説明

ヒトパピローマウイルスの相対定量方法

【課題】 試料中のヒトパピローマウイルス(HPV)の優勢型の効率的な判別方法を提供すること。
【解決手段】ヒトパピローマウイルスのリアルタイムPCR法による検出に際して用いる、遺伝子増幅産物量と熱サイクル数の関係を示す二次元チャート平面において、熱サイクル数の範囲毎に分割された平面領域を5〜10整数領域作成し、当該分割領域は、最小の熱サイクル数の範囲を示す領域と最大の熱サイクル数の範囲を示す領域に挟まれた平面領域が、3〜8整数領域に等分割されており、被験試料に異なる遺伝子型のヒトパピローマウイルスが存在する場合に、最小のCp値を与える遺伝子型のヒトパピローマウイルスが属する前記5〜10分割領域と、最大のCp値を与える当該5〜10分割領域同士が隣り合わない場合に、当該最小のCp値が属する分割領域に属する1種以上の遺伝子型のヒトパピローマウイルスを、他の遺伝子型のヒトパピローマウイルスに対して優勢型であると判定する、ヒトパピローマウイルスの相対定量方法、を提供することにより、上記の課題を解決することを見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルスの検出方法、さらに詳細には、子宮頸部等由来の被験試料におけるヒトパピローマウイルスの優勢型を判定するための、当該ウイルスの相対定量方法に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
ヒトパピローマウイルス(HPV)は、子宮頸癌における最も重要な起因因子のひとつである。現在までに100以上の遺伝子型が同定されており、少なくとも40の遺伝子型が子宮頸部に感染する。HPVは子宮頸癌の進行との関連性から高リスク型と低リスク型に分類されており、少なくとも14の遺伝子型(16、18、31、33、35、39、45、51、52、56、58、59、67及び68型)が高リスク型に分類されている。高リスク型HPVを早期に同定することはがん形成のリスクの軽減につながるとともに、治療方針に重要な情報をもたらす。これまでHPVの検出にはコンセンサスプライマーを用いたPCR法や、ハイブリダイゼーションプローブを用いたハイブリッドキャプチャーアッセイなどが行われきた。PCR法においては、3種類のコンセンサスプライマーが良く知られている(PGMY11/09、GP5+/GP6+、L1C1/2)。また、HPVの遺伝子型は、制限酵素を用いたPCR−RFLP法、遺伝子型特異的プローブを使用したハイブリダイゼーション法、ラインプローブアッセイもしくはコンセンサスプライマーを用いたPCR産物のシーケンス解析法などにより判定されてきたが、いずれも多くの遺伝子型を判別できる反面、煩雑な工程と高額な試薬費が要求されるものであった。そのため、マルチプレックスPCR法やリアルタイムPCR法による簡便な新しい遺伝子型判定法も報告されはじめている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ヒトパピローマウイルス(HPV)は複数の遺伝子型による重複感染率が高いが、高リスク型HPVの重複感染と子宮頸癌形成との関連性はいまだ明確になっていない。しかしながらこの関連性を明らかにするために重複感染しているそれぞれの遺伝子型のコピー数を定量することは容易ではなく、これまであまり報告されていない。この解析が困難とされている原因のひとつに定量に必要な検量線をそれぞれの遺伝子型について作成しなければならない点が挙げられる。測定対象となる遺伝子型が多ければ多いほど、それに伴ってコントロールの数も増加して行き、結果的に検査コストの高額化を招くこととなる。また、臨床的な子宮頸部擦過物において、HPVのコピー数を定量する場合には採取方法による影響、すなわち、採取サンプル毎の正常細胞の混入率の差を考慮しなければならなくなる。本発明は、このHPVのコピー数の定量に伴う問題を解決することを課題とする発明である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、HPVの重複感染例において有用な臨床診断は、ウイルスの絶対数よりも相対比から得られる情報を基として行うことが有利ではないかと考えた。その場合、HPVのリアルタイムPCR法による検出に際しては、遺伝子増幅産物量と熱サイクル数の関係を示す二次元チャート平面を、熱サイクル数によって分割された分割領域を設けて、当該分割領域のランク付けを行い、検体におけるリアルタイムPCRによる遺伝子型別のHPV遺伝子の増幅曲線が、どのランクに属するかによって、HPVの重複感染の解析を行うことが、検査の効率上好ましいことに想到した。しかしながら、HPVの遺伝子型別の感染度合いの判断を行う場合、「どの遺伝子型が優勢か」、すなわち、「優勢型」を、どのように効率良く的確に判断するかが、子宮頸癌の発生頻度と関連して最も重要な要素の一つであり、実際にこの遺伝子検出操作を行う場合の鍵となる。
【0005】
このさらなる課題に対し、本発明者らは、このリアルタイムPCR法における、上記の二次元チャート平面における、領域の分割形式と、当該形式に伴うHPVの優勢型の判定方法を組み合わせることにより、検体におけるHPVの優勢型の判断を、効率良く的確に行うことができることを見出して、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、ヒトパピローマウイルス(HPV)のリアルタイムPCR法による検出に際して用いる、遺伝子増幅産物量と熱サイクル数の関係を示す二次元チャート平面において、熱サイクル数の範囲毎に分割された平面領域を5〜10整数領域、好適には、6〜8整数領域、最も好適には6整数領域、作成し、当該分割領域は、最小の熱サイクル数の範囲を示す領域と最大の熱サイクル数の範囲を示す領域に挟まれた平面領域が、3〜8整数領域、好適には4〜6整数領域、最も好適には4整数領域、に等分割されており、被験試料に異なる遺伝子型のHPVが存在する場合に、最小のCp値を与える遺伝子型のHPVが属する前記5〜10等の分割領域と、最大のCp値を与える当該5〜10等の分割領域同士が隣り合わない場合に、当該最小のCp値が属する分割領域に属する1種以上の遺伝子型のHPVを、他の遺伝子型のHPVに対して優勢型であると判定する、HPVの相対定量方法、を提供する発明である。なお、本発明における上記の「等分割」とは、厳密に当該領域を等分割するのみならず、厳密な等分割により導き出される熱サイクル数の境界値の±5%のズレを含むものとする。
【0007】
また、「優勢型」とは、他の遺伝子型のHPVに対して、相対的に優勢な状態である、HPVの特定の遺伝子型を意味するものである。具体的には、特定のHPVの遺伝子型が、他の遺伝子型よりも優勢であると判断を行う場合、当該優勢型HPV遺伝子は、最低レベルの存在状態を示すHPV遺伝子に対して、5倍以上、好ましくは10倍以上存在することを基準とすることが好適である。上記二次元チャートにおいて、熱サイクル数は遺伝子のコピー数を表すものであるから、異なる遺伝子型のHPVのリアルタイムPCR解析を行った場合に、最小のCp値のHPV遺伝子が属する領域と最大のCp値のHPV遺伝子が属する領域同士が隣り合わない場合に、これらの領域に属する遺伝子のコピー数として、少なくとも5倍以上、好適には10倍以上の差が認められるように、当該領域分割は行われる。
【0008】
この本発明のHPVの相対定量方法のあらましを解説した、実施例のデータに基づく概略図が図1(図1Aと1B)である。図1Aは、比較例として用いるべきリアルタイムPCR法を行うにあたって用いられる遺伝子増幅産物量と熱サイクル数の関係を示す二次元チャート平面である。当該二次元チャートにおいて、横軸は、熱サイクル数を示し、縦軸は、遺伝子増幅産物量を反映する蛍光強度(遺伝子増幅産物量が多いほど、蛍光量は大きい)を示している。また、NCとは、ネガティブコントロールであり、検出モデルDNAを含有しない試料を用いた遺伝子増幅産物の増幅曲線を反映する。また、1.0E+05とは、10の5乗個の初発プラスミドの検出モデルDNAを用いた「低ポジティブコントロール」の増幅曲線を反映する。1.0E+08とは、10の8乗個の初発プラスミドの検出モデルDNAを用いた「高ポジティブコントロール」の増幅曲線を反映する。図1Aの二次元チャート平面は、熱サイクル数で区分けされる平面領域+1〜+4の整数で区分けされている。この図からわかるように、「低ポジティブコントロール」と「高ポジティブコントロール」の増幅曲線を主要に分ける平面領域は隣接しており、これらのポジティブコントロールの間に位置する検出曲線が反映する遺伝子型のHPVの優勢型と非優勢型を明確に判別することは困難である。これに対して、図1Bに示した、本発明に関わる二次元チャート平面の例は、「低ポジティブコントロール」である10の3乗個の初発プラスミドと、「高ポジティブコントロール」である10の8乗個又は10の7乗個の初発プラスミドの増幅曲線に挟まれる平面領域が+2〜+5の4領域に等分割されており、これらの等分割領域に10の4乗〜8乗の増幅曲線が位置している。これは、一つの分割領域の横軸方向の幅は、遺伝子のコピー数として概ね10倍に設定されていることを意味する。よって、これらのポジティブコントロールの間に位置する検出曲線が反映する遺伝子型のHPVの優勢型と非優勢型の明確な判別は、隣り合う領域以遠の区分領域にCp値を有する遺伝子型、すなわち、遺伝子のコピー数として10倍以上離れているHPVの遺伝子型が存在する場合に、最も少ないCp値の属する領域のHPVの遺伝子型を優勢型と判定し、その他の遺伝子型を非優勢型として判別することにより容易となる。なお、本例からすると、「高ポジティブコントロール」は、10の7乗個の初発プラスミドで十分であることがわかる。
【0009】
リアルタイムPCR法を用いた定量法としてQ−Invader法、サイバーグリーン法(文献Szuhai K, Sandhaus E, Kolkman-Uljee SM, Lemaitre M, Truffert JC, Dirks RW, Tanke HJ, Fleuren GJ, Schuuring E, Raap AK. A novel strategy for human papillomavirus detection and genotyping with SybrGreen and molecular beacon polymerase chain reaction. Am J Pathol. 2001 Nov;159(5):1651-60.)、スコーピオンプローブ法、モレキュラービーコンプローブ法(文献Takacs, T., Jeney, C., Kovacs, L., Mozes, J., Benczik, M., Sebe, A. 2008. Molecular beacon-based real-time PCR method for detection of 15 high-risk and 5 low-risk HPV types. J. Virol. Methods. 149, 153-162.)等が挙げられる。ここに挙げたQ−Invader法は、好適な方法の一つである。また、これらの例示列挙した諸手法を適宜改変して、本発明を行うこともできる。Q−Invader法では、インベーダー・アッセイ法によるシグナルをモニタリングしてリアルタイムPCR法を行う定量法が開発されている。この方法の特徴は多くの異なるターゲットを共通の蛍光プローブで検出できることにあり、これにより簡便化と低コスト化が実現できる。本明細書の実施例では、Q−Invader法を用いて14種類のHPV遺伝子型の相対定量解析を行っている。本発明の一態様では、Q−Invader法は、2波長の蛍光を用いて、異なるHPV遺伝子型を、2種類の型特異的プライマーとインベーダープローブを用いて同じウェルで検出するように設定されている。本方法には以下に示す3つの大きな特徴がある。図2に、Q−Invader法の測定原理を示す。
(1)2種類のHPV遺伝子型を1ウェルで検出するマルチプレックス反応を行うことができる。
(2)型特異的な蛍光プローブを必要としない。
(3)相対定量解析のためのコントロールは遺伝子型ごとに高/低濃度の2種類のみである。
【0010】
このように、本発明においては、前記相対定量方法において行うリアルタイムPCR法は、インベーダー・アッセイ法によるシグナルを指標としてCp値が算出されるリアルタイムPCR法(Q−Invader法)で、HPVの定量を行うことが好適である。
【0011】
また、本発明においては、リアルタイムPCR法に基づく遺伝子増幅産物量と熱サイクル数の関係を示す二次元チャート平面の各分割領域に対する、被験試料内のヒトパピローマウイルスの遺伝子型毎のCp値の当てはめと、これにより決定された当てはめ値を基とした優勢型遺伝子の存在の判断、を行う手段を、アルゴリズム化されたソフトウエアにおいて行うことが可能である。図3(図3A、B、C)に、当該ソフトウエアを構成するコンピュータプログラムのフローシートの一例を示す。図3Aのフローシートは、Cp値のランク値(上記の分割された平面領域の個々に割り当てられた記号)への割り当てと、これを用いた優勢遺伝子型の判定の過程の全体を示すものである。図3Bのフローシートは、図3Aのフローシートの一部をなすものであって、個々の遺伝子型のHPV(xは遺伝子型の番号)について、上記2次元グラフにおける領域分けの過程の一例を示すものである。図3Cのフローシートもまた、図3Aのフローシートの一部をなすものであって、試料において、個々の遺伝子型のHPVについて得られたCpについて対応が確定した上記分割領域をランク値としてとらえた場合に、試料中最大のランク値(Cp値により最も多く試料中に存在する遺伝子型のHPV)であったものと最小のランク値であったもの(Cp値により最も少なく試料中に存在する遺伝子型のHPV)の差が1より大きい場合、すなわち、該当する分割された平面領域が隣り合っていない場合に、最大のランク値を得た遺伝子型のHPVが、被験試料における優勢型のHPVであることを導き出すフローシートである。また、これらの図3に示されたフローシートは、上記の図1Bに示されるリアルタイムPCR法により得られる、分割された二次元チャートに準じて作成され得るコンピュータプログラムの基となるフローシートの具体例である。
【0012】
<図3A>
図3Aに示されたフローシート0は、コンピュータプログラム全体の過程を示している。開始端子を示すステップ1は、フローシート0に従って行われるプログラムの開始を示している。当該ステップ1は、コンピュータハードウエアにおいて当該プログラムの開始機能を付与するものである。
【0013】
データを示すステップ2は、フローシート0に従って実行されるコンピュータプログラムに対して、処理されるべきデータのエントリー段階を示している。この処理されるべきデータとは、リアルタイムPCR法の実行装置からの出力データ、すなわち、当該装置から得られる測定値を示している。ここで、「測定値」とは、本発明の定量方法の基礎となる、検出対象となるHPVについて、遺伝子型別にリアルタイムPCR法を行うことにより得られたCp値である。
【0014】
定義済み処理を示すステップ3は、遺伝子型xのランク値(Srank)への変換への一連の処理を示しており、その具体的な内容は図3Bに示すものであり、後述する。ここで、遺伝子型を示すxは、通常は自然数であるが、HPVの遺伝子型の実際の番号とは限らない。むしろ、日本人において典型的なHPVの遺伝子型を選択して、その飛び番号を連続番号に修正してx値とすることが好適である。本例では、14種類HPVの遺伝子型(16、18、31、33、35、39、45、51、52、56、58、59、67及び68型)を選んで、それぞれを、1以上の連続した自然数として割り当てて「x値」としている。「ランク値」は、このx値に対応する遺伝子型のHPVについてリアルタイムPCR法を行って、検体から得られたCp値が属する「リアルタイムPCR法の二次元チャート平面において、熱サイクル数の範囲毎に分割された平面領域に割り振られた番号」である。図1Bを参照すると、+1、+2、+3、+4、+5及び+6、のそれぞれの番号がランク値に相当する。ただし、後述するように、本例の場合には+の記号はランク値から、便宜上除いている。当該ステップ3に従い、コンピュータプログラムがコンピュータハードウエアにおいて実行されることにより、当該コンピュータに、遺伝子型xのランク値(Srank)への変換機能が実現される。
【0015】
定義済み処理を示すステップ4は、上記の定義済み処理3により得られた、遺伝子型xに対して決定されたランク値の内容から、検体における優勢型のHPV遺伝子型を判定する処理であり、その具体的な内容は図3Cに示すものであり、後述する。当該ステップ4に従い、コンピュータプログラムがコンピュータハードウエアにおいて実行されることにより、当該コンピュータに、検体における優勢型のHPV遺伝子型を判定する機能が実現される。
【0016】
データを示すステップ5は、定義済み処理により得られた、検体から検出された遺伝子型とその優勢型の有無又は種類についての結果を出力する段階を示している。結果の出力は、コンピュータのモニタ画面上であっても、打ち出し紙上であってもよい。また、必ずしも逐次この出力処理を行う必要はなく、コンピュータのハードディスク等の適切な記憶媒体に保存しておき、所望する時に出力を行うこともできる。当該ステップ5に従い、コンピュータプログラムがコンピュータハードウエアにおいて実行されることにより、当該コンピュータに、検体から検出された遺伝子型とその優勢型の有無又は種類についての結果を出力する機能が実現される。
【0017】
なお、この出力段階では、遺伝子型xは、本来のHPVの遺伝子型を示す番号表現(遺伝子型名)に戻すことが好適である。よって、ステップ5の前段階のステップとして、遺伝子型xを、本来のHPVの遺伝子型名に対応させて割り当てるステップを設けることが好適である。当該遺伝子型名への割り当てステップに従い、コンピュータプログラムがコンピュータハードウエアにおいて実行されることにより、当該コンピュータに、遺伝子型xから、本来のHPVの遺伝子型名に割り当てる機能が実現される。
【0018】
終了端子を示すステップ6は、フローシート0に従って行われるプログラムの終了を示している。当該ステップ6は、コンピュータハードウエアにおいて当該プログラムの終了機能を付与するものである。
【0019】
<図3B>
図3Bにおいて、開始端子31は、上記の定義済み処理3の開始を示している。処理32は、xの初期値1、すなわち、最初に定義済み処理3を行うHPVの遺伝子型を指定する処理である。
【0020】
準備を示すステップ33は、ランク値の算出に必要な要素を定義付けて割り当てる段階である。具体的には、P3cp_Gxは、遺伝子型xの10陽性コントロールのCp値であり、P7cp_Gxは、遺伝子型xの10陽性コントロールのCp値である。本例では、10陽性コントロールのCp値を「ランク値(+)6」の閾値として設定している。すなわち、図1Bからもわかるように、本例のCp値を与える蛍光強度は、フル強度の25%程度で設定されている。これは、Cp値を求める上で標準的かつ好適な設定である。また、10陽性コントロールのCp値は「ランク値(+)1」の閾値として設定されている。さらに、P3_7cp_Gxは、P3cp_GxからP7cp_Gxを引いて得られる値であり、Scp_Gxは、検体におけるHPVの遺伝子型xにおけるCp測定値である。
【0021】
判断を示すステップ34は、上記の測定値であるScp_Gxについて、これがどのランク値となるかを判断する処理である。「Scp_Gx=Null」が添えられている、x値をx+1とする処理を示すステップ35に移行する判断を示す矢印340は、x値に相当する遺伝子型のHPVが検体中に認められなかった場合の判断を示すものであり、この場合は、当然、x値におけるランク値の割り当ては行わずに、次のx+1値におけるランク値の割り当てに移行することを示している。
【0022】
「Scp_Gx<P7cp_Gx」が添えられている矢印の先は、ランク値を6とする(Srank_Gx=6)とする処理を示すステップ341であり、ここに移行する判断処理を示している。計測されたCp値が10陽性コントロールのCp値より小さい場合は、当該値は10陽性コントロールが示す閾値よりも小さいので、ランク値を最大の「6」とすることを意味する。
【0023】
「Scp_Gx<P7cp_Gx+1/4*P3_7cp_Gx」が添えられている矢印の先は、ランク値を5とする(Srank_Gx=5)とする処理を示すステップ342であり、ここに移行する判断処理を示している。計測されたCp値が、10陽性コントロールが示す閾値に、上述したP3cp_GxからP7cp_Gxの差の1/4(すなわち、上記の10と10陽性コントロールのCp値の閾値に挟まれた、Cp値の絶対値の小さい方から数えて最初の4等分値)を加算した値よりも小さい場合は、当該Cp値は、上述したランク値6に属するCp値以上(既に上記の処理を示すステップ341を行っているので、ランク値6をとる可能性は無くなっている)、かつ、ランク値6に属するCp値に当該最初の4等分値を加算した値がとり得る最大のCp値よりも小さい場合の範囲にあるので、ランク値を6より一つ少ない「5」とすることを意味する。
【0024】
「Scp_Gx<P7cp_Gx+1/2*P3_7cp_Gx」が添えられている矢印の先は、ランク値を4とする(Srank_Gx=4)とする処理を示すステップ343であり、ここに移行する判断処理を示している。計測されたCp値が、10陽性コントロールが示す閾値に、上述したP3cp_GxからP7cp_Gxの差の1/2(すなわち、上記の10と10陽性コントロールのCp値の閾値に挟まれた、Cp値の絶対値の小さい方から数えて2つ目の4等分値)を加算した値よりも小さい場合は、当該Cp値は、上述したランク値6と5に属するCp値以上(既に上記の処理を示すステップ341と342を行っているので、ランク値6と5をとる可能性は無くなっている)、かつ、ランク値6に属するCp値に当該2つ目の4等分値を加算した値がとり得る最大のCp値よりも小さい場合の範囲にあるので、ランク値を5より一つ少ない「4」とすることを意味する。
【0025】
「Scp_Gx<P7cp_Gx+3/4*P3_7cp_Gx」が添えられている矢印の先は、ランク値を3とする(Srank_Gx=3)とする処理を示すステップ344であり、ここに移行する判断処理を示している。計測されたCp値が、10陽性コントロールが示す閾値に、上述したP3cp_GxからP7cp_Gxの差の3/4(すなわち、上記の10と10陽性コントロールのCp値の閾値に挟まれた、Cp値の絶対値の小さい方から数えて3つ目の4等分値)を加算した値よりも小さい場合は、当該Cp値は、上述したランク値6〜4に属するCp値以上(既に上記の処理を示すステップ341と342と343を行っているので、ランク値6と5と4をとる可能性は無くなっている)、かつ、ランク値6に属するCp値に当該3つ目の4等分値を加算した値がとり得る最大のCp値よりも小さい場合の範囲にあるので、ランク値を4より一つ少ない「3」とすることを意味する。
【0026】
「Scp_Gx<P3cp_Gx」が添えられている矢印の先は、ランク値を2とする(Srank_Gx=2)とする処理を示すステップ345であり、ここに移行する判断処理を示している。計測されたCp値が、10陽性コントロールが示す閾値よりも小さい(すなわち、上記の10と10陽性コントロールのCp値の閾値に挟まれた、Cp値の絶対値の小さい方から数えて4つ目の4等分値)を加算した値よりも小さい場合は、当該Cp値は、上述したランク値6〜3に属するCp値以上(既に上記の処理を示すステップ341と342と343と344を行っているので、ランク値6と5と4と3をとる可能性は無くなっている)、かつ、ランク値6に属するCp値に当該4つ目の4等分値を加算した値がとり得る最大のCp値よりも小さい場合の範囲にあるので、ランク値を3より一つ少ない「2」とすることを意味する。
【0027】
上記の処理を示すステップ341、342、343、344及び345以外の場合、すなわち、前記4等分値の範囲内(10陽性コントロールが示す閾値)よりもCp値が大きい場合は、ランク値を1とする(Srank_Gx=1)とする処理を示すステップ346がなされる。
【0028】
これらの処理を示すステップ341〜346がなされて、HPVの遺伝子型xに与えられたランク値1〜6が当て嵌められ、次のステップ35に移行する。
【0029】
次いで、上記のx値をx+1とする処理を示すステップ35が行われる。判断を示すステップ36は、x値が15より小さいか否かを判断する処理である。本例の場合、対象となるHPVの遺伝子型の種類は14種であるため、上記の判断を示すステップ34〜処理を示すステップ35の工程を行う回数は14回となる。よって、xが15より小さい(実質的には14以下)の場合には、準備を示すステップ33にループして戻り、xが15より小さくない(15以上)の場合には、定義済み処理を示すステップ3は終了する(終了端子を示すステップ37)。
【0030】
<図3C>
図3Cにおいて、開始端子を示すステップ41は、上記の定義済み処理を示すステップ4の開始を示している。準備を示すステップ42は、優勢型の有無又は優勢型に該当するHPVの遺伝子型を判定するために必要な要素を定義付けて割り当てる段階である。定義済み処理を示すステップ3にて得られた各遺伝子型のランク値(Srank)の最大値をMax_rank、同最小値をMin_rankとする。
【0031】
判断を示すステップ43は、Max_rankとMin_rankとの差が1よりも大きいか否か(実質的には2以上か否か)をするための判断処理を表している。当該差が1よりも大きくない(実質的には1又は0)である場合には、「優性遺伝子型なし」とする確定処理を示すステップ44がなされ、当該差が1よりも大きい(実質的には2以上)場合には、「ランク値がMax_rankである1種以上のHPVの遺伝子型」を「優勢型」と判定する確定処理を示すステップ45に移行する。これらの確定処理を示すステップ44と45を経て、定義済み処理を示すステップ4は終了する(終了端子を示すステップ46)。
【0032】
このフローシート0のアルゴリズム、又は、これと実質的同一の内容を有するアルゴリズムに基づくコンピュータプログラムは、これを全体として、又は、さらに他のコンピュータプログラムの一部として、コンピュータハードウエアにおいて実行することにより、本発明の相対定量方法を行うことができる。「他のコンピュータプログラムの一部として」とは、例えば、リアルタイムPCR法を行うためのプログラムに、上記のコンピュータプログラムの工程を付加する場合等が想定される。さらに具体的には、リアルタイムPCR法を行うことに伴い、リアルタイムPCR法を行うためのプログラムを実行することにより得られるCp値を、検出対象としたHPVの遺伝子型に割り当てるステップをコンピュータプログラムにおいて設け、当該割り当てステップを、上記の開始を示すステップ1又はデータを示すステップ2の上流に付加することにより、リアルタイムPCR法を行うためのコンピュータプログラムの一部として、上記の本発明に係わるコンピュータプログラムを含めることが可能となる。
【0033】
上記の全ての本発明に係わるコンピュータプログラムは、一般的なコンピュータプログラム言語により、所望するアルゴリズムを構築して作出することができる。
【0034】
コンピュータプログラム言語として、例えば、機械語、アセンブラ言語等の低水準言語;Fortran、ALGOL、COBOL、C、BASIC、PL/I、Pascal、LISP、Prolog、APL、Ada、Smalltalk、C++、Java(登録商標)等の高水準言語;第4世代言語、エンドユーザー言語等を選択して用いることが可能である。また、必要に応じて、特殊問題向き言語を用いることもできる。
【0035】
本発明は、上記のようなコンピュータプログラムを提供し、このコンピュータプログラムに基づく、本ソフトウエアが格納された電子媒体をも提供する。
【0036】
本ソフトウエアを格納可能な電子媒体は、特に限定されず、例えば、磁気テープ、磁気ディスク、CD‐ROM、CD‐R、CD‐RW、MO、DVD‐R、DVD+R、DVD‐RW、DVD+RW、DVD‐ROM、USBチップ等を用いることができる。
【0037】
上記の本発明に係わるコンピュータプログラムは、処理装置において実行される。当該処理装置を、コンピュータを用いて構成する場合の一実施例を、図4としてここに示す。図4は、当該処理装置の構成のブロック図である。
【0038】
処理装置70は、コンピュータのハードウエアを構成する。80は、基礎データの供給源であり、具体的には、リアルタイムPCR法の測定装置や、当該測定装置により蓄積された基礎データのデータベースが該当する。ここで基礎データとは、本発明に係わるコンピュータプログラムを実行するための基礎データであり、上記の「測定値」と同意義であり、検出対象となるHPVについて、遺伝子型別にリアルタイムPCR法を行うことにより得られたCp値と当該遺伝子型の組情報である。
【0039】
処理装置70の基本的な構成は、第1のインターフェース71、演算処理部72、一時記憶部73、記録部74、内部バス75、第2のインターフェース76、操作部77、及び、表示部78、となっている。第1のインターフェース71、演算処理部72、一時記憶部73、記録部74、及び、第2のインターフェース76は、内部バス75によりデータの交換が可能となっている。操作部77は、演算処理部72に対する指示やデータを入力するための手段であり、コンピュータ用のキーボード、マウス、タッチパネル等が例示される。表示部78は、演算処理部72による処理結果等を表示する手段であり、典型的にはコンピュータディスプレイが例示される。また、演算処理部72はCPUを、一時記憶部73にはRAMを、記録部74にはハードディスクドライブを用いることができる。第1のインターフェース71は、典型的には通信インターフェースであり、LAN、イントラネット、インターネット等のネットワーク、あるいは、直接データ接続手段を介して、基礎データ供給源である80からの基礎データのデータ交換を行う。また、第2のインターフェース76は、入出力のインターフェースであり、操作部77の種類に応じたシリアル若しくはパラレルインタフェースを用いることができる。また、第2のインターフェース76は、ビデオメモリとDA変換部を備えて、表示部78のビデオ方式に応じたアナログ信号を出力することによって、表示部78に情報を表示するための画像が表示される。また、表示部78における表示に代えて、プリンタによる紙出力表示に変更することも可能である。
【0040】
演算処理部72は、操作部77が操作されるに伴い、第1のインターフェース71を介して、基礎データ供給源80から基礎データを取得して、記録部74に記録し、適宜記録部74からデータを一時記憶部73に読み出し、所定の処理、典型的には、図3(図3A、B、C)のフローシート0に基づくコンピュータプログラムによる処理を行った後、その結果を記録部74に記録する。また、演算処理部72は、操作部77の操作を促す画面データや処理結果を表示する画面データを提供し、第2のインターフェース76のビデオRAMを介して、これらの画像を表示部78に表示する。
【発明の効果】
【0041】
本発明により、被験試料における優勢型HPVを、簡便かつ正確に検出可能な、リアルタイムPCR法を用いた相対定量方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1A】リアルタイムPCR法を行うにあたって、遺伝子増幅産物量と熱サイクル数の関係を示す、比較例として用いるべき二次元チャート平面である。
【図1B】本発明にかかわる遺伝子増幅産物量と熱サイクル数の関係を示す二次元チャート平面である。
【図2】Q−Invader法の測定原理を示す図面である。
【図3A】本発明にかかわるコンピュータプログラムのフローシートの一例(全体構成)である。
【図3B】本発明にかかわるコンピュータプログラムのフローシートの一部であって、HPVの遺伝子型の測定値をランク値とする定義済み処理を示している。
【図3C】本発明にかかわるコンピュータプログラムのフローシートの一部であって、優勢遺伝子型の判定を行う定義済み処理を示している。
【図4】本発明の処理装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明のHPV遺伝子型判定における感度と効果を示すために、HPV陽性検体を用いてシーケンス解析と比較試験を行った。
【0044】
<材料と方法>
(1)コントロールDNA
HPV 16とHPV 18のゲノムDNAはAmerican Type Culture collectionより入手した。DNA濃度はPicoGreen dsDNA Quantitation Kit (Invitrogen、Carlbad、CA、USA)を用いて測定した。各コピー数はDNA濃度とゲノムサイズから算出した。HPV−DNAは希釈し、測定の陽性コントロールとして使用した。
【0045】
(2)臨床サンプル
182例の液状細胞診検体は茨城県衛生研究所より入手した。サンプリングにはCervez−Brush (Rovers Medical Devices、OSS、The Netherlands) を使用した。検体の取り扱いは茨城県衛生研究所の倫理委員会規定に準じた。
【0046】
(3)HPV−DNAの抽出
500μlの液状細胞診検体からシリカメンブレン法(文献: Riemann K, Adamzik M, Frauenrath S, Egensperger R, Schmid KW, Brockmeyer NH, Siffert W. Comparison of manual and automated nucleic acid extraction from whole-blood samples. J Clin Lab Anal. 2007;21(4):244-8.)を用いてDNAを抽出した。
【0047】
(4)HPV−DNAのクローニングによるコントロールプラスミドDNAの作製
相対定量解析及び検出感度の検討のために液状細胞診検体から得た各遺伝子型HPV−DNAをコンセンサスプライマーであるL1C1/C2プライマー(L1C1:5’−CGTAAACGTTTTCCCTATTTTTTT-3’(配列番号1)、 L1C2−1:5’−TACCCTAAATACTCTGTATTG-3’ (配列番号2)、 L1C2−2:5’−TACCCTAAATACCCTATATTG-3’ (配列番号3))を用いて増幅した。PCR産物はpCRII−TOPOベクター(ライフテクノロジー社)を用いてクローニングし、3130 fluorescent DNA sequencerを用いてダイデオキシ法によりシーケンス解析を行った。各コントロールプラスミドの配列はDNA Data Bank of Japan databaseのBLAST検索により確認した。
【0048】
(5)プライマー・インベーダープローブの設計
各遺伝子型の特異的プライマーはコントロールプラスミドに組み込んだ領域内にそれぞれ設計した。インベーダープローブはInvader technology creatorを用いて増幅領域内に設計した(表1及び表2)。
【0049】
【表1】

【0050】
上記表1に示したプライマーとインベーダープローブの塩基配列は、上から順に、配列番号4〜31を割り当て、これを別添の配列表に示した。
【0051】
【表2】

【0052】
上記表2に示したプライマーとインベーダープローブの塩基配列は、上から順に、配列番号32〜59を割り当て、これを別添の配列表に示した。
【0053】
上記表1及び表2において、
「F-primer」は、Forward primerを意味するものであり、「R-primer」は、Reverse primerを意味するものであり、「P-probe」は、primary probeを意味するものであり、「I-oligo」は、Invader oligoを意味するものである。
【0054】
また、下線を引いた配列は、プローブの5’フラップ配列(the 5' flap of probe)を示している。さらに、太文字の配列は、プライマリープローブの開裂部分(the cleavage site)を示している。全てのプライマリープローブの3’末端は、アミノ基により保護されている(Amino-blocked)。参考のために、各HPVのゲノムDNAの配列のGenBankにおけるアクセッション番号を記載する。
【0055】
HPV 16; GenBank accession no. NC_001526,
HPV 18; GenBank accession no. NC_001357,
HPV 31; GenBank accession no. J04353,
HPV 33; GenBank accession no. M12732,
HPV 35; GenBank accession no. M74117,
HPV 39; GenBank accession no. M62849,
HPV 45; GenBank accession no. X74479,
HPV 51; GenBank accession no. M62877,
HPV 52; GenBank accession no. X74481,
HPV 56; GenBank accession no. X74483,
HPV 58; GenBank accession no. D90400,
HPV 59; GenBank accession no. X77858,
HPV 67; GenBank accession no. D21208,
HPV 68; GenBank accession no. DQ080079
【0056】
内在性コントロールとしてベータグロビンを検出するプライマーとインベーダープローブを、下記の内容で設計した。
forward primer: 5′- CAACTTCATCCACGTTCACC -3′(配列番号60)
reverse primer: 5′- GAAGAGCCAAGGACAGGTAC -3′(配列番号61)
primary probe: 5′- ACGGACGCGGAGGTGTTCACTAGCAACCT<amino> -3′(配列番号62)
Invader oligo: 5′- CAGAGCCATCTATTGCTTACATTTGCTTCTGACACAACTC -3′(配列番号63)
プライマリープローブの下線部はインベーダー反応におけるflapプローブを現している。
【0057】
(6)Q−Invader法を用いた相対定量解析
14のHPV遺伝子型の相対定量解析は改変したQ−Invader法を用いて行った。1反応2色の蛍光検出は2種類の共通蛍光プローブが含まれているCleavase XI Invader core reagent kitを用いることで可能となる。最も効率よく測定を行えるよう、7ウェルで同時に14の遺伝子型を測定した。遺伝子型の組み合わせは次のとおり:ウェル1: 51と16、ウェル2: 56と35、ウェル3: 18と58、ウェル4: 39と59、ウェル5: 45と31、ウェル6: 52と37、ウェル7:68と67。
【0058】
5−100ngのテンプレートDNAを2種類の遺伝子型を増幅するためのプライマー、50μM のd−NTP、700nMの各プライマリープローブ、70−nMの各インベーダーオリゴ、2U のDNAポリメラーゼ(AmpliTaq gold)及びCleavase XI Invader core reagent kitを含んだ12μlの反応試薬に加え、384ウェルのPCRプレートを用いて反応させる。測定機器にはLight Cycler 480を用い、反応条件は95℃で10分間熱処理した後、95℃ 30秒、65℃ 60秒、50℃ 30秒、72℃ 30秒の4−ステップPCRを35サイクル行った。FAM (carboxyfluorescein) (wavelength/bandwidth: excitation, 485/20 nm; emission, 530/25 nm)と RED (REDmond RED) (excitation, 560/20 nm; emission, 620/40 nm)の2つの蛍光値は典型的なリアルタイムPCRと同様に毎PCRサイクルの65℃となるステップの最後に読み取った。Light Cycler480ソフトウェアを用いてフィットポイント法により解析し、各遺伝子型のCp値を求めた。
【0059】
(7)L1C1/2プライマー及び型特異的プライマーを用いたシーケンス
Q−Invader法において単一遺伝子型のHPVが検出された臨床検体についてはL1C1/2プライマーを用いたシーケンス解析により遺伝子型を確認した。一方、複数の遺伝子型が検出された検体についてはL1領域に設計した型特異的フォワードプライマーとPGMY 09プライマーを用いたシーケンス解析により遺伝子型を確認した。
【0060】
(8)検出感度及び再現性の検討
各遺伝子型のプラスミドを用いて本法の検出感度について検討した。検出下限については、各プラスミドを10の3乗コピー〜10の7乗コピーに調製し検討した。また、10の3乗コピー及び10の7乗コピーの各遺伝子型プラスミドをn=5で3回測定し、再現性について検討した。重複感染における相対定量解析については異なる遺伝子型のプラスミドを混合して検討した。混合する際に相対比率の少ない遺伝子型のコピー数は5000コピーとした。
【0061】
<結果>
(1)検出感度と再現性
10の3乗コピーから10の7乗コピーまで濃度依存的な測定が可能であった。本測定系の測定感度は反応あたり1000コピーであった。10の3乗コピー及び10の7乗コピーの各遺伝子型プラスミドの再現試験における平均Cp値と標準偏差は表3に示した。各Cp値のC.V.は0.7%−4.6%であった。
【0062】
【表3】

【0063】
(2)相対定量解析
重複感染例における各遺伝子型の遺伝子型の相対比を求めるために相対定量解析を試みた。各遺伝子型について、高濃度及び低濃度コントロールのCp値を基に相対定量値を6個のエリアに分割した(+6;Cp値>高濃度コントロール、+5〜+2;高濃度コントロール>Cp値>低濃度コントロール、+1;低濃度コントロール>Cp値)。+5〜+2は、Cp値基準で等分割を行った。Cp値の基準となる蛍光強度はフル強度の25%値とした。
【0064】
相対定量解析の検討は異なる遺伝子型のプラスミドを用いて行った。反応液中に異なる遺伝子型のプラスミドが等量含まれていた場合にも等しい相対定量値が得られた。しかしながら、異なる遺伝子型のプラスミドを10倍以上の混合比で調製したテンプレートでは、混合比に比例した相対定量値の差が生じた。
【0065】
(3)臨床検体におけるHPV遺伝子型の判定(1)
182例の子宮頸部擦過物を本系により測定した。131例にHPV陽性となり、このうち104例は単一遺伝子型、27例からは複数の遺伝子型が検出された。同一検体中の遺伝子型の数は最も多いもので4であった。単一遺伝子型感染例については、L1C1/C2プライマーを用いたシーケンス解析により遺伝子型を確認した。本測定系とシーケンス解析の一致率は81例(77.9%)であった。残りの23例についてはシーケンス解析において本系で判定できる14遺伝子型以外の配列が現れるか、もしくは複数の遺伝子型の配列が重なり配列が読み取れないといったことから確認できなかった。そのため、確認できなかった23例については遺伝子型特異的プライマーを用いて再度シーケンス解析を行い、本測定系の結果と一致することを確認した。複数の遺伝子型を含む27例における本測定系の相対定量解析の結果は表4に示した。
【0066】
【表4】

【0067】
表4によると、優勢型の存在が確認されたサンプルIDは、95番(16型が優勢型)、122番(16型が優勢型)、148番(16型が優勢型)、71番(18型が優勢型)、55番(52型が優勢型)、27番(52型が優勢型)、49番(67型が優勢型)、及び、118番(68型が優勢型)、であった。
【0068】
(4)臨床検体におけるHPV遺伝子型の判定(2)
上記判定試験(1)とは別個に、428例の子宮頸部擦過物について細胞診を行い、これと並行して、本系による測定を行った。本系による測定の結果、230例はHPV陽性と測定され、このうち164例は単一遺伝子型、66例からは複数の遺伝子型が検出された。その詳細を、細胞診の結果と併せて表5に示す。なお、表5において、
「Normal」は、陰性を示し、炎症を限度とし、非腫瘍性所見を伴う事例を示す。異常なし(定期検査レベル)である。「ASC-US」は、意義不明な異型扁平上皮細胞が認められる事例であり、緩和された要精密検査レベルである。「ASC-H」は、高度扁平上皮内病変の疑いが認められる異型扁平上皮細胞が認められる事例を示す。厳格な要精密検査レベルである。「LSIL」は、軽度の扁平上皮内異形成が認められる事例を示す。厳格な要精密検査レベルである。「HSIL」は、高度扁平上皮内病変が認められる事例を示す。厳格な要精密検査レベルである。「SCC」は、扁平上皮癌が認められる事例を示す。厳格な要精密検査レベルである。「AGC」は、異型腺細胞が認められる事例であり、厳格な要精密検査レベルである。「Adenocarcinoma」は、浸潤腺癌が認められる事例であり、厳格な要精密検査レベルである。
【0069】
【表5】

【0070】
表5により、HPVの感染率は、細胞診の評価がASC−USの段階以上に細胞の異型化(悪性度)が進むと、急激に上がることが明らかとなった。また、HPVの複合感染は、特に、上皮細胞系の細胞異型に伴い認められることが明らかになった。
また、表6に、HPV感染が陽性と認められた検体における、HPVの遺伝子型(HPV genotype)別の感染者数(( )内%)を、上記の細胞診の評価別に示した。
【0071】
【表6】

【0072】
表6の結果より、特に、16型と52型は、細胞診の悪性度が上がると共に、陽性率が高くなっていることが認められた。
【0073】
さらに、表7に、HPVの複合感染が認められた例の内訳を開示した。表中、グループ1は、Normal,ASC−US及びASC−Hからなる群であり、グループ2は、LSIL、HSIL及びSCCからなる群である。また、「D」とは、その複合感染の組み合わせにおいて、本系における「優勢型」として検出されたHPVの遺伝子型を示している。例えば、ASC−USの複合感染において、「33D 67」とあるのは、「HPVの33型と67型の複合感染が認められ、かつ、33型は本系による優勢型として検出された」ことを示している。
【0074】
【表7】

【0075】
表7の内容から、それぞれの細胞診の悪性度について、全検体数当たりの「優勢型を伴う複合感染」の割合(%)を求めると、下記のようになる。
<グループ1>
(1)Normal: 0/147→0%
(2)ASC−US: 5/89→5.6%
(3)ASC−H: 1/16→6.3%
<グループ2>
(4)LSIL: 18/70→25.7%
(5)HSIL: 14/81→17.3%
(6)SCC: 1/10→10%
【0076】
この結果より、細胞診の悪性度が上がるにつれて、特に、LSILとHSILにおける、優勢型を伴うHPVの複合感染の頻度が高くなることがわかる。このように、本発明により優勢型を伴うか否かを検出することにより、疑い群の比率を下げて、より子宮頸癌のリスクが高い、グループ2(異形成進行群)であることを判定する効率を高めることができることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0077】
子宮頸癌のリスク診断において、HPVの迅速な検出及び遺伝子型判定は重要となっている。これまで迅速、正確、安価に重複感染例におけるハイリスクHPVの各遺伝子型の相対比まで示すことは出来なかった。本発明の解析法では、HPVの重複感染例におけるハイリスクHPVについての相対定量解析を可能とした。実施例では、各遺伝子型のPCRプライマーとインベーダープローブはL1遺伝子領域に設定したところ、全ての遺伝子型について少なくとも10の3乗コピーから10の7乗コピーまで測定レンジを得る事が出来た。コントロールプラスミドを用いた再現性試験の結果は良好であった(CV値:0.7−4.6)。子宮頸部擦過物からHPV−DNAを抽出する場合、大量のヒト由来DNAが混入するので、ヒト由来DNAの影響を調べるために、コントロールプラスミドに100ngのヒト由来DNAを加えて検討したが、Cp値に変化は認められなかった。
【0078】
HPVの重複感染は、子宮頸部で高頻度に認められる。それ故に、本発明においては、HPVの重複感染における各遺伝子型の相対比率を求めるために、相対定量法が提供される。相対定量値は各遺伝子型のCp値より算出される。本発明の方法では、多くのコントロールを必要としないことを一つの特徴とする。各遺伝子型のプラスミドを用いた検討では、テンプレートDNAの量に応じた相対定量値を得ることが可能であった。高リスク型HPVを含む104例の臨床検体を用いた検討では、Q−Invader法とコンセンサスおよび型特異的プライマーを用いたシーケンス解析により、HPVの遺伝子型を判定した。Q−Invader法とシーケンス解析の結果は全てのサンプルについて一致した。104例中の27例ではハイリスク型HPVによる重複感染を確認した。重複している遺伝子型の数は2種類から4種類までと様々であったが、2種類が最も多く81.5%であった。
【0079】
また、実施例では、ハイリスク型HPVの様々な組み合わせにおける相対比を測定した。子宮頸部におけるHPVの重複感染と細胞学的悪性度の関係は明らかとなっていない。しかしながら、重複感染における相対比率のモニタリングは、治療を進めるうえでHPVの動態を理解するために重要と思われる。感染したHPVの多くは一過性であり、免疫により自然に消失するが、ハイリスク型HPVが持続感染することで子宮頸癌が発生する。欧米では16、18、31、33及び45型が子宮頸癌における典型的なハイリスク型であるが、本邦では、さらに、52、58型が高頻度に子宮頸癌で検出される。液状細胞診検体を用いたHPV遺伝子型判定は子宮頸癌の診断において一般的になってきている。将来、重複感染の研究がリスク診断において重要となってくると思われる。
【0080】
さらに、実施例では、優勢型を伴う重複感染例では、より癌移行が疑われる「異形成進行群」を、本発明により的確にスクリーニングすることが可能であることが明らかとなった。
【0081】
以上のように、本発明は、子宮頸癌に関連するHPVの感染の深刻度を、より迅速、正確、安価に判定することが可能であり、産業上の有用性が明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトパピローマウイルスのリアルタイムPCR法による検出に際して用いる、遺伝子増幅産物量と熱サイクル数の関係を示す二次元チャート平面において、熱サイクル数の範囲毎に分割された平面領域を5〜10整数領域作成し、当該分割領域は、最小の熱サイクル数の範囲を示す領域と最大の熱サイクル数の範囲を示す領域に挟まれた平面領域が、3〜8整数領域に等分割されており、被験試料に異なる遺伝子型のヒトパピローマウイルスが存在する場合に、最小のCp値を与える遺伝子型のヒトパピローマウイルスが属する前記5〜10分割領域と、最大のCp値を与える当該5〜10分割領域同士が隣り合わない場合に、当該最小のCp値が属する分割領域に属する1種以上の遺伝子型のヒトパピローマウイルスを、他の遺伝子型のヒトパピローマウイルスに対して優勢型であると判定する、ヒトパピローマウイルスの相対定量方法。
【請求項2】
等分割されている平面領域数は4〜6整数領域である、請求項1に記載のヒトパピローマウイルスの相対定量方法。
【請求項3】
等分割されている平面領域数は4領域である、請求項1に記載のヒトパピローマウイルスの相対定量方法。
【請求項4】
等分割されている隣り合わない領域に属するCp値に相当するHPV遺伝子のコピー数の差の最低値は5倍以上である、請求項1〜3のいずれかに記載のヒトパピローマウイルスの相対定量方法。
【請求項5】
等分割されている隣り合わない領域に属するCp値に相当するHPV遺伝子のコピー数の差の最低値は10倍以上である、請求項2又は3に記載のヒトパピローマウイルスの相対定量方法。
【請求項6】
前記定量方法において、リアルタイムPCR法は、インベーダー・アッセイ法によるシグナルを指標としてCp値が算出されるリアルタイムPCR法である、請求項1〜5のいずれかに記載のヒトパピローマウイルスの相対定量方法。
【請求項7】
前記定量方法において、リアルタイムPCR法に基づく遺伝子増幅産物量と熱サイクル数の関係を示す二次元チャート平面の各分割領域に対する、被験試料内のヒトパピローマウイルスの遺伝子型毎のCp値の当てはめと、これにより決定された当てはめ値を基とした優勢型遺伝子の存在の判断、を行う手段が、アルゴリズム化されてなるソフトウエアにおいて行われる、請求項1〜6のいずれかに記載のヒトパピローマウイルスの相対定量方法。
【請求項8】
前記定量方法は、リアルタイムPCR法に基づく遺伝子増幅産物量と熱サイクル数の関係を示す二次元チャート平面の各分割領域に対する、被験試料内のヒトパピローマウイルスの遺伝子型毎のCp値の当てはめと、これにより決定された当てはめ値を基とした優勢型遺伝子の存在の判断を行う手段、がアルゴリズム化されてなるソフトウエアを実行する処理装置によって行われる、請求項1〜6のいずれかに記載のヒトパピローマウイルスの相対定量方法。
【請求項9】
リアルタイムPCR法に基づく遺伝子増幅産物量と熱サイクル数の関係を示す二次元チャート平面の各分割領域に対する、被験試料内のヒトパピローマウイルスの遺伝子型毎のCp値の当てはめと、これにより決定された当てはめ値を基とした優勢型遺伝子の存在の判断を行う手段、がアルゴリズム化されてなるソフトウエア。


【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−19512(P2011−19512A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−138568(P2010−138568)
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(591083336)株式会社ビー・エム・エル (31)
【Fターム(参考)】