説明

ヒドロキシエチルセルロースの製造方法

【課題】工業的にも簡便でかつ効率的なヒドロキシエチルセルロースの製造方法を提供すること。
【解決手段】低結晶性の粉末セルロースを、塩基存在下、エチレンクロロヒドリンと反応させる、ヒドロキシエチルセルロースの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロキシエチルセルロースの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースエーテル誘導体、特にヒドロキシエチルセルロースは、塗料、化粧品、建材、増粘剤、接着剤、医薬品等における分散剤、安定化剤等の配合組成物として、また他のセルロースエーテル誘導体の出発原料に用いられ、その広範な用途から多くの製造方法が報告されている(例えば特許文献1及び2参照)。
【0003】
その一般的な製造方法においては、セルロースにエーテル化剤であるエチレンオキシドを直接作用させるのではなく、まずセルロースに大量の水および大過剰の水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物をスラリー状態で混合してアルカリセルロースとする、いわゆるアルセル化またはマーセル化と呼ばれる極めて煩雑なセルロースの活性化処理が必要となる。このアルセル化工程では、アルセル化処理で調製したアルカリセルロースから過剰のアルカリや水を除くため、ろ過または圧搾といった操作が必要となる。
しかしながら、このろ過や圧搾操作を行っても、通常アルカリセルロース中には、これと同重量以上の水が残存している。また、このアルセル化処理により得られるアルカリセルロースは、セルロース分子中の大部分の水酸基がアルコラートとなっていると考えられており、実際にセルロース分子中のグルコース単位当たり、通常3モル量程度、少なくとも1モル量以上のアルカリが含有されている。
このアルセル化により活性化したセルロースへエーテル化剤を添加することでセルロースエーテルが得られるが、前述したアルセル化処理後に残存する同重量以上の水もまたエーテル化剤であるエチレンオキシドと反応(水和)するため、エチレングリコール等の副生物が大量に生じることになる。
また反応はスラリー状態で行われるためセルロースへのエチレンオキシドの反応率が低く、したがってセルロース上への反応率を上げるためにはエチレンオキシドを過剰に用いる必要があるが、副生したエチレングリコールは更にエーテル化剤であるエチレンオキシドと容易に反応するため、ポリオキシエチレンが大量に副生することになる。更に過剰なアルカリや多量の水の存在は、生成物や大量の副生物の増加にともなって反応系をゲル化させる恐れがある。
【0004】
そこで、このスラリー状態での反応をより効率良く行うため、溶媒として、水だけでなく、各種極性溶媒が添加されることもある。例えば、上記特許文献1及び2には、アルセル化およびエーテル化剤との反応の際に、tert−ブタノールやメチルイソブチルケトン等の水とは容易に相溶しない極性溶媒を添加し、反応後に溶媒を水相と分離・回収する方法が開示されている。しかしながらアルカリ量および水量を大幅に減らすことが出来ない限り、エチレングリコール等の副生物を大幅に低減することは、実質的には困難である。
またエーテル化剤であるエチレンオキシドは高圧ガス保安規則の規制を受けるため、工業的な観点からは設備的な制約が多い。
したがって、簡便でかつ効率の良い廃棄物の少ないヒドロキシエチルセルロース製造方法を開発することは、工業的な観点から極めて有用な課題である。
【0005】
【特許文献1】特開平8−245701号公報
【特許文献2】特開平6−199902号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、工業的にも簡便でかつ効率的なヒドロキシエチルセルロースの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、結晶化度を低下させた粉末セルロースを用いることにより、セルロースとエチレンクロロヒドリンの反応が良好かつ選択的に進行することを見出した。
すなわち、本発明は、低結晶性の粉末セルロースを、塩基存在下、エチレンクロロヒドリンと反応させる、ヒドロキシエチルセルロースの製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、工業的にも簡便でかつ効率的なヒドロキシエチルセルロースの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
〔低結晶性の粉末セルロースの調製〕
一般にセルロースは幾つかの結晶構造が知られており、また一部に存在するアモルファス部と結晶部との割合から結晶化度として定義されるが、本発明における「結晶化度」とは、天然セルロースの結晶構造に由来するI型の結晶化度を示し、粉末X線結晶回折スペクトルから求められる下記計算式(1)で表される結晶化度によって定義される。
結晶化度(%)=〔(I22.6−I18.5)/I22.6〕×100 ・・・計算式(1)
〔I22.6は、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度、及びI18.5は、アモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折強度を示す〕
また、本発明における低結晶性の粉末セルロースの「低結晶性」とは、上記のセルロースの結晶構造においてアモルファス部の割合が多い状態を示し、好ましくは上記計算式(1)から得られる結晶化度が50%以下となることが望ましい。
一般的に知られている粉末セルロースにも極めて少量のアモルファス部が存在するため、それらの結晶化度は、本発明で用いる上記計算式(1)によれば、概ね60〜80%の範囲に含まれる、いわゆる結晶性のセルロースであり、セルロースエーテル合成における反応性は極めて低い。
【0010】
本発明で用いる低結晶性の粉末セルロースは、汎用原料として得られるシート状やロール状のセルロース純度の高いパルプから極めて簡便に調製することができる。低結晶性の粉末セルロースを調製する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、特開昭62−236801号公報、特開2003−64184号公報、特開2004−331918号公報等に記載の調製方法を挙げることができる。
【0011】
また、例えば、シート状パルプを粗粉砕して得られるチップ状パルプを、押出機で処理して、更にボールミルで処理することにより調製するような方法も挙げることができる。
この方法に用いられる押出機としては、単軸又は二軸の押出機を用いることができ、強い圧縮せん断力を加える観点から、スクリューのいずれかの部分に、いわゆるニーディングディスク部を備えるものであってもよい。押出機を用いる処理方法としては、特に制限はないが、チップ状パルプを押出機に投入し、連続的に処理する方法が好ましい。
また、ボールミルとしては、公知の振動ボールミル、媒体攪拌ミル、転動ボールミル、遊星ボールミル等を用いることができる。媒体として用いるボールの材質に特に制限はなく、例えば、鉄、ステンレス、アルミナ、ジルコニア等が挙げられる。ボールの外径は、効率的にセルロースを非晶化させる観点から、好ましくは0.1〜100mmである。また媒体としては、ボール以外にもロッド状のものやチューブ状のものも用いることが可能である。
ボールミルの処理時間としては、結晶化度を低下させる観点から、好ましくは5分〜72時間である。またこの処理の際には、発生する熱による変性や劣化を最小限に抑えるためにも、250℃以下、好ましくは5〜200℃の範囲で処理を行うことが好ましく、さらには必要に応じて、窒素等の不活性ガス雰囲気下で行うことができる。
前述のような方法を用いれば、分子量の制御も可能であり、一般には入手困難な、重合度が高く、かつ低結晶性の粉末セルロースを容易に調製することが可能であるが、好ましい重合度としては、100〜2000であり、より好ましくは100〜1000である。
【0012】
本発明に用いる低結晶性の粉末セルロースの結晶化度は、好ましくは前記計算式(1)から求められる結晶化度が50%以下である。この結晶化度が50%以下であれば、エチレンクロロヒドリンとの反応は極めて良好に進行する。この観点から、40%以下がより好ましく、30%以下が更に好ましい。特に、本発明において、完全に非晶質化した、すなわち前記計算式(1)から求められる結晶化度がほぼ0%となる非晶化セルロースを用いることが最も好ましい。
この低結晶性の粉末セルロースの平均粒径は、粉体として流動性の良い状態が保てるならば特に限定されないが、300μm以下が好ましく、150μm以下がより好ましく、50μm以下が特に好ましい。なお、この平均粒径は、工業実施化の観点から、通常20μm以上であるが、25μm以上が好ましい。しかしながら、凝集等による微量な粗大粒子の混入を避けるため、反応には必要に応じて25〜100μm程度の篩を用いた篩下品を用いるのが好ましい。
【0013】
〔ヒドロキシエチルセルロースの製造〕
本発明において、上記で得られた低結晶性の粉末セルロースに、塩基存在下、エチレンクロロヒドリンと反応させて、ヒドロキシエチルセルロースを得ることができる。
本発明において、ヒドロキシエチル基のセルロース中のグルコース単位当たりの置換度として、エチレンクロロヒドリンの使用量に応じて、所望の置換度とすることが可能であるが、置換度としては、好ましくは0.01〜3であり、より好ましくは0.1〜2.5である。
【0014】
本発明において、エチレンクロロヒドリンのセルロースへの反応効率が非常に高いことから、エチレンクロロヒドリンの使用量に応じて望ましい置換度のヒドロキシエチルセルロースを得ることが可能である。すなわちエチレンクロロヒドリンの使用量としては、セルロース分子中のグルコース単位当たり0.01〜3モル倍に相当する量を用いるのが好ましく、更には0.1〜2.5モル倍に相当する量を用いるのが好ましい。
エチレンクロロヒドリンを、セルロース分子中のグルコース単位当たり3モル倍以上用いれば、セルロース上にポリオキシエチレン基を導入することも可能であるが、その場合には、使用する塩基量やそれに伴う水量が増えるために、反応時に粉末状態を保てずに反応系がゲル化状態になる恐れがある。したがって、高付加モル数のポリオキシエチレン基を導入する場合には、初めにセルロース分子中のグルコース単位当たり3モル倍以下のエチレンクロロヒドリンを付加させた後、洗浄により生成した塩の除去および脱水を行い、再度塩基を加えてエチレンクロロヒドリンの付加を行うことが好ましい。
【0015】
本発明で用いる塩基としては、特に制限はないが、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物、トリメチルアミンやトリエチルアミン、トリエチレンジアミン等の3級アミン類等が挙げられる。特にアルカリ金属水酸化物が好ましく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが最も好ましい。これらの塩基は、1種又は2種以上を組み合わせて用いることも可能である。
【0016】
塩基の添加方法としては、高濃度水溶液を添加するか、希薄溶液を添加した後に余分な水分量を除去してから反応させることが可能であるが、いずれの場合にも、反応状態としてはスラリー状や粘度の高い状態にならずに流動性のある粉末状態を保つことが好ましく、そのため希薄水溶液で添加する際の水分量としても、低結晶性の粉末セルロースに対して100重量%以下となるように調整するのが好ましい。
塩基の使用量としては、エチレンクロロヒドリンの使用量に相当するモル量を用いる必要があり、すなわちセルロース分子中のグルコース単位当たりではエチレンクロロヒドリンの使用量と等しく0.01〜3モル倍に相当する量を用いるのが好ましく、更には0.1〜2.5モル倍に相当する量を用いるのが好ましい。
【0017】
本発明におけるセルロースとエチレンクロロヒドリンとの反応は、前述したように粉末状態を保ちながら行うことが好ましいが、水以外の溶媒を用いた分散状態で行うことも可能である。このうち、非水極性溶媒としては、一般にアルセル化処理の際に用いられるようなイソプロパノール、tert-ブタノール等の2級又は3級の低級アルコール;1,4−ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のジグライム、トリグライム等のエーテル系溶媒;ジメチルスルホキシド等の親水性極性溶媒が挙げられる。一方、トルエン、ベンゼン、ヘキサンや他の炭化水素油といった非水低極性または非極性溶媒を用いた分散状態で反応を行うことも可能である。これら溶媒は、セルロースを溶解させる必要はないが、溶媒中でも凝集を起こさずに良好に分散できるだけの量を用いる必要がある。しかしながら多量に用いるとアルカリ等の塩基が希釈されて反応速度が低下する可能性がある。したがって、非水溶媒の使用量としては、低結晶性の粉末セルロースに対して10重量倍以下にするのが好ましい。
【0018】
本発明におけるエチレンクロロヒドリンの添加方法としては、特に制限はないが、例えば(a)セルロースへ塩基を添加した後にエチレンクロロヒドリンを徐々に滴下する方法や、(b)セルロースにエチレンクロロヒドリンを一括で添加し、その後に塩基を加えて反応させる方法が挙げられる。いずれの方法においても、反応系内の低結晶性の粉末セルロースに対する水分含有量が100重量%以下であることが好ましい。該セルロースに対する水分含有量が前記範囲内であれば、該セルロースが過度に凝集することなく、流動性のある粉末状態で反応させることができる。この観点から、80重量%以下がより好ましく、5〜50重量%が最も好ましい。
【0019】
本発明ではエチレンクロロヒドリンのセルロースへの反応選択率が極めて高いことから、エチレンクロロヒドリンに由来する副生成物が極めて少なく、所望の置換度でヒドロキシエチル化を行うことができ、反応終了後の精製も容易となる。
【0020】
本発明においては、低結晶性の粉末セルロース、塩基及びエチレンクロロヒドリンを流動性のある粉末状態で反応させることが好ましいが、粉末セルロースと塩基又はエチレンクロロヒドリンを予めミキサー等の混合機や振とう機で必要に応じて均一に混合させた後に、エチレンクロロヒドリン又は塩基を反応させることも可能である。
本発明で使用できる反応装置としては、低結晶性の粉末セルロース、塩基及びエチレンクロロヒドリンをできる限り均一に混合出来るものが好ましく、前述したミキサー等の混合機の他、特開2002-114801号公報明細書段落〔0016〕で開示しているような、樹脂等の混錬に用いられる、いわゆるニーダー等の混合機が最も好ましい。
【0021】
本発明における反応温度は、0〜100℃の範囲が好ましいが、エチレンクロロヒドリンの沸点以下の温度がより好ましく、具体的には10〜80℃の範囲がより好ましい。
また、本発明における反応は、常圧下で行うことが好ましいが、反応時の着色を避ける観点から、必要に応じて窒素等の不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましい。
反応終了後は、微量の未反応エチレンクロロヒドリンや副生した中和塩を除去するために、必要に応じて、含水イソプロパノール、含水アセトン溶媒等で洗浄等を行った後、乾燥することにより、ヒドロキシエチルセルロースを得ることができる。また、例えば、反応終了後に洗浄による中和塩除去等の精製処理をせずに、必要に応じて塩基等を(触媒量)添加した後、グリシジルトリメチルアンモニウムクロリドを反応させてカチオン化ヒドロキシエチルセルロースを合成する等の、更なる誘導体化が可能である。すなわち、ヒドロキシエチルセルロースを出発原料とする種々のセルロースエーテル誘導体が、セルロースからワンポットで合成することが可能である。
【0022】
本発明において、ヒドロキシエチル基は、セルロース分子中のグルコース単位におけるいかなる位置の水酸基に結合していてもよいが、グルコース単位当たり所望の置換度に調整することが可能である。このことから、ヒドロキシエチルセルロースは、塗料、化粧品、建材、増粘剤、接着剤、医薬品等における分散剤、安定化剤等の配合成分として、また他のセルロースエーテル誘導体の出発原料として広範に利用することができる。
【実施例】
【0023】
(1)セルロースに対する水分含有量
セルロースに対する水分含有量の測定は、赤外線水分計として、株式会社ケット科学研究所製「FD−610」を使用し、150℃にて行った。
本発明における最適なセルロースの水分含有量を確認するため、後述する製造例1で得られた非晶化セルロースに所定量の水を添加した後、激しく攪拌・振とうさせ、目視によりその凝集状態を繰り返し観察した。
その結果、製造した低結晶性の粉末セルロースには少なくとも5重量%の水分が含まれているが、セルロースを流動性のある粉末状態で反応させるためには、含水量として100重量%以下とするのが好適であり、80重量%以下とするのがより好ましく、50重量%以下とするのが最も好ましく、更には30重量%以下とするのが特に好ましいと判断した。
【0024】
(2)結晶化度の算出
セルロースの結晶化度の算出は、株式会社リガク製「Rigaku RINT 2500VC X-RAY diffractometer」を用いて以下の条件で測定した回折スペクトルのピーク強度から前記計算式に従って行った。
X線源:Cu/Kα−radiation,管電圧:40kv,管電流:120mA,測定範囲:2θ=5〜45°,測定用サンプル:面積320mm2×厚さ1mmのペレットを圧縮し作製,X線のスキャンスピード:10°/min
(3)粉末セルロースの重合度の測定
粉末セルロースの重合度は、ISO−4312法に記載の銅アンモニア法により測定した。
(4)置換度の算出
ヒドロキシエチル基としての置換度は、セルロース中のグルコース単位当たりのヒドロキシエチル基の平均導入量を示し、Macromol.Biosci., 5, 58(2005)に記載されている方法を利用し、生成物へのアセチル化体の各種NMRスペクトルから確認を行った。
(5)粉末セルロースの平均粒径の測定
粉末セルロースの平均粒径は、株式会社堀場製作所製レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置「LA−920」を用いて測定した。
【0025】
製造例1(非晶化粉末セルロースの製造)
木材パルプシート(ボレガード社製パルプシート、結晶化度74%)をシュレッダー(株式会社明光商会製、「MSX2000−IVP440F」)にかけてチップ状にした。
次に、得られたチップ状パルプを二軸押出機(株式会社スエヒロEPM製、「EA−20」)に2kg/hrで投入し、せん断速度660sec-1、スクリュー回転数300rpm、外部から冷却水を流しながら、1パス処理して粉末状にした。
次に、得られた粉末セルロースを、バッチ式媒体攪拌ミル(五十嵐機械社製「サンドグラインダー」:容器容積800mL、5mmφジルコニアビーズを720g充填、充填率25%、攪拌翼径70mm)に投入した。容器ジャケットに冷却水を通しながら、攪拌回転数2000rpm、温度30〜70℃の範囲で、2.5時間粉砕処理を行い、粉末セルロース(結晶化度0%、重合度600、平均粒径40μm)を得た。この粉末セルロースの反応には更に32μm目開きの篩をかけた篩下品(投入量の90%)を使用した。
なお、各結晶化度の異なる粉末セルロースは、ボールミル処理における処理時間を変えることで調製した。
【0026】
実施例1
1Lニーダー(株式会社入江商会製、PNV―1型)に、前記製造例1で得られた非晶化セルロース(結晶化度 0%、重合度 600)100g及び48%水酸化ナトリウム水溶液51g(NaOH量 0.61mol)を加え、窒素雰囲気下1時間攪拌した。その後エチレンクロロヒドリン70g(0.87mol,和光純薬工業株式会社製、特級試薬「2−クロロエタノール」)を3時間で滴下した後、室温で20時間攪拌した。反応中、セルロースは流動性のある粉末状態を保っていた。その後反応系のpHを確認したところ、pH7.0の完全に中性を示したため、そのまま未反応のエチレンクロロヒドリンを減圧下留去した。生成物を1Lニーダーより取り出し、含水イソプロパノール(含水量15%)及びアセトンで洗浄後、減圧下乾燥して、ヒドロキシエチルセルロースを126g(理論量127g)の白色固体として得た。ヒドロキシエチル基としての置換度は、セルロース分子中のグルコース単位当たり1.0となり、反応は良好に進行していた。
【0027】
実施例2
前記1Lニーダー中に、製造例1で得られた非晶化セルロース(結晶化度 0%、重合度600)100g及び48%水酸化ナトリウム水溶液45g(NaOH量0.54mol)を加え、窒素雰囲気下1時間攪拌した。その後、前記エチレンクロロヒドリン35g(0.44mol)を3時間で滴下した後、そのまま室温で18時間攪拌したところ、NMR分析による原料エチレンクロロヒドリンの残存率はわずか6%であった。酢酸で中和し、生成物をニーダーから取り出した後、含水イソプロパノール(含水量15%)およびアセトンで洗浄し、減圧下乾燥して、ヒドロキシエチルセルロースを118g(理論量126g)の白色固体として得た。ヒドロキシエチル基としての置換度はグルコース単位当たり0.71となり、反応は良好に進行していた。
【0028】
実施例3
3L四つ口フラスコ中に、製造例1で得られた非晶化セルロース(結晶化度 0%、重合度600)100g及び48%水酸化ナトリウム水溶液51g(NaOH量 0.61mol)を加え、800mLのジメチルスルホキシド(非晶化セルロースの9重量部)を加えて分散させた。室温で1時間攪拌後、エチレンクロロヒドリン70g(0.87mol)を1時間で滴下し、そのまま室温で22時間攪拌した。酢酸で中和し、未反応のエチレンクロロヒドリン及びジメチルスルホキシドを留去後、生成物をフラスコから取り出し、含水イソプロパノール(含水量15%)及びアセトンで洗浄後、減圧下乾燥して、ヒドロキシエチルセルロースを115gの白色固体として得た。ヒドロキシエチル基としての置換度はグルコース単位当たり0.65となり、反応は良好に進行していた。
【0029】
比較例1
セルロースとして高結晶性の粉末セルロース(日本製紙ケミカル株式会社製セルロースパウダー KCフロック W-50(S);結晶化度 74%、重合度 500)を用い、ジメチルスルホキシドを2L用いる以外は、実施例3と同様にして反応を行った。酢酸で中和し、未反応のエチレンクロロヒドリンおよびジメチルスルホキシドを留去後、生成物をフラスコから取り出し、含水イソプロパノール(含水量15%)およびアセトンで洗浄後、減圧下乾燥して、淡茶白色固体として得られたヒドロキシエチルセルロースは、わずか98gであり、反応後の重量増加は全く見られなかった。またヒドロキシエチル基としての置換度はグルコース単位当たりわずか0.05であった。
【0030】
以上の結果から、実施例1〜3は、比較例1に比べて、所望の置換度を有するヒドロキシエチルセルロースを効率的に得ることができることがわかる。
【0031】
応用実施例1
前記1Lニーダー中に、製造例1で得られた非晶化セルロース(結晶化度 0%、重合度600)100g及び48%水酸化ナトリウム水溶液45g(NaOH量0.54mol)を加え、窒素雰囲気下1時間攪拌した。その後、前記エチレンクロロヒドリン35g(0.44mol)を滴下し、室温で18時間攪拌したところ、NMR分析による原料エチレンクロロヒドリンの残存率は6%であった。
次いで前記1Lニーダーを50℃に昇温し、1時間攪拌した後、精製(生成塩を除去)することなく、そのままグリシジルトリメチルアンモニウムクロリド(坂本薬品工業株式会社製、含水量20重量%、純度90%以上)84gを1時間で滴下した。その後、更に50℃で5時間攪拌した後、酢酸で中和し、含水イソプロパノール(含水量15%)及びアセトンで洗浄し、減圧下乾燥して、カチオン化ヒドロキシエチルセルロースを200gの淡茶白色固体として得た。生成物中の塩素元素含有量は、9.4%、窒素元素含有量は3.7%となり、セルロース中のヒドロキシエチル基としての置換度は、グルコース単位当たり0.70、またセルロース中のカチオン基としての置換度は、グルコース単位当たり0.71となり、極めて効率良くカチオン化ヒドロキシエチルセルロースが合成できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明によれば、工業的に簡便で生産性に優れた効率的な方法によって、ヒドロキシエチルセルロースを製造することができ、得られたヒドロキシエチルセルロースは、塗料、化粧品、建材、増粘剤、接着剤、医薬品等における分散剤、安定化剤等の用途に好適に用いることができる。また他のセルロースエーテル誘導体の出発原料としても好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低結晶性の粉末セルロースを、塩基存在下、エチレンクロロヒドリンと反応させる、ヒドロキシエチルセルロースの製造方法。
【請求項2】
低結晶性の粉末セルロースの結晶化度が50%以下である、請求項1に記載のヒドロキシエチルセルロースの製造方法。
【請求項3】
低結晶性の粉末セルロースに対する水分含有量が100重量%以下である、請求項1又は2に記載のヒドロキシエチルセルロースの製造方法。
【請求項4】
低結晶性の粉末セルロースに対して10重量倍以下の非水溶媒を用いる、請求項1〜3のいずれかに記載のヒドロキシエチルセルロースの製造方法。
【請求項5】
塩基としてアルカリ金属水酸化物を用いる、請求項1〜4のいずれかに記載のヒドロキシエチルセルロースの製造方法。

【公開番号】特開2009−120716(P2009−120716A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−295905(P2007−295905)
【出願日】平成19年11月14日(2007.11.14)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】