説明

ピストン構造

【課題】オイルの吹き返しが低減されてスムーズにクーリングチャネルに導入できるとともに、無用な重量増加を招かないピストン構造を提供する。
【解決手段】ピストン本体(10)と、ピストン本体(10)のクラウン部(11)の裏に設けられてクラウン部(11)の裏面とともにクーリングチャネルを形成し、かつ、オイルジェット(50)から供給されたオイルを取り込む入口(21a)が形成された流路拡大部(21)を備えるチャネル形成部材(20)と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃エンジンに用いられるピストンの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ピストンのクラウン部分にクーリングチャネルを形成することで、内燃エンジンのノッキングを回避することが知られている。クーリングチャネルは、ソルトコアによるロストフォーム工法によって形成されることが一般的である。これについて補足すると、クーリングチャネルの形状に形成された塩中子を、ピストン鋳造型の下方に固定して、アルミニウム合金の溶湯を流し込む。このときの熱によって中子が溶融して、残った中空の通路がクーリングチャネルとして形成されるという工法である。しかしながら、このような工法では、アルミニウムが鋳流れしやすいように厚肉にする必要がある。この結果、強度とは無関係な駄肉が存在して重量が無用に重くなる。
【0003】
これに対して、特許文献1では、ピストンクラウン部の裏面に、ピストン本体とは別体の部材を取り付けることで、クーリングチャネルを形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−79087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところでクーリングチャネルを流れるオイルは、オイルジェットから噴射されて供給される。このときに通常用いられているオイル導入口では、オイルが導入されにくく吹き返されることが発明者らによって知見された。
【0006】
本発明は、このような従来の問題点に着目してなされたものであり、本発明の目的は、オイルの吹き返しが低減されてスムーズにクーリングチャネルに導入できるとともに、無用な重量増加を招かないピストン構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下のような解決手段によって前記課題を解決する。
【0008】
本発明のピストン構造は、ピストン本体と、ピストン本体のクラウン部の裏に設けられてクラウン部の裏面とともにクーリングチャネルを形成するチャネル形成部材と、を含む。そして、チャネル形成部材には、オイルジェットから供給されたオイルを取り込む入口が形成された流路拡大部を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、チャネル形成部材には、流路拡大部が形成されている。そして流路拡大部にオイル導入口が形成されている。クーリングチャネルに導入されるオイルは、オイルジェットから噴射される。この場合に、上述の構成であれば、オイル導入口の付近の容積が大きいので、オイルジェットから噴射されたオイルがオイル導入口に入った後に、流れが滞りにくい。そのためオイルの吹き返しが低減されてオイル導入口からオイルがスムーズに導入される。またチャネル形成部材がピストン本体とは別体に形成することで、鋳流れを考慮する必要がなくなり、無用な重量増加を招かないのである。
【0010】
本発明の実施形態、本発明の利点については、添付された図面を参照しながら以下に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明によるピストン構造の第1実施形態に用いられるピストン本体を示す図である。
【図2】図2は、本発明によるピストン構造の第1実施形態に用いられるチャネル形成部材を示す図である。
【図3】図3は、本発明によるピストン構造の第1実施形態を示す下面図である。
【図4】図4は、第1実施形態の作用効果を説明する図である。
【図5】図5は、本発明によるピストン構造の第2実施形態に用いられるピストン本体を示す図である。
【図6】図6は、第2実施形態の作用効果を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1実施形態)
図1は本発明によるピストン構造の第1実施形態に用いられるピストン本体を示す図であり、図1(A)は縦断面図、図1(B)は下面図である。
【0013】
ピストン本体10は、たとえばアルミニウム合金製である。ピストン本体10は、クラウン部11と、それに連続するスカート部12と、を含む。クラウン部11の裏面には、凹部11aが形成される。
【0014】
図2は本発明によるピストン構造の第1実施形態に用いられるチャネル形成部材を示す図であり、図2(A)は全体斜視図、図2(B)は図2(A)のX1−X1断面図、図2(C)は図2(A)のX2−X2断面図、図2(D)は図2(A)のY−Y断面図である。
【0015】
チャネル形成部材20は、ピストン本体10のクラウン部11の裏の凹部11aに取り付けられる部材である。チャネル形成部材20は、クラウン部11の裏面とともにクーリングチャネルを形成する。ピストンを冷却するオイルがチャネル形成部材20の内側を流れる。チャネル形成部材20は、上方から見ると長辺と短辺とを備える略四角枠形である。チャネル形成部材20の2箇所に、流路拡大部21が形成される。そして流路拡大部21には、孔21aが形成される。チャネル形成部材20は、軸線(Z軸)を中心とする点対称な形状である。
【0016】
チャネル形成部材20の長辺の断面、すなわち図2(A)のX1−X1断面では、図2(B)に示されるように、チャネル形成部材20は、軸線(Z軸)を中心とする左右対称な形状である。この断面では、チャネル形成部材20は、高さHよりも幅Wが大である楕円の四半円弧形である。
【0017】
図2(A)のX2−X2断面では、図2(C)に示されるように、軸線(Z軸)の左の形状は、図2(B)と同じである。軸線(Z軸)の右の形状は、図2(B)の形状にさらに上面が延長されて流路拡大部21が形成される。流路拡大部21には、孔21aが形成される。
【0018】
チャネル形成部材20の短辺の断面、すなわち、図2(A)のY−Y断面では、図2(D)に示されるように、チャネル形成部材20は、軸線(Z軸)を中心とする左右対称な形状である。この断面では、チャネル形成部材20は、高さよりも幅が大である楕円管形である。この楕円管形の外周面には、微細凹凸を形成しておくとよい。またピストン本体10のクラウン部11の裏面であってチャネル形成部材20との当接面にも、微細凹凸を形成しておくとよい。このように微細凹凸を形成しておけば、実表面積が拡大するので、熱伝達量が増える。したがって、ピストンとオイルとが熱交換しやすくなり、ピストンを冷却しやすくなる。なお微細凹凸を形成するには、たとえば陽極酸化処理すればよい。陽極酸化処理すれば、直径がマイクロオーダーの縦孔が表面に形成される。また他にも化学処理することで表面を荒らすことで微細凹凸を形成してもよい。
【0019】
図3は、本発明によるピストン構造の第1実施形態を示す下面図である。
【0020】
図3に示されるように、チャネル形成部材20は、ピストン本体10のクラウン部11の裏に取り付けられる。本実施形態では、チャネル形成部材20の短辺がピストンピンに平行になるように、チャネル形成部材20が取り付けられる。この取り付けは、たとえば、たとえばピストン本体10のクラウン部11の裏に溶剤を塗布しておき、チャネル形成部材20を押し付けて加熱することで界面接合(接着)させればよい。なおチャネル形成部材20がピストン本体10のクラウン部11の裏に取り付けられるときに、流路拡大部21が、ピストン本体10のクラウン部11の裏面に当接させられて、位置の仮決めがなされる。また、チャネル形成部材20の短辺がピストン本体10のクラウン部11の裏面に当接させられて、位置の仮決めがなされてもよい。
【0021】
図4は第1実施形態の作用効果を説明する図であり、図4(A)は比較形態を示し、図4(B)は本実施形態を示す。なお矢印は、オイルの流れる方向を示す。
【0022】
図4(A)に示された比較形態のチャネル形成部材20には、流路拡大部は形成されていない。チャネル形成部材20の流路形状は一様である。そしてその流路の一部に孔20aが形成されてる。オイルジェット50から噴射されたオイルは、孔20aからクーリングチャネルに導入される。このような場合には、オイルジェット50から噴射されたオイルが、孔20aに入った後に、流れが滞りやすい。そのため孔20aに入らずに吹き返されるオイルが多かった。
【0023】
これに対して、図4(B)に示された本実施形態のチャネル形成部材20には、流路拡大部21が形成されている。そして流路拡大部21に孔21aが形成されてる。オイルジェット50から噴射されたオイルは、孔21aからクーリングチャネルに導入される。このような場合には、オイルの導入口(孔21a)の付近の容積が大きいので、オイルジェット50から噴射されたオイルが、孔21aに入った後に、流れが滞りにくい。そのため孔21aからオイルがスムーズに入る。なおクーリングチャネルを流れたオイルは、もう一方の孔21aから排出する。すなわち、一方の孔21aがオイル導入口であり、もう一方の孔21aがオイル排出口である。
【0024】
また本実施形態では、ピストン本体10に、ピストン本体10とは別体のチャネル形成部材20を取り付けることで、クーリングチャネルを形成する。このようにするので、材料の鋳流れを考慮して無用に厚肉にする必要がない。またピストン本体10は同一のまま、チャネル形成部材20の有無によって、クーリングチャネル付きのピストンとクーリングチャネル無しのピストンとを作り分けることができる。したがってピストンの製造コストが安価である。
【0025】
さらに本実施形態では、チャネル形成部材20は、断面によっては、四半楕円弧形であり、クラウン部11の裏面とともにクーリングチャネルを形成する。このようになっているので、チャネル形成部材20を形成するための材料が少なくて済む。そのためチャネル形成部材20が軽量である。チャネル形成部材20の材料は問われないが、特に樹脂材料であれば非常に軽量である。またチャネル形成部材20がクラウン部11の裏面とともにクーリングチャネルを形成するので、オイルがクラウン部11の裏面に直接接触する。したがってピストンを冷却しやすい。またチャネル形成部材20は、高さHよりも幅Wが大であるので、高さHよりも幅Wが小であるよりも、オイルがクラウン部11の裏面に接触する面積が大きく、ピストンを冷却しやすい。またクーリングチャネルを楕円形にすることで、内部を流れるオイルが暴れにくくなり、冷却効率がよい。
【0026】
さらにまた、チャネル形成部材20は、軸線(Z軸)を中心とする点対称な形状である。そのため、入口から軸線に対して一方周りで出口に向かう流路と軸線に対して他方周りで出口に向かう流路との間での流路抵抗の差が小さくなり、流路を通流するオイルの流れが流路によらずより均質となるため、ピルトンの冷却性能の部位による偏りが生じず均質となる。加えて、チャネル形成部材20をクラウン部11の裏面に取り付けるときに回転方向の位置がズレていても最大でも90度回転させれば正規な位置になるので、量産しやすい。
【0027】
またピストンの裏には、製造時の型抜きのために抜き勾配が付けられている。これをガイドとして利用することで、チャネル形成部材20の位置決めが容易になる。チャネル形成部材20がピストン本体10のクラウン部11の裏に取り付けられるときに、流路拡大部21が、ピストン本体10のクラウン部11の裏面に当接させられて、位置の仮決めがなされる。またチャネル形成部材20の短辺がピストン本体10のクラウン部11の裏面に当接させられて、位置の仮決めがなされる。そのため位置の仮決めが安定する。
【0028】
さらにピストン本体10のクラウン部11の裏面であってチャネル形成部材20との当接面や、チャネル形成部材20の外周面であって、ピストン本体10のクラウン部11の裏面との当接領域に微細凹凸が形成されれば、実表面積が拡大するので、熱伝達量が増える。したがって、ピストンとオイルとが熱交換しやすくなり、ピストンを冷却しやすくなる。また両者を接着しやすくなる。
【0029】
(第2実施形態)
図5は、本発明によるピストン構造の第2実施形態に用いられるピストン本体を示す図であり、図5(A)は縦断面図、図5(B)は下面図である。
【0030】
なお以下では前述と同様の機能を果たす部分には同一の符号を付して重複する説明を適宜省略する。
【0031】
本実施形態のクラウン部11の裏面の凹部11aには、溝11bが形成される。また本実施形態のチャネル形成部材20は、弾性変形可能である。本実施形態のチャネル形成部材20は、たとえば樹脂製である。
【0032】
図6は、第2実施形態の作用効果を説明する図である。
【0033】
本実施形態のチャネル形成部材20は、弾性変形可能であるので、チャネル形成部材20は、溝11bのエッジを乗り越えて、溝11bにカチッと嵌ることができる。したがって、チャネル形成部材20が仮保持され、チャネル形成部材20がクラウン部11の裏面の正確な位置に接着される。
【0034】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0035】
たとえば、実施形態中に記載された各部材の材料は、一例に過ぎない。本発明の作用効果が得られるものであれば、任意に変更可能である。
【0036】
なお各実施形態は、適宜組み合わせ可能である。
【符号の説明】
【0037】
1 ピストン
10 ピストン本体
11 クラウン部
11a クラウン部の裏面の凹部
11b 溝
12 スカート部
20 チャネル形成部材
21 流路拡大部
21a 孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストン本体と、
前記ピストン本体のクラウン部の裏に設けられてクラウン部の裏面とともにクーリングチャネルを形成し、かつ、オイルジェットから供給されたオイルを取り込む入口が形成された流路拡大部を備えるチャネル形成部材と、
を含むピストン構造。
【請求項2】
請求項1に記載のピストン構造において、
前記チャネル形成部材は、軸線を中心とする点対称な形状であって、前記入口が形成された流路拡大部に加えて、前記クーリングチャネルを流れたオイルを排出する出口が形成された流路拡大部をさらに備える、
ピストン構造。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のピストン構造において、
前記流路拡大部は、前記ピストン本体のクラウン部の裏に取り付けられるときに、前記ピストン本体のクラウン部の裏面に当接させられて、位置の仮決めがなされる、
ピストン構造。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のピストン構造において、
前記チャネル形成部材は、長辺及び短辺を備え、前記ピストン本体のクラウン部の裏に取り付けられるときに、短辺が前記ピストン本体のクラウン部の裏面に当接させられて、位置の仮決めがなされる、
ピストン構造。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のピストン構造において、
前記ピストン本体のクラウン部の裏面であって前記チャネル形成部材との当接面には、微細凹凸が形成される、
ピストン構造。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載のピストン構造において、
前記チャネル形成部材の外周面であって、前記ピストン本体のクラウン部の裏面との当接領域には、微細凹凸が形成される、
ピストン構造。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載のピストン構造において、
前記チャネル形成部材は、弾性変形可能であって、前記ピストン本体のクラウン部の裏に形成された溝に嵌る、
ピストン構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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