説明

ビーム照射装置およびレーザレーダ

【課題】投射窓によるレーザ光の光学特性の劣化を抑制可能なビーム照射装置およびレーザレーダを提供する。
【解決手段】ビーム照射装置は、レーザ光を出射するレーザ光源21と、目標領域においてレーザ光を走査させるミラーアクチュエータ23と、ミラーアクチュエータ23のミラー150により反射されたレーザ光が透過する投射窓50と、を備える。投射窓50には、表面反射を抑制するための反射防止膜51が配され、反射防止膜51は、少なくともレーザ光の走査範囲に対応するレーザ光の入射角度(0〜20°)の範囲において、反射率が下限値を維持するような角度依存性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目標領域にレーザ光を照射するビーム照射装置および目標領域にレーザ光を照射したときの反射光をもとに目標領域の状況を検出するレーザレーダに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、走行時の安全性を高めるために、レーザレーダが家庭用乗用車等に搭載されている。一般に、レーザレーダは、レーザ光を目標領域内でスキャンさせ、各スキャン位置における反射光の有無から、各スキャン位置における障害物の有無を検出する。さらに、各スキャン位置におけるレーザ光の照射タイミングから反射光の受光タイミングまでの所要時間をもとに、各スキャン位置における障害物までの距離が検出される。
【0003】
レーザレーダには、目標領域においてレーザ光を走査させるために、ビーム照射装置が搭載される。この場合、レーザ光をスキャンさせるための構成として、レーザ光が入射するミラーを2軸駆動するアクチュエータ(特許文献1)や、レーザ光が透過するレンズを駆動するアクチュエータ(特許文献2)を用いることができる。この他、ポリゴンミラーを用いてレーザ光を走査させることもできる。
【0004】
目標領域には、所定の形状にて、レーザ光が照射される。ビーム照射装置には、レーザ光を所望の形状に整形するためのレンズが配置される。レーザ光は、なるべく、その境界がクリアな状態で、すなわち、境界部分で急峻に強度が減少するような状態で、目標領域に照射されるのが望ましい。レーザ光を整形するためのレンズは、このように、目標領域においてレーザ光の光学特性(ビームプロファイル)が良好となるよう設計される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−14698号公報
【特許文献2】特開平11−83988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ビーム照射装置は、通常、筐体内に収容され、外部から遮蔽される。筐体には、使用するレーザ光の波長において透明な投射窓が配置され、この投射窓からレーザ光が目標領域に投射される。このため、目標領域におけるレーザ光の特性は、投射窓の特性に少なからず影響を受ける。投射窓の特性が悪いと、ビーム整形用のレンズの特性を高めても、目標領域におけるレーザ光の光学特性(ビームプロファイル)が劣化する可能性がある。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みて為されたものであり、投射窓によるレーザ光の光学特性の劣化を抑制可能なビーム照射装置およびレーザレーダを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の局面は、ビーム照射装置に関する。第1の局面に係るビーム照射装置は、レーザ光を出射するレーザ光源と、目標領域において前記レーザ光を走査させるアクチュエータと、前記アクチュエータを経由した前記レーザ光が透過する出射窓と、を備える。前記出射窓に、表面反射を抑制するための反射抑制手段を配されている。
【0009】
本発明の第2の局面は、レーザレーダに関する。第2の局面に係るレーザレーダは、上
記第1の局面に係るビーム照射装置と、目標領域から反射されたレーザ光を受光する受光部とを有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、投射窓によるレーザ光の光学特性の劣化を抑制可能なビーム照射装置およびレーザレーダを提供することができる。
【0011】
本発明の効果ないし意義は、以下に示す実施の形態の説明により更に明らかとなろう。ただし、以下に示す実施の形態は、あくまでも、本発明を実施化する際の一つの例示であって、本発明は、以下の実施の形態に記載されたものに何ら制限されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施の形態に係るレーザレーダの構成を示す図である。
【図2】実施の形態に係るミラーアクチュエータの構成を示す図である。
【図3】実施の形態に係るミラーアクチュエータの組み立て過程を示す図である。
【図4】実施の形態に係るミラーアクチュエータの組み立て過程を示す図である。
【図5】実施の形態にビーム照射装置の構成を示す図である。
【図6】実施の形態に係るサーボ光学系の構成および作用を説明する図である。
【図7】実施の形態に係る投射窓の構成および反射防止膜の特性を示す図である。
【図8】実施の形態に係る反射防止膜の特性を示す図である。
【図9】実施の形態に係る投射窓の特性を検証した測定結果を示す図である。
【図10】実施の形態に係る投射窓の特性の測定方法を示す図である。
【図11】変更例に係る投射窓の構成を示す図である。
【図12】変更例に係る投射窓の周期構造の作用を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0014】
図1は、実施の形態に係るレーザレーダ1の構成を模式的に示す図である。同図(a)は、レーザレーダ1の内部を上面から透視した図、同図(b)は、投射窓50と受光窓60を装着する前のレーザレーダ1の正面図である。
【0015】
同図(a)を参照して、レーザレーダ1は、筐体10と、投射光学系20と、受光光学系30と、回路ユニット40と、投射窓50と、受光窓60を備える。本実施の形態において、筐体10と、投射光学系20と、回路ユニット40の投射に関する回路部と、投射窓50とからなる部分が、特許請求の範囲におけるビーム照射装置に相当する。本実施の形態では、投射に関する構成(ビーム照射装置)と受光に関する構成が一つの筐体10に収容されているが、これら2つの構成が別々の筐体に収容され、両構成を電気的に接続することで、レーザレーダ1が構成されても良い。
【0016】
筐体10は、立方体形状をしており、内部に、投射光学系20と、受光光学系30と、回路ユニット40とを収容する。同図(b)に示す如く、筐体10の正面には、開口11、13が形成され、これら開口11、13の周囲には、投射窓50と受光窓60を嵌め込むための凹部12、14がそれぞれ形成されている。投射窓50と受光窓60は、それぞれ、その周囲を凹部12、14に嵌め込んで接着固定することにより、筐体10の正面に装着される。
【0017】
投射光学系20は、レーザ光源21と、ビーム整形レンズ22と、ミラーアクチュエータ23とを備える。
【0018】
レーザ光源21は、波長900nm程度のレーザ光を出射する。
【0019】
ビーム整形レンズ22は、レーザ光源21から出射されたレーザ光が、目標領域において所定の形状となるよう、レーザ光を収束させる。たとえば、目標領域(本実施の形態では、ビーム照射装置のビーム出射口から前方100m程度の位置に設定される)におけるビーム形状が、縦2m、横0.2m程度の楕円形状となるように、ビーム整形レンズ22が設計される。
【0020】
ミラーアクチュエータ23は、ビーム整形レンズ22を透過したレーザ光が入射するミラー150と、このミラー150を2つの軸の周りに回転させるための機構とを備える。ミラー150が回転することにより、目標領域においてレーザ光が走査される。ミラーアクチュエータ23の詳細ついては、追って、図2ないし6を参照して説明する。
【0021】
受光光学系30は、フィルタ31と、受光レンズ32と、光検出器33とを備える。フィルタ31は、レーザ光源21から出射されるレーザ光の波長帯域の光のみを透過するバンドパスフィルタである。受光レンズ32は、目標領域から反射された光を集光する。光検出器33は、APD(アバランシェ・フォトダイオード)またはPINフォトダイオードからなり、受光光量に応じた大きさの電気信号を回路ユニット40に出力する。
【0022】
回路ユニット40は、CPUやメモリ等を備え、レーザ光源21およびミラーアクチュエータ23を制御する。また、回路ユニット40は、光検出器33からの信号に基づいて、目標領域における障害物の有無および障害物までの距離を測定する。具体的には、目標領域における所定の走査位置において、レーザ光源21からレーザ光が出射される。このときに光検出器33から信号が出力されると、この走査位置に障害物が存在することが検出される。また、この走査位置においてレーザ光が出射されたタイミングと、光検出器33から信号が出力されたタイミングの時間差から、この障害物までの距離が測定される。
【0023】
投射窓50は、均一な厚みを有する透明な平板からなっている。投射窓50は、ミラーアクチュエータ23側から入射されたレーザ光が投射窓50を透過する際に、レーザ光の光学特性が劣化するのを抑制可能に構成されている。具体的には、投射窓50は、透明性の高い材料からなっており、また、入射面と出射面での散乱を防止するために、面粗度とヘイズ値が低く抑えられている。また、投射窓50における内面反射を抑制するために、入射面と出射面に反射防止膜(ARコート)が付されている。
【0024】
投射窓50の材料として、たとえば、シクロオレフィンポリマーや、ポリシクロオレフィンポリマーが用いられる。たとえば、日本ゼオン株式会社の商品名“ゼオネックス480R”、“ゼオネックスE48R”、“ゼオネックス330R”、“ゼオノア1430R”等が、投射窓50の材料として用いられ得る。
【0025】
また、投射窓50は、レーザ光の散乱を防止するために、上記のように、レーザ光の入射面と出射面の面粗度およびヘイズ値が小さくなるように形成される。入射面または出射面におけるレーザ光の散乱は、入射面または出射面の起伏の高さがレーザ光の波長の1/2のときに最大となり、起伏の高さが波長の1/2より小さくなると、急激に小さくなる。よって、本実施の形態では、入射面と出射面の面粗度(Rmax)が、900nm/2=450nmよりも小さく設定され、たとえば、300nm以下に設定される。また、ヘイズ値は、2%以下に設定される。
【0026】
このように投射窓50を構成することで、レーザ光が投射窓50を透過する際に、レーザ光の光学特性が劣化するのを抑制することができる。
【0027】
さらに、本実施の形態では、投射窓50の入射面と出射面に反射防止膜(ARコート)が付されている。これにより、レーザ光の光学特性の劣化がより効果的に抑制される。反射防止膜(ARコート)の特性およびその効果については、追って、図7ないし図10を参照して説明する。
【0028】
なお、本実施の形態では、受光窓60も、投射窓50と同様に構成されている。これにより、目標領域から反射された微弱なレーザ光を、より効率的に、光検出器33に導くことができる。
【0029】
図2は、本実施の形態に係るミラーアクチュエータ23の構成を示す分解斜視図である。
【0030】
ミラーアクチュエータ23は、チルトユニット110と、パンユニット120と、マグネットユニット130と、ヨークユニット140と、ミラー150と、透過板160とを備えている。
【0031】
チルトユニット110は、支軸111と、チルトフレーム112と、2つのチルトコイル113とを備えている。支軸111には、両端部近傍に溝111aが形成されている。これら溝111aには、Eリング117a、117bが嵌め込まれる。
【0032】
チルトフレーム112には、左右に、チルトコイル113を装着するためのコイル装着部112aが形成されている。また、チルトフレーム112には、支軸111を嵌め込むための溝112bと、上下に並ぶ2つの孔112cが形成されている。
【0033】
支軸111は、両端に軸受け116a、116b、Eリング117a、117bおよびポリスライダーワッシャ118が取り付けられた状態で、チルトフレーム112に形成された溝112bに嵌め込まれ、接着固定される。さらに、チルトフレーム112の2つの孔112cに、それぞれ、上下から軸受け112dが嵌め込まれる。これにより、図3(a)に示すように、チルトユニット110の組み立てが完了する。なお、図3(a)には、支軸111に、軸受け116a、116bと、Eリング117a、117bと、3つのポリスライダーワッシャ118が装着された状態が示されている。
【0034】
完成したチルトユニット110には、後述の如くして、パンユニット120が装着される。その後、チルトユニット110は、軸受け116a、116bと、Eリング117a、117bと、ポリスライダーワッシャ118と、軸固定部材142を用いて、後述の如く、ヨーク141に取り付けられる。
【0035】
図2に戻り、パンユニット120は、パンフレーム121と、支軸122と、パンコイル123を備えている。パンフレーム121には、凹部121aを挟んで上板部121bと下板部121cが形成されている。これら上板部121bと下板部121cには、支軸122を通すための孔121dが上下に並ぶように形成されている。また、上板部121bと下板部121cの前面には、ミラー150を嵌め込むための段部121eが形成されている。
【0036】
さらに、下板部121cからは、下方向に足部121fが形成され、この足部121fに、透過板160を嵌め込むための凹部121gが形成されている。透過板160は、凹部121gに下方向から嵌め込まれ、透過板固定金具161で透過板160がパンフレーム121の足部121fに固定される。支軸122の上端には、バランサ122dが装着されている。
【0037】
マグネットユニット130は、フレーム131と、2つのパンマグネット133と、8つのチルトマグネット132とを備えている。フレーム131は、前側に凹部131aを有する形状となっている。フレーム131の上板部131bには、前後方向に、2つの切り欠き131cが形成され、さらに、中央に、ネジ穴131dが形成されている。8つのマグネット132は、フレーム131の左右の内側面に、上下2段に分けて装着されている。また、2つのマグネット133は、図示の如く、フレーム131の内側面に、前後方向に傾くように装着されている。
【0038】
ヨークユニット140は、ヨーク141と、軸固定部材142を備えている。ヨーク141は、磁性部材からなっている。ヨーク141には、左右に壁部141aが形成され、これら壁部141aの下端には、チルトユニット110の支軸111を装着するための凹部141bが形成されている。ヨーク141の上部には上下に貫通する2つのネジ穴141cが形成され、さらに、マグネットユニット133のネジ穴131dに対応する位置に、ネジ穴141dが形成されている。2つの壁部141aの内側面間の距離は、支軸111の2つの溝111a間の距離よりも大きくなっている。
【0039】
軸固定部材142は、可撓性を有する金属性の薄板部材である。軸固定部材142の前側には、板ばね部142a、142bが形成され、これら板ばね部142a、142bの下端には、それぞれ、チルトユニット110の軸受け116a、116bの脱落を規制するための受け部142c、142dが形成されている。また、軸固定部材142の上板部には、ヨーク141側の2つのネジ穴141cに対応する位置にそれぞれ孔142eが形成され、さらに、ヨーク141側のネジ穴141dに対応する位置に孔142fが形成されている。
【0040】
ミラーアクチュエータ23の組み立て時には、上記の如くして、図3(a)に示すチルトユニット110が組み立てられる。その後、チルトフレーム112がパンフレーム121の凹部121a内に収容される。このとき、2つの軸受け112dおよび3つのポリスライダーワッシャ112eと、パンフレーム121の孔121dとが上下に並ぶように、パンフレーム121が位置づけられる。そして、その状態で、2つの軸受け112dとパンフレーム121の孔121dに、支軸122が通され、支軸122がパンフレーム121に接着剤により固定される。これにより、図3(b)に示す構成体が形成される。この状態で、パンフレーム121は、支軸122の周りに回動可能となり、また、支軸122に沿って上下に僅かに移動可能となる。
【0041】
こうしてパンユニット120が装着された後、パンフレーム121の段部121eにミラー150が嵌め込まれて固定される。その後、チルトユニット110の支軸111の両端に装着された軸受け116a、116bを、図2に示すヨーク141の凹部141bに嵌め込む。そして、この状態で、軸受け116a、116bが凹部141a、141bから脱落しないように、軸固定部材142をヨーク141に装着する。すなわち、受け部142cが軸受け116aを下から支え、且つ、受け部142dが軸受け116bを前方から挟むようにして軸固定部材142をヨーク141に装着する。この状態で、軸固定部材142の2つの孔142eを介して2つのネジ143をヨーク141のネジ穴141cに螺着する。これにより、図3(b)に示す構成体がヨークユニット140に装着される。
【0042】
こうして、図4(a)に示す構成体が完成する。この状態で、チルトフレーム112は、パンフレーム121と一体的に、支軸111の周りに回動可能となる。
【0043】
こうして組み立てられた図4(a)の構成体は、ヨーク141の2つの壁部141aが、それぞれ、マグネットユニット130側のフレーム131の切り欠き131cに挿入されるようにして、マグネットユニット130に装着される。そして、この状態で、軸固定
部材142の孔142fを介して、ネジ144が、ヨーク141のネジ穴141dとマグネットユニット130のネジ穴131dに螺着される。これにより、図4(a)に示す構成体が、マグネットユニット130に固着される。こうして、図4(b)に示すように、ミラーアクチュエータ23の組み立てが完了する。
【0044】
図4(b)に示す組み立て状態において、パンフレーム121が支軸122を軸として回動すると、これに伴ってミラー150が回動する。また、チルトフレーム112が支軸111を軸として回動すると、これに伴ってパンユニット120が回動し、パンユニット120と一体的にミラー150が回動する。このように、ミラー150は、互いに直交する支軸111、122によって回動可能に支持され、チルトコイル113およびパンコイル123への通電によって、支軸111、122の周りに回動する。このとき、パンユニット120に装着された透過板160も、ミラー150の回動に伴って回動する。
【0045】
なお、バランサ122dは、図3(b)に示す構成体が、支軸111を軸として回動するとき、かかる回動がバランス良く行われるよう調整するためのものである。かかる回動のバランスは、バランサ122dの重さによって調整される。この他、バランサ122dが上下に変位可能であれば、上下方向の位置を微調整することにより、回動のバランスを調整可能である。
【0046】
図4(b)に示すアセンブル状態において、8個のマグネット132は、チルトコイル113に電流を印加することにより、チルトフレーム112に支軸111を軸とする回動力が生じるよう、配置および極性が調整されている。したがって、コイル113に電流を印加すると、コイル113に生じる電磁駆動力によって、チルトフレーム112が、支軸111を軸として回動し、これに伴って、ミラー150と透過板160が回動する。
【0047】
また、図4(b)に示すアセンブル状態において、2個のマグネット133は、パンコイル123に電流を印加することにより、パンフレーム121に支軸122を軸とする回動力が生じるよう、配置および極性が調整されている。したがって、パンコイル123に電流を印加すると、パンコイル123に生じる電磁駆動力によって、パンフレーム121が、支軸122を軸として回動し、これに伴って、ミラー150と透過板160が回動する。
【0048】
図5は、ミラーアクチュエータ23が装着された状態の光学系の構成を示す図である。
【0049】
図5において、500は、光学系を支持するベースである。ベース500には、ミラーアクチュエータ23の設置位置に開口503aが形成され、この開口503aに透過板160が挿入されるようにして、ミラーアクチュエータ23がベース500上に装着されている。
【0050】
ベース500の上面には、レーザ光源21と、ビーム整形レンズ22が配置されている。レーザ光源21は、ベース500の上面に配されたレーザ光源用の回路基板400に装着されている。
【0051】
レーザ光源21から出射されたレーザ光は、ビーム整形レンズ22によって水平方向および鉛直方向の収束作用を受け、目標領域において所定の形状に整形される。ビーム整形レンズ22を透過したレーザ光は、ミラーアクチュエータ23のミラー150に入射し、ミラー150によって目標領域に向かって反射される。ミラーアクチュエータ23によってミラー150が駆動されることにより、レーザ光が目標領域内においてスキャンされる。
【0052】
ミラーアクチュエータ23は、ミラー150が中立位置にあるときに、ビーム整形レンズ22からの走査レーザ光がミラー150のミラー面に対し水平方向において45度の入射角で入射するよう配置されている。なお、「中立位置」とは、ミラー面が鉛直方向に対し平行で、且つ、走査レーザ光がミラー面に対し水平方向において45度の入射角で入射するときのミラー150の位置をいう。
【0053】
ベース500の上面には、回路基板400の他、ミラーアクチュエータ23の背後に、ミラーアクチュエータ23のコイル113、123に駆動信号を供給するための回路基板(図示せず)が配置されている。また、ベース500の下面には、回路基板300が配置され、さらに、ベース500の裏面と側面にも回路基板301、302が配置されている。これら回路基板は、図1(a)の回路ユニット40に含まれる。
【0054】
図6(a)は、ベース500を裏面側から見たときの一部平面図である。同図(a)には、ベース500の裏側のうちミラーアクチュエータ23が装着された位置の近傍が示されている。
【0055】
図示の如く、ベース500の裏側周縁には、壁501、502が形成されており、壁501、502よりも中央側は、壁501、502よりも一段低い平面503となっている。壁501には、半導体レーザ303を装着するための開口が形成されている。この開口に半導体レーザ303を挿入するようにして、半導体レーザ303が装着された回路基板301が壁501の外側面に装着されている。他方、壁502の近傍には、PSD(Position Sensitive Detector)308が装着された回路基板302が装着されている。
【0056】
ベース500裏側の平面503には、取り付け具307によって集光レンズ304と、アパーチャ305と、ND(ニュートラルデンシティ)フィルタ306が装着されている。さらに、この平面503には開口503aが形成されており、この開口503aを介して、ミラーアクチュエータ23に装着された透過板160がベース500の裏側に突出している。ここで、透過板160は、ミラーアクチュエータ23のミラー150が中立位置にあるときに、2つの平面が、鉛直方向に平行で、且つ、半導体レーザ303の出射光軸に対し45度傾くように位置づけられる。
【0057】
半導体レーザ303から出射されたレーザ光(以下、「サーボ光」という)は、集光レンズ304を透過した後、アパーチャ305によってビーム径が絞られ、さらにNDフィルタ301によって減光される。その後、サーボ光は、透過板160に入射し、透過板160によって屈折作用を受ける。しかる後、透過板160を透過したサーボ光は、PSD308によって受光され、PSD308から、受光位置に応じた位置検出信号が出力される。
【0058】
図6(b)は、透過板160の回動位置がPSD308によって検出されることを模式的に示す図である。
【0059】
サーボ光は、レーザ光軸に対し傾いて配置された透過板160により屈折作用を受ける。ここで、透過板160が破線の位置から矢印方向に回動すると、サーボ光の光路が図中の点線から実線のように変化し、光検出器308上におけるサーボ光の受光位置が変化する。これにより、光検出器308にて検出されるサーボ光の受光位置によって、透過板160の回動位置を検出することができる。そして、透過板160の回動位置をもって、目標領域における走査レーザ光の走査位置を検出できる。
【0060】
レーザ光が目標領域を走査するとき、図1(a)の回路ユニット40は、半導体レーザ303を常時発光させる。こうして、回路ユニット40は、PSD308から入力される
検出信号に基づいて、目標領域におけるレーザ光の走査位置を検出する。そして、その検出結果に基づき、レーザ光が目標領域上の所定の軌道を追従するように、ミラーアクチュエータ23を制御する。具体的には、回路ユニット40は、PSD308の受光面上に設定された目標軌道をサーボ光が追従するよう、ミラーアクチュエータ23を制御する。
【0061】
さらに、回路ユニット40は、レーザ光の走査位置が所定の位置に到達したタイミングでレーザ光源21からレーザ光を発光させる。そして、そのときの光検出器33からの信号に基づいて、上記のように、当該走査位置における障害物の有無を検出し、さらに、障害物までの距離を測定する。
【0062】
本実施の形態において、目標領域を走査するレーザ光の振り角は、水平方向に±20度、鉛直方向に±5度である。したがって、投射窓50に入射するレーザ光の入射角は、最大で20度程度になる。本実施の形態では、入射角が20度までの範囲において反射率が抑制されるように、投射窓50の入射面と出射面に反射防止膜が形成されている。
【0063】
図7は、投射窓50に配された反射防止膜51の構成を説明する図である。
【0064】
同図(a)に示すように、投射窓50には、入射面と出射面にそれぞれ反射防止膜51が形成されている。反射防止膜51は、多層構造となっており、入射するレーザ光の波長と入射角に応じて、反射防止膜51の特性が変化する。すなわち、反射防止膜51の各層の厚み等を変えることで、反射を抑制可能な波長および入射角の範囲が変化する。
【0065】
図8は、波長900nm程度のレーザ光に対して反射率が低下するように反射防止膜51を形成した場合の反射防止膜51の特性を例示するものである。同図に示す特性は、投射窓50の入射面と出射面に反射防止膜51を形成したときの投射窓50の反射率特性を示している。なお、投射窓50は、日本ゼオン株式会社の商品名“ゼオネックス480R”により形成されている。投射窓50の厚みは2mmである。
【0066】
同図の特性では、本実施の形態において用いられるレーザ光の波長900nmの近傍で、入射角0°〜25°の範囲の反射率が、0.15%程度に抑えられている。また、レーザ光源21の温度上昇によりレーザ光の波長が900nmから長くなっても、入射角0°〜25°の範囲の反射率は、一様に低下する。
【0067】
よって、図8に示す特性を持つ反射防止膜51を投射窓50の入射面と出射面に形成することで、レーザ光の振り角(0°±20°)の範囲において、投射窓50における内面反射を抑制することができ、目標領域におけるレーザ光のビームプロファイルを良好に保つことができる。
【0068】
図7(b)は、図8の特性から、波長900nmのときの角度と反射率の関係を抽出したグラフである。入射角度が、0°、10°、25°のときの反射率は、それぞれ、0.141、0.141、0.148である。このように、本実施の形態におけるレーザ光の使用波長(900nm)において、反射率が、レーザ光の振り角の範囲において下限値を略維持するように、反射防止膜51が形成されている。よって、レーザ光の走査時に、投射窓50における内面反射を抑制することができ、目標領域におけるレーザ光のビームプロファイルを良好に保つことができる。
【0069】
図9(a)は、反射防止膜51が投射窓50に形成されることでレーザ光のビームプロファイルがどのように変化するかを、投射窓50の種類毎に測定した測定結果、図9(b)は、反射防止膜51が投射窓50に形成されることで投射窓50の透過率がどのように変化するかを、投射窓50の種類毎に測定した測定結果である。なお、各測定結果には、
投射窓50が無いときの測定結果が重ねて示されている(各図中、“窓なし”の棒グラフ)。
【0070】
各図中、斜線の棒グラフは、投射窓50の入射面と出射面に反射防止膜51を形成した場合の測定結果であり、白抜きの棒グラフは反射防止膜51を形成しなかった場合の測定結果である。測定対象の投射窓50は、“ゼオネックス480R”、“ゼオネックスE48R”、“ゼオノア1430R”からなる3種の投射窓50である。また、反射防止膜51は、投射窓50が図8と類似の特性を有するように形成されている。
【0071】
ビームプロファイルの測定は、図10(b)の構成を用いて行った。すなわち、投射光学系20からレーザ光を出射し、投射光学系20から10m離れた位置において、レーザ光の強度をAPD(アバランシェ・フォトダイオード)で測定した。ここで、ミラーアクチュエータ23のミラー150は、中立位置に固定した。レーザ光の強度は、レーザ光の光軸中心にAPDの中心を位置付けたとき(ピーク測定値)と、レーザ光の光軸中心から1°だけ変位した位置にAPDの中心を位置付けたとき(不要光測定値)とで測定した。レーザ光の波長は905nm、レーザ光源21の出射パワーは60wとした。また、投射窓50が無いときのレーザ光の広がり具合は、投射窓50の位置から100m離れた位置のビーム形状が縦2m、横0.2mの楕円となるよう調整した。
【0072】
図9(a)の測定結果には、ピーク測定値に対する不要光測定値の比率(不要光強度=不要光測定値/ピーク測定値)が示されている。この測定結果によっても、以下のとおり、ビームプロファイルの劣化を検証することができる。
【0073】
図10(a)は、図10(b)の測定において、光軸中心から光軸に垂直な方向にAPDを徐々にずらしたときの、角度位置に対するAPDの受光強度の変化例を示す図である。
【0074】
理想的なビームプロファイルは、図10(a)に破線で示すように、レーザ光の強度を示す波形が左右対称となって、正規分布状に変化する。これに対し、ビームプロファイルが劣化すると、図10(a)に実線で示すように、波形に歪が生じる。図10(a)の実線では、破線の場合に比べ、角度が0°のときの強度(ピーク測定値)に対する角度が1°のときの強度(不要光測定値)の比率が大きくなる。このように、波形に歪が生じると、一般に、ピーク測定値に対する不要光測定値の比率(不要光測定値/ピーク測定値)が大きくなる。よって、図9(a)のように、ピーク測定値に対する不要光測定値の比率(不要光測定値/ピーク測定値)を評価することによっても、ビームプロファイルの劣化を検証することができる。
【0075】
なお、透過率の測定は、図10(c)の構成を用いて行った。すなわち、投射光学系20の出射口に対向するようにパワーメータを設置し、投射光学系20から出射されるレーザ光の強度を測定した。ここで、測定値は、投射光学系20とパワーメータとの間に投射窓50を介在させた場合(無減衰値)と、介在させない場合(減衰値)とで行い、両者の比率(減衰値/無減衰値)により、投射窓50の透過率を求めた。
【0076】
図9(a)を参照して、“ゼオネックス480R”と“ゼオノア1430R”からなる投射窓50については、入射面と出射面に反射防止膜51を形成することにより、不要光強度(不要光測定値/ピーク測定値)が抑制されることが分かる。すなわち、これらの材料からなる投射窓50では、入射面と出射面に反射防止膜51を形成することにより、レーザ光の光学特性(ビームプロファイル)が改善されることが分かる。特に、“ゼオノア1430R”からなる投射窓50では、レーザ光の光学特性(ビームプロファイル)が顕著に改善され、投射窓50が無い場合と略同様の光学特性が実現される。よって、測定対
象の3種の材料の中では、“ゼオノア1430R”が投射窓50の材料として最も好ましいと言える。
【0077】
また、“ゼオネックス480R”を用いる場合には、“ゼオノア1430R”を用いる場合ほどレーザ光の光学特性(ビームプロファイル)が改善されないものの、図9(b)から分かる通り、投射窓50の透過率が顕著に改善されるため、目標領域に照射されるレーザ光の強度を高めることができる。
【0078】
なお、本測定では、“ゼオネックスE48R”を用いる場合には、レーザ光の光学特性(ビームプロファイル)の改善が殆どなかった。しかしながら、この場合も、図9(b)から分かる通り、投射窓50の透過率が数段改善されるため、目標領域に照射されるレーザ光の強度を高めることができる。
【0079】
以上、本実施の形態によれば、投射窓50の材料として透明性の高い材料を用い、投射窓50の面粗度およびヘイズ値を低く抑え、且つ、投射窓50の入射面と出射面に反射防止膜51を形成することで、目標領域に照射されるレーザ光の光学特性(ビームプロファイル)を良好なものとすることができる。
【0080】
特に、投射窓50の入射面と出射面に反射防止膜51を形成することで、目標領域に照射されるレーザ光の強度を高めながら、レーザ光の光学特性(ビームプロファイル)を良好なものとすることができ、目標領域における障害物の検出精度を高めることができる。投射窓50の材料として“ゼオノア1430R”を用いると、投射窓50が無いときと略同等の光学特性(ビームプロファイル)を実現できる。
【0081】
また、本実施の形態によれば、反射防止膜51が、少なくともレーザ光の走査範囲(0°±20°)に対応するレーザ光の入射角度の範囲において、反射率が下限値を維持するように形成されるため、何れの走査位置においても、投射窓50内の内面反射によるレーザ光の光学特性の劣化を抑制することができる。
【0082】
<変更例>
上記実施の形態では、投射窓50の入射面と出射面に反射防止膜51を形成することで、投射窓50における内面反射を抑制するようにしたが、本変更例では、投射窓50の入射面と出射面に微細な周期構造を形成することで、投射窓50における内面反射を抑制するようにしている。なお、受光窓60の構成も、投射窓50と同様とされる。
【0083】
図11(a)は、本変更例に係る投射窓50の構成を示す図である。投射窓50には、レーザ光の入射面と出射面に微細な周期構造52が形成されている。この周期構造52によって、投射窓50の入射面および出射面におけるレーザ光の反射が抑制される。なお、投射窓50の材料、面粗度、ヘイズ値等は、上記実施の形態と同様のものとされる。
【0084】
図11(b)は、周期構造52の形成状態を模式的に示す斜視図、図11(c)および(d)は、周期構造52の形成状態を模式的に示す平面図および側面図である。
【0085】
図示の如く、周期構造52は、所定の高さHを有する先細りの錐形(円錐)の突起52aを所定のピッチPにて配列することにより形成されている。このような突起52aは、表面無反射構造と呼ばれ、先細りの錐形形状を有する。図のような円錐に限らず、角錐等で形成されることもある。周期構造52は射出成型による金型からの転写等によって形成され得る。
【0086】
図12は、周期構造52と屈折率の関係を示す図である。図示の如く、屈折率n1の媒
質上に周期構造52が形成されている場合には、光の入射媒質表面における有効屈折率が緩やかに変化し、あたかも2つの媒質(屈折率n0、n1)間に屈折率の境界が存在しない状態となる。これにより、屈折率n1の媒質の光入射面における反射率が抑制される。なお、この現象は、光の入射面内方向における周期構造52のピッチが入射光の波長よりも小さい場合に生じる。
【0087】
したがって、周期構造52上の突起52aのピッチPを、材料の屈折率をn、レーザ光の波長をλとして、P≦λ/nに設定すると、投射窓50の入射面および出射面におけるレーザ光の反射を抑制することができる。本変更例では、かかる観点から、投射窓50の入射面および出射面に形成された周期構造52のピッチPが、P≦λ/nを満たすように設定されている。
【0088】
本変更例では、レーザ光の入射角度によって周期構造52における反射抑制作用が略変わらないため、上記実施の形態と同様、レーザ光の何れの走査位置においても、投射窓50内の内面反射によるレーザ光の光学特性の劣化を抑制することができる。
【0089】
本変更例においても、
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら制限されるものではなく、また、本発明の実施の形態も上記以外に種々の変更が可能である。
【0090】
たとえば、上記実施の形態では、2つの軸の周りにミラーが回転するミラーアクチュエータの構成例を示したが、本発明は、上記以外の構成のミラーアクチュエータや、レンズを駆動してレーザ光を走査するタイプのアクチュエータ、あるいは、ポリゴンミラーを用いたアクチュエータにも適用可能である。
【0091】
また、上記実施の形態および変更例では、受光窓60を投射窓50と同様の構成としたが、受光窓60には、反射防止膜51が形成されていなくても良く、また、上記以外の材料を用いても良い。また、受光窓60の面粗度およびヘイズ値も、上記に示されたものに制限されなくても良い。
【0092】
さらに、レーザ光の波長帯域は、上記実施の形態に示されたもの以外に、適宜変更可能である。レーザ光の波長帯域が上記実施の形態のものから変更された場合には、それに応じて、反射防止膜51の特性も、変更後の波長帯域に適合するように、修正される。
【0093】
この他、本発明の実施の形態は、特許請求の範囲に示された技術的思想の範囲内において、適宜、種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0094】
1 … レーザレーダ
10 … 筐体
20 … 投射光学系
21 … レーザ光源
23 … ミラーアクチュエータ(アクチュエータ)
30 … 受光光学系(受光部)
50 … 出射窓
51 … 反射防止膜(反射抑制手段)
52 … 周期構造(反射抑制手段)
52a … 突起


【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を出射するレーザ光源と、
目標領域において前記レーザ光を走査させるアクチュエータと、
前記アクチュエータを経由した前記レーザ光が透過する出射窓と、を備え、
前記出射窓に、表面反射を抑制するための反射抑制手段を配した、
ことを特徴とするビーム照射装置。
【請求項2】
請求項1に記載のビーム照射装置において、
前記反射抑制手段は、反射防止膜を含み、
前記反射防止膜は、少なくとも前記レーザ光の走査範囲に対応する前記レーザ光の入射角度の範囲において、反射率が下限値を維持するような角度依存性を有する、
ことを特徴とするビーム照射装置。
【請求項3】
請求項1に記載のビーム照射装置において、
前記反射抑制手段は、P≦λ/n(P:ピッチ、λ:前記レーザ光の波長、n:前記出射窓の屈折率)を満たすピッチで形成された周期構造を含む、
ことを特徴とするビーム照射装置。
【請求項4】
請求項3に記載のビーム照射装置において、
前記周期構造は、先細りの錐形からなる複数の突起からなっている、
ことを特徴とするビーム照射装置。
【請求項5】
請求項1ないし4の何れか一項に記載のビーム照射装置において、
前記反射抑制手段は、前記出射窓の入射面と出射面の両方に配されている、
ことを特徴とするビーム照射装置。
【請求項6】
請求項1ないし5の何れか一項に記載のビーム照射装置と、
前記目標領域から反射された前記レーザ光を受光する受光部と、を有する
ことを特徴とするレーザレーダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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