電圧を有する周波数60kHzの電気信号を選択する工程を有するものである。
【請求項27】
請求項24の方法において、前記選択工程は、大きいサイズの膝関節に対して約5.6Vp−p±10%の電圧を有する周波数60kHzの電気信号を選択する工程を有するものである。
【請求項28】
請求項24の方法において、前記選択工程は、特大サイズの膝関節に対して約7.6Vp−p±10%の電圧を有する周波数60kHzの電気信号を選択する工程を有するものである。
【請求項1】
特定のおよび選択的な電場または電磁場をヒトの罹患組織に印加することによって、前記ヒトの前記罹患組織を治療する方法であって、
a.前記ヒトの前記罹患組織に対応する動物モデルの罹患組織に治療を提供する電圧出力および電流出力を特定する工程と、
b.前記動物モデルの前記罹患組織の総組織容量を特定する工程と、
c.前記ヒトの前記罹患組織の前記総組織容量を特定する工程と、
d.前記ヒトの前記罹患組織のおける解剖学的サイズおよび前記総組織容量と前記動物モデルの前記罹患組織における前記解剖学的サイズおよび前記総組織容量の比較に基づいて、前記動物モデルで使用される前記電圧出力および電流出力をスケーリングする工程と、
e.前記スケーリングされた電圧および電流を前記ヒトの前記罹患組織に印加する工程と
を有する方法。
【請求項2】
請求項1の方法において、前記スケーリングされた電圧および電流を印加する工程は、静電結合の場合、2つの電極を使用して前記スケーリングされた電圧および電流を前記ヒトに印加する工程を有するものである。
【請求項3】
請求項1の方法において、前記スケーリングされた電圧および電流を印加する工程は、誘導結合の場合、ソレノイドまたはコイルを使用して前記スケーリングされた電圧および電流を前記ヒトに印加する工程を有するものである。
【請求項4】
請求項1の方法において、前記ヒトの組織容量を特定する工程は、前記ヒトの膝の解析モデルを使用する工程を有するものである。
【請求項5】
請求項1の方法において、前記ヒトの組織容量を特定する工程は、少なくとも2つの電極間の組織の伝導率を利用して、2若しくはそれ以上の大きさの軟骨および滑液のコンパートメントに対する印加電極電位を特定する工程を有するものである。
【請求項6】
請求項1の方法において、前記ヒトの組織容量を特定する工程は、電場ヒストグラムを使用して、患者の膝の骨、軟骨、髄、筋肉、および脂肪に対する電場振幅の関数としての総組織容量の割合を特定する工程を有するものである。
【請求項7】
請求項1の方法において、前記ヒトの組織容量を特定する工程は、電流密度ヒストグラムを使用して、患者の膝の骨、軟骨、髄、筋肉、および脂肪に対する電流密度の振幅の関数としての前記総組織容量の割合を特定する工程を有するものである。
【請求項8】
請求項1の方法において、前記ヒトの組織容量を特定する工程は、電場ヒストグラムを使用して、前記膝における異なる厚さの関節軟骨に対する前記電場振幅の関数としての前記総組織容量の割合を特定する工程を有するものである。
【請求項9】
請求項1の方法において、前記ヒトの組織容量を特定する工程は、電場ヒストグラムを使用して、異なる大きさの膝に対する前記電場振幅の関数としての前記総組織容量の割合を特定する工程を有するものである。
【請求項10】
請求項1の方法において、前記ヒトの組織容量を特定する工程は、電場ヒストグラムを使用して、患者の膝に皮下脂肪が存在しない状態での前記電場振幅の関数としての前記総組織容量の割合を特定する工程を有するものである。
【請求項11】
請求項1の方法において、前記ヒトの組織容量を特定する工程は、電流密度ヒストグラムを使用して、患者の膝に皮下脂肪が存在、若しくは存在しない状態での電流密度の振幅の関数としての前記総組織容量の割合を特定する工程を有するものである。
【請求項12】
請求項1の方法において、前記ヒトの組織容量を特定する工程は、患者の膝に対して長手位置にある少なくとも2つの前記電極に対する前記電場振幅の関数としての前記総組織容量の割合を電場ヒストグラムを使用して特定する工程を有するものである。
【請求項13】
請求項1の方法において、前記ヒトの組織容量を特定する工程は、電流密度ヒストグラムを使用して、患者の膝に対して長手位置にある少なくとも2つの前記電極に対する前記電流密度の振幅の関数としての前記総組織容量の割合を特定する工程を有するものである。
【請求項14】
請求項1の方法において、前記ヒトの組織容量を特定する工程は、電場ヒストグラムを使用して、外部信号発生器から身体へ印加された、少なくとも2つの効果的な駆動信号の関数としての前記総組織容量の割合を特定する工程を有するものである。
【請求項15】
請求項1の方法において、前記ヒトの組織容量を特定する工程は、電流密度ヒストグラムを使用して、外部信号発生器から前記身体へ印加された、少なくとも2つの効果的な駆動信号の関数としての前記総組織容量の割合を特定する工程を有するものである。
【請求項16】
特定のおよび選択的な電場または電磁場をヒトの膝関節の罹患したまたは損傷した組織に印加することによって、前記ヒトの膝関節の前記罹患組織を治療するための装置であって、
a.(a)静電結合の場合、患者の膝関節付近に適用するのに適した少なくとも2つの電極、および(b)誘導結合の場合、患者の膝関節付近に適用するに適した1つのソレノイドまたは少なくとも1つのコイル、のうちの1つと、
b.患者の膝関節の滑膜および関節軟骨内に約8mV/cm〜360mV/cmの範囲の電場および約8μA/cm2〜300μA/cm2の範囲の電流密度を発生させるために、前記電極、前記ソレノイド、または少なくとも1つのコイルへ印加するための電気信号を生成する信号発生器と
を有する装置。
【請求項17】
特定のおよび選択的な電場または電磁場をヒトの膝関節の罹患組織に印加することによって、外傷またはスポーツ障害による変形性関節症、軟骨欠損症を治療するための装置、若しくは前記ヒトの前記膝関節における軟骨欠損症を治療する他の治療法の補助として使用される装置であって、
a.患者の膝関節付近に適用するのに適した(a)少なくとも2つの電極、および(b)1つのソレノイドまたは少なくとも1つのコイル、のうちの1つと、
b.前記患者の膝関節の滑膜および関節軟骨内に約8mV/cm〜360mV/cmの範囲の電場および約8μA/cm2〜300μA/cm2の範囲の電流密度を発生させるために、前記電極、前記ソレノイド、または少なくとも1つのコイルへ印加するための電気信号を生成する信号発生器と
を有する装置。
【請求項18】
請求項17の装置において、前記信号発生器は、前記ヒトの膝関節のサイズに従って、ユーザーによって選択された電圧を有する複数の出力電気信号のうちの1つを提供するものである。
【請求項19】
請求項18の装置において、周波数60kHzの前記信号発生器における前記複数の出力電気信号のうちの1つは、小さいサイズの膝関節に対して約4.6Vp−p±10%の電圧を有するものである。
【請求項20】
請求項18の装置において、60kHzの前記信号発生器における前記複数の出力電気信号のうちの1つは、平均サイズの膝関節に対して約5.0Vp−p±10%の電圧を有するものである。
【請求項21】
請求項18の装置において、60kHzの前記信号発生器における前記複数の出力電気信号のうちの1つは、大きいサイズの膝関節に対して約5.6Vp−p(±10%の電圧を有するものである。
【請求項22】
請求項18の装置において、60kHzの前記信号発生器における前記複数の出力電気信号の1つは、特大サイズの膝関節に対して約7.6Vp−p±10%の電圧を有するものである。
【請求項23】
特定のおよび選択的な電場または電磁場をヒトの膝関節の罹患組織に印加することによって、外傷またはスポーツ障害による変形性関節症、軟骨欠損症を治療する方法、若しくは前記ヒトの膝関節における軟骨欠損症の他の治療法の補助療法として使用される方法であって、
a.電位を、患者の膝関節付近に取り付けるのに適した(a)少なくとも2つの電極、および(b)1つのソレノイドまたは少なくとも1つのコイル、のうちの1つに印加されたとき、前記患者の膝関節の滑膜および関節軟骨内に、少なくとも約8mV/cm〜360mV/cmの範囲の電場および約8μA/cm2〜300μA/cm2の範囲の電流密度を発生させる電気信号に変換する工程と、
b.前記患者の膝関節の前記滑膜および関節軟骨内に前記電場を発生されるために、前記電気信号を(a)前記少なくとも2つの電極、または(b)前記ソレノイドまたは少なくとも1つのコイルのいずれかに印加する工程と
を有する方法。
【請求項24】
請求項23の方法であって、この方法は、
前記ヒトの膝関節の直径に従った電圧を有する複数の出力電気信号のうちの1つを選択する追加工程を有するものである。
【請求項25】
請求項24の方法において、前記選択する工程は、小さいサイズの膝関節に対して約4.6Vp−p±10%の電圧を有する周波数60kHzの電気信号を選択する工程を有するものである。
【請求項26】
請求項24の方法において、前記選択する工程は、平均サイズの膝関節に対して約5.0Vp−p±10%の電圧を有する周波数60kHzの電気信号を選択する工程を有するものである。
【請求項27】
請求項24の方法において、前記選択工程は、大きいサイズの膝関節に対して約5.6Vp−p±10%の電圧を有する周波数60kHzの電気信号を選択する工程を有するものである。
【請求項28】
請求項24の方法において、前記選択工程は、特大サイズの膝関節に対して約7.6Vp−p±10%の電圧を有する周波数60kHzの電気信号を選択する工程を有するものである。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公表番号】特表2007−500580(P2007−500580A)
【公表日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−533637(P2006−533637)
【出願日】平成16年6月9日(2004.6.9)
【国際出願番号】PCT/US2004/018274
【国際公開番号】WO2004/110552
【国際公開日】平成16年12月23日(2004.12.23)
【出願人】(500429103)ザ・トラスティーズ・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・ペンシルバニア (102)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年6月9日(2004.6.9)
【国際出願番号】PCT/US2004/018274
【国際公開番号】WO2004/110552
【国際公開日】平成16年12月23日(2004.12.23)
【出願人】(500429103)ザ・トラスティーズ・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・ペンシルバニア (102)
【Fターム(参考)】
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