説明

ビカルタミドおよびそのアナログの製造方法

【課題】 前立腺肥大治療薬(抗男性ホルモン剤)またはその他の医薬品中間体として有用な、ビカルタミドまたはそのアナログをラセミ体または光学活性体の形態で効率良く製造し得る方法を提供すること。
【解決手段】 ビカルタミドまたはそのアナログの製造方法が開示されている。本発明の方法は、以下の式(II)で表される化合物と、式(III)で表される化合物とを
【化1】


縮合剤および溶媒としてテトラヒドロフランの存在下、で反応させることにより行われる。これにより、副生成物の生成が回避され、効率良くビカルタミドまたはそのアナログを得ることができる。得られたビカルタミドまたはそのアナログは、例えば、前立腺肥大治療薬(抗男性ホルモン剤)またはその他の医薬品中間体として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビカルタミドおよびそのアナログの製造方法に関し、より詳細には、ビカルタミドおよびそのアナログを簡易かつ優れた収率で製造し得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アンドロゲン遮断は、前立腺癌患者のための一般的な治療方法である。種々の非ステロイド抗アンドロゲン剤が前立腺癌を治療する際に使用することが知られている。ビカルタミド(N−[4−シアノ−3−(トリフルオロメチル)フェニル]−3−(4−フルオロフェニルスルホニル)−2−ヒドロキシ−2−メチル−プロパンアミド]は、例えば、非ステロイド抗アンドロゲン剤の1つであり、前立腺肥大治療薬(抗男性ホルモン剤)として世界的に典型的に使用されている。
【0003】
ビカルタミドは、以下のような構造:
【0004】
【化1】

【0005】
を有する。上記構造におけるプロパンアミドのα−炭素はキラル炭素であるため、ビカルタミドはキラルな物質である。
【0006】
上記前立腺肥大治療薬としての使用においては、例えば、ビカルタミドはR体がS体の約60倍もの活性を示すことが報告されており(非特許文献1)、当該分野においてはR体のビカルタミドを効率良く製造するための研究開発が多く行われてきた。
【0007】
例えば、非特許文献1〜5は、上記ビカルタミドおよびそのアナログをそれぞれ効率良く、あるいは新規な合成ルートを通じて製造するための方法を開示している。しかし、これらの文献に記載の方法はいずれも、上記ビカルタミドを得るためには、比較的多くの反応工程を要する、充分な収率で製造することが困難である、などの工業的観点からの問題が指摘されている。また、これらの文献のうち、非特許文献1および3で製造され得るビカルタミドはラセミ体となるため、当該ビカルタミドを得た後に当該分野において公知の手段を用いて光学分割することが事実上必須となり、この工程を通じて所望の(R)−ビカルタミドのみを取り出さざるを得ない。
【0008】
一方、特許文献1は、(R)−ビカルタミドのみを選択的に合成する手法として(R)−プロリンを出発物質に使用することを開示している。しかし、(R)−プロリンは一般に入手し難く、高価な物質である。このため、(R)−ビカルタミドの工業的製造においては生産性(価格効率)の観点から、当該技術は必ずしも適切なものともいえない。
【0009】
さらに、特許文献2は、上記(R)−プロリンの使用に代えて、例えば、4−フルオロベンゼンチオールに所定のブロモラクトンを反応させることなどの工程を通じて、所望の(R)−ビカルタミドを製造する方法が開示されている。しかし、当該方法によっても、目的のビカルタミドを工業的観点から効率よく製造し得るものであるということができない。
【0010】
【特許文献1】米国特許第6,019,957号明細書
【特許文献2】特表2003−512351号公報
【非特許文献1】タッカー,エイチ.(Tucker,H.)ら、「ジャーナル・オブ・メディシナル・ケミストリー(Journal of Medicinal Chemistry),1988年,31巻、p.885−887
【非特許文献2】タッカー,エイチ.(Tucker,H.)ら、「ジャーナル・オブ・メディシナル・ケミストリー(Journal of Medicinal Chemistry),1988年,31巻、p.954−959
【非特許文献3】ジェイムス,ケイ.(James,K.)ら、「シンセシス(Synthesis),2002年,第7号、p.850−852
【非特許文献4】ネア,ヴィ.(Nair,V.)ら、「テトラヘドロン・レターズ(Tetrahedron Letters),2004年,第45号、p.9475−9477
【非特許文献5】マーエフカ,シー.(Marhefka,C.)ら、「ジャーナル・オブ・メディシナル・ケミストリー(Journal of Medicinal Chemistry),2004年,47巻、p.993−998
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記問題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、前立腺肥大治療薬(抗男性ホルモン剤)またはその他の医薬品中間体として有用な、ビカルタミドまたはそのアナログをラセミ体または光学活性体の形態で効率良く製造し得る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、以下の式(I):
【0013】
【化2】

【0014】
で表されるビカルタミドまたはそのアナログの製造方法であって、
以下の式(II):
【0015】
【化3】

【0016】
で表される化合物を、縮合剤および溶媒としてテトラヒドロフランの存在下、以下の式(III):
【0017】
【化4】

【0018】
で表される化合物と反応させる工程;
を包含し、
ここで、式(I)および式(II)において、
は、ハロゲン原子、水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいC〜Cのアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC〜Cのアルコキシ基、ニトロ基、シアノ基、−S−R10(ここで、R10は、ハロゲン原子で置換されていてもよい、直鎖状または分岐鎖状のC〜Cのアルキル基である)、−CO−R10(ここで、R10は、ハロゲン原子で置換されていてもよい、直鎖状または分岐鎖状のC〜Cのアルキル基である)、−NH、−NHC(O)−R10(ここで、R10は、ハロゲン原子で置換されていてもよい、直鎖状または分岐鎖状のC〜Cのアルキル基である)、
【0019】
【化5】

【0020】
(ここで、R10、R11およびR12は、それぞれ独立して、ハロゲン原子で置換されていてもよい、直鎖状または分岐鎖状のC〜Cのアルキル基である)、または−NCSであり;
は、ハロゲン原子で置換されていてもよい、C〜Cアルキル基であり;そして
は、硫黄原子、酸素原子、−NH−、または−SO−であり;そして
式(I)および(III)において、
およびRは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいC〜Cアルキル基、シアノ基、またはニトロ基である、方法である。
【0021】
1つの実施態様では、上記縮合剤は、塩化チオニルまたは1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド ヒドロクロリドである。
【0022】
1つの実施態様では、上記縮合剤は、上記式(II)で表される化合物1モルに対し、3当量から15当量の範囲の中から使用される。
【0023】
1つの実施態様では、上記式(II)で表される化合物は光学活性な化合物である。
【0024】
さらなる実施態様では、上記式(II)で表される化合物は、以下の式(II−1):
【0025】
【化6】

【0026】
で表されるR体の化合物である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、目的に応じ、ラセミ体または光学活性体としてのビカルタミドまたはそのアナログを効率良く製造することができる。特に、本発明の方法によれば、製造工程で副生成物が生じる可能性を低減することができる。反応後は、副生成物ではなく、むしろ目的のビカルタミドまたはそのアナログ以外に使用した原料(すなわち、式(II)で表される化合物)自体をそのまま回収することができるため、再利用することも可能となり、製造工程におけるロスが著しく低減し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明について詳述する。
【0029】
本発明の方法を用いて製造され得る化合物は以下の式(I):
【0030】
【化7】

【0031】
(ここで、Rは、ハロゲン原子、水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいC〜Cのアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC〜Cのアルコキシ基、ニトロ基、シアノ基、−S−R10(ここで、R10は、ハロゲン原子で置換されていてもよい、直鎖状または分岐鎖状のC〜Cのアルキル基である)、−CO−R10(ここで、R10は、ハロゲン原子で置換されていてもよい、直鎖状または分岐鎖状のC〜Cのアルキル基である)、−NH、−NHC(O)−R10(ここで、R10は、ハロゲン原子で置換されていてもよい、直鎖状または分岐鎖状のC〜Cのアルキル基である)、
【0032】
【化8】

【0033】
(ここで、R10、R11およびR12は、それぞれ独立して、ハロゲン原子で置換されていてもよい、直鎖状または分岐鎖状のC〜Cのアルキル基である)、または−NCSであり;
は、ハロゲン原子で置換されていてもよい、C〜Cアルキル基であり;
は、硫黄原子、酸素原子、−NH−、または−SO−であり;そして
およびRは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいC〜Cアルキル基、シアノ基、またはニトロ基である)で表されるビカルタミドまたはそのアナログである。
【0034】
上記式(I)で表される化合物は、以下の式(II):
【0035】
【化9】

【0036】
(ここで、R、RおよびRは、それぞれ独立して上記に定義した基と同様である)で表される化合物を、縮合剤および溶媒としてテトラヒドロフランの存在下、以下の式(III):
【0037】
【化10】

【0038】
(ここで、RおよびRは、それぞれ独立して上記に定義した基と同様である)で表される化合物と反応させることにより製造され得る。
【0039】
本発明に用いられる式(II)の化合物は、光学活性な化合物またはラセミ体の化合物のいずれを用いることもできる。本発明の方法により製造される式(I)のビカルタミドまたはその誘導体を、光学活性体(すなわち、R体またはS体のいずれか)の形態で得ることを所望する場合は、式(II)の化合物は光学活性体(すなわち、R体またはS体のいずれか)であることが好ましい。
【0040】
本発明に用いられる、式(II)の化合物は、例えば、特許文献2(特表2003−512351号公報)に記載の方法に準じて製造することができる。あるいは、光学活性な式(II)の化合物を得る場合は、以下のようにして製造することもできる。
【0041】
以下、光学活性な式(II)の化合物を得る方法の一例について説明する。
【0042】
当該光学活性な式(II)の化合物を得るにあたっては、まず、例えば、以下の式(IV):
【0043】
【化11】

【0044】
(ここで、Rは保護基(例えば、ベンジル、4−メトキシフェニルメチル、メトキシメチル、トリメチルシリル、トリエチルシリル、t−ブチルジメチルシリル、アセチル、ベンゾイル、および9−フルオレニルメトキシカルボニルが包含される)であり;そしてRは、ハロゲン原子で置換されていてもよい、C〜Cアルキル基である)で表される光学活性なエポキシドを、溶媒中、以下の式(V):
【0045】
【化12】

【0046】
(ここで、Rは、ハロゲン原子、水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいC〜Cのアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC〜Cのアルコキシ基、ニトロ基、シアノ基、−S−R10(ここで、R10は、ハロゲン原子で置換されていてもよい、直鎖状または分岐鎖状のC〜Cのアルキル基である)、−CO−R10(ここで、R10は、ハロゲン原子で置換されていてもよい、直鎖状または分岐鎖状のC〜Cのアルキル基である)、−NH、−NHC(O)−R10(ここで、R10は、ハロゲン原子で置換されていてもよい、直鎖状または分岐鎖状のC〜Cのアルキル基である)、
【0047】
【化13】

【0048】
(ここで、R10、R11およびR12は、それぞれ独立して、ハロゲン原子で置換されていてもよい、直鎖状または分岐鎖状のC〜Cのアルキル基である)、または−NCSであり、そしてRは、硫黄原子、酸素原子、または−NH−である)で表される化合物と反応させることにより製造される。
【0049】
上記光学活性な式(IV)で表されるエポキシドは、必ずしも限定されないが、例えば、該式(IV)で表されるエポキシドのラセミ体(これは当該分野において当業者に周知の方法を用いて製造することができ、あるいは市販されている)をエポキシド加水分解活性を有する微生物または該微生物に由来する酵素を作用させて、該ラセミ体の一方の鏡像体を加水分解すること、ならびに当該加水分解後に得られた反応液から目的の光学活性な式(IV)のエポキシドを回収することにより入手可能である。
【0050】
ここで、上記微生物または上記酵素を産生する微生物の例としては、バチルス・サブチリスJCM10629株、バチルス・サブチリスIAM1186株、クロモバクテリウム・ビオラセウムJCM1249株、バチルス・リケニホルミスATCC39307株、ノカルディア・フスカNBRC14340株、ステノトロホモナス・マルトフィリアJCM1975株、バチルス・プミリスNBRC14358株、ミクロバクテリウム・ラクチカムJCM1379株、シュードモナス・クロロラフィスJCM2778株、ノカルディア・アステロイデスNBRC3384株、ゴルドナ・テラエJCM3206株、バチルス・アネウリノリティカスIAM1077株、クレブシエラ・オキシトカSNSM−87(微工研菌寄第12953号)株、キャンディダ・コリカロサJCM2199株、キャンディダ・エルノビJCM9948株、キャンディダ・ルゴサJCM1619株、ガラクトマイセス・ゲオトリカムJCM6359株、キャンディダ・インタメディアNBRC0761株、サッカロマイセス・セレビシエJCM2223株、スポリジオボラス・サルモニカラNBRC1035株、キャンディダ・クルセイNBRC0011株、ロドスポリジウム・ジオボバタムNBRC0688株、ピチア・ブルトニJCM3708株、キャンディダ・アンタラクチカJCM3941株、ロドトルラ・ルブラJCM8117株、キャンディダ・グイリエルモンジNBRC0566株、キャンディダ・ケフィアNBRC10287株、ロドトルラ・ミヌタNBRC0879株、およびキャンディダ・パラプシロシスJCM1785株からなる群より選択される少なくとも1種の菌株が挙げられる。特に、バチルス・サブチリスIAM1186株、クロモバクテリウム・ビオラセウムJCM1249株、キャンディダ・コリカロサJCM2199株、キャンディダ・エルノビJCM9948株、キャンディダ・ルゴサJCM1619株、ガラクトマイセス・ゲオトリカムJCM6359株、およびキャンディダ・インタメディアNBRC0761株からなる群より選択される少なくとも1種の菌株が好ましい。
【0051】
上記微生物に由来する酵素とは、上記のエポキシド加水分解活性を有する微生物から得られたエポキシド加水分解活性を有する酵素をいう。例えば、上記の菌体を超音波などで破砕した後、不溶物を除去して得られる破砕上清液を、粗酵素液として用いることができる。あるいは、この粗酵素液から、さらに当業者が通常用いる精製方法、例えば、カラムクロマトグラフィーなどの手段によって精製または単離されたエポキシドハイドロラーゼ(EH)であってもよい。あるいは、エポキシド加水分解活性を発揮し得るならば、上記の天然のEHの改変体または誘導体であってもよい。ここで、「改変体」とは、天然のEHと、少なくとも70、または少なくとも80、あるいは少なくとも90パーセントのアミノ酸配列相同性を有し、かつEH活性を有するタンパク質をいう。例えば、天然のEHにおいて、1以上のアミノ酸の付加、欠失、または置換を有するタンパク質が挙げられる。「誘導体」とは、天然のEHと他のペプチドとの融合タンパク質をいう。融合される他のペプチドは、EHの基本的な折りたたみおよびコンホメーション構造を妨害しない。
【0052】
上記微生物は、上記微生物に由来するエポキシド加水分解活性を有するならば、野生型または形質転換体のいずれであってもよい。例えば、形質転換体は、上記の酵素(例えば、EH)をコードする遺伝子が組み込まれている他の宿主微生物(例えば、大腸菌、枯草菌など)であってもよい、さらに、例えば、EHの発現を促進するように、適切なプロモーター、エンハンサー、ターミネーターなどの発現調節因子が導入されている形質転換体であってもよい。
【0053】
これらの微生物は、デンプン含有培地で培養することにより、より高いエポキシド加水分解活性を示す。ここで、デンプン含有培地とは、当業者が微生物の培養に通常用いる培地よりも、デンプンを豊富に含有する培養培地をいう。含有されるデンプンは、どのような由来のものであってもよい。デンプンの液化は、当業者に公知の方法(例えば、α−アミラーゼで処理する方法)によって行われ得る。培地中のデンプンの濃度は、特に制限はなく、4w/v%〜20w/v%であり得、あるいは8w/v%〜12w/v%であり得る。
【0054】
あるいは、上記においてエポキシド加水分解活性を有する微生物は、バチルス属、クロモバクテリウム属、ノカルディア属、ステノトロホモナス属、ミクロバクテリウム属、シュードモナス属、ゴルドナ属、クレブシエラ属、キャンディダ属、ガラクトマイセス属、サッカロマイセス属、スポリジオボラス属、ロドスポリジウム属、ピチア属、またはロドドルラ属に属し、かつ上記のデンプン含有培地で培養された微生物であり得る。
【0055】
これらの微生物は、どのような形態で使用してもよい。例えば、培地などに懸濁した菌液、乾燥菌体、固定化菌体、または固定化乾燥菌体の形態で使用され得る。これらはいずれも、当業者が通常行う手段によって調製され得る。例えば、乾燥菌体は、凍結乾燥、風乾、アセトン乾燥などによって調製され得る。乾燥菌体を調製する場合、安定性を向上させる目的で、20w/v%グリセロールとともに乾燥させてもよい。固定化菌体は、アクリルアミド、カラギーナン、アルギン酸カルシウムなどを用いて調製し得る。さらに、固定化菌体は、ポリエチレンイミンとグルタルアルデヒドとの組合せまたはヘキサメチレンジアミンとグルタルアルデヒドとの組合せを用いて架橋することによって、さらに安定化させることもできる。固定化乾燥菌体は、当業者が通常用いる手段を用いて、固定化菌体を乾燥させることによって調製され得る。固定化乾燥菌体は、反復使用することが可能である。例えば、少なくとも10回繰り返して使用しても、固定化乾燥菌体の活性の低下は認められない。
【0056】
上記の微生物または該微生物由来の酵素によって、上記式(IV)で表されるエポキシドのラセミ体の一方の鏡像体のみが加水分解を受ける。そのため、加水分解によって光学活性なジオールが生じ、そして加水分解されなかった(微生物または酵素の作用を受けなかった)もう一方の鏡像体であるエポキシドが残存する。
【0057】
この工程は、具体的には、適切な緩衝液または培地に微生物または酵素を添加し、さらに上記式(IV)で表されるエポキシドのラセミ体を添加して、攪拌または振盪することによって行われる。この工程における反応液中の基質(エポキシド)濃度と、菌体量または酵素量とは、適宜決定され得る。使用する微生物または酵素は、単独でもちいてもよく、あるいは数種の微生物または異なる起源の酵素を混合して用いてもよい。また、通常、反応液の至適pHは約6.5〜8.0であり、そして反応温度は約30℃〜35℃である。反応時間は特に限定されず、通常は少なくとも5分であり、30分間〜96時間であってもよく、3時間〜72時間であってもよく、6時間〜48時間であってもよい。
【0058】
次いで、上記の酵素反応液から目的の式(IV)で表される光学活性なエポキシドが回収される。上記の酵素を作用させる工程においては、上記の微生物または該微生物由来の酵素によってエポキシドのラセミ体の一方の鏡像体のみが立体選択的に加水分解される。そのため、酵素反応液中には加水分解によって生じた光学活性なジオールと加水分解されなかった光学活性なエポキシドとが存在し得るので、ここでは、目的の光学活性なエポキシドを当業者が通常用いる適切な手段によって回収する。具体的には、酵素反応液に適切な有機溶媒を加えてエポキシドおよびジオールを有機層に抽出し、抽出物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーなどに供することによって、これらを分離して回収することができる。
【0059】
このようにして上記光学活性な式(IV)の化合物を得ることができる。
【0060】
上記式(V)で表される化合物は、好ましくは以下の式(V’):
【0061】
【化14】

【0062】
(ここで、RおよびRはそれぞれ独立して、上記に定義される基と同様である)で表される化合物であり、具体的な例としては、4−フルオロベンゼンチオールが挙げられる。
【0063】
上記式(IV)で表されるエポキシドと上記式(V)で表される化合物との反応は、例えば、テトラヒドロフランなどの有機溶媒中、好ましくはNaHの存在下にて行われる。反応時間は特に限定されず、当業者が任意に設定することができる。また、反応温度も特に限定されないが、例えば室温下で行われ得る。
【0064】
上記反応後、生成物を有機層に抽出し、洗浄および乾燥を経て粗生成物を得、必要に応じてシリカゲルカラムクロマトグラフィーなどの手段を用いて精製され、最終的に得られた化合物の保護基を当該分野において周知方法を用いて脱保護することによって目的の化合物を得ることができる。なお、上記式(II)の化合物において、R基を−SO−にすることが所望される場合は、上記式(V)の化合物のうち、Rが硫黄原子である化合物(例えば、4−フルオロベンゼンチオール)を使用し、上記反応により得られた化合物を当該分野において周知方法を用いて酸化条件に付し、かつ得られた化合物の保護基を当該分野において周知方法を用いて脱保護することにより、目的の化合物を得ることができる。
【0065】
このようにして、本発明に用いられる(好ましくは光学活性な)式(II)で表される化合物を得ることができる。
【0066】
本発明に用いられる式(III):
【0067】
【化15】

【0068】
(ここで、RおよびRは、それぞれ独立して上記に定義した基と同様である)で表される化合物は、好ましくは以下の式(III’):
【0069】
【化16】

【0070】
(ここで、RおよびRは、それぞれ独立して上記に定義した基と同様である)で表される化合物であり、具体的な例としては、4−シアノ−3−トリフルオロメチル−アニリンが挙げられる。
【0071】
本発明に用いられる式(III)の化合物の量は、使用する上記式(II)の化合物の量によって変動するため、必ずしも限定されないが、例えば、使用する上記式(II)の化合物1モルに対して、好ましくは0.8当量〜15当量である。
【0072】
本発明に用いられる縮合剤は、縮合反応一般に用いられる縮合剤であれば特に限定されないが、例えば、塩化チオニル、1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド ヒドロクロリド(EDCl)およびそれらの組合せが挙げられる。反応性に優れ、ビタルタミドまたはそのアナログの生産性が向上する点から塩化チオニルを用いることが好ましい。
【0073】
本発明に用いられる縮合剤の量もまた、当業者によって適宜設定されることが好ましい。より具体的には、例えば、上記式(II)で表される化合物1モルに対し、使用される縮合剤の量は好ましくは3当量〜15当量、より好ましくは4当量〜12当量である。
【0074】
上記式(II)の化合物と式(III)の化合物との反応によるビタルタミドまたはそのアナログを得る場合、その反応系には有機溶媒として任意の溶媒が使用され得る。しかし、ビタルタミドまたはそのアナログの生産性を向上させる点から、本発明においてはテトラヒドロフランが使用される。溶媒としてテトラヒドロフランを使用することにより、当該反応において他の溶媒(例えば、ジメチルアセトアミド(DMA))を使用した際に起こり得る副生成物の生成が防止でき、むしろ、反応が充分に進行しない場合であっても、未反応の原料(すなわち、式(II)の化合物および/または式(III)の化合物)をそのままの形態で反応系内に残留させることができる。これにより、原料回収および再利用が可能となり、製造工程における生産ロスが著しく低減され得る。
【0075】
本発明における上記式(II)の化合物と式(III)の化合物との反応は、必ずしも限定されないが、好ましくは−10℃〜10℃、より好ましくは−5℃〜5℃の範囲の温度下で行われ得る。さらに、本発明における上記式(II)の化合物と式(III)の化合物との反応時間は、必ずしも限定されないが、好ましくは30分間〜12時間、より好ましくは1時間〜5時間かけて行われ得る。
【0076】
反応後、得られたビカルタミドまたはそのアナログは、必要に応じ、当業者に周知の方法および手段を用いて、有機層への抽出、洗浄、精製が行われてもよい。
【0077】
このようにして、目的のビカルタミドまたはそのアナログを良好な収率で製造することができる。
【0078】
なお、本発明では、上記式(II)の化合物としてラセミ体がそのまま使用された場合、得られた当該ビカルタミドまたはそのアナログは、当該分野において周知の光学分割方法を用いることにより、(R)−ビカルタミドのような光学活性な化合物のみを取り出すことができる。
【0079】
あるいは、本発明において上記式(II)の化合物として光学活性体が使用された場合、その絶対配置が反応を通じて引き継がれ、同様の絶対配置を有する光学活性なビカルタミドまたはそのアナログを得ることができる。このことにより、後に得られた生成物に対して光学分割などの操作が不要となり、結果として、所望の絶対配置を有するビカルタミドまたはそのアナログを効率良く製造することができる。
【実施例】
【0080】
以下、本発明を実施例によって具体的に記述する。しかし、これらによって本発明は制限されるものではない。
【0081】
<参考例1:1−ベンジルオキシ−3−[(p−フルオロフェニル)チオ]−2−メチル−2−プロパノール(4)の合成>
【0082】
【化17】

【0083】
10mLのヘキサンで3回洗った55%NaH(0.218g,4.99mmol)を6.2mLのTHFに懸濁し、10分間撹拌した。次いで、4−フルオロベンゼンチオール(0.49ml,4.59mmol)を溶媒希釈することなくそのまま滴下し、室温で90分間撹拌した。さらに、これに6.2mLのTHFに溶解した2−ベンジルオキシメチル−2−メチルオキシラン(2)(0.742g,4.16mmol;ラセミ体)を滴下し、24時間室温で撹拌した。反応混合物を飽和塩化アンモニウム水溶液で中和した後、酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した後に減圧濃縮し、粗生成物(1.25g) を得た。この粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=5:1(容量比),ゲル体積50mL)により精製して、標題の1−ベンジルオキシ−3−[(p−フルオロフェニル)チオ]−2−メチル−2−プロパノール(4)(1.25g,4.08mmol;ラセミ体)を収率98%で得た。
【0084】
本参考例で得られた化合物の分析結果を表1に示す。
【0085】
【表1】

【0086】
<参考例2:1−ベンジルオキシ−3−[(4−フルオロフェニル)スルホニル]−2−メチル−2−プロパノール(5)の合成>
【0087】
【化18】

【0088】
参考例1で得られた1−ベンジルオキシ−3−[(4−フルオロフェニル)チオ]−2−メチル−2−プロパノール(4)(1.20g,3.92mmol;ラセミ体)に、30%過酸化水素水(0.912mL,11.8mmol)を添加し、酢酸(1.79mL,31.3mmol)を氷浴下にて滴下した。この混合物を60℃にまで昇温し、24時間撹拌した。次いで、1N水酸化ナトリウム水溶液で中和し、酢酸エチルによって抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した後減圧濃縮し、粗生成物(1.38g)を得た。この粗生成物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=2:1(容量比),ゲル体積85mL)により精製して、標題の1−ベンジルオキシ−3−[(4−フルオロフェニル)スルホニル]−2−メチル−2−プロパノール(5)(1.31g,3.86mmol;ラセミ体)を収率99%で得た。
【0089】
本参考例で得られた化合物の分析結果を表2に示す。
【0090】
【表2】

【0091】
<参考例3:3−[(4−フルオロフェニル)スルホニル]−2−メチルプロパン−1,2−ジオール(6)の合成>
【0092】
【化19】

【0093】
参考例2で得られた1−ベンジルオキシ−3−[(4−フルオロフェニル)スルホニル]−2−メチル−2−プロパノール(5)(1.2020g,2.55mmol;ラセミ体)に48mLのエタノールを添加し、アルゴン気下で撹拌した。パラジウム−活性炭(176.8g,Pd10%)を添加し、水素で置換後、48時間室温で撹拌した。桐山漏斗で濾過し、濾液を濃縮した後、標題の3−[(4−フルオロフェニル)スルホニル]−2−メチルプロパン−1,2−ジオール(6)(0.8438g,3.40mmol;ラセミ体)を収率96%で得た。
【0094】
本参考例で得られた化合物の分析結果を表3に示す。
【0095】
【表3】

【0096】
<参考例4:2−ヒドロキシ−3−[(4−フルオロフェニル)スルホニル]−2−メチルプロピオン酸(7)の合成>
【0097】
【化20】

【0098】
参考例3で得られた3−[(4−フルオロフェニル)スルホニル]−2−メチルプロパン−1,2−ジオール(6)(0.844g,3.40mmol;ラセミ体)を17mLのアセトニトリル、リン酸緩衝溶液(pH6.7,0.67M,12.7mL)に溶解し、TEMPO(2,2,6,6−テトラメチル ピペラジニル−1−オキシ(0.372g,0.238mmol)を添加し、撹拌した。混合物を35℃まで加熱し、亜塩素酸ナトリウム水溶液(3.4mL,0.768g,80%,80mmol)、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(1.8mL,10%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を5mLに希釈したもの,2.0mol%)の20%をそれぞれ混合することなく添加した後、残りを1時間かけて同時に滴下した。この混合物を24時間撹拌し、TEMPO(0.372g,0.238mmol)、亜塩素酸ナトリウム水溶液(3.4mL,0.768g,80%,6.80mmol)および次亜塩素酸ナトリウム水溶液(1.8mL,10%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を5mLに希釈したもの,2.0mol%)を同様に添加し、さらに35℃にて24時間撹拌した。温度を室温にまで低下させ、25mLの水を添加し、2N水酸化ナトリウム水溶液でpH8にした。氷冷した亜硫酸ナトリウム水溶液(1.3g,10.3mmolの亜硫酸ナトリウムと20mLの水とでなる水溶液)を氷浴下にて20℃以下かつ水層のpHが8.5〜9.0の範囲となるように保持しつつ添加した後 室温で30分間撹拌した。3mLのMTBE(メチル−t−ブチル−エーテル)を用いて抽出し、有機層を取り出した。2N塩酸でpH2にしてさらにMTBEで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した後に減圧濃縮し、標題の2−ヒドロキシ−3−[(4−フルオロフェニル)スルホニル]−2−メチルプロピオン酸(7)(0.829g,3.16mmol;ラセミ体)を収率93%で得た。
【0099】
本参考例で得られた化合物の分析結果を表4に示す。
【0100】
【表4】

【0101】
<実施例1:THFを溶媒として用いる、N−[4−シアノ−3−(トリフルオロメチル)フェニル]−3−[(4− フルオロフェニル)スルホニル]−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパンアミド(1)(ビカルタミド(1))(ラセミ体)の合成(A)>
【0102】
【化21】

【0103】
参考例4で得られた2−ヒドロキシ−3−[(4−フルオロフェニル)スルホニル]−2−メチルプロピオン酸(7)(50mg,0.19mmol;ラセミ体)に0.195mLのTHFを添加し、塩化チオニル(0.140mL,1.91mmol,10当量)を0℃にて添加した。0℃で2時間撹拌し、0.223mLのTHFに溶解した4−シアノ−3−トリフルオロメチル−アニリン(42.7mg,2.29mmol)を滴下した。酢酸エチルで希釈し、炭酸水素ナトリウム飽和溶液に加えて中和した後、混合物を酢酸エチルによって抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄、硫酸ナトリウムで乾燥した後、減圧濃縮し、105.8mgの粗生成物を得た。この粗生成物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=2:1、1:1、1.2(それぞれ容量比)の順で,ゲル体積10.5mL)で精製して、標題のN−[4−シアノ−3−(トリフルオロメチル)フェニル]−3−[(4− フルオロフェニル)スルホニル]−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパンアミド(1)(74.7mg,0.174mmol;ラセミ体)(ビカルタミド)を収率91%で得た。
【0104】
本実施例で得られた化合物の分析結果を表5に示す。
【0105】
【表5】

【0106】
なお、上記反応後、反応において使用した原料(2−ヒドロキシ−3−[(4−フルオロフェニル)スルホニル]−2−メチルプロピオン酸(7))が9%残留していることを確認し、これを回収した。本実施例のまとめを表6に示す。
【0107】
<実施例2:THFを溶媒として用いる、N−[4−シアノ−3−(トリフルオロメチル)フェニル]−3−[(4− フルオロフェニル)スルホニル]−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパンアミド(1)(ビカルタミド(1))(ラセミ体)の合成(B)>
塩化チオニルの使用量を0.955mmol(5当量)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、N−[4−シアノ−3−(トリフルオロメチル)フェニル]−3−[(4− フルオロフェニル)スルホニル]−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパンアミド(1)(ビカルタミド,ラセミ体)を収率69%で得た。
【0108】
なお、上記反応後、反応において使用した原料(2−ヒドロキシ−3−[(4−フルオロフェニル)スルホニル]−2−メチルプロピオン酸(7))が21%残留していることを確認し、これを回収した。本実施例のまとめを表6に示す。
【0109】
<実施例3:THFを溶媒として用いる、N−[4−シアノ−3−(トリフルオロメチル)フェニル]−3−[(4− フルオロフェニル)スルホニル]−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパンアミド(1)(ビカルタミド(1))(ラセミ体)の合成(C)>
塩化チオニルの使用量を0.2292mmol(1.2当量)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、N−[4−シアノ−3−(トリフルオロメチル)フェニル]−3−[(4− フルオロフェニル)スルホニル]−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパンアミド(1)(ビカルタミド,ラセミ体)を収率22%で得た。
【0110】
なお、上記反応後、反応において使用した原料(2−ヒドロキシ−3−[(4−フルオロフェニル)スルホニル]−2−メチルプロピオン酸(7))が74%残留していることを確認し、これを回収した。本実施例のまとめを表6に示す。
【0111】
<比較例1:DMAを溶媒として用いる、N−[4−シアノ−3−(トリフルオロメチル)フェニル]−3−[(4− フルオロフェニル)スルホニル]−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパンアミド(1)(ビカルタミド(1))(ラセミ体)の合成(D)>
塩化チオニルの使用量を0.2292mmol(1.2当量)に変更し、かつ溶媒をTHFの代わりに同量のジメチルアセトアミド(DMA)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、N−[4−シアノ−3−(トリフルオロメチル)フェニル]−3−[(4− フルオロフェニル)スルホニル]−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパンアミド(1)(ビカルタミド,ラセミ体)を収率67%で得た。
【0112】
なお、上記反応後、反応系には上記ビカルタミド以外に、以下の式:
【0113】
【化21】

【0114】
で表される化合物が副生成物として存在していることを確認した。本比較例のまとめを表6に示す。
【0115】
【表6】

【0116】
表6に示されるように、使用した縮合剤(SOCl)の当量数によって生成されるビカルタミドの収率が大きく変化することがわかる。また、溶媒をTHFにした場合では、原料回収ができる一方で、溶媒をDMAにした場合ではこのような原料回収は困難であり、かつ不要な副生成物が合わせて生成され得ることがわかる。また、溶媒にTHFを用い、かつ縮合剤の当量数を適切に設定することにより、製造されるビカルタミドの収率を向上させることができる一方で、回収される原料もできるだけ低減され得ることがわかる。
【0117】
<参考例5:光学活性な1−ベンジルオキシ−3−[(p−フルオロフェニル)チオ]−2−メチル−2−プロパノール((R)−4)の合成>
参考例1で使用したラセミ体の2−ベンジルオキシメチル−2−メチルオキシラン(2)の代わりに、同量の(R)−2−ベンジルオキシメチル−2−メチルオキシラン(2)(100%ee)を用い、かつ得られた粗生成物をHPLC(Chiralcel ASカラム,ヘキサン:イソプロピルアルコール=90:1(容量比))を用いて精製したこと以外は、参考例1と同様にして、(R)−1−ベンジルオキシ−3−[(p−フルオロフェニル)チオ]−2−メチル−2−プロパノール((R)−4)を得た([α]22.0=5.71°(c=1.07,EtOH))。
【0118】
<参考例6:光学活性な1−ベンジルオキシ−3−[(4−フルオロフェニル)スルホニル]−2−メチル−2−プロパノール((R)−5)の合成>
参考例2で使用したラセミ体の1−ベンジルオキシ−3−[(p−フルオロフェニル)チオ]−2−メチル−2−プロパノール(4)の代わりに、参考例5で得られた同量の(R)−1−ベンジルオキシ−3−[(p−フルオロフェニル)チオ]−2−メチル−2−プロパノール((R)−4)を用いたこと以外は参考例2と同様にして、(R)−1−ベンジルオキシ−3−[(4−フルオロフェニル)スルホニル]−2−メチル−2−プロパノール((R)−5)を得た([α]18=−12.3°(c=1.12,EtOH))。
【0119】
<参考例7:光学活性な3−[(4−フルオロフェニル)スルホニル]−2−メチルプロパン−1,2−ジオール((R)−6)の合成>
参考例3で使用したラセミ体の1−ベンジルオキシ−3−[(4−フルオロフェニル)スルホニル]−2−メチル−2−プロパノール(5)の代わりに、参考例6で得られた同量の(R)−1−ベンジルオキシ−3−[(4−フルオロフェニル)スルホニル]−2−メチル−2−プロパノール((R)−5)を用いたこと以外は参考例3と同様にして、(R)−3−[(4−フルオロフェニル)スルホニル]−2−メチルプロパン−1,2− ジオール((R)−6)を得た([α]18=−5.2°(c=1.06,EtOH),融点84.0℃〜84.5℃)。
【0120】
<参考例8:光学活性な2−ヒドロキシ−3−[(4−フルオロフェニル)スルホニル]−2−メチルプロピオン酸((R)−7)の合成>
【0121】
参考例4で使用したラセミ体の3−[(4−フルオロフェニル)スルホニル]−2−メチルプロパン−1,2− ジオール(6)の代わりに、参考例7で得られた同量の(R)−3−[(4−フルオロフェニル)スルホニル]−2−メチルプロパン−1,2− ジオール((R)−6)を用いたこと以外は参考例4と同様にして、(R)−2−ヒドロキシ−3−[(4−フルオロフェニル)スルホニル]−2−メチルプロピオン酸((R)−7)を得た([α]18=−7.8°(c=1.09,EtOH),融点132.5℃〜133.5℃)。
【0122】
<実施例4:光学活性なN−[4−シアノ−3−(トリフルオロメチル)フェニル]−3−[(4− フルオロフェニル)スルホニル]−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパンアミド((R)−1)((R)−ビカルタミド)の合成>
実施例1で使用した2−ヒドロキシ−3−[(4−フルオロフェニル)スルホニル]−2−メチルプロピオン酸(7)の代わりに、参考例8で得られた同量の(R)−2−ヒドロキシ−3−[(4−フルオロフェニル)スルホニル]−2−メチルプロピオン酸((R)−7)を用い、かつ得られた粗生成物をHPLC(Chiralcel OJ−Hカラム,ヘキサン:イソプロピルアルコール=5:4(容量比))を用いて精製したこと以外は、実施例1と同様にして、(R)−N−[4−シアノ−3−(トリフルオロメチル)フェニル]−3−[(4− フルオロフェニル)スルホニル]−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパンアミド((R)−1)((R)−ビカルタミド)を得た([α]18=−72.1°(c=0.91,MeOH),融点193.0℃〜194.0℃(文献値:191℃〜193℃),100%ee)。
【0123】
上記のように、本発明の方法を用いて、前立腺肥大治療薬(抗男性ホルモン剤)として有用な(R)−ビカルタミドを、特に光学分割等の手法を用いることなく、直接合成し得たことを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明を用いて得られたビカルタミドまたはそのアナログは、例えば、前立腺肥大治療薬(抗男性ホルモン剤)またはその他の医薬品中間体として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(I):
【化1】

で表されるビカルタミドまたはそのアナログの製造方法であって、
以下の式(II):
【化2】

で表される化合物を、縮合剤および溶媒としてテトラヒドロフランの存在下、以下の式(III):
【化3】

で表される化合物と反応させる工程;
を包含し、
ここで、式(I)および式(II)において、
は、ハロゲン原子、水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいC〜Cのアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC〜Cのアルコキシ基、ニトロ基、シアノ基、−S−R10(ここで、R10は、ハロゲン原子で置換されていてもよい、直鎖状または分岐鎖状のC〜Cのアルキル基である)、−CO−R10(ここで、R10は、ハロゲン原子で置換されていてもよい、直鎖状または分岐鎖状のC〜Cのアルキル基である)、−NH、−NHC(O)−R10(ここで、R10は、ハロゲン原子で置換されていてもよい、直鎖状または分岐鎖状のC〜Cのアルキル基である)、
【化4】

(ここで、R10、R11およびR12は、それぞれ独立して、ハロゲン原子で置換されていてもよい、直鎖状または分岐鎖状のC〜Cのアルキル基である)、または−NCSであり;
は、ハロゲン原子で置換されていてもよい、C〜Cアルキル基であり;そして
は、硫黄原子、酸素原子、−NH−、または−SO−であり;そして
式(I)および(III)において、
およびRは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいC〜Cアルキル基、シアノ基、またはニトロ基である、方法。
【請求項2】
前記縮合剤が、塩化チオニルまたは1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド ヒドロクロリドである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記縮合剤が、前記式(II)で表される化合物1モルに対し、3当量から15当量の範囲の中から使用される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記式(II)で表される化合物が光学活性な化合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記式(II)で表される化合物が、以下の式(II−1):
【化5】

で表されるR体の化合物である、請求項4に記載の方法。

【公開番号】特開2007−204420(P2007−204420A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−24987(P2006−24987)
【出願日】平成18年2月1日(2006.2.1)
【出願人】(000214272)長瀬産業株式会社 (137)
【Fターム(参考)】