ビタミンK3を有効成分として含む抗炎症剤
【課題】本発明は、新規抗炎症剤を提供することを課題とする。さらには新規抗炎症剤に有効成分として含まれるビタミンK3の作用を解明し、有効性が高く、安全性に優れた薬剤を提供することを課題とする。さらに本発明は、ビタミンK3を有効成分として含む抗炎症剤を用いる治療方法を提供することを課題とする。
【解決手段】培養細胞を用いた実験や動物実験において、ビタミンK3が抗炎症作用を発揮しうる。ビタミンK3の作用はビタミンK1やビタミンK2と比べて非常に強いことが確認された。
【解決手段】培養細胞を用いた実験や動物実験において、ビタミンK3が抗炎症作用を発揮しうる。ビタミンK3の作用はビタミンK1やビタミンK2と比べて非常に強いことが確認された。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビタミンK3を有効成分として含む抗炎症剤に関する。より詳しくは、ビタミンK3を有効成分として含む、肺炎、膵炎、腸炎、皮膚炎、気管支炎及び気管支喘息の起因となる炎症症状、あるいはこれらの疾患の結果生じる炎症症状に有効に作用する抗炎症剤に関する。さらには、本発明はこれらの症状に対する治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビタミンKは、脂溶性ビタミンのひとつであり、天然に存在するものと人工に合成されたものがある。その生理機能としては骨へのカルシウム定着作用や血液凝固作用などが報告されている。より具体的にはビタミンK依存性タンパク質のN末端に存在するグルタミン酸残基を、生理活性を有するγ−カルボキシグルタミン酸(GLA)に変換する酵素であるγ−グルタミルカルボキシラーゼの補酵素として作用する。また、ビタミンKは血液凝固II(プロトロンビン)、VII、IXやX因子等のビタミンK依存性タンパク質の生合成に不可欠なビタミンである。
【0003】
天然に存在するビタミンKには、緑黄色野菜・海藻類・緑茶・植物油などに含まれるビタミンK1(フィロキノン)と、腸内細菌によって合成されるビタミンK2(メナキノン)の2種類がある。さらにビタミンK2には11種類の同族体があり、この中で食品に多く含まれるのは、動物性食品に広く分布するメナキノン-4と、納豆菌によって産生されるメナキノン-7が挙げられる。通常、フィロキノン・メナキノン-4・メナキノン-7を総称してビタミンKという。また、人工合成型のビタミンKとしてビタミンK3(メナジオン)やビタミンK4(メナジオール)などが挙げられる。
【0004】
ビタミンK類の作用については、多く報告されており、各種ビタミンKや、それらと化学構造の類似するCoQなどについて例えばカラゲニン浮腫動物モデルにこれらの物質を投与したときの抗炎症効果を確認したものがある。ここでは、ビタミンK1、2、CoQは難溶性のため水素添加ヒマシ油に溶かし、ビタミンK3及びK4は水溶性のものを用い、水で溶解したりアラビアゴム乳剤としたものを用いて検討がなされている。その結果、抗炎症作用が認められる場合と認められない場合があり、認められる場合もその効力は弱く、一貫した抗炎症作用は証明できなかった、と報告されている(非特許文献1)。したがって、ビタミンKの抗炎症作用を積極的に支持する成績は得られず、いわゆる抗炎症薬といわれる薬物と比較すれば、Kの抗炎症作用は疑わしいものと思われるとも示されている。
【0005】
ビタミンK2又はその水和物が、NF−κB(Nuclear factor kappa B)活性化阻害作用を有することについて開示がある(特許文献1)。特許文献1では、ビタミンK2又はその水和物は癌細胞増殖抑制、癌治療において有用であり、さらに抗腫瘍剤と組み合わせることにより、抗腫瘍作用が増強されることが示されている。
【0006】
ビタミンK3については、DNAポリメラーゼγを選択的に阻害し、ビタミンK1、K2に比べてより強い抗腫瘍効果があることが報告されている(非特許文献2)。また、ビタミンK3は、膵腺房細胞のアポトーシスを誘導することが報告されている(非特許文献3−5)。しかしながら、各種炎症性疾患に対するビタミンK3の作用、効果については殆ど検討がなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開WO2005/107731号パンフレット
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Vitamine (Japan), 43:282-298 (1971)
【非特許文献2】Cancer Sci, 99:1040-1048 (2008)
【非特許文献3】J Physiol Gastro Liver Physiol, 286: 189-196 (2004)
【非特許文献4】J Cell Sci, 115:485-497 (2002)
【非特許文献5】J Biol Chem, 281:40485-40492 (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、新規抗炎症剤を提供することを課題とする。さらには新規抗炎症剤に有効成分として含まれるビタミンK3(以下、「VitK3」という場合もある。)の作用を解明し、有効性が高く、安全性に優れた薬剤を提供することを課題とする。さらに本発明は、ビタミンK3を有効成分として含む抗炎症剤を用いる治療方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、in vitroやin vivoの実験系において、ビタミンK3が抗炎症作用を発揮しうることを確認し、その作用はビタミンK1やビタミンK2と比べて非常に強いことが確認され、本発明を完成した。
【0011】
すなわち本発明は、以下よりなる。
1.ビタミンK3を有効成分として含む抗炎症剤。
2.炎症が、肺炎、膵炎、腸炎、皮膚炎、気管支炎及び気管支喘息より選択されるいずれかの疾患により生じる症状である前項1に記載の抗炎症剤。
3.炎症が、NF−κBの活性化を伴う症状である前項1又は2に記載の抗炎症剤。
4.炎症性疾患が、オートファジーの異常亢進を伴う症状である前項1又は2に記載の抗炎症剤。
5.ビタミンK3を有効成分として含むNF−κB活性化阻害剤。
6.ビタミンK3を有効成分として含むオートファジーの異常亢進抑制剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、肺炎モデルや膵炎モデルなどの各種炎症性疾患モデル動物にビタミンK3を投与した場合には、組織学的な観察結果より炎症症状が改善することが観察され、ビタミンK3が炎症症状に有効に作用しうることが認められた。このビタミンK3の抗炎症作用は、ビタミンK1やビタミンK2と比べて非常に強いことが確認された。また、ビタミンK3の作用機序を確認した結果、in vitroにおいてLPSによるTNF−αの誘導を抑制したり、TNF−αにより活性化されたNF−κBを抑制することが確認された。さらには、オートファジーを軽減化させることも確認された。すなわち本発明により、ビタミンK3は、NF−κB活性阻害作用やオートファジーの亢進抑制作用を有し、NF−κB活性化やオートファジーの亢進を伴う各種疾患や症状に対して有効に作用しうることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】NF−κBの不活性化状態及び活性化状態の存在様式を示す模式図である。
【図2】HEK293細胞でのTNF−αによる転写因子NF−κB活性化に対するビタミンK3の作用を、ウエスタンブロッティングによるp65の検出にて確認した写真図である。(実施例1)
【図3】RAW264.7細胞でのLPSによる転写因子NF−κB活性化に対するビタミンK3の作用を、ウエスタンブロッティングによるp65の検出にて確認した写真図である。(実施例2)
【図4】ビタミンK3による転写因子NF−κB活性化に及ぼす作用を、RAW264.7細胞でのp65の発現にて確認した写真図である。(実施例3)
【図5】RAW264.7細胞でのLPSによるTNF−αの誘導に対するビタミンK3の作用を示す図である。(実施例4)
【図6】マウスマクロファージ細胞でのLPSによるTNF−αの誘導に対するビタミンK3の作用を示す図である。(実施例5)
【図7】マウスでのLPSによるTNF−αの誘導に対するビタミンK3の作用を示す図である。(実施例6)
【図8】ARDSモデルマウスでのLPSによるTNF−αの誘導に対するビタミンK3の作用を示す図である。(実施例7)
【図9】ARDSモデルマウスでの肺組織を示す写真図である。(実施例8)
【図10】MDCK細胞での飢餓状態によるオートファジーに対するビタミンK3の作用を、組織の形状にて確認した写真図である。(実施例9)
【図11】MDCK細胞での飢餓状態によるオートファジーに対するビタミンK3の作用を、GFP−LC3陽性細胞の発現率にて確認した図である。(実施例9)
【図12】MDCK細胞での飢餓状態によるオートファジーに対するビタミンK3の作用を、LC3−II/LC3−I比にて確認した写真図である。(実施例9)
【図13】マウス膵炎モデルの膵臓組織でのビタミンK3の抗炎症作用を確認した写真図である。(実施例10)
【図14】マウス膵炎モデルの膵臓組織でのオートファジーに対するビタミンK3の作用を確認した写真図である。(実施例11)
【図15】マウス膵炎モデルでの膵臓組織でのビタミンK3によるアポトーシス誘導作用を確認した写真図である。(実施例12)
【図16】マウス腸炎モデルの腸でのビタミンK3の抗炎症作用を確認した図である。(実施例13)
【図17】マウス腸炎モデルの腸でのビタミンK3の抗炎症作用を腸の長さで確認した写真図である。(実施例13)
【図18】マウス腸炎モデルの腸組織でのビタミンK3の抗炎症作用を確認した写真図である。(実施例13)
【図19】マウス皮膚炎モデルの皮膚肥厚の程度を示す図である。(実施例14)
【図20】マウス皮膚炎モデルでの皮膚組織でのビタミンK3の抗炎症作用を確認した写真図である。(実施例14)
【図21】マウス喘息モデルでの肺胞洗浄液(BAL)でのビタミンK3による総細胞数及び白血球細胞分画を確認した図である。(実施例15)
【図22】マウス喘息モデルの気道粘膜でのビタミンK3の抗炎症作用を確認した写真図である。(実施例15)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、ビタミンK3を有効成分として含む抗炎症剤に関する。背景技術の欄でも説明したように、ビタミンKにはいくつかの種類があり、ビタミンK1及びK2は天然に存在するが、ビタミンK3は人工合成型である。以下に、ビタミンK1(式I)、K2(式II)及びK3(式III)の構造式を参考に示す。
【0015】
【化1】
【0016】
【化2】
【0017】
【化3】
【0018】
本発明の抗炎症剤に有効成分として含まれるビタミンK3は、水和物であっても良い。炎症反応とは、身体組織の傷害に反応して、異物を排除しようとする防御反応であり、細胞からさまざまな伝達物質が放出され、腫れや痛み、発熱などを伴う反応をいう。炎症性疾患とは炎症反応による伝達物質によっておこる病気の総称であり、代表的なものに肺炎、膵炎、炎症性腸炎、皮膚炎、関節炎、筋炎、血管炎などが挙げられる。本発明において炎症とは、いわゆる炎症性疾患により発生する症状のみならず、腫瘍やアレルギー性疾患などのいわゆる炎症性疾患には含まれない疾患などであっても、それらに起因して身体組織に障害を生じた結果、炎症反応がおこり、腫れや痛み、発熱などを伴う症状が起こる場合も包含される。したがって、本発明の抗炎症剤は、いわゆる炎症性疾患に対してのみならず、あらゆる炎症症状を伴う場合に使用することができる。本発明は、これらの症状に対する治療方法にも及ぶ。
【0019】
本発明において、炎症は上記広義の範囲で解釈されるが、好適にはNF−κBの活性化を伴うものが挙げられる。NF−κBは転写因子の一種であり、免疫応答に関与するともいわれている。不活性なNF−κBは、ヘテロ二量体を形成して細胞質に存在し、IκB(InhibitorκB)と結合することによりその活性は抑制されている。しかし、TNF−αなどの刺激によりIκBのセリン残基がリン酸化する酵素複合体であるIκBキナーゼが活性化すると、IκBはプロテアソームにより分解を受ける。その結果NF−κBの核内移行シグナルが露出し、核内に移行できるようになる(図1参照)。
【0020】
生体内では、通常厳密にNF−κBの発現は制御されているものの、炎症性サイトカイン、細菌やウイルス(発ガン性ウイルスを含む)の感染、紫外線、ディーゼル粉末粒子など、ストレスを伴う外部刺激を受けると活性化されて核内に移行し、その制御下にある遺伝子の発現を誘導し、その結果、免疫応答や細胞死が回避されるといった生体防御機構が働く。具体的には、NF−κBが活性化されると、さまざまなタンパク質の転写を活性化し、TNF−αなどのサイトカインや、ケモカイン、接着分子、サイクリンなどの発現量が増加し、これらによって生体防御機構が作用する。これらの反応は、通常一過性のものであるが、ウイルスや紫外線、アレルゲンなどの化学物質による一部の特殊な刺激はNF−κBの恒常的又は過剰な活性化を引き起こし、アレルギー疾患や炎症性疾患、悪性腫瘍などを誘発する原因のひとつとなっている。本発明においては、炎症は、肺炎、膵炎、腸炎、皮膚炎、気管支炎及び気管支喘息等の疾患の起因となる炎症症状、あるいはこれらの疾患の結果生じる炎症症状が好適に例示される。例えば、気管支炎、気管支喘息は、気道の炎症又は慢性炎症に起因する疾患である。
【0021】
本発明において、炎症はオートファジー(autophagy)の異常亢進を伴うものも含まれる。オートファジーは細胞の飢餓状態や細胞死に起因して生じるともいわれており、オートファゴソーム(リソソームと融合したファゴソーム:自己の細胞成分を取り込んだリソソーム加水分解酵素を含む細胞質内隔離膜構造体)に取り込んだ自己の細胞内成分物をリソソーム酵素で分解する細胞現象である。オートファジーは、細胞の飢餓状態や細胞死以外にも様々な細胞活動に関連していることが知られている。例えば、細胞質内に感染した細菌やウイルスの排除に関連することが報告されている。
【0022】
本発明において、ビタミンK3はNF−κB活性化阻害剤の有効成分として作用する。NF−κB活性化阻害のメカニズムは明らかではないが、例えばあるタンパク質のプロモーターの転写因子であるIκBのリン酸化が阻害されることで、NF−κBの活性化が阻害されるとも考えられる。すなわち、ビタミンK3は、IκBのリン酸化を阻害することで、NF−κBの活性化を阻害すると考えられる。本発明は、ビタミンK3を有効成分とするNF−κB活性化阻害剤にも及ぶ。本発明において「NF−κB活性化阻害剤」とは、転写因子NF−κBの機能を阻害する作用を有する薬剤を意味する。例えば、生体又は生体の一部において、NF−κBがIκBとの複合体から解放されるのを阻害する薬剤、NF−κBの核への移行を阻害する薬剤、NF−κBのDNA結合活性を阻害する薬剤、NF−κBの転写活性を阻害する薬剤などが含まれる。
【0023】
また、本発明において、ビタミンK3はオートファジーの異常亢進抑制剤の有効成分としても作用する。白血球の細胞死や末梢血細胞数の制御は、炎症や生体防御と深い関わりをもっていることから、オートファジーの異常亢進を抑制することで、抗炎症作用も発揮しうる。
【0024】
本発明は、ビタミンK3を有効成分とする薬剤に関し、その投与量は適宜決定することができる。例えばヒトに投与する場合、投与量や投与方法は適宜決定することができる。好ましい投与量は、ビタミンK3として、成人(体重60kg)あたり、通常、10〜200mg/日であり、好ましくは15〜135mg/日であり、さらに好ましくは30〜60mg/日(例えば45mg/日)である。投与期間は、特に限定されるものではなく、例えば、1〜1000日、好ましくは3〜300日である。投与量及び投与期間は、炎症の治療効果と患者の状態を勘案しながら、適宜設定することができる。
【0025】
本発明に使用するビタミンK3又はその水和物は、公知の方法又は今後開発される方法により合成することができる。例えば、メナジオン(シグマ製)のような市販のビタミンK3を使用することもできる。
【0026】
本発明のビタミンK3を有効成分として含む薬剤は、薬学的に許容しうる添加剤を混和し製剤化して使用することができる。上記添加剤としては、一般に医薬に使用される、賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、着色剤、矯味矯臭剤、乳化剤、界面活性剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、防腐剤、抗酸化剤、安定化剤、吸収促進剤等を挙げることができ、所望により、これらを適宜組み合わせて使用することもできる。
【0027】
以下に上記添加剤の例を挙げる。賦形剤としては、例えば乳糖、白糖、ブドウ糖、コーンスターチ、マンニトール、ソルビトール、デンプン、α化デンプン、デキストリン、結晶セルロース、軽質無水ケイ酸、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、リン酸水素カルシウムが挙げられる。
【0028】
結合剤としては、例えばポリビニルアルコール、メチルセルロース、エチルセルロース、アラビアゴム、トラガント、ゼラチン、シェラック、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン、マクロゴールが挙げられる。滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、フマル酸ステアリルナトリウム、タルク、ポリエチレングリコール、コロイドシリカが挙げられる。崩壊剤としては、結晶セルロース、寒天、ゼラチン、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸カルシウム、デキストリン、ペクチン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチ、カルボキシメチルスターチナトリウムが挙げられる。着色剤としては三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、カルミン、カラメル、β−カロチン、酸化チタン、タルク、リン酸リボフラビンナトリウム、黄色アルミニウムレーキ等、医薬品に添加することが許可されているものが挙げられる。
【0029】
矯味矯臭剤としては、ココア末、ハッカ脳、芳香散、ハッカ油、竜脳、桂皮末が挙げられる。乳化剤又は界面活性剤としては、ステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸、レシチン、モノステアリン酸グリセリン、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステルが挙げられる。溶解補助剤としては、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、安息香酸ベンジル、エタノール、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ポリソルベート80、ニコチン酸アミドが挙げられる。懸濁化剤としては、前記界面活性剤のほか、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の親水性高分子が挙げられる。
【0030】
等張化剤としては、ブドウ糖、塩化ナトリウム、マンニトール、ソルビトールが挙げられる。緩衝剤としてはリン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸塩などの緩衝液が挙げられる。防腐剤としてはメチルパラベン、プロピルパラベン、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸が挙げられる。抗酸化剤としては硫酸塩、アスコルビン酸、α−トコフェロールが挙げられる。安定化剤としては一般に医薬に使用されるものが挙げられる。吸収促進剤としては一般に医薬に使用されるものが挙げられる。また、必要に応じて、ビタミン類、アミノ酸等の成分を配合してもよい。
【0031】
また、上記製剤としては、錠剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、カプセル剤、シロップ剤、トローチ剤、吸入剤等の経口剤;坐剤、軟膏剤、眼軟膏剤、テープ剤、点眼剤、点鼻剤、点耳剤、パップ剤、ローション剤等の外用剤又は注射剤を挙げることができる。上記経口剤は、上記添加剤を適宜組み合わせて製剤化することができる。なお、必要に応じてこれらの表面をコーティングしてもよい。上記外用剤は、上記添加剤のうち、特に賦形剤、結合剤、矯味矯臭剤、乳化剤、界面活性剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、防腐剤、抗酸化剤、安定化剤又は吸収促進剤を適宜組み合わせて製剤化することができる。上記注射剤は、上記添加剤のうち、特に乳化剤、界面活性剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、防腐剤、抗酸化剤、安定化剤又は吸収促進剤を適宜組み合わせて製剤化することができる。
【実施例】
【0032】
本発明の理解を深めるために、以下の実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではないことは明らかである。
【0033】
(実施例1)ビタミンK3による転写因子NF−κB活性化に及ぼす作用(1)
本実施例ではヒト腎臓由来細胞株であるHEK293細胞を用いて、ビタミンK3の転写因子NF−κBの活性化に及ぼす作用を確認した。不活性なNF−κB及び活性化されたNF−κBの存在様式については、図1を参照されたい。
【0034】
本実施例では、HEK293細胞を、50μMのビタミンK3を含むDMEM培地で37℃、30分間インキュベーションし、次に100ng/mlのTNF−αを含むDMEM培地に交換してさらに37℃、30分間インキュベーションし、その後NF−κBを構成するサブユニットであるp65(65kDa)の存在を確認することで、NF−κBの活性化を確認した。p65はp65に対する抗体(SantaCruz Biotechnology製)を用いてウエスタンブロット法にて確認した。比較例として、ビタミンK3の代わりにビタミンK1又はK2で処理した場合についても確認した。また陰性コントロールは各種ビタミンKもTNF−αでも処理しない系とし、陽性コントロールは各種ビタミンKでは処理を行わなかったが、TNF−αで処理を行った系とした。
【0035】
上記の結果、ビタミンK3で処理した系については、陰性コントロールとほぼ同様に65kDaのバンドは殆ど認められなかった。これにより、ビタミンK3はTNF−αによるNF−κBの活性化を抑制しうる作用があることが確認された。一方、ビタミンK1、K2で処理した系についてはいずれも陽性コントロールと同様に65kDaでバンドが認められ、NF−κBの活性化の抑制作用は認められなかった(図2)。
【0036】
(実施例2)ビタミンK3による転写因子NF−κB活性化に及ぼす作用(2)
本実施例では、TNF−αを含む培地で処理する代わりに、100ng/mlのLPS(lipopolysaccharide)を含む培地で処理したほかは、実施例1と同手法により検討を行なった。LPSにより細胞が刺激されるとIL−1、TNF−α、IL−6、IL−8や血小板活性化因子(PAF)などのサイトカイン誘導放出を促進する。その結果、LPSで処理することによりNF−κBが活性化される。
【0037】
上記の結果、LPS及びビタミンK3で処理した系については、LPSもビタミンK3も用いない陰性コントロールとほぼ同様に65kDaのバンドは殆ど認められなかった。一方、LPSで処理し、ビタミンK3で処理しない陽性コントロールでは65kDaでバンドが認められ、NF−κBの活性化が確認された(図3)。これにより、ビタミンK3は、LPSによるNF−κBの活性化を抑制しうることが確認された。
【0038】
(実施例3)ビタミンK3による転写因子NF−κBの核内移行に及ぼす作用
本実施例ではマクロファージ様細胞株であるRaw264.7細胞を用いて、転写因子NF−κBの核内移行を確認した。
【0039】
本実施例では、Raw264.7細胞を、50μMのビタミンK3を含むDMEM培地で37℃、30分間インキュベーションし、次に100ng/mlのLPSを含むDMEM培地に交換してさらに37℃、30分間インキュベーションし、その後NF−κBを構成するサブユニットであるp65(65kDa)の存在を確認することで、NF−κBの活性化を確認した。p65はp65に対する抗体(SantaCruz Biotechnology製)を用いて免疫染色法にて確認した。また陰性コントロールは各種ビタミンKもLPSでも処理しない系とし、陽性コントロールは各種ビタミンK3では処理を行わなかったが、LPSで処理を行った系とした。また、ビタミンK3とLPSを処理した各Raw264.7細胞の核を、核染色色素であるTOPRO-3(インビトロジェン社製)を用いて染色し、蛍光顕微鏡により核の位置を確認した。LPS及びビタミンK3で処理した系については、LPSもビタミンK3も用いない陰性コントロールとほぼ同様に、核内にはNFκBのサブユニットp65は殆ど認められなかった。一方、LPSで処理し、ビタミンK3で処理しない陽性コントロールでは核内にNFκBのサブユニットp65の存在が認められ、NF−κBの活性化が確認された(図4)。これにより、ビタミンK3は、LPSによるNF−κBの活性化を抑制しうることが免疫染色法によっても確認された。
【0040】
(実施例4)ビタミンK3によるLPSのTNF−α誘導に及ぼす作用(1)
本実施例では、マクロファージ様細胞株であるRaw264.7細胞を用いて、ビタミンK3によるLPSのTNF−α誘導に及ぼす作用を確認した。
【0041】
本実施例では、Raw264.7細胞を、50μMのビタミンK3を含むDMEM培地で37℃、30分間インキュベーションし、次に100ng/mlのLPSを含むDMEM培地に交換してさらに37℃、12時間インキュベーションした。その後、LPSによって誘導されたTNF−αの量を、ELISAの系で市販のキット(Bioscience製)を用いて測定した。
【0042】
上記の結果、LPS及びビタミンK3で処理した系では、TNF−αの産生は認められなかった。一方、LPSで処理し、ビタミンK3で処理しない陽性コントロールでは高いTNF−αの産生が確認された(図5)。これにより、ビタミンK3は、LPSによるTNF−αの産生誘導を抑制しうることが確認された。
【0043】
(実施例5)ビタミンK3によるLPSのTNF−α誘導に及ぼす作用(2)
本実施例では、マウスより採取したマロファージ様細胞を用いて、ビタミンK3によるLPSのTNF−α誘導に及ぼす作用を確認した。
【0044】
まず、C57BL/6マウス(雄、8週齢)に3%チオグリコール酸0.1mlを腹腔内(ip)投与して1週間おき、腹膜炎モデルマウスを作製した。得られたモデルマウスの腹膜腔よりマクロファージ様細胞を採取し、DMEM培地中で37℃、1日間培養した。培地を5、10又は50μMのビタミンK3を含むDMEM培地に交換し、37℃、30分間インキュベーションした。次に100ng/mlのLPSを含む培地に交換し、37℃、12時間インキュベーションした。その後、LPSによって誘導されたTNF−αの量を、ELISAの系で測定した。測定は、実施例4と同手法により行なった。
【0045】
上記の結果、LPS及びビタミンK3で処理した系では、ビタミンK3の濃度依存的にTNF−αの産生が抑制されることが確認された。一方、LPSで処理し、ビタミンK3で処理しない陽性コントロールや、ビタミンK3が5μMの系では高いTNF−αの産生が確認された(図6)。これにより、ビタミンK3の濃度依存的に、LPSによるTNF−αの産生誘導を抑制しうることが確認された。
【0046】
(実施例6)ビタミンK3によるLPSのTNF−α誘導に及ぼす作用(3)
本実施例では、マウスにビタミンK3を投与したときの、ビタミンK3によるLPSのTNF−α誘導に及ぼす作用を確認した。
【0047】
まず、C57BL/6マウス(雄、7週齢)に100mg/kgのビタミンK3を腹腔内(ip)投与して30分後、250μg/kgのLPSを腹腔内(ip)投与し、さらに1時間おいた。その後心臓採血を行い、血中のTNF−αの量をELISAの系で測定した。測定は、実施例4と同手法により行なった。
【0048】
上記の結果、LPS及びビタミンK3を投与した系では、陰性コントロールと同様に、TNF−αの産生が抑制されることが確認された。一方、LPS投与を行い、ビタミンK3投与しない陽性コントロールでは高いTNF−αの産生が確認された(図7)。これにより、ビタミンK3がLPSによるTNF−αの産生誘導を抑制することが確認された。
【0049】
(実施例7)ビタミンK3によるLPSのTNF−α誘導に及ぼす作用(4)
本実施例では、ARDS(急性呼吸促迫症候群,Acute Respiratory Distress Syndrome)モデルマウスにビタミンK3を投与したときの、ビタミンK3によるLPSのTNF−α誘導に及ぼす作用を確認した。
【0050】
まず、C57BL/6マウス(雄、8週齢)に100mg/kgのビタミンK3を腹腔内(ip)投与して30分後、15mg/kgのLPSを腹腔内(ip)投与し、ARDSモデルを作製した。その後心臓採血を行い、血中のTNF−αの量をELISAの系で測定した。測定は、実施例4と同手法により行なった。
【0051】
上記の結果、LPS及びビタミンK3を投与した系では、TNF−αの産生が抑制されることが確認された。一方、LPS投与を行い、ビタミンK3投与しない陽性コントロールでは高いTNF−αの産生が確認された(図8)。これにより、高濃度のLPS(15mg/kg)で処理したARDSモデルにおいても、ビタミンK3がLPSによるTNF−αの産生誘導を抑制することが確認された。
【0052】
(実施例8)ビタミンK3によるLPSの肺組織に及ぼす作用
本実施例では、ARDSモデルマウスにビタミンK3を投与したときの、ビタミンK3によるLPSの肺組織に及ぼす作用を確認した。
実施例7の各条件で処理したマウスから肺組織を得、確認した。肺組織を用いて、ヘマトキシリン・エオシン染色を行った結果、LPS処理において、肺組織の崩壊が確認された。LPSとビタミンK3とを処理した結果、LPSによる肺組織の崩壊は見られず、肺組織の状態は陰性コントロールと同じ程度であった(図9)。
【0053】
(実施例9)ビタミンK3によるオートファジーに及ぼす作用
マウス膵炎モデルでは、膵腺房細胞でオートファジー(autophagy)が誘導されることは公知であり(膵臓, 23: 20-24 (2008))、膵臓特異的にオートファジーを欠損させると、膵炎が抑制されることも公知である(J Biol Chem, 181:1065-1072 (2008))。本実施例ではイヌ腎臓由来細胞株であるMDCK細胞を用いて、in vitroの系でオートファジーを作製し、ビタミンK3のオートファジーに及ぼす作用を確認した。
【0054】
オートファジーは飢餓状態に対する適応機構の1つであり、広く真核生物に保存されている機構である。生物は外界の栄養源の飢餓状態を感知すると、オートファジーにより自己細胞の細胞質の構成成分やオルガネラをリソソーム/液胞内で分解し、リサイクルする。オートファジーは細胞内のタンパク質分解系のひとつである。オートファジーでは、オートファゴソーム(autophagosome)と呼ばれる脂質二重膜構造体が形成され、分解すべき細胞質成分を膜で隔離する。この脂質二重膜成分に、ATG5とLC3−I,IIが発現する。LC3−Iに対するLC3−IIの発現の割合からオートファジーを確認することができる。
【0055】
MDCK細胞は、通常10v/v%のFCSを含むDMEM培地で培養されるが、FCSを欠く培地で培養したときは、細胞は飢餓状態になる。10v/v%のFCSを含むDMEM培地で培養した系、FCSを欠くDMEM培地で培養した系、及びFCSを欠くが、50μMのビタミンK3を含むDMEM培地で培養した系について細胞の形態を確認した。飢餓状態は2時間とし、ビタミンK3は飢餓状態の30分前より前投与した。飢餓状態後に細胞を固定し、核染色したのちに共焦点顕微鏡で観察した。
【0056】
飢餓状態で2時間培養した系では、オートファゴソームを示すGFPシグナルを多数観察した。GFPシグナルを発現している細胞をGFP−LC3陽性細胞という。一方、ビタミンK3を投与した系ではGFPシグナルはほとんど見られなかった(図10)。
【0057】
また、全細胞中のGFP−LC3陽性細胞量を確認したところ、ビタミンK3を投与した系では、ほとんど確認できなかった。以上より細胞の飢餓状態に起因するオートファジーが、ビタミンK3により抑制されることが確認された(図11)。
【0058】
上記各培養条件でMDCK細胞を培養したときのLC3−I及びLC3−IIの発現をウエスタンブロット法にて確認した。各抗体は、Anti-LC3 (Medical & Biological Laboratories社製)を使用した。飢餓状態の系で発現していたLC3−IIがビタミンK3投与で、減弱していた。のLC3−I/LC3−II比の計測でもビタミンK3投与でのLC3−IIの低下が示されており、図10−11と同様の結論を示唆する結果となった(図12)。
【0059】
(実施例10)マウス膵炎におけるビタミンK3の作用(1)
マウス急性膵炎モデルにおけるビタミンK3投与の効果について検討した。C57BL/6マウス(雄、8週齢)にセルレイン(50μg/kg)を1時間ごとに6回腹腔投与して、急性膵炎を惹起した。ビタミンK3(100mg/kg)単回投与、または2回投与した系で膵の炎症程度を比較した。セルレインのみ投与した系の膵組織では、浮腫や炎症細胞浸潤といった著明な炎症所見が観察された。ビタミンK3投与で炎症は著明に減少し、2回投与でさらに低下していた。この結果よりマウス膵炎モデルにおいてビタミンK3投与で炎症が軽減されることが確認された(図13)。
【0060】
(実施例11)マウス膵炎におけるビタミンK3の作用(2)
図13と同様の実験をGFP−LC3トランスジェニックマウス(雄、8週齢)で行い、膵炎時のオートファジーとビタミンK3の関連を確認した。膵組織の共焦点顕微鏡での観察では、セルレインのみ投与した系では著明なGFPシグナルを認めたのに対し、ビタミンK3も投与することによってシグナルの低下が見られた。ウエスタンブロット法での解析でも同様の結果となり、マウス膵炎モデルでのオートファジーが、ビタミンK3投与により抑制されることが確認された(図14)。
【0061】
(実施例12)マウス膵炎におけるビタミンK3の作用(3)
図13と同様の実験系で得た膵組織標本を用いて、ビタミンK3とアポトーシスの関連を検討した。膵組織をAnti-activated caspase3抗体(Promega社)で染色し、共焦点顕微鏡で観察した。ビタミンK3を投与した系でアポトーシスの誘導がみられた。この結果により、マウス膵炎モデルでビタミンK3投与により、膵組織においてアポトーシスが誘導されることが確認された(図15)。
【0062】
(実施例13)マウス腸炎におけるビタミンK3の作用
A)DSS誘起大腸炎モデルマウス作製時にビタミンK3を投与したときの作用
8週齢の♀B6マウスに蒸留水で3%に溶かしたデキストラン硫酸ナトリウム(Dextran sodium sulfate (DSS))を5日間飲水させDSS誘起大腸炎モデルマウスを作製した。
DSS投与開始より5日間、ビタミンK3を100mg/kg(コーン油で希釈)を、200μ/lずつ経口投与した。また、コントロールとしてコーン油で希釈)を、200μ/lずつ5日間経口投与した。5日目の体重の変化を測定し、5日目に解剖し、腸の長さの測定とHE染色による組織学的評価を行った。
【0063】
B)DSS誘起大腸炎モデルマウス作製後にビタミンK3を投与したときの作用
8週齢の♀B6マウスに蒸留水で3%に溶かしたDSSを5日間飲水させDSS誘起大腸炎モデルマウスを作製した。6日目以降は通常の飲水を行なった。
DSS投与開始より8日目から5日間、ビタミンK3を100mg/kg(コーン油で希釈)を、200μ/lずつ経口投与した。また、コントロールとしてコーン油で希釈)を、200μ/lずつ5日間経口投与した。DSS開始時から体重の変化を測定し、12日目に解剖し、腸の長さの測定とHE染色による組織学的評価を行った。
【0064】
腸の長さは、ビタミンK投与群は、コントロール群に比べてやや長かった。また、HE染色による組織学的評価の結果、ビタミンK投与群の腸では炎症が抑制され、正常な組織所見が観察された。
【0065】
(実施例14)マウス皮膚炎におけるビタミンK3の作用
8週齢の♀B6マウスに、0.5%2,4‐ジニトロフルオロベンゼン(DNFB)を感作させ、DNFB誘発接触皮膚炎モデルを作製した。感作後6日目に、マウスの両側の耳の厚みを測定し、その後右耳にコーン油(濃度10mg/ml)で溶解したビタミンK3を10マイクロリットルを、コントロールとして左耳にコーンオイルをそれぞれ塗布後、0.2%DNFBを両耳に塗布し、アレルギー反応を惹起させた。
【0066】
惹起翌日に両側の耳の厚みを測定し、右耳と左耳の肥厚率を比較・検定し、ビタミンK3の抗炎症効果を評価した。その結果、ビタミンK3投与群のアレルギー反応惹起前後の厚みの差は、コントロール群に比べて薄く、ビタミンK3は皮膚炎において、抗炎症作用を発揮していることが確認された(図19)。
【0067】
DNFB感作後6日目に、モデルの耳を切除し病理標本を作製した。その結果、コントロール群では、皮下組織に著明な炎症細胞の浸潤を認めたが、ビタミンK3投与群では炎症細胞の浸潤は抑制されていた(図20)。
【0068】
(実施例15)マウス喘息におけるビタミンK3の作用
生後6週のC57BL/6マウス(♀)を用い、コーン油で溶解したビタミンK3を2mg/kg、10mg/kg、100mg/kg及びコントロールとしてコーン油を投与した4群で比較を行なった。
喘息モデルとして卵白アルブミン(OVA)を用いた気道炎症モデルがある。これは、OVA/Alumで免疫後、OVAを吸入させて気道炎症を起こすものである。
0日目及び7日目にマウスにOVA/Alumを10μg/1mgを腹腔内投与することで感作を行い、次に14−16日目に1%OVAの吸入を30分行ない、マウス喘息モデルを作製した。13日目に各濃度のビタミンK3又はコーンオイルをモデルの腹腔内に各々200μL/匹投与し、喘息に対する治療効果を検討した。17日目に気管挿管を行い、PBS0.8mlで2回肺胞洗浄(BAL)を行い、BAL中の総細胞数と白血球細胞分画で気道炎症の程度を評価した。具体的にはBAL液の細胞数を、血算板を用いてカウントした後、3000rpm、3分間でサイトスピンを行い、Diff-Quick染色を用いて分画を評価した。その結果、ビタミンK3の投与により、細胞数や好酸球すうが抑制され、炎症症状が改善されることが確認された(図21)。
【0069】
また、マウス喘息モデルを作製24時間後に、解剖して気道粘膜組織の病理標本を作製した。その結果、コントロール群では、気道粘膜組織に著明な炎症細胞の浸潤を認めたが、ビタミンK3投与群では炎症細胞の浸潤は抑制されていた(図22)。
【産業上の利用可能性】
【0070】
以上詳述したように、本発明により、肺炎、膵炎、腸炎、皮膚炎又は喘息モデルなどの各種炎症性疾患モデル動物にビタミンK3を投与した場合には、組織学的な観察結果より炎症症状が改善することが観察された。これらにより、ビタミンK3が炎症症状に有効に作用し、このビタミンK3の抗炎症効果は、ビタミンK1やビタミンK2と比べて非常に強いと考えられる。また、ビタミンK3の作用機序を確認した結果、in vitroにおいてLPSによるTNF−αの誘導を抑制したり、TNF−αにより活性化されたNF−κBを抑制することが確認され、さらには、オートファジーを軽減化させることも確認された。本発明によりビタミンK3は、NF−κB活性阻害作用やオートファジーの亢進抑制作用を有し、NF−κB活性化やオートファジーの異常亢進を伴う各種疾患や症状に対して有効に作用しうることが判明したため、ビタミンK3は優れた抗炎症剤として利用することができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビタミンK3を有効成分として含む抗炎症剤に関する。より詳しくは、ビタミンK3を有効成分として含む、肺炎、膵炎、腸炎、皮膚炎、気管支炎及び気管支喘息の起因となる炎症症状、あるいはこれらの疾患の結果生じる炎症症状に有効に作用する抗炎症剤に関する。さらには、本発明はこれらの症状に対する治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビタミンKは、脂溶性ビタミンのひとつであり、天然に存在するものと人工に合成されたものがある。その生理機能としては骨へのカルシウム定着作用や血液凝固作用などが報告されている。より具体的にはビタミンK依存性タンパク質のN末端に存在するグルタミン酸残基を、生理活性を有するγ−カルボキシグルタミン酸(GLA)に変換する酵素であるγ−グルタミルカルボキシラーゼの補酵素として作用する。また、ビタミンKは血液凝固II(プロトロンビン)、VII、IXやX因子等のビタミンK依存性タンパク質の生合成に不可欠なビタミンである。
【0003】
天然に存在するビタミンKには、緑黄色野菜・海藻類・緑茶・植物油などに含まれるビタミンK1(フィロキノン)と、腸内細菌によって合成されるビタミンK2(メナキノン)の2種類がある。さらにビタミンK2には11種類の同族体があり、この中で食品に多く含まれるのは、動物性食品に広く分布するメナキノン-4と、納豆菌によって産生されるメナキノン-7が挙げられる。通常、フィロキノン・メナキノン-4・メナキノン-7を総称してビタミンKという。また、人工合成型のビタミンKとしてビタミンK3(メナジオン)やビタミンK4(メナジオール)などが挙げられる。
【0004】
ビタミンK類の作用については、多く報告されており、各種ビタミンKや、それらと化学構造の類似するCoQなどについて例えばカラゲニン浮腫動物モデルにこれらの物質を投与したときの抗炎症効果を確認したものがある。ここでは、ビタミンK1、2、CoQは難溶性のため水素添加ヒマシ油に溶かし、ビタミンK3及びK4は水溶性のものを用い、水で溶解したりアラビアゴム乳剤としたものを用いて検討がなされている。その結果、抗炎症作用が認められる場合と認められない場合があり、認められる場合もその効力は弱く、一貫した抗炎症作用は証明できなかった、と報告されている(非特許文献1)。したがって、ビタミンKの抗炎症作用を積極的に支持する成績は得られず、いわゆる抗炎症薬といわれる薬物と比較すれば、Kの抗炎症作用は疑わしいものと思われるとも示されている。
【0005】
ビタミンK2又はその水和物が、NF−κB(Nuclear factor kappa B)活性化阻害作用を有することについて開示がある(特許文献1)。特許文献1では、ビタミンK2又はその水和物は癌細胞増殖抑制、癌治療において有用であり、さらに抗腫瘍剤と組み合わせることにより、抗腫瘍作用が増強されることが示されている。
【0006】
ビタミンK3については、DNAポリメラーゼγを選択的に阻害し、ビタミンK1、K2に比べてより強い抗腫瘍効果があることが報告されている(非特許文献2)。また、ビタミンK3は、膵腺房細胞のアポトーシスを誘導することが報告されている(非特許文献3−5)。しかしながら、各種炎症性疾患に対するビタミンK3の作用、効果については殆ど検討がなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開WO2005/107731号パンフレット
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Vitamine (Japan), 43:282-298 (1971)
【非特許文献2】Cancer Sci, 99:1040-1048 (2008)
【非特許文献3】J Physiol Gastro Liver Physiol, 286: 189-196 (2004)
【非特許文献4】J Cell Sci, 115:485-497 (2002)
【非特許文献5】J Biol Chem, 281:40485-40492 (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、新規抗炎症剤を提供することを課題とする。さらには新規抗炎症剤に有効成分として含まれるビタミンK3(以下、「VitK3」という場合もある。)の作用を解明し、有効性が高く、安全性に優れた薬剤を提供することを課題とする。さらに本発明は、ビタミンK3を有効成分として含む抗炎症剤を用いる治療方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、in vitroやin vivoの実験系において、ビタミンK3が抗炎症作用を発揮しうることを確認し、その作用はビタミンK1やビタミンK2と比べて非常に強いことが確認され、本発明を完成した。
【0011】
すなわち本発明は、以下よりなる。
1.ビタミンK3を有効成分として含む抗炎症剤。
2.炎症が、肺炎、膵炎、腸炎、皮膚炎、気管支炎及び気管支喘息より選択されるいずれかの疾患により生じる症状である前項1に記載の抗炎症剤。
3.炎症が、NF−κBの活性化を伴う症状である前項1又は2に記載の抗炎症剤。
4.炎症性疾患が、オートファジーの異常亢進を伴う症状である前項1又は2に記載の抗炎症剤。
5.ビタミンK3を有効成分として含むNF−κB活性化阻害剤。
6.ビタミンK3を有効成分として含むオートファジーの異常亢進抑制剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、肺炎モデルや膵炎モデルなどの各種炎症性疾患モデル動物にビタミンK3を投与した場合には、組織学的な観察結果より炎症症状が改善することが観察され、ビタミンK3が炎症症状に有効に作用しうることが認められた。このビタミンK3の抗炎症作用は、ビタミンK1やビタミンK2と比べて非常に強いことが確認された。また、ビタミンK3の作用機序を確認した結果、in vitroにおいてLPSによるTNF−αの誘導を抑制したり、TNF−αにより活性化されたNF−κBを抑制することが確認された。さらには、オートファジーを軽減化させることも確認された。すなわち本発明により、ビタミンK3は、NF−κB活性阻害作用やオートファジーの亢進抑制作用を有し、NF−κB活性化やオートファジーの亢進を伴う各種疾患や症状に対して有効に作用しうることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】NF−κBの不活性化状態及び活性化状態の存在様式を示す模式図である。
【図2】HEK293細胞でのTNF−αによる転写因子NF−κB活性化に対するビタミンK3の作用を、ウエスタンブロッティングによるp65の検出にて確認した写真図である。(実施例1)
【図3】RAW264.7細胞でのLPSによる転写因子NF−κB活性化に対するビタミンK3の作用を、ウエスタンブロッティングによるp65の検出にて確認した写真図である。(実施例2)
【図4】ビタミンK3による転写因子NF−κB活性化に及ぼす作用を、RAW264.7細胞でのp65の発現にて確認した写真図である。(実施例3)
【図5】RAW264.7細胞でのLPSによるTNF−αの誘導に対するビタミンK3の作用を示す図である。(実施例4)
【図6】マウスマクロファージ細胞でのLPSによるTNF−αの誘導に対するビタミンK3の作用を示す図である。(実施例5)
【図7】マウスでのLPSによるTNF−αの誘導に対するビタミンK3の作用を示す図である。(実施例6)
【図8】ARDSモデルマウスでのLPSによるTNF−αの誘導に対するビタミンK3の作用を示す図である。(実施例7)
【図9】ARDSモデルマウスでの肺組織を示す写真図である。(実施例8)
【図10】MDCK細胞での飢餓状態によるオートファジーに対するビタミンK3の作用を、組織の形状にて確認した写真図である。(実施例9)
【図11】MDCK細胞での飢餓状態によるオートファジーに対するビタミンK3の作用を、GFP−LC3陽性細胞の発現率にて確認した図である。(実施例9)
【図12】MDCK細胞での飢餓状態によるオートファジーに対するビタミンK3の作用を、LC3−II/LC3−I比にて確認した写真図である。(実施例9)
【図13】マウス膵炎モデルの膵臓組織でのビタミンK3の抗炎症作用を確認した写真図である。(実施例10)
【図14】マウス膵炎モデルの膵臓組織でのオートファジーに対するビタミンK3の作用を確認した写真図である。(実施例11)
【図15】マウス膵炎モデルでの膵臓組織でのビタミンK3によるアポトーシス誘導作用を確認した写真図である。(実施例12)
【図16】マウス腸炎モデルの腸でのビタミンK3の抗炎症作用を確認した図である。(実施例13)
【図17】マウス腸炎モデルの腸でのビタミンK3の抗炎症作用を腸の長さで確認した写真図である。(実施例13)
【図18】マウス腸炎モデルの腸組織でのビタミンK3の抗炎症作用を確認した写真図である。(実施例13)
【図19】マウス皮膚炎モデルの皮膚肥厚の程度を示す図である。(実施例14)
【図20】マウス皮膚炎モデルでの皮膚組織でのビタミンK3の抗炎症作用を確認した写真図である。(実施例14)
【図21】マウス喘息モデルでの肺胞洗浄液(BAL)でのビタミンK3による総細胞数及び白血球細胞分画を確認した図である。(実施例15)
【図22】マウス喘息モデルの気道粘膜でのビタミンK3の抗炎症作用を確認した写真図である。(実施例15)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、ビタミンK3を有効成分として含む抗炎症剤に関する。背景技術の欄でも説明したように、ビタミンKにはいくつかの種類があり、ビタミンK1及びK2は天然に存在するが、ビタミンK3は人工合成型である。以下に、ビタミンK1(式I)、K2(式II)及びK3(式III)の構造式を参考に示す。
【0015】
【化1】
【0016】
【化2】
【0017】
【化3】
【0018】
本発明の抗炎症剤に有効成分として含まれるビタミンK3は、水和物であっても良い。炎症反応とは、身体組織の傷害に反応して、異物を排除しようとする防御反応であり、細胞からさまざまな伝達物質が放出され、腫れや痛み、発熱などを伴う反応をいう。炎症性疾患とは炎症反応による伝達物質によっておこる病気の総称であり、代表的なものに肺炎、膵炎、炎症性腸炎、皮膚炎、関節炎、筋炎、血管炎などが挙げられる。本発明において炎症とは、いわゆる炎症性疾患により発生する症状のみならず、腫瘍やアレルギー性疾患などのいわゆる炎症性疾患には含まれない疾患などであっても、それらに起因して身体組織に障害を生じた結果、炎症反応がおこり、腫れや痛み、発熱などを伴う症状が起こる場合も包含される。したがって、本発明の抗炎症剤は、いわゆる炎症性疾患に対してのみならず、あらゆる炎症症状を伴う場合に使用することができる。本発明は、これらの症状に対する治療方法にも及ぶ。
【0019】
本発明において、炎症は上記広義の範囲で解釈されるが、好適にはNF−κBの活性化を伴うものが挙げられる。NF−κBは転写因子の一種であり、免疫応答に関与するともいわれている。不活性なNF−κBは、ヘテロ二量体を形成して細胞質に存在し、IκB(InhibitorκB)と結合することによりその活性は抑制されている。しかし、TNF−αなどの刺激によりIκBのセリン残基がリン酸化する酵素複合体であるIκBキナーゼが活性化すると、IκBはプロテアソームにより分解を受ける。その結果NF−κBの核内移行シグナルが露出し、核内に移行できるようになる(図1参照)。
【0020】
生体内では、通常厳密にNF−κBの発現は制御されているものの、炎症性サイトカイン、細菌やウイルス(発ガン性ウイルスを含む)の感染、紫外線、ディーゼル粉末粒子など、ストレスを伴う外部刺激を受けると活性化されて核内に移行し、その制御下にある遺伝子の発現を誘導し、その結果、免疫応答や細胞死が回避されるといった生体防御機構が働く。具体的には、NF−κBが活性化されると、さまざまなタンパク質の転写を活性化し、TNF−αなどのサイトカインや、ケモカイン、接着分子、サイクリンなどの発現量が増加し、これらによって生体防御機構が作用する。これらの反応は、通常一過性のものであるが、ウイルスや紫外線、アレルゲンなどの化学物質による一部の特殊な刺激はNF−κBの恒常的又は過剰な活性化を引き起こし、アレルギー疾患や炎症性疾患、悪性腫瘍などを誘発する原因のひとつとなっている。本発明においては、炎症は、肺炎、膵炎、腸炎、皮膚炎、気管支炎及び気管支喘息等の疾患の起因となる炎症症状、あるいはこれらの疾患の結果生じる炎症症状が好適に例示される。例えば、気管支炎、気管支喘息は、気道の炎症又は慢性炎症に起因する疾患である。
【0021】
本発明において、炎症はオートファジー(autophagy)の異常亢進を伴うものも含まれる。オートファジーは細胞の飢餓状態や細胞死に起因して生じるともいわれており、オートファゴソーム(リソソームと融合したファゴソーム:自己の細胞成分を取り込んだリソソーム加水分解酵素を含む細胞質内隔離膜構造体)に取り込んだ自己の細胞内成分物をリソソーム酵素で分解する細胞現象である。オートファジーは、細胞の飢餓状態や細胞死以外にも様々な細胞活動に関連していることが知られている。例えば、細胞質内に感染した細菌やウイルスの排除に関連することが報告されている。
【0022】
本発明において、ビタミンK3はNF−κB活性化阻害剤の有効成分として作用する。NF−κB活性化阻害のメカニズムは明らかではないが、例えばあるタンパク質のプロモーターの転写因子であるIκBのリン酸化が阻害されることで、NF−κBの活性化が阻害されるとも考えられる。すなわち、ビタミンK3は、IκBのリン酸化を阻害することで、NF−κBの活性化を阻害すると考えられる。本発明は、ビタミンK3を有効成分とするNF−κB活性化阻害剤にも及ぶ。本発明において「NF−κB活性化阻害剤」とは、転写因子NF−κBの機能を阻害する作用を有する薬剤を意味する。例えば、生体又は生体の一部において、NF−κBがIκBとの複合体から解放されるのを阻害する薬剤、NF−κBの核への移行を阻害する薬剤、NF−κBのDNA結合活性を阻害する薬剤、NF−κBの転写活性を阻害する薬剤などが含まれる。
【0023】
また、本発明において、ビタミンK3はオートファジーの異常亢進抑制剤の有効成分としても作用する。白血球の細胞死や末梢血細胞数の制御は、炎症や生体防御と深い関わりをもっていることから、オートファジーの異常亢進を抑制することで、抗炎症作用も発揮しうる。
【0024】
本発明は、ビタミンK3を有効成分とする薬剤に関し、その投与量は適宜決定することができる。例えばヒトに投与する場合、投与量や投与方法は適宜決定することができる。好ましい投与量は、ビタミンK3として、成人(体重60kg)あたり、通常、10〜200mg/日であり、好ましくは15〜135mg/日であり、さらに好ましくは30〜60mg/日(例えば45mg/日)である。投与期間は、特に限定されるものではなく、例えば、1〜1000日、好ましくは3〜300日である。投与量及び投与期間は、炎症の治療効果と患者の状態を勘案しながら、適宜設定することができる。
【0025】
本発明に使用するビタミンK3又はその水和物は、公知の方法又は今後開発される方法により合成することができる。例えば、メナジオン(シグマ製)のような市販のビタミンK3を使用することもできる。
【0026】
本発明のビタミンK3を有効成分として含む薬剤は、薬学的に許容しうる添加剤を混和し製剤化して使用することができる。上記添加剤としては、一般に医薬に使用される、賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、着色剤、矯味矯臭剤、乳化剤、界面活性剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、防腐剤、抗酸化剤、安定化剤、吸収促進剤等を挙げることができ、所望により、これらを適宜組み合わせて使用することもできる。
【0027】
以下に上記添加剤の例を挙げる。賦形剤としては、例えば乳糖、白糖、ブドウ糖、コーンスターチ、マンニトール、ソルビトール、デンプン、α化デンプン、デキストリン、結晶セルロース、軽質無水ケイ酸、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、リン酸水素カルシウムが挙げられる。
【0028】
結合剤としては、例えばポリビニルアルコール、メチルセルロース、エチルセルロース、アラビアゴム、トラガント、ゼラチン、シェラック、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン、マクロゴールが挙げられる。滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、フマル酸ステアリルナトリウム、タルク、ポリエチレングリコール、コロイドシリカが挙げられる。崩壊剤としては、結晶セルロース、寒天、ゼラチン、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸カルシウム、デキストリン、ペクチン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチ、カルボキシメチルスターチナトリウムが挙げられる。着色剤としては三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、カルミン、カラメル、β−カロチン、酸化チタン、タルク、リン酸リボフラビンナトリウム、黄色アルミニウムレーキ等、医薬品に添加することが許可されているものが挙げられる。
【0029】
矯味矯臭剤としては、ココア末、ハッカ脳、芳香散、ハッカ油、竜脳、桂皮末が挙げられる。乳化剤又は界面活性剤としては、ステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸、レシチン、モノステアリン酸グリセリン、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステルが挙げられる。溶解補助剤としては、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、安息香酸ベンジル、エタノール、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ポリソルベート80、ニコチン酸アミドが挙げられる。懸濁化剤としては、前記界面活性剤のほか、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の親水性高分子が挙げられる。
【0030】
等張化剤としては、ブドウ糖、塩化ナトリウム、マンニトール、ソルビトールが挙げられる。緩衝剤としてはリン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸塩などの緩衝液が挙げられる。防腐剤としてはメチルパラベン、プロピルパラベン、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸が挙げられる。抗酸化剤としては硫酸塩、アスコルビン酸、α−トコフェロールが挙げられる。安定化剤としては一般に医薬に使用されるものが挙げられる。吸収促進剤としては一般に医薬に使用されるものが挙げられる。また、必要に応じて、ビタミン類、アミノ酸等の成分を配合してもよい。
【0031】
また、上記製剤としては、錠剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、カプセル剤、シロップ剤、トローチ剤、吸入剤等の経口剤;坐剤、軟膏剤、眼軟膏剤、テープ剤、点眼剤、点鼻剤、点耳剤、パップ剤、ローション剤等の外用剤又は注射剤を挙げることができる。上記経口剤は、上記添加剤を適宜組み合わせて製剤化することができる。なお、必要に応じてこれらの表面をコーティングしてもよい。上記外用剤は、上記添加剤のうち、特に賦形剤、結合剤、矯味矯臭剤、乳化剤、界面活性剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、防腐剤、抗酸化剤、安定化剤又は吸収促進剤を適宜組み合わせて製剤化することができる。上記注射剤は、上記添加剤のうち、特に乳化剤、界面活性剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、防腐剤、抗酸化剤、安定化剤又は吸収促進剤を適宜組み合わせて製剤化することができる。
【実施例】
【0032】
本発明の理解を深めるために、以下の実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではないことは明らかである。
【0033】
(実施例1)ビタミンK3による転写因子NF−κB活性化に及ぼす作用(1)
本実施例ではヒト腎臓由来細胞株であるHEK293細胞を用いて、ビタミンK3の転写因子NF−κBの活性化に及ぼす作用を確認した。不活性なNF−κB及び活性化されたNF−κBの存在様式については、図1を参照されたい。
【0034】
本実施例では、HEK293細胞を、50μMのビタミンK3を含むDMEM培地で37℃、30分間インキュベーションし、次に100ng/mlのTNF−αを含むDMEM培地に交換してさらに37℃、30分間インキュベーションし、その後NF−κBを構成するサブユニットであるp65(65kDa)の存在を確認することで、NF−κBの活性化を確認した。p65はp65に対する抗体(SantaCruz Biotechnology製)を用いてウエスタンブロット法にて確認した。比較例として、ビタミンK3の代わりにビタミンK1又はK2で処理した場合についても確認した。また陰性コントロールは各種ビタミンKもTNF−αでも処理しない系とし、陽性コントロールは各種ビタミンKでは処理を行わなかったが、TNF−αで処理を行った系とした。
【0035】
上記の結果、ビタミンK3で処理した系については、陰性コントロールとほぼ同様に65kDaのバンドは殆ど認められなかった。これにより、ビタミンK3はTNF−αによるNF−κBの活性化を抑制しうる作用があることが確認された。一方、ビタミンK1、K2で処理した系についてはいずれも陽性コントロールと同様に65kDaでバンドが認められ、NF−κBの活性化の抑制作用は認められなかった(図2)。
【0036】
(実施例2)ビタミンK3による転写因子NF−κB活性化に及ぼす作用(2)
本実施例では、TNF−αを含む培地で処理する代わりに、100ng/mlのLPS(lipopolysaccharide)を含む培地で処理したほかは、実施例1と同手法により検討を行なった。LPSにより細胞が刺激されるとIL−1、TNF−α、IL−6、IL−8や血小板活性化因子(PAF)などのサイトカイン誘導放出を促進する。その結果、LPSで処理することによりNF−κBが活性化される。
【0037】
上記の結果、LPS及びビタミンK3で処理した系については、LPSもビタミンK3も用いない陰性コントロールとほぼ同様に65kDaのバンドは殆ど認められなかった。一方、LPSで処理し、ビタミンK3で処理しない陽性コントロールでは65kDaでバンドが認められ、NF−κBの活性化が確認された(図3)。これにより、ビタミンK3は、LPSによるNF−κBの活性化を抑制しうることが確認された。
【0038】
(実施例3)ビタミンK3による転写因子NF−κBの核内移行に及ぼす作用
本実施例ではマクロファージ様細胞株であるRaw264.7細胞を用いて、転写因子NF−κBの核内移行を確認した。
【0039】
本実施例では、Raw264.7細胞を、50μMのビタミンK3を含むDMEM培地で37℃、30分間インキュベーションし、次に100ng/mlのLPSを含むDMEM培地に交換してさらに37℃、30分間インキュベーションし、その後NF−κBを構成するサブユニットであるp65(65kDa)の存在を確認することで、NF−κBの活性化を確認した。p65はp65に対する抗体(SantaCruz Biotechnology製)を用いて免疫染色法にて確認した。また陰性コントロールは各種ビタミンKもLPSでも処理しない系とし、陽性コントロールは各種ビタミンK3では処理を行わなかったが、LPSで処理を行った系とした。また、ビタミンK3とLPSを処理した各Raw264.7細胞の核を、核染色色素であるTOPRO-3(インビトロジェン社製)を用いて染色し、蛍光顕微鏡により核の位置を確認した。LPS及びビタミンK3で処理した系については、LPSもビタミンK3も用いない陰性コントロールとほぼ同様に、核内にはNFκBのサブユニットp65は殆ど認められなかった。一方、LPSで処理し、ビタミンK3で処理しない陽性コントロールでは核内にNFκBのサブユニットp65の存在が認められ、NF−κBの活性化が確認された(図4)。これにより、ビタミンK3は、LPSによるNF−κBの活性化を抑制しうることが免疫染色法によっても確認された。
【0040】
(実施例4)ビタミンK3によるLPSのTNF−α誘導に及ぼす作用(1)
本実施例では、マクロファージ様細胞株であるRaw264.7細胞を用いて、ビタミンK3によるLPSのTNF−α誘導に及ぼす作用を確認した。
【0041】
本実施例では、Raw264.7細胞を、50μMのビタミンK3を含むDMEM培地で37℃、30分間インキュベーションし、次に100ng/mlのLPSを含むDMEM培地に交換してさらに37℃、12時間インキュベーションした。その後、LPSによって誘導されたTNF−αの量を、ELISAの系で市販のキット(Bioscience製)を用いて測定した。
【0042】
上記の結果、LPS及びビタミンK3で処理した系では、TNF−αの産生は認められなかった。一方、LPSで処理し、ビタミンK3で処理しない陽性コントロールでは高いTNF−αの産生が確認された(図5)。これにより、ビタミンK3は、LPSによるTNF−αの産生誘導を抑制しうることが確認された。
【0043】
(実施例5)ビタミンK3によるLPSのTNF−α誘導に及ぼす作用(2)
本実施例では、マウスより採取したマロファージ様細胞を用いて、ビタミンK3によるLPSのTNF−α誘導に及ぼす作用を確認した。
【0044】
まず、C57BL/6マウス(雄、8週齢)に3%チオグリコール酸0.1mlを腹腔内(ip)投与して1週間おき、腹膜炎モデルマウスを作製した。得られたモデルマウスの腹膜腔よりマクロファージ様細胞を採取し、DMEM培地中で37℃、1日間培養した。培地を5、10又は50μMのビタミンK3を含むDMEM培地に交換し、37℃、30分間インキュベーションした。次に100ng/mlのLPSを含む培地に交換し、37℃、12時間インキュベーションした。その後、LPSによって誘導されたTNF−αの量を、ELISAの系で測定した。測定は、実施例4と同手法により行なった。
【0045】
上記の結果、LPS及びビタミンK3で処理した系では、ビタミンK3の濃度依存的にTNF−αの産生が抑制されることが確認された。一方、LPSで処理し、ビタミンK3で処理しない陽性コントロールや、ビタミンK3が5μMの系では高いTNF−αの産生が確認された(図6)。これにより、ビタミンK3の濃度依存的に、LPSによるTNF−αの産生誘導を抑制しうることが確認された。
【0046】
(実施例6)ビタミンK3によるLPSのTNF−α誘導に及ぼす作用(3)
本実施例では、マウスにビタミンK3を投与したときの、ビタミンK3によるLPSのTNF−α誘導に及ぼす作用を確認した。
【0047】
まず、C57BL/6マウス(雄、7週齢)に100mg/kgのビタミンK3を腹腔内(ip)投与して30分後、250μg/kgのLPSを腹腔内(ip)投与し、さらに1時間おいた。その後心臓採血を行い、血中のTNF−αの量をELISAの系で測定した。測定は、実施例4と同手法により行なった。
【0048】
上記の結果、LPS及びビタミンK3を投与した系では、陰性コントロールと同様に、TNF−αの産生が抑制されることが確認された。一方、LPS投与を行い、ビタミンK3投与しない陽性コントロールでは高いTNF−αの産生が確認された(図7)。これにより、ビタミンK3がLPSによるTNF−αの産生誘導を抑制することが確認された。
【0049】
(実施例7)ビタミンK3によるLPSのTNF−α誘導に及ぼす作用(4)
本実施例では、ARDS(急性呼吸促迫症候群,Acute Respiratory Distress Syndrome)モデルマウスにビタミンK3を投与したときの、ビタミンK3によるLPSのTNF−α誘導に及ぼす作用を確認した。
【0050】
まず、C57BL/6マウス(雄、8週齢)に100mg/kgのビタミンK3を腹腔内(ip)投与して30分後、15mg/kgのLPSを腹腔内(ip)投与し、ARDSモデルを作製した。その後心臓採血を行い、血中のTNF−αの量をELISAの系で測定した。測定は、実施例4と同手法により行なった。
【0051】
上記の結果、LPS及びビタミンK3を投与した系では、TNF−αの産生が抑制されることが確認された。一方、LPS投与を行い、ビタミンK3投与しない陽性コントロールでは高いTNF−αの産生が確認された(図8)。これにより、高濃度のLPS(15mg/kg)で処理したARDSモデルにおいても、ビタミンK3がLPSによるTNF−αの産生誘導を抑制することが確認された。
【0052】
(実施例8)ビタミンK3によるLPSの肺組織に及ぼす作用
本実施例では、ARDSモデルマウスにビタミンK3を投与したときの、ビタミンK3によるLPSの肺組織に及ぼす作用を確認した。
実施例7の各条件で処理したマウスから肺組織を得、確認した。肺組織を用いて、ヘマトキシリン・エオシン染色を行った結果、LPS処理において、肺組織の崩壊が確認された。LPSとビタミンK3とを処理した結果、LPSによる肺組織の崩壊は見られず、肺組織の状態は陰性コントロールと同じ程度であった(図9)。
【0053】
(実施例9)ビタミンK3によるオートファジーに及ぼす作用
マウス膵炎モデルでは、膵腺房細胞でオートファジー(autophagy)が誘導されることは公知であり(膵臓, 23: 20-24 (2008))、膵臓特異的にオートファジーを欠損させると、膵炎が抑制されることも公知である(J Biol Chem, 181:1065-1072 (2008))。本実施例ではイヌ腎臓由来細胞株であるMDCK細胞を用いて、in vitroの系でオートファジーを作製し、ビタミンK3のオートファジーに及ぼす作用を確認した。
【0054】
オートファジーは飢餓状態に対する適応機構の1つであり、広く真核生物に保存されている機構である。生物は外界の栄養源の飢餓状態を感知すると、オートファジーにより自己細胞の細胞質の構成成分やオルガネラをリソソーム/液胞内で分解し、リサイクルする。オートファジーは細胞内のタンパク質分解系のひとつである。オートファジーでは、オートファゴソーム(autophagosome)と呼ばれる脂質二重膜構造体が形成され、分解すべき細胞質成分を膜で隔離する。この脂質二重膜成分に、ATG5とLC3−I,IIが発現する。LC3−Iに対するLC3−IIの発現の割合からオートファジーを確認することができる。
【0055】
MDCK細胞は、通常10v/v%のFCSを含むDMEM培地で培養されるが、FCSを欠く培地で培養したときは、細胞は飢餓状態になる。10v/v%のFCSを含むDMEM培地で培養した系、FCSを欠くDMEM培地で培養した系、及びFCSを欠くが、50μMのビタミンK3を含むDMEM培地で培養した系について細胞の形態を確認した。飢餓状態は2時間とし、ビタミンK3は飢餓状態の30分前より前投与した。飢餓状態後に細胞を固定し、核染色したのちに共焦点顕微鏡で観察した。
【0056】
飢餓状態で2時間培養した系では、オートファゴソームを示すGFPシグナルを多数観察した。GFPシグナルを発現している細胞をGFP−LC3陽性細胞という。一方、ビタミンK3を投与した系ではGFPシグナルはほとんど見られなかった(図10)。
【0057】
また、全細胞中のGFP−LC3陽性細胞量を確認したところ、ビタミンK3を投与した系では、ほとんど確認できなかった。以上より細胞の飢餓状態に起因するオートファジーが、ビタミンK3により抑制されることが確認された(図11)。
【0058】
上記各培養条件でMDCK細胞を培養したときのLC3−I及びLC3−IIの発現をウエスタンブロット法にて確認した。各抗体は、Anti-LC3 (Medical & Biological Laboratories社製)を使用した。飢餓状態の系で発現していたLC3−IIがビタミンK3投与で、減弱していた。のLC3−I/LC3−II比の計測でもビタミンK3投与でのLC3−IIの低下が示されており、図10−11と同様の結論を示唆する結果となった(図12)。
【0059】
(実施例10)マウス膵炎におけるビタミンK3の作用(1)
マウス急性膵炎モデルにおけるビタミンK3投与の効果について検討した。C57BL/6マウス(雄、8週齢)にセルレイン(50μg/kg)を1時間ごとに6回腹腔投与して、急性膵炎を惹起した。ビタミンK3(100mg/kg)単回投与、または2回投与した系で膵の炎症程度を比較した。セルレインのみ投与した系の膵組織では、浮腫や炎症細胞浸潤といった著明な炎症所見が観察された。ビタミンK3投与で炎症は著明に減少し、2回投与でさらに低下していた。この結果よりマウス膵炎モデルにおいてビタミンK3投与で炎症が軽減されることが確認された(図13)。
【0060】
(実施例11)マウス膵炎におけるビタミンK3の作用(2)
図13と同様の実験をGFP−LC3トランスジェニックマウス(雄、8週齢)で行い、膵炎時のオートファジーとビタミンK3の関連を確認した。膵組織の共焦点顕微鏡での観察では、セルレインのみ投与した系では著明なGFPシグナルを認めたのに対し、ビタミンK3も投与することによってシグナルの低下が見られた。ウエスタンブロット法での解析でも同様の結果となり、マウス膵炎モデルでのオートファジーが、ビタミンK3投与により抑制されることが確認された(図14)。
【0061】
(実施例12)マウス膵炎におけるビタミンK3の作用(3)
図13と同様の実験系で得た膵組織標本を用いて、ビタミンK3とアポトーシスの関連を検討した。膵組織をAnti-activated caspase3抗体(Promega社)で染色し、共焦点顕微鏡で観察した。ビタミンK3を投与した系でアポトーシスの誘導がみられた。この結果により、マウス膵炎モデルでビタミンK3投与により、膵組織においてアポトーシスが誘導されることが確認された(図15)。
【0062】
(実施例13)マウス腸炎におけるビタミンK3の作用
A)DSS誘起大腸炎モデルマウス作製時にビタミンK3を投与したときの作用
8週齢の♀B6マウスに蒸留水で3%に溶かしたデキストラン硫酸ナトリウム(Dextran sodium sulfate (DSS))を5日間飲水させDSS誘起大腸炎モデルマウスを作製した。
DSS投与開始より5日間、ビタミンK3を100mg/kg(コーン油で希釈)を、200μ/lずつ経口投与した。また、コントロールとしてコーン油で希釈)を、200μ/lずつ5日間経口投与した。5日目の体重の変化を測定し、5日目に解剖し、腸の長さの測定とHE染色による組織学的評価を行った。
【0063】
B)DSS誘起大腸炎モデルマウス作製後にビタミンK3を投与したときの作用
8週齢の♀B6マウスに蒸留水で3%に溶かしたDSSを5日間飲水させDSS誘起大腸炎モデルマウスを作製した。6日目以降は通常の飲水を行なった。
DSS投与開始より8日目から5日間、ビタミンK3を100mg/kg(コーン油で希釈)を、200μ/lずつ経口投与した。また、コントロールとしてコーン油で希釈)を、200μ/lずつ5日間経口投与した。DSS開始時から体重の変化を測定し、12日目に解剖し、腸の長さの測定とHE染色による組織学的評価を行った。
【0064】
腸の長さは、ビタミンK投与群は、コントロール群に比べてやや長かった。また、HE染色による組織学的評価の結果、ビタミンK投与群の腸では炎症が抑制され、正常な組織所見が観察された。
【0065】
(実施例14)マウス皮膚炎におけるビタミンK3の作用
8週齢の♀B6マウスに、0.5%2,4‐ジニトロフルオロベンゼン(DNFB)を感作させ、DNFB誘発接触皮膚炎モデルを作製した。感作後6日目に、マウスの両側の耳の厚みを測定し、その後右耳にコーン油(濃度10mg/ml)で溶解したビタミンK3を10マイクロリットルを、コントロールとして左耳にコーンオイルをそれぞれ塗布後、0.2%DNFBを両耳に塗布し、アレルギー反応を惹起させた。
【0066】
惹起翌日に両側の耳の厚みを測定し、右耳と左耳の肥厚率を比較・検定し、ビタミンK3の抗炎症効果を評価した。その結果、ビタミンK3投与群のアレルギー反応惹起前後の厚みの差は、コントロール群に比べて薄く、ビタミンK3は皮膚炎において、抗炎症作用を発揮していることが確認された(図19)。
【0067】
DNFB感作後6日目に、モデルの耳を切除し病理標本を作製した。その結果、コントロール群では、皮下組織に著明な炎症細胞の浸潤を認めたが、ビタミンK3投与群では炎症細胞の浸潤は抑制されていた(図20)。
【0068】
(実施例15)マウス喘息におけるビタミンK3の作用
生後6週のC57BL/6マウス(♀)を用い、コーン油で溶解したビタミンK3を2mg/kg、10mg/kg、100mg/kg及びコントロールとしてコーン油を投与した4群で比較を行なった。
喘息モデルとして卵白アルブミン(OVA)を用いた気道炎症モデルがある。これは、OVA/Alumで免疫後、OVAを吸入させて気道炎症を起こすものである。
0日目及び7日目にマウスにOVA/Alumを10μg/1mgを腹腔内投与することで感作を行い、次に14−16日目に1%OVAの吸入を30分行ない、マウス喘息モデルを作製した。13日目に各濃度のビタミンK3又はコーンオイルをモデルの腹腔内に各々200μL/匹投与し、喘息に対する治療効果を検討した。17日目に気管挿管を行い、PBS0.8mlで2回肺胞洗浄(BAL)を行い、BAL中の総細胞数と白血球細胞分画で気道炎症の程度を評価した。具体的にはBAL液の細胞数を、血算板を用いてカウントした後、3000rpm、3分間でサイトスピンを行い、Diff-Quick染色を用いて分画を評価した。その結果、ビタミンK3の投与により、細胞数や好酸球すうが抑制され、炎症症状が改善されることが確認された(図21)。
【0069】
また、マウス喘息モデルを作製24時間後に、解剖して気道粘膜組織の病理標本を作製した。その結果、コントロール群では、気道粘膜組織に著明な炎症細胞の浸潤を認めたが、ビタミンK3投与群では炎症細胞の浸潤は抑制されていた(図22)。
【産業上の利用可能性】
【0070】
以上詳述したように、本発明により、肺炎、膵炎、腸炎、皮膚炎又は喘息モデルなどの各種炎症性疾患モデル動物にビタミンK3を投与した場合には、組織学的な観察結果より炎症症状が改善することが観察された。これらにより、ビタミンK3が炎症症状に有効に作用し、このビタミンK3の抗炎症効果は、ビタミンK1やビタミンK2と比べて非常に強いと考えられる。また、ビタミンK3の作用機序を確認した結果、in vitroにおいてLPSによるTNF−αの誘導を抑制したり、TNF−αにより活性化されたNF−κBを抑制することが確認され、さらには、オートファジーを軽減化させることも確認された。本発明によりビタミンK3は、NF−κB活性阻害作用やオートファジーの亢進抑制作用を有し、NF−κB活性化やオートファジーの異常亢進を伴う各種疾患や症状に対して有効に作用しうることが判明したため、ビタミンK3は優れた抗炎症剤として利用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビタミンK3を有効成分として含む抗炎症剤。
【請求項2】
炎症が、肺炎、膵炎、腸炎、皮膚炎、気管支炎及び気管支喘息より選択されるいずれかの疾患により生じる症状である請求項1に記載の抗炎症剤。
【請求項3】
炎症が、NF−κBの活性化を伴う症状である請求項1又は2に記載の抗炎症剤。
【請求項4】
炎症性疾患が、オートファジーの異常亢進を伴う症状である請求項1又は2に記載の抗炎症剤。
【請求項5】
ビタミンK3を有効成分として含むNF−κB活性化阻害剤。
【請求項6】
ビタミンK3を有効成分として含むオートファジーの異常亢進抑制剤。
【請求項1】
ビタミンK3を有効成分として含む抗炎症剤。
【請求項2】
炎症が、肺炎、膵炎、腸炎、皮膚炎、気管支炎及び気管支喘息より選択されるいずれかの疾患により生じる症状である請求項1に記載の抗炎症剤。
【請求項3】
炎症が、NF−κBの活性化を伴う症状である請求項1又は2に記載の抗炎症剤。
【請求項4】
炎症性疾患が、オートファジーの異常亢進を伴う症状である請求項1又は2に記載の抗炎症剤。
【請求項5】
ビタミンK3を有効成分として含むNF−κB活性化阻害剤。
【請求項6】
ビタミンK3を有効成分として含むオートファジーの異常亢進抑制剤。
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図11】
【図16】
【図19】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図17】
【図18】
【図20】
【図21】
【図22】
【図6】
【図7】
【図8】
【図11】
【図16】
【図19】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図17】
【図18】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2011−6378(P2011−6378A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−175985(P2009−175985)
【出願日】平成21年7月29日(2009.7.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2009年6月30日 日本膵臓学会 発行の、「膵臓 第24巻第3号」にて発表
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月29日(2009.7.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2009年6月30日 日本膵臓学会 発行の、「膵臓 第24巻第3号」にて発表
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]