説明

ヒドロゲルセルロース多孔質膜

【課題】高い通液性を有しながら粒子捕集効率に優れた濾過膜を提供し、かつ生産性に優れた製造方法を提供する。
【解決手段】セルロースフィブリルが積層した多層構造で、かつ孔径が厚さ方向で異なるヒドロゲルセルロース多孔質膜であり、多層構造の少なくとも1層におけるセルロースフィブリルの平均繊維径が100nm未満であり、粒径5nmの金ナノコロイドを70%以上捕集でき、かつ該多孔質膜の厚さ方向で表面から厚さに対して50%以内である該多孔質膜の孔径が大きい側の表面は粒径20nmの金ナノコロイドの通過率が70%以上である、ヒドロゲルセルロース多孔質膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィブリル状のセルロースが積層された多層構造のヒドロゲルセルロース多孔質膜およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、液体用の多孔質膜として、孔径0.1〜1nm程度の微細な孔を持つ逆浸透膜、または孔径1nm〜100nm程度の比較的大きな孔を持つ限外濾過膜が使われてきた。中でも、ポリマーなどの有機物からなる多孔質膜は、ゼオライトのような無機物からなる多孔質膜に比べて、濾過面積あたりの質量が小さく、柔軟性が高いため、多くの用途で使われている。
【0003】
一般に、多孔質膜の孔径が小さいほど濾液中に含まれる異物の量は少なくなるが、一方で孔径が小さいほど多孔質膜の圧力損失が高くなるか、または濾過寿命が短くなってしまう。そのため、実用的には、捕集が必要な異物の最小粒径を見極め、該粒径に対応する孔径の多孔質膜を使用することが望ましい。
【0004】
ところが、ポリマーからなる多孔質膜の場合、延伸してできた亀裂およびポリマーの結晶の隙間などを利用して作られた50nmを超える孔径の多孔質膜や、多孔支持体の上にポリマーを重合して作られた1nm未満の孔径の多孔質薄膜がほとんどであり、この間に位置する1〜50nm程度の孔径を持ち、実用性に優れた多孔質膜は非常に少なかった。特に粒径5nmの粒子を70%以上捕集することが可能な多孔質膜は殆どなかった。
【0005】
一方で、近年は半導体表面に作られる微細パターンの精度が数十nmのオーダーで要求されていることから、水に含まれる農薬などの比較的大きな分子を取り除くための多孔質膜が要求されている。多孔質膜の孔径としては、1〜50nm、特に1〜20nmの孔径の需要が急増している。
【0006】
そのため、従来の製法の製造条件を精密に制御することなどにより、1〜50nmの孔径の多孔質膜の製造が試みられてきた(例えば特許文献1参照。)。
【0007】
しかしながら、その多くは無機質からなる膜であるため、柔軟性に欠けている。柔軟性が高いポリマーからなる膜に関しては、そのいずれもが、1)開孔率が低いために圧力損失が過大である、2)強度が不十分である、または、3)数mm角の極めて微小な面積の膜しか作ることができない、といった実用に際しての製法上また濾過性能上の問題がある。また、これらの多孔質膜は目詰まりしやすいため、濾過寿命が短く、この点でも実用に際して支障が大きかった。
【0008】
柔軟性が高い多孔質膜を得る方法としては、ナノファイバーをシート化する方法が知られている。例えば、植物などには、生体活動によって作られた数nm程度の繊維径のナノファイバーが含まれており、植物からナノファイバーを抽出し、これをシート化することで、多孔質膜を製造することができる。植物からナノファーバーを抽出する方法としては、該ナノファイバー同士を結合しているリグニンおよびヘミセルロース等を化学分解し、それをグラインダーなどで処理する方法が利用できる(例えば特許文献2〜3参照。)。
【0009】
このようにして得られたナノファイバーを抄紙などの方法でシート化した場合、得られたシートは、柔軟性は高くなるものの、厚さ方向に繊維径の変化がないことから、繊維の隙間にできる孔径は、厚さ方向に変化がなく、厚さ方向で異ならない。そのため、圧力損失が高くなり、流束が低くなってしまう。
【0010】
また、単に抄紙しただけでは繊維同士が強固に接着していないため、孔の形状が不安定である。しかし、接着剤などで繊維同士を接着させてしまうと、繊維間の隙間が埋まり、流束が低くなってしまう。そのため、前記の植物由来のナノファイバーから得られる材料で高性能の多孔質膜を作ることは難しかった。
【0011】
また、従来から、ビスコース溶液を凝固させて得られた再生したセルロース膜が限外濾過膜および透析膜などに利用されてきた(例えば特許文献4〜5参照。)。しかしながら、当該セルロース膜を構成するフィブリルの繊維径は、せいぜい数100nmであり、また、そのばらつきも大きいため、孔径を100nm未満とすることが難しく、孔径のばらつきが大きいものしか得られなかった。そのため、1〜50nmの範囲で孔径のばらつきの少ない多孔質を得ることができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2005−305342号公報
【特許文献2】特開2008−75214号公報
【特許文献3】特開2010−236109号公報
【特許文献4】特開昭59−206007号公報
【特許文献5】特開平2−152531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、通液性および粒子捕集能力に優れるとともに、濾過寿命が長く、かつ生産性に優れる多孔質膜の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、原料のセルロースを溶媒に溶解させた後に、該溶媒を非溶媒と置換し、セルロースを再析出させることで、直径数nmのフィブリル状のセルロース(セルロースフィブリル)とし、さらに、該セルロースフィブリルを積層させることで、該セルロースフィブリルからなる多層構造の多孔質膜が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0015】
すなわち、本発明の要旨は以下である。
1.セルロースフィブリルが積層した多層構造で、かつ孔径が厚さ方向で異なるヒドロゲルセルロース多孔質膜であり、多層構造の少なくとも1層におけるセルロースフィブリルの平均繊維径が100nm未満であり、粒径5nmの金ナノコロイドを70%以上捕集でき、かつ該多孔質膜の孔径が大きい側の表面は下記測定方法により求められる粒径20nmの金ナノコロイドの通過率が70%以上である、ヒドロゲルセルロース多孔質膜。
(測定方法)粒径50nmの金ナノコロイドと粒径20nmの金ナノコロイドとを粒子数が1:12となるよう混合した金ナノコロイド液を、孔径が大きい側の表面から多孔質膜に通過させ、通過させた後の多孔質膜における粒径50nmの粒子数と粒径20nmの粒子数から、下記式により通過率を求める。
(式)(通過率)={1−(粒径20nmの粒子数÷粒径50nmの粒子数)÷12}×100%
2.セルロースフィブリルが非晶質を含む前項1に記載のヒドロゲルセルロース多孔質膜。
3.ヒドロゲルセルロース多孔質膜の表面を構成する層および裏面を構成する層におけるセルロースフィブリルの平均繊維径の比が、1.2〜3である前項1または2に記載のヒドロゲルセルロース多孔質膜。
4.以下の工程(1)〜(3)を含む方法により得られるヒドロゲルセルロース多孔質膜。
(1)セルロースを溶媒に浸漬させて、セルロース溶液を調製する工程
(2)工程(1)で調製したセルロース溶液を支持体の上に塗布する工程
(3)工程(2)で塗布したセルロース溶液を非溶媒に浸漬することによりセルロースを析出させて、ヒドロゲルセルロース多孔質膜を得る工程
5.工程(1)において、溶媒に浸漬させるセルロースの濃度を、セルロース溶液に対して、0.2〜20質量%とする前項4に記載のヒドロゲルセルロース多孔質膜。
6.工程(1)において、溶媒が、i)苛性アルカリおよびii)尿素またはチオ尿素を含む前項4または5に記載のヒドロゲルセルロース多孔質膜。
7.工程(1)において、溶媒におけるi)苛性アルカリの濃度が2〜20質量%であり、ii)尿素またはチオ尿素の濃度が4〜20質量%である前項5または6に記載のヒドロゲルセルロース多孔質膜。
8.工程(3)において、非溶媒が、低級アルキルアルコールおよび水並びにこれらの混合物から選ばれる1種を含む前項4〜7のいずれか1項に記載のヒドロゲルセルロース多孔質膜。
9.工程(3)において、非溶媒が、i)苛性アルカリおよびii)尿素またはチオ尿素を含む前項4〜8のいずれか1項に記載のヒドロゲルセルロース多孔質膜。
10.工程(3)において、非溶媒におけるi)苛性アルカリおよびii)尿素またはチオ尿素の濃度が0.5〜5質量%である前項9に記載のヒドロゲルセルロース多孔質膜。
11.以下の工程(1)〜(3)を含むヒドロゲルセルロース多孔質膜の製造方法。
(1)セルロースを溶媒に浸漬させて、セルロース溶液を調製する工程
(2)工程(1)で調製したセルロース溶液を支持体の上に塗布する工程
(3)工程(2)で塗布したセルロース溶液を非溶媒に浸漬することによりセルロースを析出させて、ヒドロゲルセルロース多孔質膜を得る工程
12.工程(1)において、溶媒に浸漬させるセルロースの濃度を、セルロース溶液に対して、0.2〜20質量%とする前項11に記載の製造方法。
13.工程(1)において、溶媒が、i)苛性アルカリおよびii)尿素またはチオ尿素を含む前項11または12に記載の製造方法。
14.工程(1)において、溶媒におけるi)苛性アルカリの濃度が2〜20質量%であり、ii)尿素またはチオ尿素の濃度が4〜20質量%である前項11〜13のいずれか1項に記載の製造方法。
15.工程(3)において、非溶媒が、低級アルキルアルコールおよび水から選ばれる少なくとも1種を含む前項11〜14のいずれか1項に記載の製造方法。
16.工程(3)において、非溶媒が、i)苛性アルカリおよびii)尿素またはチオ尿素を含む前項11〜15のいずれか1項に記載の製造方法。
17.工程(3)において、非溶媒におけるi)苛性アルカリおよびii)尿素またはチオ尿素の濃度が0.5〜5質量%である前項16に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明のヒドロゲルセルロース多孔質膜は、セルロースフィブリルが積層した多層構造からなる。セルロースフィブリルの平均繊維径は100nm未満であり、孔径のばらつきが少なく、通液性に優れている。
【0017】
また、本発明のヒドロゲルセルロース多孔質膜は、粒径5nmの金ナノコロイドを70%以上捕集することが可能である。このような濾過性能は、液体用濾過膜として非常に優れている。
【0018】
さらに、本発明のヒドロゲルセルロース多孔質膜は、孔径が厚さ方向で異なり、多孔膜全体としては粒径5nmの金ナノコロイドを70%以上捕集することが可能でありながら、孔径が大きい側の表面は、粒径20nmの金ナノコロイドを70%以上通過させるという特徴を持っている。したがって、該多孔質膜の一方の表面の孔径が大きく、濾過寿命が優れている。
【0019】
また、本発明のヒドロゲルセルロース多孔質膜はヒドロゲル状であるため親水性であり、優れた通水性を有すると共に、親水化処理が不要である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、実施例7で得られたヒドロゲルセルロース多孔質膜の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した写真である。撮影倍率は、10万倍とした。
【図2(a)】図2(a)は、実施例2で得られたヒドロゲルセルロース多孔質膜を凍結乾燥させたセルロース多孔質膜のガラス側の表面をSEMで観察した写真である。撮影倍率は、10万倍とした。
【図2(b)】図2(b)は、実施例2で得られたヒドロゲルセルロース多孔質膜を凍結乾燥させたセルロース多孔質膜の非溶媒側の表面をSEMで観察した写真である。撮影倍率は、10万倍とした。
【図3(a)】図3(a)は、実施例4で得られたヒドロゲルセルロース多孔質膜のガラス側の表面をSEMで観察した写真である。撮影倍率は、10万倍とした。
【図3(b)】図3(b)は、実施例4で得られたヒドロゲルセルロース多孔質膜の非溶媒側の表面をSEMで観察した写真である。撮影倍率は、10万倍とした。
【図4(a)】図4(a)は、実施例6のヒドロゲルで得られたヒドロゲルセルロース多孔質膜のガラス側の表面をSEMで観察した写真である。撮影倍率は、10万倍とした。
【図4(b)】図4(b)は、実施例6のヒドロゲルで得られたヒドロゲルセルロース多孔質膜の非溶媒側の表面をSEMで観察した写真である。撮影倍率は、10万倍とした。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のヒドロゲルセルロース多孔質膜(以下、本発明の多孔質膜ともいう。)は、図1に示すように、フィブリル状のセルロース(セルロースフィブリル)を積層した多層構造である。セルロースフィブリルを積層した多層構造であることによって、セルロースフィブリルの繊維径に見合った孔を構成することができる。
【0022】
前記多層構造を構成するセルロースフィブリルの層数は、10層以上であることが好ましく、20層以上であることが好ましい。この範囲とすることで、孔径および厚さ方向の孔径勾配を付けることが容易となる。
【0023】
本発明の多孔質膜はヒドロゲル状である。本発明において、ヒドロゲルは、セルロースフィブリル同士の連結によって網目構造が形成され、その網目構造の隙間に水が保持されたゲルをいう。本発明において、ヒドロゲルは、そのほとんどが水であり、ヒドロゲルの全質量に対する水の割合は、特に限定されるものではないが、80〜99.8質量%であることが好ましく、90〜99.5質量%であることがより好ましい。この範囲とすることで、得られる多孔質膜の強度が高くなると同時に、通水性に優れている。
【0024】
本発明の多孔質膜の少なくとも1層は、セルロースフィブリルの平均繊維径が、100nm未満であり、50nm未満であることが好ましく、25nm未満であることがより好ましい。少なくとも1層のセルロースフィブリルの平均繊維径をこの範囲内とすることにより、流体が通過するときの抵抗が小さくなり、通液性が向上するので好ましい。
【0025】
本発明の多孔質膜を構成するセルロースフィブリルの平均繊維径は、実施例において後述するように、電子顕微鏡を用いて多孔質膜を観察することにより測定することができる。
【0026】
本発明の多孔質膜は、各層を構成するセルロースフィブリルの繊維径が厚さ方向に変化していることが好ましい。ヒドロゲルセルロース多孔質膜の表面を構成する層の平均繊維径と、裏面を構成する層におけるセルロースフィブリルの平均繊維径との比が、1.2〜3であることが好ましく、1.5〜3であることがより好ましい。
【0027】
多孔質膜の表面を構成する層および多孔質膜の裏面を構成する層におけるセルロースフィブリルの平均繊維径の比を前記範囲とすることにより、ナノサイズの孔径の濾過膜でありながら、深層濾過が可能となる。
【0028】
本発明の多孔質膜は、粒径5nmの金ナノコロイドを70%以上捕集する。このような本発明の多孔質膜の濾過性能は、孔径1〜20nmの孔を有することを意味する。すなわち、本発明の多孔質膜は、孔径が1〜20nmであることが好ましい。液体用濾過膜として非常に優れている。
【0029】
本発明の多孔質膜は、孔径が厚さ方向で異なり、孔径が大きい側の面の表面には孔径20nm以上の孔を多数有する。そのため、該多孔質膜の孔径が大きい側の表面は、粒径20nmの金ナノコロイドを70%以上通過させる。すなわち、該多孔質膜の孔径が大きい側の表面での粒径20nmの金ナノコロイドの通過率は70%以上であり、80%以上であれば好ましく、90%以上であればさらに好ましい。
【0030】
本発明の多孔質膜の孔径が大きい側の表面における粒径20nmの金ナノコロイドの通過率が70%未満であると、粒子のほとんどが多孔質膜の表面で捕集されてしまうので、濾過寿命が短くなる。なお、多孔質膜の孔径が大きい側の表面を通過した粒径20nmの金ナノコロイドは、多孔質膜の孔径が大きい側の表面より下流側の部分で補捉され、最終的には99%以上が捕集される。
【0031】
なお、本発明の多孔質膜による金ナノコロイドの捕集効率および通過率は、実施例で後述する方法により測定する。
【0032】
本発明の多孔質膜に用いるセルロースは、非晶質部分を含むセルロースの方が、セルロースから精製抽出して作ったいわゆる結晶性セルロースに比べ好ましい。これは、非晶質部分を含むセルロースを用いることにより、多孔質膜の強度を向上させることができるからである。
【0033】
非晶質部分を含むセルロースとしては、例えば、木材セルロースおよび綿セルロース等の植物セルロース、微生物産生セルロース、ホヤ皮嚢セルロースおよびそれらの誘導体、並びにそれらの混合物が挙げられる。
【0034】
これらの中でも、特に、木材セルロース、綿セルロースおよびホヤ皮嚢セルロース並びにこれらの混合物が、得られる多孔質膜の強度が高くなるため好ましい。
【0035】
また、パルプなどの植物セルロースからカルシウムイオンなどのミネラル塩を取り除いた無灰セルロースがより好ましい。当該ミネラル塩の除去が不十分であると、後にセルロースを溶媒に溶かしたときの溶け残りが多くなり、これが多孔質膜のピンホールの原因となったり、または多孔質膜の使用中にミネラル塩が濾液中に溶け出して多孔質膜自体が汚染源となったりする場合がある。
【0036】
また、本発明の多孔質膜には、セルロースとして各種セルロースの誘導体を用いることができ、セルロースの水酸基をエステル化及び/又はエーテル化したセルロース誘導体が好ましい。セルロースの水酸基をエステル化及び/又はエーテル化する置換度は1.0以下であることが好ましく、0.1〜0.8であることがより好ましい。
【0037】
本発明の多孔質膜の流束は、20〜150L/m/時間であることが好ましく、30〜150L/m/時間であることがより好ましい。この範囲とすることで、必要な強度を保ちながら、小面積でも高い流量が得られるため好ましい。多孔質膜の流束は実施例で後述する方法により測定する。
【0038】
本発明の多孔質膜の厚みは、50〜1000μmであることが好ましく、100〜500μmであることがより好ましい。この範囲とすることで、加工に必要な柔軟性と強度が共に得られるためである。
【0039】
本発明の多孔質膜は、以下の工程(1)〜(3)を含む製造方法により製造することができる。なお、本発明でいう非溶媒とは、セルロースを溶解しない溶媒をいう。
(1)セルロースを溶媒に浸漬させて、セルロース溶液を調製する工程
(2)工程(1)で調製したセルロース溶液を支持体の上に塗布する工程
(3)工程(2)で塗布したセルロース溶液を非溶媒に浸漬することによりセルロースを析出させて、ヒドロゲルセルロース多孔質膜を得る工程
以下、各工程について詳述する。
【0040】
(1)セルロースを溶媒に浸漬させて、セルロース溶液を調製する工程
工程(1)は、セルロースと溶媒との混合物を冷却することにより、溶媒にセルロースを溶解させて、セルロース溶液とする工程である。セルロースの溶媒への溶解には冷却が必要であり、セルロースと溶媒の混合物を−10〜−200℃に冷却することで、均質なセルロース溶液とすることができる。
【0041】
このとき、セルロースを溶媒に浸漬させてから急冷してもよいし、あるいは予め冷却しておいた溶媒にセルロースを浸漬させてもよい。一度、溶媒にセルロースが溶解すれば、常温に戻してもセルロース溶液の状態が保たれる。
【0042】
溶媒に浸漬させるセルロースの濃度は、セルロース溶液に対して、0.2〜20質量%であることが好ましく、0.5〜10質量%であることがより好ましい。セルロースの量を0.2質量%以上とすることにより、得られる多孔質膜の強度を向上することができるとともに、孔が大きくなりすぎるのを防ぐことができる。また、セルロースの量を20質量%以下とすることにより、多孔質膜の濾過圧力損失を抑えるとともに、孔が小さくなりすぎるのを防ぐことができる。
【0043】
溶媒は、特に限定されないが、後の工程で溶媒と非溶媒とを置換してセルロースを析出させるために、溶媒に対するセルロースの溶解性の大小だけではなく、後の工程で使用するセルロースの非溶媒との混和性がある溶媒であるか、または中和などの化学反応で非溶媒に転化しうる溶媒が好ましい。さらには、非溶媒との置換速度または化学反応による転化速度を調整できる溶媒がより好ましい。
【0044】
溶媒と非溶媒との置換速度が遅くなるとセルロースの析出速度が低下し、得られる多孔質膜の孔径が大きくなりすぎ、かつ多孔質膜の強度が弱くなる。また、溶媒と非溶媒との置換速度が速くなるとセルロースの析出速度が過大ととなり、セルロースフィブリルが十分な径に成長しないため、得られる多孔質膜の開孔率が低くなりすぎ、場合によっては全く開孔しない場合もある。このため、目標とする多孔質膜の孔径及び孔径変化に応じた溶媒を選ぶことが好ましい。
【0045】
溶媒は、水を主成分として、i)苛性アルカリおよびii)尿素またはチオ尿素を含むことが好ましい。その他の成分としては、低級アルキルアルコール(メタノール、エタノールなど)、低級ケトン(アセトンなど)など、水との混和性が高い物質が挙げられる。
【0046】
i)苛性アルカリとしては、NaOHおよびLiOH並びにそれらの混合物が好ましく、LiOHがより好ましい。溶媒におけるi)苛性アルカリの濃度は、2〜20質量%であることが好ましく、4〜10質量%であることがより好ましい。この範囲とすることにより、前記のセルロースの析出速度を適切なものとすることが容易となる。
【0047】
ii)尿素またはチオ尿素のうちでは、尿素が好ましい。溶媒におけるii)尿素又はチオ尿素の濃度は、4〜20質量%であることが好ましく、6〜15質量%であることがより好ましい。この範囲とすることにより、前記のセルロースの析出速度を適切なものとすることが容易となる。
【0048】
溶媒におけるi)苛性アルカリに対するii)尿素またはチオ尿素の含有量の比率(質量比 ii/i)は、1〜3であることが好ましく、1.5〜2であることがより好ましい。この範囲とすることにより、セルロースの溶解がより容易になると共に、前記のセルロースの析出速度を適切なものとすることがさらに容易となる。
【0049】
多孔質膜の強度を上げるため、工程(1)で調製するセルロース溶液に、予め多孔質膜を強化させる材料を混合してもよい。当該材料としては、例えば、合成繊維および天然繊維等の繊維を混合することができる。
【0050】
前記繊維としては、具体的には、例えば、ポリオレフィンとアクリルから成る分割繊維から得られる極細繊維(例えば長さ1〜10mm、直径0.1〜1μmの繊維)、およびエレクトロスピニング法で得られるポリ乳酸製の極細繊維(直径0.1〜1μmの繊維)等が挙げられる。
【0051】
セルロース溶液の粘度は10mPa・s以上1000mPa・s以下であることが好ましく、10mPa・s以上50mPa・s以下であることが好ましい。セルロース溶液の粘度は、主として溶媒の種類とセルロースの溶解量で調整することができる。
【0052】
セルロース溶液の粘度を10mPa・s以上とすることにより、後の工程(2)において、支持体の上にセルロース溶液を塗り広げる際、適切な厚さを得ることができる。
【0053】
また、セルロース溶液の粘度を1000mPa・s以下とすることにより、後の工程(3)において、セルロース溶液中の溶媒と非溶媒との置換速度が遅くなりすぎることによりセルロースフィブリルが太くなりすぎるのを防ぎ、孔径を20nm未満にすることが容易となる。
【0054】
さらに、セルロース溶液の粘度を1000mPa・s以下とすることにより、後の工程(2)において、支持体の上にセルロース溶液を薄く均質に塗ることができ、低圧力損失の多孔質フィルムを得ることができる。
【0055】
(2)工程(1)で調製したセルロース溶液を支持体の上に塗布する工程
工程(2)は、工程(1)で調製したセルロース溶液を支持体の上に塗布する工程である。支持体上に塗布したセルロース溶液からなる層の厚さは、0.05〜5mmの範囲が好ましい。
【0056】
支持体としては、非多孔性の支持体および多孔性の支持体が挙げられる。非多孔性の支持体としては、例えば、ガラス板、ポリマーシートおよび金属板などを挙げることができる。多孔性の支持体としては、例えば、メルトブロー不織布およびスパンボンド不織布などの不織布、織布、金網並びにパンチング板などを挙げることができる。
【0057】
支持体としてガラス板のような非多孔性のものを使う場合、得られたヒドロゲルセルロース多孔質膜を後で支持体から剥離してもよい。また、支持体として不織布のような多孔性のものを用いる場合、得られたヒドロゲルセルロース多孔質膜を支持体から剥離せずにそのまま複合多孔シートとして使用してもよい。
【0058】
支持体の上に塗布する形状は、平板上に薄く均質に塗り広げてシート状にしてもよいし、ひだ状に折り目を付けた不織布などの多孔シート上に塗りつけてもよいし、あるいは中空繊維の外表面あるいは内表面に塗布してもよい。いずれの場合でも、支持体表面に均質に塗りつけることが好ましい。均質に塗りつけることで、製造する多孔質層の厚さを均一にすることができ、さらには孔径勾配の大きさが支持体の場所によらず一定となりやすいため、好ましい。複雑な支持体の形状としては、例えば、ひだ状に折り目を付けたシートや、ピン状および格子状などの模様が彫刻されたエンボスロールで表面に凹凸模様を付けたシートなどが挙げられる。
【0059】
支持体の上にセルロース溶液を塗布する方法としては、具体的には、例えば、以下の(a)〜(c)の方法が挙げられる。
(a)セルロース溶液を支持体である平膜の上にガラス棒などで均一な厚さに塗り広げる方法。
(b)カーテンコーターなどのスリットから一定量ずつセルロース溶液を薄く吐出させて支持体であるシートの上に薄く塗り広げる方法。
(c)スピンコーターなどの塗布装置により遠心力を利用してセルロース溶液を支持体上に塗り広げる方法。
【0060】
多孔性の支持体を用いる場合には、支持体においてセルロース溶液を塗布する側とは反対側を減圧することで、支持体の上にセルロース溶液を吸引付着させることもできる。
【0061】
また、複雑な形状の支持体を用いる場合には、セルロース溶液を低粘度に調整しておき、支持体表面または全部をセルロース溶液に浸漬させ、引き上げて余分なセルロース溶液を自然落下または遠心力を利用して落下させて塗膜としてもよい。この場合のセルロース溶液の粘度は、0.1〜10mPa・sであることが好ましい。
【0062】
支持体上に塗布したセルロース溶液からなる層の形状は、セルロース溶液を平板上に薄く均質に塗り広げてシート状にしてもよいし、ひだ状に折り目を付けた不織布などの多孔シート上にセルロース溶液を塗りつけてもよいし、または中空繊維の外表面若しくは内表面に塗布してもよい。
【0063】
(3)工程(2)で塗布したセルロース溶液を非溶媒に浸漬することによりセルロースを析出させて、ヒドロゲルセルロース多孔質膜を得る工程
工程(3)では、支持体上に塗布したセルロース溶液を非溶媒に浸漬させ、セルロース溶液中の溶媒と非溶媒とを置換することで、溶解していたセルロースを、再生セルロースとして析出、堆積させ、多層構造とする。このときに、再生セルロースは、低結晶性のフィブリル(セルロースフィブリル)となり、該セルロースフィブリルが連結して網目構造が形成される。この網目構造の隙間に水を保持させて、ヒドロゲルセルロース多孔質膜を得る。
【0064】
非溶媒としては、特に限定されるものではないが、例えば、水、低級アルキルアルコール(例えば、メタノールおよびエタノールなど)、低級アルキルアルコール水溶液、低級ケトン(例えば、アセトンなど)、低級脂肪酸エステル(例えば、酢酸エチルなど)及び塩類(例えば、硫酸ナトリウムなど)の希薄水溶液などを用いることができる。
【0065】
非溶媒は単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、低級アルキルアルコールおよび水からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、水および低級アルキルアルコールの混合物である低級アルキルアルコール水溶液がより好ましい。なお、低級アルキルアルコール水溶液中における、水と低級アルキルアルコールの混合比は特に限定されない。
【0066】
工程(3)において、得られる多孔質膜は、支持体上に塗布したセルロース溶液が非溶媒と直接接触する側の面は孔径が大きくなり、支持体と接触する側の面は孔径が小さくなる。このことにより、本発明の多孔質膜は、厚さ方向で孔径が異なる多孔質膜となる。
【0067】
また、セルロース溶液中の溶媒を非溶媒に置換する速度が速いほど、精製するセルロースフィブリルの繊維径が小さくなるので、例えば、以下の(a)〜(d)の方法により、孔径および厚さ方向の孔径勾配を制御することができる。
【0068】
(a)工程(3)に用いる非溶媒の中にセルロースが溶解しない程度の比率で、i)苛性アルカリおよびii)尿素またはチオ尿素を混合する方法である。この方法により、セルロースを析出させる速度を意図的に遅くすることができる。この方法に用いる非溶媒は特に限定されない。
【0069】
例えば、非溶媒として低級アルキルアルコール水溶液を用いて、i)苛性アルカリおよびii)尿素またはチオ尿素を混合する方法を用いる場合、セルロースの析出速度を適切にすることができる。低級アルキルアルコール水溶液中の低級アルキルアルコールの濃度は、特に限定されないが、70〜100質量%とすることが好ましい。この範囲とするこで、セルロースの析出速度をより適切にすることができる。
【0070】
非溶媒におけるi)苛性アルカリの濃度は、0.2〜5質量%とすることが好ましく、0.5〜2質量%とすることがより好ましい。この範囲とすることにより、セルロースの析出速度がより適切になるためである。
【0071】
非溶媒におけるii)尿素またはチオ尿素の濃度は、0.5〜5質量%とすることが好ましく、1〜3質量%とすることがより好ましい。この範囲とすることにより、セルロースの析出速度がより適切になるためである。
【0072】
また、ii)尿素またはチオ尿素/i)苛性アルカリ(質量比)は、1〜3であることが好ましく、1.5〜2であることがより好ましい。この範囲とすることにより、孔径勾配の大きさが適当な値を取りやすくなる。
【0073】
(b)工程(1)においてセルロース溶液にセルロースが析出しない程度に予め非溶媒を混合する方法である。
セルロース溶液における非溶媒の濃度は、0〜5質量%とすることが好ましく、0〜3質量%とすることがさらに好ましい。
【0074】
(c)工程(3)において、組成の異なるいくつかの非溶媒を用意しておいてそれらにセルロース溶液を順次浸漬する方法である。
具体的には、例えば、まずメタノール90質量%、水酸化リチウム0.8質量%、尿素1.5質量%、水7.7質量%の混合液に浸漬する。次いで、メタノール100%に浸漬する。これにより、孔径および厚さ方向の孔径勾配を付けることが容易となる。
【0075】
(d)工程(3)において、単に非溶媒にセルロース溶液を浸漬させるだけではなく、攪拌翼などで攪拌することで強制的に非溶媒中に液体の流れを発生させて、セルロース溶液の表面が常に新鮮な非溶媒に曝されるようにする方法である。
具体的には、例えば、攪拌数は、10〜100rpmとすることが好ましい。
【0076】
本発明の多孔質膜は、液体用濾過膜、薬剤保持膜および表面湿度保護膜として用いることができる。
【実施例】
【0077】
以下において、実施例等を参照して本発明をさらに詳細に説明するが、これらの記載により本発明の範囲が限定されることはない。
【0078】
〔使用した部材等〕
水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、メタノールは和光純薬製の試薬特級を用いた。
【0079】
セルロースとしては、アドバンテック東洋製無灰パルプを用いた。このセルロースは、非晶質セルロースを含んでいる。
【0080】
金ナノコロイドとしては、シグマアルドリッチ製の粒径5、20、50nmの3種を用いた。なお、本発明で用いたシグマアルドリッチ製の金ナノコロイドの粒径は、球状粒子の平均サイズを表し、メーカー表示値をそのまま使用した。
【0081】
支持体としては、ガラス板(大きさ15cm×15cm)を用いた。
【0082】
水は、ミリポア製超純水製造装置「DirectQ UV(商品名)」で製造した比抵抗値18MΩ・cm以上の超純水を用いた。
【0083】
〔評価方法〕
実施例および比較例で得られた多孔質膜の物性値は下記の方法にて測定した。
【0084】
1)平均繊維径
得られた多孔質膜を凍結乾燥し、電子顕微鏡(日本電子社製走査電子顕微鏡JSM)を使って倍率10万倍で観察した。その写真を画像解析して構成繊維10本の直径を求め、その算術平均値を平均繊維径とした。
【0085】
2)流束
得られた多孔質膜を直径25mmに切り取り、フィルターシートホルダーにセットし、圧力1MPaで加圧して超純水を通水させ、排出した液量から通水量を測定した。それをフィルターシートの単位面積当たりの数値に換算して流束を求めた。
【0086】
3)粒子捕集効率
得られた多孔質膜を直径25mmに切り取り、フィルターシートホルダーにセットし、圧力1MPaで加圧して粒径5nmまたは粒径20nmの金ナノコロイド液を通液させ、濾過前後の液に含まれる金ナノコロイドの量を測定して、捕集効率を得た。
【0087】
なお、本実施例において、非溶媒によるヒドロゲル化の工程で水と接触していた面が、孔径が大きい側の表面となり、粒径20nmの金ナノコロイドを70%以上通過させる(比較例の一部においては通過できない)。
【0088】
また、粒径50nmの金ナノコロイドと粒径20nmの金ナノコロイドとを粒子数が1:12となるよう、金ナノコロイドの容積当りの粒子数から算出し、混合して、金ナノコロイド液を調製し、この金コロイド液を多孔質膜の孔径が大きい側の表面から前記と同様の手順で通過させ、通過させた後の多孔質膜を乾燥し、電子顕微鏡を使って倍率10万倍で観察し、観察された粒径50nmの粒子と20nmの粒子の数を求めた。そして、径の大きい粒径50nmの粒子はこの多孔質膜の孔径が大きい側の表面でも確実に捕集されるため、この多孔質膜の孔径が大きい側の表面の粒径20nmの金ナノコロイドの通過率を下記式によりこの多孔質膜の孔径が大きい側の表面の粒径20nmの金ナノコロイドの通過率を求めた。
【0089】
(式)
(通過率)={1−(粒径20nmの粒子数÷粒径50nmの粒子数)÷12}×100%
【0090】
[実施例1]
〔原料液の調製工程〕
表1に示すように、セルロースの溶媒として、水酸化リチウム8質量%、尿素15質量%を溶解させた水溶液を用いた。そのセルロースの溶媒100重量部に対し、セルロースを4重量部浸漬し、その液を−15℃にて5分間冷却してセルロースを溶解させ、セルロース溶液を得た。
【0091】
〔成形工程〕
ガラス板上に、アドバンテック東洋製の定量濾紙5Bを乗せて端部を粘着テープで固定し、その上に、先に得たセルロース溶液を、ベーカーアプリケータを使って厚さ100μmに塗りつけた。
【0092】
〔非溶媒によるヒドロゲル化の工程〕
表1に示すように、非溶媒として、メタノールを用いた。容器に深さ3cmまでメタノールを入れ、その中に、ガラス板上に成形したセルロース溶液をガラス板ごと静かに浸漬させ、そのまま室温にて15分間放置することで、セルロース溶液をヒドロゲルに転化させた。
【0093】
次に、別の容器に深さ10cmまで水を入れ、該ヒドロゲルをガラス板から剥離して浸漬させた。この後、水を数度交換して、ヒドロゲル中に残留しているアルカリを完全に除去することによりヒドロゲルセルロース多孔質膜を得た。得られたヒドロゲルセルロース多孔質膜の物性値を表2に示す。
【0094】
表2に示すように、得られたヒドロゲルセルロース多孔質膜は、該多孔質膜の孔径が大きい側の表面では粒径20nmの金ナノコロイド粒子を78%通過させるのに対し、この金ナノコロイドの捕集効率は99%以上に達することから、孔径が厚さ方向に変化しており、厚さ方向で孔径が異なることが確認された。また、この膜は粒径5nmの金ナノコロイド粒子を85%捕集した。
【0095】
[実施例2、3]
表1に示すように、成形工程で、塗布する厚さを200、500μmにした他は全て実施例1と同じ方法でヒドロゲルセルロース多孔質膜を得た。得られたヒドロゲルセルロース多孔質膜の物性値を表2に示す。また、実施例2のヒドロゲルセルロース多孔質膜を凍結乾燥し、電子顕微鏡で観察した写真を図2に示す。
【0096】
図2に示すように、非溶媒によるヒドロゲル化の工程でガラス板と接触していた面[図2(a)]は、非溶媒側だった面[図2(b)]に比べて、開孔している孔の大きさがやや大きく、繊維の径も大きかった。
【0097】
[実施例4]
表1に示すように、非溶媒として、メタノール90質量%、水酸化リチウム0.8質量%、尿素1.5質量%、水7.7質量%の混合液を用いた他は、全て実施例2と同じ方法でヒドロゲルセルロース多孔質膜を得た。得られたヒドロゲルセルロース多孔質膜の物性値を表2に示す。
【0098】
表2に示すように、実施例4で得られたヒドロゲルセルロース多孔質膜は、流束が実施例2で得られたヒドロゲルセルロース多孔質膜よりも高く、粒子捕集効率も高かった。
【0099】
また、実施例2と比較すると、粒径5nmの金ナノコロイド粒子の捕集効率は実施例2が93%、実施例4が94%と大きくは変わらなかった。
【0100】
一方、この多孔質膜の孔径が大きい側の表面での粒径20nmの金ナノコロイド粒子の通過率は実施例2の80%に対して実施例4では92%となっており、孔径の厚さ方向の変化がより大きくなっていることが確認された。
【0101】
また、このヒドロゲルを電子顕微鏡で観察した写真を図3に示す。図3に示すように、実施例2と比較すると、非溶媒によるヒドロゲル化の工程でガラス板と接触していた面[図3(a)]は実施例2[図2(a)]と大きな違いは無かった。一方、非溶媒側だった面[図3(b)]は実施例2[図2(b)]に比べて、開孔している孔の大きさが大きく、繊維の径も大きかった。
【0102】
[実施例5〜7]
表1に示すように、非溶媒として、80質量%、水酸化リチウム1.6質量%、尿素3.0質量%、水15.4質量%の混合液を用いた他は、全て実施例1〜3と同じ方法でヒドロゲルセルロース多孔質膜を得た。得られたヒドロゲルセルロース多孔質膜の物性値を表2に示す。
【0103】
表2に示すように実施例6で得られたヒドロゲルセルロース多孔質膜は、流束が実施例4よりも高く、粒子捕集効率も高かった。また、実施例2、4と比較すると、該多孔質膜の孔径が大きい側の表面での粒径20nmの金ナノコロイド粒子の通過率は実施例2の80%、実施例4の92%に対して実施例6では95%となっており、孔径の厚さ方向の変化がより大きくなっていることが確認された。
【0104】
また、このヒドロゲルセルロース多孔質膜を電子顕微鏡で観察した写真を図4に示す。図4に示すように、実施例2、4と比較すると、非溶媒側だった面[図4(a)]は開孔している孔および繊維径の大きさがさらに大きくなっていた。また、図1に示すように、この断面を観察すると、セルロースが層状に積み重なっている様子が観察された。
【0105】
【表1】

【0106】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースフィブリルが積層した多層構造で、かつ孔径が厚さ方向で異なるヒドロゲルセルロース多孔質膜であり、多層構造の少なくとも1層におけるセルロースフィブリルの平均繊維径が100nm未満であり、粒径5nmの金ナノコロイドを70%以上捕集でき、かつ該多孔質膜の孔径が大きい側の表面は下記測定方法により求められる粒径20nmの金ナノコロイドの通過率が70%以上である、ヒドロゲルセルロース多孔質膜。
(測定方法)粒径50nmの金ナノコロイドと粒径20nmの金ナノコロイドとを粒子数が1:12となるよう混合した金ナノコロイド液を、孔径が大きい側の表面から多孔質膜に通過させ、通過させた後の多孔質膜における粒径50nmの粒子数と粒径20nmの粒子数から、下記式により通過率を求める。
(式)(通過率)={1−(粒径20nmの粒子数÷粒径50nmの粒子数)÷12}×100%
【請求項2】
セルロースフィブリルが非晶質を含む請求項1に記載のヒドロゲルセルロース多孔質膜。
【請求項3】
ヒドロゲルセルロース多孔質膜の表面を構成する層および裏面を構成する層におけるセルロースフィブリルの平均繊維径の比が、1.2〜3である請求項1または2に記載のヒドロゲルセルロース多孔質膜。
【請求項4】
以下の工程(1)〜(3)を含む方法により得られるヒドロゲルセルロース多孔質膜。(1)セルロースを溶媒に浸漬させて、セルロース溶液を調製する工程
(2)工程(1)で調製したセルロース溶液を支持体の上に塗布する工程
(3)工程(2)で塗布したセルロース溶液を非溶媒に浸漬することによりセルロースを析出させて、ヒドロゲルセルロース多孔質膜を得る工程
【請求項5】
工程(1)において、溶媒に浸漬させるセルロースの濃度を、セルロース溶液に対して、0.2〜20質量%とする請求項4に記載のヒドロゲルセルロース多孔質膜。
【請求項6】
工程(1)において、溶媒が、i)苛性アルカリおよびii)尿素またはチオ尿素を含む請求項4または5に記載のヒドロゲルセルロース多孔質膜。
【請求項7】
工程(1)において、溶媒におけるi)苛性アルカリの濃度が2〜20質量%であり、ii)尿素またはチオ尿素の濃度が4〜20質量%である請求項5または6に記載のヒドロゲルセルロース多孔質膜。
【請求項8】
工程(3)において、非溶媒が、低級アルキルアルコールおよび水並びにこれらの混合物から選ばれる1種を含む請求項4〜7のいずれか1項に記載のヒドロゲルセルロース多孔質膜。
【請求項9】
工程(3)において、非溶媒が、i)苛性アルカリおよびii)尿素またはチオ尿素を含む請求項4〜8のいずれか1項に記載のヒドロゲルセルロース多孔質膜。
【請求項10】
工程(3)において、非溶媒におけるi)苛性アルカリの濃度が0.2〜5質量%、ii)尿素またはチオ尿素の濃度が0.5〜5質量%である請求項9に記載のヒドロゲルセルロース多孔質膜。
【請求項11】
以下の工程(1)〜(3)を含むヒドロゲルセルロース多孔質膜の製造方法。
(1)セルロースを溶媒に浸漬させて、セルロース溶液を調製する工程
(2)工程(1)で調製したセルロース溶液を支持体の上に塗布する工程
(3)工程(2)で塗布したセルロース溶液を非溶媒に浸漬することによりセルロースを析出させて、ヒドロゲルセルロース多孔質膜を得る工程
【請求項12】
工程(1)において、溶媒に浸漬させるセルロースの濃度を、セルロース溶液に対して、0.2〜20質量%とする請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
工程(1)において、溶媒が、i)苛性アルカリおよびii)尿素またはチオ尿素を含む請求項11または12に記載の製造方法。
【請求項14】
工程(1)において、溶媒におけるi)苛性アルカリの濃度が2〜20質量%であり、ii)尿素またはチオ尿素の濃度が4〜20質量%である請求項11〜13のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項15】
工程(3)において、非溶媒が、低級アルキルアルコールおよび水から選ばれる少なくとも1種を含む請求項11〜14のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項16】
工程(3)において、非溶媒が、i)苛性アルカリおよびii)尿素またはチオ尿素を含む請求項11〜15のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項17】
工程(3)において、非溶媒におけるi)苛性アルカリの濃度が0.2〜5質量%、ii)尿素またはチオ尿素の濃度が0.5〜5質量%である請求項16に記載の製造方法。

【図1】
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【図2(a)】
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【図2(b)】
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【図3(a)】
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【図3(b)】
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【図4(a)】
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【図4(b)】
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【公開番号】特開2012−206063(P2012−206063A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−75399(P2011−75399)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(311002067)JNC株式会社 (208)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】