説明

ビフィドバクテリウム属菌における遺伝子再構築(GeneticRemodeling)

作動可能な機能的遺伝子を欠如するように改変されたゲノムを含むビフィドバクテリウム属菌が開示される。そのような細胞を作製するための方法も開示される。本方法を使用すると、tetWなどのある種の機能的な抗生物質耐性遺伝子を欠如し、テトラサイクリンなどの抗生物質に感受性のあるビフィドバクテリウム属菌細胞が作製される。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[発明の分野]
本発明は乳酸菌の抗生物質感受性に関する。より詳しくは、本発明は、ビフィドバクテリウム属菌(Bifidobacterium spp.)種のテトラサイクリン耐性遺伝子の除去、及びビフィドバクテリウム属菌の遺伝子を除去するための方法又は無能力化するための方法に関する。
【0002】
[発明の背景]
利用可能な抗生物質に対する菌耐性の増加に関する懸念が、近年、広範に高まっている。その懸念の多くは、医師による広域抗生物質の広範な使用に少なくとも部分的には起因する獲得耐性に関するが、抗生物質耐性遺伝子を獲得した細菌を食料及び農業目的のために使用することから生じる抗生物質耐性に関する懸念も幾つかある。例えば、テトラサイクリン耐性遺伝子の存在及び分布は、環境、動物及び子供を含むヒトから単離された微生物において一般的である。ある場合には、抗生物質耐性は、例えば特定の細胞膜特性のため、特定の種では内在的であり得る。抗生物質耐性は、細菌遺伝子の突然変異を介して獲得されることもあり、環境中の耐性菌から遺伝子移入(gene transfer)により獲得されることもある。
【0003】
食品加工又は農業生産において抗生物質耐性を有する又は獲得した任意の細菌を使用すると、食品中の他の細菌、食品摂取後のヒト又は動物の消化管(GIT)、又は摂取前又は摂取後のある時点での環境に、耐性を促進する遺伝子が導入されるという潜在的で理論上のリスクがもたらされる。そのようなバクテリアの例は、ビフィドバクテリウム属菌、例えばビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティス(Bifidobacterium animalis subsp.lactis)(ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティス新亜種とも呼ばれ、以前はビフィドバクテリウム・ラクティス(Bifidobacterium lactis)と見なされ、本明細書ではそのように呼ばれることもある)などのビフィドバクテリウム・アニマリスの中に見出すことができる。そのような菌株の1つであるB.アニマリス亜種ラクティスNCC2818株、CNCM I−3446は市販されており、食品への添加剤として20年を超えて使用され、一般的に安全であると見なされている。この細菌は、ヒト及び動物由来のある種の他のグラム(−)細菌及びグラム(+)細菌と同様に、テトラサイクリン耐性遺伝子であるtetWを存在させていることが近年発見された。テトラサイクリン耐性転移は理論上は可能であるが、実験室条件の下でさえこれを実証することはこれまで可能ではなかった。しかしながら、この菌株に由来するtetWは、グラム(−)細菌では活性がないが、グラム(+)細菌では活性があることが、クローニング実験から分かっている。
【0004】
しかしながら、この遺伝子が意図せずに導入されるあらゆるリスクを排除するために、この菌株からこの遺伝子を除去するための方法が必要とされている。テトラサイクリンに対する耐性が低減されたこの菌株の変異体も必要とされている。
【0005】
[発明の概要]
本発明の一態様は、作動可能な機能的遺伝子を欠如するように改変されたゲノムを含むビフィドバクテリウム属菌細胞を特徴とする。ある実施形態では、ビフィドバクテリウム属菌細胞はビフィドバクテリウム・アニマリス細胞であり、より具体的には、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティス細胞である。ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスNCC9034株は、本明細書中で例示される。
【0006】
ある実施形態では、機能的遺伝子は抗生物質耐性をもたらし、例えば、機能的遺伝子はtetWであり、テトラサイクリンに対する耐性を付与する。種々の実施形態では、作動可能なtetW遺伝子を欠如するように改変されたビフィドバクテリウム属菌細胞は、作動可能なtetW遺伝子を含有する相当する細胞より、テトラサイクリンに対して少なくとも5〜10倍の感受性がある。他の実施形態では、この細胞は、ディスク拡散アッセイを使用して決定されるように、1ミリリットル当たり約0.3マイクログラムを超えたテトラサイクリン濃度に感受性がある。典型的な実施形態は、CNCM I−3664として寄託されているビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスNCC9034株を特徴とする。改変されたビフィドバクテリウム属菌細胞は、tetW遺伝子の核配列を実質的に欠如していてよい。一実施形態では、改変された細胞は、残りのゲノムに実質的な変化はない。
【0007】
本発明の別の態様は、上述の細胞を含むビフィドバクテリウム・アニマリスの培養物を特徴とする。
【0008】
本発明の別の態様は、作動可能な所定の機能的遺伝子を欠如するビフィドバクテリウム属菌細胞を産生するための方法を特徴とする。この方法は、(1)ビフィドバクテリウム属菌から所定の機能的遺伝子の上流及び下流配列を取得するステップと、(2)機能的遺伝子の上流及び下流隣接配列と、選択マーカーをコードする遺伝子とを含む、ビフィドバクテリウム属菌中では複製しないプラスミドで、ビフィドバクテリウム属菌細胞の集団を形質転換するステップと、(3)選択マーカーをコードする遺伝子をプラスミド中に含有する細胞の増殖は可能であるが、選択マーカーをコードする遺伝子を有しないその細胞の増殖は可能ではない条件下でビフィドバクテリウム属菌細胞を増殖させ、それにより、組込みプラスミドを含有する形質転換体を選択するステップと、(4)細胞の増殖を可能にするが、組込みプラスミドの喪失を許容する非選択的条件下で形質転換体を増殖させるステップと、(5)選択圧を有するプレート及び選択圧を有しないプレート上にコロニーをレプリカ法でプレーティングすることにより、組込みプラスミドを喪失した細胞を選択し、選択圧に感受性のあるそのコロニーを選択するステップと、(6)選択圧に感受性のある細胞が機能的遺伝子の機能をもはや有しないことを確認し、それにより作動可能な所定の機能的遺伝子を欠如するビフィドバクテリウム属菌細胞を産生するステップとを含む。
【0009】
ある実施形態では、所定の機能的遺伝子が欠失されている。機能的遺伝子は、抗生物質に対する耐性の増加を付与する遺伝子であってよく、例えばtetW遺伝子はテトラサイクリンに対する耐性を付与する。
【0010】
本明細書中に記載したある実施形態では、欠失された又は作動不能にされた唯一の機能的遺伝子は、所定の機能的遺伝子である。
【0011】
種々の実施形態では、選択圧はスペクチノマイシンなどの抗生物質の存在である。
【0012】
ある実施形態では、プラスミドは相同組換えによりゲノムに組み込まれる。組込みプラスミドは、第2の相同組換えを介して喪失され得る。
【0013】
前述した方法の種々の実施形態では、形質転換体は、非選択的な条件下で少なくとも約100世代増殖される。
【0014】
上述の方法は、B.アニマリス種、より詳しくはB.アニマリス亜種ラクティス、さらにより詳しくはB.アニマリス亜種ラクティスNCC2818株のビフィドバクテリウム属菌細胞に実施できる。この方法をNCC2818株に実施することから生じる細胞は、B.アニマリス亜種ラクティスNCC9034株により例示される。
【0015】
上述の方法は、B.ロンガム(B.longum)種のビフィドバクテリウム属菌細胞に実施してもよい。
【0016】
本発明の別の態様は、ディスク拡散アッセイを使用して決定されるように、1ミリリットル当たり約0.3マイクログラムを超えたテトラサイクリン濃度に感受性のあるビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティス細胞を特徴とする。典型的な実施形態では、B.アニマリス亜種ラクティス細胞はNCC9034株である。
【0017】
本発明の他の特徴及び利点は、以下の詳細な説明、図面、及び実施例を参照することにより理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】スペクチノマイシン(spec)及びアンピシリン(Amp)耐性マーカーの位置を示す、pMDY28の制限エンドヌクレアーゼ切断部位の地図である。tetW隣接配列は、ApaI部位(塩基659位)と6840位のHindIIIとの間に挿入される。このプラスミドは、ビフィドバクテリウム属菌中で複製するための作動可能なoriを含有していない。
【図2】上段パネルは、2つの独立した変異体(A及びBと指定されたレーン)から得られたゲノムDNAのClaI、EcoRI、KpnI、及びNotI制限断片のサザンブロット分析を示す図である。レーンCは、変異体を作製するために使用した野生型株(NCC2818)から得られた相当する破片を含む。下段パネルは、野生型株で取得された断片と対して、変異体(A及びB)で取得されたサザンブロットに認められた断片のサイズを示す。
【図3】最小阻止濃度(MIC)を決定するためにEテストで決定された、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスNCC362株(野生型)(左パネル、およそ16μg/mlのテトラサイクリン)及びNCC9034株(右パネル、およそ0.3μg/mlのテトラサイクリン)の抗生物質テトラサイクリンへの耐性を示す図である。
【図4】NCC362株(上段パネル)及びNCC9034株(下段パネル)のtet遺伝子座の地図であり、後者の菌株にtetW遺伝子が存在しないことを示す図である。ノックアウト変異体を作製するために使用されたtetW隣接配列は、両パネルでは網掛けバーで示されている。
【図5】クロラムフェニコール(Cm)及びアンピシリン(Amp)耐性マーカーの位置を示す、pMDY24の制限エンドヌクレアーゼ切断部位の地図である。Bl0108隣接配列は、EcoRI部位(塩基1位)と5766位のSalIとの間に挿入される。このプラスミドは、ビフィドバクテリウム属菌中で複製するための作動可能なoriを含有していない。
【図6】NCC2705株(上段パネル)及びNCC9035株(下段パネル)のBl0108遺伝子座の地図であり、後者の菌株にBl0108遺伝子が存在しないことを示す図である。ノックアウト変異体を作製するために使用されたBl0108隣接配列は、両パネルでは網掛けバーで示されている。
【図7】パネルAは、BL0108欠失手順の最終ステップにおけるプラスミドの第2の組換え事象及び消散の後に取得されたクロラムフェニコール感受性コロニーのPCR分析を示す図である。2個のコロニー(レーン1及び2)のPCR断片サイズは、Bl0108(3885bp)の欠失を示すが、他の10個のコロニーのPCR断片サイズは、Bl0108遺伝子座の野生型配置を示す。パネルBは、2つの独立した変異体(レーン1及び2)から採取されたゲノムDNAのHindIII制限断片のサザンブロット分析を示す。レーン3は、変異体を作製するために使用した野生型株(NCC2705)から取得された相当する断片を含有する。最下段のパネルは、野生型株で取得されたサザンブロットに認められた断片(3)に対して、変異体(1及び2)で取得された断片のサイズを示す。
【図8】ビフィドバクテリウム属菌細胞から機能的遺伝子を欠失させるための、一般化された戦略の模式図である。この戦略は、本明細書中に記載した方法及び実施例で使用された戦略の一例である。手短かに言えば、所望の変異領域(この例では、変異tetW遺伝子座)は、大腸菌(E.Coli)プラスミドにクローニングされ(A)、ビフィドバクテリウム属菌細胞に形質転換される(B)。ビフィドバクテリウム属菌のゲノムに対するプラスミドの組込みは相同組換えにより得られ、適切な抗生物質、この例ではスペクチノマイシンを含有する増殖培地に細胞をプレーティングすることにより選択される(C)。細胞を抗生物質選択なしで複製させて、プラスミドの消散(D)、及びパネルAに描かれているプラスミドと同じ配置に変異した染色体領域をもたらす第2の相同性複製事象を可能にする。対立遺伝子交換後にその領域の野生型遺伝子座を宿すプラスミドは、ビフィドバクテリウム属菌中では複製できず、抗生物質選択をせずに培地上で増殖した細胞の複製中に除去される(E)。最終的な変異細胞は、PCR又はサザンブロット分析などの適切な分子生物学的技術で確認される。
【0019】
[具体的な実施形態の詳細な説明]
(細胞及び培養物)
本発明は、その幾つかの態様の第1では、作動可能な所定の機能的遺伝子を欠如、又は実質的に欠如するように改変されたゲノムを含む、B.アニマリス又はB.ロンガムに由来する細胞などのビフィドバクテリウム属菌細胞を提供する。いかなる特定の所定遺伝子の指定破壊又は欠失も、ビフィドバクテリウム属菌では達成されていない。
【0020】
一実施形態では、ビフィドバクテリウム属菌は、食品加工若しくは飼料加工、又は栄養補助食品若しくは医薬品補助剤に使用される菌株に由来する細胞である。好適なビフィドバクテリウム属菌株には、B.アニマリス株及びB.ロンガム株が含まれるが、それらに制限されない。食品若しくは飼料製品に意図的に添加される、又は食品若しくは飼料製品に大量に見出される、分類されている又はされていない他のビフィズス菌も好適である。他の有用なビフィドバクテリウム属菌には、食料若しくは飼料の製造若しくは生産の結果として、又は他の商業的加工を介して、又はヒト若しくは動物によるそのような産物の摂取を介して、直接的に又は間接的に環境中へと放出される任意の細胞が含まれる。ビフィドバクテリウム属菌は、例えば下痢などの胃腸状態を治療するための、又は健康な腸ミクロフローラを増進するための、ヒト幼児及び仔動物を含むヒト又は動物のいずれかのための栄養補助剤として意図された種々の形態でも利用可能である。一実施形態では、細胞は、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティス細胞である。
【0021】
破壊又は欠失される遺伝子は、任意の機能的遺伝子(例えば、細胞の機能をコードする任意の遺伝子)であってよいが、現時点で好ましい一実施形態では、機能的遺伝子は抗生物質耐性をもたらす。特定の実施形態では、遺伝子は獲得した抗生物質耐性遺伝子であり、つまり遺伝子は、ビフィドバクテリウム属菌細胞に内在的であるとは見なされず、現在はその中に見出されるが、むしろ外来性と見なされ、例えば環境又は別の生物に由来する。別の実施形態では、機能的遺伝子は、酵素又は酵素阻害剤、例えば食品加工又は生物の他の望ましい特性(例えば、健康な腸ミクロフローラの増進)に負の影響を与え得る阻害剤をコードする。当業者であれば、そのような様々な阻害剤は、1つ又は複数の遺伝子によりコードされてよいことを認識しよう。一実施形態では、阻害剤はプロテアーゼ阻害剤である。
【0022】
特定の実施形態では、遺伝子産物は、テトラサイクリンに対する耐性を付与する。一実施形態では、機能的遺伝子はtetWである。tetW遺伝子は、比較的幅広く分布することが知られている。一実施形態では、欠失させるtetW遺伝子を含有する細胞の供給源として、ビフィドバクテリウム・アニマリス種ラクティスNCC2818株が、現時点では好ましい。tetW遺伝子座の配列は、配列番号1として示されている。
【0023】
ある実施形態では、野生型細胞は、本発明の細胞、つまり遺伝子が欠失した細胞より、高濃度の抗生物質に耐性がある。特定の抗生物質に対する微生物細胞の感受性は、任意の様々な方法で測定できる。抗生物質感受性を測定するための1つの便利な手段は、ディスク拡散アッセイ、例えばEテスト(AB BIODISK社により商業的に製造されている)を使用することである。Eテストシステムは、プラスチックストリップ上のあらかじめ定められた抗生物質濃度勾配を使用し、特定の生物について抗生物質の最小阻止濃度(MIC)を正確に決定するために使用できる。
【0024】
現時点で好ましい実施形態では、本発明のビフィドバクテリウム属菌細胞は、tetW遺伝子を破壊されているが、他の機能的遺伝子は失われておらず、その細胞は、作動可能なtetW遺伝子を含有する相当する野生型細胞より、テトラサイクリンに対して少なくとも5倍の感受性がある。別の実施形態では、作動不能なtetW遺伝子を有するビフィドバクテリウム属菌細胞は、作動可能なtetW遺伝子を含有する相当する細胞より、テトラサイクリンに対して少なくとも10倍の感受性がある。
【0025】
一実施形態では、作動不能なtetW遺伝子を有するビフィドバクテリウム属菌細胞は、ディスク拡散アッセイを使用して決定されるように、1ミリリットル当たり約0.3マイクログラムを超えたテトラサイクリン濃度に感受性がある。
【0026】
本明細書中で使用される場合、ゲノムに関して「改変された」という用語は、ゲノムが人為的に操作又は修飾されたことを示す。ある実施形態では、ゲノムは特定の遺伝子の遺伝子座全体を欠失させることにより改変される。他の改変されたゲノムでは、制御配列の欠失又は制御配列における変異は、所定遺伝子の機能性の完全な又は少なくとも実質的な喪失をもたらすことができる。遺伝子座全体、遺伝子全体、又はさらにはコード配列全体を喪失するように操作されたそれらのゲノムに加えて、改変されたゲノムには、機能的遺伝子の機能の喪失又は実質的な喪失に帰着する点変異又はフレームシフト変異などの軽微な変更(挿入又は欠失を含む)のみを有するゲノムが含まれる。
【0027】
改変が作動可能性の完全な喪失に帰着することが好ましいが、必ずしも容易に達成されないこともあり、時にはそのような活性の実質的な喪失が有用なこともあろう。本明細書中で使用される場合、「実質的な喪失」とは、機能的な活性が半分を超えて失われることを示し、つまり改変されたゲノムを有する細胞は、所定の機能的遺伝子が寄与する機能的特性の半分未満を示す。例えば、酵素に関して改変されたゲノムを有する細胞は、それが由来する親細胞と比較した際に、その酵素活性の50%未満を有しよう。或いは、改変されたゲノムを有する細胞は、所定の機能的遺伝子に関連する遺伝子産物の50%未満を産生できる。当業者であれば、ある種の機能的な活性に対処する際に、特定の機能的遺伝子の遺伝子産物の50%未満を有する細胞が、細胞中で測定可能な活性の50%を必ずしも喪失しないことがあると理解しよう。
【0028】
好ましくは、改変されたゲノムにおいて、コード配列自体に少なくとも1つの点変異又はフレームシフト変異があり、完全な機能的遺伝子が、改変されたゲノムを有する細胞に近接している他の細胞、又は改変されたゲノムを有する細胞の環境中の他の細胞に導入されることを防止する。したがって、本明細書中で使用される場合、「改変される」には、そのような操作が、所定の機能的遺伝子の作動可能性の喪失又は実質的な喪失に関するゲノムの操作があることが必要である。
【0029】
したがって、一実施形態では、機能的遺伝子は全て欠失、又は少なくとも実質的に欠失される。この実施形態は、環境、他の腸微生物、又は環境中の他の生物に機能的な抗生物質耐性遺伝子が不用意に導入され得ないことを保証し、また破壊された遺伝子が導入され得るのは、下流事象を介して回復されることによってのみであることも保証する。したがって、好ましい実施形態では、本発明のこの態様によるビフィドバクテリウム属菌細胞は、tetW遺伝子の核配列を実質的に欠如している。一実施形態では、コード配列は少なくとも実質的に欠失される。或いは、所定の機能的遺伝子と関係する1つ又は複数の非コード配列も欠失されてよい。例えば、細胞において他の機能を果たさない機能的遺伝子の結合配列又は制御配列は欠失されてよい。他の実施形態では、改変されたゲノムを有する細胞は、よりわずかな変更、例えば所定の遺伝子の機能性の喪失又は実質的な喪失に帰着する点変異又はフレームシフト変異を有し、例えば改変されたゲノムは、機能的遺伝子の作動可能性の低減を示す。
【0030】
また、好ましい実施形態では、ビフィドバクテリウム属菌細胞は、そのゲノムの残りに実質的な変化はない。言い換えれば、ビフィドバクテリウム属菌細胞は、機能的遺伝子の作動可能性の喪失及び好ましくは細胞からのその完全な又は少なくとも実質的な欠失を除くと、それが由来する細胞(例えば親細胞)と同一、又はほとんど同一である。菌株又は培養物が長期間にわたって適応し、例えば、乳製品の発酵、例えばヨーグルトなどのような食品加工に有用な望ましい特性を提供した場合に、これは特に有用である。例えば、下記でより詳細に説明する一実施形態では、B.アニマリス亜種ラクティスNCC2818が開始(親)細胞であり、tetWが所定の機能的遺伝子であるが、結果として生じる細胞は、B.アニマリス亜種ラクティスNCC9034であり、その改変されたゲノムは、所定のtetW遺伝子を欠如する点でのみ親と異なる。予想通りに、NCC9034細胞により示されたテトラサイクリンに対する感受性の増加を除いて、その細胞も表現型的に類似している。前述の実施形態は、臨床症状の治療を支援するために使用される菌株にも有用であり、特にそれらの菌株が選択又は改良されて、腸内での迅速な世代時間又は滞留時間の延長などの望ましい機能を有する場合にも有用である。
【0031】
その幾つかの態様の別の態様では、本発明は、機能的遺伝子が欠失された細胞、又は機能的遺伝子が少なくとも作動不能な細胞を含むビフィドバクテリウム属菌の培養物を提供する。当業者であれば認識されることであるので、そのような培養物の使用について詳細に考察する必要はない。一実施形態では、培養物は、公知の培養物、望ましくない機能的遺伝子をそのゲノムに有することが発見された又は決定された公知の培養物に由来する細胞を含む。一実施形態では、遺伝子は、抗生物質耐性をコードする遺伝子などの、外来的に獲得された遺伝子である。一実施形態では、遺伝子はテトラサイクリン耐性遺伝子である。特定的な実施形態では、遺伝子はtetW遺伝子であり、特定の実施形態では、適切なtetW遺伝子配列は、配列番号1に提供される配列である。
【0032】
(細胞及び培養物を作製するための方法)
本発明の別の態様では、本発明は、作動可能な所定の機能的遺伝子を欠如するビフィドバクテリウム属菌細胞を産生するための方法を提供する。この方法は、
ビフィドバクテリウム属菌から所定の機能的遺伝子の上流及び下流配列を取得するステップと、
機能的遺伝子の上流及び下流隣接配列、並びに選択マーカーをコードする遺伝子を含む、ビフィドバクテリウム属菌中では複製しないプラスミドで、ビフィドバクテリウム属菌細胞の集団を形質転換するステップと、
選択マーカーをコードする遺伝子をプラスミド中に含有する細胞のみが増殖可能になる条件下でビフィドバクテリウム属菌細胞を増殖させ、それにより、プラスミドが染色体上の機能的遺伝子の遺伝子座に組み込まれた形質転換体を選択するステップと、
細胞の増殖は可能にするが、組込みプラスミドの喪失を許容する非選択的条件下で形質転換体を増殖させるステップと、
選択マーカーをコードする遺伝子に選択圧を有するプレート及び選択圧を有しないプレート上にコロニーをレプリカ法でプレーティングすることにより、組込みプラスミドを喪失した細胞を選択し、選択圧に感受性のあるそのコロニーを選択するステップと、
選択圧に感受性のある細胞が機能的遺伝子の機能をもはや有しないことを確認し、それにより作動可能な所定の機能的遺伝子を欠如するビフィドバクテリウム属菌細胞を産生するステップと
を含む。
【0033】
上記で細胞及び培養物について説明したように、ビフィドバクテリウム属菌細胞は、好ましくは、B.アニマリス又はB.ロンガムなどの食品加工又は飼料加工で使用される菌株に由来する細胞である。他のビジフィドバクテリア(Bidifidobacteria)は、ヒト又は動物の臨床治療に使用される、又はヒト又は動物の臨床治療で予防的に使用されるものなどが、本明細書中での使用に企図される。一実施形態では、開始細胞として使用される細胞は、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスである。本明細書中で例示されたある実施形態では、B.アニマリス亜種ラクティス細胞は、NCC2818株である(Chr.Hansen社から「BB12」として市販されている)。
【0034】
欠失させる遺伝子は、任意の機能的遺伝子(例えば、細胞の機能をコードする任意の遺伝子)であってよいが、現時点で好ましい一実施形態では、機能的遺伝子は抗生物質耐性をもたらす。特定の実施形態では、遺伝子は獲得した抗生物質耐性遺伝子であり、つまり遺伝子は、ビフィドバクテリウム属菌細胞に内在的であるとは見なされず、現在はその中に見出されるが、むしろ外来性と見なされ、例えば環境又は別の生物に由来する。
【0035】
一実施形態では、作動不能にされる又は欠失される遺伝子は、テトラサイクリンに対する耐性をコードする。一実施形態では、機能的遺伝子はtetWである。一実施形態では、tetW遺伝子は配列番号1として提供される配列を有し、B.アニマリス亜種ラクティスNCC2818のtetW遺伝子座全体を表わす。一実施形態では、開始細胞はビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティス細胞NCC2818株である。これらの細胞の試料は、ブダペスト条約の条項に従ってパスツール研究所の特許寄託所に寄託されている。B.アニマリス亜種ラクティスNCC2818が開始細胞であり、tetWが所定の機能的遺伝子である場合、結果として生じる細胞はB.アニマリス亜種ラクティスNCC9034であり、それらの試料も、ブダペスト条約の条項に従ってパスツール研究所の特許寄託所に寄託されている。
【0036】
ある実施形態では、野生型の細胞は、提供された方法から生じた細胞より高濃度の抗生物質に耐性がある。Eテスト(AB BIODISK社)などのディスク拡散アッセイ及び関連する感受性テストは、抗生物質に対する細胞の感受性を測定するための好ましい方法である。特定の生物に対する抗生物質の最小阻止濃度(MIC)は、どのように決定されたとしても、相対的感受性を比較するための便利な方法である。
【0037】
現時点で好ましい実施形態では、本発明のビフィドバクテリウム属菌細胞は、tetW遺伝子を破壊されているか又は欠失されているが、他の機能的遺伝子はそれらの機能の点で欠如又は破壊されていない。一実施形態において、本方法により産生された細胞は、作動可能なtetW遺伝子を含有する相当する野生型細胞より、テトラサイクリンに対して少なくとも5倍の感受性がある。より具体的には、結果として生じるビフィドバクテリウム属菌細胞は、作動可能なtetW遺伝子を含有する相当する細胞より、テトラサイクリンに対して少なくとも10倍の感受性がある。他の実施形態では、細胞は、tetW遺伝子を保持する相当する細胞より、20倍、30倍、40倍、又はさらに50倍又はそれを超えた感受性がある。特定の実施形態では、結果として生じるビフィドバクテリウム属菌細胞は、ディスク拡散アッセイ又はEテストを使用して決定されるように、1ミリリットル当たり約0.3マイクログラムを超えたテトラサイクリン濃度に感受性がある。
【0038】
上述のように細胞及び培養物について、一実施形態では、機能的な抗生物質耐性遺伝子が不用意に環境、他の腸微生物、又は環境中の他の生物に導入できないように、機能的遺伝子は全て欠失、又は少なくとも実質的に欠失されている。同様に、実質的にその配列の全てが生物から失われたため、破壊された遺伝子でさえ導入され得ない。したがってそのような実施形態では、本方法により作製された、結果として生じたビフィドバクテリウム属菌細胞は、実質的にtetW遺伝子の核酸配列を欠如している。種々の実施形態では、コード配列は少なくとも実質的に欠失され、所定の機能的遺伝子と関係する非コード配列でさえも欠失されている。
【0039】
現時点で好ましい実施形態では、結果として生じるビフィドバクテリウム属菌細胞ゲノムは、欠失又は作動不能にされたことを除くと、実質的に変化していない。好ましくは、結果として生じるビフィドバクテリウム属菌細胞のゲノムは、作動不能にされた又は欠失された機能的遺伝子以外は、それが由来する細胞(例えば親細胞)と同一、又はほとんど同一である。したがって、本方法により産生された細胞は、それらが由来する親株、野生型株、又は原型株と、実質的に同じ又はさらに全く同じ機能性及び特性(栄養所要量、酵素特性、増殖特徴、風味産生、及び酸産生など)を有しよう。したがって、そのように産生された細胞を使用すると、機能的遺伝子が欠失された細胞又は機能的遺伝子が少なくとも作動不能な細胞を含むビフィドバクテリウム属菌の有用な培養物を作り出すことができる。細胞が公知の培養物に由来し、その公知の培養物が、獲得した抗生物質耐性遺伝子、例えばテトラサイクリン耐性遺伝子、特にtetW遺伝子などの望ましくない機能的遺伝子をそのゲノムに有することが発見された場合、これは特に当てはまる。
【0040】
本方法の一実施形態では、プラスミドは、付加的な選択マーカーをコードする。ある実施形態では、選択マーカーは抗生物質耐性を付与する。そのような実施形態では、組込みプラスミドについて形質転換体をスクリーニングするための選択条件には、耐性マーカーに対応した抗生物質という形態の選択圧が含まれる。一実施形態では、抗生物質はスペクチノマイシンであり、別の実施形態ではクロラムフェニコールである。
【0041】
ある実施形態では、プラスミドは、好ましくは上流及び/又は下流の隣接配列部位で、相同組換えによりゲノムに組み込まれ、円形プラスミドがビフィドバクテリウム属菌ゲノムに組み込まれた状態になることを可能にするクロスオーバー事象が生じる。別の実施形態では、組込みプラスミドは、第2の相同組換え事象を介して失われ、好ましくは、所定の機能的遺伝子、例えばtetW遺伝子座又は他の遺伝子標的の全ての又は実質的に全てが同時に失われる。
【0042】
上述したように、好ましい実施形態では、欠失された又は作動不能にされた唯一の機能的遺伝子は、所定の機能的遺伝子である。
【0043】
一実施形態では、十分な世代数の間、形質転換体を非選択的条件下で増殖させ、所定の機能的遺伝子を含む不必要な配列の喪失を可能にする。一実施形態では、少なくとも約100世代の増殖は、そのような喪失を容易にしよう。
【0044】
以下の実施例は、本発明のこれらの又は追加的な態様をさらに例示するために提供されるが、例示されるものに本発明を制限するようには解釈すべきではない。
【0045】
[実施例]
(複製しないプラスミドの構築)
tetWの開始コドンの上流にtetWと隣接するおよそ3kbのDNA断片と、tetWの終止コドンの下流にtetWと隣接するおよそ3kbのDNA断片とを以下のプライマー対で増幅した。
mdy100:5’−CGCACCGGGCCCCCTCACGCAAACTCTACG−3’(配列番号2);
mdy98:5’−TGTGGTGTATCACATGTGATTGTCCTCCCTTTA−3’(配列番号3)及び
mdy99:5’−AGGACAATCACATGTGATACACCACAGCGAGG−3’(配列番号4)
mdy89:5’−CCGTCCAAGCTTTCTATCGCGAGATAATCAGC−3’)(配列番号5)。
【0046】
その結果生じる増幅産物をテンプレートとして使用し、mdy100プライマー及びmdy89プライマーで融合PCR(fusion PCR)を実施し、tetWの開始コドン及び終止コドンを介して連結されたtetWの上流領域及び下流領域を含有したDNA断片がその結果として生じた。
【0047】
DNA断片は、HindIII及びApa1でその末端を消化され、HindIIIとApaIとの間でpJL74(Ledeaux及びGrossman、J.Bacteriol.1995年1月;177巻(1号):166〜75頁)にクローニングした。結果として生じるプラスミドは、pMDY28(配列番号6)と名付けた。制限エンドヌクレアーゼ部位の詳細な地図は図1として提供する。pMDY28を形成するためにpJL74に挿入されたDNA断片の配列を確認し、B.アニマリス亜種ラクティスNCC2818の染色体に由来する配列と同一であることが示された。これにより、PCRを介したDNA増幅中にもその後のDNA操作中にも突然変異が導入されなかったことが示された。
【0048】
(B.アニマリスの形質転換及び対立遺伝子交換)
プラスミドpMDY28は、Argnaniら1996年(Microbiology;142巻:109〜14頁)により記述された方法を使用して、B.アニマリス細胞中に導入し形質転換を行った。細胞は1リットル当たり100mgのスペクチノマイシンを含有するMRSプレート上に配置した。その結果生じるspec形質転換体を嫌気的に選択した。プラスミドpMDY28はB.アニマリス中で複製できないため、specのコロニーは、プラスミドが単一のクロスオーバー事象を介した相同組換えによりB.アニマリスゲノムに組み込まれたことから生じた可能性が最も高い。複製しないプラスミドをビフィドバクテリウム属菌細胞へと形質転換することに成功したのは、過去に報告がない。
【0049】
プラスミドの喪失を可能にするために、およそ100世代、抗生物質選択をせずにspec形質転換体をMRSブロス中で培養し、個々のコロニーをMRS寒天培地上にプレーティングした。プラスミドがB.アニマリスのゲノムから取り除かれたことを保証するため、個々のコロニーは、スペクチノマイシンが添加されたMRS寒天及びスペクチノマイシンが添加されなかったMRS寒天上にレプリカ法でプレーティングすることにより、スペクチノマイシン耐性の喪失を検査した。
【0050】
検査した750個のコロニーのうち、163個のコロニーはスペクチノマイシン感受性であり(21%)、プラスミドが、第2のクロスオーバー事象の発生を介してB.アニマリスの染色体から切除されたことを示した。
【0051】
第2のそのような事象は、
i)野生型細胞と同一のtetW遺伝子座を有する野生型配置への復帰変異、
ii)tetWの欠失
という2つのゲノムの配置に帰着し得る。
【0052】
これらの2つの可能性を識別するため、上述したスペクチノマイシン感受性コロニー163個のうち135個を、tetWの喪失について、以下のプライマー対を用いた直接コロニーPCR(direct colony PCR)で検査した。
mdy94:5’−GAGCATGTATTCGGTGTCG−3’(配列番号7)及び
mdy95:5’−GATTTGCCCTATCGACTG−3’(配列番号8)。
【0053】
検査した135個のコロニーのうち、2個は、tetWの欠失を示す1034bpのDNAバンドを生じさせたが、他は、野生型細胞で取得された断片に類似したより高分子量(2949)の断片を生じさせた(図2、パネルBを参照)。
【0054】
(tetW欠失変異体のサザンブロット分析)
tetWの欠失は、PCR分析により特定された2つの変異体候補から抽出したゲノムDNAを用いたPCR及びサザンブロット分析により確認した(図2、パネルA及びBを参照)。制限酵素(ClaI、EcoRI、又はNotI)で、染色体DNAの試料を消化した。サザンブロットは、pMDY28に由来するDNAとハイブリダイズさせた。サザン分析により、両変異体候補のゲノムからtetWが欠失されていることが確認された(レーンA及びB)。1つの株だけを保持し、それ以降はその株をNCC9034と指定した。
【0055】
(B.アニマリス亜種ラクティスNCC9034株対NCC2818株の抗生物質感受性試験)
B.アニマリス亜種ラクティス野生型株NCC2818のテトラサイクリン感受性と、実質的に全てのtetW遺伝子の欠失が示された派生株NCC9034のテトラサイクリン感受性とを比較した。市販のEテスト(AB BIODISK社)を使用して、テトラサイクリンについての各株のMICを決定した。
【0056】
結果は図3に示す。NCC2818株は16μg/mlのMICを示したが、NCC9034はテトラサイクリンにより感受性があり、わずかに約0.3μg/mlのMICを示した。したがって、NCC9034は、その親である野生型株NCC2818より、テトラサイクリンに対して約50倍感受性が強かった。この感受性表現型は、tetW遺伝子の機能性喪失と完全に一致している。これは、上記のサザン分析で見られたように、遺伝子分析により裏付けられる。
【0057】
プロテアーゼ阻害タンパク質をコードするB.ロンガム遺伝子(Bl0108)の欠失
(複製しないプラスミドの構築)
Bl0108と隣接するおよそ3kbのDNA断片を、以下のプライマー対で増幅した。
mdy82:5’−CGACCCAAGCTTGGATCGGCTCGTGCATCATTGC−3’(配列番号9);
mdy83:5’−GCAAACCGTACCTCAATACC−3’(配列番号10)及び
mdy84:5’−CGACCCAAGCTTGCAGTCCGTCAATTAGGGTG−3’(配列番号11)
mdy85:5’−CGTTGCTGACGTTGCGGTTC−3’)(配列番号12)。
【0058】
mdy82及びmdy83を用いて取得されたPCR産物は、EcorI及びHindIIIで消化した。mdy84及びmdy85を用いて取得されたPCR産物は、HindIII及びSalIで消化した。
【0059】
増幅されたDNA断片をそれらに共通したHindIII制限部位を介して連結し、3点ライゲーション(three way ligation)により、pJH101(Ferrari,F.R.ら、J.Bacteriol.(1983年)154巻:1513〜1515頁)のEcoRIとSalIとの間にクローニングした。結果として生じるプラスミドは、pMDY24(配列番号13)と名付けた。pMDY24の制限エンドヌクレアーゼ部位の詳細な地図は、図5として提供する。
【0060】
(B.ロンガムの形質転換及び対立遺伝子交換)
プラスミドpMDY24は、スクロースが増殖培地から除外された以外は、Argnaniら1996年(Microbiology;142巻:109〜14頁)により記述された方法によって、B.ロンガムNCC2705細胞に形質転換された。細胞は、1リットル当たり3.5mgのクロラムフェニコールを含有するMRSプレート上に播種した。その結果生じるcm形質転換体を嫌気的に選択した。プラスミドpMDY24はB.ロンガム中で複製できないため、cmのコロニーは、プラスミドが単一のクロスオーバー事象を介した相同組換えによりB.ロンガムに組み込まれたことから生じた可能性が最も高い。
【0061】
個々のコロニーをMRS寒天培地上にプレーティングする前に、プラスミドの喪失を可能にするためにおよそ100世代、抗生物質選択をせずにcm形質転換体を培養した。プラスミドがB.ロンガムのゲノムから取り除かれたことを保証するため、個々のコロニーは、クロラムフェニコールが添加されたMRS寒天及びクロラムフェニコールを添加しなかったMRS寒天上にレプリカ法でプレーティングすることにより、クロラムフェニコール耐性の喪失を検査した。
【0062】
検査した200個のコロニーのうち、22個のコロニーはクロラムフェニコール感受性であり(11%)、プラスミドが、第2のクロスオーバー事象の発生を介してB.ロンガムの染色体から切除されたことを示した。
【0063】
第2のクロスオーバー事象は、
i)野生型細胞と同一のBl0108遺伝子座を有する野生型配置への復帰変異、又は
ii)Bl0108の欠失
という2つのゲノムの配置に帰着し得た。
【0064】
これらの2つの可能性を識別するために、22個のクロラムフェニコール感受性コロニーのうち12個から染色体DNAを抽出した。以下のプライマー対を用いたPCRで、Bl0108の喪失について染色体DNAを検査した。
mdy27:5’−TCGGAAGATCTCATGGTCAACGAGTTCGC−3’(配列番号14)及び
mdy39:5’−TAGTACTAAGCTTCTTGAGCTCTTCCTTCTGC−3’(配列番号15)。
【0065】
検査した12個のコロニーのうち、2個が、Bl0108の欠失を示す3885bpのPCR断片を示した(図7、パネルA、レーン1〜2)。検査した他の10個のコロニーは、野生型細胞で取得された断片に類似した5311bpのより大きいサイズのPCR断片を生じさせた(図7、パネルA、レーン3〜12)。
【0066】
(Bl0108欠失変異体のサザンブロット分析)
Bl0108の欠失は、上述のようにPCR分析により特定された2つの変異体候補から抽出したゲノムDNAを用いたPCR及びサザンブロット分析により確認し、図7に示した。制限酵素(EcoRI及びHindIII)で、染色体DNA試料を消化した。サザンブロットは、pMDY24に由来するDNAとハイブリダイズさせた。サザン分析により、両変異体候補のゲノムからBL0108遺伝子が欠失されていることが確認された(図7、レーンA及びB)。1つの株だけを保持し、それ以降はその株をNCC9035と指定した。
【0067】

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動可能な機能的遺伝子を欠如するように改変されたゲノムを含むビフィドバクテリウム属菌細胞。
【請求項2】
ビフィドバクテリウム・アニマリス細胞である、請求項1に記載のビフィドバクテリウム属菌細胞。
【請求項3】
ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティス細胞である、請求項2に記載のビフィドバクテリウム属菌細胞。
【請求項4】
ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスNCC9034株である、請求項1に記載のビフィドバクテリウム属菌細胞。
【請求項5】
前記機能的遺伝子が抗生物質耐性をもたらす、請求項1に記載のビフィドバクテリウム属菌細胞。
【請求項6】
前記機能的遺伝子がtetWである、請求項5に記載のビフィドバクテリウム属菌細胞。
【請求項7】
作動可能なtetW遺伝子を含有する相当する細胞より、テトラサイクリンに対して少なくとも5倍の感受性がある、請求項6に記載のビフィドバクテリウム属菌細胞。
【請求項8】
作動可能なtetW遺伝子を含有する相当する細胞より、テトラサイクリンに対して少なくとも10倍の感受性がある、請求項7に記載のビフィドバクテリウム属菌細胞。
【請求項9】
ディスク拡散アッセイを使用して決定される、1ミリリットル当たり約0.3マイクログラムを超えたテトラサイクリン濃度に感受性がある、請求項8に記載のビフィドバクテリウム属菌細胞。
【請求項10】
ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスNCC9034株である、請求項9に記載のビフィドバクテリウム属菌細胞。
【請求項11】
前記tetW遺伝子の核配列を実質的に欠如している、請求項1に記載のビフィドバクテリウム属菌細胞。
【請求項12】
そのゲノムの残部に実質的な変化がない、請求項1に記載のビフィドバクテリウム属菌細胞。
【請求項13】
請求項12に記載の細胞を含むビフィドバクテリウム・アニマリスの培養物。
【請求項14】
作動可能な所定の機能的遺伝子を欠如するビフィドバクテリウム属菌細胞を産生するための方法であって、
ビフィドバクテリウム属菌から所定の機能的遺伝子の上流及び下流配列を取得するステップと、
前記機能的遺伝子の上流及び下流隣接配列と、選択マーカーをコードする遺伝子とを含む、ビフィドバクテリウム属菌中では複製しないプラスミドで、ビフィドバクテリウム属菌細胞の集団を形質転換するステップと、
プラスミド中の選択マーカーをコードする遺伝子を含有する細胞の増殖は可能であるが、選択マーカーをコードする遺伝子を有しないその細胞の増殖は可能ではない条件下で前記ビフィドバクテリウム属菌細胞を増殖させ、それにより、組込みプラスミドを含有する形質転換体を選択するステップと、
前記細胞の増殖を可能にするが、前記組込みプラスミドの喪失を許容する非選択的条件下で前記形質転換体を増殖させるステップと、
選択圧を有するプレート及び選択圧を有しないプレート上にコロニーをレプリカ法でプレーティングすることにより、前記組込みプラスミドを喪失した細胞を選択し、選択圧に感受性のあるそのコロニーを選択するステップと、
前記選択圧に感受性のある細胞が前記機能的遺伝子の機能をもはや有しないことを確認し、それにより作動可能な所定の機能的遺伝子を欠如するビフィドバクテリウム属菌細胞を産生するステップと
を含む方法。
【請求項15】
前記所定の機能的遺伝子が欠失されている、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記機能的遺伝子が抗生物質に対する耐性の増加を付与する、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記抗生物質がテトラサイクリンである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記機能的遺伝子がtetWである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記選択圧が抗生物質の存在である、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
前記抗生物質がスペクチノマイシンである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記プラスミドが相同組換えにより前記ゲノムに組み込まれる、請求項14に記載の方法。
【請求項22】
前記組込みプラスミドが、第2の相同組換えを介して失われる、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
欠失された又は作動不能にされた唯一の機能的遺伝子が、前記所定の機能的遺伝子である、請求項15又は請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記形質転換体が、非選択的な条件下で少なくとも約100世代増殖される、請求項14に記載の方法。
【請求項25】
前記ビフィドバクテリウム属菌細胞がB.アニマリス細胞である、請求項14に記載の方法。
【請求項26】
前記ビフィドバクテリウム属菌細胞がB.アニマリス亜種ラクティス細胞である、請求項14に記載の方法。
【請求項27】
前記ビフィドバクテリウム属菌細胞がB.アニマリス亜種ラクティスNCC2818であり、得られる細胞がB.アニマリス亜種ラクティスNCC9034である、請求項14に記載の方法。
【請求項28】
前記ビフィドバクテリウム属菌細胞がB.ロンガム細胞である、請求項14に記載の方法。
【請求項29】
ディスク拡散アッセイを使用して決定される、1ミリリットル当たり約0.3マイクログラムを超えたテトラサイクリン濃度に感受性のあるビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティス細胞。
【請求項30】
NCC9034株である、請求項30に記載の前記B.アニマリス亜種ラクティス細胞。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2010−500884(P2010−500884A)
【公表日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−524946(P2009−524946)
【出願日】平成19年8月17日(2007.8.17)
【国際出願番号】PCT/EP2007/007312
【国際公開番号】WO2008/019886
【国際公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(599132904)ネステク ソシエテ アノニム (637)
【Fターム(参考)】