説明

ヒールカウンタを備えたシューズ

【課題】 運動時とくに着地直後における足の踵骨上部のホールド性を向上させる。
【解決手段】 ヒールカウンタ10を備えたシューズ1において、シューズ着用者Pの足の踵骨Cの後端に配置されたヒールカウンタ本体部13と、ヒールカウンタ本体部13から踵骨Cの下部に沿って、シューズ1の内外甲側のそれぞれ前後方向に延びる下部サポート部11と、ヒールカウンタ本体部13から踵骨Cの上部に沿って、シューズ1の内外甲側のそれぞれ前後方向に帯状に延びる上部サポート部12と、上下部サポート部11,12を上下方向に分離するように、上下部サポート部11,12間に形成されかつその底部14aがヒールカウンタ本体部13まで延びる切欠き14とからヒールカウンタ10を構成する。踵骨Cの荷重中心線Gは、上下部サポート部11,12および切欠き14内を通っている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シューズのアッパー(甲被部)の踵部にヒールカウンタを備えたシューズに関し、詳細には、運動時における足の踵骨上部のホールド性を向上させるためのヒールカウンタの構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
シューズの踵部の保形性を確保しつつ、着地時の足の踵部の横ぶれを防止するために、シューズのアッパーの踵部にヒールカウンタを備えたシューズが提供されている。
【0003】
従来より広く用いられてきたヒールカウンタとしては、足の踵部を包み込むようなカップ形状のものがほとんどであるが、特開昭64−8903号公報や特開昭64−8904号公報に示すような形状のものも提案されている。
【0004】
特開昭64−8903号公報の第6図および第7図に記載されたヒールカウンタは、シューズの踵部に配置されるヒールカウンタ本体と、その上部においてシューズの履き口に沿って前方に延設されたアンクルサポート部とから構成されている。また、特開昭64−8904号公報の第10図および第11図に記載されたヒールカウンタは、シューズの踵部に配置されるヒールカウンタ本体と、その上部においてシューズの履き口に沿って前方に延設されたアンクルサポータと、ヒールカウンタ本体の下部においてシューズのソールに沿って前方に延設されたアーチサポータとから構成されている。
【0005】
ここで、上記各公報に記載されたヒールカウンタにおけるアンクルサポート部(またはアンクルサポータ)は、足首をより確実に捕捉して運動中の足首部(つまり足の距骨周囲)の安定性を高めるための部材であって(特開昭64−8903号公報の第3頁左下欄第9〜10行および特開昭64−8904号公報の第3頁右下欄第15〜17行参照)、運動時(とくに着地時)における足の踵骨上部のホールド性を高めるようには構成されていない。
【特許文献1】特開昭64−8903号公報(第6図および第7図参照)
【特許文献2】特開昭64−8904号公報(第10図および第11図参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、運動時における足の踵骨上部のホールド性を向上させることができるヒールカウンタを備えたシューズを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明に係るシューズにおいては、アッパー踵部に設けられたヒールカウンタが、シューズ着用者の足の踵骨の下部に対応する位置において踵骨下部の周りに配設されかつシューズの外甲側および内甲側においてそれぞれ実質的に前後方向に延びる下部サポート部と、シューズ着用者の足の踵骨の上部に対応する位置において踵骨上部の周りに配設されかつシューズの外甲側および内甲側においてそれぞれ実質的に前後方向に帯状に延びる上部サポート部と、下部サポート部および上部サポート部を上下方向に連結する連結部と、下部サポート部および上部サポート部を上下方向に分離するように、下部サポート部および上部サポート部の間に形成されるとともに、その底部が連結部まで延びる切欠きとから構成されている。
【0008】
請求項1の発明によれば、シューズ着用者の足の踵骨下部は、踵骨下部の周りに配設されて前後方向に延びるヒールカウンタの下部サポート部により保持され、踵骨上部は、踵骨上部の周りに配設されて前後方向に延びるヒールカウンタの上部サポート部により保持される。この上部サポート部により、運動時の足の踵骨上部のホールド性が向上し、これにより、運動時とくに着地直後に生じる足の踵部の横ぶれを確実に規制できるようになる。
【0009】
これに対して、従来のカップ形状のヒールカウンタにおいては、踵骨上部に沿って前後方向に延びる上部サポート部が設けられていないため、踵骨上部に対するホールド性に乏しい。また、上述した特開昭64−8903号公報および特開昭64−8904号公報に示すヒールカウンタにおいては、足首の周りに沿って前後方向に延びるアンクルサポート部(またはアンクルサポータ)が設けられているが、これは、足首(つまり足の踵骨よりも上方に配置された距骨の周囲)をホールドするためのものである。そして、上記各公報に示すヒールカウンタにおいて、踵骨下部から踵骨上部にかけての形状は、従来のカップ形状のヒールカウンタと同様の形状を有している。したがって、上記各公報に示すものでは、従来のカップ形状のヒールカウンタと同様に、踵骨上部に対するホールド性に乏しい。
【0010】
しかも、請求項1の発明においては、上下部サポート部を上下方向に分離しつつ上下部サポート部の連結部まで延びる切欠きが上下部サポート部間に形成されているので、運動時とくにシューズ着地直後のソールの変形にともなってシューズのアッパー下部が変形しようとした際には、このアッパー下部の変形が上方に伝播するのをヒールカウンタの切欠きによって遮断しつつ抑制することができる。その結果、ヒールカウンタの上部サポート部がアッパー下部の変形の影響を受けて外側に変形するのを防止でき、これにより、上部サポート部を常時踵骨の上部に密着させることができ、回内時の踵骨の横振れを防止して、運動時の踵骨上部のホールド性を向上できる。このようにして、着地時に生じる足の踵部の横ぶれを一層確実に規制できるようになる。
【0011】
上下部サポート部を連結する連結部は、請求項2の発明に記載されているように、シューズの踵後端に配置されてヒールカウンタ本体部を構成していてもよい。
【0012】
この場合には、ヒールカウンタ本体部が踵骨後端の下部から上部まで全体にわたって配設されることになるので、踵骨後端に対するフィット性を向上できる。
【0013】
請求項3の発明では、ヒールカウンタ本体部のシューズ踵後端から切欠き底部までの前後方向長さLが、シューズの表示サイズ足長をLとするとき、L<0.17×L に設定されている。
【0014】
ここで、シューズ踵後端からの距離が0.17Lの位置は、踵骨の荷重中心線(接地時における着用者の荷重の作用線)の位置と一致している。すなわち、接地時には、シューズ踵後端から0.17Lの距離の位置に全荷重が作用しているとみなすことができる。したがって、着用者がシューズのソール踵後端から着地したとき、ソール踵後端を支点として荷重が荷重中心線に作用していることにより、ソールが荷重中心線の部分で変形し、このソールの変形にともなって荷重中心線の部分でアッパーの下部が変形しようとする。
【0015】
このとき、ヒールカウンタの切欠き底部(つまりヒールカウンタ本体部の前端部)の位置がシューズ踵後端から0.17Lの距離の位置よりも後方側に配置されており、言い換えれば、踵骨の荷重中心線が切欠き内を通っているので、踵骨の荷重中心線に作用した荷重によるアッパー下部の変形が、ヒールカウンタ本体部を介してヒールカウンタの上部サポート部まで伝播するのが防止できる。別の言い方をすれば、踵骨の荷重中心線に作用した荷重によるアッパー下部の変形を、ヒールカウンタの切欠きによって確実に逃がすことができる。
【0016】
これに対して、切欠き底部の位置をシューズ踵後端から0.17Lの距離の位置よりも前方側に配置した(すなわち、踵骨の荷重中心線がヒールカウンタ本体部内を通るようにした)場合には、踵骨に作用した荷重によるアッパーの変形がヒールカウンタ本体部を介して上部サポート部に伝播しやすくなる。
【0017】
上下部サポート部を連結する連結部は、請求項4の発明に記載されているように、下部サポート部および上部サポート部の前後方向中間位置に配置されていてもよい。
【0018】
この場合には、連結部の後方側において上下部サポート部間に間隙が形成されることになるので、ヒールカウンタを軽量化することができる。
【0019】
請求項5の発明においては、シューズの踵後端における上部サポート部の上縁の高さ位置が、シューズのアッパーの履き口の下方に配置されている。この場合には、ヒールカウンタの上部サポート部が、シューズのアッパーの履き口の柔軟性を阻害するのを防止できる。
【0020】
ヒールカウンタの切欠き底部の高さ位置は、請求項6の発明に記載されているように、シューズのアッパー踵後端の後方への最突出端の高さ位置に一致している。
【0021】
この場合には、切欠き底部の高さ位置を踵骨の後方への最突出端の高さ位置に一致させることができ、これにより、踵骨の上部および下部の動きを効果的にサポートできるようになる。
【0022】
請求項7の発明においては、下部サポート部のシューズ踵後端からの前後方向長さLが、シューズの表示サイズ足長をLとするとき、L>0.17×L に設定されている。
【0023】
ここで、シューズ踵後端からの距離が0.17Lの位置は、上述したように、踵骨の荷重中心線(接地時における着用者の荷重の作用線)の位置と一致している。したがって、下部サポート部の先端をシューズ踵後端から0.17Lの距離の位置よりも前方側に配置する(換言すれば、踵骨の荷重中心線が下部サポート部内を通るようにする)ことにより、踵骨に作用した荷重によるアッパーの変形を下部サポート部により効果的に規制できるようになる。
【0024】
請求項8の発明においては、上部サポート部のシューズ踵後端からの前後方向長さLが、シューズの表示サイズ足長をLとするとき、L>0.17×L に設定されている。
【0025】
この場合には、上部サポート部の先端がシューズ踵後端から0.17Lの距離の位置よりも前方側に配置される(換言すれば、踵骨の荷重中心線が上部サポート部内を通る)ので、踵骨の荷重中心線に作用した荷重によるアッパーの変形を上部サポート部により効果的に規制できるようになり、これにより、運動時とくに着地時において上部サポート部による足の踵骨上部のホールド性を向上できる。
【0026】
請求項9の発明においては、上部サポート部がシューズのアッパーの足甲部まで延びており、その先端に靴紐挿通用のハトメ孔が設けられている。
【0027】
この場合には、靴紐を緊締することにより、上部サポート部を踵骨上部に密着させることができ、これにより、運動時とくに着地時における足の踵骨上部のホールド性をさらに向上でき、その結果、着地時に生じる足の踵部の横ぶれを一層確実に規制できるようになる。
【0028】
請求項10の発明においては、上部サポート部のシューズ踵後端からの前後方向長さLが、シューズの内甲側および外甲側間で異なっている。
【0029】
この場合には、たとえば、足の回外を防止する場合には、上部サポート部の前後方向長さをシューズの外甲側で長くするようにすればよく、また足の回内を防止する場合には、上部サポート部の前後方向長さをシューズの内甲側で長くするようにすればよい。これにより、競技種目またはシューズ着用者の個体差に応じたシューズを提供できるようになる。
【0030】
請求項11の発明においては、上部サポート部の剛性が下部サポート部の剛性よりも高くなっている。
【0031】
この場合には、上部サポート部が変形しにくくなることにより、上部サポート部による踵骨上部のホールド性をさらに向上でき、着地時に生じる足の踵部の横ぶれをより確実に規制できるようになる。
【0032】
上部サポート部の剛性を下部サポート部の剛性よりも高くする手法としては、請求項12の発明のように、上部サポート部にリブを設けたり、あるいは、上部サポート部の肉厚を下部サポート部の肉厚よりも厚くしたり、上部サポート部を下部サポート部とは異なる材料(高剛性材料)から構成したり、上部サポート部を異方性材料から構成したり、上部サポート部を繊維強化プラスチックから構成したり、上部サポート部の硬度を下部サポート部の硬度よりも高くしたりすることが考えられる。
【0033】
また、請求項13の発明のように、シューズのアッパーに補強材を設けることによって、上部サポート部のシューズ外側への変形(つまり開き)を抑制するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0034】
以上のように本発明によれば、足の踵骨上部の周りに配設されて前後方向に延びる上部サポート部をヒールカウンタに設けたので、運動時の足の踵骨上部のホールド性を向上でき、とくに着地時に生じる足の踵部の横ぶれを確実に規制できるようになる。しかも、本発明によれば、上下部サポート部を上下方向に分離しつつ上下部サポート部の連結部まで延びる切欠きを上下部サポート部間に形成したので、シューズ着地直後のソールの変形にともなってシューズのアッパーが変形しようとした際に、アッパー下部の変形が上方に伝播するのをヒールカウンタの切欠きによって遮断しつつ抑制することができる。その結果、ヒールカウンタの上部サポート部がアッパーの変形の影響を受けて外側に変形するのを防止でき、これにより、運動時の踵骨上部のホールド性をさらに向上でき、着地時に生じる足の踵部の横ぶれを一層確実に規制できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明の実施例を添付図面に基づいて説明する。
<第1の実施例>
図1および図2は、本発明の第1の実施例によるヒールカウンタが採用されたシューズを説明するための図であって、図1はシューズの内甲側側面断面図、図2は図1のヒールカウンタ部分の拡大図である。
【0036】
図1に示すように、シューズ1は、ソール2と、その上に固着されたアッパー(甲被部)3と、アッパー3の踵部Kに設けられたヒールカウンタ10とを備えている。なお、図1では、図示の便宜上、アッパー3の縦断面形状が示されている。また、図1には、シューズ着用者Pの足の骨格図が併せて示されている。
【0037】
ヒールカウンタ10は、シューズ着用者Pの足の踵骨Cの下部に対応する位置において踵骨Cの下部の周りに配設され、実質的に前後方向(図1左右方向)に延びる下部サポート部11と、踵骨Cの上部に対応する位置において踵骨Cの上部の周りに配設され、実質的に前後方向(同図左右方向)に帯状に延びる上部サポート部12と、上下部サポート部11,12を上下方向(同図上下方向)に連結する連結部13と、上下部サポート部11,12を分離するように上下部サポート部11,12の間に形成され、その底部14aが連結部13まで延びる切欠き14とから構成されている。なお、図1中、符号Tは、足の距骨を示している。
【0038】
図1には表れていないが、上下部サポート部11,12は、シューズ1の外甲側にも設けられており、外甲側においても同様に実質的に前後方向に延設されている。この実施例では、外甲側に配設された上下部サポート部11,12は、内甲側の上下部サポート部11,12と左右対称に配置されており、上下部サポート部11,12の前後方向長さは、アッパー3の内甲側および外甲側で等しくなっている。
【0039】
図1中、点CA1は、踵骨Cの後方側最突出点を示しており、本願の特許請求の範囲および明細書では、点CA1を境にして上側部分および下側部分をそれぞれ踵骨Cの上部および下部と定義することにする。
【0040】
連結部13は、この例では、シューズ1のアッパー3の踵後端部30に配置されてヒールカウンタ本体部を構成している。上下部サポート部11,12は、それぞれヒールカウンタ本体部13の上部および下部の位置から前方に延びている。切欠き14の底部14aは、ヒールカウンタ本体部13まで延びている。また、切欠き14の底部14aの高さ位置は、踵骨Cの後方側最突出点である点CA1の高さ位置に一致しており、点CA1は、アッパー3の踵後端の最突出点である点30aの高さ位置に一致している。したがって、切欠き14の底部14aは、点30aの高さ位置に一致している。
【0041】
図2に示すように、アッパー3の踵後端の最突出点30aからヒールカウンタ本体部13の切欠き底部14aまでの前後方向長さ(すなわちヒールカウンタ本体部13の前後方向長さ)Lは、シューズの表示サイズ足長をLとするとき、
<0.17×L
に設定されている。
【0042】
ここで、図2中、上下方向の線Gは、アッパー3の踵後端の最突出点30aから0.17×Lの距離を示しており、これは、踵骨Cの荷重中心線(すなわち接地時に着用者の全荷重が作用しているとみなし得る荷重作用線)と一致している。したがって、上記不等式は、切欠き底部14aが踵骨Cの荷重中心線Gの後方に配置されている、言い換えれば、踵骨Cの荷重中心線Gが切欠き14内を通っている、ということを表わしている。
【0043】
アッパー3の踵後端の最突出点30aから下部サポート部11先端までの前後方向長さLは、シューズの表示サイズ足長をLとするとき、
>0.17×L
に設定されている。
【0044】
上記不等式は、下部サポート部11先端が踵骨Cの荷重中心線の前方に配置されている、言い換えれば、踵骨Cの荷重中心線が下部サポート部11を通っている、ということを表わしている。
【0045】
アッパー3の踵後端の最突出点30aから上部サポート部12先端までの前後方向長さLは、シューズの表示サイズ足長をLとするとき、
>0.17×L
に設定されている。
【0046】
上記不等式は、上部サポート部12先端が踵骨Cの荷重中心線の前方に配置されている、言い換えれば、踵骨Cの荷重中心線が上部サポート部12を通っている、ということを表わしている。
【0047】
シューズ1のアッパー3の踵後端における上部サポート部12の上縁12aの高さ位置は、シューズ1のアッパー3の履き口31の下方に配置されている。また、アッパー3の踵後端における上部サポート部12の上縁12aの高さ位置は、アッパー3の踵後端部履き口高さHの70%の位置よりも上方に配置されている。
【0048】
すなわち、上縁12aの踵後端の点を12eとし、点12eのアッパー下端からの高さをhとし、アッパー3の履き口踵後端部のアッパー下端からの高さをHとするとき、
0.7×H<h<H
に設定されている。
【0049】
ここで、アッパー下端から(0.7×H)の高さ位置は、シューズについて各部の寸法の算出方法を規定したいわゆる「かがみ式」を用いて算出したものであるが、着用者の足の踵骨Cの上端位置に相当している。
【0050】
また、アッパー3の踵後端の最突出点30aの高さ位置は、アッパー下端から(0.4×H)の高さ位置に相当しているが、これは、同様に、上記「かがみ式」を用いて算出したものである。すなわち、最突出点30aのアッパー下端からの高さをhとするとき、
=0.4H
に設定されている。
【0051】
なお、ヒールカウンタ10は、たとえば、熱可塑性ポリウレタン(TPU)やポリアミドエラストマー(PAE)、ABS樹脂等の熱可塑性樹脂、あるいはエポキシ樹脂や不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂から構成されている。
【0052】
次に、本実施例の作用効果について説明する。
上記構成になるシューズ1によれば、シューズ着用者Pの足の踵骨C下部は、踵骨C下部の周りに配設されて前後方向に延びるヒールカウンタ10の下部サポート部11により保持され、踵骨C上部は、踵骨C上部の周りに配設されて前後方向に延びるヒールカウンタ10の上部サポート部12により保持される。この上部サポート部12により、運動時の足の踵骨C上部に対するホールド性が向上し、これにより、運動時とくに着地時に生じる足の踵部の横ぶれを確実に規制できるようになる。また、ヒールカウンタ本体部13によりシューズ着用者Pの足の踵骨C後端に対するフィット性を向上できる。
【0053】
また、上下部サポート部11,12を上下方向に分離しつつ上下部サポート部11,12のヒールカウンタ本体部13まで延びる切欠き14が上下部サポート部11,12間に形成されているので、運動時とくにシューズ着地直後のソール2の変形にともなってシューズ1のアッパー3下部が変形しようとした際には、このアッパー3下部の変形が上方に伝播するのをヒールカウンタ10の切欠き14によって遮断しつつ抑制することができる。その結果、ヒールカウンタ10の上部サポート部12がアッパー3下部の変形の影響を受けて外側に変形するのを防止でき、これにより、上部サポート部12を常時踵骨Cの上部に密着させることができ、回内時の踵骨の横振れを防止して、運動時の踵骨C上部のホールド性をさらに向上できる。このようにして、着地時に生じる足の踵部の横ぶれを一層確実に規制できるようになる。
【0054】
しかも、アッパー3の踵後端の最突出点30aからヒールカウンタ本体部13の切欠き底部14aまでの前後方向長さ(すなわちヒールカウンタ本体部13の前後方向長さ)Lが、L<0.17×L に設定されており、接地時の踵骨Cの荷重中心線Gが切欠き14内を通るように切欠き14の深さが設定されている。
【0055】
この場合には、着用者Pがシューズ1のソール踵後端から着地したとき、ソール踵後端を支点として荷重が荷重中心線Gに作用していることにより、ソール2が荷重中心線Gの部分で変形し、このソール2の変形にともなって荷重中心線Gの部分でアッパー3の下部が変形しようとするが、このとき、踵骨Cの荷重中心線Gが切欠き14内を通っているために、踵骨Cの荷重中心線Gに作用した荷重によるアッパー3下部の変形が、ヒールカウンタ本体部13を通ってヒールカウンタ10の上部サポート部12まで伝播するのが防止できる。別の言い方をすれば、踵骨Cの荷重中心線Gに作用した荷重によるアッパー3下部の変形を、ヒールカウンタ10の切欠き14によって確実に逃がすことができる。
【0056】
また、アッパー3の踵後端の最突出点30aからヒールカウンタ10の下部サポート部11の先端までの前後方向長さLが、L>0.17×L に設定されており、踵骨Cの荷重中心線Gが下部サポート部11内を通るように下部サポート部11の長さが設定されている。
【0057】
この場合には、着用者Pがシューズ1のソール踵後端から着地したときに、ソール2の変形にともなってアッパー3の下部が変形しようとしたとき、踵骨Cに作用した荷重によるアッパー3の変形を下部サポート部11により効果的に規制できるようになる。
【0058】
さらに、アッパー3の踵後端の最突出点30aからヒールカウンタ10の上部サポート部12の先端までの前後方向長さLが、L>0.17×L に設定されており、踵骨Cの荷重中心線Gが上部サポート部12内を通るように上部サポート部12の長さが設定されている。
【0059】
この場合には、踵骨Cの荷重中心線Gに作用した荷重によるアッパー下部の変形がアッパー上部に伝播しようとしたときに、このアッパー上部の変形を上部サポート部12により効果的に規制できるようになり、これにより、運動時とくに着地時において上部サポート部12による足の踵骨C上部のホールド性をさらに向上できる。
【0060】
また、上部サポート部12の上縁12aの踵後端の点12eが、アッパー下端から(0.7×H)の高さ位置の上方に配置されているので、ヒールカウンタ10の上部サポート部12が着用者の足の踵骨Cの上部を覆うことができ、上部サポート部12による踵骨Cのホールド性を向上できるとともに、点12aが、シューズ1の履き口31の下方に配置されていることにより、ヒールカウンタ10の上部サポート部12が、シューズ1の履き口31の柔軟性を阻害するのを防止できる。
【0061】
なお、ヒールカウンタ10の上部サポート部上縁12aの踵後端における点12eの位置をアッパー下端から略(0.7×H)の高さに設定し、アッパー3の踵後端の最突出点30aの位置をアッパー下端から(0.4×H)の高さ位置に設定した場合には、ヒールカウンタ10の切欠き14の底部14aの高さ位置が踵骨Cの上下方向略中央位置に配置されるので、切欠き14の上下に略均等に上下部サポート部11,12を配置することができる。
<第2の実施例>
前記第1の実施例では、ヒールカウンタ10の上下部サポート部11,12がシューズ1の内甲側および外甲側において前後方向に同じ長さで配設された、すなわち上下部サポート部11,12がシューズ1に左右対称に設けられた例を示したが、本発明の適用はこれには限定されない。
【0062】
上部サポート部12のシューズ踵後端からの前後方向長さをシューズの内甲側および外甲側間で異ならせるようにしてもよい。図3は、本発明の第2の実施例によるヒールカウンタ10の平面概略図である。この第2の実施例では、外甲側の前後方向長さL’が内甲側の前後方向長さLよりも長くなっている。この場合には、着地時における足の回外を効果的に防止できるようになる。これとは逆に、内甲側の前後方向長さの方を長くした場合には、着地時における足の回内を効果的に防止できるようになる。このようにして、競技種目またはシューズ着用者の個体差に適合したシューズを提供できるようになる。
<第3の実施例>
図4は、本発明の第3の実施例によるヒールカウンタを示している。この第3の実施例では、上部サポート部12がシューズのアッパーの足甲側まで延設されるとともに、その先端に靴紐挿通用のハトメ孔35が設けられている。
【0063】
この場合には、靴紐を緊締することにより、上部サポート部12を踵骨C上部に密着させることができ、これにより、運動時とくに着地時における足の踵骨C上部のホールド性をさらに向上でき、その結果、着地時に生じる足の踵部の横ぶれを一層確実に規制できるようになる。
<第4の実施例>
前記第1の実施例では、上下部サポート部11,12を上下方向に連結する連結部13がシューズ1の踵後端に配置されてヒールカウンタ本体部を構成している例を示したが、本発明の適用はこれに限定されない。
【0064】
図5は、本発明の第4の実施例によるヒールカウンタを示している。この第4の実施例では、連結部13’が、上下部サポート部11,12の前後方向中間位置に配置されており、連結部13’の後方には、上下部サポート部11,12間の間隙となる窓孔14’ が形成されている。窓孔14’は踵後端を通ってシューズ外甲側まで延びている。また、下部サポート部11の下部に切欠き15が形成されている。切欠き14の底部14aは連結部13’まで延びている。この場合には、窓孔14’および切欠き15により、ヒールカウンタ10全体を軽量化することができる。
【0065】
図6は図5の変形例を示している。この変形例においては、連結部13’が上下部サポート部11,12の前後方向中間位置に配置されている点は図5と同様であるが、連結部13’の配設方向が上下方向ではなく、斜め方向である点が図5と異なっている。
<第5の実施例>
前記第1の実施例では、ヒールカウンタ10の上下部サポート部11,12の剛性が同じものについて示したが、本発明の適用はこれに限定されない。
【0066】
好ましくは、ヒールカウンタ10の上部サポート部12の剛性は、下部サポート部11の剛性よりも高くなっている。上部サポート部12の剛性を高くする手法としては、上部サポート部12の肉厚を下部サポート部11の肉厚よりも厚くするか、上部サポート部12にリブ(図示せず)設けるか、あるいは、上部サポート部12を下部サポート部11と異なる材料(高剛性材料)から構成するか、上部サポート部12を異方性材料から構成するか、などが考えられる。異方性材料としては、たとえば、繊維強化プラスチック(FRP)がある。また、上部サポート部12の硬度が下部サポート部11の硬度よりも高くなるようにしてもよい。
【0067】
図7は、上部サポート部12を下部サポート部11と異なる材料から構成した例を示している。同図に示すヒールカウンタ10は、上部サポート部12と、その上に重ねられたヒールカウンタ本体部13’とからなる2層構造を有している。上部サポート部12は、ヒールカウンタ本体部13’の剛性よりも高い剛性を有する部材から構成されている。上部サポート部12は、踵後端まで延設されており、踵後端に踵サポート部12hを有している。ヒールカウンタ13’は、その前端部13’aが前記第1の実施例の下部サポート部11としての機能を有している。
【0068】
この第5の実施例では、上部サポート部12が変形しにくくなることにより、上部サポート部12による踵骨C上部のホールド性をさらに向上でき、着地時に生じる足の踵部の横ぶれをより確実に規制できるようになる。
<第6の実施例>
図8は、本発明の第6の実施例によるヒールカウンタを示している。この第6の実施例では、アッパー3上に補強部材36が設けられており、上部サポート部12は補強部材36の下に取り付けられている。この場合には、上部サポート部12が補強部材36で補強されることによって、上部サポート部12のアッパー外側への変形が抑制されている。
【0069】
図9は図8の変形例を示している。図8に示す例では、補強部材36が上部サポート部12のみに交差するように配設されているが、図9に示す例では、補強部材37が上部サポート部12のみならず下部サポート部11に沿って配設されている。
<その他の実施例>
ヒールカウンタは、熱変形材料を加熱して着用者の足の形状に合わせて保形することにより構成するようにしてもよい。この場合には、足とカウンタとの間の隙間がなくなって、足に対するフィット性を向上でき、これにより、ヒールカウンタの上部サポート部の開きを防止できる。
【0070】
ヒールカウンタ10の上部サポート部12は、形状記憶材料から構成されていてもよい。この場合には、上部サポート部12が変形してもすぐに元の状態に戻ろうとするので、着地時に生じる足の踵部の横ぶれを上部サポート部により確実に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の第1の実施例によるヒールカウンタが採用されたシューズの内甲側側面断面図であって、ヒールカウンタとシューズ着用者の足の骨格との解剖学的観点からの位置関係を説明するための図である。
【図2】図1のヒールカウンタ部分の拡大図である。
【図3】本発明の第2の実施例によるヒールカウンタの平面概略図である。
【図4】本発明の第3の実施例によるヒールカウンタの側面概略図である。
【図5】本発明の第4の実施例によるヒールカウンタの側面概略図である。
【図6】図5の変形例を示す図である。
【図7】本発明の第5の実施例によるヒールカウンタの側面概略図である。
【図8】本発明の第6の実施例によるヒールカウンタの側面概略図である。
【図9】図8の変形例を示す図である。
【符号の説明】
【0072】
1: シューズ

3: アッパー
30: 踵後端部
30a: 最突出点

10: ヒールカウンタ
11: 下部サポート部
12: 上部サポート部
12a: 上縁
13: ヒールカウンタ本体部(連結部)
14: 切欠き
14a: 底部

P: シューズ着用者
K: 踵部
: 踵骨
A1: 後方側最突出点
G: 荷重中心線
: 上部サポート部前後方向長さ
: 下部サポート部前後方向長さ
: ヒールカウンタ本体部前後方向長さ
L: シューズの表示サイズ足長
h: 上部サポート部上縁高さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シューズのアッパーの踵部にヒールカウンタを備えたシューズにおいて、
前記ヒールカウンタが、
シューズ着用者の足の踵骨の下部に対応する位置において踵骨下部の周りに配設され、シューズの外甲側および内甲側においてそれぞれ実質的に前後方向に延びる下部サポート部と、
シューズ着用者の足の踵骨の上部に対応する位置において踵骨上部の周りに配設され、シューズの外甲側および内甲側においてそれぞれ実質的に前後方向に帯状に延びる上部サポート部と、
前記下部サポート部および上部サポート部を上下方向に連結する連結部と、
前記下部サポート部および上部サポート部を上下方向に分離するように、前記下部サポート部および上部サポート部の間に形成されるとともに、その底部が前記連結部まで延びる切欠きとから構成されている、
ことを特徴とするヒールカウンタを備えたシューズ。
【請求項2】
請求項1において、
前記連結部がシューズの踵後端に配置されてヒールカウンタ本体部を構成しており、前記切欠きの底部が前記ヒールカウンタ本体部まで延びている、
ことを特徴とするヒールカウンタを備えたシューズ。
【請求項3】
請求項2において、
前記ヒールカウンタ本体部のシューズ踵後端から前記切欠き底部までの前後方向長さLが、シューズの表示サイズ足長をLとするとき、
<0.17×L
に設定されている、
ことを特徴とするヒールカウンタを備えたシューズ。
【請求項4】
請求項1において、
前記連結部が、前記下部サポート部および上部サポート部の前後方向中間位置に配置されており、前記切欠きの底部が当該連結部まで延びている、
ことを特徴とするヒールカウンタを備えたシューズ。
【請求項5】
請求項1において、
シューズの踵後端における前記上部サポート部の上縁の高さ位置が、シューズのアッパーの履き口の下方に配置されている、
ことを特徴とするヒールカウンタを備えたシューズ。
【請求項6】
請求項1において、
前記切欠きの底部の高さ位置が、シューズのアッパーの踵後端の後方への最突出端位置の高さ位置に一致している、
ことを特徴とするヒールカウンタを備えたシューズ。
【請求項7】
請求項1において、
前記下部サポート部のシューズ踵後端からの前後方向長さLが、シューズの表示サイズ足長をLとするとき、
>0.17×L
に設定されている、
ことを特徴とするヒールカウンタを備えたシューズ。
【請求項8】
請求項1において、
前記上部サポート部のシューズ踵後端からの前後方向長さLが、シューズの表示サイズ足長をLとするとき、
>0.17×L
に設定されている、
ことを特徴とするヒールカウンタを備えたシューズ。
【請求項9】
請求項1において、
前記上部サポート部がシューズのアッパーの足甲部まで延びており、その先端に靴紐挿通用のハトメ孔が設けられている、
ことを特徴とするヒールカウンタを備えたシューズ。
【請求項10】
請求項1において、
前記上部サポート部のシューズ踵後端からの前後方向長さLが、シューズの内甲側および外甲側間で異なっている、
ことを特徴とするヒールカウンタを備えたシューズ。
【請求項11】
請求項1において、
前記上部サポート部の剛性が前記下部サポート部の剛性よりも高くなっている、
ことを特徴とするヒールカウンタを備えたシューズ。
【請求項12】
請求項11において、
前記上部サポート部にリブが設けられている、
ことを特徴とするヒールカウンタを備えたシューズ。
【請求項13】
請求項1において、
前記上部サポート部が、シューズのアッパーに設けられた補強材によって、シューズ外方への変形を抑制されている、
ことを特徴とするヒールカウンタを備えたシューズ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−206629(P2008−206629A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−44983(P2007−44983)
【出願日】平成19年2月26日(2007.2.26)
【出願人】(000005935)美津濃株式会社 (239)
【Fターム(参考)】