説明

ピアノのハンマー

【課題】 鍵に応じて鍵のコントロール性または押鍵エネルギーの伝達効率を優先して得ることができ、それにより、鍵に応じて高い演奏性や大きな打弦力を選択的に得ることができるピアノのハンマーを提供する。
【解決手段】 複数のハンマー2の各々は、支点14に回動自在に支持されたハンマーシャンク11と、押鍵に伴いジャック6で突き上げられるシャンクローラ13と、ジャック6の突き上げによるハンマーシャンク11の回動に伴い、弦Sを打弦するハンマーヘッド12と、を有し、複数のハンマー2は、支点14からハンマーヘッド12までの長さLHと支点14からシャンクローラ13までの長さLRとの比であるレバー比RLが第1所定値に設定された複数の第1のハンマー2Aと、レバー比RLが第1所定値と異なる第2所定値に設定された複数の第2のハンマー2Bと、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍵の押鍵に伴い弦を打弦するピアノのハンマーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種のピアノのハンマーとして、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。このピアノのハンマーは、支点に回動自在に支持されたシャンクホルダと、このシャンクホルダに固定されたシャンクローラと、シャンクホルダから後方に延びるハンマーシャンクと、ハンマーシャンクの後端部に固定されたハンマーヘッドとを有している。また、離鍵状態において、ハンマーは、シャンクローラを介して、レペティションレバーに載置されている。この離鍵状態から鍵が押鍵されると、シャンクローラがジャックによって突き上げられることにより、ハンマーが、支点を中心として回動し、弦を打弦する。
【0003】
従来のピアノでは、一般に支点からハンマーヘッドまでの長さLHと支点からシャンクローラまでの長さLRとの比(以下「レバー比」という)LH/LRが、すべてのハンマーにおいて一定に設定されている。このレバー比LH/LRが比較的、大きい場合には、支点からシャンクローラまでの長さLRが相対的に短いので、高い押鍵エネルギーの伝達効率が得られることで、大きな打弦力が得られるという利点を有する反面、押鍵力の調整加減が難しいため、鍵のコントロールがしにくいという欠点を有する。逆に、レバー比LH/LRが比較的、小さい場合には、支点からシャンクローラまでの長さLRが相対的に長いので、鍵のコントロールがしやすくなることによって、高い演奏性が得られる反面、押鍵エネルギーの伝達効率が低くなり、大きな打弦力が得られない。
【0004】
しかし、従来のピアノでは、すべてのハンマーにおいてレバー比が一定であるので、音域に応じて鍵のコントロール性を優先したり、押鍵エネルギーの伝達効率を優先したりしたくても、そのような要求に応えることができず、演奏性や打弦力を一律にしか得ることができない。
【0005】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、鍵に応じて鍵のコントロール性または押鍵エネルギーの伝達効率を優先して得ることができ、それにより、鍵に応じて、高い演奏性と大きな打弦力を選択的に得ることができるピアノのハンマーを提供することを目的とする。
【0006】
【特許文献1】特開2001−343971号公報
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために、請求項1に係る発明は、鍵の押鍵に伴い、ジャックで突き上げられることにより回動し、弦を打弦するピアノのハンマーであって、ハンマーは、複数の鍵ごとに設けられた複数のハンマーで構成され、複数のハンマーの各々は、前後方向に延びるとともに、前端部において支点に回動自在に支持されたハンマーシャンクと、ハンマーシャンクの下面に設けられ、押鍵に伴いジャックで突き上げられるシャンクローラと、ハンマーシャンクの後端部に設けられ、ジャックの突き上げによるハンマーシャンクの回動に伴い弦を打弦するハンマーヘッドと、を有し、複数のハンマーは、支点からハンマーヘッドまでの長さと支点からシャンクローラまでの長さとの比であるレバー比が第1所定値に設定された複数の第1のハンマーと、レバー比が第1所定値と異なる第2所定値に設定された複数の第2のハンマーと、を有することを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、鍵ごとに設けられた複数のハンマーの各々は、支点に回動自在に支持されたハンマーシャンクと、押鍵に伴いジャックで突き上げられるシャンクローラと、弦を打弦するハンマーヘッドと、を有している。鍵が押鍵されると、シャンクローラがジャックで突き上げられることによって、ハンマーが支点を中心として回動し、弦を打弦することによって、ピアノ音が発生する。
【0009】
本発明によれば、複数のハンマーは、レバー比が第1所定値に設定された複数の第1のハンマーと、レバー比が第1所定値と異なる第2所定値に設定された複数の第2のハンマーと、を有している。これにより、例えば、複数の第1のハンマーのレバー比がより小さく設定されている場合には、第1のハンマーに対応する鍵では、鍵のコントロールがしやすくなることによって、高い演奏性を得ることができる。一方、レバー比がより大きな複数の第2のハンマーに対応する鍵では、高い押鍵エネルギーの伝達効率が得られることによって、大きな打弦力を得ることができる。その結果、鍵に応じて、高い演奏性と大きな打弦力を選択的に得ることができるので、より高度な演奏を行うことができる。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のピアノのハンマーにおいて、ピアノの音域は、第1および第2の音域を含む所定の複数の音域に区分されており、複数の第1のハンマーは、第1の音域に配置され、複数の第2のハンマーは、第2の音域に配置されていることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、複数の第1のハンマーは、第1の音域に配置され、複数の第2のハンマーは、第2の音域に配置されている。これにより、例えば、第1の音域において高い演奏性を得ることができるとともに、第2の音域において大きな打弦力を得ることができる。以上のように、上述した請求項1の利点を音域に応じて得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1および図2は、本発明の実施形態によるグランドピアノ10(以下、単に「ピアノ」という)の鍵盤装置を、それぞれ離鍵状態および押鍵状態において示している。これらの図に示すように、このピアノ10は、複数の鍵1(1つのみ図示)と、鍵1ごとに設けられ、弦Sを打弦する複数のハンマー2(1つのみ図示)と、鍵1の後部の上側に設けられたアクション3などを備えている。
【0013】
このピアノ10は、複数のハンマー2による弦Sの打弦により、アコースティックな演奏音を発生させるように構成されている。以下、ピアノ10を演奏者から見た場合の手前側(同図の右側)を「前」、奥側(同図の左側)を「後」として、説明を行うものとする。
【0014】
アクション3は、ウィッペン4と、ウィッペン4に取り付けられたレペティションレバー5およびジャック6を備えている。ウィッペン4は、その後端部において、ウィッペンレール7に固定されたウィッペンフレンジ8に回動自在に支持されており、中央において、鍵1の後部に設けられたキャプスタンスクリュー9に載置されている。
【0015】
複数のハンマー2の各々は、前後方向に延びるハンマーシャンク11と、ハンマーシャンク11の後端部に取り付けられたハンマーヘッド12と、ハンマーシャンク11の前部の下面に取り付けられたシャンクローラ13などで構成されている。ハンマーシャンク11は、その前端部において左右方向に延びる水平なセンターピン14を介して、ハンマーシャンクフレンジ15に支持されている。それにより、各ハンマー2は、センターピン14を中心として回動自在である。
【0016】
ハンマーヘッド12は、ハンマーシャンク11の後端部から直角に上下方向に延びるハンマーウッド12aと、ハンマーウッド12aの上部に巻かれたハンマーフェルト12bで構成されている。
【0017】
シャンクローラ13は、ハンマーシャンク11の下面に取り付けられ、下方に突出する芯板13aと、芯板13aに巻かれた円柱状のクッション材13bで構成されている。
【0018】
図3および図4に示すように、ハンマー2は、レバー比RLが所定値RL1に設定された複数の第1ハンマー2A(両図の(a))と、レバー比RLが第1所定値RL1よりも大きな第2所定値RL2に設定された複数の第2ハンマー2B((b))とによって構成されている。
【0019】
具体的には、第1ハンマー2Aと第2ハンマー2Bは、センターピン14からハンマーヘッド12までの長さLHが互いに同じである。一方、第2ハンマー2Bでは、シャンクローラ13の芯板13aが、第1ハンマー2Aよりも前側に取り付けられており、それにより、センターピン14からシャンクローラ13までの長さLRが、第1ハンマー2AではLR1に、第2ハンマー2BではLR1よりも短いLR2になっている。
【0020】
その結果、第1ハンマー2Aのレバー比RL1は、LH/LR1に設定され、第2ハンマー2Bのレバー比RL2は、LH/LR2に設定され、第1ハンマー2Aのレバー比RL1よりも大きくなっている。
【0021】
複数の第1ハンマー2Aは、図5に示す所定の高音域AHに配置され、複数の第2ハンマー2Bは、所定の低音域ALに配置されている。
【0022】
ハンマーシャンクフレンジ15は、ハンマーシャンクレール16の上面に取り付けられている。ハンマーシャンクレール16は、筬(図示省略)の上に設けられた複数のブラケット17(1つのみ図示)に取り付けられ、左右方向に延びている。
【0023】
このハンマーシャンクレール16の下面には、レギュレーティングレール18が一体に設けられている。このレギュレーティングレール18には、レギュレーティングボタン19が下方に突出するように設けられている。
【0024】
レペティションレバー5は、前後方向に延び、その中央でウィッペン4に回動自在に取り付けられている。また、レペティションレバー5の前部には、上下方向に貫通するジャック案内孔5aが形成されている。
【0025】
ジャック6は、L字状に形成されており、上下方向に延びる突き上げ部6aと、その下端部の角部から前方に延びる当接部6bで構成されている。ジャック6は、その角部を介して、ウィッペン4に回動自在に取り付けられている。ジャック6の突き上げ部6aの上端部は、上述したジャック案内孔5aに挿入され、離鍵状態においてシャンクローラ13とわずかな間隔を隔てた状態で対向している。また、ジャック6の当接部6bは、レギュレーティングボタン19と所定間隔を隔てて下方から対向している。
【0026】
次に上述した構成のピアノ10の動作を説明する。まず、図1に示す離鍵状態において、各ハンマー2は、シャンクローラ13を介して、レペティションレバー5に、ジャック案内孔5aをまたいだ状態で載置されている。
【0027】
この離鍵状態から鍵1が押鍵されると、ウィッペン4が、キャプスタンスクリュー9を介して突き上げられることにより、上方に回動するとともに、レペティションレバー5およびジャック6がウィッペン4と一緒に上方に移動する。このジャック6の上方への移動に伴い、その突き上げ部6aがシャンクローラ13を介してハンマー2を突き上げることによって、ハンマー2がセンターピン14を中心として上方に回動する。
【0028】
ハンマー2が弦Sを打弦する直前まで回動したときに、ジャック6の当接部6bが、レギュレーティングボタン19に当接することによって、ジャック6は、ウィッペン4に対して、図1の時計方向に回動する。これにより、ジャック6がハンマー2から離脱(レットオフ)し、その後、ハンマー2は、慣性で回動し続け、弦Sを打弦する。
【0029】
以上のように、本実施形態によれば、高音域AHでは、レバー比RLが小さい第1ハンマー2Aが配置されているので、鍵のコントロール性を優先して得ることができ、それにより、高い演奏性を得ることができる。また、低音域ALでは、レバー比RLが大きい複数の第2ハンマー2Bが配置されているので、高い押鍵エネルギーの伝達効率を優先して得ることができ、それにより、大きな打弦力を得ることができる。その結果、音域に応じて、高い演奏性と大きな打弦力を選択的に得ることができるので、より高度な演奏を行うことができる。
【0030】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施できる。例えば、実施形態では、ピアノの音域を低音域ALおよび高音域AHの2つの音域に区分し、高音域AHに第1ハンマー2Aを、低音域ALに第2ハンマー2Bをそれぞれ配置しているが、演奏者の好みなどに応じて適宜、変更することが可能である。例えば、第1ハンマー2Aと第2ハンマー2Bを、実施形態とは逆に、低音域ALと高音域AHにそれぞれ配置してもよく、あるいは黒鍵および白鍵にそれぞれ配置してもよい。また、音域をさらに細分化するとともに、レバー比RLが異なるより多くの種類のハンマーを用意し、これらをそれぞれ異なる音域に配置してもよい。その他、本発明の趣旨の範囲内において、細部の構成を変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明のハンマーを備えたピアノの鍵盤装置を離鍵状態において示す側断面図である。
【図2】図1の鍵盤装置を押鍵状態において示す側断面図である。
【図3】(a)第1ハンマーおよび(b)第2ハンマーを示す側面図である。
【図4】図3のハンマーの部分拡大側面図である。
【図5】音域の区分を示す鍵盤の平面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 鍵
2 ハンマー
2A 第1ハンマー
2B 第2ハンマー
6 ジャック
10 ピアノ
11 ハンマーシャンク
12 ハンマーヘッド
13 シャンクローラ
14 センターピン(支点)
S 弦
LH センターピン(支点)からハンマーヘッドまでの長さ
LR センターピン(支点)からシャンクローラまでの長さ
LR1 第1ハンマーのLR
LR2 第2ハンマーのLR
RL レバー比
RL1 第1ハンマーのレバー比(第1所定値)
RL2 第2ハンマーのレバー比(第2所定値)
AL 低音域(音域)
AH 高音域(音域)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍵の押鍵に伴い、ジャックで突き上げられることにより回動し、弦を打弦するピアノのハンマーであって、
当該ハンマーは、複数の前記鍵ごとに設けられた複数のハンマーで構成され、
当該複数のハンマーの各々は、
前後方向に延びるとともに、前端部において支点に回動自在に支持されたハンマーシャンクと、
当該ハンマーシャンクの下面に設けられ、押鍵に伴い前記ジャックで突き上げられるシャンクローラと、
前記ハンマーシャンクの後端部に設けられ、前記ジャックの突き上げによる前記ハンマーシャンクの回動に伴い、前記弦を打弦するハンマーヘッドと、を有し、
前記複数のハンマーは、
前記支点から前記ハンマーヘッドまでの長さと前記支点から前記シャンクローラまでの長さとの比であるレバー比が第1所定値に設定された複数の第1のハンマーと、
前記レバー比が前記第1所定値と異なる第2所定値に設定された複数の第2のハンマーと、を有することを特徴とするピアノのハンマー。
【請求項2】
前記ピアノの音域は、第1および第2の音域を含む所定の複数の音域に区分されており、前記複数の第1のハンマーは、前記第1の音域に配置され、前記複数の第2のハンマーは、前記第2の音域に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のピアノのハンマー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−85464(P2010−85464A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−251469(P2008−251469)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(000001410)株式会社河合楽器製作所 (563)