説明

ヒートショックタンパク質プロモーターと局部加熱との組合せを利用した遺伝子発現の場所的及び時期的制御

【課題】遺伝子発現の場所的及び時期的な制御方法を提供すること。
【解決手段】本発明は遺伝子発現を制御するための局部加熱を利用する方法を提供する。ヒートショックタンパク質(hsp) 遺伝子を選定の治療遺伝子と組換し、そして選定の細胞の中で発現させる。局部コントロール加熱を、例えばMRI によりコントロールされた集束超音波を利用することにより、hsp プロモーターを活性化させるのに用いる。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
発明の背景
A.発明の分野
本発明は遺伝子操作された細胞及び生物における外因性遺伝子発現の場所的及び時期的制御に関連する。詳しくは、本発明は外因性遺伝子の発現を制御するためのヒートショック遺伝子のプロモーターの如き熱誘導性プロモーターの利用に関連する。より詳しくは、本発明はヒートショックプロモーターのコントロール下で治療的遺伝子を含む細胞を加熱するための集束超音波の利用に関連し、これにより治療的遺伝子の発現が誘導される。
【0002】
B.関連技術の説明
機能不全遺伝子により生ずる病気は外因性機能遺伝子を宿主細胞に安定移入させ、その遺伝子の遺伝子産物がその宿主細胞の中で産生されるようにすることによって処置されうる。遺伝子導入は宿主細胞を殺す又は宿主細胞の表現型及び/もしくはその周囲細胞の代謝状態を改変する遺伝子産物をコードする、又は宿主細胞における選定の遺伝子の発現を抑制する外因性核酸を宿主細胞において発現させるのにも利用されうる。ヒトの病気、特にその欠陥が単一遺伝子に関わる病気はこのアプローチによる処置を受け易い。遺伝子及び疾患の処置に向けられた遺伝子治療の用途についての論述については、Miller, A. D. (1992) Nature 357 : 455-460 及びMulligan, R. C. (1993) Science 260 : 926-932を参照のこと(共に引用することで本明細書に組入れる)。
【0003】
多くの場合、遺伝子操作された遺伝子は一定の組織の中でのみ、及び/又は一定の時期においてのみ、及び/又は一定の度合までのみで発現させることが所望される。しかしながら、現状の遺伝子導入及び外因性遺伝子発現プロトコールは異質集団の中のどの細胞を形質転換させるか、並びにこの導入遺伝子をいつ、どこで及びどの程度発現させるかを同時にコントロールする適切な手段を供していない。
【0004】
かなりの関心の集まった外因性遺伝子発現の制御のための一の手法は宿主細胞を誘導性プロモーターのコントロール下にある遺伝子で形質転換させ、次いでこの導入遺伝子のスイッチをこの誘導性プロモーターの活性化によりオン及びオフにすることである。誘導性プロモーターにはメタロチオニンIIA プロモーター、lacZ,tac 及びtrp プロモーター、ファージT7プロモーター/T7 RNAポリメラーゼ、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans) MAL2遺伝子プロモーターが挙げられる。一部のプロモーター、例えばC1857リプレッサーを有するラムダPLプロモーター、ヒートショックタンパク質プロモーターは熱誘導性である。
【0005】
ヒートショックタンパク質(「hsp 」)はストレス、特に熱ストレス、及びその他の様々な外的因子に応答して産生される偏在的なクラスのタンパク質である。今日までに試験された全ての細胞がhsp を含み、そして多種多様なhsp が多種多様な生物において同定されている。多くのhsp はその分子量に従って命名されている(例えば、hsp70 は70キロダルトンのhsp を意味する;hsp56, hsp28) 。hsp の更なる例にはユビキチン、クリスタリン、ラパマイシン、P−糖タンパク質等が挙げられる。以下の文献はヒートショック遺伝子及びプロモーターの特性を述べている:Yostら(1990) TIG, 6 : 222-226. RNA metabolism : strategies for regulation in theheat shock response. Pennier, (1994) Biochemie, 76 : 737-747. Translational control during heat shock ; Minowada and Welch, (1995)「The Clinical implications of the stress response」J. Clin. Invest. 95 : 3-12 ; Lis and Wu, (1993) Cell 74 :1-4. Protein traffic on the heat shock promoter : parking, stalling, and trucking along ; Holbrook and Udelsman,「Heat shock protein gene expression in response to physiological stress and aging, 」THE BIOLOGY OF HEAT SHOCK PROTEINS(登録商標) AND MOLECULAR CHAPERONES 」 (Morimotoら(1994) 編、Plainview, NY :Cold Spring Harbor Laboratory Press, pp. 577-593) ; Macario, (1995),「Heat-shock proteins and molecular chaperones : implications for pathogenesis, diagnostics, and therapeutics 」Int. J. Chem. Lab Res. 25 : 59-70 。
【0006】
hsp は多種多様な細胞作用、例えば新たに形成されたポリペプチドの集成(一部のhsp はシャペロンとして機能する)、シグナル生成機能(例えば、ステロイドホルモンに対する)、タンパク質分泌、DNA 及びRNA 合成(以下参照)に関与及び影響を及ぼす。熱ショック中でのタンパク質の合成は、hsp の合成を除き、一般にストレスの際に阻害される。
【0007】
熱ショック(及びその他の形態のストレス)はヒートショック遺伝子のほぼ瞬間的な転写活性化をもたらす。熱ショック応答はかなり劇的である。この熱ショックメッセージは一般に数分以内で細胞質の中に出現し、そしてメッセージの翻訳は非常に高い効率で実施される。例えば、ショウジョウバエ(Drosophila) 細胞においては、hsp 遺伝子は4〜9℃の温度上昇後わずか4分以内で誘導される。1時間以内で、細胞当り数千の転写物が生ずる。これらの転写物はhsp へと活発に翻訳され、同時に事前に活性な遺伝子の転写は著しく抑制される。Miller and Ziskin (1990) Ultrasound Med. Biol. 15 : 707-22は、温度の急上昇に対する短い曝露が更なる熱的攻撃に対する防御効果を供し、そして細胞によるヒートショックタンパク質の構築はかかる「熱的防御」の開始と一致することを報告する。熱ショックの際の細胞内でのhsp70 の合成のレベルはその熱寛容性と直線関係にあるようである。Li, G. C. (1985) Int. J. Radiat. Oncol. Biol. Phys. 11 : 165-177。2種類のhsp70 タンパク質が発表されている。hsp70A (Wu, B., ら (1985) Mol. Cell. Biol. 5 : 330-341 ; Hunt, C., and Morimoto, R. I. (1985) Proc.Natl. Acad. Sci. USA 82 : 6455-6459)及びhsp70B(Schiller, P., et al. (1988) J. Mol. Biol. 203 : 97-105) 。hsp については、例えばMorimotoら、編、Stress Proteins in Biology and Medicine (1990) Cold Spring Harbor Press ; Hightower, L. E. (1991) Cell 66 : 191-197 ; Craig, E. A., and Gross, C. A. (1991)Trends Bioch. Sci. 16 : 135 を参照のこと。
【0008】
多くの生体の熱ショック遺伝子が地図化及び配列決定されている。熱ショック遺伝子は様々な染色体位置に分散している。このような遺伝子の著しい特徴は任意の介在配列の一般的な欠如にある。
【0009】
様々な起源から熱ショックプロモーターが単離され、配列決定され、そして様々な遺伝子を発現するために利用されている。例えば、Dreano, M.ら(1986) Gene 49 : 1〜8は、ヒト成長ホルモン、ニワトリリゾチーム及びヒトインフレンザヘマグルチニンの熱制御型合成を指令するヒトhsp70Bプロモーター及びショウジョウバエhsp70 プロモーターの利用を述べている。EPA 公開番号 336,523 (Dreanoら、1989年10月11日公開)はヒトhsp70 プロモーターを利用するヒト成長ホルモンのin vivo 発現を述べている。PCT 公開番号WO87/00861(Bromley ら、1987年2月12日公開)は5’非翻訳領域変異体を有するヒト及びショウジョウバエhsp プロモーターの利用を述べている。EPA 公開番号 118,393(Bromley ら、1984年9月12日公開)及びPCT 公開番号WO87/05935 (Bromley ら、1987年10月8日公開)はE.コリ(E.coli)ベーターガラクトシダーゼ及びヒトインフレンザヘマグルチンのショウジョウバエhsp70 プロモーターを利用する発現を述べている。米国特許第 4,990,607 ; 4,797,359 ; 5,521,084;及び 5,447,858号も参照のこと。hsp-70の過剰発現は遺伝子導入マウスで達成されている。Plumeer ら(1995) J. Clin. Inv. 95 : 1854-1860。Yost and Lindquist, (1986) Cell 45 : 185-193 ; Yost and Lindquist, (1988) Science 242 : 1544-1548; Garbe ら(1986) PNAS, 83 : 1812-1816 ; Blackman ら(1986)J. Mol. Biol. 188 : 499-515 ; Bondら(1986) Mol. Cell. Biol. 12 : 4602-4610 ; Kay ら(1987) Nucl. Acids Res. 15 : 3723-3741 ; Bond, (1988) EMBO J. 7 : 3509-3518も参照のこと。これらのプロモーターの公開配列は引用することで本明細書に組入れる。
【0010】
タンパク質の発現をコントロールするのに利用されている誘導性プロモーターシステムは典型的には1又は複数の下記の制約を有する:それらは比較狭い宿主領域に限定され、又は部分的にのみ誘導性である、又は本質的に危険な腫瘍ウィルスの如き有機体に由来する。
【0011】
より重要なことに、それらの利用は形質転換細胞における外因性遺伝子の細くチューニングされた局部発現を可能にしない。「全てのベクターのためのデザインハードルは…導入遺伝子を制御することである」Crystal (1995)「Transfer of genes to humans : Early lessons and obstacles to success。」
【0012】
発明の概要
本発明は遺伝子発現の選択的な時期的及び場所的制御のための方法であって、下記の工程
a)治療的遺伝子をヒートショックタンパク質プロモーターと連結し、選定の治療的遺伝子がhsp プロモーターのコントロール下にある遺伝子操作された構築体を作る;
b)当該hsp プロモーター−治療的遺伝子構築体を適当なベクターの中に挿入し、そして当該ベクターを標的細胞又は生体に導入する;
c)当該ベクター構築体を含む細胞を含んでいる細胞マス又は生体の所定の独立領域を選択的に加熱する;
d)工程cを必要なだけ繰り返す;
を含んで成る方法を提供する。
【0013】
好適な態様において、局部加熱は集束型超音波を利用して成し遂げる。この標的組織を可視化し、且つ加熱のレベル(即ち、温度)を定量及び細く制御するために磁気共鳴イメージング装置を利用する。
【0014】
本発明は更に多細胞生体における選定の細胞に治療的タンパク質を供与する方法であって、
多細胞生体の細胞の中に、治療的タンパク質をコードする配列に作用可能式に連結され、且つそれに調節制御を及ぼすヒートショックプロモーター配列を有するDNA 分子を導入する;そして
集束超音波の適用を介して当該ヒートショックプロモーター配列を活性化させ、当該細胞に治療的に有効な量の当該治療的タンパク質を発現させる;
ことを含んで成る方法。
【0015】
いくつかの態様において、本発明は癌の処置、局部脈管形成の誘導、及び遺伝子疾患の処置のための方法を含んで成る。一定の態様において、注目の遺伝子は毒素分子又はプロ分子をコードする遺伝子の群から選ばれる。
【0016】
発明の詳細な説明
A.定義
「核酸」なる語は一本鎖又は二本鎖形態のいづれかのデオキシリボヌクレオチド又はリボヌクレオチド及びそれらのポリマーをいう。特にことわりのない限り、この語は対照の核酸と似かよった結合特性を有し、且つ天然ヌクレオチドと似たように代謝される天然ヌクレオチドの既知の類似体を含む核酸を包含する。何らかのことわりのない限り、特定の核酸はその保存的に修飾された変異体(例えば縮重コドン置換)及び相補性配列、並びに明示の配列も包括する。核酸なる語は遺伝子、cDNA及び遺伝子によりコードされるmRNAと同義で用いている。
【0017】
「外因性」又は「異種核酸」なる表現は一般に核酸であって単離され、クローニングされ、そして天然では一緒になっていない核酸にライゲーションされた、並びに/又は当該核酸もしくはタンパク質が天然で典型的に見い出されうる細胞もしくは細胞環境以外の細胞もしくは細胞環境の中に導入及び/もしくは発現されたものをいう。この語は核酸であって別の生体又はそれが発現される細胞タイプとは異なる細胞タイプから本来得られるもの双方を包括し、そしてそれが発現される細胞系と同じ細胞系から得られるものも包括する。
【0018】
「をコードする核酸配列」なる表現は構造RNA 、例えばrRNA,tRNA、又は特異的なタンパク質もしくはペプチドの一次アミノ酸配列、又はtrans 作用調節因子に対する結合部位についての情報を含む。この語は特に、特異的な宿主細胞におけるコドン優先と合致するように導入されうる天然配列の縮重コドン(即ち、単一アミノ酸をコードする別のコドン)を包括する。
【0019】
核酸又はタンパク質について用いたときの語「組換」又は「操作された」とは、当該核酸又はタンパク質の組成又は一次配列が当業者に周知の実験操作を利用して天然配列から改変したことを一般に意味する。それは核酸もしくはタンパク質が単離され、そしてベクターの中にクローニングされたか、又は核酸が当該核酸もしくはタンパク質が天然において見い出せうる細胞もしくは細胞環境以外の細胞もしくは細胞環境の中に導入されたもしくはその中で発現されたことも意味しうる。
【0020】
細胞について用いたときの語「組換」又は「操作された」とは、その細胞がその細胞にとって外因性である起源に由来する核酸を複製もしくは発現する、又は核酸によりコードされるペプチドもしくはタンパク質を産生することを意味する。組換細胞は天然形態(非組換)の細胞において見い出せない核酸を発現することができる。組換細胞は天然形態の細胞において見い出せる核酸も発現でき、この場合この核酸は人工手段によりその細胞の中に再導入されたものである。
【0021】
細胞は外因性核酸がその細胞膜の内側に導入されている場合、かかる外因性核酸により「形質転換」されている。外因性DNA は細胞のゲノムを構成する染色体DNA の中に組込まれていても組込まれていなくてもよい(共有結合)。この外因性DNA はエピソーム要素、例えばプラスミド上に維持されていてよい。真核細胞において、安定的に形質転換された細胞は、一般に外因性DNA が染色体の中に組込まれ、染色体複製を通じて娘細胞へと遺伝されているもの、又は安定的に維持された染色体外プラスミドを含むものである。この安定性は外因性DNA を含む娘細胞の集団を含んで成る細胞系又はクローンを樹立する真核細胞の能力により実証される。
【0022】
「熱誘導性プロモーター」。プロモーターは、主にtrans 作用式リガンド、例えばポリメラーゼ、転写因子、転写エンハンサー及び転写サプレッサーと相互作用することにより遺伝子の転写を制御する遺伝子と一体化している核酸をいう。構成プロモーターは遺伝子の定常転写を促進し、一方誘導性プロモーターの活性は特異的なインデューサーの存在(又は非存在)による決定に従い変動する。誘導性プロモーターの調節要素は通常、転写開始部位のTATAボックスよりも更に上流に位置する。理想的には、誘導性プロモーターは下記の特性を有する:誘導刺激がないときの基底発現レベルの低さ又は欠如、誘導性刺激の存在下での高い発現レベル、及び細胞の生理を本来改変しない誘導スキーム。熱誘導性プロモーターは規定の温度上昇にまでプロモーター含有細胞を曝露することにより活性化されるものである。
【0023】
「宿主細胞」は外因性DNA 配列により形質転換された細胞をいう。何らかのことわりのない限り、この宿主細胞は植物又は動物細胞である。
【0024】
「腫瘍細胞」又は「癌細胞」又は「新形成細胞」とは不適切な無秩序な増殖を示す細胞を意味する。「ヒト」腫瘍はヒト染色体を有する細胞を含んで成る。かかる腫瘍にはヒト患者の中にあるもの、及びヒト染色体を有する悪性細胞系の非ヒト宿主動物への導入に由来する腫瘍が挙げられる。
【0025】
「選択的に加熱」とは、生体、組織又は細胞マスの中で所定の場所的座標(coordinate) を有する細胞のみが熱源により直接加熱され、一方でこのような座標外にある細胞は、たとえ隣接していたとしても、直接加熱されないことを意味する。選択的に加熱される細胞と隣接細胞との間での正常な熱平衡により生じうる隣接細胞の加熱は選択加熱の結果である。
【0026】
「プロ分子」なる語は、それ自体は投与される際に代謝活性でないが、このプロ分子を改変もしくは代謝することができる細胞により化学的に改変もしくは代謝されたときに活性されるか、又は1もしくは複数のその他の物質と組合さると代謝活性される複合体を形成する物質を意味する。プロ分子は化学的改変又は第二物質との組合せにより宿主細胞にとって毒性となりうる。その例には、致死的な代謝物5−フルオロウラシル(「5FU」)へと変換されうるフルオロシトシン(「5FC」);5−メトキシプリンアラビノシド;及びガンシクロビルが挙げられる。プロ分子は好ましくは、プロドラッグを毒性産物へと変換することのできる細胞を除き、生体に疾患作用を実質的に及ぼさない。「プロドラッグ活性化性分子」は、無毒なプロドラッグをその毒性代謝物へと代謝することができる酵素の如き分子、又はプロドラッグと結合(共有又は非共有)して毒性産物を生み出す分子をいう。
【0027】
「毒性分子」は細胞増殖を阻害するか、又は一定の代謝経路を阻害し、時折り細胞を殺す分子をいう。例えば、WO93/24136参照のこと。
【0028】
「治療的用量」又は「治療的な量」又は「有効量」とは所望の結果を供するのに十分な用量を意味する。所望の結果は投与受容体の客観的もしくは主観的改善、標的細胞集団の数の減少もしくは増大、腫瘍サイズの縮小、癌細胞の増殖速度の低下、転移の減少、又は以上の任意の組合せでありうる。
【0029】
B.本発明
本発明に従うと、熱誘導性プロモーター、好ましくはhsp プロモーターを含んで成る核酸を獲得し、選定の遺伝子に既知の遺伝子操作技術により複合させ、その構築体を宿主細胞に導入し、そして選定の場所的座標を占める形質転換細胞のサブセットを加熱してプロモーターを活性化し、当該遺伝子を発現させる。
【0030】
1.ヒートショックタンパク質及びヒートショックタンパク質プロモーター
いくつかの熱誘導性プロモーターが公知であり(例えば、ラムダPLプロモーター)、そして本発明において利用できうる。本発明において利用するのに好適な熱誘導性プロモーターはヒートショックタンパク質プロモーターである。
【0031】
ヒートショック要素として知られる領域は真核ヒートショック遺伝子のRNA 開始部位の最初の100bp 5’側において見い出せる。Sorger, P. K. (1991) Cell 65 : 363。この領域は、ヘッド・トゥ・ヘッド又はテール・トゥ・テール配向(nGAAnnTTCn又はnTTCnnGAAn) で少なくとも2回反復する配列nGAAn を含む。別の種に由来するhsp70 遺伝子はHSE の数及び配向、並びに上流に見い出せるその他のタイプの因子結合部位において相違する。HSE は陽性trans 活性化因子であるヒートショック因子(HSF) と結合することによりストレス誘導化プロモーター活性化において機能する。ヒートショック要素に対するこの因子の結合定数は、任意のその他の哺乳動物転写因子のその対合の結合部位に対するそれよりも約 100倍強く、このプロモーターは最も強力なものの一つである。
【0032】
タンパク質合成の調節のための主要部位はポリペプチド連鎖の開始である。特に、共に開始因子である eLF−2及び eLF−4Fの活性は熱ショックの際に調節される。hsp 関連タンパク質Idnaseが開始因子の調節に関与するものと考えられる。hsp-70は変性タンパク質の蓄積を検出することにより熱センサーであると変えられ、そして eLF−2の生産はタンパク質生産を制限するものと考えられる。換言すれば、因子 eLF−4Fはhsp の優先的な合成に関与しうる。
【0033】
熱ショックの際に活性化された特異的な転写因子を HSF−1と呼ぶ。最近の論文はその作用をまとめている。 HSP−1はストレスの際に三量化し(hsp-70により媒介)、次いでhsp 遺伝子のプロモーター要素内に位置する共通ヌクレオチド配列(ヒートショック要素 (HSE)) と結合する。
【0034】
本明細書において詳しく説明しないヒートショックプロモーターは、以下の基準に合うなら、いづれにせよ本発明の範囲に属する:
【0035】
リポーター遺伝子と組換して構築体を形成し、それをこのリポーター遺伝子の発現が可能な宿主細胞の中に導入すると、そのリポーター遺伝子は正常な生理温度ではほとんど又は全く発現しない;
【0036】
しかしその形質転換宿主細胞を非致死的な超生理温度に曝露すると、そのリポーター遺伝子は生理温度での発現レベルの5倍以上(好ましくは10倍、そして最も好ましくは 100倍以上)のレベルで発現する。
【0037】
2.ヒートショックプロモーターを得る、それを選定の遺伝子に作用連結させる、及びそれを細胞の中で発現させるための遺伝子操作方法
簡単にまとめると、天然又は合成核酸の発現は典型的には注目の核酸をプロモーター(それは構成的又は誘導性のいづれであってよい)に作用可能式に連結させ、その構築体を発現ベクターの中に組込み、そしてこのベクターを適当な宿主細胞の中に導入することにより達成される。典型的なベクターは転写及び翻訳ターミネーター、転写及び翻訳開始配列、並びに特定の核酸の発現の調節に有用なプロモーターを含む。このベクターは任意的に、少なくとも一つの独立ターミネーター配列、真核細胞もしくは原核細胞、又はその両者(例えばシャトルベクター)の中でカセットの複製を可能にする配列、並びに原核系及び真核系の双方のためのマーカーを含む汎用の発現カセットを含んで成る。ベクターは原核細胞、真核細胞、又は好ましくは両者における複製及び組込みに適するものである。Giliman and Smith (1979), Gene, 8 : 81-97 ; Roberts ら(1987), Nature, 328 : 731-734 ; Berger and Kimmel, Guide to Molecular Cloning Techniques, Methods in Enzymology、第 152巻、Academic Press, Inc., San Diego, CA (Berger) ; Sambrook ら(1989), MOLECULAR CLONING - A LABORATORY MANUAL (第2版)Vol. 1-3, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Press, N. Y., (Sambrook);及びF. M. Ausubel ら CURRENT PROTOCOLS INMOLECULAR BIOLOGY 、編 Current Protocols, a joint venture between Greene Publishing Associates, Inc. and John Wiley & Sons, Inc., (1994 Supplement) (Ausubel) を参照のこと。生物学的試薬及び実験装置の製造業者からの製品情報も公知の生物学的方法において有用な情報を提供する。かかる製造業者には、SIGMA chemical company (Saint Louis, MO), R&D systems (Minneapolis, MN), Pharmacia LKB Biotechnology (Piscataway, NJ), CLONTECH Laboratories, Inc. (Palo Alto, CA), Chem Genes Corp., AldrichChemical Company (Milwaukee, WI), Glen Research, Inc., GIBCO BRL Life Technologies, Inc. (Gaithersberg, MD), Fluka Chamica-Biochemika Analytika (Fluka Chemie AG, Buchs, Switzerland) 及び Applied Biosystems (Foster City, CA) 並びにその他の当業者公知の商業的起源が挙げられる。
【0038】
a.核酸
本発明において利用される核酸(例えばプロモーター、遺伝子及びベクター)は天然起源から単離、ATCCもしくはGenBank ライブラリーの如き起源から入手、又は合成方法により調製できうる。合成核酸は様々な溶液又は固相法により調製できうる。ホスフィット−トリエステル、ホスホトリエステル及びH−ホスホネート化学による核酸の固相合成のための手順の詳細な説明が幅広く入手できる。例えば、引用することで本明細書に組入れるItakura 米国特許第 4,401,796号;Caruthers ら米国特許第 4,458,066及び 4,500,707号;Beaucageら(1981) Tetrahedron Lett., 22 : 1859-1862 ; Matteucci, (1981) ら J. Am. Chem. Soc., 103 : 3185-3191 ; Caruthers ら(1982) Genetic Engineering, 4 : 1-17 ; Jones 、第2章Atkinsonら第3章及びSproatら第4章Oligonucleotide Synthesis: A Practical Approach, Gait( 編),IRL Press, Washington D. C. (1984) ; Froehler ら(1986) Tetrahedron Lett., 27 : 469-472 ; Froehlerら(1986) Nucleic Acids Res., 14 : 5399-5407 ; Sinhaら(1983) Tetrahedron Lett., 24 : 5843-5846 ; 及びSinha ら(1984) Nucl. Acids Res., 12 : 4539-4557を参照のこと。
【0039】
b.ベクター
数多くのベクターが選定の核酸をヒートショックプロモーターに作用可能式に連結し、そしてその複製、クローニング及び/又は発現を媒介するために利用されうる。「クローニングベクター」は外来核酸を複製及び増幅させ、そして特異的な外来核酸含有ベクターのクローンを得るために有用である。「発現ベクター」は外来核酸の発現を媒介する。いくつかのベクターはクローニング及び発現の双方のベクターである。
【0040】
一般に、外来遺伝子を細胞の中に輸送するのに用いられる特定のベクターは特に重要でない。選定の宿主細胞における発現のために用いる任意の慣用のベクターが利用されうる。
【0041】
発現ベクターは典型的には真核細胞中の外因性遺伝子の発現のために必要な全ての要素を含む真核転写ユニット又は「発現カセット」を含んで成る。典型的な発現カセットは所望のタンパク質をコードするDNA 配列に作用可能式に連結されたプロモーター及び転写物の効率的なポリアデニル化のために必要なシグナルを含む。
【0042】
真核系プロモーターは典型的には2タイプの認識配列、TATAボックス及び上流プロモーター配列を含む。転写開始部位の25〜30塩基対上流に位置するTATAボックスはRNA ポリメラーゼにRNA 合成を開始させる指令に関与すると考えられている。その他の上流プロモーター要素は転写が開始する速度を決定する。
【0043】
エンハンサー要素は連結された同族又は異種プロモーターから 1,000倍までの転写を刺激しうる。エンハンサーは転写開始部位から下流又は上流に配置されたときに活性である。ウィルスに由来する多くのエンハンサー要素は広い宿主域を有し、そして様々な組織の中で活性である。例えば、SV40早期遺伝子エンハンサーは多くの細胞タイプに適当である。本発明に適するその他のエンハンサー/プロモーター組合せにはポリオーマウィルス、ヒトもしくはネズミサイトメガロウィルス、様々なレトロウィルス、例えばネズミ白血病ウィルス、ネズミもしくはラウス肉腫ウィルス及びHIV に由来する長末端リピートに由来するものが挙げられる。引用することで本明細書に組入れるEuhancers and Enkaryotic Expression, Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, N. Y. 1983 を参照のこと。
【0044】
プロモーター配列の他に、当該発現カセットは効率的な終止を担うための構造遺伝子の下流の転写終止領域も含むべきである。この終止領域はプロモーター配列と同じ起源から得られうるか、又は別の起源から得られうる。
【0045】
選定の構造遺伝子によりコードされるmRNAを効率的に翻訳するなら、ポリアデニル化配列も当該ベクター構築体に通常付加される。正確且つ効率的なポリアデニル化のために2種類の配列要素が必要である:ポリアデニル化部位の下流に位置するGU又はUリッチ配列、及び11〜30ヌクレオチド上流に位置する6ヌクレオチドの高保存性配列AAUAAA。本発明に適する終止及びポリアデニル化シグナルはSV40に由来するもの、又は発現ベクター上に既に載っている遺伝子の部分ゲノムコピーである。
【0046】
前述の要素の他に、本発明の発現ベクターは典型的にはクローニングされた核酸の発現レベルを高める又は形質導入したDNA を担体する細胞の同定を促進することを意図するその他の特製要素を含みうる。例えば、多くの動物ウィルスは許容細胞タイプにおけるウィルスゲノムの追加の染色体複製を促進するDNA 配列を含む。このようなウィルスレプリコンを担持するプラスミドは、プラスミド上に担持された又は宿主細胞のゲノムを伴う遺伝子により適当な因子が供される限り、エピソーム式に複製される。
【0047】
本発明の発現ベクターは、細菌中でのベクターのクローニングを促進する原核系配列、及び真核細胞、例えば哺乳動物細胞の中でのみ発現される1又は複数の真核系転写単位の双方を典型的には含むであろう。この原核系配列は好ましくはそれらが真核細胞中でのDNA の複製を妨げないものであるよう選定する。
【0048】
選定の遺伝子は通常、DNA 配列をベクターの中に機能的に挿入したときに発現される。「機能的に挿入」とはそれが適当なリーディングフレーム及び配向において挿入され、且つ適当な調節要素に作用可能式に連結されていることを意味する。典型的には、遺伝子をプロモーターの下流に挿入し、そして停止コドンを後続させるが、所望するなら、ハイブリドタンパク質として生産し、その後に切断することが利用されうる。
【0049】
当該ベクターは通常、注目の遺伝子の他に、適当マーカーをコードする1又は複数の追加の遺伝子を含む。選択マーカーはポジティブ選択(例えば、マーカー遺伝子を発現する細胞は生存し、一方選定の遺伝子を発現しない細胞は死ぬ場合;例えば、抗生物質耐性の如きをコードしうる遺伝子)又はネガティブ選択(例えば、マーカー遺伝子を発現する細胞は死に、一方選定の遺伝子を発現しない細胞は生存する場合;例えばシトシンデアミナーゼ)のためのものでありうる。
【0050】
様々なベクターを利用できうるが、ウィルスベクター、例えばレトロウィルスベクターが真核細胞の修飾のために有用であることに注目すべきであり、その理由はレトロウィルスベクターが標的細胞に感染する及び標的細胞ゲノムの中に組込まれる効率の高さにある。更に、レトロウィルスベクターを担持するレトロウィルスは多種多様な組織由来の細胞に感染できる。
【0051】
レトロウィルスベクターは遺伝子操作されたレトロウィルスにより製造される。レトロウィルスはRNA ウィルスと呼ばれ、なぜならウィルスゲノムはRNA であるからである。感染により、このゲノムRNA はDNA コピーへと逆転写され、そのコピーは高度な安定性及び効率性をもって形質導入細胞の染色体DNA の中に組込まれる。組込まれたDNA コピーはプロウィルスと称され、そしてその他の遺伝子と一緒に娘細胞により遺伝される。野生型レトロウィルスゲノム及びプロウィルスDNA は3つの遺伝子を有する:gag. pol及びenv 遺伝子。それらには2本の長末端リピート(LTR) 配列が隣接する。gag 遺伝子は内部構造(ヌクレオカプシド)タンパク質をコードする;pol 遺伝子はRNA 特異的DNA ポリメラーゼをコードする(逆転写酵素);そしてenv 遺伝子はウィルスエンベロープ糖タンパク質をコードする。5’及び3’LTR はビリオンRNA の転写及びポリアデニル化を促進するのを担う。5’LTR の隣りにはゲノムの逆転写(tRNAプライマー結合部位)及び粒子に至るウィルスRNA の効率的な封入(psi部位)のために必須である。Mulligan, R. C., (1983) In : Experimental Manipulation of Gene Expression, M. Inouye(編)、155-173 ; Mann, R., ら(1983) Cell, 33 : 153-159 ; Cone, R. D.及びR. C. Mulligan, (1984) Proceedings of the National Academy of Sciences, U.S.A., 81 : 6349-6353を参照のこと。
【0052】
レトロウィルスベクターは細胞の修飾に極めて有用であり、その理由はこのレトロウィルスベクターが標的細胞を形質導入せしめる及び標的細胞ゲノムの中に組込まれる効率の高さにある。レトロウィルスベクターを担持するレトロウィルスは多種多様な組織由来の分裂細胞に感染できる。これらのベクターは導入遺伝子配列を標的細胞の染色体DNA に安定的に組込む能力を有する。
【0053】
レトロウィルスベクターのデザインは当業者に周知である。Singer. M. and Berg. P. 前掲を参照のこと。簡単に述べると、エンカプシデーション(又はレトロウィルスRNA の感染性ビリオンへのパッケージング)のために必須の配列がウィルスゲノムから欠失している場合、その結果はゲノムRNA のエンカプシデーションを阻止するcis 作用欠陥である。しかしながら、得られる突然変異体は全てのビリオンタンパク質の合成を指令することができ続ける。欠失されたこのような配列に由来するレトロウィルスゲノム、及び染色体の中に安定的に組込まれた突然変異ゲノムを含む細胞系は当業界において周知であり、そしてレトロウィルスベクターを構築するのに利用される。レトロウィルスベクターの調製及びその用途は多くの公開物、例えばヨーロッパ特許出願EPA 0 178 220 ; 米国特許第 4,405,712号;Gilboa, (1986) Biotechniques 4 : 504-512 ; Mannら(1983) Cell 33 : 153-159 ; Cone and Mulligan, (1984) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81 : 6349-6353 ; Eglitis, M. A,ら(1988) Biotechniques 6 : 608-614 ; Miller, A. D. ら(1989) Biotechniques 7 : 981-990, Miller, A. D. (1992) Nature、前掲 Mulligan, R. C. (1993) 前掲及びGould, B. ら並びに国際特許出願WO92/07943題名「Retroviral Vectors Useful in Gene Therapy 」に記載されている。これらの特許及び公開物の教示は引用することで本明細書に組入れる。
【0054】
上記のレトロウィルスベクターの他に、細胞はアデノウィルス又はアデノウィルス関連ウィルスベクターにより形質転換されうる。例えば、Methods in Enzymology, Vol. 185, Academic Press, Inc., San Diego, CA (D. V. Goeddel 、編)(1990) 又はM. Krieger (1990), Gene Transfer and Expression - A Laboratory Manual, Stockton Press, New York, NY 、及びその引用文献を参照のこと。アデノウィルスは「一般的な感冒」、肺炎、結膜炎及びその他の疾患を引き起こす二本鎖線形DNA ウィルスである。ヒトに感染することで知られる42通りの血清型アデノウィルスである。
【0055】
アデノウィルスは典型的にはレセプター媒介エンドサイト−シスを介して細胞に侵入する。特異的なレセプターは知られていない。内在化を経て、ベクターのゲノムは、宿主ゲノムの中に組込まれるのではなく、エピソーム式に機能するようである。これは一過性の遺伝子発現しか供せず、そしてランダムゲノム組込み及びその潜在的な問題、例えば誘導化腫瘍原性をも回避する。
【0056】
アデノ関連ウィルス(AAV) は生産性感染を達成するにはヘルパーウィルス、例えばアデノウィルス又はヘルペスウィルスを必要とする。ヘルパーウィルス機能がないと、AAV は宿主ゲノムの中に(部位特異的に)組込まれるが、組込まれたAAV ゲノムは病原作用をもたない。組込み段階は、宿主が適当な環境条件にさらされ(例えば溶解ヘルパーウィルス)、溶解ライフサイクルに再突入するまでAAV ゲノムが遺伝子的に完全なままであり続けることを可能にする。Samulski (1993), Current Opinion in Genetic and Development, 3 : 74-80、及びその中の引用文献はAAV ライフサイクルの概要を供する。更には、AAV ベクターの概要について、Westら(1987), Virology, 160 : 38-47 ; Carter ら(1989) ; 米国特許第 4,797,368号;Carterら(1993), WO93/24641 ; Kotin (1994), Human Gene Therapy, 5 : 793-801 ; Muzyczka (1994), J. Clin. Invest., 94 : 1351及びSamulski前掲を参照のこと。
【0057】
組換AAV ベクター(rAAVベクター)は外来遺伝子を多種多様な哺乳動物細胞へと運び入れ(Hermonat & Muzycka (1984) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81 : 6466-6470 ; Tratschin ら(1985) Mol Cell Biol 5 : 3251-3260)、宿主染色体の中に組込み(Mclaughlinら(1988) J. Virol 62 : 1963-1973)、そして細胞及び動物モデルにおける導入遺伝子の安定な発現を示す(Flotteら(1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90 : 10613-10617)。更に、レトロウィルスベクターと異なり、rAAVベクターは非分裂細胞に感染できる(Podsakoff ら(1994) J Virol 68 : 5656-66 ; Flotte ら(1994) Am. J. Respir. Cell Mol. Biol. 11 : 517-521)。rAAVベクターの更なる長所には固有強力プロモーターの欠如にあり、これにより下流細胞配列の活性化の可能性は回避され、更にはそのむき出しの正二十面体カプシド構造にあり、それはそのベクターを安定にし、一般の研究技術により濃縮し易くする。
【0058】
rAAVベクターは臨床環境における好適な遺伝子導入システムとなるいくつかの特性を有する。それらは既知の病原態様をもたず、そして米国の人口の80%が現在AAV については血清陽性である(Blacklowら、(1971) J Natl Cancer lnst 40 : 319-327 ; Blacklowら(197) Am J Epidemiol 94 : 359-366) 。rAAVベクターは内因性プロモーター活性をほとんど又は全くもたないため、標的細胞タイプに依存して特異的なプロモーターを使用できうる。rAAVベクターは 1.0超の感染多重度を形質導入実験において利用できるように精製及び濃縮できる。これは培養物中の標的細胞の事実上 100%が形質導入されることを可能にし、形質導入細胞の選別の必要性を排除する。
【0059】
組換ワクシニアを製造するためにデザインされたプラスミド、例えばpGS62 (Langford, C. L.ら(1986), Mol. Cell. Biol., 6 : 3191-3199) も利用できうる。最後に、HIV に由来する非病原性ベクターが非分裂細胞を形質転換することが報告され、そしてこれも利用できうる。
【0060】
どのベクターを使用しようと、一般にベクターは注目の遺伝子を発現可能式に含むように遺伝子操作する。選定する特定の遺伝子は意図する処理に依存するであろう。かかる注目の遺伝子の例は以降の章eに説明する。
【0061】
当該ベクターは更に、核酸増幅をもたらす選択マーカー、例えばナトリウム、カリウムATPase、チミジンキナーゼ、アミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ、ヒグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ、キサンチン−グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ、CAD(カルバミルホスフェートシンセターゼ、アスパラギン酸トランスカルバミラーゼ及びジヒドロオロターゼ)、アデノシンデアミナーゼ、ジヒドロホレートリダクターゼ、並びにアスパラギンシンセターゼ及びウワバイン選択マーカーを通常含んで成る。他方、核酸増幅に関与しない高収率発現システム、例えば昆虫細胞中のバキュロウィルスベクターを利用するものも適当である。
【0062】
プラスミド以外の核酸を利用する場合、核酸は核酸類似体、例えばStein ら(1993) Science 261 : 1004-1011 並びに米国特許第 5,264,423及び 5,276,019号に記載のアンチセンス誘導体を含みうる。その内容は引用することで本明細書に組入れる。
【0063】
c.in vitro遺伝子導入
動物細胞の中に核酸を導入するいくつかの周知の方法があり、いづれも本発明において利用し得る。これらには:リン酸カルシウム沈殿、受容細胞とDNA 含有細菌プロトプラストとの融合、受容細胞のDNA 含有リポソームによる処理、DEAEデキストラン、レセプター媒介エンドサイト−シス、エレクトロポレーション、細胞へのDNAの直接マイクロインジェクション、ウィルスベクターによる感染等が挙げられる。
【0064】
in vitro用途のため、核酸の導入は培養物中で増殖する任意の細胞であってよく、植物又は動物起源、脊椎動物又は無脊椎動物、及び任意の組織又はタイプに関係ない。好適な態様において、これらの細胞は動物細胞、より好ましくは哺乳動物細胞、そして最も好ましくはヒト細胞であろう。
【0065】
in vitroで実施した場合の細胞と遺伝子操作された核酸構築体との接触は生物学的に適合性な培地の中で行われる。核酸の濃度は特定の用途に依存して幅広く変動するが、一般には約1μmol 〜約10mmolである。核酸による細胞の処理は生理温度(約37℃)で約1〜48時間、好ましくは約2〜4時間かけて実施される。
【0066】
一の好適な態様の群において、核酸を約103 〜約105 細胞/ml、より好ましくは約2×104 細胞/mlの細胞密度を有する60〜80%の集密度のプレート細胞に加える。この細胞に添加する懸濁物の濃度は好ましくは約0.01〜0.2 μg/ml、より好ましくは約 0.1μg/mlとする。
【0067】
d.in vivo 遺伝子導入
他方、本発明の組成物は当業者に公知の方法を利用し、in vivo遺伝子導入のために利用できうる。医療治療の目的のための細胞への遺伝子の挿入は、莫大な数の臨床的能力を有する急発展している医療分野である。遺伝子治療における研究は数年かかり、それからヒト臨床試験に入る。引用することで本明細書に組入れるZhu ら(1993) Science 261 : 209-211 はDOTMA-DOPE複合体を利用するサイトメガロウィルス (CMV)−クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT) 発現プラスミドの静脈導入を述べる。引用することで本明細書に組入れるHydeら(1993) Nature 362 : 250-256はリポソームを利用しての嚢胞性繊維症膜内外伝導率調節(CFTR)遺伝子の気道上皮及びマウスの肺における肺胞に至る運搬を述べている。Brigham ら(1989)Am. J. Med. Sci. 298 : 278-281 (引用することで本明細書に組入れる)は細胞内酵素クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT) をコードする機能性原核系遺伝子によるマウスの肺のin vivo トランスフェクションを述べている。
【0068】
in vivo 投与のためには、当該薬理組成物は非経腸式に、即ち、動脈内、静脈内、腹腔内、皮下又は筋肉内的に投与するのが好ましい。より好ましくは、当該薬理組成物はボーラス注射により静脈内又は腹腔内投与する。例えば、引用することで本明細書に組入れる米国特許第 5,286,634号を参照のこと。細胞内核酸導入はStraubringer,ら(1983) METHCDS IN ENZYMOLOGY, Academic Press, New York. 101 : 512-527 ; Mannino,ら(1988) Biotechniques 6 : 682-690 ; Nicolau,ら(1989) Crit. Rev. Ther. Drug Carrier Syst. 6 : 239-271 ; 及びBehr, (1993) Acc. Chem. Res. 26 : 274-278 にも論じられている。治療剤を投与するためのその他の方法は例えばRahmanら米国特許第 3,993,754号;Sears 、米国特許第No.4,145,410号;Papahadjopoulos ら米国特許第 4,235,871号;Schneider 米国特許第 4,224,179号;Lenkら米国特許第 4,522,803号;及びFountainら米国特許第 4,588,578にも記載されている。
【0069】
一定の態様において、当該薬理調製品は組織へのこの調製品の直接適用により標的組織と接触させてよい。その適用は局所的な「開放」又は「密閉」手順によることができうる。「局所」とは、環境に露出した組織、例えば皮膚、口腔咽頭部、外耳道等への薬理調製品の直接塗布を意味する。「開放」手順は患者の皮膚を切開し、そしてその下の組織を直視できるようにし、薬理調製品を適用することを含む。これは外科手順、例えば肺へのアクセスのための開胸術、腹部内蔵へのアクセスのための側腹切開術、又は標的組織に対するその他の外科的アプローチにより達成される。「密閉」手順は侵襲手順であり、それにおいては内蔵標的組織を直接目視化するのではなく、皮膚における小さい創傷を介して器具を挿入することによりアクセスする。例えば、この調製品は洗浄針を介して腹膜へと投与されうる。同様に、この薬理調製品を髄膜又は脊髄に腰椎穿刺で点滴により投与し、次いで脊髄麻酔又は脊髄のメトラザマイドイメージングのために一般的に実施される通りに患者を適当に配置してよい。他方、この調製品は内視鏡器具を介して投与してよい。
【0070】
この核酸は肺へのエアゾール吸収(Brigham ら(1989)Am. J. Sci. 298 (4) : 278-281)又は疾患部位への直接注射(Culver, (1994) HUMAN GENE THERAPY, MaryAnn Liebert, Inc., Publishers, New York, pp. 70-71)によっても投与することができうる。
【0071】
本発明の方法は様々な宿主に適用することができうる。好適な宿主には哺乳動物種、例えばヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ヒツジ等が挙げられる。
【0072】
投与する核酸の量は利用する特定の核酸、診断する疾患状態;患者の年齢、体重及び症状並びに医師の判断に依存するであろうが、一般には一回の注射につき約0.01〜約50mg/体重kg;好ましくは約5mg/体重kg、又は約108 〜1010個の粒子であろう。
【0073】
in vivo 遺伝子導入のためには、選定の核酸を含む選定のベクターを含んで成る薬理組成物を好ましくは非経腸的に、即ち、動脈内、静脈内、腹腔内、皮下又は筋肉内的に投与する。より好ましくは、この薬理組成物はボーラス注射により静脈内又は腹腔内投与する。例えば引用することで本明細書に組入れるStadler ら米国特許第 5,286,634号を参照のこと。細胞内核酸導入はStraubringerら(1983) METHODS IN ENZYMOLOGY, Academic Press, New York. 101 : 512-527 ; Mannino, ら(1988) Biotechniques 6 : 682-690) ; Nicolau, ら(1989) Crit. Rev. Ther. Drug Carrier Syst. 6 : 239-271 ; 及びBehr, (1993) Acc. Chem. Res. 26 : 274-278 に記載されている。治療剤を投与するその他の方法は例えばRahmanら米国特許第 3,993,754号;Sears 、米国特許第 4,145,410号;Papahadjopoulos ら米国特許第 4,235,871号;Schneider ,米国特許第 4,224,179号;Lenkら米国特許第 4,522,803号;及びFountainら米国特許第 4,588,578号に記載されている。
【0074】
投与のために適当な製剤には、酸化防止剤、緩衝剤、静菌剤、及びその製剤を目的の受容体の血液と等張による溶質を含みうる水性及び非水性、等張無菌注射溶液、並びに懸濁剤、溶解剤、増粘剤、安定剤及び保存剤を含みうる水性及び非水性無菌懸濁物が挙げられる。パッケージングされた核酸の製剤は単位投与体又は多重投与体封入容器、例えばアンプル及びバイアルで提供されうる。注射溶液及び懸濁物は既に発表されている種類の無菌粉末、顆粒及び錠剤から調製できうる。
【0075】
経時的に患者において有益な治療応答を奏する、又は病原体による感染を阻害するのに十分なベクター用量を患者に投与する。治療的に有効な量とは疾患の症状及びその合併症を治癒、又は少なくとも緩和するのに十分な量である。上記の症状の処置のための本発明の組成物の有効な用量は様々な要因、例えば投与の手段、標的部位、患者の生理状態、及び投与するその他の医薬品に依存して変わるであろう。即ち、処置用量は安全性及び効能を最適化するために力価検定される必要があるであろう。投与すべきベクターの有効量の決定において、医師は利用する特定の核酸、診断する疾患状態;患者の年齢、体重及び症状、循環血漿レベル、ベクター毒性、疾患の進行、抗ベクター抗体の産生を評価する。用量のサイズは特定のベクターの投与に付随する任意の副作用の存在、種類及び程度によっても決定されるであろう。患者につき約10ng〜1g, 100ng〜100mg ,1μg〜10mg、又は30〜300 μgのDNA が典型的である。用量は一般に1回の注射につき約0.01〜約50mg/体重kg;好ましくは約 0.1〜約5mg/体重kg、又は108 〜1010粒子に範囲する。一般に、ベクター由来のむき出しの核酸の当量は典型的な70kgの患者につき約1μg〜100 μgであり、そしてレトロウィルス粒子を含むベクターの用量は当量の阻害核酸を生み出すように計算される。
【0076】
点滴の前に、血液サンプルを採取し、そして分析のために保存する。108 〜1×1012個のベクターを60〜200 分かけて静脈内点滴する。パルス酸素濃度測定による生命徴候及び酸素飽和度をしっかりとモニターする。点滴の5分及び1時間後に血液サンプルを採取し、そしてその後の分析のために保存する。医師の判断にて、再点滴を1年間の間に全部で4〜6回の処置にわたり2〜3ヶ月毎に繰り返す。1回目の処置の後、点滴を医師の判断において外来ベースで実施できる。再点滴を外来患者に付与する場合、受容者は治療後少なくとも4時間、そして好ましくは8時間モニターされる。
【0077】
ベクター又は形質導入細胞の点滴を受けた患者が発熱、悪寒又は筋肉痛を発症したら、その者に適量のアスピリン、イブプロフェン又はアセトアミノフェンを与える。発熱、筋肉痛及び悪寒の如き反応を体験した患者には、点滴の30分前にアスピリン、アセトアミノフェン又はジフェンヒドラミンのいづれかを前投薬しておく。解熱剤及び抗ヒスタミン薬に対して迅速に応答しないよりひどい悪寒及び筋肉痛のためには、メペリジンを使用する。ベクター点滴は反応がひどいときには遅くする又は中断する。
【0078】
e.遺伝子の機能コピーの発現
いく通りかの遺伝子治療法は宿主ゲノムへの遺伝子の機能性コピーを組込むことにより内因性遺伝子における欠陥を補うのを担う。挿入遺伝子は宿主DNA と共に複製し、そして欠陥遺伝子を補うレベルで発現する。このアプローチによる処置を受け易い疾患は往々にして劣性突然変異を特徴とする。かかる疾患には、例えば嚢胞性繊維症、鎌型赤血球貧血症、βサラセミア、フェニルケトン尿症、ガラクトース血症、Wilson病、ヘモクロマト−シス、重篤合併免疫不全疾患、アルファ−1−抗トリプシン不全、白皮症、アルカプトン尿症、リソソーム貯蔵病、Ehler-Danlos症候群、血友病、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ不全、無ガンマグロブリン血症、尿崩症、Lesch-Nyhan 症候群、筋ジストロフィー、Wiskott-Aldrich 症候群、Fabry 病、ぜい弱X症候群、等が挙げられる。その他の劣性突然変異が当業界において公知であり、そしてそれらを処置するための本発明の方法の利用はここで考慮される。
【0079】
上記の遺伝子欠陥を補うために外因性機能性遺伝子を導入するためのいくつかの方法がある。一の手法においては、細胞を疾患に苦しむ患者から採取し、そしてベクターとin vitroで接触させる。細胞は疾患徴候が明確な組織タイプから除去すべきである。もし細胞が複製可能なら、そして利用するベクターが選択マーカーを含むなら、マーカーの内在され且つ発現する細胞を選定することができる。特にもし選定を実施しないなら、細胞への遺伝子導入頻度が例えば細胞の少なくとも約1,5,10,25又は50%ほどに高いことが重要である。
【0080】
細胞性ゲノムのベクターの組込み及び任意的な選択の後、細胞を患者に再導入する。この用途及びその他の下記の用途において(優性突然変異を修正するための部位特異的組換を除き)、供給する遺伝子が、それが補うべき欠陥遺伝子により占拠されているのと同じ部位にまで搬送される必要はない。
【0081】
他方、核酸は薬理組成物として患者に直接導入することができる。この複合体を治療的有効量で処置すべき遺伝子障害により冒されている組織へと搬送する。この方法及びその他の方法において、治療的有効量は疾患の症状及びその合併症を治癒、又は少なくとも緩和するのに十分な量とする。上記の症状の処置のための本発明の組成物の有効用量は様々な要因、例えば投与手段、標的部位、患者の生理状態、及びその他の投与する医薬品に依存して変わるであろう。かくして、処置用量は安全性及び効能を最適化するために力価検定される必要があるであろう。患者につき約10ng〜1g, 100ng〜100mg ,1μg〜10mg、又は30〜300 μgのDNA に範囲する用量が典型的である。投与のルートには経口、経鼻、胃、静脈内、皮内及び筋肉内が挙げられる。
【0082】
i.幹細胞治療
生殖系列改変を達成するため核酸を用いて胚幹細胞又は接合体をトランスフェクションすることもできうる。Jaenisch, (1988) Science, 240 : 468-1474 ; Gordon ら(1984)Methods Enzymol. 101 : 414 ; Hoganら(1986) Manipulation of the Mouse Embryo : A Laboratory Manual, C. S. H. L. N.Y.; 及びHammerら(1985) Nature 315 : 680 ; Gandolfi ら(1987) J. Reprod. Fert. 81 : 23-28 ; Rexroad ら(1988) J. Anim. Sci. 66 : 947-953 and Eyestone ら(1989) J. Reprod. Fert. 85 : 715-720 ; Camousら(1984) J. Reprod. Fert. 72 : 779-785 ; Heymanら(1987) Theriogenology 27 : 5968を参照のこと。しかしながら、これらの方法は現在、ヒト胚の取扱いにおける倫理上及び規則上の拘束に基づき、ヒト処置よりも獣医処置に一層適する。
【0083】
例えば、嚢胞性繊維症(CF)は一般に致死的な劣性遺伝病であり、コーカサストにおいて頻度が高い。この病気を司る遺伝子はRiordan ら(1989) Science 245 : 1059-1065 により単離されている。それは上皮細胞膜を介して塩素イオン(Cl- ) の移動に関与する嚢胞性繊維症膜内外導電率調節因子(CFTR)と称されるタンパク質をコードする。遺伝子の中の突然変異は上皮細胞におけるCl- 分泌の欠失を引き起こし、様々な臨床徴候を招く。CFは増粘外分泌腺分泌、膵臓不全、腸閉塞及び脂肪の吸収不良を含む数多くの症状を有し、死亡を招く最も重篤な要因は慢性肺炎である。従って、CF患者を処置するため、機能性CFTR遺伝子産物のコード配列を含むベクターを鼻投与を介して患者に導入し、核酸組成物が肺に到達するようにできる。ベクターの用量は好ましくは約108 〜1010粒子とする。
【0084】
別の例として、α又はβグロビン遺伝子における欠陥(McDonagh & Nienhuis のHematology of Infancy and Childhood(編、Nathan & Oski, Saunders, PA, 1992) pp. 783-879参照)は当該遺伝子の機能性コピーを含む核酸で造血幹細胞をex vivo 処置することにより補うことができる。当該遺伝子は幹細胞に組込まれ、それを患者に再導入する。Fanconi 貧血補完族Cを司る遺伝子の欠陥は類似の戦略によって処置できうる(Walsh ら(1994) J. Clin. Invest. 94 : 1440-1448 参照のこと)。
【0085】
ii.癌治療
その他の用途には、癌細胞又は癌になる危険性のある細胞への腫瘍抑制遺伝子の機能性コピーの導入が含まれる。D. Pardoll, (1992)「Immunotherapy with cytokine gene-transduced tumor cells: the next wave in gene therapy for cancer」Curr. Opin. Oncol. 4 : 1124-1129 ; Uckert and Walther, (1994) 「Retrovirus-mediated gene transfer in cancer therapy 」Pharmac. Ther. 63: 323-347 。内因性腫瘍抑制遺伝子の1又は複数のコピーにおいて欠陥を有する個体は特に癌の発症の危険性を有する。例えば、Li-Fraumeni 症候群は遺伝的症状であって、個体が突然変異p53を受容し、様々な癌の早期発症が起こるものである(Harris (1993) Science 262 : 1980-1981, Frebourg ら(1992) PNAS 89 : 6413-6417; Malkinら(1990) Science 250 : 1233) 。癌細胞又は癌にかかる危険性のある細胞における腫瘍抑制遺伝子の発現は細胞増殖及びその他の癌状態の徴候の予防、緩和及び/又は回復に有効である。本発明における利用にとって適当な腫瘍抑制遺伝子にはp53 (Buchman ら(1988) Gene 70 : 245-252), APC, DCC, Rb, WT1 及びNF1 (Marx, (1993) Science 260 : 751-752 ; Marshall, (1991) Cell 64 : 313-326) が挙げられる。腫瘍抑制遺伝子の機能性コピーを抱える核酸構築体は通常、作用を意図する部に最も近傍なルートを介してin vivo 投与する。例えば、皮膚癌は局所投与により、そして白血病は静脈内投与により処置できる。本発明の方法は多種多様な癌、とりわけ前立腺、グリオーマ、卵巣及び乳癌の処置に有用である。
【0086】
iii .脈管形成治療
血流の局部崩壊、例えば冠状動脈疾患、末梢動脈閉塞疾患、及び大脳血管疾患(発作)がとりわけ罹病及び死亡の最大の原因である。これらの障害は全て不十分な組織灌流により生ずる。
【0087】
脈管形成を刺激できるポリペプチドの発見はかかる脈管形成因子、例えば脈管内皮成長因子(VEGF)、繊維芽細胞増殖因子(FGF) 、血小板由来成長因子(PDGF) を基礎とする局部灌流を改善する能力についてのいくつかの研究を招いている。L.-Q. Puら(1993) Circulation, 88 : 1-147 ; Symes and Sniderman, (1994) Curr. Opin. Lipidol. 5 : 305-312;更には米国特許第 5,219,759 ; 5,512,545 ; 5,491,220 ; 5,464,943 ; 5,464,774 ; 5,360,896 ; 5,175,383及び 5,155,214号も参照のこと。例えば、再脈管形成は10日間にわたるECGFの静脈内投与後に認められる。遠隔部位への注射は脈管形成の増大を招くことはない。用量依存性が明確に確立されている。脈管形成因子は高濃度で用いたとき毒性であり、それ故局部投与が必要のようである。VEGFはより良い選択のようであり、なぜならそれは分泌されることがあり、且つ有系分裂活性を有するからである。
【0088】
M. Hoeckelら(1993) Arch. Surg. 128 : 423-429 は脈管形成因子の治療的用途のための下記の基準を列挙している:
1)新生脈管形成を刺激すること;
2)無視できるほどの局部及び全身副作用;
3)ナノモル及びピコモル域における高い効率性;
4)用量−応答関係を示す;
5)化学的特定及び操作のし易さ;
6)大量スケールで生産できる。
【0089】
遺伝子操作された細胞の局部加熱誘導は脈管形成因子の局部発現を供し、且つ全身作用を最小限にする。
【0090】
f.遺伝子発現の抑制
本発明の核酸構築体を利用する遺伝子療法はHIV の如き病原性微生物で感染された又は感染されるおそれのある患者又は細胞の予防的又は治療的処置のためにも利用されうる。標的遺伝子機能をブロッキングするうえでのアンチセンス分子の有効性は多種多様なシステムにおいて実証されている(Friedmanら(1988), Nature 335 :452-54, Malim ら(1989) Cell 58 : 205-14及びTrono ら(1989)Cell 59 : 113-20) 。利用するベクターには、遺伝子のセグメントに相補性であるアンチセンス転写体をコードするDNA セグメントが挙げられる。当該遺伝子が病原性微生物に由来する場合、それは微生物のライフサイクルにおいて必須の役割を果たすべきことが好ましく、そして微生物にとって固有であるべきである(又は、少なくとも治療を受ける患者のゲノムにはない)。例えばHIV ウィルスに対する阻害のために適当な部位には、TAR, REV又はnef が挙げられる(Chatterjeeら(1992) Science 258 : 1485-1488)。Rev はスプライシングされていないHIV プレmRNAの核からの輸送を促進する調節性RNA 結合タンパク質である。Malim ら(1989) Nature 338 : 254。tat は5’隣接mRNA中の認識配列に結合することにより機能する転写アクチベーターと考えられる。Karn & Graeble (1992) Trends Genet. 8 : 365 。核酸を白血病又は造血幹細胞にex vivo で又は静脈内注射により治療的有効量で導入する。この処置は HIV- 者に予防式に、又はHIV に既に感染されている者に投与できうる。
【0091】
g.形質転換すべき細胞
本発明の組成物及び方法は多種多様な細胞タイプをin vivo 及びin vitroで導入するのに利用される。とりわけ遺伝療法のための標的とされるのは前駆(幹)細胞、特に造血幹細胞である。その他の細胞には、標的細胞の一部が非分裂性又は分裂の遅いものが挙げられる。これらには、例えば繊維芽細胞、ケラチン細胞、内皮細胞、骨格及び平滑筋細胞、骨芽細胞、ニューロン、休止リンパ球、最終分化細胞、遅延又は非サイクリング一次細胞、実質細胞、リンパ細胞、表皮細胞、骨細胞等が挙げられる。当該方法及び組成物はヒト細胞集団に加えて、多種多様な脊椎動物、例えば哺乳類、そして特に獣医学的に重要なもの、例えばイヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、げっ歯類、ウサギ、ブタ、等の細胞に利用されうる。
【0092】
細胞の組織培養が必要とされ得る程度は当業界において周知である。Freshney (1994) (Culture of Animal Cells, a Manual of Basic Technique 、第3版 Wiley-Liss, New York) ; Kuchlerら(1977) Biochemical Methods in Cell Culture and Virology, Kuchler, R. J., Dowden, Hutchinson and Ross, Inc. 及びそれらの中の引用文献は細胞の培養の一般的な指針を供する。培養細胞システムは往々にして単層細胞形態であろうが、細胞懸濁物も利用されている。
【0093】
遺伝子治療は標的細胞への治療遺伝子の効率的な搬送を頼りとする。遺伝子治療のために標的とされるほとんどの体細胞、例えば造血幹細胞、皮膚繊維芽細胞、及びケラチン細胞、肝細胞、内皮細胞、筋細胞及びリンパ球は通常非分裂性である。遺伝子治療のために最とも幅広く利用されているベクターであるレトロウィルスベクターは残念ながら効率的な形質導入のために細胞分裂を必要とする(Millerら(1990) Mol. Cell. Biol. 10 : 4239-4242)。これはその他の遺伝子治療ベクター、例えばアデノ関連ベクターにとっても真実である(Russell ら(1991) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91 :8915-8919 ; Alexander ら(1994) J. Virol. 68 : 8282-8287 ; Srivastrava, (1994) Blood Cells 20 : 531-538)。最近、HIV ベースベクターが非分裂細胞をトランスフェクションすることが報告されている。にもかかわらず、多くの遺伝子治療処置にとって好適な標的である大半の幹細胞は通常増殖しない。かくして、形質導入の効率は往々にして比較的低く、そして遺伝子産物は治療的又は予防的に有効な量で発現されないことがある。このことは研究者が、遺伝子導入の前又は最中に幹細胞を増殖させるように刺激するような技術を開発することを招いたが(例えば、成長因子による処理、5−フルオロウラシルによる前処理、サイトカインの存在下での感染、及び幹細胞が感染の際に分裂する傾向を高めるようベクター感染時間を長くすることによる)、これらは一定の成功に達していない。
【0094】
h.外来核酸の検定
所定の細胞を、hsp プロモーターのコントロール下で注目の遺伝子をコードする核酸構築体で形質導入したら、どの細胞又は細胞系が遺伝子産物を発現するかを検定する、及び操作した遺伝子中での遺伝子産物の発現レベルを評価することが重要である。これは遺伝子産物をコードする核酸の検定を必要とする。
【0095】
核酸及びタンパク質は当業者に周知の幾多の方法のいづれかによりここでは検定及び定量される。これらには分析生化学的方法、例えば吸光度学的、ラジオグラフィー、電気泳動、キャピラリー電気泳動、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)、薄層クロマトグラフィー(TLC) 、高分散クロマトグラフィー、等、並びに様々な免疫学的方法、例えば流体又はゲルプレシピチン反応、免疫拡散(単一又は二重)、免疫電気泳動法、ラジオイムノアッセイ(RIA) 、酵素連結免疫収着アッセイ(ELISA)、免疫蛍光アッセイ等が挙げられる。核酸の検定は周知の方法、例えばサザン分析、ノーザン分析、ゲル電気泳動、PCR 、ラジオラベル、シンチレーションカウンティング及びアフィニティークロマトグラフィーにより実施される。
【0096】
核酸ハイブリダイゼーション方式の選定は重要でない。様々な核酸ハイブリダイゼーション方式が当業者に公知である。例えば、一般的な方式にはサンドイッチアッセイ及び競合又は追い出しアッセイが挙げられる。ハイブリダイゼーション技術は一般にNUCLEIC ACID HYBRIDIZATION, A PRACTICAL APPROACH, Ed. Hames, B. D. and Higgins, S. J., IRL Press, 1985に記載されている。
【0097】
ハイブリダイゼーションアッセイの感度は、検定すべき標的核酸を増幅する核酸増幅システムの利用を介して高まりうる。分子プローブとして利用されるための又は後のサブクローニングのための核酸フラグメントを構築するための配列の増幅に適切なin vitro増幅技術は公知である。かかるin vitro増幅方法へと当業者を導くのに十分な技術の例、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR) 、リガーゼ連鎖反応(LCR) 、Qβ−レリプカーゼ増幅及びその他のRNA ポリメラーゼ媒介技術(例えばNASBA)は、Berger, Sambrook及びAusubel 並びにMullisら(1987) 米国特許第 4,683,202号;PCR Protocols AGuide to Methods and Applications (Innis et al. eds) Academic Press Inc. San Diego, CA (1990) (Innis) ; Arnheim & Levinson (1990年10月1日)、C & EN 36-47 ; The Journal of NIH Research (1991), 3 : 81-94 ; (Kwohら(1989), Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 86 : 1173 ; Guatelli ら(1990), Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87 : 1874 ; Lomell ら(1989), J. Clin. Chem., 35 :1826 ; Landegrenら(1988), Science, 241 : 1077-1080 ; Van Brunt (1990), Biotechnology, 8 : 291-294 ; Wu and Wallace (1989), Gene, 4 : 560 ; Barringer ら(1990), Gene, 89 : 117 、及びSocknanan and Malek (1995), Biotechnology, 13 : 563-564 に見い出せる。in vitro増幅核酸をクローニングする改良方法はWallace ら米国特許第 5,426,039号に記載されている。近年当業界において発表されているその他の方法は核酸ベース増幅(NASBA(商標), Cangene, Mississauga, Ontario) 及びQ Beta Replicaseシステムである。これらのシステムはPCR 又はLCR プライマーが選定の配列が存在しているときにのみ伸長又はライゲーションするようにデザインされている場合に突然変異体を直接同定するのに利用できる。他方、この選定の配列は一般に、例えば非特異的なPCR プライマー、及び突然変異の特異的な配列指標のためにその後プロービングする増幅標的領域を利用して増幅できる。
【0098】
例えばin vitro増幅方法におけるプローブとして、遺伝子プローブとして、又はインヒビター成分として利用するためのオリゴヌクレオチドは典型的にはBeaucage and Caruthers (1981), Tetrahedron Letts., 22 (20) : 1859-1862に記載の固相ホスホラミジットトリエステル法に従い、例えばNeedham-Van Devanterら(1984) Nucleic Acids Res., 12 : 6159-6168に記載の自動シンセサイザーを利用して化学合成する。必要なら、オリゴヌクレオチドの精製は典型的には自然アクリルアミドゲル電気泳動により、又はPearson andRegnier (1983) J. Chrom., 255 : 137-149 に記載のアニオン交換HPLCにより実施される。合成オリゴヌクレオチドの配列は Maxam and Gilbert (1980) の Grossman and Moldave(編)Academic Press, New York, Methods in Enzymology, 65 : 499-560 の化学分解法を利用して確認できる。
【0099】
遺伝子の発現レベルを決定するための別の手段はin situ ハイブリダイゼーションである。in situ ハイブリダイゼーションアッセイは周知であり、そして一般にAngerer ら(1987)Methods Enzymol., 152 : 649-660 に記載されている。in situ ハイブリダイゼーションアッセイにおいては、細胞を固相支持体、典型的にはガラススライドに固定する。もしDNA をプロービングするなら、細胞を熱又はアルカリで変性させる。その細胞をハイブリダイゼーション溶液に緩やかな温度で接触させ、ラベルする特異的なプローブのアニーリングをさせる。これらのプローブは好ましくはラジオアイソトープ又は蛍光リポーターでラベルする。
【0100】
i.外来遺伝子産物の検定
産物を供するhsp プロモーターのコントロール下での注目の遺伝子の発現は様々な方法により検定又は定量し得る。好適な方法は特異的な抗体の利用を包括する。
【0101】
ポリクローナル及びモノクローナル抗体を製造する方法は当業者に公知である。例えば、Coligan (1991), CURRENT PROTOCOLS IN IMMUNOLOGY, Wiley/Greene, NY ; 及びHarlow and Lane (1989), ANTIBODIES : A LABORATORY MANUAL, Cold Spring Harbor Press, NY ; Stites ら (編) BASIC AND CLINICAL IMMUNOLOGY(第4版)Lange Medical Publications, Los Altos, CA 、及びその引用文献;Goding (1986), MONOCLONAL ANTIBODIES : PRINCIPLES AND PRACTICE (2d ed.) Academic Press, New York, NY;及びKohler and Milstein (1975), Nature, 256 : 495-497 を参照のこと。かかる技術はファージ又は類似のベクターにおける組換抗体のライブラリーからの抗体の選択による抗体調製を含む。Huseら (1989) Science, 246 : 1275-1281;及びWardら (1989) Nature, 341 : 544-546 参照のこと。特異的なモノクローナル及びポリクローナル抗体並びに抗血清は通常少なくとも約 0.1mM、より通常には少なくとも約1μM、好ましくは少なくとも約 0.1μM以上、そして最も好ましくは0.01μM以上のKpで結合するであろう。
【0102】
サンプル中の所望のポリペプチド(ペプチド、転写物、又は酵素消化産物を含む)の存在はウェスタンブロット分析を利用して検定及び定量し得る。この技術は一般にサンプル産物をゲル電気泳動により分子量に基づいて分離し、分離タンパク質を適当な固相支持体(例えばニトロセルロースフィルター、ナイロンフィルター、又は誘導化ナイロンフィルター)に転写し、そしてそのサンプルを分析タンパク質に特異的に結合するラベル用抗体とインキュベーションすることを含んで成る。ラベル用抗体は固相支持体上の分析物に特異的に結合する。これらの抗体は直接ラベル化されているか、又は他にラベル用試薬、例えばラベル用抗体に特異的に結合する抗体(例えばラベル化ヒツジ抗−マウス抗体;この場合、分析物に対する抗体はネズミ抗体である)を用いて後に検定する。
【0103】
3.hsp プロモーターの熱誘導
本発明の中枢は局部加熱を利用して熱誘導性プロモーターを選択的に活性化する能力にある。特に、深遠組織内に局在する標的領域内の細胞をコントロール式に加熱し、しかも周囲の細胞の加熱を最小限にすることは重要である。
【0104】
深遠に広がる組織の局部加熱は侵襲性又は非侵襲性方法(皮膚を開けることのない方法)により成し遂げられうる。侵襲方法のうち、加熱チップの付いたカテーテルの導入が利用できる。他方、光学ガイドの付いたカテーテルを利用できうる。次いでレーザービームをカテーテルを通じて標的組織へと導き、そして加熱を直接放射を利用して(例えば赤外光を利用して)施すことができる。レーザーによる照射は深遠組織を加熱するために提案されているが、医療におけるその利用は光吸収及び熱拡散により制約されている。
【0105】
好適な方法において、局部加熱は非侵襲性手段により達成される。Ernst らPRINCIPLES OF NUCLEAR RADIATION IN ONE AND TWO DIMENSIONS, Oxford University Press, 1987に由来する図1は電磁線及び超音波放射線の衰退を示している。深遠に広がる組織の加熱のため、図1における遷移領域は利用する(なぜなら、吸収及び透過の双方が必要だからである)。スペクトルのX線領域は有害である電離線を利用する。無線周波領域は10cm以上の波長を有する。音響放射線は1mm未満の波長を強く吸収する。焦点形成能力は波長のほぼ半分に制約されるため、5cm以上の焦点直径が無線周波により達成されうる。これは一般に小さい損傷を処置するには十分に局在化しない。超音波は局在するのに十分短い波長をもって適用でき、そして深く浸透でき、そして身体組織によりある程度吸収される。従って、非侵襲性局部加熱の好適な方法は集束(focused)超音波である。
【0106】
超音波は、規定の標的領域を狙いとすることができること、及び生きた組織の超音波に対する長期曝露は曝露組織の温度を上昇させうることで知られている。特に、集束超音波は、空気及び骨のない表面から損傷に至る音響経路がある限り、組織を局部加熱するのに非常に有効であることが知られている。Lele, L. L. (1962)「A simple method for production of trackless focal lesions with focused ultrasound : physical factors」J. Physiol 160 : 494-512 ; Fryら (1978) 「Tumor irradiation with intense ultrasound 」Ultrasound Med. Biol. 4 : 337-341 。高度な熱付与精度をもつ一式の超音波トランスデューサーを利用し、集束超音波を深遠組織の規定の非常に小さい領域に強い強度で導入することができる。超音波の集束はトランスデューサーの形状(球状、放物線状)及び/又はいくつかの異なるトランスデューサー素子を組合せ、そして焦点を供するために個々に調節された相を有するそれらの超音波を組合せることによって達成される。超音波の原理は例えばBushberg J. T.らTHE ESSENTIAL PHYSICS OF MEDICAL IMAGING, Williams and Wilkins, Baltimore, 1994, pp. 367-526に記載されている。
【0107】
一般に、発表された研究は組織を誘導式に火傷を負わせるため又はその温度を有意に上昇させることなく組織をイメージ形成させるために超音波を利用している。例えば、McAllisterら (1994) Teratology 51 : 191 ; Cline ら (1992) 「MR-guided focused ultrasound surgery」J. Comp. Asst. Tomog. 16 : 956-965を参照のこと。Anglesら (1991) Teratology 42 : 285 は超音波が温度の任意の検出可能な上昇抜きでヒートショック遺伝子を活性化しうることを報告する。米国特許第 5,447,858号において、ダイズhsp プロモーターを異種遺伝子と組換させ、植物細胞の中に導入し、そしてhspプロモーターを「日中熱(heat of day)」(第11欄、15〜25行)を利用して又は例えば42.5℃(第11欄、37行)でインキュベーションさせることにより活性化している。高強度集束超音波は動物モデルの腫瘍を排除するのに利用され(Lele (1962), J. Physiol. 160 : 494-512 ; Fryら (1978), Ultrasound Med. Biol, 4 : 337-341)そして肝腫瘍を処置のために提案された外科技術である(ter Harrら (1991), Phys. Med. Biol. 36 : 1495-1501 ; ter Harr ら (1991), Min. Invas. Ther. 1 : 13-19)。
【0108】
対照的に、本発明は組織を標的容積内で、しかも規定の温度域内で細く管理された状況で誘導式に加熱することを述べている。過去において、いくつかの要因が組織を局部的に加熱するための超音波の利用を制約してきた:1)妨害的な近傍空気/水分、水分/骨及び脂肪/水分境界に基づく正確な熱付与位置の正確なピンポイント誘導の能力の欠如、2)温度上昇を正確に定量化する能力の欠如、並びに3)超音波加熱の程度及び効果をモニターするために標的組織及び周囲組織を同時に可視化する能力の欠如。一の可能性は集束超音波及び磁気共鳴イメージング(MRI)の組合せの利用である。Cline ら (1994) Magn. Reson. Med. 31 : 628-636, Cline ら (1995) J. Comp. Asst. Tom. 16 : 956-965, De Poorter (1995) Magn.Reson. Med. 33 : 74-81。
【0109】
ヒートショックプロモーターは体温を上昇させうる超音波以外の現象により活性化されうることに注目すべきである(例えば発熱、ホットシャワー、ストレス)。かくして、このような変動要因を処置の間に厳しく管理するのが適当である(患者の体温を厳しくモニターし、ホットシャワーを避け、ストレスを生み出す環境を避ける)。その他のアプローチは遺伝子治療の期間の制限である。
【0110】
更に、熱は内因性hsp プロモーターのコントロール下にある内因性ヒートショック遺伝子を活性化しうる。
【0111】
4.温度のイメージング
集束超音波の非侵襲的用途の一の要素は1)加熱領域が標的組織に対応すること、及び2)温度上昇が標的温度に対応すること、の確保の必要性にある。第一の問題は解剖学的可視化を必要とし、そして第二は温度分布の可視化を必要とすることにある。
【0112】
超音波は原理的には両目的のために利用できるが、その精度はこの目的には不適当と考えられる。
【0113】
Cline ら (1992) J. Comp. Asst. Tomog. 16 : 956-963 は磁気共鳴イメージング(MRI) 及び集束超音波の組合せを発表しており、それにおいてはMRI を可視化のため及び標的領域を地図化するため、並びに温度分布を可視化及び地図化するために用いている。MRIの原理は例えばStark D. D. and Bradley, W. G., Magnetic Resonance Imaging, Mosby Year Book, 1992, pp.1-521 に見い出せる。
【0114】
温度のイメージングはMRI により三通りに達成できる:1)温度に対するスピン格子(T1)緩和依存性の利用;2)温度に対する水の拡散定数依存性の利用;及び3)温度に対する水プロトンのLarmor−歳差運動回転数依存性の利用。明らかに第三の方法が好適な方法となりつつあり、なぜならそれはほとんどの細胞内及び細胞外プロセスと独立しており、そしてイメージング方法において非常に迅速に測定されうるからである。Cline ら (1994),「MR temperature mapping of focused ultrasound surgery」Magn. Reson. Med.31 : 628-636 ; De Poorter ら (1995) 「Noninvasive MRI thermometry with the proton resonance frequency (PRF) method : Invivo results in human muscle」Magn. Reson. Med. 33 : 74-819; Hallら (1985) 「Mapping of pH and temperature distribution using chemicalshift-resolved tomography」J. Magn. Reson. 65 : 501-505 (J. de Zwart ら (1996), J. Magn. Reson. Series B, 112 : 86-90及びその中の引用文献)。
【0115】
プロトン共鳴周波数(PRF)は温度に依存する。PRF 情報は勾配エコーイメージングにおける相シフトから得られる。PRF に基づくMRI 熱量測定はあるにしてもわずかな細胞内及び細胞外組成依存性しか示さない。イメージング速度は2つの理由のため必須である:運動アーチファクトの回避及び温度上昇の定量化に対する熱導率の効果の制約。総イメージング時間を最少にするため、連続励起の間の時間(反復時間「TR」)は短くすべきである。しかしながら、エコー時間(「TE」)は相蓄積を可能にするために長くすべきである。この技術を利用し、約3〜4mmの空間解像度及び約2℃の温度精度をもって5秒以内に3Dイメージを獲得することが可能となる。
【0116】
好適な態様において、MRI ガイド式集束超音波をCline ら (1995) Magn. Reson. Imaging. 194 : 731-737 に記載の通りにして利用する。将来の態様において、Cline らにより発表された機械式コントロール下での単一超音波トランスデューサーは好ましくはFan, X及びhynynen (1995) Med. Phys. 22 (3) : 297-306により発表された通りに焦点を電子式に操従するよう電子コントロール下の一式のトランスデューサーにより置き換えられるであろう。
【実施例】
【0117】
以下の実施例は単なる例示であり、本発明を限定するつもりはない。
実施例1
実施例1は所定の三次元座標を有する形質変換ヒト腫瘍の領域を加熱するためのMRI によりガイドされた集束超音波(FVS)の利用を述べ、ここでこの加熱はhsp70 ヒートショックプロモーターのコントロール下で遺伝子操作された治療遺伝子を活性化する。
A.材料及び方法
1.治療遺伝子に作用可能式に連結されたhsp プロモーターを含むベクターの調製
アデノウィルス血清型5に由来するベクターを本例において用いた。S. L. Brody and R. G- Crystal (1994), 「Adenovirus-Mediated In Vivo Gene Transfer 」Ann. N. Y. Acad. Sci. 716 : 90-101。E1A及びE1b領域は複製を避けるために任意的に欠失させる(図2参照)。E3領域も外因性DNA のために 7.5kbの領域を供するよう任意的に欠失させる。
【0118】
ヒトhsp-70B プロモーターを利用し、なぜならそれは厳しく熱制御され、そして誘導により発現を数千倍高めることを促進するからである(M. Dreano ら (1986),「High level heat-regulated synthesis of proteins in eukaryotic cells 」Gene 49 : 1)。ヒトhsp-70B プロモーターの配列を図3の中で、ショウジョウバエに由来するその類似体及び挿入を利用するプロモーター活性の変化と共に示す。Voelmy (1994), Crit. Rev. Euk. Gene Exp. 4 : 1357 。 HSEII及び HSEIは一般のヒートショック要素II及びIII のそれぞれを意味する。これらの挿入はプロモーター効率を改変できる(R. Voellmyら (1994) 「Transduction of the stress signal and mechanisms of transcriptional regulation of heat shock/stress protein gene expression in higher eukaryotes」Crit. Rev. in Eukar. Gene Expr. 4 : 357-401)。hsp-70B はアデノウィルス遺伝子産物により活性化されないことに注目すべきである(M. C. Simon ら(1987) 「Selective induction of human heat shock gene transcription by the adenovirus ElA products, including the 13S ElA product」Mol. Cell Biol. 7 : 2884) 。
【0119】
当該ベクターはベクターの中にAddison ら(1995) Proc. Nat. Acad. Sci. U.S.A. 92 : 8522-6に記載のヒトインターロイキン−2を含むカセットを挿入することにより構築するが(その他のリンホカイン、例えばIL−1,IL−4、腫瘍壊死因子、等を使用してよい;例えば、米国特許第 4,992,367号及びFurutaniら(1986), Nuc.Acids Res. 14 : 3167-79)、但し遺伝子はアデノウィルスタイプ5ゲノムのE1又はE3位置の代わりにヒトhsp プロモーターのコントロールとする。E.コリ (E.coli) lacZ遺伝子をベクターの中にリポーター遺伝子として任意的に含ませる。その産物β−ガラクトシダーゼはその特異的な基質により容易に検定且つ定量できうる。SV40ポリアデニル化は任意的にエンカプシデーションシグナル及びエンハンサーとして逆末端リピート(ITR) と一緒に利用される。ベクターの構築はカセットを含むプラスミド及びE1又はE3アデノウィルスゲノムDNA との相同組換のために用いるアデノウィルスタイプ5配列を利用して成し遂げる。
【0120】
修飾アデノウィルスを293 細胞、即ち、E1タンパク質を発現し、ウィルスの製造を可能にするE1機能を供与する(複製欠陥アデノウィルスの場合)形質転換ヒト胚腎細胞系の中で増殖させる。ウィルスベクターはml当り1012プラーク形成単位までの力価で製造される。
【0121】
2.患者へのベクターの投与
当該ベクター乳アデノ癌腫を有すると診断された患者に全身投与する。好ましくは、 0.1〜2mlの食塩水溶液中で1μg〜100 μgのベクターDNA を腫瘍に直接注射する。他方、約10μg〜1mgのベクターDNA を1〜5mlの食塩水溶液中で静脈内注射する。
【0122】
ベクターの有無は癌組織の生検を獲得し、そして周知のノーザン、サザンもしくはウェスタンブロット技術により、又は任意的なリポーターLacZ遺伝子の活性を検定することにより示される。
【0123】
3.集束超音波加熱
患者を特製ベッド(例えばGeneral Electric Co., Milwaukee, WI ; Cline ら1994及び1995前掲に記載)の上に載せ、そして磁気共鳴イメージング(MRI) 装置(例えば、Signa, GE Mcdical Systems, Milwaukee, WIによる 1.5T MR イメージングシステム)のマグネットの中へと移動する。MRI 装置にはコンピューターコントロール下の集束超音波(FUS) 装置(Specialty Engineering Associates,Milpitas, CA) が備っている。特に、FUS 装置はMRI のベットの中に、トランスデューサーが三主要方向において運動的自由度をもって患者の下で自由に移動でき、焦点を人体のいかなる場所にでも配置できるように組込まれている。他方、この焦点は、より複雑なFUS トランスデューサー、いわゆるフェーズアレーFUS トランスデューサー、実際には電子手段により個別に制御でき、焦点を移動させることのできる複数のトランスデューサーの組合せを利用することにより電子式に調節できる。焦点とFUS トランスデューサーとの間の音響的接触は、適当な水、ゲル、又はトランスデューサーから焦点に至る妨害の入っていない音響経路を供するその他の手段を利用して確保する。モーターコントロール、FUS パルスジェネレーター及びMPイメージングシステムにインターフェースしたSparc 10 (Sun Microsystems, Mountain View, CA)ワークステーションを治療のプログラム、計画、モニター及びコントロールのために利用する。Cline ら、前掲及びZwart ら前掲。
【0124】
標的領域はベッドへのゆるいストラップにより固定する。(より進歩した手順では、同定の必要性は小さくなり、非常に進歩した手順では、固定は不要となることに注目すべきである)。
【0125】
非常に詳細なMRI イメージが標準のMRI 手順に従い、標的(例えば腫瘍、又は虚血領域)のコンピューター座標を正確に決定するために適当なコントラストをもって得られる。i)標的の座標、ii)超音波衰退の評価、iii )超音波経路における音響インピダンス遷移に基づき、FUS 装置の焦点、出力及び曝露時間を、標的部位での約10秒における3℃の温度上昇を供するように標的とする。
【0126】
このFUS 装置を10秒間スイッチオンにする。FUS 曝露の直後、迅速なMRI 温度イメージをJ. de Zwart ら(1996) J. Magn. Reson.Series B. 112 : 86-90 及びその中の引用文献に概略の手順に従って得る。評価は以下の基準に従って行う:i)加熱スポットが標的と対応するか(解剖学的MRI 及び温度MRI の対比)、及びii)温度上昇が実際に3℃であるか(温度の定量:J. de Zwart ら、5参照)。もしそうでないなら、第一のケースではFUS 標的を移動させ、そして第二のケースでは出力を調節する。試行錯誤的な加熱を位置及び出力が標的と対応するまで繰り返す。注目すべきは、hsp-70Bプロモーター活性が時間と正比例するため、この調節手順における遺伝子発現はその短い時間を理由に制約される。
【0127】
出力及び焦点が調節できたら、治療的用量の超音波を導入する。hsp-70B プロモーターに関し、15分間での3℃の上昇はhsp-70B コントロール下での遺伝子の発現を非常に増大させる。それはかかりつけの医師の処置すべき症状の症度、患者の状態(年齢、健康)、並びに標的領域の大きさ及び位置を考慮した判断により、増大又は減少される。
【0128】
次に患者をMRI から出す。治療の評価は臨床検査及び腫瘍収縮を評価するための詳細な解剖学的MRI の通常のフォローアップにより実施する。
実施例2
実施例2は実施例1に記載の方法を利用して実施するが、但し脈管内皮細胞増殖因子(VEGF)についての遺伝子を虚血損傷に苦しむ細胞組織の中に導入する。VEGF遺伝子を含むアデノウィルスベクターを冒された組織の近傍に直接、又は冒された組織へと直接供給されるよう血管の中に注射する。上記の通りにして遺伝子発現を誘導及びモニターする。治療の評価は臨床検査により、及び虚血組織の治癒を評価する詳細な解剖学的MRI の通常のフォローアップによる。
【0129】
実施例3
実施例3は大腿筋の所定領域を加熱し、そしてラットモデルにおける内因性ヒートショック遺伝子を活性化するためにMRI によりガイドした集束超音波(FUS) の利用を説明する。
【0130】
Harlan Sprague-Dawley ラット(n:6)体重 428±48gを承認されたNational Institutes of Health 動物プロトコールのもとで研究した。比較的サイズの大きいラットは超音波がラットの右後肢の大腿二頭筋内で深遠に集束することを確実にする。
【0131】
FUS トランスデューサー及びMR表層コイルの双方を拘束するポリカーボネートラットホルダーを構築した。このホルダーを水で部分的に充填したファイバーガラスチューブの中に入れた。超音波は動物を支えるプラットホーム内の38mmの開口部に通す。
【0132】
ホルダーを傾け、ラットの後肢が水中に入り、しかもその頭部が水から安全な高さに保たれることを確実にした。その肢を開口部を横断するグリッドを形成する4本の2−0ブレードポリエステル繊維縫合糸で支えた。FUS トランスデューサーをその焦点がラットの大腿に対して5mmとなるように配置した。
【0133】
ラット及び新鮮なニワトリ肢に対して実施した高強度FUS による当初の試験は皮膚近くでの集束が皮膚の火傷を及ぼすことがあることを示唆した。ラットをケタミン及びキシラジンの腹腔内投与により麻酔した。界面での音響インピダンズミスマッチにより生ずる超音波の屈折及び崩壊を最小限とするよう3つの更なる工程を採用した。第一は、電気かみそり器で右肢の前及び背部をそった。毛ぞりは組織の回収におけるRNA の分解の潜在的な起源を減らすのにも役立つ。次いでこの皮膚をアルコール綿棒で洗浄にし、そして界面活性剤で濡らして皮膚に広がる空気微小泡の保持を低下させた。最後に、ラットを水に浸した後、肢に捕捉された大きな気泡を遊離させた。このラットをその右側がプラットホームの上となるように固定し、そして超音波の集束領域が肢の任意の骨に近づかないことが確実となる注意を払った。呼吸をモニターして適正なレベルの鎮静を維持した。体温は一対のファイバーオプチック温度プローブ(Luxtron Fluoroptic Model SMM, Santa Clara, CA)により直腸を介して測定した。別の対のプローブは湯浴の温度をモニターした。湯浴は循環水ヒーターによる熱交換によって制御した。湯浴には脱イオン水を使用し、なぜならそれは超音波を妨害しうる微小気泡がないからである。
【0134】
右を介して肢に至る超音波の直接伝達は、バルーン又はコンドームの中に拘束された超音波ゲルと水との組合せを利用するその他の方法よりも効率的であることが認められた。FUS トランスデューサー(Specialty Engineering Associates, Soquel, CA) は直径38mmであり、曲率半径を有し、そして25mmの見かけ上の焦点長を有する。その共鳴周波数は1.459MHzであった。幾何学を基礎とし、且つ全幅半最大強度領域(full-width-half-maximum intensity area) (Bamber JC, Tristam M., 「Diagnostic Ultrasound 」Webb S, 編.THE PHYSICS OF MEDICAL IMAGING. Bristol : Adam Hilger, 1988; 328-334)と定義される推点集束領域は楕円形であり、トランスデューサー軸伝いの方向の主軸6mm及び1mmの非主軸を有する。rf界面コイルをプラットホームの中のFUS 開口部のまわりの直径58mmのチャンネルカットの中にエポキシと一緒に詰めた。チューニング及びマッチングキャパシターは水の外に、且つラットの上方に置いた。
【0135】
実験はInova コンソルで制御された 4.7Tマグネットで実施した(Varian NMR Instruments, Palo Alto, CA)。MR温度地図化はrfスポイルド勾配エコーイメージングを利用して実施した(de Poorterら(1995),「Noninvasive MRI thermometry with the proton resonance frequency (PRF) method : in vivo results in human muscle」Magn. Reson. Med. 33 : 74-81 (1996) ; de Zwartら「Fast magnetic-resonance temperature imaging 」J. Magn. Reson. B 112 : 86-90)。勾配エコーデーターは相相違地図の再構築を可能にした。水中の水素核は、このような相相違に由来する温度変化を計算できるようにする温度依存性化学シフトを示す。エコー及び反復時間は12及び75msのそれぞれとした。厚さ2mm、間隔 3.5mmの5枚のスライスを差し込み式に順次獲得した。それらをまず見かけ上の焦点の中心に置いた。 128×128 の地図を10×10cm2 の視野のために計算した。温度解像は約0.15℃であった。
【0136】
ラットを磁石の中に適当に配置し、そしてその温度が標的範囲内で安定化したら初期「低温」対照イメージを獲得する。このイメージはその後の地図における温度変化を計算するために用いた。次に、5枚のスライスのセットを獲得するのに十分なだけの長さで超音波を低レベル(-1W電気)でオンにした。データーをSun ワークステーションへと送り込み、そこでユーザー書込IDL コードを温度地図を構築するために用いた(ref.7も参照のこと)。地図から、集束領域を同定した。必要なら、スライス位置についての調整を、焦点が一のスライスの中心にくるように行った。次に連続FUS による肢筋の加熱を45分行った。リアルタイム温度地図を使用し、集束領域がその中心において8℃上昇し、領域の縁において約5℃上昇することを保った。かくして、集束領域は42〜45℃にまで加熱された。hsp70 遺伝子の発現は加熱期間の後、更に45分続け、その間肢温度はMRI モニターした。実験を通じて、ラットの直腸プローブにより測定するラットの中心体温は標的範囲の1度以内に保ち、そして呼吸量は適正な麻酔を獲得するためにモニターしておいた。
【0137】
ラットをペントバルビタールで安楽死させ、そして右肢筋を液体窒素(−196 ℃)の中で冷却したフリーズクランプを用いて凍結した。凍結サンプルを液体窒素の中に浸しておいた無菌検体ジャーの中で研究室にまで運び、そこで組織サンプルを分析のために準備した。サンプルをFUS ビームの呼び軸(nominal axis) を中心とした3×3グリッドから採取した。中央サンプルを深さにより3つに分け、全部で7つのサンプルを得た。各筋肉サンプルのサイズは約4mm×4mm×2mmであった。
【0138】
サンプルを 0.5mlのトリゾール溶液(Life Technologies, Gaithersburg, MD)を含むエッペンドルフチューブの中に入れるまで凍結保存し、次いでホモジナイズした。この溶液及びホモジナイズ組織をRNA 抽出するまで−80℃で保存した。RNA(レーン当り30μg)をゲル電気泳動により分け、そしてナイロン膜に移した。mRNAの強度はこの移した後のエチジウムブロミド染色化RNA の可視化により評価した。この膜を誘導性hsp70 mRNAに相補性である32P−ラベル化cDNAとハイブリダイゼーションさせた。オートラジオグラフを構築し、そして各サンプル中の誘導性hsp70 の量を分析した。
【0139】
集束領域を含むスライスの強度イメージを図5(a)に示す。図5(b)は1分の加熱後のラットの肢の同スライスにおける変化を示す。視野は図5(a)と同じであるが、温度は注目の小さな領域においてのみ計算した。更に、域値強度を下まわるピクセルは、劣ったシグナル対ノイズ及び黒い外観を理由に計算しなかった。周囲組織への熱拡散はわずかであるため、図5(b)は集束領域のサイズの良好な指標を担う。図5(c)は約3分の加熱後に獲得した温度地図である。熱拡散はみかけであり、そしてその後のデーターはほぼ定常状態が達成されることを示した。
【0140】
図6はMRI ガイドFUS に対する曝露を経たラット大腿筋から調製し、そしてランダムプライミングしたヒトhsp70 ストレス誘導性遺伝子プローブと反応させた全RNA のノーザンブロットを示す。このプローブは70,000ダルトンのタンパク質について予測される約 2.3kb(矢印)の位置においてレーン5の中で強くハイブリダイズした。レーン8及び11の中に載せたRNA は若干分解した。測定は集束領域における熱誘導性hsp70 の示差発現が3〜67倍に範囲することを示す。
【0141】
これらの結果は低レベルの連続FUS がin vivo での内因性hsp70mRNAの発現を高めるために利用できる、及びhsp70 プロモーターが局部加熱に基づく遺伝子発現のコントロールにおける使用のための適当な標的である。これらの結果はMRI がFUS によるin vivo 組織の局部加熱をモニターするための相互作用温度地図を供しうる。PRESTOの如き三次元ファーストイメージング法の組込みはより速い温度地図を可能にするであろう。
【0142】
実施例4
実施例4は大腿筋の所定領域の加熱及びアデノウィルスベクターで形質転換されたマウス完全筋組織中の内因性ヒートショック遺伝子の活性化のためのMRI によりガイドされた集束超音波(FUS) の利用を述べる。hsp70 プロモーターのコントロール下にある遺伝子操作したLacZ遺伝子を含む遺伝子導入マウス(遺伝子導入マウスを作るための方法については、例えばCharron ら(1995) J. Biol. Chem. 270 : 30604-10 を参照のこと;細胞を形質転換するのに有用なアデノウィルスベクターについてはAddison ら(1995) Proc. Nat. Acad. Sci. U.S.A. 92 : 8522-6及びWangら(1996)Proc. Nat. Acad. Sci. U.S.A. 93 : 3932-6を参照のこと)を実施例3の通りに処理した(即ち、所定の座標を有する大腿筋の領域をFUS-MRI を用いて加熱した)。FUS 焦点における所望の遺伝子転写物の有意な上昇が認められた。
【0143】
本明細書において引用する全ての文献、特許及び特許出願は引用することで本明細書に組入れる。
【0144】
本発明を具体的に例示してきたが、本発明は請求の範囲における発明の範囲を逸脱することなく様々な改良、変更を施されることができる。
【図面の簡単な説明】
【0145】
【図1】図1はヒト組織による放射線の減衰グラフである。
【図2】図2はプロトタイプアデノウィルスベクターを示す。
【図3】図3はhsp プロモーターを示す。図3Aは HSEII, HSEI,GAGA及びTATA要素を含む最小ショウジョウバエhsp70 プロモーターを示す。+1は転写開始部位を意味する。図3Cはヒトhsp70Bプロモーターのヌクレオチド配列を示す。
【図4】図4はGenbank データーベースから入手したヒトhsp プロモーターを示す。
【図5】図5(a)は集束面におけるラツト肢の輻射線像であり、下から上にかけて、トランデューサー(一部)、高シグナル強度を有する湯浴(中央には、FUS のための開口部の設けられた傾斜テーブルが見える)、そして最後にラット肢を示す。図5(b)は1分の加熱後の同スライスについての温度変化マップである。図5(c)は3分の加熱後の温度変化を示す。熱拡散は見かけである。この状態を45分の加熱インターバルを通じて維持した。温度イメージはFUS 適用の際に得た。
【図6】図6は局部加熱したラット肢のノーザンブロットの結果を示す。レーン5,6及び7は超音波集束領域から採ったサンプルのそれである。レーン5は約 2.3kb(矢印)でのRNA の著しく高い発現を示す。このサンプルと周囲のサンプルとの間での示差発現は3〜67倍に範囲する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞マス又は多細胞生体の所定の独立領域における注目の遺伝子の発現の場所的及び時期的制御のための医薬組成物であって:
hsp70プロモーターに作用可能式に連結された遺伝子操作された注目の遺伝子を含んで成り、
前記注目の遺伝子が、正常な生理温度ではほとんど又は全く発現せず、且つ前記医薬組成物を細胞マス又は多細胞生体の所定の領域に導入し、所定の領域を非致死的な超生理温度まで電磁線により加熱することが、周囲の細胞の加熱を最小限にしながら、所定の領域の深部組織における注目の遺伝子の発現の誘導をもたらし、所定の領域の加熱が治療有効量の注目の遺伝子の発現をもたらす、前記医薬組成物。
【請求項2】
前記注目の遺伝子が毒性分子又はプロ分子をコードする遺伝子の群から選ばれる、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記注目の遺伝子がLacZ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、シトシンデアミナーゼ、インターロイキン1〜10、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、繊維芽細胞増殖因子(FGF)、及び血小板由来増殖因子(PDGF)から成る群より選ばれる、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記細胞マスが腫瘍の一部である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記腫瘍が前立腺癌、グリオーマ癌、卵巣癌、及び乳癌から成る群より選ばれる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
動物の選定の細胞に治療タンパク質を供与するための医薬組成物であって、
治療タンパク質をコードする配列に作用可能式に連結され、且つその配列の調節コントロールを及ぼすヒートショックプロモーター配列を有するDNA 分子を含んで成り、
前記治療タンパク質が、正常な生理温度ではほとんど又は全く発現せず、且つ電磁線の適用を介して非致死的な超生理温度まで選定の細胞を加熱し、動物の選定の細胞中のヒートショックプロモーター配列を活性化することが、前記選定の細胞中で治療有効量の前記治療タンパク質の発現をもたらす、前記医薬組成物。
【請求項7】
前記電磁線がX線、マイクロ波、赤外線、紫外線又は無線周波電磁線から成る群から選ばれる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記選定領域の温度を磁気共鳴イメージングによりモニターし、そして前記加熱を当該モニターに従って調節する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
非致死的な超生理温度が、正常な生理温度から3℃の上昇である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
選定の細胞が幹細胞である、請求項1〜9いずれか一項に記載の医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−291043(P2008−291043A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−203353(P2008−203353)
【出願日】平成20年8月6日(2008.8.6)
【分割の表示】特願平10−510126の分割
【原出願日】平成9年8月14日(1997.8.14)
【出願人】(301050360)アメリカ合衆国 (2)
【Fターム(参考)】