説明

ヒートパイプ及びその製造方法並びそれを製造するプラズマエッチング装置

【課題】ヒートパイプにおける気密性容器の壁内周面の金属層は作動流体に対する濡れ性は良好とは言えず、従って、気密性容器の壁内周面から作動流体への熱伝達率は小さく、この結果、熱輸送能力は不充分であった。
【解決手段】ヒートパイプは、動作温度範囲内で蒸発及び凝縮が可能な作動流体を収容するための円筒状の気密性容器1よりなる。気密性容器1は円筒部11及び円筒部11を塞ぐ円形の蓋部12a、12bよりなる。円筒部11及び蓋部12a、12bは金属含浸炭素繊維強化炭素材よりなり、この場合、金属含浸炭素繊維強化炭素材の炭素含有率は、気密性容器1の壁内部で低く、気密性容器1の壁内周面側で高くなっている。この気密性容器1の壁内周面にはナノメートルオーダの凹凸構造NSが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は内面炭素高含有率金属含浸炭素繊維強化炭素よりなるヒートパイプ及びその製造方法並びそれを製造するプラズマエッチング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器たとえば半導体装置は高密度に集積化されており、この結果、消費電力は急激に上昇し、発熱量と共に発熱密度も急激に上昇した。このため、ペルチェ素子による強制吸熱、ヒートシンク及び放熱ファンによる強制空冷構造では、冷却能力に限界が見え始め、より高い冷却能力として液冷構造を採用しつつある。
【0003】
これらの冷却手段と併用して効果を発揮する熱輪送部材としてヒートパイプが注目されている。
【0004】
図11は、第1の従来のヒートパイプを示す斜視図である。
【0005】
図11においては、ヒートパイプは動作温度範囲で蒸発と凝縮が可能な作動流体(図示せず)を収容する円筒状の気密性容器1101及び気密性容器1101内部に設けられたウィック(毛細管構造)1102よりなる。
【0006】
図11においては、気密性容器1101の一方側が受熱蒸発領域R1であり、他方側が放熱凝縮領域R2である。従って、受熱蒸発領域R1を発熱源の近傍に位置させると、発熱源の熱により受熱蒸発領域R1での作動流体が蒸発し、矢印S1に示すごとく、蒸気として放熱凝縮領域R2へ流れる。他方、放熱凝縮領域R2での蒸気は放熱により凝縮し、矢印S2に示すごとく、液体としてウィック1102の毛細管現象により受熱蒸発領域R1へ流れる。このようにして、作動流体が受熱蒸発領域R1、放熱凝縮領域R2間を循環することにより、ヒートパイプは熱輸送部材として作用し、発熱源からの熱をヒートパイプの気密性容器1101の受熱蒸発領域R1から遠隔の放熱凝縮領域R2へ輸送し、ヒートパイプ全体の温度を均一化する。受熱蒸発領域R1と放熱凝縮領域R2とを空間的に離間させることにより、サイズ等の設計条件の制限を緩和できる。このとき、受熱蒸発領域R1及び放熱凝縮領域R2の温度範囲が作動流体の動作温度範囲となる。
【0007】
図11の気密性容器1101の受熱蒸発領域R1においては外部からの熱が内部へ伝達する際には、気密性容器1101の壁の直交方向の熱抵抗を小さく、つまり、熱伝導率を大きくする必要があり、同様に、気密性容器1101の放熱凝縮領域R2においては内部から熱が外部へ伝達する際には、やはり、気密性容器1101の壁の直交方向の熱抵抗を小さく、つまり、熱伝導率を大きくする必要がある。つまり、ヒートパイプの熱輸送能力(速度及び量の両方)を向上させるためには、気密性容器1101の壁の直交方向の異方性熱伝導率を大きくさせる必要がある。
【0008】
図12は第2の従来のヒートパイプを示し、(A)は外観図、(B)は(A)のB−B線断面図である(参照:特許文献1)。
【0009】
図12において、ヒートパイプは作動流体を収容しかつウィック凹凸内面201aを有する円筒状の気密性容器1201、気密性容器1201のウィック凹凸内面1201aに設けられたたとえばニッケルのコーティング層よりなる金属層1202、及び気密性容器1201の壁外周面に設けられた補強部材1203よりなる。尚、図12においても、R1は受熱蒸発領域、R2は放熱凝縮領域を示す。
【0010】
図12においては、気密性容器1201の壁は金属を凌ぐ熱伝導率を有する壁の直交方向の異方性熱伝導材料としての炭素繊維強化炭素を用い、さらに、気密性容器1201の壁の直交方向の異方性熱伝導性を高めるために、炭素繊維強化炭素の隙間に金属を含浸させている。つまり、気密性容器1201は金属含侵炭素繊維強化炭素よりなる。
【0011】
また、気密性容器1201と作動流体との熱伝導率をさらに高めるために、気密性容器1201のウィック凹凸内面1201aに金属層1202を設けることにより作動流体との濡れ性を良好にする。尚、濡れ性を良好にする程、表面張力が弱る。従って、作動流体の濡れ性を良好にすると、熱輸送能力が増大して実質的に気密性容器1201の壁の直交方向の熱伝導率が上昇する。
【0012】
さらに、金属含侵炭素繊維強化炭素は気密性容器1201の壁の直交方向の垂直異方性を主に有している分、気密性容器1201の内側に封止された作動流体の内部圧力に対して気密性容器1201は壊れ易い。これを防止するために、気密性容器1201の壁外周面に設けられた補強部材R03は気密性容器1201の壁の平行方向に配向された炭素繊維強化炭素よりなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2003−336977号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】JIS R3257(1999)「基板ガラス表面の濡れ性試験方法」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
図12のヒートパイプの熱輸送能力をさらに向上させるためには、とりわけ、気密性容器1201の壁内周面から作動流体への熱伝導率を高めて作動流体の熱輸送能力を高める必要があり、この熱伝導率を高めるためには、気密性容器1201の壁内周面は作動流体に対する濡れ性を良好(親性)にする必要がある。しかしながら、図12のヒートパイプにおける気密性容器1201の壁内周面の金属層203は作動流体に対する濡れ性は良好とは言えず、従って、気密性容器1201の壁内周面から作動流体への熱伝導率は小さく、この結果、吸熱蒸発領域R1での吸熱蒸発速度及び吸熱蒸発領域R2での放熱凝縮速度が小さくなり、熱輸送能力は不充分であるという課題があった。
【0016】
尚、濡れ性評価装置は種々にあるが、一例として液滴の接触角で評価する装置がある(参照:非特許文献1)。すなわち、図13を参照すると、固体1301の流体1302に対する濡れ性を評価する場合、固体1301上に流体1302を微少量たとえば2μL垂らし、ミラー1303による流体1302の像1302’を顕微鏡1304で観察する。この場合、固体1301の表面張力をγ、流体1302の表面張力をγ、固体3011流体1302界面の表面張力γSFとすれば、濡れ性が良好(親性)である程、表面張力γ、γ、γSFは小さくなり、流体1302の接触角θは0度に近づく。他方、濡れ性が悪く(疎性)である程、表面張力γ、γ、γSFは小さくなり、流体1302の接触角θは180度に近づく。図12の金属層1203の作動流体(たとえば、代表的な水)に対する接触角は30度〜40度と大きく、濡れ性は良好とは言えない。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上述の課題を解決するために、本発明に係るヒートパイプは、動作温度範囲内で蒸発及び凝縮が可能な作動流体を収容するための気密性容器を具備するヒートパイプにおいて、気密性容器は金属含浸炭素繊維強化炭素材よりなり、この金属含浸炭素繊維強化炭素材の炭素含有率は気密性容器の壁内部より壁内周面側で高くし、金属含浸炭素繊維強化炭素材の壁内周面にナノメートルオーダの凹凸構造を形成したことを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係るヒートパイプの製造方法は、炭素繊維が網目状に含まれたフィルム状炭素繊維強化プラスチックを筒状形状に形成する形成工程と、フィルム状炭素繊維強化プラスチックを焼成して多数の空孔を有する炭素繊維骨格を生成する焼成工程と、炭素繊維骨格の内周面を炭素を含む溶媒に浸漬する炭素溶媒浸漬工程と、炭素溶媒浸漬工程後に炭素繊維骨格を素焼する素焼工程と、素焼工程後に、炭素繊維骨格を溶融金属に含浸させて内面高炭素含有率金属含浸炭素繊維強化炭素材を生成する工程と、内面高炭素含有率金属含浸炭素繊維強化炭素材の内面をプラズマエッチングして該内面にナノメートルオーダの凹凸構造を形成するプラズマエッチング工程と、プラズマエッチング工程後に、内面高炭素含有率金属含浸炭素繊維強化炭素材の内部に作動流体を封入する作動流体封入工程と、作動流体封入工程後に、内面高炭素含有率金属含浸炭素繊維強化炭素材の両端に蓋部を接合する工程とを具備する。
【0019】
さらに、本発明に係るヒートパイプのプラズマエッチング装置は、動作温度範囲内で蒸発及び凝縮が可能な作動流体を収容するための気密性容器は金属含浸炭素繊維強化炭素材よりなり、金属含浸炭素繊維強化炭素材の炭素含有率は気密性容器の壁内部より壁内周面側で高くしたヒートパイプのプラズマエッチング装置において、内面高炭素含有率の金属含浸炭素繊維強化炭素材を支持する支持台と、金属含浸炭素繊維強化炭素材の内面側に摺動可能に設けられた棒状内側電極と、金属含浸炭素繊維強化炭素材の外面側に摺動可能に設けられたリング状外側電極と、棒状内側電極の先端部を取り囲むようにリング状外側電極を移動させる同期駆動部とを具備し、金属含浸炭素繊維強化炭素材の壁内周面にナノメートルオーダの凹凸構造を形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、気密性容器の壁内周面はナノメートルオーダの凹凸構造となるので、気密性容器の壁内周面は作動流体に対する接触角はほぼ0度となり、濡れ性が非常に良好となり、この結果、作動流体の熱輸送能力を十分に大きくできる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係るヒートパイプの第1の実施の形態を示す一部切欠いた斜視図である。
【図2】図1の気密性容器の壁内周面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図3】図1のヒートパイプの製造方法を示すフローチャートである。
【図4】図3のステップ306に用いられるプラズマエッチング装置を示す図である。
【図5】図4の内部電極を示し、(A)は全体斜視図、(B)は先端部斜視図である。
【図6】図4のプラズマエッチング装置による気密性容器の壁内周面のナノメートルオーダの凹凸加工を説明する一部切欠いた斜視図であり、(A)、(B)、(C)は時系列を示す。
【図7】本発明に係るヒートパイプの第2の実施の形態を示す一部切欠いた斜視図である。
【図8】本発明に係るヒートパイプの第3の実施の形態を示す一部切欠いた斜視図である。
【図9】本発明に係るヒートパイプの第4の実施の形態を示す一部切欠いた斜視図である。
【図10】図9のヒートパイプの応用例を示す斜視図である。
【図11】第1の従来のヒートパイプを示す一部切り欠いた斜視図である。
【図12】第2の従来のヒートパイプを示し、(A)は外観図、(B)は(A)のB−B線断面図である。
【図13】濡れ性評価装置を示す図であり、(A)は外観図、(B)は接触角を説明するための(A)の固体及び流体の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は本発明に係るヒートパイプの第1の実施の形態を示す一部切欠いた斜視図である。
【0023】
図1に示すように、ヒートパイプは、動作温度範囲内で蒸発及び凝縮が可能な作動流体(図示せず)を収容するための円筒状の気密性容器1よりなる。気密性容器1の大きさは、たとえば、内径4mm、外径6mm、長さ150mm程度である。気密性容器1は円筒部11及び円筒部11を塞ぐ円形の蓋部12a、12bよりなる。尚、図1においても、R1は受熱蒸発領域、R2は放熱凝縮領域を示す。
【0024】
円筒部11及び蓋部12a、12bは金属含浸炭素繊維強化炭素材よりなり、この場合、金属含浸炭素繊維強化炭素材の炭素含有率は、気密性容器1の壁内部でたとえば40%程度であるのに対し、気密性容器1の壁内周面側でたとえば60%以上と高くなっている。この気密性容器1の壁内周面には図2に示すようなナノメートルオーダの凹凸構造NSが形成されている。尚、ナノメートルオーダとは約10〜500nmの範囲を示す。
【0025】
気密性容器1の壁内周面のナノメートルオーダの凹凸構造NSは作動流体に対する接触角がほぼ0°であり、従って、良好な濡れ性を呈する。この結果、気密性容器1の壁内周面から作動流体への熱伝達率が高まる。従って、受熱蒸発領域R1での吸熱蒸発速度及び放熱凝縮領域R2での放熱凝縮速度が高まり、熱輸送能力を増加させることができる。
【0026】
図1においては、気密性容器1のナノメートルオーダの凹凸構造NSによる気密性容器1の壁内周面から作動流体への熱伝達率が高まった分、気密性容器1の金属含浸炭素繊維強化炭素材の配向方向は気密性容器1の壁の垂直方向であると共にこの壁の平行方向とすることができる。たとえば、金属含浸炭素繊維強化炭素材の気密性容器1の壁の垂直方向配向と平行方向配向との比は70%〜80%:30%〜20%とする。これにより、作動流体の内部圧力に対抗できるようになるので、図12の補強部材1203は不要となる。但し、気密性容器1の金属含浸炭素繊維強化炭素材の配向方向のほぼ100%を気密性容器1の壁の垂直方向としても、金属含浸炭素繊維強化炭素材の金属含浸量を増加させれば、作動流体の内部圧力に対抗できるようになるので、やはり、図12の補強部材1203は不要となる。
【0027】
次に、図1のヒートパイプの製造方法を図3、図4、図5を参照して説明する。
【0028】
始めに、図3のフィルム状炭素骨格含有プラスチック円筒状形成工程301を参照すると、フィルム状炭素骨格含有プラスチックを丸めて円筒状とする。たとえば、プラスチックはポリイミド樹脂等である。また、炭素繊維はたとえば炭素繊維が網目状にフィルム状ポリイミド樹脂に含まれている。炭素繊維が網目状にされているので、金属含浸炭素繊維強化炭素材の配向が気密性容器1の壁の垂直方向及び平行方向の配向となる。
【0029】
次に、図3の焼成工程302を参照すると、円筒状のフィルム状炭素骨格含有プラスチックを焼成する。この結果、プラスチックが焼失して炭素繊維骨格間に多数の空孔が生成される。
【0030】
次に、図3の炭素溶媒浸漬工程303を参照すると、円筒状炭素繊維骨格の内周面を炭素を含む溶媒たとえばエポキシ樹脂、アクリル樹脂に浸漬する。
【0031】
次に、図3の素焼工程304を参照すると、高温たとえば1000℃で1〜2時間の素焼を行う。これにより、円筒状炭素繊維骨格の内周面の炭素含有率がその内部炭素含有率より高くなる。たとえば、円筒状炭素繊維骨格の内部の炭素含有率は40%程度であるのに対し、円筒状炭素繊維骨格の内周面での炭素含有率は60%以上たとえば90%〜100%となる。これにより、内面高炭素含有率円筒状炭素繊維骨格が得られる。
【0032】
次に、図3の溶融金属含浸工程305を参照すると、銅、銀、アルミニウム等の金属をその融点以上に加熱して溶融させ、高圧たとえば100気圧の環境下で内面高炭素含有率円筒状炭素繊維骨格の外周面側から溶融金属を含浸させる。これにより、溶融金属は円筒状炭素繊維骨格の内部の空孔に侵入して内面高炭素含有率円筒状金属含浸炭素繊維強化炭素材が得られる。尚、上述の金属の代りにシリコンを用いてもよい。シリコンの溶融時の粘度が小さいので、高圧環境下でなくとも含浸できる。シリコンは非金属であるが、本発明では、金属として扱う。
【0033】
次に、図3のプラズマエッチング工程306を参照すると、内面高炭素含有率円筒状金属含浸炭素繊維強化炭素材の内面をプラズマエッチングして内面高炭素含有率円筒状金属含浸炭素繊維強化炭素材の内面にナノメートルオーダの凹凸構造NSを形成する。
【0034】
図3のプラズマエッチング工程306は図4に示すプラズマエッチング装置によって実行される。
【0035】
図4において、図3の溶融金属含浸工程305にて得られた内面高炭素含有率円筒状金属含浸炭素繊維強化炭素材を被加工材401としてアルミニウム等で形成された真空チャンバ402内の2つの支持台403、404で挟み込んで固定する。支持台403、404は絶縁材料によって形成されており、支持台403、404には、被加工材401を嵌めるための小さな窪み(図示せず)が設けられている。また、支持台403には、真空チャンバ402にAr/O2ガスを導入するためのガス導入口403aが設けられ、この場合、ガス導入口403aの内径は被加工材401の内径とほぼ同一とされている。他方、真空チャンバ402の下方側には真空ポンプ(図示せず)に接続されたガス排出口402aが設けられている。この結果、ガス導入口403aから導入されたAr/O2ガスは被加工材401の壁の内周面側を通り、ガス排出口402aから排出される。
【0036】
被加工材401の内周面を加工するために、被加工材401の内外に1対の放電電極、つまり、内側電極405及び外側電極406を設けてある。内側電極405は真空チャンバ402に絶縁部材405aによって摺動可能に密着支持され、他方、外側電極406は被加工材401に摺動可能に密着支持され、外側電極支持台407に固定されている。内側電極405は高周波電源407に接続されてアノード電極として作用し、他方、外側電極406は外側電極支持台406a及び真空チャンバ402を介して接地されてカソード電極として作用する。
【0037】
内側電極405及び外側電極406は同期駆動部408によって同時に同速度で移動する。
【0038】
図5は図4の内側電極405を示し、(A)は全体斜視図、(B)は先端部斜視図である。
【0039】
図5に示すように、内側電極405は棒状であり、その直径は被加工材401の直径より小さく、その長さは被加工材401の全長より長い。内側電極405の先端は複数の突起を有し、プラズマエッチングを均一に行うために、360°全周に亘って均等に配置されている。
【0040】
他方、外側電極406はリング状をなしており、内側電極405の先端部を取り囲むように設けられている。このとき、さらに、内側電極405を微振動あるいは回転させるようにし、これにより、プラズマの発生位置の偏りを防止し、プラズマエッチングを被加工材401の円周方向に亘って均一に行なうことができる。
【0041】
図4のプラズマエッチング装置をたとえば次の条件で動作させる。
到達真空度:6.65Pa (50mTorr)
O2ガス流量:100sccm
Arガス流量:50sccm
投入電力:500W
加工時間:1〜2分(1cm2当り)
このとき、内側電極405の先端部を取り囲むように外側電極406を、図6に示すごとく、移動させる。この結果、内側電極405と外側電極406との間のみでプラズマが発生し、被加工材401の壁の内周面がナノメートルオーダの凹凸構造NSとなる。
【0042】
尚、図3のステップ306でのプラズマエッチング法は、電子サイクロトロン共鳴(ECR)エッチング法、反応性イオンエッチング(RIE)法、大気圧プラズマエッチング法等のいずれでもよく、また、処理ガスは、Ar/O2ガス以外のO2ガス、CO2ガス、CF4ガス、SF4ガス等のいずれでもよい。
【0043】
次に、図3の作動流体封入工程307を参照すると、作動流体たとえば純水の蒸気を内面がナノメートルオーダの凹凸構造NSである円筒状金属含浸炭素繊維強化炭素材に封入する。
【0044】
最後に、図3の蓋部接合工程308を参照すると、別途製造した円板状の蓋部12a、12bを作動流体を封入した内面がナノメートルオーダの凹凸構造NSである円筒状金属含浸炭素繊維強化炭素材の両端に接合する。この場合、蓋部12a、12bは、被加工材401と同様に、ナノメートルオーダの凹凸構造が形成されているが、必ずしも、金属含浸炭素繊維強化炭素材である必要はなく、炭素基板でもよい。また、接合方法は、好ましくは、熱伝導性を考慮して半田、ろう材を用いることがよい。さらに、ヒートパイプの気密性を確保するために、必要に応じて蓋部12a、12bの接合部分の凹凸構造を削り落としてもよい。
【0045】
図7は本発明に係るヒートパイプの第2の実施の形態を示す一部切欠いた斜視図である。
【0046】
図7に示すように、ヒートパイプは、六角柱状の気密性容器2よりなる。気密性容器2の大きさは、たとえば、一辺3mm、長さ150mm程度である。気密性容器2は六角柱部21及び六角柱部21を塞ぐ六角形の蓋部22a、22bよりなる。尚、図7においても、R1は受熱蒸発領域、R2は放熱凝縮領域を示す。
【0047】
六角柱状の気密性容器2は、図1の気密性容器1に比較して角の部分がエッチングされにくいので、作動流体が停滞し易くなるが、側面が平面であるので、平坦な発熱源に適するという利点を有する。
【0048】
図7のヒートパイプの製造方法は、図3のフィルム状炭素繊維強化プラスチック円筒状形成工程301の代りに、フィルム状炭素繊維強化プラスチック六角柱状形成工程を設ける。これにより、フィルム状炭素繊維強化プラスチックを折って六角柱状とする。その後の工程は図3の工程302〜308と同様である。
【0049】
図8は本発明に係るヒートパイプの第3の実施の形態を示す一部切欠いた斜視図である。
【0050】
図8の気密性容器3においては、図1の気密性容器1の放熱凝縮領域R2に長さ約40mmのヒートシンク13を一体成形したものである。この場合、ヒートシンク13も金属含浸炭素繊維強化炭素材よりなり、その配向方向はヒートシンク13の各面に平行方向である。
【0051】
図8のヒートパイプの製造方法においては、図3のプラズマエッチング工程306と作動流体封入工程307との間で、気密性容器3の内面高炭素含有率円筒状金属含浸炭素繊維強化炭素材とヒートシンク13とを嵌合して一体成形させるための焼成工程が実行される。これにより、熱伝導グリス等で接合するよりも、一体性に優れており、従って、熱伝導性が優れる。
【0052】
図9は本発明に係るヒートパイプの第4の実施の形態を示す一部切欠いた斜視図である。
【0053】
図9の気密性容器4においては、図1の気密性容器1の放熱凝縮領域R2に長さ約50mmの放射状フィン14を一体成形したものである。この場合、放射状フィン14も金属含浸炭素繊維強化炭素材よりなり、その配向方向は放射状フィン14の各面に平行方向である。また、放射状フィン14の各フィンは気密性容器4を中心に点対称となっているので、各フィンへの熱拡散が均等となり、この結果、各フィンの放熱能力を最大限に利用できる。
【0054】
図9のヒートパイプの製造方法においては、図3のプラズマエッチング工程306と作動流体封入工程307との間で、気密性容器4の内面高炭素含有率円筒状金属含浸炭素繊維強化炭素材と放射状フィン14とを嵌合して一体成形させるための焼成工程が実行される。これにより、熱伝導グリス等で接合するよりも、一体性に優れており、従って、熱伝導性が優れる。
【0055】
図10は図9の気密性容器4の応用例を示す斜視図である。
【0056】
図10においては、図9の気密性容器4の放射状フィン14に軸流ファン5を対向させてある。つまり、放射状フィン14の各フィンの配置は点対称となっているので、軸流ファン5との相性が良いことが理解できる。つまり、軸流ファン5の風量が大きい周辺部が放射状フィン14の各フィンに対応させることができる。
【0057】
上述の気密性容器1、2、3、4の受熱蒸発領域R1に発熱源として半導体装置を装着する場合には、金属含浸炭素繊維強化炭素材よりなるアダプタを介して装着すればよい。また、発熱源として1つの半導体チップあるいは1つの発光ダイオード(LED)チップを装着する場合には、蓋部12a(22a)に直接装着すればよい。
【0058】
さらに、上述の気密性容器1、2、3、4の円筒部11、六角柱部21は他の筒状形状たとえば多角柱状でもよい。
【符号の説明】
【0059】
1、2、3、4:気密性容器
11:円筒部
12a、12b:蓋部
21:六角柱部
22a、22b:蓋部
401:被加工材
402:真空チャンバ
402a:ガス排出口
403:支持台
403a:ガス導入口
404:支持台
405:内側電極
406:外側電極
407:高周波電源
408:同期駆動部
NS:凹凸構造



【特許請求の範囲】
【請求項1】
動作温度範囲内で蒸発及び凝縮が可能な作動流体を収容するための気密性容器を具備するヒートパイプにおいて、
前記気密性容器は金属含浸炭素繊維強化炭素材よりなり、
該金属含浸炭素繊維強化炭素材の炭素含有率は前記気密性容器の壁内部より壁内周面側で高くし、
該金属含浸炭素繊維強化炭素材の壁内周面にナノメートルオーダの凹凸構造を形成したことを特徴とするヒートパイプ。
【請求項2】
前記金属含浸炭素繊維強化炭素材の配向方向は前記気密性容器の壁に垂直方向である請求項1に記載のヒートパイプ。
【請求項3】
前記金属含浸炭素繊維強化炭素材の配向方向は前記気密性容器の壁に垂直方向であると共に平行方向である請求項1に記載のヒートパイプ。
【請求項4】
前記気密性容器の放熱凝縮領域をヒートシンクに嵌合して一体成形した請求項1に記載のヒートパイプ。
【請求項5】
前記気密性容器の放熱凝縮領域を放射状フィンに嵌合して一体成形した請求項1に記載のヒートパイプ。
【請求項6】
炭素繊維が網目状に含まれたフィルム状炭素骨格含有プラスチックを筒状形状に形成する形成工程と、
該フィルム状炭素骨格含有プラスチックを焼成して多数の空孔を有する炭素繊維骨格を生成する焼成工程と、
前記炭素繊維骨格の内周面を炭素を含む溶媒に浸漬する炭素溶媒浸漬工程と、
該炭素溶媒浸漬工程後に前記炭素繊維骨格を素焼する素焼工程と、
該素焼工程後に、前記炭素繊維骨格を溶融金属に含浸させて内面高炭素含有率金属含浸炭素繊維強化炭素材を生成する工程と、
前記内面高炭素含有率金属含浸炭素繊維強化炭素材の内面をプラズマエッチングして該内面にナノメートルオーダの凹凸構造を形成するプラズマエッチング工程と、
該プラズマエッチング工程後に、前記内面高炭素含有率金属含浸炭素繊維強化炭素材の内部に作動流体を封入する作動流体封入工程と、
該作動流体封入工程後に、前記内面高炭素含有率金属含浸炭素繊維強化炭素材の両端に蓋部を接合する工程と
を具備するヒートパイプの製造方法。
【請求項7】
動作温度範囲内で蒸発及び凝縮が可能な作動流体を収容するための気密性容器は金属含浸炭素繊維強化炭素材よりなり、
該金属含浸炭素繊維強化炭素材の炭素含有率は前記気密性容器の壁内部より壁内周面側で高くしたヒートパイプのプラズマエッチング装置において、
前記内面高炭素含有率の金属含浸炭素繊維強化炭素材を支持する支持台と、
前記金属含浸炭素繊維強化炭素材の内面側に摺動可能に設けられた棒状内側電極と、
前記金属含浸炭素繊維強化炭素材の外面側に摺動可能に設けられたリング状外側電極と、
前記棒状内側電極の先端部を取り囲むように前記リング状外側電極を移動させる同期駆動部と
を具備し、前記金属含浸炭素繊維強化炭素材の壁内周面にナノメートルオーダの凹凸構造を形成したことを特徴とするプラズマエッチング装置。
【請求項8】
前記棒状内側電極の先端部に複数の突起を設けた請求項7に記載のプラズマエッチング装置。


【図4】
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【図12】
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【図13】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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