ヒトサーバイビンタンパクと、そのパートナータンパクとの間の相互作用を阻害する物質のスクリーニング方法
【課題】本発明は、ヒトサーバイビンタンパク、及び、それと相互作用するパートナータンパク(Smacタンパク、INCENPタンパク、ヒトサーバイビンタンパク)間の相互作用を阻害する物質をハイスループットかつ高感度でスクリーニングする方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明のスクリーニング方法は、以下の工程a)〜d)を備えたことを特徴とする。
a)ビオチン化ヒトサーバイビンタンパク及びタグ融合パートナータンパクを、被検物質の存在下又は非存在下の緩衝液中で反応させる一次反応液調製工程;
b)一次反応液に、ストレプトアビジン−ドナービーズと、ニッケルキレート−アクセプタービーズ又は抗GST−アクセプタービーズとを加え、さらに反応させる二次反応液調製工程;
c)二次反応液中のストレプトアビジン−ドナービーズ結合ビオチン化ヒトサーバイビンタンパクと、ニッケルキレート−アクセプタービーズ又は抗GST−アクセプタービーズ結合タグ融合パートナータンパクとの間の相互作用を、化学増幅型ルミネッセンスプロキシミティーホモジニアスアッセイ(AlphaScreen)法により測定・比較する測定・比較工程;
d)被検物質を添加した場合が添加しない場合に比べて、AlphaScreen法により測定されるシグナルが減少したとき、前記被検物質をヒトサーバイビン/パートナータンパク間相互作用阻害物質と評価する評価工程;
【解決手段】本発明のスクリーニング方法は、以下の工程a)〜d)を備えたことを特徴とする。
a)ビオチン化ヒトサーバイビンタンパク及びタグ融合パートナータンパクを、被検物質の存在下又は非存在下の緩衝液中で反応させる一次反応液調製工程;
b)一次反応液に、ストレプトアビジン−ドナービーズと、ニッケルキレート−アクセプタービーズ又は抗GST−アクセプタービーズとを加え、さらに反応させる二次反応液調製工程;
c)二次反応液中のストレプトアビジン−ドナービーズ結合ビオチン化ヒトサーバイビンタンパクと、ニッケルキレート−アクセプタービーズ又は抗GST−アクセプタービーズ結合タグ融合パートナータンパクとの間の相互作用を、化学増幅型ルミネッセンスプロキシミティーホモジニアスアッセイ(AlphaScreen)法により測定・比較する測定・比較工程;
d)被検物質を添加した場合が添加しない場合に比べて、AlphaScreen法により測定されるシグナルが減少したとき、前記被検物質をヒトサーバイビン/パートナータンパク間相互作用阻害物質と評価する評価工程;
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトサーバイビンタンパクと、そのパートナータンパクとの間の相互作用を阻害する物質のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Inhibitor of apoptosis protein(IAP)ファミリーに含まれるサーバイビン(Survivin)は、分子量16.5kDaのタンパク質で、一つのbuculovirus IAP repeat(BIR)ドメインを持ちreally interesting new geneフィンガーモチーフを欠くという特別な構造を有している(非特許文献1)。また、サーバイビンはがん細胞に特異的に高発現しており、正常成熟細胞には発現が見られなく(非特許文献2)、がん患者の予後不良因子としても特徴付けられている(非特許文献3)。さらに、細胞分裂のG2/M期にのみ発現が見られ、紡錘体やセントロメアに局在して細胞周期進行のコントロールやアポトーシスの抑制に関与しているため(非特許文献4〜6)、サーバイビンは抗がん剤の標的として理想的な分子であるといえるが、その詳細な分子制御機構は十分には解明されていない。
【0003】
しかし、近年、サーバイビンの分子制御機構についていくつかの知見が得られてきている。例えば、サーバイビンとSmac(Second Mitochondria-derived Activator of Caspase)の相互作用がアポトーシス抑制に関与しているとの報告(非特許文献7及び8)や、G2/M期に起こるサーバイビンとAurora BやINCENP(Inner CentromereProtein)との結合が染色体整列や染色体分配に関与しているとの報告(非特許文献9)もあり、サーバイビンのタンパク質相互作用の解析が、サーバイビンの機能を解析する上で重要であると考えられてきている。さらに、サーバイビン自身はホモ二量体を形成するが(非特許文献10)、その機能は未だ解明されていない。現在、製薬企業においてサーバイビンのアンチセンス薬は臨床試験に進んでいるものの、これらタンパク質との相互作用を阻害するような化合物は報告されておらず、サーバイビンのタンパク質相互作用を解析する手法は、分子標的薬の新たなシーズを探す上で重要なツールであると考えられる。
【0004】
Smacはミトコンドリア内在タンパク質であるが、紫外線照射やエトポシドもしくはグルココルチコイドなどのアポトーシスを誘導する刺激により細胞質に放出される(非特許文献7、8、及び11)。これらの刺激がミトコンドリア内に伝わった後、ミトコンドリア内の前駆SmacのN末端が切断されて成熟Smacに変換される(非特許文献7及び12)。SmacはX-linked IAP (XIAP) を含むIAPファミリーに結合しその作用を中和させることによりカスパーゼの活性化を促すことが報告されている(非特許文献7、8、及び11)。実際、SmacはXIAPのBIR2とBIR3に結合し、その結合には成熟SmacのN末端が必要であると報告されている(非特許文献12〜16)。またサーバイビンとSmacの結合にもSmacのN末端4残基が必要であることも報告されている(非特許文献17)。これらの報告を受けてSongらは、サーバイビンは直接的にカスパーゼに結合して抑制させるわけではなく、Smacに結合することでSmacがXIAPなどの抗アポトーシス効果を中和させる作用を阻害し、XIAPなどの抗アポトーシス作用を亢進させると報告している(非特許文献18)。
【0005】
INCENPは染色体の中心の領域にあって染色体の分配に際して紡錘微小管と相互作用をする動原体と結びついているタンパクであり、細胞質の分裂に関与することが知られている。また、サーバイビンとの関連については、INCENPのドミナントネガティブによりサーバイビンの局在が変わるという報告がなされている(非特許文献19、20)。
【0006】
生体分子の相互作用を簡便かつ高感度で検出する方法として、AlphaScreen法(パーキンエルマー社)が知られている。AlphaScreen法は、ビーズ間の接近を利用した化学増幅型ルミネッセンス解析系であり、具体的にはAlphaScreenドナービーズとAlphaScreenアクセプタービーズにそれぞれ相互作用を解析したい基質を結合させ、680nmの光を照射するとドナービーズが活性化されて周囲の酸素が一重項酸素に変換される。それらビーズ複合体が基質である生体高分子間の結合により物理的に接近した時、アクセプタービーズはこの一重項酸素を受け取り520−620nmの光を発生する。
【0007】
【非特許文献1】Bergmann, A., Yang, A. Y., and Srivastava, M.(2003) Curr. Opin. Cell Biol, 15 (6) : 717-724
【非特許文献2】Kren L, Brazdil J, Hermanova M, Goncharuk VN, Kallakury BV, Kaur P, Ross JS (2004)Appl ImmunohistochemMol Morphol. 12 (1) : 44-49
【非特許文献3】Ambrosini, G., Adida, C., and Altreri, D.C. (1997)Nat. Med., 3 : 917-921
【非特許文献4】Li, F., Ambrosini, G., Chu, E.Y., Plescia, J., Tognin, S., Marchisio, P.C., and Altieri,D.C. (1998) Nature 396, 580-584
【非特許文献5】Tamm, I., Wang, Y., Sausville, E., Scudiero, D. A., Vigna, N., Oltersdorf, T., and Reed, J. C. (1998) Cancer Res. 58, 5315-5320
【非特許文献6】Fraser, A.G., James, C., Evan, G. I., and Hengartner, M. O. (1999) Nat. Cell Biol. 9, 293-301
【非特許文献7】Du, C., Fang, M., Li, Y., Li, L., and Wang, X. (2000) Cell 102, 33-42
【非特許文献8】Verhagen, A. M., Ekert, P. G., Pakusch, M., Silke, J., Connolly, L. M., Reid, G. E., Moritz, R. L., Simpson, R. J., and Vaux, D. L. (2000) Cell 102, 43-53
【非特許文献9】Uren, A. G., Wong, L., Pakusch, M., Fowler, K. J., Burrows, F. J., Vaux, D. L., and Choo, K. H.(2000)Curr. Biol, 2 ; 10(21), 1319-1328
【非特許文献10】Muchmore SW, Chen J, JakobC, Zakula D, Matayoshi ED, Wu W, Zhang H, Li F, Ng SC, Altieri DC. (2000) Mol. Cell 6 (1) :173-182
【非特許文献11】Ekert, P. G., Silke, J., Hawkins, C. J., Verhagen, A. M., and Vaux, D. L. (2001) J. Cell Biol. 152, 483-490
【非特許文献12】Srinivasula, S. M., Datta, P., Fan, X. J., Fernandes-Alnemri, T., Huang, Z., and Alnemri, E. S. (2000) J. Biol. Chem. 275, 36152-36157
【非特許文献13】Chai, J., Du, C., Wu, J. W., Kyin, S., Wang, X., and Shi, Y. (2000)Nature 406, 855-862
【非特許文献14】Wu, G., Chai, J., Suber, T. L., Wu, J. W., Du, C., Wang, X., and Shi, Y. (2000) Nature 408, 1008-1012
【非特許文献15】Srinivasula, S. M., Hegde, R., Saleh, A., Datta, P., Shiozaki, E., Chai, J., Lee, R. A., Robbins, P. D., Fernandes-Alnemri, T., Shi, Y., and Alnemri, E. S. (2001) Nature 410, 112-116
【非特許文献16】Chai, J., Shiozaki, E., Srinvasula, S. M., Wu, Q., Datta, P., Alnemri, E. S., Shi, Y., and Dataa, P. (2001) Cell 104, 769-780
【非特許文献17】Sun, C., Nettesheim, D., Liu, Z., and Edward T. Olejniczak(2005)Biochemistry 44, 11-17
【非特許文献18】Song, Z. Y., Yao, X. B., and Wu, M.(2003)J. Biol. Chem. 278, 23130-23140
【非特許文献19】Wheatley SP, CarvalhoA et. al. (2001) Curr Biol. 11, 886-890
【非特許文献20】Honda R, KornerR, and Nigg EA. (2003) Mol BiolCell. 14, 3325-3341
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、ヒトサーバイビンタンパク、及び、それと相互作用するパートナータンパク(Smacタンパク、INCENPタンパク、ヒトサーバイビンタンパク)間の相互作用を阻害する物質をハイスループットかつ高感度でスクリーニングする方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、AlphaScreen法を利用して、ヒトサーバイビンタンパク、及び、それと相互作用するパートナータンパク(Smacタンパク、INCENPタンパク、ヒトサーバイビンタンパク)間の相互作用を阻害する物質をスクリーニングすることにより、前述の阻害物質のスクリーニングをハイスループットかつ高感度で行い得ることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、(1)以下の工程a)〜d)を備えたことを特徴とするヒトサーバイビン/Smacタンパク間相互作用阻害物質のハイスループットスクリーニング方法;a)ビオチン化ヒトサーバイビンタンパク及びヒスチジンタグ融合ヒトSmacタンパクを、被検物質の存在下又は非存在下の緩衝液中で反応させる一次反応液調製工程;b)一次反応液に、ストレプトアビジン−ドナービーズ及びニッケルキレート−アクセプタービーズを加え、さらに反応させる二次反応液調製工程;c)二次反応液中のストレプトアビジン−ドナービーズ結合ビオチン化ヒトサーバイビンタンパクと、ニッケルキレート−アクセプタービーズ結合ヒスチジンタグ融合Smacタンパク間の相互作用を、化学増幅型ルミネッセンスプロキシミティーホモジニアスアッセイ(AlphaScreen)法により測定・比較する測定・比較工程;d)被検物質を添加した場合が添加しない場合に比べて、AlphaScreen法により測定されるシグナルが減少したとき、前記被検物質をヒトサーバイビン/Smacタンパク間相互作用阻害物質と評価する評価工程;に関する。
【0011】
また本発明は、(2)以下の工程a)〜d)を備えたことを特徴とするヒトサーバイビン/INCENPタンパク間相互作用阻害物質のハイスループットスクリーニング方法;a)ビオチン化ヒトサーバイビンタンパク及びヒスチジンタグ融合ヒトINCENPタンパクを、被検物質の存在下又は非存在下の緩衝液中で反応させる一次反応液調製工程;b)一次反応液に、ストレプトアビジン−ドナービーズ及びニッケルキレート−アクセプタービーズを加え、さらに反応させる二次反応液調製工程;c)二次反応液中のストレプトアビジン−ドナービーズ結合ビオチン化ヒトサーバイビンタンパクと、ニッケルキレート−アクセプタービーズ結合ヒスチジンタグ融合INCENPタンパク間の相互作用を、化学増幅型ルミネッセンスプロキシミティーホモジニアスアッセイ(AlphaScreen)法により測定・比較する測定・比較工程;d)被検物質を添加した場合が添加しない場合に比べて、AlphaScreen法により測定されるシグナルが減少したとき、前記被検物質をヒトサーバイビン/INCENPタンパク間相互作用阻害物質と評価する評価工程;に関する。
【0012】
さらに本発明は、(3)以下の工程a)〜d)を備えたことを特徴とするヒトサーバイビン二量体形成阻害物質のハイスループットスクリーニング方法;a)ビオチン化ヒトサーバイビンタンパク及びグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)タグ融合ヒトサーバイビンタンパクを、被検物質の存在下又は非存在下の緩衝液中で反応させる一次反応液調製工程;b)一次反応液に、ストレプトアビジン−ドナービーズ及び抗GST−アクセプタービーズを加え、さらに反応させる二次反応液調製工程;c)二次反応液中のストレプトアビジン−ドナービーズ結合ビオチン化ヒトサーバイビンタンパクと、抗GST−アクセプタービーズ結合GSTタグ融合ヒトサーバイビンタンパク間の相互作用を、化学増幅型ルミネッセンスプロキシミティーホモジニアスアッセイ(AlphaScreen)法により測定・比較する測定・比較工程;d)被検物質を添加した場合が添加しない場合に比べて、AlphaScreen法により測定されるシグナルが減少したとき、前記被検物質をヒトサーバイビン二量体形成阻害物質と評価する評価工程;に関する。
【0013】
さらにまた本発明は、(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法により選択されるヒトサーバイビン/Smacタンパク間相互作用阻害物質、ヒトサーバイビン/INCENPタンパク間相互作用阻害物質、ヒトサーバイビン二量体形成阻害物質を、抗腫瘍物質として評価することを特徴とする、がん治療剤のスクリーニング方法や、(5)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法により選択される、ヒトサーバイビン/Smacタンパク間相互作用阻害物質、ヒトサーバイビン/INCENPタンパク間相互作用阻害物質、ヒトサーバイビン二量体形成阻害物質を、アポトーシス誘導物質として評価することを特徴とする、がん治療剤のスクリーニング方法に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明のスクリーニング方法によれば、ヒトサーバイビンタンパク、及び、それと相互作用するパートナータンパク(Smacタンパク、INCENPタンパク、ヒトサーバイビンタンパク)間の相互作用を阻害する物質を、ハイスループットかつ高感度でスクリーニングすることができる。また、上記物質は抗腫瘍物質やアポトーシス誘導物質として機能する可能性が高いため、本発明のスクリーニング方法は、がん治療剤のスクリーニング方法として応用し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のスクリーニング方法は、SmacタンパクやINCENPタンパクやヒトサーバイビンタンパク(以下、「パートナータンパク」ともいう)と、ヒトサーバイビンタンパクとの間の相互作用を阻害する物質(以下、「本発明における阻害物質」ともいう。)をハイスループットでスクリーニングする方法であり、以下の工程a)〜d)を備えたことを特徴とする。
a)ビオチン化ヒトサーバイビンタンパク及びタグ融合パートナータンパクを、被検物質の存在下又は非存在下の緩衝液中で反応させる一次反応液調製工程;
b)一次反応液に、ストレプトアビジン−ドナービーズと、ニッケルキレート−アクセプタービーズ又は抗GST−アクセプタービーズとを加え、さらに反応させる二次反応液調製工程;
c)二次反応液中のストレプトアビジン−ドナービーズ結合ビオチン化ヒトサーバイビンタンパクと、ニッケルキレート−アクセプタービーズ又は抗GST−アクセプタービーズ結合タグ融合パートナータンパクとの間の相互作用を、化学増幅型ルミネッセンスプロキシミティーホモジニアスアッセイ(AlphaScreen)法により測定・比較する測定・比較工程;
d)被検物質を添加した場合が添加しない場合に比べて、AlphaScreen法により測定されるシグナルが減少したとき、前記被検物質をヒトサーバイビン/パートナータンパク間相互作用阻害物質と評価する評価工程;
【0016】
上記工程a)〜d)を備えている本発明のスクリーニング方法が利用するAlphaScreen法とは、680nmの光を照射すると、ドナービーズが活性化されて周囲の酸素が一重項酸素に変換され、ドナービーズに近接したアクセプタービーズがこの一重項酸素を受け取ると520−620nmの光を発生する性質を利用したものである。本発明のスクリーニング方法は、ヒトサーバイビンとパートナータンパクが相互作用しているかどうかを、それらのタンパクにそれぞれ結合したドナービーズとアクセプタービーズとの近接の有無により検出する方法である。本発明の方法は上記の工程を有することによって、本発明における阻害物質をハイスループットかつ高感度でスクリーニングすることができる。
【0017】
上記工程a)としては、ビオチン化ヒトサーバイビンタンパク及びタグ融合パートナータンパクを、被検物質の存在下又は非存在下の緩衝液中で反応させる一次反応液調製工程である限り特に制限はされず、反応プロトコルについては、AlphaScreen検出キット(パーキンエルマー社製)に添付の説明書に記載されたプロトコルを好適に例示することができる。上記ビオチン化ヒトサーバイビンタンパクに用いるヒトサーバイビンタンパクは、配列番号4に示されるアミノ酸配列を有するタンパク、若しくはそのタンパクと実質的に同一なタンパクである。配列番号4に示されるアミノ酸配列を有するタンパクと実質的に同一なタンパクとしては、配列番号4に示されるアミノ酸配列と80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、上記パートナータンパクのいずれかと相互作用する領域を保持するタンパクを例示することができる。
【0018】
上記ヒトサーバイビンタンパクは、後述の実施例に記載したように、ヒトcDNAライブラリーと、配列番号1及び2に示された配列からなるプライマーとを用いたPCRによりヒトサーバイビング遺伝子をクローニングし、その遺伝子を適当なベクターに導入して得られた組換えベクターを適当な宿主に形質転換し、得られた形質転換細胞を培養し、得られた培養物を精製するなどして作製することができる。また、配列番号4に示されるアミノ酸配列を有するタンパクと実質的に同一なタンパクについても、配列番号3に示されるDNA配列(配列番号4のアミノ酸配列をコードするDNA配列)に部位特異的変異を導入するなどして適宜作製することができる。
【0019】
上記ビオチン化ヒトサーバイビンタンパクは、前述のヒトサーバイビンタンパクを公知の手法によりビオチン化することにより作製することができる。
【0020】
上記タグ融合パートナータンパクとしては、ヒスチジンタグ融合ヒトSmacタンパク、ヒスチジンタグ融合ヒトINCENPタンパク、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)タグ融合ヒトサーバイビンタンパクのいずれかであれば特に制限されない。
【0021】
上記ヒスチジンタグ融合ヒトSmacタンパクに用いるヒトSmacタンパクは、配列番号8に示されるアミノ酸配列を有するタンパク、若しくはそのタンパクと実質的に同一なタンパクである。配列番号8に示されるアミノ酸配列を有するタンパクと実質的に同一なタンパクとしては、配列番号8に示されるアミノ酸配列と80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、上記ヒトサーバイビンタンパクと相互作用する領域を保持するタンパクを例示することができる。
【0022】
上記ヒトSmacタンパクは、後述の実施例に記載したように、ヒトcDNAライブラリーと、配列番号5及び6に示された配列からなるプライマーとを用いたPCRによりヒトサーバイビン遺伝子をクローニングし、その遺伝子を適当なベクターに導入して得られた組換えベクターを適当な宿主に形質転換し、得られた形質転換細胞を培養し、得られた培養物を精製するなどして作製することができる。また、配列番号8に示されるアミノ酸配列を有するタンパクと実質的に同一なタンパクについても、配列番号7に示されるDNA配列(配列番号8のアミノ酸配列をコードするDNA配列)に部位特異的変異を導入するなどして適宜作製することができる。
【0023】
上記ヒスチジンタグ融合ヒトINCENPタンパクに用いるヒトINCENPタンパクは、配列番号12に示されるアミノ酸配列を有するタンパク、若しくはそのタンパクと実質的に同一なタンパクである。配列番号12に示されるアミノ酸配列を有するタンパクと実質的に同一なタンパクとしては、配列番号12に示されるアミノ酸配列と80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、上記ヒトサーバイビングタンパクと相互作用する領域を保持するタンパクを例示することができる。
【0024】
上記ヒトINCENPタンパクは、後述の実施例に記載したように、ヒトcDNAライブラリーと、配列番号9及び10に示された配列からなるプライマーとを用いたPCRによりヒトサーバイビン遺伝子をクローニングし、その遺伝子を適当なベクターに導入して得られた組換えベクターを適当な宿主に形質転換し、得られた形質転換細胞を培養し、得られた培養物を精製するなどして作製することができる。また、配列番号12に示されるアミノ酸配列を有するタンパクと実質的に同一なタンパクについても、配列番号11に示されるDNA配列(配列番号12のアミノ酸配列をコードするDNA配列)に部位特異的変異を導入するなどして適宜作製することができる。
【0025】
上記GSTタグ融合ヒトサーバイビンタンパクに用いるヒトサーバイビンタンパクは、前述のビオチン化ヒトサーバイビンタンパクに用いるヒトサーバイビンタンパクと同様である。
【0026】
上記ヒスチジンタグ融合ヒトSmacタンパクは、前述のヒトSmacタンパクに公知の手法によりヒスチジンタグを付加することにより作製することができ、上記ヒスチジンタグ融合ヒトINCENPタンパクは、前述のヒトINCENPタンパクに公知の手法によりヒスチジンタグを付加することにより作製することができ、上記GSTタグ融合ヒトサーバイビンタンパクは、前述のヒトサーバイビンタンパクに公知の手法によりGSTタグを付加することにより作製することができる。
【0027】
上記工程a)で用いる緩衝液としては、ビオチン化ヒトサーバイビンタンパクと、そのパートナータンパクとの相互作用を妨げない限り特に制限されないが、AlphaScreen用緩衝液(100mMのKClと0.01%Tween−20を含む25mMのHEPES−KOH;pH7.4)を好適に例示することができる。
【0028】
上記工程b)としては、工程a)で得られた一次反応液に、ストレプトアビジン−ドナービーズと、ニッケルキレート−アクセプタービーズ又は抗GST−アクセプタービーズとを加え、さらに反応させる二次反応液調製工程である限り特に制限されず、反応プロトコルについては、AlphaScreen検出キット(パーキンエルマー社製)に添付の説明書に記載されたプロトコルを好適に例示することができる。上記のドナービーズやアクセプタービーズとしては、AlphaScreen His6 検出キット又はAlphaScreen GST 検出キット(それぞれパーキンエルマー社製)に含まれるドナービーズやアクセプタービーズを好適に例示することができる。
なお、アクセプタービーズの種類は、スクリーニング方法に用いるパートナータンパクのタグの種類に応じて選択することができる。例えば、パートナータンパクのタグがヒスチジンタグの場合は、アクセプタービーズとしてAlphaScreen His6 検出キットに含まれるアクセプタービーズを、パートナータンパクのタグがGSTの場合はアクセプタービーズとしてAlphaScreen GST検出キットに含まれるアクセプタービーズをそれぞれ用いることができる。
【0029】
上記工程c)としては、工程b)で得られた二次反応液中のストレプトアビジン−ドナービーズ結合ビオチン化ヒトサーバイビンタンパクと、ニッケルキレート−アクセプタービーズ又は抗GST−アクセプタービーズ結合タグ融合パートナータンパクとの間の相互作用を、化学増幅型ルミネッセンスプロキシミティーホモジニアスアッセイ(AlphaScreen)法により測定・比較する測定・比較工程である限り特に制限されない。ヒトサーバイビンタンパクとそのパートナータンパクとの相互作用は、蛍光シグナル(AlphaScreenシグナル)として検出することができる。蛍光シグナルの検出に用いる装置としては、EnVision(パーキンエルマー社製)を好適に例示することができる。
【0030】
上記工程d)としては、被検物質を添加した場合が添加しない場合に比べて、AlphaScreen法により測定されるシグナル(AlphaScreenシグナル)が減少したとき、前記被検物質をヒトサーバイビン/パートナータンパク間相互作用阻害物質と評価する評価工程である限り特に制限されない。被検物質を添加した場合が添加しない場合に比べてAlphaScreenシグナルが減少した場合は、ヒトサーバイビン/パートナータンパク間の相互作用が低下したことを意味するため、その被検物質はヒトサーバイビン/パートナータンパク間の相互作用阻害物質と評価することができる。
【0031】
上記の本発明のスクリーニング方法によって得られる本発明における阻害物質は、アポトーシス誘導物質や抗腫瘍物質である可能性が高い。以下に各パートナータンパクの種類ごとにその理由を述べる。
【0032】
(1)ヒトサーバイビン/Smacタンパク間相互作用阻害物質
背景技術で引用された非特許文献18には、サーバイビンは直接的にカスパーゼに結合して抑制させるわけではなく、Smacに結合することでSmacがXIAPなどの抗アポトーシス効果を中和させる作用を阻害し、XIAPなどの抗アポトーシス作用を亢進させる旨が記載されている。このことから、ヒトサーバイビン/Smacタンパク間の相互作用を阻害する物質は、アポトーシス誘導物質である可能性が高く、したがって、抗腫瘍物質である可能性も高い。
【0033】
(2)ヒトサーバイビン/INCENPタンパク間相互作用阻害物質
一般的に、大部分のサーバイビンはインナーセントロメアに存在し、メタフェーズからアナフェーズへの進行に関与していると考えられている。さらに、サーバイビンは細胞周期に依存して局在が変化することからも、サーバイビンの機能を果たす上でその局在が重要であることが示唆されている。さらに、INCENPのドミナントネガティブによりサーバイビンの局在が変わるという報告(非特許文献19、20)を考慮すると、ヒトサーバイビン/INCENPタンパク間相互作用阻害物質は、サーバイビンの局在変化によるサーバイビンの機能低下を誘導し、その結果アポトーシスを誘導し、抗腫瘍活性を発揮する物質である可能性が高い。
【0034】
(3)ヒトサーバイビン二量体形成阻害物質
サーバイビンのダイマーがSmacとの結合に重要であるという報告(Sun C., Nettesheim D., et. al. (2005) Biochemistry 44(1), 11-17)を考慮すると、サーバイビンの二量体形成を阻害する物質は、アポトーシス誘導物質である可能性が高く、したがって、抗腫瘍物質である可能性も高い。
【0035】
以上のように、本発明における阻害物質は、アポトーシス誘導物質や抗腫瘍物質である可能性が高いため、本発明のスクリーニング方法はがん治療剤のスクリーニング方法としても用いうる。本発明のがん治療剤のスクリーニング方法は、上記のヒトサーバイビン/パートナータンパク間相互作用阻害物質のスクリーニング方法により選択されるヒトサーバイビン/Smacタンパク間相互作用阻害物質、ヒトサーバイビン/INCENPタンパク間相互作用阻害物質、ヒトサーバイビン二量体形成阻害物質を、抗腫瘍物質又はアポトーシス誘導物質として評価することを特徴とする。
【0036】
上記の抗腫瘍物質又はアポトーシス誘導物質として評価する方法としては、特に制限されず、本発明における阻害物質を腫瘍細胞やがん患者に投与し、その腫瘍細胞のバイアビリティの低下や細胞死が生じるかどうかを調べたり、がん患者の腫瘍の増殖が抑制されるかどうかを調べるなどして、抗腫瘍物質やアポトーシス誘導物質として評価することができる。
【0037】
なお、本発明における阻害物質のスクリーニング方法やがん治療剤のスクリーニング方法に用いる被検物質としては、本発明における阻害物質であるかどうかや、がん治療効果を有する物質であるかどうかが不明である物質だけでなく、本発明における阻害物質であることや、がん治療効果を有する物質であることが判明している物質を用いることもできる。それらの判明している物質を被検物質として用いる場合、本発明のスクリーニング方法は、被検物質の阻害活性の程度やがん治療効果の程度を調べるアッセイ方法として利用することができる。
【0038】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0039】
[組み換えGST-ヒトサーバイビンタンパク質の作製]
サーバイビンは、Inhibitor of apoptosis protein(IAP)ファミリーに含まれる分子量16.5kDaのタンパク質で、1つのbuculovirus IAP repeat (BIR)ドメインを持ち、really interesting new geneフィンガーモチーフを欠くという特別な構造を有している(図1)。本発明では、Human Universal Quick-Clone cDNAII(Clone-Tech社製)を鋳型に、BamHI認識配列を含む上流プライマー(配列番号1)とSalI認識配列を含む下流プライマー(配列番号2)を用いてPolymerase Chain Reaction(PCR法)を行い、ヒトサーバイビン遺伝子をクローニングした。得られたPCR産物のDNA配列を配列番号3に、またそのDNA配列のコードするアミノ酸配列を配列番号4に示す。
【0040】
上記のPCR産物をpBluescriptIIKS (+)ベクターへライゲートし、DNA配列解析により変異が入っていないことを確認した後、ベクターをBamHI及びSalIにより消化することにより、ヒトサーバイビン遺伝子フラグメントを切り出した。pGEX6P-1発現ベクター(アマシャム社製)にヒトサーバイビン遺伝子フラグメントをサブクローニングし、組換えタンパク質発現用大腸菌であるBL21 Star(DE3)pLysSに導入した。形質転換体を600nmの吸光度が0.5に達するまで振盪培養し、終濃度0.4mMのIPTGを添加することでGST結合タンパク質の発現を誘導し、さらに23℃で一晩振盪培養した。培養後の菌体は、冷却したリン酸緩衝生理食塩水 (PBS) で洗浄した後、溶解用緩衝液 (50mMトリス緩衝液 ; pH7.4、500mMNaCl、10mMβ−メルカプトエタノール、0.5%NP−40、1mMEDTA、5%スクロース)に懸濁した。懸濁液を超音波処理することにより菌体を破砕し、遠心後の上清を採取した。
【0041】
得られた上清に、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)融合タンパク質精製用担体であるGlutathion Sepharose High Performance(以下グルタチオンビーズと略す;GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を加え、4℃で2時間反応させた。その後、溶解用緩衝液で2回、洗浄溶液 (50mMトリス緩衝液;pH7.4、300mM NaCl、5mM β-メルカプトエタノール、0.1%NP−40、1mM EDTA、5%スクロース)で3回洗浄し、ゲル担体に結合したGST-ヒトサーバイビンタンパク質を精製した。
【実施例2】
【0042】
実施例1により、目的のGST-サーバイビンタンパク質が得られたどうかを、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)及びCBB(クーマシーブリリアントブルー)染色により確認した(図2)。図2の各レーンには、以下のサンプルを10μlずつアプライした;
レーン1及び3:タンパク質分子量マーカーであるSDS-PAGE Standards Broad Range(Bio-Rad社製)
レーン2:実施例1により取得した試料(GST-ヒトサーバイビンタンパク質)
レーン4:実施例1により取得した試料をPreScission Protease処理(4℃で16時間)することでGSTとサーバイビンタンパク質と分解した試料
【0043】
ExPASy Proteomics Serverにて算出したGST-サーバイビンタンパクの理論分子量は43.2kDaであった。図2のレーン3に示すように、実施例1で得られたタンパクの分子量はこの理論分子量とほぼ同じあった。また、PreScissionProtease処理した試料(図2、レーン4)では、分子量の異なる3つのバンドが認められたが、これらはそれぞれ、約45kDaのバンド:GST-サーバイビン、約30kDaのバンド:GST、約20kDaのバンド:サーバイビンであると推測される。実施例1によりGST-ヒトサーバイビンタンパク質を得られたと考えられる。また、本操作より得られるGST-サーバイビンのタンパク量は、1mlの大腸菌培養液から約6μgであった。
【0044】
さらに、ウエスタンブロット法により、実施例1で得られた試料がサーバイビンタンパクであるかどうかを検討した(図3)。1次抗体として抗−サーバイビンウサギ抗体(Chemicon社製;#AB3610)を用いたウエスタンブロット法による解析の結果、分子量約45kDaのバンドが検出された(図3、レーン2)。上記のCBB染色及びウエスタンブロット法の結果から、実施例1によりGST−ヒトサーバイビンタンパク質が得られたことが確認された。
【実施例3】
【0045】
[組み換えヒトSmac−His6タンパク質の作製]
本発明ではタンパク質間相互作用の解析に用いる組み換えヒトSmacとして、アポトーシス刺激によりミトコンドリアから放出される成熟型Smac(56−239番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列)を用いた。本実験では、Human Universal Quick-Clone cDNAII(Clone-Tech社製)を鋳型に、NcoI認識配列を含む上流プライマー(配列番号5)とHindIII認識配列を含む下流プライマー(配列番号6)を用いてPCRを行い、ヒトSmac遺伝子をクローニングした。得られたPCR産物のDNA配列を配列番号7に、またそのDNA配列のコードするアミノ酸配列を配列番号8に示す。
【0046】
上記のPCR産物をpBluescriptIIKS (+)ベクターへライゲートし、DNA配列解析により変異が入っていないことを確認した後、ベクターをNcoI及びHindIIIにより消化することにより、ヒトSmac遺伝子フラグメントを切り出した。6個のヒスチジン残基のペプチド残基(His6)をタグとして組み込むことが可能なpET28a発現ベクターにヒトSmac遺伝子フラグメントをサブクローニングし、組換えタンパク質発現用大腸菌であるBL21 Star(DE3)pLysSに導入した。形質転換体を600nmの吸光度が0.5に達するまで振盪培養し、終濃度0.4mMのIPTGを添加することでGST結合タンパク質の発現を誘導し、さらに23℃で一晩振盪培養した。培養後の菌体は、冷却したリン酸緩衝生理食塩水 (PBS)で洗浄した後、溶解用緩衝液B(50mM トリス緩衝液;pH7.4、300mM NaCl、20mM イミダゾール、5mM β-メルカプトエタノール、 0.1%NP−40、1mM EDTA、10%スクロース)に懸濁した。懸濁液を超音波処理することにより菌体を破砕し、遠心後の上清を採取した。
【0047】
得られた上清に、His6融合タンパク質精製用クロマトグラフィー担体であるNi Sepharose High Performance (以下Niビーズと略す;GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を加え、4℃で2時間反応させた。溶解用緩衝液で2回、洗浄溶液B(50mMトリス緩衝液;pH7.4、300mMNaCl、40mMイミダゾール、5mMβ-メルカプトエタノール、0.1%NP−40、1mMEDTA、10%スクロース) で3回洗浄した。その後、ポリエンプティーカラム (Bio-Rad社製)を用いたカラムクロマトグラフィーを行い、溶出緩衝液B(50mM トリス緩衝液;pH7.4、300mM NaCl、40−250mM イミダゾール、10mM β-メルカプトエタノール、0.1%NP−40、1mM EDTA)により溶出することでヒトSmac−His6を精製した。
【実施例4】
【0048】
実施例3により、目的のヒトSmac−His6タンパク質が得られたどうかを、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)及びCBB(クーマシーブリリアントブルー)染色により確認した(図4)。ExPASy Proteomics Serverにより得られるヒトSmac−His6の理論分子量は22.4kDaあった。図4に示すように、実施例3で得られた溶出試料の分子量はこの理論分子量とほぼ同じであった。また、本操作より得られるヒトSmac-His6のタンパク量は、1mlの大腸菌培養液から2.5μgであった。
【0049】
さらに、ウエスタンブロット法により、実施例3で得られた試料がヒトSmacタンパクであるかどうかを検討した(図5)。1次抗体として抗−Smacウサギ抗体(Chemicon社製)を用いたウエスタンブロット法による解析の結果、分子量約22kDaのバンドが検出された(図5、レーン1)。上記のCBB染色及びウエスタンブロット法の結果から、実施例3によりヒトSmac−His6タンパク質が得られたことが確認された。
【実施例5】
【0050】
[組み換えヒトINCENP-His6タンパク質の作製]
ヒトINCENPの遺伝子の全長は2760bpであるが、本発明ではその1−933番目の塩基の部分をクローニングした。本発明では、Human Universal Quick-Clone cDNAII(Clone-Tech社製)を鋳型に、NedI認識配列を含む上流プライマー(配列番号9)とHindIII認識配列を含む下流プライマー(配列番号10)を用いてPCRを行い、ヒトINCENP遺伝子をクローニングした。得られたPCR産物のDNA配列を配列番号11に、またそのDNA配列のコードするアミノ酸配列を配列番号12に示す。
【0051】
上記のPCR産物をpBluescriptIIKS (+)ベクターへライゲートし、DNA配列解析により変異が入っていないことを確認した後、ベクターをNedI及びHindIIIにより消化することにより、ヒトINCENP遺伝子フラグメントを切り出した。6個のヒスチジン残基のペプチド残基(His6)をタグとして組み込むことが可能なpET28a発現ベクターにヒトSmac遺伝子フラグメントをサブクローニングし、組換えタンパク質発現用大腸菌であるBL21 Star(DE3)pLysSに導入した。形質転換体を600nmの吸光度が0.5に達するまで振盪培養し、終濃度0.4mMのIPTGを添加することでGST結合タンパク質の発現を誘導し、さらに23℃で一晩振盪培養した。培養後の菌体は、冷却したリン酸緩衝生理食塩水 (PBS) で洗浄した後、溶解用緩衝液B(50mM トリス緩衝液;pH7.4、300mM NaCl、20mM イミダゾール、5mM β-メルカプトエタノール、 0.1%NP−40、1mM EDTA、10%スクロース)に懸濁した。懸濁液を超音波処理することにより菌体を破砕し、遠心後の上清を採取した。
【0052】
得られた上清に、His6融合タンパク質精製用クロマトグラフィー担体であるNi Sepharose High Performance(以下Niビーズと略す;GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を加え、4℃で2時間反応させた。溶解用緩衝液で2回、洗浄溶液B(50mMトリス緩衝液;pH7.4、300mMNaCl、40mMイミダゾール、5mMβ-メルカプトエタノール、0.1%NP−40、1mMEDTA、10%スクロース) で3回洗浄した。その後、ポリエンプティーカラム (Bio-Rad社製)を用いたカラムクロマトグラフィーを行い、溶出緩衝液B(50mMトリス緩衝液;pH7.4、300mM NaCl、40−250mMイミダゾール、10mMβ-メルカプトエタノール、0.1%NP−40、1mMEDTA)により溶出することでヒトINCENP−His6を精製した。
【0053】
念のため、精製したタンパク質が、目的のヒトINCENP−His6タンパク質であるかどうかを、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)及びCBB(クーマシーブリリアントブルー)染色により確認した(図6)。ExPASy Proteomics Serverにより得られるヒトINCENP−His6の理論分子量は35.7kDaあるが、図6のSDS−PAGEの結果は、この理論分子量にほぼ一致していたことから、目的のヒトINCENP−His6タンパク質が得られたと考えられる。なお、本操作より得られるヒトINCENP-His6のタンパク量は、6mlの大腸菌培養液から3μgであった。
【実施例6】
【0054】
[ビオチン化タンパク質発現用ベクターの作製]
組換えビオチン化ヒトサーバイビンタンパク質の作製のため、N末端へHis6タグとHRV3C protease認識領域を、C末端にアビジンタグをそれぞれ導入したpColdベクター(ビオチン化タンパク質発現用ベクター)を作製した。以下にそれぞれの領域の導入方法を具体的に示す。配列番号13及び14に示すpCold-His6-HRV3C proteas認識領域オリゴヌクレオチドをTEN緩衝液(10mMトリス緩衝液 ;pH7.4、1mMEDTA、100mMNaCl)中でアニールさせ、T4 polynucleotide Kinase (TOYOBO社製) で5’末端をリン酸化し、Ligation highよりpColdIIベクターに挿入した。このベクターをヒートショック法により大腸菌(DH5α)へ導入し、4μlの800mM IPTG及び40μlの20mg/ml X−galとともに、100μg/mlアンピシリンを含むLB寒天培地にプレートした。37℃で一晩培養した後、カラーセレクションを行った。白色コロニーから得た大腸菌から、ミニプレップ法よりプラスミドを抽出し、遺伝子配列解析にてDNA配列を確認した。また、配列番号15及び16に示す、ビオチン結合領域アビジンタグのオリゴヌクレオチドをTEN緩衝液中でアニールさせた後、5’末端をリン酸化し、Ligation highを用いてpColdベクター中のHRV3C protease認識配列部分に連結させ、pCold-His6-HRV3C protease認識配列-アビジンタグを取得した。
【実施例7】
【0055】
[組換えビオチン化ヒトサーバイビンタンパク質の作製]
組換えビオチン化ヒトサーバイビンタンパク質作製のために、新たにヒトサーバイビン遺伝子をクローニングした。クローニングは、実施例1で作製したヒトサーバイビン遺伝子導入pBluescriptIIベクターを鋳型とし、NdeI認識配列を含む上流プライマー(配列番号17)及びSalI認識配列を含む下流プライマー(配列番号18)を用いたPCR法により行った。
【0056】
上記のPCR産物をpBluescriptIIKS (+)ベクターへライゲートし、DNA配列解析により変異が入っていないことを確認した。ベクターをNdeI及びSalIにより消化することにより、ヒトサーバイビン遺伝子フラグメントを切り出し、前述のビオチン化タンパク質発現用ベクターにサブクローニングした。この組換えベクターを、予めビオチンリガーゼを発現するpBirAベクターを導入したBL21 Star(DE3)pLysSに形質導入した。この形質転換体を、50μMビオチンと1mMIPTG存在下、15℃で24時間振盪培養することにより、His6-ビオチン化サーバイビンタンバク質の発現を誘導した。培養後に遠心分離により菌体を回収し、PBSで洗浄した後、溶解用緩衝液C(50mMトリス緩衝液;pH7.4、500mMNaCl、20mMイミダゾール、5mMβ-メルカプトエタノール、0.1%NP−40、10%グリセロール)に懸濁した。懸濁液を超音波処理することにより菌体を破砕し、遠心後の上清を採取した。この上清とNiビーズを4℃で2時間反応させた後、Niビーズは溶解用緩衝液Cで2回、洗浄溶液Bで3回それぞれ洗浄し、さらに、HRV3Cprotease存在下、4℃で16時間転倒混和することにより、ビオチン化ヒトサーバイビンを精製した。
【0057】
念のため、精製したタンパク質が、目的のビオチン化ヒトサーバイビンタンパク質であるかどうかを、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)及びCBB(クーマシーブリリアントブルー)染色により確認した(図7)。
実施例7で得られた前述の菌体溶解液にStreptavidin SepharoseHigh Performance (GEヘルスケアバイオサイエンス社製;以下SAビーズと略す)を反応させると、pCold-サーバイビン-アビジンタグを導入した大腸菌の溶解液を用いたものから26kDaほどの位置にバンドが確認できた(図7、レーン1)。同様に、溶解液を反応させたNiビーズからも26kDa付近にバンドが確認でき(図7、レーン3)、HRV3CProtease 処理でこのビーズに結合したタンパク質からHisタグを除去した場合、23kDaほどの位置にタンパク質が確認できた(図7、レーン5)。これに対して、コントロールとして空ベクターを導入した大腸菌溶解液からは、SAビーズ(図7、レーン2)、Niビーズ(図7、レーン4)、HRV3CProtease で処理したNiビーズ(図7、レーン6)のいずれにおいても該当するバンドは確認できなかった。以上の結果と、ビオチン化ヒトサーバイビンタンパク質の理論上分子量は26kDaであることとを考慮した結果、精製したタンパク質は、目的のビオチン化ヒトサーバイビンタンパク質であると考えられた。
なお、本操作より得られるビオチン化サーバイビンのタンパク量は1mlの大腸菌培養液から15μgであった。
【実施例8】
【0058】
[GSTプルダウン法によるタンパク質間相互作用の解析]
上記の方法で得られた各組換えタンパク質間の相互作用に関して検討する目的で、GSTプルダウンアッセイを行った。グルタチオンビーズに結合したGST-サーバイビンを、Smac-His6、INCENP-His6と、それぞれモル濃度比1対1、又は1対2となるように混和し、4℃で120分間転倒させながら反応させた。反応後、遠心分離によりビーズとの複合体を沈殿させ溶解用緩衝液Aで3回洗浄した。この試料をSDS-PAGEを用い12.5%アクリルアミドゲルに展開し、その分子量の大きさによって各タンパク質を検出した。
【0059】
その結果、GST-ヒトサーバイビンにSmac-His6を混合した試料では25kDa付近にSmac-His6に相当するバンドが、INCENP-His6を混和した試料からは35kDa付近にINCENP-His6に相当するバンドが検出された。一方、グルタチオンビーズとGSTとの複合体のみを反応させた場合では検出されなかった(図8)。これらの結果から、作製した組換えヒトサーバイビンタンパクはヒトSmacやヒトINCENPに対する結合能を有していることが示された。
【実施例9】
【0060】
[AlphaScreen法を用いた試験管内相互作用の解析]
実施例7で作製したビオチン化サーバイビンと、各組換えタンパク質と相互作用をAlphaScreen法により検出した。AlphaScreen用緩衝液(100mMのKClと0.01%Tween−20を含む25mMのHEPES−KOH;pH7.4)に、各組換えタンパク質を以下のように加えた;
(1)50nMビオチン化サーバイビン、50nMSmac-His6、及び300μg/mlBSA:
(2)1.2μMビオチン化サーバイビン、1.0μMINCENP-His6、及び30μg/mlBSA:
(3)500nMビオチン化サーバイビン、500nMGST-サーバイビン、及び300μg/mlBSA:
【0061】
(1)及び(2)は25℃で1時間、(3)は37℃で2時間反応させた。次に、各反応液にAlphaScreen His6 検出キット又はAlphaScreen GST 検出キット(それぞれパーキンエルマー社製)に含まれるドナービーズとアクセプタービーズをそれぞれ20μg/mlに加え、遮光下で25℃、1時間させて反応させた。その後、EnVision(パーキンエルマー社製)を用いて各タンパク質相互作用により得られるAlphaScreenシグナルを測定した(図9)。また、(1)〜(3)の各サンプルについて、コントロールとなるサンプルを作製し、同様にAlphaScreenシグナルを測定した(図9)。
図9に示すように、ビオチン化サーバイビンと、Smac-His6、INCENP-His6、又はGST−サーバイビンとのタンパク間相互作用を示す、AlphaScreenシグナルが検出され、それらのシグナルはそれぞれのコントロールに対して有意であった。この結果は、実施例8のGSTプルダウン法の結果と一致するものであった。
【実施例10】
【0062】
[非ビオチン化サーバイビンを用いたAlphaScreen反応系の競合実験]
実施例9で検出された、ビオチン化サーバイビンと、Smac-His6、INCENP-His6、又はGST−サーバイビンとのそれぞれのタンパク間相互作用に対して、非ビオチン化サーバイビンが競合作用を示すかどうかを検討した。AlphaScreen用緩衝液に、各組換えタンパク質を以下のように加え、25℃で1時間反応させた;
1)0又は3000nMの非ビオチン化サーバイビン、500nMビオチン化サーバイビン、500nMのSmac-His6、及び300μg/mlのBSA:
2)0又は10000nMの非ビオチン化サーバイビン、300nMビオチン化サーバイビン、1.0μMのINCENP-His6、及び30μg/mlのBSA:
3)0又は10000nMの非ビオチン化サーバイビン、300nMビオチン化サーバイビン、60nMのGST-サーバイビン、及び300μg/mlのBSA:
【0063】
次に、各反応液にAlphaScreen His6 検出キット又はAlphaScreen GST 検出キット(それぞれパーキンエルマー社製)に含まれるドナービーズとアクセプタービーズをそれぞれ20μg/mlに加え、遮光下で25℃、1時間させて反応させた。その後、EnVisionによりAlphaScreenシグナルを測定した。その結果、非ビオチン化サーバイビン存在下で、サーバイビンとSmacとの結合は80%、サーバイビンとINCENPとの結合は60%、サーバイビン同士の結合は70%それぞれ減弱した(図10)。また、図11に示すように、非ビオチン化サーバイビンの競合作用は濃度依存的であった。これらの結果から、ビオチン化サーバイビンと、Smac-His6、INCENP-His6、又はGST−サーバイビンとのそれぞれのタンパク間相互作用を、AlphaScreen法を用いて特異的に検出することが可能なアッセイ系を構築できたと考えられる。このアッセイ系は、96穴プレートに溶液を混合させることにより検出でき、短時間で多数の検体を処理できるため、ホモジェニアスなハイスループットスクリーニング系として有用であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】IAPファミリーのタンパク質の構造を示す図である。
【図2】精製したGST-サーバイビンタンパク質の発現をCBB染色により確認した図である。
【図3】精製したGST-サーバイビンタンパク質の発現をウエスタンブロット法により確認した図である。
【図4】精製したヒトSmac−His6タンパク質の発現をCBB染色により確認した図である。
【図5】精製したヒトSmac−His6タンパク質の発現をウエスタンブロット法により確認した図である。
【図6】精製したヒトINCENP−His6タンパク質の発現をCBB染色により確認した図である。
【図7】精製したビオチン化ヒトサーバイビンタンパク質の発現をCBB染色により確認した図である。
【図8】GSTプルダウンアッセイにより、組換えヒトサーバイビンタンパクと、ヒトSmac又はヒトINCENPとの結合を検討した結果を示す図である。
【図9】ビオチン化サーバイビンと、Smac-His6、INCENP-His6、又はGST−サーバイビンとの、それぞれのタンパク間相互作用をAlphaScreen法により検討した結果を示す図である。
【図10】ビオチン化サーバイビンと、Smac-His6、INCENP-His6、又はGST−サーバイビンとの、それぞれのタンパク間相互作用に対して、非ビオチン化サーバイビンが競合作用を示すかどうかをAlphaScreen法により検討した結果を示す図である。
【図11】非ビオチン化サーバイビンの競合作用が濃度依存的であることを示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトサーバイビンタンパクと、そのパートナータンパクとの間の相互作用を阻害する物質のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Inhibitor of apoptosis protein(IAP)ファミリーに含まれるサーバイビン(Survivin)は、分子量16.5kDaのタンパク質で、一つのbuculovirus IAP repeat(BIR)ドメインを持ちreally interesting new geneフィンガーモチーフを欠くという特別な構造を有している(非特許文献1)。また、サーバイビンはがん細胞に特異的に高発現しており、正常成熟細胞には発現が見られなく(非特許文献2)、がん患者の予後不良因子としても特徴付けられている(非特許文献3)。さらに、細胞分裂のG2/M期にのみ発現が見られ、紡錘体やセントロメアに局在して細胞周期進行のコントロールやアポトーシスの抑制に関与しているため(非特許文献4〜6)、サーバイビンは抗がん剤の標的として理想的な分子であるといえるが、その詳細な分子制御機構は十分には解明されていない。
【0003】
しかし、近年、サーバイビンの分子制御機構についていくつかの知見が得られてきている。例えば、サーバイビンとSmac(Second Mitochondria-derived Activator of Caspase)の相互作用がアポトーシス抑制に関与しているとの報告(非特許文献7及び8)や、G2/M期に起こるサーバイビンとAurora BやINCENP(Inner CentromereProtein)との結合が染色体整列や染色体分配に関与しているとの報告(非特許文献9)もあり、サーバイビンのタンパク質相互作用の解析が、サーバイビンの機能を解析する上で重要であると考えられてきている。さらに、サーバイビン自身はホモ二量体を形成するが(非特許文献10)、その機能は未だ解明されていない。現在、製薬企業においてサーバイビンのアンチセンス薬は臨床試験に進んでいるものの、これらタンパク質との相互作用を阻害するような化合物は報告されておらず、サーバイビンのタンパク質相互作用を解析する手法は、分子標的薬の新たなシーズを探す上で重要なツールであると考えられる。
【0004】
Smacはミトコンドリア内在タンパク質であるが、紫外線照射やエトポシドもしくはグルココルチコイドなどのアポトーシスを誘導する刺激により細胞質に放出される(非特許文献7、8、及び11)。これらの刺激がミトコンドリア内に伝わった後、ミトコンドリア内の前駆SmacのN末端が切断されて成熟Smacに変換される(非特許文献7及び12)。SmacはX-linked IAP (XIAP) を含むIAPファミリーに結合しその作用を中和させることによりカスパーゼの活性化を促すことが報告されている(非特許文献7、8、及び11)。実際、SmacはXIAPのBIR2とBIR3に結合し、その結合には成熟SmacのN末端が必要であると報告されている(非特許文献12〜16)。またサーバイビンとSmacの結合にもSmacのN末端4残基が必要であることも報告されている(非特許文献17)。これらの報告を受けてSongらは、サーバイビンは直接的にカスパーゼに結合して抑制させるわけではなく、Smacに結合することでSmacがXIAPなどの抗アポトーシス効果を中和させる作用を阻害し、XIAPなどの抗アポトーシス作用を亢進させると報告している(非特許文献18)。
【0005】
INCENPは染色体の中心の領域にあって染色体の分配に際して紡錘微小管と相互作用をする動原体と結びついているタンパクであり、細胞質の分裂に関与することが知られている。また、サーバイビンとの関連については、INCENPのドミナントネガティブによりサーバイビンの局在が変わるという報告がなされている(非特許文献19、20)。
【0006】
生体分子の相互作用を簡便かつ高感度で検出する方法として、AlphaScreen法(パーキンエルマー社)が知られている。AlphaScreen法は、ビーズ間の接近を利用した化学増幅型ルミネッセンス解析系であり、具体的にはAlphaScreenドナービーズとAlphaScreenアクセプタービーズにそれぞれ相互作用を解析したい基質を結合させ、680nmの光を照射するとドナービーズが活性化されて周囲の酸素が一重項酸素に変換される。それらビーズ複合体が基質である生体高分子間の結合により物理的に接近した時、アクセプタービーズはこの一重項酸素を受け取り520−620nmの光を発生する。
【0007】
【非特許文献1】Bergmann, A., Yang, A. Y., and Srivastava, M.(2003) Curr. Opin. Cell Biol, 15 (6) : 717-724
【非特許文献2】Kren L, Brazdil J, Hermanova M, Goncharuk VN, Kallakury BV, Kaur P, Ross JS (2004)Appl ImmunohistochemMol Morphol. 12 (1) : 44-49
【非特許文献3】Ambrosini, G., Adida, C., and Altreri, D.C. (1997)Nat. Med., 3 : 917-921
【非特許文献4】Li, F., Ambrosini, G., Chu, E.Y., Plescia, J., Tognin, S., Marchisio, P.C., and Altieri,D.C. (1998) Nature 396, 580-584
【非特許文献5】Tamm, I., Wang, Y., Sausville, E., Scudiero, D. A., Vigna, N., Oltersdorf, T., and Reed, J. C. (1998) Cancer Res. 58, 5315-5320
【非特許文献6】Fraser, A.G., James, C., Evan, G. I., and Hengartner, M. O. (1999) Nat. Cell Biol. 9, 293-301
【非特許文献7】Du, C., Fang, M., Li, Y., Li, L., and Wang, X. (2000) Cell 102, 33-42
【非特許文献8】Verhagen, A. M., Ekert, P. G., Pakusch, M., Silke, J., Connolly, L. M., Reid, G. E., Moritz, R. L., Simpson, R. J., and Vaux, D. L. (2000) Cell 102, 43-53
【非特許文献9】Uren, A. G., Wong, L., Pakusch, M., Fowler, K. J., Burrows, F. J., Vaux, D. L., and Choo, K. H.(2000)Curr. Biol, 2 ; 10(21), 1319-1328
【非特許文献10】Muchmore SW, Chen J, JakobC, Zakula D, Matayoshi ED, Wu W, Zhang H, Li F, Ng SC, Altieri DC. (2000) Mol. Cell 6 (1) :173-182
【非特許文献11】Ekert, P. G., Silke, J., Hawkins, C. J., Verhagen, A. M., and Vaux, D. L. (2001) J. Cell Biol. 152, 483-490
【非特許文献12】Srinivasula, S. M., Datta, P., Fan, X. J., Fernandes-Alnemri, T., Huang, Z., and Alnemri, E. S. (2000) J. Biol. Chem. 275, 36152-36157
【非特許文献13】Chai, J., Du, C., Wu, J. W., Kyin, S., Wang, X., and Shi, Y. (2000)Nature 406, 855-862
【非特許文献14】Wu, G., Chai, J., Suber, T. L., Wu, J. W., Du, C., Wang, X., and Shi, Y. (2000) Nature 408, 1008-1012
【非特許文献15】Srinivasula, S. M., Hegde, R., Saleh, A., Datta, P., Shiozaki, E., Chai, J., Lee, R. A., Robbins, P. D., Fernandes-Alnemri, T., Shi, Y., and Alnemri, E. S. (2001) Nature 410, 112-116
【非特許文献16】Chai, J., Shiozaki, E., Srinvasula, S. M., Wu, Q., Datta, P., Alnemri, E. S., Shi, Y., and Dataa, P. (2001) Cell 104, 769-780
【非特許文献17】Sun, C., Nettesheim, D., Liu, Z., and Edward T. Olejniczak(2005)Biochemistry 44, 11-17
【非特許文献18】Song, Z. Y., Yao, X. B., and Wu, M.(2003)J. Biol. Chem. 278, 23130-23140
【非特許文献19】Wheatley SP, CarvalhoA et. al. (2001) Curr Biol. 11, 886-890
【非特許文献20】Honda R, KornerR, and Nigg EA. (2003) Mol BiolCell. 14, 3325-3341
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、ヒトサーバイビンタンパク、及び、それと相互作用するパートナータンパク(Smacタンパク、INCENPタンパク、ヒトサーバイビンタンパク)間の相互作用を阻害する物質をハイスループットかつ高感度でスクリーニングする方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、AlphaScreen法を利用して、ヒトサーバイビンタンパク、及び、それと相互作用するパートナータンパク(Smacタンパク、INCENPタンパク、ヒトサーバイビンタンパク)間の相互作用を阻害する物質をスクリーニングすることにより、前述の阻害物質のスクリーニングをハイスループットかつ高感度で行い得ることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、(1)以下の工程a)〜d)を備えたことを特徴とするヒトサーバイビン/Smacタンパク間相互作用阻害物質のハイスループットスクリーニング方法;a)ビオチン化ヒトサーバイビンタンパク及びヒスチジンタグ融合ヒトSmacタンパクを、被検物質の存在下又は非存在下の緩衝液中で反応させる一次反応液調製工程;b)一次反応液に、ストレプトアビジン−ドナービーズ及びニッケルキレート−アクセプタービーズを加え、さらに反応させる二次反応液調製工程;c)二次反応液中のストレプトアビジン−ドナービーズ結合ビオチン化ヒトサーバイビンタンパクと、ニッケルキレート−アクセプタービーズ結合ヒスチジンタグ融合Smacタンパク間の相互作用を、化学増幅型ルミネッセンスプロキシミティーホモジニアスアッセイ(AlphaScreen)法により測定・比較する測定・比較工程;d)被検物質を添加した場合が添加しない場合に比べて、AlphaScreen法により測定されるシグナルが減少したとき、前記被検物質をヒトサーバイビン/Smacタンパク間相互作用阻害物質と評価する評価工程;に関する。
【0011】
また本発明は、(2)以下の工程a)〜d)を備えたことを特徴とするヒトサーバイビン/INCENPタンパク間相互作用阻害物質のハイスループットスクリーニング方法;a)ビオチン化ヒトサーバイビンタンパク及びヒスチジンタグ融合ヒトINCENPタンパクを、被検物質の存在下又は非存在下の緩衝液中で反応させる一次反応液調製工程;b)一次反応液に、ストレプトアビジン−ドナービーズ及びニッケルキレート−アクセプタービーズを加え、さらに反応させる二次反応液調製工程;c)二次反応液中のストレプトアビジン−ドナービーズ結合ビオチン化ヒトサーバイビンタンパクと、ニッケルキレート−アクセプタービーズ結合ヒスチジンタグ融合INCENPタンパク間の相互作用を、化学増幅型ルミネッセンスプロキシミティーホモジニアスアッセイ(AlphaScreen)法により測定・比較する測定・比較工程;d)被検物質を添加した場合が添加しない場合に比べて、AlphaScreen法により測定されるシグナルが減少したとき、前記被検物質をヒトサーバイビン/INCENPタンパク間相互作用阻害物質と評価する評価工程;に関する。
【0012】
さらに本発明は、(3)以下の工程a)〜d)を備えたことを特徴とするヒトサーバイビン二量体形成阻害物質のハイスループットスクリーニング方法;a)ビオチン化ヒトサーバイビンタンパク及びグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)タグ融合ヒトサーバイビンタンパクを、被検物質の存在下又は非存在下の緩衝液中で反応させる一次反応液調製工程;b)一次反応液に、ストレプトアビジン−ドナービーズ及び抗GST−アクセプタービーズを加え、さらに反応させる二次反応液調製工程;c)二次反応液中のストレプトアビジン−ドナービーズ結合ビオチン化ヒトサーバイビンタンパクと、抗GST−アクセプタービーズ結合GSTタグ融合ヒトサーバイビンタンパク間の相互作用を、化学増幅型ルミネッセンスプロキシミティーホモジニアスアッセイ(AlphaScreen)法により測定・比較する測定・比較工程;d)被検物質を添加した場合が添加しない場合に比べて、AlphaScreen法により測定されるシグナルが減少したとき、前記被検物質をヒトサーバイビン二量体形成阻害物質と評価する評価工程;に関する。
【0013】
さらにまた本発明は、(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法により選択されるヒトサーバイビン/Smacタンパク間相互作用阻害物質、ヒトサーバイビン/INCENPタンパク間相互作用阻害物質、ヒトサーバイビン二量体形成阻害物質を、抗腫瘍物質として評価することを特徴とする、がん治療剤のスクリーニング方法や、(5)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法により選択される、ヒトサーバイビン/Smacタンパク間相互作用阻害物質、ヒトサーバイビン/INCENPタンパク間相互作用阻害物質、ヒトサーバイビン二量体形成阻害物質を、アポトーシス誘導物質として評価することを特徴とする、がん治療剤のスクリーニング方法に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明のスクリーニング方法によれば、ヒトサーバイビンタンパク、及び、それと相互作用するパートナータンパク(Smacタンパク、INCENPタンパク、ヒトサーバイビンタンパク)間の相互作用を阻害する物質を、ハイスループットかつ高感度でスクリーニングすることができる。また、上記物質は抗腫瘍物質やアポトーシス誘導物質として機能する可能性が高いため、本発明のスクリーニング方法は、がん治療剤のスクリーニング方法として応用し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のスクリーニング方法は、SmacタンパクやINCENPタンパクやヒトサーバイビンタンパク(以下、「パートナータンパク」ともいう)と、ヒトサーバイビンタンパクとの間の相互作用を阻害する物質(以下、「本発明における阻害物質」ともいう。)をハイスループットでスクリーニングする方法であり、以下の工程a)〜d)を備えたことを特徴とする。
a)ビオチン化ヒトサーバイビンタンパク及びタグ融合パートナータンパクを、被検物質の存在下又は非存在下の緩衝液中で反応させる一次反応液調製工程;
b)一次反応液に、ストレプトアビジン−ドナービーズと、ニッケルキレート−アクセプタービーズ又は抗GST−アクセプタービーズとを加え、さらに反応させる二次反応液調製工程;
c)二次反応液中のストレプトアビジン−ドナービーズ結合ビオチン化ヒトサーバイビンタンパクと、ニッケルキレート−アクセプタービーズ又は抗GST−アクセプタービーズ結合タグ融合パートナータンパクとの間の相互作用を、化学増幅型ルミネッセンスプロキシミティーホモジニアスアッセイ(AlphaScreen)法により測定・比較する測定・比較工程;
d)被検物質を添加した場合が添加しない場合に比べて、AlphaScreen法により測定されるシグナルが減少したとき、前記被検物質をヒトサーバイビン/パートナータンパク間相互作用阻害物質と評価する評価工程;
【0016】
上記工程a)〜d)を備えている本発明のスクリーニング方法が利用するAlphaScreen法とは、680nmの光を照射すると、ドナービーズが活性化されて周囲の酸素が一重項酸素に変換され、ドナービーズに近接したアクセプタービーズがこの一重項酸素を受け取ると520−620nmの光を発生する性質を利用したものである。本発明のスクリーニング方法は、ヒトサーバイビンとパートナータンパクが相互作用しているかどうかを、それらのタンパクにそれぞれ結合したドナービーズとアクセプタービーズとの近接の有無により検出する方法である。本発明の方法は上記の工程を有することによって、本発明における阻害物質をハイスループットかつ高感度でスクリーニングすることができる。
【0017】
上記工程a)としては、ビオチン化ヒトサーバイビンタンパク及びタグ融合パートナータンパクを、被検物質の存在下又は非存在下の緩衝液中で反応させる一次反応液調製工程である限り特に制限はされず、反応プロトコルについては、AlphaScreen検出キット(パーキンエルマー社製)に添付の説明書に記載されたプロトコルを好適に例示することができる。上記ビオチン化ヒトサーバイビンタンパクに用いるヒトサーバイビンタンパクは、配列番号4に示されるアミノ酸配列を有するタンパク、若しくはそのタンパクと実質的に同一なタンパクである。配列番号4に示されるアミノ酸配列を有するタンパクと実質的に同一なタンパクとしては、配列番号4に示されるアミノ酸配列と80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、上記パートナータンパクのいずれかと相互作用する領域を保持するタンパクを例示することができる。
【0018】
上記ヒトサーバイビンタンパクは、後述の実施例に記載したように、ヒトcDNAライブラリーと、配列番号1及び2に示された配列からなるプライマーとを用いたPCRによりヒトサーバイビング遺伝子をクローニングし、その遺伝子を適当なベクターに導入して得られた組換えベクターを適当な宿主に形質転換し、得られた形質転換細胞を培養し、得られた培養物を精製するなどして作製することができる。また、配列番号4に示されるアミノ酸配列を有するタンパクと実質的に同一なタンパクについても、配列番号3に示されるDNA配列(配列番号4のアミノ酸配列をコードするDNA配列)に部位特異的変異を導入するなどして適宜作製することができる。
【0019】
上記ビオチン化ヒトサーバイビンタンパクは、前述のヒトサーバイビンタンパクを公知の手法によりビオチン化することにより作製することができる。
【0020】
上記タグ融合パートナータンパクとしては、ヒスチジンタグ融合ヒトSmacタンパク、ヒスチジンタグ融合ヒトINCENPタンパク、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)タグ融合ヒトサーバイビンタンパクのいずれかであれば特に制限されない。
【0021】
上記ヒスチジンタグ融合ヒトSmacタンパクに用いるヒトSmacタンパクは、配列番号8に示されるアミノ酸配列を有するタンパク、若しくはそのタンパクと実質的に同一なタンパクである。配列番号8に示されるアミノ酸配列を有するタンパクと実質的に同一なタンパクとしては、配列番号8に示されるアミノ酸配列と80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、上記ヒトサーバイビンタンパクと相互作用する領域を保持するタンパクを例示することができる。
【0022】
上記ヒトSmacタンパクは、後述の実施例に記載したように、ヒトcDNAライブラリーと、配列番号5及び6に示された配列からなるプライマーとを用いたPCRによりヒトサーバイビン遺伝子をクローニングし、その遺伝子を適当なベクターに導入して得られた組換えベクターを適当な宿主に形質転換し、得られた形質転換細胞を培養し、得られた培養物を精製するなどして作製することができる。また、配列番号8に示されるアミノ酸配列を有するタンパクと実質的に同一なタンパクについても、配列番号7に示されるDNA配列(配列番号8のアミノ酸配列をコードするDNA配列)に部位特異的変異を導入するなどして適宜作製することができる。
【0023】
上記ヒスチジンタグ融合ヒトINCENPタンパクに用いるヒトINCENPタンパクは、配列番号12に示されるアミノ酸配列を有するタンパク、若しくはそのタンパクと実質的に同一なタンパクである。配列番号12に示されるアミノ酸配列を有するタンパクと実質的に同一なタンパクとしては、配列番号12に示されるアミノ酸配列と80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、上記ヒトサーバイビングタンパクと相互作用する領域を保持するタンパクを例示することができる。
【0024】
上記ヒトINCENPタンパクは、後述の実施例に記載したように、ヒトcDNAライブラリーと、配列番号9及び10に示された配列からなるプライマーとを用いたPCRによりヒトサーバイビン遺伝子をクローニングし、その遺伝子を適当なベクターに導入して得られた組換えベクターを適当な宿主に形質転換し、得られた形質転換細胞を培養し、得られた培養物を精製するなどして作製することができる。また、配列番号12に示されるアミノ酸配列を有するタンパクと実質的に同一なタンパクについても、配列番号11に示されるDNA配列(配列番号12のアミノ酸配列をコードするDNA配列)に部位特異的変異を導入するなどして適宜作製することができる。
【0025】
上記GSTタグ融合ヒトサーバイビンタンパクに用いるヒトサーバイビンタンパクは、前述のビオチン化ヒトサーバイビンタンパクに用いるヒトサーバイビンタンパクと同様である。
【0026】
上記ヒスチジンタグ融合ヒトSmacタンパクは、前述のヒトSmacタンパクに公知の手法によりヒスチジンタグを付加することにより作製することができ、上記ヒスチジンタグ融合ヒトINCENPタンパクは、前述のヒトINCENPタンパクに公知の手法によりヒスチジンタグを付加することにより作製することができ、上記GSTタグ融合ヒトサーバイビンタンパクは、前述のヒトサーバイビンタンパクに公知の手法によりGSTタグを付加することにより作製することができる。
【0027】
上記工程a)で用いる緩衝液としては、ビオチン化ヒトサーバイビンタンパクと、そのパートナータンパクとの相互作用を妨げない限り特に制限されないが、AlphaScreen用緩衝液(100mMのKClと0.01%Tween−20を含む25mMのHEPES−KOH;pH7.4)を好適に例示することができる。
【0028】
上記工程b)としては、工程a)で得られた一次反応液に、ストレプトアビジン−ドナービーズと、ニッケルキレート−アクセプタービーズ又は抗GST−アクセプタービーズとを加え、さらに反応させる二次反応液調製工程である限り特に制限されず、反応プロトコルについては、AlphaScreen検出キット(パーキンエルマー社製)に添付の説明書に記載されたプロトコルを好適に例示することができる。上記のドナービーズやアクセプタービーズとしては、AlphaScreen His6 検出キット又はAlphaScreen GST 検出キット(それぞれパーキンエルマー社製)に含まれるドナービーズやアクセプタービーズを好適に例示することができる。
なお、アクセプタービーズの種類は、スクリーニング方法に用いるパートナータンパクのタグの種類に応じて選択することができる。例えば、パートナータンパクのタグがヒスチジンタグの場合は、アクセプタービーズとしてAlphaScreen His6 検出キットに含まれるアクセプタービーズを、パートナータンパクのタグがGSTの場合はアクセプタービーズとしてAlphaScreen GST検出キットに含まれるアクセプタービーズをそれぞれ用いることができる。
【0029】
上記工程c)としては、工程b)で得られた二次反応液中のストレプトアビジン−ドナービーズ結合ビオチン化ヒトサーバイビンタンパクと、ニッケルキレート−アクセプタービーズ又は抗GST−アクセプタービーズ結合タグ融合パートナータンパクとの間の相互作用を、化学増幅型ルミネッセンスプロキシミティーホモジニアスアッセイ(AlphaScreen)法により測定・比較する測定・比較工程である限り特に制限されない。ヒトサーバイビンタンパクとそのパートナータンパクとの相互作用は、蛍光シグナル(AlphaScreenシグナル)として検出することができる。蛍光シグナルの検出に用いる装置としては、EnVision(パーキンエルマー社製)を好適に例示することができる。
【0030】
上記工程d)としては、被検物質を添加した場合が添加しない場合に比べて、AlphaScreen法により測定されるシグナル(AlphaScreenシグナル)が減少したとき、前記被検物質をヒトサーバイビン/パートナータンパク間相互作用阻害物質と評価する評価工程である限り特に制限されない。被検物質を添加した場合が添加しない場合に比べてAlphaScreenシグナルが減少した場合は、ヒトサーバイビン/パートナータンパク間の相互作用が低下したことを意味するため、その被検物質はヒトサーバイビン/パートナータンパク間の相互作用阻害物質と評価することができる。
【0031】
上記の本発明のスクリーニング方法によって得られる本発明における阻害物質は、アポトーシス誘導物質や抗腫瘍物質である可能性が高い。以下に各パートナータンパクの種類ごとにその理由を述べる。
【0032】
(1)ヒトサーバイビン/Smacタンパク間相互作用阻害物質
背景技術で引用された非特許文献18には、サーバイビンは直接的にカスパーゼに結合して抑制させるわけではなく、Smacに結合することでSmacがXIAPなどの抗アポトーシス効果を中和させる作用を阻害し、XIAPなどの抗アポトーシス作用を亢進させる旨が記載されている。このことから、ヒトサーバイビン/Smacタンパク間の相互作用を阻害する物質は、アポトーシス誘導物質である可能性が高く、したがって、抗腫瘍物質である可能性も高い。
【0033】
(2)ヒトサーバイビン/INCENPタンパク間相互作用阻害物質
一般的に、大部分のサーバイビンはインナーセントロメアに存在し、メタフェーズからアナフェーズへの進行に関与していると考えられている。さらに、サーバイビンは細胞周期に依存して局在が変化することからも、サーバイビンの機能を果たす上でその局在が重要であることが示唆されている。さらに、INCENPのドミナントネガティブによりサーバイビンの局在が変わるという報告(非特許文献19、20)を考慮すると、ヒトサーバイビン/INCENPタンパク間相互作用阻害物質は、サーバイビンの局在変化によるサーバイビンの機能低下を誘導し、その結果アポトーシスを誘導し、抗腫瘍活性を発揮する物質である可能性が高い。
【0034】
(3)ヒトサーバイビン二量体形成阻害物質
サーバイビンのダイマーがSmacとの結合に重要であるという報告(Sun C., Nettesheim D., et. al. (2005) Biochemistry 44(1), 11-17)を考慮すると、サーバイビンの二量体形成を阻害する物質は、アポトーシス誘導物質である可能性が高く、したがって、抗腫瘍物質である可能性も高い。
【0035】
以上のように、本発明における阻害物質は、アポトーシス誘導物質や抗腫瘍物質である可能性が高いため、本発明のスクリーニング方法はがん治療剤のスクリーニング方法としても用いうる。本発明のがん治療剤のスクリーニング方法は、上記のヒトサーバイビン/パートナータンパク間相互作用阻害物質のスクリーニング方法により選択されるヒトサーバイビン/Smacタンパク間相互作用阻害物質、ヒトサーバイビン/INCENPタンパク間相互作用阻害物質、ヒトサーバイビン二量体形成阻害物質を、抗腫瘍物質又はアポトーシス誘導物質として評価することを特徴とする。
【0036】
上記の抗腫瘍物質又はアポトーシス誘導物質として評価する方法としては、特に制限されず、本発明における阻害物質を腫瘍細胞やがん患者に投与し、その腫瘍細胞のバイアビリティの低下や細胞死が生じるかどうかを調べたり、がん患者の腫瘍の増殖が抑制されるかどうかを調べるなどして、抗腫瘍物質やアポトーシス誘導物質として評価することができる。
【0037】
なお、本発明における阻害物質のスクリーニング方法やがん治療剤のスクリーニング方法に用いる被検物質としては、本発明における阻害物質であるかどうかや、がん治療効果を有する物質であるかどうかが不明である物質だけでなく、本発明における阻害物質であることや、がん治療効果を有する物質であることが判明している物質を用いることもできる。それらの判明している物質を被検物質として用いる場合、本発明のスクリーニング方法は、被検物質の阻害活性の程度やがん治療効果の程度を調べるアッセイ方法として利用することができる。
【0038】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0039】
[組み換えGST-ヒトサーバイビンタンパク質の作製]
サーバイビンは、Inhibitor of apoptosis protein(IAP)ファミリーに含まれる分子量16.5kDaのタンパク質で、1つのbuculovirus IAP repeat (BIR)ドメインを持ち、really interesting new geneフィンガーモチーフを欠くという特別な構造を有している(図1)。本発明では、Human Universal Quick-Clone cDNAII(Clone-Tech社製)を鋳型に、BamHI認識配列を含む上流プライマー(配列番号1)とSalI認識配列を含む下流プライマー(配列番号2)を用いてPolymerase Chain Reaction(PCR法)を行い、ヒトサーバイビン遺伝子をクローニングした。得られたPCR産物のDNA配列を配列番号3に、またそのDNA配列のコードするアミノ酸配列を配列番号4に示す。
【0040】
上記のPCR産物をpBluescriptIIKS (+)ベクターへライゲートし、DNA配列解析により変異が入っていないことを確認した後、ベクターをBamHI及びSalIにより消化することにより、ヒトサーバイビン遺伝子フラグメントを切り出した。pGEX6P-1発現ベクター(アマシャム社製)にヒトサーバイビン遺伝子フラグメントをサブクローニングし、組換えタンパク質発現用大腸菌であるBL21 Star(DE3)pLysSに導入した。形質転換体を600nmの吸光度が0.5に達するまで振盪培養し、終濃度0.4mMのIPTGを添加することでGST結合タンパク質の発現を誘導し、さらに23℃で一晩振盪培養した。培養後の菌体は、冷却したリン酸緩衝生理食塩水 (PBS) で洗浄した後、溶解用緩衝液 (50mMトリス緩衝液 ; pH7.4、500mMNaCl、10mMβ−メルカプトエタノール、0.5%NP−40、1mMEDTA、5%スクロース)に懸濁した。懸濁液を超音波処理することにより菌体を破砕し、遠心後の上清を採取した。
【0041】
得られた上清に、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)融合タンパク質精製用担体であるGlutathion Sepharose High Performance(以下グルタチオンビーズと略す;GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を加え、4℃で2時間反応させた。その後、溶解用緩衝液で2回、洗浄溶液 (50mMトリス緩衝液;pH7.4、300mM NaCl、5mM β-メルカプトエタノール、0.1%NP−40、1mM EDTA、5%スクロース)で3回洗浄し、ゲル担体に結合したGST-ヒトサーバイビンタンパク質を精製した。
【実施例2】
【0042】
実施例1により、目的のGST-サーバイビンタンパク質が得られたどうかを、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)及びCBB(クーマシーブリリアントブルー)染色により確認した(図2)。図2の各レーンには、以下のサンプルを10μlずつアプライした;
レーン1及び3:タンパク質分子量マーカーであるSDS-PAGE Standards Broad Range(Bio-Rad社製)
レーン2:実施例1により取得した試料(GST-ヒトサーバイビンタンパク質)
レーン4:実施例1により取得した試料をPreScission Protease処理(4℃で16時間)することでGSTとサーバイビンタンパク質と分解した試料
【0043】
ExPASy Proteomics Serverにて算出したGST-サーバイビンタンパクの理論分子量は43.2kDaであった。図2のレーン3に示すように、実施例1で得られたタンパクの分子量はこの理論分子量とほぼ同じあった。また、PreScissionProtease処理した試料(図2、レーン4)では、分子量の異なる3つのバンドが認められたが、これらはそれぞれ、約45kDaのバンド:GST-サーバイビン、約30kDaのバンド:GST、約20kDaのバンド:サーバイビンであると推測される。実施例1によりGST-ヒトサーバイビンタンパク質を得られたと考えられる。また、本操作より得られるGST-サーバイビンのタンパク量は、1mlの大腸菌培養液から約6μgであった。
【0044】
さらに、ウエスタンブロット法により、実施例1で得られた試料がサーバイビンタンパクであるかどうかを検討した(図3)。1次抗体として抗−サーバイビンウサギ抗体(Chemicon社製;#AB3610)を用いたウエスタンブロット法による解析の結果、分子量約45kDaのバンドが検出された(図3、レーン2)。上記のCBB染色及びウエスタンブロット法の結果から、実施例1によりGST−ヒトサーバイビンタンパク質が得られたことが確認された。
【実施例3】
【0045】
[組み換えヒトSmac−His6タンパク質の作製]
本発明ではタンパク質間相互作用の解析に用いる組み換えヒトSmacとして、アポトーシス刺激によりミトコンドリアから放出される成熟型Smac(56−239番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列)を用いた。本実験では、Human Universal Quick-Clone cDNAII(Clone-Tech社製)を鋳型に、NcoI認識配列を含む上流プライマー(配列番号5)とHindIII認識配列を含む下流プライマー(配列番号6)を用いてPCRを行い、ヒトSmac遺伝子をクローニングした。得られたPCR産物のDNA配列を配列番号7に、またそのDNA配列のコードするアミノ酸配列を配列番号8に示す。
【0046】
上記のPCR産物をpBluescriptIIKS (+)ベクターへライゲートし、DNA配列解析により変異が入っていないことを確認した後、ベクターをNcoI及びHindIIIにより消化することにより、ヒトSmac遺伝子フラグメントを切り出した。6個のヒスチジン残基のペプチド残基(His6)をタグとして組み込むことが可能なpET28a発現ベクターにヒトSmac遺伝子フラグメントをサブクローニングし、組換えタンパク質発現用大腸菌であるBL21 Star(DE3)pLysSに導入した。形質転換体を600nmの吸光度が0.5に達するまで振盪培養し、終濃度0.4mMのIPTGを添加することでGST結合タンパク質の発現を誘導し、さらに23℃で一晩振盪培養した。培養後の菌体は、冷却したリン酸緩衝生理食塩水 (PBS)で洗浄した後、溶解用緩衝液B(50mM トリス緩衝液;pH7.4、300mM NaCl、20mM イミダゾール、5mM β-メルカプトエタノール、 0.1%NP−40、1mM EDTA、10%スクロース)に懸濁した。懸濁液を超音波処理することにより菌体を破砕し、遠心後の上清を採取した。
【0047】
得られた上清に、His6融合タンパク質精製用クロマトグラフィー担体であるNi Sepharose High Performance (以下Niビーズと略す;GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を加え、4℃で2時間反応させた。溶解用緩衝液で2回、洗浄溶液B(50mMトリス緩衝液;pH7.4、300mMNaCl、40mMイミダゾール、5mMβ-メルカプトエタノール、0.1%NP−40、1mMEDTA、10%スクロース) で3回洗浄した。その後、ポリエンプティーカラム (Bio-Rad社製)を用いたカラムクロマトグラフィーを行い、溶出緩衝液B(50mM トリス緩衝液;pH7.4、300mM NaCl、40−250mM イミダゾール、10mM β-メルカプトエタノール、0.1%NP−40、1mM EDTA)により溶出することでヒトSmac−His6を精製した。
【実施例4】
【0048】
実施例3により、目的のヒトSmac−His6タンパク質が得られたどうかを、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)及びCBB(クーマシーブリリアントブルー)染色により確認した(図4)。ExPASy Proteomics Serverにより得られるヒトSmac−His6の理論分子量は22.4kDaあった。図4に示すように、実施例3で得られた溶出試料の分子量はこの理論分子量とほぼ同じであった。また、本操作より得られるヒトSmac-His6のタンパク量は、1mlの大腸菌培養液から2.5μgであった。
【0049】
さらに、ウエスタンブロット法により、実施例3で得られた試料がヒトSmacタンパクであるかどうかを検討した(図5)。1次抗体として抗−Smacウサギ抗体(Chemicon社製)を用いたウエスタンブロット法による解析の結果、分子量約22kDaのバンドが検出された(図5、レーン1)。上記のCBB染色及びウエスタンブロット法の結果から、実施例3によりヒトSmac−His6タンパク質が得られたことが確認された。
【実施例5】
【0050】
[組み換えヒトINCENP-His6タンパク質の作製]
ヒトINCENPの遺伝子の全長は2760bpであるが、本発明ではその1−933番目の塩基の部分をクローニングした。本発明では、Human Universal Quick-Clone cDNAII(Clone-Tech社製)を鋳型に、NedI認識配列を含む上流プライマー(配列番号9)とHindIII認識配列を含む下流プライマー(配列番号10)を用いてPCRを行い、ヒトINCENP遺伝子をクローニングした。得られたPCR産物のDNA配列を配列番号11に、またそのDNA配列のコードするアミノ酸配列を配列番号12に示す。
【0051】
上記のPCR産物をpBluescriptIIKS (+)ベクターへライゲートし、DNA配列解析により変異が入っていないことを確認した後、ベクターをNedI及びHindIIIにより消化することにより、ヒトINCENP遺伝子フラグメントを切り出した。6個のヒスチジン残基のペプチド残基(His6)をタグとして組み込むことが可能なpET28a発現ベクターにヒトSmac遺伝子フラグメントをサブクローニングし、組換えタンパク質発現用大腸菌であるBL21 Star(DE3)pLysSに導入した。形質転換体を600nmの吸光度が0.5に達するまで振盪培養し、終濃度0.4mMのIPTGを添加することでGST結合タンパク質の発現を誘導し、さらに23℃で一晩振盪培養した。培養後の菌体は、冷却したリン酸緩衝生理食塩水 (PBS) で洗浄した後、溶解用緩衝液B(50mM トリス緩衝液;pH7.4、300mM NaCl、20mM イミダゾール、5mM β-メルカプトエタノール、 0.1%NP−40、1mM EDTA、10%スクロース)に懸濁した。懸濁液を超音波処理することにより菌体を破砕し、遠心後の上清を採取した。
【0052】
得られた上清に、His6融合タンパク質精製用クロマトグラフィー担体であるNi Sepharose High Performance(以下Niビーズと略す;GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を加え、4℃で2時間反応させた。溶解用緩衝液で2回、洗浄溶液B(50mMトリス緩衝液;pH7.4、300mMNaCl、40mMイミダゾール、5mMβ-メルカプトエタノール、0.1%NP−40、1mMEDTA、10%スクロース) で3回洗浄した。その後、ポリエンプティーカラム (Bio-Rad社製)を用いたカラムクロマトグラフィーを行い、溶出緩衝液B(50mMトリス緩衝液;pH7.4、300mM NaCl、40−250mMイミダゾール、10mMβ-メルカプトエタノール、0.1%NP−40、1mMEDTA)により溶出することでヒトINCENP−His6を精製した。
【0053】
念のため、精製したタンパク質が、目的のヒトINCENP−His6タンパク質であるかどうかを、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)及びCBB(クーマシーブリリアントブルー)染色により確認した(図6)。ExPASy Proteomics Serverにより得られるヒトINCENP−His6の理論分子量は35.7kDaあるが、図6のSDS−PAGEの結果は、この理論分子量にほぼ一致していたことから、目的のヒトINCENP−His6タンパク質が得られたと考えられる。なお、本操作より得られるヒトINCENP-His6のタンパク量は、6mlの大腸菌培養液から3μgであった。
【実施例6】
【0054】
[ビオチン化タンパク質発現用ベクターの作製]
組換えビオチン化ヒトサーバイビンタンパク質の作製のため、N末端へHis6タグとHRV3C protease認識領域を、C末端にアビジンタグをそれぞれ導入したpColdベクター(ビオチン化タンパク質発現用ベクター)を作製した。以下にそれぞれの領域の導入方法を具体的に示す。配列番号13及び14に示すpCold-His6-HRV3C proteas認識領域オリゴヌクレオチドをTEN緩衝液(10mMトリス緩衝液 ;pH7.4、1mMEDTA、100mMNaCl)中でアニールさせ、T4 polynucleotide Kinase (TOYOBO社製) で5’末端をリン酸化し、Ligation highよりpColdIIベクターに挿入した。このベクターをヒートショック法により大腸菌(DH5α)へ導入し、4μlの800mM IPTG及び40μlの20mg/ml X−galとともに、100μg/mlアンピシリンを含むLB寒天培地にプレートした。37℃で一晩培養した後、カラーセレクションを行った。白色コロニーから得た大腸菌から、ミニプレップ法よりプラスミドを抽出し、遺伝子配列解析にてDNA配列を確認した。また、配列番号15及び16に示す、ビオチン結合領域アビジンタグのオリゴヌクレオチドをTEN緩衝液中でアニールさせた後、5’末端をリン酸化し、Ligation highを用いてpColdベクター中のHRV3C protease認識配列部分に連結させ、pCold-His6-HRV3C protease認識配列-アビジンタグを取得した。
【実施例7】
【0055】
[組換えビオチン化ヒトサーバイビンタンパク質の作製]
組換えビオチン化ヒトサーバイビンタンパク質作製のために、新たにヒトサーバイビン遺伝子をクローニングした。クローニングは、実施例1で作製したヒトサーバイビン遺伝子導入pBluescriptIIベクターを鋳型とし、NdeI認識配列を含む上流プライマー(配列番号17)及びSalI認識配列を含む下流プライマー(配列番号18)を用いたPCR法により行った。
【0056】
上記のPCR産物をpBluescriptIIKS (+)ベクターへライゲートし、DNA配列解析により変異が入っていないことを確認した。ベクターをNdeI及びSalIにより消化することにより、ヒトサーバイビン遺伝子フラグメントを切り出し、前述のビオチン化タンパク質発現用ベクターにサブクローニングした。この組換えベクターを、予めビオチンリガーゼを発現するpBirAベクターを導入したBL21 Star(DE3)pLysSに形質導入した。この形質転換体を、50μMビオチンと1mMIPTG存在下、15℃で24時間振盪培養することにより、His6-ビオチン化サーバイビンタンバク質の発現を誘導した。培養後に遠心分離により菌体を回収し、PBSで洗浄した後、溶解用緩衝液C(50mMトリス緩衝液;pH7.4、500mMNaCl、20mMイミダゾール、5mMβ-メルカプトエタノール、0.1%NP−40、10%グリセロール)に懸濁した。懸濁液を超音波処理することにより菌体を破砕し、遠心後の上清を採取した。この上清とNiビーズを4℃で2時間反応させた後、Niビーズは溶解用緩衝液Cで2回、洗浄溶液Bで3回それぞれ洗浄し、さらに、HRV3Cprotease存在下、4℃で16時間転倒混和することにより、ビオチン化ヒトサーバイビンを精製した。
【0057】
念のため、精製したタンパク質が、目的のビオチン化ヒトサーバイビンタンパク質であるかどうかを、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)及びCBB(クーマシーブリリアントブルー)染色により確認した(図7)。
実施例7で得られた前述の菌体溶解液にStreptavidin SepharoseHigh Performance (GEヘルスケアバイオサイエンス社製;以下SAビーズと略す)を反応させると、pCold-サーバイビン-アビジンタグを導入した大腸菌の溶解液を用いたものから26kDaほどの位置にバンドが確認できた(図7、レーン1)。同様に、溶解液を反応させたNiビーズからも26kDa付近にバンドが確認でき(図7、レーン3)、HRV3CProtease 処理でこのビーズに結合したタンパク質からHisタグを除去した場合、23kDaほどの位置にタンパク質が確認できた(図7、レーン5)。これに対して、コントロールとして空ベクターを導入した大腸菌溶解液からは、SAビーズ(図7、レーン2)、Niビーズ(図7、レーン4)、HRV3CProtease で処理したNiビーズ(図7、レーン6)のいずれにおいても該当するバンドは確認できなかった。以上の結果と、ビオチン化ヒトサーバイビンタンパク質の理論上分子量は26kDaであることとを考慮した結果、精製したタンパク質は、目的のビオチン化ヒトサーバイビンタンパク質であると考えられた。
なお、本操作より得られるビオチン化サーバイビンのタンパク量は1mlの大腸菌培養液から15μgであった。
【実施例8】
【0058】
[GSTプルダウン法によるタンパク質間相互作用の解析]
上記の方法で得られた各組換えタンパク質間の相互作用に関して検討する目的で、GSTプルダウンアッセイを行った。グルタチオンビーズに結合したGST-サーバイビンを、Smac-His6、INCENP-His6と、それぞれモル濃度比1対1、又は1対2となるように混和し、4℃で120分間転倒させながら反応させた。反応後、遠心分離によりビーズとの複合体を沈殿させ溶解用緩衝液Aで3回洗浄した。この試料をSDS-PAGEを用い12.5%アクリルアミドゲルに展開し、その分子量の大きさによって各タンパク質を検出した。
【0059】
その結果、GST-ヒトサーバイビンにSmac-His6を混合した試料では25kDa付近にSmac-His6に相当するバンドが、INCENP-His6を混和した試料からは35kDa付近にINCENP-His6に相当するバンドが検出された。一方、グルタチオンビーズとGSTとの複合体のみを反応させた場合では検出されなかった(図8)。これらの結果から、作製した組換えヒトサーバイビンタンパクはヒトSmacやヒトINCENPに対する結合能を有していることが示された。
【実施例9】
【0060】
[AlphaScreen法を用いた試験管内相互作用の解析]
実施例7で作製したビオチン化サーバイビンと、各組換えタンパク質と相互作用をAlphaScreen法により検出した。AlphaScreen用緩衝液(100mMのKClと0.01%Tween−20を含む25mMのHEPES−KOH;pH7.4)に、各組換えタンパク質を以下のように加えた;
(1)50nMビオチン化サーバイビン、50nMSmac-His6、及び300μg/mlBSA:
(2)1.2μMビオチン化サーバイビン、1.0μMINCENP-His6、及び30μg/mlBSA:
(3)500nMビオチン化サーバイビン、500nMGST-サーバイビン、及び300μg/mlBSA:
【0061】
(1)及び(2)は25℃で1時間、(3)は37℃で2時間反応させた。次に、各反応液にAlphaScreen His6 検出キット又はAlphaScreen GST 検出キット(それぞれパーキンエルマー社製)に含まれるドナービーズとアクセプタービーズをそれぞれ20μg/mlに加え、遮光下で25℃、1時間させて反応させた。その後、EnVision(パーキンエルマー社製)を用いて各タンパク質相互作用により得られるAlphaScreenシグナルを測定した(図9)。また、(1)〜(3)の各サンプルについて、コントロールとなるサンプルを作製し、同様にAlphaScreenシグナルを測定した(図9)。
図9に示すように、ビオチン化サーバイビンと、Smac-His6、INCENP-His6、又はGST−サーバイビンとのタンパク間相互作用を示す、AlphaScreenシグナルが検出され、それらのシグナルはそれぞれのコントロールに対して有意であった。この結果は、実施例8のGSTプルダウン法の結果と一致するものであった。
【実施例10】
【0062】
[非ビオチン化サーバイビンを用いたAlphaScreen反応系の競合実験]
実施例9で検出された、ビオチン化サーバイビンと、Smac-His6、INCENP-His6、又はGST−サーバイビンとのそれぞれのタンパク間相互作用に対して、非ビオチン化サーバイビンが競合作用を示すかどうかを検討した。AlphaScreen用緩衝液に、各組換えタンパク質を以下のように加え、25℃で1時間反応させた;
1)0又は3000nMの非ビオチン化サーバイビン、500nMビオチン化サーバイビン、500nMのSmac-His6、及び300μg/mlのBSA:
2)0又は10000nMの非ビオチン化サーバイビン、300nMビオチン化サーバイビン、1.0μMのINCENP-His6、及び30μg/mlのBSA:
3)0又は10000nMの非ビオチン化サーバイビン、300nMビオチン化サーバイビン、60nMのGST-サーバイビン、及び300μg/mlのBSA:
【0063】
次に、各反応液にAlphaScreen His6 検出キット又はAlphaScreen GST 検出キット(それぞれパーキンエルマー社製)に含まれるドナービーズとアクセプタービーズをそれぞれ20μg/mlに加え、遮光下で25℃、1時間させて反応させた。その後、EnVisionによりAlphaScreenシグナルを測定した。その結果、非ビオチン化サーバイビン存在下で、サーバイビンとSmacとの結合は80%、サーバイビンとINCENPとの結合は60%、サーバイビン同士の結合は70%それぞれ減弱した(図10)。また、図11に示すように、非ビオチン化サーバイビンの競合作用は濃度依存的であった。これらの結果から、ビオチン化サーバイビンと、Smac-His6、INCENP-His6、又はGST−サーバイビンとのそれぞれのタンパク間相互作用を、AlphaScreen法を用いて特異的に検出することが可能なアッセイ系を構築できたと考えられる。このアッセイ系は、96穴プレートに溶液を混合させることにより検出でき、短時間で多数の検体を処理できるため、ホモジェニアスなハイスループットスクリーニング系として有用であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】IAPファミリーのタンパク質の構造を示す図である。
【図2】精製したGST-サーバイビンタンパク質の発現をCBB染色により確認した図である。
【図3】精製したGST-サーバイビンタンパク質の発現をウエスタンブロット法により確認した図である。
【図4】精製したヒトSmac−His6タンパク質の発現をCBB染色により確認した図である。
【図5】精製したヒトSmac−His6タンパク質の発現をウエスタンブロット法により確認した図である。
【図6】精製したヒトINCENP−His6タンパク質の発現をCBB染色により確認した図である。
【図7】精製したビオチン化ヒトサーバイビンタンパク質の発現をCBB染色により確認した図である。
【図8】GSTプルダウンアッセイにより、組換えヒトサーバイビンタンパクと、ヒトSmac又はヒトINCENPとの結合を検討した結果を示す図である。
【図9】ビオチン化サーバイビンと、Smac-His6、INCENP-His6、又はGST−サーバイビンとの、それぞれのタンパク間相互作用をAlphaScreen法により検討した結果を示す図である。
【図10】ビオチン化サーバイビンと、Smac-His6、INCENP-His6、又はGST−サーバイビンとの、それぞれのタンパク間相互作用に対して、非ビオチン化サーバイビンが競合作用を示すかどうかをAlphaScreen法により検討した結果を示す図である。
【図11】非ビオチン化サーバイビンの競合作用が濃度依存的であることを示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程a)〜d)を備えたことを特徴とするヒトサーバイビン/Smacタンパク間相互作用阻害物質のハイスループットスクリーニング方法。
a)ビオチン化ヒトサーバイビンタンパク及びヒスチジンタグ融合ヒトSmacタンパクを、被検物質の存在下又は非存在下の緩衝液中で反応させる一次反応液調製工程;
b)一次反応液に、ストレプトアビジン−ドナービーズ及びニッケルキレート−アクセプタービーズを加え、さらに反応させる二次反応液調製工程;
c)二次反応液中のストレプトアビジン−ドナービーズ結合ビオチン化ヒトサーバイビンタンパクと、ニッケルキレート−アクセプタービーズ結合ヒスチジンタグ融合Smacタンパク間の相互作用を、化学増幅型ルミネッセンスプロキシミティーホモジニアスアッセイ(AlphaScreen)法により測定・比較する測定・比較工程;
d)被検物質を添加した場合が添加しない場合に比べて、AlphaScreen法により測定されるシグナルが減少したとき、前記被検物質をヒトサーバイビン/Smacタンパク間相互作用阻害物質と評価する評価工程;
【請求項2】
以下の工程a)〜d)を備えたことを特徴とするヒトサーバイビン/INCENPタンパク間相互作用阻害物質のハイスループットスクリーニング方法。
a)ビオチン化ヒトサーバイビンタンパク及びヒスチジンタグ融合ヒトINCENPタンパクを、被検物質の存在下又は非存在下の緩衝液中で反応させる一次反応液調製工程;
b)一次反応液に、ストレプトアビジン−ドナービーズ及びニッケルキレート−アクセプタービーズを加え、さらに反応させる二次反応液調製工程;
c)二次反応液中のストレプトアビジン−ドナービーズ結合ビオチン化ヒトサーバイビンタンパクと、ニッケルキレート−アクセプタービーズ結合ヒスチジンタグ融合INCENPタンパク間の相互作用を、化学増幅型ルミネッセンスプロキシミティーホモジニアスアッセイ(AlphaScreen)法により測定・比較する測定・比較工程;
d)被検物質を添加した場合が添加しない場合に比べて、AlphaScreen法により測定されるシグナルが減少したとき、前記被検物質をヒトサーバイビン/INCENPタンパク間相互作用阻害物質と評価する評価工程;
【請求項3】
以下の工程a)〜d)を備えたことを特徴とするヒトサーバイビン二量体形成阻害物質のハイスループットスクリーニング方法。
a)ビオチン化ヒトサーバイビンタンパク及びグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)タグ融合ヒトサーバイビンタンパクを、被検物質の存在下又は非存在下の緩衝液中で反応させる一次反応液調製工程;
b)一次反応液に、ストレプトアビジン−ドナービーズ及び抗GST−アクセプタービーズを加え、さらに反応させる二次反応液調製工程;
c)二次反応液中のストレプトアビジン−ドナービーズ結合ビオチン化ヒトサーバイビンタンパクと、抗GST−アクセプタービーズ結合GSTタグ融合ヒトサーバイビンタンパク間の相互作用を、化学増幅型ルミネッセンスプロキシミティーホモジニアスアッセイ(AlphaScreen)法により測定・比較する測定・比較工程;
d)被検物質を添加した場合が添加しない場合に比べて、AlphaScreen法により測定されるシグナルが減少したとき、前記被検物質をヒトサーバイビン二量体形成阻害物質と評価する評価工程;
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の方法により選択されるヒトサーバイビン/Smacタンパク間相互作用阻害物質、ヒトサーバイビン/INCENPタンパク間相互作用阻害物質、ヒトサーバイビン二量体形成阻害物質を、抗腫瘍物質として評価することを特徴とする、がん治療剤のスクリーニング方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の方法により選択される、ヒトサーバイビン/Smacタンパク間相互作用阻害物質、ヒトサーバイビン/INCENPタンパク間相互作用阻害物質、ヒトサーバイビン二量体形成阻害物質を、アポトーシス誘導物質として評価することを特徴とする、がん治療剤のスクリーニング方法。
【請求項1】
以下の工程a)〜d)を備えたことを特徴とするヒトサーバイビン/Smacタンパク間相互作用阻害物質のハイスループットスクリーニング方法。
a)ビオチン化ヒトサーバイビンタンパク及びヒスチジンタグ融合ヒトSmacタンパクを、被検物質の存在下又は非存在下の緩衝液中で反応させる一次反応液調製工程;
b)一次反応液に、ストレプトアビジン−ドナービーズ及びニッケルキレート−アクセプタービーズを加え、さらに反応させる二次反応液調製工程;
c)二次反応液中のストレプトアビジン−ドナービーズ結合ビオチン化ヒトサーバイビンタンパクと、ニッケルキレート−アクセプタービーズ結合ヒスチジンタグ融合Smacタンパク間の相互作用を、化学増幅型ルミネッセンスプロキシミティーホモジニアスアッセイ(AlphaScreen)法により測定・比較する測定・比較工程;
d)被検物質を添加した場合が添加しない場合に比べて、AlphaScreen法により測定されるシグナルが減少したとき、前記被検物質をヒトサーバイビン/Smacタンパク間相互作用阻害物質と評価する評価工程;
【請求項2】
以下の工程a)〜d)を備えたことを特徴とするヒトサーバイビン/INCENPタンパク間相互作用阻害物質のハイスループットスクリーニング方法。
a)ビオチン化ヒトサーバイビンタンパク及びヒスチジンタグ融合ヒトINCENPタンパクを、被検物質の存在下又は非存在下の緩衝液中で反応させる一次反応液調製工程;
b)一次反応液に、ストレプトアビジン−ドナービーズ及びニッケルキレート−アクセプタービーズを加え、さらに反応させる二次反応液調製工程;
c)二次反応液中のストレプトアビジン−ドナービーズ結合ビオチン化ヒトサーバイビンタンパクと、ニッケルキレート−アクセプタービーズ結合ヒスチジンタグ融合INCENPタンパク間の相互作用を、化学増幅型ルミネッセンスプロキシミティーホモジニアスアッセイ(AlphaScreen)法により測定・比較する測定・比較工程;
d)被検物質を添加した場合が添加しない場合に比べて、AlphaScreen法により測定されるシグナルが減少したとき、前記被検物質をヒトサーバイビン/INCENPタンパク間相互作用阻害物質と評価する評価工程;
【請求項3】
以下の工程a)〜d)を備えたことを特徴とするヒトサーバイビン二量体形成阻害物質のハイスループットスクリーニング方法。
a)ビオチン化ヒトサーバイビンタンパク及びグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)タグ融合ヒトサーバイビンタンパクを、被検物質の存在下又は非存在下の緩衝液中で反応させる一次反応液調製工程;
b)一次反応液に、ストレプトアビジン−ドナービーズ及び抗GST−アクセプタービーズを加え、さらに反応させる二次反応液調製工程;
c)二次反応液中のストレプトアビジン−ドナービーズ結合ビオチン化ヒトサーバイビンタンパクと、抗GST−アクセプタービーズ結合GSTタグ融合ヒトサーバイビンタンパク間の相互作用を、化学増幅型ルミネッセンスプロキシミティーホモジニアスアッセイ(AlphaScreen)法により測定・比較する測定・比較工程;
d)被検物質を添加した場合が添加しない場合に比べて、AlphaScreen法により測定されるシグナルが減少したとき、前記被検物質をヒトサーバイビン二量体形成阻害物質と評価する評価工程;
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の方法により選択されるヒトサーバイビン/Smacタンパク間相互作用阻害物質、ヒトサーバイビン/INCENPタンパク間相互作用阻害物質、ヒトサーバイビン二量体形成阻害物質を、抗腫瘍物質として評価することを特徴とする、がん治療剤のスクリーニング方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の方法により選択される、ヒトサーバイビン/Smacタンパク間相互作用阻害物質、ヒトサーバイビン/INCENPタンパク間相互作用阻害物質、ヒトサーバイビン二量体形成阻害物質を、アポトーシス誘導物質として評価することを特徴とする、がん治療剤のスクリーニング方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−122019(P2009−122019A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−297783(P2007−297783)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(590002389)静岡県 (173)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(590002389)静岡県 (173)
【Fターム(参考)】
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