ヒトOATP−R遺伝子導入モデル非ヒト動物
【課題】本発明は、腎不全や血圧異常の治療薬の開発や病態の解析、あるいは、薬物の腎排出の解析に対する有用性が見込まれる、ヒトOATP−R遺伝子導入モデル非ヒト動物や、該モデル非ヒト動物を用いた腎機能向上作用や血圧異常改善作用を有する物質のスクリーニング方法を提供することを目的とする。
【解決手段】生体内でスプライシングされることがないヒトOATP−R遺伝子が導入され、ヒトOATP−Rを腎臓で発現するトランスジェニックモデル非ヒト動物を用いることを特徴とする。
【解決手段】生体内でスプライシングされることがないヒトOATP−R遺伝子が導入され、ヒトOATP−Rを腎臓で発現するトランスジェニックモデル非ヒト動物を用いることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腎不全や血圧異常の治療薬の開発や病態の解析、あるいは、薬物の腎排出の解析に対する有用性が見込まれる、ヒトOATP−R遺伝子導入モデル非ヒト動物や、該モデル非ヒト動物を用いた腎機能向上作用や血圧異常改善作用を有する物質のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
腎不全患者、特に腎透析を受ける患者の数は年々増加の一途を辿っており、現在20万人の患者が維持透治療を行っており、さらに毎年3万人以上が新たに透析導入に至っている。透析療法には、一人あたり年間約500万円の費用がかかるため、20万人に対して約1兆円の医療費が恒常的に必要となっている。従って、腎不全の症状を緩和したり、透析導入を遅らせる治療法が開発されれば、患者のQOL(クオリティオブライフ)に資するだけでなく、医療費の大幅な削減が可能となり社会に大きく貢献することが出来る。
【0003】
生体内での異物、毒物、尿毒症物質の排泄には、肝臓と腎臓が大きく関与している。なかでも水溶性物質、あるいは体内代謝により水溶性となった物質は、腎臓から尿中に排泄される。しかしながら、尿毒症物質のうち、ヒト腎臓からの排泄や、腎排泄にかかわる因子について詳細な解析がなされているのは、インドキシル硫酸しかなかった。また、透析では除去できない尿毒症物質の体内への蓄積による腎障害の発生という悪性サイクルが臨床で問題となっており、腎透析とは異なる新たな尿毒症物質排泄システムの早急な構築が求められていた。
【0004】
また、高血圧や低血圧などの血圧異常は生活習慣病の1種とされ、患者の数も増加傾向にあるとされる。低血圧は、頭痛、めまい、全身倦怠感、不眠、食欲不振、吐き気、下痢、動悸、息切れ等を引き起こし、社会生活に支障を来たす。一方、高血圧は、虚血性心疾患、脳卒中、腎不全などの発症リスクともなるため、予防・治療の必要性はより高いといえる。また、血圧異常の中には、従来の治療薬が十分な効果を奏さない場合があり、あらたな作用機序の血圧異常治療薬の開発が求められていた。
【0005】
腎臓には多種多様なトランスポーターが存在し、多様な物質輸送に関与している。なかでも有機アニオントランスポーター(OATP:organic anion transporting polypeptide)ファミリーは、その幅広い基質認識性と多岐にわたる臓器分布から、内因性物質や薬物の体内動態において重要な役割を行うトランスポーターと考えられている。本発明者は、世界に先駆けて15個以上の有機アニオントランスポーターを単離し、胆汁酸、甲状腺ホルモン、ステロイドホルモン、プロスタグランジン類等が単に拡散でなく有機アニオントランスポーターにより細胞膜輸送されるという知見を世界に先駆けて報告してきた。更に、本発明者は、ヒト腎臓にのみ発現している有機アニオントランスポーターOATP−R(OATP4C1やOATP−M1とも呼ばれる)を世界で初めて発見し(非特許文献1参照)、その内容に関する特許出願が日本において特許登録された(特許文献1参照)。
【0006】
ラットやマウスには複数の有機アニオントランスポーターが、血管側と尿管側の両方に存在するが、ヒト腎臓においてはヒトOATP−Rが近位尿細管血管側だけに発現しており、血液から腎臓に内因性物質や各種薬物を送り込む輸送タンパク質であることが明らかになった(非特許文献1参照)。更に、非特許文献1により、ヒトOATP−Rは心不全や不整脈の治療に用いられるジゴキシンや尿毒症物質の腎臓からの排泄に関与する重要な遺伝子であること、また腎不全状態においてはOATP−Rの発現は著しく低下することから、OATP−Rが尿毒症物質や薬物の腎排泄を規定する重要な遺伝子であることが明らかとなった(図1)。しかし、ヒトOATP−Rを発現する非ヒト動物は、これまで知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】日本国特許第4008481号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】PNAS March 9, 2004. vol.101, no.10, 3569-3574
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、腎不全や血圧異常の治療薬の開発や病態の解析、あるいは、薬物の腎排出の解析に対する有用性が見込まれる、ヒトOATP−R遺伝子導入モデル非ヒト動物や、該モデル非ヒト動物を用いた腎機能向上作用や血圧異常改善作用を有する物質のスクリーニング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するのに先立ち、ヒトOATP−R遺伝子を発現する、イヌ腎臓由来MDCKII培養細胞の作製を試みた。すなわち、ヒトOATP−Rのコード領域を含む発現ベクターを培養細胞に導入して、ヒトOATP−Rを培養細胞内で強制発現させることを試みた。しかし、得られたほとんどの細胞が死滅してしまい、ヒトOATP−R強制発現細胞を確立することができなかった。また、ヒトOATP−R遺伝子導入ラットの作製を試みたが、目的とするヒトOATP−Rの発現を確認することができなかった。そこで、本発明者は、前述のヒトOATP−R遺伝子発現ベクターを導入した培養細胞からmRNAを抽出して解析を行なったところ、ヒトOATP−RのmRNAのサイズがほとんどの細胞で小さくなっていた。さらに、これらのヒトOATP−RのmRNAの配列を常法により決定したところ、正常なヒト腎臓細胞では起こらない4ヶ所のスプライシング部位で新たにスプライシングが生じており(図2参照)、その結果、トランスポーターとして機能しない構造となっていた。このことは、ヒトOATP−R遺伝子を含む発現ベクターが導入された細胞が、ヒトOATP−Rによる取り込み基質の毒性を避けるべく、ヒトOATP−RのmRNAをスプライシングしてその発現をキャンセルすることで、無毒化を図っていると考えられた。ヒトOATP−RのmRNAについての同様の短小化は、本発明者がヒトOATP−Rを導入したトランスジェニックマウスでも確認されており、このmRNAの短小化は生体の防御機構であると考えられた。そこで、本発明者は、鋭意検討し、ヒトOATP−Rにおける前述の4ヶ所のスプライシング部位のうち、3ヶ所のスプライシング部位に変異を導入し、該ヒトOATP−Rの生体内におけるスプライシングを抑制した変異ヒトOATP−Rを、近位尿細管特異的に発現しているグルコーストランスポーターsglt2のプロモーターの下流に配置した発現ベクターをラットに導入することによって、ヒトOATP−R遺伝子腎臓特異的に発現するトランスジェニックラットの作製に成功し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、(1)生体内でスプライシングされることがないヒトOATP−R遺伝子が導入され、ヒトOATP−Rを腎臓で発現するトランスジェニックモデル非ヒト動物や、(2)ヒトOATP−R遺伝子が、以下の(A)〜(F)のいずれかのヌクレオチド配列からなることを特徴とする上記(1)に記載のトランスジェニックモデル非ヒト動物;(A)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードし、生体内でスプライシングされることがないヌクレオチド配列;(B)配列番号2に示されるアミノ酸配列において1若しくは2個以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、OATP−R活性を有するタンパク質をコードするヌクレオチド配列であって、さらに生体内でスプライシングされることがないヌクレオチド配列;(C)配列番号2に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって、かつ、OATP−R活性を有するタンパク質をコードするヌクレオチド配列であって、さらに生体内でスプライシングされることがないヌクレオチド配列;(D)配列番号1のヌクレオチド番号6〜2177からなるヌクレオチド配列;(E)配列番号1のヌクレオチド番号6〜2177からなるヌクレオチド配列において、1若しくは2個以上のヌクレオチドが欠失、置換若しくは付加されたヌクレオチド配列であって、かつ、OATP−R活性を有するタンパク質をコードするヌクレオチド配列であって、さらに生体内でスプライシングされることがないヌクレオチド配列;(F)配列番号1のヌクレオチド番号6〜2177からなるヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列であって、かつ、OATP−R活性を有するタンパク質をコードするヌクレオチド配列であって、さらに生体内でスプライシングされることがないヌクレオチド配列;や、(3)ヒトOATP−R遺伝子内の配列番号1のヌクレオチド番号20〜23、359〜362、1025〜1028及び1589〜1592におけるヌクレオチド配列又はそれに相当するヌクレオチド配列が、AGGT又はAGGCからなるヌクレオチド配列以外のヌクレオチド配列であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のトランスジェニックモデル非ヒト動物や、(4)ヒトOATP−R遺伝子内の配列番号1のヌクレオチド番号20〜23、359〜362及び1025〜1028におけるヌクレオチド配列又はそれに相当するヌクレオチド配列が、AGGTからなるヌクレオチド配列以外のヌクレオチド配列であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のトランスジェニックモデル非ヒト動物や、(5)AGGTからなるヌクレオチド配列以外のヌクレオチド配列が、AGGGからなるヌクレオチド配列であることを特徴とする上記(3)又は(4)に記載のトランスジェニック非ヒト動物や、(6)ヒトOATP−R遺伝子が、腎臓特異的な発現制御配列の制御下に発現していることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載のトランスジェニックモデル非ヒト動物や、(7)ヒトOATP−R遺伝子が、腎臓特異的に発現するプロモーターの制御下に発現していることを特徴とする上記(6)に記載のトランスジェニックモデル非ヒト動物や、(8)腎臓特異的に発現するプロモーターが、グルコーストランスポーターsglt2のプロモーターであることを特徴とする上記(7)に記載のトランスジェニックモデル非ヒト動物や、(9)トランスジェニックモデルラットであることを特徴とする上記(1)〜(8)のいずれかに記載のトランスジェニックモデル非ヒト動物や(10)腎機能向上モデル非ヒト動物である上記(1)〜(9)のいずれかに記載のトランスジェニックモデル非ヒト動物や、(11)低血圧モデル非ヒト動物である上記(1)〜(9)のいずれかに記載のトランスジェニックモデル非ヒト動物や、(12)薬物排泄解析モデル非ヒト動物である上記(1)〜(9)のいずれかに記載のトランスジェニックモデル非ヒト動物や、(13)上記(1)〜(12)のいずれかに記載のトランスジェニックモデル非ヒト動物に由来し、ヒトOATP−Rを発現する細胞に関する。
【0012】
また本発明は、(14)以下の工程(A)〜(D)を含む、腎機能向上作用を有する物質のスクリーニング方法;上記(1)〜(10)のいずれかに記載のトランスジェニックモデル非ヒト動物に被検物質を投与する工程(A);トランスジェニックモデル非ヒト動物の腎機能を測定する工程(B);工程(B)で得られた腎機能の測定値を、被検物質を投与しなかった場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における腎機能の測定値と比較する工程(C);被検物質を投与した場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における腎機能の測定値が、被検物質を投与しなかった場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における腎機能の測定値と比較して優れているときは、その被検物質を腎機能向上作用を有する物質と評価し、被検物質を投与した場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における腎機能の測定値が、被検物質を投与しなかった場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における腎機能の測定値と比較して劣るときは、その被検物質を腎機能低下作用を有する物質と評価する工程(D);や、(15)トランスジェニックモデル非ヒト動物が、腎臓の一部の機能を物理的に低下させたトランスジェニックモデル非ヒト動物であることを特徴とする上記(14)に記載の腎機能向上作用を有する物質のスクリーニング方法に関する。
【0013】
さらに本発明は、(16)以下の工程(A)〜(D)を含む、血圧異常改善作用を有する物質のスクリーニング方法;上記(1)〜(9)及び(11)のいずれかに記載のトランスジェニックモデル非ヒト動物に被検物質を投与する工程(A);トランスジェニックモデル非ヒト動物の血圧を測定する工程(B);工程(B)で得られた血圧の測定値を、被検物質を投与しなかった場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における血圧と比較する工程(C);被検物質を投与した場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における血圧の測定値が、被検物質を投与しなかった場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における血圧の測定値と比較して高いときは、その被検物質を昇圧物質と評価し、被検物質を投与した場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における血圧の測定値が、被検物質を投与しなかった場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における血圧の測定値と比較して低いときは、その被検物質を降圧物質と評価する工程(D);や、(17)トランスジェニックモデル非ヒト動物が、腎臓の一部の機能を物理的に低下させたトランスジェニックモデル非ヒト動物であることを特徴とする上記(16)に記載の血圧異常改善作用を有する物質のスクリーニング方法に関する。
【0014】
さらにまた本発明は、(18)以下の工程(A)〜(D)を含む、ヒトOATP−Rにより排泄される薬物であるかどうかを判定する方法;上記(1)〜(9)及び(12)のいずれかに記載のトランスジェニックモデル非ヒト動物に被検薬物を投与する工程(A);トランスジェニックモデル非ヒト動物の尿中の被検薬物又はその代謝産物を測定する工程(B);工程(B)で得られた被検薬物又はその代謝産物の測定値を、被検薬物を投与した非トランスジェニックモデル非ヒト動物の尿中の被検薬物又はその代謝産物の測定値と比較する工程(C);トランスジェニックモデル非ヒト動物における被検薬物又はその代謝産物の測定値が、非トランスジェニックモデル非ヒト動物における被検薬物又はその代謝産物の測定値より高いときは、その被検薬物をヒトOATP−Rにより排泄される薬物であると判定し、トランスジェニックモデル非ヒト動物における被検薬物又はその代謝産物の測定値が、非トランスジェニックモデル非ヒト動物における被検薬物又はその代謝産物の測定値と同等か又は低いときは、その被検物質をヒトOATP−Rにより排泄される薬物ではないと判定する工程(D);に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明のトランスジェニックモデル非ヒト動物によれば、これまでとは異なるアプローチによって、腎不全や血圧異常の治療薬の開発や病態の解析、あるいは、薬物の腎排出の解析を行なうことができると考えられる。特に、ヒトOATP−R等のトランスポーターの機能は、転写、翻訳レベルのみで決定するものではなく、膜への移行や輸送能、生体内での他のトランスポーターとのバランスによって決定する。このため、本発明のトランスジェニックモデル非ヒト動物を用いることで、生体内にかなり近い状況でのヒトOATP−Rの機能を解析することが可能となる。また、本発明のトランスジェニックモデル非ヒト動物は、腎機能向上モデル非ヒト動物や、低血圧モデル非ヒト動物や、薬物排泄解析モデル非ヒト動物等として好適に用いることができる。そのため、本発明のトランスジェニックモデル非ヒト動物は、腎機能向上作用を有する物質や血圧異常改善作用を有する物質のスクリーニング方法のほか、ヒトOATP−Rにより排泄される薬物であるかどうかの判定方法にも利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】尿細管細胞におけるジゴキシン輸送の概略を示す図である。
【図2】過剰発現系におけるOATP4C1(ヒトOATP−R)の選択的スプライシングを示す図である。
【図3】pGL2-sglt2 5pr-mut-Cre vectorの概要を示す図である。
【図4】pGL2-sglt2 5pr-mut XhoI- MluIBlunt vectorの概要を示す図である。
【図5】左パネル:本発明のトランスジェニック非ヒト動物のゲノムと、ヒトOATP−R遺伝子を増幅し得るプライマーとを用いたゲノミックPCRの結果を示す図である。 右パネル:本発明のトランスジェニック非ヒト動物の腎臓組織由来のトータルRNAと、ヒトOATP−R遺伝子を増幅し得るプライマーとを用いたRT−PCRの結果を示す図である。
【図6】本発明のトランスジェニック非ヒト動物等における、投与ジゴキシン量に対する尿中ジゴキシン排泄量の比を示す図である。
【図7】本発明のトランスジェニック非ヒト動物等における、収縮期の血圧を示す図である。グラフの横軸は、腎摘手術からの経過日数を示し、縦軸は血圧(mmHg)を示す。
【図8】本発明のトランスジェニック非ヒト動物等における平均体重の推移を示す図である。
【図9】本発明のトランスジェニック非ヒト動物等における血清クレアチニン濃度(mg/dl)の推移を示す図である。
【図10】本発明のトランスジェニック非ヒト動物等の心臓の左室後壁厚の推移(mm)を示す図である。
【図11】本発明のトランスジェニック非ヒト動物等の血漿中のグアジニノコハク酸濃度(左パネル)、及び、尿中のグアジニノコハク酸濃度(右パネル)を示す図である。
【図12】本発明のトランスジェニック非ヒト動物等の血漿中のβ−アラニン濃度(左パネル)、及び、尿中のβ−アラニン濃度(右パネル)を示す図である。
【図13】本発明のトランスジェニック非ヒト動物等の血漿中のタウリン濃度(左パネル)、及び、尿中のタウリン濃度(右パネル)を示す図である。
【図14】本発明のトランスジェニック非ヒト動物等の血漿中のグアニジウムコハク酸濃度(左パネル)、及び、トランスアコニット酸濃度(右パネル)を示す図である。
【図15】本発明のトランスジェニック非ヒト動物等の血漿中の非対称ジメチルアルギニン(ADMA)濃度(nmol/ml)(左パネル)、及び、ADMAの尿クリアランス(右パネル)を示す図である。
【図16】本発明のトランスジェニック非ヒト動物等の腎臓におけるDDAH1及びDDAH2の発現を示す図である。なお、図中、白抜きの棒グラフは腎摘TG(+)ラット群の結果を表し、黒塗りの棒グラフは腎摘TG(−)ラット群の結果を表す。
【図17】本発明のトランスジェニック非ヒト動物等の腎組織中のCD68陽性細胞数を示す図である。
【図18】本発明のトランスジェニック非ヒト動物等の腎臓細胞中のカリクレインの発現を示す図である。
【図19】本発明のトランスジェニック非ヒト動物等の血漿中の各物質の濃度を示す図である。なお、図中、白抜きの棒グラフは腎摘TG(+)ラット群の結果を表し、黒塗りの棒グラフは腎摘TG(−)ラット群の結果を表す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のトランスジェニックモデル非ヒト動物としては、生体内でスプライシングされることがないヒトOATP−R遺伝子が導入され、ヒトOATP−Rを腎臓で発現するトランスジェニックモデル非ヒト動物であれば特に制限はされず、上記の「ヒトOATP−R遺伝子が導入され」とは、ヒトOATP−R遺伝子が導入された結果、ヒトOATP−R遺伝子が体細胞染色体に組み込まれていることを意味する。本発明のトランスジェニックモデル非ヒト動物は、生体内でスプライシングされることがないヒトOATP−R遺伝子が導入され、ヒトOATP−Rを腎臓で発現するので、特にヒトOATP−R等に関連した薬物排泄解析モデル非ヒト動物として好適に使用することができる。また、本発明のトランスジェニックモデル非ヒト動物は、腎機能が向上しており、また、血圧が低下しあるいは血圧上昇が抑制されているため、腎機能向上モデル非ヒト動物や低血圧モデル非ヒト動物や血圧上昇抑制モデル非ヒト動物として好適に使用することができる。
【0018】
上記非ヒト動物としては、ラット、マウス、モルモット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウシ及びサル等の非ヒト哺乳動物を好ましく例示することができ、中でも、ラット、マウス、モルモット、ハムスター等の齧歯目動物をより好ましく例示することができ、実験動物としての汎用性や利便性を考慮してラット、マウスをさらに好ましく例示することができ、より幅広い生理学的検討が行い易いことから、ラットを最も好ましく例示することができる。
【0019】
上記生体内でスプライシングされることがないヒトOATP−R遺伝子とは、ヒトOATP−R遺伝子を導入する非ヒト動物の生体内で、mRNA前駆体から成熟mRNAを形成する際にヒトOATP−Rのコード領域がスプライシングされることがないヒトOATP−R遺伝子を意味し、より具体的には、後述の実施例2の系のゲノミックPCRやRT−PCRにおいて、ヒトOATP−Rのコード領域全域が確認できるヒトOATP−R遺伝子を意味する。生体内でスプライシングされることがないヒトOATP−R遺伝子の具体例としては、以下の(A)〜(F)のいずれかのヌクレオチド配列からなるヒトOATP−R遺伝子を好適に例示することができる。
(A)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードし、生体内でスプライシングされることがないヌクレオチド配列;
(B)配列番号2に示されるアミノ酸配列において1若しくは2個以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、OATP−R活性を有するタンパク質をコードするヌクレオチド配列であって、さらに生体内でスプライシングされることがないヌクレオチド配列;
(C)配列番号2に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって、かつ、OATP−R活性を有するタンパク質をコードするヌクレオチド配列であって、さらに生体内でスプライシングされることがないヌクレオチド配列;
(D)配列番号1のヌクレオチド番号6〜2177からなるヌクレオチド配列;
(E)配列番号1のヌクレオチド番号6〜2177からなるヌクレオチド配列において、1若しくは2個以上のヌクレオチドが欠失、置換若しくは付加されたヌクレオチド配列であって、かつ、OATP−R活性を有するタンパク質をコードするヌクレオチド配列であって、さらに生体内でスプライシングされることがないヌクレオチド配列;
(F)配列番号1のヌクレオチド番号6〜2177からなるヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列であって、かつ、OATP−R活性を有するタンパク質をコードするヌクレオチド配列であって、さらに生体内でスプライシングされることがないヌクレオチド配列;
【0020】
上記(A)〜(F)のいずれかのヌクレオチド配列からなるヒトOATP−R遺伝子のうち、(A)〜(C)及び(E)〜(F)のいずれかのヌクレオチド配列からなるヒトOATP−R遺伝子(以下、「ヒトOATP−R遺伝子変異体」ともいう。)は、例えば上記(D)のヌクレオチド配列をベースとして、スプライシング部位となり得る配列を含まないように改変することによって、改変したヌクレオチド配列でありながら、OATP−R活性を保持し、さらに生体内でスプライシングされることがないヌクレオチド配列を得ることができる。上記のスプライシング部位となり得る配列としては、2箇所以上の「AGGT」や「AGGC」を例示することができ、「AGGT」を特に好適に例示することができる。例えば、スプライシング部位となり得ることがよく知られる2箇所以上の「AGGT」の場合、5’側の「GT」から3’側の「AG」に対応するmRNAがイントロン(GU−AGイントロン)として切り出される。これらのスプライシング部位となり得るヌクレオチド配列を、そのヌクレオチド配列以外のヌクレオチド配列とする(例えば1つ又は2個以上のヌクレオチド配列をスプライシング部位となり得る配列とは異なるヌクレオチド配列に置換する)ことによって、生体内でスプライシングされることがないヌクレオチド配列とすることができる。生体内でスプライシングされることがないヒトOATP−R遺伝子変異体としてより具体的には、配列番号1のヌクレオチド番号20〜23、359〜362、1025〜1028及び1589〜1592におけるヌクレオチド配列又はそれに相当するヌクレオチド配列が、AGGT又はAGGCからなるヌクレオチド配列以外のヌクレオチド配列であるものを好適に例示することができ、配列番号1のヌクレオチド番号20〜23、359〜362及び1025〜1028におけるヌクレオチド配列又はそれに相当するヌクレオチド配列が、AGGTからなるヌクレオチド配列以外のヌクレオチド配列であるものをより好適に例示することができ、これらの配列において、上記のAGGTからなるヌクレオチド配列以外のヌクレオチド配列がAGGGからなるヌクレオチド配列であるものとさらに好適に例示することができる。前述の配列番号1のヌクレオチド番号20〜23、359〜362、1025〜1028及び1589〜1592におけるヌクレオチド配列に相当するヌクレオチド配列とは、初期設定のCLUSTALW(version 1.83)を用いて、配列番号1のヌクレオチド配列とアラインメントを作成した場合に、配列番号1のヌクレオチド番号20〜23、359〜362、1025〜1028及び1589〜1592に対応するヌクレオチド配列を意味する。なお、ヒトOATP−R遺伝子変異体が生体内でスプライシングされているかどうかは、そのヒトOATP−R遺伝子変異体のコード領域の5’末端付近と3’末端付近に対応するプライマーを作製し、トランスジェニックモデル非ヒト動物の腎臓の組織から抽出したトータルRNAを鋳型として、前述のプライマーを用いたRT−PCRを行ない、そのRT−PCR産物中のヒトOATP−R遺伝子変異体の配列を決定してその配列を調べることによって確認することができる。
【0021】
上記ヒトOATP−R遺伝子変異体がコードするヒトOATP−R変異体がヒトOATP−R活性を有しているかどうかは、ヒトOATP−Rの輸送基質として知られるジゴキシン、甲状腺ホルモン、エストロン−3−硫酸を輸送するかどうかを調べることにより確認することができる。また、この確認には、ヒトOATP−Rに特異的に結合する抗体を用いたウエスタンブロット法を利用することもできる。ヒトOATP−R変異体がジゴキシン等を輸送することは、作製したトランスジェニックモデル非ヒト動物にジゴキシンを静脈注射し、尿中に排泄されるジゴキシン量が、非トランスジェニックモデル非ヒト動物に同様にジゴキシンを静脈注射して尿中に排泄されるジゴキシン量より多いことを確認することによって調べることができる。
【0022】
上記「1若しくは2個以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列」とは、例えば1〜20個、好ましくは1〜15個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個の任意の数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を意味する。また、上記「1若しくは2個以上のヌクレオチドが欠失、置換若しくは付加されたヌクレオチド配列」とは、例えば1〜20個、好ましくは1〜15個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個の任意の数のヌクレオチドが欠失、置換若しくは付加された塩基配列を意味する。また。上記「少なくとも80%以上の相同性を有するアミノ酸配列」としては、対照となるアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を意味し、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の相同性を有するアミノ酸配列を好適に例示することができる。
【0023】
例えば、これら1若しくは2個以上のヌクレオチドが欠失、置換若しくは付加されたヌクレオチド配列からなるDNA(変異DNA)は、化学合成、遺伝子工学的手法、突然変異誘発などの当業者に既知の任意の方法により作製することもできる。具体的には、配列番号1に示されるヌクレオチド配列からなるDNA(ヒトOATP−R遺伝子)に対し、変異原となる薬剤と接触作用させる方法、紫外線を照射する方法、遺伝子工学的な手法等を用いて、これらDNAに変異を導入することにより、変異DNAを取得することができる。遺伝子工学的手法の一つである部位特異的変異誘発法は特定の位置に特定の変異を導入できる手法であることから有用であり、モレキュラークローニング第2版、Current Protocols in Molecular Biology, Supplement 1〜38,John Wiley & Sons (1987-1997)等に記載の方法に準じて行うことができる。
【0024】
その他、配列番号1に示されるヌクレオチド配列の配列情報や、配列番号2に示されるアミノ酸配列の配列情報に基づいて適当なプローブやプライマーを調製し、それらを用いて、ヒトOATP−R遺伝子が存在することが予測されるcDNAライブラリーをスクリーニングすることにより目的のDNAを単離したり、常法に従って化学合成により調製することができる。具体的には、本発明におけるポリヌクレオチド(特にDNA)が単離されたヒトより、常法に従ってcDNAライブラリーを調製し、次いで、このライブラリーから、本発明におけるポリヌクレオチドに特有の適当なプローブを用いて所望クローンを選抜することにより、本発明におけるヒトOATP−R遺伝子変異体等のポリヌクレオチドを取得することができる。上記cDNAの起源としては、ヒト由来の各種の細胞または組織を例示することができ、また、これらの細胞又は組織からの全RNAの分離、mRNAの分離や精製、cDNAの取得とそのクローニングなどはいずれも常法に従って実施することができる。本発明におけるポリヌクレオチドをcDNAライブラリーからスクリーニングする方法は、例えば、モレキュラークローニング第2版に記載の方法等、当業者により常用される方法を挙げることができる。
【0025】
前述したのと同様の方法を用いて、配列番号2に示されるアミノ酸配列において1若しくは2個以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列からなるヒトOATP−R遺伝子や、配列番号2に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%以上の相同性を有するアミノ酸配列をコードするヒトOATP−R遺伝子や、配列番号1のヌクレオチド番号6〜2177からなるヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列からなるヒトOATP−R遺伝子を得ることができる。
【0026】
上記「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列」とは、DNA又はRNAなどの核酸をプローブとして使用し、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法、あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより得られるヌクレオチド配列を意味し、具体的には、コロニーあるいはプラーク由来のDNAまたは該DNAの断片を固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍程度のSSC溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM塩化ナトリウム、15mMクエン酸ナトリウム)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるDNAをあげることができる。ハイブリダイゼーションは、Molecular Cloning: A laboratory Mannual, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY.,1989.(以後 "モレキュラークローニング第2版"と略す)等に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0027】
例えば、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列としては、プローブとして使用するヌクレオチド配列(ポリヌクレオチド)のヌクレオチド配列と一定以上の相同性を有するヌクレオチド配列を挙げることができ、例えば、プローブとして使用するヌクレオチド配列に対して70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の相同性を有するヌクレオチド配列を好適に例示することができる。
【0028】
本発明におけるヒトOATP−R(OATP−R変異体を含む)の取得・調製方法は特に限定されず、天然由来のヒトOATP−Rでも、化学合成したヒトOATP−Rでも、遺伝子組換え技術により作製した組換えヒトOATP−Rの何れでもよい。天然由来のヒトOATP−Rを取得する場合には、かかるヒトOATP−Rを発現している細胞又は組織からヒトOATP−Rの単離・精製方法を適宜組み合わせることにより、本発明のヒトOATP−Rを取得することができる。化学合成によりヒトOATP−Rを調製する場合には、例えば、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t−ブチルオキシカルボニル法)等の化学合成法に従って本発明におけるヒトOATP−Rを合成することもできる。また、各種の市販のペプチド合成機を利用して本発明におけるヒトOATP−Rを合成することもできる。遺伝子組換え技術によりヒトOATP−R(ヒトOATP−R変異体を含む)を調製する場合には、ヒトOATP−R(ヒトOATP−R遺伝子変異体)をコードするヌクレオチド配列からなるヒトOATP−R遺伝子(特にDNA)を好適な発現系に導入することにより本発明のヒトOATP−RやヒトOATP−R変異体を調製することができる。これらの中でも、比較的容易な操作でかつ大量に調製することが可能な遺伝子組換え技術による調製が好ましい。
【0029】
例えば、遺伝子組換え技術によって、本発明におけるヒトOATP−Rを調製する場合、かかるヒトOATP−Rを細胞培養物から回収し精製するには、硫酸アンモニウムまたはエタノール沈殿、酸抽出、アニオンまたはカチオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィーおよびレクチンクロマトグラフィーを含めた公知の方法、好ましくは、高速液体クロマトグラフィーが用いられる。特に、アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、例えば、本発明におけるヒトOATP−Rに対するモノクローナル抗体等の抗体を結合させたカラムや、上記本発明におけるヒトOATP−Rに通常のペプチドタグを付加した場合は、このペプチドタグに親和性のある物質を結合したカラムを用いることにより、これらのヒトOATP−Rの精製物を得ることができる。また、本発明におけるヒトOATP−Rが細胞膜に発現している場合は、細胞膜分解酵素を作用させた後、上記の精製処理を行うことにより精製標品を得ることができる。
【0030】
本発明のトランスジェニックモデル非ヒト動物は、生体内でスプライシングされることがないヒトOATP−R遺伝子が導入されている他には、そのヒトOATP−Rを腎臓で発現していればよいが、より優れたトランスジェニックモデル非ヒト動物を得る観点から、腎臓特異的に発現していることが好ましい。本発明のトランスジェニックモデル非ヒト動物が、ヒトOATP−Rを腎臓で発現しているかどうかを確認する方法としては特に制限されず、そのトランスジェニックモデル非ヒト動物の腎臓組織を採取し、その腎臓組織のトータルRNA中に、ヒトOATP−R遺伝子のmRNAが含まれていることを調べたり、そのヒトOATP−Rに特異的に結合する抗体を作製して、前述の腎臓組織中のタンパク質中に該抗体が特異的に結合するタンパク質が含まれていることを調べたりすることによって、容易に確認することができる。上記のヒトOATP−R遺伝子のmRNAを検出する方法としては、簡便かつ迅速に検出し得ることから、後述の実施例2に記載するような、sglt2プライマーとhOATP−Rプライマーを用いたRT−PCRを好適に例示することができる。
【0031】
本発明のトランスジェニックモデル非ヒト動物は、公知のトランスジェニック動物の作出方法(例えば、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:7380-7384,1980)を用いて作出することができる。より具体的には、上述の本発明におけるヒトOATP−R遺伝子を、例えば、非ヒト動物の腎臓(細胞内)で機能する発現制御配列を有する非ヒト動物細胞用発現ベクターに導入し、この遺伝子発現ベクターをリニアライズした、導入遺伝子(ヒトOATP−R遺伝子)を含む直鎖DNAフラグメントを、ラット等の非ヒト動物由来の分化全能性細胞に導入し、導入後仮親に移植する。移植した分化全能性細胞から個体を発生させ、その個体の組織から抽出したDNAを用いたPCR法等により、本発明におけるヒトOATP−R遺伝子が体細胞染色体中に組み込まれた個体を選別することによって、本発明のトランスジェニックモデル非ヒト動物を得ることができる。DNAフラグメントの分化全能性細胞への導入としては、マイクロインジェクション法を好ましく例示することができる。トランスジェニックモデル非ヒト動物を作製するために用いる分化全能性細胞としては、受精卵、初期胚の他、多分化能を有するES細胞等の培養細胞を例示することができる。
【0032】
上記の「非ヒト動物の腎臓で機能する発現制御配列」としては、非ヒト動物の腎臓で機能する発現制御配列である限り特に制限されないが、非ヒト動物の腎臓で特異的に機能する発現制御配列であることが好ましく、非ヒト動物の腎臓で特異的に機能するプロモーターであることがより好ましい。非ヒト動物の腎臓で特異的に機能するプロモーター等の発現制御配列を用いると、得られるトランスジェニックモデル非ヒト動物において、ヒトOATP−R遺伝子が腎臓特異的な発現制御配列(好ましくはプロモーター)の制御下に発現するため、腎臓以外の組織において、ヒトOATP−Rによる取り込み基質の毒性の影響を回避することができる点で好ましい。なお、腎臓では、ヒトOATP−Rによる取り込み基質は速やかに排出されるため、該基質による毒性は特に問題とならない。なお、非ヒト動物の腎臓で特異的に発現するプロモーターとしては、近位尿細管特異的に発現しているマウス由来のグルコーストランスポーターsglt2のプロモーター(配列番号3;Genbank acc.# AJ292928 に記載されているポリヌクレオチドのヌクレオチド番号55〜2691からなるヌクレオチド配列)を特に好適に例示することができる。
【0033】
上記の「非ヒト動物細胞用発現ベクター」として、例えば、pEGFP-C1(クローンテック社製)、pGBT−9(クローンテック社製)、pcDNAI(インビトロジェン社製)、pcDNA3.1(インビトロジェン社製)、pEF−BOS (Nucleic Acids Res., 18, 5322, 1990)、pAGE107(Cytotechnology, 3, 133, 1990)、pCDM8(Nature, 329, 840, 1987)、pcDNAI/AmP(インビトロジェン社製)、pREP4(インビトロジェン社製)、pAGE103(J.Blochem., 101, 1307, 1987)、pAGE210等を例示することができる。
【0034】
上述の導入遺伝子(ヒトOATP−R遺伝子)の存在が確認された個体を交配することにより、本発明におけるヒトOATP−R遺伝子を腎臓で安定的に発現可能なように染色体の一部に組み込んだトランスジェニックモデル非ヒト動物を効率よく作出することができる。例えば、ヒトOATP−R遺伝子の存在が確認された個体を野生型の個体と交配させると、本発明におけるヒトOATP−R遺伝子をヘテロに有するトランスジェニックモデル非ヒト動物を得ることができる。また、本発明におけるヒトOATP−R遺伝子の存在が確認された個体同士を交配させると、本発明におけるヒトOATP−R遺伝子をホモに有するトランスジェニックモデル非ヒト動物を得ることができる。
【0035】
本発明のトランスジェニックモデル非ヒト動物は、生体内でスプライシングされることがないヒトOATP−R遺伝子が導入され、ヒトOATP−Rを腎臓で発現するので、腎機能が向上しており、また、血圧が低下しあるいは血圧上昇が抑制されている。したがって、本発明のトランスジェニックモデル非ヒト動物は、腎機能向上モデル非ヒト動物や低血圧モデル非ヒト動物や血圧上昇抑制モデル非ヒト動物として好適に使用することができる。
【0036】
得られたトランスジェニックモデル非ヒト動物の腎機能が向上しているかどうかは、例えば、後述の実施例3に記載の方法にしたがって、そのトランスジェニックモデル非ヒト動物にジゴキシンを静脈注射し、尿中に排泄されるジゴキシン量が、非トランスジェニックモデル非ヒト動物(トランスジェニックモデル非ヒト動物の作製に用いた非ヒト動物と同種の動物であって、ヒトOATP−R遺伝子が導入されていない、同性別、同週齢のモデル非ヒト動物)に同様にジゴキシンを静脈注射して尿中に排泄されるジゴキシン量より多いことを確認することによって決定することができる。本発明のトランスジェニックモデル非ヒト動物における腎機能の向上の程度としては特に制限されないが、例えば後述の実施例3に記載されたジゴキシン投与アッセイにおける「投与ジゴキシン量に対する尿中ジゴキシン排泄量の比(%)」が、非トランスジェニックモデル非ヒト動物におけるその比(%)に対して、割合として好ましくは5%以上、より好ましくは9%以上、さらに好ましくは14%以上高い程度を例示することができる。
【0037】
また、得られたトランスジェニックモデル非ヒト動物の血圧が低下しあるいは血圧上昇が抑制されているかどうかは、例えば、テイルカフ(tail cuff)における収縮期の血圧(最高血圧)が、非トランスジェニックモデル非ヒト動物と比較して低いことを確認することによって決定することができる。
【0038】
また、得られたトランスジェニックモデル非ヒト動物は、ヒトOATP−Rを腎臓で発現することから、特にヒトOATP−R等に関連した薬物排泄解析モデル非ヒト動物として好適に使用することができる。
【0039】
本発明の細胞としては、本発明のトランスジェニック非ヒト動物に由来し、ヒトOATP−Rを発現する細胞である限り特に制限されないが、中でも、本発明の非ヒト動物の腎臓に由来する細胞であることがより好ましい。本発明の細胞を本発明のトランスジェニック非ヒト動物から採取する方法としては特に制限されず、例えば公知の方法により、本発明の細胞を採取することができる。
【0040】
本発明の、腎機能向上作用を有する物質のスクリーニング方法としては、以下の工程(A)〜(D)を含んでいる限り特に制限されない。
工程(A):本発明のトランスジェニックモデル非ヒト動物に被検物質を投与する工程;工程(B):トランスジェニックモデル非ヒト動物の腎機能を測定する工程;
工程(C):工程(B)で得られた腎機能の測定値を、被検物質を投与しなかった場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における腎機能の測定値と比較する工程;
工程(D):被検物質を投与した場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における腎機能の測定値が、被検物質を投与しなかった場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における腎機能の測定値と比較して優れているときは、その被検物質を腎機能向上作用を有する物質と評価し、被検物質を投与した場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における腎機能の測定値が、被検物質を投与しなかった場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における腎機能の測定値と比較して劣るときは、その被検物質を腎機能低下作用を有する物質と評価する工程;
【0041】
上記工程(A)における被検物質の投与方法としては、特に制限されず、経口投与や静脈投与等を例示することができる。また、上記工程(B)における腎機能としては、腎臓の尿生成や排泄機能を意味し、該腎機能を測定する方法としては、例えば、ジゴキシン投与後の尿中ジゴキシン排泄量、血中のクレアチニン濃度、血中の尿素窒素濃度、尿中のヘモグロビン濃度、尿中のアルブミン濃度、尿中のβ2−マイクログロブリンなどの腎機能マーカーを常法にしたがって測定する方法を好適に例示することができ、中でも、より正確な腎機能の測定が可能であることから、ジゴキシン投与後の尿中ジゴキシン排泄量をより好適に例示することができる。ジゴキシン投与後の尿中ジゴキシン排泄量がより多い場合、血中のクレアチニン濃度がより低い場合、血中の尿素窒素濃度がより低い場合、尿中のヘモグロビン濃度がより低い場合、尿中のアルブミン濃度がより低い場合、尿中のマイクログロブリンがより低い場合などを、腎機能がより高いと評価することができ、これらと逆の場合などを腎機能がより低いと評価することができる。腎機能をより正確に測定する観点から、上記の腎機能マーカーを2つ以上組み合わせて用いることが好ましい。
【0042】
上記工程(C)等の、本発明における「被検物質を投与しなかった場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物」としては、被検物質を投与しなかった場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物であればよいが、工程(A)や(B)におけるトランスジェニックモデル非ヒト動物と同腹のトランスジェニックモデル非ヒト動物であることが、腎機能をより正確に評価する観点から好ましい。
【0043】
上記工程(D)における「被検物質を投与した場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における腎機能の測定値が、被検物質を投与しなかった場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における腎機能の測定値と比較して優れている」とは、被検物質を投与した場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における腎機能の測定値が、被検物質を投与しなかった場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物の測定値に比べて、腎機能がより高いことを示していることを意味し、「被検物質を投与した場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における腎機能の測定値が、被検物質を投与しなかった場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における腎機能の測定値と比較して劣る」とは、被検物質を投与した場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における腎機能の測定値が、被検物質を投与しなかった場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物の測定値に比べて、腎機能がより低いことを示していることを意味する。
【0044】
本発明の、血圧異常改善作用を有する物質のスクリーニング方法としては、以下の工程(A)〜(D)を含んでいる限り特に制限されない。
工程(A):発明のトランスジェニックモデル非ヒト動物に被検物質を投与する工程;
工程(B):トランスジェニックモデル非ヒト動物の血圧を測定する工程;
工程(C):工程(B)で得られた血圧の測定値を、被検物質を投与しなかった場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における血圧と比較する工程;
工程(D):被検物質を投与した場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における血圧の測定値が、被検物質を投与しなかった場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における血圧の測定値と比較して高いときは、その被検物質を昇圧物質と評価し、被検物質を投与した場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における血圧の測定値が、被検物質を投与しなかった場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における血圧の測定値と比較して低いときは、その被検物質を降圧物質と評価する工程;
【0045】
上記工程(B)における血圧測定方法としては、特に制限はされず、非ヒト動物の種類に応じた常法にしたがって、血圧を測定することができる。例えば非ヒト動物がラット等の齧歯目動物の場合は、テイルカフ(tail cuff)を尾に嵌めて血圧を測定することが好
ましい。なお、測定する血圧は、収縮期の血圧(最高血圧)であってもよいし、拡張期の血圧(最低血圧)であってもよく、改善の目的とする血圧異常に応じて適宜選択することができる。
【0046】
上記工程(D)により得られた昇圧物質は、昇圧剤として利用することができ、降圧物質は、降圧剤として利用することができる。上記の血圧異常としては、低血圧や高血圧を例示することができる。低血圧の患者には昇圧剤(昇圧物質)を、高血圧の患者には降圧剤(降圧物質)を用いることにより、血圧異常を改善することができる。
【0047】
なお、上記の「腎機能向上作用を有する物質のスクリーニング方法」や「血圧異常改善作用を有する物質のスクリーニング方法」に用いるトランスジェニックモデル非ヒト動物として、腎臓の一部の機能を物理的に低下させた本発明のトランスジェニックモデル非ヒト動物を用いることもできる。本発明のトランスジェニックモデル非ヒト動物の腎臓の一部の機能を物理的に低下させると、腎不全等の腎機能が低下した状態に近づき、また、血圧も高くなるため、腎機能向上作用を有する物質や高血圧改善作用を有する物質のスクリーニングに好適に用いることができる。また、腎臓の一部の機能とは、腎臓の一部の「尿生成や排泄機能」を意味し、「腎臓の一部の機能を物理的に低下させる」とは、腎臓の一部を切除したり、結紮したりすることによって、腎臓の一部の機能を低下させることを意味する。
【0048】
本発明の、ヒトOATP−Rにより排泄される薬物であるかどうかを判定する方法としては、以下の工程(A)〜(D)を含んでいる限り特に制限されない。
工程(A):本発明のトランスジェニックモデル非ヒト動物に被検薬物を投与する工程;工程(B):トランスジェニックモデル非ヒト動物の尿中の被検薬物又はその代謝産物を測定する工程;
工程(C):工程(B)で得られた被検薬物又はその代謝産物の測定値を、被検薬物を投与した非トランスジェニックモデル非ヒト動物の尿中の被検薬物又はその代謝産物の測定値と比較する工程;
工程(D):トランスジェニックモデル非ヒト動物における被検薬物又はその代謝産物の測定値が、非トランスジェニックモデル非ヒト動物における被検薬物又はその代謝産物の測定値より高いときは、その被検薬物をヒトOATP−Rにより排泄される薬物であると判定し、トランスジェニックモデル非ヒト動物における被検薬物又はその代謝産物の測定値が、非トランスジェニックモデル非ヒト動物における被検薬物又はその代謝産物の測定値と同等か又は低いときは、その被検物質をヒトOATP−Rにより排泄される薬物ではないと判定する工程;
【0049】
上記工程(A)における被検薬物の投与方法としては、特に制限されず、経口投与や静脈投与等を例示することができる。また、上記工程(B)における尿中の被検薬物又はその代謝産物を測定する方法としては、特に制限されないが、質量分析計による測定方法を好適に例示することができる。また、上記代謝産物としては、その被検薬物が非ヒト動物の体内で代謝された産物であれば特に制限されない。
【0050】
上記工程(C)における「非トランスジェニックモデル非ヒト動物」とは、ヒトOATP−R遺伝子が導入されていない非ヒト動物であって、上記工程(A)や(B)におけるトランスジェニックモデル非ヒト動物と同種の非ヒト動物であればよいが、ヒトOATP−R遺伝子が導入されていないこと以外、上記工程(A)や(B)におけるトランスジェニックモデル非ヒト動物と同じであることが、より正確な比較を可能とする観点から好ましい。上記工程(D)における「トランスジェニックモデル非ヒト動物における被検薬物又はその代謝産物の測定値が、非トランスジェニックモデル非ヒト動物における被検薬物又はその代謝産物の測定値より高いとき」としては、前者の測定値が後者の測定値より高ければよいが、前者の測定値が後者の測定値より割合として5%以上高いことが好ましく、10%以上高いことがより好ましく、20%以上高いことがさらに好ましく、40%以上高いことが最も好ましい。また、上記工程(D)における「トランスジェニックモデル非ヒト動物における被検薬物又はその代謝産物の測定値が、非トランスジェニックモデル非ヒト動物における被検薬物又はその代謝産物の測定値と同等か又は低いとき」としては、前者の測定値が後者の測定値以下であればよいが、前者の測定値が後者の測定値より割合として5%以上低いことが好ましく、10%以上低いことがより好ましく、20%以上低いことがさらに好ましく、40%以上低いことが最も好ましい。
【0051】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0052】
[ヒトOATP−R発現ベクターの作製]
ヒトOATP−R(hOATP−R)を腎臓特異的に発現するトランスジェニックラットを作製するのに先立ち、ヒトOATP−Rを腎臓特異的に発現するような発現ベクターの作製を行なった。具体的には以下のような方法で作製した。
まず、Rubera I らから、pGL2-sglt2 5pr-mut-Cre vector(図3参照)を入手した。pGL2-sglt2 5pr-mut-Cre vectorは、近位尿細管特異的に発現しているグルコーストランスポーターsglt2のプロモーター遺伝子領域(sglt2 5pr-mut promoter;配列番号3)と、その下流に連結されたCre遺伝子を含んでいる。このsglt2 5pr-mut promoterの発現特異性により、Creタンパク質が、近位尿細管特異的に発現することが報告されている(Rubera I et al. J Am Soc Nephrol 15: 2050-2056, 2004)。上記pGL2-sglt2 5pr-mut-Cre vectorにおけるCre断片を、XhoI及びMluIにて切り出し、次いで、ベクター側の断片をKlenow fragment処理して断片の両端を平滑末端とした。得られた断片の配列を常法の配列決定法で確認した後、この断片をpGL2-sglt2 5pr-mut XhoI- MluIBlunt vectorと命名した(図4参照)。
【0053】
次に、ヒトOATP−R遺伝子を含む発現ベクターを用意し、ヒトOATP−RのmRNAが生体内でスプライシングされることがないようにPCRにて部位特異的に変異を導入して、hOATP−R mut3と命名した。hOATP−R mut3は、変異が導入された結果、配列番号1(変異導入後のヒトOATP−R遺伝子)における23、362及び1028番目のヌクレオチドがそれぞれ変異導入前のチミンからグアニンへと置換されている。なお、hOATP−R mut3は、配列番号1における1883番目のヌクレオチドがグアニンからアラニンへと置換されているが、アミノ酸配列には変化がない上、この部分はスプライシング部位とは無関係の配列であるため、本発明の効果には無関係である。このhOATP−R mut3をBamH I及びEcoR Vで切り出し、次いで、そのhOATP−R mut3断片をKlenow fragment処理して断片の両端を平滑末端としたcDNAを得た。このhOATP−R mut3断片を、ライゲーション反応によって、前述のpGL2-sglt2 5pr-mut XhoI- MluIBlunt vectorの両平滑末端の間に挿入した。得られたベクターの配列を常法の配列決定法で確認した後、このベクターをpGL2-sglt2 5pr-mut hOATP-R mut3 vectorと命名した。
【実施例2】
【0054】
[ヒトOATP−Rトランスジェニックラットの作製]
pGL2-sglt2 5pr-mut hOATP-R mut3 vectorを高度に精製した後、ラット前核期受精卵へDNAマイクロインジェクションを行うことにより、ヒトOATP−Rトランスジェニックラットの作製を行なった。具体的には、以下のような方法で行なった。
まず、ラットとしてチャールズリバーのCrlj:WI系統を使用した。この系統のメスラットにPMSG(妊馬血清性性腺刺激ホルモン)やhCG(ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン)を投与することによって過剰排卵を誘起し、hCG投与から17時間後にオスラットと交配させた。交配後のメスラットを頸椎脱臼により屠殺し、卵管を灌流して前核期胚を採取した。5ng/μLに希釈したpGL2-sglt2 5pr-mut hOATP-R mut3 vectorのDNA溶液を、前述の前核期胚に注入した。DNA溶液を注入処理した前核期受精卵を、精巣結紮オスラットと交配した偽妊娠メスラットの卵管内に移植した。288個の前核期胚にDNA溶液の注入を行い、そのうち277個の前核期受精卵を移植し、92匹の産子を得て、最終的にトランスジェニックラットファウンダー(F0ラット)10匹を得ることができた。該F0ラットにhOATP−R mut3遺伝子が導入されているかどうかを確認するために、離乳後のF0ラットの尻尾から、常法に従ってゲノムDNAを抽出し、そのゲノムDNAについて常法に従ってサザンブロット及びPCRを行なった。サザンブロットのプローブとしては、ヒトOATP−R遺伝子からPvu II及びPst Iにより切り出したhOATP−R mut3遺伝子の1123〜1680番目のヌクレオチドからなるポリヌクレオチドを用い、PCRのプローブとしては、hOATP−R mut3遺伝子のほぼ全長を増幅するsglt2プライマー(配列番号4;TCCCCCCACTTCTGTTTCCCAGTCTATGT)とhOATP−Rプライマー(配列番号5;CTCGGGTTCGATTAAGACGTCTAGCGCA)(それぞれ図4の矢印部分に対応)を用いた。これらのサザンブロット及びPCRのいずれの結果からも、F0ラットのゲノムDNAへトランスジーンが導入されていることが確認することができた。
【0055】
次に、上記のF0ラットにおけるトランスジーンが、子供に伝わるかどうかを調べるため、以下の交配試験を行なった。
上記のF0ラットと、非トランスジェニックラット(チャールズリバーのCrlj:WI系統)とを交配して、子ラット(F1ラット)を得た。離乳後のF1ラットの尻尾から、常法に従ってゲノムDNAを抽出し、前述のsglt2プライマー及びhOATP-R-TG-R5プライマー(配列番号6;ACGCGATCTGCAGAATTAGCTTGGGCTC)を用いてゲノミックPCRを行なった。そのゲノミックPCRの結果を図5の左パネルに示す。図5の左パネルの結果から分かるように、ヒトOATP−R遺伝子に相当する約2.2kbのPCR産物を、左から2、3、9、12番目のレーンにおいて確認することができた。
【0056】
また、トランスジーンを備えたF1ラットから片側の腎臓を摘出し、その組織からトータルRNAを抽出した。該トータルRNAに対して、前述のsglt2プライマーとhOATP−Rプライマーを用い、常法に従ってRT−PCRを行なった。また、ヒトOATP−Rの全長に対応するプローブ及び前述のトータルRNAを用いて、常法にしたがってノザンブロット法を行なった。図5の右パネルにはRT−PCRの結果のみを示すが、RT−PCR及びノザンブロット法のいずれ実験でも、ヒトOATP−R遺伝子の腎臓組織における発現がmRNAレベルで確認された。なお、上記のF1ラットから腎臓以外の別の組織を摘出して、同様のRT−PCR及びノザンブロット法を行なったが、ヒトOATP−Rの発現は確認されなかった。
【0057】
以上の結果から、本実験で得られたラットは、ヒトOATP−Rを腎臓特異的に発現するヒトOATP−Rトランスジェニックラットであることが示された。さらに、本発明におけるヒトOATP−Rトランスジェニックラットのフェノタイプを明らかにするために、以下の実施例に記載する解析を行なった。これらの解析では、特に記載がない限り、ラットは、12時間毎の明暗サイクルのある東北大学動物実験施設内の一室にて飼育した。
【実施例3】
【0058】
[ヒトOATP−Rトランスジェニックラットの腎排出能の解析]
ヒトOATP−Rは腎臓からのジゴキシン排泄に関与することが知られている(Mikkaichi T et al.Proc Natl Acad Sci USA 101: 3569-3574, 2004)。そこで、本発明におけるヒトOATP−Rトランスジェニックラットの尿中ジゴキシン排泄について、以下の方法で解析を行なった。
まず、上記実施例2におけるPCRにより、トランスジーン(TG)が存在することが確認された8〜10週齢(体重200−320g)のF1ラット(以下、「TG(+)」という。)と、TGが存在しなかった8〜10週齢(体重200−320g)のF1ラット(以下「TG(−)」という。)(コントロールラット)を用意した。TG(+)ラットに、ラット体重1kg当たり50mg(50mg/kg)の麻酔薬(ネンブタール)を腹腔内投与し、左右一方の大腿動脈、大腿静脈にそれぞれP50チューブを挿入した。さらに膀胱にも同様にP50チューブを挿入し、2−0絹糸にてそのチューブを固定した。静脈ライン(前述の大腿静脈に挿入したチューブのライン)から100μg/kgのジゴキシンを投与し、投与後5、10、30、60、120、180、240分後にそれぞれ動脈ライン(前述の大腿動脈に挿入したチューブのライン)から、粉ヘパリン加エッペンドルフチューブに採血を行なった。各採血後はヘパリンを添加した生理食塩水(ヘパリン生食)にてチューブをロックした。尿はカテーテルにて採取し、ジゴキシン投与から240分後まで蓄尿を行なった。これらの各尿中のジゴキシン濃度は、IMX(登録商標)システム(Abott Japan社製)を用いて、検量線上で測定可能なように、ラット正常血清にて適当倍に希釈してから測定を行なった。同様のジゴキシン濃度の測定を、TG(+)ラットに代えてTG(−)ラットを用いて行なった。これらの結果から、TG(+)ラット(N=6)では、TG(−)ラット(N=5)に比べて、投与ジゴキシン量に対する尿中ジゴキシン排泄量の比(%)が有意に増加していることが確認できた(図6)。
【実施例4】
【0059】
[5/6腎臓摘出ヒトOATP−Rトランスジェニックラットの血圧変化の解析]
前述のように、ヒトOATP−Rは各種の腎不全物質を輸送することが知られている。そこで、本発明におけるヒトOATP−Rトランスジェニックラットについて5/6腎臓摘出を行い、腎不全モデルを作製することで、腎不全状態におけるヒトOATP−Rの役割や、血圧を始めとした生理的機能について、以下の方法で解析を行なった。
【0060】
まず、上記実施例2におけるPCRにより、トランスジーン(TG)が存在することが確認された7〜8週齢(体重200−300g)のF1ラット(TG(+)ラット)と、TGが存在しなかった7〜8週齢(体重200−300g)のF1ラット(TG(−)ラット)(コントロールラット)を用意した。このTG(+)ラットに、睡眠薬(43mg/kgのケタミン及び2.9mg/kgのキシラジン)を腹腔内投与した後、正中より開腹して、右腎動脈、右腎静脈及び尿管を4−0絹糸にて結紮し、右腎臓を切除した。左腎動脈は血流残存部分が1/3となるように分枝を7−0絹糸にて結紮し、開腹前の総腎臓量に対してトータルで1/6腎臓のみ残るようにした。このようにして、5/6腎臓摘出(5/6腎摘)TG(+)ラット(以下、「腎摘TG(+)ラット」ともいう。)を作製した。同様の方法により、5/6腎摘TG(−)ラット(以下、「腎摘TG(−)ラット」ともいう。)を作製した。
【0061】
これらの腎摘TG(+)ラットと腎摘(−)ラットの血圧を随時測定するために、テレメトリーの本体をラット腹腔内に設置し、センサー部分を左大腿動から挿入、固定した。5/6腎摘手術後は、各ラットを個別にケージにて飼育し、テレメトリーにて3分毎に10秒間の血圧測定を24時間行なった。なお、腎摘TG(+)ラット群及び腎摘TG(−)ラット群はそれぞれ腎摘手術を行なう前にテイルカフ(tail cuff)にて血圧を測定し、両群間に血圧差がないことを確認した。また、検査、処置による血圧変動時は、血圧がベースラインに戻ることを確認して測定を再開した。また、テレメトリーシステムとしては、Data Sciences International(DSI)製を使用し、それぞれテレメトリー送信器:TA11PA-C40、テレメトリー用受信機:RPC-1、大気圧校正装置:APR-1、データ変換マトリクス:DEM、データ取得・解析ソフトウェア:DataquestART Silver Version2.2 を使用した。このようにして腎摘TG(+)ラット群(N=5)及び腎摘TG(−)ラット群(N=5)について収縮期の血圧を測定し、各時間における各群の平均血圧を算出した結果を図7に示す。図7から分かるように、腎摘TG(+)ラット群は、腎摘TG(−)ラット群と比較して、血圧が有意に低下した。
【実施例5】
【0062】
[5/6腎臓摘出ヒトOATP−Rトランスジェニックラットの体重変化の解析]
また、上記実施例4の腎摘TG(+)ラット群及び腎摘TG(−)ラット群について、腎摘手術前(術前)、腎摘手術後1週間(1W)、2週間(2W)、3週間(3W)に測定し、各時期における各群の平均体重を算出した結果を図8に示す。図8から分かるように、体重については、TGの有無による有意な差は認められなかった。
【実施例6】
【0063】
[5/6腎臓摘出ヒトOATP−Rトランスジェニックラットの血清クレアチニン濃度の解析]
上記実施例4の腎摘TG(+)ラット群及び腎摘TG(−)ラット群について、腎機能の指標としてよく知られる血清クレアチニン濃度(血清Cr濃度)の測定を、腎摘手術前(術前)、腎摘手術後2週間(2W)、3週間(3W)に行なった。血清は、採血した血液を遠心分離して採取した。各時期における各群の平均血清クレアチニン濃度を図9に示す。図9から分かるように、腎摘手術から3週間経過後の血清クレアチニン濃度は、腎摘TG(+)ラット群において、腎摘TG(−)ラット群と比較して有意な低下が認められた。これは、TGにより、腎不全状態がやや緩和したことを示すものといえる。
【実施例7】
【0064】
[5/6腎臓摘出ヒトOATP−Rトランスジェニックラットの心エコーの解析]
上記実施例4の腎摘TG(+)ラット群及び腎摘TG(−)ラット群について、心エコー(「Aplio」:10MHz トランスデューサープローブ;東芝メディカルシステムズ社製)を用いて実施した。心エコーは、腎摘手術前(術前)、腎摘手術後2週間(2W)、腎摘手術後3週間(3W)に行なった。その結果、図10に示されているように、腎摘手術後3週間において、腎摘TG(+)ラット群では、腎摘TG(−)ラット群に比べて、心臓の左室後壁厚の有意な減少が認められた。これは、TGにより、左室の肥大が抑制されていることを示すものといえる。
【実施例8】
【0065】
[5/6腎臓摘出ヒトOATP−Rトランスジェニックラットの血漿中及び尿中物質の解析]
実施例4の腎摘TG(+)ラット群及び腎摘TG(−)ラット群について、血漿中の物質と、尿中の物質との相違に関する検討を行なった。サンプル用の尿としては、各ラットについて、腎摘手術前の24時間にメタボリックケージにて蓄積した尿と、腎摘手術後3週間経過後の24時間に同様に蓄積した尿を用いた。また、サンプル用の血漿としては、各ラットについて、腎摘手術前に採取した血液から分離した血漿と、腎摘手術後3週間経過後に採取した血液から分離した血漿を用いた。サンプル用の尿や血漿は、内標準物質を調整したメタノール溶液にて撹拌し、さらにCHCl3を添加して撹拌し、4600gで5分間遠心分離した後、上清を限外ろ過フィルター(分画分子量5000)にとり、4℃、9100gで2時間遠心分離し、得られたろ液を遠心濃縮したものをCE−TOFMS(キャピラリー電気泳動−飛行時間型質量分析計)にセットしてサンプル内の様々な物質の濃度を測定した。測定の結果を検討したところ、腎摘TG(+)ラット群において、腎摘TG(−)ラット群と比較して濃度に大きな差が見られた物質として、グアジニノコハク酸(Guanidinosuccinate)、β−アラニン(beta-alanine)、タウリン(taurine)、グアニジウムコハク酸(Guanidium succinic acid;GSA)、トランスアコニット酸(trans-Aconitate)が見い出された。血漿中及び尿中に含まれる上記3種類の物質(グアジニノコハク酸、β−アラニン、タウリン)の濃度を、各ラット群の平均値で示した結果を図11〜13に示し、血漿中に含まれる2種類の物質(GSA、トランスアコニット酸)の濃度を図14に示す。図11から分かるように、グアジニノコハク酸については、血漿中及び尿中のいずれの場合も、腎摘手術後3週間において、腎摘TG(+)ラット群では腎摘TG(−)ラット群と比較して有意に低い濃度を示した。グアジニノコハク酸が腎不全物質として知られていることを考慮すると、TGであるヒトOATP−Rの発現によって、腎不全状態が改善することが示された。また、図12から分かるように、β−アラニンについては、腎摘手術後3週間における血漿中では、腎摘TG(+)ラット群は腎摘TG(−)ラット群と比較して有意に低い濃度を示したが、尿中では腎摘手術前及び腎摘手術後3週間のいずれでも、腎摘TG(+)ラット群は腎摘TG(−)ラット群よりも有意に高い濃度を示した。さらに、図13から分かるように、タウリンについては、血漿中及び尿中のいずれの場合も、腎摘手術後3週間において、腎摘TG(+)ラット群では腎摘TG(−)ラット群よりも有意に高い濃度を示した。β−アラニンやタウリンは、血圧との関係が報告されている(Mozaffari MS et al. Kidney Int 70: 329-337, 2006)。また、図14の左パネルから分かるように、グアニジウムコハク酸については、腎摘手術後3週間において、腎摘TG(+)ラット群では腎摘TG(−)ラット群と比較して有意に低い濃度を示した。さらに、図14の右パネルから分かるように、トランスアコニット酸についても、腎摘手術後3週間において、腎摘TG(+)ラット群では腎摘TG(−)ラット群と比較して有意に低い濃度を示した。グアジウムコハク酸やトランスアコニット酸が腎不全物質として知られていることを考慮すると、TGであるヒトOATP−Rの発現によって、腎不全状態が改善することが示された。
【0066】
腎不全においては、前述のグアジニノコハク酸を始めとする様々な腎不全物質が蓄積することが知られているが(Vanholder R et al. Kidney Int 63: 1934-1943, 2003)、その中でも、非対称ジメチルアルギニン(asymmetrical dimethylarginine;ADMA)は一酸化窒素の合成を抑制し、血圧上昇作用を有する事が知られている(Vallance P et al. Lancet 339: 572-575, 1992)。そこで、株式会社エスアールエル(東京)に委託して、腎摘TG(+)ラット及び腎摘TG(−)ラットについて、腎不全後の血漿中のADMA濃度をHPLCにより測定した。各群の測定結果の平均値を図15の左パネルに示す。図15の左パネルから分かるように、腎摘TG(+)ラット群では腎摘TG(−)ラット群と比較して、血漿中のADMA濃度(nmol/ml)が有意に低下していた。また、腎摘TG(−)ラットに降圧剤であるヒドララジンを投与した場合の血漿中のADMA濃度も測定したが(図15の左パネル参照)、そのADMA濃度には特に影響がなかった。以上のことから、腎摘TG(+)ラットにはADMAを排泄する能力があることが示された。また、前述の腎摘TG(+)ラット群と腎摘ラット(−)ラット群について、腎クリアランス(ml/min)を測定した結果を図15の右パネルに示す。図15の右パネルの結果から分かるように、腎摘TG(+)ラット群では、ヒトOATP−R遺伝子の導入によって、ADMAの排泄速度が上昇していることが分かった。
【0067】
なお、腎摘TG(+)ラット群の血漿中においてADMA濃度が低い理由が、ADMA分解の亢進でないことを確認するために、生体内のADMA分解酵素であるDDAH1とDDAH2の腎臓での発現を定量PCRにより調べた。その結果を図16に示す。その結果、腎摘TG(+)ラット群におけるDDAH1やDDAH2のmRNA発現は、腎摘TG(−)ラット群より低かった。このことから、腎摘TG(+)ラット群の血漿中においてADMA濃度が低いのは、ADMAの分解が亢進していることによるものではないことが示された。すなわち、腎摘TG(+)ラット群の血漿中においてADMA濃度が低いのは、OATP−Rによる排泄によるものであることが示された。
【0068】
腎摘TG(+)ラット群における血清クレアチニン、グアジニノコハク酸、トランスアコニット酸などの腎不全物質の血中濃度低下や、ADMAなどの昇圧物質の血中濃度低下は、ヒトOATP−Rを介した輸送あるいは別の輸送基質の排泄に伴う何らかの作用により生じていると考えられる。
【実施例9】
【0069】
[5/6腎臓摘出ヒトOATP−Rトランスジェニックラットの腎組織中のCD68陽性細胞数の解析]
ヒトOATP−R遺伝子の導入が腎臓の炎症にどのような影響を与えるかを調べるため、組織での炎症マーカーとして、単球/マクロファージに特有なタンパク質CD68に対する抗体で、腎摘TG(+)ラット群及び腎摘TG(−)ラット群の腎組織を免疫染色した。その結果を図17に示す。図17の結果から分かるように、腎摘手術の前後(pre Nx, post Nx)を問わず、腎摘TG(+)ラット群では、全ての部位においてCD陽性細胞数が減少しており、炎症が抑制されていると考えられた。すなわち、本発明のトランスジェニック非ヒト動物では、腎臓の炎症が抑制されることが示された。
【実施例10】
【0070】
[5/6腎臓摘出ヒトOATP−Rトランスジェニックラットにおけるカリクレイン発現の解析]
腎摘TG(+)ラットと腎摘TG(−)ラットの腎不全時における腎臓での遺伝子発現量の変化をmRNAマイクロアレー法で解析したところ、カリクレイン7の発現量に差がある可能性が示唆された。そこで、腎摘TG(+)ラット群における血圧低下(あるいは血圧上昇抑制)の作用機作の一端を調べるために、血圧降下に関連するタンパク質分解酵素の一種であるカリクレインの腎臓細胞における発現をQT−PCR(アプライドバイオシステム社製)を用いて調べた。その結果を図18に示す。図18から分かるように、腎摘手術後3週間において、腎摘TG(+)ラット群では腎摘TG(−)ラット群に比べて実際にカリクレイン7の発現が上昇していることが分かった。以上の結果と、J Hypertens. 1994 Jun;12(6):653-61の示唆(タウリンが腎臓のカリクレインを増幅し、その結果、食塩誘発性高血圧を抑制する)とを併せて考慮すると、本発明の腎臓へのOATP−R遺伝子の導入により何等かの機構でタウリンの血中濃度を上昇させ、それによりカリクレイン7の発現を上昇させて、血圧低下に関与している可能性が示唆された。
【実施例11】
【0071】
[5/6腎臓摘出ヒトOATP−Rトランスジェニックラットの血漿中物質の解析]
実施例4の腎摘TG(+)ラット群及び腎摘TG(−)ラット群について、両群間の血漿中の物質の相違に関する検討を行なった。サンプル用の血漿としては、各ラットについて、腎摘手術前に採取した血液から分離した血漿と、腎摘手術後3週間経過後に採取した血液から分離した血漿を用いた。サンプル用の血漿は、内標準物質を調整したメタノール溶液にて撹拌し、さらにCHCl3を添加して撹拌し、4600gで5分間遠心分離した後、上清を限外ろ過フィルター(分画分子量5000)にとり、4℃、9100gで2時間遠心分離し、得られたろ液を遠心濃縮したものをCE−TOFMS(キャピラリー電気泳動−飛行時間型質量分析計)にセットしてサンプル内の様々な物質の濃度を測定した。測定の結果を検討したところ、腎摘手術後3週間経過後の腎摘TG(+)ラット群において、腎摘手術後3週間経過後の腎摘TG(−)ラット群と比較して濃度差が見られた物質として、インドキシル硫酸(Indoxyl sulfate)、トランスアコニット酸(Trans-aconitate)、4−アセチル酪酸(4-Acetylbutyrate)、ヘキサン酸(Hexanoate)、2−ヒドロキシペンタン酸(2-Hydroxypentanoate)、アルギニノコハク酸(Argininosuccinate)等の6種類のアニオンや、クレアチニン(Creatinine)、グアジニノコハク酸(Guanidinosuccinate)、α−アミノアジピン酸(α-Aminoadipate)、シトルリン(Citrulline)、ピペコリン酸(Pipecolate)、3−メチルヒスチジン(3-Methylhistidine)、N,N−ジメチルグリシン(N,N-Dimethylglycine)、アラントイン(Allantoin)、トリメチルアミン N−オキシド(Trimethylamine N-oxide)、グアジニノ酢酸(Guanidinoacetate)、カルニチン(Carnitine)、デセチルアトラジン(Desethylatrazine)、トリプトファン(Trp)、チロシン(Tyr)、メチオニンスルホキシド(Methionine sulfoxide)等の15種類のカチオンが見い出された。血漿中に含まれる上記21種類の物質の濃度について、各ラット群の平均値で示した結果を図19に示す。図19に示されるこれら21種類の物質のうち、トランスアコニット酸、4−アセチル酪酸、ヘキサン酸、2−ヒドロキシペンタン酸、アルギニノコハク酸、α−アミノアジピン酸、ピペコリン酸、デセチルアトラジン、メチオニンスルホキシドを除く12種類の物質は、腎不全物質であることが既に知られている。図19の結果から、TGであるヒトOATP−Rの発現によって、ADMA、グアジニノコハク酸、トランスアコニット酸の腎不全での蓄積が改善することが示された。なお、前述の21種類の物質のうち、トランスアコニット酸、4−アセチル酪酸、ヘキサン酸、2−ヒドロキシペンタン酸、アルギニノコハク酸、α−アミノアジピン酸、ピペコリン酸、デセチルアトラジン、メチオニンスルホキシドは、これまで腎不全物質としては知られていなかったが、本実験の結果により、腎不全物質であることが示唆された。また、本明細書中における「カチオン」には、塩基性条件下でカチオンとなる物質も含まれ、例えば、塩基性条件下でカチオンとなるアミノ酸類も含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、腎不全や血圧異常の治療薬の開発や病態の解析、あるいは、薬物の腎排出の解析の分野で有用に利用することができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、腎不全や血圧異常の治療薬の開発や病態の解析、あるいは、薬物の腎排出の解析に対する有用性が見込まれる、ヒトOATP−R遺伝子導入モデル非ヒト動物や、該モデル非ヒト動物を用いた腎機能向上作用や血圧異常改善作用を有する物質のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
腎不全患者、特に腎透析を受ける患者の数は年々増加の一途を辿っており、現在20万人の患者が維持透治療を行っており、さらに毎年3万人以上が新たに透析導入に至っている。透析療法には、一人あたり年間約500万円の費用がかかるため、20万人に対して約1兆円の医療費が恒常的に必要となっている。従って、腎不全の症状を緩和したり、透析導入を遅らせる治療法が開発されれば、患者のQOL(クオリティオブライフ)に資するだけでなく、医療費の大幅な削減が可能となり社会に大きく貢献することが出来る。
【0003】
生体内での異物、毒物、尿毒症物質の排泄には、肝臓と腎臓が大きく関与している。なかでも水溶性物質、あるいは体内代謝により水溶性となった物質は、腎臓から尿中に排泄される。しかしながら、尿毒症物質のうち、ヒト腎臓からの排泄や、腎排泄にかかわる因子について詳細な解析がなされているのは、インドキシル硫酸しかなかった。また、透析では除去できない尿毒症物質の体内への蓄積による腎障害の発生という悪性サイクルが臨床で問題となっており、腎透析とは異なる新たな尿毒症物質排泄システムの早急な構築が求められていた。
【0004】
また、高血圧や低血圧などの血圧異常は生活習慣病の1種とされ、患者の数も増加傾向にあるとされる。低血圧は、頭痛、めまい、全身倦怠感、不眠、食欲不振、吐き気、下痢、動悸、息切れ等を引き起こし、社会生活に支障を来たす。一方、高血圧は、虚血性心疾患、脳卒中、腎不全などの発症リスクともなるため、予防・治療の必要性はより高いといえる。また、血圧異常の中には、従来の治療薬が十分な効果を奏さない場合があり、あらたな作用機序の血圧異常治療薬の開発が求められていた。
【0005】
腎臓には多種多様なトランスポーターが存在し、多様な物質輸送に関与している。なかでも有機アニオントランスポーター(OATP:organic anion transporting polypeptide)ファミリーは、その幅広い基質認識性と多岐にわたる臓器分布から、内因性物質や薬物の体内動態において重要な役割を行うトランスポーターと考えられている。本発明者は、世界に先駆けて15個以上の有機アニオントランスポーターを単離し、胆汁酸、甲状腺ホルモン、ステロイドホルモン、プロスタグランジン類等が単に拡散でなく有機アニオントランスポーターにより細胞膜輸送されるという知見を世界に先駆けて報告してきた。更に、本発明者は、ヒト腎臓にのみ発現している有機アニオントランスポーターOATP−R(OATP4C1やOATP−M1とも呼ばれる)を世界で初めて発見し(非特許文献1参照)、その内容に関する特許出願が日本において特許登録された(特許文献1参照)。
【0006】
ラットやマウスには複数の有機アニオントランスポーターが、血管側と尿管側の両方に存在するが、ヒト腎臓においてはヒトOATP−Rが近位尿細管血管側だけに発現しており、血液から腎臓に内因性物質や各種薬物を送り込む輸送タンパク質であることが明らかになった(非特許文献1参照)。更に、非特許文献1により、ヒトOATP−Rは心不全や不整脈の治療に用いられるジゴキシンや尿毒症物質の腎臓からの排泄に関与する重要な遺伝子であること、また腎不全状態においてはOATP−Rの発現は著しく低下することから、OATP−Rが尿毒症物質や薬物の腎排泄を規定する重要な遺伝子であることが明らかとなった(図1)。しかし、ヒトOATP−Rを発現する非ヒト動物は、これまで知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】日本国特許第4008481号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】PNAS March 9, 2004. vol.101, no.10, 3569-3574
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、腎不全や血圧異常の治療薬の開発や病態の解析、あるいは、薬物の腎排出の解析に対する有用性が見込まれる、ヒトOATP−R遺伝子導入モデル非ヒト動物や、該モデル非ヒト動物を用いた腎機能向上作用や血圧異常改善作用を有する物質のスクリーニング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するのに先立ち、ヒトOATP−R遺伝子を発現する、イヌ腎臓由来MDCKII培養細胞の作製を試みた。すなわち、ヒトOATP−Rのコード領域を含む発現ベクターを培養細胞に導入して、ヒトOATP−Rを培養細胞内で強制発現させることを試みた。しかし、得られたほとんどの細胞が死滅してしまい、ヒトOATP−R強制発現細胞を確立することができなかった。また、ヒトOATP−R遺伝子導入ラットの作製を試みたが、目的とするヒトOATP−Rの発現を確認することができなかった。そこで、本発明者は、前述のヒトOATP−R遺伝子発現ベクターを導入した培養細胞からmRNAを抽出して解析を行なったところ、ヒトOATP−RのmRNAのサイズがほとんどの細胞で小さくなっていた。さらに、これらのヒトOATP−RのmRNAの配列を常法により決定したところ、正常なヒト腎臓細胞では起こらない4ヶ所のスプライシング部位で新たにスプライシングが生じており(図2参照)、その結果、トランスポーターとして機能しない構造となっていた。このことは、ヒトOATP−R遺伝子を含む発現ベクターが導入された細胞が、ヒトOATP−Rによる取り込み基質の毒性を避けるべく、ヒトOATP−RのmRNAをスプライシングしてその発現をキャンセルすることで、無毒化を図っていると考えられた。ヒトOATP−RのmRNAについての同様の短小化は、本発明者がヒトOATP−Rを導入したトランスジェニックマウスでも確認されており、このmRNAの短小化は生体の防御機構であると考えられた。そこで、本発明者は、鋭意検討し、ヒトOATP−Rにおける前述の4ヶ所のスプライシング部位のうち、3ヶ所のスプライシング部位に変異を導入し、該ヒトOATP−Rの生体内におけるスプライシングを抑制した変異ヒトOATP−Rを、近位尿細管特異的に発現しているグルコーストランスポーターsglt2のプロモーターの下流に配置した発現ベクターをラットに導入することによって、ヒトOATP−R遺伝子腎臓特異的に発現するトランスジェニックラットの作製に成功し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、(1)生体内でスプライシングされることがないヒトOATP−R遺伝子が導入され、ヒトOATP−Rを腎臓で発現するトランスジェニックモデル非ヒト動物や、(2)ヒトOATP−R遺伝子が、以下の(A)〜(F)のいずれかのヌクレオチド配列からなることを特徴とする上記(1)に記載のトランスジェニックモデル非ヒト動物;(A)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードし、生体内でスプライシングされることがないヌクレオチド配列;(B)配列番号2に示されるアミノ酸配列において1若しくは2個以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、OATP−R活性を有するタンパク質をコードするヌクレオチド配列であって、さらに生体内でスプライシングされることがないヌクレオチド配列;(C)配列番号2に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって、かつ、OATP−R活性を有するタンパク質をコードするヌクレオチド配列であって、さらに生体内でスプライシングされることがないヌクレオチド配列;(D)配列番号1のヌクレオチド番号6〜2177からなるヌクレオチド配列;(E)配列番号1のヌクレオチド番号6〜2177からなるヌクレオチド配列において、1若しくは2個以上のヌクレオチドが欠失、置換若しくは付加されたヌクレオチド配列であって、かつ、OATP−R活性を有するタンパク質をコードするヌクレオチド配列であって、さらに生体内でスプライシングされることがないヌクレオチド配列;(F)配列番号1のヌクレオチド番号6〜2177からなるヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列であって、かつ、OATP−R活性を有するタンパク質をコードするヌクレオチド配列であって、さらに生体内でスプライシングされることがないヌクレオチド配列;や、(3)ヒトOATP−R遺伝子内の配列番号1のヌクレオチド番号20〜23、359〜362、1025〜1028及び1589〜1592におけるヌクレオチド配列又はそれに相当するヌクレオチド配列が、AGGT又はAGGCからなるヌクレオチド配列以外のヌクレオチド配列であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のトランスジェニックモデル非ヒト動物や、(4)ヒトOATP−R遺伝子内の配列番号1のヌクレオチド番号20〜23、359〜362及び1025〜1028におけるヌクレオチド配列又はそれに相当するヌクレオチド配列が、AGGTからなるヌクレオチド配列以外のヌクレオチド配列であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のトランスジェニックモデル非ヒト動物や、(5)AGGTからなるヌクレオチド配列以外のヌクレオチド配列が、AGGGからなるヌクレオチド配列であることを特徴とする上記(3)又は(4)に記載のトランスジェニック非ヒト動物や、(6)ヒトOATP−R遺伝子が、腎臓特異的な発現制御配列の制御下に発現していることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載のトランスジェニックモデル非ヒト動物や、(7)ヒトOATP−R遺伝子が、腎臓特異的に発現するプロモーターの制御下に発現していることを特徴とする上記(6)に記載のトランスジェニックモデル非ヒト動物や、(8)腎臓特異的に発現するプロモーターが、グルコーストランスポーターsglt2のプロモーターであることを特徴とする上記(7)に記載のトランスジェニックモデル非ヒト動物や、(9)トランスジェニックモデルラットであることを特徴とする上記(1)〜(8)のいずれかに記載のトランスジェニックモデル非ヒト動物や(10)腎機能向上モデル非ヒト動物である上記(1)〜(9)のいずれかに記載のトランスジェニックモデル非ヒト動物や、(11)低血圧モデル非ヒト動物である上記(1)〜(9)のいずれかに記載のトランスジェニックモデル非ヒト動物や、(12)薬物排泄解析モデル非ヒト動物である上記(1)〜(9)のいずれかに記載のトランスジェニックモデル非ヒト動物や、(13)上記(1)〜(12)のいずれかに記載のトランスジェニックモデル非ヒト動物に由来し、ヒトOATP−Rを発現する細胞に関する。
【0012】
また本発明は、(14)以下の工程(A)〜(D)を含む、腎機能向上作用を有する物質のスクリーニング方法;上記(1)〜(10)のいずれかに記載のトランスジェニックモデル非ヒト動物に被検物質を投与する工程(A);トランスジェニックモデル非ヒト動物の腎機能を測定する工程(B);工程(B)で得られた腎機能の測定値を、被検物質を投与しなかった場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における腎機能の測定値と比較する工程(C);被検物質を投与した場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における腎機能の測定値が、被検物質を投与しなかった場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における腎機能の測定値と比較して優れているときは、その被検物質を腎機能向上作用を有する物質と評価し、被検物質を投与した場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における腎機能の測定値が、被検物質を投与しなかった場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における腎機能の測定値と比較して劣るときは、その被検物質を腎機能低下作用を有する物質と評価する工程(D);や、(15)トランスジェニックモデル非ヒト動物が、腎臓の一部の機能を物理的に低下させたトランスジェニックモデル非ヒト動物であることを特徴とする上記(14)に記載の腎機能向上作用を有する物質のスクリーニング方法に関する。
【0013】
さらに本発明は、(16)以下の工程(A)〜(D)を含む、血圧異常改善作用を有する物質のスクリーニング方法;上記(1)〜(9)及び(11)のいずれかに記載のトランスジェニックモデル非ヒト動物に被検物質を投与する工程(A);トランスジェニックモデル非ヒト動物の血圧を測定する工程(B);工程(B)で得られた血圧の測定値を、被検物質を投与しなかった場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における血圧と比較する工程(C);被検物質を投与した場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における血圧の測定値が、被検物質を投与しなかった場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における血圧の測定値と比較して高いときは、その被検物質を昇圧物質と評価し、被検物質を投与した場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における血圧の測定値が、被検物質を投与しなかった場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における血圧の測定値と比較して低いときは、その被検物質を降圧物質と評価する工程(D);や、(17)トランスジェニックモデル非ヒト動物が、腎臓の一部の機能を物理的に低下させたトランスジェニックモデル非ヒト動物であることを特徴とする上記(16)に記載の血圧異常改善作用を有する物質のスクリーニング方法に関する。
【0014】
さらにまた本発明は、(18)以下の工程(A)〜(D)を含む、ヒトOATP−Rにより排泄される薬物であるかどうかを判定する方法;上記(1)〜(9)及び(12)のいずれかに記載のトランスジェニックモデル非ヒト動物に被検薬物を投与する工程(A);トランスジェニックモデル非ヒト動物の尿中の被検薬物又はその代謝産物を測定する工程(B);工程(B)で得られた被検薬物又はその代謝産物の測定値を、被検薬物を投与した非トランスジェニックモデル非ヒト動物の尿中の被検薬物又はその代謝産物の測定値と比較する工程(C);トランスジェニックモデル非ヒト動物における被検薬物又はその代謝産物の測定値が、非トランスジェニックモデル非ヒト動物における被検薬物又はその代謝産物の測定値より高いときは、その被検薬物をヒトOATP−Rにより排泄される薬物であると判定し、トランスジェニックモデル非ヒト動物における被検薬物又はその代謝産物の測定値が、非トランスジェニックモデル非ヒト動物における被検薬物又はその代謝産物の測定値と同等か又は低いときは、その被検物質をヒトOATP−Rにより排泄される薬物ではないと判定する工程(D);に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明のトランスジェニックモデル非ヒト動物によれば、これまでとは異なるアプローチによって、腎不全や血圧異常の治療薬の開発や病態の解析、あるいは、薬物の腎排出の解析を行なうことができると考えられる。特に、ヒトOATP−R等のトランスポーターの機能は、転写、翻訳レベルのみで決定するものではなく、膜への移行や輸送能、生体内での他のトランスポーターとのバランスによって決定する。このため、本発明のトランスジェニックモデル非ヒト動物を用いることで、生体内にかなり近い状況でのヒトOATP−Rの機能を解析することが可能となる。また、本発明のトランスジェニックモデル非ヒト動物は、腎機能向上モデル非ヒト動物や、低血圧モデル非ヒト動物や、薬物排泄解析モデル非ヒト動物等として好適に用いることができる。そのため、本発明のトランスジェニックモデル非ヒト動物は、腎機能向上作用を有する物質や血圧異常改善作用を有する物質のスクリーニング方法のほか、ヒトOATP−Rにより排泄される薬物であるかどうかの判定方法にも利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】尿細管細胞におけるジゴキシン輸送の概略を示す図である。
【図2】過剰発現系におけるOATP4C1(ヒトOATP−R)の選択的スプライシングを示す図である。
【図3】pGL2-sglt2 5pr-mut-Cre vectorの概要を示す図である。
【図4】pGL2-sglt2 5pr-mut XhoI- MluIBlunt vectorの概要を示す図である。
【図5】左パネル:本発明のトランスジェニック非ヒト動物のゲノムと、ヒトOATP−R遺伝子を増幅し得るプライマーとを用いたゲノミックPCRの結果を示す図である。 右パネル:本発明のトランスジェニック非ヒト動物の腎臓組織由来のトータルRNAと、ヒトOATP−R遺伝子を増幅し得るプライマーとを用いたRT−PCRの結果を示す図である。
【図6】本発明のトランスジェニック非ヒト動物等における、投与ジゴキシン量に対する尿中ジゴキシン排泄量の比を示す図である。
【図7】本発明のトランスジェニック非ヒト動物等における、収縮期の血圧を示す図である。グラフの横軸は、腎摘手術からの経過日数を示し、縦軸は血圧(mmHg)を示す。
【図8】本発明のトランスジェニック非ヒト動物等における平均体重の推移を示す図である。
【図9】本発明のトランスジェニック非ヒト動物等における血清クレアチニン濃度(mg/dl)の推移を示す図である。
【図10】本発明のトランスジェニック非ヒト動物等の心臓の左室後壁厚の推移(mm)を示す図である。
【図11】本発明のトランスジェニック非ヒト動物等の血漿中のグアジニノコハク酸濃度(左パネル)、及び、尿中のグアジニノコハク酸濃度(右パネル)を示す図である。
【図12】本発明のトランスジェニック非ヒト動物等の血漿中のβ−アラニン濃度(左パネル)、及び、尿中のβ−アラニン濃度(右パネル)を示す図である。
【図13】本発明のトランスジェニック非ヒト動物等の血漿中のタウリン濃度(左パネル)、及び、尿中のタウリン濃度(右パネル)を示す図である。
【図14】本発明のトランスジェニック非ヒト動物等の血漿中のグアニジウムコハク酸濃度(左パネル)、及び、トランスアコニット酸濃度(右パネル)を示す図である。
【図15】本発明のトランスジェニック非ヒト動物等の血漿中の非対称ジメチルアルギニン(ADMA)濃度(nmol/ml)(左パネル)、及び、ADMAの尿クリアランス(右パネル)を示す図である。
【図16】本発明のトランスジェニック非ヒト動物等の腎臓におけるDDAH1及びDDAH2の発現を示す図である。なお、図中、白抜きの棒グラフは腎摘TG(+)ラット群の結果を表し、黒塗りの棒グラフは腎摘TG(−)ラット群の結果を表す。
【図17】本発明のトランスジェニック非ヒト動物等の腎組織中のCD68陽性細胞数を示す図である。
【図18】本発明のトランスジェニック非ヒト動物等の腎臓細胞中のカリクレインの発現を示す図である。
【図19】本発明のトランスジェニック非ヒト動物等の血漿中の各物質の濃度を示す図である。なお、図中、白抜きの棒グラフは腎摘TG(+)ラット群の結果を表し、黒塗りの棒グラフは腎摘TG(−)ラット群の結果を表す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のトランスジェニックモデル非ヒト動物としては、生体内でスプライシングされることがないヒトOATP−R遺伝子が導入され、ヒトOATP−Rを腎臓で発現するトランスジェニックモデル非ヒト動物であれば特に制限はされず、上記の「ヒトOATP−R遺伝子が導入され」とは、ヒトOATP−R遺伝子が導入された結果、ヒトOATP−R遺伝子が体細胞染色体に組み込まれていることを意味する。本発明のトランスジェニックモデル非ヒト動物は、生体内でスプライシングされることがないヒトOATP−R遺伝子が導入され、ヒトOATP−Rを腎臓で発現するので、特にヒトOATP−R等に関連した薬物排泄解析モデル非ヒト動物として好適に使用することができる。また、本発明のトランスジェニックモデル非ヒト動物は、腎機能が向上しており、また、血圧が低下しあるいは血圧上昇が抑制されているため、腎機能向上モデル非ヒト動物や低血圧モデル非ヒト動物や血圧上昇抑制モデル非ヒト動物として好適に使用することができる。
【0018】
上記非ヒト動物としては、ラット、マウス、モルモット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウシ及びサル等の非ヒト哺乳動物を好ましく例示することができ、中でも、ラット、マウス、モルモット、ハムスター等の齧歯目動物をより好ましく例示することができ、実験動物としての汎用性や利便性を考慮してラット、マウスをさらに好ましく例示することができ、より幅広い生理学的検討が行い易いことから、ラットを最も好ましく例示することができる。
【0019】
上記生体内でスプライシングされることがないヒトOATP−R遺伝子とは、ヒトOATP−R遺伝子を導入する非ヒト動物の生体内で、mRNA前駆体から成熟mRNAを形成する際にヒトOATP−Rのコード領域がスプライシングされることがないヒトOATP−R遺伝子を意味し、より具体的には、後述の実施例2の系のゲノミックPCRやRT−PCRにおいて、ヒトOATP−Rのコード領域全域が確認できるヒトOATP−R遺伝子を意味する。生体内でスプライシングされることがないヒトOATP−R遺伝子の具体例としては、以下の(A)〜(F)のいずれかのヌクレオチド配列からなるヒトOATP−R遺伝子を好適に例示することができる。
(A)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードし、生体内でスプライシングされることがないヌクレオチド配列;
(B)配列番号2に示されるアミノ酸配列において1若しくは2個以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、OATP−R活性を有するタンパク質をコードするヌクレオチド配列であって、さらに生体内でスプライシングされることがないヌクレオチド配列;
(C)配列番号2に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって、かつ、OATP−R活性を有するタンパク質をコードするヌクレオチド配列であって、さらに生体内でスプライシングされることがないヌクレオチド配列;
(D)配列番号1のヌクレオチド番号6〜2177からなるヌクレオチド配列;
(E)配列番号1のヌクレオチド番号6〜2177からなるヌクレオチド配列において、1若しくは2個以上のヌクレオチドが欠失、置換若しくは付加されたヌクレオチド配列であって、かつ、OATP−R活性を有するタンパク質をコードするヌクレオチド配列であって、さらに生体内でスプライシングされることがないヌクレオチド配列;
(F)配列番号1のヌクレオチド番号6〜2177からなるヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列であって、かつ、OATP−R活性を有するタンパク質をコードするヌクレオチド配列であって、さらに生体内でスプライシングされることがないヌクレオチド配列;
【0020】
上記(A)〜(F)のいずれかのヌクレオチド配列からなるヒトOATP−R遺伝子のうち、(A)〜(C)及び(E)〜(F)のいずれかのヌクレオチド配列からなるヒトOATP−R遺伝子(以下、「ヒトOATP−R遺伝子変異体」ともいう。)は、例えば上記(D)のヌクレオチド配列をベースとして、スプライシング部位となり得る配列を含まないように改変することによって、改変したヌクレオチド配列でありながら、OATP−R活性を保持し、さらに生体内でスプライシングされることがないヌクレオチド配列を得ることができる。上記のスプライシング部位となり得る配列としては、2箇所以上の「AGGT」や「AGGC」を例示することができ、「AGGT」を特に好適に例示することができる。例えば、スプライシング部位となり得ることがよく知られる2箇所以上の「AGGT」の場合、5’側の「GT」から3’側の「AG」に対応するmRNAがイントロン(GU−AGイントロン)として切り出される。これらのスプライシング部位となり得るヌクレオチド配列を、そのヌクレオチド配列以外のヌクレオチド配列とする(例えば1つ又は2個以上のヌクレオチド配列をスプライシング部位となり得る配列とは異なるヌクレオチド配列に置換する)ことによって、生体内でスプライシングされることがないヌクレオチド配列とすることができる。生体内でスプライシングされることがないヒトOATP−R遺伝子変異体としてより具体的には、配列番号1のヌクレオチド番号20〜23、359〜362、1025〜1028及び1589〜1592におけるヌクレオチド配列又はそれに相当するヌクレオチド配列が、AGGT又はAGGCからなるヌクレオチド配列以外のヌクレオチド配列であるものを好適に例示することができ、配列番号1のヌクレオチド番号20〜23、359〜362及び1025〜1028におけるヌクレオチド配列又はそれに相当するヌクレオチド配列が、AGGTからなるヌクレオチド配列以外のヌクレオチド配列であるものをより好適に例示することができ、これらの配列において、上記のAGGTからなるヌクレオチド配列以外のヌクレオチド配列がAGGGからなるヌクレオチド配列であるものとさらに好適に例示することができる。前述の配列番号1のヌクレオチド番号20〜23、359〜362、1025〜1028及び1589〜1592におけるヌクレオチド配列に相当するヌクレオチド配列とは、初期設定のCLUSTALW(version 1.83)を用いて、配列番号1のヌクレオチド配列とアラインメントを作成した場合に、配列番号1のヌクレオチド番号20〜23、359〜362、1025〜1028及び1589〜1592に対応するヌクレオチド配列を意味する。なお、ヒトOATP−R遺伝子変異体が生体内でスプライシングされているかどうかは、そのヒトOATP−R遺伝子変異体のコード領域の5’末端付近と3’末端付近に対応するプライマーを作製し、トランスジェニックモデル非ヒト動物の腎臓の組織から抽出したトータルRNAを鋳型として、前述のプライマーを用いたRT−PCRを行ない、そのRT−PCR産物中のヒトOATP−R遺伝子変異体の配列を決定してその配列を調べることによって確認することができる。
【0021】
上記ヒトOATP−R遺伝子変異体がコードするヒトOATP−R変異体がヒトOATP−R活性を有しているかどうかは、ヒトOATP−Rの輸送基質として知られるジゴキシン、甲状腺ホルモン、エストロン−3−硫酸を輸送するかどうかを調べることにより確認することができる。また、この確認には、ヒトOATP−Rに特異的に結合する抗体を用いたウエスタンブロット法を利用することもできる。ヒトOATP−R変異体がジゴキシン等を輸送することは、作製したトランスジェニックモデル非ヒト動物にジゴキシンを静脈注射し、尿中に排泄されるジゴキシン量が、非トランスジェニックモデル非ヒト動物に同様にジゴキシンを静脈注射して尿中に排泄されるジゴキシン量より多いことを確認することによって調べることができる。
【0022】
上記「1若しくは2個以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列」とは、例えば1〜20個、好ましくは1〜15個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個の任意の数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を意味する。また、上記「1若しくは2個以上のヌクレオチドが欠失、置換若しくは付加されたヌクレオチド配列」とは、例えば1〜20個、好ましくは1〜15個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個の任意の数のヌクレオチドが欠失、置換若しくは付加された塩基配列を意味する。また。上記「少なくとも80%以上の相同性を有するアミノ酸配列」としては、対照となるアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を意味し、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の相同性を有するアミノ酸配列を好適に例示することができる。
【0023】
例えば、これら1若しくは2個以上のヌクレオチドが欠失、置換若しくは付加されたヌクレオチド配列からなるDNA(変異DNA)は、化学合成、遺伝子工学的手法、突然変異誘発などの当業者に既知の任意の方法により作製することもできる。具体的には、配列番号1に示されるヌクレオチド配列からなるDNA(ヒトOATP−R遺伝子)に対し、変異原となる薬剤と接触作用させる方法、紫外線を照射する方法、遺伝子工学的な手法等を用いて、これらDNAに変異を導入することにより、変異DNAを取得することができる。遺伝子工学的手法の一つである部位特異的変異誘発法は特定の位置に特定の変異を導入できる手法であることから有用であり、モレキュラークローニング第2版、Current Protocols in Molecular Biology, Supplement 1〜38,John Wiley & Sons (1987-1997)等に記載の方法に準じて行うことができる。
【0024】
その他、配列番号1に示されるヌクレオチド配列の配列情報や、配列番号2に示されるアミノ酸配列の配列情報に基づいて適当なプローブやプライマーを調製し、それらを用いて、ヒトOATP−R遺伝子が存在することが予測されるcDNAライブラリーをスクリーニングすることにより目的のDNAを単離したり、常法に従って化学合成により調製することができる。具体的には、本発明におけるポリヌクレオチド(特にDNA)が単離されたヒトより、常法に従ってcDNAライブラリーを調製し、次いで、このライブラリーから、本発明におけるポリヌクレオチドに特有の適当なプローブを用いて所望クローンを選抜することにより、本発明におけるヒトOATP−R遺伝子変異体等のポリヌクレオチドを取得することができる。上記cDNAの起源としては、ヒト由来の各種の細胞または組織を例示することができ、また、これらの細胞又は組織からの全RNAの分離、mRNAの分離や精製、cDNAの取得とそのクローニングなどはいずれも常法に従って実施することができる。本発明におけるポリヌクレオチドをcDNAライブラリーからスクリーニングする方法は、例えば、モレキュラークローニング第2版に記載の方法等、当業者により常用される方法を挙げることができる。
【0025】
前述したのと同様の方法を用いて、配列番号2に示されるアミノ酸配列において1若しくは2個以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列からなるヒトOATP−R遺伝子や、配列番号2に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%以上の相同性を有するアミノ酸配列をコードするヒトOATP−R遺伝子や、配列番号1のヌクレオチド番号6〜2177からなるヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列からなるヒトOATP−R遺伝子を得ることができる。
【0026】
上記「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列」とは、DNA又はRNAなどの核酸をプローブとして使用し、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法、あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより得られるヌクレオチド配列を意味し、具体的には、コロニーあるいはプラーク由来のDNAまたは該DNAの断片を固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍程度のSSC溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM塩化ナトリウム、15mMクエン酸ナトリウム)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるDNAをあげることができる。ハイブリダイゼーションは、Molecular Cloning: A laboratory Mannual, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY.,1989.(以後 "モレキュラークローニング第2版"と略す)等に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0027】
例えば、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列としては、プローブとして使用するヌクレオチド配列(ポリヌクレオチド)のヌクレオチド配列と一定以上の相同性を有するヌクレオチド配列を挙げることができ、例えば、プローブとして使用するヌクレオチド配列に対して70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の相同性を有するヌクレオチド配列を好適に例示することができる。
【0028】
本発明におけるヒトOATP−R(OATP−R変異体を含む)の取得・調製方法は特に限定されず、天然由来のヒトOATP−Rでも、化学合成したヒトOATP−Rでも、遺伝子組換え技術により作製した組換えヒトOATP−Rの何れでもよい。天然由来のヒトOATP−Rを取得する場合には、かかるヒトOATP−Rを発現している細胞又は組織からヒトOATP−Rの単離・精製方法を適宜組み合わせることにより、本発明のヒトOATP−Rを取得することができる。化学合成によりヒトOATP−Rを調製する場合には、例えば、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t−ブチルオキシカルボニル法)等の化学合成法に従って本発明におけるヒトOATP−Rを合成することもできる。また、各種の市販のペプチド合成機を利用して本発明におけるヒトOATP−Rを合成することもできる。遺伝子組換え技術によりヒトOATP−R(ヒトOATP−R変異体を含む)を調製する場合には、ヒトOATP−R(ヒトOATP−R遺伝子変異体)をコードするヌクレオチド配列からなるヒトOATP−R遺伝子(特にDNA)を好適な発現系に導入することにより本発明のヒトOATP−RやヒトOATP−R変異体を調製することができる。これらの中でも、比較的容易な操作でかつ大量に調製することが可能な遺伝子組換え技術による調製が好ましい。
【0029】
例えば、遺伝子組換え技術によって、本発明におけるヒトOATP−Rを調製する場合、かかるヒトOATP−Rを細胞培養物から回収し精製するには、硫酸アンモニウムまたはエタノール沈殿、酸抽出、アニオンまたはカチオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィーおよびレクチンクロマトグラフィーを含めた公知の方法、好ましくは、高速液体クロマトグラフィーが用いられる。特に、アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、例えば、本発明におけるヒトOATP−Rに対するモノクローナル抗体等の抗体を結合させたカラムや、上記本発明におけるヒトOATP−Rに通常のペプチドタグを付加した場合は、このペプチドタグに親和性のある物質を結合したカラムを用いることにより、これらのヒトOATP−Rの精製物を得ることができる。また、本発明におけるヒトOATP−Rが細胞膜に発現している場合は、細胞膜分解酵素を作用させた後、上記の精製処理を行うことにより精製標品を得ることができる。
【0030】
本発明のトランスジェニックモデル非ヒト動物は、生体内でスプライシングされることがないヒトOATP−R遺伝子が導入されている他には、そのヒトOATP−Rを腎臓で発現していればよいが、より優れたトランスジェニックモデル非ヒト動物を得る観点から、腎臓特異的に発現していることが好ましい。本発明のトランスジェニックモデル非ヒト動物が、ヒトOATP−Rを腎臓で発現しているかどうかを確認する方法としては特に制限されず、そのトランスジェニックモデル非ヒト動物の腎臓組織を採取し、その腎臓組織のトータルRNA中に、ヒトOATP−R遺伝子のmRNAが含まれていることを調べたり、そのヒトOATP−Rに特異的に結合する抗体を作製して、前述の腎臓組織中のタンパク質中に該抗体が特異的に結合するタンパク質が含まれていることを調べたりすることによって、容易に確認することができる。上記のヒトOATP−R遺伝子のmRNAを検出する方法としては、簡便かつ迅速に検出し得ることから、後述の実施例2に記載するような、sglt2プライマーとhOATP−Rプライマーを用いたRT−PCRを好適に例示することができる。
【0031】
本発明のトランスジェニックモデル非ヒト動物は、公知のトランスジェニック動物の作出方法(例えば、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:7380-7384,1980)を用いて作出することができる。より具体的には、上述の本発明におけるヒトOATP−R遺伝子を、例えば、非ヒト動物の腎臓(細胞内)で機能する発現制御配列を有する非ヒト動物細胞用発現ベクターに導入し、この遺伝子発現ベクターをリニアライズした、導入遺伝子(ヒトOATP−R遺伝子)を含む直鎖DNAフラグメントを、ラット等の非ヒト動物由来の分化全能性細胞に導入し、導入後仮親に移植する。移植した分化全能性細胞から個体を発生させ、その個体の組織から抽出したDNAを用いたPCR法等により、本発明におけるヒトOATP−R遺伝子が体細胞染色体中に組み込まれた個体を選別することによって、本発明のトランスジェニックモデル非ヒト動物を得ることができる。DNAフラグメントの分化全能性細胞への導入としては、マイクロインジェクション法を好ましく例示することができる。トランスジェニックモデル非ヒト動物を作製するために用いる分化全能性細胞としては、受精卵、初期胚の他、多分化能を有するES細胞等の培養細胞を例示することができる。
【0032】
上記の「非ヒト動物の腎臓で機能する発現制御配列」としては、非ヒト動物の腎臓で機能する発現制御配列である限り特に制限されないが、非ヒト動物の腎臓で特異的に機能する発現制御配列であることが好ましく、非ヒト動物の腎臓で特異的に機能するプロモーターであることがより好ましい。非ヒト動物の腎臓で特異的に機能するプロモーター等の発現制御配列を用いると、得られるトランスジェニックモデル非ヒト動物において、ヒトOATP−R遺伝子が腎臓特異的な発現制御配列(好ましくはプロモーター)の制御下に発現するため、腎臓以外の組織において、ヒトOATP−Rによる取り込み基質の毒性の影響を回避することができる点で好ましい。なお、腎臓では、ヒトOATP−Rによる取り込み基質は速やかに排出されるため、該基質による毒性は特に問題とならない。なお、非ヒト動物の腎臓で特異的に発現するプロモーターとしては、近位尿細管特異的に発現しているマウス由来のグルコーストランスポーターsglt2のプロモーター(配列番号3;Genbank acc.# AJ292928 に記載されているポリヌクレオチドのヌクレオチド番号55〜2691からなるヌクレオチド配列)を特に好適に例示することができる。
【0033】
上記の「非ヒト動物細胞用発現ベクター」として、例えば、pEGFP-C1(クローンテック社製)、pGBT−9(クローンテック社製)、pcDNAI(インビトロジェン社製)、pcDNA3.1(インビトロジェン社製)、pEF−BOS (Nucleic Acids Res., 18, 5322, 1990)、pAGE107(Cytotechnology, 3, 133, 1990)、pCDM8(Nature, 329, 840, 1987)、pcDNAI/AmP(インビトロジェン社製)、pREP4(インビトロジェン社製)、pAGE103(J.Blochem., 101, 1307, 1987)、pAGE210等を例示することができる。
【0034】
上述の導入遺伝子(ヒトOATP−R遺伝子)の存在が確認された個体を交配することにより、本発明におけるヒトOATP−R遺伝子を腎臓で安定的に発現可能なように染色体の一部に組み込んだトランスジェニックモデル非ヒト動物を効率よく作出することができる。例えば、ヒトOATP−R遺伝子の存在が確認された個体を野生型の個体と交配させると、本発明におけるヒトOATP−R遺伝子をヘテロに有するトランスジェニックモデル非ヒト動物を得ることができる。また、本発明におけるヒトOATP−R遺伝子の存在が確認された個体同士を交配させると、本発明におけるヒトOATP−R遺伝子をホモに有するトランスジェニックモデル非ヒト動物を得ることができる。
【0035】
本発明のトランスジェニックモデル非ヒト動物は、生体内でスプライシングされることがないヒトOATP−R遺伝子が導入され、ヒトOATP−Rを腎臓で発現するので、腎機能が向上しており、また、血圧が低下しあるいは血圧上昇が抑制されている。したがって、本発明のトランスジェニックモデル非ヒト動物は、腎機能向上モデル非ヒト動物や低血圧モデル非ヒト動物や血圧上昇抑制モデル非ヒト動物として好適に使用することができる。
【0036】
得られたトランスジェニックモデル非ヒト動物の腎機能が向上しているかどうかは、例えば、後述の実施例3に記載の方法にしたがって、そのトランスジェニックモデル非ヒト動物にジゴキシンを静脈注射し、尿中に排泄されるジゴキシン量が、非トランスジェニックモデル非ヒト動物(トランスジェニックモデル非ヒト動物の作製に用いた非ヒト動物と同種の動物であって、ヒトOATP−R遺伝子が導入されていない、同性別、同週齢のモデル非ヒト動物)に同様にジゴキシンを静脈注射して尿中に排泄されるジゴキシン量より多いことを確認することによって決定することができる。本発明のトランスジェニックモデル非ヒト動物における腎機能の向上の程度としては特に制限されないが、例えば後述の実施例3に記載されたジゴキシン投与アッセイにおける「投与ジゴキシン量に対する尿中ジゴキシン排泄量の比(%)」が、非トランスジェニックモデル非ヒト動物におけるその比(%)に対して、割合として好ましくは5%以上、より好ましくは9%以上、さらに好ましくは14%以上高い程度を例示することができる。
【0037】
また、得られたトランスジェニックモデル非ヒト動物の血圧が低下しあるいは血圧上昇が抑制されているかどうかは、例えば、テイルカフ(tail cuff)における収縮期の血圧(最高血圧)が、非トランスジェニックモデル非ヒト動物と比較して低いことを確認することによって決定することができる。
【0038】
また、得られたトランスジェニックモデル非ヒト動物は、ヒトOATP−Rを腎臓で発現することから、特にヒトOATP−R等に関連した薬物排泄解析モデル非ヒト動物として好適に使用することができる。
【0039】
本発明の細胞としては、本発明のトランスジェニック非ヒト動物に由来し、ヒトOATP−Rを発現する細胞である限り特に制限されないが、中でも、本発明の非ヒト動物の腎臓に由来する細胞であることがより好ましい。本発明の細胞を本発明のトランスジェニック非ヒト動物から採取する方法としては特に制限されず、例えば公知の方法により、本発明の細胞を採取することができる。
【0040】
本発明の、腎機能向上作用を有する物質のスクリーニング方法としては、以下の工程(A)〜(D)を含んでいる限り特に制限されない。
工程(A):本発明のトランスジェニックモデル非ヒト動物に被検物質を投与する工程;工程(B):トランスジェニックモデル非ヒト動物の腎機能を測定する工程;
工程(C):工程(B)で得られた腎機能の測定値を、被検物質を投与しなかった場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における腎機能の測定値と比較する工程;
工程(D):被検物質を投与した場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における腎機能の測定値が、被検物質を投与しなかった場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における腎機能の測定値と比較して優れているときは、その被検物質を腎機能向上作用を有する物質と評価し、被検物質を投与した場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における腎機能の測定値が、被検物質を投与しなかった場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における腎機能の測定値と比較して劣るときは、その被検物質を腎機能低下作用を有する物質と評価する工程;
【0041】
上記工程(A)における被検物質の投与方法としては、特に制限されず、経口投与や静脈投与等を例示することができる。また、上記工程(B)における腎機能としては、腎臓の尿生成や排泄機能を意味し、該腎機能を測定する方法としては、例えば、ジゴキシン投与後の尿中ジゴキシン排泄量、血中のクレアチニン濃度、血中の尿素窒素濃度、尿中のヘモグロビン濃度、尿中のアルブミン濃度、尿中のβ2−マイクログロブリンなどの腎機能マーカーを常法にしたがって測定する方法を好適に例示することができ、中でも、より正確な腎機能の測定が可能であることから、ジゴキシン投与後の尿中ジゴキシン排泄量をより好適に例示することができる。ジゴキシン投与後の尿中ジゴキシン排泄量がより多い場合、血中のクレアチニン濃度がより低い場合、血中の尿素窒素濃度がより低い場合、尿中のヘモグロビン濃度がより低い場合、尿中のアルブミン濃度がより低い場合、尿中のマイクログロブリンがより低い場合などを、腎機能がより高いと評価することができ、これらと逆の場合などを腎機能がより低いと評価することができる。腎機能をより正確に測定する観点から、上記の腎機能マーカーを2つ以上組み合わせて用いることが好ましい。
【0042】
上記工程(C)等の、本発明における「被検物質を投与しなかった場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物」としては、被検物質を投与しなかった場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物であればよいが、工程(A)や(B)におけるトランスジェニックモデル非ヒト動物と同腹のトランスジェニックモデル非ヒト動物であることが、腎機能をより正確に評価する観点から好ましい。
【0043】
上記工程(D)における「被検物質を投与した場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における腎機能の測定値が、被検物質を投与しなかった場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における腎機能の測定値と比較して優れている」とは、被検物質を投与した場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における腎機能の測定値が、被検物質を投与しなかった場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物の測定値に比べて、腎機能がより高いことを示していることを意味し、「被検物質を投与した場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における腎機能の測定値が、被検物質を投与しなかった場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における腎機能の測定値と比較して劣る」とは、被検物質を投与した場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における腎機能の測定値が、被検物質を投与しなかった場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物の測定値に比べて、腎機能がより低いことを示していることを意味する。
【0044】
本発明の、血圧異常改善作用を有する物質のスクリーニング方法としては、以下の工程(A)〜(D)を含んでいる限り特に制限されない。
工程(A):発明のトランスジェニックモデル非ヒト動物に被検物質を投与する工程;
工程(B):トランスジェニックモデル非ヒト動物の血圧を測定する工程;
工程(C):工程(B)で得られた血圧の測定値を、被検物質を投与しなかった場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における血圧と比較する工程;
工程(D):被検物質を投与した場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における血圧の測定値が、被検物質を投与しなかった場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における血圧の測定値と比較して高いときは、その被検物質を昇圧物質と評価し、被検物質を投与した場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における血圧の測定値が、被検物質を投与しなかった場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における血圧の測定値と比較して低いときは、その被検物質を降圧物質と評価する工程;
【0045】
上記工程(B)における血圧測定方法としては、特に制限はされず、非ヒト動物の種類に応じた常法にしたがって、血圧を測定することができる。例えば非ヒト動物がラット等の齧歯目動物の場合は、テイルカフ(tail cuff)を尾に嵌めて血圧を測定することが好
ましい。なお、測定する血圧は、収縮期の血圧(最高血圧)であってもよいし、拡張期の血圧(最低血圧)であってもよく、改善の目的とする血圧異常に応じて適宜選択することができる。
【0046】
上記工程(D)により得られた昇圧物質は、昇圧剤として利用することができ、降圧物質は、降圧剤として利用することができる。上記の血圧異常としては、低血圧や高血圧を例示することができる。低血圧の患者には昇圧剤(昇圧物質)を、高血圧の患者には降圧剤(降圧物質)を用いることにより、血圧異常を改善することができる。
【0047】
なお、上記の「腎機能向上作用を有する物質のスクリーニング方法」や「血圧異常改善作用を有する物質のスクリーニング方法」に用いるトランスジェニックモデル非ヒト動物として、腎臓の一部の機能を物理的に低下させた本発明のトランスジェニックモデル非ヒト動物を用いることもできる。本発明のトランスジェニックモデル非ヒト動物の腎臓の一部の機能を物理的に低下させると、腎不全等の腎機能が低下した状態に近づき、また、血圧も高くなるため、腎機能向上作用を有する物質や高血圧改善作用を有する物質のスクリーニングに好適に用いることができる。また、腎臓の一部の機能とは、腎臓の一部の「尿生成や排泄機能」を意味し、「腎臓の一部の機能を物理的に低下させる」とは、腎臓の一部を切除したり、結紮したりすることによって、腎臓の一部の機能を低下させることを意味する。
【0048】
本発明の、ヒトOATP−Rにより排泄される薬物であるかどうかを判定する方法としては、以下の工程(A)〜(D)を含んでいる限り特に制限されない。
工程(A):本発明のトランスジェニックモデル非ヒト動物に被検薬物を投与する工程;工程(B):トランスジェニックモデル非ヒト動物の尿中の被検薬物又はその代謝産物を測定する工程;
工程(C):工程(B)で得られた被検薬物又はその代謝産物の測定値を、被検薬物を投与した非トランスジェニックモデル非ヒト動物の尿中の被検薬物又はその代謝産物の測定値と比較する工程;
工程(D):トランスジェニックモデル非ヒト動物における被検薬物又はその代謝産物の測定値が、非トランスジェニックモデル非ヒト動物における被検薬物又はその代謝産物の測定値より高いときは、その被検薬物をヒトOATP−Rにより排泄される薬物であると判定し、トランスジェニックモデル非ヒト動物における被検薬物又はその代謝産物の測定値が、非トランスジェニックモデル非ヒト動物における被検薬物又はその代謝産物の測定値と同等か又は低いときは、その被検物質をヒトOATP−Rにより排泄される薬物ではないと判定する工程;
【0049】
上記工程(A)における被検薬物の投与方法としては、特に制限されず、経口投与や静脈投与等を例示することができる。また、上記工程(B)における尿中の被検薬物又はその代謝産物を測定する方法としては、特に制限されないが、質量分析計による測定方法を好適に例示することができる。また、上記代謝産物としては、その被検薬物が非ヒト動物の体内で代謝された産物であれば特に制限されない。
【0050】
上記工程(C)における「非トランスジェニックモデル非ヒト動物」とは、ヒトOATP−R遺伝子が導入されていない非ヒト動物であって、上記工程(A)や(B)におけるトランスジェニックモデル非ヒト動物と同種の非ヒト動物であればよいが、ヒトOATP−R遺伝子が導入されていないこと以外、上記工程(A)や(B)におけるトランスジェニックモデル非ヒト動物と同じであることが、より正確な比較を可能とする観点から好ましい。上記工程(D)における「トランスジェニックモデル非ヒト動物における被検薬物又はその代謝産物の測定値が、非トランスジェニックモデル非ヒト動物における被検薬物又はその代謝産物の測定値より高いとき」としては、前者の測定値が後者の測定値より高ければよいが、前者の測定値が後者の測定値より割合として5%以上高いことが好ましく、10%以上高いことがより好ましく、20%以上高いことがさらに好ましく、40%以上高いことが最も好ましい。また、上記工程(D)における「トランスジェニックモデル非ヒト動物における被検薬物又はその代謝産物の測定値が、非トランスジェニックモデル非ヒト動物における被検薬物又はその代謝産物の測定値と同等か又は低いとき」としては、前者の測定値が後者の測定値以下であればよいが、前者の測定値が後者の測定値より割合として5%以上低いことが好ましく、10%以上低いことがより好ましく、20%以上低いことがさらに好ましく、40%以上低いことが最も好ましい。
【0051】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0052】
[ヒトOATP−R発現ベクターの作製]
ヒトOATP−R(hOATP−R)を腎臓特異的に発現するトランスジェニックラットを作製するのに先立ち、ヒトOATP−Rを腎臓特異的に発現するような発現ベクターの作製を行なった。具体的には以下のような方法で作製した。
まず、Rubera I らから、pGL2-sglt2 5pr-mut-Cre vector(図3参照)を入手した。pGL2-sglt2 5pr-mut-Cre vectorは、近位尿細管特異的に発現しているグルコーストランスポーターsglt2のプロモーター遺伝子領域(sglt2 5pr-mut promoter;配列番号3)と、その下流に連結されたCre遺伝子を含んでいる。このsglt2 5pr-mut promoterの発現特異性により、Creタンパク質が、近位尿細管特異的に発現することが報告されている(Rubera I et al. J Am Soc Nephrol 15: 2050-2056, 2004)。上記pGL2-sglt2 5pr-mut-Cre vectorにおけるCre断片を、XhoI及びMluIにて切り出し、次いで、ベクター側の断片をKlenow fragment処理して断片の両端を平滑末端とした。得られた断片の配列を常法の配列決定法で確認した後、この断片をpGL2-sglt2 5pr-mut XhoI- MluIBlunt vectorと命名した(図4参照)。
【0053】
次に、ヒトOATP−R遺伝子を含む発現ベクターを用意し、ヒトOATP−RのmRNAが生体内でスプライシングされることがないようにPCRにて部位特異的に変異を導入して、hOATP−R mut3と命名した。hOATP−R mut3は、変異が導入された結果、配列番号1(変異導入後のヒトOATP−R遺伝子)における23、362及び1028番目のヌクレオチドがそれぞれ変異導入前のチミンからグアニンへと置換されている。なお、hOATP−R mut3は、配列番号1における1883番目のヌクレオチドがグアニンからアラニンへと置換されているが、アミノ酸配列には変化がない上、この部分はスプライシング部位とは無関係の配列であるため、本発明の効果には無関係である。このhOATP−R mut3をBamH I及びEcoR Vで切り出し、次いで、そのhOATP−R mut3断片をKlenow fragment処理して断片の両端を平滑末端としたcDNAを得た。このhOATP−R mut3断片を、ライゲーション反応によって、前述のpGL2-sglt2 5pr-mut XhoI- MluIBlunt vectorの両平滑末端の間に挿入した。得られたベクターの配列を常法の配列決定法で確認した後、このベクターをpGL2-sglt2 5pr-mut hOATP-R mut3 vectorと命名した。
【実施例2】
【0054】
[ヒトOATP−Rトランスジェニックラットの作製]
pGL2-sglt2 5pr-mut hOATP-R mut3 vectorを高度に精製した後、ラット前核期受精卵へDNAマイクロインジェクションを行うことにより、ヒトOATP−Rトランスジェニックラットの作製を行なった。具体的には、以下のような方法で行なった。
まず、ラットとしてチャールズリバーのCrlj:WI系統を使用した。この系統のメスラットにPMSG(妊馬血清性性腺刺激ホルモン)やhCG(ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン)を投与することによって過剰排卵を誘起し、hCG投与から17時間後にオスラットと交配させた。交配後のメスラットを頸椎脱臼により屠殺し、卵管を灌流して前核期胚を採取した。5ng/μLに希釈したpGL2-sglt2 5pr-mut hOATP-R mut3 vectorのDNA溶液を、前述の前核期胚に注入した。DNA溶液を注入処理した前核期受精卵を、精巣結紮オスラットと交配した偽妊娠メスラットの卵管内に移植した。288個の前核期胚にDNA溶液の注入を行い、そのうち277個の前核期受精卵を移植し、92匹の産子を得て、最終的にトランスジェニックラットファウンダー(F0ラット)10匹を得ることができた。該F0ラットにhOATP−R mut3遺伝子が導入されているかどうかを確認するために、離乳後のF0ラットの尻尾から、常法に従ってゲノムDNAを抽出し、そのゲノムDNAについて常法に従ってサザンブロット及びPCRを行なった。サザンブロットのプローブとしては、ヒトOATP−R遺伝子からPvu II及びPst Iにより切り出したhOATP−R mut3遺伝子の1123〜1680番目のヌクレオチドからなるポリヌクレオチドを用い、PCRのプローブとしては、hOATP−R mut3遺伝子のほぼ全長を増幅するsglt2プライマー(配列番号4;TCCCCCCACTTCTGTTTCCCAGTCTATGT)とhOATP−Rプライマー(配列番号5;CTCGGGTTCGATTAAGACGTCTAGCGCA)(それぞれ図4の矢印部分に対応)を用いた。これらのサザンブロット及びPCRのいずれの結果からも、F0ラットのゲノムDNAへトランスジーンが導入されていることが確認することができた。
【0055】
次に、上記のF0ラットにおけるトランスジーンが、子供に伝わるかどうかを調べるため、以下の交配試験を行なった。
上記のF0ラットと、非トランスジェニックラット(チャールズリバーのCrlj:WI系統)とを交配して、子ラット(F1ラット)を得た。離乳後のF1ラットの尻尾から、常法に従ってゲノムDNAを抽出し、前述のsglt2プライマー及びhOATP-R-TG-R5プライマー(配列番号6;ACGCGATCTGCAGAATTAGCTTGGGCTC)を用いてゲノミックPCRを行なった。そのゲノミックPCRの結果を図5の左パネルに示す。図5の左パネルの結果から分かるように、ヒトOATP−R遺伝子に相当する約2.2kbのPCR産物を、左から2、3、9、12番目のレーンにおいて確認することができた。
【0056】
また、トランスジーンを備えたF1ラットから片側の腎臓を摘出し、その組織からトータルRNAを抽出した。該トータルRNAに対して、前述のsglt2プライマーとhOATP−Rプライマーを用い、常法に従ってRT−PCRを行なった。また、ヒトOATP−Rの全長に対応するプローブ及び前述のトータルRNAを用いて、常法にしたがってノザンブロット法を行なった。図5の右パネルにはRT−PCRの結果のみを示すが、RT−PCR及びノザンブロット法のいずれ実験でも、ヒトOATP−R遺伝子の腎臓組織における発現がmRNAレベルで確認された。なお、上記のF1ラットから腎臓以外の別の組織を摘出して、同様のRT−PCR及びノザンブロット法を行なったが、ヒトOATP−Rの発現は確認されなかった。
【0057】
以上の結果から、本実験で得られたラットは、ヒトOATP−Rを腎臓特異的に発現するヒトOATP−Rトランスジェニックラットであることが示された。さらに、本発明におけるヒトOATP−Rトランスジェニックラットのフェノタイプを明らかにするために、以下の実施例に記載する解析を行なった。これらの解析では、特に記載がない限り、ラットは、12時間毎の明暗サイクルのある東北大学動物実験施設内の一室にて飼育した。
【実施例3】
【0058】
[ヒトOATP−Rトランスジェニックラットの腎排出能の解析]
ヒトOATP−Rは腎臓からのジゴキシン排泄に関与することが知られている(Mikkaichi T et al.Proc Natl Acad Sci USA 101: 3569-3574, 2004)。そこで、本発明におけるヒトOATP−Rトランスジェニックラットの尿中ジゴキシン排泄について、以下の方法で解析を行なった。
まず、上記実施例2におけるPCRにより、トランスジーン(TG)が存在することが確認された8〜10週齢(体重200−320g)のF1ラット(以下、「TG(+)」という。)と、TGが存在しなかった8〜10週齢(体重200−320g)のF1ラット(以下「TG(−)」という。)(コントロールラット)を用意した。TG(+)ラットに、ラット体重1kg当たり50mg(50mg/kg)の麻酔薬(ネンブタール)を腹腔内投与し、左右一方の大腿動脈、大腿静脈にそれぞれP50チューブを挿入した。さらに膀胱にも同様にP50チューブを挿入し、2−0絹糸にてそのチューブを固定した。静脈ライン(前述の大腿静脈に挿入したチューブのライン)から100μg/kgのジゴキシンを投与し、投与後5、10、30、60、120、180、240分後にそれぞれ動脈ライン(前述の大腿動脈に挿入したチューブのライン)から、粉ヘパリン加エッペンドルフチューブに採血を行なった。各採血後はヘパリンを添加した生理食塩水(ヘパリン生食)にてチューブをロックした。尿はカテーテルにて採取し、ジゴキシン投与から240分後まで蓄尿を行なった。これらの各尿中のジゴキシン濃度は、IMX(登録商標)システム(Abott Japan社製)を用いて、検量線上で測定可能なように、ラット正常血清にて適当倍に希釈してから測定を行なった。同様のジゴキシン濃度の測定を、TG(+)ラットに代えてTG(−)ラットを用いて行なった。これらの結果から、TG(+)ラット(N=6)では、TG(−)ラット(N=5)に比べて、投与ジゴキシン量に対する尿中ジゴキシン排泄量の比(%)が有意に増加していることが確認できた(図6)。
【実施例4】
【0059】
[5/6腎臓摘出ヒトOATP−Rトランスジェニックラットの血圧変化の解析]
前述のように、ヒトOATP−Rは各種の腎不全物質を輸送することが知られている。そこで、本発明におけるヒトOATP−Rトランスジェニックラットについて5/6腎臓摘出を行い、腎不全モデルを作製することで、腎不全状態におけるヒトOATP−Rの役割や、血圧を始めとした生理的機能について、以下の方法で解析を行なった。
【0060】
まず、上記実施例2におけるPCRにより、トランスジーン(TG)が存在することが確認された7〜8週齢(体重200−300g)のF1ラット(TG(+)ラット)と、TGが存在しなかった7〜8週齢(体重200−300g)のF1ラット(TG(−)ラット)(コントロールラット)を用意した。このTG(+)ラットに、睡眠薬(43mg/kgのケタミン及び2.9mg/kgのキシラジン)を腹腔内投与した後、正中より開腹して、右腎動脈、右腎静脈及び尿管を4−0絹糸にて結紮し、右腎臓を切除した。左腎動脈は血流残存部分が1/3となるように分枝を7−0絹糸にて結紮し、開腹前の総腎臓量に対してトータルで1/6腎臓のみ残るようにした。このようにして、5/6腎臓摘出(5/6腎摘)TG(+)ラット(以下、「腎摘TG(+)ラット」ともいう。)を作製した。同様の方法により、5/6腎摘TG(−)ラット(以下、「腎摘TG(−)ラット」ともいう。)を作製した。
【0061】
これらの腎摘TG(+)ラットと腎摘(−)ラットの血圧を随時測定するために、テレメトリーの本体をラット腹腔内に設置し、センサー部分を左大腿動から挿入、固定した。5/6腎摘手術後は、各ラットを個別にケージにて飼育し、テレメトリーにて3分毎に10秒間の血圧測定を24時間行なった。なお、腎摘TG(+)ラット群及び腎摘TG(−)ラット群はそれぞれ腎摘手術を行なう前にテイルカフ(tail cuff)にて血圧を測定し、両群間に血圧差がないことを確認した。また、検査、処置による血圧変動時は、血圧がベースラインに戻ることを確認して測定を再開した。また、テレメトリーシステムとしては、Data Sciences International(DSI)製を使用し、それぞれテレメトリー送信器:TA11PA-C40、テレメトリー用受信機:RPC-1、大気圧校正装置:APR-1、データ変換マトリクス:DEM、データ取得・解析ソフトウェア:DataquestART Silver Version2.2 を使用した。このようにして腎摘TG(+)ラット群(N=5)及び腎摘TG(−)ラット群(N=5)について収縮期の血圧を測定し、各時間における各群の平均血圧を算出した結果を図7に示す。図7から分かるように、腎摘TG(+)ラット群は、腎摘TG(−)ラット群と比較して、血圧が有意に低下した。
【実施例5】
【0062】
[5/6腎臓摘出ヒトOATP−Rトランスジェニックラットの体重変化の解析]
また、上記実施例4の腎摘TG(+)ラット群及び腎摘TG(−)ラット群について、腎摘手術前(術前)、腎摘手術後1週間(1W)、2週間(2W)、3週間(3W)に測定し、各時期における各群の平均体重を算出した結果を図8に示す。図8から分かるように、体重については、TGの有無による有意な差は認められなかった。
【実施例6】
【0063】
[5/6腎臓摘出ヒトOATP−Rトランスジェニックラットの血清クレアチニン濃度の解析]
上記実施例4の腎摘TG(+)ラット群及び腎摘TG(−)ラット群について、腎機能の指標としてよく知られる血清クレアチニン濃度(血清Cr濃度)の測定を、腎摘手術前(術前)、腎摘手術後2週間(2W)、3週間(3W)に行なった。血清は、採血した血液を遠心分離して採取した。各時期における各群の平均血清クレアチニン濃度を図9に示す。図9から分かるように、腎摘手術から3週間経過後の血清クレアチニン濃度は、腎摘TG(+)ラット群において、腎摘TG(−)ラット群と比較して有意な低下が認められた。これは、TGにより、腎不全状態がやや緩和したことを示すものといえる。
【実施例7】
【0064】
[5/6腎臓摘出ヒトOATP−Rトランスジェニックラットの心エコーの解析]
上記実施例4の腎摘TG(+)ラット群及び腎摘TG(−)ラット群について、心エコー(「Aplio」:10MHz トランスデューサープローブ;東芝メディカルシステムズ社製)を用いて実施した。心エコーは、腎摘手術前(術前)、腎摘手術後2週間(2W)、腎摘手術後3週間(3W)に行なった。その結果、図10に示されているように、腎摘手術後3週間において、腎摘TG(+)ラット群では、腎摘TG(−)ラット群に比べて、心臓の左室後壁厚の有意な減少が認められた。これは、TGにより、左室の肥大が抑制されていることを示すものといえる。
【実施例8】
【0065】
[5/6腎臓摘出ヒトOATP−Rトランスジェニックラットの血漿中及び尿中物質の解析]
実施例4の腎摘TG(+)ラット群及び腎摘TG(−)ラット群について、血漿中の物質と、尿中の物質との相違に関する検討を行なった。サンプル用の尿としては、各ラットについて、腎摘手術前の24時間にメタボリックケージにて蓄積した尿と、腎摘手術後3週間経過後の24時間に同様に蓄積した尿を用いた。また、サンプル用の血漿としては、各ラットについて、腎摘手術前に採取した血液から分離した血漿と、腎摘手術後3週間経過後に採取した血液から分離した血漿を用いた。サンプル用の尿や血漿は、内標準物質を調整したメタノール溶液にて撹拌し、さらにCHCl3を添加して撹拌し、4600gで5分間遠心分離した後、上清を限外ろ過フィルター(分画分子量5000)にとり、4℃、9100gで2時間遠心分離し、得られたろ液を遠心濃縮したものをCE−TOFMS(キャピラリー電気泳動−飛行時間型質量分析計)にセットしてサンプル内の様々な物質の濃度を測定した。測定の結果を検討したところ、腎摘TG(+)ラット群において、腎摘TG(−)ラット群と比較して濃度に大きな差が見られた物質として、グアジニノコハク酸(Guanidinosuccinate)、β−アラニン(beta-alanine)、タウリン(taurine)、グアニジウムコハク酸(Guanidium succinic acid;GSA)、トランスアコニット酸(trans-Aconitate)が見い出された。血漿中及び尿中に含まれる上記3種類の物質(グアジニノコハク酸、β−アラニン、タウリン)の濃度を、各ラット群の平均値で示した結果を図11〜13に示し、血漿中に含まれる2種類の物質(GSA、トランスアコニット酸)の濃度を図14に示す。図11から分かるように、グアジニノコハク酸については、血漿中及び尿中のいずれの場合も、腎摘手術後3週間において、腎摘TG(+)ラット群では腎摘TG(−)ラット群と比較して有意に低い濃度を示した。グアジニノコハク酸が腎不全物質として知られていることを考慮すると、TGであるヒトOATP−Rの発現によって、腎不全状態が改善することが示された。また、図12から分かるように、β−アラニンについては、腎摘手術後3週間における血漿中では、腎摘TG(+)ラット群は腎摘TG(−)ラット群と比較して有意に低い濃度を示したが、尿中では腎摘手術前及び腎摘手術後3週間のいずれでも、腎摘TG(+)ラット群は腎摘TG(−)ラット群よりも有意に高い濃度を示した。さらに、図13から分かるように、タウリンについては、血漿中及び尿中のいずれの場合も、腎摘手術後3週間において、腎摘TG(+)ラット群では腎摘TG(−)ラット群よりも有意に高い濃度を示した。β−アラニンやタウリンは、血圧との関係が報告されている(Mozaffari MS et al. Kidney Int 70: 329-337, 2006)。また、図14の左パネルから分かるように、グアニジウムコハク酸については、腎摘手術後3週間において、腎摘TG(+)ラット群では腎摘TG(−)ラット群と比較して有意に低い濃度を示した。さらに、図14の右パネルから分かるように、トランスアコニット酸についても、腎摘手術後3週間において、腎摘TG(+)ラット群では腎摘TG(−)ラット群と比較して有意に低い濃度を示した。グアジウムコハク酸やトランスアコニット酸が腎不全物質として知られていることを考慮すると、TGであるヒトOATP−Rの発現によって、腎不全状態が改善することが示された。
【0066】
腎不全においては、前述のグアジニノコハク酸を始めとする様々な腎不全物質が蓄積することが知られているが(Vanholder R et al. Kidney Int 63: 1934-1943, 2003)、その中でも、非対称ジメチルアルギニン(asymmetrical dimethylarginine;ADMA)は一酸化窒素の合成を抑制し、血圧上昇作用を有する事が知られている(Vallance P et al. Lancet 339: 572-575, 1992)。そこで、株式会社エスアールエル(東京)に委託して、腎摘TG(+)ラット及び腎摘TG(−)ラットについて、腎不全後の血漿中のADMA濃度をHPLCにより測定した。各群の測定結果の平均値を図15の左パネルに示す。図15の左パネルから分かるように、腎摘TG(+)ラット群では腎摘TG(−)ラット群と比較して、血漿中のADMA濃度(nmol/ml)が有意に低下していた。また、腎摘TG(−)ラットに降圧剤であるヒドララジンを投与した場合の血漿中のADMA濃度も測定したが(図15の左パネル参照)、そのADMA濃度には特に影響がなかった。以上のことから、腎摘TG(+)ラットにはADMAを排泄する能力があることが示された。また、前述の腎摘TG(+)ラット群と腎摘ラット(−)ラット群について、腎クリアランス(ml/min)を測定した結果を図15の右パネルに示す。図15の右パネルの結果から分かるように、腎摘TG(+)ラット群では、ヒトOATP−R遺伝子の導入によって、ADMAの排泄速度が上昇していることが分かった。
【0067】
なお、腎摘TG(+)ラット群の血漿中においてADMA濃度が低い理由が、ADMA分解の亢進でないことを確認するために、生体内のADMA分解酵素であるDDAH1とDDAH2の腎臓での発現を定量PCRにより調べた。その結果を図16に示す。その結果、腎摘TG(+)ラット群におけるDDAH1やDDAH2のmRNA発現は、腎摘TG(−)ラット群より低かった。このことから、腎摘TG(+)ラット群の血漿中においてADMA濃度が低いのは、ADMAの分解が亢進していることによるものではないことが示された。すなわち、腎摘TG(+)ラット群の血漿中においてADMA濃度が低いのは、OATP−Rによる排泄によるものであることが示された。
【0068】
腎摘TG(+)ラット群における血清クレアチニン、グアジニノコハク酸、トランスアコニット酸などの腎不全物質の血中濃度低下や、ADMAなどの昇圧物質の血中濃度低下は、ヒトOATP−Rを介した輸送あるいは別の輸送基質の排泄に伴う何らかの作用により生じていると考えられる。
【実施例9】
【0069】
[5/6腎臓摘出ヒトOATP−Rトランスジェニックラットの腎組織中のCD68陽性細胞数の解析]
ヒトOATP−R遺伝子の導入が腎臓の炎症にどのような影響を与えるかを調べるため、組織での炎症マーカーとして、単球/マクロファージに特有なタンパク質CD68に対する抗体で、腎摘TG(+)ラット群及び腎摘TG(−)ラット群の腎組織を免疫染色した。その結果を図17に示す。図17の結果から分かるように、腎摘手術の前後(pre Nx, post Nx)を問わず、腎摘TG(+)ラット群では、全ての部位においてCD陽性細胞数が減少しており、炎症が抑制されていると考えられた。すなわち、本発明のトランスジェニック非ヒト動物では、腎臓の炎症が抑制されることが示された。
【実施例10】
【0070】
[5/6腎臓摘出ヒトOATP−Rトランスジェニックラットにおけるカリクレイン発現の解析]
腎摘TG(+)ラットと腎摘TG(−)ラットの腎不全時における腎臓での遺伝子発現量の変化をmRNAマイクロアレー法で解析したところ、カリクレイン7の発現量に差がある可能性が示唆された。そこで、腎摘TG(+)ラット群における血圧低下(あるいは血圧上昇抑制)の作用機作の一端を調べるために、血圧降下に関連するタンパク質分解酵素の一種であるカリクレインの腎臓細胞における発現をQT−PCR(アプライドバイオシステム社製)を用いて調べた。その結果を図18に示す。図18から分かるように、腎摘手術後3週間において、腎摘TG(+)ラット群では腎摘TG(−)ラット群に比べて実際にカリクレイン7の発現が上昇していることが分かった。以上の結果と、J Hypertens. 1994 Jun;12(6):653-61の示唆(タウリンが腎臓のカリクレインを増幅し、その結果、食塩誘発性高血圧を抑制する)とを併せて考慮すると、本発明の腎臓へのOATP−R遺伝子の導入により何等かの機構でタウリンの血中濃度を上昇させ、それによりカリクレイン7の発現を上昇させて、血圧低下に関与している可能性が示唆された。
【実施例11】
【0071】
[5/6腎臓摘出ヒトOATP−Rトランスジェニックラットの血漿中物質の解析]
実施例4の腎摘TG(+)ラット群及び腎摘TG(−)ラット群について、両群間の血漿中の物質の相違に関する検討を行なった。サンプル用の血漿としては、各ラットについて、腎摘手術前に採取した血液から分離した血漿と、腎摘手術後3週間経過後に採取した血液から分離した血漿を用いた。サンプル用の血漿は、内標準物質を調整したメタノール溶液にて撹拌し、さらにCHCl3を添加して撹拌し、4600gで5分間遠心分離した後、上清を限外ろ過フィルター(分画分子量5000)にとり、4℃、9100gで2時間遠心分離し、得られたろ液を遠心濃縮したものをCE−TOFMS(キャピラリー電気泳動−飛行時間型質量分析計)にセットしてサンプル内の様々な物質の濃度を測定した。測定の結果を検討したところ、腎摘手術後3週間経過後の腎摘TG(+)ラット群において、腎摘手術後3週間経過後の腎摘TG(−)ラット群と比較して濃度差が見られた物質として、インドキシル硫酸(Indoxyl sulfate)、トランスアコニット酸(Trans-aconitate)、4−アセチル酪酸(4-Acetylbutyrate)、ヘキサン酸(Hexanoate)、2−ヒドロキシペンタン酸(2-Hydroxypentanoate)、アルギニノコハク酸(Argininosuccinate)等の6種類のアニオンや、クレアチニン(Creatinine)、グアジニノコハク酸(Guanidinosuccinate)、α−アミノアジピン酸(α-Aminoadipate)、シトルリン(Citrulline)、ピペコリン酸(Pipecolate)、3−メチルヒスチジン(3-Methylhistidine)、N,N−ジメチルグリシン(N,N-Dimethylglycine)、アラントイン(Allantoin)、トリメチルアミン N−オキシド(Trimethylamine N-oxide)、グアジニノ酢酸(Guanidinoacetate)、カルニチン(Carnitine)、デセチルアトラジン(Desethylatrazine)、トリプトファン(Trp)、チロシン(Tyr)、メチオニンスルホキシド(Methionine sulfoxide)等の15種類のカチオンが見い出された。血漿中に含まれる上記21種類の物質の濃度について、各ラット群の平均値で示した結果を図19に示す。図19に示されるこれら21種類の物質のうち、トランスアコニット酸、4−アセチル酪酸、ヘキサン酸、2−ヒドロキシペンタン酸、アルギニノコハク酸、α−アミノアジピン酸、ピペコリン酸、デセチルアトラジン、メチオニンスルホキシドを除く12種類の物質は、腎不全物質であることが既に知られている。図19の結果から、TGであるヒトOATP−Rの発現によって、ADMA、グアジニノコハク酸、トランスアコニット酸の腎不全での蓄積が改善することが示された。なお、前述の21種類の物質のうち、トランスアコニット酸、4−アセチル酪酸、ヘキサン酸、2−ヒドロキシペンタン酸、アルギニノコハク酸、α−アミノアジピン酸、ピペコリン酸、デセチルアトラジン、メチオニンスルホキシドは、これまで腎不全物質としては知られていなかったが、本実験の結果により、腎不全物質であることが示唆された。また、本明細書中における「カチオン」には、塩基性条件下でカチオンとなる物質も含まれ、例えば、塩基性条件下でカチオンとなるアミノ酸類も含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、腎不全や血圧異常の治療薬の開発や病態の解析、あるいは、薬物の腎排出の解析の分野で有用に利用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体内でスプライシングされることがないヒトOATP−R遺伝子が導入され、ヒトOATP−Rを腎臓で発現するトランスジェニックモデル非ヒト動物。
【請求項2】
ヒトOATP−R遺伝子が、以下の(A)〜(F)のいずれかのヌクレオチド配列からなることを特徴とする請求項1に記載のトランスジェニックモデル非ヒト動物。
(A)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードし、生体内でスプライシングされることがないヌクレオチド配列;
(B)配列番号2に示されるアミノ酸配列において1若しくは2個以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、OATP−R活性を有するタンパク質をコードするヌクレオチド配列であって、さらに生体内でスプライシングされることがないヌクレオチド配列;
(C)配列番号2に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって、かつ、OATP−R活性を有するタンパク質をコードするヌクレオチド配列であって、さらに生体内でスプライシングされることがないヌクレオチド配列;
(D)配列番号1のヌクレオチド番号6〜2177からなるヌクレオチド配列;
(E)配列番号1のヌクレオチド番号6〜2177からなるヌクレオチド配列において、1若しくは2個以上のヌクレオチドが欠失、置換若しくは付加されたヌクレオチド配列であって、かつ、OATP−R活性を有するタンパク質をコードするヌクレオチド配列であって、さらに生体内でスプライシングされることがないヌクレオチド配列;
(F)配列番号1のヌクレオチド番号6〜2177からなるヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列であって、かつ、OATP−R活性を有するタンパク質をコードするヌクレオチド配列であって、さらに生体内でスプライシングされることがないヌクレオチド配列;
【請求項3】
ヒトOATP−R遺伝子内の配列番号1のヌクレオチド番号20〜23、359〜362、1025〜1028及び1589〜1592におけるヌクレオチド配列又はそれに相当するヌクレオチド配列が、AGGT又はAGGCからなるヌクレオチド配列以外のヌクレオチド配列であることを特徴とする請求項1又は2に記載のトランスジェニックモデル非ヒト動物。
【請求項4】
ヒトOATP−R遺伝子内の配列番号1のヌクレオチド番号20〜23、359〜362及び1025〜1028におけるヌクレオチド配列又はそれに相当するヌクレオチド配列が、AGGTからなるヌクレオチド配列以外のヌクレオチド配列であることを特徴とする請求項1又は2に記載のトランスジェニックモデル非ヒト動物。
【請求項5】
AGGTからなるヌクレオチド配列以外のヌクレオチド配列が、AGGGからなるヌクレオチド配列であることを特徴とする請求項3又は4に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項6】
ヒトOATP−R遺伝子が、腎臓特異的な発現制御配列の制御下に発現していることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のトランスジェニックモデル非ヒト動物。
【請求項7】
ヒトOATP−R遺伝子が、腎臓特異的に発現するプロモーターの制御下に発現していることを特徴とする請求項6に記載のトランスジェニックモデル非ヒト動物。
【請求項8】
腎臓特異的に発現するプロモーターが、グルコーストランスポーターsglt2のプロモーターであることを特徴とする請求項7に記載のトランスジェニックモデル非ヒト動物。
【請求項9】
トランスジェニックモデルラットであることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のトランスジェニックモデル非ヒト動物。
【請求項10】
腎機能向上モデル非ヒト動物である請求項1〜9のいずれかに記載のトランスジェニックモデル非ヒト動物。
【請求項11】
低血圧モデル非ヒト動物である請求項1〜9のいずれかに記載のトランスジェニックモデル非ヒト動物。
【請求項12】
薬物排泄解析モデル非ヒト動物である請求項1〜9のいずれかに記載のトランスジェニックモデル非ヒト動物。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載のトランスジェニックモデル非ヒト動物に由来し、ヒトOATP−Rを発現する細胞。
【請求項14】
以下の工程(A)〜(D)を含む、腎機能向上作用を有する物質のスクリーニング方法。工程(A):請求項1〜10のいずれかに記載のトランスジェニックモデル非ヒト動物に被検物質を投与する工程;
工程(B):トランスジェニックモデル非ヒト動物の腎機能を測定する工程;
工程(C):工程(B)で得られた腎機能の測定値を、被検物質を投与しなかった場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における腎機能の測定値と比較する工程;
工程(D):被検物質を投与した場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における腎機能の測定値が、被検物質を投与しなかった場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における腎機能の測定値と比較して優れているときは、その被検物質を腎機能向上作用を有する物質と評価し、被検物質を投与した場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における腎機能の測定値が、被検物質を投与しなかった場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における腎機能の測定値と比較して劣るときは、その被検物質を腎機能低下作用を有する物質と評価する工程;
【請求項15】
トランスジェニックモデル非ヒト動物が、腎臓の一部の機能を物理的に低下させたトランスジェニックモデル非ヒト動物であることを特徴とする請求項14に記載の腎機能向上作用を有する物質のスクリーニング方法。
【請求項16】
以下の工程(A)〜(D)を含む、血圧異常改善作用を有する物質のスクリーニング方法。
工程(A):請求項1〜9及び11のいずれかに記載のトランスジェニックモデル非ヒト動物に被検物質を投与する工程;
工程(B):トランスジェニックモデル非ヒト動物の血圧を測定する工程;
工程(C):工程(B)で得られた血圧の測定値を、被検物質を投与しなかった場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における血圧と比較する工程;
工程(D):被検物質を投与した場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における血圧の測定値が、被検物質を投与しなかった場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における血圧の測定値と比較して高いときは、その被検物質を昇圧物質と評価し、被検物質を投与した場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における血圧の測定値が、被検物質を投与しなかった場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における血圧の測定値と比較して低いときは、その被検物質を降圧物質と評価する工程;
【請求項17】
トランスジェニックモデル非ヒト動物が、腎臓の一部の機能を物理的に低下させたトランスジェニックモデル非ヒト動物であることを特徴とする請求項16に記載の血圧異常改善作用を有する物質のスクリーニング方法。
【請求項18】
以下の工程(A)〜(D)を含む、ヒトOATP−Rにより排泄される薬物であるかどうかを判定する方法。
工程(A):請求項1〜9及び12のいずれかに記載のトランスジェニックモデル非ヒト動物に被検薬物を投与する工程;
工程(B):トランスジェニックモデル非ヒト動物の尿中の被検薬物又はその代謝産物を測定する工程;
工程(C):工程(B)で得られた被検薬物又はその代謝産物の測定値を、被検薬物を投与した非トランスジェニックモデル非ヒト動物の尿中の被検薬物又はその代謝産物の測定値と比較する工程;
工程(D):トランスジェニックモデル非ヒト動物における被検薬物又はその代謝産物の測定値が、非トランスジェニックモデル非ヒト動物における被検薬物又はその代謝産物の測定値より高いときは、その被検薬物をヒトOATP−Rにより排泄される薬物であると判定し、トランスジェニックモデル非ヒト動物における被検薬物又はその代謝産物の測定値が、非トランスジェニックモデル非ヒト動物における被検薬物又はその代謝産物の測定値と同等か又は低いときは、その被検物質をヒトOATP−Rにより排泄される薬物ではないと判定する工程;
【請求項1】
生体内でスプライシングされることがないヒトOATP−R遺伝子が導入され、ヒトOATP−Rを腎臓で発現するトランスジェニックモデル非ヒト動物。
【請求項2】
ヒトOATP−R遺伝子が、以下の(A)〜(F)のいずれかのヌクレオチド配列からなることを特徴とする請求項1に記載のトランスジェニックモデル非ヒト動物。
(A)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードし、生体内でスプライシングされることがないヌクレオチド配列;
(B)配列番号2に示されるアミノ酸配列において1若しくは2個以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、OATP−R活性を有するタンパク質をコードするヌクレオチド配列であって、さらに生体内でスプライシングされることがないヌクレオチド配列;
(C)配列番号2に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって、かつ、OATP−R活性を有するタンパク質をコードするヌクレオチド配列であって、さらに生体内でスプライシングされることがないヌクレオチド配列;
(D)配列番号1のヌクレオチド番号6〜2177からなるヌクレオチド配列;
(E)配列番号1のヌクレオチド番号6〜2177からなるヌクレオチド配列において、1若しくは2個以上のヌクレオチドが欠失、置換若しくは付加されたヌクレオチド配列であって、かつ、OATP−R活性を有するタンパク質をコードするヌクレオチド配列であって、さらに生体内でスプライシングされることがないヌクレオチド配列;
(F)配列番号1のヌクレオチド番号6〜2177からなるヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列であって、かつ、OATP−R活性を有するタンパク質をコードするヌクレオチド配列であって、さらに生体内でスプライシングされることがないヌクレオチド配列;
【請求項3】
ヒトOATP−R遺伝子内の配列番号1のヌクレオチド番号20〜23、359〜362、1025〜1028及び1589〜1592におけるヌクレオチド配列又はそれに相当するヌクレオチド配列が、AGGT又はAGGCからなるヌクレオチド配列以外のヌクレオチド配列であることを特徴とする請求項1又は2に記載のトランスジェニックモデル非ヒト動物。
【請求項4】
ヒトOATP−R遺伝子内の配列番号1のヌクレオチド番号20〜23、359〜362及び1025〜1028におけるヌクレオチド配列又はそれに相当するヌクレオチド配列が、AGGTからなるヌクレオチド配列以外のヌクレオチド配列であることを特徴とする請求項1又は2に記載のトランスジェニックモデル非ヒト動物。
【請求項5】
AGGTからなるヌクレオチド配列以外のヌクレオチド配列が、AGGGからなるヌクレオチド配列であることを特徴とする請求項3又は4に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項6】
ヒトOATP−R遺伝子が、腎臓特異的な発現制御配列の制御下に発現していることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のトランスジェニックモデル非ヒト動物。
【請求項7】
ヒトOATP−R遺伝子が、腎臓特異的に発現するプロモーターの制御下に発現していることを特徴とする請求項6に記載のトランスジェニックモデル非ヒト動物。
【請求項8】
腎臓特異的に発現するプロモーターが、グルコーストランスポーターsglt2のプロモーターであることを特徴とする請求項7に記載のトランスジェニックモデル非ヒト動物。
【請求項9】
トランスジェニックモデルラットであることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のトランスジェニックモデル非ヒト動物。
【請求項10】
腎機能向上モデル非ヒト動物である請求項1〜9のいずれかに記載のトランスジェニックモデル非ヒト動物。
【請求項11】
低血圧モデル非ヒト動物である請求項1〜9のいずれかに記載のトランスジェニックモデル非ヒト動物。
【請求項12】
薬物排泄解析モデル非ヒト動物である請求項1〜9のいずれかに記載のトランスジェニックモデル非ヒト動物。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載のトランスジェニックモデル非ヒト動物に由来し、ヒトOATP−Rを発現する細胞。
【請求項14】
以下の工程(A)〜(D)を含む、腎機能向上作用を有する物質のスクリーニング方法。工程(A):請求項1〜10のいずれかに記載のトランスジェニックモデル非ヒト動物に被検物質を投与する工程;
工程(B):トランスジェニックモデル非ヒト動物の腎機能を測定する工程;
工程(C):工程(B)で得られた腎機能の測定値を、被検物質を投与しなかった場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における腎機能の測定値と比較する工程;
工程(D):被検物質を投与した場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における腎機能の測定値が、被検物質を投与しなかった場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における腎機能の測定値と比較して優れているときは、その被検物質を腎機能向上作用を有する物質と評価し、被検物質を投与した場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における腎機能の測定値が、被検物質を投与しなかった場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における腎機能の測定値と比較して劣るときは、その被検物質を腎機能低下作用を有する物質と評価する工程;
【請求項15】
トランスジェニックモデル非ヒト動物が、腎臓の一部の機能を物理的に低下させたトランスジェニックモデル非ヒト動物であることを特徴とする請求項14に記載の腎機能向上作用を有する物質のスクリーニング方法。
【請求項16】
以下の工程(A)〜(D)を含む、血圧異常改善作用を有する物質のスクリーニング方法。
工程(A):請求項1〜9及び11のいずれかに記載のトランスジェニックモデル非ヒト動物に被検物質を投与する工程;
工程(B):トランスジェニックモデル非ヒト動物の血圧を測定する工程;
工程(C):工程(B)で得られた血圧の測定値を、被検物質を投与しなかった場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における血圧と比較する工程;
工程(D):被検物質を投与した場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における血圧の測定値が、被検物質を投与しなかった場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における血圧の測定値と比較して高いときは、その被検物質を昇圧物質と評価し、被検物質を投与した場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における血圧の測定値が、被検物質を投与しなかった場合のトランスジェニックモデル非ヒト動物における血圧の測定値と比較して低いときは、その被検物質を降圧物質と評価する工程;
【請求項17】
トランスジェニックモデル非ヒト動物が、腎臓の一部の機能を物理的に低下させたトランスジェニックモデル非ヒト動物であることを特徴とする請求項16に記載の血圧異常改善作用を有する物質のスクリーニング方法。
【請求項18】
以下の工程(A)〜(D)を含む、ヒトOATP−Rにより排泄される薬物であるかどうかを判定する方法。
工程(A):請求項1〜9及び12のいずれかに記載のトランスジェニックモデル非ヒト動物に被検薬物を投与する工程;
工程(B):トランスジェニックモデル非ヒト動物の尿中の被検薬物又はその代謝産物を測定する工程;
工程(C):工程(B)で得られた被検薬物又はその代謝産物の測定値を、被検薬物を投与した非トランスジェニックモデル非ヒト動物の尿中の被検薬物又はその代謝産物の測定値と比較する工程;
工程(D):トランスジェニックモデル非ヒト動物における被検薬物又はその代謝産物の測定値が、非トランスジェニックモデル非ヒト動物における被検薬物又はその代謝産物の測定値より高いときは、その被検薬物をヒトOATP−Rにより排泄される薬物であると判定し、トランスジェニックモデル非ヒト動物における被検薬物又はその代謝産物の測定値が、非トランスジェニックモデル非ヒト動物における被検薬物又はその代謝産物の測定値と同等か又は低いときは、その被検物質をヒトOATP−Rにより排泄される薬物ではないと判定する工程;
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2010−110322(P2010−110322A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−236609(P2009−236609)
【出願日】平成21年10月13日(2009.10.13)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月13日(2009.10.13)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】
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