説明

ヒートポンプサイクル

【課題】ガスインジェクションサイクルを構成するヒートポンプサイクルにおいて、冷房、暖房、および除湿暖房を簡素化なサイクル構成で実現する。
【解決手段】ガスインジェクションサイクルを構成するヒートポンプサイクルヒートにて、高段側減圧手段(高段側膨脹弁13)、および低段側減圧手段(低圧側開閉弁16b、低段側固定絞り17、固定絞り迂回用通路18)の双方を絞り状態、および全開状態に設定可能な構成とする。これにより、圧縮機11から室外熱交換器20に至る冷媒流路を、空調装置の運転モードに応じて別個に設けることなく、簡素な構成で冷房、暖房、および除湿暖房を実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートポンプサイクルに関するもので、車両用の冷凍サイクル装置に適用して有効である。
【背景技術】
【0002】
近年、普及が進んでいる電気自動車では、走行用の駆動力を出力するエンジン(内燃機関)を備えていないため、車室内の暖房を行う際の熱源としてエンジンの廃熱を利用することができない。そこで、電気自動車に適用される車両用空調装置として、ヒートポンプサイクル(蒸気圧縮式の冷凍サイクル)の電動圧縮機から吐出された高温高圧冷媒を熱源として車室内の暖房を行う空調装置が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
この種の空調装置では、低外気温時の暖房のように、ヒートポンプサイクルの熱負荷が増大し、電動圧縮機が消費する電力量が増大してしまうと、走行用電動モータの消費可能な電力量が低減し、車両の走行距離が短くなってしまう。
【0004】
そこで、特許文献2では、ヒートポンプサイクルとして、いわゆるガスインジェクションサイクル(エコノマイザ式冷凍サイクル)を採用し、サイクルの成績係数(COP)の向上を図ることで、電動圧縮機の消費電力の低減を図っている。
【0005】
例えば、特許文献2のヒートポンプサイクルでは、電動圧縮機の吐出ポートから吐出された高温高圧冷媒を放熱させる放熱器、放熱器から流出した冷媒を2段階に減圧膨脹させるための高段側減圧装置および低段側減圧装置、高段側減圧装置にて減圧された中間圧冷媒の気液を分離する気液分離器、低段側減圧装置にて減圧された低圧冷媒を蒸発させて吸熱作用を発揮させる蒸発器等を備えている。
【0006】
そして、気液分離器にて分離された気相冷媒を圧縮機の中間圧ポートから圧縮過程の冷媒に合流させている。さらに、蒸発器から流出した低圧冷媒をアキュムレータにて気液分離し、分離された気相冷媒を圧縮機の吸入ポートから吸入させることで、ガスインジェクションサイクルを構成している。
【0007】
また、特許文献2では、ガスインジェクションサイクルを構成するヒートポンプサイクルにおいて、サイクルの冷媒流路を切り替えることで、冷房、暖房、除湿暖房といった3つの運転モードを実現するようにしている。
【0008】
具体的には、外気と冷媒との熱交換を行う室外熱交換器における熱交換量(吸熱量および放熱量)を、空調装置の運転モードに応じて調整することで、各運転モードを実現する構成としている。
【0009】
例えば、冷房運転時等には、室外熱交換器にて冷媒の有する熱を外気に放熱することで、蒸発器における冷媒の吸熱量を確保して送風空気を所望の温度に冷却し、暖房運転時等には、室外熱交換器にて外気から吸熱することで、放熱器における放熱量を確保して送風空気を所望の温度に加熱する構成としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3331765号公報
【特許文献2】特許第3257361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献2の如く、ガスインジェクションサイクルを構成するヒートポンプサイクルにおいて、冷房、暖房、除湿暖房といった3つの運転モードを実現しようとうすると、サイクル構成が複雑となり、車両用の空調装置にヒートポンプサイクルを適用する場合、搭載性が悪いといった問題がある。
【0012】
例えば、特許文献2に記載のヒートポンプサイクルでは、各運転モードに応じて室外熱交換器を吸熱器として機能させたり、放熱器として機能させたりするために、圧縮機から室外熱交換器に至る冷媒流路を、高段側減圧装置および低段側減圧装置を介して冷媒を流す流路と、高段側減圧装置および低段側減圧装置それぞれを迂回して冷媒を流す流路とを別個に設ける構成としており、サイクル構成が複雑となっている。
【0013】
上記点に鑑み、本発明は、ガスインジェクションサイクルを構成するヒートポンプサイクルにおいて、冷房、暖房、および除湿暖房を簡素化なサイクル構成で実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、運転モードを冷房運転モード、暖房運転モード、および除湿暖房運転モードに切り替え可能な空調装置(1)に適用されるヒートポンプサイクルを対象とし、冷媒を吸入し、圧縮して吐出する圧縮機(11)と、圧縮機(11)の吐出ポート(11c)から吐出された高圧冷媒を空調対象空間へ送風される送風空気、または送風空気を加熱するための熱媒体と熱交換させる第1利用側熱交換器(12、52)と、第1利用側熱交換器(12、52)から流出した冷媒を減圧可能に構成された第1減圧手段(13)と、第1減圧手段(13)を通過した冷媒の気液を分離する気液分離手段(14、54、55)と、気液分離手段(14、54、55)にて分離された液相冷媒を減圧可能に構成された第2減圧手段(16b、17、18)と、第2減圧手段(16b、17、18)を通過した冷媒と外気とを熱交換させる室外熱交換器(20)と、冷媒を送風空気と熱交換させて、圧縮機(11)の吸入ポート(11a)側へ流出させる第2利用側熱交換器(23)と、第2利用側熱交換器(23)へ流入する冷媒を減圧させる第3減圧手段(22)と、気液分離手段(14、54、55)にて分離された気相冷媒を、圧縮機(11)に設けられた中間圧ポート(11b)へ導いて、圧縮過程の冷媒に合流させる中間圧冷媒通路(15)と、サイクルを循環する冷媒の冷媒流路を切り替える冷媒流路切替手段(16a、16c)と、を備え、第1減圧手段(13)および第2減圧手段(16b、17、18)それぞれは、減圧作用を発揮する絞り状態に加えて、減圧作用を発揮しない全開状態に設定可能に構成されていることを特徴とする。
【0015】
これによれば、少なくとも圧縮機(11)から室外熱交換器(20)に至る冷媒流路を、空調装置の運転モードに応じて別個に設けることなく、第1減圧手段(13)および第2減圧手段(16b、17、18)の状態(絞り状態、全開状態)を変更することで、冷房、暖房、除湿暖房といった各運転モードに応じて室外熱交換器(20)における冷媒と外気との熱交換量(吸熱量および放熱量)を調整することができる。
【0016】
従って、ガスインジェクションサイクルを構成するヒートポンプサイクルにおいて、冷房、暖房、および除湿暖房を簡素化なサイクル構成で実現することができる。
【0017】
また、請求項2に記載の発明のように、請求項1に記載のヒートポンプサイクルにおいて、暖房運転モード時には、第1減圧手段(13)および第2減圧手段(16b、17、18)の双方が絞り状態に設定され、冷房運転モード時には、第1減圧手段(13)および第2減圧手段(16b、17、18)の双方が全開状態に設定され、除湿暖房運転モード時には、第1減圧手段(13)および第2減圧手段(16b、17、18)の少なくとも一方が全開状態に設定されることを特徴とする。
【0018】
このように、各運転モードに応じて第1減圧手段(13)および第2減圧手段(16b、17、18)の状態(絞り状態、全開状態)を変更すれば、室外熱交換器(20)における冷媒と外気との熱交換を適切に行うことができ、冷房、暖房、および除湿暖房を簡素化なサイクル構成で実現することができる。
【0019】
具体的には、請求項3に記載の発明では、請求項2に記載のヒートポンプサイクルにおいて、冷媒流路切替手段(16a、16c)は、暖房運転モード時に、圧縮機(11)から吐出された冷媒を、第1利用側熱交換器(12、52)→第1減圧手段(13)→気液分離手段(14、54、55)→第2減圧手段(17)→室外熱交換器(20)の順に流すとともに、気液分離手段(14、54、55)にて分離された気相冷媒を中間圧冷媒通路(15)へ流入させ、冷房運転モード時には、圧縮機(11)から吐出された冷媒を、第1減圧手段(13)→気液分離手段(14、54、55)→第2減圧手段(17)→室外熱交換器(20)→第3減圧手段(22)→第2利用側熱交換器(23)の順に流し、除湿暖房運転モード時には、圧縮機(11)から吐出された冷媒を、第1利用側熱交換器(12、52)→第1減圧手段(13)→気液分離手段(14、54、55)→第2減圧手段(17)→室外熱交換器(20)→第3減圧手段(22)→第2利用側熱交換器(23)の順に流すことを特徴とする。
【0020】
これによれば、暖房運転モード時には、第1利用側熱交換器(12、52)にて圧縮機(11)の吐出ポート(11c)から吐出された高温高圧冷媒の有する熱を送風空気、または送風空気を加熱するための熱媒体に放熱して空調対象空間の暖房を行うことができる。
【0021】
また、冷房運転モード時に、第2利用側熱交換器(23)にて送風空気を冷却して空調対象空間の冷房を行うことができる。さらに、除湿暖房運転モード時に、第2利用側熱交換器(23)にて送風空気を冷却すると共に、第1利用側熱交換器(12、52)にて送風空気等を加熱することで、空調対象空間の除湿暖房を行うことができる。
【0022】
また、請求項4に記載の発明では、請求項2または4に記載のヒートポンプサイクルにおいて、冷媒流路切替手段(16a、16c)は、中間圧冷媒通路(15)を開閉する中間圧側開閉弁(16a)を含んで構成されていることを特徴とする。
【0023】
これによれば、中間圧側開閉弁(16a)にて中間圧冷媒通路(15)を開閉することで、ヒートポンプサイクルをガスインジェクションサイクルと、通常サイクル(一段圧縮サイクル)とに切り替えることができる。
【0024】
ここで、本発明者らは、冷房運転モード時や除湿暖房運転モード時には、中間圧冷媒通路(15)を開放してガスインジェクションサイクルを実現するよりも、中間圧冷媒通路(15)を閉鎖する通常サイクルの方が、好適であることを見出した。
【0025】
この点について説明すると、まず、冷房運転モード時には、第1、第2減圧手段(13、16b、17、18)の双方を全開状態としており、ガスインジェクションサイクルを実現しても、圧縮機11から吐出された気相冷媒が、単に中間圧冷媒通路(15)→中間圧ポート(11b)の順に流れて、圧縮機(11)で再び圧縮されるといったことが繰り返されるだけで、車室内の冷房に有効に機能せず、圧縮機(11)のエネルギが無駄に消費してしまうからである。
【0026】
また、除湿暖房運転モード時には、第1、第2減圧手段(13、16b、17、18)の少なくとも一方を全開状態としており、ガスインジェクションサイクルを実現すると、気液分離手段(14、54、55)における冷媒圧力と、圧縮機(11)の中間圧ポート(11b)における冷媒圧力との差圧により、中間圧冷媒通路(15)に流れる冷媒の流量が変化してしまう。この中間圧冷媒通路(15)を流れる冷媒の流量が変化によって、室内凝縮器(12)における冷媒の放熱量が変化してしまうため、送風空気の温度調整が難しくなり、送風空気の適切な温度調整を図るために、サイクル構成や各種制御が複雑となってしまうからである。
【0027】
そこで、請求項5に記載の発明では、請求項4に記載のヒートポンプサイクルにおいて、中間圧側開閉弁(16a)は、第1減圧手段(13)および第2減圧手段(16b、17、18)の双方が絞り状態となる際に中間圧冷媒通路(15)を開放すると共に、第1減圧手段(13)および第2減圧手段(16b、17、18)の少なくとも一方が全開状態となる際に中間圧冷媒通路(15)を閉鎖するように構成されていることを特徴とする。
【0028】
これによれば、暖房運転モード時には、中間圧冷媒通路(15)を開放して、ヒートポンプサイクルをガスインジェクションサイクルに切り替えるので、サイクルの成績係数(COP)の向上を図ることができる。
【0029】
また、冷房運転モード時には、中間圧冷媒通路(15)を閉鎖して、ヒートポンプサイクルを通常サイクルに切り替えるので、圧縮機(11)の無駄なエネルギ消費を低減することができる。
【0030】
さらに、除湿暖房運転モード時には、中間圧冷媒通路(15)を閉鎖して、ヒートポンプサイクルを通常サイクルに切り替えるので、中間圧冷媒通路(15)を流れる冷媒の流量の変化による室内凝縮器(12)の放熱量の変化を考慮する必要なく、送風空気を適切に温度調整することが可能となる。
【0031】
また、請求項6に記載の発明では、請求項5に記載のヒートポンプサイクルにおいて、中間圧側開閉弁(16a)は、第1減圧手段(13)および第2減圧手段(16b、17、18)のうち、除湿暖房運転モード時に全開状態とされる減圧手段(16b、17、18)の前後差圧に応じて開閉する差圧開閉弁で構成されていることを特徴とする。
【0032】
このように、中間圧側開閉弁(16a)を除湿暖房運転モード時に全開状態とされる減圧手段(16b、17、18)に連動して開閉する差圧開閉弁で構成すれば、ガスインジェクションサイクルと、通常サイクルとの切り替えを簡易な構成および制御手法で実現することができる。
【0033】
また、請求項7に記載の発明では、請求項1ないし6のいずれか1つに記載のヒートポンプサイクルにおいて、第1減圧手段(13)および第2減圧手段(16b、17、18)のうち、一方の減圧手段は、絞り開度を変更可能な可変絞り機構で構成され、第3減圧手段(22)は、絞り開度を変更可能な可変絞り機構で構成され、除湿暖房運転モード時には、第1減圧手段(13)および第2減圧手段(16b、17、18)のうち、他方の減圧手段が全開状態とされ、さらに、空調対象空間へ吹き出す吹出空気の目標温度の上昇に伴って一方の減圧手段の絞り開度が縮小するように変更されると共に、第3減圧手段(22)の絞り開度が拡大するように変更されることを特徴とする。
【0034】
これによれば、除湿暖房運転モード時に、空調対象空間に吹き出す空気の目標温度の変化に応じて、室外熱交換器(20)における冷媒の放熱量および吸熱量を調整することができるので、第1利用側熱交換器(12、52)における冷媒の放熱量および第2利用側熱交換器(23)における冷媒の吸熱量を適切に調整することができる。
【0035】
従って、除湿暖房運転モード時における空調対象空間へ吹き出す空気の極め細やかな温度調整を行うことが可能となる。
【0036】
特に、請求項7に記載の発明は、請求項5に記載のヒートポンプサイクルのように、除湿暖房運転モード時に、中間圧側開閉弁(16a)にて中間圧冷媒通路(15)を閉鎖する構成に適用して好適である。この点に関しては、後述の実施形態において詳細に説明する。
【0037】
また、請求項8に記載の発明のように、請求項1ないし6のいずれか1つに記載のヒートポンプサイクルにおいて、第1減圧手段(13)および第2減圧手段(16b、17、18)のうち少なくとも一方を、絞り開度が固定された固定絞り、固定絞りを迂回して冷媒を流す固定絞り迂回用通路、および迂回用通路を開閉する通路開閉弁を有する構成としてもよい。
【0038】
より具体的には、請求項9に記載の発明のように、請求項1ないし7のいずれか1つに記載のヒートポンプサイクルにおいて、第1減圧手段(13)を、絞り開度を変更可能な可変絞り機構で構成し、第2減圧手段(16b、17、18)を、絞り開度が固定された固定絞り(17)、固定絞り(17)を迂回して冷媒を流す固定絞り迂回用通路(18)、および迂回用通路(18)を開閉する通路開閉弁(16b)を有する構成としてもよい。
【0039】
このように、第1減圧手段(13)を可変絞り機構で構成すれば、ヒートポンプサイクルにてガスインジェクションを実現する際に、第1減圧手段(13)にて、気液分離手段(14、54、55)に流入する冷媒を所望の中間圧まで減圧させることができる。
【0040】
ここで、第2減圧手段(16b、17、18)の構成要素として、固定絞りを採用する際には、具体的に、ノズルあるいはオリフィスを採用することが望ましい。このような固定絞りでは、絞り通路面積が急縮小あるいは急拡大するので、上流側と下流側との圧力差(出入口間差圧)の変化に伴って、固定絞りへ流入する冷媒の乾き度および固定絞りを流通する流量を調整しやすいからである。換言すると、第2減圧手段(16b、17、18)は、絞り通路面積が急縮小あるいは急拡大する固定絞りを含む構成とすることが望ましい。
【0041】
また、請求項10に記載の発明では、請求項1ないし9のいずれか1つに記載のヒートポンプサイクルにおいて、圧縮機(11)の吸入ポート(11a)へ流入する冷媒の気液を分離して、分離された気相冷媒を圧縮機(11)の吸入ポート(11a)側へ流出させるアキュムレータ(24)を備え、気液分離手段(14、54、55)は、分離した液相冷媒を内部に滞留させることなく液相冷媒流出口(14g、54g、55g)から流出させるように構成されていることを特徴とする。
【0042】
これによれば、気液分離手段(14、54、55)が、分離した液相冷媒を内部に滞留させることなく液相冷媒流出口(14g〜55g)から流出させるように構成されているので、気液分離手段(14、54、55)が分離した液相冷媒を蓄えるための構成として用いられることがない。従って、気液分離手段(14、54、55)の体格を小型化させて、ガスインジェクションサイクルを構成するヒートポンプサイクルの搭載性を向上させることができる。
【0043】
また、サイクルに負荷変動が生じたとしても、アキュムレータ(24)を余剰となる冷媒を蓄えるための構成として機能させることができるので、サイクルを安定して作動させることができる。
【0044】
また、請求項11に記載の発明では、請求項1ないし9のいずれか1つに記載のヒートポンプサイクルにおいて、圧縮機(11)の吸入ポート(11a)へ流入する冷媒の気液を分離して、分離された気相冷媒を圧縮機(11)の吸入ポート(11a)側へ流出させるアキュムレータ(24)を備え、気液分離手段(14、55)は、分離した直後の液相冷媒を流出させる液相冷媒流出口(14g、55g)を有していることを特徴とする。
【0045】
これによれば、気液分離手段(14、55)が分離した直後の液相冷媒を流出させる液相冷媒流出口(14g、55g)を有しているので、気液分離手段(14、55)が分離した液相冷媒を蓄えるための構成として用いられることがない。従って、請求項1に記載の発明と同様に、気液分離手段(14、55)の体格を小型化させて、ガスインジェクションサイクルを構成するヒートポンプサイクルの搭載性を向上させることができるとともに、サイクルを安定して作動させることができる。
【0046】
なお、請求項に記載された「分離した直後の液相冷媒」とは、気液分離手段にて分離され、かつ、気液分離手段から流出する方向へ向かう速度成分を有している液相冷媒、あるいは、気液分離のために作用する力が重力よりも大きくなっている液相冷媒(例えば、遠心分離方式の気液分離器であれば、気液分離のために作用する遠心力が重力よりも大きくなっている液相冷媒)等を含む意味である。逆に、気液分離手段内の所定の空間内を循環する速度成分のみを有する液相冷媒は含まれない意味である。
【0047】
また、請求項12に記載の発明では、請求項1ないし9のいずれか1つに記載のヒートポンプサイクルにおいて、圧縮機(11)の吸入ポート(11a)へ流入する冷媒の気液を分離して、分離された気相冷媒を圧縮機(11)の吸入ポート(11a)側へ流出させるアキュムレータ(24)を備え、気液分離手段(14、54、55)は、液相冷媒を流出させる液相冷媒流出口(14g、54g、55g)を有し、気液分離手段(14、54、55)の内容積は、サイクルに封入される冷媒量を液相に換算した際の封入冷媒体積から、サイクルが最大能力を発揮するために必要な冷媒量を液相に換算した際の必要最大冷媒体積を減算した余剰冷媒体積よりも小さいことを特徴とする。
【0048】
これによれば、気液分離手段(14、54、55)の内容積が余剰冷媒体積よりも小さくなっているので、気液分離手段(14、54、55)の体格を小型化させて、ガスインジェクションサイクルを構成するヒートポンプサイクルの搭載性を向上させることができるとともに、サイクルを安定して作動させることができる。
【0049】
さらに、分離した液相冷媒を内部に滞留させることなく液相冷媒流出口(54g、55g)から流出させる気液分離手段(54、55)、分離した直後の液相冷媒を流出させる液相冷媒流出口(55g)を有する気液分離手段(55)、あるいは余剰冷媒体積よりも小さな内容積となる気液分離手段(14〜56)を容易に実現するために、請求項13に記載の発明のように、請求項10ないし12のいずれか1つに記載のヒートポンプサイクルにおいて、気液分離手段は、遠心力の作用によって冷媒の気液を分離する遠心分離方式の気液分離器(14、55)であってもよい。
【0050】
このような遠心分離方式の気液分離器(14、55)は、冷媒の流速が速くなるに伴って気液分離性能が高くなるので、比較的高負荷で運転される頻度の高いヒートポンプサイクルに適用して有効である。
【0051】
また、請求項14に記載の発明のように、請求項10ないし13のいずれか1つに記載のヒートポンプサイクルにおいて、液相冷媒流出口(14g、55g)は、気液分離手段(14、55)にて分離された気相冷媒を流出させる気相冷媒流出口(14f、54f)よりも下方側に配置されているとともに、気相冷媒の一部を液相冷媒とともに流出させるようになっていてもよい。これによれば、重力の作用および気相冷媒の背圧を利用して、液相冷媒を液相冷媒流出口(14g、55g)から効率的に流出させることができる。
【0052】
また、請求項15に記載の発明のように、請求項12に記載のヒートポンプサイクルにおいて、液相冷媒流出口(14g)は、気液分離手段(14)内の液相冷媒の液面高さに応じて変位するフロート弁(14h)によって開閉されるようになっていてもよい。これによれば、気液分離手段(14)の内部に液相冷媒が溜まり始めると同時にフロート弁(14h)が液相冷媒流出口(14g)を開くことによって、実質的に、内部に液相冷媒が溜まらない気液分離手段(14)を実現できる。
【0053】
また、請求項16に記載の発明のように、請求項12に記載のヒートポンプサイクルにおいて、気液分離手段は、液相冷媒の表面張力を利用して冷媒の気液を分離する表面張力式の気液分離器(54)であってもよい。このような表面張力式の気液分離器(54)は、冷媒の流速が遅くなるに伴って気液分離性能が高くなるので、比較的低負荷で運転される頻度の高いヒートポンプサイクルに適用して有効である。
【0054】
また、請求項17に記載の発明では、請求項1ないし16のいずれか1つに記載のヒートポンプサイクルにおいて、室外熱交換器(20)へ流入する冷媒の乾き度(X)は、0.1以下であることを特徴とする。これにより、室外熱交換器(20)にて液相冷媒を蒸発させて確実に吸熱作用を発揮させることができる。
【0055】
また、請求項1ないし17のいずれか1つに記載のヒートポンプサイクルにおいて、請求項18に記載の発明のように、第1利用側熱交換器(12)を、圧縮機(11)の吐出ポート(11c)から吐出された高圧冷媒を送風空気と熱交換させる熱交換器で構成してもよいし、請求項19に記載の発明のように、第1利用側熱交換器(52)を、圧縮機(11)の吐出ポート(11c)から吐出された高圧冷媒を送風空気を加熱するための熱媒体と熱交換させる熱交換器で構成してもよい。
【0056】
また、請求項20に記載の発明のように、請求項18に記載のヒートポンプサイクルにおいて、暖房運転モード時に、第1利用側熱交換器(12)にて加熱された送風空気を空調対象空間へ送風する構成とすれば、第1利用側熱交換器(12)にて、圧縮機(11)の吐出ポート(11c)から吐出された高温高圧冷媒の有する熱を送風空気に放熱して確実に空調対象空間の暖房を行うことができる。
【0057】
また、請求項21に記載の発明のように、請求項18または20に記載のヒートポンプサイクルにおいて、第1利用側熱交換器(12)の熱交換能力を調整する熱交換能力調整手段(34)を備え、冷房運転モード時に、第1利用側熱交換器(12)における熱交換能力を低下させて、第2利用側熱交換器(23)にて冷却された送風空気を空調対象空間へ送風するようにしてもよい。
【0058】
また、請求項22に記載の発明のように、請求項18、20、21のいずれか1つに記載のヒートポンプサイクルにおいて、第2利用側熱交換器(23)を、第1利用側熱交換器(12)に対して送風空気流れ上流側に配置し、除湿暖房運転モード時に、第2利用側熱交換器(23)にて冷却された送風空気を第1利用側熱交換器(12)にて加熱して空調対象空間へ送風するようにしてもよい。
【0059】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】第1実施形態のヒートポンプサイクルの冷房運転モード時の冷媒流路を示す全体構成図である。
【図2】第1実施形態のヒートポンプサイクルの第1暖房モード時の冷媒流路を示す全体構成図である。
【図3】第1実施形態のヒートポンプサイクルの第2暖房モード時の冷媒流路を示す全体構成図である。
【図4】(a)は、第1実施形態の気液分離器の外観斜視図であり、(b)は、上面図である。
【図5】第1実施形態の中間圧側開閉弁の作動を説明する説明図である。
【図6A】ノズルやオリフィスで構成される低段側固定絞りの流量特性を示すグラフである。
【図6B】キャピラリーチューブで構成される低段側固定絞りの流量特性を示すグラフである。
【図7】第1実施形態のヒートポンプサイクルの冷房運転モード時の冷媒の状態を示すモリエル線図である。
【図8】第1実施形態のヒートポンプサイクルの第1暖房モード時の冷媒の状態を示すモリエル線図である。
【図9】第1実施形態のヒートポンプサイクルの第2暖房モード時の冷媒の状態を示すモリエル線図である。
【図10】第1実施形態のヒートポンプサイクルの第1除湿暖房モード時の冷媒の状態を示すモリエル線図である。
【図11】第1実施形態のヒートポンプサイクルの第2除湿暖房モード時の冷媒の状態を示すモリエル線図である。
【図12】第1実施形態のヒートポンプサイクルの第3除湿暖房モード時の冷媒の状態を示すモリエル線図である。
【図13】第1実施形態のヒートポンプサイクルの第4除湿暖房モード時の冷媒の状態を示すモリエル線図である。
【図14】(a)は、第2実施形態の気液分離器の軸方向断面図であり、(b)は、(a)のA−A断面図である。
【図15】第3実施形態の気液分離器の長手方向断面図である。
【図16】第3実施形態の気液分離器の変形例を示す長手方向断面図である。
【図17】第4実施形態の気液分離器の軸方向断面図である。
【図18】第5実施形態のヒートポンプサイクルの全体構成図である。
【図19】第6実施形態の中間圧側開閉弁の作動を説明する説明図である。
【図20】第6実施形態のヒートポンプサイクルの冷房運転モード時の冷媒流路を示す全体構成図である。
【図21】第6実施形態のヒートポンプサイクルの暖房運転モード時の冷媒流路を示す全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0061】
(第1実施形態)
図1〜12により、本発明の第1実施形態について説明する。本実施形態では、本発明のヒートポンプサイクル10を走行用電動モータから車両走行用の駆動力を得る電気自動車の車両用空調装置1に適用している。このヒートポンプサイクル10は、車両用空調装置1において、空調対象空間である車室内へ送風される車室内送風空気を冷却あるいは加熱する機能を果たす。
【0062】
従って、本実施形態のヒートポンプサイクル10は、図1の全体構成図に示すように、車室内を冷房する冷房運転モードあるいは車室内を除湿しながら暖房する除湿暖房運転モード(除湿運転モード)の冷媒回路、および、図2、3の全体構成図に示すように、車室内を暖房する暖房運転モードの冷媒回路を切替可能に構成されている。
【0063】
さらに、このヒートポンプサイクル10では、後述するように暖房運転モードとして、外気温が極低温時(例えば、0℃以下の時)に実行される第1暖房モード(図2)、通常の暖房が実行される第2暖房モード(図3)を実行することができる。なお、図1〜3では、それぞれの運転モードにおける冷媒の流れを実線矢印で示している。
【0064】
また、ヒートポンプサイクル10では、冷媒としてHFC系冷媒(具体的には、R134a)を採用しており、高圧側冷媒圧力が冷媒の臨界圧力を超えない蒸気圧縮式の亜臨界冷凍サイクルを構成している。もちろん、HFO系冷媒(例えば、R1234yf)等を採用してもよい。この冷媒には圧縮機11を潤滑するための冷凍機油が混入されており、冷凍機油の一部は冷媒とともにサイクルを循環している。
【0065】
なお、冷媒の封入量については、ヒートポンプサイクル10に最大冷凍能力を発揮させる高負荷運転時において、サイクルを循環させる必要のある最大循環流量に対して、予め定めた余剰量を加えた量としている。この余剰量は、経年使用によってサイクルに封入された冷媒が、ヒートポンプサイクル10の各構成機器同士を接続するゴムホースあるいはその他の接続部を介して、外部へ漏れてしまうことを考慮して決定されている。
【0066】
ヒートポンプサイクル10の構成機器のうち、圧縮機11は、車両のボンネット内に配置され、ヒートポンプサイクル10において冷媒を吸入し、圧縮して吐出するものである。この圧縮機11は、その外殻を形成するハウジングの内部に、固定容量型の圧縮機構からなる低段側圧縮機構と高段側圧縮機構との2つの圧縮機構、および、双方の圧縮機構を回転駆動する電動モータを収容して構成された二段昇圧式の電動圧縮機である。
【0067】
圧縮機11のハウジングには、ハウジングの外部から低段側圧縮機構へ低圧冷媒を吸入させる吸入ポート11a、ハウジングの外部からハウジングの内部へ中間圧冷媒を流入させて圧縮過程の冷媒に合流させる中間圧ポート11b、および、高段側圧縮機構から吐出された高圧冷媒をハウジングの外部へ吐出させる吐出ポート11cが設けられている。
【0068】
より具体的には、中間圧ポート11bは、低段側圧縮機構の冷媒吐出口側(すなわち、高段側圧縮機構の冷媒吸入口側)に接続されている。また、低段側圧縮機構および高段側圧縮機は、スクロール型圧縮機構、ベーン型圧縮機構、ローリングピストン型圧縮機構等の各種形式のものを採用することができる。
【0069】
電動モータは、後述する空調制御装置40から出力される制御信号によって、その作動(回転数)が制御されるもので、交流モータ、直流モータのいずれの形式を採用してもよい。そして、この回転数制御によって、圧縮機11の冷媒吐出能力が変更される。従って、本実施形態では、電動モータが圧縮機11の吐出能力変更手段を構成している。
【0070】
なお、本実施形態では、2つの圧縮機構を1つのハウジング内に収容した圧縮機11を採用しているが、圧縮機の形式はこれに限定されない。つまり、中間圧ポート11bから中間圧冷媒を流入させて圧縮過程の冷媒に合流させることが可能であれば、ハウジングの内部に、1つの固定容量型の圧縮機構およびこの圧縮機構を回転駆動する電動モータを収容して構成された電動圧縮機であってもよい。
【0071】
圧縮機11の吐出ポート11cには、室内凝縮器12の冷媒入口側が接続されている。室内凝縮器12は、後述する車両用空調装置1の室内空調ユニット30の空調ケース31内に配置され、圧縮機11(具体的には、高段側圧縮機構)から吐出された高圧冷媒を放熱させて、後述する室内蒸発器23を通過した車室内送風空気を加熱する放熱器(第1利用側熱交換器)である。
【0072】
室内凝縮器12の冷媒出口側には、室内凝縮器12から流出した高圧冷媒を中間圧冷媒となるまで減圧可能な高段側減圧手段(第1減圧手段)としての高段側膨脹弁13の入口側が接続されている。この高段側膨脹弁13は、絞り開度を変更可能に構成された弁体と、この弁体の絞り開度を変化させるステッピングモータからなる電動アクチュエータとを有して構成される電気式の可変絞り機構である。
【0073】
高段側膨脹弁13は、減圧作用を発揮する絞り状態と減圧作用を発揮しない全開状態とに設定可能に構成されている。より具体的には、高段側膨脹弁13では、冷媒を減圧させる際には、絞り通路面積が相当直径φ0.5〜φ3mmとなる範囲で絞り開度を変化させる。さらに、絞り開度を全開とすると、絞り通路面積を相当直径φ10mm程度確保して、冷媒減圧作用を発揮させないようにすることもできる。また、絞り開度を全閉として室外熱交換器20から室内蒸発器23へ至る冷媒流路を閉塞させることもできる。なお、高段側膨脹弁13は、空調制御装置40から出力される制御信号によって、その作動が制御される。
【0074】
高段側膨脹弁13の出口側には、室内凝縮器12から流出して高段側膨脹弁13にて減圧された中間圧冷媒の気液を分離する気液分離手段としての気液分離器14の冷媒流入ポート14bが接続されている。この気液分離器14は、遠心力の作用によって冷媒の気液を分離する遠心分離方式のものである。
【0075】
気液分離器14の詳細構成については、図4を用いて説明する。なお、図4(a)は、気液分離器14の模式的な外観斜視図であり、図4(b)は、気液分離器14の上方側から見た上面図である。また、図4における上下の各矢印は、気液分離器14を車両用空調装置1に搭載した状態における上下の各方向を示している。このことは、他の図面においても同様である。
【0076】
本実施形態の気液分離器14は、上下方向に延びる略中空有底円筒状(断面円形状)の本体部14a、中間圧冷媒を流入させる冷媒流入口14eが形成された冷媒流入ポート14b、分離された気相冷媒を流出させる気相冷媒流出口14fが形成された気相冷媒流出ポート14c、および、分離された液相冷媒を流出させる液相冷媒流出口14gが形成された液相冷媒流出ポート14d等を有して構成されている。
【0077】
本体部14aの直径は、各流入出ポート14b〜14dに接続される冷媒配管の直径に対して、1.5倍以上、3倍以下程度の径に設定されており、気液分離器14全体としての小型化を図っている。
【0078】
より詳細には、本実施形態の気液分離器14(具体的には、本体部14a)の内容積は、サイクルに封入される冷媒量を液相に換算した際の封入冷媒体積から、サイクルが最大能力を発揮するために必要な冷媒量を液相に換算した際の必要最大冷媒体積を減算した余剰冷媒体積よりも小さく設定されている。
【0079】
このため、本実施形態の気液分離器14の内容積は、サイクルに負荷変動が生じてサイクルを循環する冷媒循環流量が変動しても、実質的に余剰冷媒を溜めることができない程度の容積になっている。
【0080】
冷媒流入ポート14bは、本体部14aの円筒状側面に接続されており、図4(b)に示すように、気液分離器14を上方側から見たときに、本体部14aの断面円形状の外周の接線方向に延びる冷媒配管によって構成されている。さらに、冷媒流入口14eは、冷媒流入ポート14bのうち本体部14aの反対側端部に形成されている。なお、冷媒流入ポート14bは、必ずしも水平方向に延びている必要はなく、上下方向の成分を有して延びていてもよい。
【0081】
気相冷媒流出ポート14cは、本体部14aの軸方向上側端面(上面)に接続されており、本体部14aの内外に亘って本体部14aと同軸上に延びる冷媒配管によって構成されている。さらに、気相冷媒流出口14fは、気相冷媒流出ポート14cの上方側端部に形成され、一方、下方側端部は、冷媒流入ポート14bと本体部14aとの接続部よりも下方側に位置付けられている。
【0082】
液相冷媒流出ポート14dは、本体部14aの軸方向下側端面(底面)に接続されており、本体部14aから下方側へ向かって、本体部14aと同軸上に延びる冷媒配管によって構成されている。さらに、液相冷媒流出口14gは、液相冷媒流出ポート14dの下方側端部に形成されている。
【0083】
従って、冷媒流入ポート14bの冷媒流入口14eから流入した冷媒は、本体部14aの円筒状内壁面に沿って旋回して流れ、この旋回流によって生じる遠心力の作用によって冷媒の気液が分離される。さらに、分離された液相冷媒が、重力の作用によって本体部14aの下方側に落下する。
【0084】
そして、分離されて下方側に落下した液相冷媒は液相冷媒流出ポート14dの液相冷媒流出口14gから流出し、分離された気相冷媒は気相冷媒流出ポート14cの気相冷媒流出口14fから流出する。なお、図4では、本体部14aの軸方向下側端面(底面)を円板状に形成した例を図示しているが、本体部14aの下方側部位を下側に向かって徐々に縮径するテーパ形状に形成し、このテーパ形状の最下位部に液相冷媒流出ポート14dを接続してもよい。
【0085】
また、気液分離器14の気相冷媒流出ポート14cには、図1〜図3に示すように、中間圧冷媒通路15を介して、圧縮機11の中間圧ポート11bが接続されている。この中間圧冷媒通路15には、中間圧側開閉弁16aが配置されている。この中間圧側開閉弁16aは中間圧冷媒通路15を開閉する電磁弁であり、空調制御装置40から出力される制御信号によって、その作動が制御される。
【0086】
なお、中間圧側開閉弁16aは、中間圧冷媒通路15を開いた際に気液分離器14の気相冷媒出口から圧縮機11の中間圧ポート11b側へ冷媒が流れることのみを許容する逆止弁としての機能を兼ね備えている。これにより、中間圧側開閉弁16aが中間圧冷媒通路15を開いた際に、圧縮機11側から気液分離器14へ冷媒が逆流することが防止される。
【0087】
さらに、中間圧側開閉弁16aは、中間圧冷媒通路15を開閉することによって、サイクル構成(冷媒流路)を切り替える機能を果たす。従って、本実施形態の中間圧側開閉弁16aは、サイクルを循環する冷媒の冷媒流路を切り替える冷媒流路切替手段を構成している。
【0088】
本実施形態の中間圧側開閉弁16aは、後述の低段側減圧手段の状態(絞り状態、全開状態)に連動して、中間圧冷媒通路15を開閉するように構成されている。
【0089】
具体的には、中間圧側開閉弁16aは、図5(a)に示すように、低段側減圧手段の低圧側開閉弁16bが閉じ、低段側減圧手段が絞り状態となる際に、中間圧冷媒通路15を開放するように構成されている。また、中間圧側開閉弁16aは、図5(b)に示すように、低段側減圧手段の低圧側開閉弁16bが開き、低段側減圧手段が全開状態となる際に、中間圧冷媒通路15を閉鎖するように構成されている。なお、図5(a)が、中間圧側開閉弁16aが開弁する際の作動を示し、図5(b)が、中間圧側開閉弁16aが閉弁する際の作動を示している。
【0090】
一方、気液分離器14の液相冷媒流出ポート14dには、気液分離器14から流出した液相冷媒を減圧可能な低段側減圧手段(第2減圧手段)の入口側が接続され、低段側減圧手段の出口側には、室外熱交換器20の冷媒入口側が接続されている。
【0091】
本実施形態の低段側減圧手段は、気液分離器14にて分離された液相冷媒を低圧冷媒となるまで減圧させる低段側固定絞り17、気液分離器14にて分離された液相冷媒を低段側固定絞り17を迂回させて室外熱交換器20側へ導く固定絞り迂回用通路18、固定絞り迂回用通路18を開閉する通路開閉弁としての低圧側開閉弁16bを有して構成されている。なお、低圧側開閉弁16bの基本的構成は、中間圧側開閉弁16aと同等であり、空調制御装置40から出力される制御電圧によって、その開閉作動が制御される電磁弁である。
【0092】
ここで、冷媒が低圧側開閉弁16bを通過する際に生じる圧力損失は、低段側固定絞り17を通過する際に生じる圧力損失に対して極めて小さい。従って、室内凝縮器12から流出した冷媒は、低圧側開閉弁16bが開いている場合には固定絞り迂回用通路18側を介して室外熱交換器20へ流入し、低圧側開閉弁16bが閉じている場合には低段側固定絞り17を介して室外熱交換器20へ流入する。
【0093】
これにより、低段側減圧手段は、低圧側開閉弁16bの開閉により、減圧作用を発揮する絞り状態と、減圧作用を発揮しない全開状態とに変更することが可能となっている。なお、低圧側開閉弁16bを、気液分離器14の液相冷媒流出ポート14d出口側と低段側固定絞り17入口側とを接続する冷媒回路および液相冷媒流出ポート14d出口側と固定絞り迂回用通路18入口側とを接続する冷媒回路を切り替える電気式の三方弁等を採用してもよい。
【0094】
低段側固定絞り17としては、絞り開度が固定されたノズル、オリフィスを採用することができる。ノズル、オリフィス等の固定絞りでは、絞り通路面積が急縮小あるいは急拡大するので、上流側と下流側との圧力差(出入口間差圧)の変化に伴って、固定絞りを通過する冷媒の流量および低段側固定絞り17上流側冷媒の乾き度Xを自己調整(バランス)することができる。
【0095】
具体的には、圧力差が比較的大きい場合には、サイクルを循環させる必要のある必要循環冷媒流量が減少するに伴って、固定絞り上流側冷媒の乾き度が大きくなるようにバランスする。一方、圧力差が比較的小さい場合には、必要循環冷媒流量が増加するに伴って、固定絞り上流側冷媒の乾き度が小さくなるようにバランスする。
【0096】
ところが、低段側固定絞り17上流側冷媒の乾き度が大きくなってしまうと、室外熱交換器20が冷媒に吸熱作用を発揮させる蒸発器として機能する際に、室外熱交換器20における冷媒の吸熱量(冷凍能力)が減ってサイクルの成績係数(COP)が悪化してしまう。
【0097】
そこで、本実施形態では、図6Aに示すように、暖房運転モード時にサイクルの負荷変動によって必要循環冷媒流量が変化しても、低段側固定絞り17上流側冷媒の乾き度Xが0.1以下となる低段側固定絞り17を採用し、COPの悪化を抑制している。なお、図6Aは、本実施形態の低段側固定絞り17の流量特性図(絞り特性図)であり、暖房運転モード時おける低段側固定絞り17上流側冷媒の乾き度Xに対する冷媒循環流量Qの変化を示している。
【0098】
つまり、本実施形態の低段側固定絞り17では、ヒートポンプサイクル10に負荷変動が生じた際に想定される範囲で、冷媒循環流量Qおよび低段側固定絞り17の出入口間差圧が変化しても、図6Aのハッチングで示すように、低段側固定絞り17上流側冷媒の乾き度Xが0.1以下に調整される。
【0099】
なお、低段側固定絞り17としては、ノズルやオリフィス以外にキャピラリーチューブを採用することが考えられるが、以下の理由により、ノズルやオリフィスを低段側固定絞り17として採用することが好ましい。
【0100】
図6Bは、低段側固定絞り17としてキャピラリーチューブを採用した場合の流量特性図(絞り特性図)であり、暖房運転モード時おける低段側固定絞り17上流側冷媒の乾き度Xに対する冷媒循環流量Qの変化を示している。
【0101】
図6Bに示すように、キャピラリーチューブは、ノズルやオリフィスに比べて、低段側固定絞り17上流側冷媒の乾き度Xに対する冷媒循環流量Qの変化が小さく、低段側固定絞り17上流側冷媒の乾き度が大きくなり易い。つまり、低段側固定絞り17としてキャピラリーチューブを採用すると、ヒートポンプサイクル10に負荷変動が生じた際に想定される範囲で、冷媒循環流量Qおよび低段側固定絞り17の出入口間差圧が変化した場合、図6Bのハッチングで示すように、低段側固定絞り17上流側冷媒の乾き度Xが0.1以下に調整することが難しい。
【0102】
図1〜3に戻り、室外熱交換器20は、ボンネット内に配置されて、内部を流通する低圧冷媒と送風ファン21から送風された外気とを熱交換させるものである。この室外熱交換器20は、第1、第2暖房モード時等には、低圧冷媒を蒸発させて吸熱作用を発揮させる蒸発器として機能し、冷房運転モード時等には、高圧冷媒を放熱させる放熱器として機能する熱交換器である。
【0103】
室外熱交換器20の冷媒出口側には、第3減圧手段としての冷房用膨脹弁22の冷媒入口側が接続されている。冷房用膨脹弁22は、冷房運転モード時等に室外熱交換器20から流出した冷媒を減圧させ、室内蒸発器23へ流入する冷媒を減圧させるものである。この冷房用膨脹弁22の基本的構成は、高段側膨脹弁13と同様であり、空調制御装置40から出力される制御信号によって、その作動が制御される。
【0104】
冷房用膨脹弁22の出口側には、室内蒸発器23の冷媒入口側が接続されている。室内蒸発器23は、室内空調ユニット30の空調ケース31内のうち、室内凝縮器12の車室内送風空気流れ上流側に配置され、冷房運転モード時、除湿暖房運転モード等にその内部を流通する冷媒を蒸発させて吸熱作用を発揮させることにより車室内送風空気を冷却する蒸発器(第2利用側熱交換器)である。
【0105】
室内蒸発器23の出口側には、アキュムレータ24の入口側が接続されている。アキュムレータ24は、その内部に流入した冷媒の気液を分離して余剰冷媒を蓄える低圧側気液分離器である。さらに、アキュムレータ24の気相冷媒出口には、圧縮機11の吸入ポート11aが接続されている。従って、室内蒸発器23は、圧縮機11の吸入ポート11a側へ流出させるように接続されている。
【0106】
さらに、室外熱交換器20の冷媒出口側には、室外熱交換器20から流出した冷媒を冷房用膨脹弁22および室内蒸発器23を迂回させてアキュムレータ24の入口側へ導く膨脹弁迂回用通路25が接続されている。この膨脹弁迂回用通路25には、膨脹弁迂回用通路25を開閉する冷房用開閉弁16cが配置されている。
【0107】
冷房用開閉弁16cの基本的構成は、中間圧側開閉弁16aと同等であり、空調制御装置40から出力される制御電圧によって、その開閉作動が制御される電磁弁である。また、冷媒が冷房用開閉弁16cを通過する際に生じる圧力損失は、冷房用膨脹弁22を通過する際に生じる圧力損失に対して極めて小さい。
【0108】
従って、室外熱交換器20から流出した冷媒は、冷房用開閉弁16cが開いている場合には膨脹弁迂回用通路25を介してアキュムレータ24へ流入する。この際、冷房用膨脹弁22の絞り開度を全閉としてもよい。また、冷房用開閉弁16cが閉じている場合には冷房用膨脹弁22を介して室内蒸発器23へ流入する。これにより、冷房用開閉弁16cは、ヒートポンプサイクル10の冷媒流路を切り替えることができる。従って、本実施形態の冷房用開閉弁16cは、中間圧側開閉弁16aとともに冷媒流路切替手段を構成している。
【0109】
次に、室内空調ユニット30について説明する。室内空調ユニット30は、車室内最前部の計器盤(インストルメントパネル)の内側に配置されて、室内空調ユニット30の外殻を形成するとともに、その内部に車室内に送風される車室内送風空気の空気通路を形成する空調ケース31を有している。そして、この空気通路に送風機32、前述の室内凝縮器12、室内蒸発器23等が収容されている。
【0110】
空調ケース31の空気流れ最上流側には、車室内空気(内気)と外気とを切替導入する内外気切替装置33が配置されている。この内外気切替装置33は、空調ケース31内に内気を導入させる内気導入口および外気を導入させる外気導入口の開口面積を、内外気切替ドアによって連続的に調整して、内気の風量と外気の風量との風量割合を連続的に変化させるものである。
【0111】
内外気切替装置33の空気流れ下流側には、内外気切替装置33を介して吸入した空気を車室内へ向けて送風する送風機32が配置されている。この送風機32は、遠心多翼ファン(シロッコファン)を電動モータにて駆動する電動送風機であって、空調制御装置40から出力される制御電圧によって回転数(送風量)が制御される。
【0112】
送風機32の空気流れ下流側には、前述の室内蒸発器23および室内凝縮器12が、車室内送風空気の流れに対して、室内蒸発器23→室内凝縮器12の順に配置されている。換言すると、室内蒸発器23は、室内凝縮器12に対して、空気流れ上流側に配置されている。
【0113】
また、空調ケース31内には、室内蒸発器23通過後の送風空気を、室内凝縮器12を迂回して流すバイパス通路35が設けられており、室内蒸発器23の空気流れ下流側であって、かつ、室内凝縮器12の空気流れ上流側には、エアミックスドア34が配置されている。
【0114】
このエアミックスドア34は、室内蒸発器23通過後の送風空気のうち、室内凝縮器12を通過させる風量とバイパス通路35を通過させる風量との風量割合を調整して、室内凝縮器12の熱交換能力を調整する熱交換能力調整手段である。なお、エアミックスドア34は、空調制御装置40から出力される制御信号によって作動が制御される図示しないサーボモータによって駆動される。
【0115】
また、室内凝縮器12およびバイパス通路35の空気流れ下流側には、室内凝縮器12にて冷媒と熱交換して加熱された車室内送風空気とバイパス通路35を通過して加熱されていない車室内送風空気が合流する合流空間36が設けられている。
【0116】
空調ケース31の空気流れ最下流部には、合流空間36にて合流した送風空気を、冷却対象空間である車室内へ吹き出す開口穴が配置されている。具体的には、この開口穴としては、車両前面窓ガラス内側面に向けて空調風を吹き出すデフロスタ開口穴37a、車室内の乗員の上半身に向けて空調風を吹き出すフェイス開口穴37b、乗員の足元に向けて空調風を吹き出すフット開口穴37cが設けられている。
【0117】
従って、エアミックスドア34が室内凝縮器12を通過させる風量とバイパス通路を通過させる風量との風量割合を調整することによって、合流空間36内の送風空気の温度が調整される。なお、エアミックスドア34は、空調制御装置40から出力される制御信号によって作動が制御される図示しないサーボモータによって駆動される。
【0118】
さらに、デフロスタ開口穴37a、フェイス開口穴37bおよびフット開口穴37cの空気流れ上流側には、それぞれ、デフロスタ開口穴37aの開口面積を調整するデフロスタドア38a、フェイス開口穴37bの開口面積を調整するフェイスドア38b、フット開口穴37cの開口面積を調整するフットドア38cが配置されている。
【0119】
これらのデフロスタドア38a、フェイスドア38bおよびフットドア38cは、開口穴モードを切り替える開口穴モード切替手段を構成するものであって、リンク機構等を介して、空調制御装置40から出力される制御信号によってその作動が制御される図示しないサーボモータによって駆動される。
【0120】
また、デフロスタ開口穴37a、フェイス開口穴37bおよびフット開口穴37cの空気流れ下流側は、それぞれ空気通路を形成するダクトを介して、車室内に設けられたフェイス吹出口、フット吹出口およびデフロスタ吹出口に接続されている。
【0121】
次に、本実施形態の電気制御部について説明する。空調制御装置40は、CPU、ROMおよびRAM等を含む周知のマイクロコンピュータとその周辺回路から構成され、そのROM内に記憶された空調制御プログラムに基づいて各種演算、処理を行い、出力側に接続された各種空調制御機器(圧縮機11、高段側膨脹弁13、低段側減圧手段の低圧側開閉弁16b、冷媒流路切替手段16a、16c、送風機32等)の作動を制御する。
【0122】
また、空調制御装置40の入力側には、車室内温度を検出する内気センサ、外気温を検出する外気センサ、車室内の日射量を検出する日射センサ、室内蒸発器23からの吹出空気温度(蒸発器温度)を検出する蒸発器温度センサ、圧縮機11から吐出された高圧冷媒圧力を検出する吐出圧センサ、圧縮機11へ吸入される吸入冷媒圧力を検出する吸入圧センサ等の種々の空調制御用のセンサ群41が接続されている。
【0123】
さらに、空調制御装置40の入力側には、車室内前部の計器盤付近に配置された図示しない操作パネルが接続され、この操作パネルに設けられた各種空調操作スイッチからの操作信号が入力される。操作パネルに設けられた各種空調操作スイッチとしては、具体的に、車両用空調装置1の作動スイッチ、車室内温度を設定する車室内温度設定スイッチ、冷房運転モードと暖房運転モードとの選択スイッチ等が設けられている。
【0124】
なお、空調制御装置40は、その出力側に接続された各種空調制御機器の作動を制御する制御手段が一体に構成されたものであるが、それぞれの制御対象機器の作動を制御する構成(ハードウェアおよびソフトウェア)が、それぞれの制御対象機器の作動を制御する制御手段を構成している。
【0125】
例えば、本実施形態では、圧縮機11の電動モータの作動を制御する構成(ハードウェアおよびソフトウェア)が吐出能力制御手段を構成し、冷媒流路切替手段16a〜16cの作動を制御する構成(ハードウェアおよびソフトウェア)が冷媒流路制御手段を構成している。もちろん、吐出能力制御手段および冷媒流路制御手段を空調制御装置40に対して別体の制御装置として構成してもよい。
【0126】
次に、上記構成における本実施形態の車両用空調装置1の作動について説明する。本実施形態の車両用空調装置1では、前述の如く、車室内を冷房する冷房運転モード、車室内を暖房する暖房運転モード、および、車室内を除湿しながら暖房する除湿暖房モードに切り替えることができる。以下に各運転モードにおける作動を説明する。
【0127】
(a)冷房運転モード
冷房運転モードは、操作パネルの作動スイッチが投入(ON)された状態で、選択スイッチによって冷房運転モードが選択されると開始される。冷房運転モードでは、空調制御装置40が、高段側膨脹弁13を減圧作用を発揮しない全開状態とし、冷房用膨脹弁22を減圧作用を発揮する絞り状態とし、冷房用開閉弁16cを閉弁状態とする。
【0128】
さらに、低圧側開閉弁16bを開弁状態として低段側減圧手段を減圧作用を発揮しない全開状態とし、低圧側開閉弁16bの状態に連動して中間圧側開閉弁16aを閉弁状態とする。これにより、ヒートポンプサイクル10は、図1の実線矢印に示すように冷媒が流れる冷媒流路に切り替えられる。
【0129】
この冷媒流路の構成で、空調制御装置40が上述の空調制御用のセンサ群41の検出信号および操作パネルの操作信号を読み込む。そして、検出信号および操作信号の値に基づいて車室内へ吹き出す吹出空気の目標温度である目標吹出温度TAOを算出する。さらに、算出された目標吹出温度TAOおよびセンサ群の検出信号に基づいて、空調制御装置40の出力側に接続された各種空調制御機器の作動状態を決定する。
【0130】
例えば、圧縮機11の冷媒吐出能力、すなわち圧縮機11の電動モータに出力される制御信号については、以下のように決定される。まず、目標吹出温度TAOに基づいて、予め空調制御装置40に記憶された制御マップを参照して、室内蒸発器23の目標蒸発器吹出温度TEOを決定する。
【0131】
そして、この目標蒸発器吹出温度TEOと蒸発器温度センサによって検出された室内蒸発器23からの吹出空気温度との偏差に基づいて、フィードバック制御手法を用いて室内蒸発器23からの吹出空気温度が目標蒸発器吹出温度TEOに近づくように、圧縮機11の電動モータに出力される制御信号が決定される。
【0132】
また、冷房用膨脹弁22へ出力される制御信号については、冷房用膨脹弁22へ流入する冷媒の過冷却度が、COPを略最大値に近づくように予め決定された目標過冷却度に近づくように決定される。また、エアミックスドア34のサーボモータへ出力される制御信号については、エアミックスドア34が室内凝縮器12の空気通路を閉塞し、室内蒸発器23通過後の送風空気の全流量がバイパス通路35を通過するように決定される。
【0133】
そして、上記の如く決定された制御信号等を各種空調制御機器へ出力する。その後、操作パネルによって車両用空調装置の作動停止が要求されるまで、所定の制御周期毎に、上述の検出信号および操作信号の読み込み→目標吹出温度TAOの算出→各種空調制御機器の作動状態決定→制御電圧および制御信号の出力といった制御ルーチンが繰り返される。なお、このような制御ルーチンの繰り返しは、他の運転モード時にも同様に行われる。
【0134】
従って、冷房運転モードのヒートポンプサイクル10では、図7のモリエル線図に示すように、圧縮機11の吐出ポート11cから吐出された高圧冷媒(図7のa点)が室内凝縮器12へ流入する。この際、エアミックスドア34が室内凝縮器12の空気通路を閉塞しているので、室内凝縮器12へ流入した冷媒は殆ど車室内送風空気へ放熱することなく、室内凝縮器12から流出していく。
【0135】
室内凝縮器12から流出した冷媒は、高段側膨脹弁13→気液分離器14→低圧側開閉弁16bの順に流れて室外熱交換器20へ流入する。より詳細には、室内凝縮器12から流出した冷媒は、高段側膨脹弁13が全開状態となっているので、高段側膨脹弁13にて殆ど減圧されることなく流出し、気液分離器14の冷媒流入ポート14bから気液分離器14内へ流入する。
【0136】
ここで、前述の如く、冷房用膨脹弁22の絞り開度が冷房用膨脹弁22へ流入する冷媒の過冷却度が目標過冷却度に近づくように決定されているので、気液分離器14へ流入する冷媒は過冷却度を有する液相状態となっている。従って、気液分離器14では冷媒の気液が分離されることなく、液相冷媒が液相冷媒流出ポート14dから流出していく。さらに、中間圧側開閉弁16aが閉弁状態となっているので、気相冷媒流出ポート14cから液相冷媒が流出することはない。
【0137】
液相冷媒流出ポート14dから流出した液相冷媒は、低段側減圧手段が全開状態となっているので、低段側減圧手段にて殆ど減圧されることなく流出し、室外熱交換器20へ流入する。つまり、低段側減圧手段では、低圧側開閉弁16bが開弁状態であるため、低段側固定絞り17側へ流入することなく固定絞り迂回用通路18を介して室外熱交換器20へ流入する。室外熱交換器20へ流入した低圧冷媒は、送風ファン21から送風された外気と熱交換して放熱する(図7のa点→b点)。
【0138】
室外熱交換器20から流出した冷媒は、冷房用開閉弁16cが閉弁状態となっているので、絞り状態となっている冷房用膨脹弁22へ流入して低圧冷媒となるまで、等エンタルピ的に減圧膨脹される(図7のb点→c点)。そして、冷房用膨脹弁22にて減圧された低圧冷媒は、室内蒸発器23へ流入し、送風機32から送風された室内送風空気から吸熱して蒸発する(図7のc点→d点)。これにより、車室内送風空気が冷却される。
【0139】
室内蒸発器23から流出した冷媒は、アキュムレータ24へ流入して気液分離される。そして、分離された気相冷媒が圧縮機11の吸入ポート11a(図7のe点)から吸入されて低段側圧縮機構→高段側圧縮機構の順に再び圧縮される(図7のe点→a1点→a点)。一方、分離された液相冷媒はサイクルが要求されている冷凍能力を発揮するために必要としていない余剰冷媒としてアキュムレータ24内に蓄えられる。
【0140】
なお、図7においてd点とe点が異なっている理由は、アキュムレータ24から圧縮機11の吸入ポート11aへ至る冷媒配管を流通する気相冷媒に生じる圧力損失と、気相冷媒が外部(外気)から吸熱する吸熱量を表したものである。従って、理想的なサイクルでは、d点とe点が一致していることが望ましい。このことは、以下のモリエル線図においても同様である。
【0141】
以上の如く、冷房運転モードでは、エアミックスドア34にて室内凝縮器12の空気通路を閉塞しているので、室内蒸発器23にて冷却された送風空気を車室内へ吹き出すことができる。これにより、車室内の冷房を実現することができる。
【0142】
また、上記の説明から明らかなように、冷房運転モードでは、第1利用側熱交換器である室内凝縮器12から流出した冷媒を、全開状態とした高段側膨脹弁13→気液分離器14→全開状態とした低段側減圧手段→室外熱交換器20→第3減圧手段である冷房用膨脹弁22→第2利用側熱交換器である室内蒸発器23の順に流している。
【0143】
ここで、冷房運転モードにおいて、中間圧側開閉弁16aを閉弁状態とする理由を説明する。冷房運転モードでは、前述のように高段側膨脹弁13、および低段側減圧手段の双方を減圧作用を発揮しない全開状態としている。このため、中間圧側開閉弁16aを開弁状態として、ガスインジェクションサイクルを実現すると、圧縮機11の吐出ポート11cから吐出された気相冷媒が、室内凝縮器12→中間圧冷媒通路15→中間圧ポート11bの順に流れて、圧縮機11で再び圧縮されるといったことが繰り返されるだけで、車室内の冷房に有効に機能せず、単に圧縮機11のエネルギが無駄に消費してしまうからである。このように、本実施形態では、圧縮機11の無駄なエネルギ消費を低減するために、冷房運転モードに中間圧側開閉弁16aを閉弁状態としている。
【0144】
(b)暖房運転モード
次に、暖房運転モードについて説明する。前述の如く、本実施形態のヒートポンプサイクル10では、暖房運転モードとして、第1暖房モード、第2暖房モードを実行することができる。まず、暖房運転モードは、車両用空調装置の作動スイッチが投入(ON)された状態で、選択スイッチによって暖房運転モードが選択されると開始される。
【0145】
そして、暖房運転モードが開始されると、空調制御装置40が空調制御用のセンサ群41の検出信号および操作パネルの操作信号を読み込み、圧縮機11の冷媒吐出能力(圧縮機11の回転数)を決定する。さらに、決定された回転数に応じて、第1暖房モードあるいは第2暖房モード時を実行する。
【0146】
(b)−1:第1暖房モード
まず、第1暖房モードについて説明する。第1暖房モードが実行されると、空調制御装置40が、高段側膨脹弁13を絞り状態とし、冷房用膨脹弁22を全閉状態とし、冷房用開閉弁16cを開弁状態とする。
【0147】
さらに、低圧側開閉弁16bを閉弁状態として低段側減圧手段を減圧作用を発揮する絞り状態とし、低圧側開閉弁16bの状態に連動して中間圧側開閉弁16aを開弁状態とする。これにより、ヒートポンプサイクル10は、図2の実線矢印に示すように冷媒が流れる冷媒流路に切り替えられる。
【0148】
この冷媒流路構成(サイクル構成)で、空調制御装置40が、冷房運転モードと同様に、空調制御用のセンサ群41の検出信号および操作パネルの操作信号を読み込み、目標吹出温度TAOおよびセンサ群の検出信号に基づいて、空調制御装置40の出力側に接続された各種空調制御機器の作動状態を決定する。
【0149】
なお、第1暖房モードでは、高段側膨脹弁13へ出力される制御信号については、高段側膨脹弁13の絞り開度が予め定めた第1暖房モード用の所定開度となるように決定される。また、エアミックスドア34のサーボモータへ出力される制御信号については、エアミックスドア34がバイパス通路35を閉塞し、室内蒸発器23通過後の送風空気の全流量が室内凝縮器12を通過するように決定される。
【0150】
従って、第1暖房モードのヒートポンプサイクル10では、図8のモリエル線図に示すように、圧縮機11の吐出ポート11cから吐出された高圧冷媒(図8のa点)が室内凝縮器12へ流入する。室内凝縮器12へ流入した冷媒は、送風機32から送風されて室内蒸発器23を通過した車室内送風空気と熱交換して放熱する(図8のa→b点)。これにより、車室内送風空気が加熱される。
【0151】
室内凝縮器12から流出した冷媒は、絞り状態となっている高段側膨脹弁13にて中間圧冷媒となるまで等エンタルピ的に減圧膨脹される(図8のb→c1点)。そして、高段側膨脹弁13にて減圧された中間圧冷媒は、気液分離器14にて気液分離される(図8のc→c2点、c→c3点)。
【0152】
気液分離器14にて分離された気相冷媒は、中間圧側開閉弁16aが開弁状態となっているので、中間圧冷媒通路15を介して、圧縮機11の中間圧ポート11bへ流入し(図8のc2→a2点)、低段側圧縮機構吐出冷媒(図8のa1点)と合流して、高段側圧縮機構へ吸入される。
【0153】
一方、気液分離器14にて分離された液相冷媒は、低段側減圧手段が絞り状態となっているので、低段側減圧手段にて低圧冷媒となるまで減圧されて流出し、室外熱交換器20へ流入する。つまり、低段側減圧手段では、低圧側開閉弁16bが閉弁状態となっているので、低段側固定絞り17へ流入して低圧冷媒となるまで等エンタルピ的に減圧膨脹される(図8のc3→c4点)。低段側固定絞り17から流出した冷媒は、室外熱交換器20へ流入して、送風ファン21から送風された外気と熱交換して吸熱する(図8のc4点→d点)。
【0154】
室外熱交換器20から流出した冷媒は、冷房用開閉弁16cが開弁状態となっているので、膨脹弁迂回用通路25を介して、アキュムレータ24へ流入して気液分離される。そして、分離された気相冷媒が圧縮機11の吸入ポート11a(図8のe点)から吸入されて再び圧縮される。一方、分離された液相冷媒はサイクルが要求されている冷凍能力を発揮するために必要としていない余剰冷媒としてアキュムレータ24内に蓄えられる。
【0155】
以上の如く、第1暖房モードでは、室内凝縮器12にて圧縮機11から吐出された冷媒の有する熱を車室内送風空気に放熱させて、加熱された室内送風空気を車室内へ吹き出すことができる。これにより、車室内の暖房を実現することができる。
【0156】
さらに、第1暖房モードでは、低段側固定絞り17にて減圧された低圧冷媒を圧縮機11の吸入ポート11aから吸入させ、高段側膨脹弁13にて減圧された中間圧冷媒を中間圧ポート11bへ流入させて昇圧過程の冷媒と合流させる、ガスインジェクションサイクル(エコノマイザ式冷凍サイクル)を構成することができる。
【0157】
従って、高段側圧縮機構に、温度の低い混合冷媒を吸入させることによって、高段側圧縮機構の圧縮効率を向上させることができるとともに、低段側圧縮機構および高段側圧縮機構の双方の吸入冷媒圧力と吐出冷媒圧力との圧力差を縮小させて、双方の圧縮機構の圧縮効率を向上させることができる。その結果、ヒートポンプサイクル10全体としてのCOPを向上させることができる。
【0158】
また、上記の説明から明らかなように、第1暖房モードでは、第1利用側熱交換器である室内凝縮器12から流出した冷媒を、絞り状態とした高段側膨脹弁13→気液分離器14→絞り状態とした低段側減圧手段→室外熱交換器20→アキュムレータ24の順に流すとともに、気液分離器14にて分離された気相冷媒を中間圧冷媒通路15→圧縮機11の中間圧ポート11bへ流入させている。
【0159】
(b)−2:第2暖房モード
次に、第2暖房モードについて説明する。第2暖房モード時が実行されると、空調制御装置40が、高段側膨脹弁13を減圧作用を発揮する絞り状態とし、冷房用膨脹弁22を全閉状態とし、冷房用開閉弁16cを開弁状態とする。
【0160】
さらに、低圧側開閉弁16bを開弁状態として低段側減圧手段を減圧作用を発揮しない全開状態とし、低圧側開閉弁16bの状態に連動して中間圧側開閉弁16aを閉弁状態とする。ヒートポンプサイクル10は、図3の実線矢印に示すように冷媒が流れる冷媒流路に切り替えられる。
【0161】
この冷媒流路構成(サイクル構成)で、空調制御装置40が、冷房運転モードと同様に、空調制御用のセンサ群41の検出信号および操作パネルの操作信号を読み込み、目標吹出温度TAOおよびセンサ群の検出信号に基づいて、空調制御装置40の出力側に接続された各種空調制御機器の作動状態を決定する。
【0162】
なお、第2暖房モード時では、高段側膨脹弁13へ出力される制御信号については、高段側膨脹弁13の絞り開度が予め定めた第2暖房モード時用の所定開度となるように決定される。また、エアミックスドア34のサーボモータへ出力される制御信号については、エアミックスドア34がバイパス通路35を閉塞し、室内蒸発器23通過後の送風空気の全流量が室内凝縮器12を通過するように決定される。
【0163】
従って、第2暖房モード時のヒートポンプサイクル10では、図9のモリエル線図に示すように、圧縮機11の吐出ポート11cから吐出された高圧冷媒(図9のa点)が室内凝縮器12へ流入し、第2暖房モード時と同様に、車室内送風空気と熱交換して放熱する(図9のa→b点)。これにより、車室内送風空気が加熱される。
【0164】
室内凝縮器12から流出した冷媒は、絞り状態となっている高段側膨脹弁13にて低圧冷媒となるまで等エンタルピ的に減圧膨脹されて(図9のb→c点)、気液分離器14へ流入する。この際、気液分離器14へ流入した冷媒は、中間圧側開閉弁16aが閉弁状態となっているので、気液分離されることなく、液相冷媒流出ポート14dから流出していく。
【0165】
一方、気液分離器14にて分離された液相冷媒は、低段側減圧手段が全開状態となっているので、低段側減圧手段にて殆ど減圧されることなく流出し、室外熱交換器20へ流入する。つまり、低段側減圧手段では、低圧側開閉弁16bが開弁状態となっているので、低段側固定絞り17側へ流入することなく固定絞り迂回用通路18を介して室外熱交換器20へ流入する。そして、室外熱交換器20へ流入した低圧冷媒は、送風ファン21から送風された外気と熱交換して吸熱する(図9のc点→d点)。以降の作動は第1暖房モードと同様である。
【0166】
以上の如く、第2暖房モードでは、室内凝縮器12にて圧縮機11から吐出された冷媒の有する熱を車室内送風空気に放熱させて、加熱された室内送風空気を車室内へ吹き出すことができる。これにより、車室内の暖房を実現することができる。
【0167】
ここで、第2暖房モード時を、第1暖房モードに対して、外気温が高い場合等のように暖房負荷が比較的低い場合に実行することの効果を説明する。第1暖房モードでは、上述の如く、ガスインジェクションサイクルを構成することができるので、ヒートポンプサイクル10全体としてのCOPを向上させることができる。
【0168】
つまり、理論的には、圧縮機11の回転数が同一であれば、第1暖房モードは、第2暖房モード時よりも高い暖房性能を発揮することができる。換言すると、同一の暖房性能を発揮させるために必要な圧縮機11の回転数(冷媒吐出能力)は、第1暖房モードよりも第2暖房モード時の方が低くなる。
【0169】
ところが、圧縮機構には、圧縮効率が最大(ピーク)となる最大効率回転数があり、最大効率回転数よりも回転数が低くなると、圧縮効率が大きく低下してしまうという特性がある。このため、暖房負荷が比較的低い場合に圧縮機11を最大効率回転数よりも低い回転数で作動させると、第1暖房モードでは、却ってCOPが低下してしまうことがある。
【0170】
そこで、本実施形態では、上述の最大効率回転数を基準回転数として、第1暖房モードの実行中に、圧縮機11の回転数が基準回転数以下となってしまう場合に第2暖房モードへ切り替え、第2暖房モードの実行中に基準回転数に対して予め定めた所定量を加えた回転数以上となった際に第1暖房モードへ切り替えるようにしている。
【0171】
これにより、第1暖房モードおよび第2暖房モードのうち高いCOPを発揮できる運転モードを選択している。従って、第1暖房モードの実行中に、圧縮機11の回転数が基準回転数以下となってしまう場合であっても、第2暖房モードへ切り替えることにより、ヒートポンプサイクル10全体としてのCOPを向上させることができる。
【0172】
(c)除湿暖房運転モード
次に、除湿暖房運転モードについて説明する。除湿暖房運転モードは、冷房運転モード時に車室内温度設定スイッチによって設定された設定温度が外気温よりも高い温度に設定された際に実行される。
【0173】
除湿暖房モードが実行されると、空調制御装置40が、高段側膨脹弁13を全開状態あるいは絞り状態とし、冷房用膨脹弁22を全開状態あるいは絞り状態とし、冷房用開閉弁16cを閉弁状態とする。
【0174】
さらに、低圧側開閉弁16bを開弁状態として低段側減圧手段を減圧作用を発揮しない全開状態とし、低圧側開閉弁16bの状態に連動して中間圧側開閉弁16aを閉弁状態とする。これにより、ヒートポンプサイクル10は、冷房運転モードと同様の図1の実線矢印に示すように冷媒が流れる冷媒流路に切り替えられる。
【0175】
従って、除湿暖房モードにおける冷媒流路は、冷房運転モードと同様に、特許請求の範囲に記載された第1運転モード時の冷媒流路に対応している。また、エアミックスドア34のサーボモータへ出力される制御信号については、エアミックスドア34がバイパス通路35を閉塞し、室内蒸発器23通過後の送風空気の全流量が室内凝縮器12を通過するように決定される。
【0176】
さらに、本実施形態の除湿暖房モードでは、設定温度と外気温との温度差に応じて、高段側膨脹弁13および冷房用膨脹弁22の絞り開度を変化させている。具体的には、前述した目標吹出温度TAOの上昇に伴って、高段側膨脹弁13の絞り開度を減少させると共に冷房用膨脹弁22の絞り開度を増加させることで、以下に示す第1除湿暖房モードから第4除湿暖房モードの4段階の除湿暖房モードを実行する。
【0177】
(c)−1:第1除湿暖房モード
第1除湿暖房モードでは、高段側膨脹弁13を全開状態とし、冷房用膨脹弁22を絞り状態とする。従って、サイクル構成(冷媒流路)については、冷房運転モードと全く同様となるものの、エアミックスドア34が室内凝縮器12の空気通路を全開しているので、サイクルを循環する冷媒の状態については図10のモリエル線図に示すように変化する。
【0178】
すなわち、図10に示すように、圧縮機11の吐出ポート11cから吐出された高圧冷媒(図10のa点)は、室内凝縮器12へ流入して、室内蒸発器23にて冷却されて除湿された車室内送風空気と熱交換して放熱する(図10のa点→b1点)。これにより、車室内送風空気が加熱される。
【0179】
室内凝縮器12から流出した冷媒は、冷房運転モードと同様に、高段側膨脹弁13→気液分離器14→低段側減圧手段の低圧側開閉弁16bの順に流れて室外熱交換器20へ流入する。そして、室外熱交換器20へ流入した低圧冷媒は、送風ファン21から送風された外気と熱交換して放熱する(図10のb1点→b2点)。以降の作動は冷房運転モードと同様である。
【0180】
以上の如く、第1除湿暖房モード時には、室内蒸発器23にて冷却され除湿された車室内送風空気を、室内凝縮器12にて加熱して車室内へ吹き出すことができる。これにより、車室内の除湿暖房を実現することができる。
【0181】
(c)−2:第2除湿暖房モード
次に、第1除湿暖房モードの実行中に、目標吹出温度TAOが予め定めた第1基準温度よりも高くなった際には、第2除湿暖房モードが実行される。第2除湿暖房モードでは、高段側膨脹弁13を絞り状態とし、冷房用膨脹弁22の絞り開度を第1除湿暖房モードよりも増加させた絞り状態とする。従って、第2除湿暖房モードでは、サイクルを循環する冷媒の状態については図11のモリエル線図に示すように変化する。
【0182】
すなわち、図11に示すように、圧縮機11の吐出ポート11cから吐出された高圧冷媒(図11のa10点)は、第1除湿暖房モードと同様に、室内凝縮器12へ流入して、室内蒸発器23にて冷却されて除湿された車室内送風空気と熱交換して放熱する(図11のa10点→b110点)。これにより、車室内送風空気が加熱される。
【0183】
室内凝縮器12から流出した冷媒は、絞り状態となっている高段側膨脹弁13によって中間圧冷媒となるまで等エンタルピ的に減圧される(図11のb110点→b210点)。高段側膨脹弁13にて減圧された中間圧冷媒は、気液分離器14→低段側減圧手段の低圧側開閉弁16bの順に流れて室外熱交換器20へ流入する。
【0184】
そして、室外熱交換器20へ流入した低圧冷媒は、送風ファン21から送風された外気と熱交換して放熱する(図11のb210点→b310点)。以降の作動は冷房運転モードと同様である。
【0185】
以上の如く、第2除湿暖房モードでは、第1除湿暖房モード時と同様に、室内蒸発器23にて冷却され除湿された車室内送風空気を、室内凝縮器12にて加熱して車室内へ吹き出すことができる。これにより、車室内の除湿暖房を実現することができる。
【0186】
この際、第2除湿暖房モードでは、高段側膨脹弁13を絞り状態としているので、第1除湿暖房モードに対して、室外熱交換器20へ流入する冷媒の温度を低下させることができる。従って、室外熱交換器20における冷媒の温度と外気温との温度差を縮小して、室外熱交換器20における冷媒の放熱量を低減できる。
【0187】
その結果、室内凝縮器12における冷媒の量を増加させることができるので、第1除湿暖房モードよりも室内凝縮器12から吹き出される温度を上昇させることができる。
【0188】
(c)−3:第3除湿暖房モード
次に、第2除湿暖房モードの実行中に、目標吹出温度TAOが予め定めた第2基準温度よりも高くなった際には、第3除湿暖房モードが実行される。第3除湿暖房モードでは、高段側膨脹弁13の絞り開度を第2除湿暖房モードよりも縮小させた絞り状態とし、冷房用膨脹弁22の絞り開度を第2除湿暖房モードよりも増加させる。従って、第3除湿暖房モードでは、サイクルを循環する冷媒の状態については図12のモリエル線図に示すように変化する。
【0189】
すなわち、図12に示すように、圧縮機11の吐出ポート11cから吐出された高圧冷媒(図12のa11点)は、第1、第2除湿暖房モードと同様に、室内凝縮器12へ流入して、室内蒸発器23にて冷却されて除湿された車室内送風空気と熱交換して放熱する(図12のa11点→b11点)。これにより、車室内送風空気が加熱される。
【0190】
室内凝縮器12から流出した冷媒は、絞り状態となっている高段側膨脹弁13によって外気温よりも温度の低い中間圧冷媒となるまで等エンタルピ的に減圧される(図12のb11点→c111点)。高段側膨脹弁13にて減圧された中間圧冷媒は、気液分離器14→低段側減圧手段の低圧側開閉弁16bの順に流れて室外熱交換器20へ流入する。
【0191】
そして、室外熱交換器20へ流入した低圧冷媒は、送風ファン21から送風された外気と熱交換して吸熱する(図12のc111点→c211点)。さらに、室外熱交換器20から流出した冷媒は、冷房用膨脹弁22にて等エンタルピ的に減圧されて(図12のc211点→c311点)、室内蒸発器23へ流入する。以降の作動は冷房運転モードと同様である。
【0192】
以上の如く、第3除湿暖房モードでは、第1、第2除湿暖房モード時と同様に、室内蒸発器23にて冷却され除湿された車室内送風空気を、室内凝縮器12にて加熱して車室内へ吹き出すことができる。これにより、車室内の除湿暖房を実現することができる。
【0193】
この際、第3除湿暖房モードでは、高段側膨脹弁13の絞り開度を縮小させることによって、室外熱交換器20を蒸発器として作用させているので、第2除湿暖房モードに対して、室内凝縮器12における冷媒の量を増加させることができる。その結果、第2除湿暖房モードよりも室内凝縮器12から吹き出される温度を上昇させることができる。
【0194】
(c)−4:第4除湿暖房モード
次に、第3除湿暖房モードの実行中に、目標吹出温度TAOが予め定めた第3基準温度よりも高くなった際には、第4除湿暖房モードが実行される。第4除湿暖房モードでは、高段側膨脹弁13の絞り開度を第3除湿暖房モードよりも縮小させた絞り状態とし、冷房用膨脹弁22を全開状態とする。従って、第4除湿暖房モードでは、サイクルを循環する冷媒の状態については図13のモリエル線図に示すように変化する。
【0195】
すなわち、図13に示すように、圧縮機11の吐出ポート11cから吐出された高圧冷媒(図13のa12点)は、第1、第2除湿暖房モードと同様に、室内凝縮器12へ流入して、室内蒸発器23にて冷却されて除湿された車室内送風空気と熱交換して放熱する(図13のa12点→b12点)。これにより、車室内送風空気が加熱される。
【0196】
室内凝縮器12から流出した冷媒は、絞り状態となっている高段側膨脹弁13によって外気温よりも温度の低い低圧冷媒となるまで等エンタルピ的に減圧される(図13のb12点→c112点)。高段側膨脹弁13にて減圧された中間圧冷媒は、気液分離器14→低段側減圧手段の低圧側開閉弁16bの順に流れて室外熱交換器20へ流入する。
【0197】
そして、室外熱交換器20へ流入した低圧冷媒は、送風ファン21から送風された外気と熱交換して吸熱する(図13のc112点→c212点)。さらに、室外熱交換器20から流出した冷媒は、冷房用膨脹弁22が全開状態となっているので、減圧されることなく室内蒸発器23へ流入する。以降の作動は冷房運転モードと同様である。
【0198】
以上の如く、第4除湿暖房モードでは、第1〜第3除湿暖房モード時と同様に、室内蒸発器23にて冷却され除湿された車室内送風空気を、室内凝縮器12にて加熱して車室内へ吹き出すことができる。これにより、車室内の除湿暖房を実現することができる。
【0199】
この際、第4除湿暖房モードでは、第3除湿暖房モードと同様に、室外熱交換器20を蒸発器として作用させるとともに、第3除湿暖房モードよりも高段側膨脹弁13の絞り開度を縮小させているので、室外熱交換器20における冷媒蒸発温度を低下させることができる。従って、第3除湿暖房モードよりも室外熱交換器20における冷媒の温度と外気温との温度差を拡大させて、室内凝縮器12における冷媒の量を増加させることができる。
【0200】
その結果、第3除湿暖房モードよりも室内凝縮器12から吹き出される温度を上昇させることができる。
【0201】
ここで、除湿暖房運転モードにおいて、中間圧側開閉弁16aを閉弁状態とする理由を説明する。除湿暖房運転モードにおいて、ガスインジェクションサイクルを実現する場合、気液分離器14における冷媒圧力と、圧縮機11の中間圧ポート11bにおける冷媒圧力との差圧により、中間圧冷媒通路15に流れる冷媒の流量が変化してしまう。この中間圧冷媒通路15を流れる冷媒の流量が変化によって、室内凝縮器12における冷媒の放熱量が変化してしまい、送風空気の温度調整が難しくなり、送風空気の適切な温度調整を図るために、サイクル構成や各種制御が複雑となってしまうからである。
【0202】
特に、本実施形態の除湿暖房運転モードのように目標吹出温度TAOに応じて高段側膨脹弁13および冷房用膨脹弁22の絞り開度を変化させる場合、中間圧側開閉弁16aを開弁状態としてガスインジェクションサイクルを実現すると、目標吹出温度TAOと中間圧冷媒通路15を流れる冷媒の流量とが相反した関係となり、送風空気の温度調整が難しくなる。
【0203】
例えば、第1〜第4除湿暖房運転モードのうち、最も目標吹出温度TAOが低い際に実行する第1除湿暖房運転モードでは、高段側膨脹弁13が全開状態となり、気液分離器14における冷媒圧力と圧縮機11の中間圧ポート11bにおける冷媒圧力との差圧が最大となる。この結果、中間圧冷媒通路15を流れる冷媒の流量が増加して、室内凝縮器12における放熱量が増加し、吹出空気の温度を低下させることが難しくなってしまう。
【0204】
また、第1〜第4除湿暖房運転モードのうち、最も目標吹出温度TAOが高い際に実行する第4除湿暖房運転モードでは、高段側膨脹弁13が絞り状態となり、気液分離器14における冷媒圧力と圧縮機11の中間圧ポート11bにおける冷媒圧力との差圧が最小となる。この結果、中間圧冷媒通路15を流れる冷媒の流量が減少して、室内凝縮器12における放熱量が減少し、吹出空気の温度を上昇させることが難しくなる。
【0205】
このように、本実施形態では、送風空気の温度を調整する際のサイクル構成や制御が複雑化することを抑制するために、除湿暖房運転モードに中間圧側開閉弁16aを閉弁状態としている。
【0206】
また、除湿暖房運転モードにおいて、低段側減圧手段を減圧作用を発揮しない全開状態とする理由は、低段側減圧手段を絞り状態とする場合、室外熱交換器20における吸熱量および放熱量の調整範囲が制限されてしまい、送風空気の極め細やかな温度調整が難しくなるからである。
【0207】
このように、本実施形態の除湿暖房運転モードでは、中間圧側開閉弁16aを閉弁状態とし、さらに、低段側減圧手段を減圧作用を発揮しない全開状態とすることで、送風空気の温度を調整する際のサイクル構成や制御が複雑化することを抑制すると共に、送風空気の極め細やかな温度調整を実現している。
【0208】
以上説明した本実施形態の車両用空調装置1では、第1減圧手段を構成する高段側膨脹弁13、および第2減圧手段を構成する低段側減圧手段の双方を減圧作用を発揮しない全開状態に設定可能としている。このため、圧縮機11から室外熱交換器20に至る冷媒流路を、車両用空調装置1の各運転モードに応じて別個に設けることなく、高段側膨脹弁13および低段側減圧手段の状態(絞り状態、全開状態)を変更することで、各運転モードに応じて室外熱交換器20における冷媒と外気との熱交換量(吸熱量および放熱量)を調整することができる。
【0209】
従って、ガスインジェクションサイクルを構成するヒートポンプサイクルにおいて、冷房、暖房、および除湿暖房を簡素化なサイクル構成で実現することができる。
【0210】
また、本実施形態では、中間圧冷媒通路15を開閉する中間圧側開閉弁16aを設けているので、中間圧側開閉弁16aにて中間圧冷媒通路15を開閉することで、ヒートポンプサイクルをガスインジェクションサイクルと、通常サイクル(一段圧縮サイクル)とに切り替えることができる。
【0211】
さらに、本実施形態では、冷房運転モードおよび除湿暖房運転モードには、中間圧側開閉弁16aにて中間圧冷媒通路15を閉鎖して、ヒートポンプサイクル10を通常サイクルに切り替える構成としている。
【0212】
このように冷房運転モード時において、中間圧冷媒通路15を閉鎖して、ヒートポンプサイクルを通常サイクルに切り替える構成とすれば、圧縮機11の無駄なエネルギ消費を低減することができる。
【0213】
また、除湿暖房運転モード時において、中間圧冷媒通路15を閉鎖して、ヒートポンプサイクルを通常サイクルに切り替える構成とすれば、室内凝縮器12における冷媒の法熱量の調整が容易となり、簡易な構成で送風空気の適切な温度調整を実現することができる。
【0214】
特に、本実施形態では、除湿暖房運転モードにおいて、目標吹出温度TAOに応じて高段側膨脹弁13および冷房用膨脹弁22の絞り開度を変化させる構成としているので、室内凝縮器12における冷媒の放熱量および室内蒸発器23における冷媒の吸熱量を適切に調整することができ、簡易な構成で送風空気の極め細やかな温度調整を実現することができる。
【0215】
また、暖房運転モード時には、中間圧側開閉弁16aにて中間圧冷媒通路15を開放して、ヒートポンプサイクルをガスインジェクションサイクルに切り替えるので、サイクルの成績係数(COP)の向上を図ることができる。
【0216】
さらに、本実施形態のように電気自動車に適用される車両用空調装置1では、内燃機関(エンジン)を搭載する車両のようにエンジンの廃熱を車室内の暖房のために利用できない。従って、本実施形態のヒートポンプサイクル10のように、暖房運転モード時に暖房負荷によらず高いCOPを発揮できることは、極めて有効である。
【0217】
また、本実施形態のヒートポンプサイクル10では、気液分離手段として遠心分離方式の気液分離器14を採用し、気液分離器14の内容積を余剰冷媒体積よりも小さくしているので、気液分離手段の体格を小型化させて、ヒートポンプサイクル10全体としての車両への搭載性を向上させることができる。さらに、サイクルに負荷変動が生じたとしても、アキュムレータ24にて余剰となる冷媒を蓄えることができるので、サイクルを安定して作動させることができる。
【0218】
また、本実施形態のヒートポンプサイクル10では、低段側減圧手段(第2減圧手段)の低段側固定絞り17として、図6Aに示す流量特性の固定絞りを採用しているので、暖房運転モードにおいて、室外熱交換器20へ乾き度Xが0.1以下の冷媒を流入させて確実に吸熱作用を発揮させることができる。
【0219】
なお、本実施形態のヒートポンプサイクル10に採用されている遠心分離方式の気液分離器14は、冷媒の流速が速くなるに伴って気液分離性能が高くなるので、比較的高負荷で運転される頻度の高いヒートポンプサイクル10に適用して有効である。
【0220】
(第2実施形態)
本実施形態では、第1実施形態に対して、気液分離手段を変更した例を説明する。具体的には、本実施形態では、気液分離手段として液相冷媒の表面張力を利用して冷媒の気液を分離する表面張力式の気液分離器54を採用している。この表面張力式の気液分離器54の詳細構成については、図14を用いて説明する。なお、図14(a)は、気液分離器54の軸方向断面であり、図14(b)は、(a)のA−A断面図である。
【0221】
本実施形態の気液分離器54は、第1実施形態の気液分離器14と同様に、上下方向に延びる略中空有底円筒状(断面円形状)の本体部54a、冷媒流入口54eが形成された冷媒流入ポート54b、気相冷媒流出口54fが形成された気相冷媒流出ポート54c、液相冷媒流出口54gが形成された液相冷媒流出ポート54d等を有して構成されている。
【0222】
本体部54aは、上下方向の2つに分割可能な構成になっており、その内部に、冷媒流入ポート54bから流入した冷媒を衝突させる衝突板54h、液相冷媒の表面張力を利用して液相冷媒を付着させる付着板54iが収容されている。この衝突板54hは、その外径が本体部54aの内径よりも小さく形成され、その中央部が上方側に向かって尖った尖頭形状(傘状)に形成されている。
【0223】
付着板54iは、図14(b)に示すように、軸方向から見たときに、波状に折り曲げられた板を、さらに円筒状に折り曲げて形成したものである。さらに、衝突板54hは、本体部54aと同軸上に配置されて、衝突板54hの外周側端部から衝突板54hの下方側へ向かって延びている。
【0224】
本実施形態では、このように波状に折り曲げられた板を円筒状に形成することによって、付着板54iの表面積を増大させて、気液分離性能を向上させている。さらに、付着板54iの表面積を増大させるために、付着板54iに貫通孔を形成する孔あけ加工、あるいは、付着板54iの表面に凸凹部を設けるエンボス加工等の処理を施してもよい。
【0225】
冷媒流入ポート54bは、本体部54aの軸方向上側端面(上面)に接続されており、本体部54aから上方側へ向かって、本体部54aと同軸上に延びる冷媒配管によって構成されている。さらに、冷媒流入口54eは、冷媒流入ポート54bの上方側端部に形成されている。
【0226】
気相冷媒流出ポート54cは、本体部54aの軸方向下側端面(底面)に接続されており、本体部54aの内外に亘って本体部54aと同軸上に延びる冷媒配管によって構成されている。さらに、気相冷媒流出口54fは、気相冷媒流出ポート54cの下方側端部に形成され、一方、上方側端部は、付着板54iの上方側端部よりも上方側であって、衝突板54hの直下に位置付けられている。
【0227】
液相冷媒流出ポート54dは、本体部54aの円筒状側面に接続されており、液相冷媒流出口54gは、液相冷媒流出ポート54dのうち本体部54aの反対側端部に形成されている。
【0228】
従って、冷媒流入ポート54bから流入した冷媒は、衝突板54hに衝突して流速を低下させて衝突板54hの外周側の付着板54i側へ流れる。さらに、付着板54i側へ流れた冷媒は、付着板54iに沿って下方側へ移動する。この際に、液相冷媒の表面張力によって、液相冷媒が付着板54iに付着して、冷媒の気液が分離される。
【0229】
さらに、分離された液相冷媒が、重力の作用によって本体部54aの下方側に落下する。そして、分離されて下方側に落下した液相冷媒は液相冷媒流出ポート54dの液相冷媒流出口54gから流出し、分離された気相冷媒は気相冷媒流出ポート54cの気相冷媒流出口54fから流出する。
【0230】
また、気液分離器54の他の概略的な体格は、第1実施形態の気液分離器14と同等であり、その内容積についても、余剰冷媒体積よりも小さく設定されている。これにより、気液分離器54全体としての小型化を図っている。その他のヒートポンプサイクル10の構成は、第1実施形態と同様である。
【0231】
従って、本実施形態の車両用空調装置1においても、高段側膨脹弁13および低段側減圧手段の状態の切り替え、およびヒートポンプサイクル10の冷媒流路の切り替え等によって、種々のサイクル構成を実現して、車室内の適切な冷房、暖房および除湿暖房を実現できる等の第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0232】
さらに、実施形態のヒートポンプサイクル10では、気液分離手段として表面張力式の気液分離器54を採用し、その内容積を余剰冷媒体積よりも小さくしているので、気液分離手段の体格を小型化させて、ヒートポンプサイクル10全体としての車両への搭載性を向上させることができる。
【0233】
なお、本実施形態のヒートポンプサイクル10に採用されている表面張力式の気液分離器54は、冷媒の流速が遅くなるに伴って気液分離性能が高くなるので、比較的低負荷で運転される頻度の高いヒートポンプサイクル10に適用して有効である。
【0234】
(第3実施形態)
本実施形態では、第1実施形態に対して、気液分離手段の構成を変更した例を説明する。具体的には、本実施形態では、気液分離手段として遠心分離方式のものであって、かつ、分離した液相冷媒を内部に滞留させることなく流出させる気液分離器55を採用している。
【0235】
本実施形態の気液分離器55の具体的構成については、図15を用いて説明する。なお、図15は、気液分離器55の軸方向断面図である。この気液分離器55は、複数の円管状の冷媒配管を加工して形成されたもので、極めて簡素な構成で液相冷媒を内部に滞留させることなく流出させるように構成されている。
【0236】
具体的には、気液分離器55は、中間圧冷媒を流入させる冷媒流入口55eが形成された冷媒流入配管55a、分離された気相冷媒を流出させる気相冷媒流出口55fが形成された気相冷媒流出配管55b、分離された液相冷媒を流出させる液相冷媒流出口55gが形成された液相冷媒流出配管55c、および、冷媒流入配管55aと気相冷媒流出配管55bとを接続する接続配管55d等を有して構成されている。
【0237】
冷媒流入配管55aは、水平方向に延びる形状に形成され、その一端側に中間圧冷媒を流入させる冷媒流入口55eが設けられている。さらに、その内部には、冷媒流入配管55aの長手方向に延びる板状部材を螺旋状に捻ることによって形成された旋回流発生部材55hが配置されている。
【0238】
気相冷媒流出配管55bは、冷媒流入配管55aと同軸上に延びて、その一端側が縮径加工されて冷媒流入配管55aの他端側の内部に挿入されている。さらに、気相冷媒流出配管55bの他端側には、分離された気相冷媒を流出させる気相冷媒流出口55fが形成されている。液相冷媒流出配管55cは、鉛直方向に延びて、その下端側に液相冷媒流出口55gが形成されている。
【0239】
接続配管55dは、両端部が縮径加工されて、両端部の内周面が冷媒流入配管55aの外周面および気相冷媒流出配管55bの外周面にろう付け接合等の接合手段によって接合されている。さらに、その円筒状の外周面には、分離された直後の液相冷媒を流出させる液相冷媒流出配管55cが径方向に延びるように接続されている。
【0240】
従って、冷媒流入配管55aの一端側に形成された冷媒流入口55eから流入した冷媒は、旋回流発生部材55hに沿って旋回しながら流れ、この旋回流の作用によって生じる遠心力の作用によって冷媒の気液が分離される。気液分離された液相冷媒は、冷媒流入配管55aの他端側の内周面と気相冷媒流出配管55bの縮径加工された一端側の外周面との隙間を介して、接続配管55dの内周側へ流入する。
【0241】
接続配管55dの内周側へ流入した液相冷媒は、流出配管55cの液相冷媒流出口55gから流出していく。一方、分離された液相冷媒は、気相冷媒流出配管55bの気相冷媒流出口55fから流出する。
【0242】
つまり、気液分離器55では、分離した液相冷媒が、内部に滞留されることなく、液相冷媒流出配管55cから流出していく。換言すると、この気液分離器55では、分離した直後の液相冷媒が液相冷媒流出口55gから流出する。ここで、「分離した直後の液相冷媒」とは、気液分離器55から流出する方向へ向かう速度成分を有している液相冷媒、あるいは、気液分離のために作用する遠心力が重力よりも大きくなっている液相冷媒等が含まれる。
【0243】
さらに、気液分離器55は分離された液相冷媒を内部に蓄える機能を有していないので、気液分離器55の内容積は、第1、第2実施形態の気液分離器14、54と比較して、余剰冷媒体積よりも大幅に小さく設定されている。
【0244】
その他のヒートポンプサイクル10の構成は、第1実施形態と同様である。従って、本実施形態の車両用空調装置1においても、高段側膨脹弁13および低段側減圧手段の状態の切り替え、およびヒートポンプサイクル10の冷媒流路の切り替え等によって、種々のサイクル構成を実現して、車室内の適切な冷房、暖房および除湿暖房を実現できる等の第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0245】
さらに、実施形態のヒートポンプサイクル10では、気液分離手段として遠心分離方式のものであって、かつ、分離した液相冷媒を内部に滞留させることなく流出させる気液分離器55を採用しているので、気液分離手段の体格を小型化させて、ヒートポンプサイクル10全体としての車両への搭載性を向上させることができる。
【0246】
なお、本実施形態では、図15に示すように、気液分離器55の冷媒流入配管55aおよび液相冷媒流出配管55cを水平方向に延びるように配置し、液相冷媒流出配管55cを鉛直方向に延びるように配置することで、液相冷媒流出口55gを気液分離器55の最下方部に位置付けた例を説明したが、本実施形態の気液分離器55の配置はこれに限定されない。
【0247】
つまり、本実施形態の気液分離器55では、分離した直後の冷媒を液相冷媒流出口55gから流出させるので、配置方向によらず、冷媒の気液を分離するとともに、液相冷媒を内部に滞留させることなく流出させることができる。
【0248】
また、本実施形態では、冷媒流入配管55a内に流入した中間圧冷媒の流れを旋回させるために、冷媒流入配管55aの内部に旋回流発生部材55hを配置した例を説明したが、他の手段を用いて、冷媒流入配管55aに流入した中間圧冷媒の流れを旋回させてもよい。例えば、図16に示すように、冷媒流入配管55aに螺旋溝55iを設けてもよい。
【0249】
より具体的には、この螺旋溝55iは、冷媒流入配管55aの外周側から内周側へ突出するように形成されているとともに、冷媒流入配管55aの一端側から他端側へ向かって螺旋状に繋がるように形成されている。なお、図16は、本実施形態の気液分離器55の変形例を示す図面であって、図15に対応する図面である。また、図16では、図15と同一もしくは均等部分には同一の符号を付している。
【0250】
(第4実施形態)
本実施形態では、第1実施形態の気液分離器14に対して、図17に示すように、気液分離器14内の液相冷媒の液面の高さに応じて変位するフロート弁14hを追加するとともに、その内容積をより一層小さくしている。なお、図17は、本実施形態の気液分離器14の軸方向断面図であり、図4と同一もしくは均等部分には同一の符号を付している。
【0251】
具体的には、本実施形態の気液分離器14におけるフロート弁14hは、液相冷媒よりも比重の小さい樹脂からなり、気液分離器14内に液相冷媒が僅かでも溜まると浮力によって浮き上がることで、液相冷媒流出口14g(具体的には、液相冷媒流出ポート14dの上端部)を開く。
【0252】
さらに、本実施形態の気液分離器14では、液相冷媒流出口14gが気液分離器14の最下方部に位置付けられているだけでなく、第1実施形態に対して、その内容積を小さくしているので、フロート弁14hが液相冷媒流出口14gを開くと、液相冷媒流出口14gから気相冷媒の一部が液相冷媒とともに流出する。
【0253】
従って、本実施形態の気液分離器14では、フロート弁14hが液相冷媒流出口14gを開くと、重力の作用および気相冷媒の背圧を利用して、液相冷媒を液相冷媒流出口14gから効率的に流出させることができる。
【0254】
つまり、本実施形態の気液分離器14では、内部に液相冷媒が溜まり始めると同時にフロート弁14hが液相冷媒流出口56gを開くことによって、実質的に、分離した液相冷媒を内部に滞留させることなく液相冷媒流出口14gから流出させるように構成されている。
【0255】
なお、本実施形態の気液分離器14のように、液相冷媒流出口14gから気相冷媒の一部が液相冷媒とともに流出したとしても、前述の図6Aにて説明したように、低段側固定絞り17の流量特性が設定されていることにより、サイクル全体のCOPが低下してしまうことはない。
【0256】
その他のヒートポンプサイクル10の構成は、第1実施形態と同様である。従って、本実施形態の車両用空調装置1においても、高段側膨脹弁13および低段側減圧手段の状態の切り替え、およびヒートポンプサイクル10の冷媒流路の切り替え等によって、種々のサイクル構成を実現して、車室内の適切な冷房、暖房および除湿暖房を実現できる等の第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0257】
さらに、実施形態のヒートポンプサイクル10では、気液分離手段としてフロート弁を採用するとともに、その内容積を縮小させた遠心分離方式の気液分離器14を採用しているので、気液分離手段の体格をより一層小型化させて、ヒートポンプサイクル10全体としての車両への搭載性をより一層向上させることができる。
【0258】
なお、本実施形態では、遠心分離方式の気液分離手段に対して、フロート弁を追加した例を説明したが、もちろん第2実施形態で説明した表面張力式の気液分離器54あるいはその他の形式の気液分離器(例えば、衝突方式の気液分離器等)にフロート弁を追加してものを採用してもよい。
【0259】
また、第2、第3実施形態で説明した気液分離器54、55において、気液分離器54、55内から液相冷媒を効率的に流出させるために、液相冷媒流出口54g、55gから気相冷媒の一部を液相冷媒とともに流出させるようにしてもよい。
【0260】
(第5実施形態)
本実施形態では、第1実施形態に対してヒートポンプサイクル10のサイクル構成を変更した例について説明する。本実施形態のヒートポンプサイクル10は、圧縮機11の吐出ポート11cから吐出された高圧冷媒の熱を直接的に送風空気に放熱するのではなく、不凍液等からなる熱媒体を介して送風空気に放熱する構成としている。
【0261】
具体的には、図18の全体構成図に示すように、ヒートポンプサイクル10に圧縮機11の吐出ポート11cから吐出された高圧冷媒の熱を、送風空気を加熱すための熱媒体に放熱する冷媒放熱器52を設ける構成としている。
【0262】
また、室内空調ユニット30には、冷媒放熱器52にて加熱された熱媒体の熱を送風空気に放熱して、送風空気を加熱する加熱用熱交換器12を配置するようにしている。この加熱用熱交換器12は、熱媒体循環回路50を介して冷媒放熱器52に接続されており、熱媒体循環回路50に設けられた圧送ポンプ51により熱媒体が圧送される。
【0263】
このように構成されるヒートポンプサイクル10では、室内空調ユニット30の外部に冷媒放熱器52を配置する構成となるので、現状の室内空調ユニット30の内部構成を変更することなく、本発明のヒートポンプサイクル10を適用することが可能となる。このことは、空調装置のシステム構築のコストを抑えることができる点で有効である。
【0264】
(第6実施形態)
本実施形態では、第1実施形態に対して中間圧側開閉弁16aの構成を変更した例について説明する。本実施形態では、中間圧側開閉弁16aを、低段側減圧手段の低段側固定絞り17の前後差圧に応じて中間圧冷媒通路15を開閉する差圧開閉弁で構成している。
【0265】
本実施形態の中間圧側開閉弁16aは、低段側固定絞り17の前後の差圧が、所定の設定圧力α以上となった際に、中間圧冷媒通路15を閉鎖する差圧開閉弁で構成されている。
【0266】
具体的には、中間圧側開閉弁16aは、図19(a)に示すように、低段側減圧手段の低圧側開閉弁16bが閉じて、低段側固定絞り17の前後差圧が増大して設定圧力α以上となった際に、中間圧冷媒通路15を開放するように構成されている。
【0267】
また、中間圧側開閉弁16aは、図19(b)に示すように、低段側減圧手段の低圧側開閉弁16bが開いて、低段側固定絞り17の前後差圧が減少して設定圧力α未満となった際に、中間圧冷媒通路15を閉鎖するように構成されている。なお、図19(a)が、中間圧側開閉弁16aが開弁する際の作動を示し、図19(b)が、中間圧側開閉弁16aが閉弁する際の作動を示している。
【0268】
このように構成される本実施形態のヒートポンプサイクル10では、低圧側開閉弁16bを開弁状態として低段側減圧手段を減圧作用を発揮しない全開状態とする冷房運転モードおよび除湿暖房運転モードにおいて、低段側固定絞り17の前後差圧が設定圧力α未満となり、中間圧側開閉弁16aが閉弁する。これにより、ヒートポンプサイクル10は、図20の全体構成図(実線矢印)に示すように、中間圧冷媒通路15に冷媒が流れない通常サイクルの冷媒流路に切り替えられる。
【0269】
また、本実施形態のヒートポンプサイクル10では、低圧側開閉弁16bを閉弁状態として低段側減圧手段を減圧作用を発揮させる絞り状態とする暖房運転モードにおいて、低段側固定絞り17の前後差圧が設定圧力α以上となり、中間圧側開閉弁16aが開弁する。これにより、ヒートポンプサイクル10は、図21の全体構成図(実線矢印)に示すように、中間圧冷媒通路15に冷媒が流れるガスインジェクションサイクルの冷媒流路に切り替えられる。
【0270】
本実施形態のように、中間圧側開閉弁16aを差圧開閉弁で構成すれば、ガスインジェクションサイクルと、通常サイクルとの切り替えを簡易な構成および制御手法で実現することができる。
【0271】
(他の実施形態)
本発明は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、以下のように種々変形可能である。
【0272】
(1)上述の実施形態では、本発明のヒートポンプサイクル10を車両用空調装置1に適用した例を説明したが、本発明の適用はこれに限定されない。例えば、据置型空調装置、冷温保存庫等に適用してもよい。
【0273】
(2)上述の実施形態では、高段側膨脹弁13および低段側減圧手段の状態の切り替え、およびヒートポンプサイクル10の冷媒流路の切り替え等によって、種々の運転モードを実現可能なヒートポンプサイクル10について説明したが、これに限定されず、少なくとも暖房運転モード、冷房運転モード、除湿暖房運転モードの3つの運転モードが実現可能な構成であればよい。勿論、各運転モードにおいて、種々の運転モードを設ける方が、送風空気の温度を適切に温度調整できる点で有効である。
【0274】
(3)上述の実施形態では、暖房運転モード時に圧縮機11の回転数に応じて、第1暖房モードと第2暖房モードとを切り替える例を説明したが、第1暖房モードと第2暖房モードとの切り替えはこれに限定されない。つまり、第1暖房モードと第2暖房モードとの切り替えは、第1、第2暖房モードのうち高いCOPを発揮できる暖房モードに切り替えればよい。
【0275】
例えば、外気センサの検出値に基づいて、検出値が予め定めた基準外気温(例えば、0℃)以下である場合には、第1暖房モードを実行し、検出値が基準外気温よりも高い場合には、第2暖房運転モードを実行するようにしてもよい。
【0276】
(4)上述の実施形態では、冷房運転モード、暖房運転モードおよび除湿暖房運転モードの各運転モード時に、空調制御装置40が、室内凝縮器12の空気通路あるいはバイパス通路35のいずれか一方を閉塞するようにエアミックスドア34を作動させる例を説明したが、エアミックスドア34の作動はこれに限定されない。
【0277】
つまり、エアミックスドア34が室内凝縮器12の空気通路およびバイパス通路35の双方を開くようにしてもよい。そして、室内凝縮器12を通過させる風量とバイパス通路を通過させる風量との風量割合を調整することによって、合流空間36から車室内へ吹き出される送風空気の温度を調整してもよい。このような温度調整は、車室内送風空気の温度を微調整しやすい点で有効である。
【0278】
(5)上述の各実施形態で説明したように、高段側減圧手段(第1減圧手段)を可変絞り機構からなる高段側膨脹弁13で構成し、低段側減圧手段(第2減圧手段)を低段側固定絞り17を含む構成とする例を説明したが、高段側減圧手段(第1減圧手段)および低段側減圧手段(第2減圧手段)は、少なくとも減圧作用を発揮する絞り状態と、減圧作用を発揮しない全開状態とに設定可能なものであれば種々適用可能である。
【0279】
例えば、高段側減圧手段(第1減圧手段)および低段側減圧手段(第2減圧手段)の双方を高段側膨脹弁13と同様の構成(全開機能付きの可変絞り機構)で構成してもよい。
【0280】
また、高段側減圧手段(第1減圧手段)および低段側減圧手段(第2減圧手段)の双方を固定絞り、当該固定絞りを迂回する迂回通路、当該迂回通路を開閉する通路開閉弁を有する構成としてもよい。
【0281】
さらに、高段側減圧手段(第1減圧手段)を固定絞り、当該固定絞りを迂回する迂回通路、当該迂回通路を開閉する通路開閉弁を有する構成とし、低段側減圧手段(第2減圧手段)を可変絞り機構で構成してもよい。
【0282】
なお、高段側減圧手段を可変絞り機構とする場合、ヒートポンプサイクル10にてガスインジェクションを実現する際に、気液分離器14、54、55に流入する冷媒を所望の中間圧まで減圧させることができる点で有効である。
【0283】
また、低段側減圧手段を可変絞り機構で構成する場合、暖房運転モード時において、室外熱交換器20へ流入する冷媒の乾き度Xが0.1以下となるように、流量特性を設定することが望ましい。この場合、空調制御装置40が、室外熱交換器20へ流入する冷媒の温度および圧力等に基づいて、室外熱交換器20へ流入する冷媒の乾き度Xを検出し、この検出値が0.1以下となるように、低段側減圧手段を構成する可変絞り機構の開度を制御すればよい。
【0284】
(6)上述の実施形態では、除湿暖房運転モード時に目標吹出温度TAOの上昇に伴って、第1除湿暖房モードから第4除湿暖房モードへ段階的に切り替える例を説明したが、第1除湿暖房モードから第4除湿暖房モードへの切り替えはこれに限定されない。例えば、目標吹出温度TAOに増加に伴って、第1除湿暖房モードから第4除湿暖房モードへ連続的に切り替えるようにしてもよい。
【0285】
すなわち、目標吹出温度TAOの上昇に伴って、高段側膨脹弁13を絞り開度を徐々に縮小させ、さらに、冷房用膨脹弁22の絞り開度を徐々に拡大させればよい。このように高段側膨脹弁13および冷房用膨脹弁22の絞り開度を変化させることによって、室外熱交換器20における冷媒の圧力(温度)が調整されるので、室外熱交換器20を自動的に、放熱器として作用させる状態から蒸発器として作用させる状態へ切り替えることができる。
【0286】
(7)上述の各実施形態で説明したように、空調装置1の各運転モードにおける送風空気の極め細かな温度調整を実現するためには、中間圧冷媒通路15に中間圧側開閉弁16aを設けることが望ましいが、これに限定されず、中間圧側開閉弁16aを設けることなく、簡素な構成で各運転モードを実現するようにしてもよい。
【0287】
(8)上述の各実施形態で説明した各気液分離器14、54、55をヒートポンプサイクル10に適用することが望ましいが、これに限定されず、余剰となる冷媒を蓄え可能な気液分離器を適用してもよい。
【0288】
(9)上述の各実施形態では、冷房運転モード時に、圧縮機11から吐出された冷媒を室内凝縮器12や冷媒放熱器52を通過させる冷媒流路としているが、冷房運転モード時には、室外熱交換器20にて冷媒の熱を外気に放熱可能であり、室内凝縮器12や冷媒放熱器52に冷媒を通過させない冷媒流路としてもよい。
【0289】
(10)上述の各実施形態では、ヒートポンプサイクル10における室内蒸発器23の出口側にアキュムレータ24を配置する構成としているが、これに限定されない。例えば、ヒートポンプサイクル10が余剰となる冷媒を蓄えることが可能な気液分離器を備える場合、アキュムレータ24を廃してもよい。これにより、サイクル構成の簡素化を図ることが可能となる。
【符号の説明】
【0290】
11 圧縮機
11a 吸入ポート
11b 中間圧ポート
11c 吐出ポート
12 室内凝縮器(第1利用側熱交換器)
13 高段側膨脹弁(第1減圧手段)
14、54、55 気液分離器(気液分離手段)
14g、54g、55g 液相冷媒流出口
14h フロート弁
15 中間圧冷媒通路
16a 中間圧側開閉弁
16b 低圧側開閉弁(第2減圧手段)
16c 冷房用開閉弁
17 低段側固定絞り(第2減圧手段)
20 室外熱交換器
22 冷房用膨脹弁(第3減圧手段)
23 室内蒸発器(第2利用側熱交換器)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転モードを冷房運転モード、暖房運転モード、および除湿暖房運転モードに切り替え可能な空調装置(1)に適用されるヒートポンプサイクルであって、
冷媒を吸入し、圧縮して吐出する圧縮機(11)と、
前記圧縮機(11)の吐出ポート(11c)から吐出された高圧冷媒を空調対象空間へ送風される送風空気、または前記送風空気を加熱するための熱媒体と熱交換させる第1利用側熱交換器(12、52)と、
前記第1利用側熱交換器(12、52)から流出した冷媒を減圧可能に構成された第1減圧手段(13)と、
前記第1減圧手段(13)を通過した冷媒の気液を分離する気液分離手段(14、54、55)と、
前記気液分離手段(14、54、55)にて分離された液相冷媒を減圧可能に構成された第2減圧手段(16b、17、18)と、
前記第2減圧手段(16b、17、18)を通過した冷媒と外気とを熱交換させる室外熱交換器(20)と、
冷媒を前記送風空気と熱交換させて、前記圧縮機(11)の吸入ポート(11a)側へ流出させる第2利用側熱交換器(23)と、
前記第2利用側熱交換器(23)へ流入する冷媒を減圧させる第3減圧手段(22)と、
前記気液分離手段(14、54、55)にて分離された気相冷媒を、前記圧縮機(11)に設けられた中間圧ポート(11b)へ導いて、圧縮過程の冷媒に合流させる中間圧冷媒通路(15)と、
サイクルを循環する冷媒の冷媒流路を切り替える冷媒流路切替手段(16a、16c)と、を備え、
前記第1減圧手段(13)および前記第2減圧手段(16b、17、18)それぞれは、減圧作用を発揮する絞り状態に加えて、減圧作用を発揮しない全開状態に設定可能に構成されていることを特徴とするヒートポンプサイクル。
【請求項2】
前記暖房運転モード時には、前記第1減圧手段(13)および前記第2減圧手段(16b、17、18)の双方が前記絞り状態に設定され、
前記冷房運転モード時には、前記第1減圧手段(13)および前記第2減圧手段(16b、17、18)の双方が前記全開状態に設定され、
前記除湿暖房運転モード時には、前記第1減圧手段(13)および前記第2減圧手段(16b、17、18)の少なくとも一方が前記全開状態に設定されることを特徴とする請求項1に記載のヒートポンプサイクル。
【請求項3】
前記冷媒流路切替手段(16a、16c)は、
前記暖房運転モード時に、前記圧縮機(11)から吐出された冷媒を、前記第1利用側熱交換器(12、52)→前記第1減圧手段(13)→前記気液分離手段(14、54、55)→前記第2減圧手段(17)→前記室外熱交換器(20)の順に流すとともに、前記気液分離手段(14、54、55)にて分離された気相冷媒を前記中間圧冷媒通路(15)へ流入させ、
前記冷房運転モード時には、前記圧縮機(11)から吐出された冷媒を、前記第1減圧手段(13)→前記気液分離手段(14、54、55)→前記第2減圧手段(17)→前記室外熱交換器(20)→前記第3減圧手段(22)→前記第2利用側熱交換器(23)の順に流し、
前記除湿暖房運転モード時には、前記圧縮機(11)から吐出された冷媒を、前記第1利用側熱交換器(12、52)→前記第1減圧手段(13)→前記気液分離手段(14、54、55)→前記第2減圧手段(17)→前記室外熱交換器(20)→前記第3減圧手段(22)→前記第2利用側熱交換器(23)の順に流すことを特徴とする請求項2に記載のヒートポンプサイクル。
【請求項4】
前記冷媒流路切替手段(16a、16c)は、前記中間圧冷媒通路(15)を開閉する中間圧側開閉弁(16a)を含んで構成されていることを特徴とする請求項2または3に記載のヒートポンプサイクル。
【請求項5】
前記中間圧側開閉弁(16a)は、前記第1減圧手段(13)および前記第2減圧手段(16b、17、18)の双方が前記絞り状態となる際に前記中間圧冷媒通路(15)を開放すると共に、前記第1減圧手段(13)および前記第2減圧手段(16b、17、18)の少なくとも一方が前記全開状態となる際に前記中間圧冷媒通路(15)を閉鎖するように構成されていることを特徴とする請求項4に記載のヒートポンプサイクル。
【請求項6】
前記中間圧側開閉弁(16a)は、前記第1減圧手段(13)および前記第2減圧手段(16b、17、18)のうち、前記除湿暖房運転モード時に前記全開状態とされる減圧手段(16b、17、18)の前後差圧に応じて開閉する差圧開閉弁で構成されていることを特徴とする請求項5に記載のヒートポンプサイクル。
【請求項7】
前記第1減圧手段(13)および前記第2減圧手段(16b、17、18)のうち、一方の減圧手段は、絞り開度を変更可能な可変絞り機構で構成され、
前記第3減圧手段(22)は、絞り開度を変更可能な可変絞り機構で構成され、
前記除湿暖房運転モード時には、
前記第1減圧手段(13)および前記第2減圧手段(16b、17、18)のうち、他方の減圧手段が前記全開状態とされ、
さらに、前記空調対象空間へ吹き出す吹出空気の目標温度の上昇に伴って前記一方の減圧手段の絞り開度が縮小するように変更されると共に、前記第3減圧手段(22)の絞り開度が拡大するように変更されることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1つに記載のヒートポンプサイクル。
【請求項8】
前記第1減圧手段(13)および前記第2減圧手段(16b、17、18)のうち少なくとも一方は、絞り開度が固定された固定絞り、前記固定絞りを迂回して冷媒を流す固定絞り迂回用通路、および前記迂回用通路を開閉する通路開閉弁を有して構成されていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1つに記載のヒートポンプサイクル。
【請求項9】
前記第1減圧手段(13)は、絞り開度を変更可能な可変絞り機構で構成され、
前記第2減圧手段(16b、17、18)は、絞り開度が固定された固定絞り(17)、前記固定絞り(17)を迂回して冷媒を流す固定絞り迂回用通路(18)、および前記迂回用通路(18)を開閉する通路開閉弁(16b)を有して構成されていることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1つに記載のヒートポンプサイクル。
【請求項10】
前記圧縮機(11)の吸入ポート(11a)へ流入する冷媒の気液を分離して、分離された気相冷媒を前記圧縮機(11)の吸入ポート(11a)側へ流出させるアキュムレータ(24)を備え、
前記気液分離手段(14、54、55)は、分離した液相冷媒を内部に滞留させることなく液相冷媒流出口(14g、54g、55g)から流出させるように構成されていることを特徴とする請求項1ないし9のいずれか1つに記載のヒートポンプサイクル。
【請求項11】
前記圧縮機(11)の吸入ポート(11a)へ流入する冷媒の気液を分離して、分離された気相冷媒を前記圧縮機(11)の吸入ポート(11a)側へ流出させるアキュムレータ(24)を備え、
前記気液分離手段(14、55)は、分離した直後の液相冷媒を流出させる液相冷媒流出口(14g、55g)を有していることを特徴とする請求項1ないし9のいずれか1つに記載のヒートポンプサイクル。
【請求項12】
前記圧縮機(11)の吸入ポート(11a)へ流入する冷媒の気液を分離して、分離された気相冷媒を前記圧縮機(11)の吸入ポート(11a)側へ流出させるアキュムレータ(24)を備え、
前記気液分離手段(14、54、55)は、液相冷媒を流出させる液相冷媒流出口(14g、54g、55g)を有し、
前記気液分離手段(14、54、55)の内容積は、サイクルに封入される冷媒量を液相に換算した際の封入冷媒体積から、サイクルが最大能力を発揮するために必要な冷媒量を液相に換算した際の必要最大冷媒体積を減算した余剰冷媒体積よりも小さいことを特徴とする請求項1ないし9のいずれか1つに記載のヒートポンプサイクル。
【請求項13】
前記気液分離手段は、遠心力の作用によって冷媒の気液を分離する遠心分離方式の気液分離器(14、55)であることを特徴とする請求項10ないし12のいずれか1つに記載のヒートポンプサイクル。
【請求項14】
前記液相冷媒流出口(14g、55g)は、前記気液分離手段(14、55)にて分離された気相冷媒を流出させる気相冷媒流出口(14f、55f)よりも下方側に配置されているとともに、前記気相冷媒の一部を前記液相冷媒とともに流出させることを特徴とする請求項10ないし13のいずれか1つに記載のヒートポンプサイクル。
【請求項15】
前記液相冷媒流出口(14g)は、前記気液分離手段(14)内の前記液相冷媒の液面の高さに応じて変位するフロート弁(14h)によって開閉されることを特徴とする請求項12に記載のヒートポンプサイクル。
【請求項16】
前記気液分離手段は、液相冷媒の表面張力を利用して冷媒の気液を分離する表面張力式の気液分離器(54)であることを特徴とする請求項12に記載のヒートポンプサイクル。
【請求項17】
前記室外熱交換器(20)へ流入する冷媒の乾き度(X)は、0.1以下であることを特徴とする請求項1ないし16のいずれか1つに記載のヒートポンプサイクル。
【請求項18】
前記第1利用側熱交換器(12)は、前記圧縮機(11)の吐出ポート(11c)から吐出された高圧冷媒を前記送風空気と熱交換させる熱交換器として構成されていることを特徴とする請求項1ないし17のいずれか1つに記載のヒートポンプサイクル。
【請求項19】
前記第1利用側熱交換器(52)は、前記圧縮機(11)の吐出ポート(11c)から吐出された高圧冷媒を前記送風空気を加熱するための熱媒体と熱交換させる熱交換器として構成されていることを特徴とする請求項1ないし17のいずれか1つに記載のヒートポンプサイクル。
【請求項20】
前記暖房運転モード時には、前記第1利用側熱交換器(12)にて加熱された前記送風空気を前記空調対象空間へ送風することを特徴とする請求項18に記載のヒートポンプサイクル。
【請求項21】
前記第1利用側熱交換器(12)の熱交換能力を調整する熱交換能力調整手段(34)を備え、
前記冷房運転モード時には、前記第1利用側熱交換器(12)における熱交換能力を低下させて、前記第2利用側熱交換器(23)にて冷却された前記送風空気を前記空調対象空間へ送風することを特徴とする請求項18または20に記載のヒートポンプサイクル。
【請求項22】
前記第2利用側熱交換器(23)は、前記第1利用側熱交換器(12)に対して送風空気流れ上流側に配置されており、
前記除湿暖房運転モード時には、前記第2利用側熱交換器(23)にて冷却された前記送風空気を前記第1利用側熱交換器(12)にて加熱して前記空調対象空間へ送風することを特徴とする請求項18、20、21のいずれか1つに記載のヒートポンプサイクル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2012−181005(P2012−181005A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−15130(P2012−15130)
【出願日】平成24年1月27日(2012.1.27)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】