説明

ピストンにピンホールを形成する方法およびそのための穿孔システム

ピストンピンホール穿孔システムおよびこれを用いてピンホールを形成する方法は、ピストンを、スライド部材によって支持された固定具に固定することを含む。次に、切削部材を第1の軸を中心として回転させ、上に固定具を載せた状態でスライド部材を第1の軸に沿って切削部材に向けて移動させ、ピストンを切削部材と切削接触させる。さらに、固定具を、各々第1の軸と交差して延びる第2の軸および第3の軸に沿って移動させ、ピストンに、ピンホールの所望の輪郭を、切削部材を用いて機械加工によって形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
1.技術分野
本発明は、概してピストンに関し、より具体的にはピストンにピンホールを形成する方法およびそのための穿孔システムに関する。
【背景技術】
【0002】
2.関連技術
ピストンは、リストピンを受けるように構成された、直径方向に対向するピンホールを有する。リストピンは、コネクティングロッドに接続されてクランクシャフトの回転運動をシリンダボアにおけるピストンの往復線形運動に変換する。リストピンは、要望に応じてピンホール内においておよび/またはコネクティングロッドのボアに対して相対的に移動するように構成することができる。いずれにせよ、リストピンとピンホールおよび/またはコネクティングロッドのボアとの間の摩擦による磨耗を最小にすることが望ましい。したがって、それぞれの孔を正確に形成することは、この組立品に長い耐用年数を与える上で重要である。
【0003】
通常、ピストンのピンホールは、ピストンを固定位置で保持しつつ切削工具をピストンのピンボスを通して線形的に動かすことによって形成される。典型的には、ピンホールは、時を異にして別々の作業によって形成されるか、または、同時に、ピストンの両側に配置された別々の切削工具を用いて形成される。切削工具は、回転し、かつ、ピストンの中央の長手方向の軸と交差する軸に沿って線形的に移動するように、構成される。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明のある局面に従うピストンピンホール穿孔システムは、第1の軸を中心として回転可能な切削部材と、第1の軸に沿って切削部材から間隔を置いて設けられたスライド部材とを備える。スライド部材は、第1の軸に沿って切削部材に向かう方向および切削部材から遠ざかる方向に移動できる。さらに、固定具が、スライド部材によって支持され、固定具に対して固定される関係にあるピストンを支えるように構成される。固定具は、第1の軸と交差して延びる第2の軸に沿って、および、第2の軸と異なる第3の軸に沿って移動可能であり、第3の軸は第1の軸と交差して延びる。
【0005】
本発明の別の局面に従い、ピストンにピンホールを形成する方法が提供される。この方法は、ピストンを固定具に固定するステップを含む。次に、切削部材を第1の軸を中心として回転させ、固定具を第1の軸に沿って移動させて、ピストンを切削部材と切削接触させる。さらに、固定具を、第1の軸と交差して延びる第2の軸に沿って、および、第2の軸と異なる第3の軸に沿って移動させる。第3の軸は第1の軸と交差して延びる。
【0006】
本発明の上記およびその他の局面、特徴、および利点は、現在好ましい実施の形態および最良の形態についての以下の詳細な説明、下記請求項、および添付の図面と関連付けて検討されると、さらに容易に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の現在好ましい1つの局面に従って構成されたピストンピンホール穿孔システムの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
現在好ましい実施の形態の詳細な説明
より詳しく図面を参照すると、図1は、現在好ましい1つの実施の形態に従って構成されたピストンピンホール穿孔システム10を示している。このシステム10は、車両の内燃機関(図示せず)のピストン13に、円形または非円形の任意の周囲輪郭形状を有するピストンピンホール12を形成するように機能することができる。所望の輪郭形状は、制御システム14を通して制御されたフィードバックを行なうことにより正確に形成できる。このシステム10は、切削部材16と、スライド部材18と、固定具20とを含む。切削部材16は第1の軸22を中心として回転可能であり、スライド部材18は、矢印Axで示すように第1の軸22に沿って切削部材16に向かう方向および切削部材から遠ざかる方向に移動することができる。固定具20は、スライド部材18によって支持され、矢印Ayで示すように、第1の軸22と交差または実質的に交差して延びる第2の軸24に沿って、スライド部材に対して相対的に移動することができ、また、矢印Azで示すように、第1の軸22と交差または実質的に交差して延び、好ましくは第2の軸24と交差または実質的に交差して延びる第3の軸26に沿っても、移動することができる。固定具20は、固定具と固定された関係にあるピストン13を支えるように構成される。このため、ピストン13は、固定具20とともに移動することができ、スライド部材18とともに移動することもできる。したがって、ピストン13は、第1の軸22、第2の軸24、および第3の軸26に沿って、切削部材16に対して相対的に移動することができ、これによって、ピンホール12を要望に応じて任意の適切な周囲形状となるように形成することができる。
【0009】
切削部材16は、切歯または研削面の任意の適切な構成を有する切削工具として設けることができる。切削部材16を用いて、ピンホール12のうち1つのピンホール、または、横方向に間隔を置いて設けられたピンボス25、27に1対のピンホール12を、一回の処理で形成することができる。よって、直径方向に対向するおよび/または横方向に間隔を置いて設けられた1対のピンホール12を、一回の処理で形成することができる。したがって、好ましくは、横方向に間隔を置いて設けられたピンボス25、27双方を通って延びるのに十分な長さを有する切削部材16が与えられる。切削部材16は、第1の軸22を中心として回転することができるが、ピンホール形成処理の間は第1の軸22に沿った固定位置で維持することができる。
【0010】
スライド部材18は、切削部材16から第1の軸22に沿って間隔を置いて設けられる。スライド部材18は、ベース28によって支持され、第1の軸22に沿って切削部材16に向かう方向および切削部材16から遠ざかる方向において実質的に直線の線形経路に沿い、ベース28に対して相対的に移動して、ピンホール切削処理を開始および終了するように構成される。ピストン13および固定具20は、スライド部材18が第1の軸22に沿って前進して切削部材16と最初に切削係合する際、スライド部材18に対して固定された状態を保つことができる。スライド部材18は、第1の軸22に沿い、横方向に間隔を置いて設けられたピンボス25、27のうち少なくとも一方または双方を切削部材16と切削接触させるのに足りるだけ移動する。したがって、ピンホール12のうち一方または双方を、1つの切削部材16によって一回の切削処理で形成できる。このため、切削部材16は、所望の切削位置に移動したときに、ピンボス25、27のうちの一方または双方を通って延びることになる。
【0011】
スライド部材18が第1の軸22に沿って所望の位置まで進み、ピストンのピンボス25、27のうち一方または双方が切削部材16と切削係合した状態で、その上にピストン13を載せた固定具20を、第2の軸24および第3の軸26に沿って、同時におよび/または別々に、移動させる。ピストン13を固定具20とともに移動させている間、スライド部材18を静止位置で維持できる。さらに、固定具20を第2の軸24および第3の軸26に沿って移動させている間、切削部材16は、要望に応じて変化させることができる所望のrpmで、第1の軸22を中心としてこれと同軸の関係で回転し続ける。したがって、固定具20が第1の軸22と交差して延びる第2の軸24および第3の軸26に沿って移動すると、切削部材16の一部分はピストン13と切削接触し、それと同時に切削部材16の別の部分はピストン13と切削接触しない状態を保っている。ピストン13が第2の軸24および第3の軸26に沿って固定具20とともに移動すると、切削部材16のうち、ピストン13と切削接触する部分および切削接触しなくなる部分は、連続的に変化する。
【0012】
固定具20およびこれに装着されたピストン13を第2の軸24および/または第3の軸26に沿って移動させている間、制御システム14を介して機械加工を正確に制御することができる。固定具20が第2の軸24および/または第3の軸26に沿って移動する際、リニアモータ制御システム14を介して閉ループフィードバックを継続的に監視することにより、機械加工されるピンホール12が確実に正確な形状の輪郭を有するようにすることができる。
【0013】
したがって、この革新的なシステム10は、革新的なピンホール形成方法によってピンホール12を形成するのに役立つ。この方法は、ピストン13を固定具20に固定するステップと、切削部材16を第1の軸22を中心として回転させるステップとを含み、切削部材の外径は、所望のピンホール直径よりも小さい。この方法はさらに、固定具20を第1の軸22に沿って移動させ、ピストン13を切削部材16と切削接触させるステップを含む。この方法は、固定具20を第1の軸22に沿って移動させている間、切削部材16を、第1の軸22に沿って並進移動しないように固定することを意図している。次に、ピストン13を、切削部材16に対して、所望の、実質的に固定された軸方向の関係を有するように位置決めした後、この方法は続けて、固定具20を、同時におよび/または別々に、第1の軸22と交差して延びる第2の軸24に沿い、および第1の軸22と交差して延びる第3の軸26に沿い、移動させる。切削部材16はピンボス25、27のうち一方または双方を通って完全に延びた状態である。この方法は、固定具20を第2の軸24および第3の軸26に沿って移動させている間、切削部材16の一部分を移動させてピストンと切削接触させ、同時に切削部材16の別の部分をピストンと切削接触しない状態に保つ。さらに、この方法は、閉ループ制御システム14からの制御されたフィードバックに応じて、第2の軸24および第3の軸26に沿う固定具20の移動を制御することを意図している。
【0014】
この方法はさらに、固定具20をスライド部材18の上で支持するステップと、固定具20を、第1の軸22に沿い切削部材16に向かう方向および切削部材16から遠ざかる方向に、スライド部材18とともに移動するように構成するステップとを含む。さらに、この方法は、固定具20を、第2の軸24および第3の軸26に沿い、スライド部材18および切削部材16に対して、制御された移動を行なうように構成することを含む。したがって、スライド部材18は、固定具20が第2の軸24および/または第3の軸26に沿って移動している間静止状態を保つことができ、切削部材26は、軸22を中心として回転する以外、固定された状態を保つことができる。ピストン13は、固定具20に対して固定された状態を保つので、固定具とともに移動することが理解されるはずである。
【0015】
この方法はさらに、固定具20を第1の軸22に沿って移動させながら、切削部材16を、ピストン13の横方向に間隔を置いて設けられたピンボスと切削接触させるステップを含む。このため、ピンホール12のうち一方または双方を、一回の機械加工処理で形成できる。言うまでもなく、この方法が、要望に応じて、一方のピンホール12をピンボスのうち一方に形成した後、ピストン13をその長手方向の中心軸を中心として回転させて反対側のピンボスに他方のピンホール12を形成することも意図していることが理解されるはずである。
【0016】
上記教示に照らして本発明の数多くの変形および修正が可能であることは明らかである。したがって、下記請求項の範囲内で本発明を具体的に記載した態様以外のやり方で実施し得ることが理解されるはずである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンピンホール穿孔システムであって、
第1の軸を中心として回転可能な切削部材と、
前記第1の軸に沿って前記切削部材から間隔を置いて設けられたスライド部材とを備え、前記スライド部材は、前記第1の軸に沿って前記切削部材に向かう方向および前記切削部材から遠ざかる方向に移動可能であり、
固定具を備え、前記固定具は、前記スライド部材によって支持され、前記固定具に対して固定される関係にあるピストンを支えるように構成され、前記固定具は、前記第1の軸と交差して延びる第2の軸に沿って、および、前記第2の軸と異なる第3の軸に沿って、移動可能であり、前記第3の軸は前記第1の軸と交差して延びる、ピストンピンホール穿孔システム。
【請求項2】
前記切削部材は、前記第1の軸に沿って移動しないように固定される、請求項1に記載のピストンピンホール穿孔システム。
【請求項3】
前記固定具と連絡して機能できるように構成された閉ループリニアモータ制御システムをさらに備える、請求項1に記載のピストンピンホール穿孔システム。
【請求項4】
前記スライド部材は、前記ピストンの横方向に間隔を置いて設けられたピンボスを通して前記切削部材を移動させるのに十分なだけ前記第1の軸に沿って移動するように構成される、請求項1に記載のピストンピンホール穿孔システム。
【請求項5】
前記第3の軸は前記第2の軸と交差して延びる、請求項1に記載のピストンピンホール穿孔システム。
【請求項6】
ピストンにピンホールを形成する方法であって、
ピストンを固定具に固定するステップと、
切削部材を第1の軸を中心として回転させるステップと、
前記固定具を前記第1の軸に沿って移動させ、前記ピストンを前記切削部材と切削接触させるステップと、
前記固定具を、前記第1の軸と交差して延びる第2の軸に沿っておよび前記第2の軸と異なる第3の軸に沿って移動させるステップとを含み、前記第3の軸は前記第1の軸と交差して延びる、方法。
【請求項7】
前記固定具をスライド部材上で支持し、前記固定具を、前記第1の軸に沿って前記切削部材に向かう方向および前記切削部材から遠ざかる方向に、前記スライド部材とともに移動するように構成するステップをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記固定具を、前記第2の軸および前記第3の軸に沿って前記スライド部材に対して相対的に移動するように構成するステップをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記固定具を前記第1の軸に沿って移動させるステップの間、前記切削部材を、前記ピストンの、横方向に間隔を置いて設けられたピンボスと、切削接触させるステップをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記切削部材を、前記第1の軸に沿って移動しないように固定するステップをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
前記固定具を、閉ループ制御システムからのフィードバックに応じて、前記第2の軸および前記第3の軸に沿って移動させるステップをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項12】
所望のピンホール径よりも小さい外径を有する切削部材を与えるステップをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項13】
前記切削部材の一部分を移動させて前記ピストンと切削接触させそれと同時に前記切削部材の別の部分を前記ピストンと切削接触しない状態に保つステップをさらに含む、請求項6に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2012−531320(P2012−531320A)
【公表日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−517638(P2012−517638)
【出願日】平成22年6月22日(2010.6.22)
【国際出願番号】PCT/US2010/039431
【国際公開番号】WO2011/005498
【国際公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(599058372)フェデラル−モーグル コーポレイション (234)
【Fターム(参考)】