説明

ヒドロゲル内でのpH移行の速度論を制御することによる薬物放出速度の調節

【課題】ヒドロゲルに含まれる活性薬学的成分の放出プロフィールを調節するヒドロゲルを提供すること。
【解決手段】第一のヒドロゲル前駆体を第一の緩衝剤と接触させる工程;第二のヒドロゲル前駆体を第二の緩衝剤と接触させる工程;生物活性剤を、該第一のヒドロゲル前駆体もしくは該第二のヒドロゲル前駆体、または両方に添加する工程;ならびに得られた組織サンプルを該第一のヒドロゲル前駆体および該第二のヒドロゲル前駆体と接触させる工程、を包含し、該第一のヒドロゲル前駆体および該第二のヒドロゲル前駆体は、接触の際にヒドロゲルを形成し、そして該生物活性剤は、該ヒドロゲルの形成時の初期pHと生理学的pHとの間のpKaを有する、方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生体適合性の架橋ヒドロゲルに関し、ある実施形態において、ヒドロゲルのpH移行の速度論を調節することによって、このヒドロゲルに含まれる活性薬学的成分の放出プロフィールを調節するヒドロゲルに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロゲルは、外科手術用途(例えば、封止、癒着防止、または薬物送達)のために、身体内で使用され得る。薬物送達について、延長された放出または促進された放出は、制御された様式で達成することが困難であり得る。
【0003】
薬物は、ヒドロゲルを通しての拡散によってか、ヒドロゲル自体の分解によってか、または拡散と分解との両方の組み合わせによって、周囲の組織に放出され得る。薬物放出は、処方物における可変項目(formulation variable)(例えば、薬物の物理化学的特性(薬物の溶解度が挙げられる)および薬物組み込みの方法(例えば、マイクロスフェアまたはマイクロカプセルなどの封入ビヒクルの使用))によって影響を受け得る。薬物分子または薬物化合物にいかなる操作もなしで、かつ賦形剤を使用せずに、薬物放出プロフィールを調節することが有利である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、例えば、以下を提供する:
(項目1A)
第一のヒドロゲル前駆体を第一の緩衝剤と接触させる工程;
第二のヒドロゲル前駆体を第二の緩衝剤と接触させる工程;
生物活性剤を、該第一のヒドロゲル前駆体もしくは該第二のヒドロゲル前駆体、または両方に添加する工程;ならびに
得られた組織サンプルを該第一のヒドロゲル前駆体および該第二のヒドロゲル前駆体と接触させる工程、
を包含し、
該第一のヒドロゲル前駆体および該第二のヒドロゲル前駆体は、接触の際にヒドロゲルを形成し、そして該生物活性剤は、該ヒドロゲルの形成時の初期pHと生理学的pHとの間のpKaを有する、
方法。
(項目2A)
上記ヒドロゲルが、可視化剤をさらに含む、上記項目に記載の方法。
(項目3A)
上記第一のヒドロゲル前駆体が第一の官能基を有し、そして上記第二のヒドロゲル前駆体が第二の官能基を有する、上記項目のうちのいずれかに記載の方法。
(項目4A)
上記第一の前駆体と上記第二の前駆体との間での架橋反応が容易になるように、該第一の前駆体および該第二の前駆体を、得られた組織サンプルの、ある領域に送達する工程をさらに包含する、上記項目のうちのいずれかに記載の方法。
(項目5A)
上記架橋反応が、約3秒間〜約1分間での上記ヒドロゲルのゲル化をもたらす、上記項目のうちのいずれかに記載の方法。
(項目6A)
生理学的環境が約7.4のpHを有する、上記項目のうちのいずれかに記載の方法。
(項目7A)
上記形成されるヒドロゲルのpHが約5.0〜約9.5である、上記項目のうちのいずれかに記載の方法。
(項目8A)
上記形成されるヒドロゲルのpHが約8.5である、上記項目のうちのいずれかに記載の方法。
(項目9A)
上記生物活性剤のpKaがアルカリ性である、上記項目のうちのいずれかに記載の方法。
(項目10A)
上記第一の緩衝剤もしくは上記第二の緩衝剤、または両方が、少なくとも1つのアルカリ化薬を含有する、上記項目のうちのいずれかに記載の方法。
(項目11A)
上記生物活性剤のpKaが酸性である、上記項目のうちのいずれかに記載の方法。
(項目12A)
上記第一の緩衝剤もしくは上記第二の緩衝剤、または両方が、少なくとも1つの酸性化薬を含有する、上記項目のうちのいずれかに記載の方法。
(項目13A)
第一の前駆体;
第二の前駆体;
該第一の前駆体のための第一の緩衝剤;
該第二の前駆体のための第二の緩衝剤;
生物活性剤;および
該生物活性剤と、該第一の前駆体と、該第二の前駆体とを実質的に同時に送達するためのアプリケータ、
を備える、ヒドロゲルを製造するためのキット。
(項目14A)
第一の緩衝剤と組み合わせられた(combined with)第一の前駆体;
第二の緩衝剤と組み合わせられた第二の前駆体;および
生物活性剤、
を含有するヒドロゲルであって、
該生物活性剤のpKaは、該ヒドロゲルのpHより大きく、そして該第一の緩衝剤もしくは該第二の緩衝剤、または両方のpHは、該ヒドロゲルからの該生物活性剤の放出を増加または減少させるように選択される、
ヒドロゲル。
(項目15A)
上記生物活性剤の放出の増加または減少が、上記ヒドロゲルからの該生物活性剤の放出の速度の増加または減少を含む、上記項目に記載のヒドロゲル。
(項目16A)
上記ヒドロゲルから放出される生物活性剤の量が、投与後約30分〜約4日の時点で増加または減少する、上記項目のうちのいずれかに記載のヒドロゲル。
(項目17A)
上記ヒドロゲルから放出される生物活性剤の量が、投与後約1日〜約60日の時点で増加または減少する、上記項目のうちのいずれかに記載のヒドロゲル。
(項目18A)
上記第一の緩衝剤もしくは上記第二の緩衝剤、または両方のpHが、上記生物活性剤のpKaより大きく、これによって、上記ヒドロゲルからの該生物活性剤の放出が減少する、上記項目のうちのいずれかに記載のヒドロゲル。
(項目19A)
上記第一の緩衝剤もしくは上記第二の緩衝剤、または両方のpHが、上記生物活性剤のpKaより小さく、これによって、上記ヒドロゲルからの該生物活性剤の放出が増加する、上記項目のうちのいずれかに記載のヒドロゲル。
(項目20A)
第一の緩衝剤と組み合わせられた第一の前駆体;
第二の緩衝剤と組み合わせられた第二の前駆体;および
生物活性剤、
を含有するヒドロゲルであって、
該生物活性剤のpKaは、該ヒドロゲルのpHより小さく、そして該第一の緩衝剤もしくは該第二の緩衝剤、または両方のpHは、該ヒドロゲルからの該生物活性剤の放出を増加または減少させるように選択される、
ヒドロゲル。
(項目21A)
上記生物活性剤の放出の増加または減少が、上記ヒドロゲルからの該生物活性剤の放出の速度の増加または減少を含む、上記項目に記載のヒドロゲル。
(項目22A)
上記ヒドロゲルから放出される生物活性剤の量が、投与後約30分〜約4日の時点で増加または減少する、上記項目のうちのいずれかに記載のヒドロゲル。
(項目23A)
上記ヒドロゲルから放出される生物活性剤の量が、投与後約1日〜約60日の時点で増加または減少する、上記項目のうちのいずれかに記載のヒドロゲル。
(項目24A)
上記第一の緩衝剤もしくは上記第二の緩衝剤、または両方のpHが、上記生物活性剤のpKaより小さく、これによって、上記ヒドロゲルからの該生物活性剤の放出が減少する、上記項目のうちのいずれかに記載のヒドロゲル。
(項目25A)
上記第一の緩衝剤もしくは上記第二の緩衝剤、または両方のpHが、上記生物活性剤のpKaより大きく、これによって、上記ヒドロゲルからの該生物活性剤の放出が増加する、上記項目のうちのいずれかに記載のヒドロゲル。
【0005】
本発明はさらに、以下を提供する:
(項目1B)
第一のヒドロゲル前駆体を第一の緩衝剤と接触させる工程;
第二のヒドロゲル前駆体を第二の緩衝剤と接触させる工程;
生物活性剤を、該第一のヒドロゲル前駆体もしくは該第二のヒドロゲル前駆体、または両方に添加する工程;ならびに
組織を該第一のヒドロゲル前駆体および該第二のヒドロゲル前駆体と接触させる工程、
を包含し、
該第一のヒドロゲル前駆体および該第二のヒドロゲル前駆体は、接触の際にヒドロゲルを形成し、そして該生物活性剤は、該ヒドロゲルの形成時の初期pHと生理学的pHとの間のpKaを有する、
方法。
(項目2B)
上記ヒドロゲルの形成が、可視化剤をさらに含む、上記項目に記載の方法。
(項目3B)
上記第一のヒドロゲル前駆体が第一の官能基を有し、そして上記第二のヒドロゲル前駆体が第二の官能基を有する、上記項目のうちのいずれかに記載の方法。
(項目4B)
上記第一の前駆体と上記第二の前駆体との間での架橋反応が容易になるように、該第一の前駆体および該第二の前駆体を組織の、ある領域に送達する工程をさらに包含する、上記項目のうちのいずれかに記載の方法。
(項目5B)
上記架橋反応が、約3秒間〜約1分間での上記ヒドロゲルのゲル化をもたらす、上記項目のうちのいずれかに記載の方法。
(項目6B)
生理学的環境が約7.4のpHを有する、上記項目のうちのいずれかに記載の方法。
(項目7B)
上記形成されるヒドロゲルのpHが約5.0〜約9.5である、上記項目のうちのいずれかに記載の方法。
(項目8B)
上記形成されるヒドロゲルのpHが約8.5である、上記項目のうちのいずれかに記載の方法。
(項目9B)
上記生物活性剤のpKaがアルカリ性である、上記項目のうちのいずれかに記載の方法。
(項目10B)
上記第一の緩衝剤もしくは上記第二の緩衝剤、または両方が、少なくとも1つのアルカリ化薬を含有する、上記項目のうちのいずれかに記載の方法。
(項目11B)
上記生物活性剤のpKaが酸性である、上記項目のうちのいずれかに記載の方法。
(項目12B)
上記第一の緩衝剤もしくは上記第二の緩衝剤、または両方が、少なくとも1つの酸性化薬を含有する、上記項目のうちのいずれかに記載の方法。
(項目13B)
第一の前駆体;
第二の前駆体;
該第一の前駆体のための第一の緩衝剤;
該第二の前駆体のための第二の緩衝剤;
生物活性剤;および
該生物活性剤と、該第一の前駆体と、該第二の前駆体とを実質的に同時に送達するためのアプリケータ、
を備える、ヒドロゲルを製造するためのキット。
(項目14B)
第一の緩衝剤と組み合わせられた第一の前駆体;
第二の緩衝剤と組み合わせられた第二の前駆体;および
生物活性剤、
を含有するヒドロゲルであって、
該生物活性剤のpKaは、該ヒドロゲルのpHより大きく、そして該第一の緩衝剤もしくは該第二の緩衝剤、または両方のpHは、該ヒドロゲルからの該生物活性剤の放出を増加または減少させるように選択される、
ヒドロゲル。
(項目15B)
上記生物活性剤の放出の増加または減少が、上記ヒドロゲルからの該生物活性剤の放出の速度の増加または減少を含む、上記項目に記載のヒドロゲル。
(項目16B)
上記ヒドロゲルから放出される生物活性剤の量が、投与後約30分〜約4日の時点で増加または減少する、上記項目のうちのいずれかに記載のヒドロゲル。
(項目17B)
上記ヒドロゲルから放出される生物活性剤の量が、投与後約1日〜約60日の時点で増加または減少する、上記項目のうちのいずれかに記載のヒドロゲル。
(項目18B)
上記第一の緩衝剤もしくは上記第二の緩衝剤、または両方のpHが、上記生物活性剤のpKaより大きく、これによって、上記ヒドロゲルからの該生物活性剤の放出が減少する、上記項目のうちのいずれかに記載のヒドロゲル。
(項目19B)
上記第一の緩衝剤もしくは上記第二の緩衝剤、または両方のpHが、上記生物活性剤のpKaより小さく、これによって、上記ヒドロゲルからの該生物活性剤の放出が増加する、上記項目のうちのいずれかに記載のヒドロゲル。
(項目20B)
第一の緩衝剤と組み合わせられた第一の前駆体;
第二の緩衝剤と組み合わせられた第二の前駆体;および
生物活性剤、
を含有するヒドロゲルであって、
該生物活性剤のpKaは、該ヒドロゲルのpHより小さく、そして該第一の緩衝剤もしくは該第二の緩衝剤、または両方のpHは、該ヒドロゲルからの該生物活性剤の放出を増加または減少させるように選択される、
ヒドロゲル。
(項目21B)
上記生物活性剤の放出の増加または減少が、上記ヒドロゲルからの該生物活性剤の放出の速度の増加または減少を含む、上記項目に記載のヒドロゲル。
(項目22B)
上記ヒドロゲルから放出される生物活性剤の量が、投与後約30分〜約4日の時点で増加または減少する、上記項目のうちのいずれかに記載のヒドロゲル。
(項目23B)
上記ヒドロゲルから放出される生物活性剤の量が、投与後約1日〜約60日の時点で増加または減少する、上記項目のうちのいずれかに記載のヒドロゲル。
(項目24B)
上記第一の緩衝剤もしくは上記第二の緩衝剤、または両方のpHが、上記生物活性剤のpKaより小さく、これによって、上記ヒドロゲルからの該生物活性剤の放出が減少する、上記項目のうちのいずれかに記載のヒドロゲル。
(項目25B)
上記第一の緩衝剤もしくは上記第二の緩衝剤、または両方のpHが、上記生物活性剤のpKaより大きく、これによって、上記ヒドロゲルからの該生物活性剤の放出が増加する、上記項目のうちのいずれかに記載のヒドロゲル。
【0006】
(摘要)
方法および組成物は、ヒドロゲルのpH移行の速度論を制御することにより、ヒドロゲルからの薬物分子の放出プロフィールを調節することに関する。このヒドロゲルは、インサイチュ重合により形成され、そして形成されるヒドロゲルのpHと、このヒドロゲルが配置される生理学的環境との間のpKaを有する薬物分子を含む。
【0007】
(要旨)
本開示は、ヒドロゲルのpH移行の速度論を制御することによって、このヒドロゲルに含まれる活性薬学的成分の放出プロフィールを調節するヒドロゲルに関する。このヒドロゲルは、第一の緩衝剤と組み合わせられた第一の前駆体、第二の緩衝剤と組み合わせられた第二の前駆体、および生物活性剤を含有する。この生物活性剤のpKaは、このヒドロゲルのpHより大きいかまたは小さくあり得、そしてこの第一の緩衝剤もしくはこの第二の緩衝剤、または両方のpHは、このヒドロゲルからの生物活性剤の放出を増加または減少させるように選択され得る。
【0008】
この生物活性剤のpKaがこのヒドロゲルのpHより大きい実施形態において、この第一の緩衝剤もしくはこの第二の緩衝剤、または両方のpHは、この生物活性剤のpKaより大きくあり得、これによって、このヒドロゲルからの生物活性剤の放出を減少させる。あるいは、この第一の緩衝剤および/または第二の緩衝剤のpHは、この生物活性剤のpKaより小さくあり得、このヒドロゲルからの生物活性剤の放出を増加させる。この生物活性剤のpKaがこのヒドロゲルのpHより小さい実施形態において、この第一の緩衝剤もしくはこの第二の緩衝剤、または両方のpHは、この生物活性剤のpKaより小さく、これによって、このヒドロゲルからの生物活性剤の放出を減少させる。あるいは、この第一の緩衝剤および/または第二の緩衝剤のpHは、この生物活性剤のpKaより大きくあり得、このヒドロゲルからの生物活性剤の放出を増加させる。
【0009】
ヒドロゲルを形成する方法もまた開示される。本開示の方法は、第一のヒドロゲル前駆体を第一の緩衝剤と接触させる工程、第二のヒドロゲル前駆体を第二の緩衝剤と接触させる工程、生物活性剤を、この第一のヒドロゲル前駆体もしくはこの第二のヒドロゲル前駆体、または両方に添加する工程、ならびに組織を第一のヒドロゲル前駆体および第二のヒドロゲル前駆体と接触させる工程を包含する。第一のヒドロゲル前駆体および第二のヒドロゲル前駆体は、接触の際にヒドロゲルを形成し、そして形成されたヒドロゲルの初期pHと、このヒドロゲルが配置される生理学的環境のpHとの間のpKaを有する生物活性剤を含有する。
【0010】
キットが、ヒドロゲルを製造するために利用され得る。このキットは、第一の前駆体、第二の前駆体、第一の前駆体のための第一の緩衝剤、第二の前駆体のための第二の緩衝剤、生物活性剤、およびこの生物活性剤とこの第一の前駆体とこの第二の前駆体とを実質的に同時に送達するためのアプリケータを備え得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、0.75%(w/v)装填したゲルからのブピバカインのインビトロ放出に対する異なるモル濃度の二塩基性リン酸ナトリウムの影響を図示するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
種々の用途(例えば、接着剤、止血剤、封止剤、保護障壁など)に適切なヒドロゲルが、本明細書中に記載される。従って、このヒドロゲルは、組織接着剤、組織封止剤、薬物送達ビヒクル、創傷被覆剤、術後癒着を防止するための障壁、または炎症部位もしくは損傷部位の被覆として機能し得る。このヒドロゲルはまた、空隙もしくは管腔をも満たすボーラスとして、および/または組織表面もしくは三次元形状に適合するコーティングとして、付けられ得る。
【0013】
これらのヒドロゲルは、組織に対する良好な接着性を有し得、インサイチュで形成され得、必要に応じて生分解性であり、そして患者の動き、組織の移動、組織に存在する流体静力学的力などにより引き起こされ得るひずみに耐えるために充分な機械的特性を示し得る。同時に、このヒドロゲル内の高い含水量は、生体適合性のために有用であり得る。
【0014】
特定のヒドロゲル特性(例えば、種々の組織への接着、外科医がヒドロゲルを正確かつ簡便に配置することを可能にするための速い硬化時間、生体適合性のための高い含水量、封止剤として使用するための機械的強度、および/または配置後の分解に抵抗する頑丈さ)は、有用であり得る。容易に滅菌され、天然材料の使用に関与する疾患の伝染の危険を回避している合成材料もまた使用され得る。
【0015】
(ヒドロゲル系の概説)
ヒドロゲルを組織上または組織内で形成するための成分としては、例えば、インサイチュ形成材料が挙げられる。インサイチュ形成材料としては、「インサイチュ」で形成する1つの前駆体または複数の前駆体が挙げられ得、「インサイチュ」とは、生存している動物またはヒトの体内の組織で形成が起こることを意味する。一般に、インサイチュ形成は、組織への塗布の時点で活性化されてインサイチュ形成材料(ある実施形態においては、ヒドロゲル)を形成し得る前駆体を有することによって、達成され得る。
【0016】
インサイチュ形成材料は、共有結合、イオン結合または疎水性結合のいずれかを介して形成され得る。物理的(非共有)架橋は、複合体化、水素結合、脱溶媒和、ファンデルワールス相互作用、イオン結合、これらの組み合わせなどからもたらされ得、そしてインサイチュで組み合わせられるまで物理的に離された2つの前駆体を混合することによってか、または生理学的環境中に存在する条件(温度、pH、イオン強度、これらの組み合わせなどが挙げられる)の結果として、開始され得る。化学的(共有)架橋は、多数の機構(フリーラジカル重合、縮合重合、陰イオン重合または陽イオン重合、段階成長重合、求電子試薬−求核試薬反応、これらの組み合わせなどが挙げられる)のいずれかによって達成され得る。
【0017】
いくつかの実施形態において、インサイチュ形成材料系は、前駆体が混合されると自発的に架橋する生体適合性多前駆体系を含み得るが、ここで2つ以上の前駆体は、堆積プロセスの持続時間にわたって個別に安定である。例えばヒドロゲルについて、このような系は、二官能性アミンまたは多官能性アミンであるマクロマーを含む第一の前駆体、および二官能性または多官能性のオキシラン含有部分を含む第二の前駆体を含む。
【0018】
インサイチュ形成材料を形成するいくつかの実施形態は、表面(例えば、患者の組織)への塗布後に迅速に架橋してインサイチュ形成材料を形成する前駆体を、混合する工程を包含する。
【0019】
ゲル化をもたらす架橋反応は、いくつかの実施形態において、約1秒間〜約5分間以内、ある実施形態においては約3秒間〜約1分間以内の時間で起こり得る。当業者は、これらの明示的に記載される範囲内の全ての範囲および値が想定されることを即座に理解する。いくつかの場合において、ゲル化は、10秒未満で起こり得る。
【0020】
これらの前駆体は、使用前に溶液に入れられ得、この溶液が患者に送達され得る。本開示に従って使用するのに適切な溶液としては、管腔内または空隙内で移植物を形成するために使用され得る溶液が挙げられる。2つの溶液が使用される場合、各溶液が、接触の際に形成されるインサイチュ形成材料の前駆体を1つずつ含有し得る。これらの溶液は、別々に貯蔵され得、そして組織に送達される際に混合され得る。
【0021】
さらに、インサイチュ形成材料系の一部として利用される溶液はいずれも、有害な溶媒も毒性の溶媒も含有するべきではない。ある実施形態において、前駆体は、水などの溶媒に実質的に可溶性であり、緩衝化等張生理食塩水などの生理学的に適合性の溶液中での利用を可能にし得る。水溶性コーティングは、薄膜を形成し得るが、ある実施形態においてはまた、制御された厚さの三次元ゲルを形成し得る。このゲルはまた、生分解性であり得、その結果、このゲルは、身体から回収される必要がない。生分解性とは、本明細書中で使用される場合、通常の生理学的条件下で代謝または排出されるのに充分に小さい分子への、コーティングの予測可能な分解をいう。
【0022】
インサイチュ形成材料系の特性は、意図される用途に従って選択され得る。例えば、インサイチュ形成材料がファローピウス管などの生殖器を一時的に閉塞するために使用されるべきである場合、そのインサイチュ形成材料系が有意な膨潤および生分解を起こすことが望ましくあり得る。あるいは、このインサイチュ形成材料は、血栓特性を有し得るか、またはこのインサイチュ形成材料の前駆体が血液もしくは他の体液と反応して凝塊を形成し得る。
【0023】
他の用途は、インサイチュ形成材料系の異なる特徴を必要とし得る。一般に、これらの材料は、示される生体適合性および毒性がないことに基づいて選択されるべきである。
【0024】
インサイチュ形成材料の特定の特性(種々の組織への接着、外科医がインサイチュ形成材料を正確かつ好都合に配置することを可能にするために望ましい硬化時間、生体適合性のための高い含水量(これは、ヒドロゲルについて重要であり得る)、封止剤において使用するための機械的強度、および/または配置後の崩壊に抵抗するための頑丈さが挙げられる)は、有用であり得る。従って、容易に滅菌されて天然材料の使用に関与する疾患伝染の危険性を回避する合成材料が、使用され得る。実際に、合成前駆体を使用して作製される特定のインサイチュ重合性ヒドロゲルは、当業者の知識の範囲内であり、例えば、市販の製品(例えば、FOCALSEAL(登録商標)(Genzyme,Inc.)、COSEAL(登録商標)(Angiotech Pharmaceuticals)、およびDURASEAL(登録商標)(Confluent Surgical,Inc))において使用されるものなどである。他の公知のヒドロゲルとしては、例えば、米国特許第6,656,200号;同第5,874,500号;同第5,543,441号;同第5,514,379号;同第5,410,016号;同第5,162,430号;同第5,324,775号;同第5,752,974号;および同第5,550,187号に開示されるものが挙げられる。
【0025】
上記のように、インサイチュ形成材料は、1つ以上の前駆体から作製され得る。この前駆体は、例えば、モノマーまたはマクロマーであり得る。1つの型の前駆体は、エチレン性不飽和である官能基を有し得る。エチレン性不飽和官能基は、反応を開始させるための開始剤を使用して重合され得る。少なくとも2つのエチレン性不飽和官能基を有する前駆体は、架橋ポリマーを形成し得る。いくつかの組成物は、1つのみのこのような官能基を有する特定の前駆体、およびこれらの前駆体を架橋させるための複数の官能基を有するさらなる架橋剤前駆体を有する。エチレン性不飽和官能基は、種々の技術(例えば、フリーラジカル重合、縮合重合、または付加重合)によって重合され得る。
【0026】
従って、インサイチュ形成材料は、1つの前駆体から(フリーラジカル重合によってなどで)形成され得るか、あるいは2つの前駆体、または3つ以上の前駆体を用いて作製され得、これらの前駆体のうちの1つ以上が架橋に関与して、インサイチュ形成材料を形成する。
【0027】
ヒドロゲルを形成するために使用され得る他の前駆体は、求電子剤または求核剤である官能基を有し得る。求電子剤は、求核剤と反応して共有結合を形成する。共有結合架橋または共有結合とは、異なるポリマーを互いに共有結合させるように働く、異なるポリマー上の官能基の反応により形成される化学基をいう。特定の実施形態において、第一の前駆体上の求電子性官能基の第一のセットは、第二の前駆体上の求核性官能基の第二のセットと反応し得る。これらの前駆体が、反応を(例えば、pHまたは溶媒に関して)可能にする環境中で混合される場合、これらの官能基は互いに反応して、共有結合を形成する。これらの前駆体のうちの少なくともいくつかが1つより多くの他の前駆体と反応し得る場合、これらの前駆体は架橋される。例えば、第一の型の2つの官能基を有する前駆体が、この第一の型の官能基と反応し得る第二の型の少なくとも3つの官能基を有する架橋前駆体と反応し得る。
【0028】
上記のように、インサイチュ形成材料は、ヒドロゲルであり得る。ある実施形態において、このヒドロゲルは、1つの前駆体または複数の前駆体から形成され得る。例えば、ヒドロゲルが複数の前駆体(例えば、2つの前駆体)から形成される場合、これらの前駆体は、第一のヒドロゲル前駆体および第二のヒドロゲル前駆体と称され得る。用語「第一のヒドロゲル前駆体」および「第二のヒドロゲル前駆体」の各々は、架橋分子の網目構造(例えば、ヒドロゲル)を形成する反応に関与し得る、ポリマー、機能性ポリマー、高分子、低分子、または架橋剤を意味する。
【0029】
ある実施形態において、第一のヒドロゲル前駆体および第二のヒドロゲル前駆体の各々は、求核性前駆体と求電子性前駆体との両方が架橋反応において使用される限り、1つのみのカテゴリーの官能基(求核性基のみまたは求電子性官能基のみのいずれか)を含む。従って、例えば、第一のヒドロゲル前駆体が求核性官能基(例えば、アミン)を有する場合、第二のヒドロゲル前駆体は、求電子性官能基(例えば、N−ヒドロキシスクシンイミド)を有し得る。他方で、第一のヒドロゲル前駆体が求電子性官能基(例えば、スルホスクシンイミド)を有する場合、第二のヒドロゲル前駆体は、求核性官能基(例えば、アミンまたはチオール)を有し得る。従って、機能性ポリマー(例えば、タンパク質、ポリ(アリルアミン)、スチレンスルホン酸、またはアミン末端を有する二官能性もしくは多官能性のポリ(エチレングリコール)(「PEG」))が使用され得る。
【0030】
第一のヒドロゲル前駆体および第二のヒドロゲル前駆体は、生物学的に不活性な水溶性コアを有し得る。このコアが水溶性であるポリマー領域である場合、使用され得る適切なポリマーとしては、ポリエーテル(例えば、ポリアルキレンオキシド(例えば、ポリエチレングリコール(「PEG」)、ポリエチレンオキシド(「PEO」)、ポリエチレンオキシド−co−ポリプロピレンオキシド(「PPO」)、co−ポリエチレンオキシドのブロックコポリマーもしくはランダムコポリマー))、およびポリビニルアルコール(「PVA」);ポリ(ビニルピロリジノン)(「PVP」);ポリ(アミノ酸);ポリ(サッカリド)(例えば、デキストラン;キトサン;アルギネート;カルボキシメチルセルロース;酸化セルロース;ヒドロキシエチルセルロース;ヒドロキシメチルセルロース;ヒアルロン酸);ならびにタンパク質(例えば、アルブミン、コラーゲン、カゼイン、およびゼラチン)が挙げられる。ポリエーテル、より特定すると、ポリ(オキシアルキレン)またはポリ(エチレングリコール)すなわちポリエチレングリコールが、いくつかの実施形態において利用され得る。分子の性質としてコアが小さい場合、種々の親水性官能基のうちの任意のものが、第一のヒドロゲル前駆体および第二のヒドロゲル前駆体を水溶性にするために使用され得る。ある実施形態において、ヒドロキシル、アミン、スルホネートおよびカルボキシレートなどの官能基(これらは、水溶性である)が、前駆体を水溶性にするために使用され得る。例えば、スベリン酸(subaric acid)のN−ヒドロキシスクシンイミド(「NHS」)エステルは、水に不溶性であるが、そのスクシンイミド環にスルホネート基を付加させことによって、スベリン酸(subaric acid)のNHSエステルは、アミン基に対する反応性に影響を与えることなく、水溶性にされ得る。
【0031】
ある実施形態において、第一のヒドロゲル前駆体および第二のヒドロゲル前駆体のうちの少なくとも一方は、架橋剤である。ある実施形態において、第一のヒドロゲル前駆体および第二のヒドロゲル前駆体のうちの少なくとも一方は高分子であり、そして本明細書中で、「機能性ポリマー」と称され得る。
【0032】
第一のヒドロゲル前駆体および第二のヒドロゲル前駆体の各々は、多官能性であり得る。このことは、その前駆体が2つ以上の求電子性官能基または求核性官能基を含み得、その結果、例えば、第一のヒドロゲル前駆体上の求核性官能基が第二のヒドロゲル前駆体上の求電子性官能基と反応し得、共有結合を形成し得ることを意味する。第一のヒドロゲル前駆体または第二のヒドロゲル前駆体のうちの少なくとも一方は、2つより多くの官能基を含み、その結果、求電子−求核反応の結果として、これらの前駆体が化合して架橋ポリマー生成物を形成する。
【0033】
ある実施形態において、多官能性求核ポリマー(例えば、トリリジン)が第一のヒドロゲル前駆体として使用され得、そして多官能性求電子ポリマー(例えば、複数のNHS基で官能基化されたマルチアームPEG)が第二のヒドロゲル前駆体として使用され得る。複数のNHS基で官能基化されたマルチアームPEGは、例えば、4つ、6つまたは8つのアームを有し得、そして約5,000〜約25,000の分子量を有し得る。適切な第一のヒドロゲル前駆体および第二のヒドロゲル前駆体の他の例は、米国特許第6,152,943号;同第6,165,201号;同第6,179,862号;同第6,514,534号;同第6,566,406号;同第6,605,294号;同第6,673,093号;同第6,703,047号;同第6,818,018号;同第7,009,034号;および同第7,347,850号に記載されており、これらの各々の全開示は、本明細書中に参考として援用される。
【0034】
ある実施形態において、官能基の間に存在する生分解性結合を有する1つ以上の前駆体が、ヒドロゲルを生分解性または吸収性にするために含まれ得る。いくつかの実施形態において、これらの結合は、例えば、エステルであり得、これらの結合は、生理学的溶液中で加水分解により分解され得る。このような結合の使用は、タンパク質分解作用によって分解され得るタンパク質結合とは対照的である。生分解性結合はまた、必要に応じて、前駆体のうちの1つ以上の水溶性コアの一部を形成し得る。あるいは、またはさらに、前駆体の官能基は、これらの官能基間の反応生成物が生分解性結合をもたらすように選択され得る。各アプローチについて、生分解性結合は、得られる生分解性の生体適合性架橋ポリマーが所望の期間で分解するかまたは吸収されるように、選択され得る。一般に、ヒドロゲルを生理学的条件下で非毒性または低毒性の生成物に分解する、生分解性結合が選択され得る。
【0035】
ある実施形態において、インサイチュ形成材料はまた、開始剤を含み得る。開始剤は、インサイチュ形成材料の形成のための重合反応を開始させ得る任意の前駆体または基であり得る。
【0036】
(ポリマーの調製)
架橋ポリマーヒドロゲルを形成するための反応条件は、官能基の性質に依存する。ある実施形態において、反応は、約3〜約12、ある実施形態においては約5〜約9のpHの緩衝化水溶液中で実施される。緩衝剤(buffer)としては、例えば、ホウ酸ナトリウム緩衝剤(pH10)およびトリエタノールアミン緩衝剤(pH7)が挙げられる。いくつかの実施形態において、反応速度を改善するため、または与えられる処方物の粘度を調節するために、有機溶媒(例えば、エタノールまたはイソプロパノール)が添加され得る。
【0037】
架橋剤および機能性ポリマーが合成物質である場合(例えば、これらがポリアルキレンオキシドベースである場合)、モル当量のこれらの反応物質を使用することが望ましくあり得る。いくつかの場合において、副反応(例えば、官能基の加水分解に起因する反応)を補償するために、モル過剰の架橋剤が添加され得る。
【0038】
合成架橋ゲルは、生分解性領域の加水分解に起因して分解する。合成ペプチド配列を含むゲルの分解は、特異的酵素およびその濃度に依存する。いくつかの場合において、特異的酵素は、架橋反応中に添加されて、分解プロセスを加速させ得る。
【0039】
架橋剤と架橋性ポリマーとを選択する場合、得られる生体適合性架橋ポリマーが生分解性であることが望ましい場合には、これらのポリマーのうちの少なくとも1つは、1分子あたり2つより多くの官能基および少なくとも1つの生分解性領域を有し得る。ある実施形態において、各生体適合性架橋ポリマー前駆体は、2つより多くの官能基を有し得、そしていくつかの実施形態においては、4つより多くの官能基を有し得る。
【0040】
得られる生体適合性架橋ポリマーの架橋密度は、架橋剤および機能性ポリマーの全体の分子量、ならびに1分子あたりで利用可能な官能基の数によって、制御され得る。架橋剤間での低い分子量(例えば、600Da)は、より高い分子量(例えば、10,000Da)と比較して、かなりより高い架橋密度を与える。3,000Daより大きい分子量を有する高分子量機能性ポリマーを用いて、弾性ゲルが得られ得る。
【0041】
架橋密度はまた、架橋剤と機能性ポリマーとの溶液の全体的な固形分%によって制御され得る。固形分%が増加すると、加水分解による不活性化の前に求電子性基が求核性基と化合する可能性が増大する。架橋密度を制御するなお別の方法は、求核性基対求電子性基の化学量論を調節することによる。1:1の比が最高の架橋密度をもたらし得るが、反応性官能基の他の比(例えば、求電子剤:求核剤)が、所望の処方物に合うことが想定される。
【0042】
上記のような生分解性架橋剤または低分子は、タンパク質(例えば、アルブミン、他の血清タンパク質、または血清濃縮物)と反応して、架橋ポリマー網目構造を生成し得る。一般に、架橋剤の水溶液がタンパク質の濃厚溶液と混合されて、架橋ヒドロゲルを生成し得る。この反応は、緩衝剤(例えば、ホウ酸緩衝剤またはトリエタノールアミン)を架橋工程中に添加することによって、加速され得る。
【0043】
得られる架橋ヒドロゲルの分解は、架橋剤中の生分解性セグメントおよび酵素による分解に依存する。いかなる分解性酵素も存在しない場合、その架橋ポリマーは専ら、生分解性セグメントの加水分解により分解し得る。ポリグリコレートが生分解性セグメントとして使用される実施形態において、その架橋ポリマーは、その網目構造の架橋密度に依存して、約1日〜約30日で分解し得る。同様に、ポリカプロラクトンベースの架橋網目構造が使用される実施形態において、分解は、約1ヶ月〜約8ヶ月の期間にわたって起こり得る。分解時間は、一般に、使用される分解性セグメントの型によって、ポリグリコレート<ポリラクテート<ポリトリメチレンカーボネート<ポリカプロラクトンの順序で変動する。従って、適切な分解性セグメントを使用して、所望の分解プロフィール(数日〜数ヶ月)を有するヒドロゲルを構築することが可能である。
【0044】
生分解性ブロック(例えば、オリゴヒドロキシ酸ブロックまたはPLURONICもしくはTETRONICポリマーにおける疎水性PPOブロック)により生じる疎水性は、小さい有機薬物分子を溶解する際に役立ち得る。生分解性ブロックまたは疎水性ブロックの組み込みにより影響を受ける他の特性としては、水吸収性、機械的特性および感熱性が挙げられる。
【0045】
(インサイチュ重合)
前駆体架橋反応をインサイチュで起こすのに適切な処方物が調製され得る。一般に、このことは、組織への塗布の時点で活性化されて架橋ヒドロゲルを形成し得る前駆体を有することによって、達成され得る。活性化は、組織への前駆体の塗布前、塗布中または塗布後に行われ得るが、ただし、この前駆体は、架橋および付随するゲル化が進行しすぎる前に、組織の形状に適合する。活性化としては、例えば、重合プロセスの誘発、フリーラジカル重合の開始、または互いに反応する前駆体と官能基とを混合することが挙げられる。従って、インサイチュ重合は、化学部分を活性化させて共有結合を形成し、不溶性材料(例えば、ヒドロゲル)を、この材料が患者の表面もしくは内部、または表面と内部との両方に配置されるべき位置で、生成することを包含する。インサイチュ重合性ポリマーは、患者内でポリマーを形成するように反応させられ得る前駆体から調製され得る。従って、求電子性官能基を有する前駆体は、求核性官能基を有する前駆体と混合され得るか、または求核性官能基を有する前駆体の存在下で他の様式で活性化され得る。他の実施形態において、エチレン性不飽和基を有する前駆体は、患者の組織上でインサイチュで重合を開始され得る。
【0046】
組織をコーティングすることに関して、本開示を特定の操作理論に限定せずに、組織表面との接触後に迅速に架橋する反応性前駆体種は、コーティングされる組織と機械的に相互ロックされた三次元構造を形成し得ると考えられる。この相互ロックは、接着性、密接な接触、および組織のコーティングされる領域の連続的な被覆に寄与する。ゲル化をもたらす架橋反応は、いくつかの実施形態においては約1秒間〜約5分間の時間以内、ある実施形態においては約3秒間〜約1分間の時間以内で起こり得る。当業者は、これらの明白に記載される範囲内の全ての範囲および値が想定されることを即座に理解する。例えば、ある実施形態において、本開示によるヒドロゲルのインサイチュゲル化時間は、約20秒未満であり、そしていくつかの実施形態において、約10秒未満であり、そしてなお他の実施形態において、約5秒未満である。求電子性前駆体が使用される実施形態において、このような前駆体は、組織内の遊離アミンと反応し得、これによって、ヒドロゲルを組織に付着させるための手段として働き得る。
【0047】
(可視化剤)
前駆体および/または架橋ポリマーは、可視化剤を含有して、外科手術手順中の可視性を改善し得る。可視化剤は、移植可能な医療デバイスにおける使用に適切な、種々の非毒性有色物質(例えば、色素)から選択され得る。適切な色素は、当業者の知識の範囲内であり、そして例えば、ヒドロゲルがインサイチュで形成される際にそのヒドロゲルの厚さを可視化するための色素(例えば、米国特許第7,009,034号に記載される)が挙げられ得る。いくつかの実施形態において、適切な色素としては、例えば、FD&C Blue #1、FD&C Blue #2、FD&C Blue #3、FD&C Blue #6、D&C Green #6、メチレンブルー、インドシアニングリーン、他の有色色素、およびこれらの組み合わせが挙げられ得る。さらなる可視化剤(例えば、蛍光性化合物(例えば、フルオレセインまたはエオシン)、x線造影剤(例えば、ヨウ素化化合物)、超音波造影剤、およびMRI造影剤(例えば、ガドリニウム含有化合物))が使用され得ることが想定される。
【0048】
可視化剤は、架橋剤中に存在しても機能性ポリマー溶液中に存在しても、いずれでもよい。有色物質は、生体適合性架橋ポリマーに組み込まれても組み込まれなくてもよい。しかし、ある実施形態においては、可視化剤は、架橋剤または機能性ポリマーと反応し得る官能基を有さない。
【0049】
可視化剤は、少量(ある実施形態においては、1%(重量/体積)未満、そして他の実施形態においては、0.01%(重量/体積)未満、そしてなお他の実施形態においては、0.001%(重量/体積)未満の濃度)で使用され得る。
【0050】
(生物活性剤の送達)
本発明の前駆体(例えば、上記架橋剤および機能性ポリマー)、ならびにこれらの反応生成物は、薬物療法または生物活性剤の送達のために使用され得る。本明細書中で使用される場合、生物活性剤は、治療効果または予防効果を提供する任意の活性な薬学的成分または薬物を包含し、組織成長または細胞分化に影響を与えるかまたは関与する化合物、生物学的作用(例えば、免疫応答)を惹起し得る化合物、あるいは1つ以上の生物学的プロセスにおいて他の任意の役割を果たし得る化合物が使用され得る。架橋ポリマーまたはゲルに添加されてそこから送達され得る生物活性剤または薬物化合物としては、タンパク質、グリコサミノグリカン、炭水化物、核酸、ならびに生物学的に活性な無機化合物および有機化合物が挙げられる。
【0051】
薬物ならびにこれらの薬物の代替の形態(例えば、塩形態、遊離酸形態、遊離塩基形態、および水和物)の例としては、以下のものが挙げられる:抗微生物剤(例えば、セファロスポリン類(例えば、セファゾリンナトリウム、セフラジン、セファクロル、セファピリンナトリウム、セフチゾキシムナトリウム、セフォペラゾンナトリウム、セフォテタン二ナトリウム、セフロキシム アキセチル、セフォタキシムナトリウム、セファドロキシル一水和物、セファレキシン、セファロチンナトリウム、塩酸セファレキシン一水和物、セファマンドールナファート、セフォキシチンナトリウム、セフォニシドナトリウム、セフォラニド、セフトリアキソンナトリウム、セフタジジム、セファドロキシル、セフラジンおよびセフロキシムナトリウム);ペニシリン類(例えば、アンピシリン、アモキシシリン、ペニシリンGベンザチン、シクラシリン、アンピシリンナトリウム、ペニシリンGカリウム、ペニシリンVカリウム、ピペラシリンナトリウム、オキサシリンナトリウム、バカンピシリン塩酸塩、クロキサシリンナトリウム、チカルシリン二ナトリウム、アゾロシリンナトリウム、カルベニシリンインダニルナトリウム、ペニシリンGプロカイン、メチシリンナトリウムおよびナフシリンナトリウム);エリスロマイシン類(例えば、エリスロマイシンエチルコハク酸塩、エリスロマイシン、エリスロマイシンエストレート(estolate)、エリスロマイシンラクトビオン酸塩、エリスロマイシンステアリン酸塩およびエリスロマイシンエチルコハク酸塩);およびテトラサイクリン類(例えば、テトラサイクリン塩酸塩、ドキシサイクリン塩酸塩(hyclate)およびミノサイクリン塩酸塩、アジスロマイシン、およびクラリスロマイシン));鎮痛薬/解熱薬(例えば、アスピリン、アセトアミノフェン、イブプロフェン、ナプロキセンナトリウム、ブプロノルフィン、プロポキシフェン塩酸塩、プロポキシフェンナプシレート、メペリジン塩酸塩、ヒドロモルホン塩酸塩、モルヒネ、オキシコドン、コデイン、ジヒドロコデイン酒石酸水素塩、ペンタゾシン、ヒドロコドン酒石酸水素塩、レボルファノール、ジフルニサル、サリチル酸トロラミン、ナルブフィン塩酸塩、メフェナム酸、ブトルファノール、サリチル酸コリン、ブタルビタール(butalbital)、フェニルトロキサミンクエン酸塩、ジフェンヒドラミンクエン酸塩、メトトリメプラジン、シンナメドリン塩酸塩およびメプロバメート);麻酔薬;鎮痙薬;抗ヒスタミン薬;非ステロイド性抗炎症薬(例えば、インドメタシン、ケトプロフェン、フルルビプロフェン、ナプロキセン、イブプロフェン、ラミフェナゾン、およびピロキシカム;ステロイド性抗炎症薬(例えば、コルチゾン、デキサメタゾン、フルアザコート、セレコキシブ、ロフェコキシブ、ヒドロコルチゾン、プレドニゾロンおよびプレドニゾン);心臓血管薬(例えば、冠状血管拡張薬およびニトログリセリン);診断剤;コリン様作用薬;抗ムスカリン薬;筋弛緩薬;アドレナリン作用性ニューロン遮断薬;神経伝達物質;抗腫瘍薬(例えば、シクロホスファミド、アクチノマイシン、ブレオマイシン、ダウノルビシン、塩酸ドキソルビシン、エピルビシン、マイトマイシン、メトトレキサート、フルオロウラシル、カルボプラチン、カルムスチン(BCNU)、メチル−CCNU、シスプラチン、エトポシド、カンプトテシンおよびその誘導体、フェネステリン、パクリタキセルおよびその誘導体、ドセタキセルおよびその誘導体、ビンブラスチン、ビンクリスチン、タモキシフェン、ならびにピポスルファン);免疫抑制剤(例えば、シクロスポリン、アザチオプリン、ミゾリビンおよびFK506(タクロリムス));胃腸薬;利尿薬;脂質;リポ多糖類;多糖類;酵素;非ステロイド性抗受精剤;副交感神経様作用剤;精神療法剤;精神活性剤;トランキライザ;うっ血除去薬;鎮静催眠薬(例えば、バルビツール酸類(例えば、ペントバルビタールおよびセコバルビタール);およびベンゾジアゼピン(benzodiazapine)類(例えば、フラゼパム塩酸塩、トリアゾラムおよびミダゾラム));ステロイド;スルホンアミド;ビタミン;抗マラリア薬;抗片頭痛剤(例えば、エルゴタミン、プロプラノロール(propanolol)、ムチン酸イソメテプテンおよびジクロラルフェナゾン);抗パーキンソン剤(例えば、L−ドパおよびエトスクシミド);鎮咳薬;気管支拡張薬(例えば、交感神経作用薬(例えば、エピネフリン塩酸塩、メタプロテレノール硫酸塩、テルブタリン硫酸塩、イソエタリン、イソエタリンメシル酸塩、イソエタリン塩酸塩、アルブテロール硫酸塩、アルブテロール、ビトルテロルメシレート、イソプレテレノール塩酸塩、テルブタリン硫酸塩、エピネフリン酒石酸水素塩、メタプロテレノール硫酸塩、エピネフリンおよびエピネフリン酒石酸水素塩);抗コリン作用薬(例えば、オキシブチニンおよび臭化イプラトロピウム);キサンチン類(例えば、アミノフィリン、ジフィリン、メタプロテレノール硫酸塩、およびアミノフィリン);肥満細胞安定化剤(例えば、クロモリンナトリウム);吸入用コルチコステロイド(例えば、二プロピオン酸ベクロメタゾン(BDP)および二プロピオン酸ベクロメタゾン一水和物);サルブタモール;臭化イプラトロピウム;ブデソニド;ケトチフェン;サルメテロール;キナフォエート;テルブタリン硫酸塩;トリアムシノロン;テオフィリン;ネドクロミルナトリウム;メタプロテレノール硫酸塩;フルニソリド;プロピオン酸フルチカゾン);脈管形成剤;抗脈管形成剤;アルカロイド;鎮痛薬;麻酔薬(例えば、コデイン、ジヒドロコデイノン、メペリジン、モルヒネなど);オピオイドレセプターアンタゴニスト(例えば、ナルトレキソンおよびナロキソン);抗がん剤;化学療法剤;鎮痙薬;鎮吐剤(例えば、塩酸メクリジン、ナビロン、プロクロルペラジン、ジメンヒドリネート、塩酸プロメタジン、チエチルペラジン、およびスコポラミン);抗ヒスタミン薬(antihistimine)(例えば、ヒドロキシジン、ジフェンヒドラミン、クロルフェニラミン、マレイン酸ブロモフェニラミン、シプロフェプタジン塩酸塩、テルフェナジン、フマル酸クレマスチン、トリプロリジン、カルビノキサミン、ジフェニルピラリン、フェニンダミン、アザタジン、トリペレナミン、マレイン酸デキシクロルフェニラミンおよびメチジラジン);抗炎症薬(例えば、ホルモン薬、ヒドロコルチゾン、非ホルモン薬、アロプリノール、インドメタシン、フェニルブタゾン(phenylbutzone)など);プロスタグランジンおよび細胞毒性薬;生殖器官に影響する薬;エストロゲン;抗菌薬(例えば、硫酸アミカシン、アズトレオナム、クロラムフェニコール、パルミチン酸クロラムフェニコール(chloramphenicol palirtate)、シプロフロキサシン、クリンダマイシン、パルミチン酸クリンダマイシン、リン酸クリンダマイシン、メトロニダゾール、塩酸メトロニダゾール、硫酸ゲンタマイシン、塩酸リンコマイシン、硫酸トブラマイシン、塩酸バンコマイシン、硫酸ポリミキシンB、コリスチンメタナトリウム、および硫酸コリスチン);抗体;抗生物質(例えば、ネオマイシン、ストレプトマイシン、クロラムフェニコール、セファロスポリン、アンピシリン、ペニシリン、テトラサイクリン、およびシプロフロキサシン);抗真菌薬(例えば、グリセオフルビン、ケトコナゾール、イトラコナゾール(itraconizole)、アンホテリシンB、ナイスタチン、およびカンジシジン);抗ウイルス薬(例えば、インターフェロンα、βまたはγ、ジドブジン、塩酸アマンタジン、リバビリン、およびアシクロビル);抗血液凝固薬(例えば、ヘパリン、ヘパリンナトリウム、およびワルファリンナトリウム);抗うつ薬(例えば、ネオパム、オキシペルチン、ドキセピン、アモキサピン、トラゾドン、アミトリプチリン、マプロチリン、フェニルジン(phenylzine)、デシプラミン、ノルトリプチリン、トラニルシプロミン、フルオキセチン、ドキセピン、イミプラミン、イミプラミンパモエート、イソカルボキサジド(isocarboxazid)、トリミプラミン、およびプロトリプチリン);免疫学的薬剤(immunological agents);ぜん息治療薬(例えば、ケトチフェンおよびトラキサノクス);抗糖尿病薬(例えば、ビグアナイド類およびスルホニル尿素誘導体類);抗高血圧薬(例えば、プロプラノロール(propanolol)、プロパフェノン、オキシプレノロール(oxyprenolol)、ニフェジピン、レセルピン、トリメタファン、フェノキシベンザミン、塩酸パルジリン、デセルピジン、ジアゾキシド、硫酸グアネチジン(guanethidine monosulfate)、ミノキシジル、レシンナミン、ニトロプルシドナトリウム、インドジャボク(rauwolfia serpentina)、アルセロキシロン、およびフェントラミン);抗不安薬(例えば、ロラゼパム、ブスピロン、プラゼパム、クロルジアゼポキシド、オキサゼパム、クロラゼペート二カリウム塩、ジアゼパム、ヒドロキシジンパモエート、塩酸ヒドロキシジン、アルプラゾラム、ドロペリドール、ハラゼパム、クロルメザノン、およびダントロレン);抗狭心症薬(例えば、β−アドレナリン遮断薬;カルシウムチャネル遮断薬(例えば、ニフェジピンおよびジルチアゼム);硝酸類(例えば、ニトログリセリン、イソソルビドジニトレート、ペンタエリトリトールテトラニトレート、およびエリトリチルテトラニトレート);抗精神病薬(例えば、ハロペリドール、コハク酸ロクサピン、塩酸ロクサピン、チオリダジン、塩酸チオリダジン、チオチキセン、フルフェナジン、デカン酸フルフェナジン、エナント酸フルフェナジン、トリフルオペラジン、クロルプロマジン、パーフェナジン、クエン酸リチウム、およびプロクロルペラジン);抗躁病薬(例えば、炭酸リチウム);抗不整脈薬(例えば、ブレチリウムトシレート、エスモロール、ベラパミル、アミオダロン、エンカイニド、ジゴキシン、ジギトキシン、メキシレチン、リン酸ジソピラミド、プロカインアミド、硫酸キニジン、キニジングルコネート(quinidine gluconate)、キニジンポリガラクツロネート(quinidine polygalacturonate)、酢酸フレカイニド、トカイニド、およびリドカイン);抗関節炎薬(例えば、フェニルブタゾン、スリンダク、ペニシラミン(penicillanine)、サルサラート、ピロキシカム、アザチオプリン、インドメタシン、メクロフェナメート(meclofenamate)、金チオリンゴ酸ナトリウム、ケトプロフェン、オーラノフィン、金チオグルコース、およびトルメチンナトリウム);抗痛風薬(例えば、コルヒチンおよびアロプリノール);血栓溶解薬(例えば、ウロキナーゼ、ストレプトキナーゼ、およびアルテプラーゼ);抗線維素溶解薬(例えば、アミノカプロン酸);血液レオロジー剤(例えば、ペントキシフィリン);抗血小板薬(例えば、アスピリン);抗痙攣薬(例えば、バルプロ酸、ジバルプロックスナトリウム、フェニトイン(phenyloin)、フェニトインナトリウム(phenyloin sodium)、クロナゼパム、プリミドン、フェノバルビタール(phenobarbitol)、カルバマゼピン、アモバルビタールナトリウム、メトスクシミド、メタルビタール、メフォバルビタール、メフェニトイン、フェンスクシミド、パラメタジオン、エトトイン、フェナセミド、セコバルビタールナトリウム(secobarbitol sodium)、クロラゼペート二カリウム塩、およびトリメタジオン);カルシウム調節に有用な薬剤(例えば、カルシトニンおよび副甲状腺ホルモン);抗感染症薬(例えば、GM−CSF);ステロイド化合物およびホルモン(例えば、ダナゾール、テストステロンシピオネート、フルオキシメステロン、エチルテストステロン、エナント酸テストステロン(testosterone enathate)、メチルテストステロン、

フルオキシメステロン、およびテストステロンシピオネートなどのアンドロゲン;エストラジオール、エストロピペート(estropipate)、および抱合卵胞ホルモン(conjugated estrogens)などのエストロゲン);プロゲスチン(例えば、酢酸メトキシプロゲステロン(methoxyprogesterone acetate)および酢酸ノルエチンドロン);コルチコステロイド(例えば、トリアムシノロン、ベタメタゾン、リン酸ベタメタゾンナトリウム(betamethasone sodium phosphate)、デキサメタゾン、リン酸デキサメタゾンナトリウム(dexamethasone sodium phosphate)、酢酸デキサメタゾン、プレドニゾン、酢酸プレドニゾロン懸濁物、トリアムシノロンアセトニド、メチルプレドニゾロン、リン酸プレドニゾロンナトリウム、コハク酸メチルプレドニゾロンナトリウム(methylprednisolone sodium succinate)、コハク酸ヒドロコルチゾンナトリウム、トリアムシノロンヘキサセトニド、ヒドロコルチゾン、ヒドロコルチゾンシピオネート、プレドニソロン、酢酸フルドロコルチゾン、酢酸パラメタゾン、プレドニゾロンテブテート、酢酸プレドニゾロン、リン酸プレドニゾロンナトリウム、およびコハク酸ヒドロコルチゾンナトリウム);および甲状腺ホルモン(例えば、レボチロキシンナトリウム(levothyroxine sodium));血糖降下薬(例えば、ヒトインスリン、精製ウシインスリン、精製ブタインスリン、グリブリド、クロルプロパミド、グリピジド、トルブタミド、およびトラザミド);高脂質血症薬剤(hypolipidemic agents)(例えば、クロフィブレート、デキストロサイロキシンナトリウム、プロブコール、プラバスタチン (pravastitin)、アトルバスタチン、ロバスタチン、およびナイアシン);赤血球生成刺激に有用な薬剤(例えば、エリトロポイエチン);および抗潰瘍/抗逆流剤(例えば、ファモチジン、シメチジン、および塩酸ラニチジン)。
【0052】
適切な生理活性剤の他の例は以下が挙げられる。ウィルスおよび細胞;ペプチド;ポリペプチドおよびタンパク質;アナログ;バクテリオファージ;ムテインおよびそれらの活性フラグメント、例えば、免疫グロブリン、抗体、およびサイトカイン(例えば、 リンフォカイン、モノカイン、およびケモカイン);血液凝固因子;造血因子;インターロイキン(例えば、IL−2、IL−3、IL−4、IL−6);インターフェロン(例えば、β−IFN、(α−IFNおよびγ−IFN));エリトロポイエチン;ヌクレアーゼ;腫瘍壊死因子;コロニー刺激因子(例えば、GCSF、GM−CSF、およびMCSF);インスリン;抗腫瘍薬および腫瘍抑制薬;血液タンパク質;ゴナドトロピン(例えば、FSH、LH、CG、など);ホルモンおよびホルモンアナログ(例えば、成長ホルモン);ワクチン(例えば、腫瘍性抗原、細菌性抗原およびウィルス性抗原);ソマトスタチン;抗原;血液凝固因子;成長因子(例えば、神経発育因子およびインスリン様成長因子);タンパク質(例えば、DNase、アルギナーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ、およびリパーゼ);タンパク質阻害剤、タンパク質アンタゴニスト、およびタンパク質アゴニスト;核酸(治療に有用な任意のタンパク質(例えば、本明細書に記載される任意のタンパク質が挙げられる)をコードするセンスまたはアンチセンス核酸、DNA、およびRNA);オリゴヌクレオチド;ポリヌクレオチド;およびリボザイム。
【0053】
本明細書中に記載される組成物および方法において有用な他の生理活性剤は以下が挙げられる。ミトーテン、ハロニトロソ尿素(halonitrosoureas)、アントラサイクリン(anthrocyclines)、エリプチシン(ellipticine)、セフタジジム、オキサプロジン、バラシクロビル、ファムシクロビル、フルタミド、エナラプリル、メトホルミン(mefformin)、イトラコナゾール、ガバペンチン、ホシノプリル、トラマドール、アカルボース、ロラゼパム(lorazepan)、ホリトロピン、オメプラゾール、リシノプリル、トラマドール(tramsdol)、レボフロキサシン、ザフィルルーカスト、顆粒球刺激因子、ニザチジン、ブプロピオン、ペリンドプリル、エルブミン(erbumine)、アデノシン、アレンドロネート(alendronate)、アルプロスタジル、ベタキソロール、硫酸ブレオマイシン、デキスフェンフルラミン、フェンタニル、ゲムシタビン、酢酸グラチラマー(glatiramer acetate)、グラニセトロン、ラミブジン、マンガフォジピール三ナトリウム(mangafodipir trisodium)、メサラミン(mesalamine)、フマル酸メトプロロール、ミグリトール(miglitol)、モエキシプリル(moexiprill)、モンテルカスト、酢酸オクトレオチド、オロパタジン、パリカルシトール(paricalcitol)、ソマトロピン、コハク酸スマトリプタン(sumatriptan succinate)、タクリン、ナブメトン、トロバフロキサシン(trovafloxacin)、ドラセトロン(dolasetron)、フィナステリド、イスラジピン(isradipine)、トルカポン(tolcapone)、エノキサパリン、フルコナゾール、ランソプラゾール、パミドロネート、ジダノシン、ジクロフェナク、シサプリド、ベンラファキシン、トログリタゾン、フルバスタチン、ロサルタン、イミグルセラーゼ、ドネペジル、オランザピン、バルサルタン、フェキソフェナジン、アダパレン(adapalene)、メシル酸ドキサゾシン、フロ酸モメタゾン(mometasone furoate)、ウルソジオール、フェロジピン、塩酸ネファドゾン、バルルビシン(valrubicin)、アルベンダゾール、酢酸メドロキシプロゲステロン、塩酸ニカルジピン、酒石酸ゾルピデム、ルビテカン(rubitecan)、アムロジピンベシレート/塩酸ベナザプリル、塩酸パロキセチン、ポドフィロックス、プラミペキソール二塩酸塩(pramipexole dihydrochloride)、フマル酸クエチアピン、カンデサルタン、シレキセチル(cilexetil)、リトナビル、ブスルファン、フルマゼニル、リスペリドン、カルバマゼピン(carbemazepine)、カルビドパ、レボドパ、ガンシクロビル、サキナビル、アンプレナビル、塩酸セルトラリン、クロブスタゾール(clobustasol)、ジフルコルトロン、プロピオン酸ハロベタゾール(halobetasolproprionate)、クエン酸シルデナフィル、クロルタリドン、イミキモッド、シンバスタチン、シタロプラム、塩酸イリノテカン、スパルフロキサシン、エファビレンツ(efavirenz)、塩酸タムスロシン、モファフィニル(mofafinil)、レトロゾール(letrozole)、塩酸テルビナフィン、マレイン酸ロシグリタゾン(rosiglitazone maleate)、塩酸ロメフロキサシン、塩酸チロフィバン、テルミサルタン、ジアゼパム(diazapam)、ロラタジン、クエン酸トレミフェン、サリドマイド、ジノプロストン、塩酸メフロキン、トランドラプリル、塩酸ミトザントロン、トレチノイン、エトドラク、メシル酸ネルフィナビル(nelfinavir mesylate)、インジナビル(indinavir)、ニフェジピン、セフロキシム、およびニモジピン。
【0054】
(アプリケータ)
これらの前駆体は、使用前に溶液に入れられ得、この溶液が患者に送達される。このヒドロゲル系の溶液は、有害な溶媒も毒性の溶媒も含有するべきではない。ある実施形態において、これらの前駆体は、実質的に水溶性であり、生理学的に適合性の溶液(例えば、緩衝化等張生理食塩水)中での塗布を可能にし得る。これらの前駆体溶液を塗布するために、二重注射器または類似のデバイス(例えば、米国特許第4,874,368号;同第4,631,055号;同第4,735,616号;同第4,359,049号;同第4,978,336号;同第5,116,315号;同第4,902,281号;同第4,932,942号;同第6,179,862号;同第6,673,093号;同第6,152,943号;および同第7,347,850に記載されるもの)を使用し得る。
【0055】
一般に、2つ以上の架橋性成分が1つの噴霧器を介して組織に塗布されて、インサイチュでコーティングを形成し得る。例えば、架橋性前駆体溶液(各々が、混合されると架橋し得る共開始系の成分を1つずつ含有する)が、この噴霧器の別々のチャンバに入れられ得る。この噴霧器が作動すると、出現する霧が組織と接触し、2つの溶液の混合および架橋をもたらして、この組織表面上でコーティング(例えば、ヒドロゲル)を形成する。
【0056】
ある実施形態において、この噴霧器は、2つ以上の架橋性溶液の各々のための別々のスプレーノズルを備え、各ノズルが、別々または共通の気流出口によって囲まれている。これらの架橋性溶液は、別々の区画(例えば、マルチシリンダシリンジ)内に格納され、そしてスプレーノズルまで加圧下で送られる。この気流出口を通る気流の存在下で、これらの架橋性溶液が噴霧され、そしてこの気流中で混合されて霧を形成し、この霧が組織を被覆するために使用され得る。特定の実施形態において、COガスカートリッジが、このデバイスに逆転可能または永続的に設置されて、これらの前駆体の送達を容易にする。
【0057】
特定の実施形態は、吸引−洗浄装置と、前駆体送達デバイスとを組み合わせて備える。このような組み合わせの利点は、組織が血餅および癒着形成物質(adhesioniogenic material)を除去され得、そして1つのデバイスでのヒドロゲル障壁の配置を可能にすることである。
【0058】
(ヒドロゲルの薬物放出プロフィールの制御)
ヒドロゲル微小環境内でのpH移行の速度論を変化させることにより、数種の薬物分子の放出プロフィールの調節の機会が与えられる。この調節は、適切な緩衝剤の添加、または緩衝剤へのさらなる化学剤(例えば、アルカリ化薬および酸性化薬)の添加により達成され得、このさらなる化学剤は、アルカリ性または酸性から、生理学的pHへのpH移行の速度論を変化させ得る。本明細書中で使用される場合、酸性化薬とは、組成物のpHを低下させ得る任意の成分または物質であり、そしてアルカリ化薬とは、組成物のpHを上昇させ得る任意の成分または物質である。
【0059】
ヒドロゲルからの治療分子の放出の速度に影響を与える数個の変数が存在する。例えば、治療分子の固有の水溶性または疎水性は、ヒドロゲルの外側への拡散の速度(および従って、放出の速度)に影響を与え得る。さらに、周囲の生理学的環境のpHは、ゲル内のpH移行の速度に影響を与え得る。pH移行の速度は、ゲル形成に関与する様々な組成および強度の緩衝剤の含有、ならびにpH移行の速度を減速または加速させ得るアルカリ化薬または酸性化薬の存在により、さらに影響を受け得る。
【0060】
放出速度に加えて、ヒドロゲルからの治療分子の全体の放出(すなわち、ヒドロゲルから放出される治療分子の総量)は、本開示の方法を利用して、同様に増加または減少し得る。ある実施形態において、ヒドロゲルから放出される治療分子の量は、投与後のある時点で(この時点で、本開示の組成物は、増加または減少した量の放出を有する)測定され得る。この増加または減少は、利用されるヒドロゲル、利用される治療分子、これらの組み合わせなどに依存し得、そして所望の処置に依存して調整され得る。
【0061】
例えば、疼痛の処置について、本開示の組成物は、投与後約30分〜約4日、ある実施形態においては投与後約1日〜約2.5日の時点で、増加または減少した量の治療分子の放出を有し得る。この治療分子が感染の予防および/または処置のために利用される場合(例えば、抗生物質)、本開示の組成物は、投与後約1日〜約10日、ある実施形態においては投与後約2日〜約7日の時点で、増加または減少した量の治療分子の放出を有し得る。他の治療分子(化学療法剤が挙げられる)は、投与後約1日〜約60日、ある実施形態においては投与後約3日〜約45日の時点で、増加または減少した量の治療分子の放出を有し得る。なお他の治療分子は、投与後約30日〜約120日、ある実施形態においては投与後約45日〜約90日の時点で、増加または減少した量の治療分子の放出を有し得る。
【0062】
複数のヒドロゲルおよび/または複数の相を有するヒドロゲルもまた、1つより多くの治療分子を投与するために利用され得る。従って、例えば、本開示の多相組成物は、投与後約30分〜約4日、ある実施形態においては投与後約1日〜約2.5日の時点で、増加または減少した量の鎮痛薬の放出を有し得、そして投与後約1日〜約10日、ある実施形態においては投与後約2日〜約7日の時点で、増加または減少した量の抗生物質の放出を有し得る。
【0063】
緩衝剤は、所定のpH範囲を維持するため、および急激なpH変化を防止するために、使用され得る。緩衝剤はまた、さらなる成分を何も追加することなく、このヒドロゲルのpHを制御および/または調整するのに適切なpHを有し得る。ある実施形態において、これらの緩衝剤は、このヒドロゲルのpHを制御および/または調整するために、アルカリ化薬および/または酸性化薬を含有し得る。ある実施形態において、これらのアルカリ化薬および/または酸性化薬は、いかなるさらなる成分の添加もなしで単独で利用されて、緩衝剤として機能し得る。
【0064】
アルカリ化薬は、ヒドロゲルが生理学的環境内にある間に、このヒドロゲルのpHを上昇させるために有効な量で、このヒドロゲルからのプロトンを消費し得るか、またはこのヒドロゲル内にヒドロキシル基を放出し得る。アルカリ化薬としては、例えば、酸化マグネシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、ベントナイト、二塩基性リン酸ナトリウム、リン酸二カリウム、アルギニンが挙げられる。他のアルカリ化薬(本明細書中で時々、ある実施形態において、アルカリ化剤と称される)としては、塩(例えば、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、および/またはクエン酸ナトリウム);有機塩(例えば、ベンジルアミン、トリメチルアミン、アンモニア、尿素、および/またはエチレンジアミン);アミノ酸(例えば、リジン、システイン、チロシン、および/またはアルギニン);ならびに上記のものの組み合わせが挙げられる。
【0065】
酸性化薬は、この酸性化薬が入れられるヒドロゲルのpHを低下させるのに有効な量で、プロトンをヒドロゲル内に放出し得るかまたはこのヒドロゲルからのヒドロキシル基を消費し得る。酸性化薬としては、例えば、リン酸、安息香酸、クエン酸、トリカルボン酸、一塩基性リン酸ナトリウム、塩化アンモニウム、および塩化カルシウムが挙げられる。
【0066】
他の実施形態において、上記緩衝剤は、任意の適切な生体適合性溶媒を用いて形成された溶液中の、アルカリ化薬または酸性化薬を含有し得る。
【0067】
生物活性剤のpKaは、この生物活性剤が約50%電離するpHであるので、周囲のpHは、このような生物活性剤の電離度に影響を与える。
【0068】
本開示のヒドロゲルは、pKaがインサイチュ形成の際のヒドロゲルの初期pH状態と、生理学的pH(これは、約7.4である)との間である、薬物分子または生物活性剤を含有する。インサイチュ形成の際のこのヒドロゲルのpHは、選択される前駆体、緩衝剤、および生物活性剤に依存して、アルカリ性の値または酸性の値の広い範囲内であり得る。ある実施形態において、形成の際のこのヒドロゲルのpHは、約3.0〜約11.0であり、いくつかの実施形態において、約5.0〜約9.5であり、そしてなお他の実施形態において、約6.0〜約9.0である。ある実施形態において、インサイチュ形成の際のこのヒドロゲルのpHは、約8.5である。
【0069】
上記のように、薬物などの生物活性剤の放出プロフィールの調節は、適切な緩衝剤(必要に応じて、アルカリ化薬または酸性化薬を含む)を添加することにより、微小環境のpHおよび溶解度を変化させることによって、さらなる賦形剤を必要とせずに、達成され得る。従って、生物活性剤の放出プロフィールの調節は、生物活性剤の操作(例えば、マイクロカプセル化、共有結合、重合など)を全く行わずに、達成され得る。
【0070】
例えば、ある実施形態において、生物活性剤は、その遊離塩基形態において、水に貧溶性であり得る。低分子量の有機酸または無機酸との塩は、それぞれの遊離塩基より可溶性であり得る。従って、この塩がその遊離塩基形態に変わるpHは、その生物活性剤のpKaに依存する。
【0071】
このような生物活性剤の1つの例は、ブピバカインである。ブピバカインは、約8.1のpKaを有する。ブピバカインのHClとの塩形態は、以下のように図示される:
【0072】
【化1】

ブピバカインの遊離塩基形態(以下に図示される)は、塩形態より疎水性が高く、従って、より低い水溶性を有する。従って、この生物活性剤の放出プロフィールは、塩形態対遊離塩基形態の比を調節することにより、調節され得る。遊離塩基形態の生物活性剤の百分率が大きい(すなわち、平衡が遊離塩基形態の方により大きくシフトしている)ほど、生物活性剤の全放出速度(これは、溶解度により影響を受ける)はより遅くなる。
【0073】
【化2】

同様に、ある実施形態において、遊離塩基形態の生物活性剤の百分率が大きいほど、このヒドロゲルからの生物活性剤の全体の放出が低くなる。
【0074】
ブピバカインの遊離塩基形態は、イオン化した塩酸塩より溶解度が低いので、ヒドロゲル内でのpH移行(すなわち、8.5から7.4へ)の速度を遅くすることは、遊離塩基形態に有利であり、従って、放出を遅くし、そして/または放出の総量を減少させる。ヒドロゲル内のpH環境を7.4より高く(ある実施形態においては、約8.1(この薬物分子のpKa)以上に)維持することによって、ブピバカインは、長時間にわたって、その溶解度が低い遊離塩基形態のままである。同様に、pH移行の速度が加速する場合、放出の速度が加速され、そして/または放出の総量が増加する。従って、遊離塩基の溶解度はHCl塩の溶解度より低いので、このゲルを8.1以上に維持するか、または少なくともpH低下を遅くすることによって、ブピバカインは、そのヒドロゲルからの拡散を遅くする。なぜなら、この遊離塩基は、pH低下と共に塩に変わるからである。
【0075】
従って、ブピバカインのpKaより高いインサイチュ形成pHを有するヒドロゲルからのブピバカインの放出は、ブピバカインをブピバカインのpKaより高いpHを有する緩衝液中に含めることにより、またはブピバカインのpKaより高いpHを提供するためのアルカリ化薬もまた含有する緩衝液を提供することにより、遅くされ得、そして/または総量が減少され得る。緩衝液のpH(必要に応じて、アルカリ化薬により高められている)は、アルカリ性から生理学的pHへのヒドロゲルのpH移行を遅くし、従って、遊離塩基から塩へのブピバカインの変換を遅くする。
【0076】
例えば、インサイチュで形成されたヒドロゲルが約8.5のpHを有し、そしてブピバカインなどの薬物がこのヒドロゲルに添加される場合、アルカリ化薬または酸性化薬が、放出プロフィールを変更するために添加され得る。ブピバカインの塩形態の、遊離塩基形態への変換のpKaは、約8.1であるので、ヒドロゲル内での移行の速度(ヒドロゲルの形成の際の約8.5から、このヒドロゲルがインサイチュに残った後の約7.4の生理学的pHへ)は、アルカリ化薬(例えば、二塩基性リン酸ナトリウム)を添加し、これによって、このヒドロゲルから放出されるブピバカインの放出を遅くするか、または総量を減少することによって、遅くされ得る。同様に、酸性化薬の添加は、このゲルの生理学的pHへの移行の速度を増加させ得、これによって、このヒドロゲルから放出されるブピバカインの放出速度を増大させ、そして/または総量を増加させる。約7.4〜約8.5のpKaを有する他の薬物が同様に使用され得る。このような薬物の例としては、以下のものが挙げられるが、これらに限定されない:
【0077】
【表2】

同様に、約7.4の生理学的pHより低い形成のpH(例えば、6.5)を有するヒドロゲル(約6.9のpKaを有する生物活性剤を含む)については、この生物活性剤のpKa(6.9)より低いpHを有する緩衝剤(必要に応じて、酸性化薬により低められる)が、このゲルの生理学的pHへの移行の速度を低下させるために利用され得、これによって、この生物活性剤をイオン化状態に維持し得、そしてこのゲルからの生物活性剤の放出速度および/または総放出を増加させ得る。同じゲルおよび生物活性剤に対して、必要に応じてアルカリ化薬を含む緩衝液を使用して、この生物活性剤のpKa(6.9)より高いpHを提供することは、このゲルの生理学的pHへの移行の速度を増加させるために利用され得、これによって、この生物活性剤をイオン化状態ではなくし、そしてこのゲルから放出される生物活性剤の放出速度および/または総量を減少させる。この例において、生物活性剤の非イオン化形態は、イオン化形態より溶解度が低いことが仮定される。利用され得る、より低いpKa(ある実施形態において、約5.5〜約7.5のpKa)を有する他の薬物としては、以下のものが挙げられるが、これらに限定されない:
【0078】
【表3−1】

【0079】
【表3−2】

以下の実施例は、本開示の実施形態を説明するために与えられる。これらの実施例は、説明のみが意図され、本発明の範囲を限定することは意図されない。また、部および百分率は、他に示されない限り、重量に基づく。本明細書中で使用される場合、「室温」とは、約20℃〜約30℃の温度をいう。
【実施例】
【0080】
(実施例1)
(ヒドロゲル処方キット)
ヒドロゲルを調製するためのキットは、二重液体アプリケータ、プランジャキャップ、噴霧先端、注射器ホルダ、ならびにリン酸緩衝剤部分に溶解したトリリジンを含む注射器、ホウ酸緩衝剤部分を含む注射器、PEGおよびFD&C Blue #1を粉末形態で含むバイアル、および塩酸ブピバカインを含むバイアルを備える。リン酸緩衝剤水溶液は、一塩基性リン酸ナトリウム(NaHPO)塩を、第一級アミン官能基を有するトリリジンと一緒に(約4.3のpHを与える比で溶解させる)含有する。ホウ酸緩衝剤は、二塩基性リン酸ナトリウム(NaHPO)を含有し、そして約10.0のpHを有する。PEGは、マルチアームポリエチレングリコール求電子性前駆体であり、4つのアーム(4a)の各々の端部にスクシンイミジルエステル求電子性官能基(具体的には、グルタル酸スクシンイミジル(SG))を有し、約20,000MWのポリエチレングリコール(本明細書中で時々、4a20k SGと称される)の総MWを、求電子剤:求核剤の1:1の化学量論比で有する。
【0081】
このキットは、アプリケータを組み立てるため、ならびに第一の前駆体および第二の前駆体を形成するための指示書を含む。この第一の前駆体は、PEGエステルバイアルの内容物が、リン酸緩衝溶液の予め充填された注射器で再構成される場合に、形成される。この第二の前駆体は、塩酸ブピバカインを含むバイアルが、ホウ酸緩衝溶液を含む注射器で再構成される場合に形成される。分配の際にほぼ即座にヒドロゲルの材料が迅速に重合するために、これらの前駆体溶液が一緒に混合され得る。
【0082】
(実施例2)
(インビトロで試験された、ヒドロゲルからのブピバカインHClの放出)
ブピバカインHCLの放出速度を、ホウ酸緩衝剤部分に添加される二塩基性リン酸ナトリウム(NaHPO)の量を変化させることによるヒドロゲルのpHの操作によって、試験した。
【0083】
ヒドロゲルの形成の際に、そのpHは約8.5であった。放出媒体のpHは約7.4であり、生理学的条件を模倣した。塩形態のブピバカインの、遊離塩基形態への移行のpKaは、8.1であった。従って、このヒドロゲルを模倣した生理学的環境に入れた後に、このヒドロゲルのpHは7.4に中和され、そしてブピバカインは、HCl塩と、非常に溶解度が低い遊離塩基形態との間での平衡に、約8.1のpHで達した。pHが低下し続けるにつれて、ブピバカインは、低pHの水溶液中における増加した溶解度に起因して、より速く放出された。
【0084】
具体的には、ブピバカインの放出は、二塩基性リン酸ナトリウム(NaHPO)アルカリ化薬を添加して、8.5から7.4へのpH移行を遅くすることによって、遅くされた。他のアルカリ化薬が、上で議論されたように、このヒドロゲルに添加され得ることが想定される。142ダルトンの式量を使用して、異なるモル濃度(0.01M、0.05M、0.1M、および0.5M)の二塩基性NaHPOを調製し、そしてpH7.4の等張ダルベッコリン酸緩衝化生理食塩水(DPBS)中37℃で実施したインビトロ放出試験によって、このゲルへの組み込みを評価した。ホウ酸緩衝剤が二塩基性NaHPOを全く含まず、可能な限り多くの変数(例えば、操作者誤差)を排除したこと以外は上記実施例1に記載されたような、12のヒドロゲルキットから、プールしたリン酸緩衝液およびホウ酸緩衝溶液を使用して、サンプルを調製した。ブピバカインを、1.5%(w/v)の濃度でこのプールされたリン酸緩衝液に溶解し、そして種々のモル濃度の二塩基性リン酸ナトリウムを、プールされたホウ酸緩衝剤を希釈剤として使用して、調製した。
【0085】
50%放出時点を、放出特徴が評価される尺度として選択した。全てのサンプルを、0.75%の薬物装填(等体積の1.5%ブピバカインリン酸緩衝液およびホウ酸緩衝液)で調製した。インビトロ放出プロフィールを、図1に示す。六連で実施した0.05M二塩基性リン酸ナトリウム研究を除いて、すべてのサンプルを三連で実施した。サンプリングを30分ごとに、5mlのアリコートをサンプルから取り出して新しいDPBS媒体の5mlのアリコートで置き換えることにより、実施した。これらのサンプルを、HPLCによって、薬物濃度についてアッセイした。
【0086】
二塩基性リン酸ナトリウムなしでプールした緩衝液を使用して調製したコントロールサンプルは、これらの薬物装填のうちの50%を、約48分で放出した。0.01M、0.05M、および0.1Mの濃度の二塩基性リン酸ナトリウムを用いて調製したサンプルは、これらの薬物装填のうちの50%を、それぞれ約85分、96分、および112分で放出した。0.5M濃度の二塩基性リン酸ナトリウムを用いて調製したサンプルを2つの群(二塩基性リン酸ナトリウムが添加されるとホウ酸緩衝剤が9.7のpHまで低下した群、および1N水酸化ナトリウムを使用してpHを調整してpH10.0まで戻した群)に分割した。0.5Mのサンプルは、50%を160分で放出し、そしてpHを10.0に調整して戻した0.5Mのサンプルは、50%を190分で放出した。
【0087】
放出された実際の百分率の数字を表にまとめ、以下の表1に示す。濃度を、百分率が増加する順序で並べ、そして平均の標準誤差(SEM)を示した。
【0088】
【表1−1】

【表1−2】

従って、上に示されるように、ヒドロゲルからのブピバカインのインビトロ放出速度は、ホウ酸緩衝溶液に添加される二塩基性リン酸ナトリウムの濃度を変化させることによって、制御された。図に図示されるように、放出速度とホウ酸溶液に添加される二塩基性リン酸ナトリウムの量とに関して、漸近的な相関が存在する。モル濃度が0.5Mまで上昇する際に低下する放出速度に関してもまた、比例的な相関が存在する。
【0089】
本明細書中で言及された全ての刊行物、特許出願、および特許は、本明細書の明示的な開示と矛盾しない程度まで、本明細書中に参考として援用される。形式および細部における種々の改変および変更が、本開示の趣旨および範囲から逸脱することなく、本開示の実施形態に対してなされ得ることが理解される。種々の実施形態が、本明細書中に開示されるヒドロゲルの例を提供するために記載され、これらの実施形態は、限定であるとは解釈されない。これらの実施形態の特徴および要素は、その結果が使用可能な組み合わせをもたらす限り、互いにうまく組み合わされ得る。従って、上記説明は、限定であると解釈されるべきではなく、単に、本開示の実施形態の例示であると解釈されるべきである。当業者は、添付の特許請求の範囲により規定されるような本開示の範囲および趣旨内で、他の改変を予測する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一のヒドロゲル前駆体を第一の緩衝剤と接触させる工程;
第二のヒドロゲル前駆体を第二の緩衝剤と接触させる工程;
生物活性剤を、該第一のヒドロゲル前駆体もしくは該第二のヒドロゲル前駆体、または両方に添加する工程;ならびに
得られた組織サンプルを該第一のヒドロゲル前駆体および該第二のヒドロゲル前駆体と接触させる工程、
を包含し、
該第一のヒドロゲル前駆体および該第二のヒドロゲル前駆体は、接触の際にヒドロゲルを形成し、そして該生物活性剤は、該ヒドロゲルの形成時の初期pHと生理学的pHとの間のpKaを有する、
方法。
【請求項2】
前記ヒドロゲルが、可視化剤をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第一のヒドロゲル前駆体が第一の官能基を有し、そして前記第二のヒドロゲル前駆体が第二の官能基を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第一の前駆体と前記第二の前駆体との間での架橋反応が容易になるように、該第一の前駆体および該第二の前駆体を、得られた組織サンプルの、ある領域に送達する工程をさらに包含する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記架橋反応が、約3秒間〜約1分間での前記ヒドロゲルのゲル化をもたらす、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
生理学的環境が約7.4のpHを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記形成されるヒドロゲルのpHが約5.0〜約9.5である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記形成されるヒドロゲルのpHが約8.5である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記生物活性剤のpKaがアルカリ性である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記第一の緩衝剤もしくは前記第二の緩衝剤、または両方が、少なくとも1つのアルカリ化薬を含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記生物活性剤のpKaが酸性である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記第一の緩衝剤もしくは前記第二の緩衝剤、または両方が、少なくとも1つの酸性化薬を含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
第一の前駆体;
第二の前駆体;
該第一の前駆体のための第一の緩衝剤;
該第二の前駆体のための第二の緩衝剤;
生物活性剤;および
該生物活性剤と、該第一の前駆体と、該第二の前駆体とを実質的に同時に送達するためのアプリケータ、
を備える、ヒドロゲルを製造するためのキット。
【請求項14】
第一の緩衝剤と組み合わせられた第一の前駆体;
第二の緩衝剤と組み合わせられた第二の前駆体;および
生物活性剤、
を含有するヒドロゲルであって、
該生物活性剤のpKaは、該ヒドロゲルのpHより大きく、そして該第一の緩衝剤もしくは該第二の緩衝剤、または両方のpHは、該ヒドロゲルからの該生物活性剤の放出を増加または減少させるように選択される、
ヒドロゲル。
【請求項15】
前記生物活性剤の放出の増加または減少が、前記ヒドロゲルからの該生物活性剤の放出の速度の増加または減少を含む、請求項14に記載のヒドロゲル。
【請求項16】
前記ヒドロゲルから放出される生物活性剤の量が、投与後約30分〜約4日の時点で増加または減少する、請求項14に記載のヒドロゲル。
【請求項17】
前記ヒドロゲルから放出される生物活性剤の量が、投与後約1日〜約60日の時点で増加または減少する、請求項14に記載のヒドロゲル。
【請求項18】
前記第一の緩衝剤もしくは前記第二の緩衝剤、または両方のpHが、前記生物活性剤のpKaより大きく、これによって、前記ヒドロゲルからの該生物活性剤の放出が減少する、請求項14に記載のヒドロゲル。
【請求項19】
前記第一の緩衝剤もしくは前記第二の緩衝剤、または両方のpHが、前記生物活性剤のpKaより小さく、これによって、前記ヒドロゲルからの該生物活性剤の放出が増加する、請求項14に記載のヒドロゲル。
【請求項20】
第一の緩衝剤と組み合わせられた第一の前駆体;
第二の緩衝剤と組み合わせられた第二の前駆体;および
生物活性剤、
を含有するヒドロゲルであって、
該生物活性剤のpKaは、該ヒドロゲルのpHより小さく、そして該第一の緩衝剤もしくは該第二の緩衝剤、または両方のpHは、該ヒドロゲルからの該生物活性剤の放出を増加または減少させるように選択される、
ヒドロゲル。
【請求項21】
前記生物活性剤の放出の増加または減少が、前記ヒドロゲルからの該生物活性剤の放出の速度の増加または減少を含む、請求項20に記載のヒドロゲル。
【請求項22】
前記ヒドロゲルから放出される生物活性剤の量が、投与後約30分〜約4日の時点で増加または減少する、請求項20に記載のヒドロゲル。
【請求項23】
前記ヒドロゲルから放出される生物活性剤の量が、投与後約1日〜約60日の時点で増加または減少する、請求項20に記載のヒドロゲル。
【請求項24】
前記第一の緩衝剤もしくは前記第二の緩衝剤、または両方のpHが、前記生物活性剤のpKaより小さく、これによって、前記ヒドロゲルからの該生物活性剤の放出が減少する、請求項20に記載のヒドロゲル。
【請求項25】
前記第一の緩衝剤もしくは前記第二の緩衝剤、または両方のpHが、前記生物活性剤のpKaより大きく、これによって、前記ヒドロゲルからの該生物活性剤の放出が増加する、請求項20に記載のヒドロゲル。

【図1】
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【公開番号】特開2011−189135(P2011−189135A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−57230(P2011−57230)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(507156015)コンフルエント サージカル, インコーポレイテッド (21)
【Fターム(参考)】