説明

ピストンおよび火花点火式内燃機関

【課題】内燃機関において、ピストンのトップランド外周面とシリンダ壁面との間の隙間での局所的な圧力上昇を抑制する。
【解決手段】本発明に係る内燃機関のピストン1Aは、ピストン1Aの頂面3に隣接する該ピストンのトップランド外周側面9に、頂面3に開放する端部20eを有する溝20を形成したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用のピストン、および、それを備えた火花点火式内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関において、例えば燃焼室の混合気の燃焼を改善するべく、ピストンの形状または構成を改良することが提案されまたは行われている。例えば、特許文献1は、その記載によれば、小型ディーゼルエンジン等に使用するピストンを示し、そのピストンはトップランド部に断面凹状に形成された多数の条痕を有する。そしてそれら多数の条痕を形成する際に、カーボン等の軟質性材料が埋設される。これにより、シリンダ内壁とピストンのトップランドとの馴染みがよくなり、トップランド部が焼き付くことなどを防止でき、また、これによりエンジンの慣らし運転が不十分なときであっても圧縮比を低下させずに、しかも未燃焼ガス成分の発生を有効に抑えることができると特許文献1に記載されている。
【0003】
他方、内燃機関に過給機を搭載し、これにより過給圧を高めて機関出力を高めることが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭61−27946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
内燃機関において、筒内圧を高めることは、例えばノッキングが生じる可能性を高める。例えばノッキングにより燃焼室に高圧部が生じると、それに起因して生じる圧力波が、ピストンのトップランド外周側面とシリンダ壁面との間の隙間に進入するときがある。そして、それに基づき当該隙間で局所的な圧力上昇が生じたとき、その周囲のピストン表面に荒れが生じる可能性があることを、本発明者らは鋭意研究の結果見出した。
【0006】
そこで本発明はかかる事情に鑑みて創案されたものであり、その一の目的は、ピストンのトップランド外周側面とシリンダ壁面との間の隙間での局所的な圧力上昇を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、内燃機関用のピストンであって、該ピストンの頂面に隣接する該ピストンのトップランド外周側面に、前記頂面に開放する端部を有する溝を形成したことを特徴とするピストンが提供される。
【0008】
好ましくは、前記溝は、前記端部につながり前記トップランド外周側面に周方向に延びる周方向溝部を含む。
【0009】
好ましくは、前記ピストンは、前記トップランド外周側面に隣接するように該ピストンの前記頂面に形成された2つの凹部を備え、該ピストンの中心線を含む平面を定義するとき、該平面によって分けられる該ピストンの一方の側部に該2つの凹部は存在し、前記溝の前記周方向溝部は、該ピストンの前記一方の側部において前記2つの凹部の間に延在するように定められる前記トップランド外周側面の第1領域において周方向に延在し、前記溝の前記端部は、前記トップランド外周側面の該第1領域とは異なる第2領域において前記頂面に開放する。
【0010】
また、好ましくは、前記溝の前記周方向溝部は前記ピストンの全周に連続的に延びる。
【0011】
好ましくは、前記溝は前記トップランド外周側面のうちの前記頂面側の部分に形成される。
【0012】
前記溝は該溝の前記端部に近づくに従って該溝の断面積が減少するように形成されているとよい。
【0013】
本発明は、上記したようなピストンを備えた、火花点火式内燃機関にも存する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】一例としての従来のピストンを示す斜視図である。
【図2】図1のピストンを示す平面図である。
【図3】図1のピストンにおいて圧力波が衝突する様子を示す図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係るピストンの斜視図である。
【図5】図4のピストンの一部の断面図である。
【図6】図5の円VIで囲まれた領域の拡大図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係るピストンの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
まず、従来の内燃機関用のピストンの構成、および、本発明の基礎となる本発明者らの知見について説明する。
【0016】
内燃機関の運転により該内燃機関のピストンに表面荒れが生じる場合があることが知られている。本発明者らは、種々の実験(実機試験、コンピュータシュミレーション試験(CFD解析)を含む。)を通じた鋭意研究の結果、そのようなピストン表面荒れの原因およびメカニズムを見出し、このことを利用して本発明を創案するに至った。概略的に以下に説明する。
【0017】
まず、従来の内燃機関用のピストンの各部の名称について図1および図2に基づいて説明する。図1は一例としての従来のピストン1の斜視図、図2は図1のピストン1の平面図である。ただし、ピストン1は、ガソリンエンジン等の火花点火式内燃機関のピストンである。
【0018】
図2に示す平面視において、ピストン1の中心線(軸線)Oを原点とする直交座標を定義し、図の左右方向に延びる軸をX軸、図の上下方向に延びる軸をY軸とする。X軸は、ピストンピン穴(図1および図2には図示せず)の中心線およびクランク軸(図示せず)の中心線に平行である。他方、Y軸はX軸と直交する。X軸を境に図2の下側が吸気側、上側が排気側である。また説明を容易にするためにY軸を境に図2の右側を前、左側を後とする。X軸は、ピストン1を吸気側と排気側とに仕切り、あるいは二分割する。Y軸は、ピストン1を前側と後側とに仕切り、あるいは二分割する。また説明を容易にするためにピストン中心線Oに沿った紙面厚さ方向手前側を上、奥側を下とする。
【0019】
図1および図2に示すように、ピストン1は外周側面2と頂面3とを有する(以下、それぞれピストン外周側面2およびピストン頂面3という)。ピストン外周側面2には、それぞれピストンリングを収容するための複数のリング溝、ここでは3つのリング溝4,5,6が形成されている。最上のリング溝すなわちトップリング溝4にはトップリング(図示せず)が収容され、中間のリング溝すなわちセカンドリング溝5にはセカンドリング(図示せず)が収容され、最下のリング溝すなわちオイルリング溝6にはオイルリング(図示せず)が収容される。オイルリング溝6の下方にはスカート7が形成されている。
【0020】
他方、ピストン1において、トップリング溝4の上方にはトップランド8が形成されている。ここでトップランド8とは、トップリング溝4の上方に位置するピストン1の肉の部分全体をいう。このトップランド8に属するピストン外周側面2の部分がトップランド外周側面9を形成する。なお、トップリング溝4とセカンドリング溝5との間にはセカンドランド10が形成され、セカンドリング溝5とオイルリング溝6との間にはサードランド11が形成されている。
【0021】
ピストン頂面3には、複数の凹部が形成されている。具体的には、ピストン頂面3においては、その吸気側に複数の吸気弁リセス12F,12Rが設けられ、その排気側に複数の排気弁リセス13F,13Rが設けられている。吸気弁リセス12F,12Rは吸気通路の下流側端部を開閉する開閉弁である吸気弁(図示せず)との干渉を避けるためのものであり、ピストン頂面3に凹設されている。また排気弁リセス13F,13Rは排気通路の上流側端部を開閉する開閉弁である排気弁(図示せず)との干渉を避けるためのものであり、ピストン頂面3に凹設されている。
【0022】
ここでは吸気弁リセスの数は2つである。前側の吸気弁リセスを12Fで表し、後側の吸気弁リセスを12Rで表す。これら吸気弁リセス12F,12Rは平面視(図2)において略半円状であり、同一径を有し、Y軸に対して対称に配置されている。
【0023】
同様に、ここでは排気弁リセスの数も2つである。前側の排気弁リセスを13Fで表し、後側の排気弁リセスを13Rで表す。これら排気弁リセス13F,13Rは平面視(図2)において略半円状であり、同一径を有するが、吸気弁リセス12F,12Rよりも小径である。そしてY軸に対して対称に配置されている。
【0024】
これら吸気弁リセス12F,12Rおよび排気弁リセス13F,13Rの底面は、知られているように、X軸から離れるほど位置が下がるように傾斜されている。そして前側吸気弁リセス12Fおよび後側吸気弁リセス12Rは、それぞれピストン外周側面2に隣接する、特に内接するように延びている。これにより、トップランド外周側面9の上端縁部は、前側吸気弁リセス12Fおよび後側吸気弁リセス12Rとの接続位置において、下方に切り欠かれたような形状となっている。この前側および後側の切欠き形状部を図1に14F,14Rで示す。これら前側および後側切欠き形状部14F,14RはY軸に対し対称に配置されていて、ここでは吸気弁リセス12F,12Rとピストン外周側面2とを概ね滑らかにつなげる。
【0025】
2つの吸気弁リセス12F,12Rの間のピストン頂面3の部分は、燃焼室に向けて突出するような凸部であるスキッシュ部15を形成する。スキッシュ部15は、ピストン頂面3の外周側に位置され、平面視(図2)において略扇状である。また、Y軸とピストン1の中心線Oとを含むように定義される平面上でのスキッシュ部15の断面形状は略三角形状であり、スキッシュ部15は、ピストン外周側面2に概ね滑らかにつながる外側傾斜面15aと、燃焼室の中心側に向く内側傾斜面15bと、これら外側傾斜面15aおよび内側傾斜面15bの間に延びるエッジ部(頂縁部)15cとを有する(図2参照)。凸部であるスキッシュ部15は、燃焼室の流体の流れを制御するように形成され、ここでは特にスキッシュ流の形成を促すように設けられ、機関運転時にシリンダブロックとシリンダヘッド(いずれも図示せず)との隙間から流出するスキッシュ流が積極的に当たる部位となる。スキッシュ部15はY軸に対し対称に配置されている。このように、スキッシュ部15は、2つの凹部である吸気弁リセス12F,12Rに挟まれるようにピストン外周側面2に隣接してピストン頂面3に形成された凸部である。
【0026】
スキッシュ部15に接続するトップランド外周側面9の部分は、トップランド外周側面9のうち、図中Lで示される範囲の部分、すなわち吸気弁リセス12F,12Rとスキッシュ部15との境界が最も半径方向外側となる2つのピストン周方向位置の間におけるトップランド外周側面9の部分である。このスキッシュ部15に接続するトップランド外周側面9の部分を、符号9Lを用いて区別して表し、スキッシュ接続トップランドともいう。スキッシュ接続トップランド9Lは、Y軸に対し対称に配置されている。
【0027】
スキッシュ接続トップランド9Lの周方向中間位置9LmはY軸上に存在する。そしてこの周方向中間位置9Lmから周方向に沿って前後に最も離れた位置に、スキッシュ接続トップランド9Lの前端9Lfおよび後端9Lrが存在する。前側および後側切欠き形状部14F,14Rは、これら前端9Lfおよび後端9Lrよりも、さらに周方向中間位置9Lmから周方向に沿って前後に離れた位置に存在する。
【0028】
ピストン頂面3の中心部には、僅かに窪まされた中心凹部16が形成されている。そして中心凹部16の真上に、図示しない点火プラグがシリンダヘッドに取り付けられて設けられることとなる。
【0029】
上記ピストン1と同様の特徴を有するピストンを備えた火花点火式内燃機関を用いた実験結果について簡単に説明する。試験では、ノッキングを故意に生じさせ、または、ノッキング発生時を模擬して燃焼室に高圧力部を生じさせた。そして、その高圧力部の発生に起因して生じる圧力波はピストン外周側面とシリンダ壁面との間の隙間、特にトップランド外周側面とシリンダ内壁面との間に伝播して進入し、そこで複数個所から進入した圧力波が衝突して増幅する場合があることが分かった。特に、上記ピストン1のようなピストンを備えた内燃機関では、図3に示すように、吸気弁リセス12F、12Rを介してトップランド外周側面に至る圧力波P1F、P2Fと、スキッシュ部15上を介してトップランド外周側面に至る圧力波P2とがトップランド外周側面上で衝突する可能性があることが見出された。この場合、それらの衝突により局所的に非常に強い圧力が生じ、これにより当該衝突部位および/またはその周囲のピストン表面に荒れが生じ得ることが見出された。なお、このようなピストン表面荒れは、本発明者らが調べた結果、物理的または機械的な作用による減肉現象であるエロージョンに主に起因することが分かった。
【0030】
したがって、燃焼室に高圧部が生じた場合に、それに起因して生じる圧力波が、ピストンのトップランド外周側面とシリンダ壁面との間に進入し、局所的な圧力上昇が生じることは好ましくない。そこで、本発明者らは鋭意研究の結果、そのような圧力上昇が発生することを抑制するように、本発明を考案した。本発明に係るピストンは、概略的に、トップランド外周側面に溝(または凹部)を備えるという特徴を有する。当該溝は、その端部をピストン頂面に向けて開放した構成を備える。それにより上記したような圧力上昇を抑制することを可能にする。好ましくは、この溝は、燃焼室に(例えばノッキングにより)意図しない高圧部が生じ、それに起因した圧力波がピストンとシリンダとの間に伝播、進入した場合であっても、それを効果的に逃がし、上記したような圧力上昇を抑制するように、形成される。
【0031】
以下に、本発明の第1実施形態に係るピストン1Aが説明される。このピストン1Aは、火花点火式内燃機関用のピストンである。ピストン1において既に説明された構成要素と同一または同様の構成要素には、以下のピストン1Aの説明では図中同一符号を付し、それらの説明を省略する。ただし、ピストン1Aは、上記ピストン1におけるスキッシュ部15を備えない。
【0032】
第1実施形態に係るピストン1Aは、トップランド外周側面9に溝20を備える。溝20は、ピストン頂面3に開放する(連通する)端部20eと、該端部20eにつなげられた周方向溝部20cとを含む。
【0033】
溝20は、概略的に、トップランド外周側面9のうちの上記したように局所的に圧力が高まり易い領域に隣接する部位(以下、圧力上昇可能性部位という。)に周方向に延びるように形成されている。圧力上昇可能性部位は、ここでは、トップランド外周側面9のうち、吸気弁リセス12F、12Rの間に延在するように定められる第1トップランド外周側面領域(以下、第1領域という。)9A1である。より詳しくは、第1領域9A1は、トップランド外周側面9側につまり最も半径方向外側に位置する吸気弁リセス12F,12Rの外端部位をそのままトップランド外周側面9に延長した仮想線によって両端が実質的に定められる領域であり、図4の領域S1は、トップランド外周側面9のうちの第1領域9A1における、ピストン頂面3側の縁部の範囲を表す。なお、図1から図3を参照して上記したのと同様に、吸気弁リセス12F、12Rから圧力波がピストン外周側面とシリンダ壁面との間の隙間に伝播して互いに衝突する可能性が高いので、ここでは圧力上昇可能性部位を第1領域9A1に定めた。また、この第1領域9A1である圧力上昇可能性部位は、上記ピストン1のスキッシュ接続トップランド9Lに相当する。
【0034】
溝20は上記したように第1領域9Aにおいて周方向に延びるように延在するが、さらに、溝20は第1領域9A1を超えてピストン1Aの中心線OおよびX軸を含むように定義される第1平面に達するまで、中心線Oに略直交するように定義される第2平面上に実質的に延びるようにピストン外周側面2上に周方向に延びる。このように、周方向に延びる溝20の部分が、溝20の周方向溝部20cに相当する。そして、第1領域9A1以外のトップランド外周側面9の部分である第2トップランド外周側面領域(以下、第2領域という。)9A2において、溝20の端部20eはピストン頂面3に繋がり、溝20はピストン頂面3に開放する。したがって、溝20の端部20eは開放端部である。なお、第2領域9A2周囲は、第1領域9A1周囲に比べて、圧力が高まり難い傾向を有する。
【0035】
ここで、ピストン1Aの中心線OおよびX軸を含むように定義される平面での、ピストン1Aの一部の図5、図6の断面図を参照する。図6において、ピストン1Aの中心線Oの方向におけるトップランド厚さつまりピストン頂面3からトップリング溝4の上端までの距離を符号H1で示し、ピストン1Aの中心線の方向におけるトップリング溝4の上端から溝20の周方向溝部20cの下端までの距離を符号H2で示す。距離H2は、距離H1の1/2以上に設定されている。したがって、周方向溝部20cおよび端部20eを含む溝20は、トップランド外周側面9のうちの頂面3側の部分に形成され、より詳しくは、第3平面よりもピストン頂面3側のトップランド外周側面9のうちの頂面側外周側面9tに延在する。なお、第3平面は、ピストン1Aの中心線Oの方向においてトップランド8を二等分するような面、つまり、ピストン1Aの中心線Oの方向におけるピストン頂面3とトップリング溝4の上端との間の中点を通るような中心線Oに直交する平面として定義される。
【0036】
また、溝20は、溝20の開放端部20eに近づくに従ってその溝の断面積(溝断面積)が減少するように形成されている。ここで、溝20の溝深さは図6において符号Dで示される。ここでは、周方向溝部20cを離れて開放端部20eに近づくに従い、溝深さDが減少しつつ溝20の溝断面積は減少する。
【0037】
上記した構成を備えるので、以下に示すような作用効果をピストン1Aおよびピストン1Aを備えた火花点火式内燃機関は奏する。
【0038】
ピストン1Aは、ピストン頂面3に隣接するトップランド外周側面9に、ピストン頂面3に開放する端部20eを有する溝20を備える。特に、ここでは、圧力上昇可能性部位に相当する第1領域9A1において溝20が周方向に延び、第1領域9A1とは異なる第2領域9A2においてピストン頂面3に溝20は開放する。そして、第2領域9A2周囲は、第1領域9A1周囲に比べて、圧力が高まり難い傾向を有する領域である。したがって、第1領域9A1表面またはその周囲に圧力波が伝播した場合であっても、溝20を介して、当該圧力は第1領域とは異なる第2領域9A2においてピストン頂面3に開放される。故に、第1領域9A1周囲において圧力が局所的に高まることが抑制される。よって、ピストン1Aの表面に荒れが生じることが抑制される。
【0039】
また、溝20は、上記したように、該溝20の開放端部20eに向けてその溝断面積が減少するように形成されている。したがって、溝20の開放端部20eを介してピストン頂面3側つまり燃焼室から圧力波が溝20に入ることは抑制される。他方、溝20を介してピストン頂面3側に開放される圧力は、高圧であり得るので、そのような狭い開放端部20eから適切に開放可能になる。
【0040】
なお、溝20は、第1領域9A1における周方向溝部20cの部分から溝端部20eに向けて次第に溝断面積が減少するように、形成されてもよい。
【0041】
次に、本発明の第2実施形態に係るピストン1Bが説明される。ピストン1Bも、火花点火式内燃機関用のピストンである。なお、ピストン1において既に説明された構成要素と同一または同様の構成要素には、以下のピストン1Bの説明では図中同一符号を付し、それらの説明を省略する。また、ここでは、上記ピストン1Aに対するピストン1Bの相違点つまり特徴についてのみ説明し、上記した符号を同様に用いることでそれらの共通部分または類似部分の説明を省略する。ただし、ピストン1Aの溝20(20A)に対して、ピストン1Bの溝は符号20Bを用いて指し示される。
【0042】
第2実施形態に係るピストン1Bでは、溝20Bのうちピストン外周側面2に周方向に延在する周方向溝部20cは、ピストン1Bの全周に連続的に延びる。つまり、溝20Bは、第1領域9A1および第2領域9A2の両方において周方向に連続的に延びる周方向溝部20cを有する。
【0043】
溝20Bは、ピストン頂面3へ開放する端部20eを有する。端部20eは第2領域9A2に位置付けられていて、第2領域9A2において周方向溝部20cにつながる。
【0044】
このように、第2実施形態のピストン1Bも、ピストン1Aと同様に、第1領域において周方向に延在する周方向溝部20cと、第2領域においてピストン頂面3に開放する端部20eを有するので、上記ピストン1Aと同様の作用効果を奏することができる。加えて、溝20Bは全周に亘って連続的に延びるので、仮に、第2領域9A2表面またはその周囲に圧力波が伝播するような場合であっても、さらに、溝20を介してより適切に圧力を開放することができる。
【0045】
なお、溝20Bは、溝20Aと同様に、周方向溝部20cから離れて端部20eに近づくに連れて次第に溝断面積が減少するように形成されるが、周方向溝部20c以外の溝20Bの部分は全て同じ溝断面積を有するように形成されることもできる。ただし、周方向溝部20c以外の溝20Bの部分の溝断面積は、周方向溝部20cの溝断面積よりも小さいとよい。周方向溝部20c以外の溝20Bの部分は、溝20を介したピストン頂面3への圧力開放特性に優れ、かつ、頂面3から溝20Bへの圧力波の進入を抑制するように、設計されるとよい。
【0046】
以上、上記したように、本発明の実施形態に係るピストン1A、1Bは、圧力減衰用の溝20A、20Bを備えた。しかし、本発明に係るピストンは、それら実施形態に限定されず、頂面に開放する端部を有すると共にピストン頂面に隣接するピストンのトップランド外周側面に形成された種々の溝を備えることができる。
【0047】
また、上記実施形態に係るピストン1A、1Bは、その頂面に、燃焼室の流体の流れを制御するように形成される凸部、例えばスキッシュ部15を備えないが、本発明に係るピストンはそのような凸部を備えてもよい。例えば、上記したピストン1に、溝20Aまたは溝20Bが形成されることができる。この場合、第1領域はスキッシュ接続トップランド9Lであるとよい。上記したピストン1に溝20Aまたは溝20Bが形成された場合、図3に表された圧力波P2は他の圧力波P1F、P1Rと衝突する前に、好ましくはトップリングに到達する以前に溝20Aまたは溝20Bを介して燃焼室に開放され得る。したがって、図3に示されたような圧力波P1F、P1R、P2の衝突を防ぐことができ、その結果、ピストン表面に荒れが生じることを抑制することができる。
【0048】
また、上記実施形態では、第1領域は、ピストンの中心線Oを含む平面を定義するとき、該平面によって分けられる該ピストンの一方の側部において2つの吸気弁リセスの間に延在するように定められる領域であったが、他の範囲を有する領域であってもよい。第1領域は、好ましくは、実験に基づいて定められるとよく、溝の形状(深さ、幅など)および溝の本数なども同様に実験に基づいて定められるとよい。例えば、第1領域は、排気弁リセスに挟まれるように延びる領域であってもよく、または、吸気弁リセスと排気弁リセスとに挟まれるように延びる領域であってもよい。
【0049】
なお、本発明に係るピストンは、種々の内燃機関に適用され得る。好ましくは、本発明に係るピストンは、過給機を備えた内燃機関など、筒内圧を高めるための構成を備えた内燃機関に適用される。
【0050】
本発明には、特許請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が含まれる。従って本発明は、限定的に解釈されるべきではなく、本発明の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0051】
1A、1B ピストン
2 外周側面
3 頂面
4 トップリング溝
5 セカンドリング溝
6 サードリング溝
8 トップランド
9 トップランド外周側面
9L スキッシュ接続トップランド
12F 前側吸気弁リセス
12R 後側吸気弁リセス
14F 前側切欠き形状部
14R 後側切欠き形状部
15 スキッシュ部
20A,20B 溝
20c 周方向溝部
20e 端部
O ピストン中心線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関用のピストンであって、
該ピストンの頂面に隣接する該ピストンのトップランド外周側面に、前記頂面に開放する端部を有する溝を形成したことを特徴とするピストン。
【請求項2】
前記溝は、前記端部につながり前記トップランド外周側面に周方向に延びる周方向溝部を含むことを特徴とする請求項1に記載のピストン。
【請求項3】
前記ピストンは、前記トップランド外周側面に隣接するように該ピストンの前記頂面に形成された2つの凹部を備え、
該ピストンの中心線を含む平面を定義するとき、該平面によって分けられる該ピストンの一方の側部に該2つの凹部は存在し、
前記溝の前記周方向溝部は、該ピストンの前記一方の側部において前記2つの凹部の間に延在するように定められる前記トップランド外周側面の第1領域において周方向に延在し、
前記溝の前記端部は、前記トップランド外周側面の該第1領域とは異なる第2領域において前記頂面に開放する
ことを特徴とする請求項2に記載のピストン。
【請求項4】
前記溝の前記周方向溝部は前記ピストンの全周に連続的に延びることを特徴とする請求項2または3に記載のピストン。
【請求項5】
前記溝は前記トップランド外周側面のうちの前記頂面側の部分に形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のピストン。
【請求項6】
前記溝は該溝の前記端部に近づくに従って該溝の断面積が減少するように形成されていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のピストン。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載のピストンを備えたことを特徴とする火花点火式内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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