説明

ビス四級アンモニウム塩コア型デンドリマー

【課題】デンドリマー固定型金属触媒の原料として有用であり、イオン交換法に基づく触媒金属の二座固定化が可能な、デンドリマーのコア部にビス四級アンモニウム塩骨格を有するビス四級アンモニウム塩コア型デンドリマーを提供する。
【解決手段】下記一般式(I)


[式中、Rは炭化水素基、Tはハロゲン原子、mは1以上の整数、sは0〜2の整数、tは1〜3の整数であって、かつs+t=3であり、Gは一般式(II)


(式中、Rは炭化水素基、nは1以上の整数を示す)で表される基である]で表されるビス四級アンモニウム塩コア型デンドリマー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なビス四級アンモニウム塩コア型デンドリマー、及びこのものを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
デンドリマーは中心核から周囲に樹木状に枝分かれした分子構造を有し、コアと呼ばれる中心部分とデンドロンと呼ばれる枝分かれ繰り返し部分、及び末端基から構成され、分子構造及び分子サイズを高度に制御することが可能な高分子化合物である。この特異な構造に着目し、近年デンドリマーの様々な部位に官能基を導入することにより、機能性高分子としての利用が試みられている(非特許文献1参照)。
【0003】
デンドリマーに触媒機能をもたせることもその1つで、既にこれまでに多くのデンドリマー固定化触媒が開発され、その殆どはデンドリマー分子の最外殻に触媒を固定化したものや中心核に触媒を固定化したものである(非特許文献2、3参照)。
【0004】
例えば代表的なデンドリマー固定化有機金属触媒として、デンドリマーの末端に導入したジアミンを二座配位子としたデンドリマー固定化ニッケル錯体触媒(非特許文献4参照)、デンドリマーのコア部に導入したビスオキサゾリン骨格を二座配位子としたデンドリマー固定化銅(II)トリフラート触媒(非特許文献5、6参照)などが挙げられる。
【0005】
またデンドリマー固定化有機金属触媒は、そのサイズがナノレベル故、ナノ空孔を有する分離膜を用いる膜分離や、高分子量のため再沈殿による、ろ別回収により、簡便な触媒のリサイクルも可能となる(非特許文献7、8参照)。これよりデンドリマーの特異な構造に起因する新規触媒の設計が求められ、触媒金属の固定化が可能な配位子をコア部に有するデンドリマーや、イオン交換に基づく触媒金属の固定化が可能な四級アンモニウム塩骨格をコア部に有するデンドリマー等の簡便な製造法の開発が要望されている。
【0006】
近年酸化活性を有するOsO2−、MnOやRuO等のMOm−イオンの四級アンモニウム塩とのイオン交換に基づく固定化により、新規有機基修飾酸化剤やポリマー固定型酸化触媒が開発されており、MOm−イオンのイオン交換に基づく固定化の有効性が報告されている(非特許文献9、10、11参照)。一方、四級アンモニウム塩骨格をコア部に有するデンドリマーはこれまで報告されていない。
【0007】
【非特許文献1】「デンドリティック高分子」、2005年、p.75(エヌ・ティ−・エス)
【非特許文献2】「デンドリマー・キャタリシス(Dendrimer Catalysis)」、2006年、p.1(Springer)
【非特許文献3】「化学工業」、2001年、第52巻、p.933
【非特許文献4】「ネイチャー(Nature)」、1994年、第372巻、p.659
【非特許文献5】「マクロモレキュールズ(Macromolecules)」、1997年、第30巻、p.1228
【非特許文献6】「テトラヘドロン・レターズ(Tetrahedron Lett.)」、2003年、第44巻、p.3535
【非特許文献7】「ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサイアティー(J.Am.Chem.Soc.)」、1996年、第118巻、p.11111
【非特許文献8】「ケミカル・コミュニケーション(Chem.Commum.)」、2000年、p.789
【非特許文献9】「ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサイアティー(J.Am.Chem.Soc.)」、2001年、第123巻、p.9220
【非特許文献10】「フォスフォラス・サルファー・アンド・シリコン(Phosphorus.Sulfer and Silicon)」、2007年、第182巻、p.485
【非特許文献11】「ケミストリー・レターズ(Chem.Lett.)」、2007年、第5巻、p.632
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような事情のもとでなされたものであり、デンドリマー固定型金属触媒の原料として有用であり、イオン交換法に基づく触媒金属の二座固定化が可能な、デンドリマーのコア部にビス四級アンモニウム塩骨格を有するビス四級アンモニウム塩コア型デンドリマーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記したビス四級アンモニウム塩コア型デンドリマーについて鋭意研究を重ねた結果、溶媒中において鎖状のジアミンまたはピペラジン類縁体と、特定の構造のデンドロンとを反応させると、新規なビス四級アンモニウム塩コア型デンドリマーが容易に得られること、そしてこのビス四級アンモニウム塩コア型デンドリマーのうちのある種のものは、イオン交換に基づく二座固定化により、新規デンドリマー型金属触媒の製造に有用であることを見出し、これらの知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、この出願は以下の発明が提供するものである。
(1) 一般式(I)
【化1】

[式中、Rは炭化水素基、Tはハロゲン原子、mは1以上の整数、sは0〜2の整数、tは1〜3の整数であって、かつs+t=3であり、Gは一般式(II)
【化2】

(式中、Rは炭化水素基、nは1以上の整数を示す)
で表される基である]
で表されるビス四級アンモニウム塩コア型デンドリマー。
(2) 一般式(III)
【化3】

[式中、Rは炭化水素基、Tはハロゲン原子、(x,y)=(0,2)及び(1,1)の中から選ばれる組み合わせであり、Gは一般式(II)
【化4】

(式中、Rは炭化水素基、nは1以上の整数を示す)
で表される基である]
で表されるビス四級アンモニウム塩コア型デンドリマー。
(3) 一般式(IV)
【化5】

(式中、Rは炭化水素基、mは1以上の整数、sは0〜2の整数、uは0〜2の整数であって、かつs+u=2である)
で表されるジアミンと、一般式(V)
【化6】

(式中、Rは炭化水素基、Tはハロゲン原子、nは1以上の整数を示す)
で表されるハロ置換デンドロンとを、必要に応じ塩基を存在させ溶媒中で反応させることを特徴とする一般式(I)
【化7】

[式中、Rは炭化水素基、Tはハロゲン原子、mは1以上の整数、sは0〜2の整数、tは1〜3の整数であって、かつs+t=3であり、Gは一般式(II)
【化8】

(式中、Rは炭化水素基、nは1以上の整数を示す)
で表される基である]
で表されるビス四級アンモニウム塩コア型デンドリマーの製造方法。
(4) 一般式(VI)
【化9】

(式中、Rは炭化水素基、(x,z)=(0,1)及び(1,0)の中から選ばれる組み合わせである)
で表されるジアミンと、一般式(V)
【化10】

(式中、Rは炭化水素基、Tはハロゲン原子、nは1以上の整数を示す)
で表されるハロ置換デンドロンとを、必要に応じ塩基を存在させ溶媒中で反応させることを特徴とする一般式(III)
【化11】

[式中、Rは炭化水素基、Tはハロゲン原子、(x,y)=(0,2)及び(1,1)の中から選ばれる組み合わせであり、Gは一般式(II)
【化12】

(式中、Rは炭化水素基、nは1以上の整数を示す)
で表される基である]
で表されるビス四級アンモニウム塩コア型デンドリマーの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る前記一般式(I)及び一般式(III)で表されるビス四級アンモニウム塩コア型デンドリマーは、触媒金属の二座固定化支持体として有用であり、調製されるデンドリマー固定型オスミウム触媒は酸化触媒として有効であり、たとえばこのものは溶媒中において、効率的にオレフィンのジヒドロキシル化反応を促進させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の新規なビス四級アンモニウム塩コア型デンドリマーは、下記一般式(I)
【化13】

[式中、Rは炭化水素基、Tはハロゲン原子、mは1以上の整数、sは0〜2の整数、tは1〜3の整数であって、かつs+t=3であり、Gは一般式(II)
【化14】

(式中、Rは炭化水素基、nは1以上の整数を示す)
で表される基である]
及び、下記一般式(III)
【化15】

[式中、Rは炭化水素基、Tはハロゲン原子、(x,y)=(0,2)及び(1,1)の中から選ばれる組み合わせであり、Gは一般式(II)
【化16】

(式中、Rは炭化水素基、nは1以上の整数を示す)
で表される基である]
で表される。
【0013】
これらのデンドリマーについて、前記式中の置換基における各符号で示される内容を具体的に説明することにより、それらの構造をさらに明らかにする。まず一般式(I)について示す。
【0014】
(1)R及びRは炭化水素基を表し、炭化水素基は、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基及びアラルキル基の中から選ばれる基である。
アルキル基は、その炭素数が1〜10であり、直鎖状、分岐鎖状のいずれであってもよい。具体的には、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、i−ペンチル、t−ペンチル、へキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デカニルなどの基を挙げることができる。
シクロアルキル基は、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル基等を挙げることができる。
アリール基は、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基である。
芳香族炭化水素としては、ベンゼン、ビフェニル、テルフェニル、ナフタレン、アントラセン等を挙げることができる。置換基としてはアルキル基等が挙げられ、また2以上の置換基を有していて差し支えない。アルキル基としては炭素数1から3のアルキル基であり、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基を挙げることができる。アラルキル基は側鎖としてアルキル基を持つ芳香族炭化水素の側鎖から1個の水素原子が失われた構造であり、ベンジル基、フェネチル基等である。
(2)Tはハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素及びヨウ素)を示す。
(3)mは1以上の整数で好ましくは1〜10である。
(4)繰り返し構造の世代数nは1以上の整数を示すが、好ましくは1〜6である。
符号Gで表わされる基の一例として、n=3の場合について示すと次のとおりである。
−CH−C−[O−CH−C−[O−CH−C−(O−R
【0015】
前記一般式(I)のデンドリマーにおいて、繰り返し構造は一般式(VII)で表される。
【化17】

また、一般式(III)におけるRも、前述したR及びR同様の炭化水素基を示す。
【0016】
本発明のビス四級アンモニウム塩コア型デンドリマー(I)は、たとえば、一般式(IV)
【化18】

(式中、Rは炭化水素基、mは1以上の整数、sは0〜2の整数、uは0〜2の整数であって、かつs+u=2である)
で表されるジアミンと、一般式(V)
【化19】

(式中、Rは炭化水素基、Tはハロゲン原子、nは1以上の整数を示す)
で表されるハロ置換デンドロンとを、必要に応じ塩基を存在させ溶媒中で反応させることにより製造することができる。
【0017】
また、本発明のビス四級アンモニウム塩コア型デンドリマー(III)は、たとえば、
一般式(VI)
【化20】

(式中、Rは炭化水素基、(x,z)=(0,1)及び(1,0)の中から選ばれる組み合わせである)
で表されるジアミンと、一般式(V)
【化21】

(式中、Rは炭化水素基、Tはハロゲン原子、nは1以上の整数を示す)
で表されるハロ置換デンドロンとを、必要に応じ塩基を存在させ溶媒中で反応させることにより製造することができる。
【0018】
これらの製法では窒素原子が、ハロゲン原子に隣接する炭素原子上に求核攻撃するため、N−ベンジル化(デンドロン導入)が逐次進行し、最終的にビス四級アンモニウム塩コア型デンドリマーが製造される。
【0019】
用いる塩基としては、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられるが、その中でも炭酸カリウムが好ましい。ただし、一般式(IV)で示されるもののうち(s,u)=(2,0)の組み合わせのもの、及び一般式(VI)で示されるもののうち(x,z)=(1,0)の組み合わせのものは、三級アミンとハロ置換デンドロンより四級アンモニウム塩を製造する段階のみであるため、塩基を必要としない。
また、用いる塩基の使用量については、必ずしも限定する必要はないが、一般的には、導入されるデンドロン1モルあたり1〜3モル、好ましくは1〜1.3モルの範囲の塩基が用いられる。ここでいう“導入されるデンドロン”には、三級アミンより四級アンモニウム塩の合成において導入されるデンドロンは含まれない。
反応溶媒としてはジアミンとハロ置換デンドロンを程よく溶解できるものであり、かつ反応に関与しないものが用いられる。具体的にはN,N−ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、アセトン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素等が好ましく、これらの溶媒は単独または混合溶媒の形で使用される。その中でも好ましい反応溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミドやアセトニトリルやこれらの混合溶媒が挙げられる。
この溶媒を用いてジアミンとハロ置換デンドロンとの反応を行うに際しては、好ましくは、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下、ジアミンとハロ置換デンドロンとを溶媒に添加して得られる溶液に必要量の塩基を加えた後、十分に攪拌しながら反応させる。
【0020】
反応条件については、反応温度は好ましくは室温ないし160℃の範囲であるが、それぞれの溶媒の沸点により上限が異なる。また反応時間は、反応温度及び使用する溶媒等のその他の条件により異なり一概に定めることはできないが、好ましくは2〜50時間程度である。
また、ハロ置換デンドロンの使用量については、必ずしも限定する必要はないが、一般的には、導入されるハロ置換デンドロン1モルあたり1〜3モル、好ましくは1〜1.3モルの範囲のハロ置換デンドロンが用いられる。
【0021】
反応終了後、溶媒及び未反応物質を分離除去することにより反応生成物が得られ、H−NMR測定より目的物の生成が確認される。
本反応により、一段階で目的とするビス四級アンモニウム塩コア型デンドリマーを製造することができる。
【0022】
本発明の一般式(I)および一般式(III)で表されるビス四級アンモニウム塩コア型デンドリマーはイオン交換に基づき、酸化活性を有するMOm−イオン等を固定化することが可能であり、二座固定化により新規デンドリマー型金属触媒が製造される。この1例について以下に説明する。
【0023】
アルゴン雰囲気下、前記二座支持体としてのビス四級アンモニウム塩コア型デンドリマー(I)または(III)それぞれと、オスミウム(VI)酸カリウムとを、溶媒中で反応させることにより、一般式(VIII)
【化22】

(式中、R、G、m、s及びtは、前記と同じ意味を示す。)
または、一般式(IX)
【化23】

(式中、R、G、x及びyは、前記と同じ意味を示す。)
で表される、デンドリマーコア部のビス四級アンモニウム塩骨格で二座固定化されたデンドリマー固定化オスミウム(VI)酸塩それぞれを製造することができる。
【0024】
この反応は溶媒に所定のビス四級アンモニウム塩コア型デンドリマーを溶解させ、オスミウム(VI)酸カリウムを添加して行われる。溶媒としては、通常、有機溶媒好ましくはこれと水との混合溶媒が用いられる。有機溶媒としてはクロロホルム等のハロゲン化炭化水素溶媒が好ましく用いられる。
また反応は、格別加熱することなく、室温程度で進行させることができるが、加熱により促進させるようにしてもよい。また反応中、反応液は液液二層故激しく攪拌する。
反応終了後、有機溶媒層を抽出し溶媒の減圧留去により目的物であるデンドリマー固定化オスミウム(VI)酸塩が得られる。
【0025】
このように、上記オスミウム(VI)酸イオンは、二座固定化支持体としての上記デンドリマーによるイオン交換により固定化される。このデンドリマー固定化オスミウム(VI)酸塩を用いることにより、オレフィンのジヒドロキシル化反応が進行するから、本デンドリマー固定化オスミウムは、新規可溶性ナノサイズ触媒として有用である。
【0026】
本発明の一般式(VIII)で表されるデンドリマー固定化オスミウム(VI)酸塩をこのような酸化触媒として用いた反応の1例について、以下に説明する。
前記触媒としてのデンドリマー固定化オスミウム(VI)酸塩と共酸化剤存在下に、一般式
【化24】

(式中、R、R、R及びRは、水素原子又は炭化水素基であって、これらのうち2つ以上が炭化水素基の場合、いずれか2つは互いに結合して環を形成してもよい)
で表されるオレフィンを溶媒中で反応させ、一般式
【化25】

(式中、R、R、R及びRは前記と同じ意味を示す)
で表されるジオール体を製造することができる。
上記炭化水素基は特に限定されず、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基等が挙げられる。
【0027】
また、この反応は、通常、溶媒に触媒、原料物質及び共酸化剤を溶解させて行われる。共酸化剤には通常N−メチルモルホリンN−オキシド、フェリシアン化カリウム、過酸化水素、t−ブチルヒドロペルオキシド等が用いられる。溶媒には通常有機溶媒、好ましくはこれと水との混合溶媒が用いられる。有機溶媒として好ましくはアセトン、アセトニトリル、ジオキサン、t−ブチルアルコール等が単独もしくは組み合わせて用いられる。
また反応は、格別加熱することなく、室温程度で進行させることができるが、加熱により促進させるようにしてもよい。反応中、反応液は攪拌するのがよい。
反応終了後、反応液を減圧留去し、このもののクロロホルム等の濃厚溶液をメタノール等のアルコールに滴下し、再沈殿させることにより、デンドリマー固定型オスミウム触媒の回収、リサイクルが可能である。またアルコール液を濃縮しカラムクロマトグラフィーによる分離精製により目的物質を得ることができる。
【0028】
鎖状ポリマーの側鎖にイオン交換によりオスミウムを固定化したポリマー固定型オスミウム触媒は、デンドリマー同様に反応溶媒に溶解するが、反応終了後の再沈殿等のプロセスにおいて触媒が分解し黒変し、触媒のリサイクルは達成されない。一方デンドリマー固定型オスミウム触媒の場合、触媒活性部位がデンドリマーに覆われているため、触媒活性が低下することなく、リサイクルが実現される点が本触媒の利点といえる。
またデンドリマーの世代数を大きくすることによりナノフィルター(NF膜)での濾別分離が可能となる。そのため本触媒の液相膜反応器(メンブレンリアクター)への適用により、触媒のリサイクルによる連続反応化が可能となり、省エネ型化学プロセスが達成されるため、本デンドリマー固定型オスミウム触媒は触媒反応プロセスの省エネ化に資する可能性を有する。
【0029】
このように、前記一般式(I)及び一般式(III)で表されるビス四級アンモニウム塩コア型デンドリマーは、触媒金属の二座固定化支持体として有用であり、調製されるデンドリマー固定型オスミウム触媒を用いることにより溶媒中において効率的に、オレフィンのジヒドロキシル化反応を促進させることができる。
【実施例】
【0030】
次に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例により何ら限定されるものではない。
【0031】
実施例1
アルゴン雰囲気下、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン32.1mgのアセトニトリル溶液(7ml)に、以下の構造式
【化26】

で表されるデンドロン1.013gのN,N−ジメチルホルムアミド溶液(7ml)を加え、75℃にて24時間攪拌した。
反応後、反応液をセライト濾過し、次いで濾液を減圧下で溶媒を留去し、得られた粗生成物のクロロホルム濃厚液をメタノール中に滴下し、再沈殿により目的物を得た(淡黄色固体、収量822.9mg、収率86.9%)。
このものの核磁気共鳴スペクトル分析と元素分析の結果は次の通りである。
H−NMR(400MHz,CDCl)δ/ppm 7.40−7.20(m,80H),6.69(brs,4H),6.65(d,8H,J=1.9Hz),6.61(d,16H,J=2.1Hz),6.58(brs,2H),6.49(t,8H,J=2.0Hz),6.47(brs,4H),4.91(s,32H),4.89(s,8H),4.86(s,16H),4.68(s,2H),4.54(s,2H),2.96(s,16H)
元素分析:C 75.48%、H 5.69%、N 0.61%、Br 4.74%(測定値)。C 75.64%、H 5.82%、N 0.82%、Br 4.66%(計算値)。
これらの分析結果より、この生成物は以下の構造式で表される化合物と同定された。
【化27】

【0032】
実施例2
アルゴン雰囲気下、N,N’−ジメチルエチレンジアミン22.0mgと以下の構造式
【化28】

で表されるデンドロン1.263gのN,N−ジメチルホルムアミド溶液(10ml)に、室温にて炭酸カリウム103.4mgを加え、75℃にて40時間攪拌した。
反応後、反応液をセライト濾過し、次いで濾液を減圧下で溶媒を留去し、得られた粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(酢酸エチル:メタノール=10:1)で精製した(淡黄色固体、収量392.1mg、収率49.6%)。
このものの核磁気共鳴スペクトル分析と元素分析の結果は次の通りである。
H−NMR(400MHz,CDCl)δ/ppm 7.36(d,32H,J=7.0Hz),7.31(t,32H,J=7.3Hz),7.28−7.22(m,16H),6.75(d,8H,J=1.9Hz),6.66(d,16H,J=2.2Hz),6.63(t,4H,J=1.9Hz),6.48(t,8H,J=2.1Hz),4.97(s,32H),4.95(s,16H),4.82(s,8H),2.85(s,10H)
元素分析:C 76.12%、H 5.79%、N 0.70%、Br 5.05%(測定値)。C 76.08%、H 5.81%、N 0.89%、Br 5.06%(計算値)。
これらの分析結果より、この生成物は以下の構造式で表される化合物と同定された。
【化29】

【0033】
実施例3
アルゴン雰囲気下、ピペラジン22.5mgと以下の構造式
【化30】

で表されるデンドロン506.8mgのN,N−ジメチルホルムアミド溶液(10ml)に、室温にて炭酸カリウム71.2mgを加え、80℃にて47時間攪拌した。
反応後、反応液をセライト濾過し、次いで濾液を減圧下で溶媒を留去し、得られた粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(酢酸エチル:メタノール=10:1)で精製した(淡黄色固体、収量192.6mg、収率52.6%)。
このものの核磁気共鳴スペクトル分析と元素分析の結果は次の通りである。
H−NMR(400MHz,CDCl)δ/ppm 7.40(d,16H,J=7.3Hz),7.32(t,16H,J=7.5Hz),7.29−7.22(m,8H),6.80(d,8H,J=2.2Hz),6.67(t,4H,J=2.0Hz),5.05(s,16H),4.90(s,8H),2.90(s,8H)
元素分析:C 71.87%、H 5.96%、N 1.87%、Br 10.99%(測定値)。C 72.52%、H 5.81%、N 1.92%、Br 10.97%(計算値)。
これらの分析結果より、この生成物は以下の構造式で表される化合物と同定された。
【化31】

【0034】
実施例4
アルゴン雰囲気下、ピペラジン20.6mgと以下の構造式
【化32】

で表されるデンドロン1.004gのN,N−ジメチルホルムアミド溶液(4ml)に、室温にて炭酸カリウム69.7mgを加え、80℃にて18時間攪拌した。
反応後、反応液をセライト濾過し、次いで濾液を減圧下で溶媒を留去し、得られた粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(酢酸エチル:メタノール=10:1)で精製した(淡黄色固体、収量177.4mg、収率23.5%)。
このものの核磁気共鳴スペクトル分析と元素分析の結果は次の通りである。
H−NMR(400MHz,CDCl)δ/ppm 7.36(d,32H,J=7.0Hz),7.31(t,32H,J=7.4Hz),7.28−7.22(m,16H),6.75(d,8H,J=1.9Hz),6.66(d,16H,J=2.2Hz),6.63(brs,4H),6.48(t,8H,J=2.1Hz),4.97(s,32H),4.95(s,16H),4.82,(s,8H),2.85(s,8H)
元素分析:C 75.88%、H 5.75%、N 0.86%、Br 5.19%(測定値)。C 76.13%、H 5.75%、N 0.89%、Br 5.06%(計算値)。
これらの分析結果より、この生成物は以下の構造式で表される化合物と同定された。
【化33】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化1】

[式中、Rは炭化水素基、Tはハロゲン原子、mは1以上の整数、sは0〜2の整数、tは1〜3の整数であって、かつs+t=3であり、Gは一般式(II)
【化2】

(式中、Rは炭化水素基、nは1以上の整数を示す)
で表される基である]
で表されるビス四級アンモニウム塩コア型デンドリマー。
【請求項2】
一般式(III)
【化3】

[式中、Rは炭化水素基、Tはハロゲン原子、(x,y)=(0,2)及び(1,1)の中から選ばれる組み合わせであり、Gは一般式(II)
【化4】

(式中、Rは炭化水素基、nは1以上の整数を示す)
で表される基である]
で表されるビス四級アンモニウム塩コア型デンドリマー。
【請求項3】
一般式(IV)
【化5】

(式中、Rは炭化水素基、mは1以上の整数、sは0〜2の整数、uは0〜2の整数であって、かつs+u=2である)
で表されるジアミンと、一般式(V)
【化6】

(式中、Rは炭化水素基、Tはハロゲン原子、nは1以上の整数を示す)
で表されるハロ置換デンドロンとを、必要に応じ塩基を存在させ溶媒中で反応させることを特徴とする一般式(I)
【化7】

[式中、Rは炭化水素基、Tはハロゲン原子、mは1以上の整数、sは0〜2の整数、tは1〜3の整数であって、かつs+t=3であり、Gは一般式(II)
【化8】

(式中、Rは炭化水素基、nは1以上の整数を示す)
で表される基である]
で表されるビス四級アンモニウム塩コア型デンドリマーの製造方法。
【請求項4】
一般式(VI)
【化9】

(式中、Rは炭化水素基、(x,z)=(0,1)及び(1,0)の中から選ばれる組み合わせである)
で表されるジアミンと、一般式(V)
【化10】

(式中、Rは炭化水素基、Tはハロゲン原子、nは1以上の整数を示す)
で表されるハロ置換デンドロンとを、必要に応じ塩基を存在させ溶媒中で反応させることを特徴とする一般式(III)
【化11】

[式中、Rは炭化水素基、Tはハロゲン原子、(x,y)=(0,2)及び(1,1)の中から選ばれる組み合わせであり、Gは一般式(II)
【化12】

(式中、Rは炭化水素基、nは1以上の整数を示す)
で表される基である]
で表されるビス四級アンモニウム塩コア型デンドリマーの製造方法。

【公開番号】特開2010−6733(P2010−6733A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−166856(P2008−166856)
【出願日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】