ピッチングマシンおよびその変化球制御方法
【課題】 球速、球種、的内の位置の3つを制御し得る新しい知的ピッチングマシンおよびその変化球制御方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 3個のローラ1〜3が作るボール挿入空間5と、該ボール挿入空間5内に挿入されたボール4に初速および回転を付与する前記3個のローラ1〜3を各別に回転制御する各駆動装置M1〜M3と、これら3個のローラ1〜3および駆動装置M1、M2、M3が搭載された構造台6を有するピッチングマシンPにおいて、前記構造台6を上下および左右に所定角度で揺動可能に駆動する方向制御駆動部M4、M5を設けたことにより、駆動装置M1〜M3に加えて、構造台6を上下および左右に駆動する方向制御駆動部M4、M5を設けたことで、簡素な構造改変のみにて、希望する速度、希望する球種の球を、バッティングゾーンあるいは的における位置への希望する目標範囲で正確に投球できる。
【解決手段】 3個のローラ1〜3が作るボール挿入空間5と、該ボール挿入空間5内に挿入されたボール4に初速および回転を付与する前記3個のローラ1〜3を各別に回転制御する各駆動装置M1〜M3と、これら3個のローラ1〜3および駆動装置M1、M2、M3が搭載された構造台6を有するピッチングマシンPにおいて、前記構造台6を上下および左右に所定角度で揺動可能に駆動する方向制御駆動部M4、M5を設けたことにより、駆動装置M1〜M3に加えて、構造台6を上下および左右に駆動する方向制御駆動部M4、M5を設けたことで、簡素な構造改変のみにて、希望する速度、希望する球種の球を、バッティングゾーンあるいは的における位置への希望する目標範囲で正確に投球できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3個のローラが作るボール挿入空間と、該ボール挿入空間内に挿入されたボールに初速および回転を付与する前記3個のローラを各別に回転制御する各駆動装置と、これら3個のローラおよび駆動装置が搭載された構造台を有するピッチングマシンに関する。主として野球のバッティング練習用のピッチングマシンとしての利用が中心である。他に、サッカー、テニス、卓球、バレーボール等のボールを用いる球技での練習用のピッチングマシンとしても利用可能である。また、人にボール等を当てるゲーム(鬼は外ゲーム)や、飛んでくる球から如何に逃げるかを競うゲーム等の機器としても利用できる。
【背景技術】
【0002】
ピッチングマシンは野球のバッティング練習の際に投手の代わりに投球を行うマシンである。プロ野球からバッティングセンターまで幅広く利用されている。ピッチングマシンの一番の目的は、攻略したい相手投手のピッチングを再現し、バッティング技術を向上させることである。ピッチングマシンにとって重要な性能の一つは、所定のスピードを発揮できる能力を有することである。それには、現在市販されているような人間の腕を模倣してボ一ルを投球する機構で、ばねとクランクを応用したアーム式と、ローラを2個用いそれらを回転させ、ローラとボールとの摩擦力を利用してボールを発射させる2ローラ式の2つがある。
【0003】
一般にアーム式の場合は速度のみ可変できるが、目標範囲の変更は不可能である。また2ローラ式ではボールに与えられる回転の方向はローラが回転する平面上でしか与えられないのでボールはその平面上にしか飛んで行かない。つまり、その平面上では回転数を変えることによって球種やスピードを変えることが可能である。任意の変化球を得るためには、その平面を手動で回転させ、また試行錯誤的に回転軸を決定しているのが現状である。このように、既存のピッチングマシンは機構的にはある程度完成されたものとなっているが、バッターが希望する球種やスピードのボールを任意の目標範囲に投げ分けることは殆ど不可能である。
【0004】
そのようなことから、3個の投球円盤の周面により形成される挟持間隔にボールを3点挟持により、安定して所望の変化球を得るように構成した投球機が提案された(下記特許文献1参照)。
【特許文献1】実開昭61−14074号公報 前記特許文献1に記載された投球機を、図14を用いて簡単に説明する。移動台22上の取付板21に軸受により縦方向に回転する下側投球円盤23を設置し、該下側投球円盤23の上方外周面と挟持間隔Aを有する。下側投球円盤23を中心に略120°左右の斜め上方に変速回転する、左上投球円盤27と右上投球円盤30を夫々取付板21に軸受により支持させたものである。このような構成により、3点挟持により3つの投球円盤23、27、30を用いて、ある程度、バッターが希望する球種やスピードのボールを任意の目標範囲に投げ分けることが可能になった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来の投球機にあって、3つの投球円盤を回転駆動する原動機26、29、32の回転制御については、何ら考慮されていない。試行錯誤的にそれぞれの回転数を調整して、バッターが希望する球種やスピードのボールを投げていた。そのため、目標とする位置にボールを投げるためには経験と勘に頼らざるを得なかった。
【0006】
そこで本件発明者らは以上述べたような既存のピッチングマシンに不足していると考えられる基本的な機能、すなわちバッターが希望する球種およびスピードボールを希望する目標範囲に自在に投げ分けることが可能な構造をもつピッチングマシンを開発することにした。そして、さらにそのマシンが使用される環境に対して適応して進化していくようなマシンを考えた。例えば風速、地面の傾き、気温、ボールの種類等が変化した状況下でも何球か試球をすればその環境における適性を学習してマシン自身の特性を変化させ、求める目標範囲や速度の投球を行うものである。このようなマシンを本件発明者らは知的ピッチングマシンと呼んでいる。
【0007】
本件発明者らは的内の位置と速度の2つのパラメータを任意に制御し得る知的なピッチングマシンをすでに開発している(特願2001−045941「ピッチングマシン、その制御システムおよび制御方法」)。これはボールの発射位置周りに3個のローラを配置したもので、各ローラの回転数を制御することによって、3個のローラの回転軸を含む平面内でボールの回転軸を任意に回転させることができる。これにより、目標に対しての球速、範囲のみならず、様々な球種の選択が可能となる。ただ、この開発マシンでは、的内の位置と球速制御のみに注目したが、この分野のニーズを調査したところ、球速と球種の選定が特に重要であり、的内の位置の選定はこれらに次ぐものであることが明らかとなった。
【0008】
そこで、本発明では、前記本件発明者らの提案になる知的ピッチングマシンを改良して、球速、球種、的内の位置の3つを制御し得る新しい知的ピッチングマシンおよびその変化球制御方法を提供することを目的とする。
【0009】
本発明では3個のローラを用いそのローラの回転数を各々独立に制御すると同時に、ボールの発射角を制御することによって、従来不可能であった任意の球種のボールを希望する目標範囲、速度に投げ分けることのできる新型のピッチングマシンの製作を試みた。これは本件発明者等がすでに的内の位置と速度のみを可変できるものとして開発してきたピッチングマシンをさらにレベルアップしたもので、その制御法にはニューラルネットワーク(以下NN)を用いている。このNNでは各的内の位置、速度、球種を入力データ、各ローラの回転数および上下、左右の発射角を出力データとして学習を行い、バッターが希望するピッチングが可能となるようにしている。ここではそのようなピッチングマシンのシステムとその性能評価について記述する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このため本発明は、3個のローラが作るボール挿入空間と、該ボール挿入空間内に挿入されたボールに初速および回転を付与する前記3個のローラを各別に回転制御する各駆動装置と、これら3個のローラおよび駆動装置が搭載された構造台を有するピッチングマシンにおいて、前記構造台を上下および左右に所定角度で揺動可能に駆動する方向制御駆動部を設けたことを特徴とする。また本発明は、3個のローラが作るボール挿入空間と、該ボール挿入空間内に挿入されたボールに初速および回転を付与する前記3個のローラを各別に回転制御する各駆動装置と、これら3個のローラおよび駆動装置が搭載された構造台と、前記構造台を上下および左右に所定角度で揺動可能に駆動する方向制御駆動部とを有するピッチングマシンの変化球制御方法において、前記各駆動装置および方向制御駆動部を制御して、3個のローラの回転数、構造台の上下および左右の揺動角を制御し、ボールが目標とする、速度、球種および的内の位置に到達できるように構成したことを特徴とする。また本発明は、前記ボールの目標とする、速度、球種および的内の位置の制御がコンピュータ内に格納された階層型ニューラルネットワークシステムによりなされることを特徴とするもので、これらを課題解決のための手段とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、3個のローラが作るボール挿入空間と、該ボール挿入空間内に挿入されたボールに初速および回転を付与する前記3個のローラを各別に回転制御する各駆動装置と、これら3個のローラおよび駆動装置が搭載された構造台を有するピッチングマシンにおいて、前記構造台を上下および左右に所定角度で揺動可能に駆動する方向制御駆動部を設けたことにより、3個のローラを回転駆動する駆動装置に加えて、構造台を上下および左右に駆動する方向制御駆動部を設けたことで、簡素な構造改変のみにても、希望する速度、希望する球種の球を、バッティングゾーンあるいは的における位置への希望する目標範囲で正確に投球することが可能となった。
【0012】
また、3個のローラが作るボール挿入空間と、該ボール挿入空間内に挿入されたボールに初速および回転を付与する前記3個のローラを各別に回転制御する各駆動装置と、これら3個のローラおよび駆動装置が搭載された構造台と、前記構造台を上下および左右に所定角度で揺動可能に駆動する方向制御駆動部とを有するピッチングマシンの変化球制御方法において、前記各駆動装置および方向制御駆動部を制御して、3個のローラの回転数、構造台の上下および左右の揺動角を制御し、ボールが目標とする、速度、球種および的内の位置に到達できるように構成したことにより、3個のローラを回転駆動して、容易に希望する速度、希望する球種の球が得られると同時に、構造台を上下および左右に駆動して、バッティングゾーンあるいは的における位置への希望する目標範囲で正確に投球することが可能となった。
【0013】
さらに、前記ボールの目標とする、速度、球種および的内の位置の制御がコンピュータ内に格納された階層型ニューラルネットワークシステムによりなされることで、学習機能を通じて前記ボールの目標値と試投による教師データとの誤差を解消することができる。これにより、ピッチングマシン個々の製造誤差や、マシンを使用する環境(場所、気温、風、湿度等)の諸条件の相違が問題とならなく、常に精度の高い機能維持ができる。そして、これを使用している場合、それらのデータを追加学習することで、マシンの精度を益々向上させることが可能となる。
【0014】
また、コンピュータ内に投球プログラムを作っておくことにより、それに従った投球を行ったり、キャッチャーの指示通りの投球を行うことも可能にする。さらに、プロ野球の名投手と名バッターとの対決等の投球履歴を、的内の位置、速度、球種を含めて正確にシミュレートすることもできる。このことから、実際に行われる野球の試合で、対戦するピッチャーの過去に行われた試合の投球内容をデータベース化して、自チームの各バッターにマシンでその投球内容に従って投球させ、自チームの戦力評価を行うことも可能となる。さらにまた、ランダムに投げた球に対するバッターの打撃状況を記憶し、それにより、バッターが打ち易い球、打ち難い球を判定して、これらを投げ分けることができる。このことは、バッターからすると、好みの球および苦手の球の選択が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明のピッチングマシンおよびその変化球制御方法について図面を用いて説明する。図1は本発明のピッチングマシンの構造および制御システムの概略図、図2は試作品の写真図、図3は球種パラメータによる球種の説明図。図4は階層型ニューラルネットワーク(NN)モデル図、図5は投球実験側面図、図6は的における的内の位置のX、Y座標結果図、図7はローラの回転数とボールの速度との関係図、図8はボールのストレートスピン状態の回転の様子を示した高速度写真図、図9はボールのカーブスピン状態の回転の様子を示した高速度写真図、図10はNNの学習回数と誤差との関係図、図11はNN制御による投球実験結果図、図12は各球種における速度誤差を示す図、図13は各球種における位置誤差を示す図である。
【0016】
本発明の基本的な構成は、図1に示すように、3個のローラ1、2、3が作るボール挿入空間5と、該ボール挿入空間5内に挿入されたボール4に初速および回転を付与する前記3個のローラ1、2、3を各別に回転制御する各駆動装置M1、M2、M3と、これら3個のローラ1、2、3および駆動装置M1、M2、M3が搭載された構造台6を有するピッチングマシンPにおいて、前記構造台6を上下および左右に所定角度で揺動可能に駆動する方向制御駆動部M4、M5を設けたことを特徴とするものである。
【実施例】
【0017】
図1に示すように、製作した新型のピッチングマシンPは、コンピュータ8およびコントローラ11等の制御部とともに制御システムを構成する。コンピュータ8には階層型ニューラルネットワーク(NN)および投球決定プログラム10等が格納さている。試作品の写真図を図2に示す。図1から分かるように、ボール4は発射位置周りに120°間隔でY字型に設置された3個のゴム製のローラ1、2、3の外周面との摩擦力を利用して発射される。各ローラ1、2、3にはそれぞれ駆動装置であるモータM1、M2、M3が設置されており、Vベルトを介して連動し回転数は0〜2300rpmまで可変でき、各モータM1、M2、M3は各々独立(各別)に回転制御される。
【0018】
さらに、ボール4を任意の目標範囲に投げ分けるため、ピッチングマシンPの下部に方向制御駆動部を構成するモータM4およびM5を設置した。前記ローラ1、2、3および駆動装置であるモータM1、M2、M3ならびにピッチングマシンPの上下角θを調整する駆動モータM4は構造台6に設置され、該構造台6の左右角φを調整する駆動モータM5は構造台6の下部の台車7に設置される。これらの駆動モータM4、M5の設置位置を交替してもよい。ピッチングマシンP本体の上下角θを−6°〜+6°、左右角φを−5°〜+5°まで可変できるようにした。これらの新機構を採用した新型ピッチングマシンでは、最高速160km/hまでの任意の球速で、かつ広範囲の希望する目標範囲に、任意の球種のボールを投球することが可能である。
【0019】
各モータM1、M2、M3、M4、M5は前述したように、コントローラ11を介してPC8に接続されおり、PC8上でこれらのモータの回転数を制御可能にしている。また、図示省略の各種センサ(3個のローラの放出口の直後に設置される)を用いて3個のローラ1、2、3の回転数N1 、N2 、N3 、マシンの上下角θ、マシンの左右角φ、ボールの初速度Vが実測される。
【0020】
<ニューラルネットワーク(NN)を用いた投球制御方法>
知的ピッチングマシンの制御には、階層型NNを用いている。次にその制御方法について述べる。本制御では、基本的に投球したいボールの的内の位置座標X,Y、速度Vおよび後述する球種パラメータBX 、BY の5つの入力情報から、そのような投球をするための各ローラの回転数N1 、N2 、N3 とマシンの上下角θ、マシンの左右角φの5変数を出力情報とするシステムを構築すればよい。それには理論的にボールの飛翔方向を算出する方法がまず考えられる。そして、その手法については、本件発明者らはすでに前記出願にて述べているようにボールの抗力係数やマグナス力等を測定することで一応可能ではあるが、これらには非常に手間と時問を要し、かつその割に精度の良いものとはならない。
【0021】
そこで、複雑な理論式を用いなくとも入出力間関係を学習できる階層型NNを本発明では採用した。NNを用いればいくつかの教師データを与えることによってNN自体が学習し、正しい出力をするようになる。故に本マシンのようにマシン自体の特性が、その置かれた環境や使用法等に影響されるような非常に複雑な事象の制御問題に対して、NNは有効な手段である。そこで本発明で用いた階層型NNは、図4に示すような入力情報としてボールの的内の位置座標X,Y、速度Vおよび球種パラメータBX 、BY の5つを、一方3個のローラの回転数N1 、N2 、N3 とマシンの上下角θおよび左右角φの5変数を出力情報とする3層のネットワークとした。このNNに教師データTi を与え、出力Ni と教師データとの差の2乗、すなわち2乗誤差:(Ti −Ni )2 /2の総和をバックプロパゲーション法(誤差逆伝播法)によって減少させて行くことによって学習し、正確な出力をするようなNNを構築した。
【0022】
<球種パラメータBX 、BY >
さて、カーブやシュート等の変化球を本発明では球種と呼んでいるが、これを球種パラメータBX 、BY の2つで表現する手法を提案する。今、開発したピッチングマシンの3つのローラの回転数N1 、N2 、N3 を変化させ、N3 >N1 =N2 の関係にあるとする。このとき、各ローラがボールに与える回転モーメントをベクトルで表現すると、各ローラに対応したベクトルN^1 、N^2 、N^3 (^は便宜上ベクトルを示す)はそれぞれ120度間隔なので図3(a)で示される。これら3つのベクトルを合成すると、図中のB^となる。このベクトルの大きさを最大回転数で無次元化し横軸がBX 、縦軸がBY で、BX =BY =0.5を中心とする座標系に写像すると、図3(b)のように示される。このように定義されるベクトルB^の大きさが実際のボールに与えられる自転回転数(スピン)を、ベクトルB^と直交する方向がボールの回転数を示すことになる。
【0023】
例えば、先のB^の場合、ボールに対して図3(c)の状態となり、これは球種がカーブとなる。同様に、シュート、ドロップ等も同図(b)に示す範囲として表現することができる。なお、0<BY <0.5の範囲では、ボールの回転は順回転(フォロースピン)となり、一方0.5<BY <1.0の範囲では、逆回転(バックスピン)となり、BX =BY =0.5では無回転ボールとなる。一般に、変化球は回転軸と回転(スピン)で決定できるため、2つの球種パラメータBX 、BY で、あらゆる変化球を表現することが可能であると考えられる。なお、この手法の妥当性については、後述の基本性能試験で検討する。
【0024】
<知的ピッチングマシンの性能評価>
<基本性能試験>
本ピッチングマシンで3個のローラの回転数N1 、N2 、N3 および角度θ、φを変化させることで、どのようなボールが投げられるかをまず調べた。実験用のボールは現在プロ野球に使用されている硬式ボールと同じボールを用いた。実験は、図5に示すようなピッチングマシンと距離14mをおいて幅0.75m、高さ1.25mの的を設置し、室内で行った。また3個のローラの回転数とマシンの上下角、左右角を任意に選定して投球を行った。図6はその一例で115パターンを投球したとき、的に当たった的内の位置の位置座標の結果を示す。すべてのデータは1パターンの投球に対して3球投球を行い、その平均値を用いている。これより、殆どすべての領域にボールを投球できることが分かる。
【0025】
次に、図7は3つのローラの回転数の総和(N1 +N2 +N3 )とボールの速度Vとの関係を示したものである。これより、両者にはほぼ線形性があること、また本マシンでは球速70〜160km/hの範囲のボールが投球可能であること等が分かる。また、高速度ビデオカメラを用いて各球種におけるボールの回転の様子を撮影した。図8はその一例で、N1 =2100rpm、N2 =N3 =1500rpm、θ=φ=0°(BX =0.5、BY =0.6)の条件、つまり球種がストレートのときのボールの回転の様子を示したものである。これより、本マシンで投球したボールは実際のピッチャーの投球と同様、きれいなバックスピン状態の回転をしていることが分かる。
【0026】
同様に図9は(BX =0.4、BY =0.42)の条件、カーブの回転の様子を示したものである。これを見るとボールの回転軸は、マシン側から見て鉛直軸すなわち鉛直方向からやや左方に傾いた方向で、その回転はフォロースピン状態の回転をしており、前記図3(c)の回転軸方向、回転とほぼ一致していることが分かる。また、図には示していないが、ドロップ、シュート等についてもビデオ撮影を行い、その回転の様子を確認している。これらのことから、種々の変化球を前章の球種パラメータBX 、BY の2つで表現する本手法が充分妥当であると言える。
【0027】
<総合性能評価>
前節の実験データを教師データとして、NNをバックプロパゲーション法により学習させた。図10に学習過程の一例を示す。これより、学習回数とともに誤差が減少していることが分かる。学習済みのNNを用いて実際の投球試験を行った。図6に示した115個の投球データを教師データとして学習させたネットワークで希望球種の投球試験を行った結果の一例を図11に示す。つまりあらかじめ希望した的内の位置、5つの速度(70、90、110、130、150km/h)および4つの球種(ストレート、ドロップ、カーブ、シュート)を決めておき、それらに対するNN出力のN1 、N2 、N3 およびθ、φを用いて投球した結果である。図中の*印が希望したボールの位置(的の真中)を示し、図11(a)では投球試験結果を各球種ごとに○口△◇印で示している。なお、○はストレート、口はドロップ、△はカーブ、◇はシュートをそれぞれ示している。
【0028】
一方図11(b)では同様の実験結果を、各速度をパラメータにして示している。これらの結果より、速度や球種では明確な相関関係は見られないが、全体としてある程度ばらつきはあるものの目標位置近傍に分布している。また、プロ級である速度150km/hのボールをはじめ、いずれの速度や球種のボールにおいてもその位置は太線枠内のストライクゾーンを外れていない良い結果であった。これより、開発した本マシンは、プロ野球をも含む現状の野球で想定される広範囲の速度、多様な球種のボールを瞬時にかつ、ほぼ希望した的内の位置に投げ分けることが可能で、市販のマシンに比べ高いポテンシヤルを有していると言えよう。
【0029】
以上述べた結果をより定量的に評価するため、次のような速度誤差ΔVと、位置誤差Δrを定義した。
ΔV=|(V’−V)/V|×100 ・・・(1)
ここで、V:速度(目標値)、V’:速度(実験値)
Δr=((X’−X)2 +(Y’−Y)2 )1/2 ・・・(2)
ここで、X:x座標(目標値)、X’:x座標(実験値)、Y:y座標(目標値)、Y’:y座標(実験値)
【0030】
図12は、希望速度と対応する投球の速度誤差ΔVを球種(ストレート、ドロツプ、カーブ、シュート)毎に算出した結果を示したものである。図より、球種により多少ばらつきがあるもののその差は僅少で2.6%、最大でも3.4%で非常に小さい結果となった。これは本マシンの特性として、前記図7に示したローラの回転数の総和と投球速度にはほぼ線形に近い関係があり、この特性の学習が容易であったためと考えられる。
【0031】
一方、図13は希望的内の位置と対応する投球の位置誤差Δrを4球種(ストレート、ドロツプ、カーブ、シュート)毎に算出した結果を示したものである。図より、速度誤差同様、球種により多少ばらついているもののその差は、最小のストレートでは約100mm、最大のシュートでも約150mmであった。ボールの直径が約70mmであるので、その誤差はボール2個分程度に収まっていることが分かり、本マシンは非常に高い投球精度を有していることが分かる。ただ、多少誤差を生じている原因としては、同じ目標範囲で同じ球速であってもそのような投球をする回転数の組合せが多く存在することや、ボールとローラの接触時の摩擦特性が回転数やボールの縫い目によって複雑に変化するためであると考えられる。
【0032】
<結言>
本発明では3ローラ式の新型ピッチングマシンを開発し、ニューラルネットワークを用いてその回転数やボールの発射角を決定することにより希望した目標範囲に、希望した速度と球種(変化球)のボールを投球させることを試みたその結果、多様な球種で球速が70〜160km/hの広範囲で投球可能であり、またその投球精度は、速度と球種についてはほぼ完全に、また的内の位置についても、ボール2個程度の精度で予測が行えた。これは、現状のピッチッグマシンを遙かに凌ぐ充分な精度であり、非常に実用性の高い新型のピッチングマシンであると言える。
【0033】
以上、本発明の実施例について述べてきたが、本発明の趣旨の範囲内にて、3個のローラの形状(円板としての直径、好適には同径であるが、場合によっては異径であってもよい)、形式(ローラ周面の形状、平面でもボールの曲率に適合した円弧面としてもよい)および材質(ゴムを周面に貼設したり、ローラ全体をゴム等の高摩擦係数材により構成してもよい)ならびに配置形態(好適には120°の間隔をおいて3個のローラが均等に配設されるが、不均等に配設することを妨げるものではない)、ローラを各別に回転制御する各駆動装置の形状、形式(電動モータ、内燃機関等)およびローラとの関連構成(直接駆動、ベルト駆動、チェーン駆動、歯車駆動等)、構成台の形状、形式および構成台への3個のローラおよび駆動装置の配設形態、構造台を設置する台車等の形状、形式(運搬のためのキャスタの設置等)、構造台の上下(歯車の噛合によるもの、シリンダの伸縮によるもの等)および左右(歯車によるもの、シリンダの伸縮によるもの等)の揺動形態、揺動変化量、方向制御駆動部を構成する駆動モータ等の形状、形式(電動モータ、内燃機関等)は適宜選定できる。
【0034】
また、構造台については、ピッチングプレートの両端部間を平行移動できるように台車上に走行レール等を設けてもよい。コンピュータの形状、形式、コンピュータ内に格納される階層型ニューラルネットワークシステムの形式、投球決定プログラムの形式、コントローラの形状、形式、試投による教師データ取得形態、学習の回数等については適宜選定できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明のピッチングマシンの構造および制御システムの概略図である。
【図2】同、試作品の写真図である。
【図3】同、球種パラメータによる球種の説明図である。
【図4】同、階層型ニューラルネットワーク(NN)モデル図である。
【図5】同、投球実験側面図である。
【図6】同、的における位置のX、Y座標結果図である。
【図7】同、ローラの回転数とボールの速度との関係図である。
【図8】同、ボールのストレートスピン状態の回転の様子を示した高速度写真図である。
【図9】同、ボールのカーブスピン状態の回転の様子を示した高速度写真図である。
【図10】同、NNの学習回数と誤差との関係図である。
【図11】同、NN制御による投球実験結果図である。
【図12】同、各球種における速度誤差を示す図である。
【図13】同、各球種における位置誤差を示す図である。
【図14】従来の投球機の正面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 第1ローラ
2 第2ローラ
3 第3ローラ
4 ボール
5 ボール挿入空間
6 構造台
7 台車
8 PC
9 NNシステム
10 投球決定プログラム
11 コントローラ
M1〜M3 駆動装置(電動モータ等)
M4、M5 方向制御駆動部(電動モータ等)
P ピッチングマシン
【技術分野】
【0001】
本発明は、3個のローラが作るボール挿入空間と、該ボール挿入空間内に挿入されたボールに初速および回転を付与する前記3個のローラを各別に回転制御する各駆動装置と、これら3個のローラおよび駆動装置が搭載された構造台を有するピッチングマシンに関する。主として野球のバッティング練習用のピッチングマシンとしての利用が中心である。他に、サッカー、テニス、卓球、バレーボール等のボールを用いる球技での練習用のピッチングマシンとしても利用可能である。また、人にボール等を当てるゲーム(鬼は外ゲーム)や、飛んでくる球から如何に逃げるかを競うゲーム等の機器としても利用できる。
【背景技術】
【0002】
ピッチングマシンは野球のバッティング練習の際に投手の代わりに投球を行うマシンである。プロ野球からバッティングセンターまで幅広く利用されている。ピッチングマシンの一番の目的は、攻略したい相手投手のピッチングを再現し、バッティング技術を向上させることである。ピッチングマシンにとって重要な性能の一つは、所定のスピードを発揮できる能力を有することである。それには、現在市販されているような人間の腕を模倣してボ一ルを投球する機構で、ばねとクランクを応用したアーム式と、ローラを2個用いそれらを回転させ、ローラとボールとの摩擦力を利用してボールを発射させる2ローラ式の2つがある。
【0003】
一般にアーム式の場合は速度のみ可変できるが、目標範囲の変更は不可能である。また2ローラ式ではボールに与えられる回転の方向はローラが回転する平面上でしか与えられないのでボールはその平面上にしか飛んで行かない。つまり、その平面上では回転数を変えることによって球種やスピードを変えることが可能である。任意の変化球を得るためには、その平面を手動で回転させ、また試行錯誤的に回転軸を決定しているのが現状である。このように、既存のピッチングマシンは機構的にはある程度完成されたものとなっているが、バッターが希望する球種やスピードのボールを任意の目標範囲に投げ分けることは殆ど不可能である。
【0004】
そのようなことから、3個の投球円盤の周面により形成される挟持間隔にボールを3点挟持により、安定して所望の変化球を得るように構成した投球機が提案された(下記特許文献1参照)。
【特許文献1】実開昭61−14074号公報 前記特許文献1に記載された投球機を、図14を用いて簡単に説明する。移動台22上の取付板21に軸受により縦方向に回転する下側投球円盤23を設置し、該下側投球円盤23の上方外周面と挟持間隔Aを有する。下側投球円盤23を中心に略120°左右の斜め上方に変速回転する、左上投球円盤27と右上投球円盤30を夫々取付板21に軸受により支持させたものである。このような構成により、3点挟持により3つの投球円盤23、27、30を用いて、ある程度、バッターが希望する球種やスピードのボールを任意の目標範囲に投げ分けることが可能になった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来の投球機にあって、3つの投球円盤を回転駆動する原動機26、29、32の回転制御については、何ら考慮されていない。試行錯誤的にそれぞれの回転数を調整して、バッターが希望する球種やスピードのボールを投げていた。そのため、目標とする位置にボールを投げるためには経験と勘に頼らざるを得なかった。
【0006】
そこで本件発明者らは以上述べたような既存のピッチングマシンに不足していると考えられる基本的な機能、すなわちバッターが希望する球種およびスピードボールを希望する目標範囲に自在に投げ分けることが可能な構造をもつピッチングマシンを開発することにした。そして、さらにそのマシンが使用される環境に対して適応して進化していくようなマシンを考えた。例えば風速、地面の傾き、気温、ボールの種類等が変化した状況下でも何球か試球をすればその環境における適性を学習してマシン自身の特性を変化させ、求める目標範囲や速度の投球を行うものである。このようなマシンを本件発明者らは知的ピッチングマシンと呼んでいる。
【0007】
本件発明者らは的内の位置と速度の2つのパラメータを任意に制御し得る知的なピッチングマシンをすでに開発している(特願2001−045941「ピッチングマシン、その制御システムおよび制御方法」)。これはボールの発射位置周りに3個のローラを配置したもので、各ローラの回転数を制御することによって、3個のローラの回転軸を含む平面内でボールの回転軸を任意に回転させることができる。これにより、目標に対しての球速、範囲のみならず、様々な球種の選択が可能となる。ただ、この開発マシンでは、的内の位置と球速制御のみに注目したが、この分野のニーズを調査したところ、球速と球種の選定が特に重要であり、的内の位置の選定はこれらに次ぐものであることが明らかとなった。
【0008】
そこで、本発明では、前記本件発明者らの提案になる知的ピッチングマシンを改良して、球速、球種、的内の位置の3つを制御し得る新しい知的ピッチングマシンおよびその変化球制御方法を提供することを目的とする。
【0009】
本発明では3個のローラを用いそのローラの回転数を各々独立に制御すると同時に、ボールの発射角を制御することによって、従来不可能であった任意の球種のボールを希望する目標範囲、速度に投げ分けることのできる新型のピッチングマシンの製作を試みた。これは本件発明者等がすでに的内の位置と速度のみを可変できるものとして開発してきたピッチングマシンをさらにレベルアップしたもので、その制御法にはニューラルネットワーク(以下NN)を用いている。このNNでは各的内の位置、速度、球種を入力データ、各ローラの回転数および上下、左右の発射角を出力データとして学習を行い、バッターが希望するピッチングが可能となるようにしている。ここではそのようなピッチングマシンのシステムとその性能評価について記述する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このため本発明は、3個のローラが作るボール挿入空間と、該ボール挿入空間内に挿入されたボールに初速および回転を付与する前記3個のローラを各別に回転制御する各駆動装置と、これら3個のローラおよび駆動装置が搭載された構造台を有するピッチングマシンにおいて、前記構造台を上下および左右に所定角度で揺動可能に駆動する方向制御駆動部を設けたことを特徴とする。また本発明は、3個のローラが作るボール挿入空間と、該ボール挿入空間内に挿入されたボールに初速および回転を付与する前記3個のローラを各別に回転制御する各駆動装置と、これら3個のローラおよび駆動装置が搭載された構造台と、前記構造台を上下および左右に所定角度で揺動可能に駆動する方向制御駆動部とを有するピッチングマシンの変化球制御方法において、前記各駆動装置および方向制御駆動部を制御して、3個のローラの回転数、構造台の上下および左右の揺動角を制御し、ボールが目標とする、速度、球種および的内の位置に到達できるように構成したことを特徴とする。また本発明は、前記ボールの目標とする、速度、球種および的内の位置の制御がコンピュータ内に格納された階層型ニューラルネットワークシステムによりなされることを特徴とするもので、これらを課題解決のための手段とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、3個のローラが作るボール挿入空間と、該ボール挿入空間内に挿入されたボールに初速および回転を付与する前記3個のローラを各別に回転制御する各駆動装置と、これら3個のローラおよび駆動装置が搭載された構造台を有するピッチングマシンにおいて、前記構造台を上下および左右に所定角度で揺動可能に駆動する方向制御駆動部を設けたことにより、3個のローラを回転駆動する駆動装置に加えて、構造台を上下および左右に駆動する方向制御駆動部を設けたことで、簡素な構造改変のみにても、希望する速度、希望する球種の球を、バッティングゾーンあるいは的における位置への希望する目標範囲で正確に投球することが可能となった。
【0012】
また、3個のローラが作るボール挿入空間と、該ボール挿入空間内に挿入されたボールに初速および回転を付与する前記3個のローラを各別に回転制御する各駆動装置と、これら3個のローラおよび駆動装置が搭載された構造台と、前記構造台を上下および左右に所定角度で揺動可能に駆動する方向制御駆動部とを有するピッチングマシンの変化球制御方法において、前記各駆動装置および方向制御駆動部を制御して、3個のローラの回転数、構造台の上下および左右の揺動角を制御し、ボールが目標とする、速度、球種および的内の位置に到達できるように構成したことにより、3個のローラを回転駆動して、容易に希望する速度、希望する球種の球が得られると同時に、構造台を上下および左右に駆動して、バッティングゾーンあるいは的における位置への希望する目標範囲で正確に投球することが可能となった。
【0013】
さらに、前記ボールの目標とする、速度、球種および的内の位置の制御がコンピュータ内に格納された階層型ニューラルネットワークシステムによりなされることで、学習機能を通じて前記ボールの目標値と試投による教師データとの誤差を解消することができる。これにより、ピッチングマシン個々の製造誤差や、マシンを使用する環境(場所、気温、風、湿度等)の諸条件の相違が問題とならなく、常に精度の高い機能維持ができる。そして、これを使用している場合、それらのデータを追加学習することで、マシンの精度を益々向上させることが可能となる。
【0014】
また、コンピュータ内に投球プログラムを作っておくことにより、それに従った投球を行ったり、キャッチャーの指示通りの投球を行うことも可能にする。さらに、プロ野球の名投手と名バッターとの対決等の投球履歴を、的内の位置、速度、球種を含めて正確にシミュレートすることもできる。このことから、実際に行われる野球の試合で、対戦するピッチャーの過去に行われた試合の投球内容をデータベース化して、自チームの各バッターにマシンでその投球内容に従って投球させ、自チームの戦力評価を行うことも可能となる。さらにまた、ランダムに投げた球に対するバッターの打撃状況を記憶し、それにより、バッターが打ち易い球、打ち難い球を判定して、これらを投げ分けることができる。このことは、バッターからすると、好みの球および苦手の球の選択が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明のピッチングマシンおよびその変化球制御方法について図面を用いて説明する。図1は本発明のピッチングマシンの構造および制御システムの概略図、図2は試作品の写真図、図3は球種パラメータによる球種の説明図。図4は階層型ニューラルネットワーク(NN)モデル図、図5は投球実験側面図、図6は的における的内の位置のX、Y座標結果図、図7はローラの回転数とボールの速度との関係図、図8はボールのストレートスピン状態の回転の様子を示した高速度写真図、図9はボールのカーブスピン状態の回転の様子を示した高速度写真図、図10はNNの学習回数と誤差との関係図、図11はNN制御による投球実験結果図、図12は各球種における速度誤差を示す図、図13は各球種における位置誤差を示す図である。
【0016】
本発明の基本的な構成は、図1に示すように、3個のローラ1、2、3が作るボール挿入空間5と、該ボール挿入空間5内に挿入されたボール4に初速および回転を付与する前記3個のローラ1、2、3を各別に回転制御する各駆動装置M1、M2、M3と、これら3個のローラ1、2、3および駆動装置M1、M2、M3が搭載された構造台6を有するピッチングマシンPにおいて、前記構造台6を上下および左右に所定角度で揺動可能に駆動する方向制御駆動部M4、M5を設けたことを特徴とするものである。
【実施例】
【0017】
図1に示すように、製作した新型のピッチングマシンPは、コンピュータ8およびコントローラ11等の制御部とともに制御システムを構成する。コンピュータ8には階層型ニューラルネットワーク(NN)および投球決定プログラム10等が格納さている。試作品の写真図を図2に示す。図1から分かるように、ボール4は発射位置周りに120°間隔でY字型に設置された3個のゴム製のローラ1、2、3の外周面との摩擦力を利用して発射される。各ローラ1、2、3にはそれぞれ駆動装置であるモータM1、M2、M3が設置されており、Vベルトを介して連動し回転数は0〜2300rpmまで可変でき、各モータM1、M2、M3は各々独立(各別)に回転制御される。
【0018】
さらに、ボール4を任意の目標範囲に投げ分けるため、ピッチングマシンPの下部に方向制御駆動部を構成するモータM4およびM5を設置した。前記ローラ1、2、3および駆動装置であるモータM1、M2、M3ならびにピッチングマシンPの上下角θを調整する駆動モータM4は構造台6に設置され、該構造台6の左右角φを調整する駆動モータM5は構造台6の下部の台車7に設置される。これらの駆動モータM4、M5の設置位置を交替してもよい。ピッチングマシンP本体の上下角θを−6°〜+6°、左右角φを−5°〜+5°まで可変できるようにした。これらの新機構を採用した新型ピッチングマシンでは、最高速160km/hまでの任意の球速で、かつ広範囲の希望する目標範囲に、任意の球種のボールを投球することが可能である。
【0019】
各モータM1、M2、M3、M4、M5は前述したように、コントローラ11を介してPC8に接続されおり、PC8上でこれらのモータの回転数を制御可能にしている。また、図示省略の各種センサ(3個のローラの放出口の直後に設置される)を用いて3個のローラ1、2、3の回転数N1 、N2 、N3 、マシンの上下角θ、マシンの左右角φ、ボールの初速度Vが実測される。
【0020】
<ニューラルネットワーク(NN)を用いた投球制御方法>
知的ピッチングマシンの制御には、階層型NNを用いている。次にその制御方法について述べる。本制御では、基本的に投球したいボールの的内の位置座標X,Y、速度Vおよび後述する球種パラメータBX 、BY の5つの入力情報から、そのような投球をするための各ローラの回転数N1 、N2 、N3 とマシンの上下角θ、マシンの左右角φの5変数を出力情報とするシステムを構築すればよい。それには理論的にボールの飛翔方向を算出する方法がまず考えられる。そして、その手法については、本件発明者らはすでに前記出願にて述べているようにボールの抗力係数やマグナス力等を測定することで一応可能ではあるが、これらには非常に手間と時問を要し、かつその割に精度の良いものとはならない。
【0021】
そこで、複雑な理論式を用いなくとも入出力間関係を学習できる階層型NNを本発明では採用した。NNを用いればいくつかの教師データを与えることによってNN自体が学習し、正しい出力をするようになる。故に本マシンのようにマシン自体の特性が、その置かれた環境や使用法等に影響されるような非常に複雑な事象の制御問題に対して、NNは有効な手段である。そこで本発明で用いた階層型NNは、図4に示すような入力情報としてボールの的内の位置座標X,Y、速度Vおよび球種パラメータBX 、BY の5つを、一方3個のローラの回転数N1 、N2 、N3 とマシンの上下角θおよび左右角φの5変数を出力情報とする3層のネットワークとした。このNNに教師データTi を与え、出力Ni と教師データとの差の2乗、すなわち2乗誤差:(Ti −Ni )2 /2の総和をバックプロパゲーション法(誤差逆伝播法)によって減少させて行くことによって学習し、正確な出力をするようなNNを構築した。
【0022】
<球種パラメータBX 、BY >
さて、カーブやシュート等の変化球を本発明では球種と呼んでいるが、これを球種パラメータBX 、BY の2つで表現する手法を提案する。今、開発したピッチングマシンの3つのローラの回転数N1 、N2 、N3 を変化させ、N3 >N1 =N2 の関係にあるとする。このとき、各ローラがボールに与える回転モーメントをベクトルで表現すると、各ローラに対応したベクトルN^1 、N^2 、N^3 (^は便宜上ベクトルを示す)はそれぞれ120度間隔なので図3(a)で示される。これら3つのベクトルを合成すると、図中のB^となる。このベクトルの大きさを最大回転数で無次元化し横軸がBX 、縦軸がBY で、BX =BY =0.5を中心とする座標系に写像すると、図3(b)のように示される。このように定義されるベクトルB^の大きさが実際のボールに与えられる自転回転数(スピン)を、ベクトルB^と直交する方向がボールの回転数を示すことになる。
【0023】
例えば、先のB^の場合、ボールに対して図3(c)の状態となり、これは球種がカーブとなる。同様に、シュート、ドロップ等も同図(b)に示す範囲として表現することができる。なお、0<BY <0.5の範囲では、ボールの回転は順回転(フォロースピン)となり、一方0.5<BY <1.0の範囲では、逆回転(バックスピン)となり、BX =BY =0.5では無回転ボールとなる。一般に、変化球は回転軸と回転(スピン)で決定できるため、2つの球種パラメータBX 、BY で、あらゆる変化球を表現することが可能であると考えられる。なお、この手法の妥当性については、後述の基本性能試験で検討する。
【0024】
<知的ピッチングマシンの性能評価>
<基本性能試験>
本ピッチングマシンで3個のローラの回転数N1 、N2 、N3 および角度θ、φを変化させることで、どのようなボールが投げられるかをまず調べた。実験用のボールは現在プロ野球に使用されている硬式ボールと同じボールを用いた。実験は、図5に示すようなピッチングマシンと距離14mをおいて幅0.75m、高さ1.25mの的を設置し、室内で行った。また3個のローラの回転数とマシンの上下角、左右角を任意に選定して投球を行った。図6はその一例で115パターンを投球したとき、的に当たった的内の位置の位置座標の結果を示す。すべてのデータは1パターンの投球に対して3球投球を行い、その平均値を用いている。これより、殆どすべての領域にボールを投球できることが分かる。
【0025】
次に、図7は3つのローラの回転数の総和(N1 +N2 +N3 )とボールの速度Vとの関係を示したものである。これより、両者にはほぼ線形性があること、また本マシンでは球速70〜160km/hの範囲のボールが投球可能であること等が分かる。また、高速度ビデオカメラを用いて各球種におけるボールの回転の様子を撮影した。図8はその一例で、N1 =2100rpm、N2 =N3 =1500rpm、θ=φ=0°(BX =0.5、BY =0.6)の条件、つまり球種がストレートのときのボールの回転の様子を示したものである。これより、本マシンで投球したボールは実際のピッチャーの投球と同様、きれいなバックスピン状態の回転をしていることが分かる。
【0026】
同様に図9は(BX =0.4、BY =0.42)の条件、カーブの回転の様子を示したものである。これを見るとボールの回転軸は、マシン側から見て鉛直軸すなわち鉛直方向からやや左方に傾いた方向で、その回転はフォロースピン状態の回転をしており、前記図3(c)の回転軸方向、回転とほぼ一致していることが分かる。また、図には示していないが、ドロップ、シュート等についてもビデオ撮影を行い、その回転の様子を確認している。これらのことから、種々の変化球を前章の球種パラメータBX 、BY の2つで表現する本手法が充分妥当であると言える。
【0027】
<総合性能評価>
前節の実験データを教師データとして、NNをバックプロパゲーション法により学習させた。図10に学習過程の一例を示す。これより、学習回数とともに誤差が減少していることが分かる。学習済みのNNを用いて実際の投球試験を行った。図6に示した115個の投球データを教師データとして学習させたネットワークで希望球種の投球試験を行った結果の一例を図11に示す。つまりあらかじめ希望した的内の位置、5つの速度(70、90、110、130、150km/h)および4つの球種(ストレート、ドロップ、カーブ、シュート)を決めておき、それらに対するNN出力のN1 、N2 、N3 およびθ、φを用いて投球した結果である。図中の*印が希望したボールの位置(的の真中)を示し、図11(a)では投球試験結果を各球種ごとに○口△◇印で示している。なお、○はストレート、口はドロップ、△はカーブ、◇はシュートをそれぞれ示している。
【0028】
一方図11(b)では同様の実験結果を、各速度をパラメータにして示している。これらの結果より、速度や球種では明確な相関関係は見られないが、全体としてある程度ばらつきはあるものの目標位置近傍に分布している。また、プロ級である速度150km/hのボールをはじめ、いずれの速度や球種のボールにおいてもその位置は太線枠内のストライクゾーンを外れていない良い結果であった。これより、開発した本マシンは、プロ野球をも含む現状の野球で想定される広範囲の速度、多様な球種のボールを瞬時にかつ、ほぼ希望した的内の位置に投げ分けることが可能で、市販のマシンに比べ高いポテンシヤルを有していると言えよう。
【0029】
以上述べた結果をより定量的に評価するため、次のような速度誤差ΔVと、位置誤差Δrを定義した。
ΔV=|(V’−V)/V|×100 ・・・(1)
ここで、V:速度(目標値)、V’:速度(実験値)
Δr=((X’−X)2 +(Y’−Y)2 )1/2 ・・・(2)
ここで、X:x座標(目標値)、X’:x座標(実験値)、Y:y座標(目標値)、Y’:y座標(実験値)
【0030】
図12は、希望速度と対応する投球の速度誤差ΔVを球種(ストレート、ドロツプ、カーブ、シュート)毎に算出した結果を示したものである。図より、球種により多少ばらつきがあるもののその差は僅少で2.6%、最大でも3.4%で非常に小さい結果となった。これは本マシンの特性として、前記図7に示したローラの回転数の総和と投球速度にはほぼ線形に近い関係があり、この特性の学習が容易であったためと考えられる。
【0031】
一方、図13は希望的内の位置と対応する投球の位置誤差Δrを4球種(ストレート、ドロツプ、カーブ、シュート)毎に算出した結果を示したものである。図より、速度誤差同様、球種により多少ばらついているもののその差は、最小のストレートでは約100mm、最大のシュートでも約150mmであった。ボールの直径が約70mmであるので、その誤差はボール2個分程度に収まっていることが分かり、本マシンは非常に高い投球精度を有していることが分かる。ただ、多少誤差を生じている原因としては、同じ目標範囲で同じ球速であってもそのような投球をする回転数の組合せが多く存在することや、ボールとローラの接触時の摩擦特性が回転数やボールの縫い目によって複雑に変化するためであると考えられる。
【0032】
<結言>
本発明では3ローラ式の新型ピッチングマシンを開発し、ニューラルネットワークを用いてその回転数やボールの発射角を決定することにより希望した目標範囲に、希望した速度と球種(変化球)のボールを投球させることを試みたその結果、多様な球種で球速が70〜160km/hの広範囲で投球可能であり、またその投球精度は、速度と球種についてはほぼ完全に、また的内の位置についても、ボール2個程度の精度で予測が行えた。これは、現状のピッチッグマシンを遙かに凌ぐ充分な精度であり、非常に実用性の高い新型のピッチングマシンであると言える。
【0033】
以上、本発明の実施例について述べてきたが、本発明の趣旨の範囲内にて、3個のローラの形状(円板としての直径、好適には同径であるが、場合によっては異径であってもよい)、形式(ローラ周面の形状、平面でもボールの曲率に適合した円弧面としてもよい)および材質(ゴムを周面に貼設したり、ローラ全体をゴム等の高摩擦係数材により構成してもよい)ならびに配置形態(好適には120°の間隔をおいて3個のローラが均等に配設されるが、不均等に配設することを妨げるものではない)、ローラを各別に回転制御する各駆動装置の形状、形式(電動モータ、内燃機関等)およびローラとの関連構成(直接駆動、ベルト駆動、チェーン駆動、歯車駆動等)、構成台の形状、形式および構成台への3個のローラおよび駆動装置の配設形態、構造台を設置する台車等の形状、形式(運搬のためのキャスタの設置等)、構造台の上下(歯車の噛合によるもの、シリンダの伸縮によるもの等)および左右(歯車によるもの、シリンダの伸縮によるもの等)の揺動形態、揺動変化量、方向制御駆動部を構成する駆動モータ等の形状、形式(電動モータ、内燃機関等)は適宜選定できる。
【0034】
また、構造台については、ピッチングプレートの両端部間を平行移動できるように台車上に走行レール等を設けてもよい。コンピュータの形状、形式、コンピュータ内に格納される階層型ニューラルネットワークシステムの形式、投球決定プログラムの形式、コントローラの形状、形式、試投による教師データ取得形態、学習の回数等については適宜選定できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明のピッチングマシンの構造および制御システムの概略図である。
【図2】同、試作品の写真図である。
【図3】同、球種パラメータによる球種の説明図である。
【図4】同、階層型ニューラルネットワーク(NN)モデル図である。
【図5】同、投球実験側面図である。
【図6】同、的における位置のX、Y座標結果図である。
【図7】同、ローラの回転数とボールの速度との関係図である。
【図8】同、ボールのストレートスピン状態の回転の様子を示した高速度写真図である。
【図9】同、ボールのカーブスピン状態の回転の様子を示した高速度写真図である。
【図10】同、NNの学習回数と誤差との関係図である。
【図11】同、NN制御による投球実験結果図である。
【図12】同、各球種における速度誤差を示す図である。
【図13】同、各球種における位置誤差を示す図である。
【図14】従来の投球機の正面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 第1ローラ
2 第2ローラ
3 第3ローラ
4 ボール
5 ボール挿入空間
6 構造台
7 台車
8 PC
9 NNシステム
10 投球決定プログラム
11 コントローラ
M1〜M3 駆動装置(電動モータ等)
M4、M5 方向制御駆動部(電動モータ等)
P ピッチングマシン
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3個のローラが作るボール挿入空間と、該ボール挿入空間内に挿入されたボールに初速および回転を付与する前記3個のローラを各別に回転制御する各駆動装置と、これら3個のローラおよび駆動装置が搭載された構造台を有するピッチングマシンにおいて、前記構造台を上下および左右に所定角度で揺動可能に駆動する方向制御駆動部を設けたことを特徴とするピッチングマシン。
【請求項2】
3個のローラが作るボール挿入空間と、該ボール挿入空間内に挿入されたボールに初速および回転を付与する前記3個のローラを各別に回転制御する各駆動装置と、これら3個のローラおよび駆動装置が搭載された構造台と、前記構造台を上下および左右に所定角度で揺動可能に駆動する方向制御駆動部とを有するピッチングマシンの変化球制御方法において、前記各駆動装置および方向制御駆動部を制御して、3個のローラの回転数、構造台の上下および左右の揺動角を制御し、ボールが目標とする、速度、球種および的内の位置に到達できるように構成したことを特徴とするピッチングマシンの変化球制御方法。
【請求項3】
前記ボールの目標とする、速度、球種および的内の位置の制御がコンピュータ内に格納された階層型ニューラルネットワークシステムによりなされることを特徴とする請求項2に記載のピッチングマシンの変化球制御方法。
【請求項1】
3個のローラが作るボール挿入空間と、該ボール挿入空間内に挿入されたボールに初速および回転を付与する前記3個のローラを各別に回転制御する各駆動装置と、これら3個のローラおよび駆動装置が搭載された構造台を有するピッチングマシンにおいて、前記構造台を上下および左右に所定角度で揺動可能に駆動する方向制御駆動部を設けたことを特徴とするピッチングマシン。
【請求項2】
3個のローラが作るボール挿入空間と、該ボール挿入空間内に挿入されたボールに初速および回転を付与する前記3個のローラを各別に回転制御する各駆動装置と、これら3個のローラおよび駆動装置が搭載された構造台と、前記構造台を上下および左右に所定角度で揺動可能に駆動する方向制御駆動部とを有するピッチングマシンの変化球制御方法において、前記各駆動装置および方向制御駆動部を制御して、3個のローラの回転数、構造台の上下および左右の揺動角を制御し、ボールが目標とする、速度、球種および的内の位置に到達できるように構成したことを特徴とするピッチングマシンの変化球制御方法。
【請求項3】
前記ボールの目標とする、速度、球種および的内の位置の制御がコンピュータ内に格納された階層型ニューラルネットワークシステムによりなされることを特徴とする請求項2に記載のピッチングマシンの変化球制御方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2006−61231(P2006−61231A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−244587(P2004−244587)
【出願日】平成16年8月25日(2004.8.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年3月1日 社団法人日本機械学会北陸信越支部発行の「北陸信越支部 第41期総会・講演会 講演論文集」に発表
【出願人】(504160781)国立大学法人金沢大学 (282)
【出願人】(592046002)株式会社キンキクレスコ (5)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年8月25日(2004.8.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年3月1日 社団法人日本機械学会北陸信越支部発行の「北陸信越支部 第41期総会・講演会 講演論文集」に発表
【出願人】(504160781)国立大学法人金沢大学 (282)
【出願人】(592046002)株式会社キンキクレスコ (5)
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