ヒト前駆T細胞
マウス胸腺に成功裏に生着し、成熟したヒトT細胞およびNK細胞へ分化しうるヒト前駆T細胞について記述する。ヒト前駆T細胞は、表現型CD34+CD7+CD1a-CD5-またはCD34+CD7+CD1a-CD5+を有し、Notch受容体リガンドを発現している細胞(OP9-DL1またはOP9-DL4)との共培養によってヒト造血幹細胞、胚性幹細胞および誘導多能性幹細胞から誘導される。このような細胞は、免疫再構築、免疫不全の処置を含む種々の用途で、および遺伝子治療に用いる遺伝子の担体として有用である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
分野
本出願は、前駆T細胞、それを調製する方法、ならびに成熟ヒトT細胞集団を作製するための、胸腺組織に生着させるための、および治療用途における前駆T細胞の使用を含む前駆T細胞の全ての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
T細胞は、細菌抗原およびウイルス抗原に対してインビボで強力かつ特異的な免疫反応を誘発する免疫系の主要な細胞部門である。重症複合免疫不全(SCID)を持って生まれた個体は、T細胞の完全欠損を示すが、HIV/AIDSに感染した個体またはがんのために化学/放射線療法で処置された個体は、T細胞の著しい枯渇を示す。免疫不全が先天性または後天性であるかにかかわらず、これらの個体は、生まれてくる骨髄由来の幹細胞から新しいT細胞を産生するその能力が、および日和見感染に対する十分な免疫反応を開始するその能力が損なわれている。逆に、関節炎および糖尿病のようなある種の自己免疫疾患を有する個体は、T調節性細胞と呼ばれる特殊なT細胞のないことが一部原因の、自己組織に対する不適切な免疫反応を示す。したがって、特定の個体から抽出され増殖させた前駆細胞の分化を通じてインビトロで新しいデザイナーT細胞を作製する能力は、T細胞数、および機能的免疫系の維持かつ調節能力を回復することにより多くの疾患の処置において治療的有用性を与えることができる。Notch受容体リガンドDelta様-1またはDelta様-4を発現するマウスOP9骨髄間質細胞株との共培養の期間後にT細胞系統へ分化するようにマウス造血幹細胞が誘導されるインビトロ分化系が記述されているが、同系を用いたヒト造血幹細胞の特徴付けはいまだ明らかにされていない。
【0003】
赤血球、骨髄およびリンパ球の系統を生じうる造血幹細胞(HSC)は、CD34の発現および系統特異的マーカーの欠如(Lin-と呼ばれる)に基づいて同定することができる(Kawamoto et al., 1997)。ヒト臍帯血(CB)は豊富なHSC供給源を提供し、これは骨髄由来のHSCに匹敵する(Barker and Wagner, 2003; de Wynter et al., 1999; Fisher et al., 1990; Galy et al., 1993; Gluckman et al., 1997; Ito et al., 2002; Lewis and Verfaillie, 2000; McCune et al., 1991; Sanchez et al., 1993; Wilpshaar et al., 2002)。ヒトT細胞は、T細胞受容体(TCR)可変(V)、多様性(D)および連結(J)遺伝子セグメント再構築[V(D)J]、および発生中の胸腺細胞の陽性/陰性選択を含めて一連のコミットメント事象および発生チェックポイントを伴う発生学的に調節された個別の段階を介して胸腺中で分化する(Spits, 2002)。最も初期の胸腺内前駆体は高レベルのCD34およびCD7を発現し、CD1aを発現せず、成熟なT細胞マーカー: CD4、CD8およびCD3について三重陰性(TN)である(Galy et al., 1993)。T細胞系統へのコミットメントはCD7を発現している前胸腺細胞によるCD1aの発現と関連している(Spits, 2002; Spits et al., 2000)。
【0004】
いくつかの研究がHSC増殖、自己再生(Stier et al., 2002)、生存(Deftos and Bevan, 2000; Osborne and Miele, 1999)およびT細胞系統コミットメントの誘導(MacDonald et al., 2001; Osborne and Miele, 1999; Pear and Radtke, 2003; Radtke et al., 2002; Robey, 1999; von Boehmer, 2001)の促進に、Notch経路を関連付けている。ヒトでは、四つのNotch受容体(Ellisen et al., 1991; Lardelli et al., 1994; Milner et al., 1994; Uyttendaele et al., 1996; Weinmaster et al., 1991)が存在しており、これらは二つのserrate様リガンド(Jagged 1および2) (Lindsell et al., 1995; Luo et al., 1997)または三つのdelta様リガンド(Dll-1、-3および-4) (Karanu et al., 2001; Shutter et al., 2000)と対合することができる。Notchシグナル伝達は、T細胞分化の複数の時期に作用するように思われる(Deftos et al., 2000; Garcia-Peydro et al., 2003; Izon et al., 2001; Jiang et al., 1998; Robey et al., 1996; Washburn et al., 1997)。T細胞発生におけるNotchシグナル伝達の役割に関する最も強力な証拠は、機能獲得および機能喪失の研究からきており(Allman et al., 2002; Izon et al., 2002; MacDonald et al., 2001; Pear et al., 1996; Pui et al., 1999; Radtke et al., 2002; Wilson et al., 2001)、そのなかで、Notch-1を通じたシグナル伝達がB細胞 vs T細胞系統の選択の決定で重要な役割を果たすことが示されている(Pear and Radtke, 2003; Radtke et al., 2002)。
【0005】
HSCは複数のNotch受容体を発現する(Milner et al., 1996; Milner et al., 1994)が、各種のNotchリガンドの発現パターンは骨髄間質細胞(Jones et al., 1998; Karanu et al., 2001; Li et al., 1998; Varnum-Finney et al., 1998; Walker et al., 1999)と胸腺上皮細胞(Anderson et al., 2001)との間で異なることが報告されている。まとめると、これらの結果は、種々のNotch受容体およびリガンドが微小環境に応じ造血の種々の局面を制御して、骨髄中での自己再生を可能にし、胸腺中での細胞運命決定に影響を与えうることを示唆している(Varnum-Finney et al., 1998)。これは、T細胞コミットメントおよび分化を誘導する適切なNotchリガンドがないため、B細胞分化を支持する、OP9細胞などの、骨髄間質細胞株(Cho et al., 1999; Kim et al., 2003; Kodama et al., 1994)もそのようにしうるという仮説につながった。この仮説を検証し、その結果、Dll1を発現しないOP9細胞は、Dll-1を発現するようにレトロウイルスによって形質導入される(OP9-DL1)場合、B細胞の発生を阻害し、胎仔肝臓由来HSC (Schmitt and Zuniga-Pflucker, 2002)またはマウスESC (Schmitt et al., 2004)からのT細胞の発生に有利に働くことが実証された。マウスDll-1分子とヒトDll-1分子との間の高レベルの相同性(90%)、およびマウス間質細胞がヒトHSCの分化を支持しうるという所見(Bennaceur-Griscelli et al., 2001; Jaleco et al., 2001; Karanu et al., 2001; Rawlings et al., 1995)を考えて、本発明者らはOP9-DL1細胞上で培養されたヒトCB由来のHSC (CD34+CD38-)がインビトロでT細胞分化を開始かつ支持しうるかどうかを判定しようとした。
【0006】
T細胞は、骨髄由来の造血前駆体から胸腺内で発生し、発生中のCD4およびCD8の協調発現によって広く特徴付けられる一連の時期特異的な分化事象に従う(Blom and Spits, 2006; Spits, 2002)。
【0007】
ヒトT細胞発生の初期には造血幹細胞(HSC)上におよび多能性のもしくは系統特異的な前駆細胞上にも存在する、幹細胞マーカーCD34を発現する前駆体が含まれる(Haddad et al., 2006; Hao et al., 2001)。さらに、ヒト胸腺中の最も原始的な細胞は、それらがT系統、ならびに、ナチュラルキラー(NK)、樹状細胞(DC)およびある程度は骨髄系統細胞を生ずること(Blom et al., 1997; La Motte-Mohs et al., 2007)から、多系統の潜在性を保有すること(Blom et al., 1997; Res et al., 1996; Weerkamp et al., 2006a)をいくつかのグループが立証している。T細胞発生の公知の階層のなかで、最も初期の前駆体サブセットはCD3、CD4、CD8およびCD1a発現のその欠如によってさらに定義される(Galy et al., 1993; Vanhecke et al., 1995)。
【0008】
T細胞発生の未成熟期は、典型的には、CD34+CD1a-(最も未熟)およびCD34+CD1a+細胞として描出されるが、これらの集団は不均一なままである。注目すべきは、CD7発現は、Tリンパ球産生の間に現れることが公知の最も初期の細胞表面マーカーの一つである(Haddad et al., 2006; Haynes et al., 1988)。重要なことには、初期胸腺細胞によるCD34+CD7+CD1a-からCD34+CD7+CD1a+への移行は、これらの細胞のごく一部(およそ10%)がT細胞受容体β鎖(TCRβ)遺伝子座の位置に再構築を有するように、T細胞コミットメントと関連している(Blom et al., 1999; Dik et al., 2005)。さらに、CD34+CD7+CD1a+細胞は、これらの細胞が非T細胞系統への低い前駆体活性を示すように、T系統拘束されるように思われる(Spits, 2002)。この時期の後、胸腺細胞はCD4未成熟な単一陽性(CD4ISP)期に進行し、この時点でCD8の非存在下CD4が発現される。その後、CD4ISP細胞のサブセットがTCRβ再構築を完了し、β-選択およびCD4+CD8+二重陽性(DP)期への分化をもたらすものと思われる。最終的に、TCRα再構築の後、TCRαβ発現性のDP胸腺細胞が陽性および陰性選択を受け、CD4+CD8-およびCD4-CD8+単一陽性(SP) T細胞を生み出し、これらが末梢へ遊出する(Vanhecke et al., 1997)。
【0009】
上記の時期に関する現時点での理解は、ヒト胎児または成人胸腺細胞サブセットの分析から、およびマウス胎仔胸腺器官共培養物(FTOC)の異種生着を用いインビトロでのT細胞発生を分析することによって得られた(Fisher et al., 1990; La Motte-Mohs et al., 2007)。これらの系はT細胞発生への重要な見識を与えたが、特異的な前駆体集団を評価する能力は、ヒト胸腺組織が必要なこと、および容易に分析できる前駆T細胞の数が限られていることを考慮すると、評価が困難なままであった。
【0010】
本発明者らの研究室の以前の研究によって、OP9-DL1細胞と共培養された臍帯血(UCB)由来HSCからヒトT系統分化を誘導できることが立証されている(La Motte-Mohs et al., 2005)。本発明者らは、未成熟なDP T系統細胞の産生を含めて、さまざまな細胞表面分子の正常な時期特異的発現を示した。しかし、これらの研究は定量的クローン分析を用いて行われなかったので、異なるUCB CD34+サブセットがT系統細胞を生じることができたかどうか、およびDelta様/NotchシグナルがCD34+ UCB細胞のT前駆体頻度に影響を与えるかどうかは未解決であった。さらに、機能的T細胞を作製できたかどうかは不明であった。最後に、本発明者らの初期研究(La Motte-Mohs et al., 2005)は、HSC/OP9-DL1分化の早期の間に、T前駆体に類似した細胞の集団が明らかになることを示したが、これらの細胞が有効なT細胞前駆体として働く可能性には取り組んでいなかった。
【発明の概要】
【0011】
概要
本発明者らは、インビトロでヒトT細胞発生早期を調べ、限界希釈および単一細胞アッセイ法を行って、さまざまなUCB由来CD34+幹/前駆体サブセットのT細胞前駆体頻度に取り組んだ。本発明者らは、Notchシグナルを受けたCD34+サブセットのなかでT細胞前駆体の潜在性を増強する際のDelta様/Notch相互作用の効果を評価した。さらに、限界希釈胸腺再構築手法を用いて、本発明者らの知見から、異なる組織培養に由来するT前駆体サブセットは、これらの細胞がOP9-DL1細胞上でのアッセイ時にT系統細胞をもたらす類似の潜在性を示すとはいえ、その胸腺生着有効性の点で異なることを明らかにした。具体的には、二つの異なるサブセットCD34+ CD7++ CD5- CD1a- (プロT1(proT1))およびCD34+ CD7++ CD5+ CD1a- (プロT2)を分析した。本発明者らはまた、成熟した機能的T細胞がインビトロで作製されること、およびこれらの細胞がTCR刺激によってT細胞エフェクタ機能を示すことを明らかにした。プロT細胞はIL-15との培養時にナチュラルキラー(NK)細胞をもたらすこともできる。
【0012】
総合して、これらの知見は、ヒトT細胞およびNK細胞の作製および研究のための前駆T細胞(プロT細胞)の使用を支持するものであり、細胞に基づく免疫再構築手法でのインビトロ作製プロT細胞、成熟T細胞およびNK細胞の使用への支持を提供するものである。
【0013】
したがって、本出願の一つの局面では、表現型CD34+CD7+CD1a-を有する単離された前駆T細胞を提供する。一つの態様において、単離された前駆T細胞は表現型CD34+CD7+CD5-CD1a-を有する。別の態様において、単離された前駆T細胞は表現型CD34+CD7+CD5+CD1a-を有する。
【0014】
別の局面において、本出願は、単離された前駆T細胞を適当な希釈剤または担体との混合状態で含む薬学的組成物を提供する。
【0015】
別の局面において、本出願は、成熟T細胞の調製、NK細胞の調製、胸腺の生着、免疫再構築、遺伝子治療に用いる遺伝子の担体としてのT細胞の増加を要する状態の処置を含めて、全ての用途でのヒト前駆T細胞の使用を提供する。
【0016】
本出願の他の特徴および利点は以下の詳細な説明から明らかになるであろう。しかしながら、詳細な説明および具体例は本出願の好ましい態様を示しているとはいえ、この詳細な説明から当業者には本出願の趣旨および範囲内の種々の変更および修正が明らかになるものと考えられるので、これらは単に例証として与えられていることが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
本出願の利点は、添付図面に関連して考慮すれば、以下の詳細な説明を参照することによってさらによく理解されるようになると容易に理解することができる。以下は図面の簡単な説明であり、これは本出願をさらに例証する目的のみで与えられており、本出願を限定する目的で与えられるものではない。
【0018】
【図1】OP9-DL1細胞上で培養されたCD34+ CD38-/lo HSC由来のヒトT系統細胞の発生進行。(A) OP9-DL1細胞との共培養前の精製ヒトCD34+ CD38-/lo HSC由来のCD34、CD5、CD1a、CD10、CD2、CD4、CD8、CD3およびCD7の細胞表面発現に関するフローサイトメトリー分析。(B, C) HSC/OP9-DL1共培養物を収集し、図のようにマーカーの発現について表示の時点でフローサイトメトリーにより分析した。データは少なくとも5つの独立の共培養物の代表である。プロット中の数値は各四分画内の細胞の割合を示す。
【図2】インビトロで作製されたT細胞前駆体の存在に関する分析。(A) 共培養開始前の0日目を含め、表示の時点で収集されたHSC/OP9-DL1共培養物由来のCD7およびCD45RAの発現に関するフローサイトメトリー分析。(B) CD34+ CD7++としてゲートをかけた細胞に対して示したCD45RA発現(下段)とともに、4、6および8日目の時点で収集されたHSC/OP9-DL1共培養物由来のCD7およびCD34発現のフローサイトメトリー分析(上段)。データは3つの独立の共培養物からの代表である。プロット中の数値は各四分画内の細胞の割合、およびRCN = 相対細胞数を示す。
【図3】OP9-DL1細胞上で培養されたCD34+ CD38-/lo HSCの遺伝子発現分析。(A) 6、10、14および18日間OP9-対照またはOP9-DL1細胞上で培養されたヒトCD34+ CD38-/lo HSCの定量的リアルタイムQ-PCR分析による遺伝子発現の時間的動態。(B) CD7+ CD1a-としてゲートをかけた細胞に対して示したCD34発現とともに、40日目のHSC/OP9-DL1共培養物由来のCD7およびCD1aの細胞表面発現に関するフローサイトメトリー分析。(C) (B)に示した通りの共培養物由来のサブセットCD34+ CD7++ CD1a-、CD34- CD7++ CD1a-、CD34- CD7++ CD1a+、CD34- CD7+ CD1a++のQ-PCRによる遺伝子発現分析。図の凡例を参照されたい。CD3+ T細胞およびCD33+骨髄性細胞をUCBサンプルの系統+ 画分から精製し、対照として役立てた。表示した遺伝子の転写産物レベルをヒトβ-アクチンに対して標準化した。これらのデータは3回の独立した実験の代表であり、示したSTD誤差バーは個別の実験のなかで三つ組のウェルから得た値に対応している。
【図4】インビトロで作製されたCD8+ T細胞の特徴付け。(A) 65日間OP9-DL1細胞上で培養されたヒトUCB由来HSCのCD8およびCD4の発現に関するフローサイトメトリー分析。CD8+ CD4-単一陽性(SP)細胞に、図のように、ゲートをかけ、CD27およびCD3の発現について分析し、CD3+ CD27-またはCD27+としてゲートをかけた細胞に対するCD1aの発現を示した(それぞれ、影付きおよび白抜きのヒストグラム)。(B〜D) 60〜70日目のHSC/OP9-DL1共培養物由来CD8 SP T細胞を図のCD8+ CD4-およびCD3+として精製し、抗CD3/CD28 mAbで5日間刺激した。CD45RO、CD27、MHCクラスIIおよびCD38の発現に関する刺激(S)または対照(非刺激、NS) CD8+ CD3+細胞のフローサイトメトリー分析(それぞれ、白抜きおよび影付きのヒストグラム) (B); 前方散乱光(FSC)強度によって測定した細胞サイズとともに、CFSEレベルおよびCD25 (下段) (C); ならびにCD3および細胞内グランザイムB (D)を示す。(E) 上記の実験(B)に由来する培養上清のヒトIFNγレベルをELISAによって決定した。統計的有意性を対応のないt検定によって測定した。* (p < 0.005) 2 μg/mlの抗CD3/CD28での刺激群 vs 非刺激対照。** (p < 0.0005) 10 μg/mlの抗CD3/CD28 vs 非刺激対照。データは、2回の独立した実験から得られた10 μg/mlでの刺激からのデータを除き、少なくとも3回の独立した実験の代表である。
【図5】FTOCでのインビトロ由来前駆T細胞サブセットによる生着および分化の分析。UCB CD34+ CD38-/lo HSCをOP9-DL1細胞上で13日間分化させ、CD34+ CD7++ CD5- (プロT1)およびCD34+ CD7++ CD5+ (プロT2)サブセットを(A)に示されるようにフローサイトメトリーによって選別し、FTOC (B)中に配し、または19日間 OP9-DL1細胞(C)上に戻した。細胞を収集し、CD45、CD7、CD34、CD5、CD1a、CD8およびCD4の細胞表面発現について分析した。データは3回の独立した実験の代表であり、実験では、選別されたプロTサブセット1.5×104個を胎仔胸腺葉の対の中にまたはOP9-DL1細胞を含有するウェルに配した。
【図6】CD34+ CD7++ CD5-およびCD34+ CD7++ CD5+ プロT細胞サブセットの遺伝子発現分析。(A) 14日目のHSC/OP9-DL1共培養物からのフローサイトメトリーによる細胞選別で精製されたCD34+ CD7++ CD5- (プロT1)細胞およびCD34+ CD7++ CD5+ (プロT2)細胞のQ-PCR分析。ヒト出生後胸腺(PNT)のLin-画分から得られた胸腺細胞を対照サンプルとして役立てた。表示した遺伝子[Ccr9 (CD199)、Selplg1 (PSGL-1, CD162)、Itga2 (α2, CD49b)、Itga4 (α4, CD49d)、Itga5 (α5, CD49e)およびItgb1 (β1, CD29)]の転写産物レベルをヒトβ-アクチンに対して標準化した。これらのデータは3回の独立した実験の代表であり、示したSTD誤差バーは個別の実験のなかで三つ組のウェルから得た値に対応している。(B) 11日目のHSC/OP9-DL1共培養物由来のゲートをかけたCD34+ CD7++ CD5- (プロT1、白抜き)細胞およびCD34+ CD7++ CD5+ (プロT2、影付き)細胞上のCD49dの細胞表面発現に関するフローサイトメトリー分析。
【図7】異なる時点でのHSC/OP9-DL1共培養物の全細胞充実性の分析。四つの個別の臍帯血由来ヒトCD34+ CD38-/lo HSC (1×104個)を、OP9-DL1細胞を含有する6ウェルプレートのウェルの中に配した。トリパンブルー排除に基づき血球計を用い顕微鏡下で細胞をカウントすることにより表示の時点で細胞充実性を判定し、表示の日数で得られた細胞充実性をHSCの初期投入量で割って増殖倍数(fold expansion)を決定した。
【図8】限界希釈アッセイ法での前駆体頻度の決定に用いたUCB由来CD34+サブセットの特徴付け。系統欠失UCB細胞にゲートをかけてCD7発現細胞を排除し、CD34+ CD38-、CD34+ CD38loおよびCD34+ CD38+/hiサブセットに選別し、OP9-DL1細胞上にプレーティングし、11日間培養した。限界希釈アッセイ法の結果は表Iに示してある。
【図9】CD34+ CD7++ CD5-およびCD34+ CD7++ CD5+サブセットの遺伝子発現分析。14日目のHSC/OP9-DL1共培養物から選別されたCD34+ CD7++ CD5- (プロT1)細胞およびCD34+ CD7++ CD5+ (プロT2)細胞のCebpαおよびGata-2発現に関するQ-PCR分析。UCBのLin+画分から得られたヒトPNTまたはCD33+骨髄性細胞から得たLin-胸腺細胞を対照として役立てた。表示した遺伝子の転写産物レベルをヒトβ-アクチンに対して標準化した。これらのデータは3回の独立した実験の代表であり、示したSTD誤差バーは個別の実験のなかで三つ組のウェルから得た値に対応している。
【図10】長時間HSC/OP9-DL1共培養物の分析。40、80および120日間OP9-DL1細胞上で培養されたCD34+ CD38-/lo細胞をCD7、CD34、CD8およびCD4の発現についてフローサイトメトリーにより分析した。これらのデータは少なくとも5回の独立した実験の代表である。
【図11】(上側パネル) 表示マウスの胸腺でのFSCおよびSSCゲーティングによるリンパ球のフローサイトメトリー分析およびゲーティング。(下側パネル) 生リンパ球のゲーティングに続いて、細胞をSSCおよびヒトCD45染色に基づき分析した。プロット中の数値は各四分画内の細胞の割合を示す。
【図12】二匹の再構築マウスの胸腺由来CD34、CD7、CD5およびCD1aの発現に関するCD45+にゲートを設定したフローサイトメトリー分析。プロット中の数値は各四分画内の細胞の割合を示す。
【図13】二匹の再構築マウスの胸腺由来CD4、CD8およびCD3細胞表面発現の発現に関するCD45+にゲートを設定したフローサイトメトリー分析。プロット中の数値は各四分画内の細胞の割合を示す。
【図14】生リンパ球のゲーティングに続いて、細胞を表示マウスの胸腺からのSSCおよびヒトCD45染色に基づき分析した。プロット中の数値は各四分画内の細胞の割合を示す。
【図15】HSC再構築(上側)マウスおよびプロT再構築(下側)マウスの胸腺由来CD4、CD8およびCD3細胞表面発現の発現に関するCD45+にゲートを設定したフローサイトメトリー分析。挿入図のプロットは、CD3hiにゲートを設定した細胞のCD4およびCD8発現を示す。プロット中の数値は各四分画内の細胞の割合を示す。
【図16】NOD/SCID γc-/-図面説明。CD34+ HSCまたはCD34+CD7+前駆T細胞のどちらかを受けたNOD/SCID γc-/-マウス由来の胸腺のフローサイトメトリー分析。生リンパ球のゲーティングに続いて、細胞をSSCおよびヒトCD45ゲーティングの後にCD7、CD5、CD1a、CD4およびCD8発現の発現について分析した。プロット中の数値は各四分画内の細胞の割合を示す。
【図17】OP9-対照、OP9-DL1およびOP9-DL4細胞上で分化するように誘導されたヒトHSCのフローサイトメトリー分析。生リンパ球のゲーティングに続いて、24日目の共培養細胞をCD4、CD8およびプレTα(pre-Tα)発現の発現について分析した。プロット中の数値は各四分画内の細胞の割合を示す。
【図18】OP9-対照、OP9-DL1およびOP9-DL4細胞上で分化するように誘導されたヒトHSCのフローサイトメトリー分析。生リンパ球のゲーティングに続いて、24日目の共培養細胞をCD7、CD1aおよびCD5 (右3列)発現の発現について分析した。(A) CD7+CD1a++ (より成熟なT細胞)、(B) CD7++CD1a+ (コミットされたT細胞)および(C) CD7++CD1a- (前駆T)に対応するT細胞集団(左列)にゲートを設定し、これをA、BまたはCと表示した対応する集団の各々でのCD5 (右3列)の発現について調べた。プロット中の数値はゲートをかけた各集団内の細胞の割合を示す。
【図19】OP9-DL1およびOP9-DL4細胞との共培養によってT系統へ分化するように誘導されたヒトHSCのフローサイトメトリー分析。生リンパ球のゲーティングに続いて、40日目の共培養細胞をCD7、CD1a、TCR-αβおよびTCR-γδ発現の発現について分析した。(A) CD7+CD1a++ (より成熟なT細胞)、(B) CD7++CD1a+ (コミットされたT細胞)および(C) CD7++CD1a- (前駆T)に対応するT細胞集団(上列)にゲートを設定し、これをA、BまたはCと表示した対応する集団の各々でのTCR-αβ(左パネル、下3列)およびTCR-γδ(右パネル、下3列)の発現について調べた。プロット中の数値はゲートをかけた各集団内の陽性細胞の細胞割合を示す。
【図20】OP9-対照、OP9-DL1およびOP9-DL4細胞上で分化するように誘導されたヒトHSCのフローサイトメトリー分析。生リンパ球のゲーティングに続いて、40日目の共培養細胞をCD3、V-ベータ(Vβ)-3、5、8、23の発現について分析した(右パネル)。対応するアイソタイプ対照を示してある(左パネル)。プロット中の数値は各四分画内の細胞の割合を示す。
【図21】プロT1細胞はインビトロでプロT2細胞を直接生ずる。CD34+ CD7++ CD5- (プロT1)細胞およびCD34+ CD7++ CD5+ (プロT2)細胞のフローサイトメトリー分析。左側パネル、選別されたインビトロ作製プロT1細胞をOP9-DL1細胞上に配し、細胞表面CD5の獲得を表示時点で調べた。右側パネル、対照として、プロT2を選別し、OP9-DL1細胞上で再培養した。示したプロットは全て、分析のためCD34+ CD7++発現についてゲートをかけた。
【図22】CD34+ CD7++ CD5- (プロT1)細胞およびCD34+ CD7++ CD5+ (プロT2)細胞のナチュラルキラー(NK)細胞分化能。10日目のHSC/OP9-DL1共培養物から選別されたプロT1およびプロT2細胞を、rhIL-15 (5 ng/mL)を補充したOP9-対照細胞上に配した; またはプロT1およびプロT2細胞をOP9-DL1細胞上に戻した。NK細胞系統マーカーCD56の発現を培養12日後に調べた。
【図23】ヒトプロT2細胞は免疫不全マウスの胸腺に効果的に生着し、UCB由来HSCの胸腺生着を促進する。免疫不全マウスへインビトロ由来プロT2細胞と同時注射されたHSCの胸腺生着および分化の分析。ヒトUCB CD34+ CD38-/lo (HLA-A2-)細胞を10〜12日間OP9-DL1細胞上で分化させ、CD34+ CD7++ CD5+ (プロT2)細胞をフローサイトメトリーによって選別した。プロT2細胞を選別した同日に、ヒトUCB CD34+ CD38-/lo (HLA-A2+)細胞も選別した。同じ同腹仔由来の放射線照射(130 cGy)新生仔NOD/SCID/γc無マウスにHSC 3.5×104個、プロT2細胞2.5×105個、またはプロT2細胞2.5×105個と混合したHSC 3.5×104個を肝内注射した。骨髄(BM)、脾臓および胸腺を注射から6週後に収集し、単細胞懸濁液を得て、フローサイトメトリーによって分析した。この分析はCD45+細胞上のHLA-A2発現の非存在(プロT2由来)または存在(HSC由来)に基づく、ヒトCD45+細胞およびドナー細胞型(HSC由来-A2+またはプロT2由来-A2-)に対してのゲーティングによって行った。HSCのみ、HSC+プロT2およびプロT2のみで処置されたマウス由来の(A) BMおよび(B)脾臓のCD45およびHLA-A2の細胞表面発現に関するフローサイトメトリー分析を示す。下側の列はCD45+ HLA-A2+ (第二列; HSC由来)およびCD45+ HLA-A2- (第三列; プロT2由来)にゲートを設定した細胞のCD19およびCD33細胞表面染色を示す。(C) HSCのみ、HSC+プロT2およびプロT2のみで処置されたマウス由来の胸腺のCD45およびHLA-A2の細胞表面発現に関するフローサイトメトリー分析を示す。上側の列はCD45およびHLA-A2細胞表面染色を示す。下側の列はCD45+ HLA-A2+ (第二列; HSC由来)およびCD45+ HLA-A2- (第三列; プロT2由来)にゲートを設定した細胞のCD45およびCD3細胞表面染色を示す。(D) HSC+プロT2同時注射マウス由来の胸腺のフローサイトメトリー分析。上側の列はCD45およびHLA-A2細胞表面染色を示す。下側の列はCD45+ HLA-A2+ (第二列; HSC由来)およびCD45+ HLA-A2- (第三列; プロT2由来)にゲートを設定した細胞のCD8およびCD4細胞表面染色を示す。
【図24】ヒトESCおよびヒトiPSCは、OP9-DL1細胞またはOP9-DL4細胞との共培養によって早期ヒトT系統前駆細胞を産生することができる。(A) 二段階プロトコル法(詳細は本書を参照のこと)を用いて、胚様体から選別されたCD34++細胞をOP9-DL1細胞上に配し、培養20日後にCD5およびCD7の細胞表面発現について調べた; ならびに、(B) 胚様体を形成するように凝集されたヒトiPSCを引き続き、造血系統へ分化するように誘導し、選別されたCD34++細胞をOP9-DL4細胞上に配し、図のようにフローサイトメトリーによりCD7およびCD5の発現について分析した。
【発明を実施するための形態】
【0019】
詳細な説明
T細胞発生は規定の一連の時期特異的な分化段階にしたがうことが知られている。しかしながら、ヒトT細胞発生の早期に起こる分子事象および細胞事象は、これまで十分に解明されていない。これに取り組むため、ヒト臍帯血(UCB)に由来する造血幹細胞(HSC)をOP9-DL1細胞との共培養によってT系統に分化するよう誘導した。早期の、連続的なかつ時間的に不連続なCD34、CD7、CD45RA、CD5、CD1a、CD2およびCD4発現によって浮き彫りになる発生プログラムが明らかになった。定量的クローン分析から、CD34+ CD38-およびCD34+ CD38loサブセットのUCB細胞が4細胞中1細胞の同様に高いT細胞前駆体頻度を含むことが実証されたのに対し、CD34+ CD38+/hi細胞の頻度は5倍低かった。Delta様/Notch誘導シグナルがOP9-DL1によって分化するUCB CD34+ CD38-/lo細胞のT細胞前駆体頻度に影響を与えうるかどうかについて取り組むため、二つの異なるサブセットCD34+ CD7++ CD5- CD1a- (プロT1)およびCD34+ CD7++ CD5+ CD1a- (プロT2)を分析したところ、両方のサブセットは2倍の頻度増加を示した。本発明者らは、これらの前駆体サブセットがマウス胸腺に成功裏に生着し、インビトロでCD4およびCD8ヒトT細胞に分化しうることを立証した。驚くべきことに、インビトロで作製されたプロT2細胞は、より未成熟なプロT1前駆体サブセットよりもインビトロでの胸腺生着能の3倍の増強を示した。プロT2細胞は、プロT1細胞よりもインビボでの胸腺生着能のほぼ3倍の増強も示した。これらのサブセットのさらなる分析は、プロT2細胞がプロT1細胞よりも高いレベルのCCR9、PSGL-1および主要なインテグリンを発現し、これが生着能の増強を可能にしうることを明らかにした。さらに、本発明者らは、ヒトHSC/OP9-DL1の共培養が成熟した機能的αβ-T細胞受容体/CD3+ CD8 T細胞の作製を支持することも実証する。さらに、IL-15の存在下で、プロT細胞はナチュラルキラー(NK)細胞を生じうる。ヒト造血幹細胞に加えて、プロT細胞はまた、胚性幹細胞から作製されることができ、多能性幹細胞から誘導されうる。最後に、本発明者らは、FTOC内での胸腺再構築能を実証するインビトロでの研究を、前駆T細胞の肝内注射を通じてマウスの免疫不全系統内でのヒト胸腺再構築を示すインビボモデルへ拡げた。まとめると、インビトロで機能的に成熟なT細胞およびNK細胞に容易に分化し、FTOC (インビトロ)でも免疫不全マウス(インビボ)でも生着する、規定のインビトロで作製されたT前駆体サブセットの作製および同定は、免疫不全の処置に向けた細胞に基づく免疫再構築の手法を改善するのに重要な道を拓くことができる。
【0020】
I. 前駆T細胞
広くは、本出願は単離された前駆T細胞を提供する。
【0021】
一つの局面において、本出願は、表現型CD34+CD7+CD1a-を有する単離されたヒト前駆T細胞を提供する。一つの態様において、単離された前駆T細胞は表現型CD34+CD7+CD5-CD1a-を有する(プロT1)。別の態様において、単離された前駆T細胞は表現型CD34+CD7+CD5+CD1a-を有する(プロT2)。具体的な態様において、プロT2細胞はCCR9、PSGL-1およびインテグリンを発現する。
【0022】
本明細書において用いられる「単離された」という用語は、前駆細胞がその天然の環境において該細胞とともに見られる細胞物質または生体物質から分離されまたは精製されていることを意味する。それはかくして、細胞を、その天然に存在する状態から区別する。
【0023】
「細胞(a cell)」または「細胞(the cell)」という用語は複数の細胞を含む。
【0024】
本明細書において用いられる「前駆T細胞」または「プロT細胞」という用語は、成熟T細胞またはリンパ球に成熟できるT細胞を意味する。成熟T細胞はCD4+およびCD8+ T細胞を含む。リンパ球はCD56+ NK細胞を含む。
【0025】
前駆T細胞は、好ましくはヒトのものであり、幹細胞または前駆細胞に由来する。幹細胞または前駆細胞は、非限定的に、臍帯血、胚、胚組織、胎生組織、骨髄および血液を含む、任意の適当な供給源から得ることができる。一つの態様において、幹細胞または前駆細胞は、造血幹細胞または前駆細胞である。別の態様において、幹細胞は胚性幹細胞である。さらなる態様において、幹細胞は誘導された多能性幹細胞である。治療用途の場合、前駆T細胞を作製するために用いられる幹細胞または前駆細胞は、好ましくは処置される患者から得ることができる。
【0026】
前駆T細胞は、当技術分野において公知の技術によって幹細胞または前駆細胞から単離することができる。典型的には、細胞を含有するサンプルをまず初め、非幹細胞または成熟細胞について枯渇させる。
【0027】
当技術分野において公知の陰性および陽性選択法を前駆細胞の濃縮に用いてもよい。例えば、蛍光活性化細胞選別装置、またはある種の細胞表面抗原を有する細胞に結合する磁気ビーズを用い細胞表面抗原に基づいて細胞を選別することができる。陰性選択カラムを用いて、系統特異的表面抗原を発現している細胞を除去することができる。
【0028】
一つの態様において、幹細胞または前駆細胞を含有するサンプルを、系統陰性(Lin-)および系統陽性(Lin+)画分に分離する。CD34+細胞についてLin-画分を選別することができる。
【0029】
濃縮された前駆細胞または幹細胞を、プロT細胞を作製するのに適した条件の下で培養する。好ましくは、プロT細胞を形成させるのに十分な時間、一種または複数種のNotchリガンドの存在下で細胞を培養する。より好ましくは、Notchリガンドを発現している細胞の存在下で幹細胞を培養する。これは、参照により本明細書に組み入れられるUS-2004-0171148-A1に詳細に記述されている。
【0030】
一つの態様において、Notchリガンド細胞調製物とともに6 cmまたは10 cmの組織培養処理皿の中で前駆細胞または幹細胞を培養する。例えば、培養液中の造血前駆細胞または胚性幹細胞の濃度は、1〜109個、好ましくは1×102〜1×106個、より好ましくは1×103〜1×104個である。特定の態様において、Delta様-1またはDelta様-4を発現しているOP9細胞の単層上で造血前駆細胞または胚性幹細胞(約1〜5×104個の細胞)を培養する。
【0031】
プロT細胞のコミットメントおよび分化を促進する一種または複数種の陽性サイトカインを培養液に加えてもよい。サイトカインは起源がヒトであってよく、または他の種に由来してもよい。培養液中のサイトカインの濃度は、典型的には約1〜10 ng/mlである。以下は、本出願において利用できるサイトカインの代表例である: FGF-4およびFGF-2を含む線維芽細胞増殖因子(FGF)ファミリーの全ての成員、Flt-3リガンド、ならびにインターロイキン-7 (IL-7)。好ましくは、本明細書において用いられるサイトカインは、Flt-3リガンドおよびIL-7である。サイトカインを、ヘパリン硫酸のようなグリコサミノグリカンの等モルまたはそれ以上の量と組み合わせて用いてもよい。サイトカインは市販されており、または組み換えDNA技術により産生され、さまざまな度合いに精製されてもよい。サイトカインのいくつかは標準的な生化学技術によって細胞株の培地から精製することができる。
【0032】
前駆細胞および幹細胞は、馴化培地、非馴化培地または胚性幹細胞培地を含む培地中で培養されてもよい。適当な馴化培地の例としては、胚性線維芽細胞(例えばヒト胚性線維芽細胞もしくはマウス胚性線維芽細胞)で馴化されたIMDM、DMEMもしくはαMEM、または等価な培地が挙げられる。適当な非馴化培地の例としてはイスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)、DMEMもしくはαMEM、または等価な培地が挙げられる。培地は血清(例えばウシ血清、ウシ胎仔血清、仔ウシ血清、ウマ血清、ヒト血清もしくは人工的な血清代替物)を含んでもよく、または培地は無血清であってもよい。
【0033】
培養条件は、調製物中の細胞がプロT細胞を形成するように十分な時間、前駆細胞または幹細胞を培養することを伴う。細胞は、一般的には4〜50日、好ましくは5〜20日間培養液中で維持される。所望の細胞組成を達成するのに必要とされる適切な時間、細胞を維持できることを理解されたい。
【0034】
したがって、本出願は、(a) 幹細胞または前駆細胞を含むサンプルを、Notchリガンドを発現する細胞とともに培養する段階および(b) プロT細胞を単離する段階を含む、プロT細胞を作製する方法を提供する。Notchリガンドを発現する細胞は、好ましくはDL1またはDL4を発現するOP9細胞である。プロT細胞は表現型CD34+CD7+CD1a-によって特徴付けることができる。
【0035】
本出願の方法は多数のプロT細胞の作製を可能にする。プロT細胞は、T細胞の形態学的、生理学的、機能的および/または免疫学的特徴を示す細胞に分化する可能性を示す、または有する。成熟T細胞を形成する能力を有する多数のプロT細胞の作製によって、それらは細胞療法において非常に有用となる。
【0036】
別の態様において、前駆T細胞は、HSCのような幹細胞をOP9-DL1細胞またはOP9-DL4細胞と共培養し、細胞を分画し、所望の表現型の細胞を収集することにより得られる。分画段階は、当技術分野において公知の任意の適当な細胞分離技術、例えば(密度勾配、強磁性ビーズサイトメトリーおよび蛍光活性化細胞選別) バイオリアクタ(matrices)を伴うことができる。具体的には、OP9-DL1またはOP9-DL4細胞上で培養された細胞をCD5+ (プロT2)およびCD5- (プロT1)サブセットにさらに分画することができる。プロT2サブセットを好ましくは、T細胞生着に用いることができる。
【0037】
別の態様において、前駆T細胞は、適切な条件の下で培養される場合にNK細胞を作製するために用いることができる。NK細胞を作製するのに適した条件は、プロT細胞をIL-15またはIL-2のようなサイトカインとともに培養することを含む。プロT細胞をOP-9細胞のような間質細胞とともに培養することもできる。したがって、本出願は、a) 単離された前駆細胞をIL-15とともに培養する段階およびb) NK細胞を単離する段階を含む、ナチュラルキラー(NK)細胞を作製する方法を提供する。NK細胞は表現型CD56+によって特徴付けることができる。
【0038】
II. 薬学的組成物
別の局面において、本出願は、単離されたプロT細胞および薬学的に許容される希釈剤または担体を含む薬学的組成物を提供する。
【0039】
適当な希釈剤および担体は、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciencesに記述されている。これに基づき、組成物は、一つまたは複数の薬学的に許容される媒体または希釈剤と関連する、ならびに適したpHおよび等浸透圧を伴い、生理学的液体を伴う緩衝液に含有されるプロT細胞の溶液を含むが、これらに限定されるものではない。
【0040】
薬学的組成物は、非限定的に、凍結乾燥粉末または水性もしくは非水性の無菌注射溶液もしくは懸濁液を含み、これらは抗酸化剤、緩衝液、静菌薬および対象とする受容者の組織または血液と組成物を実質的に適合させる溶質をさらに含有してもよい。このような組成物に存在してもよい他の成分には、例えば、水、界面活性剤(Tween(商標)など)、アルコール、多価アルコール、グリセリンおよび植物油が含まれる。即時調製注射溶液および懸濁液は、無菌粉末、顆粒、錠剤、または濃縮溶液もしくは懸濁液から調製することができる。組成物は、例えば、限定する目的ではないが、患者への投与の前に無菌水または無菌食塩液で再構成される凍結乾燥粉末として供給することができる。
【0041】
薬学的に許容される適当な担体は、薬学的組成物の生物学的活性の有効性を妨害することのない本質的に化学的に不活性なかつ無毒性の組成物を含む。適当な薬学的担体の例としては、水、生理食塩溶液、グリセロール溶液、エタノール、N-(1(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル)N,N,N-トリメチルアンモニウムクロライド(DOTMA)、ジオレシルホスホチジル-エタノールアミン(DOPE)、およびリポソームが挙げられるが、これらに限定されることはない。このような組成物は、患者への直接投与のための形態をもたらすよう適当な量の担体とともに、治療的有効量の化合物を含有すべきである。
【0042】
本出願の組成物は、例えば、非経口投与、静脈内投与、皮下投与、筋肉内投与、頭蓋内投与、眼窩内投与、眼科的投与、脳室内投与、関節内投与、髄腔内投与、大槽内投与、腹腔内投与、鼻腔内投与、エアロゾル投与または経口投与によって投与することができる。非経口投与の場合、本明細書において記述されるプロT細胞の溶液をヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤と適当に混合された水の中で調製することができる。分散液を、アルコールを含むまたは含まないグリセロール、液体ポリエチレングリコール、DMSOおよびその混合物中で、ならびに油中で調製することもできる。通常の保存および使用条件の下で、これらの調製物は微生物の増殖を防止するための保存剤を含有する。当業者は、適当な処方物を調製する方法を承知しているであろう。
【0043】
好ましくは、プレT細胞は、それを必要とする哺乳類における疾患状態を処置するのに有効な量で存在する。一つの態様において、プレT細胞は、それを必要とする哺乳類における造血前駆細胞の生着を増強するのに有効な量で存在する。任意で、組成物はプレT細胞、または移植用組織をさらに含んでもよい。一つの態様において、組織は胸腺を含む。別の態様において、組織は器官を含む。
【0044】
III. 用途
本出願はありとあらゆる用途でのプロT細胞の使用を含む。
【0045】
A. 遺伝子改変
本出願の方法を用いて作製されたプロT細胞は、天然においてまたはインビボもしくはインビトロで遺伝子操作技術によって遺伝的に改変(形質導入または形質移入)されてもよい。細胞中の遺伝子に変異を導入することによって、または細胞に導入遺伝子を導入することによって細胞を改変することができる。標準的な技術を用いて細胞に挿入または欠失変異が導入されてもよい。選択可能なマーカーをコードする遺伝子を、細胞に組み込んでもよい。
【0046】
本出願の一つの局面は、細胞またはそれに由来する細胞が、インビトロまたはインビボで、その細胞においては生物学的に有意な量で通常産生されない、または少量でしかし調節的発現が治療的有用性につながりうる状況で産生される、ポリペプチド、ホルモンおよびタンパク質を産生するように遺伝子操作されているプロT細胞に関する。例えば、通常注射される用量に適合するレベルでインスリンを発現する遺伝子で、または疾患を引き起こす遺伝子の欠損もしくは異常を補いうる遺伝子で細胞を遺伝子操作することができよう。あるいは、正常に発現されているタンパク質がもっと低いレベルで発現されるように細胞を改変することもできよう。これらの産物はそれから、周囲の培地に分泌されまたは細胞から精製されよう。このようにして形成された細胞は、発現物質の連続的な短期または長期産生系として働くことができる。
【0047】
このように、本出願のこの局面によれば、本出願の方法を用いて作製されたプロT細胞を関心対象の遺伝物質で改変することができる。改変細胞を、それらが遺伝子発現の産物を発現するか、発現産物を分泌するかできるように適当な条件の下でインビトロにおいて培養することができる。これらの改変細胞を、発現産物が有益な効果を有するように投与することができる。
【0048】
さらなる態様において、形質導入されたプロT細胞(成熟T細胞を形成する可能性を有する)を、遺伝子産物を発現するT細胞に分化するようにインビボで誘導することができる。例えば、形質導入された細胞は、形質導入遺伝子を有するT細胞の産生を誘導するように投与されてもよい。細胞は他の細胞との混合物でまたは別々に投与されてもよく、標的域に送達されてもよい。細胞は静脈内に導入され、標的域に誘導されてもよい。あるいは、細胞は単独で用いられ、インビボで分化させてもよい。
【0049】
このように、遺伝子を細胞に導入することができ、これを今度は、該遺伝子の発現が治療効果を有するレシピエントに注射する。例えば、インスリン遺伝子を細胞に導入して、骨髄および末梢血におけるインスリンの一定の治療用量を提供してもよい。
【0050】
インビボでのある種の遺伝子産物のT細胞による発現の増強を可能とするのに不可欠な遺伝子のさらなるコピーを産生するように技術が用いられてもよい。これらの遺伝子は、例えば、ホルモン、マトリックスタンパク質、細胞膜タンパク質およびサイトカインであることができる。
【0051】
具体的な態様において、プロT細胞は、腫瘍抗原、ウイルス抗原または細菌抗原のような抗原を認識するように遺伝子操作される。したがって、標的抗原に対する免疫反応は、抗原特異的な前駆T細胞を投与することによって増強されよう。
【0052】
B. 治療用途
インビトロに由来するヒト前駆T細胞を作製でき、ヒト/マウス免疫生着モデルにおいてその安全性を試験できることで、T系統の免疫関連障害を処置するための細胞に基づく手法に道が開ける(Legrand et al., 2006; van den Brink et al., 2004)。T細胞は、ウイルス性および細菌性病原体の認識および除去で適応免疫系の主要なエフェクタ部門である。T細胞性急性リンパ芽球性白血病(T-ALL)のようなある種の稀有な血液がんでは、T細胞が増殖し、健常な免疫細胞を締め出して、正常な免疫機能をかき乱す(Ferrando et al., 2002; Weng et al., 2004)。化学療法は、がん患者において治療的有用性を与えられることが多いものの、免疫不全および日和見感染に対する感受性を招きうることも多い。日和見感染はまた、CD4+ T細胞がHIV感染後に枯渇しているAIDS患者では深刻な懸念をもたらす。免疫不全はHIV/AIDSおよびがんでは依然として深刻な懸念であるが、適正な調節的制御を欠くT細胞が自己組織に免疫反応する自己免疫疾患では免疫過反応性が等しく問題である。
【0053】
したがって、本出願は、有効量の前駆T細胞を、それを必要とする動物に投与する段階を含む、T細胞数の増加を要する状態を抱えた動物を処置する方法を含む。
【0054】
本明細書において用いられる場合、「有効量」または「治療的有効量」という語句は、所望の結果を達成するのに必要な投与量および期間で、有効な量を意味する。有効量は、動物の疾患状態、年齢、性別、体重のような要因によって異なりうる。そのような量に相当する所与の細胞調製物の量は、薬学的処方、投与経路、疾患または障害のタイプ、処置される被験体または宿主の固有性などのような、さまざまな要因に応じて異なるが、それでもなお、当業者によって日常的に判定されうる。「有効量」は、好ましくは、処置される被験体に前駆T細胞が生着するのに有効な量であろう。
【0055】
「処置する」または「処置」という用語は、本明細書において用いられ、当技術分野において十分に理解されているように、臨床結果を含めて、有益なまたは所望の結果を得るための手法を意味する。有益なまたは所望の臨床結果は、検出可能であれ検出不能であれ、一つまたは複数の症状または状態の軽減または改善、疾患の程度の縮減、疾患の安定化した(すなわち、悪化していない)状態、疾患の広がりの阻止、病状進行の遅延または緩徐化、疾患状態の改善または緩和、疾患の再発の縮減、および寛解(部分寛解であれ完全寛解であれ)を含むことができるが、これらに限定されることはない。「処置する」および「処置」とは、処置を受けていなければ予測される生存時間と比べて生存時間を延ばすことを意味することもできる。本明細書において用いられる「処置する」および「処置」とは、予防的処置も含む。
【0056】
本明細書において用いられる「動物」という用語は、動物界の任意の成員を意味し、好ましくはヒトである。
【0057】
「T細胞数の増加を要する状態」とは、非限定的に、免疫不全、がん、遺伝子疾患、感染性疾患および自己免疫を含め、健常動物と比べてT細胞レベルが低減している任意の状態を含み、そのいくつかを以下で詳細に記述する。
【0058】
(i) がん
2005年には、128,000人近い個体が北米で骨髄腫、リンパ腫および白血病と診断された(US & Canada)。これらの血液がんの積極的な骨髄機能廃絶化学/放射線療法の後、これらの個体は免疫不全になる可能性があり、その免疫系を元に戻すまたは回復するには幹細胞移植を要する。実際に、北米では毎年、9,000人の個体が幹細胞移植を受けている。HSCは骨髄、GM-CSF動員末梢血または臍帯血から得ることができるが、ほとんどの幹細胞移植では、ふさわしい主要組織適合ドナーの発見から、GvHDの阻止、宿主へのドナー免疫系の生着の成功まで、いくつかの臨床的課題が現れる(Socie, 2005)。ほとんどの免疫細胞は移植後に素早く回復するが、T細胞では、細胞数および機能という点で回復には最も多くの時間(およそ2年)がかかる(Petropoulos and Chan, 2005)。これはおそらく、個体が曝露されるであろう環境抗原および病原性抗原の範囲を網羅するのに必要な広いTCRレパートリーにより決定付けられる。その広いレパートリーが再構築されるまで、日和見感染の出現を許す、切れ目が存在してしまうかもしれない。
【0059】
したがって、本出願は、前駆T細胞の有効量を、それを必要とする動物に投与する段階を含む、がんを処置または予防する方法を提供する。
【0060】
一つの態様において、プロT細胞は腫瘍特異性抗原を認識するように遺伝子操作されている。例えば、前駆T細胞を、ある種の乳癌、ならびにバーキットリンパ腫、神経芽細胞腫、悪性黒色腫、骨肉腫および腎細胞癌において見られる腫瘍特異性抗原を認識するように製造することができよう(Renkvist et al., 2001)。慢性骨髄性白血病(CML)または急性リンパ性白血病(ALL)の処置のためにCD8+ウィルムス腫瘍(WT1)遺伝子特異的な細胞傷害性Tリンパ球クローンを利用するのがこの遺伝的手法の一例である。したがって、前駆T細胞移植を幹細胞移植による補助療法として用い、末期疾患を有する患者においてT細胞区画を素早く再構築するか、または破壊のためにがん細胞を特異的に標的化するかできよう(van den Brink et al., 2004)。
【0061】
(ii) HIV/AIDS:
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の感染後に起こる後天性免疫不全症候群(AIDS)は、CD4ヘルパーT細胞数の慢性的な減少によって特徴付けられる。CD4 T細胞は、ウイルス感染細胞を溶解する「キラー」CD8細胞傷害性T細胞の機能を維持するのに役立つ重要な免疫細胞または白血球である(Grossman et al., 2006)。AIDSは、世界でこの疾患を抱えて生きている人が推定3800万人、北米だけでも症例が160万件と、世界的規模の流行病となった。高活性抗レトロウイルス療法(HAART)、つまりいくつかの抗HIV薬[すなわち、ビラミューン(ネビラピン)、レスプリプター(デラビルジン)、インビラーゼ(サキナビル)およびノルビル(リトナビル)]の組み合わせを含む現行の処置計画は、ウイルス負荷の低減およびHIV感染個体の延命には効果的であったが、さまざまな理由(すなわち、毒性、経済的負担、政治的無関心、およびこれらの薬物に対するHIVの耐性の進化)で長い期間にわたり実施/達成/維持するのは困難だということが分かっている。実際に、HAARTでは周期的に「中休み」/休止期間を与えて、患者が抗ウイルス薬による毒性から回復するのを可能にすることが多い。結果として、HIVの耐性の進化と歩調を合わせ、現行の処置計画を増強してまたはそれに置き換わって、T細胞数を回復または維持しうるさらに効果的な薬物および/または細胞に基づく治療法(すなわちワクチンまたは幹細胞手法)を見つけ出すという関心が存在し続けている。
【0062】
HIV/AIDSの場合、本出願の価値は、HAARTが役に立たなかったまたは薬物毒性によってHAARTを使えなくなった個体に治療的有用性を与えうる多数の、インビトロで作製された前駆T細胞を生み出せることでありうる。前駆T細胞に基づく治療法の一つの利点は、抗レトロウイルス薬と比べてこれらの細胞のごく小さい毒性および副作用であろう。HAARTをあきらめたこの個体部分集団に利用できる処置選択肢が少ないことを考慮すると、前駆T細胞の使用は実行可能な選択肢でありえる。これらの前駆T細胞およびそのCD4+子孫細胞が再びインビボでHIV感染にさらされ、複合的処置を要するであろうが、インビトロで非感染細胞を増殖させ、インビボでT細胞数を回復させる能力は、計画されたHAARTの「中休み」または失敗中のしばらくの間に免疫機能を回復させ、日和見感染の出現を制限するのに役立ちうる。これは、治療可能性に向けてのこの技術の二つの将来的拡張を提示するものである。第一に、OP9-DL1共培養系は、HAARTとの組み合わせで補助療法としての、またはHAARTが周期的に中断される時には単独型の治療法としての治療可能性を持ちうる。がんの場合と同様に、OP9-DL1共培養系は、HIV感染抵抗性のデザイナーT細胞を作製するための新生の遺伝的手法に適する。そのような革新的手法の一例は、前駆T細胞でのウイルス感染を遮断する変異型のケモカイン共受容体CCR5の発現であろう(Markovic, 2006; Samson et al., 1996)。そのような手法は、HIV感染を防ぎ、かくしてT細胞数およびT細胞機能を維持することによりHIV/AIDSを処置する新規の手段を与えるものと考えられ、前駆T細胞ではないが、遺伝的に改変された成熟CD4+ T細胞およびCD34+ HSCを用いたHIV/AIDSの処置でいくつかの臨床試験が承認されているので、もはやとっぴなことではない。
【0063】
したがって、本出願は、有効量の前駆T細胞を、それを必要とする動物に投与する段階を含む、免疫不全を処置または予防する方法を提供する。一つの態様において、免疫不全はHIV/AIDSである。
【0064】
(iii) 自己免疫
伝統的に、寛容は、胸腺細胞によって提示される自己抗原および血液媒介性の自己抗原に対して胸腺内で主に確立されるものと考えられているが、組織特異抗原に対して特異性を有するT細胞は、末梢で寛容誘導を受けていた(Kyewski and Derbinski, 2004)。AIRE遺伝子を発現する胸腺上皮細胞が組織拘束性抗原のでたらめな発現を促進しうるという最近の知見は、いかにして自己寛容が維持され破壊されるかの新たな見識をもたらした(Kyewski and Derbinski, 2004)。自己免疫疾患は、末梢で自己寛容を維持する過程の調節異常または破綻から生じる。多くの研究者は、調節活性を有するT細胞(T調節性)の集団が自己免疫疾患のマウスモデルでの病的免疫反応、移植およびGvHDを抑制しうることを実証しており(Chatenoud et al., 2001)、これらの細胞を治療的に利用して、ヒト自己免疫疾患を処置できることを示唆している(Bluestone, 2005)。T調節性細胞はCD4およびCD25、ならびにT調節性発生および機能の主調節因子として働く、フォークヘッド転写因子boxP3 (Foxp3) (Sakaguchi, 2005)を発現する(Fontenot et al., 2003; Hori et al., 2003)。実際に、Foxp3変異マウスはT調節性細胞の欠損を有し、重篤なリンパ増殖性自己免疫症候群を発症する。同様に、稀有な劣性障害であるX連鎖免疫調節異常・多発性内分泌障害腸(IPEX)症候群を有するヒトは、攻撃的な自己免疫をそれも早期に示す(Walker et al., 2003)。
【0065】
T調節性細胞は胸腺でも末梢でも産生されることができ、表現型的および機能的には類似しているように見える。TCRトランスジェニック系での研究は、胸腺上皮細胞上に提示された自己ペプチドアゴニストとのαβTCRの比較的高い親和性相互作用がCD28依存的にT調節性細胞を効率的に産生するのに必要であることを示唆している(Apostolou et al., 2002; Jordan et al., 2001; Tai et al., 2005; Walker et al., 2003)。結果として、胸腺内のT調節性細胞は、自己抗原認識の方に偏った多様なTCRレパートリーを利用する(Bluestone and Abbas, 2003)。最近になって、ハッサル小体は胸腺間質性リンパ球新生因子(TSLP)を発現し、これが胸腺樹状細胞を活性化してT調節性細胞の増殖を誘導することが実証された(Watanabe et al., 2005)。あるいは、T調節性細胞は自己ペプチド曝露およびサイトカイン環境(すなわち、形質転換成長因子β (TGF-β)およびIL-10)の相違を通じて胸腺外に拡げられることもできる(Apostolou and von Boehmer, 2004; Belghith et al., 2003; Roncarolo et al., 2001; Weiner, 2001)。
【0066】
多発性硬化症、1型糖尿病、関節リウマチを有する患者ではT調節性細胞が欠損しているという知見(Ehrenstein et al., 2004; Lindley et al., 2005; Viglietta et al., 2004)は、これらのおよび他の自己免疫疾患の処置がT調節性細胞の回復次第でありうるという期待を抱かせた(Bluestone, 2005)。対照的に、T調節性細胞の除去は、抗腫瘍T細胞反応のブレーキを解除し、限定的な局所自己免疫を誘導することによりがん免疫療法の増強において重要な役割を果たしうる(Sakaguchi et al., 2001)。最後に、T調節性細胞は、同種臓器移植後の寛容の確立において決定的な役割を果たし、それによってGvHDが媒介する拒絶を最小限に抑えることができる(Gregori et al., 2005; Hoffmann and Edinger, 2006; Touraine et al., 2005)。
【0067】
大部分の細胞に基づく治療法と同様に、自己免疫の処置におけるT調節性細胞の利用にとっての主な障害は、それらを多くの数で作製して、治療有効性を実現する能力である。現在、OP9-DL1共培養系は前駆T細胞からの多数のT調節性細胞の作製を支持するものではない。T調節性細胞の作製におけるTSLPの役割(Watanabe et al., 2005)を考慮すると、OP9-DL1共培養系にT調節性細胞の存在しないことがTSLPを産生するOP9細胞の欠損によるものであるかどうかは不明である。
【0068】
にもかかわらず、重篤な自己免疫の処置のための幹細胞移植は、同種反応のヒト/免疫不全マウスモデル(Thomsen et al., 2005)、調節性T細胞集団を拡げる方法(Kretschmer et al., 2005)、ならびに幹細胞および前駆T細胞を操作して自己抗原を発現させる方法(Alderuccio et al., 2003)の開発によって勢いを得ている(Bluestone, 2005; Gregori et al., 2005; Sykes and Nikolic, 2005)。
【0069】
したがって、本出願は、有効量の前駆T細胞を、それを必要とする動物に投与する段階を含む、自己免疫疾患を処置または予防する方法を提供する。
【0070】
(iv) 遺伝的疾患
前述のように、プロT細胞に所望の遺伝子を形質移入してもよい。そのような細胞を遺伝的疾患の処置に用いることができる。造血細胞に関連する遺伝的疾患は、該疾患を引き起こす遺伝子の欠損または異常を補いうる遺伝子を形質移入した細胞を有する細胞組成物を移植することによって処置することができる。例えば、β-サラセミア(地中海貧血症)、鎌状赤血球貧血症、ADA欠損症、リコンビナーゼ欠損症、リコンビナーゼ調節遺伝子欠損症などのような疾患を引き起こす正常野生型遺伝子を、相同組み換えまたは無作為組み換えによってプロT細胞に移入することができ、この細胞を患者に移植することができる。さらに、(適当なドナー由来の)遺伝子の異常がない正常T細胞を含む細胞組成物を、処置のために用いることもできる。
【0071】
遺伝子治療の別の適用では、薬物耐性遺伝子を細胞に移入することによって薬物耐性を正常T細胞にもたらすことにより、本来なら危険であるものと考えられる、高い濃度での薬物の使用が可能になる。具体的には、本出願の細胞組成物におけるプロT細胞に、抗がん薬に対する薬物耐性を有する遺伝子、例えば、多剤耐性遺伝子を移入することにより高い濃度で抗がん薬を用いて処置を実行することが可能である。
【0072】
造血系に関する疾患以外の疾患は、その疾患がホルモン、酵素、サイトカイン、成長因子などのような分泌タンパク質の欠損に関する限りにおいて、プロT細胞を含む細胞組成物を用いることによって処置することができる。標的タンパク質をコードする遺伝子を適当なプロモーターの制御下、プロT細胞に移入することによって欠損タンパク質を誘導および発現させることができる。タンパク質の発現を制御して、インビボでの自然な発現によって得られる活性と同じ活性を得ることができる。
【0073】
リボザイムをコードする遺伝子、アンチセンス核酸など(例えば、低分子干渉RNA)または別の適当な遺伝子をプロT細胞に挿入して、細胞における特異的遺伝子産物の発現を制御すること、または疾患に対する感受性を抑制することも可能である。例えば、プロT細胞を遺伝子改変に供して、プロT細胞におけるHIV、HTLV-I、HTLV-IIなどのような血液病原体の増殖を阻止できる、アンチセンス核酸、siRNAまたはリボザイムを発現させることができる。一つの態様において、公知のHIV複製阻害遺伝子、例えばRNAデコイまたはTat応答要素もしくはRev応答要素、あるいはRevトランス活性化タンパク質のドミナントネガティブ変異体を発現する、本出願の細胞組成物のプロT細胞が作製される。これらの遺伝子を保有する造血前駆細胞またはESに由来するプロT細胞は、HIV耐性リンパ球前駆体の潜在的に無限かつ定義済みの供給源を提供するであろう。
【0074】
C. スクリーニング
プロT細胞を含む細胞組成物を用いて、プロT細胞またはその分化細胞の発達または活性を調節する潜在的な調節因子または治療用物質をスクリーニングしてもよい。具体的には、細胞組成物を試験物質に供することができ、試験物質の効果を対照(例えば、該物質の非存在下)と比較して、試験物質がプロT細胞またはその分化細胞の発達または活性を調節するかどうかを判定することができる。
【0075】
本出願の一つの局面において
(a) 試験物質の存在下で本出願の系もしくは方法によりプロT細胞を作製する段階、または試験物質の存在下で本出願の系もしくは方法を用いて作製されたプロT細胞組成物を培養する段階; ならびに
(b) 細胞の生存に及ぼす、あるいは該細胞の形態学的、機能的もしくは生理学的特徴および/または分子生物学的特性に及ぼす試験物質の効果の有無を検出し、それによって細胞生存、細胞の形態学的、機能的もしくは生理学的特徴および/または分子生物学的特性を変化させる効果が試験物質の活性を示す段階
を含む、試験物質の活性をアッセイするためにプロT細胞またはその分化細胞を含む本出願の細胞組成物を用いる方法が提供される。
【0076】
別の局面において
(a) 潜在的新薬の存在下で本出願の系もしくは方法によりプロT細胞を作製する段階、または潜在的新薬の存在下で本出願の系もしくは方法を用いて作製されたプロT細胞調製物を培養する段階; ならびに
(b) インビトロで細胞の生存に及ぼす、あるいは該細胞の形態学的、機能的もしくは生理学的特徴および/または分子生物学的特性に及ぼす潜在的新薬の効果の有無を検出し、それによってインビトロで細胞生存、細胞の形態学的、機能的もしくは生理学的特徴および/または分子生物学的特性を変化させる効果が潜在的新薬の活性を示す段階
を含む、T細胞を伴う障害を処置する潜在的新薬をスクリーニングするために、本出願にしたがって作製されたプロT細胞またはその分化細胞を用いる方法が提供される。
【0077】
本出願の細胞組成物を用いて、疾患のモデル系を調製してもよい。本出願の細胞組成物を用いて、成長因子、ホルモンなどを産生することもできる。
【0078】
本出願の細胞組成物を用いて、T細胞において発現される遺伝子またはT細胞の分化に不可欠な遺伝子をスクリーニングすることができる。使用できるスクリーニング方法には、提示的差異分析(Representational Difference Analysis; RDA)または例えばSA-lacZでの遺伝子トラッピング(D.P. Hill and W. Wurst, Methods in Enzymology, 225:664, 1993)が含まれる。遺伝子トラッピングを用いて、T細胞の分化または活性に影響を与えるドミナント変異を(例えば遺伝子産物の特定のドメインを欠失することによって)導入し、これらの細胞において発現される遺伝子またはこれらの細胞の分化に不可欠な遺伝子の同定を可能にしてもよい。
【0079】
以下の非限定的な例は、本出願の例示である。
【実施例】
【0080】
実施例1 臍帯血サンプルの調製
シリンジ抽出によってヒト臍帯血(UCB) 25〜50 mlを採取し、クエン酸リン酸デキストロース抗凝固剤(CPDA)を含有する単一の血液パックユニット(Baxter Healthcare, Deerfield, Illinois)の中に収集する。収集から12時間以内に、臍帯血単核細胞をFicoll密度遠心分離によって単離し、さらに使用するまで凍結する。具体的には、ヒト臍帯血サンプルをPBSまたはHBSS + 2 mM EDTA中で4分の1希釈する。Ficoll-Paque Plus (Amersham Biosciences, Cat 17-1440-03)中での勾配遠心分離によって単核細胞を単離する。細い無菌のパスツールピペットを用いて、希釈したヒト臍帯血サンプルをFicoll-Paqueに重層する。18〜20℃で30〜40分間1350〜1860 rpmにて遠心分離する。各洗浄の間に5分間1200 rpmで遠心分離し、毎回上清を除去して、PBSまたはHBSS中でリンパ球層を3回洗浄する。細胞を無菌のFACS選別用緩衝液1 mlに再懸濁し、-80℃で凍結する。実験ごとに、凍結UCBを融解し、次いでStemSep(登録商標)ヒト前駆細胞濃縮カクテル(Stem Cell technologies, Vancouver, BC, Canada)を用いautoMACS(商標)またはautoMACS-pro分離器(Miltenyi Biotec, Auburn, CA)で系統陰性(Lin-)および系統陽性(Lin+)画分に予め濃縮した。ヒトHSCを単離するため、Lin-細胞を抗ヒトCD38-APC mAbおよび抗ヒトCD34-PE mAbで染色し、その後、BD Biosciences FACSAriaデジタル細胞選別機(San Jose, CA)を用いCD34+ CD38-/lo細胞について選別した。選別されたヒトHSCは、選別後の分析によって判定したところ、99%超の純度であった。
【0081】
実施例2 ヒト造血幹細胞およびOP9-DL1またはOP9-DL4細胞共培養
GFP-ベクター骨格(OP9-対照)またはGFPおよびDelta-様1 (OP9-DL1)もしくはDelta-様4 (OP9-DL4)を含有する2シストロン性プラスミドのいずれかを発現するようにレトロウイルスによって形質導入したOP9細胞は、既報(Schmitt and Zuniga-Pflucker, 2002)のように作製し、20%の共培養特性化ウシ胎仔血清(FBS) (Hyclone)に加えて50 U/mlペニシリンおよび50 μg/mlストレプトマイシンを補充したα-MEM培地(OP9-培地)中で維持した。ほとんどの実験では、集密的なOP9-DL1またはOP9-DL4細胞を含有する6ウェルプレートの個々のウェルにつき1〜5×104個の選別ヒトHSC (CD34+ CD38-/lo)を加え、組み換えヒトサイトカインFlt-3L (5 ng/ml)およびIL-7 (5 ng/ml) (Peprotech, Rocky Hill, NJ)を補充したOP9-培地中で培養した。4〜5日ごとに、ヒトHSC/(OP9-DL1またはOP9-DL4)共培養物を新鮮な集密的OP9-DL1またはOP9-DL4細胞単層上に移し入れた。高い細胞密度の共培養物の場合、既報(Awong et al., 2008)のように継代の間2日ごとに培地交換を行った。
【0082】
OP9-DL1細胞またはS17-DL1細胞のようなDelta様分子を発現する単純間質細胞の単層を利用する能力によって、以前に可能とされていたよりも厳密なヒトT細胞発生試験が可能になった。OP9-DL1細胞は、世界中の400近い研究室に既に分配されている。これらの研究室から出てきた研究が、多数の前駆細胞供給源からのT細胞の作製を維持するのに必要な分子要素を確認しており(Lehar and Bevan, 2002; Wang and Spangrude, 2003)、T細胞発生において決定的な役割を有する他の多くの因子を解明するのに役立っている(Gutierrez-Frias et al., 2004; Outram et al., 2000; Pongracz et al., 2003; Shah et al., 2004; Staal et al., 2004; Weerkamp et al., 2006b; Weerkamp et al., 2006d)。
【0083】
T細胞発生にはDelta様リガンドを通じたシグナル伝達が必要になるというパラダイムがDelta様-1の発現については定着しているが、Delta様-4の発現がインビトロでT細胞発生を繰り返せることも明らかになり始めている(Schmitt and Zuniga-Pflucker, 2006)。Delta様-4がDelta様-1と配列相同性を共有し、同じく胸腺内で発現されることを考えれば、これは驚きではない(Schmitt and Zuniga-Pflucker, 2002)。
【0084】
OP9-DL1またはOP9-DL4細胞が登場するまで、ヒトT細胞発生の研究には、扱いにくいFTOCおよびその派生系を要していた。これらは機能的であるが、ハイブリッド/マウスFTOCの限界および利用可能なヒト胎児胸腺組織の欠如を考えれば、扱いにくく、非効率的かつ非実用的であった。したがって、免疫関連疾患の処置に向けて治療有効性を引き出すのに必要なヒト前駆T細胞数をいかにして作製できるかを思い付くのは困難であった。OP9-DL1およびOP9-DL4技術には多数の利点がある。これらの利点の多くはマウスT細胞発生を中心に以前に再調査されており(Zuniga-Pflucker, 2004)、ヒトT細胞発生の研究に関して類似の利点をもたらす。
【0085】
OP9-DL1およびOP9-DL4共培養系の重要な実践的検討はその技術的な単純さである。ヒトHSCは長時間、二種のヒトサイトカインFlt-3LおよびIL-7を添加して単純な単層上で直接培養される。すなわち、培地交換および新たな間質上への移動により、OP9-DL1およびOP9-DL4細胞は容易に操作され、より大型の培養へ容易に拡げられる。これは、多くの場合、ヒト前駆細胞の直接的な微量注入を要し、培養回数が限られている、扱いにくいFTOCとは対照的である。これらの制約を考えれば、OP9-DL1およびOP9-DL4共培養系は、単一の細胞を今やT細胞前駆体機能についてアッセイできるという点でFTOCに比べて改善を示す(Ciofani et al., 2006; Schmitt and Zuniga-Pflucker, 2002)。これはFTOCを用いて可能であったが(Ikawa et al., 1999; Michie and Zuniga-Pflucker, 2000; Williams et al., 1986)、大規模分析の実現可能性はほぼ妨げられており、ヒト前駆T細胞のための単一細胞分析を用いた前駆体頻度の報告はされていない。したがって、FTOCにおいて現在使用されている現アッセイ法とともに、本発明者らの系は、ヒトT細胞発生の研究において利用される異なる手法を補完し、免疫再構築能およびインビトロ由来のT細胞の免疫機能を試験するための将来の研究に新たな道を開くことができる(Jenkinson and Anderson, 1994; Takahama, 2000)。
【0086】
さらに、OP9-DL1およびOP9-DL4系はいくつかの規定の供給源からのT細胞の作製を支持することが可能であった。胎仔肝臓、骨髄、胎仔胸腺および末梢血から得られたマウス前駆細胞、ならびに胚性幹細胞(ESC)はOP9-DL1共培養によってT細胞を産生する(Adolfsson et al., 2005; Ciofani and Zuniga-Pflucker, 2005; Schmitt et al., 2004; Schmitt and Zuniga-Pflucker, 2002)。同様に、胎児肝臓、骨髄、胎児胸腺、GM-CSF動員末梢血および臍帯血から単離されたヒト前駆細胞はOP9-DL1共培養によってT細胞を産生する(De Smedt et al., 2004; La Motte-Mohs et al., 2005; Weerkamp et al., 2006a)。ESCおよびHSCに関して、例えばT細胞発生中の、特定の遺伝子の機能的重要性を素早くアッセイするための選択法としての低分子干渉RNA (siRNA) (Gimeno et al., 2004; McManus and Sharp, 2002)およびロックド核酸(Grunweller et al., 2003)の新利用を、OP9-DL1およびOP9-DL4細胞共培養系に容易に適合することができる。これは、欠失時に、胚性致死表現型を引き起こし、単純にはさらに研究のできない、多くの遺伝子のT細胞発生中の役割を特徴付けるための実践的な手法を可能にする。同様に、OP9-DL1系は遺伝子操作に適合可能である。この原則はCD34+ HSC (未成熟)においてレトロウイルスベクターおよびレンチウイルスベクターで実証されている(Case et al., 1999; Gimeno et al., 2004; Haas et al., 2000; Klug et al., 2000; Su et al., 1997)が、前駆T細胞においては実証されていない。前駆T細胞は周期性であり、OP9-DL1共培養系において再生されるので、それらは遺伝子操作に等しく適していると分かる可能性が高い。したがって、マウスT細胞発生で現在使用されている現アッセイ法とともに、今やヒトT細胞発生の研究に容易に適用できる多くの異なる手法が存在する。
【0087】
マウスESCとは対照的に、未分化ヒトESCは、OP9-DL1またはOP9-DL4細胞のいずれかとの共培養後にT細胞を生じうる前駆細胞を未だ産生していない。実際に、OP9-DL1共培養におけるヒトESCの分化は、より困難であると分かっている。いくつかのグループが胚体形成(Cerdan et al., 2004; Chadwick et al., 2003; Wang et al., 2004; Zambidis et al., 2005; Zhan et al., 2004)またはS17 (Tian et al., 2006)、MS5もしくはOP9 (Vodyanik et al., 2005)間質系上での共培養を通じてCD34+細胞へのヒトESCの効率的な分化を実証している。これらのCD34+細胞は、選別され骨髄間質上で再培養された場合、適切なサイトカインの存在下でB細胞(Vodyanik et al., 2005)およびNK細胞{Woll, 2005 #219 (Vodyanik et al., 2005)}ならびに樹状細胞(Slukvin et al., 2006)を生じ、ヒトESCが多系統能を有する前駆細胞に分化できることを示唆している。対照的に、選別ヒトESC由来CD34+細胞は、これまでOP9-DL1細胞との共培養によってT細胞にインビトロで分化しておらず、免疫不全NOD/SCIDマウスへの大腿骨内注射によって胚体由来CD45-、PECAM-1+、Flk-1+およびVE-カドヘリン+ (PFV)細胞にも分化しておらず(Wang et al., 2005b)、ヒトESCがマウスESCよりもT細胞分化を促進するDelta-様-Notch誘導分化シグナルに対してインビトロでの感受性が低いかもしれないことを示唆している。あるいは、OP9-DL1細胞がヒトESCの誘導および早期分化に必要な因子の全ての代わりに完全になるわけではないのかもしれない。この問題は、最近になって、亜致死量放射線照射された免疫不全SCIDマウスの腎臓被膜下に移植された結合ヒト胸腺/肝臓(Thy/Liv)組織へのヒトESC由来GFP標識CD34+細胞の直接注射を通じてインビボで回避されている(Fleming and Scadden, 2006; Galic et al., 2006)。
【0088】
ヒトESCからT細胞を誘導する能力は、免疫関連障害の処置にとって引き続き魅力ある目標である。これは、理論上、未分化ヒトESC細胞株からは無限の数のヒトT細胞を作製できるのに対し、ヒトHSCが骨髄および臍帯血のような枯渇性の供給源からでは、限られた分化能および増殖能しか持ちえないという一般的な合意によるものである。先見にもかかわらず、限られた組織からはごく少数のヒトHSCしか単離することができず、それゆえ、さらに使用するには適切に貯蔵され増殖させねばならない。ヒトHSC数を、その分化を抑えながら増殖させるための努力が進行中であり、これが一致活用されて、さらに多数の前駆T細胞を作製できよう。全てのHSCが長期再構築能を示すわけではなく、胸腺には自己再生する前駆細胞が含まれていないことを考慮に入れると、T細胞に基づく免疫不全または自己免疫の処置にとってHSCおよび前駆T細胞の利用はニッチが限られているかもしれない。ヒトESCにはその欠点がないわけではなく、そのゲノム不安定性、後成的状態、その自発的分化傾向およびがんを引き起こすその可能性を考えると、その安全性に関しては深刻な懸念が残っている(Odorico et al., 2001; Olsen et al., 2006; Rugg-Gunn et al., 2005; Wang et al., 2005a)。
【0089】
OP9-DL1またはOP9-DL4共培養系では、臍帯血および骨髄に由来するヒトHSCは健全な増殖を示す。実際に、OP9-DL1またはOP9-DL4系は、極めて均質な、かつT細胞分化のヒトマーカーに基づき容易に単離されるT系統細胞の集団を作製する。この系は他のリンパ球および骨髄性細胞を犠牲にしてT系統細胞を効率的に(>90%)作製するが、このT細胞増殖の上限は不明である。この共培養系における前駆T細胞の産出量は、他のインビトロ系より少なくとも103〜105倍高く、この系のさらなる規模拡大が、免疫関連障害を有する患者において治療的有用性を達成するのに臨床的に意義のある数をもたらす可能性を示唆している。ヒトCD34+CD38-細胞から始めた長期OP9-DL1共培養は、少なくとも120日間の持続的なT細胞発生を示し、CD34+CD7+である細胞の集団を保ち続ける。これらの細胞が自己再生可能かどうかは不明であるが、長期OP9-DL1またはOP9-DL4共培養においてT細胞発生が相次ぎ認められている[La Motte-Mohs、未発表結果]。これらの相次ぐT細胞発生は、培養において維持されていた早期前駆体に由来する前駆T細胞の再出現に先だち、陽性および陰性選択シグナルを受けていなかったCD4+CD8+ DP T細胞集団のアポトーシスを単純に反映している可能性がある。実際に、そのような可能性は、前駆細胞再生の維持およびT細胞分化の促進におけるNotchシグナル伝達の二元的役割と一致している(Varnum-Finney et al., 1998)。OP9-DL1またはOP9-DL1共培養系が、T細胞分化も自己再生も同時に促進するかどうかを判定するにはさらなる研究が必要である。
【0090】
幹細胞から機能的T細胞への分化はOP9-DL1細胞上での共培養によって容易に得られるが(Schmitt et al., 2004; Schmitt and Zuniga-Pflucker, 2002)、この系にはまだいくつかの欠点がある。例えば、OP9細胞はマウスMHCクラスI分子を発現し、マウスHSCのCD8+ T細胞への分化を支持するが、マウスMHCクラスII分子を発現せず、CD1dを発現するようには見えず、したがって、それぞれCD4 T細胞およびNKT細胞の分化を支持するその能力が限られている(Schmitt and Zuniga-Pflucker, 2002; Zuniga-Pflucker, 2004)。マウスMHC分子がヒトHSCの分化を支持できるという証拠が存在するが(Fisher et al., 1990; Traggiai et al., 2004)、これは、自己免疫反応または移植片対宿主病(GvHD)を誘発せずに免疫関連障害を処置するように細胞免疫療法を開発する場合、とりわけ問題になりうる。しかしながら、OP9-DL1細胞を改変してヒトMHC分子を異所的に発現させることが可能であり、これによってT細胞の特異的サブセットの発生に対するこれらの分子の寄与に関する再検討が可能になるばかりか、個体にMHC適合したT細胞も作製されよう。具体的には、本発明者らは、臍帯血由来のHSCからDP期へのヒトT細胞の健全かつ持続的な作製を報告しているが、CD4+またはCD8+ SP T細胞の作製は限られており(La Motte-Mohs et al., 2005)、これはマウスOP9-DL1細胞上にヒトHLA分子がないことによる可能性が高い。著しくは、長期の密充填共培養条件の下で、本発明者らは、TCRαβを発現するCD4+またはCD8+ T細胞を検出することができる[未発表結果、Ross La Motte-Mohs]。一見して、ヒト単一陽性T細胞の出現は、ヒト前駆T細胞の単離にはヒト胸腺間質成分を要し、SP T細胞に向かってその完全分化能を実現するという報文を考えれば、両立が困難なように思われる。それにもかかわらず、Choiらによる最近の論文で、胸腺細胞-胸腺細胞(T-T)相互作用が陽性選択を媒介し、MHC-クラスII+胸腺間質の非存在下でのCD4 T細胞の成熟を促進しうることが実証された(Choi et al., 2005)。同様に、OP9-DL1細胞による高密度共培養条件中のヒトCD4+ SP T細胞の出現は、発生中の前駆T細胞(CD34+CD7+)が高レベルのヒトMHCクラスII分子を発現するのでT-T相互作用を利用することができる[未発表結果、Ross La Motte-Mohs。あるいは、OP9-DL1共培養において後の方で出現するγδ-T細胞は、出現中のαβ-T細胞へ向けてプロフェッショナルAPCとして機能し、さらなる分化を可能にすることができる(Brandes et al., 2005; Modlin and Sieling, 2005)。
【0091】
興味深いことに、別の欠点は、OP9-DL1細胞が発生中のT細胞に提示する可能性の高い自己抗原の数が限られていることである。当初、OP9細胞は、胸腺髄質上皮細胞とは対照的に、AIRE遺伝子を発現する可能性が低い(Anderson et al., 2002)、かつ末梢寛容に向けた異所性の自己抗原提示を媒介する可能性が低いと考えられていた。しかし、OP9-DL1細胞における低レベルのAIRE伝達暗号の検出[personal communication, Lynn Rumfelt]から、OP9-DL1細胞が、OP9細胞においても検出された、インスリンなどの、組織特異抗原を提示する能力をいくぶん保有している可能性のあることが示唆される。AIRE転写因子がOP9-DL1細胞において機能的であるかどうかは、まだ実験的に確認されていない。しかしながら、AIREおよびDelta様-1を発現する皮膚細胞が胸腺非依存性のT細胞発生を支持し、陰性選択を媒介しうるという最近の実証(Clark et al., 2005)から、OP9-DL1細胞についても類似の可能性が示唆される。したがって、TCRレパートリーの陽性および/または陰性選択に関与する機構を扱う問題は、OP9-DL1細胞を適切に操作することによって調べることが可能であり、本発明者らの研究室において現在調査中である。それにもかかわらず、成熟T細胞を適切に選択するOP9-DL1細胞の能力または機能に関連する問題は、OP9-DL1細胞上で培養された幹細胞から得たCD4- CD8-二重陰性前駆体または未成熟CD4+ CD8+ T細胞を、FTOCへまたは宿主マウスの胸腺内に単純に移入することによって回避することができる(Schmitt et al., 2004)。そのような手法は自己MHC拘束性および耐性問題に現実的な解決案を与えるだけでなく、インビトロ由来T細胞の免疫機能およびヒト免疫関連障害を処置するためのT細胞の適合でのその有効性を試験する将来の可能性に新たな道を開く。
【0092】
これらの研究は、免疫関連障害の処置のためにインビトロ由来前駆T細胞を利用することの効力および治療有効性について判定することのもっともな懸念を強調している。OP9-DL1系において作製された前駆T細胞は、自家細胞であれ同種細胞であれ、未成熟であり、依然として、宿主胸腺内で陽性および陰性選択を受ける必要がある。このことは、それらの細胞がインビボで自己免疫反応またはGvHDを惹起する可能性が低いことを示唆している。GvHDは幹細胞移植において引き続き懸念であるものの、患者でも免疫不全マウスでも、前駆T細胞ではないが、CD34+HSCを用いたヒト免疫系の再構築は、この手法の原則を示すものであった(Barker and Wagner, 2003; de Wynter et al., 1999; Gimeno et al., 2004; Traggiai et al., 2004)。実際に、ヒト/マウス生着モデルの利用(Legrand et al., 2006)は、免疫関連障害の処置に向けてインビトロ由来ヒト前駆T細胞の安全性を評価する手助けとして特に有用なことが分かるかもしれない。
【0093】
実施例3 ヒト-マウス胎仔胸腺器官共培養(FTOC)
FTOC (Fisher et al., 1990; Plum et al., 2000)は、妊娠15日目の時点で同期妊娠(time-pregnant) CD1マウスの胚から胎仔胸腺を単離することによって行った(Jackson Laboratories, Bar Harbor ME)。胸腺を1.35 mMデオキシグアノシン(dGuo)の存在下で5日間培養して、内在性の胸腺細胞を除去した。Flt-3L (5 ng/ml)、IL-7 (5 ng/ml)およびSCF (30 ng/ml) (Peprotech, Rocky Hill, NJ)を補充したHSC/OP9DL1共培養物に由来するヒトプロTサブセットを選別し、図のように24時間Terasakiウェル中での懸滴に配し、その後、7〜21日間Gelfoamラフト上のNucleoporeフィルタに移入した。OP9-培地ならびにサイトカイン(Flt-3LおよびIL-7)は5日ごとに補充した。胸腺葉をナイロンメッシュ細胞こし器で粉砕し、単細胞懸濁液を得ることによって細胞を分析した。
【0094】
伝統的に、ヒトTリンパ球産生および前駆細胞コミットメントを研究するためのインビトロモデルの開発は、胎仔マウスから得た、または随意的に人工中絶されたヒト胎児から、および小児心臓手術中に捨てられた胸腺組織から得た宿主胸腺組織の使用に依っていた。最近まで、ヒトT細胞の作製を可能にした唯一のインビトロモデル系は、Fisherら(Fisher et al., 1990)によって最初に適合されたハイブリッドFTOC系であった。この全器官に基づく手法では、胎生期14/15日マウス胸腺葉から2-デオキシグアノシンでの処理によって内在性の胸腺細胞を枯渇させ、これに懸滴法によって造血前駆細胞を播種し、これをGelFoam-ラフト上で一定期間培養する。次にT細胞発生段階を、胸腺原基へのマウス造血前駆体の導入後のさまざまな時点で評価することができる。このハイブリッドヒト/マウスFTOCを用いて、Fisherらは、ヒト胎児胸腺前駆細胞からの成熟SP T細胞の増殖および作製を実証した(Fisher et al., 1990)。この手法はまた、出生後ヒト前駆胸腺細胞(Merkenschlager and Fisher, 1991)ならびに骨髄および臍帯血から得たヒト前駆細胞(Yeoman et al., 1993)でも後に実証された。Fisherらによる研究は、ヒト胸腺前駆細胞によるマウス胸腺原基の効率的な定着がヒト胸腺間質成分の添加に依ることを指摘した(Fisher et al., 1990)。胸腺定着およびT細胞発生を改善するために、いくつかのグループがヒト前駆細胞をヒト胎児胸腺破片へ直接注射した(Galy et al., 1993; Peault et al., 1991)。その非効率性および技術的複雑さにもかかわらず、ハイブリッドヒト/マウスFTOCは、ヒト造血およびT細胞分化を調べるために日常的に用いられている(Barcena et al., 1995; De Smedt et al., 2002; Galy et al., 1993; Plum et al., 1994; Res et al., 1997)。
【0095】
実施例4 定量的リアルタイム逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(Q-PCR)
全RNAをTrizol試薬中で単離し、Superscript IIIおよびオリゴ(dT)12〜18プライマー(Invitrogen, Burlington, ON)を用いて逆転写した。全OP9-対照共培養物、全OP9-DL1共培養物、図に示されるようにOP9-DL1共培養から選別されたT系統サブセット、UCB精製Lin+ CD3+およびCD33+細胞、またはバルクおよびLin-ヒト出生後胸腺細胞(PNT)由来の希釈cDNAサンプルをQ-PCR反応の鋳型として用いた。Q-PCRの検出はApplied Biosystems Sequence Detection System 7000にて製造元の指示にしたがいSYBR Green PCRマスターミックス(Qiagen, Mississauga, Ontario or Bio-Rad, Hercules CA)で行った。全ての転写産物のレベルをヒトβ-アクチンに対して標準化した。遺伝子特異的なフォワード(F)およびリバース(R)プライマーは以下の通りである。
【0096】
実施例5 フローサイトメトリー
フルオレセインイソチオシアネート(FITC)結合抗体、R-フィコエリトリン(PE)結合抗体、アロフィコシアニン(APC)結合抗体、PE-Cy7結合抗体、ペリジニンクロロフィルタンパク質(PerCP) PerCP-Cy5.5結合抗体、Alexa Fluor700結合抗体、Alexa Fluor750結合抗体およびPacific Blue結合抗体は商業的に購入した。それらには以下の抗体が含まれる: FITC: 抗-CD34 (クローン581)、抗-CD27 (クローンM-T271)、抗-CD3 (クローンHIT3a)、抗-TCRαβ(クローンT10B9.1A-31); PE: 抗-CD7 (M-T701)、抗-CD4 (クローンRPA-T4)、抗-CD49d (クローン9F10) 抗-グランザイムB (クローンeBioGrB); APC: 抗-CD1a (クローンHI149)、抗-CD7 (CD7-6B7)、抗-CD8 (クローンRPA-T8); PE-Cy7: 抗-CD8 (クローンRPA-T8); PerCP-Cy5.5: 抗-CD5 (クローンL17F12); Alexa Fluor700: 抗-CD4 (クローンRPA-T4); APC-Cy7/APC-Alexa Fluor750: 抗-CD4 (クローンRPA-T4); Pacific Blue: 抗-CD3 (クローンUCHT1)。グランザイムBの細胞内染色は製造元の指示にしたがいCytofix/Cytopermキット(BD Biosciences, San Diego, CA)を用いて行った。全ての抗体は、eBioscience (San Diego, CA)から購入した抗-CD49d-PE、抗-グランザイムB-PE、抗-CD3-FITCおよび抗-CD4-APC-Alexa Fluor750を除いて、BD Pharmigenから入手した。フローサイトメトリー分析のため、OP9-DL1共培養または胎仔胸腺器官培養(FTOC)から得た細胞懸濁液をFcRII遮断し、染色した。細胞をFACSCalibur (BD-Biosciences)または四レーザーLSR II卓上フローサイトメーターに流した。データ分析はFlowJoソフトウェア(Tree Star, Ashland, OR)を用い生リンパ球のゲーティングおよびヨウ化プロピジウムの取り込みの欠如によって行った。GFP発現性OP9間質細胞はGFP発現および側方散乱によるゲーティングを通じて除外した。この手順によって、混入しているGFP発現性OP9間質細胞の99%が除外された。四分画領域の角の数値はゲート細胞の割合を表す。
【0097】
実施例6 T細胞刺激アッセイ法
インビトロで作製されたCD3/TCR-αβ+ CD8+単一陽性(SP)細胞を60〜70日目にHSC/OP9-DL1共培養物から選別した。T細胞刺激アッセイ法の場合、細胞4×104個を抗CD3 (2もしくは10 μg/ml)および可溶性抗CD28 (1 μg/ml) mAb有りまたは無しでコーティングされた平底96ウェルプレートの個々のウェル中に播種した。全てのウェルに組み換えヒトIL-2 (1 ng/ml)および組み換えヒトIL-7 (1 ng/ml)のサイトカインを補充したOP9培地を含め、これを5日後に分析した。T細胞増殖アッセイ法の場合、インビトロで作製されたCD8+ T細胞4×104個を選別し、プレーティングの前に製造元のプロトコルにしたがってこれに10 μMカルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル(CFSE) (Molecular Probes, Eugene, OR)を負荷した。FACSCaliburフローサイトメーターを用いて刺激から5日後にCFSE標識の喪失をアッセイした。
【0098】
実施例7 前駆体頻度分析
ヒトHSC限界希釈アッセイ法(LDA)をUCBサンプルの異なる細胞サブセットからの連続希釈により行った。FACSDiVa細胞選別機を用いてUCB細胞をCD34+ CD38-、CD34+ CD38lo、CD34+ CD38+/hiとして選別し、OP9-DL1細胞単層を含んだ96ウェル/プレートの個々のウェルに各サブセットの細胞1個(n = 36)、3個(n = 24)、10個(n = 90)、30個(n = 56)、100個(n = 58)または300個(n = 13)を直接重ねた。細胞を11日間培養し、その後、それらを個々のウェルから収集し、フローサイトメトリーによって分析した。CD45+ CD7++細胞の存在をスコア化し、ポアソンモデルに適用された最大尤度法により前駆体頻度を決定した(Fazekas de St, 1982)。ヒトインビトロ由来前駆T細胞の場合、限界希釈アッセイ法は、13日目のHSC/OP9-DL1共培養から得た選別済みのCD34+ CD7++ CD5-およびCD34+ CD7++ CD5+サブセットを用いて行い、dGuo-FTOC由来胸腺葉に、CD34+ CD7++ CD5-前駆体の場合には1胸腺葉あたり細胞500個(n = 2)、1000個(n = 18)、1500個(n = 12)、2000個(n = 13)、3000個(n = 13)、9000個(n = 4)もしくは22000個(n = 1)またはCD34+ CD7++ CD5+前駆体の場合には1胸腺葉あたり細胞100個(n = 4)、300個(n = 9)、500個(n = 10)、1000個(n = 10)、3000個(n = 10)、9000個(n = 4)もしくは22000個(n = 1)で播種した。前駆体を同様に、96ウェル/プレート中のOP9-DL1細胞上に播種し戻し、1ウェルあたり細胞1個(n = 36)、3個(n = 20)、10個(n = 20)、30個(n = 14)および100個(n = 6)で重ねた。細胞を分化から7日後に分析し、CD45+ CD7++ (FTOC)またはCD7++ CD1a-/+ (OP9-DL1)細胞の存在についてスコア化した。ポアソンモデルに適用された最大尤度法により前駆体頻度を決定した(Fazekas de St, 1982)。
【0099】
実施例8 インビトロで作製されたヒト前駆細胞による免疫不全マウスの胸腺再構築
材料および方法
臍帯血サンプル:
ヒトUCBサンプルは、同意した母親からWomen's College Hospitalでの分娩後に、Research Ethics Board of Sunnybrook Health Sciences Centreによって確立された承認済みのガイドラインにしたがってシリンジ注射により採取し、クエン酸リン酸デキストロース抗凝固剤を含有する血液パックユニット(Baxter Healthcare, Deerfield, Illinois)の中に収集した。収集から12時間以内に、UCB単核細胞をFicoll密度遠心分離によって単離した。実験ごとに、凍結UCBを融解し、次いでStemSep(登録商標)濃縮カクテル(Stem Cell technologies, Vancouver, BC, Canada)を用いautoMACS(商標) (Miltenyi Biotec, Auburn, CA)で系統陰性(Lin-)および系統陽性(Lin+)画分に予め濃縮した。ヒトHSCを単離するため、Lin-細胞を抗ヒトCD38-APC mAbおよび抗ヒトCD34-PE mAbで染色し、その後、BD Biosciences FACSAria選別機(San Jose, CA)を用いCD34+ CD38-/lo細胞について選別した。選別されたヒトHSCは、選別後の分析によって判定したところ、99%超の純度であった。
【0100】
NOD/SCIDγc-/-およびRAG2-/-γc-/-再構築の研究:
選別HSC (CD34+CD38-/lo) 5〜6×105個を集密的OP9-DL1細胞を含有する6ウェルプレートの個々のウェルあたり細胞3×104個で添加し、OP9培地に加えてrhIL-7 (5 ng/mL); rhFlt-3L (5 ng/mL)およびrhSCF (30 ng/mL)の存在下で10〜12日間培養物を維持し、その後、CD34+CD7+前駆T細胞(プロT)を選別した。選別ヒトプロT細胞を組み換えヒトIL-7/M25混合物(C. Surh博士から頂いた)中で再懸濁し、細胞3.5〜5×105個を4〜5日齢の新生仔に肝内注射(30 μl/マウス)した。対照として、マウスにPBSまたはCD34+幹細胞(1.5〜2.5×105個)のどちらかを注射した。3〜4日ごとにマウスにIL-7/M25混合物を追加免疫した。胸腺、脾臓および骨髄を肝内移植から21〜27日後に収集し、カウントした単細胞懸濁液を次に、フローサイトメトリーのために染色した。同時注射実験の場合、ヒトUCB CD34+CD38-/lo (HLA-A2-)細胞を10〜12日間OP9-DL1細胞上で分化させ、CD34+CD7++CD5+ (プロT2)細胞をフローサイトメトリーによって選別した。プロT2細胞を選別した同日に、臍帯血由来のCD34+CD38-/lo (HLA-A2+)細胞も選別した。同じ同腹仔由来の放射線照射(130 cGy)新生仔NOD/SCID/γc無マウスにHSC 3.5×104個のみ、プロT2細胞2.5×105個のみ、およびプロT2細胞2.5×105個とともにHSC 3.5×104個を肝内注射した。
【0101】
フローサイトメトリー:
フルオレセインイソチオシアネート(FITC)結合抗体、R-フィコエリトリン(PE)結合抗体、アロフィコシアニン(APC)結合抗体、PE-Cy7結合抗体、ペリジニンクロロフィルタンパク質(PerCP) PerCP-Cy5.5結合抗体、Alexa Fluor700結合抗体およびAlexa Fluor750結合抗体は商業的(BD BiosciencesまたはeBioscience)に購入した。細胞懸濁液をFcRII遮断し、染色し、LSR-IIサイトメーターで分析した。データ分析はFlowJoソフトウェア(Tree Star, Ashland, OR)を用い生リンパ球のゲーティング、4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)の取り込みの欠如、引き続きヒト特異的な造血細胞のCD45ゲーティングによって行った。四分画領域の角の数値はゲート細胞の割合を表す。
【0102】
免疫生着:
マウスモデルを利用したヒト造血の研究は、C.B-17マウス系統におけるscid (重症複合免疫不全症)変異の発見の後、1980年代後半に初めて起きた(Bosma et al., 1983)。そのようなマウスは、TCRおよび免疫グロブリン再構築中の非相同末端結合に関与するprkdc (タンパク質キナーゼDNA触媒タンパク質)遺伝子の変異を持ち(Bosma et al., 1983)、したがって、成熟T細胞もB細胞も欠いている。すぐ後に、C.B-17 SCIDマウスはMcCuneら(McCune et al., 1988)により、HIV-1との関連でヒトT細胞発生を研究するための実験系として使用された。このモデルを用いて、ヒト胎児胸腺および胎児肝臓の(SCID/hu (thy/liv)モデル)破片を動物の腎臓被膜下に配し、その移植片を血管新生化させる。胎児肝臓はヒトHSCの豊富な供給源を提供し、胎児胸腺は、HSCがT細胞に分化できる環境を提供する。それはヒトリンパ球発生をインビボで研究するための画期的なモデルであったが、生着した細胞の大部分は、マウス骨髄または他の組織に播種されずに胎児外植片に限定された。
【0103】
その後、ヒト造血細胞が帰巣する、かつヒト胎児組織なしのマウス環境内で分化する能力をより良く反映するようにモデルが利用された。多くのグループは、亜致死量放射線照射されたC.B-17 SCIDマウスが多造血系統へのヒト骨髄およびヒト臍帯血からのCD34+前駆細胞の生着および分化を支持する(Lapidot et al., 1992; Vormoor et al., 1994)ことを実証できている。これに照らして、CD34+幹細胞は、それらがSCIDマウスにおいては造血系統を再配置できたため、「SCID再配置細胞」(SRC)と言われた。残念ながら、生着のレベルはかなり低く、特にT細胞発生は、概して、なかった。この生着に対する主な障壁は、SCIDマウスに依然として存在する先天性免疫機能であった。具体的には、NK細胞機能が、異種生着に対する宿主抵抗性を決める重要な因子であった。非肥満糖尿病マウス(NOD)の使用は、ヒト細胞生着の促進で大いに手助けとなった。近交系のNODマウス系統は、(1) C5遺伝子の変異による補体欠損(Baxter and Cooke, 1993)、(2) 損傷したNK機能および(3) IL-1分泌の低減によるマクロファージ機能の障害によって、先天性免疫機能の多くの側面を欠いている。実際に、NOD背景へのSCID変異の導入(NOD/SCID)は、多くのグループによるヒト生着の成功を可能とし、ヒト造血およびHSCの研究に広く用いられている(De Smedt et al., 2002; Larochelle et al., 1996)。重要なことには、Kerreらは、マウスIL-2Rβを遮断する、したがってNK機能をさらに低下させる抗体で処置されたNOD/SCID動物を用いて、低率のマウスではあるが、健全なT細胞発生を実証した(Kerre et al., 2002)。
【0104】
最近になって、ヒト血液リンパ発生を調べるための二つの新たなマウスモデルRAG2-/-γc-/-およびNOD/SCID/γc-/-免疫不全マウス系統が登場した。リコンビナーゼ活性化遺伝子2 (RAG2)欠損マウスはRAG機能を欠いており、TCRおよびIg受容体の再構築がないために、TおよびB細胞発生の完全な抑止をもたらす。さらに、共通のサイトカイン受容体γ鎖(γc)、つまりIL-2、IL-4、IL-7、IL-9、IL-15およびIL-21サイトカイン受容体に対する重要なサブユニットがないことで、これらのサイトカインはその標的細胞上で機能しなくなる。最も重要なことには、RAG2-/-γc-/-マウス系統でもNOD/SCID/γc-/-マウス系統でもNK細胞は、その発生にはIL-15Rγcが欠かせないので発生せず(Goldman et al., 1998)、したがってヒト免疫生着を改善する(Kerre et al., 2002; Legrand et al., 2006; McKenzie et al., 2005)。最近、Traggiaiおよびその仲間ら(Traggiai et al., 2004)は、ヒトCD34+ CB細胞を移植された新生仔RAG2-/-γc-/-が主要な全ての免疫細胞サブセットを発現することを実証した。Tリンパ球新生が、初期モデルの非効率性とは対照的に、著しく高いレベルで支持された。Traggiaiらによる研究は、ヒトT細胞が末梢器官に集合し、抗ウイルス免疫反応を誘発しうることも実証し、生着したヒトHSCが分化し陽性選択事象を受けることを示した(Traggiai et al., 2004)。したがって、免疫不全マウスの胸腺において陽性選択を受けているヒトT細胞はゆえに、マウスMHC分子に傾斜しており、ヒトMHCクラス分子に対する選択を認めるにはヒト胸腺破片の移植を必要としうることが示唆された(Legrand et al., 2006)。あるいは、ヒトT細胞がマウスまたはヒトMHC分子に対して陽性選択されるかどうかを、ウイルス抗原を提示するために使われるAPCのタイプまたは感染因子によって使われる標的組織が決める可能性がある。Traggiaiらによる研究は、エプスタインバーウイルス(EBV)が、ヒトMHC分子との関連でウイルスエピトープを提示しうるヒトB細胞に感染することを考えれば、前者の可能性を支持するように思われる(Traggiai et al., 2004)。明らかに、ヒト免疫移植片を許容する卓越した能力を有するインビボモデルが利用可能であり、ヒト血液リンパ発生についての見識を得るのに、およびT細胞系統の免疫障害の処置でのインビトロ由来前駆T細胞の安全性を試験するのにそれらを強力なツールにする。
【0105】
結果
インビトロにおけるT細胞発生の逐次誘導の細胞レベルでの分析
ヒトTリンパ球産生に有効なインビトロ系の樹立において重要な段階は、T細胞発生の早期段階を完全に特徴付けることである。この目的を達成するために、本発明者らは、UCB由来HSCがOP9-DL1細胞上で分化するように誘導される場合に起こる早期発生変化の時間的動態分析を行った。予想通り、開始時の幹細胞集団のフローサイトメトリー分析は、選別されたCD34+CD38-/lo細胞がCD7、CD5、CD1aおよびCD10のような、早期T細胞分化のマーカーを発現しないことも、CD2、CD4、CD8およびCD3のような、後期T細胞分化のマーカーを発現しないことも示した(図1A)。
【0106】
本発明者らは、T細胞分化の時間的分析に共通のマーカーとしてCD7表面発現を利用した(Barcena et al., 1995; Blom and Spits, 2006)。早期HSC/OP9-DL1共培養物におけるCD7発現の分析により、この手法は、CD7発現がCD34+細胞にて4日目の時点で最初に検出されてから、6〜8日目までにCD34+細胞にて高レベル発現で検出され、その上、より遅い時点で(14日目を過ぎて)CD34-細胞のサブセットにてわずかに減少していく、T細胞発生の早期および後期段階を反復することが明らかになった(図1B)。
【0107】
共培養の最初の週の間に、CD34+細胞はCD7発現を素早く得るが、全体的な細胞数は一定のままであり(図7)、細胞はCD5、CD1a、CD2およびCD4の発現について陰性のままである。培養8日目までに、CD5発現が、引き続きCD1a-の、CD34+CD7++細胞にて最初に検出される(図1B)。CD1a+細胞は10日目までに検出され始め、CD7++細胞の約15%に存在し、これは、同様にCD34発現を下方制御し始めた細胞に対応する。14日目までに、CD5の発現がCD7++細胞のほぼ全てに認められ、これらの細胞の大部分にCD1aが発現される。14日目はまた、細胞が芽球(blasting)表現型を示す時点(データ記載せず)および細胞の増殖が明らかになり始める時点(図7)に対応する。
【0108】
より遅い時点で、CD2およびCD4を発現するCD7++およびCD7+集団が優位を占め始める(図1C)。さらに、CD7+CD1a++細胞の集団が増殖し続け、最終的には、48日目までにCD7発現細胞のほぼ90%を占めた。CD7++細胞にてCD2発現が低い、早期時点(8〜10日目)とは対照的に、48日目までに細胞のほぼ50%が高レベルのCD2を発現する(図1C)。CD7++細胞上のCD4の発現は早ければ12日目までに現れ(図1B)、増加し続け、最終的には、48日目までにCD7発現細胞のおよそ75%を占める(図1C)。CD7発現を欠くわずかな割合のCD4+細胞が検出されたが、本発明者らは、これらの細胞が骨髄細胞系統に属することを以前に報告した(La Motte-Mohs et al., 2005)。
【0109】
CD34+CD45RAhiCD7+と同定された、胸腺播種細胞は、UCB (Haddad et al., 2004)または胎児骨髄(Haddad et al., 2006)に存在することが示された。類似の集団をインビトロで作製できるかどうかを判定するため、本発明者らは、早期の共培養時点でこの表現型を持つ細胞を探した。注目すべきは、開始時のUCB-HSC集団には、CD45RAアイソフォームを低レベルで発現したCD34+細胞のサブセットが含まれた(Hao et al., 2001; Payne and Crooks, 2002)が、これらの細胞はCD7-であった(図2A)。この分析から、CD45RA発現がCD34+細胞にて最初の4日以内に上方制御され、6日目までにほぼ全てのCD34+CD7++細胞がCD45RAを発現することが示された(図2B)。このように、インビボで見られるような、胸腺定着性の表現型を示すCD34+CD7++CD45RA+細胞(Haddad et al., 2004; Haddad et al., 2006)の集団が、インビトロにおいて存在し、また胸腺再構築能を保有しうる。
【0110】
インビトロにおけるT細胞発生の逐次誘導の分子分析
ヒトHSC/OP9-DL1共培養物は、胸腺で認められたT細胞発生期と一致する細胞発現パターンを示したが、早期T細胞分化中のNotch依存的な遺伝子発現の正確な時間的動態(Izon et al., 2002; Radtke et al., 2004)は定義されていない。本発明者らは、OP9-対照(GFPのみ)またはOP9-DL1細胞と共培養されたHSC由来のGata-3、Deltex-1、Rag-1およびNotch-1転写産物の発現を調べた。図3Aに示されるように、Gata-3、Deltex-1、Rag-1およびNotch-1の発現は、OP9-対照共培養物と比べOP9-DL1において転写産物のレベル上昇の一般的傾向を示し、明らかな相違は14日目ごろに始まった。Gata-3発現は、早期T細胞特異化およびコミットメントにおけるその役割(Pai et al., 2003; Rothenberg and Taghon, 2005)と一致して、OP9-DL1共培養物において早期に差次的に誘導され、長時間にわたり安定的に増加した。公知のNotch誘導標的遺伝子Deltex-1 (Pear and Radtke, 2003)も、OP9-DL1共培養物において早ければ6日目に特異的に上方制御された。TCR遺伝子再構築に不可欠の遺伝子Rag-1 (Shultz et al., 2000)は、14日目までにOP9-DL1共培養物において差次的に上方制御された。最後に、Notch-1の発現は両方の共培養物において初めから終わりまで認められたが、Delta様誘導シグナル伝達の結果として明らかに上方制御された(Pear and Radtke, 2003)。
【0111】
上記の遺伝子発現動態はNotch/Delta様相互作用によるT系統分化の誘導と一致しているが、本発明者らは、特異的T細胞分化期に起こる遺伝子発現の変化をさらに正確に特徴付けようとした。この目的を達成するために、各サブセットが別個かつ逐次のT細胞発生期に相当する、CD7発現細胞のサブセットを分析した。図3Bに示されるように、40日目のOP9-DL1共培養物由来の、CD7発現細胞の発生的進行はCD34発現の消失およびCD1a発現の増加に基づき4期: CD34+CD7++CD1a-、CD34-CD7++CD1a-、CD34-CD7++CD1a++および最後にCD34-CD7+CD1a++へ経時的に順序付けることができる。これらのサブセット、ならびに系統対照としてUCBから選別したT細胞(CD3+)および骨髄性細胞(CD33+)を次に、Gata-3、Deltex-1、Rag-1、Notch-1、および骨髄特異的遺伝子Cebpα(Dahl et al., 2003)の発現について調べた(図3C)。Gata-3転写産物の上方制御は、CD7++細胞がCD34表面発現を失うにつれて明らかとなり、次期中は高いままであったが、次いで後期には低減し、これは以前の観察結果(Rothenberg and Taghon, 2005)と一致している。Deltex-1は、CD3+成熟T細胞またはCD33+骨髄性細胞のいずれかと比べた場合、CD7発現サブセットの各々において上方制御された。注目すべきは、Rag-1およびNotch-1転写産物の上方制御は、CD34-CD7++CD1a+期に最も顕著であり、pre-TCR複合体の産生および機能的結果におけるこれらの遺伝子の役割(Ciofani et al., 2004)と一致していた。予想通り、CD34発現が消失すると、CD7発現細胞はT細胞系統にさらに拘束されるようになり、これは、これらのサブセット内でCebpα発現の喪失が観察されたことに対応するものである。
【0112】
まとめると、ヒトHSC/OP9-DL1共培養物は時期および時間特異的な細胞署名および分子署名を示し、これによってTリンパ球産生の鍵となる特徴が反復されるだけでなく、ヒトT細胞の発生プログラムをさらに精査するための簡単かつ有効な方法も提供される。
【0113】
OP9-DL1細胞とともに培養したHSCからの機能的ヒトCD8 SP T細胞の作製
本発明者らは、ヒトHSC/OP9-DL1共培養物からCD4+CD8+ T系統細胞を作製できることを以前に報告した(La Motte-Mohs et al., 2005)が、機能的T細胞を作製できたかどうかは評価されなかった。これに取り組むため、本発明者らは、長期の共培養物を分析したが、図4Aは65日目の共培養物由来のDPおよびSPサブセットの両方の存在を示している。本発明者らは、これらの培養物に存在するCD8 SPサブユニットを、通常は成熟T細胞に発現されるCD3およびCD27の発現(Res and Spits, 1999; Vanhecke et al., 1995)についてさらに調べた。後期の共培養物に見られたSP CD8細胞(SP8)のなかで、約50〜60%がCD3/αβTCRを発現した。注目すべきは、CD3+ SP8の大部分はCD27を共発現することが分かった。さらに、CD27+CD3+ SP8はCD1a発現を欠くことも分かり、これは機能的な成熟を示唆するものである(Res et al., 1997)。これは、T細胞分化における前期に特有の、CD1aを発現し続けたCD27-CD3+ SP8とは対照的であった(Res et al., 1997)。
【0114】
インビトロで作製されたSP8の機能的状態について取り組むため、本発明者らは、CD3/TCR発現サブセットを選別し(図4B)、これらの細胞が下流の分化マーカーを上方/下方制御する、増殖する、細胞溶解性エフェクタ機能分子を発現する、および刺激後にγ-インターフェロン(IFNγ)を分泌する能力を有するかどうかを調べた。図4Cに示されるように、前方側方散乱(forward size scatter)に基づく芽球様の外観が非刺激(NS)細胞と比べて刺激(S)細胞において見られる。さらに、刺激細胞は非刺激細胞と比べて、CD45RO、CD38およびMHC-クラスII発現を上方制御し、CD27発現を下方制御した(図4B)。この複合表現型は活性化ヒトT細胞に特有であり(Holling et al., 2002; Ko et al., 1979)、完全なエフェクタ成熟およびより高い細胞溶解能と一致している(Hamann et al., 1997; van Baarle et al., 2002)。さらに、TCR刺激によって誘導される細胞増殖の程度について取り組むため、選別CD3+CD8+ T細胞にCFSEを負荷した。図4Cから、刺激細胞が非刺激細胞と比べてCFSEの喪失により示されるように多ラウンドの細胞分裂を起こし、増殖中の細胞が同様にCD25発現の著しい上方制御を示すことが明らかである。
【0115】
細胞溶解性/エフェクタ機能分子を発現するようにインビトロ由来SP8を誘導できるかどうかを判定するために、グランザイム-BおよびIFNγの発現を評価した。グランザイム-Bを発現できなかった非刺激細胞と比べて、刺激CD3+CD8+ T細胞のおよそ40%で細胞内グランザイム-B発現が検出された(図4D)。最後に、インビトロで作製されたSP8を含有するウェル由来の上清を、刺激後のIFNγの存在について分析した。図4Eに示されるように、刺激細胞由来の上清は非刺激細胞と比べて、IFNγの量の顕著な用量依存的増加を示した。
【0116】
CD34+CD38-およびCD34+CD3lo UCB細胞は高いTリンパ球新生能を示す
いくつかの研究によって、UCB-CD34+幹細胞プールがその再配置、分化および再生能の観点から不均質であるという証拠が提供されている(Guenechea et al., 2001; Hogan et al., 2002)。実際に、CD34+集団をCD38発現に基づいて異なるサブセットに細分画することができる(Guenechea et al., 2001; Hogan et al., 2002; Mazurier et al., 2004)。CD38-細画分には、より遅い生着動態で長期の再構築が可能な始源前駆体が含まれる(Hogan et al., 2002)。逆に、CD34+CD38loまたはCD38+/hiサブセット由来のUCB細胞は異なる特徴を示し、短期の再配置能で素早い骨髄-赤血球分化を引き起こす(Guenechea et al., 2001; Hogan et al., 2002; Mazurier et al., 2004)。しかしながら、これらの研究は、これらの異なるCD34+サブセット間のT系統能を有する前駆体の頻度について取り組んでいなかった。さまざまなUCB-CD34+サブセットのT前駆体頻度を決定するため、CD34+CD38-、CD34+CD38loおよびCD34+CD38+/hi細胞を選別し(図8)、OP9-DL1細胞を含有するウェルへ限定的な細胞数で配した。表Iに示されるように、CD34+CD38-またはCD34+CD38lo細胞は、それぞれ、4.8中1および3.9中1の類似の重複頻度でT系統細胞を生じたが、CD34+CD38+/hiサブセットは19中1と5倍近くに減少したT系統前駆体頻度を有していた。このように、CD34+CD38-およびCD34+CD38lo画分には、T系統細胞を生じうるいっそう高い頻度の細胞が含まれる。
【0117】
インビトロで作製されたプロT細胞は胸腺再構築能を示す
胸腺に生着するものと思われた最も初期の細胞は、CD45RAおよびCD7を発現するCD34+細胞として記述されている(Haddad et al., 2004; Haddad et al., 2006)。本発明者らは、HSC/OP9-DL1共培養物においてこの表現型を有する細胞が存在すること(図2)を示したが、これらの細胞が胸腺再構築能も有するかどうかは試験されていないままである。
【0118】
胸腺定着性の細胞表面表現型を共有するインビトロ作製細胞が胸腺に生着できるかどうかを試験するため、本発明者らは、ハイブリッドヒト/マウスFTOC手法(Fisher et al., 1990)を利用した。さらに、本発明者らは、CD5発現の有無に基づきCD34+CD45RA+CD7++CD1a-前駆体サブセットをさらに精査した。その結果、図5Aに示されるように(およびデータ記載せず)、これらの細胞のおよそ45%にCD5が発現している。これらのT前駆体サブセットが宿主胸腺内で生着かつ分化する能力を有するかどうかを判定するため、CD5-またはCD5+のいずれかであるCD34+CD45RA+CD7++CD1a-細胞(以後、それぞれプロT1およびプロT2という)を13日目のHSC/OP9-DL1共培養物から選別し、19日間FTOCに置いた(図5B)。さらに、同じサブセットをOP9-DL1細胞上に戻し(図5C)、その発生を、FTOCで起きたものと比べた。
【0119】
図5Bに示されるように、プロT1およびプロT2サブセットは両方ともFTOCに成功裏に生着し、その子孫はヒトCD45発現に基づき、胸腺葉に存在するほとんど全ての細胞(>95%)を占めた。さらに、再構築されたFTOCには、プロT1またはプロT2サブセットのいずれかに由来するT細胞が含まれていた。投入プロT1細胞は当初CD34+CD7+CD5-であったが、生着した胸腺葉内のほとんど全ての細胞がCD34-CD5+CD1a+ T系統細胞に分化しており、67%がまたCD4およびCD8を共発現し、2〜16%がCD8またはCD4のどちらかを発現し、これらの大部分がCD4ISPであった(データ記載せず)。同様に、当初はCD5を発現していたプロT2細胞も、T細胞を生じたが、DP細胞の頻度の増加(93%)を伴った。この相違はプロT2細胞のその後の分化状態に関わる可能性があり、これは図21において実証されるように、精製プロT1細胞は24時間以内にプロT2表現型を有する細胞を生じ、これらの細胞の大部分が48時間までに次の期に達した。さらに、精製プロT2細胞は、プロT1表現型を有する細胞を生じなかった。プロT1からプロT2への前駆体・産物の関係は、プロT2細胞ではなく、プロT1細胞を播種したFTOCに残存するほんのわずか(4%)のCD34+CD7++細胞の存在によってさらに浮き彫りになる。これと一致して、OP9-DL1細胞上に戻したプロT1細胞は同様に、CD34+CD7++前駆体集団の存在を示し、これはプロT2培養物には存在しなかった(図5C)。それにもかかわらず、プロT1細胞もプロT2細胞も、これらの共培養物でT系統経路に沿って分化し続ける類似の全般的能力を示し、CD1a+およびCD4/CD8発現細胞を生じた。
【0120】
プロT1およびプロT2細胞は、NK系統能を同様に保有することが示されたヒト胸腺に見られる細胞と類似の前駆体表現型を共有するので、本発明者らは、これらのサブセットからNK細胞を同様に作製できるかどうかについて取り組んだ。これと一致して、本発明者らは、インビトロ由来プロT1およびプロT2細胞がIL-15を補充して、OP9-対照細胞上で培養された場合にNK細胞を生じることを確認した(図22)。これらの結果は、CD34+CD7++胸腺細胞サブセット内の二重T/NK能を有する細胞の存在を実証する研究(Sanchez et at., 1994; Spits et al., 1995)と一致している。注目すべきは、プロT1細胞もプロT2細胞も、OP9-DL1細胞上での培養時にNK細胞を生じるどころか、それらはT細胞経路に沿って分化し続けた(図22)が、これは、代替の系統結果を阻害しながらT系統へのコミットメントを維持するうえでのNotchシグナル伝達の公知の役割と一致している。さらに、メチルセルロースアッセイ法を行って、インビトロで作製されたプロT細胞が赤血球系統、骨髄系統および顆粒球系統を生じる能力について試験した(表III)。選別されたCD34+ UCB-HSCは全ての系統に対するコロニーを産生したが、インビトロで作製されたプロT細胞は、プロT2細胞から赤血球への潜在性がないことを含めて、非リンパ様コロニー形成能の顕著な低減を示し、リンパ様潜在性を有利に獲得するのとともに別の系統結果を生じるその能力が低下していることをさらに浮き彫りにした。
【0121】
プロT1細胞もプロT2細胞もT細胞を生じうるが、これらのサブセットに宿主胸腺を再構築するのに類似の前駆体頻度が含まれたかどうかは不明のままであった。これに取り組むため、選別されたプロT1およびプロT2細胞を7日間FTOC中にまたはOP9-DL1細胞上に限定的な細胞数で配し、ヒトT系統細胞の存在についてフローサイトメトリーにより分析した。表IIに示した結果から、プロT2サブセットがプロT1細胞のものよりも3倍高いT系統生着頻度(それぞれ1:400および1:1400)を示したことが実証される。この相違が細胞固有であったかどうかをさらに調べるため、これらのサブセットのT前駆体頻度をOP9-DL1細胞での限界希釈アッセイ法で判定した。注目すべきは、およびFTOCで観察された前駆体頻度とは対照的に、共培養物からの結果により、両プロTサブセットが類似のかつ高い(およそ1:2)前駆体頻度を有することが明らかになった(表II)。
【0122】
これらの観察結果に照らして、OP9-DL1単層上でのアッセイ時には同様に高いT細胞前駆体頻度を普通なら示すヒトプロT細胞は、インビトロにおいてマウス胸腺葉に生着する能力の相違を有するものと思われるが、これは胸腺内での侵入およびニッチ占有状態に重要な分子の発現の相違に関連している可能性がある。観察された生着能の相違について考えられる機構を定めるために、本発明者らは、胸腺帰巣または侵入に関連する遺伝子の発現についてQ-PCRにより分析を行った(Arroyo et al., 1996; Benz and Bleul, 2005; Goldschneider, 2006; Hirsch et al., 1996; Lai and Kondo, 2007; Rossi et al., 2005; Schwarz et al., 2007)。図6Aは、プロT2細胞がCCR9 (CD199)、PSGL-1 (CD162)、CD49b (α2インテグリン)、CD49d (α4インテグリン)およびCD49e (α5インテグリン)のいっそう高い転写産物レベルを発現することを示している。プロT2細胞ではCD29 (β1インテグリン)について発現上昇の類似の傾向が観察された。さらに、これらのサブセットのフローサイトメトリー分析から、プロT2細胞がプロT1細胞よりも高いレベルのCD49dを発現することが確認された(図6B)。これらのデータは、プロT2細胞サブセットによる胸腺侵入の促進での重要な立役者としてCCR9およびPSGL-1のほかに、胸腺間質細胞に発現されるVCAM-1 (CD106)に結合するCD49d/CD29ヘテロ二量体も挙げている以前の所見(Arroyo et al., 1996; Hirsch et al., 1996)と一致している。
【0123】
免疫不全マウスに注射されたインビトロ作製プロT細胞は、インビボで胸腺再構築能を示す
OP9-DL1細胞において作製されたヒトプロT細胞がFTOCでのアッセイ時にインビトロで胸腺再構築能を示しえたという本発明者らの所見から、ヒトプロT細胞がインビボでのアッセイ時に胸腺再構築能を同様に示す可能性が示唆された。インビトロで作製された前駆T細胞がインビボでT細胞区画を効果的に再構築できるかどうかを確かめるため、本発明者らは、ヒトCD34+ CB由来細胞の生着を支持することが報告されている(Gimeno et al., 2004; Hogan et al., 1997; Traggiai et al., 2004)二種の免疫不全マウス系統(非肥満糖尿病/重症複合免疫不全(NOD/SCIDγc-/) (Greiner et al., 1998; Ito et al., 2002; Kollet et al., 2000; Shultz et al., 1995; Vila-Coro et al., 2000)マウスおよびRAG2欠損、γ鎖(γc)欠損(RAG2-/-γc-/-) (Goldman et al., 1998; Mazurier et al., 1999)マウス)を利用した。
【0124】
図11に見られる通り、OP9-DL1共培養由来バルクヒト前駆T細胞(CD34+CD7+)を肝内注射されたRAG2-/-γc-/マウスは、ヒトCD45を発現した異なるリンパ球集団の発現から明らかなように、早ければ注射からおよそ3週後に胸腺内でのヒト造血生着能を示した。ヒトCD34+幹細胞またはモックPBS対照を肝内注射されたRAG2-/-γc-/マウスの胸腺内でそれほどではないにせよリンパ球集団を検出することができたが、これらのリンパ球がヒトCD45を発現していなかったことから、これらの細胞がマウス由来であったことが示唆された。バルクプロT細胞を注射したRAG2-/-γc-/マウスのさらなる分析によって、ヒトCD45+を発現している胸腺細胞は、T細胞発生と一致する表現型を示した(図12および13)。全般的な細胞充実性の相違がプロT細胞を肝内注射した二匹のRAG2-/-γc-/マウスの間で顕著であったが、CD45+ゲーティング胸腺細胞の大多数はCD7、CD5およびCD1aのようなT細胞分化の初期マーカーを発現した(図12)。具体的には、およそ95%の胸腺細胞がCD7およびCD1aを共発現していたことから、プロT細胞は、その投入表現型を維持するのではなく、T細胞系統に効率的にコミットされていたことが示唆された。さらに詳しい試験によって、これらのCD45+ゲーティング胸腺細胞は、CD4、CD8およびCD3のようなT細胞分化のさらに確定的なマーカーも発現した(図13)。はるかに大多数のこれらの細胞がCD4+CD8+二重陽性(DP)表現型を示し、CD3陽性およびCD3陰性集団に分けられることができた。
【0125】
PBS対照を注射したRAG2-/-γc-/マウスは第二の実験においてヒトCD45+細胞を自発的に産生しなかったが、RAG2-/-γc-/マウスにヒトCD34+造血幹細胞を高い用量で肝内注射した場合にはわずかなしかし検出可能な割合のヒトCD45+細胞が存在していた(図14)。先の実験(図11)と一致して、バルクプロT細胞を注射したRAG2-/-γc-/マウスには豊富なCD45+胸腺細胞集団が存在していた(図14)。さらに詳細に調べると(図15)、CD34+ HSC注射RAG2-/-γc-/マウスでもCD34+CD7+プロT注射RAG2-/-γc-/マウスでも大多数の胸腺細胞がCD4とCD8の両方を発現していた。単一陽性CD8を3週の時点でプロT注射マウスにおいて検出できたが、CD34+ HSC注射マウスでは検出できず、大多数の単一陽性細胞がCD4を発現していたことから、それらがCD4中間型の単一陽性細胞(CD4-ISP)または真性のCD4-SP細胞のどちらかでありうることが示唆された。高レベルのCD3を発現したCD45+細胞をその発現について調べると、CD4およびCD8 SP細胞の両方を検出できたことから、再構築されたRAG2-/-γc-/マウス胸腺のなかに存在するCD4細胞の大部分がCD4-ISP細胞であって、CD4-SP細胞ではないことが示唆された。CD4およびCD8 SP細胞を欠いていた、CD34+ HSC注射マウスとは対照的に、プロT注射マウスは3週の時点でさらにかつより効率的に分化した。
【0126】
胸腺再構築能を示すプロT細胞の能力もマウスNOD/SCIDγc-/系統(Greiner et al., 1998; Ito et al., 2002; Kollet et al., 2000; Shultz et al., 1995; Vila-Coro et al., 2000)において評価した。図16に示されるように、CD34+HSCではなく、OP9-DL1共培養物由来のバルクヒト前駆T細胞(CD34+CD7+)を肝内注射したNOD/SCIDγc-/マウスは、その胸腺内でヒトCD45+細胞を発現し、そのうちの大多数がCD5、CD7およびCD1aの発現によって明らかなように早期T細胞表現型を示した。胸腺細胞にコミットされたこれらの発生中のT細胞の70%超がCD4をその細胞表面に発現したのに対し、CD4陽性細胞のおよそ2〜20%がCD8を共発現したことから、CD4-ISP細胞がDP期へと移行していたことが示唆された。まとめると、プロT細胞は二種の免疫不全マウス系統に生着することができる。
【0127】
マウス胸腺をインビトロで再構築する実験から、プロT2サブセットはプロT1細胞のものよりも3倍高いT系統生着頻度(それぞれ1:400および1:1400)を示すことが示唆されたが、インビボで同様の結果が観察されるかどうかは定められていないままであった。本発明者らは免疫不全マウスに生着するバルクCD34++CD7++の能力を実証したので、本発明者らは、インビボでの胸腺再構築の閾値を目的に各プロTサブセットの能力について試験した。細胞を選別し、プロT1細胞またはプロT2細胞のどちらかを、バルクプロT細胞が使われた過去の実験で使われたよりも、それぞれ、10〜25倍低い細胞数である細胞2.5×104または1×104個で個々の新生仔マウスに注射した。注射から3週後に、マウスの胸腺を収集し、生着について分析した。表4に要約した結果から、細胞2.5×104個を注射した場合にプロT2細胞がプロT1細胞よりも高い生着頻度(38% vs 14%)を有していたことが明らかである。さらに、細胞1×104個しかマウスに注射しなかった場合に、本発明者らは両サブセットの生着を認め、プロT2細胞はまた、そのさらに未成熟な対応細胞よりも高い胸腺生着頻度を示した。
【0128】
免疫不全マウスにヒトHSCと同時注射されたインビトロ作製プロT2細胞は、HSC由来の胸腺細胞増殖を増強する
図14および15に示されるように、プロT細胞はRAG2-/-γc-/およびNOD/SCIDγc-/マウスの胸腺に生着し、その胸腺を再構築しうる。さらに、本発明者らは、CD34+ HSCがより低いまたは無視できる程小さい生着能を示したことに留意し、かくして本発明者らは、HSC由来細胞が寄与するT系統再構築に、インビトロで作製されたプロT2細胞とHSC (異なるドナーに由来する)との同時注射がプラスに影響を与えうるかどうかを定めようとした。この目的を達成するために、ヒトUCB CD34+CD38-/lo(HLA-A2-)細胞を10〜12日間OP9-DL1細胞上で分化させ、CD34+CD7++CD5+ (プロT2)細胞をフローサイトメトリーによって選別した。臍帯血由来のCD34+CD38-/lo(HLA-A2+)細胞も選別した。同じ同腹仔由来の放射線照射(130ラド)新生仔NOD/SCID/γc無マウスを3群に分け、それらにHSC 3.5×104個、プロT2細胞2.5×105個、またはプロT2細胞2.5×105個と混ぜてHSC 3.5×104個を肝内注射した。注射後6週の時点で、本発明者らは、BM中のヒト細胞の存在を探し(図23A)、HLA-A2細胞表面発現に基づいてドナー細胞の起源を追跡することができた。本発明者らは、HSCのみを注射した、またはHSCとプロT2細胞の両方を受けたマウスのBM中でのヒトCD45+HLA-A2+細胞の存在を認めた。この集団は、HSCから産生された細胞(HLA-A2+)に対応し、したがって、この表現型を有する細胞は、プロT2細胞のみを注射したマウスでは認められなかった。HSC由来CD45+HLA-A2+のさらなるゲーティングにより、これらの細胞がB細胞系統(CD19+)に主に属し、これらのうちのより少ない割合のものが骨髄系統細胞(CD33+)であることが明らかになった。具体的には、HSC注射マウスにおいてこれらの系統は、それぞれ85%および8.5%であり、HSCおよびプロT2細胞を同時注射したマウスの両方でよく似た割合を認めた。図23Bは、HSCに由来するヒトB細胞および骨髄細胞を脾臓において見出せたことを示す。注目すべきは、BM生着の場合も脾臓生着の場合も、本発明者らはプロT2細胞を同時注射した場合にHSC由来系統に対する増強または喪失を認めなかった; またこれらの部位にはプロT2由来の細胞がほとんどまたは全く見られなかった。対照的に、HSC由来のTリンパ球産生はインビトロ作製プロT2細胞との同時注射によって劇的に改善した。図23CはCD45およびHLA-A2に対する細胞表面染色を示し、ここで、HSCのみを注射したマウスでは(図16に示した結果に基づいて予想されるように)胸腺中で極端に低い割合のヒト細胞が示された。しかしながら、同時注射マウスではCD45+HLA-A2+ (HSC由来)細胞の割合の劇的な300〜1000倍の増加があった。さらに、同時注射マウスはまた、プロT2由来(CD45+HLA-A2-)の細胞に対応した細胞の割合が大きく(18%および71%)、予想通り、この集団は、HSCのみを受けたマウスでは認められなかった。同時注射マウスにおけるCD45+HLA-A2+およびCD45+HLA-A2-細胞のさらなる分析から、CD3発現の増加およびDP T細胞の割合の増加(両マウスで85%超)を示したプロT2由来細胞と比べてHSC由来細胞が少ないCD3hi細胞(7%および27%)ならびに減少した割合のCD4+CD8+ DP (12%および58%) T細胞を含むことが明らかとなった(図23D)。HSC由来細胞によるそのT系統分化動態の遅延は、インビトロで作製されたプロT2細胞と比べて、注射時点でのそのいっそう未成熟かつ未発達な状態と一致している。
【0129】
考察
ヒトT細胞発生の早期は何人かの研究者らによって広く定義されている(Blom and Spits, 2006; Weerkamp et al., 2006c)。この点で、本発明者らは単純かつ強力なインビトロ系を利用して、T細胞発生の早期を容易に特徴付けることができる、OP9-DL1細胞とともに培養されたヒトUCB-HSCの分化を調べることによりこの考え方をさらに精緻化した。早期および後期時点の時間的動態分析によって、本発明者らは、CD34、CD45RA、CD7、CD5、CD1a、CD2、CD4、CD8およびCD3の逐次的な細胞表面発現が浮き彫りにする発生期の規則的パターンを識別することが可能になった。
【0130】
OP9-DL1系はヒト胸腺細胞の分化期を反復するが、本発明者らは、一部の早期CD34+胸腺細胞上におよび骨髄中に見られるCD34+細胞において発現されることが報告されている(Haynes and Heinly, 1995; Haynes et al., 1988; Terstappen et al., 1992) CD2の発現に関する一つの相違に留意した。本発明者らは、CD34発現を下方制御していた細胞上に低レベルでのみCD2発現を認め、高いCD2発現はもっと後の発生期でのみ見られた。これらの相違に関する一つの可能性は、胸腺内でのこの早期表現型を有するCD34+細胞の蓄積、または全ての胸腺細胞上にCD2の発現を通常は誘導するシグナルがインビトロにおいては欠けているかもしれないということでありうる。
【0131】
本発明者らの研究室などによる初期の所見は、Dll1を異所的に発現している間質細胞との共培養によってUCB-CD34+細胞をT細胞運命に分化誘導できることを明らかに示している(Jaleco et al., 2001 ; La Motte-Mohs et al., 2005)。しかし、いくつかのグループは、CD34+集団がその自己再生能、生着および潜在的な系統性に関して異質であることを実証している(Byk et al., 2005; Guenechea et al., 2001; Kollet et al., 2001; Mazurier et al., 2004)。このことを念頭に置いて、本発明者らは、特異的CD34+サブセットがT細胞前駆体として働くその能力の点で異なっていたかどうかについて調べた。さらに、Hoganらは、CD34+CD38-プールには潜在的なT細胞性を有する高い頻度の細胞が含まれることを示唆しているが、これは、この画分を生着されたNOD/SCIDマウスがCD34+CD38loまたはCD38+/hi細胞を受けた動物と比べて高い胸腺再生を示したからである(Hogan et al., 2002)。これと一致して、本発明者らの結果は、CD38+/hi画分が、驚くべきことに類似のT前駆体頻度を示した、もっと未発達なCD38-またはCD38loサブセットよりも顕著に5倍低い潜在的なT細胞性を有することを示唆した。これらのCD34+CD38-またはlo細胞による同程度の前駆体頻度は、CD38が負のレベルと低いレベルの間で可逆的に発現されることを示唆している報告(McKenzie et al., 2007)によって説明することができる。
【0132】
Tリンパ球産生を誘導するためのNotchシグナル伝達の重要な役割は、現在では十分に確立されている(Ciofani and Zuniga-Pflucker, 2007; Pear and Radtke, 2003)。この点で、本発明者らは、Notch標的遺伝子の誘導が最初に上方制御されるT細胞発生期を同定した。これらの時期は、CD34+細胞がCD7を高いレベルで発現し始める時に相当し、CD34発現の喪失後にはさらなる誘導をいくらか伴う。本発明者らの所見は、UCB-CD34+CD7発現細胞がリンパ球様系統に強く傾斜しており、ほとんど潜在的な骨髄性のないことを実証しているいくつかの研究によって支持される(Haddad et al., 2004; Hao et al., 2001; Hoebeke et al., 2007)。これらの知見は、T細胞特異化が1週間以内で、早期に起こるという考えと一致しており、それゆえ、これらのNotch誘導性のCD34+CD7++細胞はT前駆体頻度の増大を示す可能性が高いであろう。実際に、本発明者らの結果から、Notch/Delta様の相互作用に続いて、CD34+CD7++細胞は初期のUCB-CD34+CD7-細胞よりも2倍高いT前駆体頻度を示すことが示唆された。これらの所見から、HSC/OP9-DL1共培養物が、胸腺定着細胞と同種でありうる、T細胞前駆体の作製を容易に支持することが示唆された。
【0133】
胸腺常在性の前駆体は自己再生能を保有していないので、胸腺には血液媒介性の前駆体が継続的に播種されるということが十分に確立されている(Donskoy and Goldschneider, 1992)。Haddadらによる研究(Haddad et al., 2006)は、胸腺定着細胞がCD34+CD7++CD45RA+を発現することを提唱した。類似の表現型を有する細胞がHSC/OP9-DL1共培養物において検出され、この点で本発明者らは、これらの細胞が胸腺定着細胞として働くことができたことを示す。さらに、本発明者らは、プロT1細胞(CD5-)およびプロT2細胞(CD5+)と名付けられた、CD34+CD7++CD1a-集団内の二つの異なる前駆体サブセットの存在に気付いた。どちらのサブセットも胸腺再構築の能力があるが、しかし、限界希釈アッセイ法で用いられた場合、本発明者らは、インビトロにおいて宿主胸腺に生着するその能力の劇的な相違を認め、より成熟なプロT2細胞がプロT1細胞よりも3倍高い前駆体頻度を示した。対照的に、OP9-DL1細胞にてアッセイされた場合、どちらのプロTサブセットも統計的に類似した前駆体頻度を示し、これはまた、FTOCにおいて認められたものよりも劇的に(200〜600倍)高かった。これらの所見から、普通なら高い潜在的T細胞性を保有するヒトプロT細胞は、その生着有効性を大幅に低下させる、マウスFTOC系に存在する異種間障壁の影響を受けることが示唆される。さらに、本発明者らは、プロT2細胞が示す生着能の増強で考えられる機構をもたらすように働く、CCR9、PSGL-1および複数のインテグリンの発現という点でこれらのプロTサブセットが異なることに留意した。プロT2細胞によるこれらの分子のいっそう高い発現レベルは、そのより未成熟な状態と一致する、プロT1サブセットにおいてCebpαおよびGata-2の転写産物レベルが高かったという点で、特異的であった(図9)。
【0134】
HSC/OP9-DL1共培養はヒトT細胞発生における前駆体機能または早期事象を特徴付けるのに役立つだけでなく、インビトロでの機能的T細胞の作製のための簡単な方法を提供することもできる。この手法は、目下、T細胞エフェクタ-機能を十分に生かして抗腫瘍根絶免疫を誘導/増強する細胞に基づく免疫療法に適応可能でありうる(Rosenberg et al., 2008)。実際に、本発明者らは今回、HSC/OP9-DL1共培養から作製された機能的に反応性のSP8の成熟に関する明らかな証拠を提供する。これは、培養物内の、どの細胞型がMHC依存的なSP8陽性選択を媒介するのかという問題を提起する。ヒトCD8分子によって効果的に認識されないマウスMHCクラスI (Irwin et al., 1989)を発現するOP9細胞が、必要とされる陽性選択シグナルを供給する可能性は低い。むしろ、T系統細胞であってもそうでなくてもよい、ヒトMHCクラスIを発現するUCB由来細胞がこれらのシグナルの運搬体である可能性が高い。さらに、本発明者らはまた、ヒトMHCクラスII発現細胞によって同様に選択できた、CD3+CD4+ T細胞の見掛けに留意した(図4Aおよび4B)。しかしながら、SP8とは対照的に、これらの細胞は機能的な成熟T細胞の特徴を示さず(データ記載せず)、これらの培養物において容易に利用可能ではないさらなる分化シグナルを要する移行細胞に相当しうる。
【0135】
ヒトHSC/OP9-DL1培養物はDP細胞の健全かつ持続的な増殖を示し、培養で4ヶ月まで継続してまたは4ヶ月を超えて継続して観察することができた(図10)。CD4+CD8+ DP細胞は短命であることが公知であり(Shortman et al., 1990)、かくして、これらの遅い時点でのその存在から、前駆細胞が維持され、この集団を維持することが示唆される。注目すべきは、本発明者らは、これらの遅い時点でCD34+プロT細胞の集団を検出することができるが、これらの細胞が初期の前駆体の大きなプールからまたはこれらの培養物において自己再生および増殖する能力から長時間にわたって持続するかどうかは不明である。一つの可能な機構では前駆細胞サブセットの維持または長期の自己再生にNotchシグナルを要するものと考えられる(Karanu et al., 2000; Karanu et al., 2001; Varnum-Finney et al., 1998)が、しかしこの考えはまだ直接調べられていない。
【0136】
本発明者らの所見は、CD5を発現するCD34+CD7++ T前駆体がFTOCに生着するその能力において、そのCD5陰性の対応細胞よりも高い前駆体潜在性を保有することを実証する。この分析から得られた見識により、これらのCD5+プロT2細胞は、マウスモデルにおいてその免疫再構築能を評価するためのさらなる研究にとって魅力的なサブセットになる(Legrand et al., 2006)。さらなる分析によると、ヒト臍帯血HSCから誘導されたおよびOP9-DL1共培養系を利用してインビトロで作製されたバルクCD34+CD7++ T前駆体は、二種の免疫不全マウスモデルにおいて胸腺再構築の能力がある(図11〜16)。これらの胸腺細胞は、その細胞表面上のCD7、CD5、CD1a、CD4およびCD8の発現を通じてコミットされたT系統細胞の特徴サインを持つ。前駆T細胞の肝内注射から3週後の時点でヒト胸腺細胞の大多数がCD4 CD8二重陽性細胞であるが、ゲートをかけたCD45+CD3hi細胞のなかでわずかな割合のCD4単一陽性細胞およびCD8単一陽性細胞を検出することができる。これらの単一陽性細胞は脾臓のような末梢器官にまだ現れていない(データ記載せず)ことから、マウス胸腺内の間質成分および/または前駆T細胞に由来するヒト抗原提示細胞によって始まる陽性および陰性選択がまだ起きておらず、かくして、胸腺からの輸出には時期尚早であることが示唆される。本発明者らのデータはまた、ヒトCD34+ HSCが免疫不全マウス系統への肝内注射後に胸腺再構築も示すことを実証し、GimenoらおよびTraggiaiらによる過去の報告(Gimeno et al., 2004; Traggiai et al., 2004)と一致している。本発明者らの手中では、CD34+ HSC由来の胸腺再構築能は、CD34+CD7+バルク前駆T細胞由来の胸腺再構築能よりも効率かつ頑強ではないように思われる。この知見を説明するのに、二つのかつ必ずしも相互に排他的ではない可能性を提案することができる。一つのシナリオでは、亜致死量放射線照射はRAG2-/-γc-/-二週齢新生仔の骨髄を適当な状態にして、HSC細胞生着を許容するように要求されない{Gimeno, 2004 #1087}が、ヒトの胎児肝臓および骨髄においてHaddadらにより報告され検出された骨髄生着およびその後の胸腺定着細胞の産生を促進することができる(Haddad et al., 2004; Haddad et al., 2006)。それゆえ、そのような細胞は、これらの細胞が定着する免疫不全マウスへのヒトHSCの生着および宿主胸腺内でのヒトT細胞系統細胞への分化によって産生されることはもっともらしい。あるいは、胸腺定着細胞は、CD34+CD38-/lo表現型によって選別される不均一集団内に限定的な数で存在しているのかもしれない。どちらのシナリオでも、ヒトHSCはヒトバルク前駆T細胞と比べて胸腺再構築能の動態遅延を示すものと考えられる。
【0137】
さまざまな血液学的障害の処置のために自家移植のまたは同種異系間の造血幹細胞移植(HSCT)を受けた患者は、HSCT後にT細胞回復の深刻な欠陥を示すことが立証されている。移植後数週間以内にレベルが回復する造血細胞の大部分とは対照的に、T系統の回復は2年までの間、細胞数も機能も損なわれ、または決して回復しえない(Fry and Mackall, 2005)。この遅延または欠如は、免疫機能の障害を引き起こし、感染または再発に対する感受性の増大と関連している。マウス前駆体を用いるVan den Brinkのグループが公開している手法(Zakrzewski et al., 2006a)と同様に、本発明者らの結果は、インビトロで作製されたヒトプロTまたはプロT2細胞がHSC由来のTリンパ球産生を劇的に改善したことを実証しており、これは実際に、HSCのみを受けたマウスでは通常認められなかった(図23)。さらに、インビトロで作製されたプロT細胞とHSCとの同時注射は、HSC由来の骨髄造血またはBリンパ球産生に影響を与えなかったことから、HSC由来のT細胞の作製に対する標的効果が示唆された。この効果について考えられる機構は、骨髄から胸腺へのHSC由来T前駆体の移動および動員の増強をもたらしうるサイトカインおよびケモカイン産生のような、間質細胞の細胞充実性および機能の改善をもたらす、T系統と胸腺間質細胞との間の細胞クロストークを伴った、宿主胸腺ニッチの素早い回復によるものでありうる。観察結果に対する別の説明は、HSCが骨髄を迂回するのを、および胸腺に速やかに侵入するのをプロT細胞に付着することによって可能にする注射時のプロT細胞の直接的な「抱き合わせ」であるとすることができる。
【0138】
まとめると、本発明者らのデータは、造血幹細胞手法に合わせてまたは造血幹細胞手法なしで前駆T細胞を利用することにより免疫不全の処置に向けて素早い免疫再構築を促進できることを示唆している。そのような手法を調整しまたは遺伝子操作し、多数の、本明細書において記述される前駆T細胞およびその子孫細胞を作製して、がん化学/放射線療法計画およびHIV感染が誘発する免疫不全を処置してもよく、あるいは自己免疫の抑制のために適切な免疫機能および調節を回復してもよい。
【0139】
実際に、インビトロ由来の前駆T細胞の使用は、これらの細胞が宿主胸腺内で陽性および陰性選択を受けているはずなので、移植片対宿主病のような問題を回避することにより成熟なエフェクタT細胞よりも治療的に適切であると分かりうる(Zakrzewski et al., 2006b)。次に、インビトロで作製されたT前駆細胞は、これらの細胞が多数作製され、免疫不全個体での適応免疫の回復に向けて新規の戦略を開発可能にすることができるので、細胞に基づく治療法に対する実行可能な選択肢として最終的には役立ちうるものと推測することが可能である(La Motte-Mohs et al., 2007; Zakrzewski et al., 2008)。
【0140】
実施例9 前駆T細胞はOP9-DL4細胞上での共培養後に産生される
材料および方法
選別されたヒト臍帯血由来のHSCを既述のように、OP9-対照細胞、OP9-DL1細胞またはOP9-DL4細胞上に配し、組み換えヒトサイトカインFlt-3L (5 ng/ml) (R&D Systems, Minneapolis, MN)およびIL-7 (5 ng/ml) (Peprotech, Rocky Hill, NJ)の存在下で24日または40日間共培養した。共培養24日目に、発生中の細胞を以下のヒト抗体とともにFACS緩衝液(ハンクス平衡塩類溶液(HBSS) 1× - フェノールなし、Ca2+なしMg2+なし、ウシ血清アルブミン(BSA) 1.0%およびアジ化ナトリウム0.05%)中で染色した: PE-CD4 [クローンRPA-T4]、FITC-CD8 [クローンRPA-T8]、PE-CD7 [クローンM-T701]、APC-CD1a [クローンHI149]、ビオチン-CD5 [クローンUCHT2]、FITC-TCR-αβ[T10B9.1A-31]、FITC TCR-γδ[B1.1]、APC-CD3 [UCHT2]、PE-TCRvβ3 [JOVI-3]、PE-TCRvβ5 [MH3-2]、PE-TCRvβ8 [JR2]、PE-TCRvβ12 [S511]、PE-TCRvβ23 [AHUT7] (全てBD-Pharmigen, San Jose, CAから購入した)、および適切なアイソタイプ対照に対するビオチン-プレTa (Dr. Maria Louisa Toribioからの寄贈品)。インキュベーション後、細胞を洗浄し、ビオチン標識細胞一次抗体に対するFITC-ストレプトアビジン(SAv)およびAPC-SAv二次試薬(同様にBD Pharmigenから購入した)のどちらかで染色した。2回目のインキュベーションおよび洗浄の後、細胞を、ヨウ化プロピジウム(0.2 μg/ml)を含有するFACS緩衝液中で再懸濁し、FACSCalibur (BD-Biosciences)フローサイトメーターに流した。データ分析はFlowJoソフトウェア(Tree Star, Ashland, OR)を用い生リンパ球のゲーティングおよびヨウ化プロピジウムの取り込みの欠如によって行った。GFP発現性OP9間質細胞はGFP発現および側方散乱によるゲーティングを通じて除外した。この手順によって、混入しているGFP発現性OP9間質細胞の99%が除外された。四分画領域の角の数値はゲート細胞の割合を表す。
【0141】
結果
OP9-DL1細胞は健全なT細胞発生を支持し、前駆T細胞および二重陽性T細胞の両方を産生した(図17、18および20)ので、本発明者らは、Notch 1受容体に対するさらに強力な親和性リガンド(Besseyrias et al., 2007) Delta様-4を発現するように形質導入されたOP9細胞(OP9-DL4細胞)がT細胞系統への臍帯血由来HSCの分化を支持することもできたかどうかを判定するための研究に着手した。
【0142】
図17に見られるように、OP9-対照細胞ではなく、OP9-DL1またはOP9-DL4細胞上で共培養されたヒトHSCは、共培養24日目の後にCD4 CD8二重陽性T細胞を産生した。具体的には、二重陽性T細胞は、それぞれOP9-DL4またはOP9-DL4細胞上での共培養時にリンパ球集団のおよそ15〜30%を占有し、CD4中間型の単一陽性期(ISP)を進行した。二重陽性T細胞が出現し始める、このT細胞発生期に、T細胞の生存および増殖の進展に関わる重要な分子であるプレTαの発現(Carrasco et al., 2002)も、OP9-対照共培養物ではなく、OP9-DL1およびOP9-DL4共培養物中でCD4陽性細胞およびCD4陰性細胞に対して明らかであった。プレTαの発現がCD4陽性細胞にもCD4陰性細胞にも認められたので、本発明者らは、CD5を発現した前駆T細胞集団(プロT1)またはCD5を欠いた前駆T細胞集団(プロT2)が明示されうるかどうかを判定するためのさらなる研究に着手した。図18は、OP9-対照共培養物ではなく、OP9-DL1およびOP9-DL4共培養物が、三つの集団CD7+CD1a++ (より成熟なT細胞)、CD7++CD1a+ (コミットされたT細胞)およびCD7++CD1a- (規定された前駆T細胞)に分類できるT系統の細胞を産生することを示す。CD5は、T細胞マーカーとしてのその役割と一致して、CD7+CD1a++およびCD7++CD1a+にほぼ遍在的に発現される。対照的に、前駆CD7++CD1a-細胞は、CD5発現の有無によって二つの集団、それぞれプロT1細胞およびプロT2細胞に分類することができる。
【0143】
OP9-DL1共培養物もOP9-DL4共培養物も前駆T細胞およびより分化したその子孫細胞を産生したので、本発明者らは次に、継続的共培養が、TCRαβまたはTCRγδを発現するT細胞の出現をもたらしうるかどうかを判定するための研究に着手した。図19は、TCRαβ-またはTCRγδ-発現細胞はゲートをかけたCD7++CD1a- CD7++CD1a+のなかで検出できるが、TCRを持つどちらのサブセットもさらに成熟なCD7+CD1a+において増大されることを示す。発生中のTCRαβが異なるVβ領域を利用したかどうかを判定するために、OP9-対照、OP9-DL1およびOP9-DL4共培養物由来の発生中のT細胞をCD3およびいくつかのVβ領域に対して染色した。図20で図解されるように、OP9-DL1共培養物およびOP9-DL4共培養物由来の発生中の細胞には、CD3発現細胞を欠いていた、OP9-対照共培養物と比べてCD3発現細胞が含まれていた(それぞれおよそ38%およびおよそ13%)。さらに、複数のVβ利用がアイソタイプ対照と比べて、OP9-DL1共培養物において、およびそれほどではないにせよOP9-DL4共培養物においてCD3発現細胞に認められた。具体的には、フローサイトメトリー分析によって調べたVβのうち、V 3およびV 5の発現が最も容易に検出された。まとめると、これらの結果は、OP9-DL4細胞が、さらに分化してより成熟なT細胞を生じうる、前駆T細胞サブセット: プロT1およびプロT1細胞を産生するその能力でOP9-DL1細胞と同様に振る舞うことを示す。
【0144】
考察:
OP9-DL4細胞がOP9-DL1細胞のように、前駆T細胞も、より分化したT細胞子孫もともに産生できることを示す結果は、Delta様-4のようなさらなるNotch受容体リガンドが、T細胞系統の細胞へのヒトHSCの有向分化をさらに増強または促進できるさらなるシグナルを与えうるという考えを支持している。これらのDelta様-4シグナルが異なるおよび/または重複しているかどうかは、さらには解明されないまま残っており、今のところ、市販されている非交差反応性のリガンド特異的モノクローナル抗体がないために実験的に試験することは困難である。最近になって、Delta様-4は、Notch 1受容体にいっそう高い親和性で結合する有利なリガンドであることが実証されており、Delta様-4は、T細胞を誘導するかつT細胞発生を支持する能力が最も大きいリガンドでありうることを示唆している(Besseyrias et al., 2007)。興味深いことに、OP9-DL1またはOP9-DL4共培養物によって誘導されるヒトT細胞発生は、OP9-DL4でT細胞発生が支持されるとはいえ、断然にOP9-DL1細胞の方が健全なヒトT細胞発生を誘導かつ支持するその能力で優れているように思われることを示唆しているように思われる。本発明者らの共培養系では、同程度のDelta様発現をレポーターGFP発現のみによって確認するのは困難であることに留意されたい。したがって、Delta様-1とDelta様-4の両方の過剰発現およびその飲食作用能(Bray, 2006)を考えると、Notch受容体を持つ分化細胞に形質導入される全体的シグナル強度が、OP9-DL1またはOP9-DL4共培養系のなかでDelta様分子に見られる最適上限の発現によって認められる相違を覆い隠すかまたは増幅させるかどうかは不明になる。この問題に取り組むため、本発明者らは、OP9-DL1細胞およびOP9-DL4細胞のタグ付き型を操作することに着手し、これらの細胞内のタンパク質レベルの発現を評価して、発生中の前駆T細胞へ異なるまたは類似のシグナルが伝達されるかどうかを判定した。それにもかかわらず、本発明者らの研究から、OP9-DL1細胞もOP9-DL4細胞もT系統の細胞へのヒト臍帯血由来HSCの健全かつ有向な分化を支持し、多数の前駆T細胞サブセットのプロT1およびプロT2、ならびにより分化したその子孫細胞を産生しうることが明らかである。
【0145】
実施例10 ヒト胚性幹細胞(hESC)およびヒト誘導多能性幹細胞(hiPSC)はOP9-DL1細胞またはOP9-DL4細胞との培養時に早期T系統細胞に分化する
材料および方法
既述(Kennedy et al., 2007)のように、ヒトESCを凝集させて胚様体(EB)を形成させ、次に外因性サイトカインの連続添加によって造血系統へ分化するように順次誘導する。手短に言えば、EB形成の間に、サイトカインを次のように添加した: 0〜4日目に骨形態形成タンパク質4 (BMP4) 10 ng/ml、1〜8日目に塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF) 5 ng/ml、2〜4日目にアクチビンA 0.3 ng/ml、4〜8日目に血管内皮増殖因子(vascular growth factor; VEGF) 15 ng/ml、4〜6日目にdickkopf-1 (Dkk1) 50 ng/ml、6〜8日目にインターロイキン11 (IL-11) 5 ng/ml、6〜8日目にIL-6 10 ng/ml、6〜8日目にインスリン様増殖因子IGF-1 25 ng/ml、6〜11日目に幹細胞因子(SCF) 100 ng/ml、8〜11日目にトロンボポイエチン(thrompoietin; TPO) 50 ng/ml、8〜11日目にIL-3 50 ng/ml、8〜11日目にエリスロポエチン4単位、8〜11日目にFlt3-L 320 ng/ml。9〜11日のEB培養の後、選別されたCD34+およびCD34-細胞をOP9-DL1 (またはOP9-DL4)細胞上に播種し、20日間培養し、フローサイトメトリーを用い潜在的なT細胞性についてアッセイした。OP9-DL1 (またはOP9-DL4)共培養期間中に、培地を週2回交換し、共培養物を新しいOP9-DL1 (またはOP9-DL4)細胞上に移した。各培地交換中にFlt3-L 5 ng/ml、IL-7 5 ng/mlを与えた。OP9-DL1 (またはOP9-DL4)共培養の最初の14日間だけSCF 100 ng/mlを与えた。
【0146】
T系統細胞へのヒトESCおよびヒトiPSCの分化
持続的および継続的T細胞発生をUCB-HSCからインビトロで誘導することができ、CD4+ CD8+ DP、CD4+ SPおよびCD8+ SP細胞を作製することができるが、ヒト胚性幹細胞(hESC)は将来の免疫再構築研究用の前駆T細胞を作製するのに魅力的な供給源である。他の供給源から得られるHSCとは異なり、hESCはその未分化状態で容易に維持することができ、無限の増殖能を保有し、遺伝子改変に容易に適応可能である。今でも、hESCからのT細胞の作製は、煩雑な手順および定義が不十分な誘導事象に依って、相変わらず可能であるが非効率的である(Galic et al., 2006; Galic et al., 2009; Timmermans et al., 2009)。これは、大部分は、hESCがインビトロでいかにして分化するかという理解が不十分なためである。けれども、hESCは培養液中で分化して全三種の胚葉を形成することが可能であり(Itskovitz-Eldor et al., 2000; Schuldiner et al., 2000)、造血細胞ならびにBおよびNK細胞になるようにhESCを誘導することにはある程度の成果があった(Kaufman et al., 2001 ; Woll et al., 2005)。具体的には、hESCがインビボでT細胞を生じうることを示す報告は三つしかなく、このうちの二つが亜致死量放射線照射された免疫不全SCIDマウスの腎臓被膜下に移植された結合ヒト胸腺/肝臓(Thy/Liv)組織へのヒトESC由来CD34+細胞の直接注射を要した(Galic et al., 2006; Galic et al., 2009)。第三の報告(仮特許出願の当初出願後に公開された)は、有望であるが、細胞分化マーカーに基づく特異的サブセットの単離ではなくOP9-対照に対する造血域の形態可視化に依り、これを次に切除し、OP9-DL1細胞へ純化しなければならなかった(Timmermans et al., 2009)。重要なことには、今まで、完全にインビトロでのヒトESCからのTリンパ球の作製に関する報告はなく、T細胞発生のための簡単かつ有効なインビトロ系を開発する必要性を強調している。
【0147】
結果
hESC分化のための二段階プロトコル法(Kennedy et al., 2007)を用いて、選別された、CD34-細胞ではなく、CD34++細胞は、CD7およびCD5の発現によって明らかなように(図24A)、OP9-DL1共培養20日までに未熟なT系統早期細胞を産生することができた。さらに、本発明者らは、Kellerグループから同様に得られた、hiPSCにまでこれらの所見を拡張し、図24Bに示されるように、上記と同様のプロトコルを用いて、hiPSCをCD34++細胞について選別し、次いでOP9-DL4細胞とともに22日間培養した。この共培養手法はまた、UCB-HSC/OP9-DL1共培養物から得られた細胞表面表現型と同様、CD7およびCD5を発現する早期T系統細胞をもたらした。
【0148】
考察
本実施例は、hESCまたはhiPSC由来のCD34+前駆体の予期的な単離を用いて以前には実証されていなかった、CD7+CD5+ヒトT系統細胞を作製する能力を示す。本発明者らは、OP9-DL1またはOP9-DL4間質細胞との培養に先立ち特異的なサイトカインカクテルを用いてこれらの細胞内で高いNotchシグナル伝達を誘導するEB形成の規定の培養方法が、これらの原始的前駆体からのヒトT系統細胞の効率的な作製を可能にするものと思う。
【0149】
UCB-HSC、hESCおよびhiPSC由来かを問わず、定義済みの幹細胞供給源から誘導されうる、多数のインビトロ作製T細胞前駆体を容易に得られることは、起源が後天性または遺伝性の、T細胞免疫不全の処置に向けた新たな機会を切り開く。
【0150】
好ましい例であると現在考えられるものに関連して本出願を記述してきたが、本出願は開示の例に限定されないと理解されるべきである。それとは反対に、本出願は、添付の特許請求の範囲の趣旨および範囲のなかに含まれるさまざまな変更および等価な組み合わせ方を網羅するよう意図される。
【0151】
全ての刊行物、特許および特許出願は、各個別の刊行物、特許または特許出願がその全体として参照により組み入れられると具体的かつ個別的に示されているかのようにその全体として参照により本明細書に組み入れられる。
【0152】
(表I)ヒト造血幹細胞サブセットの前駆体頻度分析
a CD34+ CD38-、CD34+ CD38loおよびCD34+ CD38+/hi HSCを、OP9-DL1細胞を含有する96ウェル/プレートのウェルに数を限定して配し、フローサイトメトリー分析のために収集する前に11日間培養した。
b 個々のウェルをCD45+ CD7++染色に基づきT細胞の存在についてスコア化した。ポアソンモデルに適用された最大尤度法により統計分析を行った(Fazekas de St, 1982)。
【0153】
(表II)前駆T細胞サブセットの前駆体頻度分析
a CD34+ CD38-/lo UCB由来細胞を12〜14日間OP9-DL1細胞上で培養し、表示の表現型を有するプロT1/プロT2細胞を、フローサイトメトリーによる細胞選別で得た。
b プロTサブセットを、FTOCにまたはOP9-DL1細胞を含有する96ウェル/プレートのウェルに数を限定して配し、フローサイトメトリー分析のために収集する前に7日間培養した。
c 個々の胸腺葉またはウェルを、それぞれ、CD45+ CD7++またはCD7++ CD1a-/+染色に基づきT細胞の存在についてスコア化した。ポアソンモデルに適用された最大尤度法により統計分析を行った(Fazekas de St, 1982)。
【0154】
(表III)CD34+ UCB細胞およびさまざまなOP9-DL1共培養由来サブセットの潜在的な赤血球性、骨髄性、巨核球性および顆粒球性の評価
選別されたインビトロ由来細胞(プロT1、プロT2およびCD34- CD7+サブセット) 500個を半固体培地(1%メチルセルロース)にプレーティングすることによってクローン原性の骨髄赤血球前駆体(BFU-E)、顆粒球・マクロファージコロニー形成単位(CFU-GM)、顆粒球コロニー形成単位(CFU-G)、マクロファージコロニー形成単位(CFU-M)およびマクロファージ・巨核球、赤血球、マクロファージ、顆粒球(CFU-混合物)の潜在性の存在を評価した。UCBから選別されたCD34+細胞を陽性対照として役立てた。コロニーを二つ組の培養物からカウントした。22日後のコロニーの平均数を示す。n, 分析した実験再現数。
【0155】
(表IV)免疫不全新生仔マウスに注射したプロT1およびプロT2サブセットの生着能
プロT1およびプロT2細胞を10日目の共培養物から選別し、表示の細胞数で免疫不全マウスに注射した。注射から21〜25日後に胸腺を収集し、ヒトCD45+ CD7++細胞の存在によって生着を判定した。生着マウスの割合を示す。n, 処置群ごとに分析したマウスの数。
【0156】
本明細書において参照された参考文献の完全な引用
【技術分野】
【0001】
分野
本出願は、前駆T細胞、それを調製する方法、ならびに成熟ヒトT細胞集団を作製するための、胸腺組織に生着させるための、および治療用途における前駆T細胞の使用を含む前駆T細胞の全ての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
T細胞は、細菌抗原およびウイルス抗原に対してインビボで強力かつ特異的な免疫反応を誘発する免疫系の主要な細胞部門である。重症複合免疫不全(SCID)を持って生まれた個体は、T細胞の完全欠損を示すが、HIV/AIDSに感染した個体またはがんのために化学/放射線療法で処置された個体は、T細胞の著しい枯渇を示す。免疫不全が先天性または後天性であるかにかかわらず、これらの個体は、生まれてくる骨髄由来の幹細胞から新しいT細胞を産生するその能力が、および日和見感染に対する十分な免疫反応を開始するその能力が損なわれている。逆に、関節炎および糖尿病のようなある種の自己免疫疾患を有する個体は、T調節性細胞と呼ばれる特殊なT細胞のないことが一部原因の、自己組織に対する不適切な免疫反応を示す。したがって、特定の個体から抽出され増殖させた前駆細胞の分化を通じてインビトロで新しいデザイナーT細胞を作製する能力は、T細胞数、および機能的免疫系の維持かつ調節能力を回復することにより多くの疾患の処置において治療的有用性を与えることができる。Notch受容体リガンドDelta様-1またはDelta様-4を発現するマウスOP9骨髄間質細胞株との共培養の期間後にT細胞系統へ分化するようにマウス造血幹細胞が誘導されるインビトロ分化系が記述されているが、同系を用いたヒト造血幹細胞の特徴付けはいまだ明らかにされていない。
【0003】
赤血球、骨髄およびリンパ球の系統を生じうる造血幹細胞(HSC)は、CD34の発現および系統特異的マーカーの欠如(Lin-と呼ばれる)に基づいて同定することができる(Kawamoto et al., 1997)。ヒト臍帯血(CB)は豊富なHSC供給源を提供し、これは骨髄由来のHSCに匹敵する(Barker and Wagner, 2003; de Wynter et al., 1999; Fisher et al., 1990; Galy et al., 1993; Gluckman et al., 1997; Ito et al., 2002; Lewis and Verfaillie, 2000; McCune et al., 1991; Sanchez et al., 1993; Wilpshaar et al., 2002)。ヒトT細胞は、T細胞受容体(TCR)可変(V)、多様性(D)および連結(J)遺伝子セグメント再構築[V(D)J]、および発生中の胸腺細胞の陽性/陰性選択を含めて一連のコミットメント事象および発生チェックポイントを伴う発生学的に調節された個別の段階を介して胸腺中で分化する(Spits, 2002)。最も初期の胸腺内前駆体は高レベルのCD34およびCD7を発現し、CD1aを発現せず、成熟なT細胞マーカー: CD4、CD8およびCD3について三重陰性(TN)である(Galy et al., 1993)。T細胞系統へのコミットメントはCD7を発現している前胸腺細胞によるCD1aの発現と関連している(Spits, 2002; Spits et al., 2000)。
【0004】
いくつかの研究がHSC増殖、自己再生(Stier et al., 2002)、生存(Deftos and Bevan, 2000; Osborne and Miele, 1999)およびT細胞系統コミットメントの誘導(MacDonald et al., 2001; Osborne and Miele, 1999; Pear and Radtke, 2003; Radtke et al., 2002; Robey, 1999; von Boehmer, 2001)の促進に、Notch経路を関連付けている。ヒトでは、四つのNotch受容体(Ellisen et al., 1991; Lardelli et al., 1994; Milner et al., 1994; Uyttendaele et al., 1996; Weinmaster et al., 1991)が存在しており、これらは二つのserrate様リガンド(Jagged 1および2) (Lindsell et al., 1995; Luo et al., 1997)または三つのdelta様リガンド(Dll-1、-3および-4) (Karanu et al., 2001; Shutter et al., 2000)と対合することができる。Notchシグナル伝達は、T細胞分化の複数の時期に作用するように思われる(Deftos et al., 2000; Garcia-Peydro et al., 2003; Izon et al., 2001; Jiang et al., 1998; Robey et al., 1996; Washburn et al., 1997)。T細胞発生におけるNotchシグナル伝達の役割に関する最も強力な証拠は、機能獲得および機能喪失の研究からきており(Allman et al., 2002; Izon et al., 2002; MacDonald et al., 2001; Pear et al., 1996; Pui et al., 1999; Radtke et al., 2002; Wilson et al., 2001)、そのなかで、Notch-1を通じたシグナル伝達がB細胞 vs T細胞系統の選択の決定で重要な役割を果たすことが示されている(Pear and Radtke, 2003; Radtke et al., 2002)。
【0005】
HSCは複数のNotch受容体を発現する(Milner et al., 1996; Milner et al., 1994)が、各種のNotchリガンドの発現パターンは骨髄間質細胞(Jones et al., 1998; Karanu et al., 2001; Li et al., 1998; Varnum-Finney et al., 1998; Walker et al., 1999)と胸腺上皮細胞(Anderson et al., 2001)との間で異なることが報告されている。まとめると、これらの結果は、種々のNotch受容体およびリガンドが微小環境に応じ造血の種々の局面を制御して、骨髄中での自己再生を可能にし、胸腺中での細胞運命決定に影響を与えうることを示唆している(Varnum-Finney et al., 1998)。これは、T細胞コミットメントおよび分化を誘導する適切なNotchリガンドがないため、B細胞分化を支持する、OP9細胞などの、骨髄間質細胞株(Cho et al., 1999; Kim et al., 2003; Kodama et al., 1994)もそのようにしうるという仮説につながった。この仮説を検証し、その結果、Dll1を発現しないOP9細胞は、Dll-1を発現するようにレトロウイルスによって形質導入される(OP9-DL1)場合、B細胞の発生を阻害し、胎仔肝臓由来HSC (Schmitt and Zuniga-Pflucker, 2002)またはマウスESC (Schmitt et al., 2004)からのT細胞の発生に有利に働くことが実証された。マウスDll-1分子とヒトDll-1分子との間の高レベルの相同性(90%)、およびマウス間質細胞がヒトHSCの分化を支持しうるという所見(Bennaceur-Griscelli et al., 2001; Jaleco et al., 2001; Karanu et al., 2001; Rawlings et al., 1995)を考えて、本発明者らはOP9-DL1細胞上で培養されたヒトCB由来のHSC (CD34+CD38-)がインビトロでT細胞分化を開始かつ支持しうるかどうかを判定しようとした。
【0006】
T細胞は、骨髄由来の造血前駆体から胸腺内で発生し、発生中のCD4およびCD8の協調発現によって広く特徴付けられる一連の時期特異的な分化事象に従う(Blom and Spits, 2006; Spits, 2002)。
【0007】
ヒトT細胞発生の初期には造血幹細胞(HSC)上におよび多能性のもしくは系統特異的な前駆細胞上にも存在する、幹細胞マーカーCD34を発現する前駆体が含まれる(Haddad et al., 2006; Hao et al., 2001)。さらに、ヒト胸腺中の最も原始的な細胞は、それらがT系統、ならびに、ナチュラルキラー(NK)、樹状細胞(DC)およびある程度は骨髄系統細胞を生ずること(Blom et al., 1997; La Motte-Mohs et al., 2007)から、多系統の潜在性を保有すること(Blom et al., 1997; Res et al., 1996; Weerkamp et al., 2006a)をいくつかのグループが立証している。T細胞発生の公知の階層のなかで、最も初期の前駆体サブセットはCD3、CD4、CD8およびCD1a発現のその欠如によってさらに定義される(Galy et al., 1993; Vanhecke et al., 1995)。
【0008】
T細胞発生の未成熟期は、典型的には、CD34+CD1a-(最も未熟)およびCD34+CD1a+細胞として描出されるが、これらの集団は不均一なままである。注目すべきは、CD7発現は、Tリンパ球産生の間に現れることが公知の最も初期の細胞表面マーカーの一つである(Haddad et al., 2006; Haynes et al., 1988)。重要なことには、初期胸腺細胞によるCD34+CD7+CD1a-からCD34+CD7+CD1a+への移行は、これらの細胞のごく一部(およそ10%)がT細胞受容体β鎖(TCRβ)遺伝子座の位置に再構築を有するように、T細胞コミットメントと関連している(Blom et al., 1999; Dik et al., 2005)。さらに、CD34+CD7+CD1a+細胞は、これらの細胞が非T細胞系統への低い前駆体活性を示すように、T系統拘束されるように思われる(Spits, 2002)。この時期の後、胸腺細胞はCD4未成熟な単一陽性(CD4ISP)期に進行し、この時点でCD8の非存在下CD4が発現される。その後、CD4ISP細胞のサブセットがTCRβ再構築を完了し、β-選択およびCD4+CD8+二重陽性(DP)期への分化をもたらすものと思われる。最終的に、TCRα再構築の後、TCRαβ発現性のDP胸腺細胞が陽性および陰性選択を受け、CD4+CD8-およびCD4-CD8+単一陽性(SP) T細胞を生み出し、これらが末梢へ遊出する(Vanhecke et al., 1997)。
【0009】
上記の時期に関する現時点での理解は、ヒト胎児または成人胸腺細胞サブセットの分析から、およびマウス胎仔胸腺器官共培養物(FTOC)の異種生着を用いインビトロでのT細胞発生を分析することによって得られた(Fisher et al., 1990; La Motte-Mohs et al., 2007)。これらの系はT細胞発生への重要な見識を与えたが、特異的な前駆体集団を評価する能力は、ヒト胸腺組織が必要なこと、および容易に分析できる前駆T細胞の数が限られていることを考慮すると、評価が困難なままであった。
【0010】
本発明者らの研究室の以前の研究によって、OP9-DL1細胞と共培養された臍帯血(UCB)由来HSCからヒトT系統分化を誘導できることが立証されている(La Motte-Mohs et al., 2005)。本発明者らは、未成熟なDP T系統細胞の産生を含めて、さまざまな細胞表面分子の正常な時期特異的発現を示した。しかし、これらの研究は定量的クローン分析を用いて行われなかったので、異なるUCB CD34+サブセットがT系統細胞を生じることができたかどうか、およびDelta様/NotchシグナルがCD34+ UCB細胞のT前駆体頻度に影響を与えるかどうかは未解決であった。さらに、機能的T細胞を作製できたかどうかは不明であった。最後に、本発明者らの初期研究(La Motte-Mohs et al., 2005)は、HSC/OP9-DL1分化の早期の間に、T前駆体に類似した細胞の集団が明らかになることを示したが、これらの細胞が有効なT細胞前駆体として働く可能性には取り組んでいなかった。
【発明の概要】
【0011】
概要
本発明者らは、インビトロでヒトT細胞発生早期を調べ、限界希釈および単一細胞アッセイ法を行って、さまざまなUCB由来CD34+幹/前駆体サブセットのT細胞前駆体頻度に取り組んだ。本発明者らは、Notchシグナルを受けたCD34+サブセットのなかでT細胞前駆体の潜在性を増強する際のDelta様/Notch相互作用の効果を評価した。さらに、限界希釈胸腺再構築手法を用いて、本発明者らの知見から、異なる組織培養に由来するT前駆体サブセットは、これらの細胞がOP9-DL1細胞上でのアッセイ時にT系統細胞をもたらす類似の潜在性を示すとはいえ、その胸腺生着有効性の点で異なることを明らかにした。具体的には、二つの異なるサブセットCD34+ CD7++ CD5- CD1a- (プロT1(proT1))およびCD34+ CD7++ CD5+ CD1a- (プロT2)を分析した。本発明者らはまた、成熟した機能的T細胞がインビトロで作製されること、およびこれらの細胞がTCR刺激によってT細胞エフェクタ機能を示すことを明らかにした。プロT細胞はIL-15との培養時にナチュラルキラー(NK)細胞をもたらすこともできる。
【0012】
総合して、これらの知見は、ヒトT細胞およびNK細胞の作製および研究のための前駆T細胞(プロT細胞)の使用を支持するものであり、細胞に基づく免疫再構築手法でのインビトロ作製プロT細胞、成熟T細胞およびNK細胞の使用への支持を提供するものである。
【0013】
したがって、本出願の一つの局面では、表現型CD34+CD7+CD1a-を有する単離された前駆T細胞を提供する。一つの態様において、単離された前駆T細胞は表現型CD34+CD7+CD5-CD1a-を有する。別の態様において、単離された前駆T細胞は表現型CD34+CD7+CD5+CD1a-を有する。
【0014】
別の局面において、本出願は、単離された前駆T細胞を適当な希釈剤または担体との混合状態で含む薬学的組成物を提供する。
【0015】
別の局面において、本出願は、成熟T細胞の調製、NK細胞の調製、胸腺の生着、免疫再構築、遺伝子治療に用いる遺伝子の担体としてのT細胞の増加を要する状態の処置を含めて、全ての用途でのヒト前駆T細胞の使用を提供する。
【0016】
本出願の他の特徴および利点は以下の詳細な説明から明らかになるであろう。しかしながら、詳細な説明および具体例は本出願の好ましい態様を示しているとはいえ、この詳細な説明から当業者には本出願の趣旨および範囲内の種々の変更および修正が明らかになるものと考えられるので、これらは単に例証として与えられていることが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
本出願の利点は、添付図面に関連して考慮すれば、以下の詳細な説明を参照することによってさらによく理解されるようになると容易に理解することができる。以下は図面の簡単な説明であり、これは本出願をさらに例証する目的のみで与えられており、本出願を限定する目的で与えられるものではない。
【0018】
【図1】OP9-DL1細胞上で培養されたCD34+ CD38-/lo HSC由来のヒトT系統細胞の発生進行。(A) OP9-DL1細胞との共培養前の精製ヒトCD34+ CD38-/lo HSC由来のCD34、CD5、CD1a、CD10、CD2、CD4、CD8、CD3およびCD7の細胞表面発現に関するフローサイトメトリー分析。(B, C) HSC/OP9-DL1共培養物を収集し、図のようにマーカーの発現について表示の時点でフローサイトメトリーにより分析した。データは少なくとも5つの独立の共培養物の代表である。プロット中の数値は各四分画内の細胞の割合を示す。
【図2】インビトロで作製されたT細胞前駆体の存在に関する分析。(A) 共培養開始前の0日目を含め、表示の時点で収集されたHSC/OP9-DL1共培養物由来のCD7およびCD45RAの発現に関するフローサイトメトリー分析。(B) CD34+ CD7++としてゲートをかけた細胞に対して示したCD45RA発現(下段)とともに、4、6および8日目の時点で収集されたHSC/OP9-DL1共培養物由来のCD7およびCD34発現のフローサイトメトリー分析(上段)。データは3つの独立の共培養物からの代表である。プロット中の数値は各四分画内の細胞の割合、およびRCN = 相対細胞数を示す。
【図3】OP9-DL1細胞上で培養されたCD34+ CD38-/lo HSCの遺伝子発現分析。(A) 6、10、14および18日間OP9-対照またはOP9-DL1細胞上で培養されたヒトCD34+ CD38-/lo HSCの定量的リアルタイムQ-PCR分析による遺伝子発現の時間的動態。(B) CD7+ CD1a-としてゲートをかけた細胞に対して示したCD34発現とともに、40日目のHSC/OP9-DL1共培養物由来のCD7およびCD1aの細胞表面発現に関するフローサイトメトリー分析。(C) (B)に示した通りの共培養物由来のサブセットCD34+ CD7++ CD1a-、CD34- CD7++ CD1a-、CD34- CD7++ CD1a+、CD34- CD7+ CD1a++のQ-PCRによる遺伝子発現分析。図の凡例を参照されたい。CD3+ T細胞およびCD33+骨髄性細胞をUCBサンプルの系統+ 画分から精製し、対照として役立てた。表示した遺伝子の転写産物レベルをヒトβ-アクチンに対して標準化した。これらのデータは3回の独立した実験の代表であり、示したSTD誤差バーは個別の実験のなかで三つ組のウェルから得た値に対応している。
【図4】インビトロで作製されたCD8+ T細胞の特徴付け。(A) 65日間OP9-DL1細胞上で培養されたヒトUCB由来HSCのCD8およびCD4の発現に関するフローサイトメトリー分析。CD8+ CD4-単一陽性(SP)細胞に、図のように、ゲートをかけ、CD27およびCD3の発現について分析し、CD3+ CD27-またはCD27+としてゲートをかけた細胞に対するCD1aの発現を示した(それぞれ、影付きおよび白抜きのヒストグラム)。(B〜D) 60〜70日目のHSC/OP9-DL1共培養物由来CD8 SP T細胞を図のCD8+ CD4-およびCD3+として精製し、抗CD3/CD28 mAbで5日間刺激した。CD45RO、CD27、MHCクラスIIおよびCD38の発現に関する刺激(S)または対照(非刺激、NS) CD8+ CD3+細胞のフローサイトメトリー分析(それぞれ、白抜きおよび影付きのヒストグラム) (B); 前方散乱光(FSC)強度によって測定した細胞サイズとともに、CFSEレベルおよびCD25 (下段) (C); ならびにCD3および細胞内グランザイムB (D)を示す。(E) 上記の実験(B)に由来する培養上清のヒトIFNγレベルをELISAによって決定した。統計的有意性を対応のないt検定によって測定した。* (p < 0.005) 2 μg/mlの抗CD3/CD28での刺激群 vs 非刺激対照。** (p < 0.0005) 10 μg/mlの抗CD3/CD28 vs 非刺激対照。データは、2回の独立した実験から得られた10 μg/mlでの刺激からのデータを除き、少なくとも3回の独立した実験の代表である。
【図5】FTOCでのインビトロ由来前駆T細胞サブセットによる生着および分化の分析。UCB CD34+ CD38-/lo HSCをOP9-DL1細胞上で13日間分化させ、CD34+ CD7++ CD5- (プロT1)およびCD34+ CD7++ CD5+ (プロT2)サブセットを(A)に示されるようにフローサイトメトリーによって選別し、FTOC (B)中に配し、または19日間 OP9-DL1細胞(C)上に戻した。細胞を収集し、CD45、CD7、CD34、CD5、CD1a、CD8およびCD4の細胞表面発現について分析した。データは3回の独立した実験の代表であり、実験では、選別されたプロTサブセット1.5×104個を胎仔胸腺葉の対の中にまたはOP9-DL1細胞を含有するウェルに配した。
【図6】CD34+ CD7++ CD5-およびCD34+ CD7++ CD5+ プロT細胞サブセットの遺伝子発現分析。(A) 14日目のHSC/OP9-DL1共培養物からのフローサイトメトリーによる細胞選別で精製されたCD34+ CD7++ CD5- (プロT1)細胞およびCD34+ CD7++ CD5+ (プロT2)細胞のQ-PCR分析。ヒト出生後胸腺(PNT)のLin-画分から得られた胸腺細胞を対照サンプルとして役立てた。表示した遺伝子[Ccr9 (CD199)、Selplg1 (PSGL-1, CD162)、Itga2 (α2, CD49b)、Itga4 (α4, CD49d)、Itga5 (α5, CD49e)およびItgb1 (β1, CD29)]の転写産物レベルをヒトβ-アクチンに対して標準化した。これらのデータは3回の独立した実験の代表であり、示したSTD誤差バーは個別の実験のなかで三つ組のウェルから得た値に対応している。(B) 11日目のHSC/OP9-DL1共培養物由来のゲートをかけたCD34+ CD7++ CD5- (プロT1、白抜き)細胞およびCD34+ CD7++ CD5+ (プロT2、影付き)細胞上のCD49dの細胞表面発現に関するフローサイトメトリー分析。
【図7】異なる時点でのHSC/OP9-DL1共培養物の全細胞充実性の分析。四つの個別の臍帯血由来ヒトCD34+ CD38-/lo HSC (1×104個)を、OP9-DL1細胞を含有する6ウェルプレートのウェルの中に配した。トリパンブルー排除に基づき血球計を用い顕微鏡下で細胞をカウントすることにより表示の時点で細胞充実性を判定し、表示の日数で得られた細胞充実性をHSCの初期投入量で割って増殖倍数(fold expansion)を決定した。
【図8】限界希釈アッセイ法での前駆体頻度の決定に用いたUCB由来CD34+サブセットの特徴付け。系統欠失UCB細胞にゲートをかけてCD7発現細胞を排除し、CD34+ CD38-、CD34+ CD38loおよびCD34+ CD38+/hiサブセットに選別し、OP9-DL1細胞上にプレーティングし、11日間培養した。限界希釈アッセイ法の結果は表Iに示してある。
【図9】CD34+ CD7++ CD5-およびCD34+ CD7++ CD5+サブセットの遺伝子発現分析。14日目のHSC/OP9-DL1共培養物から選別されたCD34+ CD7++ CD5- (プロT1)細胞およびCD34+ CD7++ CD5+ (プロT2)細胞のCebpαおよびGata-2発現に関するQ-PCR分析。UCBのLin+画分から得られたヒトPNTまたはCD33+骨髄性細胞から得たLin-胸腺細胞を対照として役立てた。表示した遺伝子の転写産物レベルをヒトβ-アクチンに対して標準化した。これらのデータは3回の独立した実験の代表であり、示したSTD誤差バーは個別の実験のなかで三つ組のウェルから得た値に対応している。
【図10】長時間HSC/OP9-DL1共培養物の分析。40、80および120日間OP9-DL1細胞上で培養されたCD34+ CD38-/lo細胞をCD7、CD34、CD8およびCD4の発現についてフローサイトメトリーにより分析した。これらのデータは少なくとも5回の独立した実験の代表である。
【図11】(上側パネル) 表示マウスの胸腺でのFSCおよびSSCゲーティングによるリンパ球のフローサイトメトリー分析およびゲーティング。(下側パネル) 生リンパ球のゲーティングに続いて、細胞をSSCおよびヒトCD45染色に基づき分析した。プロット中の数値は各四分画内の細胞の割合を示す。
【図12】二匹の再構築マウスの胸腺由来CD34、CD7、CD5およびCD1aの発現に関するCD45+にゲートを設定したフローサイトメトリー分析。プロット中の数値は各四分画内の細胞の割合を示す。
【図13】二匹の再構築マウスの胸腺由来CD4、CD8およびCD3細胞表面発現の発現に関するCD45+にゲートを設定したフローサイトメトリー分析。プロット中の数値は各四分画内の細胞の割合を示す。
【図14】生リンパ球のゲーティングに続いて、細胞を表示マウスの胸腺からのSSCおよびヒトCD45染色に基づき分析した。プロット中の数値は各四分画内の細胞の割合を示す。
【図15】HSC再構築(上側)マウスおよびプロT再構築(下側)マウスの胸腺由来CD4、CD8およびCD3細胞表面発現の発現に関するCD45+にゲートを設定したフローサイトメトリー分析。挿入図のプロットは、CD3hiにゲートを設定した細胞のCD4およびCD8発現を示す。プロット中の数値は各四分画内の細胞の割合を示す。
【図16】NOD/SCID γc-/-図面説明。CD34+ HSCまたはCD34+CD7+前駆T細胞のどちらかを受けたNOD/SCID γc-/-マウス由来の胸腺のフローサイトメトリー分析。生リンパ球のゲーティングに続いて、細胞をSSCおよびヒトCD45ゲーティングの後にCD7、CD5、CD1a、CD4およびCD8発現の発現について分析した。プロット中の数値は各四分画内の細胞の割合を示す。
【図17】OP9-対照、OP9-DL1およびOP9-DL4細胞上で分化するように誘導されたヒトHSCのフローサイトメトリー分析。生リンパ球のゲーティングに続いて、24日目の共培養細胞をCD4、CD8およびプレTα(pre-Tα)発現の発現について分析した。プロット中の数値は各四分画内の細胞の割合を示す。
【図18】OP9-対照、OP9-DL1およびOP9-DL4細胞上で分化するように誘導されたヒトHSCのフローサイトメトリー分析。生リンパ球のゲーティングに続いて、24日目の共培養細胞をCD7、CD1aおよびCD5 (右3列)発現の発現について分析した。(A) CD7+CD1a++ (より成熟なT細胞)、(B) CD7++CD1a+ (コミットされたT細胞)および(C) CD7++CD1a- (前駆T)に対応するT細胞集団(左列)にゲートを設定し、これをA、BまたはCと表示した対応する集団の各々でのCD5 (右3列)の発現について調べた。プロット中の数値はゲートをかけた各集団内の細胞の割合を示す。
【図19】OP9-DL1およびOP9-DL4細胞との共培養によってT系統へ分化するように誘導されたヒトHSCのフローサイトメトリー分析。生リンパ球のゲーティングに続いて、40日目の共培養細胞をCD7、CD1a、TCR-αβおよびTCR-γδ発現の発現について分析した。(A) CD7+CD1a++ (より成熟なT細胞)、(B) CD7++CD1a+ (コミットされたT細胞)および(C) CD7++CD1a- (前駆T)に対応するT細胞集団(上列)にゲートを設定し、これをA、BまたはCと表示した対応する集団の各々でのTCR-αβ(左パネル、下3列)およびTCR-γδ(右パネル、下3列)の発現について調べた。プロット中の数値はゲートをかけた各集団内の陽性細胞の細胞割合を示す。
【図20】OP9-対照、OP9-DL1およびOP9-DL4細胞上で分化するように誘導されたヒトHSCのフローサイトメトリー分析。生リンパ球のゲーティングに続いて、40日目の共培養細胞をCD3、V-ベータ(Vβ)-3、5、8、23の発現について分析した(右パネル)。対応するアイソタイプ対照を示してある(左パネル)。プロット中の数値は各四分画内の細胞の割合を示す。
【図21】プロT1細胞はインビトロでプロT2細胞を直接生ずる。CD34+ CD7++ CD5- (プロT1)細胞およびCD34+ CD7++ CD5+ (プロT2)細胞のフローサイトメトリー分析。左側パネル、選別されたインビトロ作製プロT1細胞をOP9-DL1細胞上に配し、細胞表面CD5の獲得を表示時点で調べた。右側パネル、対照として、プロT2を選別し、OP9-DL1細胞上で再培養した。示したプロットは全て、分析のためCD34+ CD7++発現についてゲートをかけた。
【図22】CD34+ CD7++ CD5- (プロT1)細胞およびCD34+ CD7++ CD5+ (プロT2)細胞のナチュラルキラー(NK)細胞分化能。10日目のHSC/OP9-DL1共培養物から選別されたプロT1およびプロT2細胞を、rhIL-15 (5 ng/mL)を補充したOP9-対照細胞上に配した; またはプロT1およびプロT2細胞をOP9-DL1細胞上に戻した。NK細胞系統マーカーCD56の発現を培養12日後に調べた。
【図23】ヒトプロT2細胞は免疫不全マウスの胸腺に効果的に生着し、UCB由来HSCの胸腺生着を促進する。免疫不全マウスへインビトロ由来プロT2細胞と同時注射されたHSCの胸腺生着および分化の分析。ヒトUCB CD34+ CD38-/lo (HLA-A2-)細胞を10〜12日間OP9-DL1細胞上で分化させ、CD34+ CD7++ CD5+ (プロT2)細胞をフローサイトメトリーによって選別した。プロT2細胞を選別した同日に、ヒトUCB CD34+ CD38-/lo (HLA-A2+)細胞も選別した。同じ同腹仔由来の放射線照射(130 cGy)新生仔NOD/SCID/γc無マウスにHSC 3.5×104個、プロT2細胞2.5×105個、またはプロT2細胞2.5×105個と混合したHSC 3.5×104個を肝内注射した。骨髄(BM)、脾臓および胸腺を注射から6週後に収集し、単細胞懸濁液を得て、フローサイトメトリーによって分析した。この分析はCD45+細胞上のHLA-A2発現の非存在(プロT2由来)または存在(HSC由来)に基づく、ヒトCD45+細胞およびドナー細胞型(HSC由来-A2+またはプロT2由来-A2-)に対してのゲーティングによって行った。HSCのみ、HSC+プロT2およびプロT2のみで処置されたマウス由来の(A) BMおよび(B)脾臓のCD45およびHLA-A2の細胞表面発現に関するフローサイトメトリー分析を示す。下側の列はCD45+ HLA-A2+ (第二列; HSC由来)およびCD45+ HLA-A2- (第三列; プロT2由来)にゲートを設定した細胞のCD19およびCD33細胞表面染色を示す。(C) HSCのみ、HSC+プロT2およびプロT2のみで処置されたマウス由来の胸腺のCD45およびHLA-A2の細胞表面発現に関するフローサイトメトリー分析を示す。上側の列はCD45およびHLA-A2細胞表面染色を示す。下側の列はCD45+ HLA-A2+ (第二列; HSC由来)およびCD45+ HLA-A2- (第三列; プロT2由来)にゲートを設定した細胞のCD45およびCD3細胞表面染色を示す。(D) HSC+プロT2同時注射マウス由来の胸腺のフローサイトメトリー分析。上側の列はCD45およびHLA-A2細胞表面染色を示す。下側の列はCD45+ HLA-A2+ (第二列; HSC由来)およびCD45+ HLA-A2- (第三列; プロT2由来)にゲートを設定した細胞のCD8およびCD4細胞表面染色を示す。
【図24】ヒトESCおよびヒトiPSCは、OP9-DL1細胞またはOP9-DL4細胞との共培養によって早期ヒトT系統前駆細胞を産生することができる。(A) 二段階プロトコル法(詳細は本書を参照のこと)を用いて、胚様体から選別されたCD34++細胞をOP9-DL1細胞上に配し、培養20日後にCD5およびCD7の細胞表面発現について調べた; ならびに、(B) 胚様体を形成するように凝集されたヒトiPSCを引き続き、造血系統へ分化するように誘導し、選別されたCD34++細胞をOP9-DL4細胞上に配し、図のようにフローサイトメトリーによりCD7およびCD5の発現について分析した。
【発明を実施するための形態】
【0019】
詳細な説明
T細胞発生は規定の一連の時期特異的な分化段階にしたがうことが知られている。しかしながら、ヒトT細胞発生の早期に起こる分子事象および細胞事象は、これまで十分に解明されていない。これに取り組むため、ヒト臍帯血(UCB)に由来する造血幹細胞(HSC)をOP9-DL1細胞との共培養によってT系統に分化するよう誘導した。早期の、連続的なかつ時間的に不連続なCD34、CD7、CD45RA、CD5、CD1a、CD2およびCD4発現によって浮き彫りになる発生プログラムが明らかになった。定量的クローン分析から、CD34+ CD38-およびCD34+ CD38loサブセットのUCB細胞が4細胞中1細胞の同様に高いT細胞前駆体頻度を含むことが実証されたのに対し、CD34+ CD38+/hi細胞の頻度は5倍低かった。Delta様/Notch誘導シグナルがOP9-DL1によって分化するUCB CD34+ CD38-/lo細胞のT細胞前駆体頻度に影響を与えうるかどうかについて取り組むため、二つの異なるサブセットCD34+ CD7++ CD5- CD1a- (プロT1)およびCD34+ CD7++ CD5+ CD1a- (プロT2)を分析したところ、両方のサブセットは2倍の頻度増加を示した。本発明者らは、これらの前駆体サブセットがマウス胸腺に成功裏に生着し、インビトロでCD4およびCD8ヒトT細胞に分化しうることを立証した。驚くべきことに、インビトロで作製されたプロT2細胞は、より未成熟なプロT1前駆体サブセットよりもインビトロでの胸腺生着能の3倍の増強を示した。プロT2細胞は、プロT1細胞よりもインビボでの胸腺生着能のほぼ3倍の増強も示した。これらのサブセットのさらなる分析は、プロT2細胞がプロT1細胞よりも高いレベルのCCR9、PSGL-1および主要なインテグリンを発現し、これが生着能の増強を可能にしうることを明らかにした。さらに、本発明者らは、ヒトHSC/OP9-DL1の共培養が成熟した機能的αβ-T細胞受容体/CD3+ CD8 T細胞の作製を支持することも実証する。さらに、IL-15の存在下で、プロT細胞はナチュラルキラー(NK)細胞を生じうる。ヒト造血幹細胞に加えて、プロT細胞はまた、胚性幹細胞から作製されることができ、多能性幹細胞から誘導されうる。最後に、本発明者らは、FTOC内での胸腺再構築能を実証するインビトロでの研究を、前駆T細胞の肝内注射を通じてマウスの免疫不全系統内でのヒト胸腺再構築を示すインビボモデルへ拡げた。まとめると、インビトロで機能的に成熟なT細胞およびNK細胞に容易に分化し、FTOC (インビトロ)でも免疫不全マウス(インビボ)でも生着する、規定のインビトロで作製されたT前駆体サブセットの作製および同定は、免疫不全の処置に向けた細胞に基づく免疫再構築の手法を改善するのに重要な道を拓くことができる。
【0020】
I. 前駆T細胞
広くは、本出願は単離された前駆T細胞を提供する。
【0021】
一つの局面において、本出願は、表現型CD34+CD7+CD1a-を有する単離されたヒト前駆T細胞を提供する。一つの態様において、単離された前駆T細胞は表現型CD34+CD7+CD5-CD1a-を有する(プロT1)。別の態様において、単離された前駆T細胞は表現型CD34+CD7+CD5+CD1a-を有する(プロT2)。具体的な態様において、プロT2細胞はCCR9、PSGL-1およびインテグリンを発現する。
【0022】
本明細書において用いられる「単離された」という用語は、前駆細胞がその天然の環境において該細胞とともに見られる細胞物質または生体物質から分離されまたは精製されていることを意味する。それはかくして、細胞を、その天然に存在する状態から区別する。
【0023】
「細胞(a cell)」または「細胞(the cell)」という用語は複数の細胞を含む。
【0024】
本明細書において用いられる「前駆T細胞」または「プロT細胞」という用語は、成熟T細胞またはリンパ球に成熟できるT細胞を意味する。成熟T細胞はCD4+およびCD8+ T細胞を含む。リンパ球はCD56+ NK細胞を含む。
【0025】
前駆T細胞は、好ましくはヒトのものであり、幹細胞または前駆細胞に由来する。幹細胞または前駆細胞は、非限定的に、臍帯血、胚、胚組織、胎生組織、骨髄および血液を含む、任意の適当な供給源から得ることができる。一つの態様において、幹細胞または前駆細胞は、造血幹細胞または前駆細胞である。別の態様において、幹細胞は胚性幹細胞である。さらなる態様において、幹細胞は誘導された多能性幹細胞である。治療用途の場合、前駆T細胞を作製するために用いられる幹細胞または前駆細胞は、好ましくは処置される患者から得ることができる。
【0026】
前駆T細胞は、当技術分野において公知の技術によって幹細胞または前駆細胞から単離することができる。典型的には、細胞を含有するサンプルをまず初め、非幹細胞または成熟細胞について枯渇させる。
【0027】
当技術分野において公知の陰性および陽性選択法を前駆細胞の濃縮に用いてもよい。例えば、蛍光活性化細胞選別装置、またはある種の細胞表面抗原を有する細胞に結合する磁気ビーズを用い細胞表面抗原に基づいて細胞を選別することができる。陰性選択カラムを用いて、系統特異的表面抗原を発現している細胞を除去することができる。
【0028】
一つの態様において、幹細胞または前駆細胞を含有するサンプルを、系統陰性(Lin-)および系統陽性(Lin+)画分に分離する。CD34+細胞についてLin-画分を選別することができる。
【0029】
濃縮された前駆細胞または幹細胞を、プロT細胞を作製するのに適した条件の下で培養する。好ましくは、プロT細胞を形成させるのに十分な時間、一種または複数種のNotchリガンドの存在下で細胞を培養する。より好ましくは、Notchリガンドを発現している細胞の存在下で幹細胞を培養する。これは、参照により本明細書に組み入れられるUS-2004-0171148-A1に詳細に記述されている。
【0030】
一つの態様において、Notchリガンド細胞調製物とともに6 cmまたは10 cmの組織培養処理皿の中で前駆細胞または幹細胞を培養する。例えば、培養液中の造血前駆細胞または胚性幹細胞の濃度は、1〜109個、好ましくは1×102〜1×106個、より好ましくは1×103〜1×104個である。特定の態様において、Delta様-1またはDelta様-4を発現しているOP9細胞の単層上で造血前駆細胞または胚性幹細胞(約1〜5×104個の細胞)を培養する。
【0031】
プロT細胞のコミットメントおよび分化を促進する一種または複数種の陽性サイトカインを培養液に加えてもよい。サイトカインは起源がヒトであってよく、または他の種に由来してもよい。培養液中のサイトカインの濃度は、典型的には約1〜10 ng/mlである。以下は、本出願において利用できるサイトカインの代表例である: FGF-4およびFGF-2を含む線維芽細胞増殖因子(FGF)ファミリーの全ての成員、Flt-3リガンド、ならびにインターロイキン-7 (IL-7)。好ましくは、本明細書において用いられるサイトカインは、Flt-3リガンドおよびIL-7である。サイトカインを、ヘパリン硫酸のようなグリコサミノグリカンの等モルまたはそれ以上の量と組み合わせて用いてもよい。サイトカインは市販されており、または組み換えDNA技術により産生され、さまざまな度合いに精製されてもよい。サイトカインのいくつかは標準的な生化学技術によって細胞株の培地から精製することができる。
【0032】
前駆細胞および幹細胞は、馴化培地、非馴化培地または胚性幹細胞培地を含む培地中で培養されてもよい。適当な馴化培地の例としては、胚性線維芽細胞(例えばヒト胚性線維芽細胞もしくはマウス胚性線維芽細胞)で馴化されたIMDM、DMEMもしくはαMEM、または等価な培地が挙げられる。適当な非馴化培地の例としてはイスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)、DMEMもしくはαMEM、または等価な培地が挙げられる。培地は血清(例えばウシ血清、ウシ胎仔血清、仔ウシ血清、ウマ血清、ヒト血清もしくは人工的な血清代替物)を含んでもよく、または培地は無血清であってもよい。
【0033】
培養条件は、調製物中の細胞がプロT細胞を形成するように十分な時間、前駆細胞または幹細胞を培養することを伴う。細胞は、一般的には4〜50日、好ましくは5〜20日間培養液中で維持される。所望の細胞組成を達成するのに必要とされる適切な時間、細胞を維持できることを理解されたい。
【0034】
したがって、本出願は、(a) 幹細胞または前駆細胞を含むサンプルを、Notchリガンドを発現する細胞とともに培養する段階および(b) プロT細胞を単離する段階を含む、プロT細胞を作製する方法を提供する。Notchリガンドを発現する細胞は、好ましくはDL1またはDL4を発現するOP9細胞である。プロT細胞は表現型CD34+CD7+CD1a-によって特徴付けることができる。
【0035】
本出願の方法は多数のプロT細胞の作製を可能にする。プロT細胞は、T細胞の形態学的、生理学的、機能的および/または免疫学的特徴を示す細胞に分化する可能性を示す、または有する。成熟T細胞を形成する能力を有する多数のプロT細胞の作製によって、それらは細胞療法において非常に有用となる。
【0036】
別の態様において、前駆T細胞は、HSCのような幹細胞をOP9-DL1細胞またはOP9-DL4細胞と共培養し、細胞を分画し、所望の表現型の細胞を収集することにより得られる。分画段階は、当技術分野において公知の任意の適当な細胞分離技術、例えば(密度勾配、強磁性ビーズサイトメトリーおよび蛍光活性化細胞選別) バイオリアクタ(matrices)を伴うことができる。具体的には、OP9-DL1またはOP9-DL4細胞上で培養された細胞をCD5+ (プロT2)およびCD5- (プロT1)サブセットにさらに分画することができる。プロT2サブセットを好ましくは、T細胞生着に用いることができる。
【0037】
別の態様において、前駆T細胞は、適切な条件の下で培養される場合にNK細胞を作製するために用いることができる。NK細胞を作製するのに適した条件は、プロT細胞をIL-15またはIL-2のようなサイトカインとともに培養することを含む。プロT細胞をOP-9細胞のような間質細胞とともに培養することもできる。したがって、本出願は、a) 単離された前駆細胞をIL-15とともに培養する段階およびb) NK細胞を単離する段階を含む、ナチュラルキラー(NK)細胞を作製する方法を提供する。NK細胞は表現型CD56+によって特徴付けることができる。
【0038】
II. 薬学的組成物
別の局面において、本出願は、単離されたプロT細胞および薬学的に許容される希釈剤または担体を含む薬学的組成物を提供する。
【0039】
適当な希釈剤および担体は、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciencesに記述されている。これに基づき、組成物は、一つまたは複数の薬学的に許容される媒体または希釈剤と関連する、ならびに適したpHおよび等浸透圧を伴い、生理学的液体を伴う緩衝液に含有されるプロT細胞の溶液を含むが、これらに限定されるものではない。
【0040】
薬学的組成物は、非限定的に、凍結乾燥粉末または水性もしくは非水性の無菌注射溶液もしくは懸濁液を含み、これらは抗酸化剤、緩衝液、静菌薬および対象とする受容者の組織または血液と組成物を実質的に適合させる溶質をさらに含有してもよい。このような組成物に存在してもよい他の成分には、例えば、水、界面活性剤(Tween(商標)など)、アルコール、多価アルコール、グリセリンおよび植物油が含まれる。即時調製注射溶液および懸濁液は、無菌粉末、顆粒、錠剤、または濃縮溶液もしくは懸濁液から調製することができる。組成物は、例えば、限定する目的ではないが、患者への投与の前に無菌水または無菌食塩液で再構成される凍結乾燥粉末として供給することができる。
【0041】
薬学的に許容される適当な担体は、薬学的組成物の生物学的活性の有効性を妨害することのない本質的に化学的に不活性なかつ無毒性の組成物を含む。適当な薬学的担体の例としては、水、生理食塩溶液、グリセロール溶液、エタノール、N-(1(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル)N,N,N-トリメチルアンモニウムクロライド(DOTMA)、ジオレシルホスホチジル-エタノールアミン(DOPE)、およびリポソームが挙げられるが、これらに限定されることはない。このような組成物は、患者への直接投与のための形態をもたらすよう適当な量の担体とともに、治療的有効量の化合物を含有すべきである。
【0042】
本出願の組成物は、例えば、非経口投与、静脈内投与、皮下投与、筋肉内投与、頭蓋内投与、眼窩内投与、眼科的投与、脳室内投与、関節内投与、髄腔内投与、大槽内投与、腹腔内投与、鼻腔内投与、エアロゾル投与または経口投与によって投与することができる。非経口投与の場合、本明細書において記述されるプロT細胞の溶液をヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤と適当に混合された水の中で調製することができる。分散液を、アルコールを含むまたは含まないグリセロール、液体ポリエチレングリコール、DMSOおよびその混合物中で、ならびに油中で調製することもできる。通常の保存および使用条件の下で、これらの調製物は微生物の増殖を防止するための保存剤を含有する。当業者は、適当な処方物を調製する方法を承知しているであろう。
【0043】
好ましくは、プレT細胞は、それを必要とする哺乳類における疾患状態を処置するのに有効な量で存在する。一つの態様において、プレT細胞は、それを必要とする哺乳類における造血前駆細胞の生着を増強するのに有効な量で存在する。任意で、組成物はプレT細胞、または移植用組織をさらに含んでもよい。一つの態様において、組織は胸腺を含む。別の態様において、組織は器官を含む。
【0044】
III. 用途
本出願はありとあらゆる用途でのプロT細胞の使用を含む。
【0045】
A. 遺伝子改変
本出願の方法を用いて作製されたプロT細胞は、天然においてまたはインビボもしくはインビトロで遺伝子操作技術によって遺伝的に改変(形質導入または形質移入)されてもよい。細胞中の遺伝子に変異を導入することによって、または細胞に導入遺伝子を導入することによって細胞を改変することができる。標準的な技術を用いて細胞に挿入または欠失変異が導入されてもよい。選択可能なマーカーをコードする遺伝子を、細胞に組み込んでもよい。
【0046】
本出願の一つの局面は、細胞またはそれに由来する細胞が、インビトロまたはインビボで、その細胞においては生物学的に有意な量で通常産生されない、または少量でしかし調節的発現が治療的有用性につながりうる状況で産生される、ポリペプチド、ホルモンおよびタンパク質を産生するように遺伝子操作されているプロT細胞に関する。例えば、通常注射される用量に適合するレベルでインスリンを発現する遺伝子で、または疾患を引き起こす遺伝子の欠損もしくは異常を補いうる遺伝子で細胞を遺伝子操作することができよう。あるいは、正常に発現されているタンパク質がもっと低いレベルで発現されるように細胞を改変することもできよう。これらの産物はそれから、周囲の培地に分泌されまたは細胞から精製されよう。このようにして形成された細胞は、発現物質の連続的な短期または長期産生系として働くことができる。
【0047】
このように、本出願のこの局面によれば、本出願の方法を用いて作製されたプロT細胞を関心対象の遺伝物質で改変することができる。改変細胞を、それらが遺伝子発現の産物を発現するか、発現産物を分泌するかできるように適当な条件の下でインビトロにおいて培養することができる。これらの改変細胞を、発現産物が有益な効果を有するように投与することができる。
【0048】
さらなる態様において、形質導入されたプロT細胞(成熟T細胞を形成する可能性を有する)を、遺伝子産物を発現するT細胞に分化するようにインビボで誘導することができる。例えば、形質導入された細胞は、形質導入遺伝子を有するT細胞の産生を誘導するように投与されてもよい。細胞は他の細胞との混合物でまたは別々に投与されてもよく、標的域に送達されてもよい。細胞は静脈内に導入され、標的域に誘導されてもよい。あるいは、細胞は単独で用いられ、インビボで分化させてもよい。
【0049】
このように、遺伝子を細胞に導入することができ、これを今度は、該遺伝子の発現が治療効果を有するレシピエントに注射する。例えば、インスリン遺伝子を細胞に導入して、骨髄および末梢血におけるインスリンの一定の治療用量を提供してもよい。
【0050】
インビボでのある種の遺伝子産物のT細胞による発現の増強を可能とするのに不可欠な遺伝子のさらなるコピーを産生するように技術が用いられてもよい。これらの遺伝子は、例えば、ホルモン、マトリックスタンパク質、細胞膜タンパク質およびサイトカインであることができる。
【0051】
具体的な態様において、プロT細胞は、腫瘍抗原、ウイルス抗原または細菌抗原のような抗原を認識するように遺伝子操作される。したがって、標的抗原に対する免疫反応は、抗原特異的な前駆T細胞を投与することによって増強されよう。
【0052】
B. 治療用途
インビトロに由来するヒト前駆T細胞を作製でき、ヒト/マウス免疫生着モデルにおいてその安全性を試験できることで、T系統の免疫関連障害を処置するための細胞に基づく手法に道が開ける(Legrand et al., 2006; van den Brink et al., 2004)。T細胞は、ウイルス性および細菌性病原体の認識および除去で適応免疫系の主要なエフェクタ部門である。T細胞性急性リンパ芽球性白血病(T-ALL)のようなある種の稀有な血液がんでは、T細胞が増殖し、健常な免疫細胞を締め出して、正常な免疫機能をかき乱す(Ferrando et al., 2002; Weng et al., 2004)。化学療法は、がん患者において治療的有用性を与えられることが多いものの、免疫不全および日和見感染に対する感受性を招きうることも多い。日和見感染はまた、CD4+ T細胞がHIV感染後に枯渇しているAIDS患者では深刻な懸念をもたらす。免疫不全はHIV/AIDSおよびがんでは依然として深刻な懸念であるが、適正な調節的制御を欠くT細胞が自己組織に免疫反応する自己免疫疾患では免疫過反応性が等しく問題である。
【0053】
したがって、本出願は、有効量の前駆T細胞を、それを必要とする動物に投与する段階を含む、T細胞数の増加を要する状態を抱えた動物を処置する方法を含む。
【0054】
本明細書において用いられる場合、「有効量」または「治療的有効量」という語句は、所望の結果を達成するのに必要な投与量および期間で、有効な量を意味する。有効量は、動物の疾患状態、年齢、性別、体重のような要因によって異なりうる。そのような量に相当する所与の細胞調製物の量は、薬学的処方、投与経路、疾患または障害のタイプ、処置される被験体または宿主の固有性などのような、さまざまな要因に応じて異なるが、それでもなお、当業者によって日常的に判定されうる。「有効量」は、好ましくは、処置される被験体に前駆T細胞が生着するのに有効な量であろう。
【0055】
「処置する」または「処置」という用語は、本明細書において用いられ、当技術分野において十分に理解されているように、臨床結果を含めて、有益なまたは所望の結果を得るための手法を意味する。有益なまたは所望の臨床結果は、検出可能であれ検出不能であれ、一つまたは複数の症状または状態の軽減または改善、疾患の程度の縮減、疾患の安定化した(すなわち、悪化していない)状態、疾患の広がりの阻止、病状進行の遅延または緩徐化、疾患状態の改善または緩和、疾患の再発の縮減、および寛解(部分寛解であれ完全寛解であれ)を含むことができるが、これらに限定されることはない。「処置する」および「処置」とは、処置を受けていなければ予測される生存時間と比べて生存時間を延ばすことを意味することもできる。本明細書において用いられる「処置する」および「処置」とは、予防的処置も含む。
【0056】
本明細書において用いられる「動物」という用語は、動物界の任意の成員を意味し、好ましくはヒトである。
【0057】
「T細胞数の増加を要する状態」とは、非限定的に、免疫不全、がん、遺伝子疾患、感染性疾患および自己免疫を含め、健常動物と比べてT細胞レベルが低減している任意の状態を含み、そのいくつかを以下で詳細に記述する。
【0058】
(i) がん
2005年には、128,000人近い個体が北米で骨髄腫、リンパ腫および白血病と診断された(US & Canada)。これらの血液がんの積極的な骨髄機能廃絶化学/放射線療法の後、これらの個体は免疫不全になる可能性があり、その免疫系を元に戻すまたは回復するには幹細胞移植を要する。実際に、北米では毎年、9,000人の個体が幹細胞移植を受けている。HSCは骨髄、GM-CSF動員末梢血または臍帯血から得ることができるが、ほとんどの幹細胞移植では、ふさわしい主要組織適合ドナーの発見から、GvHDの阻止、宿主へのドナー免疫系の生着の成功まで、いくつかの臨床的課題が現れる(Socie, 2005)。ほとんどの免疫細胞は移植後に素早く回復するが、T細胞では、細胞数および機能という点で回復には最も多くの時間(およそ2年)がかかる(Petropoulos and Chan, 2005)。これはおそらく、個体が曝露されるであろう環境抗原および病原性抗原の範囲を網羅するのに必要な広いTCRレパートリーにより決定付けられる。その広いレパートリーが再構築されるまで、日和見感染の出現を許す、切れ目が存在してしまうかもしれない。
【0059】
したがって、本出願は、前駆T細胞の有効量を、それを必要とする動物に投与する段階を含む、がんを処置または予防する方法を提供する。
【0060】
一つの態様において、プロT細胞は腫瘍特異性抗原を認識するように遺伝子操作されている。例えば、前駆T細胞を、ある種の乳癌、ならびにバーキットリンパ腫、神経芽細胞腫、悪性黒色腫、骨肉腫および腎細胞癌において見られる腫瘍特異性抗原を認識するように製造することができよう(Renkvist et al., 2001)。慢性骨髄性白血病(CML)または急性リンパ性白血病(ALL)の処置のためにCD8+ウィルムス腫瘍(WT1)遺伝子特異的な細胞傷害性Tリンパ球クローンを利用するのがこの遺伝的手法の一例である。したがって、前駆T細胞移植を幹細胞移植による補助療法として用い、末期疾患を有する患者においてT細胞区画を素早く再構築するか、または破壊のためにがん細胞を特異的に標的化するかできよう(van den Brink et al., 2004)。
【0061】
(ii) HIV/AIDS:
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の感染後に起こる後天性免疫不全症候群(AIDS)は、CD4ヘルパーT細胞数の慢性的な減少によって特徴付けられる。CD4 T細胞は、ウイルス感染細胞を溶解する「キラー」CD8細胞傷害性T細胞の機能を維持するのに役立つ重要な免疫細胞または白血球である(Grossman et al., 2006)。AIDSは、世界でこの疾患を抱えて生きている人が推定3800万人、北米だけでも症例が160万件と、世界的規模の流行病となった。高活性抗レトロウイルス療法(HAART)、つまりいくつかの抗HIV薬[すなわち、ビラミューン(ネビラピン)、レスプリプター(デラビルジン)、インビラーゼ(サキナビル)およびノルビル(リトナビル)]の組み合わせを含む現行の処置計画は、ウイルス負荷の低減およびHIV感染個体の延命には効果的であったが、さまざまな理由(すなわち、毒性、経済的負担、政治的無関心、およびこれらの薬物に対するHIVの耐性の進化)で長い期間にわたり実施/達成/維持するのは困難だということが分かっている。実際に、HAARTでは周期的に「中休み」/休止期間を与えて、患者が抗ウイルス薬による毒性から回復するのを可能にすることが多い。結果として、HIVの耐性の進化と歩調を合わせ、現行の処置計画を増強してまたはそれに置き換わって、T細胞数を回復または維持しうるさらに効果的な薬物および/または細胞に基づく治療法(すなわちワクチンまたは幹細胞手法)を見つけ出すという関心が存在し続けている。
【0062】
HIV/AIDSの場合、本出願の価値は、HAARTが役に立たなかったまたは薬物毒性によってHAARTを使えなくなった個体に治療的有用性を与えうる多数の、インビトロで作製された前駆T細胞を生み出せることでありうる。前駆T細胞に基づく治療法の一つの利点は、抗レトロウイルス薬と比べてこれらの細胞のごく小さい毒性および副作用であろう。HAARTをあきらめたこの個体部分集団に利用できる処置選択肢が少ないことを考慮すると、前駆T細胞の使用は実行可能な選択肢でありえる。これらの前駆T細胞およびそのCD4+子孫細胞が再びインビボでHIV感染にさらされ、複合的処置を要するであろうが、インビトロで非感染細胞を増殖させ、インビボでT細胞数を回復させる能力は、計画されたHAARTの「中休み」または失敗中のしばらくの間に免疫機能を回復させ、日和見感染の出現を制限するのに役立ちうる。これは、治療可能性に向けてのこの技術の二つの将来的拡張を提示するものである。第一に、OP9-DL1共培養系は、HAARTとの組み合わせで補助療法としての、またはHAARTが周期的に中断される時には単独型の治療法としての治療可能性を持ちうる。がんの場合と同様に、OP9-DL1共培養系は、HIV感染抵抗性のデザイナーT細胞を作製するための新生の遺伝的手法に適する。そのような革新的手法の一例は、前駆T細胞でのウイルス感染を遮断する変異型のケモカイン共受容体CCR5の発現であろう(Markovic, 2006; Samson et al., 1996)。そのような手法は、HIV感染を防ぎ、かくしてT細胞数およびT細胞機能を維持することによりHIV/AIDSを処置する新規の手段を与えるものと考えられ、前駆T細胞ではないが、遺伝的に改変された成熟CD4+ T細胞およびCD34+ HSCを用いたHIV/AIDSの処置でいくつかの臨床試験が承認されているので、もはやとっぴなことではない。
【0063】
したがって、本出願は、有効量の前駆T細胞を、それを必要とする動物に投与する段階を含む、免疫不全を処置または予防する方法を提供する。一つの態様において、免疫不全はHIV/AIDSである。
【0064】
(iii) 自己免疫
伝統的に、寛容は、胸腺細胞によって提示される自己抗原および血液媒介性の自己抗原に対して胸腺内で主に確立されるものと考えられているが、組織特異抗原に対して特異性を有するT細胞は、末梢で寛容誘導を受けていた(Kyewski and Derbinski, 2004)。AIRE遺伝子を発現する胸腺上皮細胞が組織拘束性抗原のでたらめな発現を促進しうるという最近の知見は、いかにして自己寛容が維持され破壊されるかの新たな見識をもたらした(Kyewski and Derbinski, 2004)。自己免疫疾患は、末梢で自己寛容を維持する過程の調節異常または破綻から生じる。多くの研究者は、調節活性を有するT細胞(T調節性)の集団が自己免疫疾患のマウスモデルでの病的免疫反応、移植およびGvHDを抑制しうることを実証しており(Chatenoud et al., 2001)、これらの細胞を治療的に利用して、ヒト自己免疫疾患を処置できることを示唆している(Bluestone, 2005)。T調節性細胞はCD4およびCD25、ならびにT調節性発生および機能の主調節因子として働く、フォークヘッド転写因子boxP3 (Foxp3) (Sakaguchi, 2005)を発現する(Fontenot et al., 2003; Hori et al., 2003)。実際に、Foxp3変異マウスはT調節性細胞の欠損を有し、重篤なリンパ増殖性自己免疫症候群を発症する。同様に、稀有な劣性障害であるX連鎖免疫調節異常・多発性内分泌障害腸(IPEX)症候群を有するヒトは、攻撃的な自己免疫をそれも早期に示す(Walker et al., 2003)。
【0065】
T調節性細胞は胸腺でも末梢でも産生されることができ、表現型的および機能的には類似しているように見える。TCRトランスジェニック系での研究は、胸腺上皮細胞上に提示された自己ペプチドアゴニストとのαβTCRの比較的高い親和性相互作用がCD28依存的にT調節性細胞を効率的に産生するのに必要であることを示唆している(Apostolou et al., 2002; Jordan et al., 2001; Tai et al., 2005; Walker et al., 2003)。結果として、胸腺内のT調節性細胞は、自己抗原認識の方に偏った多様なTCRレパートリーを利用する(Bluestone and Abbas, 2003)。最近になって、ハッサル小体は胸腺間質性リンパ球新生因子(TSLP)を発現し、これが胸腺樹状細胞を活性化してT調節性細胞の増殖を誘導することが実証された(Watanabe et al., 2005)。あるいは、T調節性細胞は自己ペプチド曝露およびサイトカイン環境(すなわち、形質転換成長因子β (TGF-β)およびIL-10)の相違を通じて胸腺外に拡げられることもできる(Apostolou and von Boehmer, 2004; Belghith et al., 2003; Roncarolo et al., 2001; Weiner, 2001)。
【0066】
多発性硬化症、1型糖尿病、関節リウマチを有する患者ではT調節性細胞が欠損しているという知見(Ehrenstein et al., 2004; Lindley et al., 2005; Viglietta et al., 2004)は、これらのおよび他の自己免疫疾患の処置がT調節性細胞の回復次第でありうるという期待を抱かせた(Bluestone, 2005)。対照的に、T調節性細胞の除去は、抗腫瘍T細胞反応のブレーキを解除し、限定的な局所自己免疫を誘導することによりがん免疫療法の増強において重要な役割を果たしうる(Sakaguchi et al., 2001)。最後に、T調節性細胞は、同種臓器移植後の寛容の確立において決定的な役割を果たし、それによってGvHDが媒介する拒絶を最小限に抑えることができる(Gregori et al., 2005; Hoffmann and Edinger, 2006; Touraine et al., 2005)。
【0067】
大部分の細胞に基づく治療法と同様に、自己免疫の処置におけるT調節性細胞の利用にとっての主な障害は、それらを多くの数で作製して、治療有効性を実現する能力である。現在、OP9-DL1共培養系は前駆T細胞からの多数のT調節性細胞の作製を支持するものではない。T調節性細胞の作製におけるTSLPの役割(Watanabe et al., 2005)を考慮すると、OP9-DL1共培養系にT調節性細胞の存在しないことがTSLPを産生するOP9細胞の欠損によるものであるかどうかは不明である。
【0068】
にもかかわらず、重篤な自己免疫の処置のための幹細胞移植は、同種反応のヒト/免疫不全マウスモデル(Thomsen et al., 2005)、調節性T細胞集団を拡げる方法(Kretschmer et al., 2005)、ならびに幹細胞および前駆T細胞を操作して自己抗原を発現させる方法(Alderuccio et al., 2003)の開発によって勢いを得ている(Bluestone, 2005; Gregori et al., 2005; Sykes and Nikolic, 2005)。
【0069】
したがって、本出願は、有効量の前駆T細胞を、それを必要とする動物に投与する段階を含む、自己免疫疾患を処置または予防する方法を提供する。
【0070】
(iv) 遺伝的疾患
前述のように、プロT細胞に所望の遺伝子を形質移入してもよい。そのような細胞を遺伝的疾患の処置に用いることができる。造血細胞に関連する遺伝的疾患は、該疾患を引き起こす遺伝子の欠損または異常を補いうる遺伝子を形質移入した細胞を有する細胞組成物を移植することによって処置することができる。例えば、β-サラセミア(地中海貧血症)、鎌状赤血球貧血症、ADA欠損症、リコンビナーゼ欠損症、リコンビナーゼ調節遺伝子欠損症などのような疾患を引き起こす正常野生型遺伝子を、相同組み換えまたは無作為組み換えによってプロT細胞に移入することができ、この細胞を患者に移植することができる。さらに、(適当なドナー由来の)遺伝子の異常がない正常T細胞を含む細胞組成物を、処置のために用いることもできる。
【0071】
遺伝子治療の別の適用では、薬物耐性遺伝子を細胞に移入することによって薬物耐性を正常T細胞にもたらすことにより、本来なら危険であるものと考えられる、高い濃度での薬物の使用が可能になる。具体的には、本出願の細胞組成物におけるプロT細胞に、抗がん薬に対する薬物耐性を有する遺伝子、例えば、多剤耐性遺伝子を移入することにより高い濃度で抗がん薬を用いて処置を実行することが可能である。
【0072】
造血系に関する疾患以外の疾患は、その疾患がホルモン、酵素、サイトカイン、成長因子などのような分泌タンパク質の欠損に関する限りにおいて、プロT細胞を含む細胞組成物を用いることによって処置することができる。標的タンパク質をコードする遺伝子を適当なプロモーターの制御下、プロT細胞に移入することによって欠損タンパク質を誘導および発現させることができる。タンパク質の発現を制御して、インビボでの自然な発現によって得られる活性と同じ活性を得ることができる。
【0073】
リボザイムをコードする遺伝子、アンチセンス核酸など(例えば、低分子干渉RNA)または別の適当な遺伝子をプロT細胞に挿入して、細胞における特異的遺伝子産物の発現を制御すること、または疾患に対する感受性を抑制することも可能である。例えば、プロT細胞を遺伝子改変に供して、プロT細胞におけるHIV、HTLV-I、HTLV-IIなどのような血液病原体の増殖を阻止できる、アンチセンス核酸、siRNAまたはリボザイムを発現させることができる。一つの態様において、公知のHIV複製阻害遺伝子、例えばRNAデコイまたはTat応答要素もしくはRev応答要素、あるいはRevトランス活性化タンパク質のドミナントネガティブ変異体を発現する、本出願の細胞組成物のプロT細胞が作製される。これらの遺伝子を保有する造血前駆細胞またはESに由来するプロT細胞は、HIV耐性リンパ球前駆体の潜在的に無限かつ定義済みの供給源を提供するであろう。
【0074】
C. スクリーニング
プロT細胞を含む細胞組成物を用いて、プロT細胞またはその分化細胞の発達または活性を調節する潜在的な調節因子または治療用物質をスクリーニングしてもよい。具体的には、細胞組成物を試験物質に供することができ、試験物質の効果を対照(例えば、該物質の非存在下)と比較して、試験物質がプロT細胞またはその分化細胞の発達または活性を調節するかどうかを判定することができる。
【0075】
本出願の一つの局面において
(a) 試験物質の存在下で本出願の系もしくは方法によりプロT細胞を作製する段階、または試験物質の存在下で本出願の系もしくは方法を用いて作製されたプロT細胞組成物を培養する段階; ならびに
(b) 細胞の生存に及ぼす、あるいは該細胞の形態学的、機能的もしくは生理学的特徴および/または分子生物学的特性に及ぼす試験物質の効果の有無を検出し、それによって細胞生存、細胞の形態学的、機能的もしくは生理学的特徴および/または分子生物学的特性を変化させる効果が試験物質の活性を示す段階
を含む、試験物質の活性をアッセイするためにプロT細胞またはその分化細胞を含む本出願の細胞組成物を用いる方法が提供される。
【0076】
別の局面において
(a) 潜在的新薬の存在下で本出願の系もしくは方法によりプロT細胞を作製する段階、または潜在的新薬の存在下で本出願の系もしくは方法を用いて作製されたプロT細胞調製物を培養する段階; ならびに
(b) インビトロで細胞の生存に及ぼす、あるいは該細胞の形態学的、機能的もしくは生理学的特徴および/または分子生物学的特性に及ぼす潜在的新薬の効果の有無を検出し、それによってインビトロで細胞生存、細胞の形態学的、機能的もしくは生理学的特徴および/または分子生物学的特性を変化させる効果が潜在的新薬の活性を示す段階
を含む、T細胞を伴う障害を処置する潜在的新薬をスクリーニングするために、本出願にしたがって作製されたプロT細胞またはその分化細胞を用いる方法が提供される。
【0077】
本出願の細胞組成物を用いて、疾患のモデル系を調製してもよい。本出願の細胞組成物を用いて、成長因子、ホルモンなどを産生することもできる。
【0078】
本出願の細胞組成物を用いて、T細胞において発現される遺伝子またはT細胞の分化に不可欠な遺伝子をスクリーニングすることができる。使用できるスクリーニング方法には、提示的差異分析(Representational Difference Analysis; RDA)または例えばSA-lacZでの遺伝子トラッピング(D.P. Hill and W. Wurst, Methods in Enzymology, 225:664, 1993)が含まれる。遺伝子トラッピングを用いて、T細胞の分化または活性に影響を与えるドミナント変異を(例えば遺伝子産物の特定のドメインを欠失することによって)導入し、これらの細胞において発現される遺伝子またはこれらの細胞の分化に不可欠な遺伝子の同定を可能にしてもよい。
【0079】
以下の非限定的な例は、本出願の例示である。
【実施例】
【0080】
実施例1 臍帯血サンプルの調製
シリンジ抽出によってヒト臍帯血(UCB) 25〜50 mlを採取し、クエン酸リン酸デキストロース抗凝固剤(CPDA)を含有する単一の血液パックユニット(Baxter Healthcare, Deerfield, Illinois)の中に収集する。収集から12時間以内に、臍帯血単核細胞をFicoll密度遠心分離によって単離し、さらに使用するまで凍結する。具体的には、ヒト臍帯血サンプルをPBSまたはHBSS + 2 mM EDTA中で4分の1希釈する。Ficoll-Paque Plus (Amersham Biosciences, Cat 17-1440-03)中での勾配遠心分離によって単核細胞を単離する。細い無菌のパスツールピペットを用いて、希釈したヒト臍帯血サンプルをFicoll-Paqueに重層する。18〜20℃で30〜40分間1350〜1860 rpmにて遠心分離する。各洗浄の間に5分間1200 rpmで遠心分離し、毎回上清を除去して、PBSまたはHBSS中でリンパ球層を3回洗浄する。細胞を無菌のFACS選別用緩衝液1 mlに再懸濁し、-80℃で凍結する。実験ごとに、凍結UCBを融解し、次いでStemSep(登録商標)ヒト前駆細胞濃縮カクテル(Stem Cell technologies, Vancouver, BC, Canada)を用いautoMACS(商標)またはautoMACS-pro分離器(Miltenyi Biotec, Auburn, CA)で系統陰性(Lin-)および系統陽性(Lin+)画分に予め濃縮した。ヒトHSCを単離するため、Lin-細胞を抗ヒトCD38-APC mAbおよび抗ヒトCD34-PE mAbで染色し、その後、BD Biosciences FACSAriaデジタル細胞選別機(San Jose, CA)を用いCD34+ CD38-/lo細胞について選別した。選別されたヒトHSCは、選別後の分析によって判定したところ、99%超の純度であった。
【0081】
実施例2 ヒト造血幹細胞およびOP9-DL1またはOP9-DL4細胞共培養
GFP-ベクター骨格(OP9-対照)またはGFPおよびDelta-様1 (OP9-DL1)もしくはDelta-様4 (OP9-DL4)を含有する2シストロン性プラスミドのいずれかを発現するようにレトロウイルスによって形質導入したOP9細胞は、既報(Schmitt and Zuniga-Pflucker, 2002)のように作製し、20%の共培養特性化ウシ胎仔血清(FBS) (Hyclone)に加えて50 U/mlペニシリンおよび50 μg/mlストレプトマイシンを補充したα-MEM培地(OP9-培地)中で維持した。ほとんどの実験では、集密的なOP9-DL1またはOP9-DL4細胞を含有する6ウェルプレートの個々のウェルにつき1〜5×104個の選別ヒトHSC (CD34+ CD38-/lo)を加え、組み換えヒトサイトカインFlt-3L (5 ng/ml)およびIL-7 (5 ng/ml) (Peprotech, Rocky Hill, NJ)を補充したOP9-培地中で培養した。4〜5日ごとに、ヒトHSC/(OP9-DL1またはOP9-DL4)共培養物を新鮮な集密的OP9-DL1またはOP9-DL4細胞単層上に移し入れた。高い細胞密度の共培養物の場合、既報(Awong et al., 2008)のように継代の間2日ごとに培地交換を行った。
【0082】
OP9-DL1細胞またはS17-DL1細胞のようなDelta様分子を発現する単純間質細胞の単層を利用する能力によって、以前に可能とされていたよりも厳密なヒトT細胞発生試験が可能になった。OP9-DL1細胞は、世界中の400近い研究室に既に分配されている。これらの研究室から出てきた研究が、多数の前駆細胞供給源からのT細胞の作製を維持するのに必要な分子要素を確認しており(Lehar and Bevan, 2002; Wang and Spangrude, 2003)、T細胞発生において決定的な役割を有する他の多くの因子を解明するのに役立っている(Gutierrez-Frias et al., 2004; Outram et al., 2000; Pongracz et al., 2003; Shah et al., 2004; Staal et al., 2004; Weerkamp et al., 2006b; Weerkamp et al., 2006d)。
【0083】
T細胞発生にはDelta様リガンドを通じたシグナル伝達が必要になるというパラダイムがDelta様-1の発現については定着しているが、Delta様-4の発現がインビトロでT細胞発生を繰り返せることも明らかになり始めている(Schmitt and Zuniga-Pflucker, 2006)。Delta様-4がDelta様-1と配列相同性を共有し、同じく胸腺内で発現されることを考えれば、これは驚きではない(Schmitt and Zuniga-Pflucker, 2002)。
【0084】
OP9-DL1またはOP9-DL4細胞が登場するまで、ヒトT細胞発生の研究には、扱いにくいFTOCおよびその派生系を要していた。これらは機能的であるが、ハイブリッド/マウスFTOCの限界および利用可能なヒト胎児胸腺組織の欠如を考えれば、扱いにくく、非効率的かつ非実用的であった。したがって、免疫関連疾患の処置に向けて治療有効性を引き出すのに必要なヒト前駆T細胞数をいかにして作製できるかを思い付くのは困難であった。OP9-DL1およびOP9-DL4技術には多数の利点がある。これらの利点の多くはマウスT細胞発生を中心に以前に再調査されており(Zuniga-Pflucker, 2004)、ヒトT細胞発生の研究に関して類似の利点をもたらす。
【0085】
OP9-DL1およびOP9-DL4共培養系の重要な実践的検討はその技術的な単純さである。ヒトHSCは長時間、二種のヒトサイトカインFlt-3LおよびIL-7を添加して単純な単層上で直接培養される。すなわち、培地交換および新たな間質上への移動により、OP9-DL1およびOP9-DL4細胞は容易に操作され、より大型の培養へ容易に拡げられる。これは、多くの場合、ヒト前駆細胞の直接的な微量注入を要し、培養回数が限られている、扱いにくいFTOCとは対照的である。これらの制約を考えれば、OP9-DL1およびOP9-DL4共培養系は、単一の細胞を今やT細胞前駆体機能についてアッセイできるという点でFTOCに比べて改善を示す(Ciofani et al., 2006; Schmitt and Zuniga-Pflucker, 2002)。これはFTOCを用いて可能であったが(Ikawa et al., 1999; Michie and Zuniga-Pflucker, 2000; Williams et al., 1986)、大規模分析の実現可能性はほぼ妨げられており、ヒト前駆T細胞のための単一細胞分析を用いた前駆体頻度の報告はされていない。したがって、FTOCにおいて現在使用されている現アッセイ法とともに、本発明者らの系は、ヒトT細胞発生の研究において利用される異なる手法を補完し、免疫再構築能およびインビトロ由来のT細胞の免疫機能を試験するための将来の研究に新たな道を開くことができる(Jenkinson and Anderson, 1994; Takahama, 2000)。
【0086】
さらに、OP9-DL1およびOP9-DL4系はいくつかの規定の供給源からのT細胞の作製を支持することが可能であった。胎仔肝臓、骨髄、胎仔胸腺および末梢血から得られたマウス前駆細胞、ならびに胚性幹細胞(ESC)はOP9-DL1共培養によってT細胞を産生する(Adolfsson et al., 2005; Ciofani and Zuniga-Pflucker, 2005; Schmitt et al., 2004; Schmitt and Zuniga-Pflucker, 2002)。同様に、胎児肝臓、骨髄、胎児胸腺、GM-CSF動員末梢血および臍帯血から単離されたヒト前駆細胞はOP9-DL1共培養によってT細胞を産生する(De Smedt et al., 2004; La Motte-Mohs et al., 2005; Weerkamp et al., 2006a)。ESCおよびHSCに関して、例えばT細胞発生中の、特定の遺伝子の機能的重要性を素早くアッセイするための選択法としての低分子干渉RNA (siRNA) (Gimeno et al., 2004; McManus and Sharp, 2002)およびロックド核酸(Grunweller et al., 2003)の新利用を、OP9-DL1およびOP9-DL4細胞共培養系に容易に適合することができる。これは、欠失時に、胚性致死表現型を引き起こし、単純にはさらに研究のできない、多くの遺伝子のT細胞発生中の役割を特徴付けるための実践的な手法を可能にする。同様に、OP9-DL1系は遺伝子操作に適合可能である。この原則はCD34+ HSC (未成熟)においてレトロウイルスベクターおよびレンチウイルスベクターで実証されている(Case et al., 1999; Gimeno et al., 2004; Haas et al., 2000; Klug et al., 2000; Su et al., 1997)が、前駆T細胞においては実証されていない。前駆T細胞は周期性であり、OP9-DL1共培養系において再生されるので、それらは遺伝子操作に等しく適していると分かる可能性が高い。したがって、マウスT細胞発生で現在使用されている現アッセイ法とともに、今やヒトT細胞発生の研究に容易に適用できる多くの異なる手法が存在する。
【0087】
マウスESCとは対照的に、未分化ヒトESCは、OP9-DL1またはOP9-DL4細胞のいずれかとの共培養後にT細胞を生じうる前駆細胞を未だ産生していない。実際に、OP9-DL1共培養におけるヒトESCの分化は、より困難であると分かっている。いくつかのグループが胚体形成(Cerdan et al., 2004; Chadwick et al., 2003; Wang et al., 2004; Zambidis et al., 2005; Zhan et al., 2004)またはS17 (Tian et al., 2006)、MS5もしくはOP9 (Vodyanik et al., 2005)間質系上での共培養を通じてCD34+細胞へのヒトESCの効率的な分化を実証している。これらのCD34+細胞は、選別され骨髄間質上で再培養された場合、適切なサイトカインの存在下でB細胞(Vodyanik et al., 2005)およびNK細胞{Woll, 2005 #219 (Vodyanik et al., 2005)}ならびに樹状細胞(Slukvin et al., 2006)を生じ、ヒトESCが多系統能を有する前駆細胞に分化できることを示唆している。対照的に、選別ヒトESC由来CD34+細胞は、これまでOP9-DL1細胞との共培養によってT細胞にインビトロで分化しておらず、免疫不全NOD/SCIDマウスへの大腿骨内注射によって胚体由来CD45-、PECAM-1+、Flk-1+およびVE-カドヘリン+ (PFV)細胞にも分化しておらず(Wang et al., 2005b)、ヒトESCがマウスESCよりもT細胞分化を促進するDelta-様-Notch誘導分化シグナルに対してインビトロでの感受性が低いかもしれないことを示唆している。あるいは、OP9-DL1細胞がヒトESCの誘導および早期分化に必要な因子の全ての代わりに完全になるわけではないのかもしれない。この問題は、最近になって、亜致死量放射線照射された免疫不全SCIDマウスの腎臓被膜下に移植された結合ヒト胸腺/肝臓(Thy/Liv)組織へのヒトESC由来GFP標識CD34+細胞の直接注射を通じてインビボで回避されている(Fleming and Scadden, 2006; Galic et al., 2006)。
【0088】
ヒトESCからT細胞を誘導する能力は、免疫関連障害の処置にとって引き続き魅力ある目標である。これは、理論上、未分化ヒトESC細胞株からは無限の数のヒトT細胞を作製できるのに対し、ヒトHSCが骨髄および臍帯血のような枯渇性の供給源からでは、限られた分化能および増殖能しか持ちえないという一般的な合意によるものである。先見にもかかわらず、限られた組織からはごく少数のヒトHSCしか単離することができず、それゆえ、さらに使用するには適切に貯蔵され増殖させねばならない。ヒトHSC数を、その分化を抑えながら増殖させるための努力が進行中であり、これが一致活用されて、さらに多数の前駆T細胞を作製できよう。全てのHSCが長期再構築能を示すわけではなく、胸腺には自己再生する前駆細胞が含まれていないことを考慮に入れると、T細胞に基づく免疫不全または自己免疫の処置にとってHSCおよび前駆T細胞の利用はニッチが限られているかもしれない。ヒトESCにはその欠点がないわけではなく、そのゲノム不安定性、後成的状態、その自発的分化傾向およびがんを引き起こすその可能性を考えると、その安全性に関しては深刻な懸念が残っている(Odorico et al., 2001; Olsen et al., 2006; Rugg-Gunn et al., 2005; Wang et al., 2005a)。
【0089】
OP9-DL1またはOP9-DL4共培養系では、臍帯血および骨髄に由来するヒトHSCは健全な増殖を示す。実際に、OP9-DL1またはOP9-DL4系は、極めて均質な、かつT細胞分化のヒトマーカーに基づき容易に単離されるT系統細胞の集団を作製する。この系は他のリンパ球および骨髄性細胞を犠牲にしてT系統細胞を効率的に(>90%)作製するが、このT細胞増殖の上限は不明である。この共培養系における前駆T細胞の産出量は、他のインビトロ系より少なくとも103〜105倍高く、この系のさらなる規模拡大が、免疫関連障害を有する患者において治療的有用性を達成するのに臨床的に意義のある数をもたらす可能性を示唆している。ヒトCD34+CD38-細胞から始めた長期OP9-DL1共培養は、少なくとも120日間の持続的なT細胞発生を示し、CD34+CD7+である細胞の集団を保ち続ける。これらの細胞が自己再生可能かどうかは不明であるが、長期OP9-DL1またはOP9-DL4共培養においてT細胞発生が相次ぎ認められている[La Motte-Mohs、未発表結果]。これらの相次ぐT細胞発生は、培養において維持されていた早期前駆体に由来する前駆T細胞の再出現に先だち、陽性および陰性選択シグナルを受けていなかったCD4+CD8+ DP T細胞集団のアポトーシスを単純に反映している可能性がある。実際に、そのような可能性は、前駆細胞再生の維持およびT細胞分化の促進におけるNotchシグナル伝達の二元的役割と一致している(Varnum-Finney et al., 1998)。OP9-DL1またはOP9-DL1共培養系が、T細胞分化も自己再生も同時に促進するかどうかを判定するにはさらなる研究が必要である。
【0090】
幹細胞から機能的T細胞への分化はOP9-DL1細胞上での共培養によって容易に得られるが(Schmitt et al., 2004; Schmitt and Zuniga-Pflucker, 2002)、この系にはまだいくつかの欠点がある。例えば、OP9細胞はマウスMHCクラスI分子を発現し、マウスHSCのCD8+ T細胞への分化を支持するが、マウスMHCクラスII分子を発現せず、CD1dを発現するようには見えず、したがって、それぞれCD4 T細胞およびNKT細胞の分化を支持するその能力が限られている(Schmitt and Zuniga-Pflucker, 2002; Zuniga-Pflucker, 2004)。マウスMHC分子がヒトHSCの分化を支持できるという証拠が存在するが(Fisher et al., 1990; Traggiai et al., 2004)、これは、自己免疫反応または移植片対宿主病(GvHD)を誘発せずに免疫関連障害を処置するように細胞免疫療法を開発する場合、とりわけ問題になりうる。しかしながら、OP9-DL1細胞を改変してヒトMHC分子を異所的に発現させることが可能であり、これによってT細胞の特異的サブセットの発生に対するこれらの分子の寄与に関する再検討が可能になるばかりか、個体にMHC適合したT細胞も作製されよう。具体的には、本発明者らは、臍帯血由来のHSCからDP期へのヒトT細胞の健全かつ持続的な作製を報告しているが、CD4+またはCD8+ SP T細胞の作製は限られており(La Motte-Mohs et al., 2005)、これはマウスOP9-DL1細胞上にヒトHLA分子がないことによる可能性が高い。著しくは、長期の密充填共培養条件の下で、本発明者らは、TCRαβを発現するCD4+またはCD8+ T細胞を検出することができる[未発表結果、Ross La Motte-Mohs]。一見して、ヒト単一陽性T細胞の出現は、ヒト前駆T細胞の単離にはヒト胸腺間質成分を要し、SP T細胞に向かってその完全分化能を実現するという報文を考えれば、両立が困難なように思われる。それにもかかわらず、Choiらによる最近の論文で、胸腺細胞-胸腺細胞(T-T)相互作用が陽性選択を媒介し、MHC-クラスII+胸腺間質の非存在下でのCD4 T細胞の成熟を促進しうることが実証された(Choi et al., 2005)。同様に、OP9-DL1細胞による高密度共培養条件中のヒトCD4+ SP T細胞の出現は、発生中の前駆T細胞(CD34+CD7+)が高レベルのヒトMHCクラスII分子を発現するのでT-T相互作用を利用することができる[未発表結果、Ross La Motte-Mohs。あるいは、OP9-DL1共培養において後の方で出現するγδ-T細胞は、出現中のαβ-T細胞へ向けてプロフェッショナルAPCとして機能し、さらなる分化を可能にすることができる(Brandes et al., 2005; Modlin and Sieling, 2005)。
【0091】
興味深いことに、別の欠点は、OP9-DL1細胞が発生中のT細胞に提示する可能性の高い自己抗原の数が限られていることである。当初、OP9細胞は、胸腺髄質上皮細胞とは対照的に、AIRE遺伝子を発現する可能性が低い(Anderson et al., 2002)、かつ末梢寛容に向けた異所性の自己抗原提示を媒介する可能性が低いと考えられていた。しかし、OP9-DL1細胞における低レベルのAIRE伝達暗号の検出[personal communication, Lynn Rumfelt]から、OP9-DL1細胞が、OP9細胞においても検出された、インスリンなどの、組織特異抗原を提示する能力をいくぶん保有している可能性のあることが示唆される。AIRE転写因子がOP9-DL1細胞において機能的であるかどうかは、まだ実験的に確認されていない。しかしながら、AIREおよびDelta様-1を発現する皮膚細胞が胸腺非依存性のT細胞発生を支持し、陰性選択を媒介しうるという最近の実証(Clark et al., 2005)から、OP9-DL1細胞についても類似の可能性が示唆される。したがって、TCRレパートリーの陽性および/または陰性選択に関与する機構を扱う問題は、OP9-DL1細胞を適切に操作することによって調べることが可能であり、本発明者らの研究室において現在調査中である。それにもかかわらず、成熟T細胞を適切に選択するOP9-DL1細胞の能力または機能に関連する問題は、OP9-DL1細胞上で培養された幹細胞から得たCD4- CD8-二重陰性前駆体または未成熟CD4+ CD8+ T細胞を、FTOCへまたは宿主マウスの胸腺内に単純に移入することによって回避することができる(Schmitt et al., 2004)。そのような手法は自己MHC拘束性および耐性問題に現実的な解決案を与えるだけでなく、インビトロ由来T細胞の免疫機能およびヒト免疫関連障害を処置するためのT細胞の適合でのその有効性を試験する将来の可能性に新たな道を開く。
【0092】
これらの研究は、免疫関連障害の処置のためにインビトロ由来前駆T細胞を利用することの効力および治療有効性について判定することのもっともな懸念を強調している。OP9-DL1系において作製された前駆T細胞は、自家細胞であれ同種細胞であれ、未成熟であり、依然として、宿主胸腺内で陽性および陰性選択を受ける必要がある。このことは、それらの細胞がインビボで自己免疫反応またはGvHDを惹起する可能性が低いことを示唆している。GvHDは幹細胞移植において引き続き懸念であるものの、患者でも免疫不全マウスでも、前駆T細胞ではないが、CD34+HSCを用いたヒト免疫系の再構築は、この手法の原則を示すものであった(Barker and Wagner, 2003; de Wynter et al., 1999; Gimeno et al., 2004; Traggiai et al., 2004)。実際に、ヒト/マウス生着モデルの利用(Legrand et al., 2006)は、免疫関連障害の処置に向けてインビトロ由来ヒト前駆T細胞の安全性を評価する手助けとして特に有用なことが分かるかもしれない。
【0093】
実施例3 ヒト-マウス胎仔胸腺器官共培養(FTOC)
FTOC (Fisher et al., 1990; Plum et al., 2000)は、妊娠15日目の時点で同期妊娠(time-pregnant) CD1マウスの胚から胎仔胸腺を単離することによって行った(Jackson Laboratories, Bar Harbor ME)。胸腺を1.35 mMデオキシグアノシン(dGuo)の存在下で5日間培養して、内在性の胸腺細胞を除去した。Flt-3L (5 ng/ml)、IL-7 (5 ng/ml)およびSCF (30 ng/ml) (Peprotech, Rocky Hill, NJ)を補充したHSC/OP9DL1共培養物に由来するヒトプロTサブセットを選別し、図のように24時間Terasakiウェル中での懸滴に配し、その後、7〜21日間Gelfoamラフト上のNucleoporeフィルタに移入した。OP9-培地ならびにサイトカイン(Flt-3LおよびIL-7)は5日ごとに補充した。胸腺葉をナイロンメッシュ細胞こし器で粉砕し、単細胞懸濁液を得ることによって細胞を分析した。
【0094】
伝統的に、ヒトTリンパ球産生および前駆細胞コミットメントを研究するためのインビトロモデルの開発は、胎仔マウスから得た、または随意的に人工中絶されたヒト胎児から、および小児心臓手術中に捨てられた胸腺組織から得た宿主胸腺組織の使用に依っていた。最近まで、ヒトT細胞の作製を可能にした唯一のインビトロモデル系は、Fisherら(Fisher et al., 1990)によって最初に適合されたハイブリッドFTOC系であった。この全器官に基づく手法では、胎生期14/15日マウス胸腺葉から2-デオキシグアノシンでの処理によって内在性の胸腺細胞を枯渇させ、これに懸滴法によって造血前駆細胞を播種し、これをGelFoam-ラフト上で一定期間培養する。次にT細胞発生段階を、胸腺原基へのマウス造血前駆体の導入後のさまざまな時点で評価することができる。このハイブリッドヒト/マウスFTOCを用いて、Fisherらは、ヒト胎児胸腺前駆細胞からの成熟SP T細胞の増殖および作製を実証した(Fisher et al., 1990)。この手法はまた、出生後ヒト前駆胸腺細胞(Merkenschlager and Fisher, 1991)ならびに骨髄および臍帯血から得たヒト前駆細胞(Yeoman et al., 1993)でも後に実証された。Fisherらによる研究は、ヒト胸腺前駆細胞によるマウス胸腺原基の効率的な定着がヒト胸腺間質成分の添加に依ることを指摘した(Fisher et al., 1990)。胸腺定着およびT細胞発生を改善するために、いくつかのグループがヒト前駆細胞をヒト胎児胸腺破片へ直接注射した(Galy et al., 1993; Peault et al., 1991)。その非効率性および技術的複雑さにもかかわらず、ハイブリッドヒト/マウスFTOCは、ヒト造血およびT細胞分化を調べるために日常的に用いられている(Barcena et al., 1995; De Smedt et al., 2002; Galy et al., 1993; Plum et al., 1994; Res et al., 1997)。
【0095】
実施例4 定量的リアルタイム逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(Q-PCR)
全RNAをTrizol試薬中で単離し、Superscript IIIおよびオリゴ(dT)12〜18プライマー(Invitrogen, Burlington, ON)を用いて逆転写した。全OP9-対照共培養物、全OP9-DL1共培養物、図に示されるようにOP9-DL1共培養から選別されたT系統サブセット、UCB精製Lin+ CD3+およびCD33+細胞、またはバルクおよびLin-ヒト出生後胸腺細胞(PNT)由来の希釈cDNAサンプルをQ-PCR反応の鋳型として用いた。Q-PCRの検出はApplied Biosystems Sequence Detection System 7000にて製造元の指示にしたがいSYBR Green PCRマスターミックス(Qiagen, Mississauga, Ontario or Bio-Rad, Hercules CA)で行った。全ての転写産物のレベルをヒトβ-アクチンに対して標準化した。遺伝子特異的なフォワード(F)およびリバース(R)プライマーは以下の通りである。
【0096】
実施例5 フローサイトメトリー
フルオレセインイソチオシアネート(FITC)結合抗体、R-フィコエリトリン(PE)結合抗体、アロフィコシアニン(APC)結合抗体、PE-Cy7結合抗体、ペリジニンクロロフィルタンパク質(PerCP) PerCP-Cy5.5結合抗体、Alexa Fluor700結合抗体、Alexa Fluor750結合抗体およびPacific Blue結合抗体は商業的に購入した。それらには以下の抗体が含まれる: FITC: 抗-CD34 (クローン581)、抗-CD27 (クローンM-T271)、抗-CD3 (クローンHIT3a)、抗-TCRαβ(クローンT10B9.1A-31); PE: 抗-CD7 (M-T701)、抗-CD4 (クローンRPA-T4)、抗-CD49d (クローン9F10) 抗-グランザイムB (クローンeBioGrB); APC: 抗-CD1a (クローンHI149)、抗-CD7 (CD7-6B7)、抗-CD8 (クローンRPA-T8); PE-Cy7: 抗-CD8 (クローンRPA-T8); PerCP-Cy5.5: 抗-CD5 (クローンL17F12); Alexa Fluor700: 抗-CD4 (クローンRPA-T4); APC-Cy7/APC-Alexa Fluor750: 抗-CD4 (クローンRPA-T4); Pacific Blue: 抗-CD3 (クローンUCHT1)。グランザイムBの細胞内染色は製造元の指示にしたがいCytofix/Cytopermキット(BD Biosciences, San Diego, CA)を用いて行った。全ての抗体は、eBioscience (San Diego, CA)から購入した抗-CD49d-PE、抗-グランザイムB-PE、抗-CD3-FITCおよび抗-CD4-APC-Alexa Fluor750を除いて、BD Pharmigenから入手した。フローサイトメトリー分析のため、OP9-DL1共培養または胎仔胸腺器官培養(FTOC)から得た細胞懸濁液をFcRII遮断し、染色した。細胞をFACSCalibur (BD-Biosciences)または四レーザーLSR II卓上フローサイトメーターに流した。データ分析はFlowJoソフトウェア(Tree Star, Ashland, OR)を用い生リンパ球のゲーティングおよびヨウ化プロピジウムの取り込みの欠如によって行った。GFP発現性OP9間質細胞はGFP発現および側方散乱によるゲーティングを通じて除外した。この手順によって、混入しているGFP発現性OP9間質細胞の99%が除外された。四分画領域の角の数値はゲート細胞の割合を表す。
【0097】
実施例6 T細胞刺激アッセイ法
インビトロで作製されたCD3/TCR-αβ+ CD8+単一陽性(SP)細胞を60〜70日目にHSC/OP9-DL1共培養物から選別した。T細胞刺激アッセイ法の場合、細胞4×104個を抗CD3 (2もしくは10 μg/ml)および可溶性抗CD28 (1 μg/ml) mAb有りまたは無しでコーティングされた平底96ウェルプレートの個々のウェル中に播種した。全てのウェルに組み換えヒトIL-2 (1 ng/ml)および組み換えヒトIL-7 (1 ng/ml)のサイトカインを補充したOP9培地を含め、これを5日後に分析した。T細胞増殖アッセイ法の場合、インビトロで作製されたCD8+ T細胞4×104個を選別し、プレーティングの前に製造元のプロトコルにしたがってこれに10 μMカルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル(CFSE) (Molecular Probes, Eugene, OR)を負荷した。FACSCaliburフローサイトメーターを用いて刺激から5日後にCFSE標識の喪失をアッセイした。
【0098】
実施例7 前駆体頻度分析
ヒトHSC限界希釈アッセイ法(LDA)をUCBサンプルの異なる細胞サブセットからの連続希釈により行った。FACSDiVa細胞選別機を用いてUCB細胞をCD34+ CD38-、CD34+ CD38lo、CD34+ CD38+/hiとして選別し、OP9-DL1細胞単層を含んだ96ウェル/プレートの個々のウェルに各サブセットの細胞1個(n = 36)、3個(n = 24)、10個(n = 90)、30個(n = 56)、100個(n = 58)または300個(n = 13)を直接重ねた。細胞を11日間培養し、その後、それらを個々のウェルから収集し、フローサイトメトリーによって分析した。CD45+ CD7++細胞の存在をスコア化し、ポアソンモデルに適用された最大尤度法により前駆体頻度を決定した(Fazekas de St, 1982)。ヒトインビトロ由来前駆T細胞の場合、限界希釈アッセイ法は、13日目のHSC/OP9-DL1共培養から得た選別済みのCD34+ CD7++ CD5-およびCD34+ CD7++ CD5+サブセットを用いて行い、dGuo-FTOC由来胸腺葉に、CD34+ CD7++ CD5-前駆体の場合には1胸腺葉あたり細胞500個(n = 2)、1000個(n = 18)、1500個(n = 12)、2000個(n = 13)、3000個(n = 13)、9000個(n = 4)もしくは22000個(n = 1)またはCD34+ CD7++ CD5+前駆体の場合には1胸腺葉あたり細胞100個(n = 4)、300個(n = 9)、500個(n = 10)、1000個(n = 10)、3000個(n = 10)、9000個(n = 4)もしくは22000個(n = 1)で播種した。前駆体を同様に、96ウェル/プレート中のOP9-DL1細胞上に播種し戻し、1ウェルあたり細胞1個(n = 36)、3個(n = 20)、10個(n = 20)、30個(n = 14)および100個(n = 6)で重ねた。細胞を分化から7日後に分析し、CD45+ CD7++ (FTOC)またはCD7++ CD1a-/+ (OP9-DL1)細胞の存在についてスコア化した。ポアソンモデルに適用された最大尤度法により前駆体頻度を決定した(Fazekas de St, 1982)。
【0099】
実施例8 インビトロで作製されたヒト前駆細胞による免疫不全マウスの胸腺再構築
材料および方法
臍帯血サンプル:
ヒトUCBサンプルは、同意した母親からWomen's College Hospitalでの分娩後に、Research Ethics Board of Sunnybrook Health Sciences Centreによって確立された承認済みのガイドラインにしたがってシリンジ注射により採取し、クエン酸リン酸デキストロース抗凝固剤を含有する血液パックユニット(Baxter Healthcare, Deerfield, Illinois)の中に収集した。収集から12時間以内に、UCB単核細胞をFicoll密度遠心分離によって単離した。実験ごとに、凍結UCBを融解し、次いでStemSep(登録商標)濃縮カクテル(Stem Cell technologies, Vancouver, BC, Canada)を用いautoMACS(商標) (Miltenyi Biotec, Auburn, CA)で系統陰性(Lin-)および系統陽性(Lin+)画分に予め濃縮した。ヒトHSCを単離するため、Lin-細胞を抗ヒトCD38-APC mAbおよび抗ヒトCD34-PE mAbで染色し、その後、BD Biosciences FACSAria選別機(San Jose, CA)を用いCD34+ CD38-/lo細胞について選別した。選別されたヒトHSCは、選別後の分析によって判定したところ、99%超の純度であった。
【0100】
NOD/SCIDγc-/-およびRAG2-/-γc-/-再構築の研究:
選別HSC (CD34+CD38-/lo) 5〜6×105個を集密的OP9-DL1細胞を含有する6ウェルプレートの個々のウェルあたり細胞3×104個で添加し、OP9培地に加えてrhIL-7 (5 ng/mL); rhFlt-3L (5 ng/mL)およびrhSCF (30 ng/mL)の存在下で10〜12日間培養物を維持し、その後、CD34+CD7+前駆T細胞(プロT)を選別した。選別ヒトプロT細胞を組み換えヒトIL-7/M25混合物(C. Surh博士から頂いた)中で再懸濁し、細胞3.5〜5×105個を4〜5日齢の新生仔に肝内注射(30 μl/マウス)した。対照として、マウスにPBSまたはCD34+幹細胞(1.5〜2.5×105個)のどちらかを注射した。3〜4日ごとにマウスにIL-7/M25混合物を追加免疫した。胸腺、脾臓および骨髄を肝内移植から21〜27日後に収集し、カウントした単細胞懸濁液を次に、フローサイトメトリーのために染色した。同時注射実験の場合、ヒトUCB CD34+CD38-/lo (HLA-A2-)細胞を10〜12日間OP9-DL1細胞上で分化させ、CD34+CD7++CD5+ (プロT2)細胞をフローサイトメトリーによって選別した。プロT2細胞を選別した同日に、臍帯血由来のCD34+CD38-/lo (HLA-A2+)細胞も選別した。同じ同腹仔由来の放射線照射(130 cGy)新生仔NOD/SCID/γc無マウスにHSC 3.5×104個のみ、プロT2細胞2.5×105個のみ、およびプロT2細胞2.5×105個とともにHSC 3.5×104個を肝内注射した。
【0101】
フローサイトメトリー:
フルオレセインイソチオシアネート(FITC)結合抗体、R-フィコエリトリン(PE)結合抗体、アロフィコシアニン(APC)結合抗体、PE-Cy7結合抗体、ペリジニンクロロフィルタンパク質(PerCP) PerCP-Cy5.5結合抗体、Alexa Fluor700結合抗体およびAlexa Fluor750結合抗体は商業的(BD BiosciencesまたはeBioscience)に購入した。細胞懸濁液をFcRII遮断し、染色し、LSR-IIサイトメーターで分析した。データ分析はFlowJoソフトウェア(Tree Star, Ashland, OR)を用い生リンパ球のゲーティング、4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)の取り込みの欠如、引き続きヒト特異的な造血細胞のCD45ゲーティングによって行った。四分画領域の角の数値はゲート細胞の割合を表す。
【0102】
免疫生着:
マウスモデルを利用したヒト造血の研究は、C.B-17マウス系統におけるscid (重症複合免疫不全症)変異の発見の後、1980年代後半に初めて起きた(Bosma et al., 1983)。そのようなマウスは、TCRおよび免疫グロブリン再構築中の非相同末端結合に関与するprkdc (タンパク質キナーゼDNA触媒タンパク質)遺伝子の変異を持ち(Bosma et al., 1983)、したがって、成熟T細胞もB細胞も欠いている。すぐ後に、C.B-17 SCIDマウスはMcCuneら(McCune et al., 1988)により、HIV-1との関連でヒトT細胞発生を研究するための実験系として使用された。このモデルを用いて、ヒト胎児胸腺および胎児肝臓の(SCID/hu (thy/liv)モデル)破片を動物の腎臓被膜下に配し、その移植片を血管新生化させる。胎児肝臓はヒトHSCの豊富な供給源を提供し、胎児胸腺は、HSCがT細胞に分化できる環境を提供する。それはヒトリンパ球発生をインビボで研究するための画期的なモデルであったが、生着した細胞の大部分は、マウス骨髄または他の組織に播種されずに胎児外植片に限定された。
【0103】
その後、ヒト造血細胞が帰巣する、かつヒト胎児組織なしのマウス環境内で分化する能力をより良く反映するようにモデルが利用された。多くのグループは、亜致死量放射線照射されたC.B-17 SCIDマウスが多造血系統へのヒト骨髄およびヒト臍帯血からのCD34+前駆細胞の生着および分化を支持する(Lapidot et al., 1992; Vormoor et al., 1994)ことを実証できている。これに照らして、CD34+幹細胞は、それらがSCIDマウスにおいては造血系統を再配置できたため、「SCID再配置細胞」(SRC)と言われた。残念ながら、生着のレベルはかなり低く、特にT細胞発生は、概して、なかった。この生着に対する主な障壁は、SCIDマウスに依然として存在する先天性免疫機能であった。具体的には、NK細胞機能が、異種生着に対する宿主抵抗性を決める重要な因子であった。非肥満糖尿病マウス(NOD)の使用は、ヒト細胞生着の促進で大いに手助けとなった。近交系のNODマウス系統は、(1) C5遺伝子の変異による補体欠損(Baxter and Cooke, 1993)、(2) 損傷したNK機能および(3) IL-1分泌の低減によるマクロファージ機能の障害によって、先天性免疫機能の多くの側面を欠いている。実際に、NOD背景へのSCID変異の導入(NOD/SCID)は、多くのグループによるヒト生着の成功を可能とし、ヒト造血およびHSCの研究に広く用いられている(De Smedt et al., 2002; Larochelle et al., 1996)。重要なことには、Kerreらは、マウスIL-2Rβを遮断する、したがってNK機能をさらに低下させる抗体で処置されたNOD/SCID動物を用いて、低率のマウスではあるが、健全なT細胞発生を実証した(Kerre et al., 2002)。
【0104】
最近になって、ヒト血液リンパ発生を調べるための二つの新たなマウスモデルRAG2-/-γc-/-およびNOD/SCID/γc-/-免疫不全マウス系統が登場した。リコンビナーゼ活性化遺伝子2 (RAG2)欠損マウスはRAG機能を欠いており、TCRおよびIg受容体の再構築がないために、TおよびB細胞発生の完全な抑止をもたらす。さらに、共通のサイトカイン受容体γ鎖(γc)、つまりIL-2、IL-4、IL-7、IL-9、IL-15およびIL-21サイトカイン受容体に対する重要なサブユニットがないことで、これらのサイトカインはその標的細胞上で機能しなくなる。最も重要なことには、RAG2-/-γc-/-マウス系統でもNOD/SCID/γc-/-マウス系統でもNK細胞は、その発生にはIL-15Rγcが欠かせないので発生せず(Goldman et al., 1998)、したがってヒト免疫生着を改善する(Kerre et al., 2002; Legrand et al., 2006; McKenzie et al., 2005)。最近、Traggiaiおよびその仲間ら(Traggiai et al., 2004)は、ヒトCD34+ CB細胞を移植された新生仔RAG2-/-γc-/-が主要な全ての免疫細胞サブセットを発現することを実証した。Tリンパ球新生が、初期モデルの非効率性とは対照的に、著しく高いレベルで支持された。Traggiaiらによる研究は、ヒトT細胞が末梢器官に集合し、抗ウイルス免疫反応を誘発しうることも実証し、生着したヒトHSCが分化し陽性選択事象を受けることを示した(Traggiai et al., 2004)。したがって、免疫不全マウスの胸腺において陽性選択を受けているヒトT細胞はゆえに、マウスMHC分子に傾斜しており、ヒトMHCクラス分子に対する選択を認めるにはヒト胸腺破片の移植を必要としうることが示唆された(Legrand et al., 2006)。あるいは、ヒトT細胞がマウスまたはヒトMHC分子に対して陽性選択されるかどうかを、ウイルス抗原を提示するために使われるAPCのタイプまたは感染因子によって使われる標的組織が決める可能性がある。Traggiaiらによる研究は、エプスタインバーウイルス(EBV)が、ヒトMHC分子との関連でウイルスエピトープを提示しうるヒトB細胞に感染することを考えれば、前者の可能性を支持するように思われる(Traggiai et al., 2004)。明らかに、ヒト免疫移植片を許容する卓越した能力を有するインビボモデルが利用可能であり、ヒト血液リンパ発生についての見識を得るのに、およびT細胞系統の免疫障害の処置でのインビトロ由来前駆T細胞の安全性を試験するのにそれらを強力なツールにする。
【0105】
結果
インビトロにおけるT細胞発生の逐次誘導の細胞レベルでの分析
ヒトTリンパ球産生に有効なインビトロ系の樹立において重要な段階は、T細胞発生の早期段階を完全に特徴付けることである。この目的を達成するために、本発明者らは、UCB由来HSCがOP9-DL1細胞上で分化するように誘導される場合に起こる早期発生変化の時間的動態分析を行った。予想通り、開始時の幹細胞集団のフローサイトメトリー分析は、選別されたCD34+CD38-/lo細胞がCD7、CD5、CD1aおよびCD10のような、早期T細胞分化のマーカーを発現しないことも、CD2、CD4、CD8およびCD3のような、後期T細胞分化のマーカーを発現しないことも示した(図1A)。
【0106】
本発明者らは、T細胞分化の時間的分析に共通のマーカーとしてCD7表面発現を利用した(Barcena et al., 1995; Blom and Spits, 2006)。早期HSC/OP9-DL1共培養物におけるCD7発現の分析により、この手法は、CD7発現がCD34+細胞にて4日目の時点で最初に検出されてから、6〜8日目までにCD34+細胞にて高レベル発現で検出され、その上、より遅い時点で(14日目を過ぎて)CD34-細胞のサブセットにてわずかに減少していく、T細胞発生の早期および後期段階を反復することが明らかになった(図1B)。
【0107】
共培養の最初の週の間に、CD34+細胞はCD7発現を素早く得るが、全体的な細胞数は一定のままであり(図7)、細胞はCD5、CD1a、CD2およびCD4の発現について陰性のままである。培養8日目までに、CD5発現が、引き続きCD1a-の、CD34+CD7++細胞にて最初に検出される(図1B)。CD1a+細胞は10日目までに検出され始め、CD7++細胞の約15%に存在し、これは、同様にCD34発現を下方制御し始めた細胞に対応する。14日目までに、CD5の発現がCD7++細胞のほぼ全てに認められ、これらの細胞の大部分にCD1aが発現される。14日目はまた、細胞が芽球(blasting)表現型を示す時点(データ記載せず)および細胞の増殖が明らかになり始める時点(図7)に対応する。
【0108】
より遅い時点で、CD2およびCD4を発現するCD7++およびCD7+集団が優位を占め始める(図1C)。さらに、CD7+CD1a++細胞の集団が増殖し続け、最終的には、48日目までにCD7発現細胞のほぼ90%を占めた。CD7++細胞にてCD2発現が低い、早期時点(8〜10日目)とは対照的に、48日目までに細胞のほぼ50%が高レベルのCD2を発現する(図1C)。CD7++細胞上のCD4の発現は早ければ12日目までに現れ(図1B)、増加し続け、最終的には、48日目までにCD7発現細胞のおよそ75%を占める(図1C)。CD7発現を欠くわずかな割合のCD4+細胞が検出されたが、本発明者らは、これらの細胞が骨髄細胞系統に属することを以前に報告した(La Motte-Mohs et al., 2005)。
【0109】
CD34+CD45RAhiCD7+と同定された、胸腺播種細胞は、UCB (Haddad et al., 2004)または胎児骨髄(Haddad et al., 2006)に存在することが示された。類似の集団をインビトロで作製できるかどうかを判定するため、本発明者らは、早期の共培養時点でこの表現型を持つ細胞を探した。注目すべきは、開始時のUCB-HSC集団には、CD45RAアイソフォームを低レベルで発現したCD34+細胞のサブセットが含まれた(Hao et al., 2001; Payne and Crooks, 2002)が、これらの細胞はCD7-であった(図2A)。この分析から、CD45RA発現がCD34+細胞にて最初の4日以内に上方制御され、6日目までにほぼ全てのCD34+CD7++細胞がCD45RAを発現することが示された(図2B)。このように、インビボで見られるような、胸腺定着性の表現型を示すCD34+CD7++CD45RA+細胞(Haddad et al., 2004; Haddad et al., 2006)の集団が、インビトロにおいて存在し、また胸腺再構築能を保有しうる。
【0110】
インビトロにおけるT細胞発生の逐次誘導の分子分析
ヒトHSC/OP9-DL1共培養物は、胸腺で認められたT細胞発生期と一致する細胞発現パターンを示したが、早期T細胞分化中のNotch依存的な遺伝子発現の正確な時間的動態(Izon et al., 2002; Radtke et al., 2004)は定義されていない。本発明者らは、OP9-対照(GFPのみ)またはOP9-DL1細胞と共培養されたHSC由来のGata-3、Deltex-1、Rag-1およびNotch-1転写産物の発現を調べた。図3Aに示されるように、Gata-3、Deltex-1、Rag-1およびNotch-1の発現は、OP9-対照共培養物と比べOP9-DL1において転写産物のレベル上昇の一般的傾向を示し、明らかな相違は14日目ごろに始まった。Gata-3発現は、早期T細胞特異化およびコミットメントにおけるその役割(Pai et al., 2003; Rothenberg and Taghon, 2005)と一致して、OP9-DL1共培養物において早期に差次的に誘導され、長時間にわたり安定的に増加した。公知のNotch誘導標的遺伝子Deltex-1 (Pear and Radtke, 2003)も、OP9-DL1共培養物において早ければ6日目に特異的に上方制御された。TCR遺伝子再構築に不可欠の遺伝子Rag-1 (Shultz et al., 2000)は、14日目までにOP9-DL1共培養物において差次的に上方制御された。最後に、Notch-1の発現は両方の共培養物において初めから終わりまで認められたが、Delta様誘導シグナル伝達の結果として明らかに上方制御された(Pear and Radtke, 2003)。
【0111】
上記の遺伝子発現動態はNotch/Delta様相互作用によるT系統分化の誘導と一致しているが、本発明者らは、特異的T細胞分化期に起こる遺伝子発現の変化をさらに正確に特徴付けようとした。この目的を達成するために、各サブセットが別個かつ逐次のT細胞発生期に相当する、CD7発現細胞のサブセットを分析した。図3Bに示されるように、40日目のOP9-DL1共培養物由来の、CD7発現細胞の発生的進行はCD34発現の消失およびCD1a発現の増加に基づき4期: CD34+CD7++CD1a-、CD34-CD7++CD1a-、CD34-CD7++CD1a++および最後にCD34-CD7+CD1a++へ経時的に順序付けることができる。これらのサブセット、ならびに系統対照としてUCBから選別したT細胞(CD3+)および骨髄性細胞(CD33+)を次に、Gata-3、Deltex-1、Rag-1、Notch-1、および骨髄特異的遺伝子Cebpα(Dahl et al., 2003)の発現について調べた(図3C)。Gata-3転写産物の上方制御は、CD7++細胞がCD34表面発現を失うにつれて明らかとなり、次期中は高いままであったが、次いで後期には低減し、これは以前の観察結果(Rothenberg and Taghon, 2005)と一致している。Deltex-1は、CD3+成熟T細胞またはCD33+骨髄性細胞のいずれかと比べた場合、CD7発現サブセットの各々において上方制御された。注目すべきは、Rag-1およびNotch-1転写産物の上方制御は、CD34-CD7++CD1a+期に最も顕著であり、pre-TCR複合体の産生および機能的結果におけるこれらの遺伝子の役割(Ciofani et al., 2004)と一致していた。予想通り、CD34発現が消失すると、CD7発現細胞はT細胞系統にさらに拘束されるようになり、これは、これらのサブセット内でCebpα発現の喪失が観察されたことに対応するものである。
【0112】
まとめると、ヒトHSC/OP9-DL1共培養物は時期および時間特異的な細胞署名および分子署名を示し、これによってTリンパ球産生の鍵となる特徴が反復されるだけでなく、ヒトT細胞の発生プログラムをさらに精査するための簡単かつ有効な方法も提供される。
【0113】
OP9-DL1細胞とともに培養したHSCからの機能的ヒトCD8 SP T細胞の作製
本発明者らは、ヒトHSC/OP9-DL1共培養物からCD4+CD8+ T系統細胞を作製できることを以前に報告した(La Motte-Mohs et al., 2005)が、機能的T細胞を作製できたかどうかは評価されなかった。これに取り組むため、本発明者らは、長期の共培養物を分析したが、図4Aは65日目の共培養物由来のDPおよびSPサブセットの両方の存在を示している。本発明者らは、これらの培養物に存在するCD8 SPサブユニットを、通常は成熟T細胞に発現されるCD3およびCD27の発現(Res and Spits, 1999; Vanhecke et al., 1995)についてさらに調べた。後期の共培養物に見られたSP CD8細胞(SP8)のなかで、約50〜60%がCD3/αβTCRを発現した。注目すべきは、CD3+ SP8の大部分はCD27を共発現することが分かった。さらに、CD27+CD3+ SP8はCD1a発現を欠くことも分かり、これは機能的な成熟を示唆するものである(Res et al., 1997)。これは、T細胞分化における前期に特有の、CD1aを発現し続けたCD27-CD3+ SP8とは対照的であった(Res et al., 1997)。
【0114】
インビトロで作製されたSP8の機能的状態について取り組むため、本発明者らは、CD3/TCR発現サブセットを選別し(図4B)、これらの細胞が下流の分化マーカーを上方/下方制御する、増殖する、細胞溶解性エフェクタ機能分子を発現する、および刺激後にγ-インターフェロン(IFNγ)を分泌する能力を有するかどうかを調べた。図4Cに示されるように、前方側方散乱(forward size scatter)に基づく芽球様の外観が非刺激(NS)細胞と比べて刺激(S)細胞において見られる。さらに、刺激細胞は非刺激細胞と比べて、CD45RO、CD38およびMHC-クラスII発現を上方制御し、CD27発現を下方制御した(図4B)。この複合表現型は活性化ヒトT細胞に特有であり(Holling et al., 2002; Ko et al., 1979)、完全なエフェクタ成熟およびより高い細胞溶解能と一致している(Hamann et al., 1997; van Baarle et al., 2002)。さらに、TCR刺激によって誘導される細胞増殖の程度について取り組むため、選別CD3+CD8+ T細胞にCFSEを負荷した。図4Cから、刺激細胞が非刺激細胞と比べてCFSEの喪失により示されるように多ラウンドの細胞分裂を起こし、増殖中の細胞が同様にCD25発現の著しい上方制御を示すことが明らかである。
【0115】
細胞溶解性/エフェクタ機能分子を発現するようにインビトロ由来SP8を誘導できるかどうかを判定するために、グランザイム-BおよびIFNγの発現を評価した。グランザイム-Bを発現できなかった非刺激細胞と比べて、刺激CD3+CD8+ T細胞のおよそ40%で細胞内グランザイム-B発現が検出された(図4D)。最後に、インビトロで作製されたSP8を含有するウェル由来の上清を、刺激後のIFNγの存在について分析した。図4Eに示されるように、刺激細胞由来の上清は非刺激細胞と比べて、IFNγの量の顕著な用量依存的増加を示した。
【0116】
CD34+CD38-およびCD34+CD3lo UCB細胞は高いTリンパ球新生能を示す
いくつかの研究によって、UCB-CD34+幹細胞プールがその再配置、分化および再生能の観点から不均質であるという証拠が提供されている(Guenechea et al., 2001; Hogan et al., 2002)。実際に、CD34+集団をCD38発現に基づいて異なるサブセットに細分画することができる(Guenechea et al., 2001; Hogan et al., 2002; Mazurier et al., 2004)。CD38-細画分には、より遅い生着動態で長期の再構築が可能な始源前駆体が含まれる(Hogan et al., 2002)。逆に、CD34+CD38loまたはCD38+/hiサブセット由来のUCB細胞は異なる特徴を示し、短期の再配置能で素早い骨髄-赤血球分化を引き起こす(Guenechea et al., 2001; Hogan et al., 2002; Mazurier et al., 2004)。しかしながら、これらの研究は、これらの異なるCD34+サブセット間のT系統能を有する前駆体の頻度について取り組んでいなかった。さまざまなUCB-CD34+サブセットのT前駆体頻度を決定するため、CD34+CD38-、CD34+CD38loおよびCD34+CD38+/hi細胞を選別し(図8)、OP9-DL1細胞を含有するウェルへ限定的な細胞数で配した。表Iに示されるように、CD34+CD38-またはCD34+CD38lo細胞は、それぞれ、4.8中1および3.9中1の類似の重複頻度でT系統細胞を生じたが、CD34+CD38+/hiサブセットは19中1と5倍近くに減少したT系統前駆体頻度を有していた。このように、CD34+CD38-およびCD34+CD38lo画分には、T系統細胞を生じうるいっそう高い頻度の細胞が含まれる。
【0117】
インビトロで作製されたプロT細胞は胸腺再構築能を示す
胸腺に生着するものと思われた最も初期の細胞は、CD45RAおよびCD7を発現するCD34+細胞として記述されている(Haddad et al., 2004; Haddad et al., 2006)。本発明者らは、HSC/OP9-DL1共培養物においてこの表現型を有する細胞が存在すること(図2)を示したが、これらの細胞が胸腺再構築能も有するかどうかは試験されていないままである。
【0118】
胸腺定着性の細胞表面表現型を共有するインビトロ作製細胞が胸腺に生着できるかどうかを試験するため、本発明者らは、ハイブリッドヒト/マウスFTOC手法(Fisher et al., 1990)を利用した。さらに、本発明者らは、CD5発現の有無に基づきCD34+CD45RA+CD7++CD1a-前駆体サブセットをさらに精査した。その結果、図5Aに示されるように(およびデータ記載せず)、これらの細胞のおよそ45%にCD5が発現している。これらのT前駆体サブセットが宿主胸腺内で生着かつ分化する能力を有するかどうかを判定するため、CD5-またはCD5+のいずれかであるCD34+CD45RA+CD7++CD1a-細胞(以後、それぞれプロT1およびプロT2という)を13日目のHSC/OP9-DL1共培養物から選別し、19日間FTOCに置いた(図5B)。さらに、同じサブセットをOP9-DL1細胞上に戻し(図5C)、その発生を、FTOCで起きたものと比べた。
【0119】
図5Bに示されるように、プロT1およびプロT2サブセットは両方ともFTOCに成功裏に生着し、その子孫はヒトCD45発現に基づき、胸腺葉に存在するほとんど全ての細胞(>95%)を占めた。さらに、再構築されたFTOCには、プロT1またはプロT2サブセットのいずれかに由来するT細胞が含まれていた。投入プロT1細胞は当初CD34+CD7+CD5-であったが、生着した胸腺葉内のほとんど全ての細胞がCD34-CD5+CD1a+ T系統細胞に分化しており、67%がまたCD4およびCD8を共発現し、2〜16%がCD8またはCD4のどちらかを発現し、これらの大部分がCD4ISPであった(データ記載せず)。同様に、当初はCD5を発現していたプロT2細胞も、T細胞を生じたが、DP細胞の頻度の増加(93%)を伴った。この相違はプロT2細胞のその後の分化状態に関わる可能性があり、これは図21において実証されるように、精製プロT1細胞は24時間以内にプロT2表現型を有する細胞を生じ、これらの細胞の大部分が48時間までに次の期に達した。さらに、精製プロT2細胞は、プロT1表現型を有する細胞を生じなかった。プロT1からプロT2への前駆体・産物の関係は、プロT2細胞ではなく、プロT1細胞を播種したFTOCに残存するほんのわずか(4%)のCD34+CD7++細胞の存在によってさらに浮き彫りになる。これと一致して、OP9-DL1細胞上に戻したプロT1細胞は同様に、CD34+CD7++前駆体集団の存在を示し、これはプロT2培養物には存在しなかった(図5C)。それにもかかわらず、プロT1細胞もプロT2細胞も、これらの共培養物でT系統経路に沿って分化し続ける類似の全般的能力を示し、CD1a+およびCD4/CD8発現細胞を生じた。
【0120】
プロT1およびプロT2細胞は、NK系統能を同様に保有することが示されたヒト胸腺に見られる細胞と類似の前駆体表現型を共有するので、本発明者らは、これらのサブセットからNK細胞を同様に作製できるかどうかについて取り組んだ。これと一致して、本発明者らは、インビトロ由来プロT1およびプロT2細胞がIL-15を補充して、OP9-対照細胞上で培養された場合にNK細胞を生じることを確認した(図22)。これらの結果は、CD34+CD7++胸腺細胞サブセット内の二重T/NK能を有する細胞の存在を実証する研究(Sanchez et at., 1994; Spits et al., 1995)と一致している。注目すべきは、プロT1細胞もプロT2細胞も、OP9-DL1細胞上での培養時にNK細胞を生じるどころか、それらはT細胞経路に沿って分化し続けた(図22)が、これは、代替の系統結果を阻害しながらT系統へのコミットメントを維持するうえでのNotchシグナル伝達の公知の役割と一致している。さらに、メチルセルロースアッセイ法を行って、インビトロで作製されたプロT細胞が赤血球系統、骨髄系統および顆粒球系統を生じる能力について試験した(表III)。選別されたCD34+ UCB-HSCは全ての系統に対するコロニーを産生したが、インビトロで作製されたプロT細胞は、プロT2細胞から赤血球への潜在性がないことを含めて、非リンパ様コロニー形成能の顕著な低減を示し、リンパ様潜在性を有利に獲得するのとともに別の系統結果を生じるその能力が低下していることをさらに浮き彫りにした。
【0121】
プロT1細胞もプロT2細胞もT細胞を生じうるが、これらのサブセットに宿主胸腺を再構築するのに類似の前駆体頻度が含まれたかどうかは不明のままであった。これに取り組むため、選別されたプロT1およびプロT2細胞を7日間FTOC中にまたはOP9-DL1細胞上に限定的な細胞数で配し、ヒトT系統細胞の存在についてフローサイトメトリーにより分析した。表IIに示した結果から、プロT2サブセットがプロT1細胞のものよりも3倍高いT系統生着頻度(それぞれ1:400および1:1400)を示したことが実証される。この相違が細胞固有であったかどうかをさらに調べるため、これらのサブセットのT前駆体頻度をOP9-DL1細胞での限界希釈アッセイ法で判定した。注目すべきは、およびFTOCで観察された前駆体頻度とは対照的に、共培養物からの結果により、両プロTサブセットが類似のかつ高い(およそ1:2)前駆体頻度を有することが明らかになった(表II)。
【0122】
これらの観察結果に照らして、OP9-DL1単層上でのアッセイ時には同様に高いT細胞前駆体頻度を普通なら示すヒトプロT細胞は、インビトロにおいてマウス胸腺葉に生着する能力の相違を有するものと思われるが、これは胸腺内での侵入およびニッチ占有状態に重要な分子の発現の相違に関連している可能性がある。観察された生着能の相違について考えられる機構を定めるために、本発明者らは、胸腺帰巣または侵入に関連する遺伝子の発現についてQ-PCRにより分析を行った(Arroyo et al., 1996; Benz and Bleul, 2005; Goldschneider, 2006; Hirsch et al., 1996; Lai and Kondo, 2007; Rossi et al., 2005; Schwarz et al., 2007)。図6Aは、プロT2細胞がCCR9 (CD199)、PSGL-1 (CD162)、CD49b (α2インテグリン)、CD49d (α4インテグリン)およびCD49e (α5インテグリン)のいっそう高い転写産物レベルを発現することを示している。プロT2細胞ではCD29 (β1インテグリン)について発現上昇の類似の傾向が観察された。さらに、これらのサブセットのフローサイトメトリー分析から、プロT2細胞がプロT1細胞よりも高いレベルのCD49dを発現することが確認された(図6B)。これらのデータは、プロT2細胞サブセットによる胸腺侵入の促進での重要な立役者としてCCR9およびPSGL-1のほかに、胸腺間質細胞に発現されるVCAM-1 (CD106)に結合するCD49d/CD29ヘテロ二量体も挙げている以前の所見(Arroyo et al., 1996; Hirsch et al., 1996)と一致している。
【0123】
免疫不全マウスに注射されたインビトロ作製プロT細胞は、インビボで胸腺再構築能を示す
OP9-DL1細胞において作製されたヒトプロT細胞がFTOCでのアッセイ時にインビトロで胸腺再構築能を示しえたという本発明者らの所見から、ヒトプロT細胞がインビボでのアッセイ時に胸腺再構築能を同様に示す可能性が示唆された。インビトロで作製された前駆T細胞がインビボでT細胞区画を効果的に再構築できるかどうかを確かめるため、本発明者らは、ヒトCD34+ CB由来細胞の生着を支持することが報告されている(Gimeno et al., 2004; Hogan et al., 1997; Traggiai et al., 2004)二種の免疫不全マウス系統(非肥満糖尿病/重症複合免疫不全(NOD/SCIDγc-/) (Greiner et al., 1998; Ito et al., 2002; Kollet et al., 2000; Shultz et al., 1995; Vila-Coro et al., 2000)マウスおよびRAG2欠損、γ鎖(γc)欠損(RAG2-/-γc-/-) (Goldman et al., 1998; Mazurier et al., 1999)マウス)を利用した。
【0124】
図11に見られる通り、OP9-DL1共培養由来バルクヒト前駆T細胞(CD34+CD7+)を肝内注射されたRAG2-/-γc-/マウスは、ヒトCD45を発現した異なるリンパ球集団の発現から明らかなように、早ければ注射からおよそ3週後に胸腺内でのヒト造血生着能を示した。ヒトCD34+幹細胞またはモックPBS対照を肝内注射されたRAG2-/-γc-/マウスの胸腺内でそれほどではないにせよリンパ球集団を検出することができたが、これらのリンパ球がヒトCD45を発現していなかったことから、これらの細胞がマウス由来であったことが示唆された。バルクプロT細胞を注射したRAG2-/-γc-/マウスのさらなる分析によって、ヒトCD45+を発現している胸腺細胞は、T細胞発生と一致する表現型を示した(図12および13)。全般的な細胞充実性の相違がプロT細胞を肝内注射した二匹のRAG2-/-γc-/マウスの間で顕著であったが、CD45+ゲーティング胸腺細胞の大多数はCD7、CD5およびCD1aのようなT細胞分化の初期マーカーを発現した(図12)。具体的には、およそ95%の胸腺細胞がCD7およびCD1aを共発現していたことから、プロT細胞は、その投入表現型を維持するのではなく、T細胞系統に効率的にコミットされていたことが示唆された。さらに詳しい試験によって、これらのCD45+ゲーティング胸腺細胞は、CD4、CD8およびCD3のようなT細胞分化のさらに確定的なマーカーも発現した(図13)。はるかに大多数のこれらの細胞がCD4+CD8+二重陽性(DP)表現型を示し、CD3陽性およびCD3陰性集団に分けられることができた。
【0125】
PBS対照を注射したRAG2-/-γc-/マウスは第二の実験においてヒトCD45+細胞を自発的に産生しなかったが、RAG2-/-γc-/マウスにヒトCD34+造血幹細胞を高い用量で肝内注射した場合にはわずかなしかし検出可能な割合のヒトCD45+細胞が存在していた(図14)。先の実験(図11)と一致して、バルクプロT細胞を注射したRAG2-/-γc-/マウスには豊富なCD45+胸腺細胞集団が存在していた(図14)。さらに詳細に調べると(図15)、CD34+ HSC注射RAG2-/-γc-/マウスでもCD34+CD7+プロT注射RAG2-/-γc-/マウスでも大多数の胸腺細胞がCD4とCD8の両方を発現していた。単一陽性CD8を3週の時点でプロT注射マウスにおいて検出できたが、CD34+ HSC注射マウスでは検出できず、大多数の単一陽性細胞がCD4を発現していたことから、それらがCD4中間型の単一陽性細胞(CD4-ISP)または真性のCD4-SP細胞のどちらかでありうることが示唆された。高レベルのCD3を発現したCD45+細胞をその発現について調べると、CD4およびCD8 SP細胞の両方を検出できたことから、再構築されたRAG2-/-γc-/マウス胸腺のなかに存在するCD4細胞の大部分がCD4-ISP細胞であって、CD4-SP細胞ではないことが示唆された。CD4およびCD8 SP細胞を欠いていた、CD34+ HSC注射マウスとは対照的に、プロT注射マウスは3週の時点でさらにかつより効率的に分化した。
【0126】
胸腺再構築能を示すプロT細胞の能力もマウスNOD/SCIDγc-/系統(Greiner et al., 1998; Ito et al., 2002; Kollet et al., 2000; Shultz et al., 1995; Vila-Coro et al., 2000)において評価した。図16に示されるように、CD34+HSCではなく、OP9-DL1共培養物由来のバルクヒト前駆T細胞(CD34+CD7+)を肝内注射したNOD/SCIDγc-/マウスは、その胸腺内でヒトCD45+細胞を発現し、そのうちの大多数がCD5、CD7およびCD1aの発現によって明らかなように早期T細胞表現型を示した。胸腺細胞にコミットされたこれらの発生中のT細胞の70%超がCD4をその細胞表面に発現したのに対し、CD4陽性細胞のおよそ2〜20%がCD8を共発現したことから、CD4-ISP細胞がDP期へと移行していたことが示唆された。まとめると、プロT細胞は二種の免疫不全マウス系統に生着することができる。
【0127】
マウス胸腺をインビトロで再構築する実験から、プロT2サブセットはプロT1細胞のものよりも3倍高いT系統生着頻度(それぞれ1:400および1:1400)を示すことが示唆されたが、インビボで同様の結果が観察されるかどうかは定められていないままであった。本発明者らは免疫不全マウスに生着するバルクCD34++CD7++の能力を実証したので、本発明者らは、インビボでの胸腺再構築の閾値を目的に各プロTサブセットの能力について試験した。細胞を選別し、プロT1細胞またはプロT2細胞のどちらかを、バルクプロT細胞が使われた過去の実験で使われたよりも、それぞれ、10〜25倍低い細胞数である細胞2.5×104または1×104個で個々の新生仔マウスに注射した。注射から3週後に、マウスの胸腺を収集し、生着について分析した。表4に要約した結果から、細胞2.5×104個を注射した場合にプロT2細胞がプロT1細胞よりも高い生着頻度(38% vs 14%)を有していたことが明らかである。さらに、細胞1×104個しかマウスに注射しなかった場合に、本発明者らは両サブセットの生着を認め、プロT2細胞はまた、そのさらに未成熟な対応細胞よりも高い胸腺生着頻度を示した。
【0128】
免疫不全マウスにヒトHSCと同時注射されたインビトロ作製プロT2細胞は、HSC由来の胸腺細胞増殖を増強する
図14および15に示されるように、プロT細胞はRAG2-/-γc-/およびNOD/SCIDγc-/マウスの胸腺に生着し、その胸腺を再構築しうる。さらに、本発明者らは、CD34+ HSCがより低いまたは無視できる程小さい生着能を示したことに留意し、かくして本発明者らは、HSC由来細胞が寄与するT系統再構築に、インビトロで作製されたプロT2細胞とHSC (異なるドナーに由来する)との同時注射がプラスに影響を与えうるかどうかを定めようとした。この目的を達成するために、ヒトUCB CD34+CD38-/lo(HLA-A2-)細胞を10〜12日間OP9-DL1細胞上で分化させ、CD34+CD7++CD5+ (プロT2)細胞をフローサイトメトリーによって選別した。臍帯血由来のCD34+CD38-/lo(HLA-A2+)細胞も選別した。同じ同腹仔由来の放射線照射(130ラド)新生仔NOD/SCID/γc無マウスを3群に分け、それらにHSC 3.5×104個、プロT2細胞2.5×105個、またはプロT2細胞2.5×105個と混ぜてHSC 3.5×104個を肝内注射した。注射後6週の時点で、本発明者らは、BM中のヒト細胞の存在を探し(図23A)、HLA-A2細胞表面発現に基づいてドナー細胞の起源を追跡することができた。本発明者らは、HSCのみを注射した、またはHSCとプロT2細胞の両方を受けたマウスのBM中でのヒトCD45+HLA-A2+細胞の存在を認めた。この集団は、HSCから産生された細胞(HLA-A2+)に対応し、したがって、この表現型を有する細胞は、プロT2細胞のみを注射したマウスでは認められなかった。HSC由来CD45+HLA-A2+のさらなるゲーティングにより、これらの細胞がB細胞系統(CD19+)に主に属し、これらのうちのより少ない割合のものが骨髄系統細胞(CD33+)であることが明らかになった。具体的には、HSC注射マウスにおいてこれらの系統は、それぞれ85%および8.5%であり、HSCおよびプロT2細胞を同時注射したマウスの両方でよく似た割合を認めた。図23Bは、HSCに由来するヒトB細胞および骨髄細胞を脾臓において見出せたことを示す。注目すべきは、BM生着の場合も脾臓生着の場合も、本発明者らはプロT2細胞を同時注射した場合にHSC由来系統に対する増強または喪失を認めなかった; またこれらの部位にはプロT2由来の細胞がほとんどまたは全く見られなかった。対照的に、HSC由来のTリンパ球産生はインビトロ作製プロT2細胞との同時注射によって劇的に改善した。図23CはCD45およびHLA-A2に対する細胞表面染色を示し、ここで、HSCのみを注射したマウスでは(図16に示した結果に基づいて予想されるように)胸腺中で極端に低い割合のヒト細胞が示された。しかしながら、同時注射マウスではCD45+HLA-A2+ (HSC由来)細胞の割合の劇的な300〜1000倍の増加があった。さらに、同時注射マウスはまた、プロT2由来(CD45+HLA-A2-)の細胞に対応した細胞の割合が大きく(18%および71%)、予想通り、この集団は、HSCのみを受けたマウスでは認められなかった。同時注射マウスにおけるCD45+HLA-A2+およびCD45+HLA-A2-細胞のさらなる分析から、CD3発現の増加およびDP T細胞の割合の増加(両マウスで85%超)を示したプロT2由来細胞と比べてHSC由来細胞が少ないCD3hi細胞(7%および27%)ならびに減少した割合のCD4+CD8+ DP (12%および58%) T細胞を含むことが明らかとなった(図23D)。HSC由来細胞によるそのT系統分化動態の遅延は、インビトロで作製されたプロT2細胞と比べて、注射時点でのそのいっそう未成熟かつ未発達な状態と一致している。
【0129】
考察
ヒトT細胞発生の早期は何人かの研究者らによって広く定義されている(Blom and Spits, 2006; Weerkamp et al., 2006c)。この点で、本発明者らは単純かつ強力なインビトロ系を利用して、T細胞発生の早期を容易に特徴付けることができる、OP9-DL1細胞とともに培養されたヒトUCB-HSCの分化を調べることによりこの考え方をさらに精緻化した。早期および後期時点の時間的動態分析によって、本発明者らは、CD34、CD45RA、CD7、CD5、CD1a、CD2、CD4、CD8およびCD3の逐次的な細胞表面発現が浮き彫りにする発生期の規則的パターンを識別することが可能になった。
【0130】
OP9-DL1系はヒト胸腺細胞の分化期を反復するが、本発明者らは、一部の早期CD34+胸腺細胞上におよび骨髄中に見られるCD34+細胞において発現されることが報告されている(Haynes and Heinly, 1995; Haynes et al., 1988; Terstappen et al., 1992) CD2の発現に関する一つの相違に留意した。本発明者らは、CD34発現を下方制御していた細胞上に低レベルでのみCD2発現を認め、高いCD2発現はもっと後の発生期でのみ見られた。これらの相違に関する一つの可能性は、胸腺内でのこの早期表現型を有するCD34+細胞の蓄積、または全ての胸腺細胞上にCD2の発現を通常は誘導するシグナルがインビトロにおいては欠けているかもしれないということでありうる。
【0131】
本発明者らの研究室などによる初期の所見は、Dll1を異所的に発現している間質細胞との共培養によってUCB-CD34+細胞をT細胞運命に分化誘導できることを明らかに示している(Jaleco et al., 2001 ; La Motte-Mohs et al., 2005)。しかし、いくつかのグループは、CD34+集団がその自己再生能、生着および潜在的な系統性に関して異質であることを実証している(Byk et al., 2005; Guenechea et al., 2001; Kollet et al., 2001; Mazurier et al., 2004)。このことを念頭に置いて、本発明者らは、特異的CD34+サブセットがT細胞前駆体として働くその能力の点で異なっていたかどうかについて調べた。さらに、Hoganらは、CD34+CD38-プールには潜在的なT細胞性を有する高い頻度の細胞が含まれることを示唆しているが、これは、この画分を生着されたNOD/SCIDマウスがCD34+CD38loまたはCD38+/hi細胞を受けた動物と比べて高い胸腺再生を示したからである(Hogan et al., 2002)。これと一致して、本発明者らの結果は、CD38+/hi画分が、驚くべきことに類似のT前駆体頻度を示した、もっと未発達なCD38-またはCD38loサブセットよりも顕著に5倍低い潜在的なT細胞性を有することを示唆した。これらのCD34+CD38-またはlo細胞による同程度の前駆体頻度は、CD38が負のレベルと低いレベルの間で可逆的に発現されることを示唆している報告(McKenzie et al., 2007)によって説明することができる。
【0132】
Tリンパ球産生を誘導するためのNotchシグナル伝達の重要な役割は、現在では十分に確立されている(Ciofani and Zuniga-Pflucker, 2007; Pear and Radtke, 2003)。この点で、本発明者らは、Notch標的遺伝子の誘導が最初に上方制御されるT細胞発生期を同定した。これらの時期は、CD34+細胞がCD7を高いレベルで発現し始める時に相当し、CD34発現の喪失後にはさらなる誘導をいくらか伴う。本発明者らの所見は、UCB-CD34+CD7発現細胞がリンパ球様系統に強く傾斜しており、ほとんど潜在的な骨髄性のないことを実証しているいくつかの研究によって支持される(Haddad et al., 2004; Hao et al., 2001; Hoebeke et al., 2007)。これらの知見は、T細胞特異化が1週間以内で、早期に起こるという考えと一致しており、それゆえ、これらのNotch誘導性のCD34+CD7++細胞はT前駆体頻度の増大を示す可能性が高いであろう。実際に、本発明者らの結果から、Notch/Delta様の相互作用に続いて、CD34+CD7++細胞は初期のUCB-CD34+CD7-細胞よりも2倍高いT前駆体頻度を示すことが示唆された。これらの所見から、HSC/OP9-DL1共培養物が、胸腺定着細胞と同種でありうる、T細胞前駆体の作製を容易に支持することが示唆された。
【0133】
胸腺常在性の前駆体は自己再生能を保有していないので、胸腺には血液媒介性の前駆体が継続的に播種されるということが十分に確立されている(Donskoy and Goldschneider, 1992)。Haddadらによる研究(Haddad et al., 2006)は、胸腺定着細胞がCD34+CD7++CD45RA+を発現することを提唱した。類似の表現型を有する細胞がHSC/OP9-DL1共培養物において検出され、この点で本発明者らは、これらの細胞が胸腺定着細胞として働くことができたことを示す。さらに、本発明者らは、プロT1細胞(CD5-)およびプロT2細胞(CD5+)と名付けられた、CD34+CD7++CD1a-集団内の二つの異なる前駆体サブセットの存在に気付いた。どちらのサブセットも胸腺再構築の能力があるが、しかし、限界希釈アッセイ法で用いられた場合、本発明者らは、インビトロにおいて宿主胸腺に生着するその能力の劇的な相違を認め、より成熟なプロT2細胞がプロT1細胞よりも3倍高い前駆体頻度を示した。対照的に、OP9-DL1細胞にてアッセイされた場合、どちらのプロTサブセットも統計的に類似した前駆体頻度を示し、これはまた、FTOCにおいて認められたものよりも劇的に(200〜600倍)高かった。これらの所見から、普通なら高い潜在的T細胞性を保有するヒトプロT細胞は、その生着有効性を大幅に低下させる、マウスFTOC系に存在する異種間障壁の影響を受けることが示唆される。さらに、本発明者らは、プロT2細胞が示す生着能の増強で考えられる機構をもたらすように働く、CCR9、PSGL-1および複数のインテグリンの発現という点でこれらのプロTサブセットが異なることに留意した。プロT2細胞によるこれらの分子のいっそう高い発現レベルは、そのより未成熟な状態と一致する、プロT1サブセットにおいてCebpαおよびGata-2の転写産物レベルが高かったという点で、特異的であった(図9)。
【0134】
HSC/OP9-DL1共培養はヒトT細胞発生における前駆体機能または早期事象を特徴付けるのに役立つだけでなく、インビトロでの機能的T細胞の作製のための簡単な方法を提供することもできる。この手法は、目下、T細胞エフェクタ-機能を十分に生かして抗腫瘍根絶免疫を誘導/増強する細胞に基づく免疫療法に適応可能でありうる(Rosenberg et al., 2008)。実際に、本発明者らは今回、HSC/OP9-DL1共培養から作製された機能的に反応性のSP8の成熟に関する明らかな証拠を提供する。これは、培養物内の、どの細胞型がMHC依存的なSP8陽性選択を媒介するのかという問題を提起する。ヒトCD8分子によって効果的に認識されないマウスMHCクラスI (Irwin et al., 1989)を発現するOP9細胞が、必要とされる陽性選択シグナルを供給する可能性は低い。むしろ、T系統細胞であってもそうでなくてもよい、ヒトMHCクラスIを発現するUCB由来細胞がこれらのシグナルの運搬体である可能性が高い。さらに、本発明者らはまた、ヒトMHCクラスII発現細胞によって同様に選択できた、CD3+CD4+ T細胞の見掛けに留意した(図4Aおよび4B)。しかしながら、SP8とは対照的に、これらの細胞は機能的な成熟T細胞の特徴を示さず(データ記載せず)、これらの培養物において容易に利用可能ではないさらなる分化シグナルを要する移行細胞に相当しうる。
【0135】
ヒトHSC/OP9-DL1培養物はDP細胞の健全かつ持続的な増殖を示し、培養で4ヶ月まで継続してまたは4ヶ月を超えて継続して観察することができた(図10)。CD4+CD8+ DP細胞は短命であることが公知であり(Shortman et al., 1990)、かくして、これらの遅い時点でのその存在から、前駆細胞が維持され、この集団を維持することが示唆される。注目すべきは、本発明者らは、これらの遅い時点でCD34+プロT細胞の集団を検出することができるが、これらの細胞が初期の前駆体の大きなプールからまたはこれらの培養物において自己再生および増殖する能力から長時間にわたって持続するかどうかは不明である。一つの可能な機構では前駆細胞サブセットの維持または長期の自己再生にNotchシグナルを要するものと考えられる(Karanu et al., 2000; Karanu et al., 2001; Varnum-Finney et al., 1998)が、しかしこの考えはまだ直接調べられていない。
【0136】
本発明者らの所見は、CD5を発現するCD34+CD7++ T前駆体がFTOCに生着するその能力において、そのCD5陰性の対応細胞よりも高い前駆体潜在性を保有することを実証する。この分析から得られた見識により、これらのCD5+プロT2細胞は、マウスモデルにおいてその免疫再構築能を評価するためのさらなる研究にとって魅力的なサブセットになる(Legrand et al., 2006)。さらなる分析によると、ヒト臍帯血HSCから誘導されたおよびOP9-DL1共培養系を利用してインビトロで作製されたバルクCD34+CD7++ T前駆体は、二種の免疫不全マウスモデルにおいて胸腺再構築の能力がある(図11〜16)。これらの胸腺細胞は、その細胞表面上のCD7、CD5、CD1a、CD4およびCD8の発現を通じてコミットされたT系統細胞の特徴サインを持つ。前駆T細胞の肝内注射から3週後の時点でヒト胸腺細胞の大多数がCD4 CD8二重陽性細胞であるが、ゲートをかけたCD45+CD3hi細胞のなかでわずかな割合のCD4単一陽性細胞およびCD8単一陽性細胞を検出することができる。これらの単一陽性細胞は脾臓のような末梢器官にまだ現れていない(データ記載せず)ことから、マウス胸腺内の間質成分および/または前駆T細胞に由来するヒト抗原提示細胞によって始まる陽性および陰性選択がまだ起きておらず、かくして、胸腺からの輸出には時期尚早であることが示唆される。本発明者らのデータはまた、ヒトCD34+ HSCが免疫不全マウス系統への肝内注射後に胸腺再構築も示すことを実証し、GimenoらおよびTraggiaiらによる過去の報告(Gimeno et al., 2004; Traggiai et al., 2004)と一致している。本発明者らの手中では、CD34+ HSC由来の胸腺再構築能は、CD34+CD7+バルク前駆T細胞由来の胸腺再構築能よりも効率かつ頑強ではないように思われる。この知見を説明するのに、二つのかつ必ずしも相互に排他的ではない可能性を提案することができる。一つのシナリオでは、亜致死量放射線照射はRAG2-/-γc-/-二週齢新生仔の骨髄を適当な状態にして、HSC細胞生着を許容するように要求されない{Gimeno, 2004 #1087}が、ヒトの胎児肝臓および骨髄においてHaddadらにより報告され検出された骨髄生着およびその後の胸腺定着細胞の産生を促進することができる(Haddad et al., 2004; Haddad et al., 2006)。それゆえ、そのような細胞は、これらの細胞が定着する免疫不全マウスへのヒトHSCの生着および宿主胸腺内でのヒトT細胞系統細胞への分化によって産生されることはもっともらしい。あるいは、胸腺定着細胞は、CD34+CD38-/lo表現型によって選別される不均一集団内に限定的な数で存在しているのかもしれない。どちらのシナリオでも、ヒトHSCはヒトバルク前駆T細胞と比べて胸腺再構築能の動態遅延を示すものと考えられる。
【0137】
さまざまな血液学的障害の処置のために自家移植のまたは同種異系間の造血幹細胞移植(HSCT)を受けた患者は、HSCT後にT細胞回復の深刻な欠陥を示すことが立証されている。移植後数週間以内にレベルが回復する造血細胞の大部分とは対照的に、T系統の回復は2年までの間、細胞数も機能も損なわれ、または決して回復しえない(Fry and Mackall, 2005)。この遅延または欠如は、免疫機能の障害を引き起こし、感染または再発に対する感受性の増大と関連している。マウス前駆体を用いるVan den Brinkのグループが公開している手法(Zakrzewski et al., 2006a)と同様に、本発明者らの結果は、インビトロで作製されたヒトプロTまたはプロT2細胞がHSC由来のTリンパ球産生を劇的に改善したことを実証しており、これは実際に、HSCのみを受けたマウスでは通常認められなかった(図23)。さらに、インビトロで作製されたプロT細胞とHSCとの同時注射は、HSC由来の骨髄造血またはBリンパ球産生に影響を与えなかったことから、HSC由来のT細胞の作製に対する標的効果が示唆された。この効果について考えられる機構は、骨髄から胸腺へのHSC由来T前駆体の移動および動員の増強をもたらしうるサイトカインおよびケモカイン産生のような、間質細胞の細胞充実性および機能の改善をもたらす、T系統と胸腺間質細胞との間の細胞クロストークを伴った、宿主胸腺ニッチの素早い回復によるものでありうる。観察結果に対する別の説明は、HSCが骨髄を迂回するのを、および胸腺に速やかに侵入するのをプロT細胞に付着することによって可能にする注射時のプロT細胞の直接的な「抱き合わせ」であるとすることができる。
【0138】
まとめると、本発明者らのデータは、造血幹細胞手法に合わせてまたは造血幹細胞手法なしで前駆T細胞を利用することにより免疫不全の処置に向けて素早い免疫再構築を促進できることを示唆している。そのような手法を調整しまたは遺伝子操作し、多数の、本明細書において記述される前駆T細胞およびその子孫細胞を作製して、がん化学/放射線療法計画およびHIV感染が誘発する免疫不全を処置してもよく、あるいは自己免疫の抑制のために適切な免疫機能および調節を回復してもよい。
【0139】
実際に、インビトロ由来の前駆T細胞の使用は、これらの細胞が宿主胸腺内で陽性および陰性選択を受けているはずなので、移植片対宿主病のような問題を回避することにより成熟なエフェクタT細胞よりも治療的に適切であると分かりうる(Zakrzewski et al., 2006b)。次に、インビトロで作製されたT前駆細胞は、これらの細胞が多数作製され、免疫不全個体での適応免疫の回復に向けて新規の戦略を開発可能にすることができるので、細胞に基づく治療法に対する実行可能な選択肢として最終的には役立ちうるものと推測することが可能である(La Motte-Mohs et al., 2007; Zakrzewski et al., 2008)。
【0140】
実施例9 前駆T細胞はOP9-DL4細胞上での共培養後に産生される
材料および方法
選別されたヒト臍帯血由来のHSCを既述のように、OP9-対照細胞、OP9-DL1細胞またはOP9-DL4細胞上に配し、組み換えヒトサイトカインFlt-3L (5 ng/ml) (R&D Systems, Minneapolis, MN)およびIL-7 (5 ng/ml) (Peprotech, Rocky Hill, NJ)の存在下で24日または40日間共培養した。共培養24日目に、発生中の細胞を以下のヒト抗体とともにFACS緩衝液(ハンクス平衡塩類溶液(HBSS) 1× - フェノールなし、Ca2+なしMg2+なし、ウシ血清アルブミン(BSA) 1.0%およびアジ化ナトリウム0.05%)中で染色した: PE-CD4 [クローンRPA-T4]、FITC-CD8 [クローンRPA-T8]、PE-CD7 [クローンM-T701]、APC-CD1a [クローンHI149]、ビオチン-CD5 [クローンUCHT2]、FITC-TCR-αβ[T10B9.1A-31]、FITC TCR-γδ[B1.1]、APC-CD3 [UCHT2]、PE-TCRvβ3 [JOVI-3]、PE-TCRvβ5 [MH3-2]、PE-TCRvβ8 [JR2]、PE-TCRvβ12 [S511]、PE-TCRvβ23 [AHUT7] (全てBD-Pharmigen, San Jose, CAから購入した)、および適切なアイソタイプ対照に対するビオチン-プレTa (Dr. Maria Louisa Toribioからの寄贈品)。インキュベーション後、細胞を洗浄し、ビオチン標識細胞一次抗体に対するFITC-ストレプトアビジン(SAv)およびAPC-SAv二次試薬(同様にBD Pharmigenから購入した)のどちらかで染色した。2回目のインキュベーションおよび洗浄の後、細胞を、ヨウ化プロピジウム(0.2 μg/ml)を含有するFACS緩衝液中で再懸濁し、FACSCalibur (BD-Biosciences)フローサイトメーターに流した。データ分析はFlowJoソフトウェア(Tree Star, Ashland, OR)を用い生リンパ球のゲーティングおよびヨウ化プロピジウムの取り込みの欠如によって行った。GFP発現性OP9間質細胞はGFP発現および側方散乱によるゲーティングを通じて除外した。この手順によって、混入しているGFP発現性OP9間質細胞の99%が除外された。四分画領域の角の数値はゲート細胞の割合を表す。
【0141】
結果
OP9-DL1細胞は健全なT細胞発生を支持し、前駆T細胞および二重陽性T細胞の両方を産生した(図17、18および20)ので、本発明者らは、Notch 1受容体に対するさらに強力な親和性リガンド(Besseyrias et al., 2007) Delta様-4を発現するように形質導入されたOP9細胞(OP9-DL4細胞)がT細胞系統への臍帯血由来HSCの分化を支持することもできたかどうかを判定するための研究に着手した。
【0142】
図17に見られるように、OP9-対照細胞ではなく、OP9-DL1またはOP9-DL4細胞上で共培養されたヒトHSCは、共培養24日目の後にCD4 CD8二重陽性T細胞を産生した。具体的には、二重陽性T細胞は、それぞれOP9-DL4またはOP9-DL4細胞上での共培養時にリンパ球集団のおよそ15〜30%を占有し、CD4中間型の単一陽性期(ISP)を進行した。二重陽性T細胞が出現し始める、このT細胞発生期に、T細胞の生存および増殖の進展に関わる重要な分子であるプレTαの発現(Carrasco et al., 2002)も、OP9-対照共培養物ではなく、OP9-DL1およびOP9-DL4共培養物中でCD4陽性細胞およびCD4陰性細胞に対して明らかであった。プレTαの発現がCD4陽性細胞にもCD4陰性細胞にも認められたので、本発明者らは、CD5を発現した前駆T細胞集団(プロT1)またはCD5を欠いた前駆T細胞集団(プロT2)が明示されうるかどうかを判定するためのさらなる研究に着手した。図18は、OP9-対照共培養物ではなく、OP9-DL1およびOP9-DL4共培養物が、三つの集団CD7+CD1a++ (より成熟なT細胞)、CD7++CD1a+ (コミットされたT細胞)およびCD7++CD1a- (規定された前駆T細胞)に分類できるT系統の細胞を産生することを示す。CD5は、T細胞マーカーとしてのその役割と一致して、CD7+CD1a++およびCD7++CD1a+にほぼ遍在的に発現される。対照的に、前駆CD7++CD1a-細胞は、CD5発現の有無によって二つの集団、それぞれプロT1細胞およびプロT2細胞に分類することができる。
【0143】
OP9-DL1共培養物もOP9-DL4共培養物も前駆T細胞およびより分化したその子孫細胞を産生したので、本発明者らは次に、継続的共培養が、TCRαβまたはTCRγδを発現するT細胞の出現をもたらしうるかどうかを判定するための研究に着手した。図19は、TCRαβ-またはTCRγδ-発現細胞はゲートをかけたCD7++CD1a- CD7++CD1a+のなかで検出できるが、TCRを持つどちらのサブセットもさらに成熟なCD7+CD1a+において増大されることを示す。発生中のTCRαβが異なるVβ領域を利用したかどうかを判定するために、OP9-対照、OP9-DL1およびOP9-DL4共培養物由来の発生中のT細胞をCD3およびいくつかのVβ領域に対して染色した。図20で図解されるように、OP9-DL1共培養物およびOP9-DL4共培養物由来の発生中の細胞には、CD3発現細胞を欠いていた、OP9-対照共培養物と比べてCD3発現細胞が含まれていた(それぞれおよそ38%およびおよそ13%)。さらに、複数のVβ利用がアイソタイプ対照と比べて、OP9-DL1共培養物において、およびそれほどではないにせよOP9-DL4共培養物においてCD3発現細胞に認められた。具体的には、フローサイトメトリー分析によって調べたVβのうち、V 3およびV 5の発現が最も容易に検出された。まとめると、これらの結果は、OP9-DL4細胞が、さらに分化してより成熟なT細胞を生じうる、前駆T細胞サブセット: プロT1およびプロT1細胞を産生するその能力でOP9-DL1細胞と同様に振る舞うことを示す。
【0144】
考察:
OP9-DL4細胞がOP9-DL1細胞のように、前駆T細胞も、より分化したT細胞子孫もともに産生できることを示す結果は、Delta様-4のようなさらなるNotch受容体リガンドが、T細胞系統の細胞へのヒトHSCの有向分化をさらに増強または促進できるさらなるシグナルを与えうるという考えを支持している。これらのDelta様-4シグナルが異なるおよび/または重複しているかどうかは、さらには解明されないまま残っており、今のところ、市販されている非交差反応性のリガンド特異的モノクローナル抗体がないために実験的に試験することは困難である。最近になって、Delta様-4は、Notch 1受容体にいっそう高い親和性で結合する有利なリガンドであることが実証されており、Delta様-4は、T細胞を誘導するかつT細胞発生を支持する能力が最も大きいリガンドでありうることを示唆している(Besseyrias et al., 2007)。興味深いことに、OP9-DL1またはOP9-DL4共培養物によって誘導されるヒトT細胞発生は、OP9-DL4でT細胞発生が支持されるとはいえ、断然にOP9-DL1細胞の方が健全なヒトT細胞発生を誘導かつ支持するその能力で優れているように思われることを示唆しているように思われる。本発明者らの共培養系では、同程度のDelta様発現をレポーターGFP発現のみによって確認するのは困難であることに留意されたい。したがって、Delta様-1とDelta様-4の両方の過剰発現およびその飲食作用能(Bray, 2006)を考えると、Notch受容体を持つ分化細胞に形質導入される全体的シグナル強度が、OP9-DL1またはOP9-DL4共培養系のなかでDelta様分子に見られる最適上限の発現によって認められる相違を覆い隠すかまたは増幅させるかどうかは不明になる。この問題に取り組むため、本発明者らは、OP9-DL1細胞およびOP9-DL4細胞のタグ付き型を操作することに着手し、これらの細胞内のタンパク質レベルの発現を評価して、発生中の前駆T細胞へ異なるまたは類似のシグナルが伝達されるかどうかを判定した。それにもかかわらず、本発明者らの研究から、OP9-DL1細胞もOP9-DL4細胞もT系統の細胞へのヒト臍帯血由来HSCの健全かつ有向な分化を支持し、多数の前駆T細胞サブセットのプロT1およびプロT2、ならびにより分化したその子孫細胞を産生しうることが明らかである。
【0145】
実施例10 ヒト胚性幹細胞(hESC)およびヒト誘導多能性幹細胞(hiPSC)はOP9-DL1細胞またはOP9-DL4細胞との培養時に早期T系統細胞に分化する
材料および方法
既述(Kennedy et al., 2007)のように、ヒトESCを凝集させて胚様体(EB)を形成させ、次に外因性サイトカインの連続添加によって造血系統へ分化するように順次誘導する。手短に言えば、EB形成の間に、サイトカインを次のように添加した: 0〜4日目に骨形態形成タンパク質4 (BMP4) 10 ng/ml、1〜8日目に塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF) 5 ng/ml、2〜4日目にアクチビンA 0.3 ng/ml、4〜8日目に血管内皮増殖因子(vascular growth factor; VEGF) 15 ng/ml、4〜6日目にdickkopf-1 (Dkk1) 50 ng/ml、6〜8日目にインターロイキン11 (IL-11) 5 ng/ml、6〜8日目にIL-6 10 ng/ml、6〜8日目にインスリン様増殖因子IGF-1 25 ng/ml、6〜11日目に幹細胞因子(SCF) 100 ng/ml、8〜11日目にトロンボポイエチン(thrompoietin; TPO) 50 ng/ml、8〜11日目にIL-3 50 ng/ml、8〜11日目にエリスロポエチン4単位、8〜11日目にFlt3-L 320 ng/ml。9〜11日のEB培養の後、選別されたCD34+およびCD34-細胞をOP9-DL1 (またはOP9-DL4)細胞上に播種し、20日間培養し、フローサイトメトリーを用い潜在的なT細胞性についてアッセイした。OP9-DL1 (またはOP9-DL4)共培養期間中に、培地を週2回交換し、共培養物を新しいOP9-DL1 (またはOP9-DL4)細胞上に移した。各培地交換中にFlt3-L 5 ng/ml、IL-7 5 ng/mlを与えた。OP9-DL1 (またはOP9-DL4)共培養の最初の14日間だけSCF 100 ng/mlを与えた。
【0146】
T系統細胞へのヒトESCおよびヒトiPSCの分化
持続的および継続的T細胞発生をUCB-HSCからインビトロで誘導することができ、CD4+ CD8+ DP、CD4+ SPおよびCD8+ SP細胞を作製することができるが、ヒト胚性幹細胞(hESC)は将来の免疫再構築研究用の前駆T細胞を作製するのに魅力的な供給源である。他の供給源から得られるHSCとは異なり、hESCはその未分化状態で容易に維持することができ、無限の増殖能を保有し、遺伝子改変に容易に適応可能である。今でも、hESCからのT細胞の作製は、煩雑な手順および定義が不十分な誘導事象に依って、相変わらず可能であるが非効率的である(Galic et al., 2006; Galic et al., 2009; Timmermans et al., 2009)。これは、大部分は、hESCがインビトロでいかにして分化するかという理解が不十分なためである。けれども、hESCは培養液中で分化して全三種の胚葉を形成することが可能であり(Itskovitz-Eldor et al., 2000; Schuldiner et al., 2000)、造血細胞ならびにBおよびNK細胞になるようにhESCを誘導することにはある程度の成果があった(Kaufman et al., 2001 ; Woll et al., 2005)。具体的には、hESCがインビボでT細胞を生じうることを示す報告は三つしかなく、このうちの二つが亜致死量放射線照射された免疫不全SCIDマウスの腎臓被膜下に移植された結合ヒト胸腺/肝臓(Thy/Liv)組織へのヒトESC由来CD34+細胞の直接注射を要した(Galic et al., 2006; Galic et al., 2009)。第三の報告(仮特許出願の当初出願後に公開された)は、有望であるが、細胞分化マーカーに基づく特異的サブセットの単離ではなくOP9-対照に対する造血域の形態可視化に依り、これを次に切除し、OP9-DL1細胞へ純化しなければならなかった(Timmermans et al., 2009)。重要なことには、今まで、完全にインビトロでのヒトESCからのTリンパ球の作製に関する報告はなく、T細胞発生のための簡単かつ有効なインビトロ系を開発する必要性を強調している。
【0147】
結果
hESC分化のための二段階プロトコル法(Kennedy et al., 2007)を用いて、選別された、CD34-細胞ではなく、CD34++細胞は、CD7およびCD5の発現によって明らかなように(図24A)、OP9-DL1共培養20日までに未熟なT系統早期細胞を産生することができた。さらに、本発明者らは、Kellerグループから同様に得られた、hiPSCにまでこれらの所見を拡張し、図24Bに示されるように、上記と同様のプロトコルを用いて、hiPSCをCD34++細胞について選別し、次いでOP9-DL4細胞とともに22日間培養した。この共培養手法はまた、UCB-HSC/OP9-DL1共培養物から得られた細胞表面表現型と同様、CD7およびCD5を発現する早期T系統細胞をもたらした。
【0148】
考察
本実施例は、hESCまたはhiPSC由来のCD34+前駆体の予期的な単離を用いて以前には実証されていなかった、CD7+CD5+ヒトT系統細胞を作製する能力を示す。本発明者らは、OP9-DL1またはOP9-DL4間質細胞との培養に先立ち特異的なサイトカインカクテルを用いてこれらの細胞内で高いNotchシグナル伝達を誘導するEB形成の規定の培養方法が、これらの原始的前駆体からのヒトT系統細胞の効率的な作製を可能にするものと思う。
【0149】
UCB-HSC、hESCおよびhiPSC由来かを問わず、定義済みの幹細胞供給源から誘導されうる、多数のインビトロ作製T細胞前駆体を容易に得られることは、起源が後天性または遺伝性の、T細胞免疫不全の処置に向けた新たな機会を切り開く。
【0150】
好ましい例であると現在考えられるものに関連して本出願を記述してきたが、本出願は開示の例に限定されないと理解されるべきである。それとは反対に、本出願は、添付の特許請求の範囲の趣旨および範囲のなかに含まれるさまざまな変更および等価な組み合わせ方を網羅するよう意図される。
【0151】
全ての刊行物、特許および特許出願は、各個別の刊行物、特許または特許出願がその全体として参照により組み入れられると具体的かつ個別的に示されているかのようにその全体として参照により本明細書に組み入れられる。
【0152】
(表I)ヒト造血幹細胞サブセットの前駆体頻度分析
a CD34+ CD38-、CD34+ CD38loおよびCD34+ CD38+/hi HSCを、OP9-DL1細胞を含有する96ウェル/プレートのウェルに数を限定して配し、フローサイトメトリー分析のために収集する前に11日間培養した。
b 個々のウェルをCD45+ CD7++染色に基づきT細胞の存在についてスコア化した。ポアソンモデルに適用された最大尤度法により統計分析を行った(Fazekas de St, 1982)。
【0153】
(表II)前駆T細胞サブセットの前駆体頻度分析
a CD34+ CD38-/lo UCB由来細胞を12〜14日間OP9-DL1細胞上で培養し、表示の表現型を有するプロT1/プロT2細胞を、フローサイトメトリーによる細胞選別で得た。
b プロTサブセットを、FTOCにまたはOP9-DL1細胞を含有する96ウェル/プレートのウェルに数を限定して配し、フローサイトメトリー分析のために収集する前に7日間培養した。
c 個々の胸腺葉またはウェルを、それぞれ、CD45+ CD7++またはCD7++ CD1a-/+染色に基づきT細胞の存在についてスコア化した。ポアソンモデルに適用された最大尤度法により統計分析を行った(Fazekas de St, 1982)。
【0154】
(表III)CD34+ UCB細胞およびさまざまなOP9-DL1共培養由来サブセットの潜在的な赤血球性、骨髄性、巨核球性および顆粒球性の評価
選別されたインビトロ由来細胞(プロT1、プロT2およびCD34- CD7+サブセット) 500個を半固体培地(1%メチルセルロース)にプレーティングすることによってクローン原性の骨髄赤血球前駆体(BFU-E)、顆粒球・マクロファージコロニー形成単位(CFU-GM)、顆粒球コロニー形成単位(CFU-G)、マクロファージコロニー形成単位(CFU-M)およびマクロファージ・巨核球、赤血球、マクロファージ、顆粒球(CFU-混合物)の潜在性の存在を評価した。UCBから選別されたCD34+細胞を陽性対照として役立てた。コロニーを二つ組の培養物からカウントした。22日後のコロニーの平均数を示す。n, 分析した実験再現数。
【0155】
(表IV)免疫不全新生仔マウスに注射したプロT1およびプロT2サブセットの生着能
プロT1およびプロT2細胞を10日目の共培養物から選別し、表示の細胞数で免疫不全マウスに注射した。注射から21〜25日後に胸腺を収集し、ヒトCD45+ CD7++細胞の存在によって生着を判定した。生着マウスの割合を示す。n, 処置群ごとに分析したマウスの数。
【0156】
本明細書において参照された参考文献の完全な引用
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表現型CD34+CD7+CD1a-を有する単離された前駆T細胞。
【請求項2】
表現型CD34+CD7+CD5-CD1a-を有する、請求項1記載の単離された前駆T細胞。
【請求項3】
表現型CD34+CD7+CD5+CD1a-を有する、請求項1記載の単離された前駆T細胞。
【請求項4】
T細胞数の増加を要する状態の処置を、それを必要とする動物において行うための、請求項1〜3のいずれか一項記載の前駆T細胞の有効量の使用。
【請求項5】
状態ががんである、請求項4記載の使用。
【請求項6】
状態がHIV/AIDSである、請求項4記載の使用。
【請求項7】
状態が自己免疫疾患である、請求項4記載の使用。
【請求項8】
異種遺伝子を形質移入された、請求項1〜3のいずれか一項記載の単離された前駆T細胞。
【請求項9】
異種遺伝子を要する状態の処置を、それを必要とする動物において行うための、請求項8記載の単離されたT細胞の有効量の使用。
【請求項10】
(a) 幹細胞または前駆細胞を含むサンプルを、Notchリガンドを発現する細胞とともに培養する段階、および(b) プロT細胞(proT cell)を単離する段階を含む、プロT細胞を作製する方法。
【請求項11】
幹細胞が造血幹細胞、胚性幹細胞または誘導多能性幹細胞から選択される、請求項10記載の方法。
【請求項12】
NotchリガンドがDL1またはDL4である、請求項10または11記載の方法。
【請求項13】
Notchリガンドを発現する細胞がOP-9細胞である、請求項12記載の方法。
【請求項14】
プロT細胞が表現型CD34+CD7+CD1a-を有する、請求項10〜13のいずれか一項記載の方法。
【請求項15】
CD5を発現する前駆細胞を単離する段階をさらに含む、請求項14記載の方法。
【請求項16】
(a) 請求項1〜3のいずれか一項記載の単離されたT前駆細胞を、IL-15またはIL-2とともに培養する段階、および(b) ナチュラルキラー(NK)細胞を単離する段階を含む、NK細胞を作製する方法。
【請求項1】
表現型CD34+CD7+CD1a-を有する単離された前駆T細胞。
【請求項2】
表現型CD34+CD7+CD5-CD1a-を有する、請求項1記載の単離された前駆T細胞。
【請求項3】
表現型CD34+CD7+CD5+CD1a-を有する、請求項1記載の単離された前駆T細胞。
【請求項4】
T細胞数の増加を要する状態の処置を、それを必要とする動物において行うための、請求項1〜3のいずれか一項記載の前駆T細胞の有効量の使用。
【請求項5】
状態ががんである、請求項4記載の使用。
【請求項6】
状態がHIV/AIDSである、請求項4記載の使用。
【請求項7】
状態が自己免疫疾患である、請求項4記載の使用。
【請求項8】
異種遺伝子を形質移入された、請求項1〜3のいずれか一項記載の単離された前駆T細胞。
【請求項9】
異種遺伝子を要する状態の処置を、それを必要とする動物において行うための、請求項8記載の単離されたT細胞の有効量の使用。
【請求項10】
(a) 幹細胞または前駆細胞を含むサンプルを、Notchリガンドを発現する細胞とともに培養する段階、および(b) プロT細胞(proT cell)を単離する段階を含む、プロT細胞を作製する方法。
【請求項11】
幹細胞が造血幹細胞、胚性幹細胞または誘導多能性幹細胞から選択される、請求項10記載の方法。
【請求項12】
NotchリガンドがDL1またはDL4である、請求項10または11記載の方法。
【請求項13】
Notchリガンドを発現する細胞がOP-9細胞である、請求項12記載の方法。
【請求項14】
プロT細胞が表現型CD34+CD7+CD1a-を有する、請求項10〜13のいずれか一項記載の方法。
【請求項15】
CD5を発現する前駆細胞を単離する段階をさらに含む、請求項14記載の方法。
【請求項16】
(a) 請求項1〜3のいずれか一項記載の単離されたT前駆細胞を、IL-15またはIL-2とともに培養する段階、および(b) ナチュラルキラー(NK)細胞を単離する段階を含む、NK細胞を作製する方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23A】
【図23B】
【図23C】
【図23D】
【図24】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23A】
【図23B】
【図23C】
【図23D】
【図24】
【公表番号】特表2012−508188(P2012−508188A)
【公表日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−534979(P2011−534979)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【国際出願番号】PCT/CA2009/001601
【国際公開番号】WO2010/051634
【国際公開日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(511110902)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【国際出願番号】PCT/CA2009/001601
【国際公開番号】WO2010/051634
【国際公開日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(511110902)
【Fターム(参考)】
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