説明

ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法

【課題】ジエステルの生成を抑制し、効率良くヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを製造することができるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法を実現する。
【解決手段】本発明のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法は、アルキレンオキシドと(メタ)アクリル酸とを反応させる方法であって、下記一般式(1)
Y−COOR …(1)
(式中、Rはアルキル基またはヒドロキシアルキル基であり、Yは水酸基、COOR基または(X)−Rで表される、Xがn個置換した炭化水素基であり、Rは水素原子、アルキル基またはヒドロキシアルキル基であり、Rは飽和若しくは不飽和の鎖状炭化水素基または飽和若しくは不飽和の環状炭化水素基であり、Xは水酸基またはCOOR基であり、nは1〜10の整数である)
で表される構造を有する化合物を含むジエステル抑制剤を用いる方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルキレンオキシドと(メタ)アクリル酸とを反応させるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリル酸とアルキレンオキシドとを反応させることによって製造されている。ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを製造する場合、副生物としてアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート(以下、ジエステルと記す)が生成するため、カルボン酸、酸無水物、多価アルコールまたは金属キレート剤などをジエステル抑制剤として用いることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上記ジエステル抑制剤の中では、ジエステル抑制効果が高いため、カルボン酸および酸無水物が最も利用されている。これらカルボン酸および酸無水物は、粉体などの固体である場合が多く、工業的には、カルボン酸および/または酸無水物の粉体をヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートに溶解させた後に系内に供給することにより用いられている。
【特許文献1】特開平10−237022号公報(1998年9月8日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の構成では、従来のジエステル抑制剤であるカルボン酸および/または酸無水物のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート溶解物を長期間保管後に使用すると、得られるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート中のジエステルが増加してしまうという問題を生じる。
【0005】
このため、カルボン酸および/または酸無水物をヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートに溶解させた状態で長期間保管することができず、製造工程が制約されていた。つまり、従来のジエステル抑制剤では、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートなどに希釈(溶解)して長期間、結晶の析出などなく安定に保管することができる組成物を提供することは困難であった。
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、ジエステルの生成を抑制し、効率良くヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを製造することができるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法を実現することにある。また、一方で、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートは、ジエステル抑制剤の希釈溶液における希釈母液として用いることができるため、言い換えれば、本発明の目的は、ジエステル抑制剤の希釈溶液として、長期間安定に保存することができる希釈母液を提供することでもある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討を行った。該検討の過程において、従来のジエステル抑制剤であるカルボン酸および酸無水物は、触媒などが存在するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造条件下では、ジエステル抑制剤として働くが、触媒などが存在しないヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートに溶解した状態では、逆にジエステル生成の触媒として働くことを見出した。そして、本発明者は、特定の化合物をジエステル抑制剤として用いることにより、安定なジエステル抑制剤の希釈溶液を製造することができ、その結果、上記課題を解決することができることを見出して、本発明を完成するに至った。また、本発明で見出した特定構造のジエステル抑制剤を、当該反応の初期から使用しても、また、当該反応の反応液を回収し循環使用しても、そのジエステル抑制効果が発揮されることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明に係るヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法は、上記課題を解決するために、アルキレンオキシドと(メタ)アクリル酸とを反応させるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法であって、下記一般式(1)
Y−COOR …(1)
(式中、Rはアルキル基またはヒドロキシアルキル基であり、Yは水酸基、COOR基または(X)−Rで表される、Xがn個置換した炭化水素基であり、Rは水素原子、アルキル基またはヒドロキシアルキル基であり、Rは飽和若しくは不飽和の鎖状炭化水素基または飽和若しくは不飽和の環状炭化水素基であり、nは1〜10の整数であり、Xは水酸基またはCOOR基(但し、nが2以上の場合は、2以上のXは全て同じ置換基である必要はなく、それぞれ独立に、水酸基またはCOOR基であってもよい)である)
で表される構造を有する化合物を含むジエステル抑制剤を用いることを特徴としている。
【0009】
上記方法によれば、上記一般式(1)で表される構造を有する化合物を含むジエステル抑制剤を用いるため、ジエステル抑制剤をヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートに溶解させた溶解物を長期間保管した場合であっても、溶解物中でジエステルが生成し難い。このため、ジエステル抑制剤のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート溶液を、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造毎に作成する必要が無いため、製造工程を効率化することができる。
【0010】
従って、上記方法によれば、ジエステルの生成を抑制し、効率良くヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを製造することができるという効果を奏する。
【0011】
本発明に係るヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法では、一般式(1)で表される構造を有する上記化合物におけるYが、水酸基、COOR基、または(X)−Rで表される、Xがn個置換した炭化水素基であり、XとCOOR基との間の最小炭素数が1〜4の範囲内であることが好ましい。
【0012】
上記方法によれば、一般式(1)で表される構造を有する上記化合物が、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造条件下で触媒と配位し易いため、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造条件下においてジエステルの副生をより抑制することができるという更なる効果を奏する。
【0013】
本発明に係るヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法では、一般式(1)で表される構造を有する上記化合物におけるRがヒドロキシアルキル基であることが好ましい。
【0014】
上記方法によれば、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造条件下においてジエステルの副生をより抑制することができるという更なる効果を奏する。
【0015】
本発明に係るヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法では、一般式(1)で表される構造を有する上記化合物が、多価カルボン酸および/またはヒドロキシ酸の少なくとも1つのカルボキシル基が、アルキルエステル化若しくはヒドロキシアルキルエステル化された化合物であることが好ましい。
【0016】
本発明に係るヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法では、上記ジエステル抑制剤を、一般式(1)で表される構造を有する上記化合物のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート溶液として用いることが好ましい。
【0017】
上記方法によれば、ジエステル抑制剤の形態が粉体などである場合でも、ジエステル抑制剤を効率良く供給することができるという更なる効果を奏する。尚、上記「ジエステル抑制剤を、一般式(1)で表される構造を有する上記化合物のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート溶液として用いる」とは、より具体的には、一般式(1)で表される構造を有する上記化合物をヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートに溶解させた溶液として、ジエステル抑制剤を用いることである。
【0018】
本発明に係るヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法では、上記ジエステル抑制剤は、カルボン酸、該カルボン酸の無水物、多価アルコールおよび金属キレート剤からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の化合物を更に含むことが好ましい。
【0019】
上記方法によれば、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造条件下において、ジエステルの副生をより抑制することができるという更なる効果を奏する。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法は、以上のように、アルキレンオキシドと(メタ)アクリル酸とを反応させるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法であって、上記一般式(1)で表される構造を有する化合物を含むジエステル抑制剤を用いることを特徴としている。
【0021】
このため、ジエステルの生成を抑制し、効率良くヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを製造することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。
【0023】
尚、本明細書では、「(メタ)アクリル酸」はアクリル酸またはメタクリル酸を意味し、「ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート」はヒドロキシアルキルアクリレートまたはヒドロキシアルキルメタクリレートを意味し、また「アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート」はアルキレングリコールジアクリレートまたはアルキレングリコールジメタクリレートを意味する。
【0024】
また、「重量」は「質量」と同義語として扱い、「重量%」は「質量%」と同義語として扱う。また、範囲を示す「A〜B」は、A以上B以下であることを示す。
【0025】
本実施の形態に係るヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートは、アルキレンオキシドと(メタ)アクリル酸とを反応させることにより製造される。
【0026】
上記アルキレンオキシドとしては、特には限定されないが、炭素数2〜6のアルキレンオキシドが好ましく、炭素数2〜4のアルキレンオキシドがより好ましい。上記アルキレンオキシドとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドなどが挙げられる。
【0027】
アルキレンオキシドは(メタ)アクリル酸に対して等モル以上、好ましくは1.03〜1.2倍モルの範囲で用いられる。反応温度は、通常、40〜130℃、好ましくは50〜100℃である。反応は、通常、加圧下、液状で行われる。また、反応を行う際の雰囲気については特に制限はないが、窒素などの不活性ガス雰囲気下で行うことがより好ましい。
【0028】
反応の際にヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの重合を防止する目的で、重合防止剤を用いることができる。上記重合防止剤としては特には限定されず、この種の反応に一般的に用いられている従来公知の重合防止剤を使用することができる。具体的には、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、フェノチアジン、ジブチルジチオカルバミン酸銅などが挙げられる。重合防止剤の使用量は、通常、(メタ)アクリル酸の0.001〜1重量%の範囲内であり、より好ましくは0.01〜0.5重量%の範囲内である。
【0029】
反応に使用する触媒についても特には限定されず、この種の反応に一般に用いられている従来公知の触媒を使用することができる。
【0030】
反応に使用する上記触媒として、具体的には、(メタ)アクリル酸およびアルキレンオキシドを含む反応液に可溶な全ての均一系触媒を挙げることができる。より具体的には、クロム(Cr)化合物、鉄(Fe)化合物、イットリウム(Y)化合物、ランタン(La)化合物、セリウム(Ce)化合物、タングステン(W)化合物、ジルコニウム(Zr)化合物、チタン(Ti)化合物、バナジウム(V)化合物、リン(P)化合物、アルミニウム(Al)化合物およびモリブデン(Mo)化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、上記反応液に可溶な均一系触媒が挙げられる。この中でも、クロム(Cr)化合物および/または鉄(Fe)化合物を含む上記反応液に可溶な均一系触媒がより好ましく、クロム(Cr)化合物を含む上記反応液に可溶な均一系触媒が更に好ましく、クロム(Cr)化合物からなる上記反応液に可溶な均一系触媒が最も好ましい。特に、後述する反応液中の触媒量に対する酸成分の量を調整するとともに、蒸留残渣を次の反応液に用いる実施形態の場合においては、触媒として、クロム(Cr)化合物を含み上記反応液に可溶な均一系触媒を用いることにより、より一層顕著な効果が得られるため好ましく、クロム(Cr)化合物からなり上記反応液に可溶な均一系触媒を用いることがより好ましい。
【0031】
クロム(Cr)化合物としては、特には限定されず、クロム(Cr)原子を分子内に有し、かつ、上記反応液に可溶な化合物が挙げられる。具体的には、塩化クロム、アセチルアセトンクロム、蟻酸クロム、酢酸クロム、オクタン酸クロム、イソオクタン酸クロム、アクリル酸クロム、メタクリル酸クロム、重クロム酸ソーダ、ジブチルジチオカルバミン酸クロムなどが挙げられる。
【0032】
鉄(Fe)化合物としては、特には限定されず、鉄(Fe)原子を分子内に有し、かつ、上記反応液に可溶な化合物が挙げられる。具体的には、鉄粉、塩化鉄、蟻酸鉄、酢酸鉄、アクリル酸鉄、メタクリル酸鉄などが挙げられる。
【0033】
イットリウム(Y)化合物としては、特には限定されず、イットリウム(Y)原子を分子内に有し、かつ、上記反応液に可溶な化合物が挙げられる。具体的には、アセチルアセトンイットリウム、塩化イットリウム、酢酸イットリウム、硝酸イットリウム、硫酸イットリウム、アクリル酸イットリウム、メタクリル酸イットリウムなどが挙げられる。
【0034】
ランタン(La)化合物としては、特には限定されず、ランタン(La)原子を分子内に有し、かつ、上記反応液に可溶な化合物が挙げられる。具体的には、アセチルアセトンランタン、塩化ランタン、酢酸ランタン、硝酸ランタン、硫酸ランタン、アクリル酸ランタン、メタクリル酸ランタンなどが挙げられる。
【0035】
セリウム(Ce)化合物としては、特には限定されず、セリウム(Ce)原子を分子内に有し、かつ、上記反応液に可溶な化合物が挙げられる。具体的には、アセチルアセトンセリウム、塩化セリウム、酢酸セリウム、硝酸セリウム、硫酸セリウム、アクリル酸セリウム、メタクリル酸セリウムなどが挙げられる。
【0036】
タングステン(W)化合物としては、特には限定されず、タングステン(W)原子を分子内に有し、かつ、上記反応液に可溶な化合物が挙げられる。具体的には、塩化タングステン、アクリル酸タングステン、メタクリル酸タングステンなどが挙げられる。
【0037】
ジルコニウム(Zr)化合物としては、特には限定されず、ジルコニウム(Zr)原子を分子内に有し、かつ、上記反応液に可溶な化合物が挙げられる。具体的には、アセチルアセトンジルコニウム、塩化ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、アクリル酸ジルコニウム、メタクリル酸ジルコニウム、ジルコニウムブトキシド、ジルコニウムプロポキシド、塩化ジルコニル、酢酸ジルコニル、硝酸ジルコニル、アクリル酸ジルコニル、メタクリル酸ジルコニルなどが挙げられる。
【0038】
チタン(Ti)化合物としては、特には限定されず、チタン(Ti)原子を分子内に有し、かつ、上記反応液に可溶な化合物が挙げられる。具体的には、塩化チタン、硝酸チタン、硫酸チタン、チタンメトキシド、チタンエトキシド、チタンプロポキシド、チタンイソプロポキシド、アクリル酸チタン、メタクリル酸チタンなどが挙げられる。
【0039】
バナジウム(V)化合物としては、特には限定されず、バナジウム(V)原子を分子内に有し、かつ、上記反応液に可溶な化合物が挙げられる。具体的には、アセチルアセトンバナジウム、塩化バナジウム、ナフテン酸バナジウム、アクリル酸バナジウム、メタクリル酸バナジウムなどが挙げられる。
【0040】
リン(P)化合物としては、特には限定されず、リン(P)原子を分子内に有し、かつ、上記反応液に可溶な化合物が挙げられる。具体的には、トリメチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリオクチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリトルイルホスフィン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィン)エタンなどのアルキルホスフィン類およびその(メタ)アクリル酸などの4級ホスホニウム塩などが挙げられる。
【0041】
アルミニウム(Al)化合物としては、特には限定されず、アルミニウム(Al)原子を分子内に有し、かつ、上記反応液に可溶な化合物が挙げられる。具体的には、アセチルアセトンアルミニウム、塩化アルミニウム、酢酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、アルミニウムエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、アクリル酸アルミニウム、メタクリル酸アルミニウムなどが挙げられる。
【0042】
モリブデン(Mo)化合物としては、特には限定されず、モリブデン(Mo)原子を分子内に有し、かつ、上記反応液に可溶な化合物が挙げられる。具体的には、塩化モリブデン、酢酸モリブデン、アクリル酸モリブデン、メタクリル酸モリブデンなどが挙げられる。
【0043】
また、本実施の形態に係る製造方法に用い得る触媒として、上述したクロム(Cr)化合物、鉄(Fe)化合物、イットリウム(Y)化合物、ランタン(La)化合物、セリウム(Ce)化合物、タングステン(W)化合物、ジルコニウム(Zr)化合物、チタン(Ti)化合物、バナジウム(V)化合物、リン(P)化合物、アルミニウム(Al)化合物およびモリブデン(Mo)化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種を含み、上記反応液に可溶な均一系触媒とアミン化合物とを含む触媒(アミン化合物併用タイプ)が好ましく挙げられる。
【0044】
上記アミン化合物としては、アミン官能基を分子内に有する化合物であれば、特には限定はされず、具体的には、トリアルキルアミン類、ピリジンなどの環状アミン類およびその4級塩などの均一系アミン化合物が挙げられる。上記アミン化合物を併用することにより、相乗的に触媒活性を向上させることができ、反応転化率および反応選択率の両方を高くすることができる。
【0045】
本実施の形態に係る製造方法における触媒の使用量は、特には限定はされないが、例えば、上述したクロム(Cr)化合物などからなる群より選ばれる少なくとも一種を含み、上記反応液に可溶な均一系触媒(アミン化合物を併用しないタイプ)を用いる場合は、(メタ)アクリル酸に対して0.01〜10モル%の範囲内であることが好ましく、0.02〜5モル%の範囲内であることがより好ましく、0.04〜3モル%の範囲内であることが更に好ましい。上記使用量が0.01モル%未満であると、反応速度が遅くなるため反応時間が長くなり、生産コストが高くなるおそれがある。上記使用量が10モル%を超えると、副生物の反応選択性が高くなるおそれがある。
【0046】
また、上述したアミン化合物併用タイプの触媒を用いる場合、アミン化合物の使用量は、(メタ)アクリル酸に対し0.01〜10モル%の範囲内であることが好ましく、0.02〜5モル%の範囲内であることがより好ましく、0.04〜3モル%の範囲内であることが更に好ましい。クロム(Cr)化合物などからなる群より選ばれる少なくとも一種を含み、上記反応液に可溶な均一系触媒の使用量は、0.01〜5モル%の範囲内であることが好ましく、0.02〜5モル%の範囲内であることがより好ましく、0.04〜3モル%の範囲内であることが更に好ましい。上記使用量が0.01モル%未満であると、アミン化合物と触媒との相乗効果が得られないおそれがあり、5モル%を超えると、生産コストが高くなるおそれがある。
【0047】
(メタ)アクリル酸とアルキレンオキシドとの上述した反応は、この種の反応に一般に用いられている方法により行うことができる。通常、(メタ)アクリル酸中に液状のアルキレンオキシドを導入して行う。そして、この種の反応においてよく行われるように、アルキレンオキシドの導入が終了した後も上述した反応温度の範囲内の温度で反応を継続させて反応を完結させることができる。
【0048】
一般に、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを合成する場合、反応の副生物としてアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート(以下、「ジエステル」と記す)が生成する。特に、反応終了時の近くで未反応の(メタ)アクリル酸が少なくなった時点(仕込み量の0.1重量%以下)で反応液に過剰のアルキレンオキシドが溶存残留しているとヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの不均化反応が起こり易く、アルキレングリコールとともにジエステルが副生する。
【0049】
また、上記ジエステルは、合成したヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを蒸留精製する際にも、その不均化反応によって生成する。特に、反応に使用した触媒の共存下で比較的高温にさらされると、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの不均化反応が起こり易くなる。
【0050】
本実施の形態では、上記ジエステルの副生を抑制するために、下記一般式(1)
Y−COOR …(1)
(式中、Rはアルキル基またはヒドロキシアルキル基であり、Yは水酸基、COOR基または(X)−Rで表される、Xがn個置換した炭化水素基であり、Rは水素原子、アルキル基またはヒドロキシアルキル基であり、Rは飽和若しくは不飽和の鎖状炭化水素基または飽和若しくは不飽和の環状炭化水素基であり、nは1〜10の整数であり、Xは水酸基またはCOOR基(但し、nが2以上の場合は、2以上のXは全て同じ置換基である必要はなく、それぞれ独立に、水酸基またはCOOR基であってもよい)である)
で表される構造を有する化合物を含むジエステル抑制剤を用いる。
【0051】
本実施の形態に係るジエステル抑制剤に含まれる一般式(1)で表される構造を有する化合物は、エステル化合物であり、上記一般式(1)において、Rは、アルキル基、またはヒドロキシアルキル基である。より具体的には、Rは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基などの直鎖若しくは分岐状の炭素数1〜8のアルキル基、またはヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシブチル基、ヒドロキシペンチル基、ヒドロキシヘキシル基、ヒドロキシヘプチル基、ヒドロキシオクチル基などの直鎖若しくは分岐状の炭素数1〜8のヒドロキシアルキル基などが挙げられる。上記アルキル基としては、炭素数2〜4であることがより好ましく、上記ヒドロキシアルキル基としては、炭素数2〜4であることがより好ましい。Rは、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造条件下においてジエステルの副生をより抑制することができるため、ヒドロキシアルキル基であることがより好ましい。
【0052】
上記一般式(1)において、Yは、水酸基、COOR基、または(X)−Rで表される、Xがn個置換した炭化水素基であり、Xは水酸基若しくはCOOR基である。
【0053】
尚、Yが、Xがn個置換した炭化水素基である場合、一般式(1)で表される構造を有する化合物は、(X)n−R−COORとなり、より具体的には(水酸基またはCOOR)n−R−COORである。
【0054】
としては、水素原子、またはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などの直鎖若しくは分岐状の炭素数1〜8のアルキル基、またはヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシブチル基、ヒドロキシペンチル基、ヒドロキシヘキシル基、ヒドロキシヘプチル基、ヒドロキシオクチル基などの直鎖若しくは分岐状の炭素数1〜8のヒドロキシアルキル基などが挙げられ、Rとしては、飽和若しくは不飽和の鎖状炭化水素基、または飽和若しくは不飽和の環状炭化水素基が挙げられる。また、nは1〜10の整数であり、より好ましくは1〜5の整数である。
【0055】
上記鎖状炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などの炭素数1〜10の飽和鎖状炭化水素基、またはエテニル基、プロペニル基、ブテニル基などの炭素数2〜10の不飽和鎖状炭化水素基などが挙げられる。
【0056】
上記環状炭化水素基としては、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基などの炭素数3〜10の飽和環状炭化水素基、またはシクロブテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基、フェニル基、ナフチル基などの炭素数3〜10の不飽和鎖状炭化水素基などが挙げられる。不飽和鎖状炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基などの芳香族炭化水素基がより好ましい。
【0057】
また、一般式(1)で表される構造を有する上記化合物におけるYが、水酸基、COOR基、または(X)−Rで表される、Xがn個置換した炭化水素基であり、XとCOOR基との間の最小炭素数が1〜4の範囲内であることがより好ましい。つまり、上記化合物における水酸基、COOR基、Xなどの官能基とCOOR基との間の最小炭素数が0〜4の範囲内であることがより好ましい。Xなどの官能基とCOOR基との間の最小炭素数が4を超えると、一般式(1)で表される構造を有する上記化合物が、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造条件下で触媒と配位し難くなり、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造条件下においてジエステルの副生の抑制効果が低下する傾向がある。
【0058】
ここで、「XとCOOR基との間の最小炭素数」とは、XとCOOR基とを結ぶ炭素鎖における最短距離における炭素数を意味し、例えば、X−(CH−COORの場合では3となり、X−(CH−(CHX)−COORの場合では1となる。また、ベンゼン環の1位と2位とにそれぞれXとCOOR基とが置換した化合物の場合では2である。尚、「官能基とCOOR基との間の最小炭素数」も「XとCOOR基との間の最小炭素数」と同様の意味である。
【0059】
上記一般式(1)で表される化合物の具体例としては、(a)多価カルボン酸の少なくとも1つのカルボキシル基が、アルキルエステル化若しくはヒドロキシアルキルエステル化された化合物、(b)ヒドロキシ酸の少なくとも1つのカルボキシル基が、アルキルエステル化若しくはヒドロキシアルキルエステル化された化合物などが挙げられる。
【0060】
上記(a)の化合物における多価カルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、ブタントリカルボン酸、ヘキサントリカルボン酸、ブタンテトラカルボン酸、ペンタンテトラカルボン酸、ドデカンテトラカルボン酸などの炭素鎖が飽和炭化水素である多価カルボン酸や、マレイン酸、フマル酸などの炭素鎖が不飽和炭化水素である多価カルボン酸や、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、ナフタレンジカルボン酸、ナフタレンテトラカルボン酸などの炭素鎖が芳香族炭化水素である多価カルボン酸などが挙げられる。
【0061】
上記(b)の化合物におけるヒドロキシ酸としては、グリコール酸、乳酸、グリセリン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸などの炭素鎖が飽和炭化水素であるヒドロキシ酸や、ヒドロキシ安息香酸や、トリヒドロキシ安息香酸などの炭素鎖が芳香族炭化水素であるヒドロキシ酸が挙げられる。
【0062】
上記(a)の化合物および(b)の化合物における2以上の官能基の置換位置は特には限定されず、上記一般式(1)で表される化合物の具体例として、上記(a)の化合物および(b)の化合物の全ての異性体が含まれる。また、上記(a)の化合物および(b)の化合物で、2以上のカルボキシル基を有する場合は、これらカルボキシル基が酸無水物を形成していてもよい。つまり、分子内に酸無水物結合を有していてもかまわない。
【0063】
本実施の形態に係るヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法では、上記一般式(1)で表される構造を有する化合物を含むジエステル抑制剤は、通常、常温で固体であるため、溶媒に溶解した後に使用される。上記溶媒としては、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、製造されるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートであることがより好ましく、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造における反応液、アルキレンオキシド除去後の反応液、最終製品または後述する蒸留残渣などがより好ましい。
【0064】
従来公知のジエステル抑制剤は、触媒の存在しないヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートに溶解させて使用する場合、ジエステル生成の触媒として働くため、当該ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートに溶解させ、長期間保存あるいは高温で保管などを行なうと、ジエステルが副生してしまい、ジエステルを含有する溶液を製品に配合することになってしまう。このため、結果として最終製品中のジエステル含有量を増加させてしまう。これに対して本実施の形態に係るジエステル抑制剤は、触媒の存在しないヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートに溶解させて使用する場合でも、ジエステル生成の触媒としては働かないため、長期間若しくは高温で保管などを行なっても、当該ジエステルが初期に含まれる量よりも増加しない。このため、最終製品中のジエステル含有量を増加させない。よって、本実施の形態に係る製造方法を用いることにより、ジエステルの生成を抑制し、効率良くヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを製造することができる。
【0065】
従来公知のジエステル抑制剤でも、使用する直前にヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートに溶解させ、ジエステルが副生する前に速やかに使用することで、余分にジエステルを配合させてしまうことを回避することはできる。しかしながら、ジエステル抑制剤を溶解させてから使用するまでの時間などが制限されるために、製造工程での使用条件が制限される。つまり、ジエステル抑制剤の溶解液を、他の工程の空き時間の間に作成することが困難となり、製造装置を効率良く使用することができない。従って、生産効率が低下してしまう。
【0066】
また、ジエステル抑制剤を、ジエステルが生成しない他の溶媒で溶解させればよいが、最終製品の純度が低くなるため好ましくない。
【0067】
更には、本実施の形態に係るジエステル抑制剤では、ジエステル抑制剤を使用する直前にヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートに溶解させる必要がないため、一度に大量のジエステル抑制剤の溶解液を作成し、保管することが可能となる。これにより、反応開始毎にジエステル抑制剤を溶解させる必要がないため、生産工程を短縮することができる。これにより大幅に生産効率を向上させることができる。また、長期間安定に、当該ジエステル抑制剤のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート希釈溶液を貯蔵することができる。
【0068】
尚、本発明に係る、長期間安定な、上記ジエステル抑制剤のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート希釈溶液の物性(ジエステル副生の程度)は、後述する実施例を参考にすれば、その物性の尺度を決定することが可能である。
【0069】
本実施の形態に係るジエステル抑制剤を、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートなどで溶解させる場合、溶解液におけるジエステル抑制剤の濃度は、適宜設定すればよく、好ましくは0.1〜50重量%程度に設定され、より好ましくは1〜40重量%の範囲内であり、更に好ましくは5〜30重量%の範囲内であり、特に好ましくは5〜20重量%の範囲内であり、最も好ましくは8〜20重量%の範囲内(更に好ましくは10〜15重量%の範囲内)である。溶解液におけるジエステル抑制剤の濃度が0.1重量%を下回ると、濃度が薄くなりすぎ、溶解液を所定量投入投入するに際して、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートなどの希釈液の使用量が多くなる。また、溶解液を貯蔵する際に必要な空間が大きくなる。一方、溶解液におけるジエステル抑制剤の濃度が50重量%を超えると、溶解度の関係でジエステル抑制剤が析出し易くなる場合があるため、使い勝手が悪い。特に、製造現場では冬季などに低温下で取り扱う場合があるため、溶解液におけるジエステル抑制剤の濃度が高すぎると不便である。更には、溶解液におけるジエステル抑制剤の濃度が高すぎると、ジエステル抑制剤を所定量投入する場合に、仕込み誤差が大きくなり易い。
【0070】
また、上記ジエステル抑制剤の供給量は、反応液に含まれる触媒1モルに対して0.01〜10モルであることが好ましい。
【0071】
上記ジエステル抑制剤は、ジエステルの生成が増加しない範囲内で、従来公知のジエステル抑制剤、より具体的には、カルボン酸、該カルボン酸の無水物、多価アルコールおよび金属キレート剤からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の化合物を更に含んでいてもかまわない。尚、従来公知のジエステル抑制剤に含まれる上記「カルボン酸」は、エステル結合を有しないカルボン酸を意味し、当然のことながら、カルボキシル基およびエステル基の両方を有する本実施の形態に係るジエステル抑制剤は含まれない。
【0072】
従来公知のジエステル抑制剤は、上述した本実施の形態に係るジエステル抑制剤よりも、触媒存在下におけるジエステル副生を抑制する効果が一般的に高いため、触媒非存在下におけるジエステルの生成が増加しない範囲内で、従来公知のジエステル抑制剤を本実施の形態に係るジエステル抑制剤と併用することにより、触媒存在下におけるジエステルの副生を抑制する効果をより高めることができる。従って、ジエステル抑制剤の使用量を低減することができるため、製造コストを抑制することができる。
【0073】
上記カルボン酸およびその無水物としては、シュウ酸、無水シュウ酸、マロン酸、コハク酸、無水コハク酸、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、オクタン酸、アジピン酸、セバシン酸、テトラデカンジカルボン酸、1,2,4−ブタントリカルボン酸、1,3,6−ヘキサントリカルボン酸、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸、1,2,3,4−ペンタンテトラカルボン酸、1,6,7,12−ドデカンテトラカルボン酸、安息香酸、オルソトルイル酸、メタトルイル酸、パラトルイル酸、ヒドロキシ安息香酸、フタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ピロメリット酸、無水ピロメリット酸、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸、1,3,5,7−ナフタレンテトラカルボン酸、ポリアクリル酸などが挙げられる。
【0074】
上記多価アルコールとしては、グリセリン、ジエチレングリコール、トリメチロールプロパン、1,2,6−ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、2,3,4,5−テトラヒドロキシヘキサン、キシリトール、マンニトール、カテコール、レゾルシン、2,6−ジヒドロキシトルエン、t−ブチルカテコール、ピロガロール、2,4−ビス(ヒドロキシメチル)フェノール、1,2,4−トリヒドロキシベンゼン、1,3,5−トリヒドロキシベンゼン、2,4,6−トリス(ヒドロキシメチル)フェノール、1,2,4,5−テトラヒドロキシベンゼンなどが挙げられる。
【0075】
上記金属キレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン四プロピオン酸、ニトリロ三酢酸、イミノ二酢酸、1,2−ジアミノシクロヘキサン四酢酸、アセチルアセトン、クペロン、オキシン、ベンジジン、ジエチルジチオカルバミン酸などが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0076】
本実施の形態に係るジエステル抑制剤における上記従来公知のジエステル抑制剤の含有量は、上記化合物の種類などによって適宜設定すればよく、好ましくは本実施の形態に係るジエステル抑制剤に対してモル比で0.01〜5倍程度に設定される。
【0077】
本実施の形態に係るヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法では、ジエステル抑制剤を、反応液中のアルキレンオキシド濃度が10重量%以下で添加することが好ましく、5重量%以下で添加することがより好ましく、3重量%以下で添加することが最も好ましい。
【0078】
また、本実施の形態に係るジエステル抑制剤をヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートなどで溶解させる場合、特にジエステル抑制剤が従来公知の上記ジエステル抑制剤のカルボン酸(無水物)を含む場合には、ジエステルの生成を抑制する条件で当該溶解物を保管することが好ましい。尚、「カルボン酸(無水物)」とは、カルボン酸および/または該カルボン酸の無水物を意味する。
【0079】
ジエステルの生成に影響する保管条件としては、溶解液中のカルボン酸(無水物)濃度、保管温度、保管時間などが挙げられ、溶解液中のカルボン酸(無水物)濃度および保管温度が高くなるとジエステルの生成速度が高くなり、保管時間が長くなるとジエステルの生成量が増加する。
【0080】
ジエステルの生成を抑制する上記カルボン酸(無水物)濃度としては、20重量%以下が好ましく、より好ましくは1〜15重量%の範囲内であり、更に好ましくは5〜15重量%の範囲内である。また、従来公知の上記ジエステル抑制剤由来のカルボン酸(無水物)以外のカルボン酸(無水物)を溶解液に含有する場合には、その含有量は5重量%以下が好ましく、より好ましくは0.01〜1.0重量%の範囲内であり、更に好ましくは0.01〜0.20重量%の範囲内である。
【0081】
ジエステルの生成を抑制する上記保管温度としては、保管時間が1時間を超える場合には10〜60℃の範囲内が好ましく、より好ましくは10〜40℃の範囲内であり、更に好ましくは10〜20℃の範囲内である。保管時間が1時間未満である場合には、10〜100℃の範囲内が好ましく、より好ましくは10〜80℃の範囲内であり、更に好ましくは10〜60℃の範囲内である。
【0082】
また、上記溶解物以外であっても、カルボン酸(無水物)(例えば、未反応の(メタ)アクリル酸など)を含むヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートであれば、上記溶解物と同様に上記保管条件で保管することにより、ジエステルの生成を抑制することができる。カルボン酸(無水物)を含むヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、反応液(特に、含有するカルボン酸(無水物)の触媒に対するモル比が1.0を超える反応液)、蒸留工程液、蒸留残渣、触媒を含まないヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0083】
一般的にヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造設備における反応設備や蒸留設備等の各設備には、反応液などを一時的に保管するタンクなどの設備が備えられており、各工程における反応液は、該タンクなどに一時的に保管される。タンクに保管された反応液は、熱が滞留し易く、局所的に温度が高くなるため、ジエステルが増加し易い。しかしながら、このような場合であっても、上記保管条件で保管することにより、ジエステルの生成を抑制することができる。
【0084】
また、最終製品として得られるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートは、未反応の(メタ)アクリル酸を含有しているため、製品タンク、ユーザーへの移送タンク、ドラム缶などの容器で保管中であってもジエステルが生成し得る。最終製品におけるジエステルの生成量は、上述したジエステル抑制剤の溶解物と同様に、カルボン酸(無水物)の濃度(未反応の(メタ)アクリル酸)、保管温度、保管時間などに影響される。
【0085】
最終製品のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート中におけるカルボン酸(無水物)の濃度は、0.40重量%以下が好ましく、0.01〜0.40重量%の範囲内がより好ましく、0.01〜0.30重量%の範囲内が更に好ましく、0.01〜0.15重量%の範囲内が特に好ましい。また、保管温度としては、10〜40℃の範囲内が好ましく、10〜30℃の範囲内がより好ましく、10〜20℃の範囲内が更に好ましい。保管時間は、重合後のポリマーの品質に影響しない範囲内で適宜設定することができる。特に、30〜50℃で1〜3ヶ月の長期間保管する場合には、カルボン酸(無水物)の濃度を0.01〜0.40重量%の範囲内に調製することが好ましい。
【0086】
尚、最終製品のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート中におけるカルボン酸(無水物)の濃度は、蒸留などの精製条件を適宜設定することにより調製することができる。
【0087】
本実施の形態に係るヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法では、アルキレンオキシドと(メタ)アクリル酸とを反応させる反応工程の後に、熟成を行う熟成工程、および/または得られた反応液を蒸留により精製する蒸留工程を行ってもよい。
【0088】
本実施の形態に係るジエステル抑制剤の供給は、反応工程前および/または反応工程中に一括で投入することにより行なってもよいし、反応工程前および/または反応工程中に分割して投入することにより行なってもよい。また反応工程のみならず、熟成工程および/または蒸留工程でも、それぞれ一括投入または分割投入してもかまわない。更には、反応工程では投入せずに、熟成工程および/または蒸留工程のみで投入してもよい。特開平10−237021号公報に記載のように、反応工程、熟成工程および蒸留工程の工程で2以上に分割して投入することがより好ましい。
【0089】
上記蒸留工程は、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの蒸留に一般に用いられている条件下で行うことができる。尚、通常、残存する未反応アルキレンオキシドを減圧下に除去した後で蒸留を行なうことが好ましい。具体的には、1〜10mmHg、より好ましくは2〜7mmHgの圧力下、50〜120℃、より好ましくは60〜100℃の範囲内の温度で蒸留を行なう。
【0090】
蒸留工程の際に、反応時に使用したジエステル抑制剤との合計量が触媒1モル当り0.1〜10モル、より好ましくは0.5〜5モルの範囲となる量のジエステル抑制剤を更に追加添加してもよい。この場合、ジエステル抑制剤は、反応工程で使用したものと同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0091】
本発明に係る上記蒸留残渣は、安定な特定のジエステル抑制剤を含み、また触媒も含んでいるため、リサイクルして使用することが好ましい。つまり、本実施の形態では、上記蒸留工程における蒸留残渣を用いて、蒸留残渣中に含まれる触媒をリサイクルすることがより好ましく、ジエステル抑制剤を該蒸留残渣に溶解させたものを用いることにより本実施の形態に係るジエステル抑制剤の供給を行なうことが更に好ましい。上記蒸留残渣の中には、ジエステル抑制剤が残存して含まれているため、触媒のみならず、ジエステル抑制剤の使用量を減らすことができる。
【0092】
ジエステル抑制剤を蒸留残渣に溶解させたものを用いる場合では、蒸留残渣中には触媒が含まれているため、上述したような従来のジエステル抑制剤のみを用いた場合であっても、反応に使用する前におけるジエステルの生成を抑制できるように思われる。しかしながら、実際には、ジエステル抑制剤の蒸留残渣溶液中におけるジエステル抑制剤の量は、触媒の量に対して過剰であるため、従来のジエステル抑制剤のみを用いた場合では、反応に使用する前におけるジエステルの生成を抑制することができない。触媒に対するジエステル抑制剤の量が過剰とならないように、ジエステル抑制剤を大量の蒸留残渣に溶解させればよいが、大量の蒸留残渣を用いた場合、蒸留残渣中には濃縮された高沸点不純物が存在しており、高沸点不純物は蒸留時に高温となり、熱滞留するため、ビニル基を有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートと重合して配管や装置を閉塞する危険性があり好ましくない。また、大量の蒸留残渣をリサイクルして用いると、1バッチあたりの生産量が低減するため生産効率が悪化するという問題も生じる。従って、ジエステル抑制剤を蒸留残渣に溶解して用いる場合であっても、本実施の形態に係るジエステル抑制剤を用いることにより、従来公知のジエステル抑制剤を用いる場合と比べて、ジエステルの生成をより抑制することができる。
【0093】
上記蒸留残渣としては特には限定されず、例えば、原料化合物である(メタ)アクリル酸をアルキレンオキシドと完全に反応させ、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの留去を行なった後の蒸留残渣を用いてもよいし、(メタ)アクリル酸とアルキレンオキシドとの反応途中の任意の段階で反応を終了させ、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの留去を行なった後の蒸留残渣を用いてもよく、触媒のリサイクル効率や目的生成物の収率などがより向上するように適宜調製すればよい。
【0094】
尚、蒸留残渣においては、目的生成物であるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートが完全に留去されていてもよいし、一部留去されずに残存してもよい。また、各種副生物や原料化合物などのその他の成分は、上記蒸留残渣に残存していてもよいし、目的生成物とともに留去されていてもよい。
【0095】
また、副生物であるアルキレンオキシドの二付加体(ジアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート)を残存させた状態で蒸留残渣を次の反応に用いるようにすれば、次の反応において該二付加体の副生を効果的に抑制することができるため好ましい。
【0096】
上記蒸留残渣は、その全量を次の反応に用いることが好ましいが、特には限定はされず、その一部のみを用いたり、分割して複数の反応に分けて用いてもよい。
【0097】
また、本実施の形態では、上記のように、蒸留残渣を次の反応に使用する場合、反応液中の触媒量に対する反応液中の酸成分の量が、該反応液中の触媒の量に対して、計算上、モル比で0.01以上となる状態を維持することが好ましい。上記モル比は0.03以上であることがより好ましく、0.05以上であることが更に好ましい。上記モル比が0.01未満となると、反応液中の触媒が不活性化してしまい、蒸留残渣を次の反応に用いても、触媒活性が十分に発揮されないおそれがある。尚、上記モル比の値は、モル濃度(モル%)の比、すなわち、反応液中の触媒のモル濃度(モル%)に対する反応液中の酸成分のモル濃度(モル%)の比の値と同じである。
【0098】
上記「反応液中の酸成分の量」とは、反応液中における全ての酸成分の量を意味し、具体的には、原料化合物である(メタ)アクリル酸のほか、反応液中に含まれ得るその他の酸なども含まれる。
【0099】
反応液中での上記モル比を維持するようにするとは、具体的には、少なくとも、触媒を反応液中に供給した時点から、該反応液より得られた蒸留残渣を次の反応に用い、次の反応を実際に開始させるまでの全ての間(以下、維持期間と称する場合がある)、常に上記モル比を維持することを意味する。従って、反応時のみならず、反応を終了させるための冷却時や、目的生成物を留去するまでの待機時や、目的生成物の留去時および留去後の全ての工程において、常に、上記モル比を維持するようにすることが好ましい。
【0100】
ここで、上記「反応液中の触媒の量」とは、上記維持期間内の任意の時点における反応液中に存在している触媒の量を意味する。より具体的には、バッチ反応であれば、所定の時点までに反応液中に供給した触媒の総量を意味し、連続反応であれば、所定の時点(反応器から取り出した後の反応液であれば、反応器から取り出された時点)での反応器内の反応液中の触媒濃度から換算される量を意味する。
【0101】
尚、反応液中の触媒量の算出には、反応に使用されることにより本来有する触媒性能が低下したか、または消失してしまったか否かは勘案せずに行なう。一方、「反応液中の酸成分の量」は、上記任意の時点において、反応器内の反応液中に存在している(メタ)アクリル酸などの酸成分の量を意味する。ここで、(メタ)アクリル酸に関しては、反応の原料化合物であるため、反応の進行とともに消費されることを考慮する必要がある。このため、例えば、上記任意の時点における反応液の一部をサンプリングして中和滴定を行い、反応液中の酸成分の濃度を測定し、この測定値から換算される値を酸成分の量とすることができる。
【0102】
反応液中の上記モル比を維持する手段としては、特には限定されないが、例えば、(i)上記モル比が維持される程度に、原料化合物である(メタ)アクリル酸を反応液中に供給する手段や、(ii)原料化合物である(メタ)アクリル酸より反応性の低い酸などを反応液中に供給する手段や、(iii)反応終了と同時に未反応アルキレンオキシドを反応液より除く手段(例えば、ガスパージや放散など)や、(iv)反応終了間際の反応温度を設定温度より5℃以上低くしたり、反応終了時の冷却時間を短くしたりする手段などが挙げられる。上記(i)や(ii)の手段における供給に関しては、反応の進行とともに反応液中の酸成分の量などを随時管理しながら逐次的に行ってもよい。
【0103】
上記の反応性の低い酸としては、例えば、オクタン酸、イソオクタン酸、デカン酸、ドデカン酸などの、炭素数が6以上の飽和カルボン酸などのカルボン酸が挙げられる。
【0104】
上述した、反応液中の触媒量に対する酸成分の量を調整する方法は、(メタ)アクリル酸とアルキレンオキシドとの反応によるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの従来公知の全ての製造方法に適用することができる。例えば、初期仕込みした(メタ)アクリル酸に対するアルキレンオキシドのモル比が1以上となる条件で行なう製造方法に対しても好ましく適用することができる。この製造方法においては、上記初期仕込み時の(メタ)アクリル酸に対するアルキレンオキシドのモル比が例えば1.4以上である場合、触媒の不活性化が顕著となることが問題となっていた。しかしながら、反応液中の触媒に対する酸成分のモル比を上述した範囲内となるように維持すれば、該問題を容易に解消することができる。これは、上記初期仕込み時の(メタ)アクリル酸に対するアルキレンオキシドのモル比が大きいと、反応途中において、反応液中の触媒に対する酸成分のモル比が上述した範囲を下回ることがあるためと考えられる。
【0105】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0106】
以下、実施例および比較例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0107】
〔製造例1〕
容量1リットルの攪拌機付きSUS−316製オートクレーブに、アクリル酸420g、触媒として酢酸クロム2.10gおよび重合防止剤としてフェノチアジン0.42gを仕込み、オートクレーブの内部を窒素ガスで置換した後、60℃に昇温させ、内圧を0.1MPaとした。そして、オートクレーブの内容物の温度を60℃に保ったままで、酸化エチレンを93g/hで約3時間かけて計280g供給した。酸化エチレンの供給終了後、オートクレーブの内容物の温度を80℃に昇温して、2.8時間反応を継続させ、未反応のアクリル酸を0.10重量%以下とした。その後、得られた反応液(A)を10分間で30℃以下に冷却した。
【0108】
得られた反応液(A)をガスクロマトグラフィー(島津製作所製GC−17A(FID検出器))で分析した結果、各成分の濃度は、ヒドロキシエチルアクリレートが91重量%、ジエチレングリコールモノアクリレートが7.3重量%、エチレングリコールジアクリレート(EGDA)が0.22重量%、未反応酸化エチレンが1.1重量%であった。
【0109】
〔実施例1〕
容量200mLのガラス製褐色容器に、エチレングリコールジアクリレートを0.20重量%含む精製ヒドロキシエチルアクリレート((株)日本触媒製)を85g入れ、更にマレイン酸ジエチルエステル15gを添加した溶液(B)を作成した。この溶液(B)を、30℃に調整した恒温機で1ヶ月間保管した。保管後の溶液(B)中のエチレングリコールジアクリレートは0.22重量%であった。
【0110】
上記1ヶ月保管後の溶液(B)1.3gと、製造例1で得られた反応液(A)100gとの混合液(C)を容量200mLのガラス製褐色容器に入れ、60℃に調整したオイルバスに1時間浸した。1時間浸した後の混合液(C)中のエチレングリコールジアクリレートの濃度は0.22重量%であった。これらの結果を表1に示す。
【0111】
〔実施例2〕
マレイン酸ジエチルエステルの替わりにフタル酸モノエチルエステルを使用したこと以外は実施例1と同様の操作を行なった。その結果、保管後の溶液(B)中のエチレングリコールジアクリレートは0.56重量%であり、1時間浸した後の混合液(C)中のエチレングリコールジアクリレートの濃度は0.22重量%であった。これらの結果を表1に示す。
【0112】
〔実施例3〕
マレイン酸ジエチルエステルの替わりに安息香酸−2−ヒドロキシ−2’−ヒドロキシエチルエステルを使用したこと以外は実施例1と同様の操作を行なった。その結果、保管後の溶液(B)中のエチレングリコールジアクリレートは0.25重量%であり、1時間浸した後の混合液(C)中のエチレングリコールジアクリレートの濃度は0.22重量%であった。これらの結果を表1に示す。
【0113】
〔比較例1〕
マレイン酸ジエチルエステルを使用しないこと以外は実施例1と同様の操作を行なった。その結果、保管後の溶液(B)中のエチレングリコールジアクリレートは0.21重量%であり、1時間浸した後の混合液(C)中のエチレングリコールジアクリレートの濃度は0.31重量%であった。これらの結果を表1に示す。
【0114】
〔比較例2〕
マレイン酸ジエチルエステルの替わりにマレイン酸を使用したこと以外は実施例1と同様の操作を行なった。その結果、保管後の溶液(B)中のエチレングリコールジアクリレートは1.6重量%であり、1時間浸した後の混合液(C)中のエチレングリコールジアクリレートの濃度は0.25重量%であった。これらの結果を表1に示す。
【0115】
〔比較例3〕
マレイン酸ジエチルエステルの替わりにフタル酸を使用したこと以外は実施例1と同様の操作を行なった。その結果、保管後の溶液(B)中のエチレングリコールジアクリレートは1.4重量%であり、1時間浸した後の混合液(C)中のエチレングリコールジアクリレートの濃度は0.25重量%であった。これらの結果を表1に示す。
【0116】
〔比較例4〕
マレイン酸ジエチルエステルの替わりに2−ヒドロキシ安息香酸を使用したこと以外は実施例1と同様の操作を行なった。その結果、保管後の溶液(B)中のエチレングリコールジアクリレートは1.1重量%であり、1時間浸した後の混合液(C)中のエチレングリコールジアクリレートの濃度は0.24重量%であった。これらの結果を表1に示す。
【0117】
【表1】

【0118】
〔実施例4〕
実施例3で得られた、安息香酸−2−ヒドロキシ−2’−ヒドロキシエチルエステルを添加して1ヶ月間保管した溶液(B)6.5gと、製造例1で得られた反応液(A)500gとを、真空蒸留装置にセットされた容量1Lのガラス製丸底フラスコに入れた。次に、真空度4〜10hPaに減圧し、空気を3ml/minでバブリングしながら、内温40〜50℃の範囲内で30分間未反応酸化エチレンを放散した。
【0119】
その後、真空度4hPaに減圧し、内温50〜90℃の範囲内で3時間蒸留を行なうことにより精製し、ヒドロキシエチルアクリレートを450g得た。得られたヒドロキシエチルアクリレート中のエチレングリコールジアクリレートの濃度は0.22重量%であった。
【0120】
〔比較例5〕
安息香酸−2−ヒドロキシ−2’−ヒドロキシエチルエステルを添加して1ヶ月間保管した溶液(B)の替わりに、比較例1で得られた、1ヶ月間保管した溶液(B)を用いたこと以外は実施例4と同様の操作を行い、ヒドロキシエチルアクリレートを得た。得られたヒドロキシエチルアクリレート中のエチレングリコールジアクリレートの濃度は0.41重量%であった。
【0121】
〔比較例6〕
安息香酸−2−ヒドロキシ−2’−ヒドロキシエチルエステルを添加して1ヶ月間保管した溶液(B)の替わりに、比較例4で得られた、2−ヒドロキシ安息香酸を添加して1ヶ月間保管した溶液(B)を用いたこと以外は実施例4と同様の操作を行い、ヒドロキシエチルアクリレートを得た。得られたヒドロキシエチルアクリレート中のエチレングリコールジアクリレートの濃度は0.24重量%であった。
【0122】
〔実施例5〕
オートクレーブの内部を窒素ガスで置換する前に、容量1リットルの攪拌機付きSUS−316製オートクレーブに、実施例3で得られた、安息香酸−2−ヒドロキシ−2’−ヒドロキシエチルエステルを添加して1ヶ月間保管した溶液(B)9.1gを更に仕込んだこと以外は、製造例1と同様の操作を行い、反応液(A)を得た。
【0123】
得られた反応液(A)をガスクロマトグラフィー(島津製作所製GC−17A(FID検出器))で分析した結果、各成分の濃度は、ヒドロキシエチルアクリレートが91重量%、ジエチレングリコールモノアクリレートが7.3重量%、エチレングリコールジアクリレート(EGDA)が0.20重量%、未反応酸化エチレンが1.1重量%であった。
【0124】
そして、得られた上記反応液(A)500gを、真空蒸留装置にセットされた容量1Lのガラス製丸底フラスコに入れ、真空度4〜10hPaに減圧し、空気を3ml/minでバブリングしながら、内温40〜50℃の範囲内で30分間未反応酸化エチレンを放散した。
【0125】
その後、真空度4hPaに減圧し、内温50〜90℃の範囲内で3時間蒸留を行なうことにより精製し、450gのヒドロキシエチルアクリレートと44gの蒸留残渣とを得た。得られたヒドロキシエチルアクリレート中のエチレングリコールジアクリレートの濃度は0.21重量%であった。
【0126】
〔実施例6〕
実施例5の蒸留操作により得られた蒸留残渣をリサイクル使用してヒドロキシエチルアクリレートを製造した。具体的には、容量1リットルの攪拌機付きSUS−316製オートクレーブに、実施例5の蒸留操作により得られた蒸留残渣31.5g(計算上、実施例3で得られた、安息香酸−2−ヒドロキシ−2’−ヒドロキシエチルエステルを添加して1ヶ月間保管した溶液(B)4.5g、酢酸クロム1.05gおよびフェノチアジン0.21gを含有)、実施例3で得られた、安息香酸−2−ヒドロキシ−2’−ヒドロキシエチルエステルを添加して1ヶ月間保管した溶液(B)4.6g、アクリル酸401g、触媒として酢酸クロム1.05gおよび重合防止剤としてフェノチアジン0.21gを仕込み、オートクレーブの内部を窒素ガスで置換した後、60℃に昇温させ、内圧を0.1MPaとした。そして、オートクレーブの内容物の温度を60℃に保ったままで、酸化エチレンを89g/hで約3時間かけて計267g供給した。酸化エチレンの供給終了後、オートクレーブの内容物の温度を80℃に昇温して、3.0時間反応を継続させ、未反応のアクリル酸を0.10重量%以下とした。その後、10分間で得られた反応液(A)を30℃以下に冷却した。
【0127】
得られた反応液(A)をガスクロマトグラフィー(島津製作所製GC−17A(FID検出器))で分析した結果、エチレングリコールジアクリレート(EGDA)の濃度は0.21重量%、未反応酸化エチレン濃度は1.0重量%であった。
【0128】
そして、得られた上記反応液(A)500gを、真空蒸留装置にセットされた容量1Lのガラス製丸底フラスコに入れ、真空度4〜10hPaに減圧し、空気を3ml/minでバブリングしながら、内温40〜50℃の範囲内で30分間未反応酸化エチレンを放散した。
【0129】
その後、真空度4hPaに減圧し、内温50〜90℃の範囲内で3時間蒸留を行なうことにより精製し、450gのヒドロキシエチルアクリレートを得た。得られたヒドロキシエチルアクリレート中のエチレングリコールジアクリレートの濃度は0.22重量%であった。
【0130】
〔実施例7〕
エチレングリコールジアクリレートを0.20重量%含む精製ヒドロキシエチルアクリレート((株)日本触媒製)の量を85gから92gに変更し、マレイン酸ジエチルエステルの添加量を15gから8gに変更したこと以外は、実施例3と同様の操作を行なった。その結果、実施例3の結果と同様に、保管後の溶液(B)中のエチレングリコールジアクリレートは0.25重量%(初期のジエステル量:0.20重量%)であり、1時間浸した後の混合液(C)中のエチレングリコールジアクリレートの濃度は0.22重量%(初期のジエステル量:0.22重量%)であった。
【0131】
この若干濃度の低い(実施例3と比べ、有効ジエステル抑制剤含有量が約半分)、1ヶ月間保管した上記溶液(B)を使用し、ジエステル抑制剤の使用量が実施例6と同等になるように、配合量を調整したこと以外は実施例6と同様の操作を行い、ヒドロキシエチルアクリレートを得た。得られたヒドロキシエチルアクリレート中のエチレングリコールジアクリレートの濃度は0.22重量%であった。
【0132】
表1に示すように、本発明に係るジエステル抑制剤を用いた実施例1〜3は、従来用いられているジエステル抑制剤を用いた比較例2〜4と比べて、精製ヒドロキシエチルアクリレートに溶解して長期間保存した場合におけるジエステル(エチレングリコールジアクリレート)の生成量が少ない。このため、反応液(A)に添加し加熱した場合におけるジエステルの生成量が少ない。
【0133】
また、ジエステル抑制剤を用いていない比較例1は、精製ヒドロキシエチルアクリレートに溶解して長期間保存した場合におけるジエステルの生成量が少ないが、反応液(A)に添加し加熱した場合におけるジエステルの生成量は、実施例1〜3および比較例2〜4と比べて多い。
【0134】
実施例1〜3では、60℃1時間の加熱でジエステルの含有量は増加していない。これに対して比較例2〜4では、60℃1時間の加熱であっても0.02〜0.03重量%もジエステルの含有量は増加しており、反応液(A)に含まれるジエステルの含有量である0.22重量%をベースにすると9〜14%もジエステルが増加していることになる。ヒドロキシエチルアクリレートなどの(メタ)アクリル酸エステルは、モノマーとして一般的に用いられるため、僅か0.02〜0.03重量%の差であっても、重合後のポリマーの製品品質に対する影響が大きい。つまり、上記ジエステルは、1分子中に二重結合を2つ有するため、架橋剤として作用し、僅かな含有量の差であっても得られるポリマーの重量平均分子量(Mw)や数平均分子量(Mn)やMw/Mnで示される分子量分布などの物性が大きく変化する場合がある。よって、得られるポリマーの製品品質に影響を与えてしまう場合もある。よって、本件技術は、当該ヒドロキシ(メタ)アクリレートの製品の品質として、これらのジエステルなどの副生物の量を制御するための一つの手法として非常に有効となる。
【0135】
このように、本発明に係る特定のジエステル抑制剤のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート希釈混合組成物の物性(例えば、ジエステル副生の程度や度合い)は、その熱安定性により評価することができる。上記物性は、例えば、表1における混合液(C)の60℃1時間加熱経過後の熱安定性から評価することができる。本発明に係る特定のジエステル抑制剤と、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとを含む組成物(混合液(C))(実施例1〜3)では、60℃1時間加熱後のジエステル増加量(希釈溶液として使用したヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートに存在するジエステルを基準)が実質的に0%であり、初期に比べてジエステルは増加していない。一方、比較例では表1に示すようにジエステル増加量(%)((60℃1時間加熱後のジエステル量−初期のジエステル量)/初期のジエステル量、で示す増加率(%)、熱安定性評価におけるジエステル増加率ともいう)が比較例1では41%、比較例2,3では14%、比較例4では9%であった。
【0136】
よって、本発明における当該ジエステル抑制剤の希釈混合組成物の熱安定性評価におけるジエステル増加量(率)%は、好ましくは7%以下であり、より好ましくは5%以下であり、更に好ましくは3%以下であり、更に好ましくは1%以下であり、特に好ましくは0.5%以下であり、最も好ましくは実質的に増加しない形態である。
【0137】
また、30℃1ヶ月の保管条件では、本発明に係る特定のジエステル抑制剤とヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとを含む組成物(溶液(B))の安定性(ジエステル副生の程度)は、下記式
ジエステル増加係数=(1ヶ月経過後のジエステル量−初期のジエステル量)/(初期のジエステル量)
によりジエステル増加係数として求めることができ、実施例1では0.1、実施例2では1.8、実施例3では0.25である。比較例2では7.0、比較例3では6.0、比較例4では4.5である。よって、初期に含有するジエステル量を基準とした30℃1ヶ月の保管後のジエステル増加係数は、3.0以下が好ましく、より好ましくは2.0以下であり、更に好ましくは1.0以下である。
【0138】
このように、本発明に係る、特定のジエステル抑制剤のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート希釈液は、従来のジエステル抑制剤を含む同様の希釈液と比較して、格段にその安定性が向上している。また、上記のように、特定のジエステル抑制剤のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの希釈液組成物の特徴を、ジエステル増加量などの指標で評価することは好ましい形態である。
【0139】
一般に、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを合成する場合、反応終了時の近くでヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの不均化反応が起こり易く、アルキレングリコールとともにジエステルが副生する。つまり、実施例1〜3および比較例1〜4で行なった、反応液(A)に添加し加熱した場合におけるジエステルの生成量によって、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造時におけるジエステルの生成量を推定することができる。
【0140】
実際に、実施例4に示すように、ジエステル抑制剤を用いて蒸留を行なった場合では、ジエステル抑制剤を用いずに蒸留を行なった場合(比較例5)並びに本発明に係るジエステル抑制剤の替わりに2−ヒドロキシ安息香酸を用いて蒸留を行なった場合(比較例6)と比較して、得られたヒドロキシエチルアクリレート中のエチレングリコールジアクリレートの濃度は低かった。
【0141】
また、ジエステル抑制剤を反応開始前に添加して反応を行なった場合でも、実施例5に示すように、得られたヒドロキシエチルアクリレート中のエチレングリコールジアクリレートの濃度は低かった。更には、実施例6、7に示すように、蒸留残渣をリサイクル使用して反応を行なっても、得られたヒドロキシエチルアクリレート中のエチレングリコールジアクリレートの濃度は実施例5とほぼ同様であった。
【0142】
以上の結果から、本発明に係るジエステル抑制剤を用いて、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを製造することにより、ジエステル抑制剤をヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートに溶解して長期間保存した場合であっても、ジエステルの生成量が少ないヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを製造することができることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0143】
本発明のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法は、上記一般式(1)で表される構造を有する化合物を含むジエステル抑制剤を用いる。よって、ジエステルの生成を抑制し、効率良くヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを製造することができる。このため、様々な種類のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキレンオキシドと(メタ)アクリル酸とを反応させるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法であって、下記一般式(1)
Y−COOR …(1)
(式中、Rはアルキル基またはヒドロキシアルキル基であり、Yは水酸基、COOR基または(X)−Rで表される、Xがn個置換した炭化水素基であり、Rは水素原子、アルキル基またはヒドロキシアルキル基であり、Rは飽和若しくは不飽和の鎖状炭化水素基または飽和若しくは不飽和の環状炭化水素基であり、nは1〜10の整数であり、Xは水酸基またはCOOR基(但し、nが2以上の場合は、2以上のXは全て同じ置換基である必要はなく、それぞれ独立に、水酸基またはCOOR基であってもよい)である)
で表される構造を有する化合物を含むジエステル抑制剤を用いることを特徴とするヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法。
【請求項2】
一般式(1)で表される構造を有する上記化合物におけるYが、水酸基、COOR基、または(X)−Rで表される、Xがn個置換した炭化水素基であり、
XとCOOR基との間の最小炭素数が1〜4の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法。
【請求項3】
一般式(1)で表される構造を有する上記化合物におけるRが、ヒドロキシアルキル基であることを特徴とする請求項1または2に記載のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法。
【請求項4】
一般式(1)で表される構造を有する上記化合物が、多価カルボン酸および/またはヒドロキシ酸の少なくとも1つのカルボキシル基が、アルキルエステル化若しくはヒドロキシアルキルエステル化された化合物であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法。
【請求項5】
上記ジエステル抑制剤を、一般式(1)で表される構造を有する上記化合物のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート溶液として用いることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法。
【請求項6】
上記ジエステル抑制剤は、カルボン酸、該カルボン酸の無水物、多価アルコールおよび金属キレート剤からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の化合物を更に含むことを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法。

【公開番号】特開2008−37793(P2008−37793A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−213687(P2006−213687)
【出願日】平成18年8月4日(2006.8.4)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】