説明

ヒトIL17に対する抗体およびその使用

モノクローナル抗体3C1が結合するのと同じIL−17エピトープに結合し、そしてC1とC2との間のヒンジ領域のアミノ酸216位〜240位、好ましくはアミノ酸220位〜240位において、および/またはC2とC3との間の第2のドメイン間領域のアミノ酸327位〜331位において、改変されたヒトIgG1アイソタイプであることによって特徴付けられる、IL−17に結合する抗体は、炎症疾病の処置のための有利な特性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトIL17Aに対する抗体(IL17抗体)、その産生のための方法、前記抗体を含む薬学的組成物、およびその使用に関する。
【0002】
発明の背景
ヒトIL−17A(CTLA−8、Swiss Prot Q16552、IL−17とさらに名付けられる)は、多発性硬化症の病態形成に関与する記憶T細胞のサブセット(Th17と呼ばれる)によって産生される炎症誘発性サイトカインである。IL−17Aは、他の炎症性サイトカイン、ケモカインおよび接着分子の誘導に役割を果たしている。IL−17A中和抗体を用いての動物の処置は、自己免疫性脳脊髄炎の疾病の発症率および重症度を減少させる(Komiyama, Y. et al., J. Immunol. 177 (2006) 566-573)。IL−17Aは、多発性硬化症患者の脳脊髄液において過剰発現されている(Hellings, P.W. et al., Am. J. Resp. Cell Mol. Biol. 28 (2003) 42-50; Matusevicius, D. et al., Multiple Sclerosis 5 (1999) 101-104; WO 2005/051422)。さらに、IL−17A中和抗体は、コラーゲン誘発関節炎のマウスRAモデルの重症度および発症率を減少させ、そして高レベルのIL−17Aを、RA患者の炎症が起きている関節の滑液において検出することができる(Ziolkowska, M. et al., J. Immunol. 164 (2000) 2832-2838; Kotake, S. et al., J. Clin. Invest. 103 (1999) 1345-1352; Hellings, P.W. et al., Am. J. Resp. Cell Mol. Biol. 28 (2003) 42-50)。
【0003】
WO 96/17939, US 5,716,623; WO 95/18826; WO 97/15320; WO 99/35276およびWO 00/69436 WO 95/18826 US 6,274,711, US 6,274,711, WO 97/15320, US 6,063,372, WO 2006/013107およびWO200802115は、IL−17AおよびIL−17Aに対する抗体に関する。
【0004】
発明の要約
本発明は、重鎖可変ドメインが配列番号1のCDR3領域、配列番号2または9のCDR2領域および配列番号3のCDR1領域を含むこと、および軽鎖可変ドメインが、配列番号4のCDR3領域、配列番号5のCDR2領域および配列番号6のCDR1領域を含むことを特徴とする、IL−17に結合する抗体を含む。好ましくは、前記抗体は、重鎖可変ドメインが配列番号7または10を含むことを特徴とする。好ましくは、前記抗体は、重鎖可変ドメインが配列番号7または10を含み、そして軽鎖可変ドメインが配列番号8を含むことを特徴とする。好ましくは、IL−17に結合し、そして前記のアミノ酸配列およびアミノ酸配列フラグメントによって特徴付けられる抗体は、C1とC2との間のヒンジ領域のアミノ酸216位〜240位、好ましくはアミノ酸220位〜240位において、および/またはC2とC3との間の第2のドメイン間領域のアミノ酸327位〜331位において、改変されたヒトIgG1アイソタイプである。好ましくは、前記抗体は、突然変異L234A(アミノ酸234位におけるロイシンの代わりにアラニン)およびL235Aを含む。突然変異L234AおよびL235Aを含む好ましい重鎖定常領域が、配列番号11に示されている。
【0005】
本発明による好ましいハイブリドーマ細胞株である<hIL−17>1A1.3C1(抗体3C1)が、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH (DSMZ), Braunschweig, Germanyに寄託された。
【0006】
【表1】

【0007】
前記細胞株から得ることのできる抗体(抗体3C1)が、本発明の好ましい態様である。本発明のさらなる態様は、抗体3C1(DSM ACC2941)のキメラ抗体、ヒト化抗体、またはT細胞エピトープの欠失した抗体変異体である。前記抗体は、1nM以下のIC50値でIL17に特異的に結合する。3C1の好ましいヒト化バージョンは、Mab106およびMab107である。
【0008】
本発明はさらに、IL−17に結合し、そしてモノクローナル抗体3C1が結合するのと同じIL−17エピトープに結合することによって特徴付けられる、抗体にも関する。前記抗体は、少なくとも10−8−1から10−12−1の親和性でIL−17に結合し、C1とC2との間のヒンジ領域のアミノ酸216位〜240位、好ましくはアミノ酸220位〜240位において、および/またはC2とC3との間の第2のドメイン間領域のアミノ酸327位〜331位において、改変されたヒトIgG1アイソタイプである。好ましくは、前記抗体は、突然変異L234A(アミノ酸234位におけるロイシンの代わりにアラニン)およびL235Aを含む、ヒトIgG1アイソタイプである。
【0009】
好ましくは、前記抗体は、ヒト化抗体またはヒト抗体である。好ましくは、本発明による抗体は、カニクイザル皮膚線維芽細胞を使用するサイトカイン放出アッセイにおいて、100ng/mlの濃度で、カニクイザルのIL−17Aにより誘発されるIL−6およびIL−8の産生を1.5nM以下のIC50値で阻害する。
【0010】
本発明のさらなる態様は、本発明による抗体を含む薬学的組成物である。好ましくは、薬学的組成物は、モノクローナル抗体3C1が結合するのと同じIL−17エピトープに結合することによって特徴付けられる抗体を含む。好ましくは、薬学的組成物の抗体は、少なくとも10−8−1から10−12−1の親和性でIL−17に結合し、C1とC2との間のヒンジ領域のアミノ酸216位〜240位、好ましくはアミノ酸220位〜240位において、および/またはC2とC3との間の第2のドメイン間領域のアミノ酸327位〜331位において、改変されたヒトIgG1アイソタイプである。好ましくは、前記抗体は、突然変異L234A(アミノ酸234位におけるロイシンの代わりにアラニン)およびL235Aを含む、ヒトIgG1アイソタイプである。
【0011】
本発明のさらなる態様は、薬学的組成物の製造のための本発明による抗体の使用である。好ましくは、薬学的組成物は、モノクローナル抗体3C1が結合するのと同じIL−17エピトープに結合することによって特徴付けられる抗体を含む。好ましくは、薬学的組成物の抗体は、少なくとも10−8−1から10−12−1の親和性でIL−17に結合し、C1とC2との間のヒンジ領域のアミノ酸216位〜240位、好ましくはアミノ酸220位〜240位において、および/またはC2とC3との間の第2のドメイン間領域のアミノ酸327位〜331位において、改変されたヒトIgG1アイソタイプである。好ましくは、前記抗体は、突然変異L234A(アミノ酸234位におけるロイシンの代わりにアラニン)およびL235Aを含む、ヒトIgG1アイソタイプである。
【0012】
本発明のさらなる態様は、多発性硬化症、関節リウマチ、乾癬、クローン病、慢性閉塞性肺疾病(COPD)、喘息および移植片拒絶の処置のための、本発明による抗体の使用である。本発明のさらなる態様は、本発明による抗体を含む薬学的組成物の製造のための方法である。好ましくは、薬学的組成物は、モノクローナル抗体3C1が結合するのと同じIL−17エピトープに結合することによって特徴付けられる抗体を含む。好ましくは、薬学的組成物の抗体は、少なくとも10−8−1から10−12−1の親和性でIL−17に結合し、C1とC2との間のヒンジ領域のアミノ酸216位〜240位、好ましくはアミノ酸220位〜240位において、および/またはC2とC3との間の第2のドメイン間領域のアミノ酸327位〜331位において、改変されたヒトIgG1アイソタイプである。好ましくは、前記抗体は、突然変異L234A(アミノ酸234位におけるロイシンの代わりにアラニン)およびL235Aを含む、ヒトIgG1アイソタイプである。
【0013】
本発明のさらなる態様は、配列番号1の重鎖CDR3領域、およびIgG1重鎖定常ドメインにおける突然変異L234AおよびL235Aを含むことを特徴とする、IL−17に結合する抗体の重鎖をコードする核酸である。好ましくは、前記抗体はさらに、配列番号2または9の重鎖CDR2領域および配列番号3のCDR1領域を含む。本発明のさらなる態様は、本発明による軽鎖CDR3領域、および好ましくはIgG1重鎖定常ドメインにおける突然変異L234AおよびL235Aを含むことによって特徴付けられる、IL−17に結合する抗体の軽鎖をコードする核酸である。好ましくは、前記抗体はさらに、配列番号2または9の重鎖CDR2領域および配列番号3のCDR1領域を含む。本発明のさらなる態様は、配列番号7または10の重鎖可変ドメイン並びに配列番号8の可変軽鎖ドメイン、並びに好ましくは重鎖IgG1定常ドメインにおける突然変異L234AおよびL235Aを含むことによって特徴付けられる、本発明による抗体をコードする核酸である。
【0014】
本発明による抗体は、定常鎖がヒト起源であることを特徴とする。このような定常鎖は当技術分野の水準において周知であり、そして例えば、Kabat (例えば、Johnson, G. and Wu, T.T., Nucleic Acids Res. 28 (2000) 214-218を参照されたい)によって記載されている。例えば、有用なヒト重鎖定常領域は、突然変異L234AおよびL235Aを含む、配列番号11のアミノ酸配列を含む。例えば、有用なヒト軽鎖定常領域は、配列番号12のκ軽鎖定常領域のアミノ酸配列を含む。前記抗体がマウス起源であり、そしてKabat (例えば、Johnson, G. and Wu, T.T., Nucleic Acids Res. 28 (2000) 214-218を参照されたい)によるマウス抗体の抗体可変配列フレームを含むことがさらに好ましい。
【0015】
本発明による抗体は、CCD25−SK細胞からのインターロイキン−8(IL−8)の放出を阻害することによって特に特徴付けられる。本発明による抗体は、0.5nM(16ng/ml)以下のIC50値で、IL−17により媒介される細胞活性化を特異的に中和する。本発明による抗体は、1nM以下のIC50値でIL17に特異的に結合する。
【0016】
本発明による抗体は、好ましくは、ヒトアイソタイプIgG1である。好ましいγ1重鎖定常領域が、配列番号11、並びにL234AおよびL235Aの突然変異を含まない配列番号11に示される。
【0017】
本発明による抗体は、好ましくは、ヒト補因子C1qに結合しないことによって特徴付けられ、それ故、CDCエフェクター機能を回避する。
【0018】
本発明による抗体は、好ましくは、C1とC2との間のヒンジ領域のアミノ酸216位〜240位、好ましくはアミノ酸220位〜240位において、および/またはC2とC3との間の第2のドメイン間領域のアミノ酸327位〜331位において、改変されたヒトIgG1アイソタイプである。本発明による抗体は、L234(アミノ酸234位におけるロイシン)、L235、D270、N297、E318、K320、K322、P331および/またはP329(EUインデックスによる番号付け)において少なくとも1つの突然変異を含む、ヒトIgG1アイソタイプであることによって好ましくは特徴付けられる。好ましくは、前記抗体は、突然変異L234A(アミノ酸234位におけるロイシンの代わりにアラニン)およびL235Aを含む、ヒトIgG1アイソタイプである。
【0019】
本発明はさらに、原核宿主細胞または真核宿主細胞において本発明による核酸を発現することのできる前記核酸を含む発現ベクター、およびこのような抗体の組換え産生のためのこのようなベクターを含む宿主細胞を提供する。本発明はさらに、本発明によるベクターを含む、原核宿主細胞または真核宿主細胞を含む。本発明はさらに、原核宿主細胞または真核宿主細胞において本発明による核酸を発現させ、そして前記細胞または細胞培養上清から前記抗体を回収することによって特徴付けられる、本発明による組換えヒト抗体またはヒト化抗体の産生のための方法を含む。本発明はさらに、このような組換え法によって得ることのできる抗体も含む。
【0020】
本発明による抗体は、IL−17ターゲッティング療法の必要な患者のための利点を示す。本発明による抗体は、このような免疫学的疾病を患う、特に多発性硬化症、関節リウマチ、乾癬、クローン病、慢性閉塞性肺疾病(COPD)、喘息または移植片拒絶を患う患者のための利点をもたらす、新たなそして発明的な特性を有する。本発明による抗体は、処置患者のブドウ球菌性および腸内細菌性の感染に対する感受性を引き起こさない。本発明はさらに、多発性硬化症、関節リウマチ、乾癬、クローン病、慢性閉塞性肺疾病(COPD)、喘息または移植片拒絶を患う患者を処置するための方法を提供し、前記方法は、このような疾病を有すると診断された(それ故、このような療法の必要とされる)患者に、本発明によるIL−17に結合する抗体の有効量を投与することを含む。前記抗体は、好ましくは薬学的組成物で投与される。本発明のさらなる態様は、本発明による抗体を患者に投与することによって特徴付けられる、多発性硬化症、関節リウマチ、乾癬、クローン病、慢性閉塞性肺疾病(COPD)、喘息または移植片拒絶を患う患者の処置のための方法である。本発明はさらに、多発性硬化症、関節リウマチ、乾癬、クローン病、慢性閉塞性肺疾病(COPD)、喘息または移植片拒絶を患う患者の処置のための、および本発明による薬学的組成物の製造のための、本発明による抗体の使用も含む。さらに、本発明は、本発明による薬学的組成物の製造のための方法も含む。
【0021】
本発明はさらに、本発明による抗体を、場合により、薬学的目的のために抗体の製剤化に有用である緩衝剤および/またはアジュバントと一緒に含む、薬学的組成物も含む。本発明はさらに、薬学的に許容される担体中に本発明による抗体を含む、薬学的組成物も提供する。1つの態様において、薬学的組成物は、製品またはキットに含まれていてもよい。
【0022】
発明の詳細な説明
「抗体」という用語は、完全な抗体および抗体フラグメントを含むがそれらに限定されない、抗体構造の様々な形態を包含する。本発明による抗体は、好ましくは、本発明による特徴的な特性が保持されている限り、ヒト化抗体、キメラ抗体、またはさらに遺伝子工学操作された抗体である。「抗体フラグメント」は、完全長の抗体の一部、好ましくはその可変ドメイン、または少なくともその抗原結合部位を含む。抗体フラグメントの例としては、ダイアボディ、単鎖抗体分子、および抗体フラグメントから形成される多重特異的抗体が挙げられる。scFv抗体は、例えば、Huston, J.S., Methods in Enzymol. 203 (1991) 46-52において記載されている。さらに、抗体フラグメントは、Vドメインの特徴を有し、すなわちVドメインと一緒に会合することができ、またはIL−17に結合するVドメインの特徴を有し、すなわちVドメインと一緒に機能的抗原結合部位に会合することができ、これにより、本発明による抗体の特性を与える、単鎖ポリペプチドを含む。本明細書において使用する「モノクローナル抗体」または「モノクローナル抗体組成物」という用語は、単一アミノ酸組成の抗体分子の調製物をいう。「ヒト化抗体」という用語は、フレームワークおよび/または「相補性決定領域」(CDR)が改変されて、親免疫グロブリンのCDRと比較して異なる種の免疫グロブリンのCDRを含む、抗体をいう。好ましい態様において、マウスCDRをヒト抗体のフレームワーク領域に移植して、「ヒト化抗体」を調製する。例えば、Riechmann, L., et al., Nature 332 (1988) 323-327;およびNeuberger, M.S., et al., Nature 314 (1985) 268-270を参照されたい。
【0023】
本明細書において使用する「IL−17に結合する」という用語は、ELISA結合アッセイにおいての、ヒトIL−17への前記抗体の結合を意味する。前記抗体が1μg/mlの抗体濃度において7:1以上のS/N(シグナル/ノイズ)比を引き起こすならば、結合が見られる。本発明による抗体は、1nM(0.15μg/ml)以下のIC50値でヒトIL−17Aに特異的に結合する。前記抗体は、IL−17B、C、D、EおよびFには結合せず(7:1未満のS/N(シグナル/ノイズ)比)、それ故、IL−17Aに特異的に結合する。IL−17Aおよび変異体への結合は、固定化したIL−17または変異体を使用するELISAによって行なわれる。
【0024】
「エピトープ」という用語は、抗体に特異的に結合することができるタンパク質決定基を意味する。エピトープは、通常、アミノ酸または糖側鎖などの分子の化学的に活性な表面基からなり、そして通常、エピトープは、特異的な3次元構造特徴、並びに特異的な荷電特徴を有する。コンフォメーションエピトープおよび非コンフォメーションエピトープは、変性溶媒の存在下において前者への結合は失われるが、後者への結合は失われないことで区別される。好ましくは、本発明による抗体は、ネイティブなIL−17には特異的に結合するが、変性したIL−17には特異的に結合しない。本発明のIL−17抗体は、抗体Mab317が結合するのと同じ、IL−17上のエピトープに結合する。本発明のIL−17抗体のエピトープ結合特性を、当技術分野において公知の技法を使用して決定し得る。IL−17抗体を、in vitroにおけるクロスブロッキング(crossblocking)結合アッセイによって試験し、IL−17への抗体Mab317の結合を妨害する試験抗体の能力を決定する。試験抗体が抗体Mab317によって少なくとも15%置換されると、エピトープは近似している。
【0025】
本明細書において使用する「可変ドメイン」(軽鎖の可変ドメイン(V)、重鎖の可変ドメイン(V))は、抗原への抗体の結合に直接的に関与する軽鎖ドメインおよび重鎖ドメインの各対を意味する。可変軽鎖ドメインおよび重鎖ドメインは同じ一般的な構造を有し、そして各々のドメインが、3つの「超可変領域」(すなわち相補性決定領域、CDR)によって接続された、その配列が広く保存されている4つのフレームワーク(FR)領域を含む。フレームワーク領域はβ−シートコンフォメーションをとり、そしてCDRはβ−シート構造を接続するループを形成し得る。各々の鎖中のCDRはフレームワーク領域によってその3次元構造が保たれ、そして他の鎖からのCDRと一緒に抗原結合部位を形成する。抗体の重鎖および軽鎖のCDR3領域は、本発明による抗体の結合特異性/親和性に特に重要な役割を果たし、それ故、本発明のさらなる目的を提供する。
【0026】
本明細書において使用する場合の「抗体の抗原結合部分」という用語は、抗原結合に関与する抗体のアミノ酸残基をいう。抗体の抗原結合部分は、「相補性決定領域」すなわち「CDR」からのアミノ酸残基を含む。「フレームワーク」領域すなわち「FR」領域は、本明細書において定義する超可変領域残基以外の可変ドメイン領域である。それ故、抗体の軽鎖および重鎖の可変ドメインは、N末端からC末端の順に、ドメインFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、およびFR4を含む。特に、重鎖のCDR3は、抗原結合に最も寄与し、そして抗体の特性を規定する領域である。CDRおよびFR領域は、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991)の標準的な定義および/または「超可変ループ」からの残基に従って決定される。
【0027】
本出願内において使用される「アミノ酸」という用語は、アラニン(3文字コード:ala、1文字コード:A)、アルギニン(arg、R)、アスパラギン(asn、N)、アスパラギン酸(asp、D)、システイン(cys、C)、グルタミン(gln、Q)、グルタミン酸(glu、E)、グリシン(gly、G)、ヒスチジン(his、H)、イソロイシン(ile、I)、ロイシン(leu、L)、リジン(lys、K)、メチオニン(met、M)、フェニルアラニン(phe、F)、プロリン(pro、P)、セリン(ser、S)、トレオニン(thr、T)、トリプトファン(trp、W)、チロシン(tyr、Y)およびバリン(val、V)を含む、天然に存在するカルボキシα−アミノ酸の基を意味する。
【0028】
本明細書において使用する「核酸」または「核酸分子」という用語は、DNA分子およびRNA分子を含むことを意図する。核酸分子は一本鎖DNAでもまたは二本鎖DNAでもよいが、好ましくは二本鎖DNAである。核酸は、別の核酸と機能的関係にあるように配置されている場合に「作動可能に連結」されている。例えば、プレ配列または分泌リーダーのためのDNAが、ポリペプチドの分泌に関与するタンパク質前駆体として発現されるならば、それは前記ポリペプチドのためのDNAと作動可能に連結されており;プロモーターまたはエンハンサーが配列の転写に影響を及ぼすならば、それはコード配列に作動可能に連結されており;または、リボソーム結合部位が翻訳を促進するように位置しているならば、それはコード配列に作動可能に連結されている。一般に、「作動可能に連結」とは、連結されているDNA配列が同鎖上にあり、そして分泌リーダーの場合には、連続的およびリーディングフレーム内にあることを意味する。しかしながら、エンハンサーは連続的である必要はない。連結は、簡便な制限酵素部位におけるライゲーションによって達成される。このような部位が存在しない場合、合成オリゴヌクレオチドアダプターまたはリンカーを慣行に従って使用する。本明細書において使用する「細胞」、「細胞株」、および「細胞培養」という表現は同義語として使用され、そして全てのこのような名称は子孫も含む。従って、「形質転換体」および「形質転換細胞」という単語は、対象の初代細胞、および継代数に関係なくそれらから誘導された培養物も含む。全ての子孫は、計画的または偶発的な突然変異に因り、DNA内容物が正確に同一ではない場合があることを理解されたい。最初に形質転換された細胞についてスクリーニングしたのと同じ機能または生物学的活性を有する変異子孫も含まれる。
【0029】
抗体の「Fc部分」は、抗原への抗体の結合に直接的には関与していないが、種々のエフェクター機能を示す。「抗体のFc部分」は当業者には周知の用語であり、そして抗体のパパインによる切断に基づいて定義される。その重鎖の定常領域のアミノ酸配列に依存して、抗体または免疫グロブリンはIgA、IgD、IgE、IgGおよびIgMというクラスに分類され、そしてこれらのいくつかはサブクラス(アイソタイプ)、例えばIgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4、IgA1およびIgA2にさらに分類され得る。重鎖定常領域により異なるクラスの免疫グロブリンは、それぞれ、α、δ、ε、γおよびμと呼ばれる。抗体のFc部分は、補体活性化、C1qへの結合およびFcレセプター結合に基づいて、ADCC(抗体依存性細胞介在性細胞障害作用)およびCDC(補体依存性細胞障害作用)に直接的に関与する。補体活性化(CDC)は、大半のIgG抗体サブクラスのFc部分への補因子C1qの結合によって開始される。補体系に対する抗体の影響は特定の条件に依存するが、C1qへの結合は、Fc部分において規定された結合部位によって引き起こされる。このような結合部位は当技術分野の水準において公知であり、そして例えばBoakle, R.J. et al., Nature 282 (1979) 742-743; Lukas, T.J. et al., J. Immunol. 127 (1981) 2555-2560; Brunhouse, R. and Cebra, J.J., Mol. Immunol. 16 (1979) 907-917 ; Burton, D.R. et al., Nature 288 (1980) 338-344 ; Thommesen, J.E. et al., Mol. Immunol. 37 (2000) 995-1004 ; Idusogie, E.E. et al., J. Immunol.164 (2000) 4178-4184 ; Hezareh, M. et al., J. Virology 75 (2001) 12161-12168 ; Morgan, A. et al., Immunology 86 (1995) 319-324; EP 0307434によって記載されている。このような結合部位は、例えば、L234、L235、D270、N297、E318、K320、K322、P331およびP329(KabatのEUインデックスによる番号付け、以下を参照されたい)である。IgG1、IgG2およびIgG3サブクラスの抗体は通常、補体活性化およびC1qへの結合を示すが、一方、IgG4は補体系を活性化せず、そしてC1qに結合しない。
【0030】
本発明による抗体は、IgG1サブクラスのヒト抗体のFc部分である、ヒト起源のFc部分を含む。本発明による抗体のFc部分については、好ましくは、以下に定義するC1qへの結合は全く検出することができない。
【0031】
本発明は、それ故、本発明による抗体がIL−17に結合し、ヒト起源のFc部分を含み、そしてヒト補因子C1qに結合せず、それ故、CDCエフェクター機能を回避する、前記抗体を含む。
【0032】
好ましくは、本発明による抗体は、L234、L235および/またはD265における突然変異を含む、ヒトIgG1またはIgG2サブクラスのFcγレセプターの結合に関し、そして/またはPVA236突然変異を含む。好ましいのは、突然変異L234A、L235A、L235Eおよび/またはPVA236である(PVA236は、IgG1のアミノ酸233位〜236位のアミノ酸配列ELLG(1文字アミノ酸コードで示される)またはIgG4のEFLGがPVAによって置換されていることを意味する)。従って、本発明は、本発明による抗体が、L234、L235、D270、N297、E318、K320、K322、P331および/またはP329において少なくとも1つの突然変異を含む、ヒトIgG1サブクラスの抗体であることを特徴とする、本発明による抗体を提供する。1つの態様において、前記抗体はヒト抗体である。別の態様において、前記抗体はヒト化抗体である。1つの態様において、本発明は、ヒト起源に由来するFc部分を含み、そして前記抗体が、L234、L235、D270、N297、E318、K320、K322、P331において少なくとも1つの突然変異を含む、ヒトIgG1サブクラスの抗体であることを特徴とする、本発明による抗体を提供し、前記抗体は、BIAcoreアッセイにおいて10−8M未満のK値でIL−17に結合する。別の態様において、Kの範囲は10−11〜10−9Mである。
【0033】
C1qへの結合を、Idusogie, E.E., et al., J. Immunol. 164 (2000) 4178-4184に従って測定することができる。本発明においてC1qへの結合が無いことは、ELISAプレートが、種々の濃度の抗体でコーティングされている様なアッセイにおいて、ヒトC1qが加えられる場合に、特徴づけられる。C1qへの結合は、ヒトC1qに対して作られた抗体によって検出され、その後、ペルオキシダーゼで標識したコンジュゲートを、ペルオキシダーゼ基質のABTS(登録商標)(2,2’−アジノ−ジ−[3−エチルベンズチアゾリンスルホネート])を用いて検出する。試験抗体についての405nmにおける吸光度(OD)が、10μg/mlの抗体濃度において0.05未満である場合に、本発明においてC1qへの結合が無いことが、見つけられる。
【0034】
本発明による抗体は、好ましくは、定常鎖がヒト起源であることを特徴とする。このような定常鎖は当技術分野の水準において周知であり、そして例えばKabat (例えばJohnson, G.およびWu, T.T., Nucleic Acids Res. 28 (2000) 214-218を参照されたい)によって記載されている。例えば、有用なヒト重鎖定常領域は配列番号23を含む。例えば、有用なヒト軽鎖定常領域は、配列番号12のκ軽鎖定常領域のアミノ酸配列を含む。
【0035】
本発明のさらなる態様は、本発明による抗体の重鎖および軽鎖をコードする核酸である。
【0036】
本発明は、本発明による抗体の治療有効量を患者に投与することによって特徴付けられる、療法の必要な患者の処置のための方法を含む。本発明は、療法のための本発明による抗体の使用を含む。本発明は、炎症性疾患および血栓性疾患の予防および処置のための医薬品の調製のための本発明による抗体の使用を含む。本発明は、炎症性疾病の処置のための、好ましくは慢性閉塞性肺疾患(COPD)、多発性硬化症および関節リウマチの処置のための、本発明による抗体の使用を含む。
【0037】
本発明による抗体は、さらに、本発明による抗体の前記の特徴に影響を及ぼさないかまたは変化させない、「保存的な配列の改変」(変異抗体)、ヌクレオチドおよびアミノ酸配列の改変を有する、このような抗体を含む。改変を、当技術分野において公知の標準的な技法、例えば部位特異的突然変異誘発およびPCR媒介突然変異誘発によって導入することができる。保存的なアミノ酸の置換としては、アミノ酸残基が、類似の側鎖を有するアミノ酸残基で置換されているものが挙げられる。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーが当技術分野において定義されている。これらのファミリーとしては、塩基性側鎖(例えばリジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えばアスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えばグリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン、トリプトファン)、非極性側鎖(例えばアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン)、β分岐側鎖(例えばトレオニン、バリン、イソロイシン)および芳香族側鎖(例えばチロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を有するアミノ酸が挙げられる。従って、ヒト抗IL−17抗体において予測される非必須アミノ酸残基を、同じ側鎖ファミリーからの別のアミノ酸残基で置換することができる。それ故、「変異体」抗IL−17抗体は、本明細書において、親抗体の1つ以上の可変領域における10個まで、好ましくは約2個から約5個までの付加、欠失および/または置換によって、「親」抗IL−17抗体アミノ酸配列とはアミノ酸配列が異なる分子をいう。アミノ酸置換を、Riechmann, L., et al., Nature 332 (1988) 323-327 and Queen, C., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86 (1989) 10029-10033によって記載されたような分子モデリングに基づいた突然変異誘発によって行なうことができる。
【0038】
本発明のさらなる態様は、IL−17に結合するヒトIgG1タイプの抗体の重鎖をコードする核酸の配列が、前記の改変される抗体がC1qおよび/またはFcγレセプターに結合しないような様式で改変されており、前記の改変された核酸および前記抗体の軽鎖をコードする核酸が発現ベクターに挿入され、前記ベクターが真核宿主細胞に挿入され、前記のコードタンパク質が発現されそして宿主細胞または上清から回収されることを特徴とする、Fcγレセプターおよび/またはC1qに結合しない、IL−17に対する抗体の産生のための方法である。
【0039】
配列に関する同一性または相同性は、本明細書において、配列を整列させ、そして必要であればギャップを導入して、最大の配列同一率を達成した後、親配列と同一である候補配列中のアミノ酸残基の比率として定義される。抗体配列中へのN末端、C末端または内部における伸長、欠失または挿入のいずれも、配列の同一性または相同性に影響を及ぼすと解釈されないものとする。変異体は、ヒトIL−17に結合する能力を保持し、そして好ましくは親抗体よりも優れた特性を有する。例えば、変異体は、処置中に低減した副作用を有し得る。
【0040】
「親」抗体は抗体3C1のCDR領域を含み、そして好ましくは変異体の調製に使用される。好ましくは、親抗体はヒトフレームワーク領域を有し、そして存在する場合、ヒト抗体定常領域またはヒト抗体定常ドメインを有する。例えば、親抗体はヒト化抗体またはヒト抗体であり得る。
【0041】
本発明による抗体は、好ましくは、組換え手段によって産生される。このような方法は当技術分野の水準において広く公知であり、そして、原核細胞および真核細胞におけるタンパク質の発現、それに続く抗体ポリペプチドの単離および通常は薬学的に許容される純度までの精製を含む。タンパク質の発現のために、軽鎖および重鎖またはそのフラグメントをコードする核酸を、標準的な方法によって発現ベクターに挿入する。発現は、CHO細胞、NS0細胞、SP2/0細胞、HEK293細胞、COS細胞、酵母、またはE.coli細胞などの適切な原核宿主細胞または真核宿主細胞において行なわれ、そして前記抗体が細胞から(上清からまたは細胞溶解後に)回収される。抗体の組換え産生は当技術分野の水準において周知であり、そして、例えば、Makrides, S.C., Protein Expr. Purif. 17 (1999) 183-202; Geisse, S., et al., Protein Expr. Purif. 8 (1996) 271-282; Kaufman, R.J., Mol. Biotechnol. 16 (2000) 151-160; Werner, R.G., Drug Res. 48 (1998) 870-880の概説記事において記載されている。抗体は、全細胞中、細胞溶解液中、または部分精製された形態もしくは実質的に純粋な形態で存在し得る。精製は、カラムクロマトグラフィーおよび当技術分野において周知のその他の技法を含む、標準的な技法によって、他の細胞性成分または他の汚染物質、例えば他の細胞性核酸またはタンパク質を排除するために行なわれる。Ausubel, F., et al., ed. Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing and Wiley Interscience, New York (1987)を参照されたい。NS0細胞における発現は、例えば、Barnes, L.M., et al., Cytotechnology 32 (2000) 109-123; Barnes, L.M., et al., Biotech. Bioeng. 73 (2001) 261-270によって記載されている。一過性発現は、例えば、Durocher, Y., et al., Nucl. Acids. Res. 30 (2002) E9によって記載されている。可変ドメインのクローニングは、Orlandi, R., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86 (1989) 3833-3837; Carter, P., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89 (1992) 4285-4289; Norderhaug, L., et al., J. Immunol. Methods 204 (1997) 77-87によって記載されている。好ましい一過性発現系(HEK293)は、Schlaeger, E.-J.およびChristensen, K., in Cytotechnology 30 (1999) 71-83によって、およびSchlaeger, E.-J., in J. Immunol. Methods 194 (1996) 191-199によって記載されている。モノクローナル抗体は、例えばプロテインA−セファロース、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析またはアフィニティクロマトグラフィーなどの従来の免疫グロブリン精製手順によって、培養培地から適切に分離される。モノクローナル抗体をコードするDNAおよびRNAは、従来の手順を使用して容易に単離およびシークエンスされる。ハイブリドーマ細胞は、このようなDNA源およびRNA源として作用し得る。一旦単離されたら、DNAを発現ベクターに挿入し得、その後、これを別様に免疫グロブリンタンパク質を産生しないHEK293細胞、CHO細胞、または骨髄腫細胞などの宿主細胞にトランスフェクションして、宿主細胞において組換えモノクローナル抗体の合成を得ることができる。
【0042】
ヒトIL−17抗体のアミノ酸配列変異体は、適切なヌクレオチド変化を、抗体をコードする核酸に導入することによって、またはペプチド合成によって調製される。しかしながら、このような改変は、例えば前記したように非常に制限された範囲でしか実施することができない。例えば、改変は、IgGアイソタイプおよびエピトープの結合などの前記の抗体の特徴を変化させることはないが、組換え産生の収率、タンパク質の安定性を向上させ得るか、または精製を促進し得る。また、抗IL−17抗体の適切なコンフォメーションの維持に関与していない任意のシステイン残基を、一般にはセリンで置換して、分子の酸化的安定性を向上させ、そして異常な架橋を防ぐことができる。逆に、システイン結合(群)を抗体に加えて、その安定性を向上させることもできる(特に抗体がFvフラグメントなどの抗体フラグメントである場合)。抗体の別のタイプのアミノ酸変異体は、抗体の元来のグリコシル化パターンを変化させる。「変化させる」とは、抗体に見られる1つ以上の炭水化物部分を除去すること、および/または抗体中に存在しない1つ以上のグリコシル化部位を付加することを意味する。抗体のグリコシル化は、典型的にはN結合である。N結合は、アスパラギン残基の側鎖への炭水化物部分の付着をいう。トリペプチド配列のアスパラギン−X−セリンおよびアスパラギン−X−トレオニン(式中、Xはプロリンを除く任意のアミノ酸である)は、アスパラギン側鎖への炭水化物部分の酵素的付着のための認識配列である。従って、ポリペプチド中のこれらのトリペプチド配列のいずれかの存在は、潜在的なグリコシル化部位を作り出す。抗体へのグリコシル化部位の付加は、前記抗体が(N結合グリコシル化部位のための)前記のトリペプチド配列の1つ以上を含むように、アミノ酸配列を変化させることによって簡便に行なわれる。
【0043】
抗IL−17抗体のアミノ酸配列変異体をコードする核酸分子は、当技術分野において公知の種々の方法によって調製される。これらの方法としては、天然源からの単離(天然に存在するアミノ酸配列変異体の場合)、またはヒト化抗IL−17抗体のより以前に調製された変異体または非変異体バージョンのオリゴヌクレオチド媒介(または部位特異的)突然変異誘発、PCR突然変異誘発およびカセット突然変異誘発による調製が挙げられるがそれらに限定されない。
【0044】
抗体の別のタイプの共有結合による改変は、US Patent Nos. 4,640,835; 4,496,689; 4,301,144; 4,670,417; 4,791,192; 4,179,337において示される様式で、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールまたはポリオキシアルキレンなどの多種多様な非タンパク質性ポリマーの1つに前記抗体を連結させることを含む。
【0045】
本発明による重鎖および軽鎖の可変ドメインを、プロモーター配列、翻訳開始配列、定常領域配列、3’非翻訳領域配列、ポリアデニル化配列および転写終結配列と組み合わせて、発現ベクター構築物を形成する。重鎖および軽鎖の発現構築物を単一ベクター中に組合せても、宿主細胞中に同時トランスフェクションしても、連続的にトランスフェクションしても、または別々にトランスフェクションしてもよく、これをその後、融合して、両方の鎖を発現する単一の宿主細胞を形成することができる。
【0046】
別の局面において、本発明は、薬学的に許容される担体と一緒に製剤化された、本発明のモノクローナル抗体の1つもしくは組合せまたはその抗原結合部分を含む、例えば薬学的組成物などの組成物を提供する。本明細書において使用する「薬学的に許容される担体」としては、生理的に適合する、任意および全ての溶媒、分散媒体、コーティング剤、抗細菌剤および抗真菌剤、等張化剤および吸収/再吸収遅延剤などが挙げられる。好ましくは、担体は、注射または注入のために適している。本発明の組成物を、当技術分野において公知の種々の方法によって投与することができる。当業者によって理解されているように、投与経路および/または投与様式は、所望の結果に依存して変更されるだろう。薬学的に許容される担体としては、無菌で水性の液剤または分散剤、および無菌注射用液剤もしくは分散剤の調製のための無菌の散剤が挙げられる。薬学的に活性な物質のためのこのような媒体および物質の使用は当技術分野において公知である。水に加えて、担体は、例えば、等張緩衝食塩水溶液であり得る。選択した投与経路に関係なく、適切な水和形態で使用され得る本発明の化合物、および/または本発明の薬学的組成物は、当業者には公知の従来の方法によって薬学的に許容される剤形へと製剤化される。本発明の薬学的組成物中の活性成分の実際の用量レベルは、患者に毒性をもたらすことなく、特定の患者、組成物および投与様式に対して所望の治療応答を達成するのに効果的である活性成分の量(有効量)が得られるように変更され得る。選択した用量レベルは、使用する本発明の特定の組成物、またはそのエステル、塩、もしくはアミドの活性、投与経路、投与時刻、使用する特定の化合物の排泄速度、使用する特定の組成物と組み合わせて使用される他の薬物、化合物および/または材料、処置する患者の年齢、性別、体重、容態、全般的な健康状態および病歴、並びに医学分野において周知である同様な因子を含む、多種多様な薬物動態因子に依存する。
【0047】
本発明は、多発性硬化症、関節リウマチ(RA)、乾癬、クローン病、慢性閉塞性肺疾病(COPD)、喘息、および移植片拒絶を患う、患者の処置のための本発明による抗体の使用を含む。
【0048】
本発明のさらなる態様は、関節リウマチを患う患者の処置のための、抗IL−17抗体、好ましくは本発明による抗体の使用であり、前記患者は、TNFアンタゴニスト、抗CD20抗体、CTLA4Igまたは抗IL6抗体を用いての処置に中程度応答するか、または応答しない。本発明のさらなる態様は、関節リウマチを患う患者の処置のための医薬品の製造のための、抗IL−17抗体、好ましくは本発明による抗体の使用であり、前記患者は、TNFアンタゴニスト、抗CD20抗体、CTLA4Igまたは抗IL6抗体を用いての処置に中程度応答するか、または応答しない。RA処置のためのTNFアンタゴニストは、例えば、インフリキシマブ(IFX、レミケード(登録商標))、エタネルセプト(ETA、エンブレル(登録商標))、およびアダリムマブ(ADA、ヒュミラ(登録商標))である。抗IL−17抗体は、好ましくは、TNFアンタゴニスト、抗CD20抗体、CTLA4Igまたは抗IL6抗体を用いての処置に中程度に応答するかまたは応答しない患者に、少なくとも3ヶ月間、好ましくは6ヶ月間投与される。
【0049】
本発明はさらに、薬学的に許容される担体と共に本発明による抗体の有効量を含む薬学的組成物の製造のための方法、およびこのような方法のための本発明による前記抗体の使用を提供する。本発明はさらに、多発性硬化症、関節リウマチ、乾癬、クローン病、慢性閉塞性肺疾病(COPD)、喘息および移植片拒絶を患う患者の処置のための、好ましくは薬学的に許容される担体と共に、薬学的物質の製造のための有効量の本発明による抗体の使用を提供する。本発明はまた、多発性硬化症、関節リウマチ、乾癬、クローン病、慢性閉塞性肺疾病(COPD)、喘息および移植片拒絶を患う患者の処置のための、好ましくは薬学的に許容される担体と共に、薬学的物質の製造のための有効量の本発明による抗体の使用を提供する。
【0050】
配列の説明
配列番号1 Mab106およびMab107の重鎖CDR3
配列番号2 Mab106の重鎖CDR2
配列番号3 Mab106およびMab107の重鎖CDR1
配列番号4 Mab106およびMab107の軽鎖CDR3
配列番号5 Mab106およびMab107の軽鎖CDR2
配列番号6 Mab106およびMab107の軽鎖CDR1
配列番号7 Mab106の重鎖可変ドメイン
配列番号8 Mab106およびMab107の軽鎖可変ドメイン
配列番号9 Mab107の重鎖CDR2
配列番号10 Mab106の重鎖可変ドメイン
配列番号11 γ1重鎖定常領域
配列番号12 κ軽鎖定常領域
【0051】
実施例
実施例1
免疫化の説明
免疫化を、20週間以内に、5匹の雌Balb/cマウスを使用して、マウス1匹あたりPeprotech (http://www.peprotech.com;製造番号: 200-17、1%アルブミンを含む1%PBS中)からの250(1×)および100μg(3×)の組換えヒトIL17を使用して行なった。
【0052】
実施例2
ELISAによって測定したIL−17への結合
NUNC(登録商標)Maxisorpプレート(96ウェル)を、PBS中0.5μg/mlの濃度の組換えヒトIL−17(Peprotech 200-17番、www.peprotech.com)でコーティングする(100ml/ウェル)。プレートをオービタルシェーカーで撹拌しながら2時間37℃でインキュベーションする。その後、コーティング溶液を除去し、そして100μl/ウェルのPBSTC(リン酸緩衝食塩水、0.05%Tween(登録商標)20、2%ニワトリ血清)を加える。プレートを室温で1時間インキュベーションする。ブロッキング溶液を除去し、そして試料(ブランク:PBSTC試料(PBS中10μg/ml):本発明による抗ヒトIL−17抗体3C1およびMab106;eBioscience (www.ebioscience.com)のMab16−7178−85;R&D Systems (www.rndsystems.com)のMAB317、NVP-AIN-497 (WO 2006013107);をプレートに加える(100μg/ml)。プレートを撹拌しながら室温でインキュベーションする。試料を除去し、プレートを、200μl/ウェルのPBST(リン酸緩衝食塩水、0.05%Tween(登録商標)20)を用いて3回洗浄し、そして、マウス抗体の検出のための二次抗体(ヤギ抗マウスIgG、Fcγ、HRPコンジュゲート;Chemicon AP127P、www.millipore.com)、またはヒト化抗体の検出のためのヤギ抗ヒトIgG、Fcγ、HRPコンジュゲート(Chemicon AP113P)を加える。二次抗体をPBSTC中で1:10000に希釈し、そしてプレートを撹拌しながら室温で1時間インキュベーションする。二次抗体を除去し、プレートを200μl/ウェルのPBST(リン酸緩衝食塩水、0.05%Tween(登録商標)20)を用いて3回洗浄し、そして100μl/ウェルのABTS(登録商標)(Roche Diagnostics GmbH)を加える。IL−17Aへの結合(100%と設定)と比較した吸光度を、405/492nmにおいて測定する。他のヒトIL−17サブタイプ(IL−17B、IL−17C、IL−17D、IL−17EおよびIL−17F)への結合も、同じアッセイフォーマットを用いて行った。結果を表1に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
実施例3
IgG1クラスの免疫グロブリンのための発現プラスミドの調製
プラスミド6454(以下においてp6454として示す)は、真核細胞における抗IL−17抗体の発現のための発現プラスミドである(エキソン−イントロン構成を保持したゲノム的に構成された発現カセット)。それは、以下の機能的エレメントを含む:
−ベクターpUC18由来の複製起点(pUC起点)
−E.coliにおいてアンピシリン耐性(Amp)を付与するβ(ベータ)ラクタマーゼ遺伝子、
−以下のエレメントを含むγ1−重鎖の発現のための発現カセット:
−ヒトサイトメガロウイルスからの主要前初期プロモーターおよびエンハンサー(hCMV IE1プロモーター)、
−コザック配列を含む合成5’UTR、
−シグナル配列イントロン(L1_イントロン_L2)を含むマウス免疫グロブリン重鎖シグナル配列、
−3’末端にスプライスドナー部位が配置された重鎖可変領域(VH)のためのcDNA、
−マウス免疫グロブリンμ−エンハンサー領域、
−エキソンCH1、ヒンジ、CH2およびCH3、介在イントロン、およびポリアデニル化シグナル配列を有する3’UTRを含む、ヒト免疫グロブリン重鎖γ1−遺伝子(IGHG1)、
−以下のエレメントを含むκ軽鎖の発現のための発現カセット:
−ヒトサイトメガロウイルスからの主要前初期プロモーターおよびエンハンサー(hCMV IE1プロモーター)、
−コザック配列を含む合成5’UTR、
−シグナル配列イントロン(L1_イントロンL2_)を含むマウス免疫グロブリン重鎖シグナル配列、
−3’末端にスプライスドナー部位が配置された軽鎖可変領域のためのcDNA(VL)、
−イントロン性のマウスIg−κエンハンサー領域、
−IGKCエキソン、およびポリアデニル化シグナル配列を有するIGK 3’UTRを含む、ヒト免疫グロブリンκ遺伝子(IGK)、
−以下を含む、真核細胞における栄養要求選択に適したマウスジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)の発現のための発現カセット、
−短縮バージョンのSV40初期プロモーターおよび起点、
−マウスDHFRのコード配列、
−SV40初期ポリアデニル化シグナル。
【0055】
p6454をCHO−K1細胞にトランスフェクションし、そしてメトトレキセート(MTX)を用いての選択後に安定な細胞株を単離し、そしてELISAによってヒトIgGに関するヒト抗体の産生についてスクリーニングした。
【0056】
実施例4
補体系の活性化の検討(C1q結合ELISA)
本発明による抗体のC1qへの結合を調べるために、ELISAアプローチを使用する。C1qは適応免疫系の一部であり、そして免疫複合体への結合時に、いくつかのチモーゲンの連続的な活性化を引き起こす。続いて、酵素は、C3分子の切断を引き起こし、これは、炎症反応の開始、外来または異常な粒子のオプソニン化、および細胞膜の溶解をもたらし得る。
【0057】
10μg/mLから0.156μg/mLまでの7つの濃度の、PBS−緩衝液中の試験しようとする抗体を100μl/ウェルで用いて、MTP(Nunc)を一晩4℃でコーティングする。フリーの結合部位のブロッキングは、PBS中3%BPLA(Roche)を200μl/ウェルで用いて1時間かけて室温で行なう。MTPを、3%BPLAのPBS溶液中2μg/mLのC1q(Quiddel)と共にインキュベーションする(100μg/mL)。MTPを、PBS中0.1%Tween(登録商標)20を用いて室温で3回洗浄する。PBS中3%BPLA、0.1%Tween(登録商標)20中の0.25μg/mLのポリクローナルウサギ抗C1q抗体(DAKO)を100μl/ウェルで添加することによって1時間かけて室温で結合を検出した。MTPを、PBS中0.1%Tween20を用いて室温で3回洗浄する。PBS中3%Tween20中の0.1μg/mLの二次抗体ヤギ抗ウサギIgG POD(Jackson Immuno Research)を100μl/ウェルで1時間かけて室温で加える。室温でPBS中0.1%Tween20を用いてMTPを3回洗浄した後、MTPを、ABTS溶液(Roche)と共にインキュベーションし、そして405nmの波長における吸光を、490nmの参照波長を用いて測定する。抗体でコーティングされていないが、同一の検出手順によって処理されたウェルにおけるバックグラウンドシグナルを決定する。試験抗体についての405nmにおける吸光度(OD)が、10μg/mlの抗体濃度において0.05未満であるならば、C1qへの結合は全く見られない。
【0058】
実施例5
BIAcoreクロスブロッキング実験を介したエピトープ領域のマッピング
全ての測定を、25℃でBIAcore3000機器を使用して行なった。システムおよび試料緩衝液はHBS−EPであった(10mM HEPES、150mM NaCl、3.4mM EDTA、0.005%ポリソルベート20(v/v))。BIAcoreCM5センサーチップをプレコンディショニング手順にかけた。連続的に0.1%SDS、50mM NaOH、10mM HClおよび100mM HPOを30秒間かけてフローセルFC1、FC2、FC3およびFC4の上に注入した。BIAcore3000wizard v.4.1を使用して製造業者の指示に従ってアミンカップリング手順を行なった。
【0059】
キメラ抗体またはヒト化抗体を用いてのクロスブロッキング実験を実施するために、EDC/NHSによるセンサー表面の活性化後、ポリクローナルヤギ抗ヒトIgG抗体(Jackson)を、全てのセンサーフローセル(FC)上に固定した。10mM NaAc pH5.0中の30μg/mlのポリクローナルヤギ抗ヒトIgG抗体を、10μl/分で7分間使用して、10,000RUの抗体捕捉システムを固定した。表面を、エタノールアミンを用いた飽和によって不活性化した。ヒト捕捉システムセンサーを、10μl/分で2分間のhuIgG分析物(Bayer)の結合を5サイクル、および30μl/分で3分間の10mMグリシンpH1.7を用いての再生を用いて調整した。
【0060】
10μl/分の流速で、一次mAbをFC1〜FC4に3分間かけて注入した。HBS−EP緩衝液中の50μg/mlのhuIgG(Bayer)からの混液を、FC1〜FC4に、10μl/分で3分間注入することを使用して、センサー捕捉システムのフリーの結合能をブロッキングした。続いて、抗原rhuIL17−Aを、FC1〜FC4に10μl/分で3分間注入して、一次抗体結合能を飽和した。30μl/分で3分間のFC1〜FC4への2回目の注入を行ない、その後、二次抗体を別々に30μl/分で3分間かけて、フローセルFC1、FC2、FC3およびFC4に注入した。センサーを、10mMグリシン(pH1.75)を30μl/分で3分間使用して再生した。
【0061】
最初に、0nMの分析物の注入を全てのセンサーグラムから差し引き、ポリクローナルヤギ抗ヒトIgG捕捉システムからの一次抗体の解離を修正した。二次抗体および一次抗体の応答シグナルによって商が形成された。商はモル比(MR)の名称を有し、これはエピトープ領域の到達容易性を示す。
【0062】
モル比の数値は行列で列挙した。相同的mAb組合せは、ブロッキング手順が成功裏に実施されたかどうかの対照として作用した。カットオフは、相同的mAb組合せによって定義された。
【0063】
クロスブロッキング実験におけるカットオフは、Mab106相同的アッセイフォーマットに設定された(9%)。MR=15%を越えるモル比の数値は、独立したエピトープへの到達に関する。
【0064】
エピトープマッピングからの結果(表2参照)は、Mab K106およびその誘導体のMab107が、NVP−AIN−497とは異なるエピトープ領域に結合することを示す。さらに、Mab K106は、eBio64CAP17とは異なるエピトープを覆い、そしてMab317と同じエピトープ領域を覆う。
【0065】
【表3】

【0066】
分析のカットオフは、相同的アッセイ組合せによって定義される。(106、9%);(AIN−457、6%);(eBio64CAP17、7%);(Mab317、0%)。ここでカットオフは、相同的Mab106アッセイに設定された。
【0067】
実施例6
サイトカイン放出アッセイ、IL−17Aにより誘発されるhIL−8の放出の阻害
アッセイは、抗IL−17抗体のプレインキュベーションを伴う、IL−17AおよびTNF−αを用いての刺激後の、CCD−25SK細胞のhIL−8の産生の検出として行なわれる。CCD−25SK細胞はIL−17レセプターを有する。可溶性IL−17Aは、これらのIL−17レセプターに結合する。IL−17Aに対する抗体はIL−17Aに結合する。機序はTNFαの存在下においてのみ働く。IL−17レセプターへのIL−17Aの結合を通して、細胞はhIL−8を産生し、これを、ELISAによって解読値として検出することができる。測定されたhIL−8は、どの濃度で抗IL−17抗体が、IL−17によるCCD−25SK細胞の刺激を阻害するかの情報を与える。
【0068】
CCD−25SK細胞を、48ウェルプレート中で2.5×10個の細胞/ウェルの細胞密度で播種し(容量、0.45ml/ウェル)、そして24時間37℃および5%COでインキュベーションした。一晩インキュベーションした後、細胞を、9000;3000;1000;333.3;111.1;37.03;12.34;および4.11ng/mlの最終濃度の抗IL−17抗体を用いて30分間処理した。各抗体希釈シリーズは、50μl/ウェルの培地(10倍濃縮)を用いて作製した。30分後、細胞を、10ng/mlのIL−17Aおよび50pg/mlのTNF−αの混合物(50μl/ウェル、10倍濃縮)を用いて刺激し、そして24時間37℃および5%COでインキュベーションした。一晩インキュベーションした後、上清を96ウェルプレートに移し、そしてhIL−8ELISAのための中間体として−20℃で凍結した。
【0069】
hIL−8ELISAを以下のように実施した。100μlの希釈した捕捉抗体を各ウェルに加え、そして4℃で一晩インキュベーションした。コーティング緩衝液を用いて希釈液を作製した。プレートを吸引し、200μl/ウェルで3回洗浄し、200μl/ウェルのアッセイ希釈液でブロッキングし、そして1時間室温でインキュベーションした。プレートを吸引し、そして200μl/ウェルで3回洗浄した。100μlの標準および試料を加え、そして2時間室温でインキュベーションした。標準的な希釈シリーズ:400pg/ml;200pg/ml;100pg/ml;50pg/ml;25pg/ml;12.5pg/ml;6.3pg/mlおよび陰性対照としてのアッセイ希釈液。試料の希釈は1:200であった。プレートを吸引し、そして250μl/ウェルで4回洗浄した。100μlのコンジュゲートを各ウェルに加えた。コンジュゲートを、アッセイ希釈液で1:250に希釈した検出抗体および酵素試薬を用いて調製した。プレートを吸引し、そして250μl/ウェルで6回洗浄した。100μlの基質を各ウェルに加え、そして12分間インキュベーションした。インキュベーション後、反応を50μl/ウェルの1M HSOを用いて停止した。解読は、450nmで30分以内に570nmでのλ修正と共に行なった。結果を表3に示す(80%の最大阻害と比較して測定したIC50値)。
【0070】
【表4】

【0071】
実施例7
滑膜細胞によるサイトカインの放出アッセイ、IL−17Aにより誘発されるhIL−6およびhIL−8の阻害
初代ヒト線維芽細胞様の滑膜細胞(HFLS)の細胞は、IL−17Aによる刺激に応答してhIL−6およびhIL−8を産生する。アッセイを、刺激前に抗IL−17抗体と共に細胞をプレインキュベーションした後に、HFLS細胞によるこのIL−17Aの刺激するhIL−6およびhIL−8の産生の阻害を測定することによって行う。
【0072】
HFLS細胞を、48ウェルプレート中0.5mlの容量で4×10個の細胞/mlの細胞密度で播種し、そして37℃および5%COで一晩インキュベーションして接着させた。一晩インキュベーションした後、培地を400μlの新たな培地と交換し、そして細胞を、一連の抗体濃度(10000、3000、1000、300、100、30、10、3、0ng/ml)の抗IL−17を用いて30分間処理した。各抗体希釈シリーズを、50μl/ウェルを使用して培地(10倍濃縮)を用いて作製した。30分後、細胞を、100ng/mlのIL−17A(50μlの1000ng/ml(10倍濃縮))を用いて刺激し、そして一晩37℃および5%COでインキュベーション(18時間)した。インキュベーション期間後、上清を新たなチューブに移し、そして直ちに分析するか、またはELISAによる分析まで−80℃に保存するかのいずれかを行なった。hIL−6およびhIL−8のELISAのために、100μlの希釈した捕捉抗体を各ウェルに加え、そして4℃で一晩インキュベーションした。コーティング緩衝液を用いて希釈液を作製した。プレートを吸引し、200μl/ウェルで3回洗浄し、200μl/ウェルのアッセイ希釈液でブロッキングし、そして1時間室温でインキュベーションした。プレートを吸引し、そして200μl/ウェルで3回洗浄した。100μlの標準および試料を加え、そして2時間室温で製造業者の指示に従ってインキュベーションした。プレートを吸引し、そして250μl/ウェルで少なくとも3回洗浄した。100μlのコンジュゲートを各ウェルに加えた。コンジュゲートを、アッセイ希釈液で1:250に希釈した検出抗体および酵素試薬を用いて調製した。プレートを吸引し、そして250μl/ウェルで少なくとも3回洗浄した。100μlの基質を各ウェルに加え、そして解読に十分な色が発生するまでインキュベーションした。インキュベーション後、反応を、50μl/ウェルの1M HSOを用いて停止し、そして450nmの波長で30分以内にプレート解読機で解読した。結果を表4に示す。
【0073】
【表5】

【0074】
実施例8
カニクイザルIL−17Aとの交差反応性(結合アッセイ)
結合アッセイを、実施例2に従って行なった。結果を表5に示す。
【0075】
【表6】

【0076】
実施例9
カニクイザル(Maccaca Fasicularis)サイトカイン放出アッセイ、カニクイザルのIL−17Aにより誘発されたIL−6およびIL−8の産生の阻害
カニクイザル皮膚線維芽(CDF)細胞は、ヒトまたはカニクイザルのIL−17Aの刺激に応答してカニクイザルのIL−6およびIL−8を産生する。アッセイを、刺激前にヒトIL−17に対して生じた抗IL−17抗体と共に細胞をプレインキュベーションした後、CDF細胞による、このカニクイザルIL−17Aの刺激によるIL6およびIL−8の産生の阻害を測定することによって行う。
【0077】
CDF細胞を、48ウェルプレート中0.5mlの容量で2×10個の細胞/mlの細胞密度で播種し、そして37℃および5%COでインキュベーションして接着させた。一晩インキュベーションした後、培地を400μlの新たな培地と交換し、そして細胞を、一連の抗体濃度(10000、3000、1000、300、100、30、10、3、0ng/ml)の抗IL−17抗体を用いて30分間処理した。各抗体希釈シリーズを、50μl/ウェルを使用して培地(10倍濃縮)を用いて作製した。30分後、細胞を、100ng/mlのIL−17A(50μlの1000ng/ml(10倍濃縮))を用いて刺激し、そして37℃および5%COで一晩(18時間)インキュベーションした。インキュベーション期間後、上清を新たなチューブに移し、そして直ちに分析するか、またはELISAによる分析まで−80℃で保存するかのいずれかを行なった。hIL−6およびhIL−8 ELISAは、そのそれぞれのカニクイザルサイトカインと交差反応性であることが示され、そしてこれを使用して定量的サイトカインレベルを定量した。ELISAのために、100μlの希釈した捕捉抗体を各ウェルに加え、そして4℃で一晩インキュベーションした。コーティング緩衝液を用いて希釈液を作製した。プレートを吸引し、200μl/ウェルで3回洗浄し、200μl/ウェルのアッセイ希釈液でブロッキングし、そして1時間室温でインキュベーションした。プレートを吸引し、そして200μl/ウェルで3回洗浄した。100μlの標準および試料を加え、そして製造業者の指示に従って2時間室温でインキュベーションした。プレートを吸引し、そして250μl/ウェルを用いて少なくとも3回洗浄した。100μlのコンジュゲートを各ウェルに加えた。コンジュゲートを、アッセイ希釈液で1:250に希釈した検出抗体および酵素試薬を用いて調製した。プレートを吸引し、そして250μl/ウェルを用いて少なくとも3回洗浄した。100μlの基質を各ウェルに加え、そして解読に十分な色が発生するまでインキュベーションした。インキュベーション後、反応を、50μl/ウェルの1M HSOを用いて停止し、そして30分以内に450nmの波長でプレート解読機で解読した。結果を表6に示す。
【0078】
【表7】

【0079】
実施例10
ユーロピウムに基づいたADCCアッセイ
PBLを、フィコール・パックと勾配遠心分離によって単離する:ヘパリン処理した血液試料をPBSを用いて1:1に希釈した。8mlの希釈した血液をフィコール上に重層し、そして800gで30分間遠心分離にかけた。細胞(PBL)を回収し、RPMI1640/10%FCSを用いて洗浄し、そして細胞培養培地中に再懸濁した。細胞を、2.5×10個の細胞/mlまで希釈した。(これは、1ウェルあたり5×10個のターゲット細胞を使用する場合、25:1のエフェクター/ターゲット比がもたらされる)。
【0080】
ターゲット細胞を、BADTA(2,2’:6’,2’’−ターピリジン−6,6’’−ジカルボン酸アセトキシメチルエステル)を用いて標識する:細胞を、アキュターゼ(商標)(Millipore)の添加によって収集し、1回洗浄し、そして1×10個の細胞/mlまで希釈した。1×10個の細胞あたり2.5μlのBADTAを加え、そして35分間37℃/5%COでインキュベーションした。標識期間後、細胞を、10mlの培養培地を用いて希釈し、200gで10分間遠心分離にかけ、そして上清を吸引した。この工程を、培養培地/2mMプロベネシドを用いて3回繰り返し、そして試料を1×10個の細胞/mlまで希釈し、300gで5分間遠心分離にかけ、上清を取り出し、そして50μlをピペットで、バックグラウンド対照のためのウェルに入れた。
【0081】
バックグラウンド:50μlのアリコートを、100μlの培地を用いて希釈。自発的溶解:50μlの標識されたターゲット細胞懸濁液;100μlの培養培地を加え、そして残りの試料のように2時間/37℃でインキュベーションする。最大溶解:50μl/ウェルの標識されたターゲット細胞懸濁液;100μlのTriton(登録商標)X−100(0.5%PBS溶液)を加え、そして2時間/37℃でインキュベーションする。抗体を含まない溶解対照:50μl/ウェルの標識されたターゲット細胞懸濁液;50μlの培養培地を加え;50μlのエフェクター細胞を加え、2時間で37℃。エフェクター細胞を含まない溶解対照:50μl/ウェルの標識されたターゲット細胞懸濁液;50μlの培養培地を加え、使用される最も高い濃度の50mlの抗体溶液を加え、そして2時間/37℃でインキュベーションする。
【0082】
インキュベーション期間終了時に、96ウェルプレートを100rpmで遠心分離にかけた。20μlの各上清を、OptiPlate(登録商標)HTRF−96(Packard)に移し、そして200mlのユーロピウム溶液を加え、そして振とう機で15分間インキュベーションした。時間分解蛍光に関する蛍光を測定し、そして自発的放出および特異的放出を、以下の式に従って算出した:
【0083】
特異的放出%=特異的溶解(計数)−自発的溶解(計数)×100
最大溶解(計数)−自発的溶解(計数)
【0084】
抗体106の添加後に有意な特異的放出(ADCC)は全く測定されなかった。
【0085】
実施例11
CDCアッセイ
細胞をトリプシンの添加により収集し、洗浄し、1×10個の細胞/mlとなるまで希釈し、そして100μl/ウェルを96ウェル平底マイクロタイタープレートに加えた。抗体を培地中25μlの容量で6倍の最終濃度で加えた(それぞれ抗体−リガンド複合体)。30分間のインキュベーション時間後、25μlの新たに溶解した幼齢ウサギ補体(Cedarlane CL3441、1mlの凍結乾燥物、4mlの再蒸留水中に新たに希釈)を、1:24の補体最終濃度となるまで加えた。20時間のインキュベーション期間後、50μlの上清を取り出し、そして100μlのCell Titer Glo(登録商標)試薬(Promega Corp.)を残りの100μlの上清に加えた。プレートを2分間オービタルシェーカーで振とうし、100μl/ウェルを黒ルミネセンスマイクロタイタープレート(Costar)に移し、そして発光を測定した。
【0086】
対照:培地対照(ターゲット細胞+50μlの培地);最大溶解(ターゲット細胞+50μl 0.5%Triton X-100)、補体対照(ターゲット細胞+25μlの培地+25μlの補体)。
【0087】
結果:抗IL17抗体106を用いて、補体依存性細胞障害作用(CDC)を全く検出できなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重鎖可変ドメインが、配列番号1のCDR3領域、配列番号2または9のCDR2領域および配列番号3のCDR1領域を含むこと、そして、軽鎖可変ドメインが、配列番号4のCDR3領域、配列番号5のCDR2領域および配列番号6のCDR1領域を含むことを特徴とする、ヒトIL−17に結合する抗体。
【請求項2】
重鎖可変ドメインが、配列番号7または10を含むことを特徴とする、請求項1記載の抗体。
【請求項3】
重鎖可変ドメインが配列番号7または10を含み、そして軽鎖可変ドメインが配列番号8を含むことを特徴とする、請求項2記載の抗体。
【請求項4】
ハイブリドーマ細胞株DSM ACC2941から得ることができることを特徴とする、ヒトIL−17に結合する抗体。
【請求項5】
抗体3C1(DSM ACC2941)のキメラ抗体、ヒト化抗体、またはT細胞エピトープの欠失した抗体変異体であることを特徴とする、ヒトIL−17に結合する抗体。
【請求項6】
ヒンジ領域のアミノ酸216位〜240位において、および/またはC2とC3との間の第2のドメイン間領域のアミノ酸327位〜331位において改変されたヒトIgG1アイソタイプであることによって特徴付けられる、請求項1〜5記載の抗体。
【請求項7】
モノクローナル抗体3C1(DSM ACC2941)が結合するのと同じIL−17エピトープに結合し、ヒンジ領域のアミノ酸216位〜240位において、および/またはC2とC3との間の第2のドメイン間領域のアミノ酸327位〜331位において改変されたヒトIgG1アイソタイプであることによって特徴付けられる、ヒトIL−17に結合する抗体。
【請求項8】
突然変異L234A(アミノ酸234位におけるロイシンの代わりにアラニン)およびL235Aを含むことによって特徴付けられる、請求項6または7記載の抗体。
【請求項9】
請求項1〜8記載の抗体を含むことによって特徴付けられる、薬学的組成物。
【請求項10】
モノクローナル抗体3C1(DSM ACC2941)が結合するのと同じIL−17エピトープに結合する抗体を含むことによって特徴付けられる、薬学的組成物。
【請求項11】
薬学的組成物の製造のための、請求項1〜8記載の抗体の使用。
【請求項12】
薬学的組成物の製造のための、モノクローナル抗体3C1(DSM ACC2941)が結合するのと同じIL−17エピトープに結合することによって特徴付けられる、抗体の使用。
【請求項13】
多発性硬化症、関節リウマチ、乾癬、クローン病、慢性閉塞性肺疾病(COPD)、喘息および移植片拒絶の処置のための、請求項1〜8記載の抗体の使用。
【請求項14】
多発性硬化症、関節リウマチ、乾癬、クローン病、慢性閉塞性肺疾病(COPD)、喘息および移植片拒絶の処置のための、モノクローナル抗体3C1(DSM ACC2941)が結合するのと同じIL−17エピトープに結合することによって特徴付けられる、抗体の使用。
【請求項15】
IL−17に結合する抗体の重鎖をコードする核酸であって、前記抗体が、配列番号1の重鎖CDR3領域、配列番号2または9の重鎖CDR2領域、配列番号3の重鎖CDR1領域、配列番号4の軽鎖CDR3領域、配列番号5の軽鎖CDR2領域および配列番号6の軽鎖CDR1領域を含むことを特徴とする、前記核酸。
【請求項16】
原核宿主細胞または真核宿主細胞におけるIL−17に結合する抗体の発現のための、請求項15記載の核酸を含むことによって特徴付けられる、発現ベクター。
【請求項17】
原核宿主細胞または真核宿主細胞において請求項15記載の核酸を発現させ、そして前記細胞または細胞培養上清から前記抗体を回収することによって特徴付けられる、IL−17に結合する組換え抗体の産生のための方法。
【請求項18】
ハイブリドーマ細胞株DSM ACC2941。

【公表番号】特表2012−503977(P2012−503977A)
【公表日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−528223(P2011−528223)
【出願日】平成21年9月21日(2009.9.21)
【国際出願番号】PCT/EP2009/006784
【国際公開番号】WO2010/034443
【国際公開日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【出願人】(506153815)ロシュ グリクアート アクチェンゲゼルシャフト (25)
【Fターム(参考)】