説明

ビタミンB6の製造

3−無置換、3−モノ置換または3,3−ジ置換の9−アシルオキシ−1,5−ジヒドロ−8−メチルピリド[3,4−e][1,3]ジオキセピン(I)を製造する方法、および、任意的にピリドキシンを製造する方法であって、溶媒および触媒の実質的な非存在下で、4−メチル−5−アルコキシ−オキサゾール(II)と、2−無置換、2−モノ置換または2,2−ジ置換の4,7−ジヒドロ−(1,3)−ジオキセピン(III)と、の付加反応を実施することによって、主生成物である、適切なディールス−アルダー付加物(IV)と、副生成物である、適切な3−無置換、3−モノ置換または3,3−ジ置換の1,5−ジヒドロ−8−メチルピリド[3,4−e][1,3]ジオキセピン9−オール(V)と、から本質的になる生成混合物を得る工程と、未反応の出発物質であるオキサゾールおよびジオキセピンの大部分を生成混合物から減圧蒸留によって除去する工程と、上記生成混合物に実質的に無水の有機酸を添加し、生成したアルカノールを減圧蒸留によって除去しながら、上記実質的に無水の有機酸の存在下で、ディールス−アルダー付加物IVを転位させて、さらなるVを生成させる工程と、そのように増量したVにカルボン酸無水物を添加することによりアシル化して、所望のIを生成させる工程と、を実施し、任意的に、そのように製造されたアシル化生成物Iを、酸加水分解して脱保護および脱アシル化を行うことによって、ピリドキシンに変換する工程を実施すること、を含む方法。ピリドキシンはビタミンBの周知の形態であり、その有益性も十分に認められている。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、ビタミンB(ピリドキシン)の多段階製造における特定の工程に関する。
【0002】
ビタミンBの一般的な化学合成には、4−メチル−5−アルコキシ−オキサゾールまたは4−メチル−5−シアノ−オキサゾールと、2−無置換、2−モノ置換または2,2−ジ置換の4,7−ジヒドロ−(1,3)−ジオキセピン(後者の化合物は、実質的には、保護された2−ブテン−1,4−ジオール)と、の反応、すなわちディールス−アルダー付加反応により、対応するディールス−アルダー付加物を形成する工程と、上記付加物を酸性条件下に転位させることによって、1,5−ジヒドロ−8−メチルピリド[3,4−e][1,3]ジオキセピン−9−オール、または対応する3−モノ置換もしくは3,3−ジ置換誘導体を形成する工程と、最後に述べた化合物を酸加水分解によって変換する(実質的には、5−ヒドロキシ−6−メチル−ピリジンの3−および4−位の、隣接する連結した2つのヒドロキシメチル置換基の「脱保護」)によって、所望のビタミンBを生成させる工程と、が含まれることが特許および科学文献から知られている。
【0003】
この経路は、例えば米国特許第3,250,778号明細書に記載されているが、ディールス−アルダー付加物の形成、およびそのピリド[3,4−e][1,3]ジオキセピノール反応中間体への転位には、ほとんど重点が置かれていない。出発物質であるオキサゾールとジヒドロジオキセピンとを反応させる条件下において、反応中間体であるディールス−アルダー付加物が分解(collapse)して、上述の反応中間体、すなわちビタミンBの前駆体が形成されることが記載されているに過ぎない。実際、好ましい実施形態においても、最終加水分解工程にも同様に好適な酸性条件を用いて、ピリド[3,4−e][1,3]ジオキセピノール反応中間体を単離することなく、出発物質からビタミンBまたは類縁の最終生成物を直接生成させる工程が実施されている。この米国特許明細書に記載のさらなる実施形態では、アルカノイル化試薬、例えば、低級ハロゲン化アルカノイルまたは低級アルカン酸無水物の存在下で、出発物質であるオキサゾールとジオキセピンとを反応させることによって、9位のヒドロキシル置換基がエステル化されているピリド[3,4−e][1,3]ジオキセピノール反応中間体を得、次いで、それに続く酸加水分解によって、エステル化されているヒドロキシル基をそのアルカノイル部分から遊離させる工程が実施されている。
【0004】
単離可能な、エステル化されていないピリド[3,4−e][1,3]ジオキセピノール反応中間体、またはそのエステル化された誘導体を生成させる反応は、酸(例えば酢酸)で触媒されてもよいが、米国特許第3,250,778号明細書にはまた、出発物質であるオキサゾールの酸に対する感受性の観点から、この種の(酸)試薬の使用が好ましくないことが記載されている。また、この米国特許明細書において、出発物質であるオキサゾールとジヒドロジオキセピンとのディールス−アルダー反応を、酸を使用することなく行った後、生成されたピリド[3,4−e][1,3]ジオキセピノール反応中間体に対して、アルカノイル化試薬で任意の所望のエステル化を行う前に、酸を使用する工程を実施することは示唆されていない。
【0005】
米国特許第3,296,275号明細書にも、ビタミンBおよび類縁のピリジン誘導体を製造する方法が記載されており、4−アルキル−5−アルコキシ−オキサゾール、および2−無置換、2−モノ置換または2,2−ジ置換の4,7−ジヒドロ−(1,3)−ジオキセピンから出発して、ディールス−アルダー付加反応によって付加物を形成させ、次いで、これを単離し、別個の工程において、弱酸性媒体中で転位させて、所望のピリジン誘導体(実際は、3−無置換、3−モノ置換または3,3−ジ置換の1,5−ジヒドロ−8−アルキルピリド[3,4−e][1,3]ジオキセピン−9−オール)を形成させている。この生成物は、周知の手段により、特に、その前のディールス−アルダー付加物の転位を実施した媒体よりも酸性度の高い酸媒体中において加水分解することにより、対応する5−ヒドロキシ−6−アルキル−3,4−ジヒドロキシメチル−ピリジン(例えばビタミンB(ピリドキシン;アルキル=メチル))としてもよい。上述の転位は、好ましくは低級アルコール水溶液中において、pHが約2.3〜約3.5の弱酸媒体を得るための酸性試薬として、例えば、塩酸、硫酸、酒石酸またはシュウ酸(あるいはピリドキシン塩酸塩でもよい。)を使用して行われると記載されている。しかしながら、この米国特許明細書では、転位生成物をエステル化することは示唆されていない。
【0006】
さらに別の米国特許第3,822,274号明細書の主題である方法では、該当するディールス−アルダー付加物の収率の増加を促すために、酸結合剤、すなわち無機もしくは有機塩基、エポキシド、モレキュラーシーブまたはカルシウムカーバイドの存在下で、オキサゾールと「2−ブテン」(例えば、2−モノ置換または2,2−ジ置換の4,7−ジヒドロ−1,2−ジオキセピン)誘導体とを反応させている。付加物の形成が完了した後、この付加物は単離され、ピリジン置換体に変換される(ピリドキシン前駆体となるか、または直接ピリドキシンが形成される)。4−メチル−5−エトキシ−オキサゾールと、4,7−ジヒドロ−2−イソプロピル−(1,3)−ジオキセピンまたは対応する2,2−ジメチル置換のジヒドロジオキセピンと、の反応を含む実施例(4および5)においては、酸結合剤として酸化カルシウムを使用し、生成されたディールス−アルダー付加物を、未反応の出発物質を除去することによって単離した後、水が添加された氷酢酸に溶解し、次いで、得られた溶液を数時間静置し、さらに加熱濃縮(および濾過)して、ピリドキシンを得ている。この生成物を塩酸中に溶解して加熱/結晶化を行うことによって、塩酸塩が得られる。エステル化工程は想定されていない。
【0007】
インド特許第175,617号明細書には、4−メチル−5−アルコキシ−オキサゾールと2−置換の4,7−ジヒドロ−(1,3)−ジオキセピンとのディールス−アルダー付加反応を、密封管内で、溶媒および触媒の両方の非存在下で行って、対応するディールス−アルダー付加物を形成する(ここでは、加熱手段としてマイクロ波照射を用いて、120℃未満の反応温度を生じさせる。)ことが記載されている。その後、過剰のジオキセピン反応物質が留去される。次いで、生成されたディールス−アルダー付加物は、特にJ.Org.Chem.第27巻、p.2705、1962年、に記載の方法に従って塩酸と反応させる(これは、当該特許明細書の実施例3に例示されている。)ことによって、直接ビタミンBに変換することができる。この明細書でも、ディールス−アルダー付加物から転位生成物を形成すること、およびそれをエステル化することは示唆されていない。
【0008】
以前から知られているビタミンBの製造方法、例えば、上で概説した特許明細書に記載の方法は、ディールス−アルダー反応からエステル化処理(後者が用いられる場合)に至る工程に関する限り、中間生成物の収率および純度が不十分であること、特定の反応工程における特定の溶媒および/または触媒の使用により、未反応の出発物質の再利用が困難であること、そのような反応工程に使用される強酸が腐食作用を示すこと等、いくつかの欠点を特徴とする。
【0009】
本発明の目的は、ヒドロキシルが保護された5−アシルオキシ−3,4−ジヒドロキシメチル−6−メチル−ピリジン(ビタミンBの前駆体である。)を製造する方法であって、少なくとも、上に示したような従来知られている方法の欠点を有しない方法を提供すること、および、任意的にピリドキシンを製造する方法を提供することにある。
【0010】
それに応じて、本発明は、
一般式:
【化1】


[式中、RおよびRは、各々独立に、水素、C1〜4−アルキル、C2〜4−アルケニル、フェニル−C1〜4−アルキル、またはフェニルを表すか、あるいはRとRとが、これらが結合している炭素原子と一緒になってC−〜C−シクロアルキリデンを表し、Rは、C1〜4−アルキルまたはC1〜4−ハロアルキルを表す。]
の、3−無置換、3−モノ置換または3,3−ジ置換の9−アシルオキシ−1,5−ジヒドロ−8−メチルピリド[3,4−e][1,3]ジオキセピンを製造する方法、および、任意的にピリドキシンを製造する方法であって、
一般式:
【化2】


[式中、RはC1〜4−アルキルを表す。]の4−メチル−5−アルコキシ−オキサゾールと、一般式:
【化3】


[式中、RおよびRは上記と同義。]の2−無置換、2−モノ置換または2,2−ジ置換の4,7−ジヒドロ−(1,3)−ジオキセピンと、の付加反応を、溶媒および触媒の実質的な非存在下で実施することによって、主生成物である、一般式:
【化4】


[式中、R、R、およびRは上記と同義。]の適切なディールス−アルダー付加物(5−無置換、5−モノ置換、5,5−ジ置換の1−アルコキシ−11−メチル−4,6,12−トリオキサ−10−アザ−トリシクロ[7.2.1.02,8]ドデカ−10−エン)と、副生成物である、一般式:
【化5】


[式中、RおよびRは上記と同義。]の適切な3−無置換、3−モノ置換または3,3−ジ置換の1,5−ジヒドロ−8−メチルピリド[3,4−e][1,3]ジオキセピン−9−オールと、から本質的になる生成混合物を得る工程と、
生成混合物から、未反応の式IIおよび式IIIの出発物質の大部分を減圧蒸留によって除去する工程と、
前記生成混合物に実質的に無水の有機酸を添加し、生成したアルカノールROHを減圧蒸留によって除去しながら、前記実質的に無水の有機酸の存在下で、生成混合物中に存在する式IVのディールス−アルダー付加物を転位させて、さらなる式Vの3−無置換、3−モノ置換または3,3−ジ置換の1,5−ジヒドロ−8−メチルピリド[3,4−e][1,3]ジオキセピン−9−オールを生成させる工程と、
そのように増量した式Vのメチルピリド[3,4−e][1,3]ジオキセピン−9−オールを、一般式:
(RCO)O VI
[式中、Rは上記と同義。]のカルボン酸無水物を添加することによりアシル化して、所望の式Iの3−無置換、3−モノ置換または3,3−ジ置換の9−アシルオキシ−1,5−ジヒドロ−8−メチルピリド[3,4−e][1,3]ジオキセピンを生成させる工程と、を実施し、任意的に、
そのように製造された式Iのアシル化生成物を、酸加水分解して脱保護および脱アシル化を行うことによって、ピリドキシンに変換する工程を実施すること、
を特徴とする方法を提供する。
【0011】
式IIおよびIIIの出発物質の上記定義において(以下のことは、本発明の方法の適切な中間生成物および最終生成物の特徴を説明する関連の定義にも妥当する)、3個以上の炭素原子を含む任意のアルキル、アルケニルまたはC1〜4−ハロアルキル基は、直鎖または分岐鎖であってもよい。したがって、C1〜4−アルキルおよびC2〜4−アルケニルは、例えば、それぞれ、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、またはイソブチル、およびビニル、1−もしくは2−プロペニル、または2−メチル−2−プロペニルであってもよい。フェニル−C1〜4−アルキルのC1〜4−アルキル部分も同様に、直鎖または分岐鎖であってもよい(実際は、C(例えば、−CH(CH)−)から)。RおよびRが、これらが結合している炭素原子と一緒になってC〜C−シクロアルキリデンを表す場合、そのシクロアルカン部分は、それぞれ、シクロブタン、シクロペンタンまたはシクロヘキサンである。この場合をさらに説明すると、RおよびRは、それら自身が一緒になって、それぞれ、トリ−、テトラ−またはペンタメチレンを形成する。C1〜4ハロアルキルのハロゲン置換基または各ハロゲン置換基は、フッ素、塩素または臭素、好ましくは、フッ素または塩素、最も好ましくはフッ素である。1または2以上(同一であっても異なっていてもよい。)のハロゲン置換基が存在してもよいが、好ましくは、ハロアルキル基は、単一の(種類の)ハロゲン置換基を特徴とする。好ましくは、C1〜4−ハロアルキルは、トリフルオロメチルまたはトリクロロメチル、最も好ましくはトリフルオロメチルである。
【0012】
本発明の方法において好ましい式IIおよびIIIの出発物質は、それぞれ、5−エトキシ−4−メチル−オキサゾール(式II[式中、Rはエチルを表す。])および2−イソプロピル−4,7−ジヒドロ−(1,3)−ジオキセピン(式III[式中、Rは水素を表し、Rはイソプロピルを表す。])である。
【0013】
本発明の方法の第1工程、すなわち式IIおよびIIIの化合物の(ディールス−アルダー)付加反応は、溶媒の実質的な非存在下で実施される。これは事実上、当該反応に溶媒を使用しないことを意味する。実際、この反応は溶媒を必要とせず、それ故、反応混合物に溶媒を敢えて添加したり、それ以外の形で含有させたりしなくても進行することが判明した。さらに、これらの化合物を反応させるいくつかの周知の方法とは大きく異なり、触媒を使用することもない。これに関して、従来技術の方法は、例えば米国特許第3,250,778号明細書に記載されているように酸触媒反応を必要とするか、または、例えば米国特許第3,822,274号明細書に記載されているように塩基性触媒反応を必要とするか、または、後者の米国特許にさらに記載されているように、別の種類の「酸結合剤」を用いた触媒反応を必要とする場合があることに注目されたい。したがって、本第1工程は、2種の出発物質を、他の物質の実質的な非存在下で、適当な温度で接触させて反応させることによって開始される。
【0014】
第1工程は、約130℃〜約170℃の温度で実施するのが好都合であり、その温度は、好ましくは約145℃〜約160℃、最も好ましくは約155℃である。このような温度条件下では、式Vのメチルピリド[3,4−e][1,3]ジオキセピン−9−オールと比較して、式IVのディールス−アルダー付加物の生成が大幅に促進される。実際、この工程では、メチルピリド[3,4−e][1,3]ジオキセピン−9−オールに対する上記付加物の比率が可能な限り高くなることが望ましい。ここでさらに見出されたのは、反応混合物中において未反応成分として無駄になる4−メチル−5−アルコキシ−オキサゾールが最小限になること、すなわち、この反応で4−メチル−5−アルコキシ−オキサゾールが多量に消費されることである。ここで実現される上述の生成物の比率(IV:V)は、通常は、式IVのディールス−アルダー付加物の方が多く、約2:1〜約10:1の範囲、例えば約7:1である。
【0015】
さらに、反応混合物中における式IIIのジヒドロジオキセピンと、式IIの4−メチル−5−アルコキシ−オキサゾールと、のモル比は、好都合には約0.5:1〜約5:1、好ましくは約1:1〜約2:1、最も好ましくは約1.3:1である。ジヒドロジオキセピンが、上記の好ましい範囲で、4−メチル−5−アルコキシ−オキサゾールよりも過剰に存在することによって、反応混合物の均質化が促されること、および、反応温度が低下するに従って、上記過剰の度合いを小さくする必要があること、すなわち、「空間および時間当たりの生成量」(space−time yield)に関して好ましい反応結果を得るには、4−メチル−5−アルコキシ−オキサゾールのモル量に対するジヒドロジオキセピンのモル量の過剰の度合いが大きいほど、反応温度を高くする必要があり、その過剰の度合いが小さいほど、反応温度を低くする必要があること、が大体判明している。
【0016】
反応の実施する時間的な長さに関しては、通常は、4−メチル−5−アルコキシ−オキサゾールの周知の熱感受性を考慮して、また、式IVのディールス−アルダー付加物の最大収率を十分増大させるために、「より高温でより短い反応時間」、および「より低温でより長い反応時間」を用いることが好都合である。このような状況下において、反応時間は、好都合には約2〜約8時間、好ましくは約3〜約5時間、最も好ましくは約4時間である。
【0017】
通常、反応混合物は、反応槽/反応容器中において、好ましくは絶えず撹拌することにより、反応時間全体にわたってかき混ぜると好都合である。所望により、式IIおよびIIIの2種の反応物質は、ディールス−アルダー反応が実際に起こる反応槽/反応容器に導入する前に、混合してもよく、また、任意的に、反応温度以下で、少なくともある程度は予熱してもよい。さらに本方法は、好都合には不活性ガス、好ましくは窒素またはアルゴンガス雰囲気下、より好ましくは前者で実施される。
【0018】
第2工程、すなわち第1工程後に得られた生成混合物から未反応の出発物質の大部分(すなわち可能な限り)を除去する工程は、蒸留を、減圧下、好都合には約10mbar(1kPa)〜約100mbar(10kPa)、好ましくは約20mbar(2kPa)〜約50mbar(5kPa)、最も好ましくは約35mbar(3.5kPa)〜約45mbar(4.5kPa)の範囲の圧力下で行うことによって実施される。
【0019】
この蒸留を行う間、生成混合物は、高温下、特に約80℃を超える温度下でも、均質な流体の状態を維持する。蒸留完了後、次の(第3)工程の前に適切な連続加熱を行うことによって、濃縮された生成混合物の均質な流動性を維持するのが有利である。
【0020】
第3工程では、主生成物である式IVのディールス−アルダー付加物と、副生成物である式Vのメチルピリド[3,4−e][1,3]ジオキセピノールと、からなる生成混合物に、実質的に無水の有機酸を添加する工程と、生成したアルカノールROHを減圧蒸留によって除去しながら、ディールス−アルダー付加物を、添加された酸を触媒として転移させて、さらなるメチルピリド[3,4−e][1,3]ジオキセピノールを生成させる次の工程と、が含まれる。実質的に無水の有機酸としては、一般に、pKa値が約5までの有機(カルボン)酸、特に、C2〜5−アルカン酸、すなわち酢酸、プロピオン酸、酪酸、もしくは吉草酸(pKa値は約4〜5の範囲にある)、または対応するモノ−または多ハロゲン化C2〜5−アルカン酸(例えば、トリフルオロ−およびトリクロロ酢酸のpKa値は、それぞれ約−0.25および約0.65である。)を使用することができるが、これらの中では酢酸が好ましい。本明細書における「実質的に無水の」という表現は、有機酸に含まれる水が可能な限り少量である非含水性(例えば、含水酢酸に対する氷酢酸)であること、および、この酸にも、また、この酸が使用される工程にも、水が添加されないことを意味する。しかしながら、微量の水が、例えば、市販の酸(例えば、氷酢酸は、供給元に応じて、水を最大で約0.1質量%含む可能性がある。)中に、あるいは、第3工程が実施される反応槽/反応容器中に存在する可能性が回避できない場合も多い。したがって、そのような酸は完全に無水というわけではないが、「実質的に無水の有機酸」という表現に包含される。
【0021】
この工程に添加される酸の量は、生成混合物中の生成されたディールス−アルダー付加物、あるいは第1反応工程以後消費された5−エトキシ−4−メチル−オキサゾール、の推定量または測定量を基準とし、好適には、上記付加物1当量に対して、約0.01当量(触媒量)〜約2.0当量、好ましくは約1〜約1.5当量である。酸を触媒量とした場合であってもディールス−アルダー付加物の転位は起こると思われるが、残念ながら、その速度は遅い。また、生成混合物への酸の添加は、好適には約50℃〜約115℃の温度で実施し、好ましくは、生成混合物の温度が約70℃〜約90℃のときに実施する。このような温度において、ディールス−アルダー付加物を含む生成混合物は、通常、また、望ましいことに、流体状態にあり、酸の添加の完了後もその状態を維持する。
【0022】
それに続く転位反応は、酸性化された混合物を、ディールス−アルダー付加物の完全な、または実質的に完全な転位を所望通り実現して、所望のさらなる量の式Vのメチルピリド[3,4−e][1,3]ジオキセピノールを得るのに十分な時間、上述の温度条件下で撹拌することによって、好適に実施することができる。通常、この転位は、相対的により多量の無水有機酸を使用することによってより速やかに起こり、通常は約2時間以内に転位を完了することができる。この転位の間に、第1工程から依然として未反応の状態で残存している可能性がある式IIのオキサゾールまたは式IIIのジヒドロジオキセピンは、通常、この第3工程で使用される酸によって完全に分解される。
【0023】
上に示したように、この転位は、生成したアルコールROHを蒸留によって反応混合物から除去できるように、減圧された圧力下で実施される。当該圧力は、好適には約300mbar(30kPa)〜約700mbar(70kPa)である。蒸留温度において上記圧力が約300mbar未満に低下した場合、特に、好ましい酸である酢酸が使用され、かつ、アルコールがエタノール(Rがエチル)である場合、生成したアルコールROHと、使用された実質的に無水の有機酸と、の共沸混合物が形成される傾向がある。
【0024】
減圧を含む上記反応条件下で上記第3工程が終了する時点では、アルコールROHは完全に、または実質的に完全に除去されている。最終(第4)工程、すなわち式VIのカルボン酸無水物によるアシル化の工程では、アルコールと酸無水物との反応により望ましくないエステルが形成されること(例えば、エタノールと無水酢酸とから酢酸エチルが形成されること)を回避するために、最終的に残留するアルコールを可能な限り少量にすることが重要である。
【0025】
式Iのアシル化生成物の製造に関する限り、本発明の方法の最終工程では、式Vのメチルピリド[3,4−e][1,3]ジオキセピノールをカルボン酸無水物でアシル化する工程が実施される。上記酸無水物としては、その前の工程に使用された実質的に無水の酸に対応する無水物(例えば、酢酸またはトリフルオロ酢酸がその前に使用された場合は、それぞれ無水酢酸または無水トリフルオロ酢酸)が好都合である。その前の転位工程における実質的に無水の酸としては酢酸が好ましいので、本工程において好ましいアシル化試薬は無水酢酸であり、この場合、Rがメチルを表す式Iの生成物が得られる。
【0026】
通常、アシル化に使用されるカルボン酸無水物の量は、アシル化されるメチルピリド[3,4−e][1,3]ジオキセピノールの推定量または測定量を基準として過剰量であり、上記量は、好都合には、上述のジオキセピノール1当量に対して、約1.05〜約2当量、好ましくは約1.1〜約1.5当量である。カルボン酸無水物を、その前の工程で使用された槽(反応容器)内で混合物に添加し、そうすることによって、アシル化工程前の取出しおよび移し替えを回避するのが好都合である。
【0027】
アシル化が好都合に実施される温度は、約50℃〜約115℃、好ましくは約70℃〜約90℃である。したがって、これは、その前の転位工程と同じ範囲であり、実際、その目的はとりわけ、転位工程と同様に、反応全体にわたって反応混合物を流体状態に維持することにある。こうすることにより、アシル化工程の間、かき混ぜること、好ましくは撹拌によってかき混ぜることが可能となる。
【0028】
アシル化工程は、アシル化度を最大化するのに必要な限り継続するのが好都合である。通常は約1時間以内に完了する。
【0029】
得られた生成物、すなわち所望の式Iの3−無置換、3−モノ置換または3,3−ジ置換の9−アシルオキシ−1,5−ジヒドロ−8−メチルピリド[3,4−e][1,3]ジオキセピンは、好適には、アシル化工程において、減圧された圧力下の蒸留によって混合物から連続的に単離される。上記減圧された圧力は、好都合には、約0.01bar(1kPa)〜約0.1bar(10kPa)である。これらの同じ圧力条件下においては、アシル化の副生成物として形成されたカルボン酸RCOOHも減圧蒸留によって除去することができ、また、所望により、再利用する(例えば、本方法の前の工程に戻して、実質的に無水の酸とするか、またはその量を増加させる)ことができる。所望の生成物は、通常、良好な純度および収率で得られる。また、当該生成物は、必要に応じて貯蔵した後に、例えば従来技術において周知の手順に従って、(酸加水分解して脱保護および脱アシル化を行うことにより)ビタミンB(ピリドキシン)に自由に変換させることができる。
【0030】
この式Iのアシル化生成物のピリドキシンへの変換は、本発明の方法の任意的な最終工程であり、先に概説した米国特許第3,250,778号明細書(第4欄、第3〜10行、および実施例23)に記載の手順等、従来技術において周知の手順によって実現可能である。酸加水分解に関与する酸の種類に応じて、ピリドキシンは、適切な酸塩(例えば、酸として塩酸が使用された場合は塩酸塩)の形態で生成させ、単離可能としてもよい。
【0031】
本発明の多段階方法全体の各工程において、該当する反応の進行は、有機化学で従来用いられている分析方法によりモニターしてもよい。例えば、反応混合物から定期的に少量の試料を取り出し、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、紫外分光、および/または赤外分光のような分析手法を用いて、その成分を分析することによりモニターしてもよい。
【0032】
本発明の多段階方法全体は、段階ごとにバッチ式で実施しても、2以上の工程を連続して実施してもよく、好ましくは連続的に実施し、一般には、非常に簡単に操作することが可能な態様で実施する。連続的手法の一例として、第2工程、すなわち、生成混合物から未反応の式IIおよびIIIの出発物質の大部分を減圧下で留去する工程、を実施する連続蒸留装置(continuous distillation unit)が接続されている流通式反応容器(flow−through reactor)内で第1工程を実施することが挙げられる。より具体的には、ディールス−アルダー付加反応のための出発物質が導入される反応容器は、カスケード式の反応容器(cascade reactor)であり、そこに接続されている連続蒸留装置は、流下膜式蒸発器または薄膜蒸発器である。さらに、第3および第4工程は、同じ反応槽/反応容器内で連続的に実施してもよい。
【0033】
本発明の方法に使用される式IIおよびIIIの出発物質は周知の化合物の場合もあるが、従来知られていないものの場合は、該当する周知の方法と類似の方法によって製造することができる。式IIIの2−無置換、2−モノ置換または2,2−ジ置換の4,7−ジヒドロ−(1,3)−ジオキセピンについては、どの場合も、ヒドロキシルが保護された1,4−ジヒドロキシ−2−ブテンと見なすことができ、上記ジヒドロキシブテンを適切に「保護」することによってそれらを製造する方法が、例えば米国特許第3,250,778号明細書に記載され、かつ例示されている。
【0034】
本発明の方法の利点の一つは、最終生成物の総収率が高いことに加えて、第1工程(ディールス−アルダー反応)の生成物として、式Vの3−無置換、3−モノ置換または3,3−ジ置換の1,5−ジヒドロ−8−メチルピリド[3,4−e][1,3]ジオキセピン−9−オールが過剰に生成することが、特殊な反応条件を用いることにより回避されることにある。上記生成物は、本発明の方法におけるディールス−アルダー反応の段階で得られるディールス−アルダー付加物の割合を最大化するために本方法で用いる温度よりも高温では、ディールス−アルダー反応の際に、出発物質の一つである一般式IIの4−メチル−5−アルコキシ−オキサゾールを分解してしまうという不利な効果を示すことが判明している。さらなる利点は、続く転位工程(IV→V)において、本発明の方法に使用される実質的に無水の酸に比べて腐食性が高く、かつ、ディールス−アルダー付加物を直接ピリドキシンに変換させる(この場合、ピリドキシンは、より精製の容易なアシル化物を経由して得られるものよりも著しく純度が低い状態で得られるであろう。)傾向がある強酸(塩酸等)の使用が回避されることにある。したがって、本発明の方法によれば、過剰な副生成物の望ましくない生成が回避される。つまり、本発明の方法の最終のアシル化生成物、すなわち式Iの3−無置換、3−モノ置換または3,3−ジ置換の9−アシルオキシ−1,5−ジヒドロ−8−メチルピリド[3,4−e][1,3]ジオキセピンがピリドキシンよりも容易に精製可能であるため、後の生成物を上記アシル化生成物の加水分解によって得ると、後の生成物はそれ自体が最初からより高純度であり、精製の必要性が少ない、ということである。本発明の方法のさらなる別の利点は、反応混合物が、主要な工程であるディールス−アルダー反応、転位およびアシル化の各々において均質な状態を維持することにある。このことにより、特に流通式およびカスケード式の反応系を用いることが可能となる。これら3つの主要工程は、必要に応じて、各々、バッチ式で実施するか、あるいは、2工程または全3工程を、単一のバッチ式反応容器内で、または、例えば連続的なカスケード式プロセスとして実施することができる。さらに、本発明の方法によれば、未反応の出発物質や、例えば、最終アシル化工程のカルボン酸副生成物を、その前の転位工程に再利用することが可能である。
【0035】
以下の実施例により本発明の方法を説明する。
【0036】
(実施例1:5−エトキシ−4−メチル−オキサゾールと2−イソプロピル−4,7−ジヒドロ−(1,3)−ジオキセピンとのバッチ式ディールス−アルダー反応)
350mlの反応フラスコに、アルゴン雰囲気下で、5−エトキシ−4−メチル−オキサゾール(EMO)30.7g(239mmol、1当量)を加え、次いで、2−イソプロピル−4,7−ジヒドロ−(1,3)−ジオキセピン(IPD)45.7g(310mmol、1.3当量)を加えた。反応混合物を200rpmで撹拌しながら、155℃(内部温度)で4時間加熱した。反応容器から1時間ごとに試料を取り出し(反応混合物の試料10μlを酢酸エチル1mlで希釈)、ガスクロマトグラフィー(GC)によりディールス−アルダー反応をモニターした。4時間後、反応混合物を室温に冷却した。較正後のGC分析結果(w/w%)から、反応混合物は、所望の生成物、すなわちディールス−アルダー付加物(ADDI)および1,5−ジヒドロ−3−イソプロピル−8−メチルピリド[3,4−e][1,3]ジオキセピン−9−オール(PIB)を含む(相対量は、それぞれ18.9w/w%および6.7w/w%)とともに、未反応のEMO(21.4w/w%)およびIPD(42.3%)、ならびにイソニトリル副生成物である2−イソシアノプロピオン酸エチル(EIPA、2.5w/w%)を含むことが明らかとなった。反応混合物の残りの11w/w%は、同定不能な物質から構成されていた。使用したEMOの量を基準としたディールス−アルダー付加物の収率は31.5%であり、EMOの53.1%が再利用された。
【0037】
(実施例2:EMO+IPDの再利用バッチ式ディールス−アルダー反応)
二重ジャケット付きの500mlの反応容器に、アルゴン雰囲気下で、EMO/IPD蒸留物183.4g(189mlで、EMO397mmolおよびIPD873mmolを含む;GCによれば、EMO:IPDは27.5w/w%:67.7w/w%;蒸留物の密度は0.97g/ml)を導入した。このEMO/IPD蒸留物に、未使用の工業用EMO45.2g(44ml、353mmol、EMO品質:99.4w/w%)および工業用IPD15.0g(15.5ml、102mmol、IPD品質:96.7w/w%)を添加した。反応混合物の化学量論組成、すなわちEMOとIPDとのモル比を1:1.3とし、再利用バッチを一定量(EMO:750mmol、IPD:975mmol、反応物質総量:250ml)に維持した。反応混合物を、減圧された150mbar(15kPa)の圧力に付し、250rpmで撹拌した。マントル温度を1.5時間かけて100℃に昇温した。同時に、分縮ヘッド(partial condensation head)(デフレグメータ)も100℃に加熱した。反応容器の内部温度は90〜95℃に達した。反応容器をこの温度に維持し、2時間の予備蒸留の間に、低沸点の副生成物(主にエタノール)を除去し、−78℃の冷却トラップに回収した。減圧された系の圧力を900mbar(90kPa)に調節し、マントル温度を3時間かけて159℃まで昇温した。昇温終了時には、反応混合物の内部温度は155℃に達した。この温度をさらに4時間保持し、その間に、常時、低沸点成分(主にエタノール)を除去し、2個の冷却トラップに回収した(2個の冷却トラップは、上記低沸点成分の完全な捕集を確実なものとするために、直列に連結されている)。このディールス−アルダー反応の工程の終了時に、マントル温度を3時間かけて30℃まで冷却した。全反応工程に要した時間は、合わせて13.5時間であった。次いで、褐色がかった未精製の反応混合物を反応容器底部からビーカーに移し、反応容器にIPD27.1g(28ml、190mmol)を加えて洗浄し、これにより、ディールス−アルダー生成物の完全な取出しを確実なものとした。蒸留工程を実施するため、反応混合物をすべて第2反応容器に移し替えた。
【0038】
(実施例3:未精製のディールス−アルダー反応混合物の蒸留)
二重ジャケット付きの500mlの反応容器に、アルゴン雰囲気下で、実施例2に記載のようにして得られた未精製のディールス−アルダー反応混合物を加えた。フラスコにIPD17.3g(17ml、122mmol)を加えて洗浄し、これにより、内容物の完全な移し替えを確実なものとした。減圧された30mbar(3kPa)の圧力を系に印加した。混合物を撹拌し、マントル温度を2時間かけて110℃に昇温し、その間、分縮ヘッド(デフレグメータ)を100℃に加熱した。未反応のEMO/IPDを、混合物として減圧下で留去し、受器に回収した。4時間の蒸留の間、マントル温度が130℃に昇温されるようにプログラムした。蒸留終了時に、マントル温度を1時間かけて80℃まで低下させた。全蒸留サイクルを7時間続けた。得られた暗褐色の未精製の生成混合物を丸底フラスコに移し替えた。GC分析から、ADDI(72.6w/w%)およびPIB(14.5w/w%)が主生成物であること、および、EMOを基準としたサイクル終了時の総収率が35.0%であり、EMOの54.4%が再利用されたことが明らかとなった。
【0039】
(実施例4:カスケード式反応容器系におけるディールス−アルダー反応)
温度計および制御装置を別々に備え、独立に加熱される、二重ジャケット付きの1リットルのガラス製反応容器3個から構成されるカスケード式の系の第1反応容器(1)の底部に、HPLCポンプに接続された別々の供給ラインを通じて、EMOおよび再利用IPD蒸留物(IPD91.3%およびEMO4.2%を含む。)を連続的に添加した。未使用のEMOは、化学量論組成を調整するために添加したものである。カスケード式の系に添加した反応物質の総量は、EMO562g(4.4mol)およびIPD1256g(8.8mol、2当量)であった。150℃の反応容器1および2でディールス−アルダー反応が起こり、その生成物流を30℃の反応容器3内で冷却した。反応中に低沸点成分を混合物から除去するために、70℃の凝縮用連結管(condensation bridge)とともに、この凝縮用連結管に直列に接続された−78℃の冷却トラップ2個を用いた。窒素ガスを向流で用いて、低沸点成分の除去を促進させた。反応液を反応容器上部から自然に流下させて、反応容器間を移動させた。ディールス−アルダー反応は、(18時間の平衡化時間の後)6時間行った。生成物流を受槽に回収し、独立した天秤で未精製物の質量を測定した。未反応のEMOおよびIPDを、減圧下でロータリーエバポレータにより混合物から除去し、ADDI(56.8w/w%(GC))およびPIB(22.8w/w%(GC))を含む未精製物を単離した。EMOを基準としたサイクル終了時のADDIの収率は30.8%であり、EMOの64.0%が再利用された。
【0040】
(実施例5:ADDIの、PIBへの転位)
未精製のディールス−アルダー生成混合物(質量92.4g、279.3mmol;ADDI225.7mmol(65.8w/w%(GC))およびPIB53.6mmol(13.0w/w%(GC))を含む。)を、80℃の湯浴中で、混合物が流体になるまで加熱した。加熱時間は約30分であった。反応混合物を80℃で撹拌(100rpm)し、酢酸(263mmol、ADDIから算出して1.16当量)15mlを、メトローム・ドジマット(Metrohm Dosimat)を用いて15分間かけて滴下した。酢酸の添加終了後、減圧された300mbar(30kPa)の圧力を反応容器に印加し、反応が進行する間、低沸点生成物(主にエタノール)を−78℃のリービッヒ冷却器に捕集した。酸の添加後に発熱反応が観測され、反応混合物の内部温度は約92℃に達した。混合物を80℃で2時間撹拌し、GC(反応混合物の試料10mgを、トリエチルアミン1%を含む酢酸エチル1mlに溶解)でモニターした。2時間後、出発物質であるADDIはGCで観測されなくなった(0.1w/w%未満)。GCでは、PIBが唯一の主生成物として観測された(60.7w/w%(GC)、273.7mmol)。GC分析による転位の収率は98%であった。引き続き、未精製PIB(「転位混合物」)を、以下に説明する実施例6の工程にそのまま使用した。
【0041】
(実施例6:PIBの、9−アセトキシ−1,5−ジヒドロ−3−イソプロピル−8−メチルピリド[3,4−e][1,3]ジオキセピンへのアセチル化)
未精製の転位混合物(実施例5参照)を含む同じ250mlの反応容器に、無水酢酸(488mmol、PIBから算出して1.75当量)46.44mlを80℃で5分間かけて滴下した。次いで、反応混合物を80℃で1時間撹拌し、GC(反応混合物の試料10mgを、トリエチルアミン1%を含む酢酸エチル1mlに溶解)でモニターした。1時間後には、GCで観測される出発物質のPIBがごく微量となった(0.5w/w%未満)。この反応混合物をそのまま以下の蒸留工程に使用した。
【0042】
転位反応に使用したものと同じ250mlの反応容器の環流冷却器を、独立の加熱コイルを備えた蒸留ヘッドおよびビグリューカラムと取り替えた。循環恒温槽および簡単な留分回収器が取り付けられたリービッヒ冷却器を蒸留ヘッドに接続した。反応混合物を80℃(浴温90℃)のままにして、膜ポンプを用いて200〜20mbar(20〜2kPa)で減圧蒸留を開始し、酢酸および無水酢酸を含む前留分を回収した。次いで、留分を回収するために、簡単な留分回収器をガラス製のカウ型アダプター(cow adapter)と交換した。リービッヒ冷却器とともに、蒸留ヘッドおよびビグリューカラムを120℃に加熱した。ポリエチレングリコール400を少量(2ml)加えて、反応混合物を希釈し、また、所望の生成物である9−アセトキシ−1,5−ジヒドロ−3−イソプロピル−8−メチルピリド[3,4−e][1,3]ジオキセピン(PIB酢酸エステル)がすべて完全に蒸留されるようにした。まず、減圧された約0.1〜0.01mbar(約10〜1Pa)の圧力下で酢酸イソブチラールを除去し、次いで、混合物を80℃から145℃まで数時間かけてゆっくりと加温することにより、PIB−酢酸エステルの蒸留を行った。留分を回収し、分析した。粘稠性の淡黄色油状物(71.1g、267.9mmol)として、4つの主留分に所望のPIB酢酸エステルを回収した。アセチル化生成物の収率は98%であり、PIB−酢酸エステルの品質は、最良の留分で94.4w/w%(GCによる。)であった。蒸留中の脱アセチル化によって生じたPIBが、蒸留残渣から若干(1.2w/w%以下)検出された。全体として、二段階方法の単離収率は97%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:
【化1】


[式中、RおよびRは、各々独立に、水素、C1〜4−アルキル、C2〜4−アルケニル、フェニル−C1〜4−アルキル、またはフェニルを表すか、あるいはRとRとが、これらが結合している炭素原子と一緒になってC−〜C−シクロアルキリデンを表し、Rは、C1〜4−アルキルまたはC1〜4−ハロアルキルを表す。]
の、3−無置換、3−モノ置換または3,3−ジ置換の9−アシルオキシ−1,5−ジヒドロ−8−メチルピリド[3,4−e][1,3]ジオキセピンを製造する方法、および、任意的にピリドキシンを製造する方法であって、
一般式:
【化2】


[式中、RはC1〜4−アルキルを表す。]の4−メチル−5−アルコキシ−オキサゾールと、一般式:
【化3】


[式中、RおよびRは上記と同義。]の2−無置換、2−モノ置換または2,2−ジ置換の4,7−ジヒドロ−(1,3)−ジオキセピンと、の付加反応を、溶媒および触媒の実質的な非存在下で実施することによって、主生成物である、一般式:
【化4】


[式中、R、R、およびRは上記と同義。]の適切なディールス−アルダー付加物と、副生成物である、一般式:
【化5】


[式中、RおよびRは上記と同義。]の適切な3−無置換、3−モノ置換または3,3−ジ置換の1,5−ジヒドロ−8−メチルピリド[3,4−e][1,3]ジオキセピン−9−オールと、から本質的になる生成混合物を得る工程と、
生成混合物から、未反応の式IIおよび式IIIの出発物質の大部分を減圧蒸留によって除去する工程と、
前記生成混合物に実質的に無水の有機酸を添加し、生成したアルカノールROHを減圧蒸留によって除去しながら、前記実質的に無水の有機酸の存在下で、生成混合物中に存在する式IVのディールス−アルダー付加物を転位させて、さらなる式Vの3−無置換、3−モノ置換または3,3−ジ置換の1,5−ジヒドロ−8−メチルピリド[3,4−e][1,3]ジオキセピン−9−オールを生成させる工程と、
そのように増量した式Vのメチルピリド[3,4−e][1,3]ジオキセピン−9−オールを、一般式:
(RCO)O VI
[式中、Rは上記と同義。]のカルボン酸無水物を添加することによりアシル化して、所望の式Iの3−無置換、3−モノ置換または3,3−ジ置換の9−アシルオキシ−1,5−ジヒドロ−8−メチルピリド[3,4−e][1,3]ジオキセピンを生成させる工程と、を実施し、任意的に、
そのように製造された式Iのアシル化生成物を、酸加水分解して脱保護および脱アシル化を行うことによって、ピリドキシンに変換する工程を実施すること、
を特徴とする方法。
【請求項2】
式IIおよびIIIの出発物質が、それぞれ、5−エトキシ−4−メチル−オキサゾール(式II[式中、Rはエチルを表す。])および2−イソプロピル−4,7−ジヒドロ−(1,3)−ジオキセピン(式III[式中、Rは水素を表し、Rはイソプロピルを表す。])である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
式IIおよびIIIの出発物質の反応を含む工程が、約130℃〜約170℃、好ましくは約145℃〜約160℃の温度で実施される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
反応混合物中における、式IIIのジヒドロジオキセピンと、式IIの4−メチル−5−アルコキシ−オキサゾールと、のモル比が、約0.5:1〜約5:1、好ましくは約1:1〜約2:1である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
第1工程後に得られた生成混合物から未反応の式IIおよびIIIの出発物質の大部分を除去するための減圧蒸留が、約10mbar(1kPa)〜約100mbar(10kPa)、好ましくは約20mbar(2kPa)〜約50mbar(5kPa)、最も好ましくは約35mbar(3.5kPa)〜約45mbar(4.5kPa)の範囲の圧力下で実施される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
式IVのディールス−アルダー付加物を転位させて、さらなる式Vの3−無置換,3−モノ置換または3,3−ジ置換の1,5−ジヒドロ−8−メチルピリド[3,4−e][1,3]ジオキセピン−9−オールを生成させるための実質的に無水の有機酸として、pKa値が約5までの有機酸、好ましくはC2〜5−アルカン酸、または対応するモノ−もしくは多ハロゲン化C2〜5−アルカン酸、最も好ましくは酢酸が使用される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ディールス−アルダー付加物の転位のために添加される実質的に無水の有機酸の量が、前記付加物1当量に対して、約0.01〜約2.0当量、好ましくは約1〜約1.5当量である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ディールス−アルダー付加物の転位のために、実質的に無水の有機酸が添加される生成混合物の温度が、約50℃〜約115℃、好ましくは約70℃〜約90℃である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
生成したアルコールROHを蒸留しながら行われるディールス−アルダー付加物の転位が、減圧された約300mbar(30kPa)〜約700mbar(70kPa)の圧力下で実施される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
式Vのメチルピリド[3,4−e][1,3]ジオキセピン−9−オールのアシル化に使用されるカルボン酸無水物が、その前の工程に使用された実質的に無水の酸の無水物に相当し、好ましくは無水酢酸である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
アシル化に使用されるカルボン酸無水物の量が、アシル化されるメチルピリド[3,4−e][1,3]ジオキセピン−9−オール1当量に対して、約1.05〜約2当量、好ましくは約1.1〜約1.5当量である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
アシル化が実施される温度が、約50℃〜約115℃、好ましくは約70℃〜約90℃である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
2以上の工程にわたって連続的に実施される、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
製造された式Iのアシル化生成物をピリドキシンに変換する任意的な最終工程が、従来技術において周知の手順によって実施され、当該工程において、酸加水分解に関与する酸の種類に応じて、適切な酸塩の形態のピリドキシンが生成される、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
ピリドキシン塩酸塩が生成される、請求項14に記載の方法。

【公表番号】特表2007−511558(P2007−511558A)
【公表日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−540247(P2006−540247)
【出願日】平成16年11月9日(2004.11.9)
【国際出願番号】PCT/EP2004/012655
【国際公開番号】WO2005/049618
【国際公開日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】