説明

ビス(フルオロスルホニル)イミドの製造方法

【課題】炭酸ガスの発生と反応熱を制御しつつ、連続的な生産が可能なビス(フルオロスルホニル)イミドの製造方法を提供する。
【解決手段】一般的な材質の反応容器が使用可能なビス(フルオロスルホニル)イミドの製造方法であって、フルオロ硫酸と尿素とを三酸化硫黄の存在下で反応させることにより、炭酸ガスの発生と反応熱を制御しつつ、従来よりも低い反応温度で速やかにビス(フルオロスルホニル)イミドを製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビス(フルオロスルホニル)イミドの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ビス(フルオロスルホニル)イミド((FSONH)は、イオン導伝材料やイオン液体のアニオン源として有用な物質であることが知られている。そして、ビス(フルオロスルホニル)イミドの製造方法としては、下記の特許文献1及び特許文献2、並びに非特許文献1及び非特許文献2が知られている。
【0003】
具体的に、非特許文献1には、尿素(CO(NH)とフルオロ硫酸(FSOH)とを混合した後に加熱して反応させる方法が開示されている。これにより、下記反応式(1)に示すような化学反応が生じ、ビス(フルオロスルホニル)イミド、硫酸アンモニウム(NHHSO)、フッ化水素(HF)及び炭酸ガス(CO)が生成される。生成したビス(フルオロスルホニル)イミド及び過剰に投入したフルオロ硫酸は減圧蒸留で回収することができる。
【0004】
【化1】

【0005】
また、非特許文献2には、ビス(クロロスルホニル)イミド((ClSONH)と三フッ化ヒ素(AsF)とを反応させる方法が開示されている。これにより、下記反応式(2)に示すような化学反応が生じ、ビス(フルオロスルホニル)イミド及び三塩化ヒ素(AsCl)が生成される。
【0006】
【化2】

【0007】
さらに、特許文献1及び特許文献2には、ビス(クロロスルホニル)イミドとフッ化カリウム(KF)とを反応させる方法が開示されている。これにより、下記反応式(3)に示すような化学反応が生じ、ビス(フルオロスルホニル)イミドと塩化カリウム(KCl)とが生成される。ここで、特許文献1に記載の方法では、ニトロメタン溶媒中でビス(クロロスルホニル)イミドをフッ化カリウムでフッ素置換する。一方、特許文献2に記載の方法では、有機溶媒中で塩基性触媒の存在下、ビス(クロロスルホニル)イミドをフッ化カリウムでフッ素置換する。
【0008】
【化3】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2004−522681号公報
【特許文献2】特開2007−182410号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Chem.Ber.95,246〜8(1962) アッペル及びアイゼンハウアー(Appel &Eisenhauer)
【非特許文献2】Inorg.Synth.11,138〜43(1968)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、ビス(フルオロスルホニル)イミドの製造方法として、尿素とフルオロ硫酸とを用いる方法は、反応工程が短く、原料も安価であるため工業的に有利である。しかしながら、非特許文献1に開示されているビス(フルオロスルホニル)イミドの製造方法では、反応初期には炭酸ガスが発生せず(これを「反応の蓄積」という)、反応途中から急激な炭酸ガスの発生と、激しい発熱とを伴う反応であるため、暴走的に反応が進行してしまうという問題があった。また、上記反応式(1)に示すように、生成したフッ化水素が反応系に存在するため、ガラス製や金属製等の一般的な材質の反応容器では腐食してしまう。このため、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製等の特別な素材の反応容器を用いる必要があり、生産コストが上昇するという問題があった。したがって、非特許文献1に記載の方法は、工業的に実施することが困難であった。
【0012】
また、非特許文献2、特許文献1及び特許文献2に開示されているビス(フルオロスルホニル)イミドの製造方法では、原料であるビス(クロロスルホニル)イミドの工業的な入手が困難であるという問題があった。さらに、非特許文献2に開示されているビス(フルオロスルホニル)イミドの製造方法では、原料である三フッ化ヒ素が高価であり、毒性が強いために取り扱いが困難であるという問題があった。
【0013】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、炭酸ガスの発生と反応熱を制御しつつ、一般的な材質の反応容器が使用可能なビス(フルオロスルホニル)イミドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するために、本発明は以下の構成を採用した。
[1] フルオロ硫酸と尿素とを三酸化硫黄の存在下で反応させることを特徴とするビス(フルオロスルホニル)イミドの製造方法。
[2] 反応容器内にフルオロ硫酸と三酸化硫黄とを予め投入して加熱し、前記反応容器に尿素を添加して反応させる工程を備えることを特徴とする前項1に記載のビス(フルオロスルホニル)イミドの製造方法。
[3] 第1のフルオロ硫酸に尿素を反応させることなく混合して、未反応混合液を調製する工程と、
反応容器内に予め投入された第2のフルオロ硫酸を加熱し、前記反応容器に前記未反応混合液を滴下して反応させる工程を備え、
前記未反応混合液及び前記反応容器内のいずれか一方又は両方に三酸化硫黄を添加することを特徴とする前項1に記載のビス(フルオロスルホニル)イミドの製造方法。
[4] 前記反応容器中の反応温度が、50〜100℃の範囲であることを特徴とする前項1乃至3のいずれか一項に記載のビス(フルオロスルホニル)イミドの製造方法。
[5] 三酸化硫黄が、尿素の質量部に対して0.1〜10倍の範囲であることを特徴とする前項1乃至4のいずれか一項に記載のビス(フルオロスルホニル)イミドの製造方法。
[6] 前記反応容器が、ガラス製又は金属製であることを特徴とする前項2乃至5のいずれか一項に記載のビス(フルオロスルホニル)イミドの製造方法。
[7] フルオロ硫酸と尿素と三酸化硫黄とを50℃以下で混合して、混合液を調製する工程と、
加熱している反応容器に前記混合液を供給し、少なくともビス(フルオロスルホニル)イミドを含む反応液を生成する工程と、
前記反応容器から前記反応液を回収する工程と、を備えることを特徴とする前項1に記載のビス(フルオロスルホニル)イミドの製造方法。
[8] 前記反応容器中の反応温度が、50〜100℃の範囲であることを特徴とする前項7に記載のビス(フルオロスルホニル)イミドの製造方法。
[9] 三酸化硫黄が、尿素の質量部に対して0.1〜10倍の範囲であることを特徴とする前項7又は8に記載のビス(フルオロスルホニル)イミドの製造方法。
[10] 前記反応容器が、ガラス製又は金属製であることを特徴とする前項7乃至9のいずれか一項に記載のビス(フルオロスルホニル)イミドの製造方法。
[11] 前記反応容器への前記混合液の供給速度は、1時間当たりの前記尿素の供給量が当該反応容器に含まれる反応液の重量の15%以下とすることを特徴とする前項7乃至10のいずれか一に記載のビス(フルオロスルホニル)イミドの製造方法。
[12] 前記混合液中の前記フルオロ硫酸が、当該混合液中に溶解している前記尿素の質量部に対して2〜10倍の範囲であることを特徴とする前項7乃至11のいずれか一項に記載のビス(フルオロスルホニル)イミドの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明のビス(フルオロスルホニル)イミドの製造方法によれば、フルオロ硫酸と尿素とを三酸化硫黄の存在下で反応させることにより、炭酸ガスの発生と反応熱を制御しつつ、従来よりも低い反応温度で速やかにビス(フルオロスルホニル)イミドを製造することができる。
また、反応中に水が副生しないため、一般的な材質の反応容器を用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のビス(フルオロスルホニル)イミドの製造方法は、フルオロ硫酸と尿素とを三酸化硫黄の存在下で反応させることを特徴とする。
以下、本発明を適用した実施形態の一例について詳細に説明する。
【0017】
<第1の実施形態>
本発明を適用した第1の実施形態であるビス(フルオロスルホニル)イミドの製造方法は、反応容器内にフルオロ硫酸と三酸化硫黄とを予め投入して加熱し、前記反応容器に尿素を添加して反応させる工程(添加反応工程)を備えて概略構成されている。以下、具体的に説明する。
【0018】
(添加反応工程)
添加反応工程では、先ず、反応容器内にフルオロ硫酸と三酸化硫黄とを予め投入して加熱する。次に、加熱している上記反応容器に尿素粉末を添加する。このようにして、フルオロ硫酸と尿素とを三酸化硫黄の存在下で反応させる。
【0019】
ここで、予め加熱するフルオロ硫酸の量は、添加する尿素の質量部に対して2〜10倍とすることが好ましく、3〜8倍とすることがより好ましい。フルオロ硫酸の量が添加する尿素の質量部に対して10倍を超えると経済的に無駄である。
【0020】
本実施形態では、反応容器内においてフルオロ硫酸に三酸化硫黄が予め添加される。そして、この反応容器内に尿素が添加され、高温のフルオロ硫酸と接触することにより、尿素とフルオロ硫酸との反応が三酸化硫黄の存在下で速やかに進行する。このように、加熱しているフルオロ硫酸に尿素を添加しながら三酸化硫黄の存在下で順次反応させることによって、炭酸ガスの発生と反応熱を制御することができる。さらに、未反応の尿素が反応系内に残存することを抑制することもできる。したがって、急激な炭酸ガスの発生および激しい発熱を伴って、反応が暴走的に進行することがない。
【0021】
本実施形態の反応機構は、下記式(4)示すような化学反応によって、ビス(フルオロスルホニル)イミド、フルオロ硫酸アンモニウム、スルファミン酸及び二酸化炭素が生成していると推測される。
【0022】
【化4】

【0023】
本実施形態の反応機構によれば、上記式(4)に示すように、水は生成しない。わずかに水が副生した場合であっても添加された三酸化硫黄と反応して硫酸となるため、反応系内に水が残存することがなく、上記反応の際にフッ化水素が生成しないと考えられる。このため、反応容器の腐食を防止することを目的として、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製の反応容器等を用いる必要がない。したがって、ガラス製や金属製等の一般的な材質の反応容器を用いることができる。
【0024】
ここで、予め添加する三酸化硫黄の量は、滴下する尿素の質量部に対して0.1〜10倍とすることが好ましく、0.5〜3倍とすることがより好ましい。三酸化硫黄の添加量が滴下する尿素の質量部に対して10倍を超えると経済的に無駄である。
【0025】
また、本実施形態の製造方法では、三酸化硫黄の存在下でフルオロ硫酸と尿素とを反応させるため、従来であれば、反応の蓄積が起こりやすい100℃以下の反応温度でビス(フルオロスルホニル)イミドを安全に製造することができる。
【0026】
具体的には、尿素粉末を添加中のフルオロ硫酸の反応温度が、50〜100℃の範囲であることが好ましく、60〜90℃の範囲であることがより好ましい。反応温度が50℃未満であると、反応が極めて遅くなるために好ましくない。一方、100℃を超えると三酸化硫黄が揮発してしまうために好ましくない。したがって、予め加熱するフルオロ硫酸及び三酸化硫黄の温度は、例えば50〜100℃に加熱しておくことが好ましい。
【0027】
なお、本明細書において反応の蓄積とは、上述した非特許文献1に開示されているビス(フルオロスルホニル)イミドの製造方法で見られる、反応初期には炭酸ガスが発生しない現象をいう。この反応の蓄積が確認されると、その後、反応途中から急激な炭酸ガスの発生と激しい発熱とを伴って、暴走的に反応が進行してしまうため、安全面の問題が生じる。
【0028】
以上説明したように、本実施形態のビス(フルオロスルホニル)イミドの製造方法によれば、反応容器内にフルオロ硫酸と三酸化硫黄とを予め投入して加熱し、この反応容器に尿素粉末を添加することにより、フルオロ硫酸と尿素とを三酸化硫黄の存在下で反応させる構成となっている。これにより、炭酸ガスの発生と反応熱を制御しながらビス(フルオロスルホニル)イミドを製造することができる。
【0029】
また、フルオロ硫酸と尿素とを三酸化硫黄の存在下で反応させるため、反応系内に水が残存することがない。これにより、フッ化水素が反応系内で生成するおそれがないため、ガラス製や金属製等の一般的な材質の反応容器を用いることができる。
【0030】
<第2の実施形態>
本発明を適用した第2の実施形態であるビス(フルオロスルホニル)イミドの製造方法は、第1のフルオロ硫酸に尿素を反応させることなく混合して、未反応混合液を調製する工程(調製工程)と、反応容器内に予め投入された第2のフルオロ硫酸を加熱し、反応容器に上記未反応混合液を滴下して反応させる工程(滴下反応工程)を備えている。そして、上記未反応混合液及び上記反応容器内のいずれか一方又は両方に三酸化硫黄を添加することを特徴としている。以下、各工程について具体的に説明する。
【0031】
(調製工程)
先ず、フルオロ硫酸に尿素を反応させることなく混合して、尿素とフルオロ硫酸との未反応混合液(以下、未反応混合液という)を調製する。未反応混合液の調製は、例えば0〜30℃に冷却しているフルオロ硫酸に、尿素を少量ずつ添加することで容易に調製することができる。ここで、フルオロ硫酸の温度が100℃よりも高いと添加した尿素とフルオロ硫酸との反応が進行してしまう。したがって、本発明の調製工程では、尿素とフルオロ硫酸とを反応させずに混合して、フルオロ硫酸に尿素を溶解させることが重要である。
【0032】
尿素を溶解させるフルオロ硫酸(第1のフルオロ硫酸)の量は、添加する尿素の質量部に対して2〜10倍とすることが好ましく、3〜8倍とすることがより好ましい。フルオロ硫酸の量が添加する尿素の質量部に対して2倍未満であると、尿素がフルオロ硫酸に溶解せずに析出してしまうため、好ましくない。一方、フルオロ硫酸の量が添加する尿素の質量部に対して10倍を超えると経済的に無駄である。
ところで、第1の実施形態では、尿素粉末を添加しているが、尿素粉末は吸湿性が高いため目詰まりを生じるなど、取り扱いが困難となる場合がある。これに対して、このようにして調製された未反応混合液は、常温で安定性も良く、取り扱いも非常に容易である。
【0033】
(滴下反応工程)
次に、反応容器内に予め投入された第2のフルオロ硫酸を加熱する。
ここで、本実施形態では、上記未反応混合液及び上記反応容器内のいずれか一方又は両方に三酸化硫黄を添加することを特徴としている。次に、反応容器中の加熱しているフルオロ硫酸に上記未反応混合液を滴下して、尿素とフルオロ硫酸とを反応させる。本発明では、上記調製工程によって尿素を予めフルオロ硫酸に溶解しており、上記未反応混合液及び上記反応容器内のいずれか一方又は両方に三酸化硫黄を添加していることとなる。そして、フルオロ硫酸に溶解した尿素が反応容器内に滴下されて高温のフルオロ硫酸に接触することにより、尿素とフルオロ硫酸との反応が三酸化硫黄の存在下で速やかに進行する。このように、フルオロ硫酸に溶解した尿素を滴下しながら順次反応させることによって、炭酸ガスの発生と反応熱を制御することができる。したがって、急激な炭酸ガスの発生および激しい発熱を伴って、反応が暴走的に進行することがない。
【0034】
ここで、上記未反応混合液及び上記反応容器内のいずれか一方又は両方に予め添加する三酸化硫黄の量は、添加する尿素の質量部に対して0.1〜10倍とすることが好ましく、0.5〜3倍とすることがより好ましい。三酸化硫黄の添加量が添加する尿素の質量部に対して10倍を超えると経済的に無駄である。
【0035】
予め加熱するフルオロ硫酸(第2のフルオロ硫酸)の量は、上記未反応混合液中に溶解している尿素の質量部に対して1〜20倍とすることが好ましく、1〜10倍とすることがより好ましい。フルオロ硫酸の量が添加する尿素の質量部に対して20倍を超えると経済的に無駄である。
【0036】
なお、本実施形態の反応機構は、上述した第1の実施形態と同様である。また、本実施形態においても、ガラス製や金属製等の一般的な材質の反応容器を用いることができる。
また、未反応混合液を滴下中のフルオロ硫酸の反応温度は、50〜100℃の範囲であることが好ましく、60〜90℃の範囲であることがより好ましい。反応温度が50℃未満であると、反応の蓄積が起こりやすくなるために好ましくない。一方、100℃を超えると三酸化硫黄が揮発してしまうために好ましくない。
【0037】
以上説明したように、本実施形態のビス(フルオロスルホニル)イミドの製造方法によれば、第1のフルオロ硫酸に尿素を反応させることなく混合して未反応混合液を調製する工程と、予め反応容器内に投入された第2のフルオロ硫酸を加熱し、この反応容器に上記未反応混合液を滴下して反応させる工程とを備え、上記未反応混合液及び上記反応容器内のいずれか一方又は両方に三酸化硫黄を添加することにより、フルオロ硫酸と尿素とを三酸化硫黄の存在下で反応させる構成となっている。これにより、第1の実施形態と同様の効果が得られる。
また、本実施形態では、尿素を未反応混合液として取り扱うため、常温で安定性も良く、取り扱いも非常に容易である。
【0038】
<第3の実施形態>
本発明を適用した第3の実施形態であるビス(フルオロスルホニル)イミドの製造方法は、フルオロ硫酸と尿素と三酸化硫黄とを混合して調製する工程(調製工程)と、加熱している反応容器に上記混合液を供給し、少なくともビス(フルオロスルホニル)イミドを含む反応液を生成する工程(反応・生成工程)と、上記反応容器から上記反応液を回収する工程(回収工程)と、を備えて概略構成されている。以下、各工程について具体的に説明する。
【0039】
(調製工程)
先ず、フルオロ硫酸、尿素、三酸化硫黄の混合液を調製する。混合液の調製は、50℃未満でフルオロ硫酸に、尿素と三酸化硫黄とを少量ずつ添加することで容易に調製することができる。
【0040】
尿素を溶解させるフルオロ硫酸の量は、添加する尿素の質量部に対して2〜10倍とすることが好ましく、3〜8倍とすることがより好ましい。フルオロ硫酸の量が添加する尿素の質量部に対して2倍未満であると、尿素がフルオロ硫酸に溶解せずに析出してしまうため、好ましくない。一方、フルオロ硫酸の量が添加する尿素の質量部に対して10倍を超えると経済的に無駄である。
【0041】
また、添加する三酸化硫黄の量は、尿素の質量部に対して0.1〜10倍とすることが好ましく、0.5〜3倍とすることがより好ましい。三酸化硫黄の添加量が滴下する尿素の質量部に対して10倍を超えると経済的に無駄である。
【0042】
(反応・生成工程)
次に、加熱している反応容器に上記混合液を供給して、少なくともビス(フルオロスルホニル)イミドを含む反応液を生成させる。本発明では、上記調製工程によって尿素と三酸化硫黄とを予めフルオロ硫酸に溶解していることとなる。そして、フルオロ硫酸に溶解した尿素を、反応容器中に供給し、高温のフルオロ硫酸又はビス(フルオロスルホニル)イミドと接触させることにより、尿素とフルオロ硫酸との反応が三酸化硫黄の存在下で速やかに進行する。このように、フルオロ硫酸に溶解した尿素と三酸化硫黄とを、加熱している反応容器に供給しながら順次反応させることによって、炭酸ガスの発生と反応熱を制御することができる。したがって、急激な炭酸ガスの発生および激しい発熱を伴って、反応が暴走的に進行することがない。また、反応系にフッ化水素が存在することがないため、ガラス製や金属製の反応容器を用いた場合でも腐食されることがない。
なお、本実施形態の反応機構は、上述した第1及び第2の実施形態と同様である(上記式(4)を参照)。
【0043】
ここで、加熱している反応容器中には、供給された混合液中の尿素が速やかにフルオロ硫酸と反応して生成した、ビス(フルオロスルホニル)イミドを含む反応液が存在することになる。
すなわち、上記反応液とは、上記式(4)に示すように、生成したビス(フルオロスルホニル)イミドと、副生したフルオロ硫酸アンモニウム及びスルファミン酸と、未反応のフルオロ硫酸と、からなるスラリー状の混合液である。したがって、反応容器内を撹拌しながら反応させることが好ましい。
【0044】
なお、反応開始時には、反応容器を予めフルオロ硫酸で満たし、所定の温度に加熱しておくことが好ましい。
【0045】
反応容器への上記混合液を供給中の、当該反応容器中のフルオロ硫酸と尿素と三酸化硫黄の存在下での反応温度(すなわち、反応容器中に生成している反応液の温度)が、50〜100℃の範囲であることが好ましく、60〜90℃の範囲であることがより好ましい。ここで、反応温度が50℃未満であると、反応の蓄積が起こりやすくなるために好ましくなく、100℃を超えると三酸化硫黄が揮発してしまうために好ましくない。
【0046】
反応容器への上記混合液の供給速度は、1時間当たりの混合液中の尿素の供給量が、反応容器に含まれる反応液の重量に対して15%以下とすることが好ましい。ここで、1時間当たりの供給量が、反応液の重量に対して15%を超えると、未反応の原料が系外に排出されてしまい、収率が低下してしまうため好ましくない。これに対して、供給速度が上記範囲内であると、供給された混合液が反応容器に滞留している間に反応が完結するため、未反応の原料が系外に排出されることがない。
また、反応容器への上記混合液の供給方法は、特に限定されるものではなく、上記供給速度に応じて適宜選択することができる。具体的には、例えば、定量ポンプによる滴下、タンクなどからの滴下、圧送等が挙げられる。
【0047】
(回収工程)
次に、上記反応・生成工程が開始され、反応容器内の反応液が所定量に達した後、上記反応容器から上記反応液を回収する。反応容器からの反応液の回収方法は、反応容器から反応液を定量的に抜き出せる方法であれば、限定されるものではない。上記方法としては、例えば、反応容器に排出管を設けたオーバーフロー方式、定量ポンプによる抜き出し等が挙げられる。
このように、反応容器への混合液の供給により生成した、ビス(フルオロスルホニル)イミドと、副生したフルオロ硫酸のアンモニウム塩及びスルファミン酸と、未反応のフルオロ硫酸とを含むスラリー状の反応液を連続的に排出させることにより、長時間安定して反応を続けることが可能となる。
【0048】
また、本実施形態のビス(フルオロスルホニル)イミドの製造方法では、回収工程により、反応容器中の反応液を連続的に系外に排出するため、従来のバッチ式の製造方法と比較して小型の反応容器を用いることができる。これにより、反応装置全体の小型化が可能となるため、経済性においても優れる。
【0049】
以上説明したように、本実施形態のビス(フルオロスルホニル)イミドの製造方法によれば、フルオロ硫酸と尿素とを三酸化硫黄の存在下で反応させるため、第1及び第2の実施形態と同様の効果が得られる。
【0050】
また、本実施形態のビス(フルオロスルホニル)イミドの製造方法によれば、予め尿素及び三酸化硫黄をフルオロ硫酸の混合液を調製し、別に加熱している反応容器にこの混合液を供給して、少なくともビス(フルオロスルホニル)イミドを含む反応液を生成するとともに、反応容器から上記反応液を回収するという構成を有している。これにより、炭酸ガスの発生と反応熱を制御しつつ、ビス(フルオロスルホニル)イミドを連続的に製造することができる。
【0051】
また、本実施形態のビス(フルオロスルホニル)イミドの製造方法によれば、反応容器を予め加熱して反応容器中での反応温度を所定の温度範囲となるように制御するとともに、反応容器に混合液の供給速度を所定の範囲に制御することにより、供給された混合液が反応容器に滞留している間に反応が完結するため、未反応の原料が系外に排出されて収率が低下してしまうことがない。したがって、イオン伝導材料及びイオン液体のアニオン源として有用な物質であるビス(フルオロスルホニル)イミドを安全かつ容易に製造することができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例によって本発明の効果をさらに詳細に説明する。なお、本発明は実施例によって、なんら限定されるものではない。
【0053】
(実施例1)
攪拌機、温度計を備えた3Lのガラス製の反応器にフルオロ硫酸1.6kgを仕込み、冷却しながら尿素400gを少量ずつ添加し、尿素のフルオロ硫酸溶液を調製した。
攪拌機、温度計を備えた100mLのガラス製反応器に、材質がSUS304からなるテストピースを容器内に入れ、フルオロ硫酸5g、三酸化硫黄8gを仕込み、加熱した。
50℃で還流している反応器に、尿素のフルオロ硫酸溶液を30分かけて15g滴下した。滴下と同時にCOガスの発生が確認され、また反応の進行に伴って還流が収まり、滴下終了時の反応温度は80℃に達した。
滴下終了後、速やかに冷却し、反応液を水に溶解して19F−NMRにて分析を行った。
その結果、51.4ppmにビス(フルオロスルホニル)イミドのピークが確認された。また、内部標準添加法によるビス(フルオロスルホニル)イミドの尿素基準の収率は、46%であった。
また、使用後のガラス製反応器には重量減少が見られず、SUS304製のテストピースにおいても、腐食が発生していないことが目視にて確認された。
【0054】
(実施例2)
攪拌機、温度計を備えた3Lのガラス製反応器に、三酸化硫黄800gを仕込み、0〜10℃で、実施例1と同様に調製した尿素のフルオロ硫酸溶液2kgを滴下した。
攪拌機、温度計、ガス流量計を備えた500mLのSUS304製の反応器を90℃で加熱しているところへ、上記混合液を400g/Hrの速度で滴下した。混合溶液を500g滴下した頃から反応器に備え付けられた排出管から反応液の排出が確認され、その後は定量的に反応液を排出し続けた。滴下中の反応器中の反応温度は、80〜90℃を保っていた。混合溶液の滴下は7時間続けて行い、合計2.8kg(尿素400g)を滴下した。反応液を室温まで冷却後、水に溶解し、19F−NMRにて分析を行った。その結果、51.4ppmにビス(フルオロスルホニル)イミドのピークが確認された。内部標準添加法によりビス(フルオロスルホニル)イミドの尿素基準の収率は42%であった
【0055】
(比較例1)
攪拌機、温度計を備えた100mLのガラス製反応器に、材質がSUS304からなるテストピースを容器内に入れ、フルオロ硫酸5gを仕込み、80℃に加熱した。
次に、反応器に実施例1と同様に調製した尿素のフルオロ硫酸溶液を30分かけて15g滴下した。尿素のフルオロ硫酸溶液を全て滴下しても溶液内に結晶の析出はみられなかった。また、COガスの発生も確認できなかったが、そのままの温度で反応を48時間行った。
冷却後、反応液を水に溶解し、19F−NMRにて分析を行った。
その結果、51.4ppmにビス(フルオロスルホニル)イミドのピークが確認された。また、内部標準添加法によるビス(フルオロスルホニル)イミドの尿素基準の収率は、18%であった。
また、使用後のガラス製反応器には重量減少が見られ、SUS304製のテストピースにおいても、激しい腐食が発生していることが目視にて確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルオロ硫酸と尿素とを三酸化硫黄の存在下で反応させることを特徴とするビス(フルオロスルホニル)イミドの製造方法。
【請求項2】
反応容器内にフルオロ硫酸と三酸化硫黄とを予め投入して加熱し、前記反応容器に尿素を添加して反応させる工程を備えることを特徴とする請求項1に記載のビス(フルオロスルホニル)イミドの製造方法。
【請求項3】
第1のフルオロ硫酸に尿素を反応させることなく混合して、未反応混合液を調製する工程と、
反応容器内に予め投入された第2のフルオロ硫酸を加熱し、前記反応容器に前記未反応混合液を滴下して反応させる工程を備え、
前記未反応混合液及び前記反応容器内のいずれか一方又は両方に三酸化硫黄を添加することを特徴とする請求項1に記載のビス(フルオロスルホニル)イミドの製造方法。
【請求項4】
前記反応容器中の反応温度が、50〜100℃の範囲であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のビス(フルオロスルホニル)イミドの製造方法。
【請求項5】
三酸化硫黄が、尿素の質量部に対して0.1〜10倍の範囲であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のビス(フルオロスルホニル)イミドの製造方法。
【請求項6】
前記反応容器が、ガラス製又は金属製であることを特徴とする請求項2乃至5のいずれか一項に記載のビス(フルオロスルホニル)イミドの製造方法。
【請求項7】
フルオロ硫酸と尿素と三酸化硫黄とを50℃以下で混合して、混合液を調製する工程と、
加熱している反応容器に前記混合液を供給し、少なくともビス(フルオロスルホニル)イミドを含む反応液を生成する工程と、
前記反応容器から前記反応液を回収する工程と、を備えることを特徴とする請求項1に記載のビス(フルオロスルホニル)イミドの製造方法。
【請求項8】
前記反応容器中の反応温度が、50〜100℃の範囲であることを特徴とする請求項7に記載のビス(フルオロスルホニル)イミドの製造方法。
【請求項9】
三酸化硫黄が、尿素の質量部に対して0.1〜10倍の範囲であることを特徴とする請求項7又は8に記載のビス(フルオロスルホニル)イミドの製造方法。
【請求項10】
前記反応容器が、ガラス製又は金属製であることを特徴とする請求項7乃至9のいずれか一項に記載のビス(フルオロスルホニル)イミドの製造方法。
【請求項11】
前記反応容器への前記混合液の供給速度は、1時間当たりの前記尿素の供給量が当該反応容器に含まれる反応液の重量の15%以下とすることを特徴とする請求項7乃至10のいずれか一に記載のビス(フルオロスルホニル)イミドの製造方法。
【請求項12】
前記混合液中の前記フルオロ硫酸が、当該混合液中に溶解している前記尿素の質量部に対して2〜10倍の範囲であることを特徴とする請求項7乃至11のいずれか一項に記載のビス(フルオロスルホニル)イミドの製造方法。

【公開番号】特開2012−36039(P2012−36039A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177700(P2010−177700)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(597065282)三菱マテリアル電子化成株式会社 (151)