説明

ビス−(置換−4−キノリル)ジスルフィド類の合成方法

本発明は、ビス-(置換-4-キノリル)ジスルフィド類の合成方法に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビス-(置換-4-キノリル)ジスルフィド類の合成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
置換ビス-キノリルジスルフィド類は、抗マラリア活性を有することが知られており、また、それらの一部は分析試薬として用いられている。近年の研究によって、これらの化合物はヘリコバクター属のバクテリアに対して、選択的な抗バクテリア活性を有しており、また、Hバクテリア感染に伴う消化性潰瘍及び慢性胃炎の治療又は再発の防止に有用であることが分かっている。
【0003】
日本国特許出願95/14233, 31 Jan 1995 国際出願WO 96/23774 (Cl. C07D215/36),8 Aug 1996, CA: 125,247631h ; (日本)について参照する。この文献においては、フェリシアン化カリウムを用いて、キノリン 4(1H)-チオンをジスルフィドに酸化している。この方法は、チオン基の調製が必要なこと及び高価なフェリシアン化カリウムを用いるという欠点がある。
【0004】
Latv. PSR Zinat. Acad. Vestis, Kim. Ser. 1979, (9),181 (ロシア), CA : 91,39289c 及び Latv. PSE Zislswt. Acad Tzestis, ECim. Ser. 1979, (3), 282(ロシア), CA:91,193 129jについて参照する。この文献においては、 キノリンのクロロスルホニル誘導体が、還元反応によりチオールに転換され、酸化反応によりジスルフィドが得られる。この方法は、危険で腐食性のクロロスルホン酸の使用が必要という欠点がある。
【0005】
さらにLatv. PSR Zinat. Acad. Vestis, Kim. Ser. 1980, (4) 489(ロシア), CA: 94,15526r について参照する。この文献においては、アミノキノリンのジアゾ化の後、チオ尿素と反応させることにより、チオールを得、チオールの酸化によりジスルフィドを得る。この方法によると、困難であるジアゾ化反応が大きな注意を要する。
【0006】
また、Pharmazine 1978,33 (9), 572, CA: 89,215199v について参照する。この文献においては、クロロキノリンとチオアセトアミド又はチオ尿素との反応により、チオール誘導体を得た後、さらに酸化することにより、ジスルフィドを得る。この方法は、高温での反応を用いるという欠点がある。
【0007】
全ての先行技術における方法は、腐食性で危険なクロロスルホン酸、困難であるジアゾ化、及び高い反応温度を伴う。さらに、水性溶媒からのチオールの単離に時間がかかる。ラボでの実践可能性はあるが、商業スケールでの実現性については工程数、コスト、危険試薬の取り扱い、汚染排水の点で問題点がある。それ故、ビス-キノリルジスルフィド類の既存の調製方法は、以下の欠点がある。
1. 危険で腐食性のクロロスルホン酸の取り扱いが難しい。
2. ジアゾ化反応が大きな注意を要する。
3. 水性溶媒からのチオールの単離が面倒である。
4. 追加の酸化工程が必要になる。
5. 高い反応温度が要求される。
6. 工程数が多くなる。
【特許文献1】日本国特許出願95/14233
【非特許文献1】Latv. PSR Zinat. Acad. Vestis, Kim. Ser. 1979, (9),181 (ロシア)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の主要な目的は、置換-4-ハロキノリン及びジチオカルバミン酸のナトリウム、カリウム、又はアンモニウム塩を用いてのビス(置換-4-キノリル)ジスルフィドの製造方法を提供することであり、この方法は上述の欠点を有さない。
【0009】
本発明の別の目的は、危険なクロロスルホン酸及び追加の酸化工程を使用しないビス-(置換-4-キノリル)ジスルフィドのための方法の開発である。
【0010】
本発明の別の目的は、困難なジアゾ化及び水性溶媒からのチオールの単離を避けることである。
【0011】
本発明の更なる別の目的は、安価で危険性のないジチオカルバミン酸の塩を用いることにより、工程数を減らし、大量の汚染排水を最小限にすることである。
【0012】
本発明の更なる別の目的は、ビス-(置換-4-キノリル)ジスルフィドの調製方法であって、副生成物である2置換チオ尿素が付加価値生成物としても有用であり、方法の経済性が向上している方法を提供することである。
【0013】
本発明の更なる別の目的は、ビス-(置換-4-キノリル)ジスルフィドの調製方法であって、腐食性で危険なクロロスルホン酸の使用、ジアゾ化に要求される過剰で厳格な注意、及び水性溶媒からのチオールの単離についての困難性を必要とせず、追加の酸化工程及び高い反応温度を必要としない方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る方法は、非プロトン系溶媒においての、置換-4-ハロキノリン及びジチオカルバミン酸のナトリウム、カリウム、又はアンモニウム塩を用いてのビス-(置換-4-キノリル)ジスルフィドの、1つの容器中での(ワンポット)調製方法に有益である。更に、本方法の目的は、腐食性のクロロスルホン酸若しくは高価な酸化剤の使用又は不安定なチオール類の単離を回避することである。本発明の重要な特徴は、ジスルフィドが1段階で調製でき、多数の面倒な工程及び危険で腐食性の化学物質の使用を回避できることである。ジスルフィドの収量も高い。
【0015】
すなわち、本発明は、化学式1のビス-(置換-4-キノリル)ジスルフィドの1段階での調製方法を提供するものであり、
【化1】

(式中、
R1 は、トリフルオロ、トリクロロ、シアノ、及び置換アミドからなる群から選択され;
R2 は、アルキル、アルコキシ、ハロゲン、アルキルアミノからなる群から選択される。)
置換-4-ハロキノリンとアルキル又はアリルジチオカルバミン酸の塩を有機溶媒中で反応させることにより、上記化学式1のビス-(置換-4-キノリル)ジスルフィド及び化学式2の2置換チオ尿素を得ることを含むものをいう。
【化2】

化学式2
【0016】
本発明の一つの具体的態様によれば、置換-4-ハロキノリン中のハロゲンは、ヨウ素、臭素、塩素、及びフッ素からなる群から選ばれる。
【0017】
本発明の別の具体的態様によれば、キノリンの2位の置換基は、トリフルオロメチル、トリクロロメチル、シアノ、及び置換アミド基からなる群より選ばれる。
【0018】
本発明のさらに別の具体的態様によれば、キノリンの5、6、7、又は8位の置換基は、ハロゲン、アルキル、アルコキシ、及びアルキルアミノからなる群から選ばれる。
【0019】
本発明のさらなる具体的態様によれば、アルキル又はアリルジチオカルバミン酸の塩は、ナトリウム、カリウム、又はアンモニウム塩からなる群から選ばれる。
【0020】
本発明の別の具体的態様によれば、有機溶媒は、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、これらの混合物、及びアセトニトリルからなる群から選ばれる。
【0021】
本発明のさらなる具体的態様によれば、反応は20℃から40℃の範囲の温度で行われる。
【0022】
本発明のさらなる具体的態様によれば、反応は6から17時間の範囲の時間で行われる。
【0023】
本発明のさらに別の具体的態様によれば、化学式1のビス-(置換-4-キノリル)ジスルフィドの収率は、70から80%の範囲にある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明に係る方法は、非プロトン系溶媒においての、置換-4-ハロキノリン及びジチオカルバミン酸のナトリウム、カリウム、又はアンモニウム塩を用いてのビス-(置換-4-キノリル)ジスルフィドの、1つの容器中(ワンポット製造)での調製に有益である。更に、本方法の目的は、腐食性のクロロスルホニル塩化物若しくは高価な酸化剤の使用又は不安定なチオール類の単離を回避することである。本発明の重要な特徴は、ジスルフィドが1段階で調製され、多数の面倒な工程及び危険で腐食性の化学物質の使用が回避されることである。ジスルフィドの収率も高いものとなる。
スキーム1はビス-(置換-4-キノリル)ジスルフィドの調製を表す。
【化3】

【0025】
ビス-(置換-4-キノリル)ジスルフィドの調製についての先行技術に係る方法に関連する困難を克服するために、本発明の発明者らは極性溶媒中での置換-4-ハロキノリン及びジチオカルバミン酸のナトリウム、カリウム、又はアンモニウム塩を用いてのビス-(置換-4-キノリル)ジスルフィドの調製方法を開示する。ジスルフィドの形成は1段階で起こり、それが濾過又は抽出により単離される。
【0026】
[実施例1]ビス(2,8-トリフルオロメチルキノリル)ジスルフィド
ジメチルホルムアミド(300ml)中の(2,8-トリフルオロメチル)-4-ブロモキノリン(0.1mol)及びエチルジチオカルバミン酸のカリウム塩(0.15mol)の混合物を、20℃で10時間に渡り攪拌する。水に注いだ後、エーテルで抽出する。溶媒の留去の後、生成物をヘキサン:エーテル(90:10)の混合物を用いて単離する。収率75%。
【0027】
[実施例2]ビス(2,8-トリフルオロメチルキノリル)ジスルフィド
ジメチルホルムアミド(350ml)中に2,8-トリフルオロメチル-4-ヨードキノリン(0.1mol)を溶解し、フェニルアンモニウムジチオカルバミン酸塩(0.15mol)を15℃の温度を維持しつつ、その溶液中に加える。25℃で9時間に渡り攪拌の後、水で希釈し、エーテルで抽出する。溶媒の留去の後、残留物をトルエンで抽出する。トルエンの除去によりジスルフィドが収率80%で得られる。
【0028】
[実施例3]ビス(2-トリフルオロメチル-8-メチルキノリル)ジスルフィド
2-トリフルオロメチル-8-メチル-4-ブロモキノリン(0.1mol)のジメチルスルホキシド(300ml)溶液に、プロピルジチオカルバミン酸のナトリウム塩(0.15mol)を少しづつ加える。35℃で13時間に渡り攪拌の後、溶媒を減圧下で取り除く。残留物をトルエン:ヘキサン(60:40)の混合物で抽出する。溶媒の除去によりジスルフィドが収率76%で得られる。
【0029】
[実施例4]ビス(2-トリフルオロメチル-8-クロロキノリル)ジスルフィド
2-トリフルオロメチル-8-クロロ-4-ブロモキノリン(0.1mol)のアセトニトリル(400ml)溶液及びメチルジチオカルバミン酸のナトリウム塩(0.18mol)の混合物を32℃で17時間に渡り攪拌する。水に注いだ後、エーテルで抽出する。溶媒を取り除くことにより、粗生成物を得る。さらにエーテルで抽出することにより(100mlx4)純粋な化合物が収率75%で得られる。
【0030】
[実施例5]ビス(2-トリクロロメチル-8-トリフルオロメチル-4-キノリル)ジスルフィド
フェニルアンモニウムジチオカルバミン酸塩(0.13mol)を、少しづつ、2-トリクロロメチル-8-トリフルオロメチル-4-ブロモキノリン(0.1mol)のジメチルホルムアミド(300ml)溶液に加える。その後、混合物を室温で11時間に渡り攪拌し、溶媒を減圧下で取り除き、残留物を水に注ぐ。生成物を抽出及び結晶化により単離し、収率77%で得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式1のビス-(置換-4-キノリル)ジスルフィドの一段階製造方法であって、
【化1】

(式中、
R1 は、トリフルオロ、トリクロロ、シアノ、及び置換アミドからなる群から選択され;
R2 は、アルキル、アルコキシ、ハロゲン、アルキルアミノからなる群から選択される。)
置換-4-ハロキノリンとアルキル又はアリルジチオカルバミン酸の塩を有機溶媒中で反応させることにより、前記化学式1のビス-(置換-4-キノリル)ジスルフィド及び化学式2の2置換チオ尿素を得ることを含む一段階製造方法。
【化2】

【請求項2】
前記置換-4-ハロキノリン中のハロゲンは、ヨウ素、臭素、塩素、及びフッ素からなる群から選ばれる請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記キノリンの2位の置換基が、トリフルオロメチル、トリクロロメチル、シアノ、及び置換アミド基からなる群より選ばれる請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記キノリンの5、6、7、又は8位の置換基は、ハロゲン、アルキル、アルコキシ、及びアルキルアミノからなる群から選ばれる請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記アルキル又はアリルジチオカルバミン酸の塩が、ナトリウム、カリウム、及びアンモニウム塩からなる群から選ばれる請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記有機溶媒が、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、これらの混合物、及びアセトニトリルからなる群から選ばれる請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記反応は20℃から40℃の範囲の温度で行われる請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記反応は6から17時間の範囲の時間で行われる請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記生成物である化学式1のビス-(置換-4-キノリル)ジスルフィドの収率は、70から80%の範囲にある請求項1記載の方法。

【公表番号】特表2006−522010(P2006−522010A)
【公表日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−570090(P2004−570090)
【出願日】平成15年3月31日(2003.3.31)
【国際出願番号】PCT/IN2003/000121
【国際公開番号】WO2004/087670
【国際公開日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(595023873)カウンシル・オブ・サイエンティフィック・アンド・インダストリアル・リサーチ (69)
【Fターム(参考)】