説明

ヒトC末端アルギニン欠損型C3a濃度測定方法、C末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチド、及びヒトC末端アルギニン欠損型C3a濃度測定キット

【課題】生体試料中のC3a−desArgを正確かつ簡便に測定する方法、該方法に好適な検出用ポリペプチド及び測定キットの提供。
【解決手段】反応溶液に、C3a−desArg検出用ポリペプチドと生体試料と抗C3a−desArg特異的抗体とを添加して、検出用ポリペプチドと特異的抗体との結合体を形成し、当該結合体中の検出用ポリペプチド量を測定する工程と、反応溶液に、検出用ポリペプチドと濃度既知の競合用ポリペプチド溶液と特異的抗体とを添加して検出用ポリペプチドと特異的抗体との結合体を形成し、当該結合体中の検出用ポリペプチド量を測定し、反応溶液に添加された競合用ポリペプチド量と結合体中の検出用ポリペプチド量とを相関させる工程と、得られた相関に基づき、前記工程で測定された検出用ポリペプチド量から、生体試料中のC3a−desArg濃度を算出する工程と、を有するC3a−desArg濃度測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体試料、特に血液試料中の補体成分C3aの安定型であるC末端アルギニン欠損型C3aを、短時間で正確かつ簡便に測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
C3aは、血中の体液性免疫成分である補体の一種であり、C5aとともに、アナフィラトキシンと呼ばれている分子量9000、78アミノ酸からなるタンパク質である。1975年にTony E.らによってクローニングされた分子であり、感染症や炎症性疾患に罹患することにより、血中濃度が上昇することが報告されている。近年、飛行時間型質量分析装置(TOF−MS;Time−of−flight mass spectrometry)を用いた解析により、大腸癌等の特定の種類の癌患者において、血中のC3a濃度が上昇することが報告されており、血液中の疾患マーカーとしても期待されている(例えば、非特許文献1、特許文献1参照。)。
【0003】
C3aは、巨大な補体成分のC3から、古典経路(C1酵素)又はレクチン経路(MASP酵素)によって、それぞれ切り出されて産生されるタンパク質の、αへリックスの一部である。このため、C3を認識せず、C3aのみを特異的に認識する抗体の作製は非常に困難であり、C3とC3aを免疫学的方法で区別して、検出・定量することは難しかった。その後、C3aは、血液中において、C末端のアルギニンが欠損した状態(C末端アルギニン欠損型C3a)で最も安定に存在することがわかった。そこで、Burgerらは、このC末端アルギニン欠損型C3aのC末端の8アミノ酸(アミノ酸一文字表記でRASHLGLA)をエピトープとし、これにキャリアタンパク質KLHを付加させたものを抗原として動物に免疫し、C末端アルギニン欠損型C3aに特異的な抗体を作成することに成功した(例えば、非特許文献2参照。)。
【0004】
血液中のC末端アルギニン欠損型C3aの測定法としては、前述の8アミノ酸からなるペプチドをエピトープとしてマウスに免疫して作製された抗C末端アルギニン欠損型C3a特異的抗体(H453)を用いたsandwich ELISA法が報告されている(例えば、非特許文献2参照。)。この方法では、まず、抗C3aポリクローナル抗体をプレートに固相化し、この固相化された抗C3aポリクローナル抗体に、血液試料中のC末端アルギニン欠損型C3aを結合させた後、洗浄する。その後、抗C末端アルギニン欠損型C3a特異的抗体H453をプレート中のC末端アルギニン欠損型C3aに結合させた後、洗浄し、さらに、ペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG抗体を、抗C末端アルギニン欠損型C3a特異的抗体H453と結合させる。洗浄後、ペルオキシダーゼの基質の発色を測定することにより、血液試料中のC末端アルギニン欠損型C3a量を測定することができる。このsandwich ELISA法では、抗C末端アルギニン欠損型C3a特異的抗体H453を一次抗体として用いることにより、C3aの前駆体であるC3との交差性がなく、血漿等の生体試料中の1〜5ng/ml濃度のC末端アルギニン欠損型C3aを検出し定量することが可能であった。また、近年では、さらにステップを簡略化され、例えば、C3a EIA kit(Quidel社製)等のように、抗C末端アルギニン欠損型C3a特異的抗体をマルチウェルプレートに固相化し、ホースラディッシュペルオキシターゼ(HRP)標識された抗C3a/C3ポリクローナル抗体にてsandwichし、HRPの基質TMBの発色により、試料中のC末端アルギニン欠損型C3aを検出するキットが市販されている。これらの市販のC末端アルギニン欠損型C3a検出キットの感度は、一般的に0.2〜1.1ng/mlと良好である。
【0005】
これらのsandwich ELISA法では、固相化した第1抗体と試料中のC末端アルギニン欠損型C3aとの抗原抗体反応、及びこれにより得られた複合体中のC末端アルギニン欠損型C3aと第2抗体との抗原抗体反応の2回の抗原抗体反応が必要である。通常、十分な精度の検査をするためには、1回の抗原抗体反応には、1時間程度の反応時間とその後の洗浄工程を要する。つまり、上記sandwich ELISA法では、1時間の抗原抗体反応と洗浄工程を2回ずつ要することから、計3時間程度を要する。
【0006】
一方で、血液試料中には、C末端アルギニン欠損型C3aだけではなく、血中に存在するC3とセリンプロテアーゼの両方が含まれている。このため、血液試料を室温でインキュベーションした場合には、セリンプロテアーゼにより、血液試料中のC3からC3aが生じ、すぐさま内因性の血清カルボキシペプチダーゼNにてC末端のアルギニンが除去されC末端アルギニン欠損型C3aが生じるため、血液試料中のC末端アルギニン欠損型C3a量が時間経過に伴い増大することが報告されている(例えば、非特許文献3参照。)。つまり、約3時間程度の測定時間を要するsandwich ELISA法では、測定中に試料中のC末端アルギニン欠損型C3a量が上昇している可能性が高く、生体試料中のC末端アルギニン欠損型C3a量を正確に測定するために、より迅速な測定法の開発が求められている。
【0007】
より短時間の測定が可能となるように、測定法のステップを簡略化する方法としては、抗C末端アルギニン欠損型C3a特異的抗体に対して、C末端アルギニン欠損型C3aと競合的に結合する人工物質を用いた免疫的測定法がある。例えば、トレーサーとして125Iを用いて標識したC3a(125I−C3a)を用いた競合的放射免疫測定(Radioimmunoassay、RIA)によるC3a測定法では、抗C3aポリクローナル抗体を固相化し、125I−C3aと結合させる。この結合を血液試料中のC3aが阻害し、この阻害作用により生じた遊離の125I−C3a量を測定することにより、高感度に(例えば、6ng/ml、0.66nM)血液試料中のC3a量を測定することが可能である(例えば、非特許文献4参照。)。
【0008】
安全性の観点から、近年、放射性同位体の利用が避けられるようになっており、放射免疫測定に換えて、発色反応等のより安全な検出方法を利用した測定方法も開発されている。例えば、Assaydesign社のComplement C3a desArg competitive EIAキットのように、トレーサーとしてアルカリフォスファターゼ標識した全長のC末端アルギニン欠損型C3aを用いるキットも市販されている。この方法では、抗C末端アルギニン欠損型C3aポリクローナル抗体に、アルカリフォスファターゼ標識した全長のC末端アルギニン欠損型C3aが結合することに対し、生体試料中に存在するC末端アルギニン欠損型C3aが競合的に阻害することを利用し、アルカリフォスファターゼの基質の発色を検出することによって、生体試料中のC末端アルギニン欠損型C3a濃度を測定する。
【0009】
これらの競合的ELISA法では、2種類の抗体によりC末端アルギニン欠損型C3aをsandwichする必要がないため、抗原抗体反応ステップと洗浄ステップをそれぞれ一つずつ除くことが可能であり、sandwich ELISA法よりも短時間で測定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表2008−509409号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】ヘイバーマン(Habermann)、外16名、ガストロエンテロロジー(GASTROENTEROLOGY)、2006年、第131巻、1020〜1029ページ。
【非特許文献2】バーガー(Burger)、外4名、ジャーナル・オブ・イミュノロジー(The Journal of Immunology)、1988年、第141巻、553〜558ページ。
【非特許文献3】モルネス(Mollnes)、外2名、クリニカル・エクスペリメンタル・イミュノロジー(Clinical and Experimental Immunology)、1988年、第73巻、484〜488ページ。
【非特許文献4】ハック(Hack)、外6名、ジャーナル・オブ・イミュノロジカル・メソッズ(Journal of Immunological Methods)、1988年、第108巻、77〜84ページ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記の競合的ELISA法においても、1時間程度の抗原抗体反応の反応時間とその後の洗浄工程が必要であり、依然として、計1.5〜2時間程度の測定時間を要するため、測定時間の迅速化は十分ではない、という問題がある。
さらに、トレーサーとして、C3a又はC末端アルギニン欠損型C3aを標識したものを用いているが、これらのタンパク質に対して、抗体に対する特異性を維持したまま標識を行うことは困難である、という問題がある。さらに、これらのタンパク質を、測定前まで安定に保つことも難しい、という問題もある。
【0013】
本発明は、生体試料、特に血液試料中の補体成分C3aを測定する方法であって、生体内において安定的に存在し得るC末端アルギニン欠損型C3aを正確かつ簡便に測定する方法、並びに、該方法に好適なC末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチド及び測定キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、競合的免疫測定方法において、C末端アルギニン欠損型C3aのC末端の8アミノ酸からなるペプチドをC末端に有し、かつN末端アミノ酸残基に標識を行ったポリペプチド又はN末端アミノ酸同士を結合させたポリペプチドをトレーサーとして用いて、抗C末端アルギニン欠損型C3a特異的抗体に対して、生体試料中のC末端アルギニン欠損型C3aと該ポリペプチドとを競合的に結合させることにより、生体試料中のC末端アルギニン欠損型C3aを、短時間で正確かつ簡便に測定することが可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0015】
すなわち、本発明は、
(1) 競合阻害反応を用いて生体試料中のヒトC末端アルギニン欠損型C3a濃度を測定する方法であって、(1a) 反応溶液に、所定量のC末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチドと、生体試料と、抗ヒトC末端アルギニン欠損型C3a特異的抗体とを添加して、C末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチドと前記生体試料中のヒトC末端アルギニン欠損型C3aとを、抗ヒトC末端アルギニン欠損型C3a特異的抗体に対して競合的に結合させることにより、C末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチドと抗ヒトC末端アルギニン欠損型C3a特異的抗体との結合体を形成する工程と、(1b) 前記工程(1a)において得られた結合体を形成しているC末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチド量を測定する工程と、(1c) 反応溶液に、所定量のC末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチドと、少なくとも1以上の濃度既知の競合用ポリペプチド溶液と、抗ヒトC末端アルギニン欠損型C3a特異的抗体とを添加して、C末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチドと競合用ポリペプチドとを、抗ヒトC末端アルギニン欠損型C3a特異的抗体に対して競合的に結合させることにより、C末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチドと抗ヒトC末端アルギニン欠損型C3a特異的抗体との結合体を形成する工程と、(1d) 前記工程(1c)において得られた結合体を形成しているC末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチド量を測定する工程と、(1e) 前記工程(1c)において反応溶液に添加された競合用ポリペプチド量と、前記工程(1d)において測定されたC末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチド量とを相関させる工程と、(1f) 前記工程(1e)において得られた相関に基づき、工程(1b)において測定されたC末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチド量から、前記生体試料中のヒトC末端アルギニン欠損型C3a濃度を算出する工程と、を有し、前記C末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチドが、下記(p1)〜(p6)からなる群より選択されるポリペプチドであり、前記競合用ポリペプチドが、ヒトC末端アルギニン欠損型C3a又はそのC末端の8アミノ酸を含む部分ポリペプチドであることを特徴とするヒトC末端アルギニン欠損型C3a濃度測定方法;(p1)C末端に配列番号1のアミノ酸配列を有しており、かつ、システイン残基をN末端に1個のみ有するポリペプチド同士を、N末端のシステイン残基を介して結合させたポリペプチド、(p2)C末端に配列番号1のアミノ酸配列を有しており、かつ、リジン残基を有さない又はN末端に1個のみ有するポリペプチド同士を、N末端のアミノ基を介して結合させたポリペプチド、(p3)C末端に配列番号1のアミノ酸配列を有しており、かつ、システイン残基をN末端に1個のみ有するポリペプチド、(p4)C末端に配列番号1のアミノ酸配列を有しており、かつ、リジン残基を有さない又はN末端に1個のみ有するポリペプチド、(p5)前記(p3)のポリペプチドのN末端のシステイン残基の側鎖に標識物質が結合したポリペプチド、(p6)前記(p4)のポリペプチドのN末端のアミノ基に標識物質が結合したポリペプチド、
(2) 前記工程(1a)における反応溶液中のC末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチドと抗ヒトC末端アルギニン欠損型C3a特異的抗体とを結合させる反応時間が、30分間以内であり、かつ、前記工程(1c)における反応溶液中のC末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチドと抗ヒトC末端アルギニン欠損型C3a特異的抗体とを結合させる反応時間と等しいことを特徴とする前記(1)記載のヒトC末端アルギニン欠損型C3a濃度測定方法、
(3) 前記(p1)又は(p3)の、C末端に配列番号1のアミノ酸配列を有しており、かつ、システイン残基をN末端に1個のみ有するポリペプチドとして、9〜20アミノ酸からなるポリペプチドを用いることを特徴とする、前記(1)又は(2)記載のヒトC末端アルギニン欠損型C3a濃度測定方法、
(4) 前記(p2)又は(p4)の、C末端に配列番号1のアミノ酸配列を有しており、かつ、リジン残基を有さない又はN末端に1個のみ有するポリペプチドとして、8〜20アミノ酸からなるポリペプチドを用いることを特徴とする、前記(1)又は(2)記載のヒトC末端アルギニン欠損型C3a濃度測定方法、
(5) 前記工程(1a)が、下記工程(1a’−1)及び(1a’−2)であり、前記工程(c)が、下記工程(1c’−1)及び(1c’−2)であることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか記載のヒトC末端アルギニン欠損型C3a濃度測定方法;(1a’−1) 反応溶液に、生体試料と抗ヒトC末端アルギニン欠損型C3a特異的抗体とを添加して、C末端アルギニン欠損型C3a−抗ヒトC末端アルギニン欠損型C3a特異的抗体複合体を形成する工程、(1a’−2) 前記工程(1a’−1)の後、前記反応溶液に、さらに、所定量のC末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチドを添加して、C末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチドとヒトC末端アルギニン欠損型C3aとを、抗ヒトC末端アルギニン欠損型C3a特異的抗体に対して競合的に結合させることにより、C末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチドと抗ヒトC末端アルギニン欠損型C3a特異的抗体との結合体を形成する工程、(1c’−1) 反応溶液に、少なくとも1以上の濃度既知の競合用ポリペプチド溶液と、抗ヒトC末端アルギニン欠損型C3a特異的抗体とを添加して、競合用ポリペプチド−抗ヒトC末端アルギニン欠損型C3a特異的抗体複合体を形成する工程、(1c’−2) 前記工程(1c’−1)の後、前記反応溶液に、さらに、所定量のC末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチドを添加して、C末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチドと競合用ポリペプチドとを、抗ヒトC末端アルギニン欠損型C3a特異的抗体に対して競合的に結合させることにより、C末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチドと抗ヒトC末端アルギニン欠損型C3a特異的抗体との結合体を形成する工程、
(6) 前記工程(1b)が、前記工程(1a)における反応溶液自体を測定試料とし、かつ、前記工程(1d)が、前記工程(1c)における反応溶液自体を測定試料とすることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれか記載のヒトC末端アルギニン欠損型C3a濃度測定方法、
【0016】
(7) 前記C末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチドが、前記(p1)又は(p2)のポリペプチドであり、前記結合体を形成しているC末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチド量の測定を、吸光度法による濁度測定により行うことを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれか記載のヒトC末端アルギニン欠損型C3a濃度測定方法、
(8) 前記C末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチドが、下記いずれかのポリペプチドであることを特徴とする前記(1)〜(7)のいずれか記載のヒトC末端アルギニン欠損型C3a濃度測定方法;(p’1)配列番号3又は4のアミノ酸配列からなるポリペプチド同士を、N末端のシステイン残基を介して結合させたポリペプチド、(p’2)配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチド同士を、N末端のアミノ基を介して結合させたポリペプチド、
(9) 前記C末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチドが、配列番号4のアミノ酸配列からなるポリペプチド同士を、下記(i)〜(iii)のいずれかの反応により結合させたものであることを特徴とする前記(1)〜(8)のいずれか記載のヒトC末端アルギニン欠損型C3a濃度測定方法;(i)SH基同士の架橋反応、(ii)アミノ基とSH基との架橋反応、(iii)2以上のリガンドと特異的に結合する受容体と、N末端のシステイン残基に前記リガンドを結合させたポリペプチドとの結合反応、
(10) 前記C末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチドが、前記(p5)又は(p6)のポリペプチドであり、前記結合体を形成しているC末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチド量の測定を、前記標識物質から発されるシグナル又は前記標識物質により発されるシグナルを検出することにより行うことを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれか記載のヒトC末端アルギニン欠損型C3a濃度測定方法、
(11) 前記C末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチドが、配列番号3又は4のアミノ酸配列からなるポリペプチドのN末端のシステイン残基の側鎖に標識物質が結合したポリペプチド、並びに、配列番号1、3、及び4のアミノ酸配列からなる群より選択される1のポリペプチドのN末端のアミノ基に標識物質が結合したポリペプチドからなる群より選択される1のポリペプチドであることを特徴とする前記(10)記載のヒトC末端アルギニン欠損型C3a濃度測定方法、
(12) 前記標識物質が蛍光物質であることを特徴とする前記(10)又は(11)記載のヒトC末端アルギニン欠損型C3a濃度測定方法、
(13) 前記標識物質が蛍光物質であり、C末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチド−抗ヒトC末端アルギニン欠損型C3a特異的抗体複合体を形成しているC末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチド量の測定を、前記標識物質から発されるシグナルを、一分子蛍光分析法により検出することを特徴とする前記(12)記載のヒトC末端アルギニン欠損型C3a濃度測定方法、
(14) 前記一分子蛍光分析法が蛍光相関分光法(FCS)であることを特徴とする前記(13)記載のヒトC末端アルギニン欠損型C3a濃度測定方法、
(15) 前記C末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチドが、前記(p5)又は(p6)のポリペプチドであり、前記結合体を形成しているC末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチド量の測定を、前記標識物質から発されるシグナル又は前記標識物質により発されるシグナルを検出することにより行うものであり、前記標識物質が酵素又は放射性同位体であることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれか記載のヒトC末端アルギニン欠損型C3a濃度測定方法、
(16) 前記標識物質がアルカリフォスファターゼ又はペルオキシダーゼであり、C末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチド−抗ヒトC末端アルギニン欠損型C3a特異的抗体複合体を形成しているC末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチド量の測定を、酵素反応によって生じる前記酵素の基質の変化による発色又は発光を検出することを特徴とする前記(15)記載のヒトC末端アルギニン欠損型C3a濃度測定方法、
【0017】
(17) C末端に配列番号1のアミノ酸配列を有しており、かつ、システイン残基をN末端に1個のみ有するポリペプチドであることを特徴とするC末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチド、
(18) C末端に配列番号1のアミノ酸配列を有しており、かつ、リジン残基を有さない又はN末端に1個のみ有するポリペプチドであることを特徴とするC末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチド、
(19) 9〜20アミノ酸からなり、N末端のシステイン残基の側鎖又はN末端のアミノ基に標識物質が結合していることを特徴とする前記(17)記載のC末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチド、
(20) 8〜20アミノ酸からなり、N末端のアミノ基に標識物質が結合していることを特徴とする前記(18)記載のC末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチド、
(21) 配列番号3又は4のアミノ酸配列からなるポリペプチドであることを特徴とするC末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチド、
(22) C末端に配列番号1のアミノ酸配列を有しており、かつ、配列番号2のアミノ酸配列のC末側20アミノ酸からなるアミノ酸配列の一部又は全部のアミノ酸配列を有し、9〜41アミノ酸からなるポリペプチドであることを特徴とするC末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチド、
(23) C末端に配列番号1のアミノ酸配列を有しており、かつ、システイン残基をN末端に1個のみ有するポリペプチド、配列番号3のアミノ酸配列からなるポリペプチド、及び配列番号4のアミノ酸配列からなるポリペプチドからなる群より選択される1種のポリペプチド同士を、N末端のシステイン残基を介して結合させたことを特徴とするC末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチド、
(24) 前記ポリペプチド同士の結合が、下記(i)〜(iii)のいずれかの反応によるものであることを特徴とする前記(23)記載のC末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチド;(i)SH基同士の架橋反応、(ii)アミノ基とSH基との架橋反応、(iii)2以上のリガンドと特異的に結合する受容体と、N末端のシステイン残基に前記リガンドを結合させたポリペプチドとの結合反応、
(25) 前記(18)又は(20)記載のC末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチド同士を、N末端のアミノ基を介して結合させたことを特徴とするC末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチド、
(26) 前記C末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチド同士の結合が、2以上のリガンドと特異的に結合する受容体と、N末端のアミノ基に前記リガンドを結合させたポリペプチドとの結合反応によるものであることを特徴とする前記(25)記載のC末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチド、
【0018】
(27) 生体試料中のヒトC末端アルギニン欠損型C3a濃度を測定するためのキットであって、前記(17)〜(26)記載のC末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチドからなる群より選択される1のポリペプチド、抗ヒトC末端アルギニン欠損型C3a特異的抗体、並びに、濃度既知のヒトC末端アルギニン欠損型C3a又はそのC末端の8アミノ酸を含む部分ポリペプチドの標準溶液を含むヒトC末端アルギニン欠損型C3a濃度測定キット、
を、提供するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明のヒトC末端アルギニン欠損型C3a濃度測定方法を用いることにより、生体試料中のC末端アルギニン欠損型C3aを、短時間で簡便に測定することができる。すなわち、測定に要する時間が短時間で済むため、測定中の時間経過に伴うC末端アルギニン欠損型C3a量の上昇の影響を抑えることができ、生体試料中のC末端アルギニン欠損型C3a量をより正確に測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】参考例1において、測定試料中の抗C3a−desArg特異的抗体の濃度と拡散時間との関係を示した図である。
【図2】参考例2において、測定試料中のヒトC3a−desArg抽出物濃度と拡散時間との関係を示した図である。
【図3】実施例1において、抗C3a−desArg特異的抗体感作ビーズと、配列4のC3a−desArgポリペプチド又は配列5のC3a−desArgポリペプチドを混合した各溶液のOD(600nm)値から、C3a−desArgポリペプチドの濃度が0nMである溶液のOD(600nm)値を差し引いた値(△OD(600nm)値)を示した図である。
【図4】実施例2において、各試料の拡散時間から算出されたC3a−desArg濃度(nM)を示した図である。
【図5】比較例1において、各試料のOD(450nm)値から算出されたC3a−desArg濃度(nM)を示した図である。
【図6】比較例2において、各試料のOD(450nm)値から算出されたC3a−desArg濃度(nM)を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のヒトC末端アルギニン欠損型C3a濃度測定方法(以下、「C3a−desArg濃度測定方法」ということがある。)は、競合阻害反応を用いて生体試料中のヒトC3a濃度を測定する方法であって、C末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチド(以下、「C3a−desArg検出用ポリペプチド」ということがある。)をトレーサーとする競合的免疫反応を利用した方法であり、前記C3a−desArg検出用ポリペプチドが、下記(p1)〜(p6)からなる群より選択されるポリペプチドであることを特徴とする。
(p1)C末端に配列番号1のアミノ酸配列を有しており、かつ、システイン残基をN末端に1個のみ有するポリペプチド同士を、N末端のシステイン残基を介して結合させたポリペプチド(以下、「ポリペプチド(p1)」ということがある。)。
(p2)C末端に配列番号1のアミノ酸配列を有しており、かつ、リジン残基を有さない又はN末端に1個のみ有するポリペプチド同士を、N末端のアミノ基を介して結合させたポリペプチド(以下、「ポリペプチド(p2)」ということがある。)。
(p3)C末端に配列番号1のアミノ酸配列を有しており、かつ、システイン残基をN末端に1個のみ有するポリペプチド(以下、「ポリペプチド(p3)」ということがある。)。
(p4)C末端に配列番号1のアミノ酸配列を有しており、かつ、リジン残基を有さない又はN末端に1個のみ有するポリペプチド(以下、「ポリペプチド(p4)」ということがある。)。
(p5)前記(p3)のポリペプチドのN末端のシステイン残基の側鎖に標識物質が結合したポリペプチド(以下、「ポリペプチド(p5)」ということがある。)。
(p6)前記(p4)のポリペプチドのN末端のアミノ基に標識物質が結合したポリペプチド(以下、「ポリペプチド(p6)」ということがある。)。
【0022】
本発明のC3a−desArg検出用ポリペプチドは、前記ポリペプチド(p1)〜(p6)に示すように、C末端に配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドを有するポリペプチドである。配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドは、C末端アルギニン欠損型C3a(以下、「C3a−desArg」ということがある。)のC末端の8アミノ酸(アミノ酸一文字表記でRASHLGLA)に相当する。前述したように、C3a−desArgのC末端の8アミノ酸は、抗ヒトC末端アルギニン欠損型C3a特異的抗体(以下、「抗C3a−desArg特異的抗体」ということがある。)のエピトープであり、したがって、C末端に配列番号1のアミノ酸配列を有するC3a−desArg検出用ポリペプチドは、このC末端領域において、抗C3a−desArg特異的抗体と結合する。
【0023】
本発明のC3a−desArg濃度測定方法においては、生体試料中のヒトC3a−desArgと競合して抗C3a−desArg特異的抗体と結合するトレーサーとして、全長のC3a−desArgタンパク質(配列番号6)ではなく、該抗体のエピトープを含むポリペプチドを用いることにより、合成の手間が簡便であり、比較的安価に調製することができる。このようなポリペプチドは、一般的に汎用されているペプチド合成機を用いて合成することが可能である。また、標識物質により標識する場合にも、タンパク質に比べて簡便かつ効率よく標識することが可能である。つまり、測定全体にかかる費用を抑えることが可能である。さらに、タンパク質よりもポリペプチドのほうが比較的安定であるため、より測定間の誤差等を低減させることができる。
【0024】
<ポリペプチド(p1)及びポリペプチド(p2)>
前記ポリペプチド(p1)及びポリペプチド(p2)は、抗C3a−desArg特異的抗体との結合部位である配列番号1のアミノ酸配列をC末端に有しているポリペプチド同士が結合したものであり、抗C3a−desArg特異的抗体との結合領域を、一分子に2以上有する多価のポリペプチドである。なお、本発明において、多価ポリペプチドとは、特定の物質との結合領域を、一分子に2以上有するポリペプチドを意味する。
【0025】
システイン残基は、側鎖に反応性の高いSH基を有するため、ポリペプチド同士を架橋させた多価ポリペプチドを作製しやすい。また、ポリペプチドのN末端の一級アミン(α−アミノ基)も、比較的反応性が高く、このため、当該アミノ基を介することにより、当該ポリペプチドを他の物質等(例えば、リガンドや他のポリペプチド等)と比較的容易に結合させることができる。しかしながら、ポリペプチド中のSH基やアミノ基を介して2以上のポリペプチドを結合させるにあたって、当該ポリペプチドの配列内部にSH基や一級アミン、特にリジン残基の側鎖のアミノ基がある場合には、N末端よりもエピトープ部位に近いこれらのSH基やアミノ基において架橋反応が生じてしまい、エピトープの認識障害が起る可能性がある。
【0026】
これに対して、ポリペプチド(p1)及びポリペプチド(p2)は、抗C3a−desArg特異的抗体との結合領域をC末端に有するポリペプチド同士を、N末端のシステイン残基又はN末端のアミノ基を介して結合させたポリペプチドである。このため、C末端側のエピトープ部位の認識障害が生じにくく、ポリペプチド同士を結合させて得られる多価ポリペプチドであるにも関わらず、精度良く抗C3a−desArg特異的抗体と結合することができる。
【0027】
具体的には、前記ポリペプチド(p1)は、前記ポリペプチド(p3)同士を、N末端のシステイン残基を介して結合させたポリペプチドであり、前記ポリペプチド(p2)は、前記ポリペプチド(p4)同士を、N末端のアミノ基を介して結合させたポリペプチドである。なお、本発明及び本願明細書において、「N末端のシステイン残基を介して結合する」とは、システイン残基の側鎖(例えば、SH基)を介して結合するものと、N末端のアミノ基を介して結合するもののいずれをも含む。すなわち、ポリペプチド(p1)としては、ポリペプチド(p3)同士を、それぞれのシステイン残基の側鎖同士を介して結合した多価ポリペプチドであってもよく、ポリペプチド(p3)同士を、それぞれのN末端のアミノ基同士を介して結合した多価ポリペプチドであってもよく、一ポリペプチド(p3)のシステイン残基の側鎖と他方のポリペプチド(p3)のN末端のアミノ基とを結合させた多価ポリペプチドであってもよい。
【0028】
ポリペプチド(p1)及びポリペプチド(p2)を得るための、ポリペプチド(p3)同士又はポリペプチド(p4)同士の結合方法としては、当該ポリペプチド同士が不可逆的に結合されたものであってもよく、可逆的に結合されたものであってもよい。可逆的な結合としては、例えば、ポリペプチドのN末端のシステイン残基のSH基、N末端の一級アミンのアミノ基、N末端にリジン残基を有する場合には当該リジン残基の側鎖のアミノ基等にリガンドを結合させた2以上のポリペプチドと、2以上の前記リガンドと特異的に結合する受容体との結合反応により、ポリペプチド(p3)同士又はポリペプチド(p4)同士を可逆的に結合したものであってもよい。このようなリガンドと受容体としては、タンパク質やポリペプチドの標識に一般的に用いられるものであって、C3a−desArg検出用ポリペプチドと抗C3a−desArg特異的抗体との結合を阻害しないものであれば、特に限定されるものではない。たとえば、リガンドとしてビオチンを、受容体としてストレプトアビジンを用いることにより、4価の(抗C3a−desArg特異的抗体との結合領域を、一分子に4つ有する)ポリペプチド(p1)又はポリペプチド(p2)を得ることができる。その他、1のビーズに2以上の受容体を結合させたものを用いることによっても、ポリペプチド(p1)又はポリペプチド(p2)を得ることができる。
【0029】
また、ポリペプチドのN末端のアミノ酸残基同士を共有結合により結合させる等により、ポリペプチド(p3)同士又はポリペプチド(p4)同士を、不可逆的に結合させることによっても、ポリペプチド(p1)及びポリペプチド(p2)を得ることができる。ポリペプチドのN末端のアミノ酸残基同士を共有結合により結合させる反応は、特に限定されるものではなく、有機合成の分野で公知のいずれの手法を用いて行ってもよい。
【0030】
例えば、ポリペプチド(p3)のシステイン残基のSH基同士をS−S結合(架橋反応)により、2価の(抗C3a−desArg特異的抗体との結合領域を、一分子に2つ有する)ポリペプチド(p1)を作製することができる。また、ポリペプチド内にリジン残基を有していないポリペプチド(p3)同士を結合させる場合には、一のポリペプチド(p3)のN末端の一級アミンであるアミノ基と、他のポリペプチド(p3)のSH基との架橋反応により互いに結合させることにより、多価の(抗C3a−desArg特異的抗体との結合領域を、一分子に2つ以上有する)ポリペプチド(p1)を作成することができる。その他、やはり、ポリペプチド内にリジン残基を有していないポリペプチド(p3)の場合には、例えば、複数のポリペプチド(p3)を、マレイミドとアミン反応性基を有する架橋剤としてEMCS(N−(6−Maleimidocaproyloxy)succinimide)を用いて、マレイミドヒンジ法等によって架橋させることにより、N末端のシステイン残基のSH基とアミノ基を架橋させた、多価のC3a−desArg検出用多価ポリペプチドを得ることもできる。
【0031】
また、ポリペプチド(p4)同士のN末端のアミノ基同士を共有結合により結合させる方法としては、例えば、一のポリペプチドのN末端の一級アミンであるアミノ基又はN末端のアミノ酸残基がリジン残基である場合には当該リジン残基の側鎖のアミノ基とリガンドとを結合させたポリペプチド(p4)同士を、2以上のリガンドと結合可能な受容体と結合させることにより、ポリペプチド(p2)を作製することができる。
【0032】
一般的に、システイン残基を含むポリペプチドを汎用されているペプチド合成法により合成した場合には、通常、ポリペプチド中のSH基同士が架橋した2価以上の多価ポリペプチドが得られる。SH基が単独で存在している状態よりも、SH基同士が架橋した状態のほうが安定であるためである。したがって、ポリペプチド(p3)を汎用されているペプチド合成法により合成して得られるポリペプチドは、特別な処理等をすることなく、そのままポリペプチド(p1)として用いることができる。
【0033】
その他、ポリペプチド(p3)を汎用されているペプチド合成法により合成して得られるSH基同士が結合したポリペプチドに対して還元剤を作用させてS−S結合を切断した後に、マレイミドヒンジ法等により架橋させるという、比較的簡単な作業により、ポリペプチド(p1)を得ることもできる。
【0034】
ポリペプチド(p1)としては、後述するポリペプチド(p3)同士をN末端のシステイン残基を介して結合させた多価ポリペプチドであれば、特に限定されるものではないが、C末端に配列番号1のアミノ酸配列を有し、システイン残基をN末端に1個のみ有し、かつ、配列番号2のアミノ酸配列のC末側20アミノ酸からなるアミノ酸配列の一部又は全部のアミノ酸配列を有する9〜41アミノ酸からなるポリペプチド同士を結合させた多価ポリペプチドであることが好ましい。中でも、C末端に配列番号1のアミノ酸配列を有し、システイン残基をN末端に1個のみ有し、かつ、配列番号2のアミノ酸配列のC末側20アミノ酸からなるアミノ酸配列の一部又は全部のアミノ酸配列を有する9〜20アミノ酸からなるポリペプチド同士を結合させた多価ポリペプチドであることがより好ましく、配列番号3又は4のアミノ酸配列からなるポリペプチド同士を結合させた多価ポリペプチドであることがさらに好ましい。特に、配列番号4のアミノ酸配列からなるポリペプチドをN末端のシステイン残基を介して結合させたポリペプチドは、塩基性に富むため、凝集性が良好であり、本発明のC3a−desArg濃度測定方法が、後述するように凝集系において行われる場合にも好適である。
【0035】
ポリペプチド(p2)としては、後述するポリペプチド(p4)同士をN末端のアミノ基を介して結合させた多価ポリペプチドであれば、特に限定されるものではないが、C末端に配列番号1のアミノ酸配列を有し、リジン残基を有さない又はN末端に1個のみ有し、かつ、配列番号2のアミノ酸配列のC末側20アミノ酸からなるアミノ酸配列の一部又は全部のアミノ酸配列を有する8〜41アミノ酸からなるポリペプチド同士を結合させた多価ポリペプチドであることが好ましい。中でも、C末端に配列番号1のアミノ酸配列を有し、リジン残基を有さない又はN末端に1個のみ有し、かつ、配列番号2のアミノ酸配列のC末側20アミノ酸からなるアミノ酸配列の一部又は全部のアミノ酸配列を有する8〜20アミノ酸からなるポリペプチド同士を結合させた多価ポリペプチドであることがより好ましく、配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチド同士を、N末端のアミノ基を介して結合させたポリペプチドであることがさらに好ましい。
【0036】
<ポリペプチド(p3)及びポリペプチド(p4)>
前記ポリペプチド(p3)及びポリペプチド(p4)は、抗C3a−desArg特異的抗体との結合部位である配列番号1のアミノ酸配列をC末端に有しているポリペプチドであり、抗C3a−desArg特異的抗体との結合領域を、一分子に1つ有する一価のポリペプチドである。
【0037】
ポリペプチド(p3)としては、配列番号1のアミノ酸配列のN末端にシステイン残基を付加した配列番号3のアミノ酸配列からなるポリペプチドであってもよく、配列番号1のアミノ酸配列と、N末端のシステイン残基との間にさらにアミノ酸配列を付加したアミノ酸配列からなるポリペプチドであってもよい。
同様に、ポリペプチド(p4)としては、配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチドであってもよく、配列番号1のアミノ酸配列のN末側に、リジン残基を有さない又はN末端に1個のみ有するアミノ酸配列をさらに付加したアミノ酸配列からなるポリペプチドであってもよい。
【0038】
ポリペプチド(p3)及びポリペプチド(p4)の長さは、配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチド(エピトープ部位)と抗C3a−desArg特異的抗体との結合を阻害しない長さであれば特に限定されるものではなく、アミノ酸配列の種類、後述する標識物質の種類等を考慮して、適宜決定することができる。ポリペプチド(p3)としては、9〜41アミノ酸であることが好ましく、9〜28アミノ酸であることがより好ましく、9〜21アミノ酸であることがさらに好ましく、20アミノ酸であることが特に好ましい。一方、ポリペプチド(p4)としては、8〜41アミノ酸であることが好ましく、8〜20アミノ酸であることがより好ましく、20アミノ酸であることがさらに好ましい。
【0039】
なお、C末端の8アミノ酸以外のアミノ酸配列は、特に限定されるものではなく、適宜設計したアミノ酸配列であってもよく、C3a−desArg(配列番号2のアミノ酸配列からなるタンパク質)中のアミノ酸配列であってもよい。本発明のC3a−desArg検出用ポリペプチドとしては、例えば、C3a−desArgの全長アミノ酸配列(配列番号2)中の配列の一部を有するポリペプチドを用いることにより、生体内に存在しない人工的なアミノ酸配列を有する合成ペプチドを用いた場合に起こる生体反応等の影響について考慮することなく、C3a−desArgを測定することができる。特に、配列番号4のアミノ酸配列からなるポリペプチドのように、C3a−desArgのアミノ酸配列中のシステイン残基を先頭としたアミノ酸配列からなるポリペプチドを用いることにより、該システイン残基をそのまま、C3a−desArg検出用ポリペプチド{ポリペプチド(p3)}のN末端のシステイン残基として利用することができる。
【0040】
具体的には、ポリペプチド(p3)としては、C末端に配列番号1のアミノ酸配列を有し、システイン残基をN末端に1個のみ有し、かつ、配列番号2のアミノ酸配列のC末側20アミノ酸からなるアミノ酸配列の一部又は全部のアミノ酸配列を有する9〜41アミノ酸からなるポリペプチドであることが好ましく、C末端に配列番号1のアミノ酸配列を有し、システイン残基をN末端に1個のみ有し、かつ、配列番号2のアミノ酸配列のC末側20アミノ酸からなるアミノ酸配列の一部又は全部のアミノ酸配列を有する9〜20アミノ酸からなるポリペプチドであることがより好ましい。中でも、C末端に配列番号1のアミノ酸配列を有し、N末端にシステイン残基を1個のみ有し、かつ、配列番号1のアミノ酸配列とN末端のシステイン残基の間に、配列番号2のアミノ酸配列のC末側9〜19アミノ酸からなるアミノ酸配列の一部又は全部のアミノ酸配列のみを有するアミノ酸配列からなるポリペプチド、配列番号3のアミノ酸配列からなるポリペプチド、及び配列番号4のアミノ酸配列からなるポリペプチドからなる群より選択されるポリペプチドであることがさらに好ましい。
【0041】
一方、ポリペプチド(p4)としては、C末端に配列番号1のアミノ酸配列を有し、リジン残基を有さない又はN末端に1個のみ有し、かつ、配列番号2のアミノ酸配列のC末側20アミノ酸からなるアミノ酸配列の一部又は全部のアミノ酸配列を有する8〜41アミノ酸からなるポリペプチドであることが好ましく、配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチド、又はC末端に配列番号1のアミノ酸配列を有し、リジン残基を有さない又はN末端に1個のみ有し、かつ、配列番号2のアミノ酸配列のC末側20アミノ酸からなるアミノ酸配列の一部又は全部のアミノ酸配列を有する8〜20アミノ酸からなるポリペプチドであることがより好ましく、配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチドであることがさらに好ましい。
【0042】
C末端に配列番号1のアミノ酸配列を有し、かつ、配列番号2のアミノ酸配列のC末側20アミノ酸からなるアミノ酸配列の一部又は全部のアミノ酸配列を有する8〜20アミノ酸からなるポリペプチドが、本発明のC3a−desArg検出用ポリペプチドとして好適である理由は明らかではないが、以下のように推察される。これらのポリペプチドは、抗C3a−desArg特異的抗体のエピトープであるC末端の8アミノ酸からなる領域(エピトープ部位)が最も親水性に富むため、その他の部分がエピトープを包埋させることがなく、トレーサーとして感度よく働くことが可能となる。また、抗原抗体反応は、一般的に水溶液中で行われるが、これらのポリペプチドは容易に水に溶解するため、特別な緩衝液による調整の必要がないという利点もある。本発明のC3a−desArg検出用ポリペプチドとしては、特に、配列番号1、3及び4からなる群より選択される1のアミノ酸配列からなるポリペプチドであることが好ましく、配列番号3又は4のアミノ酸配列からなるポリペプチドであることがより好ましい。
【0043】
本発明のC3a−desArg検出用ポリペプチドとしては、配列番号4のアミノ酸配列を有するポリペプチドであることが特に好ましい。配列番号4のアミノ酸配列からなるポリペプチドは、C3a−desArgのアミノ酸配列中のシステイン残基を先頭としたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、C3a−desArgの部分ペプチドであるため、合成ペプチドを用いた場合に起こる生体反応等の影響を考慮しなくてもよい。また、N末端のシステイン残基をそのまま、C3a−desArg検出用ポリペプチドのN末端のシステイン残基として利用することができる。また、N末端にのみシステイン残基を有し、かつアミノ酸配列中にリジン残基を有していないため、SH基を介した結合反応と、アミノ基を介した結合反応のいずれの反応を用いても、N末端に標識物質を結合させることができる。さらに、配列番号4のアミノ酸配列を有するポリペプチドは、C末側のエピトープ部位が最も親水性が高いため、反応溶液中において、抗C3a−desArg特異的抗体との親和性が非常に高く、このため、当該ポリペプチドをC3a−desArg検出用ポリペプチドとして用いた場合には、より短時間のアッセイで、C3a−desArg濃度を測定することができる。
【0044】
<ポリペプチド(p5)及びポリペプチド(p6)>
ポリペプチド(p5)は、ポリペプチド(p3)のN末端を標識物質で標識したポリペプチドであり、ポリペプチド(p6)は、ポリペプチド(p4)のN末端を標識物質で標識したポリペプチドである。本発明のC3a−desArg検出用ポリペプチドとしては、前記ポリペプチド(p5)又はリペプチド(p6)のように、標識物質が結合したものであることが好ましい。当該標識物質を指標として、C3a−desArg検出用ポリペプチドの検出・測定を容易に行うことができるためである。
【0045】
具体的には、ポリペプチド(p5)は、ポリペプチド(p3)のN末端のシステイン残基の側鎖に標識物質が結合したポリペプチドである。一方、ポリペプチド(p6)は、ポリペプチド(p4)のN末端のアミノ基に標識物質が結合したポリペプチドである。このように、N末端のアミノ酸残基に標識物質を結合させることにより、標識物質による立体障害が生じにくく、C末端の配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチド(エピトープ部位)と抗C3a−desArg特異的抗体との結合が阻害されにくい。すなわち、本発明のC3a−desArg検出用ポリペプチドは、エピトープ認識障害を十分に抑制しつつ、標識物質を結合させることができる。
【0046】
ポリペプチド(p3)は、システイン残基をN末端アミノ酸残基として1個のみ有しているポリペプチドであり、システイン残基は、側鎖に反応性の高いSH基を有する。このため、ポリペプチド(p3)への標識物質の結合を、システイン残基のSH基を介して行うことによって、当該ポリペプチドのN末端にのみ標識物質が結合されたポリペプチドを、効率よく作製することができる。
【0047】
システイン残基の側鎖に標識物質を結合させる反応としては、システイン残基(主にSH基)と標識物質とを結合させる場合に一般的に用いられている結合反応のいずれであってもよい。例えば、ポリペプチドのシステイン残基のSH基と、標識物質等のSH基又はアミノ基との架橋反応であってもよく、2以上のリガンドと特異的に結合する受容体と、N末端のシステイン残基又はアミノ基に前記リガンドを結合させたポリペプチドとの結合反応であってもよい。このようなリガンドと受容体としては、タンパク質やポリペプチドの標識に一般的に用いられるものであって、C3a−desArg検出用ポリペプチドと抗C3a−desArg特異的抗体との結合を阻害しないものであれば、特に限定されるものではない。たとえば、リガンドとしてビオチンを、受容体としてストレプトアビジンを挙げることができる。本発明においては、ポリペプチド(p5)としては、ポリペプチド(p3)のN末端のシステイン残基のSH基とマレイミド化された標識物質とを結合させたポリペプチドであることが好ましい。
【0048】
一方、ポリペプチド(p4)は、リジン残基を有さないポリペプチド又はリジン残基をN末端に1個のみ有するポリペプチドである。リジン残基は、側鎖にアミノ基を有するアミノ酸の中でも比較的反応性の高いアミノ酸残基である。このようなリジン残基を有さない、又はN末端に1個のみ有することにより、当該ポリペプチド中で十分な反応性を有するアミノ基は、N末端のアミノ酸の一級アミンのみとすることができる。このため、ポリペプチド(p4)への標識物質の結合を、アミノ基を介して結合させる反応により行うことによって、当該ポリペプチドのN末端にのみ標識物質が結合されたポリペプチド(p6)を、効率よく作製することができる。
【0049】
アミノ基に標識物質を結合させる反応としては、アミノ基と標識物質とを結合させる場合に一般的に用いられている結合反応のいずれであってもよい。例えば、ポリペプチドのN末端のアミノ基(N末端のアミノ酸残基がリジン残基である場合には当該リジン残基の側鎖のアミノ基であってもよい)と、標識物質等のSH基との架橋反応であってもよく、2以上のリガンドと特異的に結合する受容体と、N末端のアミノ基に前記リガンドを結合させたポリペプチドとの結合反応であってもよい。本発明においては、ポリペプチド(p6)としては、ポリペプチド(p4)のN末端のアミノ酸の一級アミンとNHSエステル化された標識物質とを結合させたポリペプチドであることが好ましい。
【0050】
このように、N末端の一級アミン又はシステイン残基が有するSH基と、標識物質とを反応させることにより、ポリペプチドに標識物質を付加するための官能基を別途設ける必要がなく、簡便に標識物質と結合したC3a−desArg検出用ポリペプチドを得ることができる。中でも、C3a−desArg検出用ポリペプチド{ポリペプチド(p3)又はポリペプチド(p4)}と標識物質との結合は、当該C3a−desArg検出用ポリペプチドのN末端のアミノ酸の一級アミンとNHSエステル化された標識物質との結合、又はN末端のシステイン残基のSH基とマレイミド化された標識物質を介した結合であることが好ましい。
【0051】
ポリペプチド(p5)としては、前述したポリペプチド(p3)のN末端のシステイン残基の側鎖に標識物質が結合したポリペプチドであれば、特に限定されるものではないが、9〜20アミノ酸からなるポリペプチド(p3)のN末端のシステイン残基の側鎖に標識物質が結合したポリペプチドであることが好ましく、配列番号3又は4のアミノ酸配列からなるポリペプチドのN末端のシステイン残基の側鎖に標識物質が結合したポリペプチドであることがより好ましい。
【0052】
ポリペプチド(p6)としては、前述したポリペプチド(p4)のN末端のアミノ基に標識物質が結合したポリペプチドであれば、特に限定されるものではないが、8〜20アミノ酸からなるポリペプチド(p4)のN末端のアミノ基に標識物質が結合したポリペプチドであることが好ましく、配列番号1、3、及び4のアミノ酸配列からなる群より選択される1のポリペプチドのN末端のアミノ基に標識物質が結合したポリペプチドであることがより好ましい。
【0053】
C3a−desArg検出用ポリペプチド{ポリペプチド(p3)又はポリペプチド(p4)}に結合させる標識物質としては、通常ポリペプチドの標識に用いられるものであって、C3a−desArg検出用ポリペプチドと抗C3a−desArg特異的抗体との結合を阻害しないものであれば、特に限定されるものではなく、C3a−desArg検出用ポリペプチドの測定方法等を考慮して適宜選択して用いることができる。このような標識物質として、例えば、蛍光物質、酵素、放射性同位体、化学発光物質、及び磁気物質等がある。本発明のC3a−desArg検出用ポリペプチドの標識物質としては、蛍光物質、酵素、放射性同位体、化学発光物質等であることが好ましく、蛍光物質又は酵素であることがより好ましい。
【0054】
C3a−desArg検出用ポリペプチドの標識に用いられる化学発光物質としては、ルミノール等のように無機反応により発光する物質であってもよく、ルシフェリン、セランテラジン等の酵素によって触媒される発光物質であってもよい。
【0055】
C3a−desArg検出用ポリペプチドの標識に用いられる酵素としては、酵素反応を利用した標的物質の検出等において、特に、抗原抗体反応の検出において、通常用いられている酵素から適宜選択して用いることができる。このような酵素として、例えば、アルカリフォスファターゼ、ペルオキシダーゼ、ルシフェラーゼ等がある。C3a−desArg検出用ポリペプチドの標識に用いられる酵素としては、アルカリフォスファターゼ又はペルオキシダーゼであることが好ましい。
【0056】
C3a−desArg検出用ポリペプチドの標識に用いられる蛍光物質としては、特に限定されるものでなく、ペプチドやタンパク質等の標識において通常用いられている蛍光物質から適宜選択して用いることができる。このような蛍光物質としては、例えば、TAMRA、FITC(フルオレセインイソチオシアナート)、フルオレセイン、ローダミン、NBD、TMR(テトラメチルローダミン)、Alexa Fluor(登録商標)(インビトロジェン社製)、Cy dyeシリーズ(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)、Atto dyeシリーズ(Atto tec社製)、GFP(Green Fluorescent Protein)、YFP(Yellow Fluorescent Protein)、ユーロピウム等の希土類錯体等がある。C3a−desArg検出用ポリペプチドと抗C3a−desArg特異的抗体との結合に対する影響を抑えることができるため、TAMRA、FITC、フルオレセイン、ローダミン、NBD、TMR、Alexa Fluor等の比較的分子量の小さい蛍光物質であることが好ましい。特に、TMR等のように、連続して光照射を行った場合でも比較的安定して蛍光を発する色素であることが好ましい。このように退色し難い蛍光物質を標識として用いることにより、C3a−desArg検出用ポリペプチドの測定時における光照射の時間や回数の影響を抑えて、計測値ごとのばらつきを防止し、より安定した測定結果を得ることができる。
【0057】
<C3a−desArg濃度測定方法>
本発明のC3a−desArg濃度測定方法に供される生体試料は、ヒトC3aを含有することが期待できる生体試料、すなわち、ヒト由来の生体試料であれば、特に限定されるものではない。該生体試料として、例えば、ヒトから採取された、血液、骨髄液、リンパ液、唾液、腹水、滲出液、喀痰、精液、胆汁、膵液、羊膜液、糞便、尿、腸管洗浄液、肺洗浄液、気管支洗浄液、又は膀胱洗浄液等が挙げられる。本発明においては、生体試料は、採取後一定期間保存されたものであってもよいが、採取直後のものであることが好ましい。C3の分解により生体試料中のC3a量は変動しやすいため、採取後に生体試料を保存する場合には、冷凍保存又は冷蔵保存であることが好ましく、冷凍保存であることがより好ましい。
【0058】
また、該生体試料は、ヒトから採取された状態の試料であってもよく、調製した試料であってもよい。該調製の方法は、該試料中に含有されているヒトC3a−desArgを損なわない方法であれば、特に限定されるものではなく、通常、生体試料等に対してなされている調製方法を行うことができる。該調製方法として、例えば、粘液等の洗浄除去や、生理食塩水等を用いた希釈、細胞性構成要素の分離又は濃縮等がある。なお、生体試料の希釈液としては、セリンプロテアーゼ阻害剤等を含有するバッファー等を用いることが好ましい。
【0059】
本発明のC3a−desArg濃度測定方法に供される生体試料としては、特に、定期健診や診断等のためにヒトから採取された血液、血清、血漿、リンパ液、骨髄液、及びこれらの希釈液等であることが好ましく、血液、血清、血漿等であることがより好ましく、血清であることがさらに好ましい。
【0060】
本発明のC3a−desArg濃度測定方法において用いられる抗ヒトC3a−desArg特異的抗体は、C3a−desArgと結合し得る抗体であって、C3a−desArgのC末端の8アミノ酸をエピトープとし、C3と交差しない抗体であれば、特に限定されるものではなく、抗C3a−desArg抗体(abcam社製)等の市販の抗体を用いてもよく、非特許文献2に記載の方法に準じて製造されたものであってもよい。
【0061】
本発明のC3a−desArg濃度測定方法は、具体的には、下記の工程(1a)〜(1f)を有する。
(1a) 反応溶液に、所定量のC3a−desArg検出用ポリペプチドと、生体試料と、抗ヒトC3a−desArg特異的抗体とを添加して、C3a−desArg検出用ポリペプチドと前記生体試料中のヒトC3a−desArgとを、抗ヒトC3a−desArg特異的抗体に対して競合的に結合させることにより、C3a−desArg検出用ポリペプチドと抗ヒトC3a−desArg特異的抗体との結合体を形成する工程と、
(1b) 前記工程(1a)において得られた結合体を形成しているC3a−desArg検出用ポリペプチド量を測定する工程と、
(1c) 反応溶液に、所定量のC3a−desArg検出用ポリペプチドと、少なくとも1以上の濃度既知の競合用ポリペプチド溶液と、抗ヒトC3a−desArg特異的抗体とを添加して、C3a−desArg検出用ポリペプチドと競合用ポリペプチドとを、抗ヒトC3a−desArg特異的抗体に対して競合的に結合させることにより、C3a−desArg検出用ポリペプチドと抗ヒトC3a−desArg特異的抗体との結合体を形成する工程と、
(1d) 前記工程(1c)において得られた結合体を形成しているC3a−desArg検出用ポリペプチド量を測定する工程と、
(1e) 前記工程(1c)において反応溶液に添加された競合用ポリペプチド量と、前記工程(1d)において測定されたC3a−desArg検出用ポリペプチド量とを相関させる工程と、
(1f) 前記工程(1e)において得られた相関に基づき、工程(1b)において測定されたC3a−desArg検出用ポリペプチド量から、前記生体試料中のヒトC3a−desArg度を算出する工程。
以下、工程ごとに説明する。
【0062】
まず、工程(1a)として、反応溶液に、所定量のC3a−desArg検出用ポリペプチドと、生体試料と、抗ヒトC3a−desArg特異的抗体とを添加して、C3a−desArg検出用ポリペプチドと前記生体試料中のヒトC3a−desArgとを、抗ヒトC3a−desArg特異的抗体に対して競合的に結合させることにより、C3a−desArg検出用ポリペプチドと抗ヒトC3a−desArg特異的抗体との結合体(以下、「検出用ポリペプチド含有結合体」ということがある。)を形成した後、工程(1b)として、工程(1a)において得られた検出用ポリペプチド含有結合体を形成しているC3a−desArg検出用ポリペプチド量を測定する。
【0063】
反応溶液中のヒトC3a−desArg量が多いほど、検出用ポリペプチド含有結合体を形成しているC3a−desArg検出用ポリペプチド量が少なくなる。つまり、検出用ポリペプチド含有結合体を形成しているC3a−desArg検出用ポリペプチド量は、反応溶液中のヒトC3a−desArg量に依存して、すなわち、生体試料中に含まれていたヒトC3a−desArg量に依存して変動する。
【0064】
そこで、反応溶液中のC3a−desArg量と、形成された検出用ポリペプチド含有結合体中のC3a−desArg検出用ポリペプチド量との相関関係を調べ、得られた相関に基づいて、生体試料中に含まれていたヒトC3a−desArg量を算出することができる。
【0065】
前記相関は、具体的には、工程(1c)として、工程(1a)とは別の反応溶液に、所定量のC3a−desArg検出用ポリペプチドと、少なくとも1以上の濃度既知の競合用ポリペプチド溶液と、抗ヒトC3a−desArg特異的抗体とを添加して、C3a−desArg検出用ポリペプチドと競合用ポリペプチドとを、抗ヒトC3a−desArg特異的抗体に対して競合的に結合させることにより、C3a−desArg検出用ポリペプチドと抗ヒトC3a−desArg特異的抗体との結合体(検出用ポリペプチド含有結合体)を形成した後、工程(1d)として、工程(1c)において得られた検出用ポリペプチド含有結合体を形成しているC3a−desArg検出用ポリペプチド量を測定し、さらに工程(1e)として、工程(1c)において反応溶液に添加された競合用ポリペプチド量と、前記工程(1d)において測定されたC3a−desArg検出用ポリペプチド量とを相関させる。その後、工程(1f)として、工程(1e)において得られた相関に基づき、工程(1b)において測定されたC3a−desArg検出用ポリペプチド量から、前記生体試料中のヒトC3a−desArg濃度が算出されることにより、生体試料中のヒトC3a−desArg濃度を測定することができる。
【0066】
競合用ポリペプチドとは、本発明のC3a−desArg検出用ポリペプチドと識別可能なものであって、C3a−desArgと同様に、C3a−desArg検出用ポリペプチド等と抗C3a−desArg特異的抗体との結合を競合的に阻害し得るポリペプチドであれば特に限定されるものではない。このような競合用ポリペプチドとしては、ヒトC3a−desArgの全長タンパク質又はそのC末端の8アミノ酸を含む部分ポリペプチド等が挙げられる。用いられるC3a−desArg検出用ポリペプチドが、標識物質で結合されたものである場合には、当該C3a−desArg検出用ポリペプチドと同じアミノ酸配列からなる未標識のポリペプチドであることが好ましい。その他、当該C3a−desArg検出用ポリペプチドからN末端のシステイン残基が欠損した未標識のポリペプチドであってもよい。
【0067】
工程(1c)においては、濃度既知の競合用ポリペプチド溶液を反応溶液に添加することにより、反応溶液中の競合用ポリペプチドの濃度又は量が算出できる。そこで、この算出された競合用ポリペプチドの濃度又は量と、工程(1d)で測定された当該反応溶液中の検出用ポリペプチド含有結合体を形成しているC3a−desArg検出用ポリペプチド量とから、両者を相関させることができる。なお、本発明において、反応溶液中の競合用ポリペプチド濃度と当該複合体中のC3a−desArg検出用ポリペプチド量とを相関させるとは、当該複合体中のC3a−desArg検出用ポリペプチド量の測定値から、大凡の反応溶液中の競合用ポリペプチド濃度が推定できるものであればよく、複数の濃度の競合用ポリペプチド溶液を用いて測定することにより、競合用ポリペプチドによる阻害曲線を作成し、これを検量線として相関を決定するものであってもよく、1の濃度の競合用ポリペプチド溶液のみを用いて測定することにより、いわゆる基準値を決定する半定量的なものであってもよい。
【0068】
例えば、1の濃度の競合用ポリペプチド溶液を段階的に希釈した複数の希釈溶液を、それぞれ別個の反応溶液に添加し、当該反応溶液中の検出用ポリペプチド含有結合体を形成しているC3a−desArg検出用ポリペプチド量を測定する。反応溶液中の競合用ポリペプチド濃度(又は量)と測定された当該複合体中のC3a−desArg検出用ポリペプチド量とから、両者の相関関係を近似する検量線を作成することができる。この作成された検量線に基づき、工程(1b)において測定されたC3a−desArg検出用ポリペプチド量から、前記生体試料中のヒトC3a−desArg濃度を算出することができる。なお、工程(1c)において、複数の競合用ポリペプチド溶液に対して反応を行う場合には、各競合用ポリペプチド溶液における反応の反応時間等の条件が等しいことを要する。
【0069】
また、例えば、工程(1c)において、1の濃度の競合用ポリペプチド溶液を反応溶液に添加し、工程(1d)において、得られた検出用ポリペプチド含有結合体を形成しているC3a−desArg検出用ポリペプチド量を測定した場合には、工程(1b)において測定されたC3a−desArg検出用ポリペプチド量の測定値が、工程(1d)において得られた測定値よりも小さい場合には、前記生体試料中のヒトC3a−desArg濃度は、工程(1c)において調製した反応溶液中の競合用ポリペプチド濃度未満であり、逆に、工程(1d)において得られた測定値以上である場合には、前記生体試料中のヒトC3a−desArg濃度は、工程(1c)において調製した反応溶液中の競合用ポリペプチド濃度以上であることが求められる。
【0070】
なお、生体試料中のヒトC3a−desArg濃度をより精確に求めるために、工程(1c)における反応溶液中において検出用ポリペプチド含有結合体を形成させる反応は、工程(1a)における反応とほぼ同じ条件であることが好ましい。ここで、当該反応は、反応溶液のC3a−desArg検出用ポリペプチドの種類と濃度、抗ヒトC3a−desArg特異的抗体の種類と濃度、反応溶液中のC3a−desArg検出用ポリペプチドと抗ヒトC3a−desArg特異的抗体とを結合させる反応時間とに影響を受ける。このため、工程(1a)と工程(1c)は、同種の、好ましくは同じロットのC3a−desArg検出用ポリペプチドや抗ヒトC3a−desArg特異的抗体を用いることが好ましく、工程(1a)における反応溶液のC3a−desArg検出用ポリペプチド及び抗ヒトC3a−desArg特異的抗体の濃度は、工程(1c)における反応溶液のC3a−desArg検出用ポリペプチド及び抗ヒトC3a−desArg特異的抗体の濃度と等しいことが好ましい。さらに、工程(1b)における測定と工程(1d)における測定とは、同じ測定方法により行うことを要する。
【0071】
特に、工程(1a)における反応溶液中のC3a−desArg検出用ポリペプチドと抗ヒトC3a−desArg特異的抗体とを結合させる反応時間と、工程(1c)における反応溶液中のC3a−desArg検出用ポリペプチドと抗ヒトC3a−desArg特異的抗体とを結合させる反応時間とが等しいことが好ましい。
【0072】
工程(1a)と工程(1c)を行う順番は特に限定されるものではなく、工程(1a)を行った後に工程(1c)を行ってもよく、工程(1c)を行った後に工程(1a)を行ってもよく、両者を同時に行ってもよい。さらに、工程(1a)と工程(1c)を一連の操作として行ってもよく、独立して別個に行ってもよい。
【0073】
また、一の生体試料に対して工程(1a)及び(1b)を行うごとに、工程(1c)〜(1e)を行うことにより、より精度よく当該生体試料中のヒトC3a−desArg濃度を測定することができる。
【0074】
一方、反応条件を整えた実験系であれば、実験ごとの測定値の変動は小さい。このため、生体試料ごとに工程(1c)〜(1e)を行う必要はなく、既に同じ反応条件において工程(1c)〜(1e)を行って求められている、反応溶液中の競合用ポリペプチドと検出用ポリペプチド含有結合体中のC3a−desArg検出用ポリペプチド量との相関(例えば、前述の検量線や基準値)を利用して、生体試料中のヒトC3a−desArg濃度を算出することもできる。
【0075】
本発明においては、抗C3a−desArg特異的抗体に対して、C3a−desArg検出用ポリペプチドと、生体試料中のヒトC3a−desArgとを、競合的に結合させることができればよく、三者を同時に反応させてもよく、抗C3a−desArg特異的抗体とヒトC3a−desArgとを反応させ、ヒトC3a−desArgと抗C3a−desArg特異的抗体との複合体を形成させた後に、当該複合体に対してC3a−desArg検出用ポリペプチドを反応させてもよく、抗C3a−desArg特異的抗体とC3a−desArg検出用ポリペプチドとを反応させた後に、形成された検出用ポリペプチド含有結合体とヒトC3a−desArgとを反応させてもよい。
【0076】
本発明においては、予め形成された生体試料由来ヒトC3a−desArgと抗C3a−desArg特異的抗体との複合体に、C3a−desArg検出用ポリペプチドを反応させることが好ましい。具体的には、前記工程(1a)が、下記工程(1a’−1)及び(1a’−2)からなり、工程(1c)が、下記工程(1c’−1)及び(1c’−2)からなる方法である。
(1a’−1) 反応溶液に、生体試料と抗ヒトC3a−desArg特異的抗体とを添加して、C3a−desArg−抗ヒトC3a−desArg特異的抗体複合体を形成する工程。
(1a’−2) 前記工程(1a’−1)の後、前記反応溶液に、さらに、所定量のC3a−desArg検出用ポリペプチドを添加して、C3a−desArg検出用多価ポリペプチドとヒトC3a−desArgとを、抗ヒトC3a−desArg特異的抗体に対して競合的に結合させることにより、検出用ポリペプチド含有結合体を形成する工程。
(1c’−1) 反応溶液に、少なくとも1以上の濃度既知の競合用ポリペプチド溶液と、抗ヒトC3a−desArg特異的抗体とを添加して、競合用ポリペプチド−抗ヒトC3a−desArg特異的抗体複合体を形成する工程。
(1c’−2) 前記工程(1c’−1)の後、前記反応溶液に、さらに、所定量のC3a−desArg検出用ポリペプチドを添加して、C3a−desArg検出用ポリペプチドと競合用ポリペプチドとを、抗ヒトC3a−desArg特異的抗体に対して競合的に結合させることにより、検出用ポリペプチド含有結合体を形成する工程。
【0077】
工程(1a)及び(1c)と同様に、工程(1a’−1)における生体試料中のヒトC3a−desArgと抗ヒトC3a−desArg特異的抗体との結合反応と、工程(1c’−1)における競合用ポリペプチド−抗ヒトC3a−desArg特異的抗体複合体との結合反応とは、同じ反応条件で行うことが好ましい。特に、工程(1a’−1)における反応溶液中のC3a−desArgaと抗ヒトC3a−desArg特異的抗体とを結合させる反応時間と、工程(1c’−1)における反応溶液中の競合用ポリペプチドと抗ヒトC3a−desArg特異的抗体とを結合させる反応時間とが等しく、かつ工程(1a’−2)における反応溶液中のC3a−desArg検出用ポリペプチドと抗ヒトC3a−desArg特異的抗体とを結合させる反応時間と、工程(1c’−2)における反応溶液中のC3a−desArg検出用ポリペプチドと抗ヒトC3a−desArg特異的抗体とを結合させる反応時間とが等しいことが好ましい。
【0078】
本発明のC3a−desArg濃度測定方法においては、抗原抗体反応の時間、すなわち、反応溶液中の生体試料由来ヒトC3a−desArgと、当該抗C3a−desArg特異的抗体とを結合させる反応時間が、30分間以内であることが好ましく、15分間以内であることがより好ましく、10分間以内であることがさらに好ましい。抗原抗体反応に要する時間が短時間であるほど、生体試料中のC3の分解等によるC3a−desArg量の変動の影響を低減することができるためである。
【0079】
具体的には、工程(1a)における反応溶液中のC3a−desArg検出用ポリペプチドと抗ヒトC3a−desArg特異的抗体とを結合させる反応時間が、30分間以内であることが好ましく、15分間以内であることがより好ましく、10分間以内であることがさらに好ましい。
また、工程(1a’−1)における反応溶液中のC3a−desArgと抗ヒトC3a−desArg特異的抗体とを結合させる反応時間と、前記工程(1a’−2)における反応溶液中のC3a−desArg検出用ポリペプチドと抗ヒトC3a−desArg特異的抗体とを結合させる反応時間との和が30分間以内であることが好ましく、15分間以内であることがより好ましく、10分間以内であることがさらに好ましい。
【0080】
得られた検出用ポリペプチド含有結合体を形成するC3a−desArg検出用ポリペプチド量の測定方法は、特に限定されるものではなく、一般的に2種類の物質の相互作用を、定量的又は半定量的に測定するために用いられる公知のいずれの手法を用いてもよい。
【0081】
例えば、C3a−desArg検出用ポリペプチドとして、ポリペプチド(p1)やポリペプチド(p2)のような多価ポリペプチドを用いた場合には、検出用ポリペプチド含有結合体は凝集体として形成される。そこで、この生じた凝集体量を、一般的に抗原抗体反応による凝集を検出する際に用いられる免疫比濁法等を用いて測定することにより、検出用ポリペプチド含有結合体を形成するC3a−desArg検出用ポリペプチド量を測定することができる。
【0082】
また、C3a−desArg検出用ポリペプチドとして、ポリペプチド(p5)やポリペプチド(p6)のような標識された一価のポリペプチドを用いた場合には、当該標識物質から発されるシグナル又は標識物質により発されるシグナルを検出することにより、抗C3a−desArg特異的抗体と結合しているC3a−desArg検出用ポリペプチド量を測定することができる。例えば、標識物質が蛍光物質である場合には、該蛍光物質から発される蛍光強度を測定することにより、C3a−desArg検出用ポリペプチド量を測定することができる。一方、標識物質が酵素である場合には、該酵素の基質や酵素反応により呈色する物質等を添加し、酵素反応によって変換された色素量等を測定することにより、C3a−desArg検出用ポリペプチド量を測定することができる。なお、これらの蛍光強度や色素量等の定量的又は半定量的測定は、分光光度計を用いた測定法等の常法により行うことができる。
【0083】
本発明のC3a−desArg濃度測定方法は、固相法のアッセイ系でも行うことができる。例えば、ビーズ等の担体に固相化させた抗C3a−desArg特異的抗体に、生体試料を接触させることにより、生体試料中のC3a−desArgと抗C3a−desArg特異的抗体とを結合させた後、標識物質により標識された所定量のC3a−desArg検出用ポリペプチドを添加し、抗C3a−desArg特異的抗体と競合的に結合させる。ここで、固相化させた抗C3a−desArg特異的抗体に、生体試料と標識されたC3a−desArg検出用ポリペプチドとを同時に接触させて、反応させてもよい。 測定試料毎にあらかじめ定めた時間が経過した後、ビーズ等の担体を洗浄して遊離の(未結合の)C3a−desArg検出用ポリペプチドを除去する。そして、担体に固相化させた抗C3a−desArg特異的抗体に結合したC3a−desArg検出用ポリペプチドの標識物質から発されるシグナル又は標識物質により発されるシグナルを検出することにより、抗C3a−desArg特異的抗体と結合しているC3a−desArg検出用ポリペプチド量を測定する。
【0084】
本発明のC3a−desArg濃度測定方法は、洗浄工程を要しないホモジニアスなアッセイ系であること、すなわち、前記工程(1b)が、前記工程(1a)における反応溶液自体を測定試料とし、かつ、前記工程(1d)が、前記工程(1c)における反応溶液自体を測定試料とすることが好ましい。ホモジニアスなアッセイ系を用いることにより、C3a−desArg検出用ポリペプチド等の試薬を混ぜるだけの単一ステップによる迅速な測定が可能となる。また、データのばらつきの原因の一つである洗浄工程がないため、短時間でデータを得られるのみならず、ばらつきの少ないより信頼性の高い測定結果が得られる。さらに、工程が少ないため、作業者によるデータの差や日差が少ないことに加えて、測定工程の自動化が容易となる。
【0085】
ホモジニアスなアッセイ系の中でも、抗原抗体反応による凝集を検出する免疫比濁法によるアッセイ系(以下、「凝集系」ということがある。)で行うことがより好ましい。具体的には、ポリペプチド(p5)又はポリペプチド(p6)と、生体試料中のC3a−desArgとを、抗C3a−desArg特異的抗体に対して競合的に結合させ、生じる凝集体量を、濁度を測定することにより行う。
【0086】
得られた凝集体を形成するC3a−desArg検出用ポリペプチド{ポリペプチド(p1)又はポリペプチド(p2)}量の測定方法は、特に限定されるものではなく、常法により行うことができる。例えば、凝集体が形成された反応溶液の濁度を、吸光度法により測定することによって行うことができる。なお、凝集系による測定方法は、臨床検査で通常用いられている方法である。このため、凝集系を用いた本発明のC3a−desArg濃度測定方法は、簡便な検査法として臨床検査への適応が可能となる。また、特に配列番号4のアミノ酸配列からなるポリペプチド同士を結合させた多価のC3a−desArg検出用ポリペプチドは、塩基性に富み、凝集を容易に起こすため、アッセイ系の最適化が容易である。
【0087】
また、標識物質で標識されたC3a−desArg検出用ポリペプチド{ポリペプチド(p5)又はポリペプチド(p6)}を用いた場合のホモジニアスなアッセイ系としては、例えば、検出用ポリペプチド含有結合体を形成しているC3a−desArg検出用ポリペプチド量の測定を、前記標識物質から発されるシグナルを、一分子蛍光分析法により検出する方法が挙げられる。一分子蛍光分析法とは、蛍光一分子からの蛍光を測定・解析する方法であり、例えば、蛍光相関分光法(Fluorescence Correlation Spectroscopy:FCS)、蛍光強度分布解析法(Fluorescence−Intensity Distribution Analysis:FIDA)、蛍光偏光解析法(FIDA polarization:FIDA−PO)、蛍光共鳴エネルギー移動(Fluorescence resonance energy transfer:FRET)法等がある。本発明の反応系としては、分子の大きさの変化や分子間の距離の変化を効率よく検出し得るFCS、FIDA−PO、又はFRETであることが好ましく、FCS又はFRETであることがより好ましく、FCSであることがさらに好ましい。なお、各方法を利用したC3a−desArg検出用ポリペプチド量の測定は、それぞれ常法により行うことができる。
【0088】
FRETとは、分子をそれぞれ分光特性の異なる複数の蛍光物質で標識し、複数の蛍光物質間のエネルギートランスファーによって、分子から発せられる蛍光の波長や蛍光量が、分子同士の距離が非常に近づいた場合に、単独の場合から変化することを利用した反応系であり、分子間の距離や結合を測定するのに用いられる。例えば、C3a−desArg検出用ポリペプチドを、蛍光エネルギーを与える蛍光物質(ドナー)を用いて標識し、抗C3a−desArg特異的抗体を、ドナーからのエネルギーを励起エネルギーとして受け取る蛍光物質(アクセプター)を用いて標識する。予め形成させたドナー標識済み抗C3a−desArg特異的抗体と生体試料中のC3a−desArgの複合体に対し、アクセプター標識済みC3a−desArg検出用のポリペプチドを添加すると、生体試料中のC3a−desArgと競合することにより、生体試料中のC3a−desArg濃度が高いほど、ドナー標識済み抗体とアクセプター標識C3a−desArgポリペプチドの結合が阻害される。そのため、ドナーとアクセプターが近接した場合に発せらせるFRETによる蛍光波長の発生が阻害される。すなわち、FRETにより発生される蛍光波長の蛍光強度を測定することにより、抗C3a−desArg特異的抗体と結合している蛍光標識ポリペプチド量を求めることができる。
さらに、ドナー蛍光物質に長時間蛍光を発するユーロピウム等の希土類錯体を用いた時間に、分解FRET(TR−FRET)を用いて、励起光による生体試料中の夾雑物の蛍光が、退色した後のドナー蛍光物質の長時間蛍光を測定することにより、バックグラウンド値の低い生体試料中のC3a−desArg濃度の測定を行うことができる。
【0089】
FCSは、細いレーザー光の中の一定時間の分子のゆらぎを計測する方法である。透明な媒体中を拡散している分子は、焦点(極微小空間)を通過する際に、共焦点光学系で検出可能な蛍光強度の変動(分子のゆらぎ)を発生させる。大きな分子は遅く、小さな分子は早く動くことから、自己相関法により、分子の大きさに換算し、分子間の結合を測定することが可能な方法である。例えば、配列番号4のアミノ酸からなるC3a−desArg検出用ポリペプチド(約9kDa)を、N末端のシステイン残基の側鎖又はアミノ基に蛍光物質を結合させることにより蛍光標識した場合は、該蛍光標識ポリペプチドが抗C3a−desArg特異的抗体(約187kDa)と結合すると、分子の大きさが大きくなり、未結合の蛍光標識ポリペプチドよりも拡散時間(分子が焦点を通過する時間)が長くなる。この反応溶液中に、生体試料が添加されている場合には、生体試料中のC3a−desArgが競合的に抗C3a−desArg特異的抗体と結合することにより、抗C3a−desArg特異的抗体と結合している蛍光標識ポリペプチドの割合が減少し、測定時間中の平均された拡散時間が短くなる。すなわち、FCSにより、抗C3a−desArg特異的抗体と結合している蛍光標識ポリペプチド量を求めることができる。
【0090】
FIDAは、蛍光分子の一分子当たりの蛍光強度と分子数を求めることができる解析法であり、試料溶液中に蛍光強度が異なる2種類以上の蛍光分子が存在している場合、それぞれの蛍光強度を有する分子の数量及び割合を算出することもできる。例えば、C3a−desArg検出用ポリペプチドに蛍光物質を結合させて蛍光標識した場合であって、該蛍光標識ポリペプチドが未結合である場合と、抗C3a−desArg特異的抗体と結合している場合とにおいて、一分子あたりの蛍光強度が異なる場合には、FIDAにより一分子当たりの蛍光強度を観測することによって、抗C3a−desArg特異的抗体と結合している蛍光標識ポリペプチド量を求めることができる。
【0091】
FIDA−POは、FIDAと蛍光偏光解析を複合させた解析法であり、蛍光分子の蛍光偏光度と分子数を求めることができる。試料溶液中に蛍光偏光度が異なる2種類以上の蛍光分子が存在している場合、それぞれの蛍光偏光度を有する分子の数量及び割合を算出することもできる。具体的には、大きい分子は、回転運動がゆっくりとなるため、小さい分子よりも、蛍光偏光度が大きくなる。つまり、FCSと同様に、FIDA−POにより一分子当たりの蛍光偏光度を観測することにより、抗C3a−desArg特異的抗体と結合している蛍光標識ポリペプチド量を求めることができる。
【0092】
一分子蛍光分析法では、測定に蛍光を用いているため、使用する抗C3a−desArg特異的抗体や、C3a−desArg検出用ポリペプチドが低濃度である場合であっても、高感度に測定することが可能である。特に、FCS、FIDA、FIDA−POにおいては、C3a−desArg検出用ポリペプチドのみを、蛍光物質等の標識物質で標識すればよいため、抗C3a−desArg特異的抗体も標識する必要のあるFRETよりも、測定全体に要する費用を低減させることができる。
【0093】
FCSやFRET等の一分子蛍光分析法のように、一分子当たりの結合の有無を検出する方法の場合には、洗浄工程が不要であるばかりではなく、固相法で用いられるような酵素標識による化学発光検出のような間接的測定法ではなく、抗体に結合している標識されたペプチドの標識量を直接測定するため、反応とのタイムラグがなく、抗原抗体反応の直後の迅速な反応を経時的にモニターすることが可能となる。
【0094】
sandwich ELISA法や競合的ELISA法等のように、従来のプレートを用いた固相法のアッセイ系では、プレートのウェル間で反応溶液を分注する時間差があることにより、抗体と抗原の結合反応のような迅速な反応を、反応が平衡に達する前に測定しようとすると、ウェルごとに反応時間に差が生じ、正確な測定試料濃度の測定ができなかった。このため、従来法では、抗原抗体反応等の結合反応が平衡化してウェル間の差をなくす必要があり、それぞれの反応を1時間以上かけて行っていた。
本発明においては、C3a−desArg検出用ポリペプチドの標識を直接的に検出することにより、抗体と抗原の結合反応を経時的にモニター可能であり、さらに測定試料ごとに反応時間を一定にして測定すれば、抗原抗体反応が平衡に達する前に測定しても、正確な測定試料の濃度が測定できる。
さらに一分子蛍光分析法は高感度測定であるため、平衡に達する前の抗原抗体反応の立ち上がりの部分で測定しても、標識ポリペプチドと抗体の結合量の微量な差を検出することが可能となる。
【0095】
これらの理由により、本発明においては、必ずしも抗原抗体反応が平衡に達するまで待つ必要がないため、抗原抗体反応を短時間で行うことが可能となる。例えば、凝集系を用いた測定法では、抗原抗体反応が15分間以下、例えば5分間以下である場合であっても、十分にC3a−desArg検出用ポリペプチド量を測定することが可能である。一方、FRETを用いた測定法でも、抗原抗体反応が15分間以下である場合であっても、十分にC3a−desArg検出用ポリペプチド量を測定することが可能である。同様に、FCSを用いた測定法では、抗原抗体反応が5〜10分間である場合であっても、十分にC3a−desArg検出用ポリペプチド量を測定することが可能である。
【0096】
<ヒトC3a−desArg濃度測定キット>
また、本発明のC3a−desArg濃度測定方法は、前記記載のC3a−desArg検出用ポリペプチド{ポリペプチド(p1)〜(p6)}と、抗C3a−desArg特異的抗体と、濃度既知のヒトC3a−desArg又はその部分ポリペプチドの標準溶液を含むヒトC3a−desArg濃度測定キットを用いることにより、より簡便に行うことができる。これらのキットは、トレーサーである標識された物質として、C3aやC3a−desArgの全長タンパク質に代えてポリペプチドを用いていることにより、安定であり保存性がよく、特別な保存法を開発しなくても、抗原性が長期間保持し得る。また、より安価な試薬キットを提供できる。
【0097】
これらのキットに含まれるヒトC3a−desArg又はそのC末端の8アミノ酸を含む部分ポリペプチドの標準溶液とは、ヒトC3a−desArgの全長タンパク質溶液であってもよく、C末端の8アミノ酸を含む部分ポリペプチド溶液であってもよい。濃度既知のヒトC3a−desArg等の標準溶液は、前記記載の競合用ポリペプチドとして用いることができる。なお、当該標準溶液としては、ヒトC3a−desArgと同様に、C3a−desArg検出用ポリペプチド等と抗C3a−desArg特異的抗体との結合を競合的に阻害し得る化合物の溶液であればよく、例えば、ヒトC3a−desArg標準溶液として、該C3a−desArg検出用ポリペプチドからN末端のシステイン残基が欠損した未標識のポリペプチドの溶液であってもよい。
【0098】
さらに、これらのキットは、本発明のC3a−desArg濃度測定方法に用いられる他の試薬等を適宜含んでいてもよい。該試薬として、例えば、生体試料の希釈や、抗原抗体反応の反応溶液の調製に用いられる緩衝液等が挙げられる。
【実施例】
【0099】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0100】
[参考例1] C3a−desArg検出用ポリペプチドを用いたFCS計測での結合反応測定
抗C3a−desArg特異的抗体(abcam社製、製品番号:ab11873)と、配列番号4のアミノ酸配列からなり、TAMRAをN末端のシステイン残基に結合させたTAMRA蛍光標識済みC3a−desArg検出用ポリペプチド(シグマ社により合成;以下、蛍光C3a−desArgポリペプチド)を用いて、FCS計測により、結合反応を測定した。測定機としてはMF20(オリンパス社製)を用いた。
まず、抗C3a−desArg特異的抗体の希釈系列(0、1、10、100nM)と、2nMの蛍光C3a−desArgポリペプチドを、PBS−tween中に溶解して混合し、5分間放置した後、各反応溶液をFCS計測にて5秒間5回の条件で測定し、拡散時間の平均値を算出した。
この結果、図1に示すように、拡散時間は、抗C3a−desArg特異的抗体の濃度依存的に増大し、100nMの場合に最大となった。拡散時間は分子の大きさと相関するため、蛍光C3a−desArgポリペプチドが抗C3a−desArg特異的抗体と濃度依存的に結合していることが確認された。
【0101】
[参考例2] 蛍光C3a−desArgポリペプチドと抗C3a−desArg特異的抗体との結合に対するC3a−desArg抽出物の競合的結合阻害の測定
次に、10nMの抗C3a−desArg特異的抗体(abcam社製)と、濃度既知のヒトC3a−desArg抽出物の希釈系列(1000、500、250、125、62.5、31.25、15.625、7.8125nM)とを混合し、室温で5分間放置した後、2nMの蛍光C3a−desArgポリペプチドを加えてさらに室温10分間インキュベーションし、参考例1と同様にしてFCS計測により、結合反応を測定した。
この結果、図2に示すように、約10nMのヒトC3a−desArg抽出物を添加した場合に結合阻害反応が検出され、また、拡散時間は、ヒトC3a−desArg抽出物の濃度依存的に減少し、競合的な抗原抗体反応の阻害がおきていることが確認された。
【0102】
[実施例1]
凝集系を用いた遅延型競合的抗原抗体反応において、生体試料中のヒトC3a−desArg濃度が測定可能であることを確認した。
まず、参考例1において用いた抗C3a−desArg特異的抗体を、ラテックスビーズに常法により結合させて、抗C3a−desArg特異的抗体感作ビーズを作製した。
また、配列番号4のアミノ酸配列からなるC3a−desArg検出用ポリペプチド(未標識品;以下、配列4のC3a−desArgポリペプチド)を、シグマ社に依頼して合成した。合成されたポリペプチドは、N末端のシステイン残基の側鎖を介したS−S結合により、2価のポリペプチドであった。
一方、配列番号5のアミノ酸配列からなるC3a−desArg検出用ポリペプチド(未標識品;以下、配列5のC3a−desArgポリペプチド)を、シグマ社に依頼して合成した。合成されたポリペプチドは配列内部に複数のシステインを含んでいる。
それぞれのペプチドをDTTにてS−S結合を還元したのち、EMCS(同人化学社製)の架橋反応により、システインのSH基とNH基を架橋させる反応を行った。
配列4のポリペプチドは、N末端のシステインがそれぞれ架橋した規則正しい構造となったが、配列5のポリペプチドは、N末端のシステインと配列内部のシステインがランダムにN末端のNH基と結合する複雑な構造となった。
抗C3a−desArg特異的抗体感作ビーズと、配列4のC3a−desArgポリペプチド又は配列5のC3a−desArgポリペプチド(0、2、4、8、16nM)とを混合して室温で5分間放置した後、各溶液の600nmの波長の吸光度を測定した。各溶液のOD(600nm)値から、C3a−desArgポリペプチドの濃度が0nMである溶液(C3a−desArgポリペプチドを添加していない溶液)のOD(600nm)値を差し引いた値(△OD(600nm)値)を図3に示す。
この結果、図3に示すように、ポリペプチドの濃度依存的にOD(600nm)値が上昇していた。これらの結果から、いずれのポリペプチドも、感作ビーズ中の抗C3a−desArg特異的抗体と結合し、凝集体を形成するが、配列4のC3a−desArgポリペプチドの架橋物では、配列5のC3a−desArgポリペプチドの架橋物を用いた場合よりも、より低濃度のポリペプチドで十分量の凝集体を形成できること、また、配列4のC3a−desArgポリペプチドのほうが、配列5のC3a−desArgポリペプチドよりも、溶液中に添加するポリペプチド濃度依存的なOD(600nm)値の上昇の割合が大きいことが確認された。これらの結果から、配列4のC3a−desArgポリペプチドのような本発明のC3a−desArg検出用ポリペプチドを用いることにより、C3a−desArgポリペプチド濃度をより精度よく検出し得ることが明らかである。
【0103】
次に、ヒトC3a−desArg溶液の希釈系列を作製し、抗C3a−desArg特異的抗体感作ビーズと混合させて5分間放置した後、配列4のC3a−desArgポリペプチド又は配列5のC3a−desArgポリペプチドを添加して、さらに5分間放置した。その後、これらの各反応溶液のOD(600nm)値を測定した。いずれにおいても、試薬調製から測定までにかかる時間は約15分間と非常に短時間であった。
この結果、いずれのポリペプチドを用いた場合であっても、添加したヒトC3a−desArg溶液の濃度依存的に、OD(600nm)値の上昇が抑制されており、凝集体形成が阻害されていることが確認された。また、配列4のC3a−desArgポリペプチド架橋物を添加した場合よりも、配列5のC3a−desArgポリペプチド架橋物を添加した場合のほうが、高濃度のヒトC3a−desArg溶液を添加しないと、凝集体形成阻害が生じないことも分かった。
【0104】
これらの結果から、配列4のC3a−desArgポリペプチド等の本発明のC3a−desArg検出用多価ポリペプチドは、凝集系においても、抗C3a−desArg特異的抗体に対して生体試料中のヒトC3a−desArgと競合的に結合し、C3a−desArg濃度の測定におけるトレーサーとして好適であることが明らかとなった。中でも、配列4のC3a−desArgポリペプチドは、N末端以外の配列内部にシステインを含む配列5のC3a−desArgポリペプチドよりも低濃度で感度よく機能することが分かった。これは、配列番号5のアミノ酸配列中には、複数のシステイン残基が含まれており、このため、それぞれのシステイン残基を介したS−NH結合が形成され、得られるC3a−desArgポリペプチド架橋物は複雑な立体構造をとる結果、抗C3a−desArg特異的抗体との親和性が低下する可能性があるためと推察される。その他、配列番号4のアミノ酸配列からなるポリペプチドは、抗C3a−desArg特異的抗体のエピトープであるC末端領域が最も親水性が高い領域であるのに対して、配列番号5のアミノ酸配列中には、N末端から9〜26番目のアミノ酸からなる領域が、エピトープであるC末端領域よりもはるかに親水性が高いため、C末端領域が包埋される結果、抗C3a−desArg特異的抗体との親和性が低下している可能性もある。
【0105】
[実施例2]
抗原抗体反応時間を15分間で行った場合に、生体試料中のヒトC3a−desArg濃度が上昇するか否かを、確認した。
まず、参考例1で用いた10nMの抗C3a−desArg特異的抗体と、表1記載の物質とを、PBS−tween中に溶解して混合して試料1〜6を調製し、これらの試料を5分間インキュベーションした後、2nMの蛍光C3a−desArgポリペプチドを加えてさらに室温10分間インキュベーションすることにより遅延競合抗原抗体反応阻害を起こし、参考例1と同様にしてFCS計測により、結合反応を測定した。同時に、検量線作成用に、参考例2から阻害反応に直線性のある領域として算出した31.25、15.625、7.8125、及び0nMのC3a−desArg希釈系列を調整し、試料と同様に反応させて、FCS計測を行った。得られた検量線の拡散時間とC3a−desArg濃度の近似直線を算出し、試料1−1〜1−6の拡散時間をその近時直線式に代入して試料中のC3a−desArg濃度を算出した。なお、表1中、「−」とは、抗C3a−desArg特異的抗体の他に何も加えなかったことを意味する。いずれにおいても、試薬調製から測定までにかかる時間は約30分間であり、アッセイコストは一試料あたり約10円(10円/well)と非常に安価であった。
【0106】
【表1】

【0107】
この結果、図4に示すように、競合物のない試料1と比較して、試料2では抗C3a−desArg特異的抗体と蛍光C3a−desArgポリペプチドに対する抗原抗体反応の完全な阻害が起こっており、存在するC3a−desArg濃度は30nM以上と算出された。これに対して、ヒトC3を添加した試料3では、全く抗原抗体反応の阻害が起こらず、ヒトC3は抗C3a−desArg特異的抗体と結合しないことが確認された。一方、ヒト血清の希釈物を加えた試料4では弱い結合阻害が生じており、このことから、該ヒト血清には、ヒトC3a−desArgが存在していることが示唆された。ヒト血清の希釈物にさらにヒトC3a−desArg抽出物を加えた試料5では、試料2と同様に強い抗原抗体反応阻害が起きていたが、ヒト血清の希釈物にさらにヒトC3抽出物を加えた試料6では、ヒト血清の希釈物のみを加えた試料4と同等の阻害活性であった。
【0108】
これらの結果から、抗原抗体反応阻害はC3a−desArg特異的に生じていることから、本発明のC3a−desArg濃度測定方法を用いることにより、生体試料中のC3a−desArg濃度を測定できることが明らかとなった。
特に、C3a前駆体のC3では阻害が起こらなかったことから、抗C3a−desArg特異的抗体がヒトC3aと交差せず、抗C3a−desArg特異的抗体と蛍光C3a−desArgポリペプチドとの結合は極めてC3a−desArgに特異的であると考えられた。
【0109】
C3a−desArgは、血液中に存在する前駆体のC3とC3切断セリンプロテアーゼの存在のため、採血後の血液サンプル中で時間経過とともに上昇し、それは、通常のELISAアッセイの血液サンプルと抗体との反応時間(室温、1〜2時間)でも起こることがわかっている。これに対して、本発明のC3a−desArg濃度測定方法を用いた本実施例においては、試料6と試料4との阻害活性が同等で試料中のC3a−desArg濃度は検出限界以下と算出されたことから、全15分間の抗原抗体反応においては、血清中のプロテアーゼにより、血清中のヒトC3が切断されて新たにC3a−desArgが生じることがなく、したがって、血清中のヒトC3a−desArg濃度を正確に測定することができることが明らかとなった。
【0110】
[比較例1] sandwich ELSIA法によるC3a−desArg濃度の測定
C3a EIA kit(Quidel社製)を用いて、実施例1の表1記載の添加物中のC3a−desArg濃度を測定した。
まず、抗C3a−desArg特異的抗体が固相化されたプレートの各ウェルに、PBS−tween中に溶解した表2記載の添加物及び検量線作成用のC3a−desArg抽出物を、それぞれ分注した後、室温で1時間インキュベーションし、抗原抗体反応を行った。
次に、洗浄工程を行った。具体的には、各ウェル中の添加物含有PBS−tween溶液を吸引除去し、200μLの洗浄Bufferを注ぎ、1分間インキュベートした後、洗浄Bufferを吸引除去した。さらに同じ洗浄工程を2回繰り返した。
次に、各ウェルに、100μLのHRP標識された抗C3a/C3ポリクローナル抗体溶液を分注し、室温で1時間インキュベーションして抗原抗体反応を行った後、前記と同様に洗浄工程を3回行った。さらに、ペーパータオル上でプレート内の水滴をたたき落とし、各ウェルに、100μLのTMB溶液を分注し、暗下で15分間インキュベートした後、100μLのstop溶液を分注して発色反応を停止させた。さらに、各ウェルの発色量を調べるため、プレートリーダーを用いて450nmの波長の吸光度を測定した。該アッセイ系では、各ウェルに添加した試料溶液中にC3a−desArgが存在している場合には、OD(450nm)値が上昇する。いずれにおいても、試薬調製から測定までにかかる時間は約4時間であり、洗浄工程を含むため、操作も煩雑であった。さらに、アッセイコストは一試料あたり約300円(300円/well)であり、実施例1の場合と比べて高額であった。
【0111】
【表2】

【0112】
検量線作成用のC3a−desArg抽出物濃度とOD値から近似直線を作成し、各試料のOD値を近似直線(検量線)に代入して、試料中のC3a−desArg濃度を算出した。この結果、図5に示すように、ヒトC3a−desArg抽出物を加えた試料2、ヒト血清を加えた試料4、及び、ヒト血清にヒトC3a−desArg抽出物を加えた試料5では、PBS−tween溶液のみを添加した試料2−1と比べて、顕著にOD(450nm)値が上昇しており、C3a−desArg濃度の上昇がみられていたが、ヒトC3抽出物を加えた試料3では、OD(450nm)値の上昇は観察されなかった。これらの結果から、ELISA法においても、実施例1と同様に、試料中のC3a−desArgが特異的に検出されていることが確認された。
一方、ヒト血清にヒトC3抽出物を加えた試料6では、ヒトC3抽出物のみを加えた試料3とは異なり、試料4よりも大きなOD(450nm)値の上昇が観察され、C3a−desArg量がヒト血清よりも増大していることが確認された。これは、血清中のプロテアーゼにより、添加されたヒトC3が切断されて新たにC3a−desArgが生じたためと考えられる。また、試料4においても、測定中にC3a−desArg量が上昇している可能性が示唆された。これらの結果から抗原抗体反応が室温で1時間程度のELISA法では、測定中にC3a−desArg量が上昇し、生体試料中のC3a−desArg濃度を正確に測定できない可能性が高いことが明らかである。
【0113】
[比較例2] sandwich ELISA法によるC3a−desArg濃度の測定2
C3a EIA kit(Quidel社製)を用いたC3a−desArg濃度の測定を、抗原抗体反応時間を、比較例1よりも短時間として行った。
具体的には、抗C3a−desArg特異的抗体が固相化されたプレートの各ウェルに、PBS−tween中に溶解した表2記載の添加物を、それぞれ分注した後、室温で15分間インキュベーションし、抗原抗体反応を行った。比較例1と同様にして洗浄工程を行った後、各ウェルに、100μLのHRP標識された抗C3a/C3ポリクローナル抗体溶液を分注し、室温で15分間インキュベーションして抗原抗体反応を行った。その後、さらに比較例1と同様にして洗浄工程及び発色反応を行い、各ウェルの450nmの波長の吸光度を測定した。
この結果、いずれの試料においても、測定されたOD(450nm)値は比較例1の結果よりもはるかに小さく、このため、バックグランドとシグナルとの比が小さく反応を正確に検出することが難しかった。特に検量線は、31.25〜15.615nMの領域しか作成することができず、低濃度は測定できなかった。
この作成された検量線と測定されたOD(450nm)値から、各試料中のC3a−desArg濃度を算出した。算出結果を図6に示す。この結果、試料6では、OD(450nm)値の上昇は確認されず、C3からのC3a−desArgの切り出しが生じていないようであったが、ウェル間のばらつきが大きく、正確には判定できなかった。
【0114】
以上の実施例及び比較例より、本発明のC3a−desArg濃度測定方法により、血液試料等の生体試料中のC3a−desArg濃度を、非常に短時間で正確に測定できること、及び、測定コストも、従来のsandwich ELISA法の1/10以下に抑えることが可能であり、経済的にも好ましいことが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明のC3a−desArg濃度測定方法を用いることにより、生体試料、特に血液試料中の補体成分C3aを、短時間で正確かつ簡便に測定することができるため、特に臨床検査等の分野において利用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
競合阻害反応を用いて生体試料中のヒトC末端アルギニン欠損型C3a濃度を測定する方法であって、
(1a) 反応溶液に、所定量のC末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチドと、生体試料と、抗ヒトC末端アルギニン欠損型C3a特異的抗体とを添加して、C末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチドと前記生体試料中のヒトC末端アルギニン欠損型C3aとを、抗ヒトC末端アルギニン欠損型C3a特異的抗体に対して競合的に結合させることにより、C末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチドと抗ヒトC末端アルギニン欠損型C3a特異的抗体との結合体を形成する工程と、
(1b) 前記工程(1a)において得られた結合体を形成しているC末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチド量を測定する工程と、
(1c) 反応溶液に、所定量のC末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチドと、少なくとも1以上の濃度既知の競合用ポリペプチド溶液と、抗ヒトC末端アルギニン欠損型C3a特異的抗体とを添加して、C末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチドと競合用ポリペプチドとを、抗ヒトC末端アルギニン欠損型C3a特異的抗体に対して競合的に結合させることにより、C末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチドと抗ヒトC末端アルギニン欠損型C3a特異的抗体との結合体を形成する工程と、
(1d) 前記工程(1c)において得られた結合体を形成しているC末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチド量を測定する工程と、
(1e) 前記工程(1c)において反応溶液に添加された競合用ポリペプチド量と、前記工程(1d)において測定されたC末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチド量とを相関させる工程と、
(1f) 前記工程(1e)において得られた相関に基づき、工程(1b)において測定されたC末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチド量から、前記生体試料中のヒトC末端アルギニン欠損型C3a濃度を算出する工程と、
を有し、
前記C末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチドが、下記(p1)〜(p6)からなる群より選択されるポリペプチドであり、
前記競合用ポリペプチドが、ヒトC末端アルギニン欠損型C3a又はそのC末端の8アミノ酸を含む部分ポリペプチドであることを特徴とするヒトC末端アルギニン欠損型C3a濃度測定方法。
(p1)C末端に配列番号1のアミノ酸配列を有しており、かつ、システイン残基をN末端に1個のみ有するポリペプチド同士を、N末端のシステイン残基を介して結合させたポリペプチド。
(p2)C末端に配列番号1のアミノ酸配列を有しており、かつ、リジン残基を有さない又はN末端に1個のみ有するポリペプチド同士を、N末端のアミノ基を介して結合させたポリペプチド。
(p3)C末端に配列番号1のアミノ酸配列を有しており、かつ、システイン残基をN末端に1個のみ有するポリペプチド。
(p4)C末端に配列番号1のアミノ酸配列を有しており、かつ、リジン残基を有さない又はN末端に1個のみ有するポリペプチド。
(p5)前記(p3)のポリペプチドのN末端のシステイン残基の側鎖に標識物質が結合したポリペプチド。
(p6)前記(p4)のポリペプチドのN末端のアミノ基に標識物質が結合したポリペプチド。
【請求項2】
前記工程(1a)における反応溶液中のC末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチドと抗ヒトC末端アルギニン欠損型C3a特異的抗体とを結合させる反応時間が、30分間以内であり、かつ、前記工程(1c)における反応溶液中のC末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチドと抗ヒトC末端アルギニン欠損型C3a特異的抗体とを結合させる反応時間と等しいことを特徴とする、請求項1記載のヒトC末端アルギニン欠損型C3a濃度測定方法。
【請求項3】
前記(p1)又は(p3)の、C末端に配列番号1のアミノ酸配列を有しており、かつ、システイン残基をN末端に1個のみ有するポリペプチドとして、9〜20アミノ酸からなるポリペプチドを用いることを特徴とする、請求項1又は2記載のヒトC末端アルギニン欠損型C3a濃度測定方法。
【請求項4】
前記(p2)又は(p4)の、C末端に配列番号1のアミノ酸配列を有しており、かつ、リジン残基を有さない又はN末端に1個のみ有するポリペプチドとして、8〜20アミノ酸からなるポリペプチドを用いることを特徴とする、請求項1又は2記載のヒトC末端アルギニン欠損型C3a濃度測定方法。
【請求項5】
前記工程(1a)が、下記工程(1a’−1)及び(1a’−2)であり、前記工程(c)が、下記工程(1c’−1)及び(1c’−2)であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載のヒトC末端アルギニン欠損型C3a濃度測定方法。
(1a’−1) 反応溶液に、生体試料と抗ヒトC末端アルギニン欠損型C3a特異的抗体とを添加して、C末端アルギニン欠損型C3a−抗ヒトC末端アルギニン欠損型C3a特異的抗体複合体を形成する工程。
(1a’−2) 前記工程(1a’−1)の後、前記反応溶液に、さらに、所定量のC末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチドを添加して、C末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチドとヒトC末端アルギニン欠損型C3aとを、抗ヒトC末端アルギニン欠損型C3a特異的抗体に対して競合的に結合させることにより、C末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチドと抗ヒトC末端アルギニン欠損型C3a特異的抗体との結合体を形成する工程。
(1c’−1) 反応溶液に、少なくとも1以上の濃度既知の競合用ポリペプチド溶液と、抗ヒトC末端アルギニン欠損型C3a特異的抗体とを添加して、競合用ポリペプチド−抗ヒトC末端アルギニン欠損型C3a特異的抗体複合体を形成する工程。
(1c’−2) 前記工程(1c’−1)の後、前記反応溶液に、さらに、所定量のC末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチドを添加して、C末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチドと競合用ポリペプチドとを、抗ヒトC末端アルギニン欠損型C3a特異的抗体に対して競合的に結合させることにより、C末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチドと抗ヒトC末端アルギニン欠損型C3a特異的抗体との結合体を形成する工程。
【請求項6】
前記工程(1b)が、前記工程(1a)における反応溶液自体を測定試料とし、かつ、前記工程(1d)が、前記工程(1c)における反応溶液自体を測定試料とすることを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載のヒトC末端アルギニン欠損型C3a濃度測定方法。
【請求項7】
前記C末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチドが、前記(p1)又は(p2)のポリペプチドであり、前記結合体を形成しているC末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチド量の測定を、吸光度法による濁度測定により行うことを特徴とする請求項1〜6のいずれか記載のヒトC末端アルギニン欠損型C3a濃度測定方法。
【請求項8】
前記C末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチドが、下記いずれかのポリペプチドであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか記載のヒトC末端アルギニン欠損型C3a濃度測定方法。
(p’1)配列番号3又は4のアミノ酸配列からなるポリペプチド同士を、N末端のシステイン残基を介して結合させたポリペプチド。
(p’2)配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチド同士を、N末端のアミノ基を介して結合させたポリペプチド。
【請求項9】
前記C末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチドが、配列番号4のアミノ酸配列からなるポリペプチド同士を、下記(i)〜(iii)のいずれかの反応により結合させたものであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか記載のヒトC末端アルギニン欠損型C3a濃度測定方法。
(i)SH基同士の架橋反応。
(ii)アミノ基とSH基との架橋反応。
(iii)2以上のリガンドと特異的に結合する受容体と、N末端のシステイン残基に前記リガンドを結合させたポリペプチドとの結合反応。
【請求項10】
前記C末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチドが、前記(p5)又は(p6)のポリペプチドであり、前記結合体を形成しているC末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチド量の測定を、前記標識物質から発されるシグナル又は前記標識物質により発されるシグナルを検出することにより行うことを特徴とする請求項1〜6のいずれか記載のヒトC末端アルギニン欠損型C3a濃度測定方法。
【請求項11】
前記C末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチドが、配列番号3又は4のアミノ酸配列からなるポリペプチドのN末端のシステイン残基の側鎖に標識物質が結合したポリペプチド、並びに、配列番号1、3、及び4のアミノ酸配列からなる群より選択される1のポリペプチドのN末端のアミノ基に標識物質が結合したポリペプチドからなる群より選択される1のポリペプチドであることを特徴とする請求項10記載のヒトC末端アルギニン欠損型C3a濃度測定方法。
【請求項12】
前記標識物質が蛍光物質であることを特徴とする請求項10又は11記載のヒトC末端アルギニン欠損型C3a濃度測定方法。
【請求項13】
前記標識物質が蛍光物質であり、C末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチド−抗ヒトC末端アルギニン欠損型C3a特異的抗体複合体を形成しているC末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチド量の測定を、前記標識物質から発されるシグナルを、一分子蛍光分析法により検出することを特徴とする請求項12記載のヒトC末端アルギニン欠損型C3a濃度測定方法。
【請求項14】
前記一分子蛍光分析法が蛍光相関分光法(FCS)であることを特徴とする請求項13記載のヒトC末端アルギニン欠損型C3a濃度測定方法。
【請求項15】
前記C末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチドが、前記(p5)又は(p6)のポリペプチドであり、前記結合体を形成しているC末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチド量の測定を、前記標識物質から発されるシグナル又は前記標識物質により発されるシグナルを検出することにより行うものであり、
前記標識物質が酵素又は放射性同位体であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載のヒトC末端アルギニン欠損型C3a濃度測定方法。
【請求項16】
前記標識物質がアルカリフォスファターゼ又はペルオキシダーゼであり、C末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチド−抗ヒトC末端アルギニン欠損型C3a特異的抗体複合体を形成しているC末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチド量の測定を、酵素反応によって生じる前記酵素の基質の変化による発色又は発光を検出することを特徴とする請求項15記載のヒトC末端アルギニン欠損型C3a濃度測定方法。
【請求項17】
C末端に配列番号1のアミノ酸配列を有しており、かつ、システイン残基をN末端に1個のみ有するポリペプチドであることを特徴とするC末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチド。
【請求項18】
C末端に配列番号1のアミノ酸配列を有しており、かつ、リジン残基を有さない又はN末端に1個のみ有するポリペプチドであることを特徴とするC末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチド。
【請求項19】
9〜20アミノ酸からなり、N末端のシステイン残基の側鎖又はN末端のアミノ基に標識物質が結合していることを特徴とする請求項17記載のC末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチド。
【請求項20】
8〜20アミノ酸からなり、N末端のアミノ基に標識物質が結合していることを特徴とする請求項18記載のC末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチド。
【請求項21】
配列番号3又は4のアミノ酸配列からなるポリペプチドであることを特徴とするC末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチド。
【請求項22】
C末端に配列番号1のアミノ酸配列を有しており、かつ、配列番号2のアミノ酸配列のC末側20アミノ酸からなるアミノ酸配列の一部又は全部のアミノ酸配列を有し、9〜41アミノ酸からなるポリペプチドであることを特徴とするC末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチド。
【請求項23】
C末端に配列番号1のアミノ酸配列を有しており、かつ、システイン残基をN末端に1個のみ有するポリペプチド、配列番号3のアミノ酸配列からなるポリペプチド、及び配列番号4のアミノ酸配列からなるポリペプチドからなる群より選択される1種のポリペプチド同士を、N末端のシステイン残基を介して結合させたことを特徴とするC末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチド。
【請求項24】
前記ポリペプチド同士の結合が、下記(i)〜(iii)のいずれかの反応によるものであることを特徴とする請求項23記載のC末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチド。
(i)SH基同士の架橋反応。
(ii)アミノ基とSH基との架橋反応。
(iii)2以上のリガンドと特異的に結合する受容体と、N末端のシステイン残基に前記リガンドを結合させたポリペプチドとの結合反応。
【請求項25】
請求項18又は20に記載のC末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチド同士を、N末端のアミノ基を介して結合させたことを特徴とするC末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチド。
【請求項26】
前記C末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチド同士の結合が、2以上のリガンドと特異的に結合する受容体と、N末端のアミノ基に前記リガンドを結合させたポリペプチドとの結合反応によるものであることを特徴とする請求項25記載のC末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチド。
【請求項27】
生体試料中のヒトC末端アルギニン欠損型C3a濃度を測定するためのキットであって、
請求項17〜26記載のC末端アルギニン欠損型C3a検出用ポリペプチドからなる群より選択される1のポリペプチド、抗ヒトC末端アルギニン欠損型C3a特異的抗体、並びに、濃度既知のヒトC末端アルギニン欠損型C3a又はそのC末端の8アミノ酸を含む部分ポリペプチドの標準溶液を含むヒトC末端アルギニン欠損型C3a濃度測定キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−210408(P2010−210408A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−56742(P2009−56742)
【出願日】平成21年3月10日(2009.3.10)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】