説明

ヒトを除く動物用自然治癒力向上装置

【課題】 本発明はペット等の愛玩用の小動物や家畜等の大動物の生体の自然治癒力を向上させる刺激を良好に与えることができるヒトを除く動物用自然治癒力向上装置を得る。
【解決手段】 気密可能な気密部と、この気密部の排気口に連通して気密部内の気圧を減圧する減圧ポンプと、気密部の気圧が予め定められた閾値気圧を下回る過減圧状態となることを防止する過減圧防止装置とを備えた装置であって、減圧ポンプを制御する減圧制御手段を更に備え、減圧制御手段が1〜60分間で気密部内の気圧を閾値気圧以上の減圧状態へ変化させる減圧工程と1〜60分間でこの減圧状態から常圧か減圧状態よりも高く常圧よりも低い広範常圧状態へ変化させる与圧工程とを連続的に繰り返し制御するもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気の減圧と常圧状態への復圧とを利用したヒトを除く動物用自然治癒力向上装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
空気浴は特定の空気環境中に身体を曝して、空気の物理的特性や化学的成分を利用して身体を鍛錬し、疾病の予防をする一つの方法である。空気浴は血液循環の調節に対しても、生体の組織器官に対しても均しく良好な影響がある。空気中の微量元素と無機塩、酸素などは有機体の活力と免疫機能を向上させることができ、新鮮な空気を吸収して、血液中の酸素含有量を向上させることは心肺機能を保護する上で大変有効な援助になると言われている。
【0003】
空気浴を採用して身体を鍛錬するには、主に空気の温度(気温)と、身体の温度との差違が形成する刺激を利用する。気温の冷熱変化は身体の体温調節機能、大脳皮質と血管運動の反射中枢を活性化させ良好な鍛錬ができる。例えば、冷たい空気の刺激は身体の表面の血管を収縮させ、血液を内臓に向けて流れさせる。逆に、暖かい空気の刺激は身体の表面の血管を拡張させ、血液を身体の表面の血管に向けて流れさせる。また、空気浴は、人だけでなく、動物においてもストレス緩和効果を期待されるものでもある。
【0004】
本発明者は温度差による刺激を利用した空気浴を行うために最適な調圧装置及び調圧法を既に提案している(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特願2009−12792
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この調圧装置で生じる閾値気圧以上の減圧状態と常圧又は前記減圧状態よりも高く常圧よりも低い広範常圧状態との間を連続的に繰り返し行われる刺激によって、犬や猫のようなペットにおいて、異常な身体組織、身体器官等を、健康な身体組織、身体器官に戻そうとする自然治癒力効果が確認されたために、本発明をなすに至った。
【0007】
即ち、本発明は、ペット等の愛玩用の小動物や家畜等の大動物の生体の自然治癒力を向上させる刺激を良好に与えることができるヒトを除く動物用自然治癒力向上装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載された発明に係るヒトを除く動物用自然治癒力向上装置は、気密可能な気密部と、この気密部の排気口に連通して気密部内の気圧を減圧する減圧ポンプと、前記気密部の気圧が予め定められた閾値気圧を下回る過減圧状態となることを防止する過減圧防止装置と、外気を気密部内の気圧に応じて連続的に自然吸入する給気管とを備えた装置であって、
前記減圧ポンプを制御する減圧制御手段を更に備え、
前記減圧制御手段が、1〜60分間で気密部内の気圧を前記閾値気圧以上の減圧状態へ変化させる減圧工程と、1〜60分間でこの減圧状態から常圧か前記減圧状態よりも高く常圧よりも低い広範常圧状態へ変化させる与圧工程とを、連続的に繰り返し制御するものであることを特徴とするものである。
【0009】
請求項2に記載された発明に係るヒトを除く動物用自然治癒力向上装置は、請求項1に記載の気密部が生体の全部を内部に保持するものであることを特徴とするものである。
【0010】
請求項3に記載された発明に係るヒトを除く動物用自然治癒力向上装置は、請求項2に記載の気密部内の酸素の欠乏を防止する酸欠防止手段を更に備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、生体の自然治癒力を向上させる刺激を良好に与えることができるヒトを除く動物用自然治癒力向上装置を得ることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】通常圧力及び減圧の血管の状態を説明する説明図である。
【図2】本発明の自然治癒力向上装置の一実施例の構成を示す正面図である。
【図3】図2の平面図である。
【図4】図2の側面図である。
【図5】図2の制御装置の駆動を示すフローチャートであり、a図は減圧工程を示すフローチャートであり、b図は与圧工程を示すフローチャートである。
【図6】減圧工程と与圧工程とを繰り返した場合の気密部内の気温変化を測定した結果を示す線図である。
【図7】減圧工程と与圧工程とを繰り返した場合の気密部内の気温変化を測定した別の結果を示す線図である。
【図8】以下の実施例での調圧室内の気圧変化を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のヒトを除く動物用自然治癒力向上装置においては、気密可能な気密部と、この気密部の排気口に連通して気密部内の気圧を減圧する減圧ポンプと、前記気密部の気圧が予め定められた閾値気圧を下回る過減圧となることを防止する過減圧防止装置と、外気を気密部内の気圧に応じて連続的に自然吸入する給気管とを備えた装置であって、
前記減圧ポンプを制御する減圧制御手段を更に備え、
前記減圧制御手段が、1〜60分間で気密部内の気圧を前記閾値気圧以上の減圧状態へ変化させる減圧工程と、1〜60分間でこの減圧状態から常圧か前記減圧状態よりも高く常圧よりも低い広範常圧状態へ変化させる与圧工程とを、連続的に繰り返し制御するものである。
【0014】
本発明で付言した「自然治癒力」とは、正常でない状態を動物の生体が本来持っている回復機能によって健康な状態に戻そうとする力を指し、血液等の体液成分、血圧を始めとして、体組織の損傷の修復、病原微生物やウイルスといった異物(非自己)の排除等の異常な環境を、安定な状態に戻し、治癒するものである。より詳しくは、身体の諸機能の障害や健康でない異常状態等の疾病を正常な状態に治癒しようとする働きを指す。従って、「自然治癒力の向上」とは、自然治癒力自体を向上させることを指し、正常でない状態であることを素早く認識する反応の速さ、そして、正常な状態に戻そうとする応答の速さ等をより向上させることも含む。
【0015】
例えば、後述する実施例に示された健常細胞ではない腫瘍細胞の縮小及び消滅、リューマチ等の免疫系の過敏症の改善、健常な骨組織ではない骨粗鬆症の改善、糖代謝の異常の改善等が含まれ、更には、後述する実施例には具体的なデータはないが、異常血圧の改善、血栓の溶解、血栓の溶解による狭心症・脳血栓・脳内出血の予防、脳血流の改善による認知症の改善等も含まれるものと思われる。
【0016】
本発明における「ヒトを除く動物」とは、前述の減圧工程と与圧工程とを連続的に繰り返し制御した際に、自然治癒力が向上する動物であればよい。後述する仮説1,2を考慮すると、ヘビやトカゲ等の変温動物に対しても自然治癒力の向上が現れる可能性は否定できないが、少なくとも鳥類及び哺乳類の恒温動物であれば、自然治癒力の向上が顕著に現れるものと考える。具体的には、犬、猫、ウサギ、フェレット、モルモット、小鳥等のペットと呼称される愛玩用の小動物を始めとして、ウシ、馬、ブタ、羊、山羊、ダチョウ、エミュー等の家畜等の大動物をも含む。
【0017】
本発明の気圧サイクルの変化は、気密部内の動物の生体を刺激して生体の自然治癒力(生体恒常性維持機構)を向上させる。より具体的には、身体の諸機能の障害や健康でない異常状態等の疾病を正常な状態に戻そうとする働きの応答性を向上させるものと思われる。
【0018】
本発明において、閾値気圧以上の減圧状態と常圧又は前記減圧状態よりも高く常圧よりも低い広範常圧状態との間を、連続して繰り返し制御することによる自然治癒力向上効果の詳細な作用機構(作用機序)はこれからの検証及びデータの蓄積等によって解明されるものと思われるが、幾つかの作用機構の仮説を考慮した。
【0019】
仮説1.低酸素による防御機構のための皮膚呼吸
高い山に登り呼吸中の酸素分圧(以下pO )が低下すると、それに伴って肺胞pO や動脈血pO も低下する。例えば、0.8気圧程度では酸素分圧は約80%となる。これに対して先ず防御の役を果たすのが、ヘモグロビンと酸素の結合の強さ、即ち、酸素解離特性である。
【0020】
この特性を表すヘモグロビン・酸素解離曲線は所謂S字状をしていて比較的高い酸素分圧領域ではほぼ平坦となっている。このため、pO が正常値より多少低下しても、動脈血の酸素飽和度(単位血液量当たりの酸素含有量)の低下は僅かに留まる。例えば、平地から2000mの高地に登ると、外気中のpO は159hPaから124hPaに低下(22%の低下)し、これに伴って肺胞pO は100hPaから75hPaに低下(25%の低下)するが、酸素飽和度は96%から2〜3%低下するだけとなる。従って、2000mの高地に登っても動脈血中の酸素含有量は殆ど変わらず、組織に対する酸素の供給はほぼ正常で、静脈血pO も殆ど変化しない。
【0021】
本発明のように、減圧環境下で気圧を上下に変化させることにより、血液に溶解する空気量を移動(放出−吸収)させる。これにより、皮膚呼吸をしているような現象が数多く現れてきた。例えば、外呼吸は肺の呼吸運動により圧力条件を持たせているが、皮膚の場合は圧力変化がないために行えないでいる。皮膚呼吸をするとATPの産生が増加する。
【0022】
本発明のように、減圧室の気圧が減圧状態となると、酸素濃度が低くなりATPの酸性は下がる。但し、移動時間は皮膚呼吸をしているためにATPの産生は増す。例えば、減圧室で1000mに相当する高度にするために5分間、4000mに相当する高度にするために20分間を要した場合には、4000mまで入っていた人の方がATPの産生は高い結果となる。即ち、減圧室の中で1000mの高度を保ったままでいると、ATPの産生が増すことはないが、500m〜1000mを絶えず変化させた状態でいると、ATPの産生は大きく増す結果となる。
【0023】
気圧の変化により血液に溶解する空気量を、放出させたり吸収させたりすることで皮膚呼吸として利用すると考える。皮膚呼吸効果は溶解する側、即ち、減圧室内の圧力が増す方向(供給量大)が大である。高地に住んでいるヒトは高度を変えることにより、皮膚呼吸をしていることになる。また気圧の変化により、長時間に亘り皮膚呼吸をしていることにもなるので、ATPの産生は増すはずである。酸素濃度の低い高地に住んでいる人たちが、平地と同様の生活ができる秘密の一端は、このこともあるものと思われる。
【0024】
さて、皮膚呼吸は、常圧(1010〜1030hPa)以上の圧力下では、気圧を変化させても行わない。このことはATP生成に伴う発熱がないことから理解できる。また、所謂「ベッカムカプセル」のような高酸素濃度のカプセルでの効果は呼吸の酸素濃度が増すためである(但し、防御機能の働きで血管の収縮が起こり、効果は小さいものと考える)。細胞は進化の過程で、高度と酸素濃度という大きな問題を解決するために、平地では利用されることのない皮膚呼吸という機能を持つことにより、ATPの産生を高めて対処したものと思われる。
【0025】
仮説2.一酸化窒素(NO)等の分泌によるシグナル伝達
血管内皮細胞では、血流によるズリ応力等の刺激によりガス状の一酸化窒素(以下、「NO」と記す)が分泌される。このNOは、血管の内皮由来弛緩因子(EDRF:Endothelium-Derived Relaxing Factor)と呼ばれていた。この内皮由来弛緩因子がNOそのものであることを示し、シグナル伝達物質としてのNOの発見により、R.F.ファーチゴット氏、L.J.イグナロ氏、F.ムラド氏の3名が1998年のノーベル医学生理学賞を受賞している。
【0026】
シグナル伝達物質としてのNOは、動脈や静脈が梗塞する原因になるプラークが血管につかないようにするだけではなく、動脈の弛緩によって正常な血圧を維持して血流を調整し、心臓発作を防止するために体内で生成されていることが判っており、NOは体内で作られる心血系の健康維持のための驚異の化学物質とされている。このNOによるシグナル伝達が本発明の自然治癒力向上効果の主要な作用機構そのものであるとするのが仮説2である。
【0027】
即ち、本発明において、閾値気圧以上の減圧状態と常圧又は減圧状態よりも高く常圧よりも低い広範常圧状態との間を、例えば、40〜60分間の時間内で4〜5回繰り返すことにより、血管自体が拡張と復帰とが繰り返すことになる。
【0028】
即ち、動物の生体においてはほぼ一定の血圧によって血液が移送される。この時、動物を取り巻く外気の圧力が減圧されると、血管は内圧に比べて外圧が下がるために拡張する。図1は通常圧力及び減圧の血管の状態を説明する説明図である。図1のa図に示す通り、通常圧力においては、体躯1aの表面に近い位置に配された血管2aでは、血管2a内部の血液の圧力に対抗可能な圧力で血管2a外部から押されている。
【0029】
これに対して、図1のb図に示す通り、減圧状態においては、体躯1bの表面を押す圧力自体が低下するため、体躯1bの表面に近い位置に配された血管2bでは、血管2bの管壁自体の対抗力と血管2b外部からの圧力との合力が血管2b内部の血液の圧力と釣り合うように、血管2b内部の血液の圧力によって血管2b自体が膨張する。
【0030】
外気の圧力が復圧すると血管は拡張状態から従来の状態に復帰する。この恰も血管をマッサージする如く、拡張と復帰とを繰り返すことにより、自然治癒力を向上させる物質が分泌されるのである。
【0031】
NOは血流によるズリ応力の刺激によっても分泌され、血管の平滑筋細胞を弛緩させることは、先の通り周知である。特に、本発明のように減圧状態と広範常圧状態とを連続して繰り返す雰囲気に身体を曝すことにより、物理的に血管の弛緩状態と復帰状態とが連続して繰り返すことになる。これより容易にNOの分泌が促されるとしても何ら不思議ではなく、本発明の自然治癒力向上効果を裏付けるものである。
【0032】
前述の通り、NOは内皮由来弛緩因子(EDRF)と呼ばれていたことから、血管の平滑筋細胞を弛緩させて血管の筋肉自体を柔軟にして広げ、血流をスムーズにすることにより、
(1) 血圧を低下させる効果
を始め、次のような種々の効果を生じさせます。現在確認されている他の効果としては、
【0033】
(2) NOが抗酸化物質であることによる活性酸素のようなフリーラジカルを除去し、血小板凝集を抑制し、コレステロールの酸化や血栓の生成を防ぎ、動脈硬化や心臓病、脳卒中を防止する。また、NOによって血流と血圧が整えられリラックスすることで、冷え性や肩こり、慢性的な疲労の改善効果も見られる。
【0034】
(3) プロスタグランジンI(PGI)の合成酵素を活性化し、PGIの産生を高める。PGIは、血管内皮細胞に直接働いて、細胞内cAMP濃度を上昇させ、NO産生を高める。NOは、プロスタグランジンI(PGI)の産生を相乗的に高める(ポジティブフィードバック)。
【0035】
(4) 気圧の変化による血管のマッサージはNO以外の他のシグナル伝達物質も分泌する。
例えば、(4-1) プラスミノゲンアクチベーター(t-PA)の産生向上により、線溶系が活発化され、血栓を溶解する。これにより、血管自体が若返り、異常血圧の低下、狭心症、脳血栓、脳内出血の予防効果を奏する。
【0036】
また、(4-2) サイトカイン誘導産生(IL−6:液性免疫の制御因子)により、B細胞や形質細胞(プラズマ細胞)を増殖する。また、IgG、IgM、IgAの産生が増強され、T細胞の分化や活性化に関与され、肝細胞に作用し、CRP、ハプトグロビンなどの急性期蛋白を誘導する。
【0037】
本発明における自然治癒力向上装置としては、気密可能な気密部と、この気密部の排気口に連通して気密部内の気圧を減圧する減圧ポンプと、気密部の気圧が予め定められた閾値気圧を下回る過減圧となることを防止する過減圧防止装置とを備えるものであればよい。尚、本発明における気密部は常圧(大気圧)以上に積極的に加圧する場合は想定しないが、常圧を若干超える程度の加圧は誤差範囲として当然あり得る。
【0038】
本発明の気密部としては、閾値気圧以上の減圧状態と、常圧又は前記減圧状態よりも高く常圧よりも低い広範常圧状態との間を圧力変化することに耐えられる気密部を備えるものであればよい。気密部を構成する素材としては、気密性を保ち、前記減圧状態と広範常圧状態との圧力変化に耐えられるものであればよく、金属、樹脂、木等の単独或いは複数を組み合わせて作成される。
【0039】
また、気密部の形状についても、気密性を保ち、前記減圧状態と広範常圧状態との圧力変化に耐えられるものであればよいが、後述するように閾値気圧自体が500hPa以上と、極端に低いものではないため、気密性を保てればその形状については制限はない。例えば、矩形状のパネルを組み合わせて、互いの接合部分の気密性を確保できれば、6面体状の筐体に構成してもよい。
【0040】
本発明の減圧ポンプとしては、気密部の排気口に連通して気密部内の気圧を減圧し、減圧制御手段で制御されるものであればよく、ロータリーポンプ(油回転ポンプ)、油拡散ポンプ、ターボ分子ポンプ、イオンポンプ、ドライポンプ、カニカルブースタポンプ等の減圧ポンプから単独で又は1つ以上を組み合わせて使用することができる。
【0041】
本発明の過減圧防止装置としては、気密部の気圧が予め定められた閾値気圧を下回る過減圧となることを防止するものであればよく、気密部の気圧が閾値を下回った場合に自動的又は強制的に開放される開放弁を外気と気密部とを連通する連通管に備えたものが挙げられる。
【0042】
この過減圧防止装置とは別の安全装置として、減圧ポンプによって気密部内の空気を排気する量よりも少ない外気量を供給する装置や、気密部内部に入れた動物に異変を感じて気密部外から操作して気密状態を素早く開放する開放弁等の2重、3重以上の安全装置を好ましくは更に備える。
【0043】
本発明の閾値気圧としては、動物による種の差や同種であっても個体差があり、動物の種類や、疾病を患った動物等に応じて気圧の閾値は変化する。また、経験によって閾値を下げることもできるし、逆に体調によって閾値が高まることがある。イヌやネコのような小動物を搬送することも行われている航空機内の一般的な与圧キャビンでは、高度12000mにおいては、高度2000m内外の気圧状態(約780hPa)としており、疾病を患った動物でも利用可能である。従って、一般的な健康な生体の閾値は、少なくとも高度2000mを越えて、高度約4200m以下の600hPa以上とする。
【0044】
本発明における減圧ポンプの減圧制御手段としては、減圧状態と広範常圧状態との間を変化する気圧サイクルを連続して繰り返し制御するものであればよい。減圧状態とは、閾値気圧以上の減圧状態を指し、この減圧状態の気圧についても、動物の種類、健常な動物や、疾病を患った動物に応じてその値を変更する。例えば、減圧状態を高度1000mの気圧とし、広範常圧状態を高度200mの気圧とし、この減圧状態と広範常圧状態との気圧変化を繰り返す。
【0045】
好ましい減圧状態としては500hPa以上780hPa以下、より好ましくは600hPa以上700hPa以下、好ましい広範常圧状態としては常圧(1013hPa)以下高度200m相当の989hPa以上とする。
【0046】
尚、連続的に繰り返す減圧状態は、閾値気圧以上の減圧であればよく、同一の気圧で無くてもよい。例えば、1回目の減圧状態を高度2000m相当の780hPa、2回目の減圧状態を高度3000m相当の700hPaのように相違する減圧状態としてもよい。同様に、繰り返す広範常圧状態についても、常圧か、直前の減圧状態よりも高く常圧よりも低い気圧であればよく、同一の気圧で無くてもよい。例えば、1回目の広範常圧状態を常圧(1013hPa)、2回目の広範常圧状態を高度200m相当の989hPaのように相違する気圧状態としてもよい。
【0047】
また、本発明の自然治癒力向上装置の設置場所が、例えばメキシコシティ等の高地環境では、常圧(1013hPa)や高度200m(989hPa)にするための与圧装置を好ましくは備える。しかしながら、好ましくは常圧を越えて加圧はしない。
【0048】
気密部内の減圧状態から広範常圧状態、又は、広範常圧状態から減圧状態への変化のスピードは、被験生体の自然治癒力効果を向上させる刺激を与えるものであれば良い。例えば、1〜60分間で減圧状態から広範常圧状態、又は、1〜60分間で広範常圧状態から減圧状態へ変化するものが挙げられる。具体的には、常圧(約1013hPa)から高度1000mに相当する気圧(約900hPa)に3分間で変化させたり、引き続き、高度200m(約989hPa)に1.5分間で変化させ、これらの変化を連続して繰り返すものが挙げられる。
【0049】
この減圧状態と広範常圧状態との間の連続的な気圧変化の刺激が、被験者の自然治癒力効果を向上させることは、後述する実施例でも検証済みであり、前述の仮説1,2に示した作用機構が考えられる。
【0050】
尚、気密部の大きさ及び減圧ポンプの能力については、断熱膨張が生じるような急激な減圧変化をもたらすことができ、この減圧状態と広範常圧状態との圧力変化が速やかに行える容積であればよい。容量の大きな気密部では、能力の大きな減圧ポンプを1基以上備え、気密部への給気も容量の大きな給気手段を1つ以上備えればよいが、気密部の容量が小さいものであれば装置自体が大きくならずに済む。大きな気密部としては、大型の動物が1体以上同時に入室可能な容量の部屋が実現可能である。また、小さな気密部としては、一匹の小動物が横たわれる程度の容量の気密部が上げられる。更に、ハムスター等の小型ペットが入れるようなより小さな容量の気密部も可能である。特に、疾患を治癒させたいと飼い主が思える愛玩用の小動物が内部に入れるような大きさのものでは、装置自体を小型化することができ、動物病院を始めとして、家庭用の装置も可能となる。
【0051】
何れにしても、被験生体に減圧状態と広範常圧状態との間の連続的な気圧変化の刺激を与えるには、少なくとも身体全体を内部に保持するものが好ましい。従って、本発明の気密部としては、生体の全部を内部に保持するものである。具体的には、気密部が生体の全部を内部に保持し、気密部を生体が全て入る部屋として構成し、その気密部屋に被験生体を入れ、減圧状態と広範常圧状態との気圧変化を繰り返す。この場合には、気密部内の酸素の欠乏を防止する酸欠防止手段を更に備える。
【0052】
本発明の酸欠防止手段としては、気密部内の気圧に応じて外気を自然吸入するように減圧ポンプによる排気量以下の外気を気密部内に導入する吸入管を設置したり、停電時等に自動的に開放して気密部内の酸欠を防止するドア又は換気口等が挙げられる。この酸欠防止手段により、減圧された気密部内には外気が自然吸入される。
【0053】
本発明の自然治癒力向上装置では、減圧制御手段、酸欠防止手段等の他にも、気密部内に入った生体の自然治癒力を向上させるための他の種々の手段を1つ以上備えても良い。例えば、減圧状態において低下する気密部内の酸素分圧を増加するための酸素供給手段を更に備えたり、減圧状態において低下する気密部内の湿度を付与するための加湿手段を更に備えたり、減圧状態において低下する気密部内の温度を付与するための加温手段を更に備えたり、気密部内のマイナスイオンを増やすためのマイナスイオン付与手段を更に備えたりしても良い。
【0054】
方法に係る本発明においては、気密可能な気密部と、この気密部の排気口に連通して気密部内の気圧を減圧する減圧ポンプと、前記気密部の気圧が予め定められた閾値気圧を下回る過減圧となることを防止する過減圧防止装置とを備えた自然治癒力向上装置の作動法であって、
前記気密部内の気圧を1〜60分間で前記閾値気圧以上の減圧状態に減圧して気密部内の気温を断熱膨張作用によって低下させる減圧工程と、1〜60分間でこの減圧状態から常圧又は前記減圧状態よりも高く常圧よりも低い広範常圧状態に与圧して気密部内の気温を当初の気密部の気温以上に復元する与圧工程とを、連続的に繰り返すことにより、自然治癒力向上装置を作動することができる。
【0055】
方法に係る本発明における自然治癒力向上装置については、前述の自然治癒力向上装置と同様に、気密可能な気密部と、この気密部の排気口に連通して気密部内の気圧を減圧する減圧ポンプと、前記気密部の気圧が予め定められた閾値気圧を下回る過減圧となることを防止する過減圧防止装置とを備えるものであればよく、気密部、減圧ポンプ、過減圧防止装置の各々については前述の通りである。
【0056】
本発明では、気密部内の気圧を1〜60分間で前記閾値気圧以上の減圧状態に減圧して気密部内の気温を断熱膨張作用によって低下させる減圧工程と、1〜60分間でこの減圧状態から常圧又は前記減圧状態よりも高く常圧よりも低い広範常圧状態に与圧して気密部内の気温を当初の気密部の気温以上に復元する与圧工程とを、連続的に繰り返すものであればよい。具体的には、前述の自然治癒力向上装置における減圧ポンプを制御する減圧制御手段を備えて制御してもよく、また、操作者が気密部内の気圧計を確認しながら、気密部内の気圧を変化させることを含む。
【実施例】
【0057】
実施例1:自然治癒力向上装置の構成
図2は本発明の自然治癒力向上装置の一実施例の構成を示す正面図である。図3は図2の平面図である。図4は図2の側面図である。図に示す通り、本実施例の自然治癒力向上装置20は円筒状の気密部21と、この気密部21の内側に一端を開放した排気管22に連通する減圧ポンプ23と、気密部21内の排気管22と対向する位置に一端を開放した給気管24の他端部にはフィルター25を気密部21の外方に取付けられている。
【0058】
気密部21の外観は、円筒状のタンクを横倒しした構成である。本実施例では、横倒し下円筒状の側壁部34と、この側壁部34の正面及び背面(図示せず)に、中央部に2つの窓33が備わった気密扉32が配された出入り口パネル31が用いられている。
【0059】
正面側の出入り口パネル31には給気管24が配されており、この給気管24の途中には、圧力調節弁26が取付けられ、圧力調節弁26の開度によって生ずる圧力損失を調節することによって、フィルター25を通過した外気が気密部21内の気圧に応じて連続的に自然吸入される。この圧力調節弁26の開度は後述する制御装置36によって行われる。尚、圧力調節弁26は完全に閉塞することはできない構造であり、これにより酸欠防止手段として機能する。
【0060】
給気管24に対して気密扉32の対向位置には排気管22が配されており、この排気管22の途中には排気用電磁弁27が取付けられ、その減圧ポンプ23側には分岐管18及び外気用電磁弁29を介して外気に連通する過減圧防止配管30が配されている。更に、気密部21には内部の気圧を計測する圧力センサ35が複数個配されており、気密部21内の気圧が何らかの異常により、予め設定した閾値を下回った場合には、減圧ポンプ23が停止され、外気用電磁弁29が開放し、外気が吸入されることによって過減圧を防止することができる。
【0061】
減圧ポンプ23の上部には、減圧ポンプ23の駆動を制御する減圧制御手段としての制御装置36が配されており、気密部21の圧力センサ35の数値もこの制御装置36に入力され、前記電磁弁17,19の駆動及び圧力調節弁26の開度も制御する。
【0062】
図5は図2の制御装置の駆動を示すフローチャートであり、a図は減圧工程を示すフローチャートであり、b図は与圧工程を示すフローチャートである。a図に示す通り、減圧工程では、制御装置36によって、減圧ポンプ23が駆動される。尚、この際には、外気用電磁弁29を閉塞し、排気用電磁弁27を開放した上で行われることは言うまでもない。
【0063】
減圧ポンプ23の駆動の際には、圧力調節弁26の開度を最小の開度にし、速やかな減圧が行われるようにし、減圧ポンプ23の駆動中は気密部21の圧力センサ35によって内部の気圧を定時的にチェックし、予め設定しておいた目標減圧値となっているのかを判断し、目標減圧値となった場合には減圧ポンプ23を停止する。尚、減圧ポンプ23を停止する際には排気用電磁弁27を閉塞して気密部21の内部の気圧を保持する。
【0064】
また、圧力調節弁26は閉塞されない構造となっているため、減圧ポンプ23の駆動が停止した場合には、徐々に圧力が上昇する。そのため、目標の減圧状態を長く保持する場合には、目標の圧力を基準にして一定の圧力が上昇したら、排気用電磁弁27を開放して再度減圧ポンプ23を駆動するように制御してもよい。
【0065】
b図に示す通り、与圧工程では、制御装置36によって圧力調節弁26の開度を開放して気密部21内の気圧を上昇させる。気密部21の圧力センサ35によって内部の気圧を定時的にチェックし、予め設定しておいた目標与圧値となっているのかを判断し、目標与圧値(広範常圧状態)となった場合には圧力調節弁26の開度を最小に搾る。
【0066】
同様に、圧力調節弁26は閉塞されない構造となっているため、圧力調節弁26の開度を最小に搾っても徐々に圧力が常圧まで上昇する。常圧よりも低い広範常圧状態を長く保持する場合には、目標の圧力を基準にして一定の圧力が上昇したら、排気用電磁弁27を開放して再度減圧ポンプ23を駆動するように制御しても
よい。
【0067】
尚、本実施例の気密部21の室内には、必要に応じて、照明、エアコン、床暖房等の装置を備えてもよい。尚、エアコンについては、気密部の室内のドレインは室内に排出するように気密性を確保する必要がある。
【0068】
本実施例による自然治癒力向上装置を用いて気密部21内の気圧を減圧して気密部内の気温を断熱膨張作用によって低下させる減圧工程と、この減圧状態から常圧よりも低い広範常圧状態に与圧して気密部内の気温を当初の気密部の気温以上に復元する与圧工程とを繰り返して気密部内の気温の変化を計測した。結果を表1に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
表1に示す通り、数分の時間によって、3℃以上の気温差を気密部内に入った被験動物に与えることができ、気温の素早い変化による刺激を被験動物に与えることができることが確認された。
【0071】
また、図6及び図7に減圧工程と与圧工程とを繰り返した場合の気密部内の気温変化を測定した結果を示す。各図において、黒丸点を結んだ実線が気密部内の気温(℃)であり、黒四角点を結んだ破線が気密部内の圧力(hPa)である。
【0072】
図6では、減圧工程は常圧(1013hPa)又は高度200mに相当する気圧(989hPa)から高度1000mに相当する気圧(900hPa)、与圧工程は高度1000mに相当する気圧(900hPa)から高度200mに相当する気圧(989hPa)又は常圧(1013hPa)を2.5分で繰り返した。図7では、減圧工程は常圧(1013hPa)又は高度200mに相当する気圧(989hPa)から高度3000mに相当する気圧(700hPa)、与圧工程は高度3000mに相当する気圧(700hPa)から高度200mに相当する気圧(989hPa)又は常圧(1013hPa)を6分で繰り返した(最初の減圧及び最後の与圧では8分)。
【0073】
図6に示す通り、与圧工程で高度200mに相当する気圧(989hPa)又は常圧(1013hPa)の広範常圧状態の気圧にした場合には、当初の外気温度(25℃)よりも高い温度となることが確認された。また、23.6℃〜26.8℃の温度範囲を1サイクル5分で繰り返すことが判った。
【0074】
一方、図7に示す通り、図6と同様に、与圧工程で高度200mに相当する気圧(989hPa)又は常圧(1013hPa)の広範常圧状態の気圧にした場合には、当初の外気温度(26℃)よりも高い温度となることが確認された。また、21.5℃〜30.0℃の温度範囲を1サイクル12分で繰り返すことが判った。
【0075】
実施例2:自然治癒力向上効果の検証(条件)
このように閾値気圧以上の減圧状態とする減圧工程と、常圧又は前記減圧状態よりも高く常圧よりも低い広範常圧状態と擦る与圧工程とを連続して繰り返すことにより自然治癒力向上効果が現れる。以下、自然治癒力向上効果を検証した。検証に際して、自然治癒力向上装置の減圧工程と与圧工程との連続的な繰り返し操作は次の表2及び図8に示す通りに行った。
【0076】
以下の検証データは、表2及び図8に示した50分間の減圧工程と与圧工程との連続的な繰り返しを1サイクルとして行ったものである。
【0077】
【表2】

【0078】
実施例3:ペットの自然治癒力向上効果の検証(1)
被験動物は、オス17才の柴犬である。2年前より目が見えなくなる、1年前より歩けなくなり、食事は元気な時と比べ約半分になっていた。直径1500mm、長さ3100mmの円筒状調圧室に夜間18時00分から翌朝8時00分までの1日14時間の入室を3日間続け、昼間は普通の生活に戻した。
【0079】
調圧室の運転条件は、表2及び図8に示した50分間の減圧工程と与圧工程との連続的な繰り返しを1サイクルで自動制御による無人運転で行った。3日後には、自ら立ち上がり歩行できるようになった。食欲も元気な時と同じぐらい食べるようになった。
【0080】
実施例4:ペットの自然治癒力向上効果の検証(2)
被験動物は、オス11才の灰色、黒の縞模様の猫である。2歳の時、去勢手術を受けている。半年前より、食欲不振、吐き気がしたり、で獣医の診察では腎不全と言われる。実施例3と同様に調圧室に夜間18時00分から翌朝8時00分までの1日14時間の入室を3日間続け、昼間は普通の生活に戻した。
【0081】
調圧室の運転条件は、同様に表2及び図8に示した50分間の減圧工程と与圧工程との連続的な繰り返しを1サイクルで自動制御による無人運転で行った。3日後からは、吐き気は治り、食欲も出始めた。その後、1週間に2度ぐらいの割合で調圧室に入り現在も元気でいる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明によれば、生体の自然治癒力を向上させる刺激を良好に与えることができる自然治癒力向上装置及びその作動法が得られ、異常な身体組織、身体器官等を、健康な身体組織、身体器官に戻そうとする自然治癒力効果が得られる。
【符号の説明】
【0083】
20…自然治癒力向上装置、
21…気密部、
22…排気管、
23…減圧ポンプ、
24…給気管、
25…フィルター、
26…圧力調節弁、
27…排気用電磁弁、
28…分岐管、
29…外気用電磁弁、
30…過減圧防止配管、
31…出入り口パネル、
32…気密扉、
33…窓、
34…側壁部、
35…圧力センサ、
36…制御装置、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気密可能な気密部と、この気密部の排気口に連通して気密部内の気圧を減圧する減圧ポンプと、前記気密部の気圧が予め定められた閾値気圧を下回る過減圧となることを防止する過減圧防止装置と、外気を気密部内の気圧に応じて連続的に自然吸入する給気管とを備えた装置であって、
前記減圧ポンプを制御する減圧制御手段を更に備え、
前記減圧制御手段が、1〜60分間で気密部内の気圧を前記閾値気圧以上の減圧状態へ変化させる減圧工程と、1〜60分間でこの減圧状態から常圧か前記減圧状態よりも高く常圧よりも低い広範常圧状態へ変化させる与圧工程とを、連続的に繰り返し制御するものであることを特徴とするヒトを除く動物用自然治癒力向上装置。
【請求項2】
前記気密部が生体の全部を内部に保持するものであることを特徴とする請求項1に記載のヒトを除く動物用自然治癒力向上装置。
【請求項3】
前記気密部内の酸素の欠乏を防止する酸欠防止手段を更に備えたことを特徴とする請求項2に記載のヒトを除く動物用自然治癒力向上装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−206246(P2011−206246A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−76726(P2010−76726)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(502071791)
【出願人】(509113380)
【Fターム(参考)】