説明

ピストン

【課題】冷却空洞部内を逆流するオイルと新たに冷却空洞部へ供給されるオイルとが互いに干渉しないようにした内燃機関のピストンを提供する。
【解決手段】ピストン7内には、ピストン7を冷却するためのオイルが循環する冷却空洞部10が形成されている。冷却空洞部10の供給部12内には、開口12aから供給部12内を通って循環部11の内部まで延びる湾曲した板状の2つのガイド21,21が設けられている。2つのガイド21,21の間に、導入経路22が構成されている。ガイド21,21の外側にはそれぞれ、排出経路23,23が構成されている。導入経路22の入口22aと排出経路23の出口23bとは面一となっており、供給部12の開口12aを構成する。導入経路22の出口22bは、循環部11の内部に位置しており、排出経路23の入口23aは、循環部11の底部11aに形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ピストンに係り、とくに、内燃機関のピストンの冷却に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関のピストンは、内燃機関の稼動中、常に高温・高圧にさらされるため、ピストンを冷却する必要がある。例えば、特許文献1に記載されるように、ピストンに環状の冷却空洞部を設け、この冷却空洞部に、オイルギャラリを流れるオイルの一部を噴出するオイルジェットにより、オイルを供給して循環させる方法が行われている。
図9は、ピストンに設けられた冷却空洞部の一部の断面図である。図9に示されるように、このような冷却空洞部90は、オイルが供給される供給部91とピストンの全周にわたって形成された管状の循環部92とを備えている。供給部91から供給されたオイルは、循環部92内をピストンの円周方向(矢印A,A’)に循環して、図示しない排出部から排出される。オイルが循環部92内を循環する際に、オイルがピストンの熱を奪うことによってピストンを冷却する。
【特許文献1】実公昭61−23635号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、ピストンは、内燃機関の稼動中、常に上下方向に往復運動をしているため、ピストンに上下方向の加速度が生じ、これにより循環部92内のオイルに慣性力を生じさせる。すると、循環部92内に供給されたオイルの一部は、供給部91に向かって逆流してしまう(矢印B,B’)。この逆流したオイルが、新たに供給部91へ供給されるオイル(矢印C)と干渉し、循環部92内へのオイルの導入を阻害してしまうといった問題点があった。
【0004】
この発明は、このような問題点を解決するためになされたもので、冷却空洞部内を逆流するオイルと新たに冷却空洞部へ供給されるオイルとが互いに干渉しないようにしたピストンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明に係るピストンは、内燃機関のシリンダブロック内部の上方に設けられたシリンダ内を上下方向に移動するピストンであって、ピストン内に形成された環状円筒管と、環状円筒管と連通し、オイルが供給される供給部と、環状円筒管と連通し、環状円筒管を流通したオイルが排出される排出部とを有する冷却空洞部を備えるピストンにおいて、シリンダブロックに設けられたオイルジェットから供給部に向けてオイルが噴射されることにより、オイルが供給部に供給され、供給部は、供給部に供給されたオイルが環状円筒管へ導入される導入経路と、導入経路とガイドとによって隔てられることで隣り合うように設けられ、環状円筒管内を供給部に向かって逆流するオイルが排出される排出経路とを備えることを特徴とする。供給部に供給されたオイルが環状円筒管へ導入される導入経路と、環状円筒管から供給部へオイルが逆流する排出経路とは隔てられているので、それぞれのオイルが互いに干渉しなくなる。
【0006】
ガイドは、板状に形成され、環状円筒管内部まで延びてもよい。
環状円筒管内におけるガイドの長さは、環状円筒管の内径の1/2〜2/3であることが好ましい。環状円筒管から供給部へ逆流するオイルと供給部に供給されるオイルとが、それぞれ確実に排出経路と導入経路とを流れるようになり、導入経路を流れるオイルは環状円筒管へ導入されやすくなる。
ガイドの排出経路に面する表面は、上端部に向かうに従って導入経路に対して反対方向に突き出ていてもよい。環状円筒管から供給部へ逆流するオイルが、ガイドの排出経路に面する表面に沿って流れるので、確実に排出経路に流入する。
導入経路の入口が、導入経路の出口よりも広くなっていてもよい。供給部に供給されたオイルが確実に導入経路に流入するようになる。
ガイドの排出経路に面する表面は、下端部に向かうに従って導入経路に対して反対方向に突き出しており、排出経路の出口付近が、導入経路に対して反対方向に曲がっていてもよい。排出経路を流れるオイルは、供給部に供給されたオイルから遠ざかるように、排出経路から排出されるので、それぞれのオイルが互いに干渉しにくくなる。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、ピストンを冷却するためのオイルが循環する冷却空洞部の供給部において、供給部に供給されたオイルが上昇する導入経路と循環部内を逆流するオイルが排出される排出経路とを隔てるように設けたので、それぞれのオイルが互いに干渉するのを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】この発明の実施の形態1に係るピストンを備えたディーゼルエンジンの一部の断面図である。
【図2】実施の形態1に係るピストン内に設けられた冷却空洞部の断面図である。
【図3】実施の形態1に係るピストン内に設けられた冷却空洞部の変形例の断面図である。
【図4】実施の形態2に係るピストン内に設けられた冷却空洞部の断面図である。
【図5】実施の形態3に係るピストン内に設けられた冷却空洞部の断面図である。
【図6】実施の形態3に係るピストン内に設けられた冷却空洞部の変形例の断面図である。
【図7】実施の形態3に係るピストン内に設けられた冷却空洞部の別の変形例の断面図である。
【図8】実施の形態4に係るピストン内に設けられた冷却空洞部の断面図である。
【図9】従来の冷却空洞部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
実施の形態1.
この実施の形態1に係るピストンについて、内燃機関であるディーゼルエンジンに用いられている場合を例に説明する。
図1に示されるように、ディーゼルエンジン1は、シリンダブロック2を備えている。シリンダブロック2内部の上方にはシリンダ6が設けられ、下方にはクランク室4が設けられている。クランク室4内には、クランク軸5が回転可能に設けられている。シリンダ6内には、ピストン7が上下方向に往復動可能に収容されている。ピストン7は、コンロッド8を介してクランク軸5に連結されている。
ピストン7内には、ピストン7を冷却するためのオイルが循環する冷却空洞部10が形成されている。冷却空洞部10は、ピストン7内に全周にわたって形成された環状円筒管である循環部11と、循環部11に連通すると共に鉛直下向きに延びる供給部12及び排出部13とを備えている。供給部12及び排出部13は円筒管であって、その下端はそれぞれ、クランク室4に向かって開口している。
シリンダブロック2には、オイルギャラリ14に連通すると共にオイルギャラリ14内のオイルの一部を噴出する、ノズル状のオイルジェット15が設けられている。オイルジェット15の先端15aは、供給部12の開口12aに対向しており、オイルジェット15から上向きに噴出されたオイルは、供給部12内へ供給されるようになっている。
【0010】
図2は、冷却空洞部10における、循環部11と供給部12との接続部分の断面図である。
図2(a)に示されるように、供給部12内には、開口12aから供給部12内を通って循環部11の内部まで延びる湾曲した板状の2つのガイド21,21が設けられている。循環部11内におけるガイド21の長さLは、循環部11の開口径Rの1/2となっている。尚、この長さLの値は、小さすぎると逆流するオイルと新たに供給されるオイルとを隔てる効果が低下し、逆に大きすぎるとオイルを循環部11へ導入する間口が狭くなるため、オイルが循環部11へ導入されにくくなる。これらを考慮すると、Lの値は、開口径Rの1/2〜2/3に設定することが好ましい。
図2(b)は、図2(a)のIIb−IIb線に沿った断面図である。図2(b)に示されるように、板状のガイド21は湾曲した形状のため、2つのガイド21,21の間に、断面が略円形の導入経路22が構成されている。ガイド21,21の外側にはそれぞれ、断面が三日月形状の排出経路23,23が構成されている。
また、図2(a)に示されるように、導入経路22の入口22aと排出経路23の出口23bとは面一となっており、供給部12の開口12aを構成する。導入経路22の出口22bは、循環部11の内部に位置しており、排出経路23の入口23aは、循環部11の底部11aに形成されている。
尚、ガイド21,21は、例えば、鋳込みあるいは打ち込みによって形成することができる。
【0011】
次に、この実施の形態1に係るピストンを冷却する動作について説明する。
図1に示されるように、ディーゼルエンジン1が始動すると、シリンダ6内の図示しない燃焼室における吸気・圧縮工程の爆発から得られる推進力によって、ピストン7がシリンダ6内を往復運動する。ピストン7の往復運動が、コンロッド8を介して、クランク軸5の回転運動に変換される。ピストン7は、図示しない燃焼室における燃焼ガスにさらされることにより温度が上昇する。このため、冷却空洞部10内にオイルを流通させて、ピストン7の冷却を行う。
【0012】
冷却空洞部10へのオイルの供給は、オイルギャラリ14を流れる昇圧されたオイルの一部をオイルジェット15から冷却空洞部10の供給部12へ噴出させることにより行う。図2(a)に示されるように、オイルジェット15から上向きに噴出されたオイルは、主に導入経路22内へ流入し、導入経路22内を上昇する。導入経路22内を上昇するオイルは循環部11の上面11bに衝突し、ピストン7の円周方向(矢印D,D’)に向きを変えて循環部11内に導入される。循環部11内に導入されたオイルは、矢印D,D’の方向に循環部11内を循環し、排出部13(図1参照)から排出されて、クランク室4の下方にある図示しないオイルパンに集められる。オイルが循環部11内を循環する際、オイルがピストン7の熱を奪うことによってピストン7を冷却する。
【0013】
ここで、既に述べたように、ピストン7は上下方向に往復運動することから上下方向の加速度を生じるため、循環部11内を循環するオイルに上下方向の慣性力が生じる。これにより、オイルは供給部12へ向かって(矢印E,E’)逆流し、供給部12からオイルが排出されてしまう場合がある。しかしながら、循環部11内を逆流するオイルは、ガイド21によって排出経路23の入口23aから排出経路23内に流入され、排出経路23内を下降して出口23bから排出される。排出されたオイルは、クランク室4の下方にあるオイルパンに集められる。すなわち、それぞれのオイルの大部分は、排出経路23及び導入経路22の別々の経路を流通するので、互いに干渉しないようになる。
【0014】
このように、冷却空洞部10の供給部12内に、湾曲した2つのガイド21,21を供給部12の開口12aから循環部11内部まで達するように設けると共に、供給部12内を導入経路22と排出経路23とに隔てることにより、循環部11から供給部12へ逆流するオイル及び供給部12へ供給されるオイルの大部分はそれぞれ、供給部12内において排出経路23及び導入経路22の別々の経路を流通するので、それぞれのオイルが互いに干渉するのを防ぐことができる。
【0015】
尚、供給部12の長さについては、少なくともピストン7が下死点に達したときに、図3に示される冷却空洞部30のように、オイルジェット15の先端15aが導入経路22内に入り込むように設計することが好ましい。このようにすることで、新たに供給されるオイルの全てが導入経路22内を上昇するようになり、それぞれのオイルが互いに干渉するのを確実に防ぐことができる。
また、循環部11内におけるガイド21の長さLは、循環部11の開口径Rの1/2〜2/3であることが好ましいとしているが、この範囲に限定されるものではない。開口径Rの1/2よりも小さくしても、逆流するオイルと新たに供給されるオイルとを隔てる効果は低下するものの、ガイドがない場合に比べてその効果を有する。さらに、ガイド21は、循環部11の内部まで延びていなくてもよく、ガイド21の上端が排出経路23の入口23aと面一であっても、それより低くてもよい。
【0016】
実施の形態2.
次に、この発明の実施の形態2に係るピストンについて、図4に基づいて説明する。尚、以下の実施の形態において、図1及び2の参照符号と同一の符号は、同一又は同様な構成要素であるので、その詳細な説明は省略する。
この実施の形態2に係るピストンは、実施の形態1に対して、ガイド21の両端部分において、排出経路23に面する表面が、上端部へ向かうに従って水平方向に突き出るような形状にしたものである。さらに、導入経路22及び排出経路23の形状を変えたものである。
【0017】
図4に示されるように、冷却空洞部40において、ガイド21の下端部21bは、供給部12の開口12aよりも下方に突出し、上端部21aは、循環部11内部に位置するようになっている。ガイド21の循環部11内における部分の長さLは、循環部11の開口径Rの1/2となっている。排出経路23に面する表面21cが上端部21a及び下端部21bに向かうに従って、凹状の曲面21a1,21b1を有しながら水平方向に鋭く突き出るような形状を有している。ガイド21の導入経路22に面する表面21dは、下端部21bにおいて面取り状に形成されており、これにより、導入経路22の入口22aは出口22bよりも広くなっている。
【0018】
また、供給部12の内周面12bは、循環部11から鉛直下方に延びた後、供給部12の内径が広がるように傾斜して下方に延びている。これにより、排出経路23の出口23bは、入口23aよりも広くなっている。さらに、ガイド21の下端部21bが、供給部12の開口12aよりも下方に突出すると共に曲面21b1を有しながら鋭く突き出るような形状を有していることにより、排出経路23は、出口23b付近において、導入経路22に対して反対方向に曲がった形状を有している。その他の構成については、実施の形態1と同じである。
【0019】
次に、この実施の形態2に係るピストンを冷却する動作について説明する。
実施の形態1で説明したように、ディーゼルエンジン1が始動すると、ピストン7の往復運動により、循環部11内のオイルが供給部12へ向かって逆流する場合がある。しかしながら、供給部12へ向かって逆流するオイルは、ガイド21によって排出経路23の入口23aから排出経路23内に流入され、排出経路23内を下降して出口23bから排出される(矢印F,F’)。この際、ガイド21の表面21cが、上端部21aに向かうに従って、凹状の曲面21a1を有しながら水平方向に鋭く突き出ているので、循環部11内を逆流するオイルが曲面21a1に沿って流れることにより、確実に排出経路23内に流入するようになる。また、排出経路23は、出口23b付近において、導入経路22に対して反対方向に曲がった形状を有しているので、矢印F,F’で示されるように、オイルジェット15から上向きに噴出されたオイルから遠ざかるように、逆流したオイルが出口23bから排出される。
【0020】
これに対し、新たに供給されるオイルは、導入経路22内に流入され、出口22bから循環部11内へ導入される(矢印D,D’)。導入経路22の下端部22aが供給部12の開口12aよりも下方に突出すると共に、入口22aが出口22bよりも広くなっているので、オイルジェット15から上向きに噴出されたオイルは、確実に導入経路22内へ流入するようになる。
したがって、オイルジェット15から上向きに噴出されたオイルは導入経路22内へ流入する一方、排出経路23内を下降するオイルは、オイルジェット15から上向きに噴出されたオイルから遠ざかるように、出口23bから排出されるので、それぞれのオイルは互いに干渉しにくくなる。
【0021】
このように、排出経路23の出口23b付近が、導入経路22に対して反対方向に曲がっているので、排出経路23内を下降するオイルは、オイルジェット15から上向きに噴出されたオイルから遠ざかるように出口23bから排出されるようになり、それぞれのオイルが互いに干渉するのを防ぐことができる。
また、導入経路22の入口22aが、出口22bより広くなっているので、オイルジェット15から上向きに噴出されるオイルを、確実に導入経路22内へ流入させることができる。
さらに、ガイド21の表面21cが、上端部21aに向かうに従って、凹状の曲面21a1を有しながら水平方向に鋭く突き出ているので、循環部11から供給部12へ逆流するオイルが曲面21a1に沿って流れるようになり、循環部11から供給部12へ逆流するオイルを、確実に排出経路23内へ流入させることができる。
【0022】
実施の形態3.
次に、この発明の実施の形態3に係るピストンについて、図5に基づいて説明する。
この実施の形態3に係るピストンは、実施の形態1に対して、冷却空洞部10の循環部11と供給部12との接続部分の形状を変更したものである。
図5(a)は、この実施の形態3に係るピストン7の冷却空洞部50において、循環部11と供給部12との接続部分を、上方から見た平面図である。循環部11と供給部12との接続部分には、円形の連通口24が形成されている。ここで、循環部11において、循環部11が形成する環の最も内側を内周25とし、環の最も外側を外周26とする。循環部11の底部11aにおける円弧上の中心線Lよりも外周26側の連通口24の周囲に、外周26側に向かって下り勾配の傾斜面27が形成されている。傾斜面27は、外周26側に向かって、循環部11の円周方向に幅広くなるように形成されている。ここで、傾斜面27は、循環部11から供給部12へ逆流するオイルが、供給部12内を外周26側に偏って流れるようにするための、オイル誘導部を構成する。
【0023】
図5(b)は、図5(a)において、連通口24の中心を通るVb−Vb線に沿った循環部11及び供給部12の断面図である。図5(c)は、図5(a)において、連通口24に接するVc−Vc線に沿った循環部11及び供給部12の断面図である。図5(d)は、図5(a)において、中心線Lよりも外周26側のVd−Vd線に沿った循環部11及び供給部12の断面図である。
図5(b)及び図5(c)に示されるように、循環部11の断面は円形であるため、中心線Lよりも内周25側は、底部11aが中心線Lに向かって下り勾配となっている。中心線Lよりも外周26側では、傾斜面27によって、外周26側に向かって下り勾配となっている。このため、連通口24の周囲において、底部11aは、内周25から外周26側に向かって下り勾配となっている。
また、図5(d)に示されるように、傾斜面27は、外周26側に向かって下り勾配になると共に、供給部12に向かっても下り勾配になっている。
【0024】
さらに、オイルジェット15の先端15a(図1参照)が、供給部12の中心部よりも内周25側にずれた位置になるように、オイルジェット15の位置を調整している。
【0025】
次に、この実施の形態3に係るピストンを冷却する動作について説明する。
実施の形態1で説明したように、ディーゼルエンジン1が始動すると、ピストン7の往復運動により、循環部11内のオイルが供給部12へ逆流する場合がある。図5(a)に示されるように、循環部11内を逆流したオイルは、傾斜面27に沿って流れることにより(矢印G)、外周26側に偏って供給部12内に流入する。これにより、供給部12内に流入したオイルは、図5(b)の矢印Hに示されるように、供給部12内を外周26側に偏って下降するようになる。
一方、オイルジェット15の先端15a(図1参照)は、供給部12の中心部よりも内周25側にずれた位置に調整されていることにより、オイルジェット15から上向きに噴出されたオイルは、矢印Iで示されるように、供給部12内を内周25側に偏って上昇するようになる。これにより、循環部11から供給部12へ逆流したオイルと供給部12内へ新たに供給されたオイルとはそれぞれ、供給部12内において、外周26側及び内周25側に偏って流れるようになるので、互いに干渉しないようになる。
【0026】
このように、連通口24の周囲において、底部11aを内周25から外周26の方向に向かって下り勾配にすることにより、循環部11から供給部12へ逆流するオイルが供給部12内を外周26側に偏って下降し、供給部12内に新たに供給されるオイルが供給部12内を内周25側に偏って上昇するようにしたので、それぞれのオイルが、供給部12内において互いに干渉するのを防ぐことができる。
【0027】
実施の形態3では、オイルジェット15の先端が、内周25側にずれた位置になるように、オイルジェット15の位置を調整しているが、このような形態にしなくてもよい。
傾斜面27を、外周26側に向かって下り勾配となるように形成したが、これに限定されるものではない。傾斜面27を、内周25側に向かって下り勾配となるように形成してもよい。この場合には、傾斜面27を設ける範囲を、中心線Lよりも内周25側の連通口24の周囲に設けることにより、連通口24の周囲において、底部11aが、外周26から内周25側に向かって下り勾配となるようにするのが好ましい。また、傾斜面27を、内周25側及び外周26側の両方に向かって下り勾配となるように形成してもよい。
尚、傾斜面27を設ける範囲及び傾斜面27の形状は、図5に示されたものに限定されるものではなく、使用環境等に応じて適宜設計することができる。
【0028】
また、図6に示される冷却空洞部60のように、実施の形態3に係る冷却空洞部50の供給部12内にV字状のガイド61を設け、供給部12内を導入経路22と排出経路23とに隔てるようにしてもよい。これにより、供給部12内において、循環部11から供給部12へ逆流するオイルと供給部12へ新たに供給されるオイルとが別々の経路を流通するので、それぞれのオイルが互いに干渉するのを確実に防ぐことができる。
尚、供給部12内に設けるガイドの形状はV字状に限定されるものではない。実施の形態1のように2つの湾曲したガイドであってもよいし、実施の形態2のように両端部の表面が凹状の曲面を有しながら突き出るような形状の2つのガイドであってもよい。さらに、排出経路23の出口23b付近を導入経路22に対して反対方向に曲がった形状にしてもよい。
【0029】
実施の形態3では、連通口24の形状が円形であるが、これに限定されるものではない。図7に示される冷却空洞部70のように、連通口24を台形の形状にしてもよい。さらに、台形に限定されるものでもなく、四角形等、任意の形状でもよい。この場合、循環部11内を逆流したオイルは、傾斜面27に沿って流れることにより(矢印J)、外周26側に偏って供給部12内に流入する。
実施の形態3では、オイル誘導部を傾斜面27としたが、これに限定されるものではない。循環部11の底部11aに、連通口24の内周25側または外周26側へ連通する溝を形成し、この溝をオイル誘導部としてもよい。
【0030】
実施の形態4.
次に、この発明の実施の形態4に係るピストンについて、図8に基づいて説明する。
この実施の形態4に係るピストンは、実施の形態3に対して、オイル誘導部の形状を変更したものである。
図8(a)は、この実施の形態4に係るピストン7の冷却空洞部80において、循環部11と供給部12との接続部分を、上方から見た平面図である。図8(b)は、図8(a)において、連通口24に接するVIIIb−VIIIb線に沿った循環部11及び供給部12の断面図である。連通口24に接するように、中心線L上に2つの凸部81が設けられている。ここで、凸部81は、オイル誘導部を構成する。
循環部11から供給部12へ逆流するオイルは、矢印Kで示されるように、凸部81によって内周25側及び外周26側の2方向の流れに分かれて供給部12へ流入する。これにより、逆流するオイルは、供給部12内を内周25側及び外周26側の両方に偏って下降する。ここで、オイルジェット15の先端15a(図1参照)が供給部12の中心部に位置するように、オイルジェット15の位置を調整すると、オイルジェット15から上向きに噴出されたオイルは、矢印Mに示されるように、供給部12内部の中心部を通って上昇する。これにより、供給部12内において、それぞれのオイルが互いに干渉するのを防止することができる。
【0031】
実施の形態4では、連通口24に接するように、オイル誘導部である凸部81のみを設けたが、これに限定されるものではない。凸部81の周囲の少なくとも一部に、供給部12へ向かって下り勾配となる傾斜を設けてもよい。
【0032】
実施の形態1〜4では、循環部11の断面は円形であるが、これに限定されるものではなく、四角形等、任意の形状であってもよい。また、循環部11は環状であるが、これに限定されるものではない。一部で分断されているものであってもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 ディーゼルエンジン(内燃機関)、7 ピストン、10,30,40,50,60,70,80 冷却空洞部、11 循環部(環状円筒管)、11a (循環部11の)底部、12 供給部、12a (供給部12の)開口、21,30 ガイド、21a (ガイド21の)上端部、21b (ガイド21の)下端部、21a1,21b1 曲面、21c (ガイド21の)表面、22 導入経路、22a (導入経路22の)入口、22b 出(導入経路22の)口、23 排出経路、23a (排出経路23の)入口、23b (排出経路23の)出口、24 連通口、25 (循環部11の)内周、26 (循環部11の)外周、27 傾斜面(オイル誘導部)、81 凸部(オイル誘導部)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のシリンダブロック内部の上方に設けられたシリンダ内を上下方向に移動するピストンであって、
該ピストン内に形成された環状円筒管と、
前記環状円筒管と連通し、前記オイルが供給される供給部と、
前記環状円筒管と連通し、該環状円筒管を流通した前記オイルが排出される排出部と
を有する冷却空洞部を備えるピストンにおいて、
前記シリンダブロックに設けられたオイルジェットから前記供給部に向けてオイルが噴射されることにより、前記オイルが前記供給部に供給され、
前記供給部は、
前記供給部に供給されたオイルが前記環状円筒管へ導入される導入経路と、
前記導入経路とガイドによって隔てられることで隣り合うように設けられ、前記環状円筒管内を前記供給部に向かって逆流するオイルが排出される排出経路と
を備えることを特徴とするピストン。
【請求項2】
前記ガイドは、板状に形成され、前記環状円筒管内部まで延びることを特徴とする、請求項1に記載のピストン。
【請求項3】
前記環状円筒管内における前記ガイドの長さは、前記環状円筒管の内径の1/2〜2/3である、請求項2に記載のピストン。
【請求項4】
前記ガイドの前記排出経路に面する表面は、上端部に向かうに従って前記導入経路に対して反対方向に突き出ている、請求項2または3に記載のピストン。
【請求項5】
前記導入経路の入口が、前記導入経路の出口よりも広くなっている、請求項2〜4のいずれか一項に記載のピストン。
【請求項6】
前記ガイドの前記排出経路に面する表面は、下端部に向かうに従って前記導入経路に対して反対方向に突き出しており、
前記排出経路の出口付近が、前記導入経路に対して反対方向に曲がっている、請求項2〜5のいずれか一項に記載のピストン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−117459(P2011−117459A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−55364(P2011−55364)
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【分割の表示】特願2005−14692(P2005−14692)の分割
【原出願日】平成17年1月21日(2005.1.21)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)