説明

ビーズ状中空粒子およびその製造方法ならびにこのビーズ状中空粒子を用いた摩擦材

【課題】 ビーズ状中空粒子およびその簡便な製造方法ならびにこのビーズ状中空粒子を用いた摩擦材を提供する。
【解決手段】 金属酸化物を主成分とし、表面に貫通穴ないし非貫通穴を有する異形状の粒子からなることを特徴とするビーズ状中空粒子および粒子状生体材料と粒子状金属酸化物との懸濁液を二流体ノズルスプレードライヤーで噴霧乾燥処理し、得られた、粒子状生体材料をコア、粒子状金属酸化物層をシェルとする粉体を加熱処理することを特徴とする上記ビーズ状中空粒子の製造方法ならびにこの中空粒子を用いた摩擦材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビーズ状中空粒子およびその製造方法ならびにこのビーズ状中空粒子を用いた摩擦材に関する。
【背景技術】
【0002】
中空粒子は、軽量性、断熱性などの特性を有し、断熱材、摩擦材などの用途に利用されている。このような中空粒子の製造方法として、種々の方法が提案されている(特許文献1、2および3参照)。
【0003】
特許文献1に記載された方法は、ジルコニウム、チタン、ケイ素などの金属のアルコキシドのアルコール溶液に酵母、でんぷんなどの粒子状生体材料の水分散液を加えて攪拌することにより、金属アルコキシドを加水分解させて、粒子状生体材料の表面に金属アルコキシドの加水分解物を析出させ、粒子状生体材料をコア、金属アルコキシドの加水分解物の層をシェルとするコア・シェル複合体を得、次いでこのコア・シェル複合体を水洗、乾燥後、加熱処理することにより、金属アルコキシドの加水分解物の脱水縮合による金属酸化物の生成と粒子状生体材料の熱分解による中空部の形成によって目的とする中空粒子を得るものである。
【0004】
特許文献1の方法によって得られた中空粒子は、表面が多孔質であるものの、その形状がコアとして使用される粒子状生体材料の形状に依存して、ほぼ球状に限られており、異形状の中空粒子を作製することは極めて困難であった。
【0005】
また特許文献2に記載の方法は、一次粒子が20〜200nmの炭酸カルシウムを調製し、この炭酸カルシウムにゾル−ゲル法を用いてシリカをコーティングし、その後、酸を添加して炭酸カルシウムを除去して目的とするシリカからなる中空粒子を得るもので、この中空粒子は、静的光散乱法による粒子径が30〜800nmであり、水銀圧入法による細孔分布が2〜20nmを検出しない緻密なシリカ殻からなる高分散性のものである。
【0006】
特許文献3に記載の方法は、樹脂粉末にアルミナやシリカの金属酸化物を圧接させながら混合し、樹脂粉末の表面に金属酸化物を被覆させ、その後、電気炉等で焼成し、樹脂粉末を除去するとともに、金属酸化物同士を焼結させて目的とする中空粒子を得るものである。
【0007】
しかしながら、特許文献2や特許文献3に記載の方法によって得られた中空粒子は、いずれもほぼ完全な球状となっており、球状以外の異形状の中空粒子を作製することは困難であった。
【0008】
また、自動車などに用いられる摩擦式ブレーキにおいては、ブレーキ鳴きの低減のために中空材料を配合することが提案されており、特許文献4にはチタン酸アルカリ粒子が結合した中空粒子を用いることが開示されている。
【0009】
しかしながら、特許文献4に記載の中空粒子では、その耐圧強度が極めて低いので、摩擦材を成形する際の圧力で中空形状が崩れてしまう粒子が多く、ブレーキ鳴きの低減効果を十分に発揮できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−326557号公報
【特許文献2】特開2005−263550号公報
【特許文献3】特開2003−160330号公報
【特許文献4】特開2009−114050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記した特許文献1〜3に記載の方法では製造することが困難な異形状の中空粒子及び該中空粒子を簡便に製造する方法を提供することを目的とするものである。
【0012】
また、本発明は、上記した特許文献4に記載の材料では解決できないブレーキ鳴きの低減と材料強度の向上を両立した摩擦材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記の目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、酵母、でんぷんなどの粒子状生体材料とシリカ、アルミナなどの粒子状金属酸化物との懸濁液を二流体ノズルスプレードライヤーで噴霧乾燥処理し、得られた、粒子状生体材料をコア、粒子状金属酸化物層をシェルとする粉体を加熱処理することにより、金属酸化物を主成分とし、表面に貫通穴ないし非貫通穴を有する異形状の粒子からなるビーズ状中空粒子が得られることを見出した。
【0014】
また、本発明者らは、上で得られたビーズ状中空粒子を摩擦材に配合させることにより、ブレーキ鳴きを低減させることができるとともに、材料強度を向上させることができるブレーキ用摩擦材が得られ、その目的を達成し得ることを見出した。
本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものである。
【0015】
すなわち、本発明は、
(1)金属酸化物を主成分とし、表面に貫通穴ないし非貫通穴を有する異形状の粒子からなることを特徴とするビーズ状中空粒子、
(2)粒子状生体材料と粒子状金属酸化物との懸濁液を二流体ノズルスプレードライヤーで噴霧乾燥処理し、得られた、粒子状生体材料をコア、粒子状金属酸化物層をシェルとする粉体を加熱処理することを特徴とする上記(1)に記載のビーズ状中空粒子の製造方法、
(3)粒子状生体材料が酵母、でんぷん、菌類、藻類、胞子、花粉から選ばれる、上記(2)に記載の方法、
(4)粒子状金属酸化物がシリカ、アルミナ、酸化亜鉛、チタニア、イットリア、酸化銅、酸化コバルト、ジルコニアから選ばれる、上記(2)に記載の方法、
(5)粒子状生体材料/粒子状金属酸化物の混合比が固形分重量基準で1/0.5〜1/2である、上記(2)〜(4)のいずれかに記載の方法、
(6)加熱処理を500〜900℃の温度で行う、上記(2)〜(5)のいずれかに記載の方法、
(7)上記(1)に記載のビーズ状中空粒子を含むことを特徴とする摩擦材、
(8)ビーズ状中空粒子の平均粒子径が1〜100μmである、上記(7)に記載の摩擦材、
(9)ビーズ状中空粒子の配合割合が1〜6容量%である、上記(7)または(8)に記載の摩擦材、および
(10)上記(2)〜(6)のいずれかに記載の方法で製造されたビーズ状中空粒子を含むことを特徴とする摩擦材
を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、粒子状生体材料と粒子状金属酸化物との懸濁液を二流体ノズルスプレードライヤーで噴霧乾燥処理し、得られた、粒子状生体材料をコア、粒子状金属酸化物層をシェルとする粉体を加熱処理するという簡便な方法により、金属酸化物を主成分とし、表面に貫通穴ないし非貫通穴を有する異形状の粒子からなるビーズ状中空粒子を得ることができた。
【0017】
また、本発明によれば、これによって得られたビーズ状中空粒子を配合させることにより、ブレーキ鳴きを低減させることができるとともに、材料強度を向上させることができるブレーキ用摩擦材を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例1で得られた中空粒子の電子顕微鏡写真である。
【図2】比較例1で得られた中空粒子の電子顕微鏡写真である。
【図3】実施例2で得られた中空粒子の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[ビーズ状中空粒子およびその製造方法]
まず、本発明のビーズ状中空粒子およびその製造方法について説明する。
本発明のビーズ状中空粒子は、金属酸化物を主成分とし、表面に貫通穴ないし非貫通穴を有する異形状の粒子からなることを特徴とするものである。ここに「異形状の粒子」とは、球状と異なる形状を有する粒子(平面視したときに円形である粒子や楕円のような粒子などを含む)を意味する。本発明のビーズ状中空粒子は、次に述べる本発明のビーズ状中空粒子の製造方法により好ましく製造することができる。
【0020】
本発明のビーズ状中空粒子の製造方法は、粒子状生体材料と粒子状金属酸化物との懸濁液を二流体ノズルスプレードライヤーで噴霧乾燥処理し、得られた、粒子状生体材料をコア、粒子状金属酸化物層をシェルとする粉体を加熱処理することを特徴とするものである。
【0021】
本発明において用いられる粒子状生体材料は、酵母、でんぷん、菌類、藻類、胞子、花粉から選ばれるものであり、特に酵母、でんぷんを用いるのが好ましい。
【0022】
酵母としては、ビール酵母、ワイン酵母、パン酵母などのいずれも用いることができ、でんぷんとしては、トウモロコシでんぷん、小麦でんぷん、米でんぷん、豆でんぷん、いもでんぷんなどのいずれも用いることができる。
【0023】
菌類としては、キノコ、カビなどを用いることができ、藻類としてはワカメ、コンブ、テングサなどのいずれも用いることができる。
【0024】
胞子としては、シダ植物、コケ植物などを用いることができ、花粉としては、スギやヒノキなどの樹木花粉、花や草などの草花花粉などを用いることができる。
【0025】
粒子状生体材料の平均粒子径は、得ようとするビーズ状中空粒子の平均粒子径に基いて適宜選定されるが、一般に0.5〜10μmであるのが好ましく、1〜6μmであるのがより好ましく、3〜5μmであるのが特に好ましい。
【0026】
本発明において用いられる粒子状金属酸化物は、粒子状のシリカ、アルミナ、酸化亜鉛、チタニア、イットリア、酸化銅、酸化コバルト、ジルコニアから選ばれるものであり、特に粒子状のシリカ、アルミナ、ジルコニアを用いるのが好ましい。
【0027】
粒子状金属酸化物の平均粒子径は、粒子状生体材料の外周に粒子状金属酸化物の層が形成されるように、粒子状生体材料の平均粒子径よりも著しく小さいものであることが好ましく、通常は5〜400nmであり、より好ましくは5〜70nmであり、特に好ましくは5〜20nmである。
【0028】
本発明においては、先ず、上記の粒子状生体材料と粒子状金属酸化物との懸濁液を調製する。懸濁液の調製は、粒子状生体材料と粒子状金属酸化物とを水中で撹拌混合することにより容易に行うことができる。
【0029】
懸濁液中の粒子状生体材料/粒子状金属酸化物の混合比は固形分重量基準で1/0.5〜1/2であるのが好ましい。
混合比が1/2よりも小さく、生体材料の割合が少なく、金属酸化物の割合が多いと、得られる粒子の表面にビーズ状の孔が得られない。また混合比が1/0.5よりも大きく、生体材料の割合が多く、金属酸化物の割合が少ないと、得られる粒子が中空を形成しない。これに対して、混合比が1/0.5〜1/2であると、上述の問題がなく、所望のビーズ状中空粒子を得ることができる。
粒子状生体材料と粒子状金属酸化物との混合比は1/1〜1/2がより好ましい。
【0030】
本発明においては、上記で調製した粒子状生体材料と粒子状金属酸化物との懸濁液を、次いで2流体ノズルスプレードライヤーで噴霧乾燥処理する。
【0031】
二流体ノズルスプレードライヤーとは、高速気流で液体を粉砕微粒化し、低圧で微細な霧を噴霧し、加熱乾燥する装置であり、例えば大川原化工機(株)製の二流体ノズルスプレードライヤーを挙げることができる。
【0032】
二流体ノズルスプレードライヤーの運転条件の主なものを記載すると以下のとおりである。
熱風温度:180℃以上
雰囲気:大気
噴霧圧力:0.2〜0.4MPa
送液速度:5〜40g/分
【0033】
本発明においては、二流体ノズルスプレードライヤーを用いる懸濁液の噴霧乾燥処理により、粒子状生体材料をコアとし、粒子状金属酸化物層をシェルとする粉体を得ることができ、この粉体は、次に加熱処理することにより、コアの粒子状生体材料が熱分解して、貫通穴ないし非貫通穴からなる中空部を形成するとともに、シェルの粒子状金属酸化物層が焼結して強固な外周部を形成して、目的とするビーズ状の中空粒子を得ることができる。
【0034】
加熱処理の温度は、コアの粒子状生体材料の熱分解とシェルの粒子状金属酸化物層の焼結とが行われる温度とする必要があり、通常500〜900℃が好ましく、700〜900℃がより好ましい。
また加熱処理の時間は、加熱処理の温度にもよるが、通常1〜16時間が好ましく、2〜8時間がより好ましい。
【0035】
本発明により得られる中空粒子は、粒子表面に貫通穴ないし非貫通穴を有するビーズ状中空粒子であり、軽量、断熱性などの特性を有し、断熱材、摩擦材などに好ましく用いられる。
【0036】
[摩擦材]
次に、本発明の摩擦材について説明する。
本発明の摩擦材は、上述の本発明のビーズ状中空粒子を含むことを特徴とするものである。
【0037】
ビーズ中空粒子の平均粒子径は、1〜10μmであるのが好ましく、2〜6μmであるのがより好ましい。
ビーズ中空粒子の平均粒子径として、1〜10μmが好ましい理由は、1μm未満であると、粒子同士が凝集してしまい、撹拌時の分散性が劣り、摩擦材として十分な性能が発揮できず、一方、10μmを超えると、粒子が大きすぎて摩擦時に脱落してしまい、摩擦材として十分な性能が発揮できないのに対し、1〜10μmであると、このような問題がないからである。
【0038】
また、ビーズ中空粒子の配合割合は、1〜6容量%であるのが好ましく、2〜4容量%であるのがより好ましい。
ビーズ状中空粒子の配合割合として、1〜6容量%が好ましい理由は、6容量%を超えると、相手剤(ディスクローター)への攻撃性が増大し、一方、1容量%未満であると、ブレーキ鳴きの低減と材料強度の向上が期待できないのに対し、1〜6容量%であると、このような問題がないからである。
【0039】
次に、ビーズ状中空粒子成分とともに用いられる摩擦材用成分である摩擦調整材、バインダー樹脂および繊維基材について説明する。
(摩擦調整材)
摩擦材用組成物に含まれる摩擦調整材としては特に制限はなく、例えば潤滑材としての黒鉛やフッ化黒鉛;硫化スズ、二硫化タングステン等の金属硫化物;窒化硼素などを挙げることができ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、アルミナ、シリカ、マグネシア、ジルコニア、酸化鉄などの金属酸化物;ケイ酸ジルコニウム;炭化ケイ素;銅、黄銅、亜鉛、鉄などの金属粉末類やチタン酸塩粉末等の無機摩擦調整材、NBR、SBR、タイヤトレッドなどのゴムダストや、カシューダストなど有機ダスト等の有機摩擦調整材を挙げることができる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
さらには、摩擦調整材や補強材などとして、粘土鉱物を含有させることができる。この粘土鉱物としては、例えばカオリン、タルク、スメクタイト、バーミキュライト、雲母などが挙げられる。また、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化カルシウムなどを含有させることができる。
【0041】
(バインダー樹脂)
摩擦材用組成物に含まれるバインダー樹脂としては特に制限はなく、例えばポリベンゾオキサジン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂および縮合多環芳香族炭化水素樹脂などの熱硬化型樹脂を挙げることができ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
<ポリベンゾオキサジン樹脂>
このポリベンゾオキサジン樹脂は、分子内にジヒドロベンゾオキサジン環を有する熱硬化型樹脂であって、例えばフェノール性水酸基を有する化合物と、1級アミン類と、ホルムアルデヒド類とを縮合反応させることにより製造することができる。
【0043】
前記フェノール性水酸基を有する化合物としてはビスフェノールAを、1級アミン類としてはアニリンを、ホルムアルデヒド類としてはホルマリン、パラホルムアルデヒド、トリオキサンなどを好ましく用いることができる。
【0044】
<フェノール樹脂>
フェノール樹脂としては、ノボラック型、レゾール型のいずれであってもよいが、レゾール型の場合、硬化触媒として酸触媒を必要とするため、機器の腐食などの観点から、ノボラック型が好ましい。ノボラック型フェノール樹脂の場合、硬化剤としては、通常ヘキサメチレンテトラミンが用いられるが、前記のポリベンゾオキサジン樹脂と併用する場合には、ヘキサメチレンテトラミンなどの硬化触媒を用いなくてもよい。
このフェノール樹脂としては、ストレートフェノール樹脂や、ゴムなどによる各種変性フェノール樹脂など、いずれも用いることができる。
【0045】
<エポキシ樹脂>
エポキシ樹脂としては、得られる複合材料の性能の観点から、ビスフェノールのグリシジルエーテル型のエポキシ樹脂が好適である。
上記ビスフェノールとしては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、ビス(ヒドロキシフェニル)メタン(ビスフェノールF)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン(ビスフェノールS)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンなどが挙げられる。これらのエポキシ樹脂の場合、硬化剤としてアミン系硬化剤や、酸無水物系硬化剤などが用いられ、また硬化促進剤として、イミダゾール系硬化促進剤などが用いられる。
【0046】
<縮合多環芳香族炭化水素樹脂>
縮合多環芳香族炭化水素樹脂(通称コプナ樹脂)としては特に制限はなく、従来公知のコプナ樹脂を挙げることができる。具体的には、ナフタレン、アセナフテン、フェナントレン、アントラセン、ピレンおよびそれらのアルキル置換体などの縮合多環芳香族炭化水素と、架橋剤として少なくとも2個のヒドロキシメチル基またはハロメチル基で置換された芳香族炭化水素化合物、好ましくはジヒドロキシメチルベンゼン(キシリレングリコール)、ジヒドロキシメチルキシレン、トリヒドロキシメチルベンゼン、ジヒドロキシメチルナフタレンなどのヒドロキシメチル化合物とを、酸触媒の存在下で反応させて得られる縮合多環芳香族炭化水素樹脂を挙げることができる。
【0047】
このようなコプナ樹脂は、耐摩耗性及び耐熱性に優れる硬化物を与える熱硬化型樹脂である。しかし、前記コプナ樹脂は、硬化触媒として酸触媒を用いるため、機器の腐食などの問題がある。したがって、酸触媒を用いず、ヘキサメチレンテトラミンなどを硬化触媒とするフェノール核を導入したコプナ樹脂が好ましい。
【0048】
(繊維基材)
摩擦材用組成物に含まれる繊維基材としては、特に制限はなく、有機繊維および無機繊維のいずれも用いることができる。有機繊維としては、高強度の芳香族ポリアミド繊維(アラミド繊維;デュポン社製、商品名「ケブラー」など)、耐炎化アクリル繊維、ポリイミド繊維、ポリアクリレート繊維、ポリエステル繊維などを挙げることができる。一方、無機繊維としては、チタン酸カリウム繊維、バサルト繊維、炭化珪素繊維、ガラス繊維、炭素繊維、ワラストナイトなどの他、アルミナシリカ系繊維などのセラミック繊維、ステンレス繊維、銅繊維、黄銅繊維、ニッケル繊維、鉄繊維などの金属繊維等を挙げることができる。これらの繊維状物質は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
(摩擦材の製造方法)
本発明の摩擦材は、例えば次のような方法で製造することができる。
前述のビーズ状中空粒子を摩擦調整材、バインダー樹脂および繊維基材とともに、混合して、摩擦材用組成物を得たのち、常温で10〜30MPa程度にて5〜30秒間程度予備成形を行い、その後、温度130〜190℃程度、圧力10〜100MPa程度の条件で1〜30分間程度加熱成形を行う。
【0050】
次に、得られた成形体を必要に応じて160〜300℃程度の温度で1〜10時間程度アフターキュア処理を行ったのち、所定の寸法に研磨することにより、本発明の摩擦材を製造することができる。
このようにして得られた本発明の摩擦材は、ブレーキ鳴きの低減と材料強度の向上を両立したブレーキ用摩擦材として提供することができる。
【0051】
このビーズ状中空材料の形状により、摩擦材の圧縮熱成形時の圧力を受けても応力緩和することで破壊することなく形状を維持して、その中空部位の存在によって減衰効果を発揮することでブレーキ鳴きを低減する。また、中空の中にマトリックス樹脂が入り込むことで、楔効果によって摩擦材の材料強度が向上すると考えられる。
【実施例】
【0052】
(本発明のビーズ状中空粒子およびその製造方法の実施例)
以下、実施例1、2により、本発明のビーズ状中空粒子およびその製造方法をさらに説明するが、本発明のビーズ状中空粒子およびその製造方法は実施例1、2に限定されるものではない。
【0053】
なお、ビーズ状中空粒子の平均粒子径は、下記の方法にしたがって測定した。
粉体粒子の平均粒子径は、レーザー回折散乱法式により、粒度分布装置(ベックマン・コールター(株)製、機種名「LS 13 320」)を用いて行った。ここで、平均粒子径は、積算粒度分布曲線における50%粒径を意味する。
【0054】
実施例1
(1)粒子状生体材料として、パン酵母(生イースト、カネカ(株)製、平均粒子径5μm)を、粒子状金属酸化物として、コロイダルシリカ(日産化学工業(株)製、スノーテックス20、平均粒子径20nm)を用い、パン酵母とコロイダルシリカを固形分重量比で1/2となるように水中で混合し、10重量%の酵母−コロイダルシリカ水懸濁液を調製した。
【0055】
(2)上記(1)で得られた酵母−コロイダルシリカ水懸濁液を二流体ノズルスプレードライヤー(大川原化工機(株)製)で噴霧乾燥処理し、酵母をコア、コロイダルシリカ層をシェルとする粉体を得た。
二流体ノズルスプレードライヤーによる噴霧乾燥処理の諸条件は、以下のとおりである。
熱風温度:180℃
噴霧圧力:0.2MPa
送液速度:20g/分
雰囲気:大気
【0056】
(3)上記(2)で得られた、酵母をコア、コロイダルシリカ層をシェルとする粉体を大気中700℃で2時間加熱処理して、コアの酵母の熱分解とシェルのコロイダルシリカ層の焼結とを行って、中空粒子を得た。得られた中空粒子の電子顕微鏡写真(倍率10,000)を図1に示す。図1より、得られた中空粒子は、表面に貫通穴ないし非貫通穴を有するビーズ状の中空粒子であることが明らかである。ビーズ状中空粒子の平均粒子径は、5μmであった。
【0057】
比較例1
(1)粒子状生体材料として、パン酵母(生イースト、カネカ(株)製、平均粒子径5μm)を、金属アルコキシドとして、テトラエトキシシランを用い、酵母3gを水4gおよびエタノール1mlと混合したのち、テトラエトキシシラン55mlを加えて1時間攪拌することにより、酵母表面にテトラエトキシシランの加水分解物を析出させて、酵母をコア、テトラエトキシシラン加水分解物層をシェルとする粉体を得た。
【0058】
(2)上記(1)で得られた粉体を次に700℃で2時間加熱処理することにより、コア酵母の熱分解とシェルのテトラエトキシシラン加水分解物層の焼結とを行って、中空粒子を得た。得られた中空粒子の電子顕微鏡写真(倍率10,000)を図2に示す。図2より、得られた中空粒子は、ほぼ球状であり、球状の粒子の周辺に小さい粒子が凝集してしまったり(原材料同士の凝集)、加熱処理の過程で原材料の一部が剥離し、中央の破片状のものが形成してしまっており、実施例1で得られた中空粒子とは明らかに形状が異っていた。
【0059】
実施例2
(1)粒子状生体材料として、パン酵母(生イースト、カネカ(株)製、平均粒子径5μm)を、粒子状金属酸化物として、アルミナゾル(日産化学工業(株)製、アルミナゾル−200、羽毛状ナノ粒子、平均粒子径10×100nm(繊維状粒子の短径×長径))を用い、パン酵母とアルミナゾルを固形分重量比で1/2となるように混合し、3重量%の酵母−アルミナゾル水懸濁液を調製した。
【0060】
(2)上記(1)で得られた酵母−アルミナゾル水懸濁液を二流体ノズルスプレードライヤー(大川原化工機(株)製)で噴霧乾燥処理し、酵母をコア、アルミナゾル層をシェルとする粉体を得た。
二流体ノズルスプレードライヤーによる噴霧乾燥処理の諸条件は、実施例1(2)のとおりである。
【0061】
(3)上記(2)で得られた、酵母をコア、アルミナゾル層をシェルとする粉体を大気中700℃で2時間加熱処理して、コアの酵母の熱分解とシェルのアルミナゾル層の焼結とを行って、中空粒子を得た。得られた中空粒子の電子顕微鏡写真(倍率10,000)を図3に示す。図3より、得られた中空粒子は、表面に貫通穴ないし非貫通穴を有するビーズ状の中空粒子であることが明らかである。ビーズ状中空粒子の平均粒子径は、3μmであった。
【0062】
比較例2
(1)粒子状生体材料の代わりに、NBRラテックス(日本ゼオン(株)製 Nipol 1571CL、平均粒子径100nm)を、粒子状金属酸化物として、アルミナゾル(日産化学工業(株)製、アルミナゾル−200、羽毛状ナノ粒子、平均粒子径10×100nm(繊維状粒子の短径×長径))を用い、NBRラテックスとアルミナゾルを固形分重量比で1/2となるように水中で混合し、3重量%のNBRラテックス−アルミナゾル水懸濁液を得た。
【0063】
(2)上記(1)で得られたNBRラテックス−アルミナゾル水懸濁液を二流体ノズルスプレードライヤー(大川原化工機(株)製)で噴霧乾燥処理し、NBRラテックスをコア、アルミナゾル層をシェルとする粉体を得た。
二流体ノズルスプレードライヤーによる噴霧乾燥処理の諸条件は、実施例1(2)のとおりである。
【0064】
(3)上記(2)で得られたNBRラテックスをコア、コロイダルアルミナ層をシェルとする粉体を大気中700℃で2時間加熱処理をした。しかし、700℃加熱の昇温時にNBRラテックスが流動してしまうため、粒子の形を保たず、中空粒子が得られなかった。
【0065】
(本発明の摩擦材の実施例)
次に、実施例3、4により、本発明摩擦材をさらに説明するが、本発明の摩擦材は実施例3、4に限定されるものではない。
【0066】
なお、摩擦材の諸特性は、下記の方法にしたがって測定した。
(1)ブレーキ鳴き試験
摩擦材を実車に装着し、JASO−C406−82に準拠して擦り合わせを行い、車速30〜80km/h(8.3〜22.2m/s)、減速度0.49〜7.84m/s、摩擦温度20〜200℃、絶対湿度5〜15g/mを組合わせた試験コードで試験を行い、ブレーキ鳴き発生の比較をした。評価は、発生頻度に音圧レベルの重み付け(W)をした以下に示すノイズ係数を求めることで行った。
ノイズ係数:N=Σ(W×N
ここで、Wは表1に示すノイズの重み付け、Nはノイズ発生率(ある閾値以上の音圧が発生した回数/全制動回数)を示す。
【0067】
【表1】

【0068】
(2)摩擦材引張強度試験
成形した摩擦材から30mm×17mm×4mm(縦×横×高さ)の試験片を切り出し、JIS K 7713に準拠して摩擦材の引張強度を求めた。
【0069】
実施例3
実施例1で得られたビーズ状中空シリカ粒子をフェノール樹脂(ヘキサメチレンテトラミンを10重量%含有する。)、アラミドパルプ、セラミック繊維(チタン酸カリウム繊維)、金属繊維(銅繊維)、硫酸バリウム、有機ダスト(カシューダスト)、黒鉛とともに、表2に示す割合で混合して摩擦材用組成物を得た。表2に示すように、ビーズ状中空粒子の配合割合は、4容量%であった。
【0070】
次に、得られた摩擦材用組成物を予備成形(20MPa,10秒保持)後、熱成形型へ投入し、150℃、40MPaにて5分間加熱圧縮成形を行って成形体を得た。
その後、得られた上記成形体を250℃にて3時間熱処理したのち、所定の寸法に加工して、摩擦材の鳴き試験、引張強度試験を行った。得られた試験結果を表2に示す。
【0071】
実施例4
実施例1で得られたビーズ状中空シリカ粒子の代わりに、実施例2で得られたビーズ状中空アルミナ粒子を用いた以外は、実施例3と同様にして成形体を得た。得られた成形体の試験結果を表2に示す。
【0072】
比較例3
ビーズ状中空粒子の代わりに、球状中空材料であるアルミナシリケートバルーン(日本フィライト(株)製フィライト、粒子径分布5〜300μm)を用いた以外は、実施例3と同様にして成形体を得た。得られた成形体の試験結果を表2に示す。
【0073】
比較例4
ビーズ状中空粒子の代わりに、中実材料である微粒アルミナ(日本軽金属(株)製 微粒アルミナA31、平均粒子径5μm)を用いた以外は、実施例3と同様にして成形体を得た。得られた成形体の試験結果を表2に示す。
【0074】
【表2】

【0075】
表2に示すように、ビーズ状中空粒子を含む本発明の摩擦材は、ブレーキ鳴きを低減させ、材料強度を向上させることができることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明によれば、粒子状生体材料と粒子状金属酸化物との懸濁液を二流体ノズルスプレードライヤーで噴霧乾燥処理し、得られた、粒子状生体材料をコア、粒子状金属酸化物層をシェルとする粉体を加熱処理するという簡便な方法によりビーズ状中空粒子を得ることができる。得られたビーズ状中空粒子は、断熱材、摩擦材などの添加剤として好ましく用いられ、特に摩擦材に添加されたときに、ブレーキ鳴きを低減させるとともに材料強度を向上させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物を主成分とし、表面に貫通穴ないし非貫通穴を有する異形状の粒子からなることを特徴とするビーズ状中空粒子。
【請求項2】
粒子状生体材料と粒子状金属酸化物との懸濁液を二流体ノズルスプレードライヤーで噴霧乾燥処理し、得られた、粒子状生体材料をコア、粒子状金属酸化物層をシェルとする粉体を加熱処理することを特徴とする請求項1に記載のビーズ状中空粒子の製造方法。
【請求項3】
粒子状生体材料が酵母、でんぷん、菌類、藻類、胞子、花粉から選ばれる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
粒子状金属酸化物がシリカ、アルミナ、酸化亜鉛、チタニア、イットリア、酸化銅、酸化コバルト、ジルコニアから選ばれる、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
粒子状生体材料/粒子状金属酸化物の混合比が固形分重量基準で1/0.5〜1/2である、請求項2〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
加熱処理を500〜900℃の温度で行う、請求項2〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
請求項1に記載のビーズ状中空粒子を含むことを特徴とする摩擦材。
【請求項8】
ビーズ状中空粒子の平均粒子径が1〜100μmである、請求項7に記載の摩擦材。
【請求項9】
ビーズ状中空粒子の配合割合が1〜6容量%である、請求項7または8に記載の摩擦材。
【請求項10】
請求項2〜6のいずれか1項に記載の方法で製造されたビーズ状中空粒子を含むことを特徴とする摩擦材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−102226(P2011−102226A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−100790(P2010−100790)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】