説明

ビニル変性エポキシ樹脂水性物、その製造方法および水性被覆剤

【課題】初期塗膜硬度が高く、耐食性、耐溶剤性、上塗り適性などに優れたビニル変性エポキシ樹脂水性物を提供するとともに、当該ビニル変性エポキシ樹脂水性物からなる水性被覆剤を提供すること
【解決手段】エポキシ基含有脂肪酸変性エポキシエステル(1a)、グリシジル基含有ビニルモノマー(1b)およびアミン類(1c)を反応させてなる重合性不飽和基含有変性エポキシ樹脂(1)と、カルボキシル基含有ビニル単量体(2)とを共重合させてなる共重合体(A)を、塩基性化合物により中和して水中に分散ないしは溶解して得られることを特徴とするビニル変性エポキシ樹脂水性物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビニル変性エポキシ樹脂水性物、その製造方法および当該ビニル変性エポキシ樹脂を含有してなる水性被覆剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水性塗料により得られる塗膜は耐食性に劣るとされていたが、耐食性を改良したものとして、脂肪酸変性エポキシエステルの存在下に、ビニル単量体を重合して得られるビニル変性エポキシエステルが開発された。当該ビニル変性エポキシエステルは、その構成成分としてエポキシ樹脂を用いているため比較的良好な耐食性を有し、脂肪酸成分により常温硬化が期待でき、しかもビニル単量体成分の選択により水性化が可能であるという特徴を有する。
【0003】
しかし、水性塗料の適用分野が拡大するに伴い、当該塗膜に対する要求性能も高まり、耐食性や耐水性の一段のレベルアップや、高い初期塗膜硬度が求められており、前記ビニル変性エポキシエステルでは当該高度要求を満足できない。例えば、当該樹脂中の脂肪酸成分の酸化重合に伴って塗膜硬度が上昇するが、該高度が目的値に到達するのに数日を要するため、塗膜形成初期の傷つきが問題があり、また当該樹脂から調製された黒色塗膜が浸水時に白化する現象(以下、耐水白化という)も問題となっていた。かかる耐水白化は、ビニル変性エポキシエステル中の脂肪酸成分の比率を増加させることにより改善されるが、塗膜硬度が一層低下するという問題があった。
【0004】
そこで、本願人は、初期塗膜硬度が高く、黒色塗膜における耐水白化の生じにくいビニル変性エポキシ樹脂水性物として、ビスフェノール型エポキシ樹脂を用いて得られるビニル変性エポキシ樹脂水性物を提案した(特許文献1参照)が、当該ビニル変性エポキシ樹脂水性物を用いた場合には、塗膜硬度が向上するものの、塗膜が硬くなりすぎる場合があり、また、長期間の使用中に塗膜のワレが生じ耐食性が悪化する場合があり、また耐水白化の点においても改善の余地があった。
【0005】
そのため、本願人は特許文献1記載のビニル変性エポキシ樹脂水性物の耐食性を改良するために、構成成分であるエポキシ樹脂の種類に着目し、芳香族エポキシ樹脂と脂肪族エポキシ樹脂との併用してなるビニル変性エポキシ樹脂水性物を提案した(特許文献2参照)。しかしながら、特許文献2記載のビニル変性エポキシ樹脂水性物は、耐溶剤性、上塗り適性の点で改善の余地がある。
【0006】
【特許文献1】特開2003−026739号公報
【特許文献2】特開2005−120340号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、初期塗膜硬度が高く、耐食性、耐溶剤性、上塗り適性などに優れたビニル変性エポキシ樹脂水性物を提供するとともに、当該ビニル変性エポキシ樹脂水性物からなる水性被覆剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、部分的に脂肪酸変性されたエポキシエステルを構成成分とする特定の重合性不飽和基含有変性エポキシ樹脂の存在下で、特定のビニル単量体を重合してなる反応生成物の水分散塩または水溶液が、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0009】
すなわち、本発明は、エポキシ基含有脂肪酸変性エポキシエステル(1a)、グリシジル基含有ビニルモノマー(1b)およびアミン類(1c)を反応させてなる重合性不飽和基含有変性エポキシ樹脂(1)と、カルボキシル基含有ビニル単量体(2)とを共重合させてなる共重合体(A)を、塩基性化合物により中和して水中に分散ないしは溶解して得られることを特徴とするビニル変性エポキシ樹脂水性物;当該水性物の製造方法;ならびに当該水性物を含有してなる水性被覆剤に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のビニル変性エポキシ樹脂水性物によれば、初期塗膜硬度が高く、耐食性、耐溶剤性、上塗り適性などに優れた塗膜を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明で用いる前記共重合体(A)は、エポキシ基含有脂肪酸変性エポキシエステル(1a)[以下、成分(1a)という]、グリシジル基含有ビニルモノマー(1b)[以下、成分(1b)という]、およびアミン類(1c)[以下、成分(1c)という]を反応させてなる重合性不飽和基含有変性エポキシ樹脂(1)[以下、成分(1)という]と、カルボキシル基含有ビニル単量体(2)[以下、成分(2)という]とを共重合させてなるものである。また共重合体(A)は、前記構成成分である(1a)、(1b)、(1c)および(2)に加えて、必要に応じ、反応可能な成分(1d)[以下、成分(1d)という]や、成分(2)と共重合しうる他のビニル単量体(3)[以下、成分(3)という]を追加構成成分とすることができる。
【0012】
成分(1)は、前記の必須構成成分および任意構成成分からなる反応生成物である。すなわち、成分(1a)中のエポキシ基が成分(1c)により開環すると同時に、成分(1a)中にアミノ基が導入されることで成分(1a)の本来の性能である適度な柔軟性を保持し、かつ密着性等がさらに向上する。また、成分(1b)が成分(1c)を介して成分(1a)中のエポキシ基と反応するため、成分(1a)中に重合性不飽和基が導入され、共重合性が付与される。
【0013】
本発明に使用する成分(1a)は、脂肪酸とエポキシ樹脂との反応生成物であり、好ましくは脂肪酸とエポキシ樹脂の使用割合が、エポキシ樹脂中のエポキシ基1当量に対し脂肪酸のカルボキシル基の当量が0.5〜0.05当量の範囲である反応生成物である。
【0014】
成分(1a)の構成成分である脂肪酸としては、特に限定されず、各種の乾性油、半乾性油もしくは不乾性油から誘導される脂肪酸または合成脂肪酸を使用できるが、常温硬化性を付与できる点で乾性油又は半乾性油から誘導されうる脂肪酸を使用するのが好ましい。代表的なものとして大豆油、アマニ油、ヒマシ油、脱水ヒマシ油、サフラワー油、桐油等の乾性油又は半乾性油から誘導されうる脂肪酸等が挙げられる。該脂肪酸はいずれか一種を単独で使用できる他、二種以上を適宜に併用することもできる。
【0015】
成分(1a)の構成成分であるエポキシ樹脂としては、特に限定されず、芳香族エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂など各種公知のものを使用でき、いずれか一種を単独で使用できる他、適宜に併用することもできる。該エポキシ樹脂としては、好ましくは、芳香族エポキシ樹脂100〜65重量%、脂肪族エポキシ樹脂0〜35重量%(但し、これらの合計が100重量%である)からなる混合物が使用でき、更に好ましくは芳香族エポキシ樹脂100〜80重量%、脂肪族エポキシ樹脂0〜20重量%とされる。芳香族エポキシ樹脂の中では、得られるビニル変性エポキシ樹脂からなる塗膜の初期硬度や密着性が優れるため、ビスフェノール型エポキシ樹脂が特に好ましい。
【0016】
前記の芳香族エポキシ樹脂としては、分子中に芳香族環を有する公知のエポキシ樹脂であり、具体的には、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。ビスフェノール型エポキシ樹脂しては、例えばビスフェノール類とエピクロルヒドリンまたはβ−メチルエピクロルヒドリン等のハロエポキシド類の反応生成物等が挙げられる。該ビスフェノール類としては、フェノールまたは2,6−ジハロフェノールと、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、アセトフェノン、シクロヘキサノン、ベンゾフェノン等のアルデヒド類もしくはケトン類との反応物、ジヒドロキシフェニルスルフィドの過酸化物、ハイドロキノン同士のエーテル化反応物等が挙げられる。ノボラック型エポキシ樹脂としては、フェノール、クレゾールなどから合成されたノボラック型フェノール樹脂とエピクロロヒドリンとの反応により得られるノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。当該エポキシ樹脂は、いずれか一種を単独で使用できる他、二種以上を適宜に併用することもできる。これらの中では、ビスフェノール型エポキシ樹脂が金属への密着の点で好ましい。当該エポキシ樹脂(1a)のエポキシ当量は、得られる共重合体(A)の分子量や製造時の作業性などを考慮して、3000以下とするのが好ましい。エポキシ当量が3000を超える場合は、得られる共重合体(A)の分子量が増大し、ゲル化しやすくなる不利がある。
【0017】
前記の脂肪族エポキシ樹脂としては、分子中に芳香族環を含有しないものであれば、特に限定されず各種公知のものを使用することができる。具体的には、多価アルコールのグリシジルエーテル類等が挙げられる。多価アルコールとしては、例えば、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールやポリアルキレングリコール類などが挙げられる。なお、ポリアルキレングリコール類としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール等、公知のものを用いることができる。これらの中では、塗膜の応力緩和による防錆性を向上させることができるためポリアルキレングリコール類が好ましい。なお、ポリアルキレングリコール類のグリシジルエーテル類の中でも、ポリエチレングリコールのグリシジルエーテル類を用いた場合には、耐水性が向上するため好ましく、ポリプロピレングリコールのグリシジルエーテル類を用いた場合には、防錆性の向上が著しいため好ましい。
【0018】
また、前記した脂肪族エポキシ樹脂の一部として各種公知のエポキシ化油および/またはダイマー酸グリシジルエステルを用いた場合には、塗膜がより柔軟なものとなり、塗膜の耐水白化を更に改善することができる。ここにエポキシ化油とは、天然もしくは工業的に合成された油をエポキシ化したものであり、エポキシ化大豆油、エポキシ化サフラワー油、エポキシ化アマニ油、エポキシ化紅花油、エポキシ化綿実油等を例示できる。また、ダイマー酸グリシジルエステルとしては、公知のダイマー酸のカルボキシル基を公知のジエポキシ化合物でエステル化してなる、官能基としてエポキシ基を有する化合物を使用することができる。
【0019】
エポキシ化油の市販品としては、たとえばアデカサイザーO−130P(エポキシ化大豆油)やアデカサイザーO−180A(エポキシ化亜麻仁油)(共に旭電化(株)製)を容易に入手しうる。また、ダイマー酸グリシジルエステルの市販品としては、たとえばエポトートYD−171、172(共に東都化成(株)製)等を容易に入手しうる。
【0020】
脂肪族エポキシ樹脂のエポキシ当量は、得られる共重合体(A)の分子量や製造時の作業性などを考慮して、3000以下とするのが好ましい。エポキシ当量が3000を超える場合は、得られる共重合体(A)の分子量が増大し、ゲル化しやすくなる不利がある。
【0021】
成分(1b)としては、グリシジル基と重合性ビニル基を分子内に含有する各種公知の化合物であれば特に制限なく使用できる。具体的には、グリシジル(メタ)アクリレート、β−メチルグリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アリルグリシジルエーテル等があげられる。
【0022】
成分(1c)としては、各種公知のアミン類を特に制限なく使用できる。例えば、アルカノールアミン類、脂肪族アミン類、芳香族アミン類、脂環族アミン類、芳香核置換脂肪族アミン類等があげられ、これらは1種または2種以上を適宜選択して使用できる。成分(1c)の種類を具体的に示すと、アルカノールアミン類としては、例えばジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、ジ−2−ヒドロキシブチルアミン、N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N−ベンジルエタノールアミン等があげられる。また、脂肪族アミン類としては、例えばエチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、パルミチルアミン、オレイルアミン、エルシルアミン等の一級アミン類やジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等の二級アミン類があげられる。また、芳香族アミン類としては、例えばトルイジン類、キシリジン類、クミジン(イソプロピルアニリン)類、ヘキシルアニリン類、ノニルアニリン類、ドデシルアニリン類等があげられる。脂環族アミン類としてはシクロペンチルアミン類、シクロヘキシルアミン類、ノルボルニルアミン類があげられる。また、芳香核置換脂肪族アミン類としては、例えばベンジルアミン、フェネチルアミン等があげられる。
【0023】
また、成分(1)には、前記のように追加構成成分として、成分(1d)を使用しうる。成分(1)を成分(1d)で変性(高分子量化)することにより、得られる樹脂水性物の水への分散性を調整したり、得られる塗膜の硬度、耐食性を一層向上させることができる。成分(1d)としては、1価〜3価の有機酸、1価〜4価のアルコール、イソシアネート化合物等があげられる。1価〜3価の有機酸としては、脂肪族、脂環族または芳香族の各種公知のカルボン酸が使用でき、例えばダイマー酸、トリメリット酸等があげられる。1価〜4価のアルコールとしては、脂肪族、脂環族または芳香族の各種公知のアルコールが使用でき、例えばネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等があげられる。イソシアネート化合物としては、芳香族、脂肪族または脂環族の各種公知のポリイソシアネートが使用でき、例えばトリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート等があげられる。
【0024】
成分(1)における各成分(1b)〜(1d)の割合は格別限定されないが、好ましくは以下の割合とされる。すなわち、成分(1a)に含まれるエポキシ基の総量100当量に対して、アミン類(1b)のアミノ基に由来する活性水素の当量が90〜110当量程度となるように用いるのが好ましい。また、成分(1a)のエポキシ基100当量に対して成分(1b)のエポキシ当量が1〜25当量程度となるように用いるのが好ましい。成分(1b)のエポキシ当量が1に満たない場合、本発明のビニル変性エポキシ樹脂水性物の貯蔵安定性が低下し、また25を超える場合には当該ビニル変性エポキシ樹脂(1)が製造時にゲル化する傾向にある。また、成分(1c)は本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じ使用できる。
【0025】
成分(1)は、下記の有機溶剤の存在下に、前記各成分を加熱することにより容易に製造できる。反応温度は通常60〜200℃程度であるが、反応温度が低すぎると未反応のエポキシ基が残存する傾向にあることから80℃以上が好ましい。一方、反応温度が高すぎると成分(1a)中の水酸基と成分(1a)中のエポキシ基との反応や、成分(1b)の熱重合などが進行し、反応生成物がゲル化しやすくなるため、150℃以下とするのが好ましい。また、反応時間は反応温度に依存するが、前記温度条件下では3〜10時間とするのがよい。
【0026】
当該有機溶剤としては、最終的に得られるビニル変性エポキシ樹脂の水性化の観点から親水性溶剤を使用するのが望ましく、具体的にはプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノn−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノt−ブチルエーテル、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、n−ブチルセロソルブ、t−ブチルセロソルブ、イソプロピルアルコール、ブチルアルコールなどがあげられる。なお、昨今のVOC(揮発性有機化合物)対策に照らせば、上記の溶剤のうち非VOCに該当する溶媒を用いるのが好ましい。
【0027】
本発明で使用する共重合体(A)は、上記のようにして得られた成分(1)と、成分(2)および必要に応じ成分(2)と共重合しうる他のビニル単量体である成分(3)とを共重合させることにより製造する。本発明における共重合体(A)は、ビニルグラフト−アミン変性エポキシ樹脂に相当する。本発明では、成分(1)の重合性不飽和基と、成分(2)および必要により成分(3)とを、共重合させてグラフト体を製造することが重要である。かかるグラフト化により、成分(1a)の本来の性能である耐食性、密着性を高度に維持しつつ、水中に安定に分散または溶解しうる共重合体(A)を収得できる。
【0028】
成分(1)と共重合させる成分(2)としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のカルボキシル基含有ビニル単量体があげられる。また、成分(2)と共重合しうる任意成分である成分(3)としては、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸tert−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸エステル類;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル等のメタクリル酸エステル類;スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等のスチレン系ビニル単量体;その他、酢酸ビニル、アクリル酸β−ヒドロキシエチル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、アクリルアミド、N,N−ジエチルメタクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等があげられる。これら成分(2)および(3)は、いずれも一種を単独で使用でき、または二種以上を併用できる。
【0029】
成分(2)は、得られるビニル変性エポキシ樹脂の水性化(安定に水分散または溶解)を容易にするために必須使用される。そのため、成分(2)の使用量は、得られるビニル変性エポキシ樹脂の水性化の観点から決定され、得られる共重合体(A)の固形分酸価が15以上、さらには20以上になるよう調節するのが好ましい。一方、共重合体(A)に良好な耐水性や耐食性を付与するためは当該固形分酸価が45以下、さらには40以下になるよう当該使用量を調節するのが好ましい。なお、任意成分である成分(3)を成分(2)と併用する場合にも、前記と同様の観点から、これら両成分の使用量を決定でき、得られる共重合体(A)の固形分酸価が前記と同様の範囲内となるよう適宜調節するのがよい。
【0030】
成分(1)と、成分(2)および任意成分(3)との共重合に際しては、使用する重合開始剤に関しては特に限定はされず、公知各種の有機過酸化物やアゾ化合物を用いることができる。例えば、ベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオクトエイト、2,2−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等があげられる。
【0031】
また、当該共重合に際しては、重合様式について特に限定されないが、溶液重合法が好ましい。例えば、前記のような重合開始剤の存在下で60〜150℃程度の反応温度で重合できる。有機溶剤については、前記の成分(1)の製造において用いたのと同様のものを使用できる。成分(1)ならびに成分(2)および成分(3)との使用重量比((1)/〔(2)+(3)〕)は、前記の通り得られる共重合体(A)の固形分酸価を考慮して適宜決定できるが、通常は99/1〜80/20の範囲内とするのがよく、ビニル単量体の使用量が当該下限値より少ないと水分散性または水溶解性が不安定となり、生成物に沈殿が生じる傾向にある。また、ビニル単量体が当該上限値を超えるとビニル変性エポキシ樹脂の本来の特徴である密着性、耐食性が低下しやすい。
【0032】
こうして得られる共重合体(A)は、塩基性化合物で中和され、水に溶解ないし分散させることにより、目的とするビニル変性エポキシ樹脂水性物とされる。すなわち、共重合体(A)中の成分(2)由来のカルボキシル基を全部または部分中和して、当該pHは7〜10程度にするのが好ましい。中和剤である塩基性化合物としては、アンモニア、トリエチルアミン、ジメチルエタノールアミン等のアミン類、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物等を使用することができるが、塗膜からの揮散性を考慮すれば、アンモニアやアミン類が好ましい。
【0033】
本発明のビニル変性エポキシ樹脂水性物は木材、紙、繊維、プラスチック、セラミック、鉄、非鉄金属等の各種材料に対する水性被覆剤(例えば塗料などのコーティング剤や接着剤)等として各種用途に使用できる。各種用途への適用にあたっては、水で希釈してそのまま使用できる他、必要に応じて顔料、可塑剤、溶剤、着色剤、消泡剤等を添加したり、他の水溶性または水分散性樹脂を配合することもできる。
【実施例】
【0034】
以下に製造例、実施例および比較例をあげて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、該例中で「部」、「%」とあるのは、特記しない限り重量基準である。
【0035】
実施例1
攪拌機、冷却器、温度計及び窒素ガス導入管を備えた反応装置に、大豆油脂肪酸10g、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(東都化成(株)製:エポトートYD−011、エポキシ当量475)290gを入れ、窒素雰囲気下に180℃で2時間反応させ、脂肪酸変性エポキシエステル樹脂を得た。なお当該仕込み時の、エポキシ樹脂中のエポキシ基1当量に対し脂肪酸のカルボキシル基の当量が0.06である(FA変性率が下限)。さらにブチルセロソルブ120部、およびグリシジルメタクリレート4.6部を加え、窒素気流下100℃で溶解させた後、n−オクチルアミン38.9部、ジ−2−エチルヘキシルアミン0.9部を加え5時間反応させ、重合性不飽和基含有変性エポキシ樹脂を得た。ついで、当該反応系内に、アクリル酸15部、スチレン12部、アクリル酸ブチル12部、ブチルセロソルブ40部およびtert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート3部からなる混合物を1時間かけて滴下し4時間保温した。80℃に冷却後、トリエチルアミン19部および水510部を順に添加混合することにより、不揮発分35.0%、粘度1200mPa・s、pH9.7、固形分酸価31の水分散物を得た。
【0036】
実施例2,3,5,6,7
実施例1において、樹脂の構成成分であるエポキシ樹脂、脂肪酸、グリシジルメタクリレート、アミン類および希釈水につき、それら種類または使用量を表1に示すように変えた他は実施例1と同様にして水分散物を得た。それぞれの物性値を表1に示す。
【0037】
実施例4
実施例1で用いたと同様の反応装置に、大豆油脂肪酸30g、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(東都化成(株)製:エポトートYD−011、エポキシ当量475)270gを入れ、窒素雰囲気下に180℃で2時間反応させ、脂肪酸変性エポキシエステル樹脂を得た。なお当該仕込み時の、エポキシ樹脂中のエポキシ基1当量に対し脂肪酸のカルボキシル基の当量が0.19である。さらにブチルセロソルブ120部、およびグリシジルメタクリレート13.6部を加え、窒素気流下100℃で溶解させた後、オクチルアミン15.5部、モノエタノールアミン9.3部、ジ−2−エチルヘキシルアミン2.6部を加え5時間反応させ、さらにヘキサメチレンジイソシアネート5部を加え5時間反応させ、重合性不飽和基含有変性エポキシ樹脂を得た。ついで、当該反応系内に、アクリル酸15部、スチレン12部、アクリル酸ブチル12部、ブチルセロソルブ40部およびtert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート3部からなる混合物を1時間かけて滴下し4時間保温した。80℃に冷却後、トリエチルアミン19部および水550部を順に添加混合することにより、不揮発分34.2%、粘度1000mPa・s、pH9.7、固形分酸価30の水分散物を得た。
【0038】
比較例1(特許文献1に相当)
実施例1で用いたと同様の反応装置に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(東都化成(株)製:エポトートYD−014、エポキシ当量950)300g、ブチルセロソルブ120部、およびグリシジルメタクリレート5.6部を加え、窒素気流下100℃で溶解させた後、オクチルアミン18.4部、ジ2エチルヘキシルアミン17.7部を加え5時間反応させ、重合性不飽和基含有変性エポキシ樹脂を得た。ついで、当該反応系内に、アクリル酸15部、スチレン12部、アクリル酸ブチル12部、ブチルセロソルブ40部およびtert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート3部からなる混合物を1時間かけて滴下し4時間保温した。80℃に冷却後、トリエチルアミン19部および水520部を順に添加混合することにより、不揮発分35.0%、粘度680mPa・s、pH9.7、固形分酸価30の水分散物を得た。
【0039】
比較例2(特許文献2に相当)
比較例1において、樹脂の構成成分であるエポキシ樹脂,グリシジルメタクリレート,アミン類および希釈水における種類またはその使用量を表1に示すように変えた他は実施例1と同様にして水分散物を得た。その物性値を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1中、略号は次の通り。
YD−011:芳香族エポキシ樹脂(東都化成(株)製、商品名「エポトートYD−011」、エポキシ当量475)、YD−014:芳香族エポキシ樹脂(東都化成(株)製、商品名「エポトートYD−014」、エポキシ当量950)、
EX−841:脂肪族エポキシ樹脂(ナガセ化成工業(株)製、商品名「デナコールEX−841、エポキシ当量350」、EX−931:脂肪族エポキシ樹脂(ナガセ化成工業(株)製、商品名「デナコールEX−931」、エポキシ当量470)、O−130P:脂肪族エポキシ樹脂(旭電化(株)製エポキシ化油、商品名「アデカサイザーO−130P」、エポキシ当量190)、GMA:グリシジルメタクリレート、nOA:n−オクチルアミン、MEA:モノエタノールアミン、D2EHA:ジ−2−エチルヘキシルアミン、HMDI:ヘキサメチレンジイソシアネート、をそれぞれ意味する。
【0042】
上記実施例および比較例で得られたビニル変性エポキシ樹脂水性物を下記の配合にて水性塗料を調製し、当該塗料から得られた塗膜につき以下の方法で性能評価した。評価結果を表2に示す。
【0043】
(水性塗料の調製)
ビニル変性エポキシ樹脂水性物44.6g、カーボンブラック1.8g、リン酸亜鉛5.6g、炭酸カルシウム23.8g、脱イオン水1.8g及びガラスビーズ80gを混合後、ペイントシェーカーにて1時間30分練合した。その後、ビニル変性エポキシ樹脂の水分散物23gを混合した後、ガラスビーズを除去し水性塗料を得た。なお、いずれのビニル変性エポキシ樹脂水性物を用いた場合にも、水性塗料のPWC(顔料重量濃度)が57%、塗料濃度が53.2%(溶剤量10.2%)になるように調製した。得られた水性塗料を、脱脂ダル鋼板(SPCC−SD、0.8×70×150mm)上に、乾燥後の膜厚が20μmとなるように、バーコーターにより塗布し、強制乾燥(80℃×20分)後、常温(20℃、60%R.H.)で5日放置した。
【0044】
(塗膜の評価試験)
【0045】
塗膜硬度:JIS K5400に準拠。
【0046】
耐食性:JIS K5400に準じて行い、塩水噴霧テスト10日間及び20日間後のセロハンテープ剥離幅(mm)で示した。
【0047】
耐水性(耐水白化):JIS Z8736に準じて行い、塗膜の白度(Lab値)を、ダブルビーム分光式色差計(商品名「SZII−Σ80 TYPEIII」、日本電色工業(株)製)で測定した。白度(Lab値)は小さいほど耐水性は良好であり、27以上:塗膜の白化が大きい、25〜26:塗膜の白化が多数みられる、24以下:塗膜の白化が少ないまたは殆どない、を判断基準とした。
【0048】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ基含有脂肪酸変性エポキシエステル(1a)、グリシジル基含有ビニルモノマー(1b)およびアミン類(1c)を反応させてなる重合性不飽和基含有変性エポキシ樹脂(1)と、カルボキシル基含有ビニル単量体(2)とを共重合させてなる共重合体(A)を、塩基性化合物により中和して水中に分散ないしは溶解して得られることを特徴とするビニル変性エポキシ樹脂水性物。
【請求項2】
エポキシ基含有脂肪酸変性エポキシエステル(1a)が脂肪酸とエポキシ樹脂からなる反応生成物であって、これら使用割合が、該エポキシ樹脂中のエポキシ基1当量に対し脂肪酸のカルボキシル基の当量が0.5〜 0.05当量の範囲である請求項1に記載のビニル変性エポキシ樹脂水性物。
【請求項3】
前記エポキシ樹脂が芳香族エポキシ樹脂および脂肪族エポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも一種である請求項2に記載のビニル変性エポキシ樹脂水性物。
【請求項4】
前記エポキシ樹脂が、芳香族エポキシ樹脂100〜65重量%、脂肪族系エポキシ樹脂0〜35重量%(但し、これらの合計が100重量%である)からなるものである請求項2または3に記載のビニル変性エポキシ樹脂水性物。
【請求項5】
重合性不飽和基含有変性エポキシ樹脂(1)が追加構成成分として反応可能な化合物(1d)を用いてなるものである請求項1〜4のいずれかに記載のビニル変性エポキシ樹脂水性物。
【請求項6】
反応可能な化合物(1d)が1価〜3価の有機酸、1価〜4価のアルコールおよびイソシアネート化合物からなる群より選択される少なくとも一種である請求項5に記載のビニル変性エポキシ樹脂水性物。
【請求項7】
重合性不飽和基含有変性エポキシ樹脂(1)の追加構成成分として、前記単量体(2)と共重合しうる他のビニル単量体(3)を用いてなるものである請求項1〜6のいずれかに記載のビニル変性エポキシ樹脂水性物。
【請求項8】
共重合体(A)が、重合性不飽和基含有変性エポキシ樹脂(1)とカルボキシル基含有ビニル単量体(2)及び他のビニル単量体(3)との使用重量比((1)/〔(2)+(3)〕)として99/1〜80/20の範囲で構成されてなるものである請求項1〜7のいずれかに記載のビニル変性エポキシ樹脂水性物。
【請求項9】
共重合体(A)が、酸価(固形分換算)15〜45の範囲のものである請求項1〜8のいずれかに記載のビニル変性エポキシ樹脂水性物。
【請求項10】
エポキシ基含有脂肪酸変性エポキシエステル(1a)、グリシジル基含有ビニルモノマー(1b)およびアミン類(1c)を反応させてなる重合性不飽和基含有変性エポキシ樹脂(1)と、カルボキシル基含有ビニル単量体(2)とを共重合させてなる共重合体(A)を、塩基性化合物により中和して水中に分散ないしは溶解させることを特徴とするビニル変性エポキシ樹脂水性物の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれかに記載のビニル変性エポキシ樹脂の水性物を含有してなる水性被覆剤。


【公開番号】特開2007−238881(P2007−238881A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−66843(P2006−66843)
【出願日】平成18年3月13日(2006.3.13)
【出願人】(000168414)荒川化学工業株式会社 (301)
【Fターム(参考)】