説明

ヒドロキシアルキルトリエチレンジアミン類の製造方法

【課題】発火の危険性が高い還元剤を用いることなく、簡便且つ安全にヒドロキシアルキルトリエチレンジアミン類を製造する方法を提供する。
【解決手段】下記式(3)


(式中、R、Rは各々独立して、水素原子、メチル基、エチル基、又は直鎖状若しくは分枝状の炭素数3〜4のアルキル基を表す。m、nは各々独立して0〜2の整数を表す。ただし、1≦m+n<4である。)で示されるジヒドロキシアルキルピペラジン誘導体及び/又はその類似ジヒドロキシアルキルピペラジン誘導体を、酸触媒の存在下で分子内脱水縮合反応させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヒドロキシアルキルトリエチレンジアミン類の製造方法に関する。ヒドロキシアルキルトリエチレンジアミン類は、医農薬中間体、有機合成用触媒、化学吸着剤、抗菌剤としての使用が期待される化合物である。
【背景技術】
【0002】
ヒドロキシアルキルトリエチレンジアミン類の製造方法としては、ピペラジンと2,3−ジブロモプロピオン酸エチルとを反応させて1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン−2−カルボン酸エチルを調製し、次いで得られたエステルを還元して1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン−2−メタノール(ヒドロキシメチルトリエチレンジアミン)を得る方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、この製造方法は、第一工程において副生塩が大量に生成するため、精製が非常に煩雑になる他、低い基質濃度が必要となるため生産性に劣る欠点がある。また第二工程では、還元剤として発火の危険性が高い水素化リチウムアルミニウムを使用するため、工業的にも好ましいとは言えない。また高価な反応基質を使用する事から実用的とは言えない状況にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2001−504855公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の背景技術に鑑みてなされたものであり、その目的は、発火の危険性が高い還元剤を用いることなく、簡便且つ安全にヒドロキシアルキルトリエチレンジアミン類を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下に示すとおりのヒドロキシアルキルトリエチレンジアミン類の製造方法、及びその中間体である。
【0008】
[1]下記式(1)
【0009】
【化1】

(式中、R、Rは各々独立して、水素原子、メチル基、エチル基、又は直鎖状若しくは分枝状の炭素数3〜4のアルキル基を表す。m、nは各々独立して0〜2の整数を表す。ただし、1≦m+n<4である。)
で示されるヒドロキシアルキルピペラジン類と、下記式(2)
【0010】
【化2】

(式中、R、Rは各々独立して、水素原子、メチル基、エチル基、又は直鎖状若しくは分枝状の炭素数3〜4のアルキル基を表す。)
で示されるアルキレンオキサイド類とを反応させて、下記式(3)
【0011】
【化3】

(式中、R〜R、m、nは上記と同じ定義である。)
で示されるジヒドロキシアルキルピペラジン誘導体、及び/又は下記式(4)
【0012】
【化4】

(式中、R〜R、m、nは上記と同じ定義である。)
で示されるジヒドロキシアルキルピペラジン誘導体を得、これを酸触媒の存在下で分子内脱水縮合反応させることを特徴とする下記式(5)
【0013】
【化5】

(式中、R〜R、m、nは上記と同じ定義である。)
で示されるヒドロキシアルキルトリエチレンジアミン類、及び/又は下記式(6)
【0014】
【化6】

(式中、R〜R、m、nは上記と同じ定義である。)
で示されるヒドロキシアルキルトリエチレンジアミン類の製造方法。
【0015】
[2]酸触媒が、金属リン酸塩、無機リン化合物、及び有機リン化合物からなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物を含むことを特徴とする上記[1]に記載のヒドロキシアルキルトリエチレンジアミン類の製造方法。
【0016】
[3]上記式(1)で示されるヒドロキシアルキルピペラジン類が、下記式(7)
【0017】
【化7】

で示される2−ヒドロキシメチルピペラジンであることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載のヒドロキシアルキルトリエチレンジアミン類の製造方法。
【0018】
[4]上記式(2)で示されるアルキレンオキサイド類が、エチレンオキサイド又はプロピレンオキサイドであることを特徴とする上記[1]乃至[3]のいずれかに記載の製造方法。
【0019】
[5]上記式(3)で示されるジヒドロキシアルキルピペラジン誘導体が、下記式(8)
【0020】
【化8】

(式中、Rは水素原子又はメチル基を表す。)
で示されるジヒドロキシアルキルピペラジンであることを特徴とする上記[1]乃至[4]のいずれかに記載の製造方法。
【0021】
[6]上記式(4)で示されるジヒドロキシアルキルピペラジン誘導体が、下記式(9)
【0022】
【化9】

(式中、Rは水素原子又はメチル基を表す。)
で示されるジヒドロキシアルキルピペラジンであることを特徴とする上記式[1]乃至[5]のいずれかに記載の製造方法。
【0023】
[7]下記式(8)
【0024】
【化10】

(式中、Rは水素原子又はメチル基を表す。)
又は、下記式(9)
【0025】
【化11】

(式中、Rは水素原子又はメチル基を表す。)
で示されるジヒドロキシアルキルピペラジン。
【0026】
[8]下記式(3)
【0027】
【化12】

(式中、R〜Rは各々独立して、水素原子、メチル基、エチル基、又は直鎖状若しくは分枝状の炭素数3〜4のアルキル基を表す。m、nは各々独立して0〜2の整数を表す。ただし、1≦m+n<4である。)
で示されるジヒドロキシアルキルピペラジン誘導体、及び/又は下記式(4)
【0028】
【化13】

(式中、R〜R、m、nは上記と同じ定義である。)
で示されるジヒドロキシアルキルピペラジン誘導体を、酸触媒の存在下で分子内脱水縮合反応させることを特徴とする下記式(5)
【0029】
【化14】

(式中、R〜R、m、nは上記と同じ定義である。)
で示されるヒドロキシアルキルトリエチレンジアミン類、及び/又は下記式(6)
【0030】
【化15】

(式中、R〜R、m、nは上記と同じ定義である。)
で示されるヒドロキシアルキルトリエチレンジアミン類の製造方法。
【0031】
[9]酸触媒が、金属リン酸塩、無機リン化合物、及び有機リン化合物からなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物を含むことを特徴とする上記[8]に記載のヒドロキシアルキルトリエチレンジアミン類の製造方法。
【0032】
[10]上記式(3)で示されるジヒドロキシアルキルピペラジン誘導体が、下記式(8)
【0033】
【化16】

(式中、Rは水素原子又はメチル基を表す。)
で示されるジヒドロキシアルキルピペラジンであることを特徴とする上記[8]又は[9]に記載の製造方法。
【0034】
[11]上記式(4)で示されるジヒドロキシアルキルピペラジン誘導体が、下記式(9)
【0035】
【化17】

(式中、Rは水素原子又はメチル基を表す。)
で示されるジヒドロキシアルキルピペラジンであることを特徴とする上記[8]乃至[10]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0036】
本発明の製造方法によれば、副生塩の生成が無い上に、還元性の化合物を用いないので、従来方法に比べて簡便且つ安全にヒドロキシアルキルトリエチレンジアミン類を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0038】
本発明の製造方法は、上記式(3)で示されるジヒドロキシアルキルピペラジン誘導体、及び/又は上記式(4)で示されるジヒドロキシアルキルピペラジン誘導体を、酸触媒の存在下で分子内脱水縮合反応させて、上記式(5)で示されるヒドロキシアルキルトリエチレンジアミン類、及び/又は上記式(6)で示されるヒドロキシアルキルトリエチレンジアミン類を得ることをその特徴とする。
【0039】
本発明の製造方法においては、上記式(1)で示されるヒドロキシアルキルピペラジン類を、上記式(2)で示されるアルキレンオキサイド類と反応させて、上記式(3)で示されるジヒドロキシアルキルピペラジン誘導体、及び/又は上記式(4)で示されるジヒドロキシアルキルピペラジン誘導体を得た後、これを酸触媒の存在下で分子内脱水縮合反応させて、上記式(5)で示されるヒドロキシアルキルトリエチレンジアミン類、及び/又は上記式(6)で示されるヒドロキシアルキルトリエチレンジアミン類を得ることができる。
【0040】
上記式(1)、(3)〜(6)中、置換基R、Rは各々独立して、水素原子、メチル基、エチル基、又は直鎖状若しくは分枝状の炭素数3〜4のアルキル基を表し、具体的には、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等が例示される。これらのうち、水素原子、メチル基、エチル基が好ましい。また、式(1)、(3)〜(6)中、m、nは各々独立して0〜2の整数を表す(ただし、1≦m+n<4である)。
【0041】
また、上記式(2)〜(6)中、置換基R、Rは各々独立して、水素原子、メチル基、エチル基、又は直鎖状若しくは分枝状の炭素数3〜4のアルキル基を表し、具体的には、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等が挙げられる。これらのうち、水素原子、メチル基、エチル基が好ましい。
【0042】
上記式(1)で示されるヒドロキシアルキルピペラジン類としては、特に限定するものではないが、例えば、上記式(7)で示される2−ヒドロキシメチルピペラジンや、2−ヒドロキシエチルピペラジン、2−(ヒドロキシプロピル)ピペラジン、ヒドロキシブチルピペラジン、ヒドロキシペンチルピペラジン、ヒドロキシヘキシルピペラジン等が挙げられる。
【0043】
本発明の製造方法において使用される、上記式(1)で示されるヒドロキシアルキルピペラジン類としては、特に限定するものではないが、例えば、エチレンジアミン誘導体をブロモマロン酸ジエチルと反応させた後に、還元、脱保護させて得られたものが挙げられる(J.Med.Chem,36,2075(1993))。また、ピペラジンカルボン酸塩酸塩を触媒存在下で還元して得られたものを用いてもよい。
【0044】
また、本発明の製造方法において使用される、上記式(2)で示されるアルキレンオキサイド類としては、特に限定するものではないが、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等が挙げられる。
【0045】
本発明の製造方法では、上記式(1)で示されるヒドロキシアルキルピペラジン類を、上記式(2)で示されるアルキレンオキサイド類と反応させることによって、上記式(3)で示されるジヒドロキシアルキルピペラジン誘導体、及び/又は(4)で示されるジヒドロキシアルキルピペラジン誘導体が得られる。
【0046】
上記の方法で得られた、上記式(3)で示されるジヒドロキシアルキルピペラジン誘導体、及び/又は上記式(4)で示されるジヒドロキシアルキルピペラジン誘導体は、上記式(5)で示されるヒドロキシアルキルトリエチレンジアミン類、及び/又は上記式(6)で示されるヒドロキシアルキルトリエチレンジアミン類を製造する際の中間体として使用される。
【0047】
上記式(3)で示されるジヒドロキシアルキルピペラジン誘導体又は上記式(4)で示されるジヒドロキシアルキルピペラジン誘導体としては、特に限定するものではないが、例えば、1−ヒドロキシエチル−3−ヒドロキシメチルピペラジン、1−(1’−ヒドロキシプロピル)−3−ヒドロキシメチルピペラジン、1−(2’−ヒドロキシプロピル)−3−ヒドロキシメチルピペラジン、1−ヒドロキシエチル−2−ヒドロキシメチルピペラジン、1−(1’−ヒドロキシプロピル)−2−ヒドロキシメチルピペラジン、1−(2’−ヒドロキシプロピル)−2−ヒドロキシメチルピペラジン等が挙げられる。これらのうち、好ましくは、上記式(8)又は上記式(9)で示されるジヒドロキシアルキルピペラジンであり、1−ヒドロキシエチル−3−ヒドロキシメチルピペラジン、1−(2’−ヒドロキシプロピル)−3−ヒドロキシメチルピペラジンが特に好ましい。
【0048】
本発明の製造方法では、上記式(3)で示されるジヒドロキシアルキルピペラジン誘導体、及び/又は上記式(4)で示されるジヒドロキシアルキルピペラジン誘導体を、酸触媒の存在下、分子内脱水縮合反応させて、上記式(5)で示されるヒドロキシアルキルトリエチレンジアミン類、及び/又は上記式(6)で示されるヒドロキシアルキルトリエチレンジアミン類が得られる。
【0049】
上記式(5)で示されるヒドロキシアルキルトリエチレンジアミン類又は上記式(6)で示されるヒドロキシアルキルトリエチレンジアミン類としては、特に限定するものではないが、例えば、2−ヒドロキシメチルトリエチレンジアミン、2−ヒドロキシメチル−2−メチルトリエチレンジアミン、2−ヒドロキシエチルトリエチレンジアミン、ヒドロキシプロピルトリエチレンジアミン、ヒドロキシブチルトリエチレンジアミン等が挙げられる。
【0050】
本発明の製造方法において、酸触媒としては、例えば、金属リン酸塩、無機リン化合物、有機リン化合物等のリン含有物質、窒素含有物質、硫黄含有物質、ニオブ含有物質、シリカ、アルミナ、シリカ−アルミナ、シリカ−チタニア、ゼオライト、ヘテロポリ酸、第4B族金属酸化物縮合触媒、第6B族金属含有縮合触媒、ブレンステッド酸、ルイス酸、リンアミド等が挙げられる。本発明においては、これらのうち金属リン酸塩、無機リン化合物、有機リン化合物等のリン含有物質が特に好ましい。
【0051】
金属リン酸塩としては、従来公知のものでよく、特に制限はないが、例えば、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸などの金属塩が挙げられる。リン酸と塩を形成する金属としては、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、バリウム、マグネシウム、アルミニウム、チタン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ジルコニウム、パラジウム、銀、スズ、鉛等が挙げられる。
【0052】
無機リン化合物としては、従来公知のものでよく、特に制限はないが、例えば、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸や、ピロリン酸、トリポリリン酸等の縮合リン酸、メタリン酸等を挙げることができる。
【0053】
有機リン化合物としては、従来公知のものでよく、特に制限はないが、例えば、リン酸メチル等のリン酸エステル、リン酸ジメチル等のリン酸ジエステル、リン酸トリフェニル等のリン酸トリエステル、亜リン酸メチル、亜リン酸フェニル等の亜リン酸エステル、亜リン酸ジフェニル等の亜リン酸ジエステル、亜リン酸トリフェニル等の亜リン酸トリエステル、フェニルホスホン酸等のアリールホスホン酸、メチルホスホン酸等のアルキルホスホン酸、メチル亜ホスホン酸等のアルキル亜ホスホン酸、フェニル亜ホスホン酸等のアリール亜ホスホン酸、ジメチルホスフィン酸等のアルキルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸等のアリールホスフィン酸、フェニルメチルホスフィン酸等のアルキルアリールホスフィン酸、ジメチル亜ホスフィン酸等のアルキル亜ホスフィン酸、ジフェニル亜ホスフィン酸等のアリール亜ホスフィン酸、フェニルメチル亜ホスフィン酸等のアルキルアリール亜ホスフィン酸、ラウリルアシッドホスフェイト、トリデシルアシッドホスフェイト、ステアリルアシッドホスフェイト等の酸性リン酸エステル、酸性リン酸エステルの塩類等を挙げることができる。
【0054】
本発明の製造方法では、酸触媒として、これらの化合物から選ばれる一種又は二種以上を用いることができる。
【0055】
本発明の製造方法において、反応は気相で行っても液相で行っても良い。また、反応は懸濁床による回分、半回分、連続式でも、また固定床流通式でも実施できるが、工業的には、固定床流通式が操作、装置、経済性の面から有利である。
【0056】
本発明の製造方法においては、希釈剤は、窒素ガス、水素ガス、アンモニアガス、水蒸気、炭化水素等の不活性ガスや、水、不活性な炭化水素等の不活性溶媒を用いて、原料である、上記式(1)で示されるヒドロキシアルキルピペラジン類を希釈し、反応を進行させることができる。これらの希釈剤は任意の量で使用でき、特に限定するものではないが、[上記式(1)で示されるヒドロキシアルキルピペラジン類]/[希釈剤]のモル比は0.01〜1の範囲とすることが好ましい。また、上記式(3)で示されるジヒドロキシアルキルピペラジン類及び上記式(4)で示されるジヒドロキシアルキルピペラジン類から反応を開始する場合には、[当該ジヒドロキシアルキルピペラジン類から選択されるジヒドロキシアルキルピペラジン類]/[希釈剤]のモル比は0.01〜1の範囲とすることが好ましい。モル比0.01以上とすると、上記式(5)で示されるヒドロキシアルキルトリエチレンジアミン類の生産性が向上する。また、モル比1以下とすると、上記式(5)で示されるヒドロキシアルキルトリエチレンジアミン類の選択性が向上する。
【0057】
本発明の製造方法において、希釈剤は、上記式(1)で示されるヒドロキシアルキルピペラジン類と同時に反応器内に導入してもよいし、予め上記式(1)で示されるヒドロキシアルキルピペラジン類を希釈剤に溶解させた後に、原料溶液として反応器に導入してもよい。また、上記式(3)で示されるジヒドロキシアルキルピペラジン類及び上記式(4)で示されるジヒドロキシアルキルピペラジン類から反応を開始する場合には、希釈剤は、当該ジヒドロキシアルキルピペラジン類と同時に反応器内に導入してもよいし、予め当該ジヒドロキシアルキルピペラジン類を希釈剤に溶解させた後に、原料溶液として反応器に導入してもよい。
【0058】
本発明の製造方法において、反応が気相で行われる場合、通常は、窒素ガス、アルゴンガス等の反応に不活性なガスの共存下で行われる。かかるガスの使用量は上記式(1)で示されるヒドロキシアルキルピペラジン類1モルに対して、通常1〜20モル、好ましくは2〜10モルの範囲である。
【0059】
本発明の製造方法において、反応温度は、通常150〜500℃、好ましくは200〜400℃の範囲である。500℃以下とすることで、原料及び生成物の分解が抑制されるため、上記式(5)で示されるヒドロキシアルキルトリエチレンジアミン類の選択率が向上し、150℃以上とすることで十分な反応速度が得られる。
【0060】
本発明の製造方法においては、反応終了後、上記式(5)で示されるヒドロキシアルキルトリエチレンジアミン類を含有する反応混合ガスを、水又は酸性水溶液に通じて溶解させ、上記式(5)で示されるヒドロキシアルキルトリエチレンジアミン類を含有する反応混合液を得る。そして、得られた反応混合液から、抽出、濃縮等の所望の分離精製操作により、上記式(5)で示されるヒドロキシアルキルトリエチレンジアミン類を得ることができる。また、ハロゲン化水素酸を用いて、ハロゲン化水素酸塩として得ることもできる。
【実施例】
【0061】
本発明を以下の実施例、比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定して解釈されるものではない。
【0062】
なお、ガスクロマトグラフィー質量分析には、アジレント社製、HP6890を使用し、核磁気共鳴分析(H−NMR及び13C−NMRの測定)には、Varian社製、Gemini−200を使用した。
【0063】
また、生成物の選択率は、ガスクロマトグラフィー〔ガスクロマトグラフ(島津製作所社製 GC−17A)、キャピラリーカラム(J&W Scientific社製 DB−1)、及び検出器(FID)〕で確認した。
【0064】
実施例1.
(1)1−ヒドロキシエチル−3−ヒドロキシメチルピペラジンの合成.
J.Med.Chem,36,2075(1993)に記載の方法によって合成したヒドロキシメチルピペラジン116.2g(1.0モル)、溶媒としてメタノール200mlを1000mlオートクレーブに充填し、窒素雰囲気下でエチレンオキサイド44.1g(1.0モル)滴下を開始した。なお、オートクレーブを氷水浴することで滴下開始時の反応温度は0℃に調整した。この時の反応容器圧力は0.1MPaであった。反応時間は3時間であった。反応終了後、オートクレーブを加温して、60℃で3時間熟成した。その後、反応液は、単蒸留により溶媒であるメタノール、未反応の2−ヒドロキシメチルピペラジン等を留去した。生成物を真空乾燥することで、白色固体154.6gが得られた。この物質は、上記式(4)で示されるジヒドロキシアルキルピペラジン誘導体に該当する、1−ヒドロキシエチル−3−ヒドロキシメチルピペラジン(以下、表現を簡潔にするため、HEHMPと略す。)であることが、ガスクロマトグラフィー質量分析及び核磁気共鳴分析によって確認された。
【0065】
(2)2−ヒドロキシメチルトリエチレンジアミンの合成.
上述のHEHMP16.0g(0.10モル)、溶媒として水100ml、触媒としてリン酸アルミニウム(和光純薬工業社製、化学用)5.0gを200mlオートクレーブに充填し、窒素雰囲気下で280℃に加熱した。この時の反応容器圧力は8.0MPaであった。反応時間は2時間であった。
【0066】
生成物をガスクロマトグラフィーで分析した結果、HEHMP転化率は98%であり、選択率は、2−ヒドロキシメチルトリエチレンジアミンが92%,ヒドロキシメチル基が脱離して生成したトリエチレンジアミンは1%以下であった。
【0067】
実施例2.
実施例1(1)で得られたHEHMP16.0g(0.10モル)、溶媒として水100ml、触媒としてフェニルホスホン酸(和光純薬工業社製、化学用)5.0gを200mlオートクレーブに充填し、窒素雰囲気下で280℃に加熱した。この時の反応容器圧力は8.0MPaであった。反応時間は2時間であった。
【0068】
生成物をガスクロマトグラフィーで分析した結果、HEHMP転化率は88%であり、選択率は、2−ヒドロキシメチルトリエチレンジアミンが85%,ヒドロキシメチル基が脱離して生成したトリエチレンジアミンが5%であった。
【0069】
実施例3.
実施例1(1)で得られたHEHMP16.0g(0.10モル)、溶媒として水100ml、触媒として85%−リン酸(キシダ化学社製、試薬特級)1.9gを200mlオートクレーブに充填し、窒素雰囲気下で250℃に加熱した。この時の反応容器圧力は3.2MPaであった。反応時間は4時間であった。
【0070】
生成物をガスクロマトグラフィーで分析した結果、HEHMP転化率は94%であり、選択率は、2−ヒドロキシメチルトリエチレンジアミンが46%,ヒドロキシメチル基が脱離して生成したトリエチレンジアミンが4%であった。
【0071】
実施例4.
実施例1(1)で得られたHEHMP16.0g(0.10モル)、溶媒として水100ml、触媒として亜リン酸(キシダ化学社製、試薬特級)1.6gを200mlオートクレーブに充填し、窒素雰囲気下で250℃に加熱した。この時の反応容器圧力は3.1MPaであった。反応時間は4時間であった。
【0072】
生成物をガスクロマトグラフィーで分析した結果、HEHMP転化率は74%であり、選択率は、2−ヒドロキシメチルトリエチレンジアミンが65%,ヒドロキシメチル基が脱離して生成したトリエチレンジアミンが1%であった。
【0073】
実施例5.
実施例1(1)で得られたHEHMP16.0g(0.10モル)、溶媒として水100ml、触媒として31%−次亜リン酸(和光純薬工業社製、試薬一級)5.3gを200mlオートクレーブに充填し、窒素雰囲気下で250℃に加熱した。この時の反応容器圧力は3.1MPaであった。反応時間は4時間であった。
【0074】
生成物をガスクロマトグラフィーで分析した結果、HEHMP転化率は75%であり、選択率は、2−ヒドロキシメチルトリエチレンジアミンが55%,ヒドロキシメチル基が脱離して生成したトリエチレンジアミンが1%であった。
【0075】
実施例6.
(1)1−(2’−ヒドロキシプロピル)−3−ヒドロキシメチルピペラジンの合成.
実施例1(1)において、エチレンオキサイド44.1g(1.0モル)の代わりにプロピレンオキサイド58.1g(1.0モル)を用いた以外は、実施例1(1)に記載した方法に従い実施し、黄色液体160.5gを得た。ガスクロマトグラフィー質量分析により、本化合物は、1−(2’−ヒドロキシプロピル)−3−ヒドロキシメチルピペラジンと1−(1’−ヒドロキシプロピル)−3−ヒドロキシメチルピペラジンが92:8の比率で混在することを確認した。
【0076】
(2)2−ヒドロキシメチル−6−メチル(又は5−メチル)トリエチレンジアミンの合成.
実施例(4)において、HEHMP16.0g(0.10モル)の代わりに実施例6(1)で得た1−ヒドロキシプロピル−3−ヒドロキシメチルピペラジン混合溶液17.4g(0.10モル)を用いる以外は、実施例4に記載した方法に従い実施し、褐色油状物17.0gを得た。
【0077】
生成物をガスクロマトグラフィーで分析した結果、HEHMP転化率は86%であり、選択率は、2−ヒドロキシメチル−6−(又は5−)メチルトリエチレンジアミンが46%,ヒドロキシメチル基が脱離、生成したメチルピペラジンが8%、メチルトリエチレンジアミンが1%であった。
【0078】
比較例1.
実施例1(1)で得られたHEHMP16.0g(0.10モル)、溶媒として水100ml、触媒を添加せずに、200mlオートクレーブに充填し、窒素パージ後、280℃に加熱した。この時の反応容器圧力は8.0MPaであった。反応時間は2時間であった。
【0079】
生成物をガスクロマトグラフィーで分析した結果、HEHMP転化率は0%であった。
【0080】
比較例2.
実施例1(1)で得られたHEHMP16.0g(0.10モル)、溶媒として水100ml、ラネーニッケル触媒10.0g(乾燥重量5.0g)を200mlオートクレーブに充填し、窒素パージ後、水素加圧した状態で150℃に加熱した。この時の反応容器圧力は10.0MPaであった。反応時間は2時間であった。
【0081】
生成物をガスクロマトグラフィーで分析した結果、HEHMP転化率は0%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

(式中、R、Rは各々独立して、水素原子、メチル基、エチル基、又は直鎖状若しくは分枝状の炭素数3〜4のアルキル基を表す。m、nは各々独立して0〜2の整数を表す。ただし、1≦m+n<4である。)
で示されるヒドロキシアルキルピペラジン類と、下記式(2)
【化2】

(式中、R、Rは各々独立して、水素原子、メチル基、エチル基、又は直鎖状若しくは分枝状の炭素数3〜4のアルキル基を表す。)
で示されるアルキレンオキサイド類とを反応させて、下記式(3)
【化3】

(式中、R〜R、m、nは上記と同じ定義である。)
で示されるジヒドロキシアルキルピペラジン誘導体、及び/又は下記式(4)
【化4】

(式中、R〜R、m、nは上記と同じ定義である。)
で示されるジヒドロキシアルキルピペラジン誘導体を得、これを酸触媒の存在下で分子内脱水縮合反応させることを特徴とする下記式(5)
【化5】

(式中、R〜R、m、nは上記と同じ定義である。)
で示されるヒドロキシアルキルトリエチレンジアミン類、及び/又は下記式(6)
【化6】

(式中、R〜R、m、nは上記と同じ定義である。)
で示されるヒドロキシアルキルトリエチレンジアミン類の製造方法。
【請求項2】
酸触媒が、金属リン酸塩、無機リン化合物、及び有機リン化合物からなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物を含むことを特徴とする請求項1に記載のヒドロキシアルキルトリエチレンジアミン類の製造方法。
【請求項3】
式(1)で示されるヒドロキシアルキルピペラジン類が、下記式(7)
【化7】

で示される2−ヒドロキシメチルピペラジンであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のヒドロキシアルキルトリエチレンジアミン類の製造方法。
【請求項4】
式(2)で示されるアルキレンオキサイド類が、エチレンオキサイド又はプロピレンオキサイドであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
式(3)で示されるジヒドロキシアルキルピペラジン誘導体が、下記式(8)
【化8】

(式中、Rは水素原子又はメチル基を表す。)
で示されるジヒドロキシアルキルピペラジンであることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
式(4)で示されるジヒドロキシアルキルピペラジン誘導体が、下記式(9)
【化9】

(式中、Rは水素原子又はメチル基を表す。)
で示されるジヒドロキシアルキルピペラジンであることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
下記式(8)
【化10】

(式中、Rは水素原子又はメチル基を表す。)
又は、下記式(9)
【化11】

(式中、Rは水素原子又はメチル基を表す。)
で示されるジヒドロキシアルキルピペラジン。
【請求項8】
下記式(3)
【化12】

(式中、R〜Rは各々独立して、水素原子、メチル基、エチル基、又は直鎖状若しくは分枝状の炭素数3〜4のアルキル基を表す。m、nは各々独立して0〜2の整数を表す。ただし、1≦m+n<4である。)
で示されるジヒドロキシアルキルピペラジン誘導体、及び/又は下記式(4)
【化13】

(式中、R〜R、m、nは上記と同じ定義である。)
で示されるジヒドロキシアルキルピペラジン誘導体を、酸触媒の存在下で分子内脱水縮合反応させることを特徴とする下記式(5)
【化14】

(式中、R〜R、m、nは上記と同じ定義である。)
で示されるヒドロキシアルキルトリエチレンジアミン類、及び/又は下記式(6)
【化15】

(式中、R〜R、m、nは上記と同じ定義である。)
で示されるヒドロキシアルキルトリエチレンジアミン類の製造方法。
【請求項9】
酸触媒が、金属リン酸塩、無機リン化合物、及び有機リン化合物からなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物を含むことを特徴とする請求項8に記載のヒドロキシアルキルトリエチレンジアミン類の製造方法。
【請求項10】
式(3)で示されるジヒドロキシアルキルピペラジン誘導体が、下記式(8)
【化16】

(式中、Rは水素原子又はメチル基を表す。)
で示されるジヒドロキシアルキルピペラジンであることを特徴とする請求項8又は請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
式(4)で示されるジヒドロキシアルキルピペラジン誘導体が、下記式(9)
【化17】

(式中、Rは水素原子又はメチル基を表す。)
で示されるジヒドロキシアルキルピペラジンであることを特徴とする請求項8乃至請求項10のいずれかに記載の製造方法。

【公開番号】特開2011−37819(P2011−37819A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−263002(P2009−263002)
【出願日】平成21年11月18日(2009.11.18)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】