説明

ビブリオ検出用培地

【課題】
本発明は、食中毒原因菌として重要なビブリオを簡易かつ正確に検出することができるビブリオ検出用培地を提供する。
【解決手段】
本発明は、培地中にポリペプチド系抗生物質を含有させることにより、ビブリオ・アルギノリティカスの生育のみを選択的に抑制し、かつ腸炎ビブリオ、ビブリオ・コレラ、ビブリオ・バルニフィカスの3種を同時に検出することができるビブリオ検出用培地。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビブリオ検出用培地に関し、特に食中毒原因菌として重要なビブリオを簡易かつ正確に検出することができるビブリオ検出用培地に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ビブリオ属細菌は、細菌性食中毒菌の原因菌として高い頻度で検出される病原細菌の一種である。本菌は、広く海洋中に分布し、海産物を多量に接種する我が国では、重要な病原菌の一つであり、特に夏期に本菌が原因の食中毒が多発している。この食中毒は、急性胃腸炎であり、発熱、嘔吐、腹痛、下痢を伴うことを特徴としている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
従来、このような食中毒原因菌であるビブリオの検出培地として、TCBS(Thiosulfate citrate bile salts sucrose)寒天培地が広く用いられている。このTCBS寒天培地は、白糖とpH指示薬を含むものである。
この培地は、腸炎ビブリオが白糖を利用しないのに対し、ビブリオ属に属し、かつ食中毒の原因であるビブリオ・アルギノリティカスやビブリオ・コレラが白糖を利用して酸を生成するという性質を利用したものである(例えば、非特許文献2参照)。
【0004】
一方、TCBS寒天培地においては、白糖の分解性をブロムチモールブルー(以下、BTB(pH指示薬)と略す)で検出するため、ビブリオ・アルギノリティカスが多量に発育すると、白糖が分解されて酸が産生され、培地全体が黄色に呈色する。
これに対して、本来、白糖非分解である腸炎ビブリオは、酸を出さないので、緑色に呈色する。
しかしながら、アルギノリティカスが多量に発育すると、産生された酸の影響で腸炎ビブリオのコロニーが緑色から黄色に変色し、腸炎ビブリオを正確に検出できないという問題があった。
【0005】
このため、腸炎ビブリオと同じビブリオ属に属するビブリオ・アルギノリティカスが共存しても色の変化を生じずに、正確かつ簡便に腸炎ビブリオを検出できる培地が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、上記公報に係る発明では、腸炎ビブリオのみを検出することができるに止まり、腸炎ビブリオ、ビブリオ・コレラ、ビブリオ・バルニフィカスの3種を同時に検出するには至っていない。
【0007】
【特許文献1】特開2002−355091号公報
【0008】
【非特許文献1】島田俊夫 食品衛生研究 2001年、51巻 p.7-18
【非特許文献2】小林俊一 他. 日細誌 1963年、18巻 p.387
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、培地中にポリペプチド系抗生物質を含有させることにより、ビブリオ・アルギノリティカスの生育のみを選択的に抑制し、かつ腸炎ビブリオ、ビブリオ・コレラ、ビブリオ・バルニフィカスの3種を同時に検出することができるビブリオ検出用培地を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、下記のような構成からなるものである。
(1)ビブリオ・アルギノリティカスの生育のみを選択的に抑制し、かつ他のビブリオの生育を抑制しない、ポリペプチド系抗生物質を含有することを特徴とするビブリオ検出用培地。
(2)ポリペプチド系抗生物質がポリミキシンB、コリスチン、およびバシトラシンから成る群から選択される少なくとも1種である(1)記載のビブリオ検出用培地。
(3)ポリペプチド系抗生物質がポリミキシンBである(1)又は(2)記載のビブリオ検出用培地。
(4)ポリミキシンBの濃度が100〜1300unitである(1)〜(3)記載のビブリオ検出用培地。
(5)他のビブリオが腸炎ビブリオ、ビブリオ・コレラ、ビブリオ・バルニフィカスである(1)記載のビブリオ検出用培地。
(6)培地1Lあたり、ポリミキシンB100〜1300unit、ペプトン1〜30g、酵母エキス1〜10g、白糖35〜50g、胆汁末1〜20g、塩化ナトリウム5〜40g、クエン酸ナトリウム5〜20g、チオ硫酸ナトリウム5〜20g、クエン酸鉄0.1〜5g、BTB0.005〜0.1g、寒天5〜20gを含有する請求項1記載のビブリオ検出用培地。
(7)(1)〜(6)記載のいずれか1記載の培地に、検体を接種して培養後、ビブリオ・アルギノリティカスの生育のみを選択的に抑制し、かつ抑制されないビブリオを検出することを特徴とするビブリオ検出方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のビブリオ検出用培地によれば、ビブリオ・アルギノリティカスの生育のみを選択的に抑制し、かつ腸炎ビブリオ、ビブリオ・コレラ、ビブリオ・バルニフィカスの生育を抑制しないため、これらのビブリオを同時に検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
本発明のビブリオ検出用培地の特徴は、培地中にビブリオ・アルギノリティカスの生育のみを選択的に抑制し、かつ腸炎ビブリオ、ビブリオ・コレラ、ビブリオ・バルニフィカスの生育を抑制しない、ポリペプチド系抗生物質を含有させることにある。
このポリペプチド系抗生物質としては、ポリミキシンB、コリスチン、およびバシトラシンから成る群から選択される少なくとも1種が挙げられる。中でも、ポリミキシンBが最も好ましい。
これら以外に同様の効果を有する抗生物質としてグラミシジン、ミカマイシンおよびバイオマイシンなどが挙げられる。
【0013】
このポリミキシンBの濃度は100〜1300unitの範囲であることが好ましく、より好ましくは200〜1000unitの範囲であり、最も好ましくは400unitである。
ポリミキシンBの濃度が100unit未満になると、ビブリオ・アルギノリティカスの生育を選択的に抑制することができなくなる。逆に、1300unitを超えると、腸炎ビブリオの生育を抑制する。
【0014】
本発明のビブリオ検出用培地は、培地1Lあたり、ポリミキシンB100〜1300unit、ペプトン1〜30g、酵母エキス1〜10g、白糖35〜50g、胆汁末1〜20g、塩化ナトリウム5〜40g、クエン酸ナトリウム5〜20g、チオ硫酸ナトリウム5〜20g、クエン酸鉄0.1〜5g、ブロムチモールブルー0.005〜0.1g、寒天5〜20gを含有することが好ましい。
【0015】
これらの他に、ビブリオの発育を促進する栄養源として、硫酸アンモニウムなどの窒素源、マルトースやスクロースなどの糖類、更に必要に応じてミネラルやビタミンなどの任意のものを含めることができる。
【0016】
本発明では、特に必要とされないが、雑菌の繁殖を抑制するための抗菌剤として、ゲンタマイシン、ストレプトマイシン、カナマイシン、ネオマイシンなどのアミノグリコキシド系抗生物質、広範囲の抗菌スペクトルを有するペニシリン、セファロスポリンを含有させることができる。
【0017】
本発明の培地は、液体、半流動、固形のいずれの形態も取りうるが、検出のし易さ等の観点から、固形培地が好ましく、より好ましくは平板固形培地の形態である。
固形培地の固化剤としては、寒天、カラギーナン、アガロースなど通常使用されているものが挙げられる。
【実施例】
【0018】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0019】
実施例
表1に示した培地成分121.5gを秤量し、更にポリミキシンBを50〜1500unitになるように添加して、1000mLの精製水に溶解した。振盪した後、pHを8.8±0.2に調整し、100℃で20分間加熱滅菌した。50℃に冷却後、18mLずつシャーレに分注して固化した。固化後、30分間乾燥した。
各菌について10株を一晩培養し、その菌株をマクファーランド#1に調整後、(106cfu/mL)になるように滅菌生理食塩水で希釈した。この菌株をエーゼで培地に画線し、37℃で18時間培養した。
表2および表3の結果に示すように、ポリミキシンBの濃度が100unit未満になると、ビブリオ・アルギノリティカスの生育を抑制できなくなることが判る。一方、1300unitを超えると、腸炎ビブリオの生育が抑制されることが判る。
従って、ビブリオ・アルギノリティカスの生育のみを選択的に抑制し、かつ腸炎ビブリオ、ビブリオ・コレラ、ビブリオ・バルニフィカスの3種を同時に検出できるポリミキシンの濃度は100〜1300unitの範囲であることが判る。
【0020】

表1 培地の組成
──────────────────────
ペプトン 10.0g
酵母エキス末 4.0g
白糖 40.0g
チオ硫酸ナトリウム 12.0g
クエン酸ナトリウム 10.0g
塩化ナトリウム 25.0g
胆汁末 6.0g
クエン酸鉄 0.5g
BTB 0.03g
寒天 14.0g
──────────────────────
pH8.8±0.2
【0021】

表2 106をエーゼ画線培養(TCBS)
───────────────────────────────────────
ポリミキシン濃度(unit) 50 100 200 300 400 1100 1200 1300 1400 1500
───────────────────────────────────────
ビブリオ・アルギノリティカス
8 2 1 1 0 0 0 0 0 0
腸炎ビブリオ 10 10 10 10 10 9 8 8 4 0
ビブリオ・コレラ 10 10 10 10 10 10 10 10 10 10
ビブリオ・バルニフィカス10 10 10 10 10 10 10 10 10 10
───────────────────────────────────────
【0022】

表3 106をエーゼ画線培養(ビブリオ検出培地)
───────────────────────────────────────
ポリミキシン濃度(unit) 50 100 200 300 400 1100 1200 1300 1400 1500
───────────────────────────────────────
ビブリオ・アルギノリティカス
9 1 1 1 0 0 0 0 0 0
腸炎ビブリオ 10 10 10 10 10 9 9 8 3 0
ビブリオ・コレラ 10 10 10 10 10 10 10 10 10 10
ビブリオ・バルニフィカス10 10 10 10 10 10 10 10 10 10
───────────────────────────────────────
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明によれば、食中毒原因菌として重要なビブリオを簡易かつ正確に検出することができるビブリオ検出用培地を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビブリオ・アルギノリティカスの生育のみを選択的に抑制し、かつ他のビブリオの生育を抑制しない、ポリペプチド系抗生物質を含有することを特徴とするビブリオ検出用培地。
【請求項2】
ポリペプチド系抗生物質がポリミキシンB、コリスチン、およびバシトラシンから成る群から選択される少なくとも1種である請求項1記載のビブリオ検出用培地。
【請求項3】
ポリペプチド系抗生物質がポリミキシンBである請求項1又は2記載のビブリオ検出用培地。
【請求項4】
ポリミキシンBの濃度が100〜1300unitである請求項1〜3記載のビブリオ検出用培地。
【請求項5】
他のビブリオが腸炎ビブリオ、ビブリオ・コレラ、ビブリオ・バルニフィカスである請求項1記載のビブリオ検出用培地。
【請求項6】
培地1Lあたり、ポリミキシンB100〜1300unit、ペプトン1〜30g、酵母エキス1〜10g、白糖35〜50g、胆汁末1〜20g、塩化ナトリウム5〜40g、クエン酸ナトリウム5〜20g、チオ硫酸ナトリウム5〜20g、クエン酸鉄0.1〜5g、ブロムチモールブルー0.005〜0.1g、寒天5〜20gを含有する請求項1記載のビブリオ検出用培地。
【請求項7】
請求項1〜6記載のいずれか1項記載の培地に、検体を接種して培養後、ビブリオ・アルギノリティカスの生育のみを選択的に抑制し、抑制されない他のビブリオを検出することを特徴とするビブリオの検出方法。

【公開番号】特開2010−11818(P2010−11818A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−176443(P2008−176443)
【出願日】平成20年7月7日(2008.7.7)
【出願人】(000120456)栄研化学株式会社 (67)
【Fターム(参考)】