説明

ピストン構造

【課題】排気性能が悪化することなく、燃費を向上でき、また出力を向上できるピストン構造を提供する。
【解決手段】ピストンベース体(10)と、ピストンベース体(10)のクラウン部(10a)の裏面に形成された陽極酸化被膜層(11)と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃エンジンに用いられるピストンの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、トップリング溝の凝着磨耗を防止するために、トップリング溝を陽極酸化処理したピストンの構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−151953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ベース部材に対して放射率が高い陽極酸化処理を施すことで、ベース部材に対して放熱性能が向上することが知られている。前述した特許文献による構造では、トップリング溝およびクラウン部の上面に陽極酸化処理されているため、ピストンの気筒内側への放熱性能は向上するが、気筒外側への放熱性能は従来と同等である。そのため、気筒内部から外部へ放熱する性能は従来と同等である。
【0005】
本発明は、このような従来の問題点に着目してなされたものであり、本発明の目的は、排気性能が悪化することなく、燃費を向上でき、また出力を向上できるピストン構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下のような解決手段によって前記課題を解決する。
【0007】
本発明のピストン構造は、ピストンベース体と、ピストンベース体のクラウン部の裏面に形成された陽極酸化被膜層と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、クラウン部の裏面に陽極酸化被膜層を形成することで、クラウン部の熱が逃げやすくなる。この放熱効果に応じて点火時期を進角したり圧縮比を上げることで、燃費を向上でき、また出力を向上できる。
【0009】
本発明の実施形態、本発明の利点については、添付された図面を参照しながら以下に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明によるピストン構造の第1実施形態を示す図である。
【図2】図2は、本発明によるピストン構造の第2実施形態を示す図である。
【図3】図3は、燃料を塗布してからの経過時間(横軸)とHC量(縦軸)との相関を示す図である。
【図4】図4は、陽極酸化被膜層の厚さ違いによる陽極酸化被膜層の表面写真である。
【図5】図5は、陽極酸化被膜層の厚さを変更したときの未燃燃料(HC)の排出量の相関を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
図1は本発明によるピストン構造の第1実施形態を示す図であり、図1(A)は斜視図、図1(B)は縦断面図である。
【0012】
本実施形態のピストン1のピストンベース体10は、クラウン部10aと、それに連続するピストンピンボス部10b及びスカート部10cと、を含む。
【0013】
クラウン部10aには、トップリング溝101と、セカンドリング溝102と、オイルリング溝103と、が形成される。
【0014】
そして本実施形態では、クラウン部10aの裏面に、陽極酸化被膜層11が形成されている。
【0015】
なおピストンベース体10はたとえばアルミニウム合金製である。そして、陽極酸化被膜層11は、たとえばアルマイト層である。このような陽極酸化被膜層11は、ピストンベース体10が陽極酸化処理浴に入れられて時間及び電流が適切に管理されることで形成される。
【0016】
本実施形態のように、クラウン部10aの裏面に、陽極酸化被膜層11を形成することで、ピストンベース体10の放射率が高くなる。すなわち熱が放射されやすくなる。
【0017】
そのためクラウン部10aの熱が逃げやすくなる。この放熱効果に応じて点火時期を進角することが可能になる。また圧縮比を上げることが可能になる。
【0018】
これによって、燃費が向上され、また出力が向上される。
【0019】
(第2実施形態)
図2は、本発明によるピストン構造の第2実施形態を示す図である。
【0020】
本実施形態では、さらに、クラウン部10aの表面にも、陽極酸化被膜層12を形成する。
【0021】
この陽極酸化被膜層12は、薄いこととが好ましい。特にクラウン部10aの裏面の陽極酸化被膜層11よりも薄いことが望ましい。また、具体的には10μm以下であることが望ましい。これについて説明する。
【0022】
図3は、燃料を塗布してからの経過時間(横軸)とHC量(縦軸)との相関を示す図である。
【0023】
菱形は、アルミニウム合金製のベース体に対して陽極酸化被膜層を形成することなく直接燃料を塗布したときの経過時間ごとのHC量を示す。
【0024】
円は、アルミニウム合金製のベース体に対して形成された膜厚10μmの陽極酸化被膜層に燃料を塗布したときの経過時間ごとのHC量を示す。
【0025】
四角は、アルミニウム合金製のベース体に対して形成された膜厚30μmの陽極酸化被膜層に燃料を塗布したときの経過時間ごとのHC量を示す。
【0026】
この図から判るように、陽極酸化被膜層の膜厚が10μmのときのHC量は、陽極酸化被膜層を形成しない場合と同様である。これに対して陽極酸化被膜層の膜厚が30μmのときは、時間が経過してもHC量が多いことが判る。
【0027】
図4は陽極酸化被膜層の厚さ違いによる陽極酸化被膜層の表面写真であり、図4(A)は陽極酸化被膜層が10μmの場合を示し、図4(B)は陽極酸化被膜層が30μmの場合を示す。
【0028】
図3のような結果が得られた理由について、発明者らは以下のように推測する。
【0029】
図4(A)に示されるように、陽極酸化被膜層が10μmでは、微細な凹部(孔部)がほとんど存在しない。しかしながら、陽極酸化被膜層が30μmでは、図4(B)に示されるように、微細な凹部(孔部)が存在する。そして発明者らによって、この凹部(孔部)に未燃燃料(HC)が残留しやすいので、陽極酸化被膜層の膜厚が30μmのときは、時間が経過してもHC量が多いという結論に達したのである。
【0030】
図5は、陽極酸化被膜層の厚さを変更したときの未燃燃料(HC)の排出量の相関を示す図である。
【0031】
図3のような結果から、発明者らは、陽極酸化被膜層の厚さを変更したときの未燃燃料(HC)の排出量の相関図(図5)を得た。
【0032】
これによって排気性能を悪化させないためには、陽極酸化被膜層の厚さを10μm以下ですることが望ましいという結論を得たのである。
【0033】
本実施形態によれば、クラウン部10aの表面にも、陽極酸化被膜層12が形成されたので、第1実施形態に比べて、さらに熱が放射されやすくなる。したがってこの放熱効果に応じて点火時期をさらに進角することが可能になる。また圧縮比をさらに上げることが可能になる。したがって第1実施形態よりも、さらに、燃費が向上され、また出力が向上されるのである。
【0034】
また本実施形態では、クラウン部10aの表面の陽極酸化被膜層12を、裏面の陽極酸化被膜層11よりも薄くした。このようにすることで、陽極酸化被膜層に形成される凹部が浅くなり、未燃燃料(HC)が排出されにくくなる。
【0035】
さらに本実施形態では、陽極酸化被膜層12の膜厚を10μm以下とした。このようにすることによっても、陽極酸化被膜層に形成される凹部が浅くなって未燃燃料(HC)が残留しにくくなり、排気性能への影響を抑制できる。
【0036】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0037】
1 ピストン
10 ピストンベース体
10a クラウン部
10b ピストンピンボス部
10c スカート部
11 クラウン部の裏面の陽極酸化被膜層
12 クラウン部の表面の陽極酸化被膜層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンベース体と、
前記ピストンベース体のクラウン部の裏面に形成された陽極酸化被膜層と、
を有するピストン構造。
【請求項2】
請求項1に記載のピストン構造において、
前記ピストンベース体のクラウン部の表面に形成された陽極酸化被膜層をさらに有する、
ピストン構造。
【請求項3】
請求項2に記載のピストン構造において、
前記クラウン部の表面の陽極酸化被膜層は、前記裏面の陽極酸化被膜層よりも薄い、
ピストン構造。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載のピストン構造において、
前記クラウン部の表面の陽極酸化被膜層は、膜厚が10μmよりも薄い、
ピストン構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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