説明

ヒューマニン誘導体又は該誘導体と神経向性ペプチドとの融合ペプチドを有効成分として含有する、アルツハイマー病予防・治療用の経鼻投与剤

【課題】コリベリンのようなヒューマニン誘導体を用いて、非侵襲性で効果的なアルツハイマー病予防・治療用の薬剤及び予防・治療方法を提供することである。
【解決手段】コリベリンのようなヒューマニン誘導体又は該誘導体と神経向性ペプチドとの融合ペプチドを有効成分として含有する、アルツハイマー病予防・治療用の経鼻投与剤、及び、該経鼻投与剤を経鼻的に投与することから成る、アルツハイマー病又はアルツハイマー病関連傷害の予防・治療方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒューマニン誘導体又は該誘導体と神経向性ペプチドとの融合ペプチドを有効成分として含有する、アルツハイマー病予防・治療又はアルツハイマー病関連傷害改善用の経鼻投与剤、及び該治療剤を投与することから成るアルツハイマー病等の予防・治療方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
現在のアルツハイマー病(AD)治療への効果が非常に限られているために、効果的な新たな抗AD治療の開発が強く望まれている。ドネペジルのようなアセチルコリンエステラーゼ阻害剤、ビタミンEのような抗酸化剤、及びNMDA興奮性毒性阻害剤のような現在AD治療に臨床的に使用されているものはADの病状進行をわずかに遅らせるにすぎない(Sano et al., 1997; Reisberg et al., 2003; Lane et al., 2004)。従って、このような薬剤の開発とは別なAD治療を開発するために幾つかの有力な戦略が考えられている。
【0003】
神経脱落、それはADの主な病理学的又は神経学的徴候あるいは症状発現と直接関連していると考えられ(Mattson et al., 2004)、このような神経死阻害剤が新たなAD治療の最も有力な候補と考えられる。
【0004】
本発明者は、AD患者死亡後の剖検脳における後頭葉から作成したcDNAライブラリーを使用して細胞死を防ぐ化合物をバイアスをかけない機能的なスクリーニング方法、「デストラップスリーニング法」を実施することにより、ヒューマニン(HN)と名付けた24アミノ酸ペプチドMAPRGFSCLLLLTSEIDLPVKRRAをコードするcDNAを同定した(特許文献1)。HNは種々のFAD遺伝子や抗APP抗体、さらにベータアミロイドペプチド(Aβ)等のすべてのAD関連傷害によリ引き起こされる神経細胞死に対し拮抗作用をしめす(Hashimoto et al., 2001a and b; Nishimoto et al., 2005)。
【0005】
コリベリン(Colivelin)は、活性依存性神経向性因子(ADNF)のC末端に、強力な活性(EC50<100 femtomolar)を有するヒューマニン(NH)誘導体の一種である、アミノ酸配列:PAGASRLLLLTGEIDLPを有するペプチド(AGA-(C8R)HNG17)が結合した融合ペプチドである(Chiba et al., 2005)。コリベリンはインビトロにおいて、NH 受容体を介するJAK2/STAT3生存促進(prosurvival axis)の活性化及びADNF受容体を介するCa2+/カルモデュリン依存性プロテインキナーゼIV(CaMKIV)の活性化によって、AD関連傷害を含む様々な型の神経毒性にも拮抗する神経保護作用を示す。更に、コリベリンはAβ誘発性海馬神経損失をインビボで抑制することも示されている。
【0006】
このように、コリベリンは脳室内(intracerebroventicular; i.c.v.)投与により脳脊髄液に直接運搬されたときに、毒性Aβのi.c.v.投与、及び、3−キヌクリニジル ベンジレート(3-QNB)のような様々なコリン作動系阻害剤の腹腔内投与により誘導される空間ワーキングメモリ(spatial working memory)の障害を阻害する(Chiba et al., 2005)ことから、コリベリンはAD関連記憶喪失又は記憶障害(amnesia)をインビボで抑制すると考えられる。
【特許文献1】特再WO01/021787 神経細胞死を抑制するポリペプチド、Humanin
【特許文献2】WO03/097687 Neuroprotective Polypeptides and Methods of Use
【特許文献3】WO2005/097156「神経変性疾患治療薬」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
AD治療用薬剤は安全かつ長期間に亘り使用する必要があるので、コリベリンのようなヒューマニン誘導体を臨床的に適用するためには、より侵襲性の低い、且つ、副作用を考慮して出来るだけ少量でも有効な投与方法を開発することが望まれている。
【0008】
従って、本発明の目的は、コリベリンのようなヒューマニン誘導体を用いて、非侵襲性で効果的なアルツハイマー病予防・治療用の薬剤及び予防・治療方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、本発明は、以下の各態様に係る。
[態様1]ヒューマニン誘導体又は該誘導体と神経向性ペプチドとの融合ペプチドを有効成分として含有する、アルツハイマー病予防・治療用の経鼻投与剤。
[態様2]ヒューマニン誘導体又は該誘導体と神経向性ペプチドとの融合ペプチドを有効成分として含有する、アルツハイマー病関連傷害の保護・改善用の経鼻投与剤。
[態様3]アルツハイマー病関連障害が記憶傷害である、態様2記載の経鼻投与剤。
[態様4]アルツハイマー病関連障害が神経変性である、態様2記載の経鼻投与剤。[態様5]アルツハイマー病関連傷害がコリンアセチルトランスフェラーゼ免疫応答性ニューロン数の減少である、態様2記載の経鼻投与剤。
[態様6]ヒューマニン誘導体が、アミノ酸配列:PAGASRLLLLTGEIDLPを有するペプチド(AGA-(C8R)HNG17)である、態様1ないし5のいずれか一項に記載の経鼻投与剤。
[態様7]神経向性ペプチドが血管活性腸管ペプチド(VIP)、活性依存性神経向性因子(ADNF)又はインシュリン様成長因子(IGF-1)である、態様6に記載の経鼻投与剤。
[態様8]融合ペプチドがADNFのC末端にAGA-(C8R)HNG17が結合した26個のアミノ酸から成るペプチドである、態様1ないし7のいずれか一項に記載の経鼻投与剤。
[態様9]態様1ないし8のいずれか一項に記載の経鼻投与剤を経鼻的に投与することから成る、アルツハイマー病又はアルツハイマー病関連傷害の予防・治療方法。
[態様10]アルツハイマー病予防・治療用の経鼻投与剤を製造するための、ヒューマニン誘導体又は該誘導体と神経向性ペプチドとの融合ペプチドの使用。
[態様11]融合ペプチドがADNFのC末端にアミノ酸配列:PAGASRLLLLTGEIDLPを有するペプチド(AGA-(C8R)HNG17)が結合した26個のアミノ酸から成るペプチドである、態様10記載の使用。
【発明の効果】
【0010】
本発明によって、非侵襲的でかつ従来の腹腔内投与等と比べてより少量の投与で優れた効果を示す、有効性の高いAD予防・治療用の薬剤及び予防・治療方法が提供され、AD治療を長期間に亘り安全に実施することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本明細書において、「ヒューマニン誘導体」とは、国際公開WO01/021787号パンフレットに開示された、上記の24アミノ酸から成るポリペプチド(ヒューマニン)と同等又はそれ以上のAD関連傷害により起こる神経細胞死に対して拮抗作用又は抑制作用を有するポリペプチド及びその誘導体を含むものである。
【0012】
従って、ヒューマニン誘導体の具体的としては、例えば、国際公開WO01/021787号パンフレットに記載された式(I)
Pro−Xn−(Cys/bXaa)−(Leu/Arg)−Xn−Leu−Thr−(Gly/Ser)−Xn−Pro (I)
(式中、「Cys/bXaa」はCysまたは塩基性アミノ酸、「(Leu/Arg)」はLeuまたはArg、「(Gly/Ser)」はGlyまたはSerであり、Xn、Xn、およびXnはそれぞれ独立に10残基以下の任意のアミノ酸を表す)
で示されるアミノ酸配列を有するポリペプチド(以下、単に「ポリペプチド」ともいう)である。
【0013】
更に、より具体的な例として、国際公開WO01/021787号パンフレットに記載された配列番号:5〜8、10、12、13、21〜24、26〜29、32、33、37〜40、46、48、54、および60からなる群より選択されるアミノ酸配列において、1又は複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列を含み、AD関連傷害により起こる神経細胞死に対して拮抗作用又は抑制作用を有するポリペプチドを挙げることが出来る。アミノ酸配列:PAGASRLLLLTGEIDLPを有するペプチド(AGA-(C8R)HNG17)は、その好適一具体例である。
【0014】
本発明の有効成分としては、ヒューマニン誘導体と神経向性ペプチドとの融合ペプチド、例えば、血管活性腸管ペプチド(VIP)、活性依存性神経向性因子(ADNF)又はインシュリン様成長因子(IGF-1)のような神経向性ペプチドのC末端にヒューマニン誘導体が結合して成る融合ペプチドが薬効の点で好ましい。
【0015】
ヒューマニン誘導体及び該誘導体と神経向性ペプチドとの融合ペプチドは、当業者に公知の任意の方法で容易に合成することができる。
【0016】
更に、上記本発明のヒューマニン誘導体には、上記のポリペプチドの官能基を既知の方法により修飾、付加、変異、置換、または削除などにより改変された形態を持つ化合物も含まれる。このような官能基の改変は、当業者に公知の任意の方法を用いて、例えば、ポリペプチドに存在する官能基の保護、ポリペプチドの安定性または組織移行性の制御、あるいはポリペプチドの活性の制御等を目的として行なうことが出来る。
【0017】
即ち、ポリペプチドは翻訳後修飾などにより天然に修飾されていてもよい。また人工的に修飾されていてもよい。修飾には、ペプチドのバックボーン、アミノ酸側鎖、アミノ末端、またはカルボキシル末端などの修飾が含まれる。また、ポリペプチドは分岐していてもよく、環状でもよい。修飾には、アセチル化、アシル化、ADPリボシル化、アミド化、[フラビン(flavin)、ヌクレオチド、ヌクレオチド誘導体、脂質、脂質誘導体、またはホスファチジルイノシトール]等の共有結合、クロスリンク形成、環状化、ジスルフィド結合形成、脱メチル化、ピログルタミン酸化、カルボキシル化、グリコシル化、ヒドロキシル化、ヨード化、メチル化、ミリストイル化、酸化、リン酸化、ユビキチン化などが含まれるが、これらに制限されない。更に、上記ポリペプチドは当業者に公知の任意の塩及びエステル体とすることも可能である。本発明のポリペプチドは、公知のペプチド合成技術により製造することが可能であり、また、これらポリペプチドをコードするDNAを発現させることによっても製造することが可能である。
【0018】
尚、本発明において「AD関連傷害により起こる神経細胞死に対して拮抗作用又は抑制作用を有する」とは、上記のADに関連する神経細胞死の少なくとも1つを拮抗又は抑制することを指す。すなわち上記のヒューマニン様ポリペプチドには、これらのADに関連する神経細胞死の少なくともいずれかを抑制する活性を有しているものが含まれる。細胞死の抑制は、完全な抑制ではなくても、有意に抑制されればよい。神経細胞死の抑制活性は、以下の実施例に記載された方法または他に記載の方法(例えば国際公開番号 WO00/14204参照)に従って検定することができる。
【0019】
既に述べたように、これまでの研究からアルツハイマー病において神経細胞の細胞死が起こることが明らかにされている。このため、本発明の薬剤(経鼻投与剤)は、アルツハイマー病における神経変性を保護する薬剤としても用いられることが可能である。また、本発明の薬剤を用いて、アルツハイマー病以外にも、例えば脳虚血による神経細胞の細胞死に起因する疾患を予防することも可能である(T.Kirino,1982,Brain Res.,239:57−69)。その他、痴呆を伴うパーキンソン病(M.H.Polymeropoulos et al.,1997,Science,276:2045−2047)、びまん性レービー小体(Lewy bodies)病(M.G.Spillantini et al.,1998,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,95:6469−6473)、ダウン症に伴う痴呆なども、治療や予防の対象となる。また、APPの類縁分子であるAPLP1が、先天性ネフローゼ症候群の原因遺伝子といわれている(Lenkkeri,U.et al.,1998,Hum.Genet.102:192−196)ことから、ネフローゼ症候群などの腎疾患も治療や予防の対象となる。
【0020】
本発明の薬剤はヒューマニン誘導体又は該誘導体と神経向性ペプチドとの融合ペプチドを有効成分として含有し、公知の製剤学的方法により製剤化することが可能である。例えば、薬理学上許容される担体もしくは媒体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、イソプロパノール等の適当な有機溶剤と生理食塩水との混合物、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、徐放剤などと適宜組み合わせて製剤化して投与することが考えられる。本発明の薬剤は、点鼻液、吸入液、及び噴霧剤等の経鼻投与経路に適した、当業者に公知の任意の形態であり得る。
【0021】
本発明の薬剤は当業者に公知の任意の方法及び手段を用いて、患者へ経鼻(鼻腔内)投与することができる。例えば、本発明薬剤中の有効成分の組織移行性、治療目的、患者の体重や年齢、症状等に応じて、1日1回〜数回、1回の処置当り数十μl程度の薬剤を適当な期間に亘り投与することができる。このような経鼻投与によって、細胞外及び細胞内の両輸送系から成る嗅覚ニューロンの樹状輸送プロセス機構の働きで、血流から中枢神経への物質の進入を制限している血液脳関門を迂回し(Illum et al., 2000; Throne et al., 2004)、薬剤が脳又は中枢神経に達することが出来る。特に、血管活性腸管ペプチド(VIP)、活性依存性神経向性因子(ADNF)又はインシュリン様成長因子(IGF-1)のような神経向性ペプチドは経鼻投与によって、脳又は脳脊髄液に運搬されることが確認されている(Gozes et al., 1996, 2000; Throne et al., 1997; Throne et al., 2004)。
【0022】
当業者であれば、本発明薬剤中の有効成分の組織移行性、治療目的、患者の体重や年齢、症状等に応じて、薬剤中の有効成分の量を適宜選択することが可能である。例えば、アルツハイマー病治療などにおいて、脳神経細胞の変性保護を目的とした投与を行う場合には、上記化合物が標的とする細胞周囲において神経変性を有効に抑制する濃度となるように投与されることが好ましい。すなわち、有効成分は、例えば、数百pmol 〜数十nmol程度の範囲の濃度とすることができる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例に則して本発明を更に詳しく説明する。尚、本発明の技術的範囲はこれらの記載によって何等制限されるものではない。
【0024】
実験材料と実験方法
ペプチド
コリベリン(アミノ酸配列:SALLRSIPAPAGASRLLLLTGEIDLP)、ADNF(SALLRSIPA)、及び、AGA-(C8R)HNG17(アミノ酸配列:PAGASRLLLLTGEIDLP)はアサヒテクノガラス会社(船橋、日本)によって合成された。
【0025】
動物及び治療
神経学会による神経科学研究における動物及びヒトの使用に関するポリシー、及び、慶応大学医学部の実験動物の管理及び使用のためにガイドラインに従い実施した。全ての実験は、慶応大学における動物実験委員会により承認されたものである。7週令のCD−1(ICR)はチャールズリバージャパンから購入した。従来文献(Kawasaki et al., 2004; Yamada et al., 2005)に記載されているように、この動物は特殊な病原のない動物施設内で、12時間の昼・夜サイクル(7:00 AM-7:00 PM)で飼育した(温度:23+1℃, 湿度:50+5%)。
【0026】
ADマウスモデルはAβのi.c.v.投与を繰り返すことによって作製した(Yamada et al., 2005)。簡潔に記述べると、8週令のCD-1マウスの左脳室(前後:+0.3mm、側部:1.0mm、水平方向:ブレグマから3.0mm)に、10%ネンブタール麻酔下での定位固定外科装置を用いてカニュール(C315GS-4, plastic One Inc., Roanoke, VA)を植え込んだ。カニュール植え込み10日後に、モデル動物をコントロール群、Aβ投与群、又はAβ投与+コリベリン処理群に割り当て、3μl滅菌蒸留水(DDW)、又は3μlのDDW中のAβ25-35ペプチド(1nmol)をi.c.v.で3週間隔日(10回)で投与し、それと共に、溶剤(5%セフゾール(sefsol) 及び20%イソプロパノール含有滅菌生理食塩水)10μl、又は同溶剤10μlに溶解させたの所定量の合成コリベリンペプチドを、1日1回で3週間経鼻投与した(図4)。行動テストは最後のi.c.v.投与の2日後、又は最後のコリベリン投与の1日後に実施した。
【0027】
コリン作動性薬剤誘発記憶喪失モデルは文献(Chiba et al., 2005)に記載されたよう作製した。簡潔に述べると、Y-mazeテスト(YM)の24時間及び30分前に、8週令のCD-1マウスに、所定量のコリベリン含有又は非含有溶剤(5%セフゾール(sefsol)及び20%イソプロパノール含有滅菌生理食塩水)10μlを経鼻投与した(図1A及びC)。0.2mlの滅菌蒸留水に溶解させたスコポラミン(1mg/kg)をYMの30分前に皮下投与し、一方、0.2mlの滅菌蒸留水(20%メタノール含有)に溶解させた3-QNB(0.5 mg/kg)はYMの15分前に腹腔内投与して記憶喪失(記憶障害)を誘発させた。尚、対照試験として、コリベリンを0.5mg/mlの濃度で滅菌蒸留水に溶かし、1nmolをYMテストの24時間前及び30分前の2回、夫々、腹腔内投与及び皮下投与した。
【0028】
行動テスト
OF及びYMは文献(Kawasumi et al., 2004; Yamada et al., 2005; Chiba et al., 2005)に記載のとおり実施した。OFはマウスを実験環境に慣らせ、そのマウスを一辺100cmの灰色のプラスチック場に3分間自由にさせた。YM用の装置は、互いに120℃の角度で連結した3つの灰色アーム(40cm長、12cm高、底幅3cm、及び頂上幅10cm)である。各マウスはアーム端に置かれ、8分間自由にアームを探検させた。空間ワーキングメモリの指標である自発的変更の割合(Spontaneous Alternation :SA%)は、「テストにおける全選択数から2を引いた数(最初の2回は評価不可能)に対する前の2回の選択と異なるアームを選択(成功選択)する割合」として定義される。例えば、マウスが10回(1-2-3-2-3-1-2-3-2-1)のエントリーを行うと、全8回((10−2)回)の選択中、5回の成功選択があったことになり、SA%は62.5%となる。
【0029】
免疫組織化学
免疫組織化学的分析は文献(Kawasumi et al., 2004; Yamada et al., 2005; Chiba et al., 2005)に記載されたように実施した。行動テストの後に、PBSを心臓経由で灌流させ、5%酢酸含有エタノール(ほとんどの実験)、又は4%PFA(ADNF免疫組織化学の場合)で固定した。脳をパラフィンに包埋し、New-Silane スライドガラス(Muto Pure Chemicals, Tokyo, Japan)上に10μm冠状断面(coronal section)を調製した。次に、試料をメタノール及びPBS中で脱パラフィン・洗浄した。免疫組織化学的検出は、抗ChAT抗体(1:50希釈、Chemicon USA)又は抗ADNF抗体(アフィニティ精製、1:50希釈)で反応させ、ABC法(Vectastain Elite Kit, Vector, CA, USA)で可視化した。50μm間隔(ブレグマの約0.6-0.9 mm前方)を有する5つの内側中隔(medial septum)におけるChAT免疫反応性ニューロンを計数し、各処理群当り3匹(N=3)のマウスにおけるChAT免疫反応性ニューロンの合計数の平均を比較した。ADNF免疫反応はFITC共役抗ウサギIgG二次抗体(Sigma)で可視化した。
【0030】
イムノブロット分析
イムノブロット分析は文献(Hashimoto et al., 2001a,b; Chiba et al., 2005)に記載されたように実施した。脳試料から溶解緩衝液(50 mM Tris-HCl (pH 7.4), 150 mM NaCl, 1 mM EDTA, 1% Trito-X100, Complete protease inhibitor)含有フォスファターゼ阻害剤カクテル(Sigma)で溶解したライセート(50μg/lane)をSDS-PAGEに処し、ゲル上で分画されたタンパクをPVDF膜に移した。膜をリン酸化STAT3抗体(1:200)又は全STAT3抗体(1:1000)と反応させ、ついで、西洋ワサビ(HRP)標識抗ウサギIgG抗体(BioRad Laboratories, Hercules, CA USA)の1:5000希釈と反応させた。抗原バンドをECL法(Amsharm Pharmacia Biotech, Uppsala, Sweden)により可視化した。
【0031】
統計解析
インビトロ試験を示す図における全ての値は、平均値+SD(標準偏差)である。又、インビボ試験を示す図における全ての値は、平均値+SEM(標準誤差)である。統計分析は、one-way ANOVA により実施され、つづいてp<0.05で有意とされるFisher’s PLSDがなされた。
【0032】
結果:短期間のコリベリン経鼻投与による抗コリン作動性薬剤誘発性記憶障害(記憶喪失)の抑制
ADの認識機能障害の進行によって、中枢神経系(CNS)におけるコリン作動系が機能不全に陥る(Bartus et al., 1982; Coyle et al., 1983)。即ち、スコポラミン、3−キヌクリニジル ベンジレート(3−QNB)及びエチルコリンアジリジウム(AF64A)等の抗コリン作動性薬剤を投与することによって、齧歯類及びヒトで記憶障害が誘発される(Fisher et al., 2004; Krejcova et al., 2004)。
【0033】
上記のY-mazeテストを用いて、スコポラミン誘発による空間ワーキングメモリの損傷に対するコリベリン経鼻投与による効果を検討した(図1A)。同テストにおける空間ウォーキングメモリの指標であるSA%は、コントロールマウスで65.6+2.0%であるのに対して、スコポラミン処理マウスでは46.8+2.2%であり、スコポラミン処理によって空間ワーキングメモリに障害が生じたことが示された(Mamiya et al. 2001; Tajima et al., 2005)。一方、コリベリン経鼻投与を行った場合には、図1Bに示されるように、スコポラミン処理により誘発された空間ワーキングメモリ障害が投与量依存的に緩和された(200pmolコリベリン投与:50.9+2.3%、1nmolコリベリン投与:55.0+2.5%、5nmolコリベリン投与:59.2+3.1%)。
【0034】
更に、別の薬剤として3-QNBを用いて、同様のテストを実施した(図1C)。その結果、図1Dに示されるように、コリベリン経鼻投与によって、空間ワーキングメモリ障害が投与量依存的に緩和された。比較として、ドネペジル(5 mg/kg)は空間ワーキングメモリ障害を僅かに阻止し得たのみであった。
【0035】
試験した投与量ではAGA-(C8R)HNG17又はADNFを単独で投与しても3-QNB誘発の空間ワーキングメモリ障害に効果を及ぼすことができなかった(図2A,B)。従って、これらが結合した融合ペプチドであるコリベリンの効果は、それぞれのペプチドによる単独の効果によるものではなく、融合ペプチドとしたことによるインビボにおける両方のペプチドの顕著な相乗作用によるものと考えられる。
【0036】
結果:神経保護ペプチドの長期間の繰り返し経鼻投与による効果の増強
ADNFを1週間以上に亘り毎日経鼻投与することによって、抗コリン作動性薬剤AF64Aにより誘発される記憶障害に対する神経保護効果が奏効されることが報告されている(Gozes et al., 2000)。従って、図2に示された上記の結果と合せると、この効果は長期の繰り返し投与によってインビボでのADNF濃度が増加した為と思われる。
【0037】
これを検証すべく、1日1回の処理当り1 nmolでAGA-(C8R)HNG17、ADNF及びコリベリンを7日間マウスに投与し、各ペプチドの効果を評価した(図3)。短期間の投与とは対照的に、ADNF単独投与では僅かな効果しか得られなかったものの、AGA-(C8R)HNG17及びコリベリンの投与では3−QNB誘発の空間ワーキングメモリ障害を有効に緩和させることが示された(図3B)。
【0038】
結果:長期間の繰り返しコリベリン経鼻投与によるAβ25-35誘発性記憶障害の緩和
Aβを繰り返しi.c.v.投与することによって齧歯類に記憶障害が誘発することが知られている(Flood et al., 1991; Delobette et al., 1997; Yamada et al., 1999; Yamaguchi and Kawashima., 2001; Stepanichev et al., 2003b)。そこで、文献(Yamada et al., 2005; Chiba et al., 2005)に従い、上記のようにインビボにおけるAβ毒性に対するコリベリン経鼻投与による治療効果を検討した。
【0039】
その結果、コントロールマウスでSA%が66.1+2.1%であるのに対して、Aβ25-35投与マウスでは53.3+1.7%でありAβを繰り返し投与することによって空間ワーキングメモリに障害が誘発されることが示された。一方で、Aβ25-35投与に加えてコリベリン経鼻投与(1 nmol)した場合にはSA%が68.0+2.4%、Aβ25-35投与に加えてADNFを経鼻投与した場合にはSA%が62.4+3.0%となり、コリベリン及びADNFの経鼻投与はAβ25-35誘発性記憶障害に対して顕著な治療効果があること、更に、コリベリンはADNFよりも効果が優れていることが示された(図4B)。
【0040】
結果:Aβ25-35に誘発されるChAT陽性ニューロン数減少のコリベリンによる阻止
Aβのi.c.v.投与によりマウスのニューロンの内側中隔におけるコリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)の発現レベルが減少すること、及び、空間ワーキングメモリの障害の程度と内側中隔におけるChAT免疫反応性ニューロン数との間に正の相関関係があることが報告されている(Tajima et al., 2005; Yamada et al., 2005)。
【0041】
そこで本発明者は、上記の免疫組織化学分析によってインビボにおけるコリベリンの神経保護効果を検討した。図5に示された結果から、Aβ25-35を注入されたマウスにおける内側中隔におけるChAT免疫反応性ニューロン数(232.3+16.0)がコントロール(555.6+57.4)と比較して顕著に減少していること、及び、コリベリン処置マウスにおいてはコントロールとほぼ同数(514.0+21.1)のChAT免疫反応性ニューロン数が見られることが観察され、Aβ25-35の繰り返し投与によるChAT免疫反応性ニューロン数の減少が、コリベリンの経鼻投与によって顕著に阻止されることが判明した。
【0042】
結果:コリベリン経鼻投与の嗅球を介するCNSへの輸送
経鼻投与されたコリベリンのCNSへの輸送経路を検討すべく、5 nmolコリベリンを15分間隔で5回経鼻投与したマウスの脳切片におけるコリベリンを上記の方法で免疫染色した。即ち、嗅球を含むマウス脳切片を4%パラホルムアルデヒド(PFA)で固定し、コリベリンを認識する抗ADNF抗体で免疫染色すると、コリベリン処理したマウスの嗅球の腹方部(ventral region)でコリベリン免疫染色が観察された(図6B、D)。一方、コントロールマウスではコリベリン免疫染色は観察されなかった(図6A、C)。従って、これらのことから、経鼻投与したコリベリンは嗅球を介してCNSに輸送されることが強く示唆された。又、経鼻投与された化合物は細胞外及び細胞内の両輸送経路でCNSに入るという従来の知見と一致して、コリベリン免疫染色が嗅球の神経軸索及び細胞外マトリックスの双方に検出された。又、E及びFは、夫々、コントロールマウス及びコリベリン処理マウスを二次抗体のみで染色したネガティブコントロールである。
【0043】
結果: インビボにおけるJAK2/STAT3軸を介するコリベリンの作用
細胞内のヒューマニン(HN)シグナル経路がJAK2及びSTAT3を介するものであることがインビトロにおいて判明している(Hashimoto et al., 2005)。又、JAKキナーゼによるチロシン705(Tyr705)のリン酸化によりSTAT3が活性化されることが知られている。インビボにおいても同様のHN誘導性生存促進(prosurvival)経路が活性化されてコリベリンが作用するか否かを確認すべく、コリベリンの経鼻投与によってSTAT3がインビボでリン酸化されるか否か検討した。図1A(短時間投与プロトコール)に示されるように、AGA-(C8R)HNG17、ADNF又はコリベリンをCD−1マウスに2回経鼻投与した。脳試料をYM直後に調製した。上記の免疫ブロット分析により、コリベリン処理マウスの嗅球におけるリン酸化STAT3(Tyr705)が上昇した一方で、STARA3の全量には変化なかった。これらのことから、STAT3はコリベリン経鼻投与によりリン酸化されたことが示唆された(図7)。対照的に、AGA-(C8R)HNG17の投与によってもSTAT3リン酸化レベルは上昇しなかったことから、このSTAT3リン酸化レベルの上昇は、コリベリン介在の記憶障害の緩和(改善)に必須であることが示唆された。
【0044】
NH刺激によりSTAT3がリン酸化されるが、このリン酸化にかかわる主なキナーゼはJAK2である。コリベリン投与とSTAT3のリン酸化との関連を検討すべく、図1Aに示した実験プロトコールに準じて、Y-mazeテスト(YM)の24時間前に、JAK2阻害剤であるAG490処理(5 mg/kg)し、スコポラミン誘発記憶障害のコリベリンによる抑制に対する影響を試験した。図8に示されるように、AG490を皮下注射することによって、スコポラミン皮下投与により誘発されるSA%減少のコリベリンによる抑制が阻止された。一方で、AG490はコントロールマウス又はスコポラミン処理マウスのSA%には何ら影響を与えなかった。対照的に、AG490の類似化合物であるAG43(JAK2阻害活性がない)処理(5 mg/kg)では、コントロールマウス、スコポラミン処理マウス又はコリベリン経鼻投与マウスのいずれのSA%に対しても影響を及ぼさなかった(図8B)。以上の事実から、スコポラミン誘発性記憶障害のコリベリンによる抑制は、インビボにおいてもJAK2/STAT3軸を介するものであると結論される。
【0045】
結果:コリベリンの投与方法による比較
同量のコリベリンを鼻腔内投与、腹腔内投与及び皮下投与した場合に、どの方法が優れているかを検討するために、スコポラミン誘発記憶喪失モデルを用いて、1nmolのコリベリンを鼻腔内、腹腔内及び皮下に投与してその効果を比較検討した。その結果、図9に示されるように、鼻腔内投与では有意にスコポラミン誘発性記憶障害が改善されたのに対して、他の2つの投与方法では改善されなかった、これらのことから、鼻腔内投与は他の2つの投与方法と比較して、予想外の格段の有効性を有するものであることが実証された。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明のヒューマニン誘導体又は該誘導体と神経向性ペプチドとの融合ペプチドを有効成分として含有する経鼻投与剤を使用することによって、非侵襲的で有効性の高いアルツハイマー病予防・治療用の薬剤及び予防・治療方法が提供され、アルツハイマー病治療を長期間に亘り安全に実施することが可能となった。
【0047】
本明細書中に引用される文献に記載された内容は、本明細書の一部として本明細書の開示内容を構成するものである。
【0048】
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【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】Y-mazeテストによる短期間のコリベリン経鼻投与による抗コリン作動性薬剤誘発性記憶障害(記憶喪失)に与える影響に関する実験プロトコール(A、C)、及び、その結果を示したグラフ(B、D)である。値は平均値+SEM(標準誤差)である(*p<0.05, **p<0.01)。
【図2】AGA-(C8R)HNG17又はADNFの単独経鼻投与による、3-QNB誘発性記憶障害効果に与える影響を示したグラフである。尚、値は平均値+SEM(標準誤差)である。
【図3】神経保護ペプチドの長期間の繰り返し経鼻投与による効果の増強に関する実験プロトコール(A)、及び、その結果を示すグラフ(B)である。尚、値は平均値+SEM(標準誤差)である(*p<0.05, **p<0.01)。
【図4】長期間の繰り返しコリベリン経鼻投与によるAβ25-35誘発性記憶障害の緩和に関する実験プロトコール(A)、及び、その結果を示すグラフ(B)である。尚、値は平均値+SEM(標準誤差)である(**p<0.01)。
【図5】Aβ25-35に誘発されるChAT陽性ニューロン数減少のコリベリンによる阻止を示す。脳切片を抗ChAT抗体で免疫組織化学的に染色して得られた写真(A)、及び、その結果を示すグラフ(B)である。尚、値は平均値+SEM(標準誤差)である(**p<0.01)。
【図6】コリベリン経鼻投与の嗅球を介するCNSへの輸送を示す、免疫組織化学的に染色して得られた写真である。A,B,E及びFは、冠状切断(coronal cutting)して調製されたものであり、一方、C及びDは矢状(sagittal cutting)して調製されたものである。
【図7】コリベリン経鼻投与によりSTAT3がリン酸化されたことを示す、イムノブロット分析により得られた写真である。
【図8】JAK2阻害剤であるAG490処理によるスコポラミン誘発記憶障害のコリベリンによる抑制に対する影響に関する実験の結果(A)、及び、その比較対照実験として(B)AG490の類似化合物であるAG43処理による結果(B)を示すグラフである。尚、値は平均値+SEM(標準誤差)である(*p<0.05)。
【図9】鼻腔内、腹腔内及び皮下投与したコリベリンのスコポラミン誘発記憶喪失に対する効果を示す結果である。尚、値は平均値+SEM(標準誤差)である(*p<0.05)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒューマニン誘導体又は該誘導体と神経向性ペプチドとの融合ペプチドを有効成分として含有する、アルツハイマー病予防・治療用の経鼻投与剤。
【請求項2】
ヒューマニン誘導体又は該誘導体と神経向性ペプチドとの融合ペプチドを有効成分として含有する、アルツハイマー病関連傷害の保護・改善用の経鼻投与剤。
【請求項3】
アルツハイマー病関連障害が記憶傷害である、請求項2記載の経鼻投与剤。
【請求項4】
アルツハイマー病関連障害が神経変性である、請求項2記載の経鼻投与剤。
【請求項5】
アルツハイマー病関連傷害がコリンアセチルトランスフェラーゼ免疫応答性ニューロン数の減少である、請求項2記載の経鼻投与剤。
【請求項6】
ヒューマニン誘導体が、アミノ酸配列:PAGASRLLLLTGEIDLPを有するペプチド(AGA-(C8R)HNG17)である、請求項1ないし5のいずれか一項に記載の経鼻投与剤。
【請求項7】
神経向性ペプチドが血管活性腸管ペプチド(VIP)、活性依存性神経向性因子(ADNF)又はインシュリン様成長因子(IGF-1)である、請求項6に記載の経鼻投与剤。
【請求項8】
融合ペプチドがADNFのC末端にAGA-(C8R)HNG17が結合した26個のアミノ酸から成るペプチドである、請求項1ないし7のいずれか一項に記載の経鼻投与剤。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか一項に記載の経鼻投与剤を経鼻的に投与することから成る、アルツハイマー病又はアルツハイマー病関連傷害の予防・治療方法。
【請求項10】
アルツハイマー病予防・治療用の経鼻投与剤を製造するための、ヒューマニン誘導体又は該誘導体と神経向性ペプチドとの融合ペプチドの使用。
【請求項11】
融合ペプチドがADNFのC末端にアミノ酸配列:PAGASRLLLLTGEIDLPを有するペプチド(AGA-(C8R)HNG17)が結合した26個のアミノ酸から成るペプチドである、請求項10記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−19245(P2008−19245A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−152376(P2007−152376)
【出願日】平成19年6月8日(2007.6.8)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成19年度、独立行政法人医薬基盤研究所基礎研究推進事業、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】