説明

ビスフェノール類縁化合物の除去方法

【課題】 植物を用いた環境ホルモンの浄化方法を提供する。
【解決手段】 イネ科植物およびタデ科植物が有するビスフェノール類縁化合物吸収能および分解能を利用することにより、イネ科植物および/またはタデ科植物を用いて水中に含有されるビスフェノール類縁化合物を除去することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビスフェノール類縁化合物の除去方法に関するものであり、より詳細には、植物のビスフェノール類縁化合物吸収能および分解能を利用したビスフェノール類縁化合物の除去方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、野生生物の生殖障害には環境中に放出された化学物質が関与していることが懸念され、環境ホルモンに対する関心が高まっている。環境ホルモン(外因性内分泌撹乱化学物質)は、生物の体内に入ると内分泌系を撹乱し、生殖障害など健康や生態系に悪影響を与える内分泌撹乱化学物質であり、人類についても、特に胎児や乳幼児に対する悪影響が懸念されている。
【0003】
ビスフェノールAはポリカーボネートプラスチックやエポキシ樹脂から溶出する化学物質で、エストロゲン活性を示すことから、環境ホルモンとして疑われている化学物質である。環境中でビスフェノールAは、淡水表流水や淡水堆積物中に低濃度(淡水表流水:1μg/L、淡水堆積物:1100μg/kg-dry)で広範囲にわたり存在しているため、工業的な回収や分解が難しいとされている。
【0004】
従来、環境ホルモン等を含有する排水の処理には活性炭や合成高分子系の分離膜、あるいは樹脂系吸着剤が使用されてきたが、これらは使用後に新たな産業廃棄物が生じるという問題があった。また、上述のように低濃度で広範囲にわたり存在している化学物質の除去には適していない。
【0005】
一方、近年、生物を利用して環境中の有害汚染物質を除去し、環境を浄化する技術としてバイオレメディエーション(bioremediation:生物的環境浄化)が注目されている。特に植物を用いて環境汚染を浄化する技術はファイトレメディエーション(phytoremediation)と呼ばれている。
【0006】
環境ホルモンのファイトレメディエーションとして、非特許文献1にユーカリ培養細胞を用いたビスフェノールAの浄化について報告されている。この報告では、ユーカリ培養細胞にビスフェノールAを無菌的に直接投与すると、ユーカリ培養細胞はビスフェノールAを代謝し、代謝産物のエストロゲン活性は元のビスフェノールAのエストロゲン活性と比較して80%低下したことが示されている。
【非特許文献1】H.Hamada et al. Tetrahedron Lett., 43, 4087 (2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、特許文献1にはユーカリ培養細胞を利用すればビスフェノールAの分解が可能になることが示唆されているが、無菌的な培養細胞環境下での実験結果であり、実際の自然環境中に適用することは、現時点では困難である。
【0008】
自然環境に適用可能なファイトレメディエーションとしては、植物体を用いる方法が最も適していると考えられる。しかし、これまでに環境ホルモンを吸収・分解する植物についてはほとんど研究されていない。したがって、そのような作用を有する植物を見出すことができれば、自然にやさしい環境浄化方法を実現することが可能となる。
【0009】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、環境ホルモンを吸収・分解できる植物を見出し、当該植物を用いた環境浄化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、日本の主要商品作物であるイネおよび休耕田や河川敷などに自生するタデ科植物のギシギシは、水中のビスフェノールAを吸収・分解することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明に係るビスフェノール類縁化合物の除去方法は、水中に含有されるビスフェノール類縁化合物を除去する方法であって、生育しているイネ科植物および/またはタデ科植物に対して、ビスフェノール類縁化合物を含有する水を与えることにより、ビスフェノール類縁化合物を当該植物に吸収させることを特徴としている。上記植物はビスフェノール類縁化合物を吸収できるため、水中に含有されるビスフェノール類縁化合物を除去することができる。また、上記植物は吸収したビスフェノール類縁化合物を植物体内で代謝・分解できるため、ビスフェノール類縁化合物を吸収した植物が新たな汚染物となる問題が生じない。
【0012】
本発明に係るビスフェノール類縁化合物の除去方法においては、上記イネ科植物および/またはタデ科植物を、ビスフェノール類縁化合物を含有する水を用いて水耕栽培することが好ましい。水耕栽培することにより、土壌栽培より効率良く水中に含有されるビスフェノール類縁化合物を除去することができる。
【0013】
上記イネ科植物はイネであることが好ましく、上記タデ科植物はギシギシであることが好ましい。
【0014】
本発明に係るビスフェノール類縁化合物除去装置は、上記本発明に係るビスフェノール類縁化合物の除去方法を実施するための装置であって、水面に浮遊する浮遊体に上記イネ科植物および/またはタデ科植物が保持され、当該保持された植物の根部が水中に配置される構造を有することを特徴としている。上記構成により、簡便に水耕栽培を行うことができ、効率良く水中に含有されるビスフェノール類縁化合物を除去することができる。また、河川や湖沼等の水面に適用できるため、河川や湖沼等に含有されるビスフェノール類縁化合物を直接除去することが可能となる。
【0015】
本発明に係る水の浄化方法は、ビスフェノール類縁化合物に汚染された水を浄化する方法であって、生育しているイネ科植物および/またはタデ科植物に対して、ビスフェノール類縁化合物を含有する水を与えることにより、ビスフェノール類縁化合物を当該植物に吸収させることを特徴としている。上記植物はビスフェノール類縁化合物を吸収できるため、ビスフェノール類縁化合物に汚染された水を浄化することができる。
【0016】
本発明に係るビスフェノール類縁化合物除去水の製造方法は、ビスフェノール類縁化合物が除去された水の製造方法であって、生育しているイネ科植物および/またはタデ科植物に対して、ビスフェノール類縁化合物を含有する水を与えることにより、ビスフェノール類縁化合物を当該植物に吸収させるビスフェノール類縁化合物除去工程と、上記植物に与えた水を回収する回収工程とを含むことを特徴としている。上記植物はビスフェノール類縁化合物を吸収できるため、水中に含有されるビスフェノール類縁化合物を除去することができ、ビスフェノール類縁化合物が除去された水を回収すればビスフェノール類縁化合物除去水を製造することができる。
【0017】
上記ビスフェノール類縁化合物除去工程において、上記イネ科植物および/またはタデ科植物を、ビスフェノール類縁化合物を含有する水を用いて水耕栽培することが好ましい。水中のビスフェノール類縁化合物を効率良く除去でき、水の回収が容易となる。
【0018】
本発明に係るビスフェノール類縁化合物除去水製造装置は、上記本発明に係るビスフェノール類縁化合物除去水の製造方法を実施するための装置であって、水面に浮遊する浮遊体に上記イネ科植物または/および上記タデ科植物が保持され、当該保持された植物の根部が水中に配置される構造を有することを特徴としている。上記構成により、簡便に水耕栽培を行うことができ、効率良く水中に含有されるビスフェノール類縁化合物を除去することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る、ビスフェノール類縁化合物の除去方法、水の浄化方法およびビスフェノール類縁化合物除去水の製造方法は、いずれもイネ科植物および/またはタデ科植物が有するビスフェノール類縁化合物の吸収能および分解能を利用するものである。したがって、ビスフェノール類縁化合物を含有する水を用いて上記植物を栽培すればよく、大規模な施設や装置を用いる必要がないため、簡便かつ低コストで水中のビスフェノール類縁化合物を除去することができるという効果を奏する。
【0020】
また、植物が吸収したビスフェノール類縁化合物は植物体内で代謝・分解されるため、新たな汚染廃棄物が生じないという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の実施の一形態について説明すれば、以下のとおりである。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
【0022】
1.ビスフェノール類縁化合物の除去方法、水の浄化方法
本発明に係るビスフェノール類縁化合物の除去方法(以下、適宜「本除去方法」と記載する。)および本発明に係る水の浄化方法(以下、適宜「本浄化方法」と記載する。)は、生育しているイネ科植物および/またはタデ科植物に対して、ビスフェノール類縁化合物を含有する水を与えることにより、ビスフェノール類縁化合物を当該植物に吸収させるものであればよい。
【0023】
本発明者らは、ビスフェノールAを含有する水(培養液)を用いて栽培したイネ(イネ科植物)およびギシギシ(タデ科植物)が、根からビスフェノールAを吸収することを見出した。したがって、イネ科植物および/またはタデ科植物を用いれば、水中に含有されるビスフェノール類縁化合物を除去することができ、ビスフェノール類縁化合物に汚染された水を浄化することができる。
【0024】
ビスフェノール類縁化合物としては、例えば2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)や1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンなどの化合物が挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。
【0025】
イネ科植物は特に限定されるものではない。本発明に用いることができるイネ科植物としては、例えばイネ、チカラシバ、シマスズメノヒエ、アメリカスズメノヒエ、キショウスズメノヒエ、クサヨシ、ヨシ、ツルヨシ、スズメノカタビラ、ススキ、チガヤ、イヌビエ、メヒシバ、トダシバ、ギョウギシバ、カラスムギなどが挙げられる。なかでも水耕栽培が可能なイネ科植物が好ましい。
【0026】
イネは我が国の主要な商品作物であり、通常水田で栽培されるので、水中に含有されるビスフェノール類縁化合物の除去を目的とする本除去方法およびビスフェノール類縁化合物に汚染された水を浄化することを目的とする本浄化方法に用いる植物として最も適しているイネ科植物の1つである。
【0027】
また、タデ科植物も特に限定されるものではない。本発明に用いることができるタデ科植物としては、例えばイタドリ、イヌタデ、オンタデ、ソバ、スイバ、ヒメスイバ、ギシギシ、ルバーブなどが挙げられる。なかでも水耕栽培が可能なタデ科植物が好ましい。
【0028】
ギシギシは、ビスフェノール類縁化合物の汚染が存在する休耕田や河川敷などに自生する植物であるため、本除去方法および本浄化方法に用いる植物として最も適しているタデ科植物の1つである。
【0029】
生育している植物とは、現に生長している途上にある植物を意味する。より具体的には、発根後、根から水分等を吸収可能な時期の植物をいう。このような時期のイネ科植物またはタデ科植物であれば、いつでも用いることができる。本発明者らは、播種後2週間目のイネおよび播種後4週間目のギシギシを用いてビスフェノールAの除去能を確認しており、少なくともこの時期以後の植物体であれば、ビスフェノール類縁化合物を除去することが可能である。
【0030】
本除去方法および本浄化方法において、生育しているイネ科植物および/またはタデ科植物に対して、ビスフェノール類縁化合物を含有する水を与えるとは、上記イネ科植物および/またはタデ科植物の根から吸収される水が、ビスフェノール類縁化合物を含有する水であることをいう。したがって、上記イネ科植物および/またはタデ科植物をビスフェノール類縁化合物で汚染された水を含有する土壌で栽培すれば、本除去方法および本浄化方法を実施できる。
【0031】
あるいは、ビスフェノール類縁化合物に汚染している河川や湖沼等の水を上記イネ科植物および/またはタデ科植物を栽培している土壌に導入することによっても、本除去方法および本浄化方法を実施できる。
【0032】
より好ましくは、上記イネ科植物またはタデ科植物を、ビスフェノール類縁化合物を含有する水を用いて水耕栽培することである。ここで、水耕栽培とは植物の根が直接水と接する状態で栽培することをいう。すなわち植物は土壌中に含有される水ではなく、根が直接接している水を吸収して生長する。したがって、ビスフェノール類縁化合物に汚染している河川や湖沼等の水を用いて水耕栽培することにより、本除去方法および本浄化方法を実施できる。水耕栽培は、当該河川や湖沼において、その水面に水耕栽培装置等を浮遊させて行ってもよく、あるいは水耕栽培施設等に当該河川や湖沼から水を導入して行ってもよい。
【0033】
さらに、本発明者らは、上記イネ科植物またはタデ科植物に吸収されたビスフェノールAは、植物体内に蓄積されないことを確認している。したがって、ビスフェノール類縁化合物を含有する水を用いて栽培され、ビスフェノール類縁化合物を吸収した植物体を、新たな汚染廃棄物として処理する必要はない。また、イネ等の商品作物を用いた場合でも、当該植物から収穫した種子等にビスフェノール類縁化合物が蓄積していないため、商品価値が低下することはない。
【0034】
2.ビスフェノール類縁化合物除去水の製造方法
本発明に係るビスフェノール類縁化合物除去水の製造方法(以下、適宜「本製造方法」と記載する。)は、生育しているイネ科植物および/またはタデ科植物に対して、ビスフェノール類縁化合物を含有する水を与えることにより、ビスフェノール類縁化合物を当該植物に吸収させるビスフェノール類縁化合物除去工程と、上記植物に与えた水を回収する回収工程とを含むものであればよい。
【0035】
上記工程のうち、ビスフェノール類縁化合物除去工程については、上述の「1.ビスフェノール類縁化合物の除去方法、水の浄化方法」と同様であり、ここでは重複する説明を省略する。
【0036】
本製造方法のビスフェノール類縁化合物除去工程においては、上記イネ科植物および/またはタデ科植物を、ビスフェノール類縁化合物を含有する水を用いて水耕栽培することが好ましい。
【0037】
ビスフェノール類縁化合物除去工程において、ビスフェノール類縁化合物で汚染された水を含有する土壌でイネ科植物および/またはタデ科植物を栽培することや、ビスフェノール類縁化合物に汚染された水をイネ科植物および/またはタデ科植物を栽培している土壌に導入することも可能であるが、この場合、上記回収工程において容易に水を回収することが難しく、水を回収するために煩雑な操作が必要となる。したがって、上記回収工程において、容易に水を回収するためには、上記植物を水耕栽培することが好適である。
【0038】
水耕栽培は、上述のようにビスフェノール類縁化合物に汚染された河川や湖沼等の水面で直接行うことも可能であるが、ビスフェノール類縁化合物除去工程中に新たな汚染水が流入してくる可能性がある。したがって、水耕栽培は、例えばビスフェノール類縁化合物に汚染された水を導入した水槽等を用いて、新たな汚染が生じる可能性が低い条件下で行うことが好ましい。
【0039】
本製造方法の回収工程において、ビスフェノール類縁化合物除去水を回収する方法は特に限定されるものではない。例えば、水槽等を用いて水耕栽培を行った場合には、植物や水耕栽培装置を水槽から除けば、ビスフェノール類縁化合物除去水を回収することができる。また、ポンプ等を用いてビスフェノール類縁化合物除去水を別の水槽等に移すことも可能である。
【0040】
なお、ビスフェノール類縁化合物除去水とは、原料として用いた水に元々含有していたビスフェノール類縁化合物が目的の量まで減少しているものであればよく、ビスフェノール類縁化合物含量が0であることを要するものではない。したがって、ビスフェノール類縁化合物除去工程において、適宜水に含まれるビスフェノール類縁化合物量を測定すればよい。
【0041】
本製造方法により得られたビスフェノール類縁化合物除去水の用途についても特に限定されるものではない。例えば、農業用水や工業用水として好適に用いることができる。また、飲料用水の原料水としても適している。したがって、例えば本製造方法は、浄水場や飲料水製造業等にも利用可能である。
【0042】
3.ビスフェノール類縁化合物除去装置、ビスフェノール類縁化合物除去水製造装置
本発明に係るビスフェノール類縁化合物除去装置(以下、適宜「本除去装置」と記載する。)および本発明に係るビスフェノール類縁化合物除去水製造装置(以下、適宜「本製造装置」と記載する。)は、水面に浮遊する浮遊体に上記イネ科植物および/またはタデ科植物が保持され、当該保持された植物の根部が水中に配置される構造を有するものであればよい。
【0043】
以下、図面に基づいて本除去装置および本製造装置の実施形態を説明する。図1の装置は植物1を定植板2に設けた開口部3に挿入し、保持具4で植物1を開口部3にしっかりと保持させる構成となっている。これにより、定植板が水面に浮遊し、植物の根部は水中に配置される。また、図2の装置は植物1を栽培した植生ポットを定植板2の開口部3に挿入する構成となっている以外は図1の装置と同じである。
【0044】
植物1はイネ科植物またはタデ科植物である。定植板2は水面に浮かべておくものであるから、なるべく軽くかつ浮力の大きいものがよく、例えば発泡スチロールなどが使用される。定植板2の大きさは限定されるものではない。図1の装置の定植板2には開口部3が4個設けてあり、図2の装置の定植板2には開口部3が1個設けてあるが、これに限定されるものではなく、定植板の大きさに応じて適当な数の開口部を設ければよい。
【0045】
保持具4は植物1または植生ポット5が開口部3にしっかりと保持させるためのアダプターである。保持具4の素材は特に限定されるものではなく、例えばフィルム状の合成樹脂やゴム等を植物1または植生ポット5に巻きつけて開口部3に密着させればよい。
【0046】
植生ポット5は、根部が植生ポット5の底部から外部に出やすい構造になっており、定植板2に装着して水面に浮かべたときに、根部が水中に配置されるものであればよい。
【0047】
図3は図1の装置を水面に浮かべた状態を示している。定植板2が水面に浮遊し、植物1の根部が水中に配置されている。図3では定植板2に浮体6を連結させた装置を示している。浮体6は定植板2を水面で安定させるために使用する。浮体6は内部が中空状で空気が密閉状態に封入されるものであればよい。定植板2と浮体6とは適当な結合部材を用いて連結すればよい。また、定植板2と連結した浮体6を介して、もう1つの定植板2を結合すれば、浮体6は定植板2の連結部材として用いることもできる。
【0048】
また、図示していないが、図1または図2の装置を河川や湖沼で用いる場合、水流により装置が移動することを防止するための部材を付加することが好ましい。例えば、定植板2にロープ等を介して錘を取り付け、当該錘を水底に沈めておくことにより、装置の移動を防止することができる。また、定植板2にロープ等を取り付け、ロープ等の端を陸上の固定物に固定することも可能である。
【0049】
また、定植板2の底部にネットを取り付け、植物1の根部が水中に垂れ下がらずネットに絡むようにしてもよい。このようにすれば、魚等の水生動物によって根部が損傷することを防止することができる。
【0050】
図4には、上記図1または図2の装置を用いたビスフェノール類縁化合物除去水の製造システムを示している。このシステムでは、河川や湖沼等からビスフェノール類縁化合物で汚染された水をポンプ11を用いて水槽10に送る。ポンプ11と水槽10との間には給水バルブ12を設けている。水槽10に上記装置を浮遊させ、イネ科植物および/またはタデ科植物を水耕栽培する。その後ビスフェノール類縁化合物が除去された水を、排水バルブ13を設けた排水管を通して回収槽等に回収する。これにより、ビスフェノール類縁化合物除去水を製造することができる。
【0051】
なお、上記システムを構成する水槽10、ポンプ11、給水バルブ12、排水バルブ13等の各部材や手段は公知のものを用いることができ、その具体的な構成は特に限定されるものではない。
【0052】
なお本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0053】
〔実施例1〕
イネまたはギシギシの種子を2.5%次亜塩素酸ナトリウム溶液で滅菌した後、滅菌水ですすぎ、滅菌水中で一晩4℃に置いた。1%ショ糖および0.3%ゲランガムを含むMS培地に種子を播種し、25℃、16時間明期/8時間暗期の条件下で、イネは2週間、ギシギシは4週間培養した。
【0054】
2週間目のイネまたは4週間目のギシギシの植物体を、1000mg/kg fresh weight ビスフェノールAを加えた5mLの0.01%ハイポネクス溶液(以下、「培養液」と称する。)に1個体ずつ移植した。15〜21日間培養を続け、その間3日ごとに培養液中のビスフェノールA含量をHPLCで測定した。また、その間、1週間ごとにイネおよびギシギシの植物体内に含まれるビスフェノールAの量をHPLCで測定した。
【0055】
培養中のビスフェノールA含量は、培養液を直接HPLCに供し、分析した。
【0056】
植物体内ビスフェノールA分析用サンプルは以下のように調製した。すなわち、イネ100mg生重量またはギシギシ200mg生重量を液体窒素で凍結後、乳鉢にて破砕した。これを2mLエッペンチューブに移し200μLのメタノールを添加した。20分静置したあと遠心分離(15000rpm 5min)し、上清をHPLC分析用サンプルとした。
【0057】
HPLC分離検出条件は以下の通りである。
Waters 2690 HPLC システム
カラム:X-Terra MS C18
サンプル量:10μL
分離液:35 % アセトニトリル
流速:1mL / min(一定)
内標準として4-isopropyl phenol(4-IP)を200μMの濃度で添加。
277nm 吸光度で ビスフェノールAと4-IPを検出
15分間測定
培養液中のビスフェノールA含量の変化を図5に示した。図5から明らかなように、イネおよびギシギシともに、培養開始後徐々に培養液中のビスフェノールA含量は減少した。イネでは培養開始21日後に培養液中のビスフェノール含量は10%にまで減少した。また、ギシギシでは培養開始15日後に培養液中のビスフェノール含量はほぼ0になった。
【0058】
図6に培養開始7日後、14日後および21日後におけるイネ内のビスフェノールAの測定結果を示した。また、図7に培養開始7日後および14日後におけるギシギシ内のビスフェノールAの測定結果を示した。図6および図7に示しているのは、いずれもHPLCのチャートのピーク部分である。図6から明らかなように、イネ内のビスフェノールAは、経時的に減少し、培養開始21日後にはほとんど検出されなかった。また、図7から明らかなように、ギシギシ内のビスフェノールAは、培養開始14日後にはほとんど検出されなかった。
【0059】
以上の結果から、イネおよびギシギシは培養液中のビスフェノールAを根から吸収し、速やかに分解することが示唆された。
【0060】
〔実施例2〕
上記実施例1と同様の方法で培養した2週間目のイネまたは4週間目のギシギシの植物体を、500、1000、2000mg/kg fresh weightビスフェノールAを加えた5mLの0.01%ハイポネクス溶液(培養液)に1個体ずつ移植した。21日間培養を続け、21日目に培養液中のビスフェノールA含量をHPLCで測定した。培養液中のビスフェノールAの減少量を植物体が吸収したビスフェノールA量とみなした。
【0061】
イネの結果を図8に示した。また、ギシギシの結果を図9に示した。図8および図9から明らかなように、培養液中のビスフェノールAの量が増加すると、イネおよびギシギシが吸収するビスフェノールAの量も増加し、両者は直線的な正の相関関係にあることが明らかとなった。
【0062】
〔実施例3〕
環境中のビスフェノールAの濃度に相当する、1μg/LのビスフェノールAを含む0.01%ハイポネクス溶液(培養液)1Lに10g生重量のイネまたはギシギシを移植して15日間吸収実験を行った。15日後、培養液1Lに対して100mL のジクロロメタンを用いて液−液抽出をした。ジクロロメタン層を回収した後、エバポレーターを用いて乾燥させ、200μLの滅菌水で残渣を溶解して分析用サンプルとした。
【0063】
結果を図10に示した。図10から明らかなように、コントロール(植物を栽培していない培養液)からはビスフェノールAのピークが検出されたが、イネを栽培した培養液およびギシギシを栽培した培養液からは、ビスフェノールAのピークが検出されなかった。
【0064】
以上の結果から、環境中の汚染水に含まれる程度のビスフェノールAであれば、イネまたはギシギシはほぼ完全に吸収・分解できることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、公共事業、環境産業、農業、園芸産業等に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明に係るビスフェノール類縁化合物除去装置または本発明に係るビスフェノール類縁化合物除去水製造装置の一実施形態を示す斜視図である。
【図2】本発明に係るビスフェノール類縁化合物除去装置または本発明に係るビスフェノール類縁化合物除去水製造装置の他の実施形態を示す斜視図である。
【図3】本発明に係るビスフェノール類縁化合物除去装置または本発明に係るビスフェノール類縁化合物除去水製造装置の使用状態を示す側面図である。
【図4】本発明に係るビスフェノール類縁化合物除去水製造装置を用いたビスフェノール類縁化合物除去水の製造システムを示す模式図である。
【図5】イネまたはギシギシを栽培した培養液中のビスフェノールA含量の変化を示すグラフである。
【図6】イネ内のビスフェノールAの変化を示す図である。
【図7】ギシギシ内のビスフェノールAの変化を示す図である。
【図8】イネによるビスフェノールAの吸収量と、ビスフェノールAの培養液への添加量との相関を示すグラフである。
【図9】ギシギシによるビスフェノールAの吸収量と、ビスフェノールAの培養液への添加量との相関を示すグラフである。
【図10】環境レベルのビスフェノールAを含む培養液でイネまたはギシギシを栽培したときの、培養液中のビスフェノール含量を測定した結果を示す図である。
【符号の説明】
【0067】
1 植物
2 定植板
3 開口部
4 保持具
5 植生ポット
6 浮体
10 水槽
11 ポンプ
12 給水バルブ
13 排水バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中に含有されるビスフェノール類縁化合物を除去する方法であって、
生育しているイネ科植物および/またはタデ科植物に対して、ビスフェノール類縁化合物を含有する水を与えることにより、ビスフェノール類縁化合物を当該植物に吸収させることを特徴とするビスフェノール類縁化合物の除去方法。
【請求項2】
上記イネ科植物および/またはタデ科植物を、ビスフェノール類縁化合物を含有する水を用いて水耕栽培することを特徴とする請求項1に記載のビスフェノール類縁化合物の除去方法。
【請求項3】
上記イネ科植物はイネである請求項1または2に記載のビスフェノール類縁化合物の除去方法。
【請求項4】
上記タデ科植物はギシギシである請求項1または2に記載のビスフェノール類縁化合物の除去方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載のビスフェノール類縁化合物の除去方法を実施するための装置であって、
水面に浮遊する浮遊体に上記イネ科植物および/またはタデ科植物が保持され、当該保持された植物の根部が水中に配置される構造を有することを特徴とするビスフェノール類縁化合物除去装置。
【請求項6】
ビスフェノール類縁化合物に汚染された水を浄化する方法であって、
生育しているイネ科植物および/またはタデ科植物に対して、ビスフェノール類縁化合物を含有する水を与えることにより、ビスフェノール類縁化合物を当該植物に吸収させることを特徴とする水の浄化方法。
【請求項7】
ビスフェノール類縁化合物が除去された水の製造方法であって、
生育しているイネ科植物および/またはタデ科植物に対して、ビスフェノール類縁化合物を含有する水を与えることにより、ビスフェノール類縁化合物を当該植物に吸収させるビスフェノール類縁化合物除去工程と、
上記植物に与えた水を回収する回収工程とを含むことを特徴とするビスフェノール類縁化合物除去水の製造方法。
【請求項8】
上記ビスフェノール類縁化合物除去工程において、上記イネ科植物および/またはタデ科植物を、ビスフェノール類縁化合物を含有する水を用いて水耕栽培することを特徴とする請求項7に記載のビスフェノール類縁化合物除去水の製造方法。
【請求項9】
請求項7または8に記載のビスフェノール類縁化合物除去水の製造方法を実施するための装置であって、
水面に浮遊する浮遊体に上記イネ科植物または/および上記タデ科植物が保持され、当該保持された植物の根部が水中に配置される構造を有することを特徴とするビスフェノール類縁化合物除去水製造装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2006−43643(P2006−43643A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−231604(P2004−231604)
【出願日】平成16年8月6日(2004.8.6)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】